説明

N−メチル−2−ピロリドンの回収方法およびポリアリーレンスルフィドの製造方法

【課題】ポリアリーレンスルフィド製造におけるスラリーからN−メチル−2−ピロリドンを工業的に回収する上で、一般的な設備で効率良く回収し、抽出設備、また後工程の蒸留設備の小型化とコスト低減を可能化する方法を提供する。
【解決手段】N−メチル−2−ピロリドン50重量%〜60重量%、水30重量%〜40重量%、およびハロゲン化アルカリを含有するN−メチル−2−ピロリドン水溶液を、温度70℃以上100℃以下で、炭素数6以上の非ハロゲン系脂肪族有機化合物と接触させ、N−メチル−2−ピロリドンを抽出するN−メチル−2−ピロリドンの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−メチル−2−ピロリドンを含有する水溶液から、N−メチル−2−ピロリドンを効率良く抽出し回収する方法に関する。さらに、ポリアリーレンスルフィドを合成する際の溶媒および、ポリアリーレンスルフィドの洗浄溶媒からN−メチル−2−ピロリドンを回収して再利用する方法に関する
【背景技術】
【0002】
N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略記する)は、有機物溶解性、水との相溶性に優れ、また求核置換反応性を向上させることができる点等、有機反応の溶媒として広く活用されている。中でも、ポリアリーレンスルフィド樹脂(以下PASと略記する)、とりわけポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略記する)樹脂の重合溶媒として有用であり、工業的に広く用いられている。このNMPは通常の有機溶媒よりも高価であり、また水溶液で排出した場合高いCODMn源となることから、工業的には一般に回収して精製し循環再利用されていることが多い。しかし、NMPは、水と無限大に混合し、また、PPS製造工程からの流出液のように無機塩が溶解している場合には、そのまま蒸留することも困難であるため、従来より様々な回収方法が提案されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1〜3には、NMPを蒸留によって回収する方法が開示されているが、PPS製造工程からの流出液のように無機塩が溶解している場合には、何れも蒸留釜残の流動性を保つためには、多くのNMPを残さねばならず、釜残へのロスが多く処理コストが嵩むという欠点があった。
【0004】
特許文献4には、無機塩並びに非プロトン性極性溶媒を含む水溶液からハロゲン系溶媒で抽出する方法が開示されている。しかし、ハロゲン系溶媒の比重は1より大きいため、抽出後のハロゲン系溶媒層は下層となり、塩濃度が高い場合析出した無機塩が沈降し混入し易く、抽出したハロゲン系溶媒層を多くの水で洗浄する必要がある。この際非プロトン性極性溶媒が再度逆抽出されてしまうことにより抽出効率が悪いという欠点があった。
【0005】
特許文献5及び6には、NMPの抽出にn−ヘキサノールを使用する方法が開示されているが、そのままでは効率が悪いことから、NMPの回収が複雑になる、あるいは大量のn−ヘキノールを取り扱うことが必要になり、さらに効率のよい回収方法が求められている。
【0006】
一方、特許文献7には、NMPを含む水性液状媒質からNMPを回収する際に、水性液状媒質中のNaCl濃度を1〜15重量%とし、かつNaCL濃度が高い程NMP回収率が高いことが開示されているが、この濃度は15重要%までとされていた。また、文献7にはNMPを含む水性液状媒質中のNMPの濃度が2〜50重量%であること、及び抽出時の温度は約20〜100℃の温度と記載されているがNMPの回収効率という点では十分ではなかった。n−ヘキサノールの使用量を削減でき、抽出設備の規模を小型化できる方法が求められていた。
【特許文献1】特開昭62−253624号公報
【特許文献2】特開平8−27105号公報
【特許文献3】特開平11―349566号公報
【特許文献4】特開2002−1008号公報
【特許文献5】特開昭61−255933号公報
【特許文献6】特表2003−509440号公報
【特許文献7】特公平6−53728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0008】
したがって、本発明は、ポリアリーレンスルフィド製造におけるスラリーからN−メチル−2−ピロリドンを工業的に回収する上で、一般的な設備で効率良く回収し、抽出設備、また後工程の蒸留設備の小型化とコスト低減を可能化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意検討した結果、本発明法は次の事項により特定されるものである。
【0010】
PASスラリーからの分離液とPAS洗浄液の混合液からNMPを、非ハロゲン系脂肪族有機化合物にて抽出して回収する際に、洗浄時の水量を調整することにより抽出前のNMP含有量を上げ、抽出後のハロゲン化アルカリ濃度を一定以上に保つこと、及び抽出時の温度を70℃以上に保つことの両者を組み合わせることで、抽出効率が著しく向上することを見いだし本発明に到った。
【0011】
即ち、本発明は、
1.N−メチル−2−ピロリドン50重量%〜60重量%、水30重量%〜40重量%、およびハロゲン化アルカリを含有するN−メチル−2−ピロリドン水溶液を、温度70℃以上100℃以下で、炭素数6以上の非ハロゲン系脂肪族有機化合物と接触させ、N−メチル−2−ピロリドンを抽出するN−メチル−2−ピロリドンの回収方法、
