NAV3の遺伝子異常および複数遺伝子の異常発現を含む方法および使用
本発明は遺伝子学および腫瘍学の分野に関し、腫瘍の検出方法ならびに患者を処置し、患者に対する予後の予測方法を提供する。具体的には、本発明は、対象における腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す方法、予後の予測方法、NAV3コピー数変化および、特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を持つ腫瘍を有する対象の処置方法ならびに対象に対する処置の選択方法に関する。また、本発明は、腫瘍または細胞亜集団の悪性形質を示す、対象に対する予後を予測する、対象に対する処置を選択する、およびNAV3コピー数変化を含む腫瘍を有する対象における癌治療のために、NAV3遺伝子または遺伝子産物、および特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用に関する。さらにまた、本発明は、対象における癌治療のための、特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物のアンタゴニスト、抗体または抑制分子の使用に関する。さらに、本発明は、生物学的試料中のNAV3コピー数変化を検出するための手段および、生物学的試料中の特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を検出するための手段を含む診断用キットに関する。また、本発明は、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍、表皮角化細胞腫瘍を持つ患者に対する予後を予測する、および直腸結腸腫瘍、脳腫瘍、表皮角化細胞腫瘍を持つ対象に対する処置を選択するための本発明の診断用キットの使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝学および腫瘍学の分野に関し、腫瘍の検出方法、ならびに患者の処置方法および患者に対する予後の予測方法を提供する。
【0002】
詳細には、本発明は、対象における腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す方法、予後の予測方法、NAV3コピー数変化および特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍を有する対象の処置方法、ならびに対象に対する処置の選択方法に関する。また、本発明は、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための、対象に対する予後を予測するための、対象に対する処置を選択するための、およびNAV3コピー数変化を含む腫瘍を有する対象における癌治療のための、NAV3遺伝子または遺伝子産物および特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用に関する。さらにまた、本発明は、対象における癌治療のために特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物のアンタゴニスト、抗体または抑制分子の使用に関する。
【0003】
なお、本発明は、生物学的試料中のNAV3コピー数変化を検出するための手段、および生物学的試料中の特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発明を検出するための手段を含む診断用キットに関する。また、本発明は、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ患者にに対する予後を予測するための、および直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ対象に対する処置を選択するための本発明の診断キットの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
癌進行は、染色体不安定性、異数性、ならびに細胞増殖および生存に重要な遺伝子に影響する一連の後天性遺伝子異常の発生により特徴付けられる。単一の遺伝子は、いくつかの決定経路に影響し、正常細胞の癌細胞への転換に導き、癌遺伝子の活性化および腫瘍抑制遺伝子の不活性化を必要とする段階的なプロセスに関与し得る。最近の技術は、癌の発生に導くまれでさえある突然変異の同定を可能とする。
【0005】
良性前駆体病変の腺腫性ポリープによる結腸直腸癌(CRC)発生は、遺伝および後成的な変化の蓄積と共に、多段階の発癌の最もよく知られている例の1つである。また、最近の証拠は、組織微小環境が腫瘍細胞の増殖能および拡散に重要であり(Kim B.G.ら2006, Nature 441: 1015-9; Reuter J.A.ら 2009, Cancer Cell 15: 477-88)、かかる効果は、慢性炎症により駆動され得ることを示唆する。CRCは炎症性腸疾患(IBD)に関連付けられることが知られている。
【0006】
結腸直腸癌の圧倒的多数は、2つの主要なゲノム不安定性表現型のうちの1つのマイクロサテライト不安定性(MSI)または、マイクロサテライト安定性(MSS)とも呼ばれる染色体不安定性(CIN)を示す。CRCの約85%は、MSSに関連し、異数性およびヘテロ接合性の消失(LOH)を示し、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)またはβ−カテニン突然変異は、この表現型において最も一般的な早期の分子異常である。これらの突然変異は異常なWnt経路活性化に導き、これは結腸腺腫形成を始めると考えられる。いくつかのシグナル経路は、散発性結腸癌の発生に関与する。かくして、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)遺伝子の突然変異が存在したとしても、結腸癌を発症するのに数年または数十年間かかる。第2の段階としての癌への腺腫の進行についても、KRASの活性化が必要である(Phelps R.A.ら 2009, Cell 37: 623-34)。また、機能的なAPCの損失が一過性の四倍体性を介してin vivoにて異数性を誘導することが示され(Caldwell C.M.ら 2007, J Cell Biol 178: 1109-20)、これは、損傷または再配列した染色体を含む細胞の適応度を増強し得る。
【0007】
発明者らは、染色体12q21異常、特に、ニューロンナビゲーター3(NAV3)遺伝子の対立形質の損失が、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)(Karenko L.ら 2005, Cancer Res 65: 8101-10; Hahtola Sら 2008, J Invest Dermatology 128: 2304-9; WO2008059112 A1)およびCTCL関連肺癌(Hahtola Sら 2008, Genes Chromosomes Cancer 47: 107-17) のいくつかのサブタイプと関連することを従前に示した。より最近では、NAV3突然変異またはコピー数変化は、各々、黒色腫(Bleeker F.ら 2008, Human Mutation 29: E451-59)、膵臓癌(Bleeker F.ら 2009, Hum Mutat 30(2): E451-9)、およびヒトグリア芽腫(Nord H.ら 2009, Neuro Oncol Mar20)において報告されている。加えて、NAV3は、副腎皮質腺腫(Soon P.H.ら 2009, ERC)と比較して、副腎癌においてかなり差動的に発現(下方制御)した唯一の遺伝子であることが判明した。癌遺伝子景観内では、NAV3は、ヒト乳癌および結腸癌において一般的に変化した「ヒル型」候補癌(CAN)遺伝子に属する(Wood L.ら 2007, Science 318: 1108-13)。
【0008】
遺伝子異常によって影響された経路の同定に研究努力を集中し、それにより、疾患を診断するためのおよび個別化された医療に特異的な医薬を設計するためのさらなる手段を提供することは、ますます重要であると考えられる。今や、発明者らは、NAV3異常と特定の経路およびそれに関連する遺伝子との驚くべきかつ従前に知られていない相関を見出した。かくして、発明者らは、癌治療のための新規な標的、ならびに癌を診断または追跡するための新規な手段および方法を提供する。
【0009】
潜在的に高悪性度の腫瘍のより有効でかつ早期の診断を提供するための、ならびに標的化した治療に感受性の腫瘍を同定するための新規なバイオマーカーまたはバイオマーカーの組合せが保証される。本発明は、腫瘍および癌腫進行を予測または同定するための特定の解決方法を提供する。また、本発明は、腫瘍の臨床的攻撃性および患者の生存を評価するための手段を開示する。さらに、本発明は、癌治療の新しい治療標的を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、遺伝学および腫瘍学の分野に関し、腫瘍の検出方法、ならびに患者の処置方法、および患者に対する予後の予測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かくして、本発明の目的は、腫瘍の悪性形質を示し、癌を病期分類およびモニタリングする新規な方法および手段を提供することにあり、かかる方法および手段は、その疾患の正確な診断を可能とする。
【0012】
本発明の他の目的は、患者について腫瘍惹起または腫瘍進行を予測するならびに予後を予測し、癌を有する患者の処置を選択し、癌を有する患者を処置する新規な方法および手段を提供することにある。本発明の方法および手段は、特異的でかつ信頼性があり、それらは、個別化した医療を利用する。この方法および手段は、救命的であり得る良好に標的化された治療介在を可能とする。
【0013】
本発明のさらにもう一つの目的は、癌の検出ならびに予後評価に有用である新規なバイオマーカーおよびバイオマーカーの組合せを提供することにある。
【0014】
リンパ節転移および関連する炎症ならびに細胞増殖経路に連結したNAV3異常の証明は、癌、特に、結腸直腸、脳または表皮角化細胞をモニタリングするため比較的簡単でかつ入手可能な手段を提供するであろう。NAV3は、悪性形質転換および/または悪性腫瘍の生物学的挙動に効果を有する他の遺伝子およびシグナル経路の発現を調節する。従って、NAV3に影響される経路ならびにその異なる組合せも、抗癌治療設計の目標である。
【0015】
NAV3コピー数変化、特に、NAV3欠失は、直接的に初期の発癌に関係し、より正確な診断法や合理的な治療アプローチのための新規な可能性を開く。
【0016】
本発明は、対象における、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す方法に関し、この方法は、
i)対象からの生物学的試料中のNAV3コピー数変化を決定し;次いで
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料中のIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;
iii)NAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方が対象からの試料中に存在する場合に、対象における腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す
ことを含む。
【0017】
さらに、本発明は、NAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍を有する対象の処置方法に関し、該方法は、少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物が過剰発現で影響される工程を含む。
【0018】
さらに、本発明は、
i)対象からの生物学的試料中のNAV3コピー数変化を決定し;
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料中のIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;次いで
iii)その試料中のNAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方を有する対象に対する予後を予測する
ことを含むことを特徴とする予後の予測方法に関する。
【0019】
さらに、本発明は、
i)対象からの生物学的試料中のNAV3コピー数変化を決定し;
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料中のIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載されたものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;次いで
iii)試料中のNAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方を有する対象に対する処置を選択する
ことを含むことを特徴とする対象に対する処置の選択方法に関する。
【0020】
さらに、本発明は、対象におけるNAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための、NAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用に関する。
【0021】
さらに、本発明は、対象に対する予後を予測するためのNAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用に関する。
【0022】
さらに、本発明は、対象に対する処置を選択するためのNAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用に関する。
【0023】
さらに、本発明は、NAV3コピー数変化を含む腫瘍を有する対象における癌治療のためのIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用に関する。
【0024】
さらに、本発明は、NAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍を有する対象における癌治療のためのIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物のアンタゴニスト、抗体または抑制分子の使用に関する。
【0025】
さらに、本発明は、生物学的試料中のNAV3コピー数変化を検出するための手段、ならびに生物学的試料中のIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を検出するための手段を含む診断用キットに関する。
【0026】
さらに、本発明は、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための本発明の診断用キットの使用に関する。
【0027】
さらに、本発明は、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ対象に対する予後を予測するための本発明の診断用キットの使用に関する。
【0028】
なお、さらに、本発明は、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ対象に対する処置を選択するための本発明の診断用キットの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、同一患者からの腺腫および癌腫試料中の第12染色体の多染色体性およびNAV3欠失細胞の量を示す。
【図2】図2は、正常な結腸、MSSおよびMSI結腸癌、ならびに結腸腺腫試料中のA)第12染色体の多染色体性、B)NAV3増幅およびC)NAV3欠失を示す。
【図3】図3は、染色体アーム特異的MFISHによる第12染色体の転座、またはYAC−プローブにより観察された欠失に関連するNAV3の欠失に関連するBACプローブにより観察された結腸癌細胞系におけるNAV3異常を示す。
【図4】図4は、アレイCGHによって検出された患者試料中のNAV3の損失を示す。
【図5】図5は、GOクラスタ系統樹および発現ヒートマップを示す。
【図6】図6は、NAV3発現の比較を示す。
【図7】図7は、NAV3発現抑制A172膠芽腫細胞のRNAインサイチューハイブリダイゼーションを示す。
【図8】図8は、10のうち8つのノックダウン実験において上方制御された遺伝子のGOクラスタ系統樹および発現ヒートマップを示す。
【図9】図9は、ヒト結腸および結腸直腸癌中のIL23Rおよびβ−カテニンの発現および細胞の局在を示す。
