説明

MUC1活性の調節

本発明は、MUC1とp53またはTBPのいずれかとの間の相互作用を阻害する化合物を同定し、作製する方法を提供する。そのような相互作用を阻害する、および細胞によるMUC1の発現を阻害するインビボならびにインビトロの方法もまた本発明に含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、細胞増殖の制御、より詳細には癌細胞増殖の制御に関する。
【0002】
連邦政府資金援助による研究または開発に関する言明
本出願に記載された研究は、National Cancer Institute of the National Institutes of Healthからの認可番号CA097098およびCA29431、ならびにU.S. Armyからの認可番号BC022158により資金援助された。従って、政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
MUC1タンパク質は、毎年、米国において診断される130万個の腫瘍のうちの800,000個よりも多くにより過剰発現されている。従って、癌細胞または前癌細胞におけるMUC1を標的とする効果的な治療的および/または予防的方法は、莫大な人道的、社会的、および経済的価値があると思われる。
【0004】
同時係属中の米国特許出願第10/732,212号は全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【発明の開示】
【0005】
概要
本発明者は、MUC1がp53腫瘍抑制タンパク質に結合して、DNA損傷に対して、p53媒介性増殖停止応答の選択を促進し、かつp53依存性アポトーシス応答を抑制することにより、p53の腫瘍抑制機能を減弱させることを見出した。MUC1はこれを、p53と共にp21遺伝子の転写を同時活性化し、かつBax遺伝子の転写を阻害することにより行う。MUC1は、p21遺伝子のp53応答配列(p53RE)に結合し、結合のためにp53の存在を必要とする。MUC1は、p53REに結合しないが、Bax遺伝子の近位プロモーター(PP)に結合する。しかしながら、MUC1のBax遺伝子PPへの結合は、p53の存在に依存しない。本発明は、MUC1とp53またはTATA結合タンパク質(TBP)との間の相互作用を阻害するのに有用な化合物を同定する方法を含む。そのような化合物は、MUC1発現癌細胞のアポトーシスの直接的な促進において、そのような癌細胞に対する遺伝毒性化学療法剤の効力の増強において、および抗癌予防剤として、有用でありうる。細胞(例えば、乳癌細胞のような癌腫細胞)がMUC1とp53(またはTBP)との間の相互作用を阻害する化合物と接触させられる、p53(またはTBP)とMUC1の間の相互作用を阻害する方法もまた本発明に含まれる。本明細書に記載された実験は、一般的に、ヒトのMUC1、MUC1結合物質、および細胞で行われたが、本明細書に記載された方法が下に列挙された任意の哺乳動物種に由来の対応する分子で行われうることは理解されている。
【0006】
より具体的には、本発明は、MUC1のp53への結合を阻害する化合物を同定する方法を提供する。本方法は以下の段階を含む:(a)MUC1試験剤を供給する段階;(b)MUC1試験剤に結合するp53(またはTBP)試験剤を供給する段階;(c)MUC1試験剤をp53(またはTBP)試験剤と試験化合物の存在下で接触させる段階;および(d)試験化合物がMUC1試験剤のp53(またはTBP)試験剤への結合を阻害するかどうかを決定する段階。接触段階は、無細胞系で行うことができ、またはそれは細胞において起こりうる。
【0007】
MUC1とp53(またはTBP)の間の相互作用を阻害する化合物を作製する方法もまた本発明により特徴付けられる。本方法は以下の段階を含む:(a)MUC1の細胞質ドメイン、p53のC末端、またはTBPのMUC1結合断片を含む分子の3次元構造を提供する段階;(b)3次元構造に基づいて、MUC1とp53またはTBPとの間の相互作用を阻害する領域を含む化合物を設計する段階;および(c)化合物を作製する段階。本方法はさらに、化合物がMUC1とp53またはTBPとの間の相互作用を阻害するかどうかを決定する段階を含みうる。
【0008】
本発明のもう一つの態様は、化合物を製造する方法である。本方法は以下の段階を含む:(a)前記段落に記載された方法を行う段階;および(b)化合物がMUC1とp53またはTBPとの間の相互作用を阻害することを決定した後に、化合物を製造する段階。
【0009】
もう一つの局面において、本発明は、MUC1を発現する癌細胞においてMUC1のP53またはTBPへの結合を阻害するインビボの方法を提供する。本方法は以下の段階を含む:(a)MUC1を発現する癌に罹っていると被験体を同定する段階;および(b) MUC1の細胞質ドメインへのP53またはTBPの結合を阻害する化合物、または、該化合物がポリペプチドである場合は、ポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸であって、該核酸配列が転写調節因子(TRE)に機能的に連結されている核酸を、被験体に投与する段階。化合物は、(a)MUC1、または(b)p53、または(c)TBPのペプチド断片でありうる。従って、化合物は、MUC1の細胞質ドメインのペプチド断片でありうる。これは以下でありうるか、またはこれは以下の全てもしくは一部を含みうる:(i)SEQ ID NO:2のアミノ酸9位〜46位;(ii)SEQ ID NO:2のアミノ酸1位〜51位;または(iii)SEQ ID NO:1のアミノ酸363位〜393位。さらに、化合物は、以下に結合する抗体または抗体断片でありうる:(a)MUC1の細胞質ドメイン;またはp53のC末端。または、化合物は小分子、例えば、核酸アプタマーである、または核酸アプタマーを含む小分子でありうる。被験体はヒト被験体でありうる。癌細胞は、例えば、乳癌、肺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、肝臓癌、骨癌、血液癌、神経組織癌、黒色腫、卵巣癌、睾丸癌、前立腺癌、子宮頚癌、膣癌、または膀胱癌の細胞でありうる。TREはDF3エンハンサーでありうる。
【0010】
癌細胞を殺す方法もまた本発明に含まれる。本方法は、前記段落に記載された方法を行う前、行った後、または行うと同時に、被験体を1つまたは複数の遺伝毒性剤に曝す段階を含みうる。遺伝毒性剤は、例えば、電離放射線の1つもしくは複数の型、および/または1つもしくは複数の化学療法剤でありうる。1つまたは複数の化学療法剤は、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ビスルファン、ニトロソ尿素、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、エトポシド、ベラムピル、ポドフィロトキシン、タモキシフェン、タキソール、トランスプラチナム(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキセート、または上記のいずれかの類似体でありうる。
【0011】
本発明により特徴付けられるもう一つの方法は、MUC1を発現する癌細胞においてMUC1の発現を阻害するインビボの方法である。本方法は以下の段階を含む:(a)被験体を、MUC1を発現する癌細胞を含む癌に罹っていると同定する段階;および(b)MUC1の低分子干渉RNA(siRNA)を細胞へ導入する段階。導入段階は、被験体へのsiRNAの投与および癌細胞によるsiRNAの取り込み、または以下の核酸を被験体へ投与することおよび癌細胞による核酸の取り込みを含みうる:(a)核酸由来のsiRNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖が別々のTREの指揮下において転写されうる核酸;または(b)核酸由来のsiRNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方が単一のTREの指揮下において転写されうる核酸。被験体はヒト患者であることができ、癌細胞は上で列挙されたもののいずれかであることができる。
【0012】
「ポリペプチド」および「タンパク質」は、交換可能に用いられ、長さまたは翻訳後修飾にかかわらず、アミノ酸の任意のペプチド結合鎖を意味する。本発明の任意の方法に用いられるMUC-1およびMUC1結合分子および試験剤は、野生型タンパク質を含みうるか、もしくは野生型タンパク質でありうるか、または1つもしくは複数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、25、30、35、40、または50)の保存的アミノ酸置換を有する変異体でありうる。保存的置換は、典型的には、以下の群内での置換を含む:グリシンおよびアラニン;バリン、イソロイシン、およびロイシン;アスパラギン酸およびグルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリン、およびトレオニン;リシン、ヒスチジン、およびアルギニン;ならびにフェニルアラニンおよびチロシン。そのようなものすべては以下であることが求められる:(i)MUC1のそのような変異体は野生型MUC1 C末端がp53またはTBPに結合する能力の少なくとも25%(例えば、少なくとも以下である:30%;40%;50%;60%;70%;75%;80%;85%;90%;95%;97%;98%;99%;99.5%、もしくは100%、またはそれ以上)を有する;および(ii)MUC1結合物質のそのような変異体は関連した野生型MUC1結合物質がMUC1 C末端に結合する能力の少なくとも25%(例えば、少なくとも以下である:30%;40%;50%;60%;70%;75%;80%;85%;90%;95%;97%;98%;99%;99.5%、もしくは100%、またはそれ以上)を有する。
【0013】
本明細書に用いられる場合、「MUC1結合物質」はp53またはTBPである。
【0014】
本明細書に用いられる場合、「MUC1結合物質試験剤」は、(a)完全長の野生型MUC1結合物質、(b)完全長MUC1結合物質より短いMUC1結合物質の一部、または(c)1つもしくは複数(上記参照)の保存的置換をもつ(a)もしくは(b)であるか、またはそれらを含む。「MUC1結合物質の部分」は、MUC1結合物質の断片および欠失変異体(末端および内部の欠失)を含む。欠失変異体は、(2つまたはそれ以上のアミノ酸のうちの)1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、もしくは20個のアミノ酸セグメント、または非連続の単一アミノ酸を欠損しうる。MUC1結合物質試験剤は、内部または末端(CまたはN)の関連性のないアミノ酸配列(例えば、他のタンパク質由来の配列、またはいかなる天然のタンパク質にも対応しない合成配列)を含みうる。これらの付加された関連性のない配列は、一般的に、約1〜50(例えば、2、4、8、10、15、20、25、30、35、40、または45)アミノ酸長である。完全長の野生型MUC1結合物質分子以外のMUC1結合物質試験剤は、完全長の野生型MUC1結合物質がMUC1の細胞質ドメインに結合する能力の少なくとも50%(例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%、またはそれ以上)を有する。
【0015】
本明細書に用いられる場合、「MUC1試験剤」は、(a)完全長の野生型成熟MUC1、(b)完全長の野生型成熟MUC1より短いMUC1の一部、または(c)1つもしくは複数(上記参照)の保存的置換をもつ(a)もしくは(b)であるか、またはそれらを含む。「MUC1の部分」は、MUC1の断片(例えば、MUC1 C末端またはMUC1の細胞質ドメイン(CD))および欠失変異体(末端および内部の欠失)を含む。欠失変異体は、(2つまたはそれ以上のアミノ酸のうちの)1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、もしくは20個のアミノ酸セグメント、または非連続の単一アミノ酸を欠損しうる。MUC1試験剤は、内部または末端(CまたはN)の関連性のないアミノ酸配列(例えば、他のタンパク質由来の配列、またはいかなる天然のタンパク質にも対応しない合成配列)を含みうる。これらの付加された関連性のない配列は、一般的に、約1〜50(例えば、2、4、8、10、15、20、25、30、35、40、または45)アミノ酸長である。完全長の野生型成熟MUC1以外のMUC1試験剤は、完全長の野生型成熟MUC1結合物質がp53またはTBPに結合する能力の少なくとも50%(例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは100%、またはそれ以上)を有する。
【0016】
本明細書に用いられる場合、「機能的に連結される」とは、発現制御配列が対象となるコード配列の発現を効果的に制御するように遺伝的構築物へ組み入れられることを意味する。
【0017】
他に規定がない限り、本明細書に用いられるすべての技術用語および科学用語は、当業者により一般的に理解されているのと同じ意味をもつ。矛盾の場合、定義を含む本文書が支配するものとする。好ましい方法および材料は以下に記載されているが、本明細書に記載されたものと類似または等価の方法および材料もまた、本発明の実施または試験に用いられうる。本明細書に挙げられたすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、全体として参照により組み入れられている。本明細書に開示された材料、方法、および実施例は一例に過ぎず、限定することを意図されない。
【0018】
本発明の他の特徴および利点、例えば、癌細胞の生存を阻害することは、以下の説明、図面、および特許請求の範囲から明らかであると思われる。
【0019】
詳細な説明
ヒトDF3/MUC1内在性膜糖タンパク質は、正常な分泌上皮細胞の頂端境界上に発現される[Kufe et al. (1984) Hybridoma 3:223-232]。トランスフォーメーションおよび極性の喪失に伴い、MUC1はサイトゾル内に、および癌細胞の表面全体に渡って、高レベルで見出される[Kufe et al. (1984); Perey et al. (1992) Cancer Res. 52:2563-3568]。成熟MUC1は、小胞体における単一ポリペプチドとしての合成および切断後、ヘテロ二量体として発現される[Ligtenberg et al. (1992) J. Biol. Chem. 267:6171-6177]。MUC1 N末端サブユニット(MUC1 N末端)は、O-グリカンにより修飾される20アミノ酸縦列反復の変数からなる[Gendler et al. (1988) J. Biol. Chem. 263:12820-12823; Siddiqui et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2320-2323](図11)。MUC1 N末端は、58アミノ酸細胞外ドメイン、28アミノ酸膜貫通ドメイン、および72アミノ酸細胞質側末端からなるC末端サブユニット(MUC1 C末端)との二量体化を通して細胞膜へ繋がれる[Merlo et al. (1989) Cancer res. 49:6966-6971](図11)。MUC1はErbBファミリーのメンバーと相互作用し[Li et al. (2001b) J. Biol. Chem. 276:35239-35242; Li et al. (2003c) Mol. Cancer Res. 1:765-775; Schroeder et al. (2001) J. Biol. Chem. 276:13057-13064]、核およびミトコンドリアへ標的化される[Li et al. (2003c); Ren et al. (2004) Cancer Cell 5:163-175]。MUC1はまた、β-カテニンと会合し[Yamamoto et al. (1997) J. Biol. Chem. 272:12492-12494]、この相互作用は、MUC1細胞質ドメイン(MUC1-CD)のGSK3β(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β)媒介性リン酸化、Src媒介性リン酸化、およびPKCδ(プロテインキナーゼCδ)-媒介性リン酸化により制御される[Li et al. (1998) Mol. Cell Biol. 18:7216-7224; Li et al. (2003a) Cancer Biol. Ther. 2:187-193; Li et al. (2001a) J. Biol. Chem. 276:6061-6064; Li et al. (2001b); Ren et al. (2002b) J. Biol. Chem. 277:17616-17622]。MUC1の過剰発現は、トランスフォーメーションを与えるのに十分であり[Huang et al. (2003) Cancer Biol. Ther. 2:702-706; Li et al. (2003b) Oncogene 22:6107-6110; Schroeder et al. (2004) J. Biol. Chem. 276:13057-13064]、かつ酸化的および遺伝毒性ストレス誘導性アポトーシスを減弱させるのに十分である[Ren et al. (2004); Yin et al. (2004) J. Biol. Chem. 279:45721-45727; Yin et al. (2003) J. Biol. Chem. 278:35458-35464]。
【0020】
p53腫瘍抑制因子は、増殖停止、DNA修復、老化、分化、またはアポトーシスを誘導することによりストレスへの細胞応答において機能する[Levine (1997) Cell 88:323-331]。遺伝毒性ストレス、酸化的損傷、低酸素、ヌクレオチド枯渇、熱ショック、および発癌遺伝子発現は、p53の安定化およびp53媒介性転写の誘導と関連している。p53標的遺伝子の選択的トランス活性化は、アポトーシスの誘導、または増殖停止および修復応答を指示する[Chao et al. (2000) EMBO J. 19:4967-4975; Jimenez et al. (2000) Nat. Genet. 26:37-43]。完全長ヒトp53のアミノ酸配列は図12に示されている。細胞死受容体Fas/CD95およびDR5[Muller et al. (1998) J. Exp. Med. 188:2033-2045; Wu et al. (1997) Nat. Genet. 17:141-143]、またはBax、Noxa、およびPumaのようなアポトーシス促進性エフェクター[Miyashita et al. (1995) Cell 80:293-299; Oda et al. (2000a) Science 288:1053-1058; Yu et al. (2001) Mol. Cell 7:673-682]をコードする遺伝子は、p53依存性アポトーシス応答の誘導に寄与する。または、p53活性化に対する増殖停止応答は、p21遺伝子の誘導により大部分、媒介される[El-Deiry et al. (1993) Cell 75:817-825]。p21は細胞周期進行の促進、およびアポトーシスの阻止において役割を果たす[Asada et al. (1999) EMBO J. 18:1223-1234; Dong et al. (2004) Cell Signal 16:263-269; Dupont et al. (2003) J. Biol. Chem. 278:37256-37264; Weiss (2003) Cancer Cell 4:425-429; Zhang et al. (2003) J. Biol. Chem. 278:27903-27909]。細胞運命の選択は、成長因子刺激、増殖状態、および損傷の程度により影響される[Vousden et al. (2002) Nat. Rev. Cancer; Wahl et al. (2001) Nat. Cell. Biol. 3:E277-286]。p53誘導性アポトーシスについてのプロモーター選択性もまた、20位および46位のセリン上のp53のリン酸化により[Jack et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:9825-9829; Oda et al. (2000b) Cell 102:849-862]、ならびにp53と、ASPPファミリーのメンバー[Samuels-Lev et al. (2001) Mol. Cell 8:781-794]、JMY p300-結合タンパク質[Shikama et al. (1999) Mol. Cell 4:365-376]、E2F転写因子[Hsieh et al. (2002) Mol. Cell. Biol. 22:78-93]、およびp53ファミリーメンバーp73/p63[Flores et al. (2002) Nature 416:560-564]との間の相互作用により、影響される。
【0021】
本研究は、MUC1 C末端がp53と相互作用し、MUC1 N末端は相互作用しないことを実証する。MUC1のp53への結合は恒常的に検出でき、DNA損傷に応答して増加した。本明細書に示された結果はまた、MUC1が、p53応答性p21遺伝子およびBax遺伝子のプロモーター上でp53と共に検出できることを実証する。本所見はまた、MUC1がp21遺伝子プロモーターにおけるp53RE上でp53と共に検出できること、およびこれらのエレメントのMUC1占有は、DNA損傷により、かつp53に依存して増加することを示す。加えて、MUC1がp21遺伝子の転写を同時活性化するという所見は、HDAC1(ヒストンデアセチラーゼC1)ではなく、CBP(CREB結合タンパク質)の、p21遺伝子プロモーターへのMUC1誘導性の動員により、少なくとも一部説明されうる。CBPのp53への結合は、ヒストンアセチル化[Barlev et al. (2001) Mol. Cell 8:1243-1254]、およびp21遺伝子の転写のp53媒介性活性化[Liu et al. (2003) J. Biol. Chem. 278:17557-17565; Mujtaba et al. (2004) Mol. Cell 13:251-263]に必要である。この点において、本明細書に記載されたデータは、CBPの、p21遺伝子プロモーターへのMUC1誘導性の動員がヒストンH4のアセチル化の増加と関連したことを示している。さらに、MUC1発現は、遺伝毒性ストレスに対する応答におけるp21遺伝子プロモーター-Lucレポーターおよび内因性p21遺伝子の両方の活性化と関連していた。これらの所見は、MUC1とp53との間の相互作用がCBPの動員、およびそれによりp21遺伝子の転写の活性化に寄与することを示している。
【0022】
細胞におけるp53のBax遺伝子プロモーターへの結合は、p21遺伝子プロモーターと比較してより少ない[Kaeser et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:95-100]。本研究は、p21遺伝子プロモーターと対照的に、Bax遺伝子プロモーターにおけるp53応答配列の検出可能なMUC1占有がないことを実証する。DNA損傷後、Bax遺伝子p53REに結合する検出可能なMUC1もなかった。しかしながら、驚くべきことに、ここに記載される実験は、MUC1がBax遺伝子PPと免疫沈降すること、およびこの会合がDNA損傷により増加することを示した。MUC1のTBPとの共沈はさらに、MUC1が、基底転写複合体を含むBax遺伝子PPの領域を占有することを示した。とりわけ、p53はBax遺伝子PP上でMUC1と共に検出でき、MUC1がp53依存性機構によりこの領域に標的化されうることを示唆した。しかしながら、p53レベルにおける減少は、Bax遺伝子PPのMUC1占有にほとんど影響しなかった。従って、p53のように、MUC1もまた基底転写因子と会合する可能性がある。この点において、Bax遺伝子PPのMUC1占有はTBPへ明らかな効果を生じなかったが、TFIIBおよびTAFII250による占有を減少させた。さらに、MUC1発現は、p53非依存性機構によるBax遺伝子活性化の減弱と関連しており、MUC1の非存在下におけるBax遺伝子プロモーターの抑制解除が、p53発現細胞およびp53非発現細胞の両方において観察された。p21およびBax遺伝子に関する所見は、従って、MUC1が、プロモーター特異的様式でのMUC1のDNA損傷誘導性結合によりp53応答遺伝子の転写を選択的に制御することを示す。
【0023】
要約すれば、上記結果は、MUC1が、p53に依存した機構によりDNA損傷に対する、内因性および遺伝毒性薬物誘導性の、細胞の増殖停止応答を増強することを実証している。MUC1はまた、DNA損傷に対して、p53依存性およびp53非依存性の、内因性および遺伝毒性薬物誘導性のアポトーシス応答を抑制した。
【0024】
MUC1はp21遺伝子p53REと、そのp53との物理的会合を介して会合するようになり、MUC1のBax遺伝子PPへの結合はMUC1のTBPへの結合により媒介される可能性が高いため、MUC1とp53との間の相互作用および/またはMUC1とTBPとの間の相互作用を除去する、または少なくとも阻害する化合物は、癌細胞の内因性アポトーシスにおいて、ならびに電離放射線および化学療法薬のような遺伝毒性剤の癌細胞細胞破壊効果の増強においても有用である可能性が高い。さらに、そのような化合物はまた、悪性腫瘍の発生のリスクが高い(例えば、遺伝的、生理学的、または環境的因子に起因)被験体における予防剤として有用でありうる。
【0025】
阻害性化合物のスクリーニングの方法
本発明は、MUC1結合物質(p53およびTBP)のMUC1への結合を阻害する化合物(小分子または高分子)を同定するためのインビトロの方法を提供する。
【0026】