2.ハロゲン化アルカリが、NaClであることを特徴とする上記1に記載のN−メチル−2−ピロリドンの回収方法、
3.炭素数6以上の非ハロゲン系脂肪族有機化合物がn−ヘキサノールであることを特徴とする上記1または2に記載のN−メチル−2−ピロリドンの回収方法、
4.抽出後の水層のハロゲン化アルカリ濃度が16重量%〜25重量%であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のN−メチル−2−ピロリドンの回収方法、
5.N−メチル−2−ピロリドン50重量%〜60重量%、水30重量%〜40重量%、およびハロゲン化アルカリを含有するN−メチル−2−ピロリドン水溶液が、N−メチル−2−ピロリドン溶媒中で合成したポリアリーレンスルフィドのスラリーから分離したN−メチル−2−ピロリドン水溶液、ならびに/または、ポリアリーレンスルフィドをN−メチル−2−ピロリドンおよび/もしくは水を含む液体で洗浄したN−メチル−2−ピロリドン水溶液である上記1〜4のいずれか記載のN−メチル−2−ピロリドンの回収方法、および
6.上記1〜5のいずれか記載のN−メチル−2−ピロリドンの回収方法により回収されたN−メチル−2−ピロリドンを溶媒としてポリアリーレンスルフィドを合成することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド製造におけるスラリーからN−メチル−2−ピロリドンを工業的に回収する上で、一般的な設備で効率良く回収し、抽出設備、また後工程の蒸留設備の小型化とコスト低減を可能化することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[PAS]
本発明のNMPの回収方法は、おもにPASの製造工程、精製工程で発生するNMPを含む廃液からNMPを回収することを目的としているが、ここにおけるPASとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
(R1,R2は水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(L)〜式(N)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)− の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0018】
更に、各種PASはその分子量に特に制限はないが、通常、溶融粘度が5〜5,000Pa・s(300℃、剪断速度200/秒)の範囲が好ましい範囲として例示できる。
【0019】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0020】
【化3】

【0021】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(PPS)の他、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンが挙げられる。
【0022】
[PAS製造方法]
通常、NMP等の非プロトン性極性有機溶媒中で、少なくとも1種のポリハロゲン化芳香族化合物と少なくとも1種のスルフィド化剤とを従来公知の重合条件下で反応させて得られる。以下に詳細に説明する。
【0023】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
PASの原料となるポリハロ化芳香族化合物は、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン化芳香族化合物であり、例えば、p−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、トリヨードベンゼン、ジクロルナウタレン、ジブロムナフタレン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムジフェニル等のポリハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中で、好ましいのは、使用する全ポリハロ化芳香族化合物のモル数に対して、p−ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。
【0024】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤は、特に制限されるものではなく、アルカリ金属硫化物の無水物又は含水物または水溶液として用いることが出来、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム及び硫化セシウム、又はこれらの水和物等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。上記アルカリ金属硫化物の中でも、反応性に優れる点から硫化ナトリウムと硫化カリウムが好ましく、中でも硫化ナトリウムが特に好ましい。
【0025】
なお通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、アルカリ金属チオ硫酸化物と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0026】