【図10】図10は、IL23R免疫反応性についての生存分布のカプラン−マイヤープロットを示す。
【図11】図11は、NAV3発現抑制0205細胞ならびに結腸直腸および神経膠腫組織のGnRHR免疫染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(図面の簡単な記載)
以下において、本発明は、添付図面を参照して、好ましい具体例によってより詳細に記載される。
【0031】
図1は、同一患者からの腺腫および癌腫試料中の第12染色体の多染色体性およびNAV3欠失細胞の量を示す。
【0032】
図2は、正常な結腸、MSSおよびMSI結腸癌、ならびに結腸腺腫試料中のA)第12染色体の多染色体性、B)NAV3増幅およびC)NAV3欠失を示す。各黒点は1つの試料を表し、200の細胞を全試料からカウントした。
【0033】
図3は、染色体アーム特異的MFISHによる第12染色体の転座、またはYAC−プローブにより観察された欠失についてのNAV3の欠失に関連するBACプローブにより観察された結腸癌細胞系におけるNAV3異常を示す。a)一つにおける3コピーの第12染色体動原体(緑色、Alexa 488)および損失NAV3遺伝子(赤色; BAC RP11−36P3)を示す細胞系SW403(CLL−230)の中期。この欠失は、染色体15q(b;アーム−MFISH)から転座した物質を受け取り、2つの全サイズの出現している染色体15コピー(c、不平衡転座)を伴った染色体において観察された。対応する各DAPI染色は、パネルd〜fに示される。アーム特異的なFISH(g)によって、染色体15(赤色および紫色)からの転座は、第12染色体(緑色およびカルモシン赤色)のp−アーム(オレンジ色)に位置し、欠失はq−アームに確認された。細胞系RKO(h〜j)において、3つの第12染色体(緑色中の動原体)の2つだけが、NAV3遺伝子特異的BAC RP11−136F16プローブシグナル(赤色;h)を示した。第12染色体(i、MFISH)および第2染色体(j、MFISH)間の不平衡転座は、NAV3遺伝子を消滅させた。T84(CLL−248)細胞は、一つ(オレンジ色、BAC RP11−36P3)におけるNAV3シグナルの損失を含むいくつかのコピーの第12染色体(青色中のcen;k)を示した。正常および異常な第12染色体間のサイズ差は小さかった(l、アーム−MFISH)、しかし、NAV3遺伝子の近位および遠位に伸びるYACプローブの825F9(12S326およびWI−7776、パネルm中の赤色)および885G4(WI−6429、WI−9760、パネルn中の赤色)によって示された欠失が観察された。NAV3 特異的シグナル(RP11−36P3、赤色)は、der(2)t(2;12)(o)および正常な第12染色体(q)において見られたが、それは2つの他の第12染色体(p〜q; 動原体、緑色)も、cen 12物質(q)を含む微小染色体においても見られなかった。対応する異常な染色体は、正常な染色体、12,t)と並んだ、アーム−MFISH(2;12)、r)der(10)t(10;12;3)、s)およびi(12)(p)右、t)によって一般的に観察される。
【0034】
図4は、アレイCGHによって検出された患者試料中のNAV3の損失を示す。底部からの視野:ゲノム概観、第12染色体、遺伝子レベル、NAV3プローブは四角形ボックスによってマークされた。
【0035】
図5は、GOクラスタ系統樹および発現ヒートマップを示す。分析は16の遺伝子産物に基づく。遺伝子産物当たりのGO注釈付けの中央の数は8である。加えて、23の遺伝子産物がGO注釈付けを有さず、分析から除外された。色は、遺伝子産物の発現値を表わす。より低い発現値は赤色で、より高い発現は白色で示されている。左の系統樹はGOに基づいたクラスタリングに対応するが、頂部の系統樹は、クラスタリングに対する発現値を用いている。
【0036】
図6は、NAV3発現の比較を示す。NAV3 siRNAでのトランスフェクション後のNAV3 mRNAレベルは、LightCycler q RTPCRおよびAgilent4×44Kマイクロアレイによってアッセイした。
【0037】
図7は、NAV3発現抑制A172膠芽腫細胞のRNAインサイチューハイブリダイゼーションを示す。NAV3−RNAは、NAV3 RNA(紫色)のエクソン37〜39を認識するプローブで検出された。発現抑制細胞(e)、非トランスフェクト細胞(a)、および対照RNAでトランスフェクトされた細胞(c)におけるNAV3発現。a、cおよびeについての5×を超えるプローブを含むセンス対照は、各々、b、dおよびfに示されている。
【0038】
図8は、10のうち8つのノックダウン実験において上方制御された遺伝子のGOクラスタ系統樹および発現ヒートマップを示す。より低い発現値は赤色で、より高い発現は白色で示されている。GOベースのクラスタ系統樹(左)および発現プロフィール(右)に基づいた系統樹クラスター試料が示される。遺伝子名は右側にあり、各カラムは単一の実験を表わす。1を超える遺伝子を含むGO群は底部〜頂部にある:膜(黒色、9つの遺伝子)、イオン輸送(茶色、2つの遺伝子)、核(緑色、4つの遺伝子)およびリボヌクレオチド結合(青色、2つの遺伝子)。
【0039】
図9は、ヒト結腸および結腸直腸癌中のIL23Rおよびβ−カテニンの発現および細胞の局在を示す。正常な結腸組織中のIL23R(a)およびβ−カテニン(d)についての免疫染色の代表的な顕微鏡写真。上方制御されたIL23R免疫反応性は、NAV3欠失(c、グレード3染色、8%のNAV3欠失細胞)を含む結腸直腸癌試料中で観察され、一方、NAV異常のない癌はIL23R染色(b)を示さなかった。双方の試料(bおよびc)は第12染色体の多染色体性を含む20%の腫瘍細胞を有した。NAV3欠失を含まないCRC試料は、正常な膜パターンのβ−カテニン染色(e)を示し、一方、9%の細胞にNAV3欠失を含むCRC試料は、β−カテニン(f)の主に強力な核局在を示した。
【0040】
図10は、IL23R免疫反応性についての生存分布のカプラン−マイヤープロットを示す。
【0041】
図11は、NAV3発現抑制0205細胞ならびに結腸直腸および神経膠腫組織のGnRHR免疫染色を示す。野生型細胞、(a)および対照構築体(b)でトランスフェクトされた細胞に比較したNAV3発現抑制0205細胞中のGnRHRの膜染色。NAV3欠失を含む2つの結腸直腸癌試料中のGnRHR発現:MSSタイプCRCを持つ患者(e)、MSIタイプCRCを持つ患者(f)、正常な結腸直腸の組織対照(d)。55%のNAV3欠失細胞(h)および93%のNAV3欠失細胞(i)を含む2つの神経膠腫(星状細胞腫)試料ならびに正常なNAV3コピー数(g)のGnRHR染色。
【0042】
(本発明の詳細な記載)
発明者らは、NAV3コピー数変化がMSSタイプCRC、結腸腺腫、脳腫瘍、表皮角化細胞、およびいくつかの樹立細胞株に頻繁に見出されることを今や報告する。NAV3異常は第12染色体の多染色体性およびリンパ節関与と関連した。さらに、NAV3の特異的なsiRNA遺伝子発現抑制および発現アレイ分析は、NAV3につき少なくとも2つの重要な標的分子を明らかにした。
【0043】
診断法および処置方法、および予後予測方法
本願において列記された、上方制御された遺伝子またはそれらの遺伝子産物の全ては、新規な診断原理の開発に利用できる。NAV3コピー数の決定に加えて、少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の発現が本発明の方法において検討される。本明細書に用いた、「遺伝子産物」なる表現は、mRNA、タンパク質、または遺伝子から達成されたいずれかの生成物をいう。本発明の特定の実施例において、遺伝子産物はタンパク質である。
【0044】
分泌性であるタンパク質について、患者血液中のそれらのレベルの増加をテストする方法を診断法として用いることができる。非分泌性タンパク質について、免疫組織化学は用いるべき最も適当な方法であろう。
【0045】
診断法は、in vitro、in vivoまたはex vivoにて行うことができる。本発明の特定の具体例において、方法はin vitro方法である。
【0046】
本発明の特定の具体例において、本発明の診断用キットは、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すためのものである。NAV3コピー数変化および/またはいずれかの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を検出するための手段は、適当なプローブ、プライマーまたは抗体を含み得る。
【0047】
本発明の特定の具体例において、腫瘍は、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍、または表皮角化細胞腫瘍である。
【0048】
大部分の主要な脳腫瘍は、星状細胞(星状細胞腫)、乏突起膠細胞(乏突起膠腫)または上衣細胞(上衣腫)のごとき膠細胞(神経膠腫)が起源である。また、星状細胞および乏突起膠細胞成分の双方を含む混合形態も存在する。これらは混合神経膠腫またはオリゴ星状細胞腫と呼ばれる。また、混合グリオ−ニューロン腫瘍(ニューロン成分、ならびにグリア成分を示す腫瘍、例えば、神経節膠腫、胚芽異形成性(disembryoplastic)神経上皮腫瘍)、ニューロン細胞が起源である腫瘍(神経節細胞腫、中枢神経節細胞腫)で遭遇し得る。
【0049】
他の種類の主要な脳腫瘍は、原始神経上皮腫瘍(PNET、例えば、髄芽腫、髄様上皮腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、上衣芽腫(ependymo-blastoma))、松果体実質の腫瘍(例えば、ピネオサイトーマ、松果体芽腫)、上衣細胞腫瘍、脈絡叢腫瘍、不確定の起源の神経上皮腫瘍(例えば、神経膠腫症、星状芽細胞腫)等を含む。本発明の特定の具体例において、脳腫瘍は神経膠腫(すなわち、膠芽腫)である。
【0050】
本明細書に用いるとき「腫瘍」なる表現は、異常に過剰な細胞分裂のまたは正常細胞死の欠如による組織の異常な集団をいう。
【0051】
本発明の特定の具体例において、腫瘍は良性腫瘍または悪性腫瘍、すなわち、癌性腫瘍でないかまたは癌性腫瘍である。「腺腫」なる表現は、非癌性腫瘍をいう。本発明の特定の具体例において、腫瘍は癌である。癌は上皮細胞に由来した悪性腫瘍である。
【0052】
本発明の方法は、腫瘍の悪性形質を示す。悪性形質とは、悪性腫瘍、すなわち、癌性腫瘍をいう。悪性腫瘍は高悪性であり得、すなわち、急増殖でかつ恐らく転移し得る。いずれの「細胞亜集団」も、限定された細胞集団をいい、悪性形質につき検討できる。細胞亜集団は、組織浸潤性炎症細胞内に位置し得る。
【0053】
本発明において、生物学的試料は、組織またはリンパ節、またはいずれかの体器官または全血中の転移性腫瘍病変からの生検のごときいずれの適当な組織試料でもあり得る。また、生物学的試料は尿、便または他の身体排泄物であり得る。生物学的試料は、必要ならば、当業者に知られた適当な方法で前処理できる。
【0054】
また、本発明は、予後の予測に関する。本発明の特定の具体例において、NAV3コピー数変化およびIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍の存在は、リンパ節転移、高グレードの悪性および/または貧弱な生存に関係している。本発明の特定の具体例において、予後は不良である。「予後不良」とは、転移または腫瘍の広がり、最先端技術の治療法に対する無応答性および/または貧弱な生存の高い予期をいう。予測された貧弱な生存の患者において、平均余命は、対応する比較患者群よりも少ない。
【0055】
臨床的設定において、腫瘍のタイプだけでなく、その腫瘍中に存在する遺伝的、機能的および免疫学的な変化を正確に診断する能力は増強されるにちがいない。次いで、より詳しい治療について、治療分子または抗体の選択は、その特定の腫瘍に適合できる。換言すれば、個別化医薬は、異なる分子を標的とする少なくとも2種の薬物を組み合せて必要とされる。
【0056】
全体として、本発明は、有効な新規な治療原理および診断法の開発においてさらに用いることができるいくつかの利用できる結果を明らかにする。NAV3欠失において上方制御され、悪性形質転換に関与する遺伝子の上方制御の発見は、所与の癌についての合理的な療法を選択するのに用いることができる。
【0057】
治療の代替物を用いるべきであるという決定、すなわち、処置の選択は、NAV3コピー数変化(NAV3の発現減少に導くNAV3遺伝子の欠失)およびIL23R、GnRHR、β−カテニン、表8〜12に記載のものおよびIL23/IL23RならびGnRHR経路から選択された遺伝子または遺伝子産物のいずれか1つの上方制御についての悪性腫瘍のテストに基づいている。
【0058】
さらに、本発明の特定の具体例において、処置方法は、IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択された遺伝子または遺伝子産物が、遺伝子または遺伝子産物を低発現または不活性化するか、または遺伝子産物の量を減少させることにより影響される工程を含む。
【0059】
さらに、本発明の特定の具体例において、処置方法は、NAV3の遺伝子または遺伝子産物が影響される工程を含む。
【0060】
本発明の特定の具体例において、NAV3の遺伝子または遺伝子産物は、遺伝子または遺伝子産物を過剰発現または活性化すること、または遺伝子産物の量を増加させることにより影響される。本発明の特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物、すなわち、NAV3、IL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択されたものを活性化、不活性化、過剰発現または低発現させるか、あるいはその遺伝子産物の量を増加または減少させる。本発明の特定の具体例において、少なくともGnRHおよび/またはJAK/STATのシグナル経路が影響される。
【0061】
いずれの治療分子または分子群も標的遺伝子産物に影響させるために用いることができる。本発明の特定の具体例において、アンタゴニスト、抗体または抑制分子は、少なくとも1つの遺伝子産物に影響させるために用いる。「抑制分子」とは、標的作用を阻害または低下させるいずれかの分子(例えば、抑制性RNA小分子または抗体)をいう。本発明の特定の具体例において、抑制分子はsiRNAである。膜関連タンパク質の上方制御は、特に注目され、抗体媒介治療は現在広範囲に用いられ、標的分子に対するヒト化標的特異的な治療抗体を一般的に生成させる方法は容易に利用可能である。
【0062】
処置方法は、従来の薬物の形態であり得、または遺伝子治療として所与され得る。本発明の特定の具体例において、処置方法は遺伝子治療である。
【0063】
治療において、遺伝子の正常機能の回復を用いることができる。これは、機能的に相同性遺伝子の発現の増強により、無傷の遺伝子の導入により、または増殖性疾患の進行を防止するために遺伝子治療に現在利用可能であるいずれかの技術において遺伝子の改変された形態または遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて達成し得る。特に、腫瘍細胞増殖をかかる治療により減速するか、または停止さえし得る。かかる技術は、ex vivoおよびin situ治療方法を含み、前者は、組換えまたはペプチド形態またはアンチセンスオリゴヌクレオチドとして、またはベクターにおいて無傷または改変された遺伝子(またはその機能的ドメイン)を患者に形質導入またはトランスフェクトすることを含み、後者は、改変された遺伝子またはオリゴヌクレオチドを担体に挿入し、次いで、患者に導入することを含む。処置される疾患に依存して、一過性の治療または永続的な治療を達成し得る。あるいは、標的タンパク質に結合するモノクローナルまたはヒト化抗体またはペプチドを用いて、タンパク質の機能を抑制し、かくして、腫瘍細胞の増殖を減速または停止さえできる。また、標的タンパク質に対する抗体を用いて、細胞毒性物質のごとき他の剤をその遺伝子を過剰発現している癌細胞に運ぶことができる。次いで、かかる剤を用いて、癌細胞を特異的に死滅できる。
【0064】
処置は、NAV3の遺伝子または遺伝子産物および/または本願で列記されたいずれかの遺伝子または遺伝子産物を標的とし得る。しかしながら、また、GnRHおよびJak/スタット経路に沿った、他の遺伝子または遺伝子産物も、治療の標的として用い得る。
【0065】
アンタゴニスト、抗体または抑制分子のごとき治療分子は、単独または他の剤もしくは組成物と組み合わせて投与し得る。また、いずれかの治療分子に加えて、患者に投与される医薬組成物は、他の治療上有効な剤、医薬上許容される担体、緩衝剤、添加剤、補助剤、防腐剤、充填剤または安定化剤または増粘剤および/または対応する生成物に通常見出されるいずれの成分も含み得る。