これらの方法は以下を用いて行われうる:(a)単離されたMUC1試験剤およびMUC1結合物質試験剤;または(b)MUC1試験剤および1つもしくは両方のMUC1結合物質試験剤を発現する細胞。
【0027】
上で列挙されたポリペプチド試験剤のいずれかに適用される場合の「単離された」という用語は、天然の対応物を有しないか、または、例えば、膵臓、肝臓、脾臓、卵巣、睾丸、筋肉、関節組織、神経組織、胃腸組織、もしくは腫瘍組織(例えば、乳癌または結腸癌組織)のような組織、または血液、血清、もしくは尿のような体液において天然でそれに付随する成分から分離もしくは精製されているかのいずれかである、ポリペプチド、またはそのペプチド断片を指す。典型的には、ポリペプチドまたはペプチド断片の乾燥重量で少なくとも70%に、天然では付随しているタンパク質および他の天然の有機分子が含まれない場合、「単離された」とみなされる。好ましくは、試験剤の調製物は、乾燥重量で少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも99%の試験剤である。化学合成されているポリペプチドは、その本質上、天然でそれに付随する成分から分離されているため、合成ポリペプチド試験剤は「単離されて」いる。
【0028】
単離されたポリペプチド試験剤は、例えば、天然源から(例えば、組織から)の抽出により;ポリペプチドをコードする組換え核酸の発現により;または化学合成により、得られうる。それが天然で生じる源と異なる細胞系において産生されるポリペプチド試験剤は、それが天然でそれに付随する成分を必然的に含まないだろうことから、「単離されて」いる。単離または純粋性の程度は、任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析により測定されうる。
【0029】
試験の前に、試験剤の任意のものは、当技術分野において公知の方法により、例えば、リン酸化またはグリコシル化などの修飾を受けうる。
【0030】
単離されたMUC1試験剤の単離されたMUC1結合物質試験剤への結合を阻害または増強する化合物のスクリーニングの方法において、MUC1試験剤は、1つまたは複数の濃度の試験化合物の存在下においてMUC1結合物質試験剤と接触させられ、試験化合物の存在下および非存在下における2つの試験剤間の結合が検出および/または測定される。そのようなアッセイにおいて、試験剤のいずれも検出可能に標識される必要はない。例えば、表面プラズモン共鳴の現象を活用することにより、MUC1試験剤は適した固体基質へ結合され、MUC1結合物質試験剤は、対象となる化合物の存在下および非存在下において基質に結合したMUC1試験剤に曝されうる。MUC1結合物質試験剤の固体基質上のMUC1試験剤への結合は、結果として、適切な装置、例えば、Biacore装置(Biacore International AB, Rapsgatan, Sweden)により定性的にまたは定量的に検出されうる表面プラズモン共鳴の強度における変化を生じる。実験は、逆に、すなわち、試験化合物の存在下で固体基質に結合したMUC1結合物質試験剤およびそれに加えられたMUC1試験剤を用いて、行われうることは認識されているものと思われる。
【0031】
さらに、MUC1への結合の阻害または増強について試験するためのアッセイは、例えば、以下の使用を含みうる:(a)検出可能に標識されている単一のMUC1特異的「検出」抗体;(b)非標識MUC1特異的抗体および検出可能に標識された二次抗体;または(c)ビオチン化MUC1特異的抗体および検出可能に標識されたアビジン。加えて、当業者によく知られたこれらのアプローチ(「多層」アッセイを含む)の組み合わせは、アッセイの感度を増強するために用いられうる。これらのアッセイにおいて、MUC1結合物質試験剤は、例えば、試験剤を含む試料のアリコートを膜上へ「スポットする」ことにより、または試料もしくは試料のアリコートが電気泳動的分離に供されている電気泳動ゲルを膜上へブロットすることにより、ナイロンまたはニトロセルロース膜のような固体基質上に固定化されうる。または、MUC1結合物質試験剤は、当技術分野において公知の方法を用いてプラスチック基質(例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)プレートウェルのプラスチック底面)へ結合されうる。基質に結合した試験剤は、その後、試験化合物の存在下および非存在下においてMUC1試験剤に曝される。対象となる系に最適化された時間および温度で結果として生じた混合物をインキュベートした後、固体基質上のMUC1結合物質試験に結合したMUC1試験剤の存在および/または量は、その後、MUC1試験剤に結合する検出抗体を用いて、および必要な場合は適切な検出可能に標識された二次抗体またはアビジンを用いてアッセイされる。MUC1結合物質試験剤を固体基質へ結合する代わりに、MUC1試験剤がそれに結合されうることは認識されているものと思われる。この場合、MUC1結合物質試験剤の基質に結合したMUC1への結合は、基質に結合したMUC1結合物質試験剤についての上記の方法の自明の適応により試験される。
【0032】
本発明はまた、「サンドイッチ」アッセイを特徴とする。これらのサンドイッチアッセイにおいて、上記の方法により試験剤を固体基質上へ固定化する代わりに、適切な試験剤が、固体基質を試験剤に曝す前に、当技術分野において公知の様々な方法のいずれかにより「捕獲」試験剤特異的抗体(ポリクローナルまたはmAb)を固体基質へ結合させることにより、固体基質上に固定化されうる。試験剤は、その後、固体基質に結合した捕獲抗体へのそれの結合によって固体基質へ結合される。手順は、適切な試験剤が、捕獲抗体の使用を含まない技術により固体基質に結合している方法について上で記載された本質的に同じ様式で行われる。これらのサンドイッチアッセイにおいて、捕獲抗体は検出抗体と同じエピトープ(またはポリクローナル抗体の場合、エピトープの範囲)に結合するべきではないことは理解されている。従って、mAbが捕獲抗体として用いられる場合、検出抗体は以下のいずれかでありうる:(a)捕獲mAbが結合するエピトープから完全に物理的に分離されているかもしくは部分的のみ重複するかのいずれかであるエピトープに結合するもう一つのmAb;または(b)捕獲mAbが結合するエピトープ以外の、もしくは捕獲mAbが結合するエピトープに加えてのエピトープに結合するポリクローナル抗体。他方では、ポリクローナル抗体が捕獲抗体として用いられる場合には、検出抗体は、(a)捕獲ポリクローナル抗体が結合するエピトープのいずれかから完全に物理的に分離されているかもしくは部分的のみ重複するかのいずれかであるエピトープに結合するmAb;または(b)捕獲ポリクローナル抗体が結合するエピトープ以外の、もしくは捕獲ポリクローナル抗体が結合するエピトープに加えてのエピトープに結合するポリクローナル抗体のいずれかでありうる。捕獲および検出抗体の使用を含むアッセイは、サンドイッチELISAアッセイ、サンドイッチウェスタンブロッティングアッセイ、およびサンドイッチ免疫磁気検出アッセイを含む。
【0033】
捕獲抗体が結合されうる適した固体基質は、非限定的に、マイクロタイタープレートのウェルのプラスチック底面および側面、ナイロンまたはニトロセルロース膜のような膜、重合体(例えば、非限定的に、アガロース、セルロース、またはポリアクリルアミド)ビーズまたは粒子を含む。
【0034】
検出可能な標識を検出する、および/または定量化する方法は、標識の性質に依存し、当技術分野において公知である。適切な標識は、非限定的に、放射性核種(例えば、125I、131I、35S、3H、32P、または14C)、蛍光部分(例えば、フルオレセイン、ローダミン、またはフィコエリトリン)、ルミネセンス部分(例えば、Quantum Dot Corporation, Palo Alto, CAにより供給されるQdot(商標)ナノ粒子)、定義済みの波長の光を吸収する化合物、または酵素(例えば、アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼ)を含む。適切な酵素により触媒される反応の生成物は、非限定的に、蛍光、ルミネセンス、もしくは放射性でありうる、またはそれらは可視光もしくは紫外光を吸収しうる。検出器の例は、非限定的に、x線フィルム、放射能カウンター、シンチレーションカウンター、分光光度計、比色計、蛍光光度計、照度計、および濃度計を含む。
【0035】
候補化合物はまた、細胞においてMUC1のMUC1結合物質への結合を阻害または増強するそれらの能力について試験されうる。細胞は、対象となる適切なMUC1試験剤および/もしくはMUC1結合物質試験剤を天然で発現することができるか、またはそれらは、一方もしくは両方の試験剤を組換え的に発現することができるかのいずれかである。細胞は、正常または悪性であることができ、任意の組織型、例えば、非限定的に、上皮細胞、線維芽細胞、リンパ球様細胞、マクロファージ/単球、顆粒球、ケラチノサイト、または筋肉細胞でありうる。適した細胞系は、実施例に列挙されたもの、例えば、乳癌または結腸癌細胞系を含む。試験化合物は、細胞を含む溶液(例えば、培地)に添加されうる、または、化合物がタンパク質である場合、細胞は組換え的にそれを発現することができる。細胞はまた、任意で、細胞の化合物への曝露の前または後に対象となる刺激剤(例えば、EGFのような成長因子)に曝されうる。非存在または存在(任意で、様々な濃度における)下における対象となる試験剤を発現する細胞のインキュベーション後、試験剤間の物理的会合は、両方の試験剤に特異的な適切に標識された抗体を用いて顕微鏡的に、例えば、共焦点顕微鏡により、測定されうる。または、細胞は非解離状態下で溶解され、可溶化液は、物理的に会合した試験剤の存在について試験されうる。そのような方法は、単離された試験剤を用いる記載されたものの適応を含む。例えば、2つの試験剤のうちの1つ(試験剤1)に特異的な抗体が、固体基質(例えば、マイクロタイタープレートまたはナイロン膜のウェルの底面および側面)に結合されうる。結合されていない抗体を洗い出した後、結合した抗体を有する固体基質は細胞可溶化液と接触させられる。第二試験剤(試験剤2)に結合した、または結合していない、可溶化液における任意の試験剤1は、固体基質上の試験剤1に特異的な抗体に結合する。結合していない可溶化液成分を洗い流した後、試験剤2(試験剤1および試験剤1に特異的な抗体を介して固体基質に結合した)の存在は、試験剤2に特異的な検出可能に標識された抗体(上記参照)を用いて試験される。または、試験剤1は、試験剤1に特異的な抗体で免疫沈降されることができ、免疫沈降された物質は、電気泳動分離(例えば、非解離状態下で行われるポリアクリルアミドゲル電気泳動により)に供されうる。電気泳動ゲルは、その後、膜(例えば、ナイロンまたはニトロセルロース膜)上へブロットされ、膜上の任意の試験剤2が上記の方法のいずれかにより試験剤2に特異的な検出可能に標識された抗体(上記参照)で検出および/または測定されうる。上記アッセイにおいて、試験剤1はMUC1試験剤かもしくMUC1結合物質試験剤のいずれかでありうる、または逆も同様であることは理解されている。
【0036】
阻害性化合物を設計および作製する方法
本発明はまた、MUC1および/またはMUC1結合物質と相互作用することができ、それによりMUC1の適切な腫瘍進行因子と相互作用する能力を阻害する可能性がある化合物を予測または設計するためにMUC1試験剤および/またはMUC1結合物質を用いることに関する。当業者は、標準分子モデリング、またはMUC1および/もしくは腫瘍進行因子上の「適切な部位」に結合する小分子を同定するための他の技術を用いる方法を知っているものと思われる。1つのそのような例は、Broughton (1997) Curr. Opin. Chem. Biol. 1, 392-398に提供されている。一般的に、MUC1またはMUC1結合物質上の「適切な部位」は、2つの分子型間の物理的相互作用に直接的に関与する部位である。しかしながら、「適切な部位」はまた、アロステリック部位、すなわち、もう一つの分子との物理的相互作用に直接的に関与しない(場合により、そのような「物理的相互作用」部位から遠く離れていることさえある)が、化合物の結合が結果として(例えば、分子における高次構造的変化の誘導により)分子のもう一つの分子への結合の阻害を生じる分子の領域でありうる。
【0037】
「分子モデリング」とは、3次元構造情報およびタンパク質-タンパク質相互作用モデルに基づいたタンパク質-タンパク質物理的相互作用の構造および機能の定量的および/または定性的分析を意味する。これは、通常の数値に基づいた分子動力学的およびエネルギー極小化モデル、対話型コンピューター図形モデル、修正分子機構モデル、距離幾何学および他の構造に基づいた制約モデルを含む。分子モデリングは、典型的には、コンピューターを用いて行われ、公知の方法を用いてさらに最適化されてもよい。
【0038】
p53と相互作用するMUC1の領域(すなわち、MUC1の細胞質ドメイン)、またはMUC1に結合するp53の領域(すなわち、p53のC末端制御ドメイン)に特異的に(例えば、高親和性で)結合する化合物を設計する方法はまた、典型的には、コンピューターに基づいており、原子モデルを作成する能力があるプログラムを有するコンピューターの使用を含む。X線結晶構造解析データを用いるコンピュータープログラムは、特に、そのような化合物を設計するために有用である。例えば、RasMolのようなプログラムは、例えば、p53と相互作用するMUC1の領域、もしくはMUC1に結合するp53の領域の3次元モデルを作成する、および/またはMUC1-p53結合に関与する構造を決定するために用いられうる。INSIGHT(Accelrys, Burlington, MA)、GRASP(Anthony Nicholls, Columbia University)、Dock(Molecular Design Institute, University of California at San Francisco)、およびAuto-Dock(Accelrys)のようなコンピュータープログラムは、新しい構造を導入するためのさらなる操作および能力を可能にする。
【0039】
化合物は、例えば、コンピューターハードウェアもしくはソフトウェア、または両方の組み合わせを用いて設計されうる。しかしながら、設計は、好ましくは、それぞれが処理装置および少なくとも1つの入力装置を含む、1つまたは複数のプログラム可能なコンピューター上で実行する1つまたは複数のコンピュータープログラムにインプリメントされる。コンピューターはまた、好ましくは、データ記憶システム(揮発性および非揮発性メモリー、ならびに/または記憶要素を含む)および少なくとも1つの出力装置を含む。プログラムコードは、上記の機能を実行し、出力情報を作成するように入力データに適用される。出力情報は公知の様式で1つまたは複数の出力装置に適用される。コンピューターは、例えば、慣用的設計のパーソナルコンピューター、マイクロコンピューター、またはワークステーションでありうる。
【0040】
各プログラムは、好ましくは、コンピューターシステムと通信するために高レベル手続き型またはオブジェクト指向型プログラミング言語にインプリメントされる。しかしながら、プログラムは、必要に応じて、アセンブリーまたは機械言語にインプリメントされうる。どんな場合でも、言語はコンパイラ型またはインタープリタ型言語でありうる。
【0041】
各コンピュータープログラムは、好ましくは、一般的なまたは特別な目的プログラム可能なコンピューターにより読み取り可能な記憶媒体または装置(例えば、ROMまたは磁気ディスケット)に保存される。コンピュータープログラムは、プログラムがコンピューターにより読まれる場合、本明細書に記載された手順を行うようにコンピューターを設定および操作する働きをする。本発明の方法はまた、コンピュータープログラムで設定されたコンピューター可読記憶媒体を用いてインプリメントされ、そのように設定された記憶媒体は、本明細書に記載された機能を実行するようにコンピューターを特定かつ所定の様式で作動させる。
【0042】
例えば、免疫原性化合物を設計する方法におけるコンピューター必要段階は以下の段階を含みうる:
(a)第二分子(例えば、MUC1結合物質またはその一部)に結合する第一分子(例えば、MUC1またはMUC1の一部)または分子複合体(例えば、MUC1結合物質もしくはその一部に結合したMUC1またはその一部)、例えば、p53と相互作用するMUC1の領域(すなわち、MUC1の細胞質ドメイン)、MUC1に結合するp53の領域(すなわち、p53のC末端制御ドメイン)、またはp53の全てもしくは一部(例えば、制御ドメイン)に結合したMUC1の全てもしくは一部(例えば、細胞質ドメイン)、の3次元(3-D)構造を定義するデータ(例えば、原子座標)を例えば、キーボード、ディスケット、またはテープを介して、入力装置へ入力する段階;および
(b)以下の3-D構造を処理装置を用いて決定する段階:(i)第二分子への結合に関与する第一分子上の部位;または(ii)分子複合体の分子成分間の相互作用の分子複合体の分子成分上の1つもしくは複数の部位。
【0043】
このようにして得られた情報から、当業者は、適切な3-D構造(下記の「本発明に有用な阻害性化合物およびタンパク質を作製する方法」を参照)を有する阻害性化合物(例えば、ペプチド、非ペプチド小分子、アプタマー(例えば、核酸アプタマー))を設計および作製することができるものと思われる。
【0044】
さらに、候補化合物についてのコンピューター使用可能3-Dデータ(例えば、x線結晶構造解析データ)が利用できる場合には、以下のコンピューターに基づいた段階が上記のコンピューターに基づいた段階(a)および(b)と共に実行されうる:
(c)候補化合物の3次元(3-D)構造を定義するデータ(例えば、原子座標)を例えば、キーボード、ディスケット、またはテープを介して、入力装置へ入力する段階;
(d)処理装置を用いて、候補化合物の3-D構造(例えば、原子モデル)を決定する段階;
(e)処理装置を用いて、候補化合物が第一分子上の部位、または分子複合体の分子成分上の1つもしくは複数の部位に結合するかどうかを決定する段階;および
(f)第一分子と第二分子間、または分子複合体の分子成分間の相互作用を阻害する化合物であると候補化合物を同定する段階。
【0045】
方法は、化合物の3-D構造のモデルを出力装置へ出力する追加の段階を含みうる。加えて、候補化合物の3-Dデータは、データ記憶システムに保存された、例えば、3-D構造(例えば、MUC1、MUC1の細胞質ドメイン、p53、またはp53の制御ドメインの)のコンピューターデータベースと比較されうる。
【0046】
本発明の化合物はまた、他の構造に基づいた設計/モデリング技術(例えば、Jackson (1997) Seminars in Oncology 24:L164-172; およびJones et al. (1996) J. Med. Chem. 39:904-917参照)を用いて本明細書に記載された化合物の構造的情報から対話形式で設計されうる。本発明の化合物およびポリペプチドはまた、例えば、MUC1またはp53上の適切な受容体部位へ空間的にかつ優先的に(すなわち、高親和性で)適合するとコンピューターモデリングにより候補化合物を同定することにより、同定されうる。
【0047】
上記のように同定された候補化合物は、その後、当業者によく知られている標準細胞もしくは無細胞結合または結合阻害アッセイにおいて試験されうる。例示的なアッセイは本明細書に記載されている。
【0048】
候補化合物の存在が、その化合物の非存在下で達成されるより、固定量のMUC1結合物質試験剤への結合の規定された任意のレベルに達するために少なくとも2倍(例えば、4倍、6倍、10倍、100倍、1000倍、10,000倍、または100,000倍)多くの与えられるMUC1試験剤を必要とする候補化合物は、MUC1と関連したMUC1結合物質間の相互作用を阻害するために有用であることができ、従って、癌治療剤または予防剤として有用でありうる。または、候補化合物の存在が、その化合物の非存在下で達成されるより、固定量のMUC1試験剤への結合の規定された任意のレベルに達するために少なくとも2倍(例えば、2倍、4倍、6倍、10倍、100倍、1000倍、10,000倍、または100,000倍)多くの与えられるMUC1結合物質試験剤を必要とする候補化合物は、MUC1と関連したMUC1結合物質間の相互作用を阻害するために有用であることができ、従って、癌治療剤または予防剤として有用でありうる。
【0049】
生体高分子(例えば、タンパク質、核酸、糖、および脂質)の3-D構造は、様々な方法により得られるデータから決定されうる。タンパク質の3-D構造の評価に最も効果的に適用されているこれらの方法は、以下を含む:(a)x線結晶構造解析;(b)核磁気共鳴(NMR)分光法;(c)高分子上の限定された部位間に形成される物理的距離拘束の分析、例えば、タンパク質上の残基間の分子内化学的架橋(例えば、国際特許出願第PCT/US00/14667号、その開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている)、および(d)対象となるタンパク質の一次構造の知識に基づいた分子モデリング方法、例えば、相同性モデリング技術、スレッディングアルゴリズム、またはMONSSTER(Modeling Of New Structures from Secondary and Tertiary Restraints)のようなコンピュータープログラムを用いる非経験構造モデリング(例えば、国際出願第PCT/US99/11913号参照、その開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている)。他の分子モデリング技術もまた、本発明に従って用いられうる[例えば、Cohen et al. (1990) J. Med. Chem. 33:883-894; Navia et al (1992) Current Opinions in Structural Biology, 2, pp. 202-210, その開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている]。すべてのこれらの方法はコンピューター分析を受け入れられるデータを作成する。同様に本発明の方法に有用でありうるが、生体分子についての原子レベルの構造的詳細を現在のところでは提供しない他の分光法は、円偏光二色性、ならびに蛍光および紫外/可視光吸収分光法を含む。分析の好ましい方法は、x線結晶構造解析である。この手順およびNMR分光法の説明は以下に提供されている。
【0050】
X線結晶構造解析
X線結晶構造解析は、対象となる分子または分子複合体の結晶における原子核を囲む電子雲による特徴的な波長のx線照射の回折に基づいている。特定の生体高分子を作り上げる原子のニア原子分解能を測定するために精製された生体高分子または分子複合体(しかし、これらは、しばしば、溶媒成分、補助因子、基質、または他のリガンドを含む)の結晶を用いる。x線結晶構造解析により3-D構造を解析するための必須条件は、x線を強く回折する秩序立った結晶である。方法は、多数の同一の分子の規則正しく繰り返すアレイ上へx線のビームを、個々の分子の構造が検索されうるパターンでx線がアレイから回折されるように、向ける。例えば、球状タンパク質分子の秩序立った結晶は、でこぼこした表面をもつ大きな球状または楕円体の物体である。結晶は、個々の分子間に大きな溝を含む。これらの溝は、通常には結晶の容積の2分の1より多くを占めるが、無秩序な溶媒分子で満たされ、タンパク質分子は少数の小領域においてのみお互いに接触している。これは、なぜ結晶におけるタンパク質の構造が一般的に溶液におけるタンパク質のそれらと同じなのかという一つの理由である。
【0051】
対象となるタンパク質を得る方法は以下に記載されている。結晶の形成は、pH、温度、生体高分子の濃度、溶媒および沈殿剤の性質、加えて、タンパク質の付加されたイオンまたはリガンドの存在を含む、いくつかの異なるパラメーターに依存している。多数の日常的結晶化実験は、x線回折分析に適した結晶を与える組み合わせについてすべてのこれらのパラメーターをスクリーニングすることが必要とされうる。結晶化ロボットは、多数の結晶化実験を再現可能に設定する作業を自動化かつスピードアップできる(例えば、米国特許第5,790,421号を参照、その開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている)。
【0052】
ポリペプチド結晶化は、ポリペプチド濃度がその溶解度最高点を超える溶液(すなわち、ポリペプチド溶液は過飽和している)で起こる。そのような溶液は、好ましくはポリペプチド結晶の沈殿を通して、ポリペプチド濃度を低下させることにより平衡に戻しうる。しばしば、ポリペプチドは、ポリペプチド表面電荷を変化させる、またはポリペプチドとバルク水の間の相互作用を攪乱させて、結晶化へ導く会合を促進する作用物質を添加することにより過飽和溶液から結晶化するように誘導されうる。
【0053】
結晶化は一般的に、4℃と20℃の間で行われる。「沈殿剤」として知られた物質はしばしば、ポリペプチド分子の周囲にエネルギー的に不安定な(energetically unfavorabel)沈殿除去層を形成することにより濃縮された溶液においてポリペプチドの溶解度を減少させるために用いられる[Weber (1991) Advances in Protein Chemistry, 41:1-36]。沈殿剤に加えて、他の物質が時々、ポリペプチド結晶化溶液へ添加される。これらは、ポリペプチドの溶解度を低下させるように溶液および塩のpHを調整しうる緩衝液を含む。様々な沈殿剤が当技術分野において公知であり、以下を含む:エタノール、3-エチル-2-4-ペンタンジオール、およびポリエチレングリコール(PEG)のようなポリグリコールの中の多く。沈殿させる溶液は、例えば、13〜24% PEG 4000、5〜41%硫酸アンモニウム、および1.0〜1.5M塩化ナトリウム、ならびに5〜7.5の範囲であるpHを含みうる。他の添加剤は、0.1M Hepes、2〜4%ブタノール、0.1Mまたは20mM酢酸ナトリウム、50〜70mMクエン酸、120〜130mMリン酸ナトリウム、1mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、および1mMジチオトレイトール(DTT)を含みうる。これらの作用物質は、緩衝液中に調製され、結晶化緩衝液へ様々な組み合わせで滴下様式で添加される。