また、これらスルフィド化剤は、重合反応を行う前に、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンとアルカリ金属水硫化物、またはアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物、又は硫化水素とアルカリ金属水酸化物を反応容器に加え、昇温しながら系内の水を系外に留出させる脱水反応を行うことによっても得られ、重合槽に移し重合に使用することもできる。
【0027】
アルカリ金属水硫化物としては特に制限されず、アルカリ金属水硫化物の無水物又は含水物又は水溶液として用いることが出来る。アルカリ金属水硫化物としては、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム及び水硫化セシウム等が挙げられ、中でも水硫化ナトリウムが好ましい。これらはそれぞれ単独でも2種以上を混合して使用してもよい。
【0028】
アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、中でも水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。これらはそれぞれ単独使用でも2種以上を混合して用いてもよい。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物は、固体状態、液体状態、溶融状態等、どのような形態で反応に用いてもよく、特に制限はない。
【0029】
[重合溶媒]
本発明では重合溶媒として使用するN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を使用する場合に重合溶媒を回収し再利用する際の回収効率を向上させることを目的とする。
【0030】
重合時のN−メチル−2−ピロリドンの使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選択される。
【0031】
[重合反応]
NMP中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPAS樹脂を製造する。
【0032】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100〜230℃の温度範囲で、NMPとスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0033】
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
【0034】
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
【0035】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選択される。なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
この重合には、バッチ方式、連続方式など通常の各重合方式を採用することができる。また、重合の際における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましく、特に、経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素が好ましい。
【0036】
反応圧力については、使用した原料及び溶媒の種類や量、あるいは反応温度等に依存し一概に規定できないので、特に制限はない。
【0037】
[冷却]
重合終了後に、重合体、重合溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する目的で冷却する。PASは、顆粒状のPAS樹脂を得る意味で、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法が好ましい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良く、最終的には220℃以下まで冷却する。
【0038】
[回収・洗浄工程]
重合工程終了後に、重合工程で得られた、PASスラリーからPASを固液分離により回収し、NMPを主成分とする水溶液を分離する。分離は、一般的に使用される固液分離法でよく、具体的には、ろ過、振動篩い、遠心分離、沈降分離、等が挙げられる。ここで分離されたNMPを含む水溶液から本発明の方法でNMPを回収し、再利用することができる。
【0039】
分離回収された固形物を、NMPおよび/または水で洗浄することが好ましく、この洗浄廃液からも本発明の方法によりNMPを回収し、再利用することができる。
【0040】
NMPによる洗浄の方法としては、有機溶媒中にPAS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。
【0041】
洗浄時のNMPの使用量は、PAS300gに対し、1Kg以上の浴比が好ましく選択される。
【0042】
このようにして洗浄されたPASを固液分離により回収し、NMPを主成分とする水溶液を分離する。分離は、重合後の分離同様、一般的に使用される固液分離法でよく、具体的には、ろ過、振動篩い、遠心分離、沈降分離、等が挙げられる。
【0043】