【0066】
医薬組成物は、投与に適した固体、半固体または液体形態のごとき、いずれの形態ともなり得る。薬物の投与は、例えば、経口または吸入投与を介して、または腫瘍内、筋肉内、動脈内または静脈内注射を介して行なうこともできる。
【0067】
本発明の診断、処置またはいずれかの他の方法または使用のための対象は、ヒトまたは動物である。本発明の特定の具体例において、対象はヒトである。本発明の特定の具体例において、対象は結腸直腸腺腫または結腸直腸癌を有する。本発明のもう一つの特定の具体例において、対象は、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を有する。
【0068】
NAV3
NAV3(ニューロンナビゲーター3、POMFIL1とも呼ばれる)は、c12q21.1に位置したスプライスされた遺伝子(40エクソン)であり、脳組織、活性化T細胞、胎盤、結腸、およびある種の癌細胞系において発現される。NAV3のアミノ酸配列は、異なる種の中でよく保存され、これは、NAV3が細胞プロセスに基本的な役割を演じることを示している。アミノ酸配列相同性は、NAV3が細胞シグナリングおよび腫瘍抑制に関与することを示唆する。NAV3は、細胞遊走の非常に重要な媒介物質のC.Elegansのunc−53タンパク質のヒト相同体である。また、NAV3相同体のNAV1およびNAV2は、細胞内フィラメントに結合し、細胞の伸長および遊走を調節する。
【0069】
証拠の蓄積は、NAV3遺伝子の混乱が癌進行の原因となることを示唆する。NAV3転写物発現は、40%の一次神経芽細胞腫において下方制御される(Coy JFら 2002, Gene 290(1-2):73-94)。また、NAV3は、いくつかのサブタイプの皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)において欠失または転座される(Karenko L.ら 2005, Cancer Res 65(18):8101-10; Hahtola S.ら 2008, J Invest Dermatol 128(9):2304-9, Vermeer M.H.ら 2008, Cancer Res 68(8):2689-98)。また、発明者らは、上皮起源の癌におけるNAV3遺伝子コピー数変化(欠失/増幅)(Hahtola Sら 2008, J Invest Dermatol 128(9):2304-9; Hahtola Sら 2008, Genes Chromosomes Cancer 47(2):107-17; WO 2008059112 (A1))、および結腸直腸癌における対立形質NAV3欠失を同定した(Sipila Lら 2008, EJC supplements 6(12) 118)。
【0070】
本発明の特定の具体例において、NAV3コピー数変化は、NAV3遺伝子またはその主要部分の欠失、増幅または転座によって引き起こされる。NAV3遺伝子のコピー数変化は、一倍体、二倍体および/または倍数体細胞において決定できる。
【0071】
「欠失」とは、遺伝子のいずれかの断片の不存在をいい、この不存在は、遺伝子の機能に悪影響する。また、「欠失」とは、全体の遺伝子の不存在またはその遺伝子を含む染色体断片の不存在をいう。本発明の特定の具体例において、NAV3欠失は、NAV3の全体または部分的な欠失である。
【0072】
「増幅」とは、少なくとも1コピーの遺伝子の存在下でのその遺伝子のいずれかの断片の挿入をいう。また、「増幅」とは、遺伝子を含む全体の遺伝子または染色体断片の増幅をいうこともできる。本発明の特定の具体例において、NAV3増幅は、NAV3の全体または部分的な増幅である。例えば、遺伝子の増幅は、遺伝子のコピー数変化によって検出される。
【0073】
「転座」とは、非相同性染色体間の染色体領域の移行をいう。NAV3は、部分的に、全体的に、またはNAV3を含むより大きな染色体の断片の一部として転座し得る。
【0074】
本発明の方法によれば、遺伝子コピー数変化の存在または不存在は、欠失または増幅を検出するのに適当ないずれかの公知の検出方法によって生物学的試料から検出できる。かかる方法は、当業者によって容易に認識され、多重色蛍光インサイツハイブリダイゼーション、多重蛍光インサイツハイブリダイゼーション(MFISH)のごとき蛍光インサイツハイブリダイゼーション、スペクトル核型決定(SKY)、総合二値比標識 (COBRA)、色変化核型決定(colour changing karyotyping)(CCK)を含む。比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)において、遺伝子変化は、DNA獲得および損失として分類される。CGHは、染色体およびサブ染色体のレベルの異常を含む特徴パターンを明らかにする。また、獲得または損失の粗い検出が十分とみなされる場合において、通常のG−バンディング技術を用いることができる。望ましい方法は、臨床検査室における使用に適するものである。
【0075】
いずれかの遺伝子またはNAV3のコピー数の遺伝子発現を検出するのに適当ないずれかの公知の検出方法、すなわち、遺伝子(またはDNA)のコピー数の検出に基づいた方法、および/または遺伝子発現生成物(mRNAまたはタンパク質)の検出に基づいたものは、本発明の方法に用いることができる。かかる方法は、当業者によって容易に認識され、通常のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、RT−PCR、FISH、mRNAインサイツハイブリダイゼーションのごときインサイツハイブリダイゼーション、mRNAインサイツハイブリダイゼーション、ノーザン解析、サザンおよびウェスタン解析、免疫組織化学、およびELISAのごとき他の免疫学的検定を含む。好ましい方法は、ルーチンの臨床検査室に用いるのに適したものである。
【0076】
また、LOH分析は、遺伝子コピー数変化の検出のために利用し得る。本明細書に用いた「ヘテロ接合性の消失(LOH)」なる表現は、一部の細胞のゲノムに対する単一の親の寄与の損失をいう。LOHは腫瘍形成の抑制において役割を演じ得る遺伝子の変異遺伝子を曝露する事象と考えることができる。かくして、LOHは、腫瘍開始または増悪についての重要なマーカーである。癌におけるLOHは、生殖系DNAにおける遺伝子座のヘテロ接合性の存在および腫瘍細胞の同一の座のヘテロ接合性の不存在によって同定できる。
【0077】
本発明の特定の具体例において、NAV3コピー数変化は、FISH、LOH、CGH、配列解析、免疫組織化学、PCR、qPCRまたは組織マイクロアレイによって確認される。
【0078】
遺伝子発現または遺伝子コピー数変化を検出するのに適したマーカーは、標的遺伝子に関連したマイクロサテライトマーカー、SNPマーカー、いずれかのプローブ、プライマーまたは抗体のごときいずれかの生物学的マーカーを含む。
【0079】
NAV3異常の効果
また、本検討の結果が、NAV3の異常が種々の腫瘍および癌において一般的であることを確認する。発明者らは、NAV3コピー数変化を探索する3種の異なる方法:LOH、アレイ−CGHおよびFISHを用いた。FISH法を用いて、発明者らは、結腸直腸癌(CRC)を持った実質的な数の症例における第12染色体およびNAV3遺伝子のコピー数変化で細胞を観察した。また、重要なことには、NAV3欠失は、23%の腺腫試料で検出した。しかしながら、すべての症例での知見は、主として正常な二倍体形質を含む細胞、および可変数の第12染色体および/またはNAV3標識を含む異常細胞よりなる腫瘍細胞の異種集団を示した。この設定において、遺伝子の対立形質の欠失または増幅は、例えば、同種腫瘍中の腫瘍抑制遺伝子における変異を含む状況とは異なる。このタイプのコピー数異常が、個々の細胞を分析するFISH法でのみ観察できるが、同じタイプの異常を示すために試料中に細胞の40%以上を必要とする2種の方法のアレイ−CGH、またはLOHではほとんどの場合観察できないことに注目することは重要である。未選択の臨床系の組織試料からの発明者らの知見は、同様の第12染色体の多染色体性およびNAV3コピー数変化がMSSタイプの3種のCRC樹立細胞系、およびMSIタイプの1種の細胞系においても観察されたという事実によって強調される。
【0080】
明白な癌腫の症例において、NAV3異常を持つ症例は、明らかにより多くのリンパ節転移を示した。
【0081】
本検討では、腺腫性ポリープにおいて、NAV3損失は、古典的基準(サイズ、分化)により、引き続いての悪性形質転換のより高いリスクを示した場合に、よりしばしば見られた。
【0082】
遺伝子発現プロフィールに対するNAV3下方制御の効果を理解し、かつin vitroでのNAV3欠失の効果を特徴付けるために、発明者らは、正常な結腸上皮細胞、膠芽腫樹立細胞系、新しく誘導した膠芽腫細胞系およびヒト乳頭腫ウィルス感染を欠いている一次ヒト角化細胞におけるRNA干渉でNAV3発現を抑制させた。トランスフェクション後のいくつかの時点の遺伝子発現プロフィールは、アジレント2重色4×44Kマイクロアレイを用いて分析された。このアプローチでは、NAV3遺伝子抑制は結腸細胞において39の遺伝子の一貫した上方制御に導いたが、28の遺伝子は、膠細胞において上方制御された。これらのうち、IL23およびGnRHの受容体は、PathwayExpress解析が、GnRHおよびJak−Statシグナル経路がNAV3により標的とされることを示唆した。すべての細胞系からの結果を組み合わせた場合、GnRHRおよびIL23Rを含めた、49の遺伝子は、10の試料のうちの7において、各細胞型中で少なくとも1回上方制御された。結局、性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体(GnRHR)およびインターロイキン23受容体(IL23R)を含めた17の遺伝子が、結腸および膠細胞の8つの実験すべてにおいて上方制御された。
【0083】
NAV3のsiRNA発現抑制は、in vivoにて見出された対立形質の欠失を模倣し、かくして、腫瘍形成性ならびに炎症/免疫反応の双方に関与することが知られた2種の受容体分子のGnRHRおよびIL23Rの上方制御は、悪性プロセスの開始ならびに悪性細胞の生物学的挙動の決定の双方に潜在的な重要性を有する。
【0084】
重要なことには、MSS腫瘍において、IL23R免疫反応性の上方制御はデューク病期分類(p<0.001)およびリンパ節転移(p<0.001)と相関したが、核β−カテニンは、リンパ節転移にだけ相関した(p=0.045)。ログランク検定は、上方制御されたIL23R免疫反応性を好ましくないマーカーと同定した(p=0.009)。
【0085】
さらに、NAV3欠乏は、炎症伝達物質IL23R、バニン3およびCYSLTR2の上方制御により、組織炎症を腫瘍成長に連結した。かくして、発明者らの知見は、炎症の微小環境において、上方制御されたIL23Rが悪性細胞に増殖の有利さを与えるので、NAV3コピー数変化が初期の発癌に直接的に関与することを示唆する。
【0086】
GnRHR
GnRHRは、脳下垂体の性腺刺激ホルモン分泌細胞により、黄体形成ホルモン(LH)、濾胞刺激ホルモン(FSH)および性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌を刺激するオートクリン性腺刺激ホルモン受容体である(Yeung CMら 2005, Mol Hum Reprod 11(11):837-42)。脳下垂体の性腺刺激ホルモン分泌細胞に加えて、GnRHRは、リンパ球、乳房、卵巣および前立腺細胞の表面上で発現されることが知られている。多数の最近の報告は、GnRH−GnRHR軸も下垂体細胞外において活性であり、GnRHRの上方制御が、多数の癌、特に、癌腫に観察されたことを示している(Harrison GSら 2004, Endocr Relat Cancer 11(4):725-48)。GnRHR活性化は、β−カテニンおよびT細胞因子(TCF)経路に影響する前初期遺伝子(IE)の活性化に最初に導くと考えられる(Salisbury TBら 2008, Mol Endocrinol 22(6):1295-303)。また、基準Wntシグナル経路のメンバーのβ−カテニンは、β−カテニン分解を調節するグリコーゲン合成酵素キナーゼ3の不活性化(Gardner Sら 2009, Neuroendocrinology 89(3):241-51)を介してGnRHシグナルの変換(Salisbury TBら 2008, Mol Endocrinol 22(6):1295-303)に必須の役割を演じる。他方、いくつかの報告は、β−カテニンの発現レベルの増加が腫瘍のリンパ節転移に影響することを示している(Buhmeida Aら 2008, APMIS 116(1):1-9)。
【0087】
発明者らの患者の材料において、核β−カテニン発現が、NAV3異常と関連し、リンパ節転移と相関することを驚くべきことに見出した。また、NAV3で調節された標的分子としてのGnRHの発明者らの同定は、癌腫予防および治療用の候補経路を表わす。
【0088】
IL23R
IL−23Rの同定は、JAK−STATシグナリングに連結され、炎症促進性の組織微小環境が腫瘍細胞の増殖能および拡散に影響するという発明者らの仮説を支持する。IL−23RリガンドIL−23はマクロファージおよび樹状細胞のごとき活性化された炎症細胞によって分泌される。IL−23Rヘテロ二量体は、IL−12受容体・ベータ1(IL−12Rベータ1)およびIL−23R(IL−12Rベータ2に関連)鎖からなり(Beyer BMら 2008, J Mol Biol 382(4):942-55);その後者は、NAV3発現抑制細胞中で上方制御された。JAK2およびSTAT3の双方は、IL−23Rと関連する。JAK2はIL−23に応じて受容体を燐酸化し、活性化STAT3二量体は、核に移動させ、リガンド依存性にIL−23Rに結合する。また、JAK/STAT経路は、上流の遺伝子における突然変異によって活性化され、多数のヒト悪性腫瘍において構成的に活性化されることが示されている(Constantinescu SNら 2008, Trends Biochem Sci 33(3):122-31; Li WX. 2008, Trends Cell Biol 18(11):545-51)。
【0089】
最近の蓄積する証拠は、IL−23が腫瘍細胞に対する細胞傷害性T細胞反応を炎症促進性エフェクター経路に変え得ることを示唆し、これはそれと戦う代わりに腫瘍を育てる(Langowski JLら 2006, Nature 442(7101):461-5)。結果的に、IL−23Rを発現する腫瘍細胞は、増殖優位を得、腫瘍特異的T細胞の存在下でさえ持続するようである。また、IL−23Rは炎症性腸疾患(IBD)に関連付けられている。初期のクローン病の小児において、IL12p40およびIL23R mRNAの粘膜レベルは、後期疾病においてよりもかなり高いことが示されている(Kugathasan Sら2007, Gut 56(12):1696-705)。注目すべきことには、IBDは、CRCおよび他の癌のリスク増加に関係している(Lakatos PLら 2008, World J Gastroenterol 14(25):3937-47; Hemminki Kら 2008, Int J Cancer 123(6):1417-21)。
【0090】
癌が始まっている間の組織炎症細胞と上皮細胞との間の情報伝達は、マウスの胃腸管における自発的な上皮癌に導くT細胞におけるSmad 4依存性シグナリングの損失を介して示された(Kim BGら 2006, Nature 441(7096):1015-9)。Smad4−/−T細胞は、IL23/IL−23R複合体のようなJAK−STATシグナル経路を活性化するIL−6を生成した。また最近、L−6/STAT3シグナリングは、大腸炎関連癌のマウスモデルの腫瘍形成に極めて重要な役割を有することが示された(Grivennikov Sら 2009, Cancer Cell 15(2):103-13)。
【0091】
他の標的遺伝子
GNRHRおよびIL23Rに加えて、発癌に関連付けられる5つの遺伝子(ARL11、SMR3B、FAM107A、MFSD2およびBCLB6)および炎症に関連付けられる2種の遺伝子(CYSLTR2およびVNN3)が、本検討におけるNAV3発現抑制により上方制御されることが示された。最近、MFSD2を含めたMYCL1 LD領域における多形性は、MFSD2遺伝子は対立遺伝子頻度における人種差を示すが、肺癌生存率に影響することが示された(Spinola Mら 2007, Lung Cancer 55(3):271-7)。最近、大腸炎関連結腸癌マウスモデルにおいて上皮バニン−1が炎症駆動の発癌を制御し(Poyet et al, 2009)、バニン−1およびバニン−3発現レベルの双方が、乾癬皮膚細胞の炎症促進性サイトカインによって増強される(Jansen PAら 2009, J Invest Dermatol Mar 26)ことが示された。この文脈において、乾癬および腹腔の患者群の双方が癌のリスク増加を有することに注目することは興味深い(Grulich AE および Vajdic CM. 2005, Pathology 37(6):409-19)。膜関連タンパク質クラスターおよびそれらの下流標的の上方制御は、特に注目される。