【0054】
一般的に用いられるポリペプチド結晶化方法は、以下の技術を含む:バッチ、懸滴、種誘導、および透析。これらの方法のそれぞれにおいて、過飽和溶液を維持することにより核形成後、連続結晶化を促進することが重要である。バッチ方法において、ポリペプチドを過飽和に達するように沈殿剤と混合し、容器を密封して、結晶が現れるまで脇に置いておく。透析方法において、沈殿剤を含む溶液中へ置かれる密封される透析膜内にポリペプチドを保持する。膜を通しての平衡は、ポリペプチドおよび沈殿剤濃度を増加させ、それにより、ポリペプチドを過飽和レベルに到達させる。
【0055】
好ましい懸滴技術[McPherson (1976) J. Biol. Chem., 251:6300-6306]において、最初のポリペプチド混合物を、濃縮されたポリペプチド溶液へ沈殿剤を添加することにより生成する。ポリペプチドおよび沈殿剤の濃度は、この最初の型においてポリペプチドが結晶化しないようにする。この混合物の小滴を、反転しているスライドガラスに置き、第二溶液の容器の上で懸濁する。系をその後、密封する。典型的には、第二溶液は、より高い濃度の沈殿剤または他の脱水剤を含む。沈殿剤濃度における差は、タンパク質溶液に第二溶液より高い蒸気圧をもたせる。2つの溶液を含む系を密封するため、平衡が確立され、ポリペプチド混合物からの水は第二溶液へ移動する。この平衡は、ポリペプチド溶液におけるポリペプチドおよび沈殿剤濃度を増加させる。ポリペプチドおよび沈殿剤の臨界濃度において、ポリペプチドの結晶が形成しうる。
【0056】
結晶化のもう一つの方法は、濃縮されたポリペプチド溶液へ核形成部位を導入する。一般的に、濃縮されたポリペプチド溶液を調製し、ポリペプチドの種結晶をこの溶液へ導入する。ポリペプチドおよび任意の沈殿剤の濃度が正しい場合には、種結晶は、周囲により大きな結晶が形成する核形成部位を提供する。
【0057】
結晶化のさらにもう一つの方法は、電極に隣接したヘルムホルツ層に自己整列するタンパク質高分子の双極子モーメントを利用する電解結晶化方法である(例えば、米国特許第5,597,457号参照、その開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている)。
【0058】
いくつかのタンパク質は、結晶化に抵抗する場合がある。しかしながら、いくつかの技術が結晶化を引き起こすために当業者に利用できる。例えば、タンパク質のアミノ末端またはカルボキシル末端における可動性ポリペプチドセグメントの除去が、結晶性タンパク質試料の生成を促進しうる。そのようなセグメントの除去は、分子生物学技術、またはトリプシン、キモトリプシン、もしくはサブチリシンのようなプロテアーゼでのタンパク質の処理を用いて行われうる。
【0059】
回折実験において、x線の細い平行ビームをx線源から取り出し、回折ビームを生じるように結晶上へ向ける。入射一次ビームは、高分子および溶媒分子の両方に損傷を引き起こす。それゆえに、結晶を、その寿命を長くするために冷却する(例えば、-220℃〜-50℃へ)。一次ビームは、あらゆる可能な回折スポットを生じるために多くの方向から結晶を打たなければならないので、結晶を実験中、ビーム内で回転させる。回折スポットをフィルム上に、または電子感知器により記録される。露出されたフィルムはスキャニング装置においてデジタル化および定量化される必要があるが、電子感知器は、それらが感知するシグナルを直接的にコンピューターへ送る。電子領域感知器は、回折データを収集および測定するのに必要とされる時間を有意に低減する。フィルム上のスポットとして記録される各回折ビームは以下の3つの性質により定義される:スポットの強度から測定される振幅;x線源により設定される波長;およびx線実験において喪失される位相。すべての3つの性質は、回折ビームを生じる原子の位置を決定するために回折ビームの全てについて必要とされる。位相を決定する一つの方法は、外因性x線散乱体(例えば、金属原子のような重原子)の結晶の単位格子への導入を必要とする、複数同形置換(MIR)と呼ばれる。MIRのより詳細な説明について、開示が全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第6,093,573号(15段落目)を参照されたい。
【0060】
原子座標は、結晶型における対象となる生体高分子の原子によるx線の単色ビームの回折によって得られたパターンから導かれたデータのフーリエ合成を含む数学方程式から導かれたデカルト座標(x、y、およびz位置)を指す。回折データは、結晶における繰り返し単位(単位格子)の電子密度図を計算するために用いられる。電子密度図は、結晶の単位格子内の個々の原子の位置(原子座標)を確立するために用いられる。原子座標の絶対値は、原子座標に帰属した絶対値が、原子間の同じ相対的空間的関係を維持しながら、x軸、y軸、および/またはz軸に沿って、共にまたは別々に、回転および/または並進運動により変化しうるため、空間的関係を意味する。従って、絶対的原子座標値のセットが、もう一つの試料の分析からの前に決定された値と一致するように回転的にまたは並進的に調整されうる生体高分子(例えば、タンパク質)は、他の試料から得られたものと同じ原子座標を有するとみなされる。
【0061】
x線結晶構造解析に関するさらなる詳細は、同時係属中の米国出願第10/486,278号、米国特許第6,093,573号、および国際出願第PCT/US99/18441号、第PCT/US99/11913号、および第PCT/US00/03745号から得られうる。すべてのこれらの特許文書の開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0062】
NMR分光法
x線結晶構造解析は対象となる高分子の単一の結晶を必要とするが、NMR測定は生理学的条件に近い条件下で溶液中で行われる。しかしながら、NMR由来構造は結晶由来構造ほど詳細ではない。
【0063】
NMR分光法の使用は、比較的最近まで、比較的小さい分子(例えば、100〜150アミノ酸残基のタンパク質)の3-D構造の解明に限定されていたが、対象となる分子の同位体標識および横緩和最適化分光法(TROSY)を含む最近の進歩は、さらに大きい分子、例えば、110kDaの分子量をもつタンパク質の分析に、方法が拡大されるのを可能にしている[Wider (2000) BioTechniques, 29:1278-1294]。
【0064】
NMRは、高周波放射を用いて、特定の高周波でパルスされた均一な磁場における磁性原子核の環境を調べる。パルスは、非ゼロスピンの核をもつそれらの原子の核磁化を攪乱させる。過渡期ドメインシグナルは、系が平衡に戻る時に検出される。過渡シグナルの周波数領域へのフーリエ変換は1次元NMRスペクトルを生じる。これらのスペクトルにおけるピークは様々な活性核の化学シフトを表す。原子の化学シフトは、その局所電子環境により決定される。2次元NMR実験は、構造における、および3次元空間における、様々な原子の近接についての情報を提供できる。タンパク質構造は、いくつかの2次元(および時々、3次元または4次元)NMR実験を行い、その結果生じた情報を一連のタンパク質折り畳みシミュレーションにおける拘束として用いることにより決定されうる。
【0065】
NMR実験から得られた生データがどのようにして高分子の3-D構造を決定するために用いられうるかの詳細な説明を含むNMR分光法に関するより多くの情報は以下に見出されうる:Protein NMR Spectroscopy, Principles and Practice, J. Cavanagh et al., Academic Press, San Diego, 1996; Gronenborn et al. (1990) Anal. Chem. 62(1):2-15;およびWider (2000), 前記。それらのすべての開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0066】
任意の利用できる方法は、上記のようにコンピューターを用いてx線結晶構造解析および/またはNMRデータから対象となるMUC1および/またはMUC1結合物質の領域の3-Dモデルを構築するために用いられうる。そのようなモデルは、入力装置によりコンピューターへ入力された分析データ点から、および公知のソフトウェアパッケージ、例えば、HKL、MOSFILM、XDS、CCP4、SHARP、PHASES、HEAVY、XPLOR、TNT、NMRCOMPASS、NMRPIPE、DIANA、NMRDRAW、FELIX、VNMR、MADIGRAS、QUANTA、BUSTER、SOLVE、O、FRODO、またはCHAINを用いる処理装置を用いて、構築されうる。これらのデータから構築されたモデルは、利用可能なシステム、例えば、Silicon Graphics、Evans and Sutherland、SUN、Hewlett Packard、Apple Macintosh、DEC、IBM、またはCompaqを用いてコンピューターの出力装置により可視化されうる。
【0067】
本発明に有用な阻害性化合物およびタンパク質を作製する方法
いったん、対象となるタンパク質(MUC1、p53、またはTBP)、またはその結合領域を含む断片の3-D構造が上記方法のいずれかを用いて確立されたならば、対象となるタンパク質の結合領域と同じ3-D構造を実質的に有する(または同じ構造を実質的に有するドメインを含む)化合物。化合物の構造は、親タンパク質(例えば、MUC1)の結合部位の3-D構造、親タンパク質が結合するタンパク質(例えば、p53)の相補性受容体部位の3-D構造、または両方の組み合わせに基づきうる。この関係において、「同じ3-D構造を実質的に有する」とは、化合物が、親タンパク質と少なくとも同じ結合活性で非親パートナーに結合することを意味する。化合物はまた、非親パートナーに、親タンパク質より少なくとも2倍(少なくとも:3倍;4倍;5倍;6倍;7倍;8倍;9倍;10倍;20倍;50倍;100倍;1,000倍;10,000倍;100,000倍;1,000,000倍;またはよりいっそう高い倍数)高い結合活性で結合することができる。当業者は、化合物をそのような能力について試験する方法を知っているものと思われる。
【0068】
手元の上記の3-D構造データを用い、かつ対象となるタンパク質領域の化学構造(例えば、タンパク質の場合、アミノ酸配列)を知ることで、当業者は、上記性質をもつ化合物を作製する方法を知るものと思われる。そのような方法は、化学合成方法、およびタンパク質の場合、組換え方法を含む(上記参照)。例えば、ジスルフィド結合を形成するように化合物において適切に置かれたシステイン残基は、適切な3-D構造において化合物または化合物のドメインを拘束するために用いられうる。加えて、ポリペプチドである化合物、またはポリペプチドであるドメインを含む化合物において、当業者は、例えば、ポリペプチドバックボーンにおいてα-ヘリックス、β構造、または急旋回もしくは屈曲を生じるために、何のアミノ酸を含むべきか、および何の配列にそれらを含むべきかを知っているものと思われる。
【0069】
小分子化合物として特に対象となるのは、様々なタンパク質に高結合活性で結合し、リガンド、受容体、および他の分子のそのようなタンパク質への結合を阻害する比較的短い核酸(DNA、RNA、または両方の組み合わせ)配列である核酸アプタマーである。アプタマーは一般的に、約25〜40ヌクレオチド長であり、約18〜25kDaの範囲の分子量を有する。標的に対する高特異性および親和性をもつアプタマーは、SELEX(systemic evolution of ligands by exponential enrichment)(指数関数的濃縮による体系的進化)と呼ばれるインビトロ進化的方法により得られうる[例えば、Zhang et al. (2004) Arch. Immunol. Ther. Exp. 52:307-315参照、その開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている]。核酸アプタマーの安定性を増強する(例えば、ヌクレオチド類似体を用いることにより)、およびインビボの生物学的利用能(例えば、被験体の循環系におけるインビボの持続)を増強する方法について、Zhang et al. (2004)およびBrody et al.[(2000) Reviews in Molecular Biotechnology 74:5-13、その開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている]を参照されたい。
【0070】
必須ではないが、コンピューターに基づいた方法が本発明の化合物を設計するために用いられうる。適切なコンピュータープログラムは以下を含む:LUDI(Biosym Technologies, Inc., San Diego, CA)、Aladdin(Daylight Chemical Information Systems, Irvine, CA)、およびLEGEND[Nishibata et al. (1985) J. Med. Chem. 36(20):2921-2928]。
【0071】
本発明の化合物は、上記の免疫原性ドメインに加えて、精製を容易にする1つもしくは複数のドメイン(例えば、ポリヒスチジン配列)、または化合物を適切な標的細胞(例えば、癌細胞)に向ける働きをするドメイン、免疫系の標的細胞の細胞表面成分、例えば、MUC1、Her2/Neu、または様々な他の腫瘍関連抗原(TAA)のいずれかに、特異的なリガンドまたは抗体(Fab、F(ab')2、または一本鎖Fv断片のような抗体断片を含む)を含みうる。生体膜(例えば、細胞膜および/または核膜)を横断しての化合物の輸送を促進する、および細胞内コンパートメントへそれらを向けるシグナル配列もまた、化合物に(例えば、共有結合性に)連結されうる。シグナル配列は、開示が全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第5,827,516号において詳細に記載されている。親阻害性化合物に対応するドメインが、それが追加のドメインの非存在下で有するであろう3-D構造を実質的に保持することだけで、そのような多領域化合物において十分である。そのような多ドメイン化合物を作製するための結合は、化学的方法によることができる[例えば、Barrios et al. (1992) Eur. J. Immunol. 22:1365-1372、その開示は全体として本明細書に組み入れられている]。化合物がペプチドである場合、それは、表面上に候補結合ペプチドを示す、ウイルスサイズの粒子へと自己組織化するもの(例えば、米国特許第4,918,166号、その開示は全体として本明細書に組み入れられている)のような組換えタンパク質の一部として産生されうる。
【0072】
ペプチドである本発明の化合物はまた、上記の、ただしインビボで関連したポリペプチドの生存を促進するためにブロッキング剤のアミノ末端および/またはカルボキシル末端における付加によりインビボ使用のために修飾されたものを含む。これは、ペプチド末端が細胞取り込みの前にプロテアーゼにより分解される傾向にある状況において有用でありうる。そのようなブロッキング剤は、非限定的に、投与されるべきペプチドのアミノおよび/またはカルボキシル末端残基に付着しうる、追加の関連または非関連のペプチド配列を含みうる。これは、当業者によく知られている方法により、ペプチドの合成中に化学的にか、または組換えDNAテクノロジーかのいずれかで行われうる。
【0073】
または、当技術分野において公知のピログルタミン酸または他の分子のようなブロッキング剤は、アミノおよび/もしくはカルボキシル末端残基に付着しうる、またはアミノ末端におけるアミノ基もしくはカルボキシル末端におけるカルボキシル基が異なる部分で置換されうる。同様に、ペプチド化合物は、投与前に薬学的に許容される「担体」タンパク質へ共有結合性に、または非共有結合性に結合しうる。
【0074】
また対象となるのは、ペプチドである本発明の化合物のアミノ酸配列に基づいて設計されるペプチド模倣化合物である。ペプチド模倣化合物は、選択されたペプチドの3次元高次構造と実質的に同じである3次元高次構造(すなわち、「ペプチドモチーフ」)を有する合成化合物である。ペプチドモチーフは、MUC1とMUC1結合物質の間の相互作用を阻害する能力をペプチド模倣化合物に与える。ペプチド模倣化合物は、細胞透過性の増加および生物学的半減期の延長のようなそれらのインビボの有用性を向上させる追加の特性を有しうる。ペプチド模倣体は、典型的には、部分的にまたは完全に非ペプチドであるバックボーンを有するが、ペプチド模倣体が基づいているペプチド内に存在するアミノ酸残基の側基と同一である側基を有する。化学結合のいくつかの型、例えば、エステル、チオエステル、チオアミド、レトロアミド、還元カルボニル、ジメチレン、およびケトメチレン結合、がプロテアーゼ抵抗性ペプチド模倣体の構築におけるペプチド結合の一般的に有用な代わりであることが当技術分野において公知である。
【0075】
本発明の化合物を設計するために用いられるタンパク質(MUC1、p53、またはTBP)は天然源から(例えば、膵臓、肝臓、肺、乳房、皮膚、脾臓、卵巣、睾丸、筋肉、関節組織、神経組織、胃腸管組織、もしくは腫瘍組織(例えば、乳癌または結腸癌組織)のような組織、または血液、血清、もしくは尿のような体液から)精製されうる。本発明のより小さいペプチド(100アミノ酸長より少ない)および他の非タンパク質化合物は、当業者に公知の標準化学的手段により都合良く合成されうる。加えて、ポリペプチドおよびペプチドの両方は、適切なポリペプチドまたはペプチドをコードするヌクレオチド配列を用いる標準インビトロ組換えDNA技術およびインビボの遺伝子組換えにより製造されうる。当業者に周知の方法は、関連したコード配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築するために用いられうる。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (第2版) [Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y., 1989]、およびAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology [Green Publishing Associates and Wiley Interscience, N.Y., 1989]に記載された技術を参照
【0076】
上記の構造(例えば、x線結晶構造およびNMR)解析について、タンパク質またはその断片が高度に精製されることが一般的に必要とされる。生体高分子(例えば、タンパク質)を精製するための方法は当技術分野において公知である。タンパク質の純度は、任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析により測定されうる。
【0077】
上記解析に用いられるMUC1およびMUC1結合物質は、任意の哺乳動物種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、およびマウスのものでありうる。
【0078】
細胞においてMUC1のMUC1結合物質への結合を阻害する方法
本発明は、細胞においてMUC1のMUC1結合物質(p53および/またはTBP)への結合を阻害する方法を特徴とする。方法は、腫瘍進行因子のMUC1へ(例えば、MUC1 CDへ)の結合を阻害する化合物を細胞へ導入する段階を含む。化合物の細胞への導入の前に、細胞(または処理されるべき細胞が得られる被験体由来のもう一つの癌細胞)は任意でMUC1発現について試験されうる。これは、当技術分野において公知の幅広い種類の方法のいずれかによりMUC1タンパク質かまたはMUC1 mRNAのいずれかの発現について試験することにより行われうる。
【0079】
化合物は上記の方法により同定されたものでありうる。適切な化合物の例は、ヒトMUC1のCD(SEQ ID NO:2)、MUC1結合物質に結合するMUC1のCDのペプチド断片、およびMUC1を結合するMUC1結合物質の断片を含む。ヒトMUC1のCDの適切な断片は、ヒトMUC1 CD(SEQ ID NO:2)(例えば、MUC1 CDのアミノ酸1位〜51位(SEQ ID NO:5)を含む、またはアミノ酸1位〜51位からなるペプチド)のアミノ酸9位〜46位(SEQ ID NO:4)を含む、またはアミノ酸9位〜46位からなるものでありうる。他の有用な阻害性化合物は、ヒトp53(SEQ ID NO:1)のアミノ酸363位〜393位(SEQ ID NO:6)の全てもしくは一部を含む、または全てもしくは一部からなる分子でありうる。
【0080】
ペプチド阻害性化合物は、MUC1もしくはMUC1結合物質の阻害性セグメントの一端かまたは両端のいずれかに、50個まで(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、12個、15個、18個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、または50個)のMUC1もしくはMUC1結合物質残基、または非関連残基を含みうる。
【0081】
阻害剤化合物として用いられうる任意のMUC1またはMUC1結合物質ペプチドは、任意のリン酸化されたリン酸化感受性アミノ酸残基を有してもよい。
【0082】
阻害性化合物(またはp53もしくはTBPに結合することにより作用する他の阻害性化合物(例えば、p53もしくはTBP特異的抗体または抗体断片))として有用なMUC1ペプチド断片は、実質的にMUC1アゴニスト活性を有しない、すなわち、それらは、MUC1 C末端のp21遺伝子およびBax遺伝子のプロモーターへの結合に起因する本明細書に記載されたMUC1の効果を実質的に欠損する。MUC1アゴニスト活性を実質的に有しない化合物は、無制限量のp53の存在下における、MUC1 C末端の、p21遺伝子の転写を増強する能力、またはBax遺伝子の転写を減少させる能力の20%未満(例えば、10%未満;5%未満;2%未満;1%未満;0.5%未満;0.2%未満;0.1%未満;0.01%未満;0.001%未満;または0.0001%未満)を有するものである。
【0083】
類似して、p53およびTBPペプチド断片化合物は、無制限量のMUC1の存在下において生じる、それぞれ、p21遺伝子の発現へのp53の転写増強活性を実質的に全く有しない、またはBax遺伝子へのTBPの転写減少活性を実質的に全く有しない。無制限量のMUC1の存在下において生じる、p21遺伝子の発現へのp53の転写増強活性を実質的に全く有しない、またはBax遺伝子へのTBPの転写減少活性を実質的に全く有しない化合物は、無制限量のMUC1の存在下において、それぞれ、p21遺伝子の転写を増強するp53の能力の、またはBax遺伝子の発現を減少させるTBPの能力の20%未満(例えば、10%未満;5%未満;2%未満;1%未満;0.5%未満;0.2%未満;0.1%未満;0.01%未満;0.001%未満;または0.0001%未満)を有する。従って、阻害性化合物として有用なp53およびTBPのペプチド断片は、一般的に、それらのDNA結合ドメインの全てまたは一部を欠損する。適切な結合阻害性活性についてそのような化合物を設計、作製、および試験する方法は当業者に公知である。
【0084】
加えて、阻害性化合物は、MUC1、p53、もしくはTBPに特異的な抗体または抗原結合抗体断片でありうる。そのような抗体は、一般的に、以下に、または以下の近くに、結合する:(a)p53もしくはTBPが結合するMUC1の領域;または(b)MUC1が結合する、p53上の領域もしくはTBP上の領域。しかしながら、上で示されているように、化合物はまたアロステリックに作用することができ、それゆえ、それらはまた、MUC1に対する結合部位(p53およびTBP上)以外で、および結合部位から遠隔でさえも、かつp53またはTBP上(MUC1について)の位置で、3つのタンパク質に結合することができる。本出願を通して用いられる場合、「抗体」という用語は、当技術分野において公知である様々な方法のいずれか一つにより作製される抗体(例えば、IgM、IgG、IgA、IgD、またはIgE)分子全体を指す。抗体は、様々な種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、およびマウスのいずれかにおいて作製されうる、またはいずれか由来でありうる。
【0085】
抗体は、精製された、または組換え抗体でありうる。抗体断片、ならびに非ヒト(例えば、マウス、ラット、アレチネズミ、またはハムスター)抗体から作製されたキメラ抗体およびヒト化抗体もまた本発明に有用である。本明細書に用いられる場合、「抗体断片」という用語は、抗原結合断片、例えば、Fab、F(ab')2、Fv、および一本鎖Fv(scFv)断片を指す。scFv断片は、scFvが由来する抗体の重鎖および軽鎖の可変領域の両方を含む単一のポリペプチド鎖である。加えて、ダイアボディ[Po1jak (1994) Structure 2(12):1121-1123; Hudson et al. (1999) J. Immunol. Methods 23(1-2):177-189、それらの両方の開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている]およびイントラボディ[Huston et al. (2001) Hum. Antibodies 10(3-4):127-142; Wheeler et al. (2003) Mol. Ther. 8(3):355-366; Stocks (2004) Drug Discov. Today 9(22):960-966、それら全ての開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている]は本発明の方法に用いられうる。