またPAS樹脂を含む固形物から残留有機溶媒やイオン性不純物を除去するため、更に水または温水で数回洗浄することが好ましい。PASを水または温水で洗浄する場合の方法としては、水または温水にPASを浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。
【0044】
水または温水でPASを洗浄する際の洗浄温度は20℃〜220℃が好ましく、50℃〜200℃が更に好ましい。20℃未満だと副生成物の除去が困難となり、220℃を越えると、高圧になり安全上好ましくない。
【0045】
水または温水洗浄で使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましいが、必要に応じてギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、アクリル酸、クロトン酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸性化合物びそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物およびアンモニウムイオンなどを含む水溶液を用いてもよい。
【0046】
熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPASを投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。
【0047】
洗浄時の水または温水の使用量は、本発明のNMP抽出工程へ供給する液のNMP含有量を上げ、抽出後のハロゲン化アルカリ濃度を一定以上に保つことを目的として、NMP溶媒中で合成したPASのスラリーから分離したNMPを主成分とする液、及びPASをNMP及び/または水または温水で洗浄し分離した液を混合して得たNMP水溶液のNMP濃度が50重量%〜60重量%、水濃度が30重量%〜40重量%となる組成となるような水または温水の量で洗浄をする。具体的には重合時及び洗浄時に使用したNMP総重量に対し総重量0.6倍〜1.0倍の水または温水で洗浄することによりNMP水溶液の組成をこの範囲とすることができる。
【0048】
このようにして洗浄されたPASは固液分離により回収し、NMPを含有する水溶液を分離する。分離は、一般的に使用される固液分離法でよく、具体的には、ろ過、振動篩い、遠心分離、沈降分離、等が挙げられる。
【0049】
[その他の後処理]
かくして得られたPAS樹脂は常圧下および/または減圧下に乾燥する。かかる乾燥温度としては、120〜280℃の範囲が好ましく、140〜250℃の範囲がより好ましい。乾燥雰囲気は、窒素、ヘリウム、減圧下などの不活性雰囲気でも、酸素、空気などの酸化性雰囲気、空気と窒素の混合雰囲気の何れでも良いが、減圧下で行うことが好ましく、特に常圧下で乾燥を行って水分等を除去した後、減圧下で再度乾燥することが好ましい。乾燥時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜30時間が好ましく、1〜20時間がさらに好ましい。
【0050】
[NMP水溶液]
本発明の方法が適用されるNMP水溶液は、上述の回収・洗浄工程で分離したNMPを主成分とする水溶液、NMPおよび/または水もしくは温水によりPASを洗浄したNMPを含む水溶液であり、NMP、水と共にPASの合成工程で発生するハロゲン化アルカリおよび/または有機塩を含むことを特徴とする。
【0051】
NMP水溶液中のNMP濃度は、洗浄時の水量をコントロールすることにより50重量%〜60重量%、水濃度30重量%〜40重量%であることが重要である。NMPを含む水溶液の組成をこの範囲とすることで、抽出工程にてNMPが抽出された後の水層中のハロゲン化アルカリ濃度を16重量%〜25重量%とすることができ、高い塩析効果により抽出効率を著しく高めることが可能となる。
【0052】
NMPを含む水溶液に含まれるハロゲン化アルカリとしては特に制限されないが、本発明のNMP抽出工程において、塩析効果により抽出効率を増加させる効果のあるものが好ましく、塩化物塩が好ましい。具体的には、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、沃化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、沃化カリウム等の金属ハロゲン化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の金属炭酸塩、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の金属硫酸塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の金属硝酸塩等を例示することができ、これらのハロゲン化アルカリは、NMPを含む水溶液からNMPを抽出する際に添加してもよいが、PAS製造工程で生成する塩化ナトリウムが含まれる状態で抽出を行うのが好ましい。これらが、1種又は2種以上混合していても構わない。有機塩としては、水および非プロトン性極性溶媒に溶解するものであれば、特に制限されず、具体的には、トリエチルアミン塩酸塩、ピリジン塩酸塩等の有機塩基塩酸塩、臭化テトラブチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム等の4級アンモニウム塩、テトラメチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩等が含まれていてもよい。