【0092】
本発明において、少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物は、方法、手段または使用につき選択される。本発明の特定の具体例において、IL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される遺伝子は、タンパク質をコードし、このタンパク質は、膜タンパク質、細胞プロセス調節タンパク質またはプリンヌクレオチド結合タンパク質である。本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物は、ARL11、SMR3B、FAM107A、MFSD2、BCLB6、CYSLTR2、VNN3、GNGT1、DNER、GnRHR、IL23R、β−カテニン、JAK1およびJAK3よりなる群から選択される。本発明のもう一つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物はIL23Rまたは/およびGnRHRである。
【0093】
本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは、少なくともIL23R、GNRHRおよびβ−カテニンである。本発明の特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せはIL23R、GNRHRおよびβ−カテニンである。
【0094】
本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは、表9に記載されたすべての49の遺伝子または遺伝子産物である。本発明のもう一つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは、表8に記載されたすべての17の遺伝子または遺伝子産物である。本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは、表10に記載されたすべての14の遺伝子または遺伝子産物である。本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは表11に記載されたすべての遺伝子または遺伝子産物である。本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは、表12に記載されたすべての遺伝子または遺伝子産物である。
【0095】
以下の実施例は本発明のさらなる例示のために与えられる。技術進歩につれて、種々の方法で本発明の概念を実施できることは当業者には明らかであろう。本発明およびその具体例は、下記の実施例に限定されず、特許請求の範囲の範囲内で変更し得る。
【実施例】
【0096】
実施例1.組織試料、細胞および細胞系
組織試料
直腸結腸腫瘍試料
ミッケリ中央病院にてCRCで手術した59名の患者から外科的生検試料(61のCRCおよび10の腺腫試料)をFISH、LOHおよび免疫組織化学によって検討した。この検討は、ミッケリ・セントラル病院の倫理審査委員会、および法医学的業務のための国内当局によって承認された。ホルマリン固定のパラフィン包埋組織試料の組織学を経験のある病理学者(MH)によって確認し、腫瘍、腺腫または正常な粘膜を顕微解剖して、純粋に正常または少なくとも50%比の癌腫または腺腫組織を得た。標準的なプロトコールに従い、パラフィン包埋切片を50μmの厚みに切り、核をFISH分析のために単離し、DNAをLOH分析のために精製した(Hyytinen Eら 1994, Cytometry 16: 93-96; Isola J.ら 1994, Am. J. Pathol 145: 1301-1308)。すべての腺腫はMSSであったが、56の癌のうちの14は高度のMSIを有した。
【0097】
5つのジヌクレオチド反復マーカー(D12S1684、D12S326、D12S1708、D18S474およびD9S167)を補足した、ベセスダの委員会からのモノヌクレオチド反復マーカーBAT25およびBAT26を用いて、マイクロサテライト不安定性(MSI)ステータスを決定した。少なくとも2つの不安定なマーカーを含む試料は、MSIを有すると考え、一方、1つの不安定なマーカーを含むかまたは全く含まないものをマイクロサテライト安定性(MSS)とみなした。
【0098】
以下のパラメーターを統計解析に含めた:腫瘍グレード、デュークによる腫瘍病期分類、および米国癌学会(www.cancer.org)によって定義されたTNM分類による腫瘍病期、リンパ節転移の存在、追跡時間(月)、および臨床結果(生存、他の理由で死亡、または疾患で死亡)。
【0099】
脳腫瘍試料
FISHアッセイ用試料を119例の脳腫瘍症例から調製した。症例は、55例の星状細胞腫、20例の乏突起膠腫、13例の上衣腫、18例の髄芽腫、および13例の神経芽細胞腫よりなった。すべての組織試料をルーチンのホルマリン固定によって処理し、パラフィン中に包埋した。
【0100】
標準的プロトコールに従い、パラフィン包埋切片を50μm厚みに切り、核をFISH分析のために単離した(Hyytinen Eら 1994, Cytometry 16: 93-96; Isola J.ら 1994, Am. J. Pathol 145: 1301-1308)。
【0101】
細胞、細胞系、および細胞培養
CRL−1541およびCRL−1539の正常結腸細胞(ATCC, Manassas, VA, USA)、グレード4膠芽腫に由来した膠芽腫細胞系A172、および一次表皮角化細胞(すべてATCC, Manassas, VA, USAから)を30を超える継代のためにATCCにより指示されたように増殖させた。また、結腸直腸癌の細胞系CCL−228(SW480)、CCL−230(SW403)、CCL−248(T84)、RKO、LIM1215およびHCA7(ATCC, Manassas, VA, USA)をATCCにより指示されたように増殖させた。CRC細胞系の中で、RKO、LIM1215およびHCA7は、ミスマッチ修復欠損性であり、MSIを有することが知られている。
【0102】
周術期に摘出したグレード4多形態の膠芽腫からの新鮮な細胞を用いて、細胞系0205を誘導した。腫瘍組織を機械的に分離し、細胞を血清の添加なくして、栄養素混合物F12(Sigma-Aldrich, ST Louis, MO, USA)、ファンギゾン2.5μg/μl(Apothecon, NJ, USA)、B27(Gibco/Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)、上皮成長因子(EGF)20ng/ml(Sigma-Aldrich, ST Louis, VA, USA) 、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)40ng/ml(Sigma-Aldrich, ST Louis, VA, USA)、ペニシリン−ストレプトマイシン100U/ml(Biowhittaker, Verviers, Belgium)およびGlutamax(1x)(Gibco/Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を補足したDMEM中で培養した。5継代後、クローン細胞集団がバルク調製物から出現し、アリコートを冷凍した。すべての引き続いての実験について、新鮮なアリコートを解凍し、20継代未満の細胞培養物だけを用いた。神経細胞マーカー(神経膠線維酸性タンパク質および神経細胞クラスベータ−チューブリン)発現を免疫染色により評価した。細胞の回収は、ヘルシンキおよびウーシマー病院地区倫理委員会によって承認され、書面のインフォームドコンセントを患者から得た。
【0103】
実施例2.FISHおよびLOH分析
FISH(蛍光インサイチューハイブリダイゼーション)
細胞系CRL−1541、CRL−1539およびA172を、従前に記載されたマルチカラーFISHを用いてNAV3コピー数変化につき検討した(Karenko Lら 2005, Cancer Res 65:8101-10)。また、FISH分析は、0205細胞系を確立した腫瘍組織につき行った。
【0104】
さらに、NAV3特異的FISHアッセイを、患者試料(61のCRCおよび10の腺腫)から単離した核、および結腸癌細胞系(CCL−228、CCL−230、CCL−248、RKO、LIM1215およびHCA7)の中期染色体に行った。NAV3 DNA(RP11−36P3およびRP11−136F16;Research Genetics Inc., Huntsville, AL, USA)および第12染色体動原体プローブ(pA12H8;American Type Cell Culture)に特異的なバクテリア人工染色体(BAC)クローンを用い、各々(患者試料)、またはジゴキシゲニンもしくはビオチン(細胞系から分裂中期)と共に、Alexa594−5−dUTPおよびAlexa 488−5−dUTP(Invitrogen)のいずれかで標識した。プローブ標識のための詳細な方法、FISHアッセイのスライドの調製およびアーム特異的MFISHの使用を以下に示す。
【0105】
また、NAV3特異的FISHアッセイを119の脳腫瘍症例の試料から単離した核に行った。プローブ標識のための詳細な方法、FISHアッセイのスライドの調製およびアーム特異的MFISHの使用を以下に示す。
【0106】
プローブ標識.患者試料の分析のために、NAV3 DNAに特異的な2種のバクテリア人工染色体(BAC)クローン(RP11−36P3およびRP11−136F16;Research Genetics Inc., Huntsville, AL, USA)および第12染色体動原体プローブ(pA12H8;American Type Cell Culture)を、ニックトランスレーション法を用いて、各々、Alexa 594−5−dUTPおよびAlexa 488−5−dUTP(Invitrogen)で標識した。BACおよび動原体プローブをヒトCOT−1 DNA(Invitrogen)と一緒に混合し、沈殿させ、ハイブリダイゼーション緩衝液(15%w/v硫酸デキストラン、2×SSC、pH7.0中の70%ホルムアミド)で希釈した。
【0107】
細胞系の分析のために、NAV3特異的BACプローブを調製し(前記参照)、ジゴキシゲニンで標識し、動原体12特異的プローブを調製し、従前に記載されたニックトランスレーション (Karenkoら 2005)により、ビオチンまたはイソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)をコンジュゲートしたdUTPで、あるいは同様にジエチルアミノクマリン−5−dUTP(DEAC, Perkin Elmer Life and Analytical Sciences, Boston, MA, USA)で標識した。
【0108】
FISH法. 核スライドを1Mチオシアン酸ナトリウムで+80℃で5分間前処理し、2×SSCで3回洗浄し、50%グリセロールで処理し、0.1×SSCで+90℃で6分間、2×SSCで3分間洗浄し、次いで蒸留水で2分間3回洗浄した。スライドをプロテイナーゼK(Sigma;20mM Tris−HCl,pH7.5,2mM CaCl2中の8μg/ml)で+37℃で8分間消化した。脱水および風乾後に、プローブ混合物を添加し、スライドを+85℃で6分間変性させ、+37℃で48時間ハイブリダイズした。スライドを1.5M尿素で3回、0.1×SSCで+47℃で10分間、0.1×SSCで+47℃で10分間、PBSで3回、室温にて0.1%NP−40で洗浄し、蒸留水で濯ぎ、風乾し、4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドールジヒドロクロリド(DAPI;Vector)を用いてVectashield Mounting Medium中で開始した。
【0109】
患者試料のFISHスライドは、60倍油浸レンズおよび、Alexa488、Alexa594およびDAPI(Chroma Technology Corp., Brattleboro, VT, USA)の同時検出用のトリプルバンドパスフィルターを備えたオリンパスBX51顕微鏡(Tokyo, Japan)を用いて評価した。
【0110】
通常の中期スライドを、従前に記載されたごとくFISHのために調製した(Abdel-Rahman W. M.ら 2001, Proc Natl Acad Sci USA 98: 2538-43)。プローブのハイブリダイゼーション、ならびにジゴキシゲニン標識NAV3プローブおよびビオチン標識動原体12特異的プローブの検出は、従前に記載される(Karenkoら 2005)ごとく、アビジン−FITC(Vector laboratories, Burlingame, CA, USA)、およびローダミンでコンジュゲートしたヒツジ抗ジゴキシゲニン(Roche, Mannheim, Germany)を用いて行った。アーム特異的なMFISHは、製造者により推奨されるようなXaCyteキット(Metasystems GmbH, Altlusheim, Germany)で行った。ハイブリダイズした中期は、マニュアルまたは、自動捕捉機能(Metafer, Metasystems, Altlussheim, Germany)のいずれかを用いて、落射蛍光顕微鏡(Axioplan Imaging 2, Zeiss, GmbH, Jena, Germany equipped with a CCD-camera)およびMFISHプログラムモジュール(Isis, Metasystems, Altlussheim, Germany)で分析した。
【0111】
FISH結果の評価
患者由来の結腸直腸および脳腫瘍試料からのFISHスライドは、2種の独立した分析機器によって、同一性をサンプリングするようにブラインドして分析した。結果は、200の計数された細胞核の総数中の異常細胞の百分率として示す。2つの第12染色体シグナルおよび1つだけのNAV3シグナルを含む細胞、および2を超える第12染色体シグナルを含むが、より少数のNAV3シグナル(例えば、3つの第12染色体動原体シグナルおよび1つのNAV3シグナル)を含む細胞をNAV3欠失を含む細胞と解釈した。動原体12−シグナルより頻繁なNAV3シグナルを示す細胞は、NAV3増幅を含む細胞と解釈した。増幅を示す間期細胞の百分率が7%を超えるか、または欠失を示す間期細胞の百分率が4%を超える(平均+3標準偏差として通常のサンプル結果の正規分布から計算)ならば、試料は異常なNAV3であると考えた。細胞系CCL−228、CCL−230、CCL−248、RKO、LIM1215およびHCA7について、10〜47の中期をNAV3および動原体12につき分析し、6〜11の中期をアーム−MFISHにつき分析した。
【0112】
マイクロサテライトマーカーを用いるNAV3 LOH分析および単一ヌクレオチドプライマー伸張SnuPE
NAV3 LOHアッセイは、従前に記載される (Hahtola Sら 2008, J Invest Dermatology 128: 2304-9)ごとく直腸結腸腫瘍試料で行った。加えて、白人/欧州人において0.493までのヘテロ接合性を示すNAV3遺伝子のエクソン19内のA/G多形性(rs1852464)を、SNuPE反応に用いた。
【0113】
まず、DNA試料は、プライマーrs1852464F 5’−CCTGCTATTTTCATCTTTCAAGC 3’(配列番号:1)およびrs1852464R 5’GGCTGGGATGCTGTTTGAG 3’(配列番号:2)用いてPCR 増幅して、A/G多形性を含む130の130bp PCR断片を得た。引き続いて、PCR生成物をエキソヌクレアーゼI(10U/μl)およびSAP(エビアルカリホスファターゼ、2U/μl) (ExoSAP-IT, Amersham Biosciences)により精製し、PCR伸長を蛍光標識伸長プライマーの5’GATGCTGTTTGAGCGCATCATGCTGGGCCC 3’(配列番号:3)およびddCTPを含むヌクレオチド混合物を用いて行った。伸長生成物は、GまたはAがテンプレート中に存在するかに依存して、43bpまたは49bpであり、それらを分離し、従前に記載される(Hahtolaら 2008, J Invest Dermatology 128: 2304-9)ごとく、結果を分析した。
【0114】