【0086】
分子の結合ドメインを含む抗体断片は、公知の技術により作製されうる。例えば:F(ab')2断片は、抗体分子のペプシン消化により生成されうる;およびFab断片は、F(ab')2断片のジスルフィド架橋を還元することにより、またはパパインおよび還元剤で抗体分子をい処理することにより作製されうる。例えば、National Institutes of Health, 1 Current Protocols In Immunology, Coligan et al., ed. 2.8, 2.10 (Wiley Interscience, 1991)を参照、その開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている。scFv断片は、例えば、開示が全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第4,642,334号に記載されているように、作製されうる。
【0087】
キメラおよびヒト化モノクローナル抗体は、当技術分野において公知の組換えDNA技術により、例えば、Robinson et al., 国際特許公開第PCT/US86/02269号; Akira et al., 欧州特許出願第184,187号; Taniguchi, 欧州特許出願第171,496号; Morrison et al., 欧州特許出願第173,494号; Neuberger et al., PCT出願第WO 86/01533号; Cabilly et al., 米国特許第4,816,567号; Cabilly et al., 欧州特許出願第125,023号; Better et al. (1988) Science 240, 1041-43; Liu et al. (1987) J. Immunol. 139, 3521-26; Sun et al. (1987) PNAS 84, 214-18; Nishimura et al. (1987) Canc. Res. 47, 999-1005; Wood et al. (1985) Nature 314, 446-49; Shaw et al. (1988) J. Natl. Cancer Inst. 80, 1553-59; Morrison, (1985) Science 229, 1202-07; Oi et al. (1986) BioTechniques 4, 214; Winter, 米国特許第5,225,539号; Jones et al. (1986) Nature 321, 552-25; Veroeyan et al. (1988) Science 239, 1534; およびBeidler et al. (1988) J. Immunol. 141, 4053-60に記載された方法を用いて、作製されうる。すべてのこれらの論文および特許文書の開示は、全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0088】
本発明の方法が適用されうる細胞は、一般的に、MUC1を発現する任意の細胞を含む。そのような細胞は、任意の正常な上皮細胞のような正常細胞、または増殖を阻害することが望まれる癌細胞を含む。適切な癌細胞は、乳癌、肺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、肝臓癌、骨癌、血液癌(例えば、白血病またはリンパ腫)、神経組織癌、黒色腫、卵巣癌、睾丸癌、前立腺癌、子宮頚癌、膣癌、または膀胱癌細胞でありうる。加えて、本発明の方法は、幅広い範囲の種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、およびマウスに適用されうる。
【0089】
方法はインビトロ、インビボ、またはエクスビボで行われうる。適切な化合物のインビトロ適用は、例えば、腫瘍細胞生物学の基礎的科学研究、例えば、生存を含む腫瘍細胞増殖を促進するにおけるMUC1および/またはMUC1結合物質の作用の機構に関する研究に有用でありうる。加えて、阻害性である化合物は、阻害活性をもつ追加の化合物を同定するための方法において「陽性対照」として用いられうる(上記参照)。そのようなインビトロ方法において、MUC1、およびMUC1結合物質の1つまたは複数を発現する細胞は、様々な濃度の阻害性化合物と様々な時間、インキュベートされうる。当業者に公知の他のインキュベーション条件(例えば、温度または細胞濃度)もまた変化しうる。結合の阻害は、本明細書に開示されたもののような方法により試験されうる。
【0090】
本発明の方法は、好ましくは、インビボまたはエクスビボである。
【0091】
MUC1とMUC1結合物質の間の結合を阻害する化合物は、一般的に、癌細胞(例えば、乳癌細胞)生存阻害性および/もしくは細胞周期停止性治療剤または予防剤として有用である。それらは、単独で、または他の薬物および/もしくは放射線治療と共に、哺乳動物被験体(例えば、ヒト乳癌患者)に投与されうる。化合物はまた、遺伝的に、ならびに/または、例えば、生理学的および/もしくは環境的因子のせいで、癌に罹りやすい被験体、例えば、癌(例えば、乳癌)の家族歴をもつ被験体、慢性炎症をもつもしくは慢性ストレスを受けやすい被験体、または天然もしくは非天然の環境発癌条件(例えば、日光、工業発癌物質、またはタバコの煙)に曝されている被験体に投与されうる。本明細書に用いられる場合、「治療剤」である化合物は、疾患の症状の完全な消滅、または疾患の症状の重症度における減少を引き起こす化合物である。「防止」とは、疾患(例えば、癌)の症状が本質的に存在しないことを意味する。本明細書に用いられる場合、「予防」とは、疾患の症状の完全な防止、疾患の症状の発生における遅延、または実質的に発生した疾患症状の重症度における低下を意味する。
【0092】
方法が化合物の投与の前に癌をもつ被験体に適用される場合、癌は、任意で、当技術分野において公知の方法によりMUC1発現(MUC1タンパク質またはMUC1 mRNA発現)について試験されうる。このようにして、被験体は、MUC1を発現する癌に罹っていると同定されうる。そのような方法は、被験体から得られた癌細胞上においてインビトロで行われうる。または、例えば、MUC1に特異的な放射標識抗体を用いるインビボ画像化が行われうる。加えて、癌をもつ被験体由来の体液(例えば、血液または尿)は、MUC1タンパク質またはMUC1タンパク質断片のレベルの上昇について試験されうる。
【0093】
インビボのアプローチ
一つのインビボのアプローチにおいて、MUC1のMUC1結合物質への結合を阻害する化合物は、被験体に投与される。一般的に、本発明の化合物は、薬学的に許容される担体(例えば、生理食塩水)に懸濁され、経口で投与される、または静脈内に、皮下に、筋肉内に、髄腔内に、腹腔内に、直腸内に、腟内に、鼻腔内に、胃内に、気管内に、もしくは肺内に注射される。それらはまた、いかなる残存する腫瘍細胞も殺すために腫瘍細胞へ、例えば、腫瘍の外科的切除後の腫瘍または腫瘍床へ、直接的に送達されうる。必要とされる用量は、投与経路の選択;製剤の性質;患者の病気の性質;被験体のサイズ、体重、表面積、年齢、および性別;投与されることになっている他の薬物;ならびに担当医の判断に依存する。適した用量は、0.0001mg/kg〜100mg/kgの範囲である。必要とされる用量における幅広い変動は、利用できる化合物の多様性および様々な投与経路の異なる効率を考慮して予想されるべきである。例えば、経口投与は、静脈注射による投与より高い用量を必要とすることが予想される。これらの用量レベルにおける変動は、当技術分野においてよく理解されているような最適化のための標準経験的ルーチンを用いて調整されうる。投与は、単回または複数回(例えば、2回、3回、4回、6回、8回、10回、20回、50回、100回、150回、またはそれ以上の回数)でありうる。適した送達媒体(例えば、重合体微粒子または埋め込み型装置)におけるポリペプチドのカプセル化は、送達、特に経口送達における効率を増加させうる。
【0094】
または、阻害性化合物がポリペプチドである場合、ポリペプチドをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドは哺乳動物において適切な細胞へ送達されうる。コード配列の発現は、被験体の身体における任意の細胞へ向けられうる。しかしながら、発現は、好ましくは、増殖を阻害することが望まれる腫瘍細胞の付近の細胞へ向けられる。コード配列の発現は腫瘍細胞自身へ向けられうる。これは、例えば、当技術分野において公知の、重合体生分解性微粒子またはマイクロカプセル送達装置の使用により、達成されうる。
【0095】
核酸の取り込みを達成するもう一つの方法は、標準方法により調製されるリポソームを用いることである。ベクターはこれらの送達媒体に単独で組み入れられうる、または組織特異的もしくは腫瘍特異的抗体と共に組み入れられうる。または、静電気力または共有結合力によりポリ-L-リシンに付着したプラスミドまたは他のベクターから構成される分子結合体を調製することができる。ポリ-L-リシンは、標的細胞上の受容体に結合することができるリガンドに結合する[Cristiano et al. (1995), J. Mol. Med. 73:479、その開示は全体として参照により本明細書に組み入れられている]。または、組織特異的ターゲティングは、当技術分野において公知である組織特異的転写調節因子(TRE)の使用により達成されうる。「裸のDNA」(すなわち、送達媒体無しの)の筋肉内、皮内、または皮下部位への送達は、インビボの発現を達成するためのもう一つの手段である。
【0096】
関連したポリヌクレオチド(例えば、発現ベクター)において、開始メチオニンおよび任意でターゲティング配列を有する、対象となるポリペプチドをコードする核酸配列は、プロモーターまたはエンハンサー-プロモーターの組み合わせに機能的に連結される。短いアミノ酸配列は、タンパク質を特定の細胞内コンパートメントへ向けるためのシグナルとして働くことができる。そのようなシグナル配列は、開示が全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第5,827,516号に詳細に記載されている。
【0097】
エンハンサーは、時期、位置、およびレベルに関して発現特異性を提供する。プロモーターとは違って、エンハンサーは、プロモーターが存在するとの条件で、転写開始点から可変の距離に位置している場合、機能することができる。エンハンサーはまた、転写開始点の下流に位置しうる。プロモーターの制御下でコード配列をもたらすために、プロモーターの1ヌクレオチド下流(3')と約50ヌクレオチド下流(3')の間にペプチドまたはポリペプチドの翻訳リーディングフレームの翻訳開始点を位置する必要がある。対象となるプロモーターは、限定されるわけではないが、サイトメガロウイルスhCMV前初期遺伝子、SV40アデノウイルスの初期または後期プロモーター、lac系、trp系、TAC系、TRC系、ファージAの主要オペレーターおよびプロモーター領域、fdコートタンパク質の調節領域、3-ホスホグリセレートキナーゼについてのプロモーター、酸性ホスファターゼのプロモーター、ならびに酵母α-接合因子のプロモーター、アデノウイルスE1b最小プロモーター、またはチミジンキナーゼ最小プロモーターを含む。DF3エンハンサーは、天然でMUC1を発現する細胞、例えば、正常上皮細胞または悪性上皮細胞(癌腫細胞)、例えば乳癌細胞における阻害性化合物の発現に特に有用でありうる[開示が全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第5,565,334号および第5,874,415号参照]。発現ベクターのコード配列は、転写終結領域へ機能的に連結される。
【0098】
適した発現ベクターは、プラスミド、ならびに、とりわけ、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、弱毒ワクシニアウイルス、カナリア痘ウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルスのようなウイルスベクターを含む。
【0099】
ポリヌクレオチドは薬学的に許容される担体において投与されうる。薬学的に許容される担体は、ヒトへの投与に適している生物学的適合性媒体、例えば、生理食塩水またはリポソームである。治療的有効量は、処置される動物において医学的に望ましい結果(例えば、癌細胞の増殖の減少)を生じることができるポリヌクレオチドの量である。医学分野において周知であるように、任意の1人の患者についての用量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与されるべき特定の化合物、性別、投与の時期および経路、全般的健康、ならびに同時に投与されることになっている他の薬物を含む多くの因子に依存する。用量は変動するものであるが、ポリヌクレオチドの投与についての好ましい用量は、ポリヌクレオチド分子の約106コピーから約1012コピーまでである。この用量は、必要に応じて、繰り返し投与されうる。投与経路は、上で列挙されたもののいずれかでありうる。
【0100】
エクスビボのアプローチ
エクスビボのストラテジーは、MUC1のMUC1結合物質への結合を阻害するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、被験体から得られた細胞にトランスフェクションまたは形質導入する段階を含みうる。トランスフェクションまたは形質導入された細胞は、その後、被験体へ戻される。細胞は、非限定的に、造血細胞(例えば、骨髄細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、T細胞、またはB細胞)、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、または筋肉細胞を含む幅広い範囲の型のいずれかでありうる。そのような細胞は、それらが被験体において生存する限り、阻害性ポリペプチドの供給源として働く。または、好ましくは被験体からであるが、場合によっては被験体以外の個体から得られた腫瘍細胞は、阻害性ポリペプチドをコードするベクターによりトランスフェクションまたは形質導入されうる。好ましくは増殖能力を除去する作用因子(例えば、イオン化照射)で処理された、腫瘍細胞はその後、患者へ導入され、そこでそれらはポリペプチドを分泌する。
【0101】
エクスビボの方法は、被験体から細胞を採取する段階、細胞を培養する段階、それらに発現ベクターを形質導入する段階、およびMUC1のMUC1結合物質への結合、またはMUC1結合物質によるMUC1のリン酸化を阻害するポリペプチドの発現に適した条件下で細胞を維持する段階を含む。これらの方法は分子生物学の分野において公知である。形質導入段階は、リン酸カルシウム、リポフェクション、エレクトロポレーション、ウイルス感染、および微粒子銃遺伝子移入を含むエクスビボの遺伝子治療に用いられる任意の標準手段により達成される。または、リポソームまたは重合体微粒子が用いられうる。形質導入に成功している細胞が、例えば、コード配列または薬物耐性遺伝子の発現について、選択されうる。細胞はその後、致死的な放射線を照射され(必要に応じて)、患者へ注射または移植されうる。
【0102】
細胞においてMUC1またはMUC1結合物質の発現を阻害する方法
細胞においてMUC1の発現を阻害する方法もまた本発明に含まれる。方法は、(a)MUC1転写産物にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチド、細胞においてMUC1の発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド、または(b)MUC1低分子干渉RNA(siRNA)を細胞へ導入する段階を含む。
【0103】
これらの方法が適用される細胞および種は、「細胞においてMUC1のMUC1結合物質への結合を阻害する方法」において上で列挙されたものと同じである。
【0104】
細胞へのアンチセンスオリゴヌクレオチドの導入の前に、細胞(または処理されるべき細胞が得られた被験体由来のもう一つの癌細胞)は、任意で、上記のように、MUC1の発現について試験されうる。
【0105】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、MUC1転写産物にハイブリダイズし、MUC1の発現を阻害するという細胞における効果を生じる。細胞においてMUC1の発現を阻害することは、癌細胞生存、およびMUC1発現に関連した他の癌増強活性、例えば、癌細胞増殖および癌細胞の隣接細胞への接着欠損を阻害することができる。方法は、従って、転移を含む癌の治療へ適用されうる。
【0106】
アンチセンス化合物は、一般的に、例えば、標的mRNA分子の翻訳に直接的に干渉することにより、標的mRNAのRNアーゼ-H媒介性分解により、mRNAの5'キャッピングでの干渉により、5'キャップのマスキングによる翻訳因子の標的mRNAへの結合の防止により、またはmRNAポリアデニル化の阻害によりのいずれかで、タンパク質発現に干渉するために用いられる。タンパク質発現の干渉は、その標的mRNAとのアンチセンス化合物のハイブリダイゼーションから生じる。アンチセンス化合物との相互作用についての対象となる標的mRNA上の特異的なターゲティング部位が選択される。従って、例えば、ポリアデニル化の調節について、mRNA標的上の好ましい標的部位は、ポリアデニル化シグナルまたはポリアデニル化部位である。mRNA安定性または分解を減少させることについて、不安定化配列が好ましい標的部位である。いったん1つまたは複数の標的部位が同定されたならば、所望の効果を与えるのに十分、標的部位に相補的である(すなわち、生理学的条件下で、かつ十分な特異性で、十分良くハイブリダイズする)オリゴヌクレオチドが選択される。
【0107】
本発明に関して、「オリゴヌクレオチド」という用語は、RNA、DNA、その2つの組み合わせ、もしくはいずれかの模倣体のオリゴマーまたはポリマーを指す。その用語は、天然の核酸塩基、糖、および共有結合性ヌクレオシド間(バックボーン)結合から構成されるオリゴヌクレオチドを含む。RNAおよびDNAの通常の結合またはバックボーンは、3'から5'へのホスホジエステル結合である。しかしながら、その用語はまた、天然の成分のみを含むオリゴヌクレオチドと類似した様式で機能する非天然の成分からもっぱら構成される、または非天然の成分を含む部分を有する、オリゴヌクレオチドを指す。そのような改変置換オリゴヌクレオチドは、しばしば、細胞取り込みの増強、標的配列に対する親和性の増強、およびヌクレアーゼの存在下における安定性の増加のような望ましい性質のために天然型を超えて好ましい。模倣体において、コア塩基(ピリミジンまたはプリン)構造は一般的に保存されるが、(1)糖が他の成分で修飾されるもしくは置換されるかのいずれかである、および/または(2)核酸塩基間結合が改変される。非常に有用であることが証明されている核酸模倣体の1つのクラスは、タンパク質核酸(PNA)と呼ばれている。PNA分子において、糖バックボーンは、アミド含有バクボーン、特にアミノエチルグリシンバックボーン、と置換される。塩基は保持され、バックボーンのアミド部分のアザ窒素原子へ直接的に結合される。本発明に有用なPNAおよび他の模倣体は、開示が全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第6,210,289号において詳細に記載されている。
【0108】
本発明の方法に用いられうるアンチセンスオリゴマーは、一般的に、約8個〜約100個(例えば、約14個〜約80個、または約14個〜約35個)の核酸塩基(または核酸塩基が天然であるヌクレオシド)を含む。
【0109】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、それら自身、細胞へ導入されうる、またはアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする核酸配列(TREへ機能的に連結された)を含む発現ベクターが細胞へ導入されうる。後者の場合、発現ベクターにより産生されるオリゴヌクレオチドは、RNAオリゴヌクレオチドであり、RNAオリゴヌクレオチドは、もっぱら天然成分から構成される。
【0110】
本発明の方法はインビトロまたはインビボでありうる。方法のインビトロ適用は、例えば、癌細胞増殖、生存、および転移に関する基礎科学的研究において、有用でありうる。さらに、本明細書に記載された研究は、MUC1発現を阻害することが結果として遺伝毒性化学療法剤の活性の増強を生じたことを示しているため、それらは、例えば、癌化学療法効力について遺伝毒性化合物をスクリーニングするのに用いられうる。そのようなインビトロ方法において、適切な細胞(例えば、MUC1を発現させるもの)が、様々な濃度における、(a)アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは(b)アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする核酸配列を含む発現ベクターと様々な長さの時間、インキュベートされうる。当技術分野において公知の他のインキュベーション条件(例えば、温度または細胞濃度)もまた変化させられうる。MUC1発現または癌細胞生存の阻害は、当業者に公知の方法、例えば、本明細書に開示されたもののような方法により試験されうる。しかしながら、本発明の方法は好ましくはインビボである。
【0111】
アンチセンス方法は、一般的に、癌細胞(例えば、乳癌細胞)生存阻害治療、増殖阻害治療、および/または転移阻害治療に有用である。それらは哺乳動物被験体(例えば、ヒト乳癌患者)へ単独で、または他の薬物および/もしくは放射線治療と共に、施されうる。癌をもつ被験体へのアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与前に、被験体は、癌細胞がMUC1を発現する癌に罹っていると同定されうる。これを試験するための方法は上で記載されている。用量、剤形、投与経路、ベクター、およびターゲティングは、細胞においてMUC1のMUC-1結合物質への結合を阻害することへのインビボのアプローチについて記載されているとおりである。当然ながら、アンチセンスオリゴヌクレオチド、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする核酸配列を含む発現ベクターは、好ましくは、生存および/または増殖停止を阻害することが望まれる細胞へ標的化される。
【0112】
本発明はまた、非アンチセンス機構によりMUC1遺伝子の転写および/またはMUC1 mRNAの翻訳を阻害する化合物(低分子干渉(si)RNAまたは他の小分子)の使用を含むMUC1の発現を阻害するインビボおよびインビトロの方法の両方を含む。インビトロ方法は、アンチセンス方法について上で記載されたものと本質的に同じである。インビボ方法は、本明細書に開示された、被験体のいずれかへの、かつ用量および経路のいずれかによる投与を含む。被験体は、好ましくは、癌をもつもの、例えばヒト癌患者である。用量、剤形、投与経路、ベクター、およびターゲティングはインビボのアンチセンスアプローチについて記載されたとおりである。本発明は作用のいかなる特定の機構によっても限定されないが、そのような化合物は、結合および/もしくは転写因子の活性を阻害することによるか、またはMUC1 mRNAの安定性を変化させることによるかのいずれかで作用するものでありうる。
【0113】
MUC1 DNAに相同的な二本鎖の低分子干渉RNA(siRNA)は、癌細胞においてMUC1の発現を低下させるために用いられうる。例えば、Fire et al. (1998) Nature 391:806-811; Romano and Masino (1992) Mol. Microbiol. 6:3343-3353; Cogoni et al. (1996) EMBO J. 15:3153-3163; Cogoni and Masino (1999) Nature 399:166-169; Misquitta and Paterson (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:1451-1456;およびKennerdell and Carthew (1998) Cell 95:1017-1026を参照。すべてのこれらの論文の開示は、全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0114】
siRNAのセンスおよびアンチセンスRNA鎖は、当技術分野において公知の手順を用いる化学合成および酵素連結反応を用いて個々に構築されうる。例えば、各鎖は、天然のヌクレオチド、または分子の生物学的安定性を増加させるように、もしくはセンス鎖とアンチセンス鎖の間に形成された二重鎖の物理的安定性を増加させるように、設計された様々に改変されたヌクレオチド、例えば、ホスホロチオネート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドを用いて化学合成されうる。ヌクレオチドの一部(例えば、末端(いずれか一方の末端)の1、2、3、または4ヌクレオチド)はまたデオキシリボヌクレオチドでありうる。センス鎖またはアンチセンス鎖はまた、標的MUC1配列(完全長または断片)がセンスまたはアンチセンス配向でサブクローニングされている発現ベクターを用いて生物学的に産生されうる。センスおよびアンチセンスRNA鎖は、dsRNAの細胞への送達の前にインビトロでアニールされうる。または、アニーリングは、センス鎖およびアンチセンス鎖が腫瘍細胞および/または腫瘍浸潤白血球へ逐次的に送達された後にインビボで生じることができる。
【0115】
対象となるのは、例えば、MUC1遺伝子配列