【0053】
[抽出工程]
本発明におけるNMP水溶液からNMPを抽出する工程は、一般的な液液抽出設備を用いて良く、回分式、連続式何れでも使用可能である。具体例としては、ミキサーセトラー抽出器、スプレー塔、充填塔、多孔板抽出塔、バッフル塔、シャイベル塔、回転円板抽出塔、振動板塔、交互脈動流型抽出塔などが挙げられる。
【0054】
抽出剤として、NMP水溶液と接触させる溶媒としては、NMPとの親和性と疎水性、二層分離性、蒸留回収性の観点から炭素数6以上の非ハロゲン系脂肪族有機化合物を用いる。ハロゲン系溶媒では比重が1より大きいため、抽出後のハロゲン系溶媒層は下層となり、塩濃度が高い場合析出した無機塩が沈降し混入し易く、抽出したハロゲン系溶媒層を多くの水で洗浄する必要があるため適さない。さらに、抽出の際に、非プロトン性極性溶媒が再度逆抽出されてしまうことにより抽出効率が悪いという欠点がある。炭素数6以上の非ハロゲン系脂肪族有機化合物の具体例としては、n−ヘキサン、n−ヘキサノール、n−ヘキサナール、n−ヘキサノン、2−メチル−1−ペンタン、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタナール、2−メチル−1−ペンタノン、3−メチル−1−ヘキサン、3−メチル−1−ヘキサノール、3−メチル−1−ヘキサナール、3−メチル−1−ヘキサノン、等があり、n−ヘキサノールがより好ましく用いられる。
【0055】
用いられる抽出溶媒量は、NMP水溶液に対して重量比で0.5〜2の範囲、好ましくは、0.7〜1.5の範囲である。
【0056】
本発明の抽出温度は高い程抽出効率が良く好ましいが、100℃以上では水が沸騰してしまうため、70℃〜100℃で行う必要がある。
【0057】
本発名の抽出を、例えば抽出塔で実施した場合、NMPを抽出した非ハロゲン系脂肪族有機化合物層は上層となり塔頂から回収され、塔底からは抽出後の水層が排出される。本発明においては、抽出時、高い塩析効果による高い抽出効率を得る上で、この抽出後の水層のハロゲン化アルカリ濃度が16重量%〜25重量%となる条件で行うのが好ましい。更に、この塩析効果と抽出温度70℃以上の組み合わせにより、更に高い抽出効率が得られる。
【0058】
本発明においては、抽出した非ハロゲン系溶媒に含まれるハロゲン化アルカリ及び/又は有機塩を除去するために、更に水洗を実施してもよい。
【0059】
[抽出後工程]
本発明で抽出されたNMPは、更に後工程にて蒸留により精製回収することができる。蒸留は、非ハロゲン系有機化合物、NMP、その他不純物を回収するため、数塔に分けて実施することが可能である。また、常圧、あるいは減圧下いずれでも構わない。その条件は、非ハロゲン系溶媒、NMPの分解が起こらない条件を選択して行えば十分である。このようにして、回収された非ハロゲン系脂肪族有機化合物は抽出に、また、NMPは重合、洗浄等に再利用することができる。
【0060】
[NMP水溶液の組成分析]
本発明では、NMPを含む水溶液の組成を上記の範囲とすることが重要であるが、NMPを含む水溶液のNMP濃度、水濃度は、内部標準物質を使用するガスクロマトグラフにより行った値である。試料を秤量後、内部標準物質としてジメチルアニリンを20μL添加して秤量し、アセトンに溶解させる。パックドカラムを使用したガスクロマトグラフによりカラム温度170℃、インジェクション温度300℃にて測定し、ピーク面積比によりNMP濃度を算出する。水濃度は、100重量%からガスクロマトグラフで検出された全ピーク成分濃度合計とハロゲン化アルカリ濃度の合計を引いた値を用いる。
【0061】
抽出した水層に含まれるハロゲン化アルカリの濃度は、一般的な電位差滴定装置により求められる。滴定溶液には0.1N硝酸銀溶液を用いる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は、なんら実施例に限定されるものではない。
【0063】
NMP水溶液中のNMP濃度、ハロゲン化アルカリの濃度は以下の方法で測定した。
NMP濃度
・ 料約0.3gを5mlのサンプル瓶に秤量する。
・ 内部標準物質のジメチルアニリンを約20μl加え秤量する。
・ アセトンを約4ml加え、混合する。
・ マイクロシリンジに1.0μLを注入し下記条件にて測定した。
カラム PEG6000 on shimaliteTPA
4φ*3φ*4m SUS
N2 圧力 50kpa
H2 圧力 50kpa
air圧力 50kpa
カラム温度 170℃(定温)
INJ温度 300℃
注入量 1.0μL
【0064】
ハロゲン化アルカリの濃度
下記の装置を使用して測定した。
KYOTO ELECTRONICS
AT−400(自動ビュレット)
AT−410(滴定装置)
【0065】
実施例1
N−メチルピロリドン(以下NMPと略す)と10重量%の食塩水(水は蒸留水を使用)を混合し、NMP0.5〜80wt%の任意の混合液をそれぞれ500g調整した。重量比で1.2倍量(600g)のn−ヘキサノールを加え、15分撹拌後静置分離した。上層であるn−ヘキサノール層及び下層である水層をそれぞれ採取し、ガスクロマトグラフによりNMP濃度の分析を実施した。得られた結果より、NMP分配平衡に及ぼす抽出温度の影響について図1に示す。
【0066】
実施例2