試料は、その通常の適合に比較したフランキングマイクロサテライトマーカーにて、rs1852464で、またはこのマーカーにつき構成的ホモ接合性の事象において、腫瘍試料中の対立遺伝子のうちの1つが40%以上のシグナルの現象を有したならば、LOHを示すとして得点した(Cleton-Jansen A. M.ら 2001, Cancer Res 61: 1171-7)。
【0115】
対応するNAV3異常は、FISHまたはLOH方法を用いた場合、同一患者に生起された結腸直腸の腺腫および癌に見出される
2症例以外の全てに同一の外科手術にて得られた所与の患者の腺腫および癌の試料間のNAV3コピー数の比較は、NAV3欠失が腺腫段階におけるFISH技術によって頻繁に検出できることも明らかにした(図1)。しかしながら、NAV3異常細胞の量は、組織学的悪性病変において常により高かった。同様に、LOHでの3つの腺腫のうちの2つにおいて、適合する癌は、大抵同様のパターンのLOHを示した。これは、NAV3異常を含む細胞を有する組織学的に良性の腺腫は、既に悪性腫瘍の特性を有し得ることを示唆する。
【0116】
NAV3コピー数変化はFISHまたはLOH方法を用いることによりCRCおよび結腸直腸腺腫に見出される
NAV3コピー数変化を含む細胞は、MSSタイプの結腸直腸の癌腫試料の40%に検出し;NAV3欠失または増幅のいずれかを含む細胞は試料の15%に検出したが、15%の試料はNAV3欠失だけを示し、10%は単独で低レベルのNAV3増幅(3〜5コピー)を有した。また、NAV3欠失を含む細胞は、MSI標本試料の12.5%および腺腫試料の23%に検出した。加えて、第12染色体の多染色体性を含む、最もしばしば、3または5コピーの細胞を、MSSタイプの結腸直腸の癌腫試料の70%、MSI標本試料の50%および腺腫試料の31%に検出した。FISH結果を図2に示す。
【0117】
結腸癌細胞におけるNAV3コピー数変化をLOHアッセイによって確認した。LOHは、MSS癌の21%および腺腫試料の18%に検出した。各マーカーの結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
* LOH頻度を有益な症例のみにつき計算した。検査した第12染色体マイクロサテライトによりLOHを示した5つの癌およびすべての腺腫における構成的なホモ接合性により、SNuPEテストは情報価値がなかった。
【0119】
FISHで示されたNAV3コピー数変化または転座は、CRC樹立細胞系に見出される
6種の異なるCRC樹立細胞系(CCL−228、CCL−230、CCL−248、RKO、LIM1215およびHCA7)および2種の正常な結腸細胞系(CRL−1541およびCRL−1539)を、NAV3特異的FISHで分析した(表2)。正常な結腸細胞CRL−1541およびCRL−1539は、第12染色体動原体シグナルに関してNAV3につき異常シグナルを示さなかったが、CRL−1539においては、8%の細胞はこれらのシグナル双方に四染色体であった。3種の細胞系(SW403、RKO、T84)は、NAV3の損失を含む中期の注目すべき部分を示した(SW−403およびT84は中期の90%以上およびRKOは中期の40%を超える;表2および図3)。近二倍体系CCL−228は、典型的には、1つの正常な第12染色体、NAV3シグナルの損失を含む2つの染色体異常、およびNAV3シグナルを含むが第12染色体動原体シグナルを含まない1つの染色体異常を示した。アームMFISHによってt(2;12)と解釈されたNAV3のもう一つの染色体への転座は、1つを除いてすべての中期に観察した(表2、図3)。
【0120】
【表2】
従前に観察したHCA7中のクローン12q+染色体(Abdel-Rahman W.M.ら 2001. Proc Natl Acad Sci USA 98: 2538-43)さえ、本検討におけるNAV3シグナルを示したので、細胞系LIM1215(MIN)およびHCA7(MIN)は、NAV3シグナルと同数の動原体12を示した(それぞれ、検討した27/27および27/29の中期)。
【0121】
結腸直腸試料のNAV3異常は、第12染色体の多染色体性およびリンパ節転移と関連する
結腸直腸試料のNAV3異常は、統計的有意差を持って、第12染色体の多染色体性およびおよびリンパ節転移と関連した(表3)。さらに、第12染色体の多染色体性は、高度の悪性を持った腫瘍において、よりしばしば生じた(表3)。
表3。
【0122】
【表3】
1)ns=統計的に有意でない
2)MSS患者群に対して分析した相関性。
2)カイ二乗検定、直接、両側。
3)対数ランクテスト
【0123】
NAV3遺伝子コピー数変化は脳腫瘍で見出される
55の星状細胞腫、20の乏突起膠腫、13の上衣腫、18の髄芽腫および13の神経芽腫の全体で119の脳腫瘍ケースを、FISHを用いてNAV3遺伝子コピー数変化および第12染色体の多染色体性につき分析した(表4参照)。NAV3欠失、NAV3増幅および第12染色体の多染色体性についてのカットオフレベルは、各々、4%、7%および10%であった。
【0124】
NAV3の欠失および増幅の双方は、星状細胞腫に検出し;検討症例の20%(55のうち11)はNAV3欠失および11%(55のうち6)は増幅を示した。第12染色体の多染色体性を、その症例の45%(55のうち25)で観察した。カプラン−マイヤーテストを用いる統計分析はNAV3増幅の傾向を示し、NAV3の欠失または正常なコピー数より疾患のより良好な結果を予測する。
【0125】
検討した乏突起膠腫の症例は、30%(20のうち6)にNAV3欠失および15%(20のうち3)に増幅を示した。第12染色体の多染色体性をその症例の43%(23のうち10)に検出した。第12染色体の多染色体性は、カプラン−マイヤーテストで解析した場合にその疾患のより貧弱な結果を予測するようであった。
【0126】
上衣腫は、検討した症例の31%(13のうち4)でNAV3の欠失、54%(13のうち7)でNAV3増幅、および69%(13のうち9)で第12染色体の多染色体性を示した。統計解析は、NAV3増幅および第12染色体の多染色体性がより貧弱な生存を予測することを示した。NAV3の欠失は、髄芽腫症例の11%(18のうち2)、NAV3の増幅は39%(18のうち7)、および第12染色体の多染色体性は61%(18のうち11)で観察された。カプラン−マイヤーテストを用いる統計解析は、NAV3欠失がより貧弱な生存を予測することを示し、NAV3増幅は、対照的に、NAV3の正常なコピー数よりよい良好な見通しを予測した。
【0127】
NAV3欠失は試験した神経芽細胞腫症例に検出されなかったが、69%(13のうち9)はNAV3増幅を示し、77%(13のうち10)は、第12染色体の多染色体性を示した。カプラン−マイヤーテストにおいて、NAV3増幅および第12染色体の多染色体性は、より貧弱な生存を予測するようであった。
【0128】
【表4】
【0129】
神経膠腫瘍グレード1、2および3を1つのクラスに分類し、NAV3異常(表5)に関するグレード4神経膠腫瘍と比較した(表5)。分析は、より良好に区別された、より低いグレード1、2および3が、グレード4の神経膠腫瘍よりも多数のNAV3増幅を含むことを示した。NAV3増幅は、グレード4神経膠腫瘍における5%(38のうち2)に対して、グレード1、2および3の神経膠腫瘍において27%(48のうち13)で観察した。対照的に、グレード4神経膠腫瘍はグレード1、2および3より多数のNAV3欠失を含んだ。NAV3欠失は、グレード1、2および3腫瘍における15%(48のうち7)に対して、グレード4神経膠腫瘍の18%(38のうち7)で観察した。
【0130】
【表5】
【0131】
実施例3.CGH
アレイCGH
DNAを標準プロトコールによって50マイクロメートルのパラフィン包埋組織切片から抽出した。参照DNAは、4名の健康な男性および女性からフィンランド赤十字にてプールされた血液から抽出した。次いで、製造者(Agilent Technologies, Santa Clara, USA)のプロトコールに従い、消化、標識し、244Kのオリゴヌクレオチドアレイにハイブリダイズした。試料は、DNAマイクロアレイスキャナで走査し、Feature ExtractionおよびCGH解析ソフトウェア(Agilent Technologies, Santa Clara, USA)を用いて解析した。解析は、z−スコアおよび1Mb遊走平均ウィンドウを用いて行った。+/−0.4下のLog2−値は、異常であると考えられなかった。3種の結腸癌細胞系および2種の結腸癌腫瘍試料をこの方法を用いて用いて解析した。
【0132】
選択した症例の患者材料およびCGH細胞系のアレイ−CGH解析
患者材料からの2つの試料および、3種のCRC樹立細胞系CLL−230、CLL−248およびCLL−228に対してアレイ−CGH試験を行った。アレイ−CGHデータは、患者試料のうちの1つにNAV3座にわたる12q21における欠失を示し、それにより、FISH結果を確認した(この患者試料は、FISH法によって41%のNAV3の欠失細胞を有した)(図4)。しかしながら、他の患者試料は、恐らくその試料中のNAV3異常細胞の不十分な比例数により、この解析において正常の結果を示した(28%の細胞は、FISH分析でNAV3シグナルの増幅を示す)。培養された癌細胞の中で期待されるように、結腸癌細胞系のアレイ−CGH分析は、第12染色体ならびに他の染色体のFISHで明らかにされた主要な改変におけるNAV3損失を示す。CLL−230系において、NAV3座にわたる広範囲の欠失を12qに検出した。この欠失は他の(2種の)細胞系(CLL−248およびCLL−228)に検出されず、今度は、その染色体の他の部分の増幅を示した。
【0133】
実施例4。
RNAiおよび遺伝子発現マイクロアレイ
方法
in vitroでのNAV3−遺伝子発現抑制
NAV3遺伝子をプールしたsiRNAオリゴ (On-Target SMART pool, Dharmacon, Chicago, IL, USA)で抑制させた。そのオリゴのその具体的な配列は、以下の通りである:5’−GGACUUAACCUAUAUACUA−3’(配列番号:4)(エクソン12)、5’−GAGAGGGUCUUCAGAUGUA−3’(配列番号:5)(エクソン38−39)、5’−CAGGGAGCCUCUAAUUUAA−3’(配列番号:6)(エクソン7)および5’−GCUGUUAGCUCAGAUAUUU−3’(配列番号:7)(エクソン30−31)。
【0134】
膠芽腫細胞A172、一次表皮角化細胞、ならびに正常な結腸細胞系CRL−1541およびCRL−1539を70%の密集まで6−ウェルプレートで培養し、その後、Dharmafect1トランスフェクション試薬(Dharmacon)を用いて、200pmolのNAV3 siRNAプールまたは組換え対照siRNA(Dharmacon, IL, USA)でトランスフェクトした。膠芽腫細胞0205を誘導して、以下の通り前記培養条件を改変することにより接着性単層として増殖させた:bFGFおよびEGFを回収し、その培地をトランスフェクション前の4日間に10%のFCSを補足した。1つの6プレートウェルのトランスフェクションについて、siRNAを、100μlの1×siRNA緩衝液(製造者から受け取った)中で1μMまで希釈し、等量の通常の増殖培地と混合させた。4マイクロリットルのトランスフェクション試薬を196μlの増殖培地と室温にて5分間培養した。siRNA希釈を加え、室温で20分間インキュベートした後、1600μlの増殖培地中の細胞に添加した。トランスフェクションの6時間後、トランスフェクション培地を通常の増殖培養液と交換した。細胞の生存率はトリパンブルー染色でトランスフェクションの48時間後にモニターした。すべての細胞タイプが、70%以上の生存率を示し、付着細胞だけをRNA調製に用いた。
【0135】
遺伝子発現マイクロアレイ
NAV3によって調節された遺伝子を同定するために、NAV3標的RNAiによって誘導された遺伝子発現プロフィールの変化を、Agilent4×44K2重色マイクロアレイおよびオリゴヌクレオチドプローブ(Biochip center, Biomedicum Helsinki, http://www.helsinki.fi/biochipcenter/)で測定した。この分析については、siRNAをトランスフェクトした細胞からの合計のRNA試料をトランスフェクションの6、24および48時間後に得た(CRL1541:6および48時間、CRL1539:6および24時間、A172:6および48時間、0205:6および48時間、一次表皮角化細胞(PEK):24および48時間)。
【0136】
細胞を350μlのRLT緩衝液(Qiagen)に溶解し、RNAを(細胞量に依存して)RNeasy MicroまたはMiniキット(Qiagen, Hilden, Germany)で精製し、−70℃で貯蔵した。NAV3発現抑制細胞から得た合計RNAを組換えオリゴヌクレオチドでトランスフェクトした同一細胞からの対応する時点の試料とハイブリダイズした。ハイブリダイゼーション前に、RNA試料の品質を2100Bioanalyzer(Agilent Technologies)で評価した。
【0137】
マイクロアレイ分析
その2種の正常な結腸細胞系CRL−1541およびCRL−1539からのマイクロアレイデータ、およびNAV3発現抑制オリゴまたは対照オリゴでトランスフェクトした膠芽腫細胞および一次表皮角化細胞からのデータを分析した。プローブ強度は、Agilent Feature Extractor 9.1.3.1を用いるLOWESSで背景補正し標準化した。各試料について、各試料内の倍変化を計算し、最高発現を含む200のプローブおよび最低発現を含む200のプローブが差動的な発現と考えられた。すべての正常な結腸細胞系および腫瘍試料中で一貫して差動的に発現した遺伝子は、PathwayExpress(Draghici S.ら 2007, Genome Res 17(10): 1537-45)を用いて、計算上の経路分析に用いた。この方法において、差動的に発現した遺伝子の発現値を用いて、KEGGデータベース[REFE: PMID: 18477636]中の経路を示すためのインパクト・ファクターおよび関連p値を計算し、経路のトポロジーを考慮した。
【0138】
この方法では、経路の上流に位置したタンパク質をコードする遺伝子は下流のタンパク質より多数のインパクトを有する。
【0139】
加えて、新規なGene Ontology(GO)ベースのクラスタリング法を用いて、細胞中の共通の生物学的機能または位置を共有する遺伝子集団を明らかにした(Ovaska Kら 2008, BioData Min 1(1):11)。遺伝子間の距離は、GO注釈付けに基づいたLin意味的な類似性尺度 (Lin. Proceedings of the 15th International Conference on Machine Learning 1998: 296-304)を用いて計算する。同様のGO注釈付けを有する遺伝子を相互からのより短い距離を有し、緊密にクラスター化する。これらのクラスターは、発現値と一緒に、ヒートマップおよび系統樹を用いて視覚化する。
【0140】
qRT−PCR
IL23RおよびGnRHRの効率的なNAV3発現抑制および上方制御をLight Cycler qRT−PCRおよびRNAインサイチューハイブリダイゼーションによって確認した。
【0141】
定量的RT−PCRについて、合計RNAを製造者の指示に従い、Revert Aid(商標)First Strand cDNA Synthesis Kitで逆転写した。標準曲線を調製するために、A172細胞からのcDNAの系列希釈を調製した。反応は、LC 480 SYBR Green1マスターキット(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)を用いて、LightCycler480(商標)装置で行った。略言すれば、製造者のガイドラインにより、DNAを95℃で5分間変性させ、次いで、95℃、58℃および72℃の45サイクルを各々10、15および10秒間試行させた後、融解曲線分析を行った。バックグラウンドの調整後、従前に記載される (Linja MJら 2004, Clin Cancer Res 10(3):1032-40)ように、フィット点法を用いて、交差点値を決定した。発現レベルの標準化のために、記載される(Linja MJら 2004, Clin Cancer Res 10(3):1032-40)ように、TATA結合蛋白質(TBP)の発現を測定した。相対的発現レベルはNAV3に対する値をTBP値で除することにより得た。融解曲線分析に加えて、PCR生成物を1.5%アガロースゲル電気泳動によって分離して、正しい生成物サイズを保証した。また、IL23RおよびGnRHRの上方制御をアニーリング温度を60℃まで増加させるqRT PCRにより確認した。反応に用いたすべてのプライマーを表6に列記する。
【0142】
【表6】
【0143】