を標的化するsiRNAである。そのようなsiRNAのセンス鎖は配列

または

を有することができ、アンチセンス鎖は配列

または

を有することができる。MUC1配列

(センス鎖;SEQ ID NO:12)および

(アンチセンス鎖;SEQ ID NO:13)を含むsiRNAもまた有用である。
【0116】
二本鎖siRNA干渉はまた、センスRNAおよびアンチセンスRNAが別々のプロモーターの指揮下で転写されうる、またはセンス配列およびアンチセンス配列の両方が単一のプロモーターの指揮下で転写されうるポリヌクレオチドを細胞(例えば、癌細胞)へ導入することにより達成されうる。
【0117】
MUC1とMUC1結合物質の間の相互作用を阻害する、およびMUC1の発現を阻害する上記の方法のいずれかにおいて、例えば、阻害性化合物、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAi、薬物、アプタマー、または他の小分子(またはそれらをコードするベクター)を含む1つまたは複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、18、20、25、30、40、50、60、70、80、100、またはそれ以上)の作用物質が用いられうる。
【0118】
MUC1とMUC1結合物質の間の相互作用を阻害する、およびMUC1の発現を阻害する上記のインビボおよびエクスビボの方法は、様々な他の癌治療/予防計画(例えば、化学療法、放射線治療、生物学的治療/予防、および免疫治療/予防の計画)のいずれかと共に用いられうる。特に対象となるのは、遺伝毒性(DNA損傷)剤を含む計画である。そのような作用物質は様々な型の電離放射線および非電離放射線、ならびに様々な化学療法化合物を含む。
【0119】
非電離放射線は、例えば、紫外(UV)線、赤外(IR)線、マイクロ波、および電子放出を含む。本発明の方法に用いられる放射線は、好ましくは電離放射線である。本明細書に用いられる場合、「電離放射線」とは、原子のイオン化(電子の獲得または損失)を生じるのに十分なエネルギーを有する、または原子核相互作用により十分なエネルギーを生じることができる素粒子または光量子で構成される放射線を意味する。電離放射線は、従って、非限定的に、α線、β線、γ線、またはx線を含む。好ましい放射線はx線である。
【0120】
電離放射線は、一般的に投与された線量に比例して、DNA損傷および細胞殺害を引き起こす。電離放射線により誘導された複数の生物学的効果は、放射線のDNAとの直接的相互作用によるか、またはDNAの損傷へ導くフリーラジカル種の形成によるかのいずれかであることが示されている。これらの効果は、遺伝子突然変異、悪性形質転換、および細胞殺害を含む。
【0121】
電離放射線を標的組織または細胞へ送達するための外部的および内部的手段は当技術分野において公知である。外部供給源は、β源もしくはγ源、または直線加速器などを含む。または、電離放射線は、例えば、癌腫の表面上に発現した分子(例えば、MUC1またはHer2/neu)に結合する能力がある放射標識抗体を被験体に投与することにより、または腫瘍内もしくは腫瘍近くの放射線放出ペレットの埋め込みにより(近接照射療法)、送達されうる。
【0122】
与えられた細胞を殺すのに必要とされる放射線(例えば、電離放射線)の量は、一般的に、細胞の性質に依存する。本明細書に用いられる場合、放射線の「実効線量」は、本発明のアデノウイルスベクターと共に与えられる時、細胞損傷または死を生じる放射線の線量を意味する。実効線量を測定する手段は当技術分野において公知である。x線の線量は、長期間(例えば、6〜8週間またはよりいっそう長く)の50〜200レントゲンの一日量から2,000〜6,000レントゲンの一日量までの範囲である。投与される放射性同位元素についての用量は幅広く変動し、同位元素の半減期、放出される放射線の強さおよび型、ならびに標的細胞による取り込みの程度に依存する。
【0123】
本明細書に用いられる場合、「化学療法剤」は、細胞へ侵入しDNAを損傷する化学的化合物である。従って、それらは、例えば、直接的にDNAを架橋する(例えば、シスプラチン(CDDP)および他のアルキル化剤)、DNAへインターカレートする、またはDNA複製、有糸分裂、もしくは染色体分離に干渉する化合物、例えば、アドリアマイシン(ドキソルビシンとしても知られている)、VP-16(エトポシドとしても知られている)、ベラムピル、ポドフィロトキシンなどでありうる。これらの化合物は、癌腫の処置において広く用いられる。本発明の方法に有用な化学療法剤は、非限定的に、シスプラチン、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ビスルファン、ニトロソ尿素、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、エトポシド、ベラムピル、ポドフィロトキシン、タモキシフェン、タキソール、トランスプラチナム、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキセート、またはDNAを損傷するのに効果的であるこれらの任意の類似体もしくは誘導体を含む。
【0124】
投与経路は、相互作用阻害化合物および発現阻害化合物について本明細書に開示されたものと同じである。投与の用量および頻度は、相互作用阻害化合物および発現阻害化合物の投与について上で列挙されたすべての変量に従って幅広く変動する。例えば、アドリアマイシンは、25〜75mg/m2の範囲の用量でボーラス静脈注射により投与されることができ、エトポシドは、35〜100mg/m2の範囲の用量で静脈内に、または経口で投与されることができる。投与の最適なパラメーターを決定する方法は当技術分野において周知である。
【0125】
併用処置は、1つもしくは複数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の本発明の相互作用阻害化合物および/または発現阻害化合物、ならびに1つまたは複数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の放射線様式、ならびに/または1つもしくは複数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の化学療法剤の投与を含みうる。相互作用阻害化合物および発現阻害化合物、放射線処置、ならびに化学療法剤は、任意の順序および頻度で与えられうる。それらは同時に、または逐次的に与えられうる。様式(相互作用阻害化合物および発現阻害化合物、放射線、または化学療法剤)のいずれか一つでの処置は、単回、または治療的有用性に関して最適であることが見出された任意の時間、離された複数回(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、8回、9回、10回、12回、15回、20回、30回、40回、50回、60回、80回、100回、200回、300回、500回、またはそれ以上)の投与を含みうる。複数回投与は、1〜23時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、10日、12日、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、1年、1年半、2年、3年、5年、または10年、離されうる。投与は、被験体が処置を必要としている限り、例えば、上記の時間間隔のいずれか、継続されうる、および被験体の一生の間でありうる。投与は、例えば、被験体の一生の間、週に1回でありうる。様式のいずれかまたはすべての投与が複数回である場合、任意の一つのコースは、他のもののコースと同時でありうる、重複しうる、または結果として生じうる。
【0126】
本発明は、以下の実施例により例証され、限定されない。
【0127】
実施例
実施例1. 材料および方法
細胞培養
ヒトHCT116/ベクター細胞(対照ベクターを安定的にトランスフェクションされたHCT116ヒト結腸癌細胞)、HCT116/MUC1細胞[ヒトMUC1をコードするcDNAを安定的にトランスフェクションされたHCT116細胞; Ren et al. (2002b) J. Biol. Chem. 277:17616-17622]、HCT116/p53-/-細胞[p53対立遺伝子の両方が破壊されているHCT116細胞; Bunz et al. (1998) Science 282:1497-1501]、およびヒトMCF-7乳癌細胞を、10%加熱不活性化ウシ胎児血清(HI-FBS)、抗生物質(100μg/mlストレプトマイシンおよび100ユニット/mlペニシリン)、および2mM L-グルタミンを含むDulbeccoの改変Eagle培地(DMEM)において増殖させた。ヒトZR-75-1乳癌細胞およびヒトLNCaP前立腺癌細胞を、10%HI-FBS、抗生物質(DMEMについてのとおり)、およびL-グルタミンを追加したRPMI 1640培地において培養した。ヒトU2OS骨肉腫細胞を、10%HI-FBSおよび抗生物質(DMEMについてのとおり)を含む最少基本培地(MEM)において増殖させた。細胞をシスプラチン(CDDP; Sigma, St Louis, MO)またはエトポシド(Sigma)で処理した。
【0128】
免疫ブロッティングおよび免疫沈降
細胞可溶化液を、以前に記載されているように[Wei et al. (2003) J. Biol. Chem. 278:29288-29297]、集密未満細胞から調製した。免疫ブロット分析を、抗p53抗体(Ab-2, Ab-6; Oncogene Research Products, San Diego, CA)、抗MUC1 N末端抗体[ヒトMUC1のN末端セグメントに結合するDF3モノクローナル抗体; Kufe et al. (1984) Hybridoma 3:223-232]、抗MUC1 C末端抗体(ヒトMUC1のC末端セグメントに結合するAb-5; Neomarkers, Freemont, CA)、抗β-アクチン抗体(Sigma)、抗Myc抗体(Ab-1; Oncogene Research Products)、抗Bax抗体(Santa Cruz Biotechnology; Santa Cruz, CA)、および抗p21(Santa Cruz Biotechnology)を用いて行った。可溶化液を、抗p53抗体または抗Myc抗体での免疫沈降に供し、免疫複合体を免疫ブロッティングにより分析した。
【0129】
プラスミド構築物およびトランスフェクション
ヒトMUC1のC末端72アミノ酸(すなわち、細胞質ドメイン)からなるヒトMUC1の細胞質ドメイン)MUC1-CD(1-72)およびその変異体(様々な欠失を含む)を、pIRESpuro2-MUC1ベクター(鋳型として完全長ヒトMUC1をコードするcDNAを含む)を用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)により作製した[Li et al. (2001a) J. Biol. Chem. 276:6061-6064]。GST-MUC1-CD(GST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)に融合したMUC1の上記の細胞質ドメイン)を発現するベクターを作製するために、PCR産物を、BamHI/NotIで消化し、pGEX-4T-3ベクターの対応する部位へクローニングした。トランスフェクションを、Fugene(登録商標)-6(Roche Applied Science, Indianapolis, IN)を用いて60mm組織培養皿において、またはルシフェラーゼアッセイのために、リン酸カルシウム方法(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて24ウェル組織培養プレートにおいて、行った。細胞を、p21(2.4-kbp HindII断片)-Lucレポーター[Ren et al. (2002a) J. Biol. Chem. 277:33758-33765]またはBax遺伝子プロモーター(370-bp SmaI/SacI断片)-ルシフェラーゼ(Luc)レポーター[Miyashita et al. (1995) Cell 80:293-299]および内部対照LacZ発現プラスミド(pCMV-LacZ)[Wei et al. (2001) J. Biol. Chem. 276:16107-16112]を一過性にトランスフェクションした。ルシフェラーゼアッセイを、トランスフェクション後40時間目にLuciferase Assay System(Promega Corporation, Madison, WI)を用いて行った。ルシフェラーゼ活性を、LacZについて得られたものに対して標準化し、相対ルシフェラーゼ活性として示した。HCT116/p53-/-細胞を、記載されているように[Ren et al. (2004)]、pIRES-puro-2またはpIRES-puro-2-MUC1を安定的にトランスフェクションした。
【0130】
GSTプルダウンアッセイ
GSTおよびGST融合タンパク質を、グルタチオン-アガロースビーズ(Sigma)により精製し、グルタチオン-アガロースビーズに結合し、およびグルタチオン-アガロースビーズから溶出した。TNT(登録商標)(インビトロ転写/翻訳)反応(Promega Corporation)において調製された35S標識p53を、GSTまたはGST融合タンパク質と4℃で90分間、インキュベートした。洗浄後、単離されたタンパク質を、SDS-PAGEにより分離し、オートラジオグラフィーまたはクーマシーブルー染色により分析した。
【0131】
クロマチン免疫沈降(ChIP)および反復ChIP(Re-ChIP)アッセイ
ChIPアッセイを、以前に記載されているように[Shang et al. (2000) Cell 103:843-852]、抗MUC1 C末端抗体、抗p53抗体(Ab-6; Oncogene Research Products)、抗CBP抗体(C-1; Santa Cruz Biotechnology)、抗HDAC1抗体(Upstate Biotechnology Inc., Waltham, MA)、抗Ac-H4(Upstate Biotechnology Inc.)、抗TBP抗体(58C9; Santa Cruz Biotechnology)、抗TFIIB抗体(IIB8; Santa Cruz Biotechnology)、または抗TAFII250抗体(6B3; Santa Cruz Biotechnology)を用いて行った。PCRについて、50μl DNA抽出物からの2μlを30〜38サイクルの増幅で用いた。p21遺伝子プロモーターp53応答配列(p53RE1およびp53RE2)についてのプライマーは以前に記載されている[Liu et al. (2003) J. Biol. Chem. 277:17557-17565]。p21遺伝子調節領域(CR)は(フォワード:

;リバース:

)であり、p21遺伝子PPは
(フォワード:

;リバース:

)であった。Bax遺伝子プロモーターp53REについて用いられるプライマーは(フォワード:

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)であり、Bax遺伝子調節領域(CR)は(フォワード:

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)であり、Bax遺伝子PPは(フォワード:

;リバース:

)であった。
【0132】
Re-ChIPアッセイについて、一次ChIPからの複合体を、10mM DTTで37℃で30分間、溶出し、溶出液を、Re-ChIP緩衝液(20mM Tris-HCl、pH8.1、1%Triton X-100、2mM EDTA、150mM NaCl)で20倍、希釈し、示された二次抗体で再免疫沈降させ、適切なPCR手順に再び供した。
【0133】
フローサイトメトリー
細胞を80%氷冷エタノールで固定し、30μg/ml RNアーゼ(Roche Applied Science)を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)中で37℃で60分間、インキュベートし、その後、暗闇中、室温で30分間、ヨウ化プロピジウム(Sigma)で染色した。DNA含有量をフローサイトメトリー(Coulter EPICS XL-MCL; Miami, FL)により分析した。
【0134】
コロニー形成アッセイ
500細胞を含むアリコートを、2ml/ウェルの完全培地を含む6ウェル培養プレートの個々のウェルへ蒔き、37℃で18〜24時間、インキュベートした。細胞を、CDDPまたはエトポシドで12〜48時間、処理し、洗浄し、8日間、インキュベートした。結果として生じたコロニーをクリスタルバイオレットで染色し、手作業でカウントした。
【0135】
アポトーシスアッセイ
アポトーシス細胞を、記載されているように[Ren et al. (2004) Cancer Cell 5:163-175]、sub-G1 DNAの分析およびヨウ化プロピジウム染色により定量化した。
【0136】
p53の下方制御
ZR-75-1/ベクター細胞(対照ベクターを安定的にトランスフェクションされたZR-75-1乳癌細胞)およびZR-75-1/MUC1siRNA細胞(転写が結果としてMUC1 siRNAを生じるcDNAを安定的にトランスフェクションされたZR-75-1細胞)を6ウェルプレート上に蒔いた(5x105個/ウェル)。24時間後、細胞に、対照の空アデノウイルス、またはヒトp53 siRNAを発現するアデノウイルス(2x109Ad.p53siRNA粒子/ウェル; IMGENEX, San Diego, CA)を感染させた。細胞を48〜72時間、インキュベートし、その後、分析のために収集した。
【0137】
実施例2. 細胞においてMUC1はp53と会合する
MUC1がp53と会合するかどうかを調べるために、HCT116/ベクターおよびHCT116/MUC1細胞由来の可溶化液を、抗p53抗体で免疫沈降させた。抗MUC1 C末端抗体(MUC1細胞質ドメイン(MUC1-CD)のC末端17アミノ酸に結合する)での沈殿物の免疫ブロット分析は、〜23kDa MUC1 C末端がp53と共沈することを示した(図1A、左パネル)。対照的に、抗p53免疫沈降物において検出可能なMUC1 N末端がなかった(図1A、左パネル)。ヒトZR-75-1乳癌細胞において行われた同様の研究は、p53およびMUC1の共沈を確認した(図1A、右パネル)。p53抗体での可溶化液の免疫沈降後のと比較して、全細胞可溶化液から得られたMUC1シグナルの濃度測定スキャニングは、HCT116/MUC1細胞およびZR-75-1細胞において、それぞれ、総MUC1 C末端の4%と5%が、p53と会合することを示した。HCT116/MUC1細胞のシスプラチン(図1B、左パネル)またはエトポシド(図1B、右パネル)での処理は、結果として、p53およびMUC1の会合における増加を生じた。内因性MUC1およびp53の結合の増加はまた、シスプラチン(図1C、左パネル)またはエトポシド(図1C、右パネル)で処理されたZR-75-1細胞においても見出された。同様の結果は、ヒトMCF-7乳癌細胞およびLNCaP前立腺癌細胞で得られた(図2Aおよび2B)。これらの所見は、MUC1がp53と恒常的に会合していること、およびこの相互作用はDNA損傷に対する細胞の応答において増加することを実証している。
【0138】
実施例3. MUC1-CDはp53へ直接的に結合する
2つのタンパク質間の物理的相互作用に関与するMUC1-CD(アミノ酸1位〜72位)およびp53の配列を限定するために、両方の野生型および欠失突然変異体を発現するベクターを調製した(図3A、上部パネル)。精製された35S標識p53の精製されたGSTまたはGST-MUC1-CDとのインキュベーションは、MUC1-CDへの結合を実証した(図3A、下部パネル)。MUC1-CDのアミノ酸9位から46位までの欠失は、相互作用を排除したが、MUC1-CD(1〜51)は、インビトロでp53と複合体を形成するのに十分であった(図3A、下部パネル)。これらの所見を確認するために、p53およびMUC1-CD欠失突然変異体を細胞において発現させた。インビトロで見出されたように、p53はMUC1-CD(1〜72)と複合体を形成したが、MUC1-CD(Δ9〜46)とは形成しなかった(図3B)。加えて、p53のMUC1-CD(1〜51)へのインビボ結合を観察した(図3B)。p53内の領域を限定するために、GST-MUC1-CDを完全長p53および特定の欠失突然変異体とインキュベートした。p53 C末端(アミノ酸363位〜393位)の欠失は、MUC1-CDへの結合を排除した(図3C)。これらの結果に呼応して、MUC1-CDは、インビトロでp53(293位〜393位)およびp53(Δ1位〜50位/Δ323位〜356位)と複合体を形成した(図3C)。細胞におけるMyc-MUC1-CDおよびp53欠失突然変異体の発現は、インビトロで見出されたように、MUC1-CDとの相互作用がインビボでp53(1位〜362位)の発現により排除されることを実証した(図3D)。結果はまた、MUC1-CDが細胞においてp53(293位〜393位)と会合することを示している(図3D)。これらの所見は、MUC1-CD(アミノ酸9位〜46位)がp53調節ドメイン(アミノ酸363位〜393位)へ直接的に結合することを示している。
【0139】
実施例4. MUC1はp53応答性p21遺伝子プロモーターを占有する
MUC1がp53転写複合体に存在するかどうかを決定するために、ChIPアッセイをp21遺伝子プロモーター上において抗MUC1 C末端抗体または対照IgGを用いて行った。抗MUC1抗体によるp21遺伝子プロモーターにおける2つのp53応答性配列(p53RE)の免疫沈降を、半定量的PCRにより分析した。HCT116/MUC1細胞およびZR-75-1細胞を用いて、両方のp21遺伝子プロモーターp53REのMUC1による占有は、抗MUC1抗体沈殿物において明らかに検出でき、対照IgGにおいては検出できなかった(図4A、左パネル)。対照的に、p53REの下流のp21遺伝子プロモーターの調節領域(CR)と会合した検出可能なMUC1はなかった(図4A、左パネル)。p21遺伝子PPと会合した検出可能なMUC1はなかった(図4A、右パネル)。MUC1がp53と共にp21遺伝子プロモーターを占有するかどうかを決定するために、抗MUC1抗体複合体を遊離し、抗p53抗体で再免疫沈降させ、その後、PCRにより分析した(Re-ChIP)。結果は、抗p53抗体が、p21遺伝子p53REを抗MUC1からのそれらの遊離後、沈殿させたことを示し、MUC1がp53と共にこれらのエレメントを占有することを示唆している(図4B)。
【0140】
HCT116/MUC1細胞およびZR-75-1細胞のシスプラチンまたはエトポシドでの処理後の動力学的分析は、p21遺伝子p53RE2のMUC1占有がDNA損傷に応答して増加し、薬物曝露の8〜12時間目に最大レベルに達することを実証した(図4C)。さらに、HCT116/ベクター細胞のシスプラチンまたはエトポシドでの処理は、p21遺伝子p53RE2のp53占有を増加させた(図4D、左パネル)。しかしながら、p21遺伝子p53RE2のp53による占有は、HCT116/MUC1細胞において、恒常的に、およびDNA損傷後、より高かった(図4D、左パネル)。CREB結合タンパク質(CBP)は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼおよび転写の活性化補助因子として機能する。MUC1発現は、p21遺伝子p53RE2のCBP占有における増加と関連しており、MUC1がp53転写複合体へのCBPの補充と関連していることを示した(図4D、左パネル)。加えて、ヒストンデアセチラーゼHDAC1によるp21遺伝子プロモーターの占有は、HCT116/ベクター細胞において見出されたのと比較して、シスプラチンまたはエトポシドに対するHCT116/MUC1細胞の応答において減少した。ヒストンH4のアセチル化もまた、MUC1陰性、HCT116細胞と比較して、MUC1陽性においてp21遺伝子プロモーター上でより顕著であった(図4D、左パネル)。内因性MUC1を発現するZR-75-1/ベクター細胞、およびMUC1陰性ZR-75-1/MUC1siRNA細胞におけるp21遺伝子プロモーターのChIP研究は、MUC1がp53およびCBP占有を増加させる、HDAC1占有を減少させる、およびヒストンH4アセチル化を増加させることを実証した(図4D、右パネル)。これらの所見は、内因性、加えて外因性のMUC1がp21遺伝子プロモーターにおけるp53RE上で検出できること、およびMUC1占有がヒストンH4のアセチル化の増加と関連していることを示している。
【0141】
実施例5. MUC1はBax遺伝子近位プロモーターを占有する
MUC1の他のp53応答性遺伝子への結合を評価するために、ChIP分析を、Bax遺伝子プロモーターにおけるp53RE上で行った(図5A)。結果は、Bax遺伝子p53REのp53による占有が、HCT116/MUC1細胞およびZR-75-1細胞において検出できるが、MUC1による占有は検出できない(図5A、左の4つのゲル)。同様の結果は、これらの細胞をシスプラチンまたはエトポシドでの処理後に得られた(データ非呈示)。対照的に、Bax遺伝子PPのp53およびMUC1占有は、HCT116/MUC1細胞およびZR-75-1細胞の両方において検出できた(図5A、右の4つのゲル)。結果はまた、抗p53抗体が抗MUC1からの遊離後Bax遺伝子PPを沈殿させたことを示している(図5B、左パネル)。TATA結合タンパク質(TBP)に対する抗体もまた、抗MUC1抗体からの遊離後、Bax遺伝子PPを沈殿させ(図5B、右パネル)、MUC1が基底転写装置と共にこの領域を占有することを示した。Bax遺伝子PPのMUC1占有は、シスプラチンまたはエトポシドでの処理後、4〜6時間に渡って増加し、6〜12時間目に最大であった(図5C)。シスプラチンまたはエトポシドでの処理後のBax遺伝子PPの分析もまた、MUC1発現が、i)p53結合における増加、ならびにii)TBPではないが、TFIIBおよびTAFII250の占有における減少と関連していることを実証した(図5D)。これらの所見は、MUC1が、DNA損傷応答において、p53と共にBax遺伝子PPを占有し、基底転写装置の集合に干渉することを示している。
【0142】
実施例6. MUC1-CDはp21およびBax遺伝子プロモーターのトランス活性化を制御する
MUC1がp21遺伝子プロモーターの活性化に影響するかどうかを決定するために、HCT116/ベクター細胞およびHCT116/MUC1細胞をp21遺伝子プロモーター-Lucレポーターベクター(p21-Luc)をトランスフェクションした。p21遺伝子プロモーター活性の基底レベルは、HCT116/ベクター細胞と比較してHCT116/MUC1において増加した(図6A、左パネル)。加えて、p21-Lucのシスプラチンまたはエトポシド誘導性活性化は、MUC1発現の結果として増強した(図6A、左パネル)。比較のために、同様の研究を、Bax遺伝子プロモーター-Lucレポーター(Bax-Luc)で行った。p21-Lucと対照的に、Bax-Luc活性の基底レベルおよびDNA損傷誘導レベルはMUC1発現により減少した(図6A、右パネル)。同様の結果は、ZR-75-1/ベクター細胞およびZR-75-1/MUC1siRNA細胞で得られた(図6B)。対照およびシスプラチンまたはエトポシド処理HCT116細胞由来の可溶化液の免疫ブロット分析は、p21の恒常的および薬物誘導性発現が、HCT116/ベクター細胞と比較して、HCT116/MUC1細胞において増加したことを実証した(図6C)。対照的に、Baxのレベルは、対照およびシスプラチンまたはエトポシド処理HCT116/MUC1細胞において減弱した(図6C)。MUC1発現がMUC1 siRNAにより阻害された実験は、MUC1発現はまた、ZR-75-1細胞においてp21タンパク質の選択的基底および薬物誘導性増加と関連していることを示した(図6D)。これらの所見は、MUC1がDNA損傷に対する応答においてp21遺伝子の転写を選択的に同時活性化することを示している。
【0143】
実施例7. MUC1はDNA損傷に対する増殖停止および生存応答を活性化する
MUC1によるp21遺伝子発現における増加と一致して、HCT116/ベクター細胞およびHCT116/MUC1細胞の両方のシスプラチンまたはエトポシドでの48時間の処理は、結果として、細胞周期進行のG1停止を生じた。しかしながら、HCT116/MUC1細胞は、HCT116/ベクター細胞で見出されるものよりG1期におけるより多い蓄積を示した。薬物曝露の12時間〜48時間において行われた追加の実験は、MUC1が、G1期停止を示す細胞のパーセンテージを増加させることを確認した(図7A)。ZR-75-1/ベクター細胞およびZR-75-1/MUC1siRNA細胞のシスプラチンまたはエトポシドでの処理は、G1期での細胞の停止における増加を与えることへのMUC1の関与についてのさらなる証拠を提供した(図7B)。p53誘導性増殖停止応答の活性化は、不可逆的でありうる、または修復および生存と関連しうる[Oren (2003) Cell Death Differ. 10:431-442; Weiss (2003) Cancer Cell 4:425-429]。これらの可能性のある結果の間を識別するために、HCT116細胞をシスプラチンまたはエトポシドで処理し、それらの生存をコロニー形成によりモニターした。クローン原性生存は、HCT116/ベクター細胞と比較して、シスプラチンまたはエトポシド処理HCT116/MUC1細胞についてより高かった(図7Cおよび図8A)。シスプラチンまたはエトポシド処理後のZR-75-1細胞のクローン原性生存(図7Dおよび図8B)もまた、MUC1発現により増加し、この応答が細胞型依存性ではないことを示した。これらの所見は、MUC1がDNA損傷に対する応答において増殖停止および生存を促進することを示している。
【0144】
実施例8. HCT116細胞においてMUC1はDNA損傷に対するp53依存性増殖停止およびアポトーシス応答を制御する
MUC1の増殖停止および生存への効果がp53に依存するかどうかを決定するために、HCT116/p53-/-細胞を空ベクターまたはMUC1を発現するようにトランスフェクションした。2つの別々に単離されたHCT116/p53-/-/MUC1クローンの免疫ブロット分析は、HCT116/MUC1細胞においてのものと類似したレベルでのMUC1 N末端およびC末端の発現を確認した(図9A)。対照として、免疫ブロッティングをまた、空ベクターを安定的にトランスフェクションされたHCT116細胞およびHCT116/p53-/-細胞由来の可溶化液において行った(図9A)。重要なことに、かつHCT116/MUC1細胞と対照的に、p21遺伝子プロモーターにおけるp53REのMUC1占有は、HCT116/p53-/-/MUC1細胞において検出できず(図9B)、MUC1のこれらのp53REとの会合がp53に依存することを示した。対照的に、HCT116/p53-/-/MUC1細胞におけるp53の非存在は、Bax遺伝子PPのMUC1 C末端占有へほとんど効果を生じなかった(図9B)。同様の結果は、2つの独立して単離されたHCT116/p53-/-/MUC1細胞クローンに関して、およびDNA損傷に対する応答において、得られた(データ非呈示)。加えて、HCT116/MUC1細胞と比較して(図6A、左パネル)、p21-LucのDNA損傷誘導性活性化へのMUC1の効果は、HCT116/p53-/-/MUC1細胞において実質的に減少した(図9C、左)。逆に、MUC1は、HCT116/MUC1細胞(図6A、右)およびHCT116/p53-/-/MUC1細胞(図9C、右パネル)の両方においてBax-Luc発現を抑制するのに効果的であった。これらの結果と一致して、p21のDNA損傷誘導性発現へのMUC1の効果はp53依存性であったが、MUC1によるBaxの抑制は、p53と無関係であった(図9D)。DNA損傷誘導性増殖停止へのMUC1の効果もまたp53依存性であった(図9E)。結果はさらに、MUC1がDNA損傷に応答して、p53依存性、加えてp53非依存性のアポトーシスを減弱させることを実証している(図9F)。
【0145】
実施例9. ZR-75-1細胞においてMUC1サイレンシングは、DNA損傷に対して、p53依存性増殖停止応答を減弱させ、p53依存性アポトーシス応答を増加させる
p53を、p53siRNAを発現するアデノウイルス(Ad.p53siRNA)の感染によりZR-75-1/ベクター細胞およびZR-75-1/MUC1siRNA細胞においてノックダウンした(図10A)。p53をノックダウンすることは、p53依存性機構と一致して、p21遺伝子プロモーターにおけるp53REのMUC1占有を低減させた(図10B)。しかしながら、p53をノックダウンすることは、Bax遺伝子PPのMUC1占有へほとんど効果を生じなかった(図10B)。加えて、MUC1は、p53依存性機構によりZR-75-1細胞においてDNA損傷誘導性p21-Luc活性化を増加させた(図6B、左パネルと比較した、図10C、左パネル)。さらに、Bax-LucのMUC1媒介性抑制は、p53発現の基底レベル(図6B、右パネル)またはノックダウンされたレベル(図10C、右パネル)をもつZR-75-1細胞において同様であった。p21のDNA損傷誘導性発現へのMUC1の効果は、p53の非存在下において減弱したが(図10D)、MUC1はp53レベルにおける変化と無関係にBax発現を抑制した(図10D)。これらの結果に呼応して、MUC1は、p53依存性機構により大いにDNA損傷誘導性増殖停止を増強した(図10E)。MUC1はまた、DNA損傷に対するZR-75-1細胞の応答において、p53依存性およびp53非依存性アポトーシスを遮断した(図10F)。
【0146】
本発明のいくつかの態様を記載してきた。それでもなお、様々な改変が、本発明の真意および範囲から逸脱することなくなされうることは理解されていると思われる。従って、他の態様は特許請求の範囲の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0147】
(図1A)免疫ブロットの一対の写真である。
左パネル:完全長成熟ヒトMUC1をコードするcDNAを含む発現ベクターを安定的にトランスフェクションされたHCT116細胞ヒト結腸癌細胞(「HCT116/MUC1」細胞)、および対照「空の」発現ベクターを安定的にトランスフェクションされたHCT116細胞(「HCT116/ベクター」細胞)由来の可溶化液を、抗p53抗体(「IP:抗p53」)で免疫沈降させた。これらの免疫沈降物、およびHCT116/MUC1細胞由来の対照の沈降していない可溶化液(「HCT116/MUC1 WCL」)を、抗MUC1 C末端抗体、抗MUC1 N末端抗体、および抗p53抗体での免疫ブロット(「IB」)分析に供した。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、左側に示されており、MUC1 C末端、MUC1 N末端、およびp53の位置は、ブロットの右側に示されている。
右パネル:ZR-75-1ヒト乳癌細胞由来の可溶化液を、抗p53抗体(「抗p53」)または対照IgG(「IgG」)で免疫沈降(「IP」)させた。これらの免疫沈降物、およびZR-75-1細胞由来の対照の沈降していない可溶化液(「ZR-75-1 WCL」)を、抗MUC1 C末端抗体、抗MUC1 N末端抗体、および抗p53抗体での免疫ブロット(「IB」)分析に供した。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、左側に示されており、MUC1 C末端、MUC1 N末端、およびp53の位置は、ブロットの右側に示されている。
(図1BおよびC)免疫ブロットの写真である。HCT116/MUC1細胞(図1B)またはZR-75-1細胞(図1C)を24時間、いずれでも処理しなかった(各ブロットの第1および第2レーン)、または50μMもしくは100μMシスプラチン(「CDDP」;左パネル)またはエトポシド(「エトポシド」;右パネル)で処理し、可溶化液をすべての試料から調製した。未処理細胞由来の可溶化液を、対照IgGで免疫沈降(「IP」)させ(各ブロットの左レーン)、すべての細胞由来の可溶化液を抗p53抗体(「IgG抗p53」;各ブロットの右の3つのレーン)で免疫沈降させ、その結果生じた免疫沈降物(上部の2つのブロット)および沈降しなかった可溶化液(下部の2つのブロット)を、抗MUC1 C末端抗体、抗p53抗体、および抗β-アクチン抗体での免疫ブロット(「IB」)分析に供した。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、左側に示されており、MUC1 C末端、p53、およびβ-アクチンの位置は、ブロットの右側に示されている。
(図2AおよびB)免疫ブロットの写真である。MCF-7ヒト乳癌細胞(図2A)またはLNCaPヒト前立腺癌細胞(図2B)を24時間、いずれでも処理しなかった(各ブロットの第1および第2レーン)、または50μMもしくは100μMシスプラチン(「CDDP」;左パネル)またはエトポシド(「エトポシド」;右パネル)で処理し、可溶化液をすべての試料から調製した。未処理細胞由来の可溶化液を、対照IgGで免疫沈降(「IP」)させ(各ブロットの左レーン)、すべての細胞由来の可溶化液を抗p53抗体(「IgG抗p53」;各ブロットの右の3つのレーン)で免疫沈降させ、その結果生じた免疫沈降物(上部の2つのブロット)および沈降しなかった可溶化液(下部の2つのブロット)を、抗MUC1 C末端抗体、抗p53抗体、および抗β-アクチン抗体での免疫ブロット(「IB」)分析に供した。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、左側に示されており、MUC1 C末端、p53、およびβ-アクチンの位置は、ブロットの右側に示されている。
(図3A)図3A(上端パネル)は、ヒトMUC1の細胞質ドメイン(「MUC1-CD」)を構成する72アミノ酸のアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)の描写、おおびヒトp53(SEQ ID NO:1)の図表示である。お互いへの結合に関与するMUC1およびp53上の領域は、それぞれ、アンダーラインおよびオーバーラインを引かれており、MUC1-CDがPKCδ、GSK3β、およびc-SRCによりリン酸化される部位は矢印で示され、β-カテニンへの結合に関与するMUC1-CD上のアミノ酸配列は、四角で囲まれ、矢印で示されている。p53の図において、「TD」(アミノ酸1位〜50位)はトランス活性化ドメインを示し、「DBD」(アミノ酸102位〜292位)はDNA結合ドメインを示し、「OD」(アミノ酸323位〜356位)はオリゴマー形成ドメインを示し、「RD」(アミノ酸363位〜393位)は調節ドメインを示す。図3A(中央パネル)は以下である:35S標識p53(「53S-p53」)、およびグルタチオンアガロースに結合した、グルタチオンSトランスフェラーゼ(「GST」)、GSTに融合したMUC1-CD(「GST-MUC1-CD(1-72)」)、またはGSTに融合したMUC1-CDの2つの欠失変異体の1つ(「GST-MUC1-CD(Δ9-46)」または「GST-MUC1-CD(1-51)」)を含む5つの反応混合物の成分(「+」)を示す表;ならびに5つの反応混合物からの吸着質のSDS-PAGEゲル(ドデシル硫酸ナトリウム電気泳動ゲル)のオートラジオグラム。図3A(下端パネル)は、表における右4つの反応混合物のクーマシーブルー染色SDS-PAGEゲルの写真である。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、オートラジオグラムおよびクーマシーブルー染色ゲルの左側に示されており、p53の位置は、オートラジオグラムの右側に示されている。