撹拌機付きの10リットルオートクレーブに、スルフィド化剤として硫化ナトリウム純度98.9wt%の含水硫化ナトリウム789g(硫化ナトリウム780g,水9g)、96%水酸化ナトリウム20.8g、NMP2970g、無水酢酸ナトリウム24.6g、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)1490gを仕込んだ。スルフィド化剤として用いた硫化ナトリウムのイオウ成分1モル当たりの水分量は0.05モルであった。
【0067】
反応容器を窒素ガス下に密封した後、400rpmで撹拌しながら、220℃まで昇温し、220℃で2時間反応を行った後、10分かけて水180gを圧入により添加した。この段階で仕込みスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの系内水分量は1.0モルであった。その後270℃に昇温し、270℃で1時間反応を継続したのち、270℃から200℃まで平均速度1℃/分で冷却後、100℃近傍まで急冷したのち、ポリマーをろ過して回収し、液分を分離した。
【0068】
更に、NMP4375g使用してポリマー洗浄し、ろ過して液分を分離した。次に、3810gの水を4回に分けてポリマーを洗浄し、ろ過して液分を分離した。最後に乾燥して約950gのポリマーを得た。分離した液分は全てを混合し、NMP;57重量%、水;34重量%、NaCl;8.5重量%のNMP水溶液を得た。
【0069】
次いで、塔径200mm、供給口上充填部分3400mm、供給口下充填部分4000mmの充填塔に金属製25Aインターロックスサドル充填物を充填し、供給口より90℃に加温したNMP水溶液を125Kg/Hrで供給し、供給口下4000mm部より90℃に加温したn−ヘキサノールを157Kg/Hrで供給し、供給口上3000mm部より90℃に加温した温水を17Kg/Hrにて供給し抽出を行った。供給口下3000mm部のノズルより内液をサンプリングし測定した結果、NMP濃度は0.1wt%以下であった。また塔底液をサンプリングしNaCl濃度を測定した結果、19.5重量%であった。
【0070】
比較例1
実施例1と同様の方法でPPSの重合を実施した。
【0071】
同量のNMPによるポリマー洗浄の後、次に、7610gの水を4回に分けてポリマーを洗浄した他は同様の操作を実施し、約950gのポリマーを得た。分離した液分は全てを混合し、NMP;38重量%、水;53重量%、NaCl;8.0重量%のNMP水溶液を得た。
【0072】
同様に、塔径200mm、供給口上充填部分3400mm、供給口下充填部分4000mmの充填塔に金属製25Aインターロックスサドル充填物を充填し、供給口より90℃に加温したNMP水溶液を125Kg/Hrで供給し、供給口下4000mm部より90℃に加温したn−ヘキサノールを157Kg/Hrで供給し、供給口上3000mm部より90℃に加温した温水を9.5Kg/Hrにて供給し抽出を行った。供給口下3000mm部のノズルより内液をサンプリングし測定した結果、NMP濃度は0.4重量%であった。また塔底液をサンプリングしNaCl濃度を測定した結果、15重量%であった。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1におけるNMP分配平衡におよぼす抽出温度の影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−メチル−2−ピロリドン50重量%〜60重量%、水30重量%〜40重量%、およびハロゲン化アルカリを含有するN−メチル−2−ピロリドン水溶液を、温度70℃以上100℃以下で、炭素数6以上の非ハロゲン系脂肪族有機化合物と接触させ、N−メチル−2−ピロリドンを抽出するN−メチル−2−ピロリドンの回収方法。
【請求項2】
ハロゲン化アルカリが、NaClであることを特徴とする請求項1に記載のN−メチル−2−ピロリドンの回収方法。
【請求項3】
炭素数6以上の非ハロゲン系脂肪族有機化合物がn−ヘキサノールであることを特徴とする請求項1または2に記載のN−メチル−2−ピロリドンの回収方法。
【請求項4】
抽出後の水層のハロゲン化アルカリ濃度が16重量%〜25重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のN−メチル−2−ピロリドンの回収方法。
【請求項5】
N−メチル−2−ピロリドン50重量%〜60重量%、水30重量%〜40重量%、およびハロゲン化アルカリを含有するN−メチル−2−ピロリドン水溶液が、N−メチル−2−ピロリドン溶媒中で合成したポリアリーレンスルフィドのスラリーから分離したN−メチル−2−ピロリドン水溶液、ならびに/またはポリアリーレンスルフィドをN−メチル−2−ピロリドンおよび/もしくは水を含む液体で洗浄したN−メチル−2−ピロリドン水溶液である請求項1〜4のいずれか記載のN−メチル−2−ピロリドンの回収方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のN−メチル−2−ピロリドンの回収方法により回収されたN−メチル−2−ピロリドンを溶媒としてポリアリーレンスルフィドを合成することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−269638(P2007−269638A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93628(P2006−93628)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】