NAV3発現抑制細胞のNAV3 RNAインサイチューハイブリダイゼーション
NAV3遺伝子のノックダウン効率を評価するために、発明者らは、細胞系A172および0205のsiRNAトランスフェクト細胞のNAV3標的RNAインサイチューハイブリダイゼーションを行った。NAV3の発現を非トランスフェクト細胞および組換えオリゴでトランスフェクトした細胞と比較した。略言すると、NAV3 mRNA転写体をエクソン37−39を認識するプローブで検出し、45℃で一晩ハイブリダイゼーションした。
【0144】
NAV3 mRNA用のmRNAインサイチューハイブリダイゼーション
RNAプローブの調製
RNAプローブを以下のオリゴヌクレオチド(エクソン37−39:アンチセンス 5’−TTGGCTGCTTCTTGGAGTTT−3’(配列番号:14)、センス 5’−CACCAAATCTAGAGCTGCATCA−3’(配列番号:15)を働かせるNAV3遺伝子の特定のエクソン位置に基づいて生成した。得られたPCR生成物をpCR(登録商標)II−TOPO(登録商標)ベクター(Invitrogen)中でクローン化した。RNAプローブは、製造者の指示に従い、DIG RNA標識付けキット(SP6/T7, Roche)を用いて標識した。
【0145】
固定細胞用インサイチューハイブリダイゼーション
細胞系A172および0205を無菌スライドガラス(LAB-TEK II chamber Slide w/Cover RS Glass Slide, Nalge Nunc International)上で培養し、4%パラホルムアルデヒド(MERCK)−PBSで室温にて15分間固定した。スライドをPBSで濯ぎ、1%のPFA−PBS(7分間および+4〜8℃)で再固定した後、PBSで再洗浄した。スライドは、0.1Mトリエタノールアミン(TEA, Riedel-de Haan)pH8.0−0.25%無水酢酸(MERCK)中でアセチル化し、4×SSC−50%脱イオン化ホルムアミドで予めハイブリダイズした。インサイチューハイブリダイゼーションは、変性DIG−RNAアンチセンスプローブ(4ng/μl)またはセンスプローブ(19ng/μl)を含有するハイブリダイゼーション溶液を用いて、45℃にて一晩加湿チャンバーで行った。ハイブリダイゼーション後のスライドを37℃水浴(1×10分間、1×5分間の2×SSCおよび2×5分間の1×SSC)で予め暖めた緩衝液で洗浄し、RNAの過剰を37℃で30分間リボヌクレアーゼ(20μg/mlリボヌクレアーゼA、Sigma;500mM NaCl;10mMトリスpH8.0;1mM EDTA)で除去した。洗浄後、ハイブリダイズしたプローブをブロッキング溶液中で1:1000に希釈した抗−DIGアルカリホスファターゼFabによって免疫学的に検出した。スライドを洗浄し、色基質溶液(0.002mM新鮮なレバミソール(Vector Laboratories)を含有する検出緩衝液中の1:50 NBT/BCIP Stock Solution(Roche))と加湿チャンバーで一晩インキュベートした。反応を終了するために、スライドを洗浄し、簡潔に水で濯ぎ、0.1%のKernchrot(1×5分間, Gurr, BDH Chemicals)で対比染色した。すべての試薬および機具をピロ炭酸ジエチル(DEPC)で処理したか、またはRNアーゼを含まなかった。
【0146】
結果
GnRHRおよびIL23Rの発現の上方制御で生じたNAV3遺伝子発現抑制
正常な結腸細胞系
NAV3のin vivo関連標的遺伝子を同定するために、発明者らは、NAV3を発現抑制した正常結腸細胞CRL−1541およびCRL−1539(正常なNAV遺伝子コピー数を持つ)の遺伝子発現プロフィールを検討した。これらの実験において、発明者らは、NAV3を発現抑制した正常結腸細胞中で常に上方制御された39の遺伝子のうち、発癌に関与する2つのキーとなる受容体の上方制御を同定した。第1に、PathwayExpressを用いて、性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体(GnRHR)経路を統計学的にかなり富化されることを同定し(複合仮説はp値<0.001で修正した)、この結果は転写変異体1のGNRHRの上方制御によって駆動され、4.7〜32.4の倍変化であった。第2に、Jak−STAT経路は、わずかに統計的に有意であることを同定し(修正されたp値<0.058)、インターロイキン23受容体(IL23R)の上方制御によって影響され、3.4〜14.01の倍変化であった。これらの受容体の上方制御は、選択された試料中でqRT−PCRによって確認された。図5を参照されたし。
【0147】
細胞系および組織試料
マルチカラーFISHを用いて、NAV3シグナル数を動原体12シグナル数と比較し、その後、細胞を通常、増幅または欠失したNAV3シグナルのいずれを有するかを規定した。検討した細胞系CRL−1541、CRL−1539、0205およびA172は、NAV3異常のない細胞より主になることを示し(表7)、従って、NAV3発現抑制検討のために適当であった。NAV3の効率的な発現抑制は、qRT−PCRおよびRNAインサイチューハイブリダイゼーションによって確認した(図6および7)。また、Agilent4×44kマイクロアレイ上に存在するNAV3用の双方のプローブを0.26の中央倍変化で過小発現し、これは、NAV3発現抑制が有効であることを示す。全方法は、すべての検討時点で、すべての細胞タイプにおけるNAV3の一貫した下方制御を示した。
【0148】
【表7】
【0149】
すべてのNAV3発現抑制CRL−1541およびCRL−1539の正常な結腸細胞、グレード4膠芽腫に由来した膠芽腫細胞系A172、および一次表皮角化細胞(すべてはATCC, Manassas, VA, USAからのもの) の遺伝子発現プロフィールを評価した場合、発明者らはすべての実験において上方制御された17の遺伝子を同定した(表8)。これらのうち、発癌に関与する2つのキーとなる受容体の上方制御が注目された。第1には、PathwayExpressを用いて、性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体(GnRHR)経路を統計的にかなり富化されることを同定した(複合仮説はp値<0.001に修正した)。この結果は、13.7の中央倍変化を有したGNRHR転写変異体1の上方制御によって駆動した。第2には、Jak−STAT経路は、インターロイキン23受容体(IL23R)の上方制御によってわずかに統計的に有意に改変されることを同定し(修正されたp値<0.058)、これは、7.2の中央倍変化を有した。これらの受容体の上方制御は、選択された試料中でqRT−PCRによって確認した。また、発明者らは、分析おいて、NAV3発現抑制した一次ヒト角化細胞(PEK)の遺伝子発現プロフィールを含むことを決定した。次いで、発明者らは、3種の細胞タイプのすべてで行った10の実験のうちの7つに上方制御されたGnRHRおよびIL23Rを含む52の遺伝子を同定した(表9)。
【0150】
【表8】
【0151】
【表9−1】
【表9−2】
【0152】
NAV3調節遺伝子の遺伝子オントロジー分析
遺伝子オントロジーベースのクラスタリングをNAV3欠乏により影響された生物学的プロセスを同定するために行った。GO分析用遺伝子数を増加させるために、発明者らは、10の実験のうちの7つに上方制御された52の遺伝子に対してクラスタリングを行った。この群から、発明者らは4つのGOクラスター(図8):膜(9の遺伝子)、イオン輸送(2つの遺伝子)、核(4つの遺伝子)およびリボヌクレオチド結合(2つの遺伝子)を同定した。リボヌクレオチド結合クラスターは、2つの遺伝子:グリセロールキナーゼおよびARL11を含んだ。グリセロールキナーゼは、グリセロールの摂取および代謝の調節におけるキー酵素であるが、ARL11(またはARLTS1)は、ヒト発癌における改変された多数の調節経路に関与することが知られた小さなGTPアーゼのRasーのスーパーファミリーのARFファミリーに属する。
【0153】
遺伝子産物は、それらの遺伝子オントロジー(GO)注釈付けに基づいて、クラスター化(グループ化)する。同様の注釈付けを有する遺伝子は同一クラスターに属する。遺伝子産物間の距離は、情報理論的な意味的類似性尺度を用いて定義する。
【0154】
以下の表10において、各クラスターの最も有益な(最も具体的な)共通のGO用語を示す。クラスター中のすべての遺伝子産物を記載したGO用語で注釈付けする。GO用語は、それがまれにしか全ゲノムのGO注釈付けにおいて生じないならば、より有益である。演繹的カラムは、ランダム遺伝子産物が所与のGO用語で注釈付けされる演繹的確率pを含む。情報はlog2pと定義される。一般的には、(1)多数の遺伝子産物および(2)高い情報量を含む共通のGO用語が最も注目される。
【0155】
【表10】
クラスターメンバー
G1 GAL3ST1 GK RDHE2 CECR1
G2 AQP10 ENST00000327625 CLCA3
G3 GNRHR OPRK1 DNER IL23R FLJ33641
G4 BCL6B FAM107A
【0156】
従前に言及した膜クラスター遺伝子IL23RおよびGnRHRに加えて、膜クラスター中の他の遺伝子(図8)は、GNGT1、CYSLTR2およびSMR3Bを含んだ。GNGT1は、主として桿状体外節で見出されたトランスデューシンのガンマサブユニットをコードする。CYSLTR2は、炎症プロセスの病原論に関与する細胞輸送および自然免疫反応の重要な媒介物質であるシステイニルロイコトリエンに属する。IFNガンマは、CysLTR2発現を誘導し、CysLT誘導炎症反応を増強する。SMR3B(顎下腺アンドロゲン調節タンパク質3B)は、候補腫瘍関連遺伝子である。
【0157】
核クラスターは、TU3Aとも呼ばれるFAM107A遺伝子を含み、それを種々の癌において後成的に発現抑制させることが報告されている。加えて、発明者らは、膠細胞系誘導の神経栄養因子によって上方制御される転写因子−コーディング遺伝子のBCLB6遺伝子を同定した。各クラスターにおける遺伝子の完全なリストを図8に与える。また、炎症にリンクした注目すべき他の遺伝子は、分泌または膜関連エクト酵素のバニンファミリーのメンバーのバニン3を含めて、上方制御された遺伝子中で見出された。最近、バニン1およびバニン3は、炎症促進性活性を有することが示された。
【0158】
結腸および神経膠腫の細胞が特定の群として処理される場合、発明者らはNAV3発現抑制の正常結腸細胞における一貫して上方制御された39の遺伝子、および膠細胞中で上方制御された28の遺伝子を同定した(表11および12)。DNERは、細胞外EGF様の繰り返しおよび異型Notchリガンドを運ぶ膜貫通型タンパク質であり、それはNAV3発現抑制結腸細胞のみにおいて上方制御された(表11)。
【0159】
【表11−1】
【表11−2】
【0160】
【表12−1】
【表12−2】
【0161】
実施例5.免疫組織化学
組織試料におけるIL23Rおよびβ−カテニン免疫組織化学
IL23Rおよびβ−カテニン発現は、パラフィン包埋大腸生検法から調製した組織マイクロアレイ中の免疫組織化学により検討した。各患者から、組織学的に正常な結腸からの対での試料およびその結腸腫瘍からの2つの試料を、そのアレイに含めた。また、10名の患者からの腺腫様の病変の対での試料および正常結腸からのもう一つの試料を含んだ。全体で57名の患者の43のMSS腫瘍試料、14のMSI腫瘍試料、14の腺腫試料および57の対応する正常結腸試料を組織マイクロアレイに含めた。
【0162】
免疫組織化学は、色素形成基質としてのDABおよびアメリカおよび対比染色としてのマイヤーのヘマトキシリンと一緒に、アビジン・ビオチン・ペルオキシダーゼの複合体技術(Vectastain Elite ABC kit [mouse IgG], Vector laboratories, Burlingame, CA, USA)を用いて実行した。標準的脱パラフィン後、内因性ペルオキシダーゼ活性をPBS中の3% H2O2において10分間ブロックし、切片をクエン酸塩緩衝液(DakoCytomation, Glostrup, Denmark)中で+95℃水浴中で20分間前処理した。次いで、スライドをIL23R(R&D MAB14001;1:30で希釈、1%トリプシンで37℃にて30分間前処理したスライド)に対する、またはβ−カテニン(Zymed CAT-5H10, Invitrogen, Carlsbad, CA 92008 U.S.A;1:250で希釈、DAKO Target Retrieval Solution S1699, pH6〜6.2中で+95℃にて30分間のスライド前処理)に対するマウスモノクローナル抗体と+4℃にて一晩インキュベートした。DABをIL23Rのための発色基質として用い、一方、VECTOR NovaRED基質キットSK−4800をβ−カテニンに用いた。
【0163】
統計解析については、免疫標識結果を以下のようにスコアした:IL23R免疫反応性について、染色なし(スコア0)、弱陽性染色(スコア1)、明確な陽性染色(スコア2)、強陽性染色(スコア3;実施例については、図9も参照)、β−カテニンについて、染色なし(スコア1)、細胞膜染色(スコア1)、細胞質染色(スコア2)、大多数の腫瘍細胞における核染色(スコア3;図9も参照)。
【0164】
統計解析
カテゴリー変数間の相関をカイ二乗検定または、有効でない場合には、フィッシャーの直接確率法を用いて解析した。生存率分析は、主要終点として結腸癌によって引き起こされた死亡を用いて行った。追跡調査時間は、政府系機関のフィンランド統計局から得た。SPSSバージョン15.0ソフトウェア(SPSS, IL, USA)を用いた。
【0165】
NAV3異常MSS腫瘍中のIL23Rまたは核β−カテニンの発現は、デューク病期分類およびリンパ節転移と関連し、IL23Rの発現は予後不良と関連する
次いで、β−カテニン(GnRH経路に連結した)およびIL23R発現の免疫組織化学的検出は、43のMSS(同一患者の8の腺腫試料を含む)および14のMSI患者試料(腫瘍および対応する正常結腸上皮)を含む組織マイクロアレイで行った。これらのケースのすべての正常結腸試料において、β−カテニン染色は常に膜性であり、3つのケース(図9)を除いて、全くIL23R発現が見出されないか、または弱いIL23R発現(グレード1)だけが見出された。
【0166】
正常な上皮細胞において、β−カテニンは細胞膜に位置するが、癌腫試料中の核および細胞質へのその分布を変更することが知られている。代表的なMSS腫瘍試料(各二連試料)において、核β−カテニンは10/43のケースに、およびIL23R免疫反応性(スコア2〜3)の上方制御は27/43のケースで見出された。核β−カテニン発現はリンパ節転移と相関した。組織アレイ試料中の上方制御されたIL23R免疫反応性は、デューク病期分類(実施例2の表3参照、NAV3異常は第12染色体の多染色体性、そしてリンパ節転移と関連する)、およびさらにリンパ節転移(実施例2の表3参照)と強く相関した。対立形質のNAV3欠失を持つ腫瘍試料は、最も頻繁に明らかに上方制御されたIL23R反応性を示した(図9)。
【0167】
カプラン−マイヤー生存率分析(図10)において、上方制御されたIL−23R免疫反応性(スコア2および3)を持つ患者は、通常または低発現レベルの患者より悪い予後を有することが判明した(すなわち、各々、0または1とスコアされた免疫組織学的染色強度、および正常な結腸試料のそれに匹敵する)(実施例2の表3参照)。低IL23R発現を有する患者についての平均生存時間は44か月(95%CI 38〜50か月)であり、一方、上方制御された高発現を持った患者については、平均生存はわずか23か月(95%CI 13〜33か月)であった。
【0168】
11名のMSSタイプCRC患者について、その腺腫および腫瘍の試料中のIL23R、β−カテニンおよびNAV3 FISH結果を比較することは可能であった。高いIL23R発現(中程度または強い免疫染色)および/または核β−カテニンと一緒のNAV3コピー数変化は腺腫試料のうちの3つに存在し、IL23R発現の上昇単独が、2つのさらなる腺腫に存在した(データを示さず)。対応する腫瘍試料において、NAV3異常が上方制御されたIL23R発現にも拘らず見出されなかった2つの試料を除いてその知見は類似した。これらの後者の双方において、しかしながら、対応する腺腫病変は第12染色体の多染色体性を示した。
【0169】
組織試料におけるIL23RおよびGnRHRの免疫組織化学
GnRHR免疫染色は、900ワットにて24分間の電子レンジ中で、室温にて20分間の冷却し、pH9.0のトリス−EDTA緩衝液を用いて抗原検索後にLabVision immunostainer(Labvision, CA, USA)を行った。GnRHRは、クロモゲン(図11)としてジアミノベンジジン(DAB)を含む、マウスモノクローナル抗体(1:10希釈, Abcam, Cambridge, UK)およびポリマーベースの検出システム(Envision, K5007, DakoCytomation)を用いて検出した(図11)。