(図3B)図3B(上端パネル)は、U2OSヒト骨肉腫細胞の1つまたは2つの発現ベクターでのトランスフェクションから生じた5つのトランスフェクタントを示す表である。p53をコードする発現ベクターの2μg、および/またはMycとMUC1-CD、もしくはMUC1-CDの欠失変異体(すなわち、Myc-MUC1-CD(1-72)、Myc-MUC1-CD(Δ9-46)、またはMyc-MUC1-CD(1-51))の間の融合タンパク質をコードする発現ベクターの1μgを、細胞に一過性にトランスフェクションした。図3B(パネル2〜4および下端パネル)は免疫ブロットの写真である。トランスフェクタント由来の可溶化液を抗p53抗体で免疫沈降(「IP」)させ、結果として生じた沈降物を抗Myc抗体での免疫ブロット分析(「IB」)に供した(図3B、第2パネル)。沈降しなかった可溶化液もまた、抗p53抗体(第3パネル)、抗Myc抗体(第4パネル)、または抗β-アクチン抗体(下端パネル)での免疫ブロット分析に供した。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、左側に示されており、p53、Myc-MUC1-CD、およびβ-アクチンの位置は、ブロットの右側に示されている。
(図3C)以下である:35S標識p53(「53S-p53」)またはp53の3つの35S標識欠失変異体(「35S-p53(1-362)」、「35S-p53(293-393)」、または「35S-p53(Δ1-50/Δ32-356)」)の1つ、およびグルタチオンアガロースに結合した、GSTまたはGSTに融合したMUC1-CD(「GST-MUC1-CD」)を含む9つの反応混合物の成分(「+」)を示す表;ならびに5つの反応混合物からの吸着質のSDS-PAGEゲルのオートラジオグラム。分子量マーカー(「kDa」)の位置はオートラジオグラムの左側に示されており、p53、p53(1-362)、p53(293-393)、およびp53(Δ1-50/Δ32-356)の位置はオートラジオグラムの右側に示されている。
(図3D)図3D(上端パネル)は、U2OS細胞の1つまたは2つの発現ベクターでのトランスフェクションから生じた5つのトランスフェクタントを示す表である。MycとMUC1-CDの間の融合タンパク質(「Myc-MUC1-CD」)をコードする発現ベクターの1μg、および/またはp53、もしくはp53の2つの欠失変異体(「p53(1-362)」または「p53(293-393)」)をコードする発現ベクターの2μgを、細胞に一過性にトランスフェクションした。図3D(パネル2〜4および下端パネル)は免疫ブロットの写真である。トランスフェクタント由来の可溶化液を抗p53抗体で免疫沈降(「IP」)させ、結果として生じた沈降物を抗MUC1 C末端抗体での免疫ブロット分析(「IB」)に供した(図3D、第2パネル)。沈降しなかった可溶化液もまた、抗MUC1 C末端抗体(第3パネル)、抗p53抗体(第4パネル)、または抗β-アクチン抗体(下端パネル)での免疫ブロット分析に供した。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、左側に示されており、p53、p53(1-362)、p53(293-393)、Myc-MUC1-CD、およびβ-アクチンの位置は、ブロットの右側に示されている。
(図4A)図4A(上端パネル)は、ヒトp21遺伝子のプロモーター領域の概略図である。2つのp53応答配列(p53RE1およびp53RE2)、調節領域(「CR」)、および近位プロモーター(「PP」)の位置(転写開始点に対するヌクレオチド番号においての)が示されている。TATAボックスはヌクレオチド-46位〜-43位に位置している。
図4A(下部パネル)は、クロマチン免疫沈降(ChIP)のPCR反応物の臭化エチジウム染色アガロース電気泳動ゲルの一連の写真である。HCT116/MUC1細胞(上端ゲル)またはZE-75-1細胞(下端ゲル)由来の可溶性クロマチンを抗MUC1 C末端抗体(「MUC1 C末端」)または対照IgG(「IgG」)で免疫沈降させた。結果として生じた免疫沈降物からDNAを抽出し、最終DNA抽出物(「ChIP」)または沈降していない全クロマチン(「インプット」)を、p21遺伝子のp53RE1、p53RE2、調節領域(「CR」)、および近位プロモーター(「PP」)を網羅するプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅した。すべてのPCR反応物をゲル電気泳動図の臭化エチジウム染色により分析した。
(図4B)反復クロマチン免疫沈降(re-ChIP)のPCR反応物の臭化エチジウム染色アガロース電気泳動ゲルの一対の写真である。HCT116/MUC1細胞(上端ゲル)またはZE-75-1細胞(下端ゲル)由来の可溶性クロマチンを抗MUC1 C末端抗体(「MUC1 C末端」)で免疫沈降させた。結果として生じた沈降物をジチオトレイトール(DTT)で溶出し、溶出液をRe-Chip緩衝液で希釈し、抗p53抗体で再免疫沈降させた。結果として生じたReChIP沈降物を、様々なp21遺伝子プロモーター領域配列の存在についてPCR(図4A、下部パネルについて記載されているように)により分析した。
(図4C)クロマチン免疫沈降(ChIP)のPCR反応物の臭化エチジウム染色電気泳動ゲルの一連の写真である。HCT116/MUC1細胞(上の4つのゲル)またはZR-75-1細胞を示された時間、50μM CDDP(シスプラチン)またはエトポシド(「エトポシド」)で処理した。すべての細胞試料から抽出された可溶性クロマチンを抗MUC1 C末端抗体で免疫沈降させ、結果として生じた沈降物および沈降していない全可溶性クロマチン(「インプット」)を、図4A、下部パネルについて記載されているように、p21遺伝子p53RE2の存在についてPCRにより分析した。
(図4D)クロマチン免疫沈降(ChIP)のPCR反応物の臭化エチジウム染色電気泳動ゲルの一連の写真である。HCT116/MUC1細胞およびHCT116/ベクター細胞(左パネル)またはZR-75-1細胞およびZR-75-1/MUC1siRNA(右パネル)を未処理のままにした(「−」)、または50μM CDDP(シスプラチン)もしくはエトポシド(「エトポシド」)で8時間、処理した。すべての細胞試料から抽出された可溶性クロマチンを抗p53抗体、抗CBP抗体、抗HDAC1抗体、抗Ac-H4抗体で免疫沈降させ、結果として生じた沈降物および沈降していない全可溶性クロマチン(「インプット」)を、図4A、下部パネルについて記載されているように、p21遺伝子p53RE2の存在についてPCRにより分析した。
(図5A)図5A(上端パネル)は、ヒトBax遺伝子のプロモーター領域の概略図である。p53応答配列(p53RE)、調節領域(「CR」)、および近位プロモーター(「PP」)の位置(転写開始点に対するヌクレオチド番号においての)が示されている。TATAボックスはヌクレオチド-398位〜-395位に位置している。
図5A(下部パネル)は、クロマチン免疫沈降(ChIP)のPCR反応物の臭化エチジウム染色アガロース電気泳動ゲルの一連の写真である。HCT116/MUC1細胞(上端ゲル)またはZE-75-1細胞(下端ゲル)由来の可溶性クロマチンを抗MUC1 C末端抗体(「MUC1 C末端」)または対照IgG(「IgG」)で免疫沈降させた。結果として生じた免疫沈降物からDNAを抽出し、最終DNA抽出物(「ChIP」)または沈降していない全クロマチン(「インプット」)を、Bax遺伝子のp53RE(右4つのゲル)、調節領域(「CR」)(左および右の4つのゲル)、および近位プロモーター(「PP」)(右4つのゲル)を網羅するプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅した。すべてのPCR反応物をゲル電気泳動図の臭化エチジウム染色により分析した。
(図5B)反復クロマチン免疫沈降(re-ChIP)のPCR反応物の臭化エチジウム染色アガロース電気泳動ゲルの一対の写真である。HCT116/MUC1細胞(上端ゲル)またはZE-75-1細胞(下端ゲル)由来の可溶性クロマチンを抗MUC1 C末端抗体(「MUC1 C末端」)で免疫沈降させた。結果として生じた沈降物をジチオトレイトール(DTT)で溶出し、溶出液をRe-ChIP緩衝液で希釈し、抗p53抗体(左ゲル)または抗TBP抗体(右ゲル)で再免疫沈降させた。結果として生じたReChIP沈降物を、様々なBax遺伝子プロモーター領域配列の存在についてPCR(図5A、下部パネルについて記載されているように)により分析した。
(図5C)クロマチン免疫沈降(ChIP)のPCR反応物の臭化エチジウム染色電気泳動ゲルの一連の写真である。HCT116/MUC1細胞(上4つのゲル)またはZR-75-1細胞を50μM CDDP(シスプラチン)またはエトポシド(「エトポシド」)で示された時間、処理した。すべての細胞試料から抽出された可溶性クロマチンを抗MUC1 C末端抗体で免疫沈降させ、結果として生じた沈降物および沈降していない全可溶性クロマチン(「インプット」)を、図5A、下部パネルについて記載されているように、Bax遺伝子PPの存在についてPCRにより分析した。
(図5D)クロマチン免疫沈降(ChIP)のPCR反応物の臭化エチジウム染色電気泳動ゲルの一連の写真である。HCT116/MUC1細胞およびHCT116/ベクター細胞(左パネル)またはZR-75-1細胞およびZR-75-1/MUC1siRNA(右パネル)を未処理のままにした(「−」)、または50μM CDDP(シスプラチン)もしくはエトポシド(「エトポシド」)で8時間、処理した。可溶性クロマチンをすべての細胞試料から抽出し、抗p53抗体、抗TBP抗体、抗TFIIB抗体、または抗TAFII250で免疫沈降させ、結果として生じた沈降物および沈降していない全可溶性クロマチン(「インプット」)を、図5A、下部パネルについて記載されているように、Bax遺伝子PPの存在についてPCRにより分析した。
(図6A)ルシフェラーゼ活性を示す一対の棒グラフである。HCT116/ベクター細胞(白抜きの棒)およびHCT116/MUC1細胞(黒塗りの棒)を、p21-Lucレポーター構築物(「p21-Luc」;左パネル)またはBax遺伝子プロモーターLucレポーター構築物(「Bax-Luc」;右パネル)を一過性にトランスフェクションした。トランスフェクション後24時間目において、細胞を未処理のままにした(「対照」)、または10μM CDDPもしくはエトポシド(「エトポシド」)で24時間、処理し、その後、ルシフェラーゼ活性についてアッセイした。結果は、未処理HCT116/ベクター細胞で得られたもの(1の値を割り当てられた)と比較して倍活性化(平均±SD(3つの別々の実験の標準偏差))として表されている。同様の結果は、別々に単離された、HCT116/ベクター-BおよびHCT116/MUC1-B細胞クローンで得られた(データ非呈示)。
(図6B)ルシフェラーゼ活性を示す一対の棒グラフである。ZR-75-1/ベクター細胞(黒塗りの棒)およびZR-75-1/MUC1siRNA細胞(白抜きの棒)を、p21-Lucレポーター構築物(「p21-Luc」;左パネル)またはBax遺伝子プロモーターLucレポーター構築物(「Bax-Luc」;右パネル)を一過性にトランスフェクションした。トランスフェクション後24時間目において、細胞を未処理のままにした(「対照」)、または10μM CDDPもしくはエトポシド(「エトポシド」)で24時間、処理し、その後、ルシフェラーゼ活性についてアッセイした。結果は、未処理ZR-75-1/MUC1siRNA細胞で得られたもの(1の値を割り当てられた)と比較して倍活性化(3つの別々の実験の平均±SD)として表されている。
(図6CおよびD)一連の免疫ブロットの写真である。HCT116/MUC1細胞およびHCT116/ベクター細胞(図6C)またはZR-75-1/ベクター細胞およびZR-75-1/MUC1siRNA(図6D)を未処理のままにした(「0」)、または50μMもしくは100μM CDDP(シスプラチン)もしくはエトポシド(「エトポシド」)で24時間、処理した。沈降していない可溶化液を、抗p21抗体、抗MUC1 C末端抗体、抗Bax抗体、または抗β-アクチン抗体で免疫ブロット分析(「IB」)に供した。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、左側に示されており、p21、Bax、MUC1 C末端、およびβ-アクチンの位置は、ブロットの右側に示されている。
(図7AおよびB)蛍光フローサイトメトリー(FFC)により測定された場合の細胞周期のG1期におけるHCT116/ベクター細胞(図7A;白抜き四角)、HCT116/MUC1細胞(図7A;黒塗り四角)、ZR-75-1/ベクター細胞(図7B;黒塗り三角)、およびZR-75-1/MUCsiRNA細胞(図7B;白抜き三角)の相対数へのCDDP(12.5μM;左パネル)およびエトポシド(12.5μM;右パネル)の効果を示す折れ線グラフである。結果は、G1期における細胞のパーセンテージ(3つの別々の実験の平均±SD)として示されている。
(図7CおよびD)FFCより測定された場合の、HCT116/ベクター細胞(図7C;白抜き四角)、HCT116/MUC1細胞(図7C;黒塗り四角)、ZR-75-1/ベクター細胞(図7D;黒塗り三角)、およびZR-75-1/MUCsiRNA細胞(図7D;白抜き三角)の8日間培養後形成されたコロニーの相対数へのCDDP(12.5μM;左パネル)およびエトポシド(12.5μM;右パネル)前処理(示された時間の間)の効果を示す折れ線グラフである。結果は、コロニーの数(3つの別々の実験の平均±SD)として示されている。
(図8AおよびB)組織培地のみ(「対照」)、CDDP(50μM)、またはエトポシド(「エトポシド」;50μM)の存在下において48時間の培養後の、HCT116/MUC1細胞(図8A、上の行)、HCT116/ベクター細胞(図8A、下の行)、ZR-75-1/ベクター細胞(図8B;上の行)、およびZR-75-1/MUC1siRNA細胞(図8、下の行)のクリスタルバイオレット染色の培養ウェル付着コロニーの一連の写真である。
(図9A)免疫ブロットの一連の写真である。HCT116/MUC1細胞およびHCT116/ベクター細胞、ならびにp53の両方の対立遺伝子が破壊されており、かつ完全長MUC1をコードする発現ベクターをトランスフェクションされているHCT116細胞であるHCT116/p53-/-/MUC1細胞の2つの別々のコロニー(HCT116/p53-/-/MUC1-AおよびHCT116/p53-/-/MUC1-B)の沈降していない全可溶化液を、抗p53抗体、抗MUC1 N末端抗体、抗MUC1 C末端抗体、または抗β-アクチン抗体での免疫ブロット分析(「IB」)に供した。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、左側に示されており、p53、MUC1 N末端、MUC1 C末端、およびβ-アクチンの位置は、ブロットの右側に示されている。
(図9B)クロマチン免疫沈降(ChIP)のPCR反応物の臭化エチジウム染色アガロース電気泳動ゲルの一連の写真である。HCT116細胞(上端ゲル)またはHCT116/p53-/-細胞(p53の両方の対立遺伝子が破壊されているHCT116細胞)由来の可溶性クロマチンを抗MUC1 C末端抗体(「抗MUC1 C末端」)で免疫沈降させた。結果として生じた免疫沈降物からDNAを抽出し、最終DNA抽出物(「ChIP」)および沈降していない全クロマチン(「インプット」)を、p21遺伝子のp53RE1およびp53RE2、ならびにBax遺伝子の近位プロモーター(PP)を網羅するプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅した。すべてのPCR反応物をゲル電気泳動図の臭化エチジウム染色により分析した。
(図9C)ルシフェラーゼ活性を示す一対の棒グラフである。HCT116/p53-/-/ベクター細胞(p53の両方の対立遺伝子が破壊されており、かつ対照「空の」発現ベクターを安定的にトランスフェクションされているHCT116細胞;白抜きの棒)およびHCT116/p53-/-/MUC1細胞(p53の両方の対立遺伝子が破壊されており、かつ完全長MUC1をコードするcDNAを含むベクターを安定的にトランスフェクションされているHCT116細胞)に、p21-Luc(左パネル)またはBax-Luc(右パネル)レポーター構築物を一過性にトランスフェクションした。トランスフェクション後24時間目に、細胞を未処理のままにした(「対照」)、または10□Mのシスプラチンもしくはエトポシドで24時間、処理し、その後、ルシフェラーゼ活性についてアッセイした。結果は、未処理HCT116/p53-/-/ベクター細胞で得られたもの(1の値を割り当てられた)と比較して倍活性化(3つの別々の実験の平均±SD)として表されている。同様の結果は、図9Aについて記載された別々に単離されたHCT116/p53-/-/MUC1クローンで得られた(データ非呈示)。
(図9D)免疫ブロットの一連の写真である。HCT116細胞またはHCT116/p53-/-細胞を未処理のままにした(「0」)、または100μM CDDP(左パネル)もしくはエトポシド(「エトポシド」;右パネル)で24時間、処理した。沈降しなかった可溶化液を、抗p21抗体、抗Bax抗体、または抗β-アクチン抗体での免疫ブロット分析(「IB」)に供した。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、左側に示されており、p21、Bax、およびβ-アクチンの位置は、ブロットの右側に示されている。
(図9E)FFCにより測定された場合の細胞周期のG1期における、HCT116/ベクター細胞およびHCT116/p53-/-細胞(白抜きの棒)またはHCT116/MUC1細胞およびHCT116/p53-/-/MUC1細胞(黒塗りの棒)の相対数への、処理無し(「対照」)ならびにCDDP(25μM)およびエトポシド(12.5μM)での48時間の処理の効果を示す棒グラフである。結果はG1期における細胞のパーセンテージ(3つの別々の実験の平均±SD)として示されている。
(図9F)FFCにより測定された場合のアポトーシスにおける(すなわち、sub G1-DNAを有する)、HCT116/ベクター細胞およびHCT116/p53-/-細胞(白抜きの棒)ならびにHCT116/MUC1細胞およびHCT116/p53-/-/MUC1細胞(黒塗りの棒)の相対数への、処理無し(「対照」)ならびにCDDP(50μM)およびエトポシド(25μM)での72時間の処理の効果を示す棒グラフである。結果はsub-G1 DNAを含む細胞のパーセンテージ(3つの別々の実験の平均±SD)として示されている。
(図10A)免疫ブロットの一連の写真である。対照「空の」アデノウイルス(「対照」)またはp53siRNAを発現するアデノウイルス(「Ad.p53siRNA」)に感染したZR-75-1/ベクター細胞およびZR-75-1/MUC1siRNA細胞由来の沈降していない全可溶化液を、抗MUC1 C末端抗体、抗MUC1 N末端抗体、抗p53抗体、または抗β-アクチン抗体での免疫ブロット(「IB」)分析に供した。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、左側に示されており、MUC1 C末端、MUC1 N末端、p53、およびβ-アクチンの位置は、ブロットの右側に示されている。
(図10B)クロマチン免疫沈降(ChIP)のPCR反応物の臭化エチジウム染色アガロース電気泳動ゲルの一連の写真である。ZR-57-1細胞またはZR-57-1/Ad.p53siRNA細胞(Ad.p53siRNAに感染したZR-57-1細胞)由来の可溶性クロマチンを抗MUC1 C末端抗体(「抗MUC1 C末端」)で免疫沈降させた。結果として生じた沈降物からDNAを抽出し、最終DNA抽出物(「ChIP」)および沈降していない全クロマチン(「インプット」)を、p21遺伝子のp53RE1およびp53RE2、ならびにBax遺伝子の近位プロモーター(PP)を網羅するプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅した。すべてのPCR反応物をゲル電気泳動図の臭化エチジウム染色により分析した。
(図10C)ルシフェラーゼ活性を示す一対の棒グラフである。ZR-75-1/MUC1siRNA細胞(白抜きの棒)およびZR-75-1/ベクター細胞(黒塗りの棒)に、Ad.p53siRNAを24時間、感染させ、その後、p21-Luc(左パネル)またはBax-Luc(右パネル)レポーター構築物をトランスフェクションした。トランスフェクション後24時間目に、細胞を未処理のままにした(「対照」)、または10μMのシスプラチンもしくはエトポシドで24時間、処理し、その後、ルシフェラーゼ活性についてアッセイした。結果は、未処理ZR-75-1/MUC1siRNA/Ad.p53siRNA細胞で得られたもの(1の値を割り当てられた)と比較して倍活性化(3つの別々の実験の平均±SD)として表されている。同様の結果は、別々に単離されたZR-75-1/ベクタークローン、およびAd.p53siRNAに感染したZR-75-1/MUC1siRNAクローンで得られた(データ非呈示)。
(図10D)免疫ブロットの一連の写真である。Ad.p53siRNAに感染していないかまたは感染したかのいずれかである、ZR-75-1/ベクター細胞およびZR-75-1/MUC1細胞を未処理のままにした(「0」)、または100μM CDDP(左パネル)もしくはエトポシド(「エトポシド」;右パネル)で24時間、処理した。沈降しなかった可溶化液を、抗p21抗体、抗Bax抗体、または抗β-アクチン抗体での免疫ブロット分析(「IB」)に供した。分子量マーカー(「kDa」)の位置は、左側に示されており、p21、Bax、およびβ-アクチンの位置は、ブロットの右側に示されている。
(図10E)FFCにより測定された場合の細胞周期のG1期における、ZR-75-1/MUC1siRNA細胞およびZR-75-1/MUC1siRNA/Ad.p53siRNA細胞(白抜きの棒)またはZR-75-1/ベクター細胞およびZR-75-1/ベクター/Ad.p53siRNA細胞(黒塗りの棒)の相対数への、処理無し(「対照」)ならびにCDDP(25μM)およびエトポシド(「エトポシド」;12.5μM)での48時間の処理の効果を示す棒グラフである。結果はG1期における細胞のパーセンテージ(3つの別々の実験の平均±SD)として示されている。
(図10F)蛍光フローサイトメトリーFFCにより測定された場合のアポトーシスにおける(すなわち、sub G1-DNAを有する)、ZR-75-1/MUC1siRNA細胞およびZR-75-1/MUC1siRNA/Ad.p53siRNA細胞(白抜きの棒)またはZR-75-1/ベクター細胞およびZR-75-1/ベクター/Ad.p53siRNA細胞(黒塗りの棒)の相対数への、処理無し(「対照」)ならびにCDDP(50μM)およびエトポシド(25μM)での72時間の処理の効果を示す棒グラフである。結果はsub-G1 DNAを含む細胞のパーセンテージ(3つの別々の実験の平均±SD)として示されている。
(図11A)ヒトMUC1タンパク質のアミノ酸配列の描写である(SEQ ID NO:3)。シグナルペプチドはアミノ酸1位〜約アミノ酸18位からなる。成熟プレMUC1から切断され、かつ成熟MUC1においてC末端サブユニット(MUC1 C末端)と会合している、示されたアイソフォームにおけるN末端サブユニット(MUC1 N末端)は、約アミノ酸19位からアミノ酸317位まで伸びている。MUC1 N末端は、縦列反復の数に依存して長さが変わる。C末端サブユニット(MUC1 C末端)はアミノ酸318位〜475位からなる。膜貫通ドメインはアミノ酸376位〜403位からなり、細胞質ドメイン(CD)(SEQ ID NO:2)はアミノ酸404位〜475位からなる。
(図11B)ヒトMUC1の細胞質ドメイン(SEQ ID NO:2)の描写である。
(図12)ヒトp53のアミノ酸配列(SEQ ID NO:1)の描写である。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図5D】

【図6A】

【図6B】

【図6C】

【図6D】

【図7A】

【図7B】

【図7C】

【図7D】

【図8】

【図9A】

【図9B】

【図9C】

【図9D】

【図9E】

【図9F】

【図10A】

【図10B】

【図10C】

【図10D】

【図10E】

【図10F】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、MUC1のp53への結合を阻害する化合物を同定する方法:
(a)MUC1試験剤を供給する段階;
(b)MUC1試験剤に結合するp53試験剤を供給する段階;
(c)試験化合物の存在下でMUC1試験剤をp53試験剤と接触させる段階;および
(d)試験化合物がMUC1試験剤のp53試験剤への結合を阻害するかどうかを決定する段階。
【請求項2】
接触段階が無細胞系において行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
接触段階が細胞において生じる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
以下の段階を含む、MUC1とp53の間の相互作用を阻害する化合物を作製する方法:
(a)MUC1の細胞質ドメインまたはp53のC末端を含む分子の3次元構造を提供する段階;
(b)3次元構造に基づいて、MUC1とp53との間の相互作用を阻害する領域を含む化合物を設計する段階;および
(c)化合物を作製する段階。
【請求項5】
化合物がMUC1とp53との間の相互作用を阻害するかどうかを決定する段階をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
以下の段階を含む、化合物を製造する方法:
(a)請求項5記載の方法を行う段階;および
(b)化合物がMUC1とp53との間の相互作用を阻害することを決定した後に、化合物を製造する段階。
【請求項7】
以下の段階を含む、MUC1を発現する癌細胞においてMUC1のp53への結合を阻害するインビボの方法:
(a)MUC1を発現する癌に罹っていると被験体を同定する段階;および
(b)MUC1の細胞質ドメインへのp53の結合を阻害する化合物、または、該化合物がポリペプチドである場合は、ポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸であって、該核酸配列が転写調節因子(TRE)へ機能的に連結している核酸を、被験体に投与する段階。
【請求項8】
化合物が(a)MUC1または(b)p53のペプチド断片である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
化合物がMUC1の細胞質ドメインのペプチド断片である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ペプチド断片がSEQ ID NO:2のアミノ酸9位〜46位の全てまたは一部を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ペプチド断片がSEQ ID NO:2のアミノ酸1位〜51位の全てまたは一部を含む、請求項8記載の方法。
【請求項12】
ペプチド断片がSEQ ID NO:2のアミノ酸9位〜46位の全てまたは一部からなる、請求項8記載の方法。
【請求項13】
ペプチド断片がSEQ ID NO:2のアミノ酸1位〜51位の全てまたは一部からなる、請求項8記載の方法。
【請求項14】
ペプチド断片がSEQ ID NO:1のアミノ酸363位〜393位の全てまたは一部を含む、請求項8記載の方法。
【請求項15】
ペプチド断片がSEQ ID NO:2のアミノ酸363位〜393位の全てまたは一部からなる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
化合物がMUC1の細胞質ドメインに結合する抗体または抗体断片である、請求項7記載の方法。
【請求項17】
化合物がp53のC末端に結合する抗体または抗体断片である、請求項7記載の方法。
【請求項18】
化合物が小分子である、請求項7記載の方法。
【請求項19】
小分子が核酸アプタマーを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
小分子が核酸アプタマーからなる、請求項18記載の方法。
【請求項21】
被験体がヒト被験体である、請求項7記載の方法。
【請求項22】
癌細胞が乳癌細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項23】
癌細胞が、肺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、肝臓癌、骨癌、血液癌、神経組織癌、黒色腫、卵巣癌、睾丸癌、前立腺癌、子宮頚癌、膣癌、または膀胱癌の細胞からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項24】
TREがDF3エンハンサーである、請求項20記載の方法。
【請求項25】
請求項7記載の方法を行う前、行った後、または行うと同時に、1つまたは複数の遺伝毒性剤に被験体を曝す段階を含む、癌細胞を殺す方法。
【請求項26】
1つまたは複数の遺伝毒性剤が1つまたは複数の型の電離放射線を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
1つまたは複数の遺伝毒性剤が1つまたは複数の化学療法剤を含む、請求項25記載の方法。
【請求項28】
1つまたは複数の化学療法剤が、シスプラチン、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ビスルファン、ニトロソ尿素、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、エトポシド、ベラムピル、ポドフィロトキシン、タモキシフェン、タキソール、トランスプラチナム(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキセート、および上記のいずれかの類似体からなる群より選択される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
以下の段階を含む、MUC1を発現する癌細胞においてMUC1の発現を阻害するインビボの方法:
(a)被験体を、MUC1を発現する癌細胞を含む癌に罹っていると同定する段階;および
(b)MUC1の低分子干渉RNA(siRNA)を細胞へ導入する段階。
【請求項30】
導入段階が被験体へのsiRNAの投与および癌細胞によるsiRNAの取り込みを含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
導入段階が、(a)核酸由来のsiRNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖が別々のTREの指揮下において転写されうる核酸;または(b)核酸由来のsiRNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方が単一のTREの指揮下において転写されうる核酸を被験体に投与すること、および核酸の癌細胞による取り込みを含む、請求項29記載の方法。
【請求項32】
被験体がヒト患者である、請求項29記載の方法。
【請求項33】
癌細胞が乳癌細胞である、請求項29記載の方法。

【公表番号】特表2008−537095(P2008−537095A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555349(P2007−555349)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/005239
【国際公開番号】WO2006/088906
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(399052796)ダナ−ファーバー キャンサー インスティテュート インク. (36)
【Fターム(参考)】