【0170】
結腸直腸癌または星状細胞腫の患者のパラフィン包埋大腸生検法から調製された、結腸直腸の組織切片の代表的な2つのケース(組織学的に正常な結腸および結腸腫瘍の対での試料)および星状細胞腫(膠芽腫)の2つのケースを含めた。これらの試料については、抗GnRHR抗体およびIL23Rに対するマウスモノクローナル抗体(R&D MAB14001; 1:30希釈、37℃での30分間の1%トリプシンで前処理されたスライド)、ならびに色素形成基質としてのDABでのアビジン・ビオチン・ペルオキシダーゼの複合体検出(Vectastain Elite ABC kit [mouse IgG], Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を用いて、従前に記載されたように、免疫組織化学を実行した。
【0171】
NAV3発現抑制0205細胞、CRCおよび膠芽腫組織試料におけるIL23およびGnRHRタンパク質上方制御の確認
NAV3発現抑制0205細胞中のGnRHRタンパク質レベルの上方制御を免疫染色により示した。GnRHR染色は野性型細胞およびsiRNA組み換え対照トランスフェクト細胞よりNAV3発現抑制細胞においてより高かった(図11、a〜c)。また、CRC組織試料中のGnRHRタンパク質免疫染色は正常な結腸上皮(図11d)においてよりも高かった。結果は、2つの典型的なCRC患者試料、MSSタイプCRCを持つ1つの症例、および腫瘍(NAV3欠失についてのカットオフは、早期に報告したごとく正常な参照試料において3%である、図11e)におけるNAV3欠失細胞の41%、MSIタイプCRCの1つの症例、および腫瘍(図11f)中のNAV3欠失細胞の8%(図11f)において再現可能であった。同様に、GNRHRおよびIL23Rの上方制御は、欠失のない神経膠腫瘍と比較して、NAV3欠失を示す予備的な一連の膠芽腫(星状細胞腫)試料中で観察した(図11gおよびh)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝学および腫瘍学の分野に関し、腫瘍の検出方法、ならびに患者の処置方法および患者に対する予後の予測方法を提供する。
【0002】
詳細には、本発明は、対象における腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す方法、予後の予測方法、NAV3コピー数変化および特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍を有する対象の処置方法、ならびに対象に対する処置の選択方法に関する。また、本発明は、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための、対象に対する予後を予測するための、対象に対する処置を選択するための、およびNAV3コピー数変化を含む腫瘍を有する対象における癌治療のための、NAV3遺伝子または遺伝子産物および特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用に関する。さらにまた、本発明は、対象における癌治療のために特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物のアンタゴニスト、抗体または抑制分子の使用に関する。
【0003】
なお、本発明は、生物学的試料中のNAV3コピー数変化を検出するための手段、および生物学的試料中の特定のリストから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発明を検出するための手段を含む診断用キットに関する。また、本発明は、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ患者にに対する予後を予測するための、および直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ対象に対する処置を選択するための本発明の診断キットの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
癌進行は、染色体不安定性、異数性、ならびに細胞増殖および生存に重要な遺伝子に影響する一連の後天性遺伝子異常の発生により特徴付けられる。単一の遺伝子は、いくつかの決定経路に影響し、正常細胞の癌細胞への転換に導き、癌遺伝子の活性化および腫瘍抑制遺伝子の不活性化を必要とする段階的なプロセスに関与し得る。最近の技術は、癌の発生に導くまれでさえある突然変異の同定を可能とする。
【0005】
良性前駆体病変の腺腫性ポリープによる結腸直腸癌(CRC)発生は、遺伝および後成的な変化の蓄積と共に、多段階の発癌の最もよく知られている例の1つである。また、最近の証拠は、組織微小環境が腫瘍細胞の増殖能および拡散に重要であり(Kim B.G.ら2006, Nature 441: 1015-9; Reuter J.A.ら 2009, Cancer Cell 15: 477-88)、かかる効果は、慢性炎症により駆動され得ることを示唆する。CRCは炎症性腸疾患(IBD)に関連付けられることが知られている。
【0006】
結腸直腸癌の圧倒的多数は、2つの主要なゲノム不安定性表現型のうちの1つのマイクロサテライト不安定性(MSI)または、マイクロサテライト安定性(MSS)とも呼ばれる染色体不安定性(CIN)を示す。CRCの約85%は、MSSに関連し、異数性およびヘテロ接合性の消失(LOH)を示し、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)またはβ−カテニン突然変異は、この表現型において最も一般的な早期の分子異常である。これらの突然変異は異常なWnt経路活性化に導き、これは結腸腺腫形成を始めると考えられる。いくつかのシグナル経路は、散発性結腸癌の発生に関与する。かくして、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)遺伝子の突然変異が存在したとしても、結腸癌を発症するのに数年または数十年間かかる。第2の段階としての癌への腺腫の進行についても、KRASの活性化が必要である(Phelps R.A.ら 2009, Cell 37: 623-34)。また、機能的なAPCの損失が一過性の四倍体性を介してin vivoにて異数性を誘導することが示され(Caldwell C.M.ら 2007, J Cell Biol 178: 1109-20)、これは、損傷または再配列した染色体を含む細胞の適応度を増強し得る。
【0007】
発明者らは、染色体12q21異常、特に、ニューロンナビゲーター3(NAV3)遺伝子の対立形質の損失が、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)(Karenko L.ら 2005, Cancer Res 65: 8101-10; Hahtola Sら 2008, J Invest Dermatology 128: 2304-9; WO2008059112 A1)およびCTCL関連肺癌(Hahtola Sら 2008, Genes Chromosomes Cancer 47: 107-17) のいくつかのサブタイプと関連することを従前に示した。より最近では、NAV3突然変異またはコピー数変化は、各々、黒色腫(Bleeker F.ら 2008, Human Mutation 29: E451-59)、膵臓癌(Bleeker F.ら 2009, Hum Mutat 30(2): E451-9)、およびヒトグリア芽腫(Nord H.ら 2009, Neuro Oncol Mar20)において報告されている。加えて、NAV3は、副腎皮質腺腫(Soon P.H.ら 2009, ERC)と比較して、副腎癌においてかなり差動的に発現(下方制御)した唯一の遺伝子であることが判明した。癌遺伝子景観内では、NAV3は、ヒト乳癌および結腸癌において一般的に変化した「ヒル型」候補癌(CAN)遺伝子に属する(Wood L.ら 2007, Science 318: 1108-13)。
【0008】
遺伝子異常によって影響された経路の同定に研究努力を集中し、それにより、疾患を診断するためのおよび個別化された医療に特異的な医薬を設計するためのさらなる手段を提供することは、ますます重要であると考えられる。今や、発明者らは、NAV3異常と特定の経路およびそれに関連する遺伝子との驚くべきかつ従前に知られていない相関を見出した。かくして、発明者らは、癌治療のための新規な標的、ならびに癌を診断または追跡するための新規な手段および方法を提供する。
【0009】
潜在的に高悪性度の腫瘍のより有効でかつ早期の診断を提供するための、ならびに標的化した治療に感受性の腫瘍を同定するための新規なバイオマーカーまたはバイオマーカーの組合せが保証される。本発明は、腫瘍および癌腫進行を予測または同定するための特定の解決方法を提供する。また、本発明は、腫瘍の臨床的攻撃性および患者の生存を評価するための手段を開示する。さらに、本発明は、癌治療の新しい治療標的を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、遺伝学および腫瘍学の分野に関し、腫瘍の検出方法、ならびに患者の処置方法、および患者に対する予後の予測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かくして、本発明の目的は、腫瘍の悪性形質を示し、癌を病期分類およびモニタリングする新規な方法および手段を提供することにあり、かかる方法および手段は、その疾患の正確な診断を可能とする。
【0012】
本発明の他の目的は、患者について腫瘍惹起または腫瘍進行を予測するならびに予後を予測し、癌を有する患者の処置を選択し、癌を有する患者を処置する新規な方法および手段を提供することにある。本発明の方法および手段は、特異的でかつ信頼性があり、それらは、個別化した医療を利用する。この方法および手段は、救命的であり得る良好に標的化された治療介在を可能とする。
【0013】
本発明のさらにもう一つの目的は、癌の検出ならびに予後評価に有用である新規なバイオマーカーおよびバイオマーカーの組合せを提供することにある。
【0014】
リンパ節転移および関連する炎症ならびに細胞増殖経路に連結したNAV3異常の証明は、癌、特に、結腸直腸、脳または表皮角化細胞をモニタリングするため比較的簡単でかつ入手可能な手段を提供するであろう。NAV3は、悪性形質転換および/または悪性腫瘍の生物学的挙動に効果を有する他の遺伝子およびシグナル経路の発現を調節する。従って、NAV3に影響される経路ならびにその異なる組合せも、抗癌治療設計の目標である。
【0015】
NAV3コピー数変化、特に、NAV3欠失は、直接的に初期の発癌に関係し、より正確な診断法や合理的な治療アプローチのための新規な可能性を開く。
【0016】
本発明は、対象における、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す方法に関し、この方法は、
i)対象からの生物学的試料中のNAV3コピー数変化を決定し;次いで
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料中のIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;
iii)NAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方が対象からの試料中に存在する場合に、対象における腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す
ことを含む。
【0017】
さらに、本発明は、NAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍を有する対象の処置方法に関し、該方法は、少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物が過剰発現で影響される工程を含む。
【0018】
さらに、本発明は、
i)対象からの生物学的試料中のNAV3コピー数変化を決定し;
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料中のIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;次いで
iii)その試料中のNAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方を有する対象に対する予後を予測する
ことを含むことを特徴とする予後の予測方法に関する。
【0019】
さらに、本発明は、
i)対象からの生物学的試料中のNAV3コピー数変化を決定し;
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料中のIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載されたものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;次いで
iii)試料中のNAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方を有する対象に対する処置を選択する
ことを含むことを特徴とする対象に対する処置の選択方法に関する。
【0020】
さらに、本発明は、対象におけるNAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための、NAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用に関する。
【0021】
さらに、本発明は、対象に対する予後を予測するためのNAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用に関する。
【0022】
さらに、本発明は、対象に対する処置を選択するためのNAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用に関する。
【0023】
さらに、本発明は、NAV3コピー数変化を含む腫瘍を有する対象における癌治療のためのIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用に関する。
【0024】
さらに、本発明は、NAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍を有する対象における癌治療のためのIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物のアンタゴニスト、抗体または抑制分子の使用に関する。
【0025】
さらに、本発明は、生物学的試料中のNAV3コピー数変化を検出するための手段、ならびに生物学的試料中のIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を検出するための手段を含む診断用キットに関する。
【0026】
さらに、本発明は、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための本発明の診断用キットの使用に関する。
【0027】
さらに、本発明は、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ対象に対する予後を予測するための本発明の診断用キットの使用に関する。
【0028】
なお、さらに、本発明は、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ対象に対する処置を選択するための本発明の診断用キットの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、同一患者からの腺腫および癌腫試料中の第12染色体の多染色体性およびNAV3欠失細胞の量を示す。
【図2】図2は、正常な結腸、MSSおよびMSI結腸癌、ならびに結腸腺腫試料中のA)第12染色体の多染色体性、B)NAV3増幅およびC)NAV3欠失を示す。
【図3】図3は、染色体アーム特異的MFISHによる第12染色体の転座、またはYAC−プローブにより観察された欠失に関連するNAV3の欠失に関連するBACプローブにより観察された結腸癌細胞系におけるNAV3異常を示す。
【図4】図4は、アレイCGHによって検出された患者試料中のNAV3の損失を示す。
【図5】図5は、GOクラスタ系統樹および発現ヒートマップを示す。
【図6】図6は、NAV3発現の比較を示す。
【図7】図7は、NAV3発現抑制A172膠芽腫細胞のRNAインサイチューハイブリダイゼーションを示す。
【図8】図8は、10のうち8つのノックダウン実験において上方制御された遺伝子のGOクラスタ系統樹および発現ヒートマップを示す。
【図9】図9は、ヒト結腸および結腸直腸癌中のIL23Rおよびβ−カテニンの発現および細胞の局在を示す。
【図10】図10は、IL23R免疫反応性についての生存分布のカプラン−マイヤープロットを示す。
【図11】図11は、NAV3発現抑制0205細胞ならびに結腸直腸および神経膠腫組織のGnRHR免疫染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(図面の簡単な記載)
以下において、本発明は、添付図面を参照して、好ましい具体例によってより詳細に記載される。
【0031】
図1は、同一患者からの腺腫および癌腫試料中の第12染色体の多染色体性およびNAV3欠失細胞の量を示す。
【0032】
図2は、正常な結腸、MSSおよびMSI結腸癌、ならびに結腸腺腫試料中のA)第12染色体の多染色体性、B)NAV3増幅およびC)NAV3欠失を示す。各黒点は1つの試料を表し、200の細胞を全試料からカウントした。
【0033】
図3は、染色体アーム特異的MFISHによる第12染色体の転座、またはYAC−プローブにより観察された欠失についてのNAV3の欠失に関連するBACプローブにより観察された結腸癌細胞系におけるNAV3異常を示す。a)一つにおける3コピーの第12染色体動原体(緑色、Alexa 488)および損失NAV3遺伝子(赤色; BAC RP11−36P3)を示す細胞系SW403(CLL−230)の中期。この欠失は、染色体15q(b;アーム−MFISH)から転座した物質を受け取り、2つの全サイズの出現している染色体15コピー(c、不平衡転座)を伴った染色体において観察された。対応する各DAPI染色は、パネルd〜fに示される。アーム特異的なFISH(g)によって、染色体15(赤色および紫色)からの転座は、第12染色体(緑色およびカルモシン赤色)のp−アーム(オレンジ色)に位置し、欠失はq−アームに確認された。細胞系RKO(h〜j)において、3つの第12染色体(緑色中の動原体)の2つだけが、NAV3遺伝子特異的BAC RP11−136F16プローブシグナル(赤色;h)を示した。第12染色体(i、MFISH)および第2染色体(j、MFISH)間の不平衡転座は、NAV3遺伝子を消滅させた。T84(CLL−248)細胞は、一つ(オレンジ色、BAC RP11−36P3)におけるNAV3シグナルの損失を含むいくつかのコピーの第12染色体(青色中のcen;k)を示した。正常および異常な第12染色体間のサイズ差は小さかった(l、アーム−MFISH)、しかし、NAV3遺伝子の近位および遠位に伸びるYACプローブの825F9(12S326およびWI−7776、パネルm中の赤色)および885G4(WI−6429、WI−9760、パネルn中の赤色)によって示された欠失が観察された。NAV3 特異的シグナル(RP11−36P3、赤色)は、der(2)t(2;12)(o)および正常な第12染色体(q)において見られたが、それは2つの他の第12染色体(p〜q; 動原体、緑色)も、cen 12物質(q)を含む微小染色体においても見られなかった。対応する異常な染色体は、正常な染色体、12,t)と並んだ、アーム−MFISH(2;12)、r)der(10)t(10;12;3)、s)およびi(12)(p)右、t)によって一般的に観察される。
【0034】
図4は、アレイCGHによって検出された患者試料中のNAV3の損失を示す。底部からの視野:ゲノム概観、第12染色体、遺伝子レベル、NAV3プローブは四角形ボックスによってマークされた。
【0035】
図5は、GOクラスタ系統樹および発現ヒートマップを示す。分析は16の遺伝子産物に基づく。遺伝子産物当たりのGO注釈付けの中央の数は8である。加えて、23の遺伝子産物がGO注釈付けを有さず、分析から除外された。色は、遺伝子産物の発現値を表わす。より低い発現値は赤色で、より高い発現は白色で示されている。左の系統樹はGOに基づいたクラスタリングに対応するが、頂部の系統樹は、クラスタリングに対する発現値を用いている。
【0036】
図6は、NAV3発現の比較を示す。NAV3 siRNAでのトランスフェクション後のNAV3 mRNAレベルは、LightCycler q RTPCRおよびAgilent4×44Kマイクロアレイによってアッセイした。
【0037】
図7は、NAV3発現抑制A172膠芽腫細胞のRNAインサイチューハイブリダイゼーションを示す。NAV3−RNAは、NAV3 RNA(紫色)のエクソン37〜39を認識するプローブで検出された。発現抑制細胞(e)、非トランスフェクト細胞(a)、および対照RNAでトランスフェクトされた細胞(c)におけるNAV3発現。a、cおよびeについての5×を超えるプローブを含むセンス対照は、各々、b、dおよびfに示されている。
【0038】
図8は、10のうち8つのノックダウン実験において上方制御された遺伝子のGOクラスタ系統樹および発現ヒートマップを示す。より低い発現値は赤色で、より高い発現は白色で示されている。GOベースのクラスタ系統樹(左)および発現プロフィール(右)に基づいた系統樹クラスター試料が示される。遺伝子名は右側にあり、各カラムは単一の実験を表わす。1を超える遺伝子を含むGO群は底部〜頂部にある:膜(黒色、9つの遺伝子)、イオン輸送(茶色、2つの遺伝子)、核(緑色、4つの遺伝子)およびリボヌクレオチド結合(青色、2つの遺伝子)。
【0039】
図9は、ヒト結腸および結腸直腸癌中のIL23Rおよびβ−カテニンの発現および細胞の局在を示す。正常な結腸組織中のIL23R(a)およびβ−カテニン(d)についての免疫染色の代表的な顕微鏡写真。上方制御されたIL23R免疫反応性は、NAV3欠失(c、グレード3染色、8%のNAV3欠失細胞)を含む結腸直腸癌試料中で観察され、一方、NAV異常のない癌はIL23R染色(b)を示さなかった。双方の試料(bおよびc)は第12染色体の多染色体性を含む20%の腫瘍細胞を有した。NAV3欠失を含まないCRC試料は、正常な膜パターンのβ−カテニン染色(e)を示し、一方、9%の細胞にNAV3欠失を含むCRC試料は、β−カテニン(f)の主に強力な核局在を示した。
【0040】
図10は、IL23R免疫反応性についての生存分布のカプラン−マイヤープロットを示す。
【0041】
図11は、NAV3発現抑制0205細胞ならびに結腸直腸および神経膠腫組織のGnRHR免疫染色を示す。野生型細胞、(a)および対照構築体(b)でトランスフェクトされた細胞に比較したNAV3発現抑制0205細胞中のGnRHRの膜染色。NAV3欠失を含む2つの結腸直腸癌試料中のGnRHR発現:MSSタイプCRCを持つ患者(e)、MSIタイプCRCを持つ患者(f)、正常な結腸直腸の組織対照(d)。55%のNAV3欠失細胞(h)および93%のNAV3欠失細胞(i)を含む2つの神経膠腫(星状細胞腫)試料ならびに正常なNAV3コピー数(g)のGnRHR染色。
【0042】
(本発明の詳細な記載)
発明者らは、NAV3コピー数変化がMSSタイプCRC、結腸腺腫、脳腫瘍、表皮角化細胞、およびいくつかの樹立細胞株に頻繁に見出されることを今や報告する。NAV3異常は第12染色体の多染色体性およびリンパ節関与と関連した。さらに、NAV3の特異的なsiRNA遺伝子発現抑制および発現アレイ分析は、NAV3につき少なくとも2つの重要な標的分子を明らかにした。
【0043】
診断法および処置方法、および予後予測方法
本願において列記された、上方制御された遺伝子またはそれらの遺伝子産物の全ては、新規な診断原理の開発に利用できる。NAV3コピー数の決定に加えて、少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の発現が本発明の方法において検討される。本明細書に用いた、「遺伝子産物」なる表現は、mRNA、タンパク質、または遺伝子から達成されたいずれかの生成物をいう。本発明の特定の実施例において、遺伝子産物はタンパク質である。
【0044】
分泌性であるタンパク質について、患者血液中のそれらのレベルの増加をテストする方法を診断法として用いることができる。非分泌性タンパク質について、免疫組織化学は用いるべき最も適当な方法であろう。
【0045】
診断法は、in vitro、in vivoまたはex vivoにて行うことができる。本発明の特定の具体例において、方法はin vitro方法である。
【0046】
本発明の特定の具体例において、本発明の診断用キットは、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すためのものである。NAV3コピー数変化および/またはいずれかの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を検出するための手段は、適当なプローブ、プライマーまたは抗体を含み得る。
【0047】
本発明の特定の具体例において、腫瘍は、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍、または表皮角化細胞腫瘍である。
【0048】
大部分の主要な脳腫瘍は、星状細胞(星状細胞腫)、乏突起膠細胞(乏突起膠腫)または上衣細胞(上衣腫)のごとき膠細胞(神経膠腫)が起源である。また、星状細胞および乏突起膠細胞成分の双方を含む混合形態も存在する。これらは混合神経膠腫またはオリゴ星状細胞腫と呼ばれる。また、混合グリオ−ニューロン腫瘍(ニューロン成分、ならびにグリア成分を示す腫瘍、例えば、神経節膠腫、胚芽異形成性(disembryoplastic)神経上皮腫瘍)、ニューロン細胞が起源である腫瘍(神経節細胞腫、中枢神経節細胞腫)で遭遇し得る。
【0049】
他の種類の主要な脳腫瘍は、原始神経上皮腫瘍(PNET、例えば、髄芽腫、髄様上皮腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、上衣芽腫(ependymo-blastoma))、松果体実質の腫瘍(例えば、ピネオサイトーマ、松果体芽腫)、上衣細胞腫瘍、脈絡叢腫瘍、不確定の起源の神経上皮腫瘍(例えば、神経膠腫症、星状芽細胞腫)等を含む。本発明の特定の具体例において、脳腫瘍は神経膠腫(すなわち、膠芽腫)である。
【0050】
本明細書に用いるとき「腫瘍」なる表現は、異常に過剰な細胞分裂のまたは正常細胞死の欠如による組織の異常な集団をいう。
【0051】
本発明の特定の具体例において、腫瘍は良性腫瘍または悪性腫瘍、すなわち、癌性腫瘍でないかまたは癌性腫瘍である。「腺腫」なる表現は、非癌性腫瘍をいう。本発明の特定の具体例において、腫瘍は癌である。癌は上皮細胞に由来した悪性腫瘍である。
【0052】
本発明の方法は、腫瘍の悪性形質を示す。悪性形質とは、悪性腫瘍、すなわち、癌性腫瘍をいう。悪性腫瘍は高悪性であり得、すなわち、急増殖でかつ恐らく転移し得る。いずれの「細胞亜集団」も、限定された細胞集団をいい、悪性形質につき検討できる。細胞亜集団は、組織浸潤性炎症細胞内に位置し得る。
【0053】
本発明において、生物学的試料は、組織またはリンパ節、またはいずれかの体器官または全血中の転移性腫瘍病変からの生検のごときいずれの適当な組織試料でもあり得る。また、生物学的試料は尿、便または他の身体排泄物であり得る。生物学的試料は、必要ならば、当業者に知られた適当な方法で前処理できる。
【0054】
また、本発明は、予後の予測に関する。本発明の特定の具体例において、NAV3コピー数変化およびIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍の存在は、リンパ節転移、高グレードの悪性および/または貧弱な生存に関係している。本発明の特定の具体例において、予後は不良である。「予後不良」とは、転移または腫瘍の広がり、最先端技術の治療法に対する無応答性および/または貧弱な生存の高い予期をいう。予測された貧弱な生存の患者において、平均余命は、対応する比較患者群よりも少ない。
【0055】
臨床的設定において、腫瘍のタイプだけでなく、その腫瘍中に存在する遺伝的、機能的および免疫学的な変化を正確に診断する能力は増強されるにちがいない。次いで、より詳しい治療について、治療分子または抗体の選択は、その特定の腫瘍に適合できる。換言すれば、個別化医薬は、異なる分子を標的とする少なくとも2種の薬物を組み合せて必要とされる。
【0056】
全体として、本発明は、有効な新規な治療原理および診断法の開発においてさらに用いることができるいくつかの利用できる結果を明らかにする。NAV3欠失において上方制御され、悪性形質転換に関与する遺伝子の上方制御の発見は、所与の癌についての合理的な療法を選択するのに用いることができる。
【0057】
治療の代替物を用いるべきであるという決定、すなわち、処置の選択は、NAV3コピー数変化(NAV3の発現減少に導くNAV3遺伝子の欠失)およびIL23R、GnRHR、β−カテニン、表8〜12に記載のものおよびIL23/IL23RならびGnRHR経路から選択された遺伝子または遺伝子産物のいずれか1つの上方制御についての悪性腫瘍のテストに基づいている。
【0058】
さらに、本発明の特定の具体例において、処置方法は、IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択された遺伝子または遺伝子産物が、遺伝子または遺伝子産物を低発現または不活性化するか、または遺伝子産物の量を減少させることにより影響される工程を含む。
【0059】
さらに、本発明の特定の具体例において、処置方法は、NAV3の遺伝子または遺伝子産物が影響される工程を含む。
【0060】
本発明の特定の具体例において、NAV3の遺伝子または遺伝子産物は、遺伝子または遺伝子産物を過剰発現または活性化すること、または遺伝子産物の量を増加させることにより影響される。本発明の特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物、すなわち、NAV3、IL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択されたものを活性化、不活性化、過剰発現または低発現させるか、あるいはその遺伝子産物の量を増加または減少させる。本発明の特定の具体例において、少なくともGnRHおよび/またはJAK/STATのシグナル経路が影響される。
【0061】
いずれの治療分子または分子群も標的遺伝子産物に影響させるために用いることができる。本発明の特定の具体例において、アンタゴニスト、抗体または抑制分子は、少なくとも1つの遺伝子産物に影響させるために用いる。「抑制分子」とは、標的作用を阻害または低下させるいずれかの分子(例えば、抑制性RNA小分子または抗体)をいう。本発明の特定の具体例において、抑制分子はsiRNAである。膜関連タンパク質の上方制御は、特に注目され、抗体媒介治療は現在広範囲に用いられ、標的分子に対するヒト化標的特異的な治療抗体を一般的に生成させる方法は容易に利用可能である。
【0062】
処置方法は、従来の薬物の形態であり得、または遺伝子治療として所与され得る。本発明の特定の具体例において、処置方法は遺伝子治療である。
【0063】
治療において、遺伝子の正常機能の回復を用いることができる。これは、機能的に相同性遺伝子の発現の増強により、無傷の遺伝子の導入により、または増殖性疾患の進行を防止するために遺伝子治療に現在利用可能であるいずれかの技術において遺伝子の改変された形態または遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて達成し得る。特に、腫瘍細胞増殖をかかる治療により減速するか、または停止さえし得る。かかる技術は、ex vivoおよびin situ治療方法を含み、前者は、組換えまたはペプチド形態またはアンチセンスオリゴヌクレオチドとして、またはベクターにおいて無傷または改変された遺伝子(またはその機能的ドメイン)を患者に形質導入またはトランスフェクトすることを含み、後者は、改変された遺伝子またはオリゴヌクレオチドを担体に挿入し、次いで、患者に導入することを含む。処置される疾患に依存して、一過性の治療または永続的な治療を達成し得る。あるいは、標的タンパク質に結合するモノクローナルまたはヒト化抗体またはペプチドを用いて、タンパク質の機能を抑制し、かくして、腫瘍細胞の増殖を減速または停止さえできる。また、標的タンパク質に対する抗体を用いて、細胞毒性物質のごとき他の剤をその遺伝子を過剰発現している癌細胞に運ぶことができる。次いで、かかる剤を用いて、癌細胞を特異的に死滅できる。
【0064】
処置は、NAV3の遺伝子または遺伝子産物および/または本願で列記されたいずれかの遺伝子または遺伝子産物を標的とし得る。しかしながら、また、GnRHおよびJak/スタット経路に沿った、他の遺伝子または遺伝子産物も、治療の標的として用い得る。
【0065】
アンタゴニスト、抗体または抑制分子のごとき治療分子は、単独または他の剤もしくは組成物と組み合わせて投与し得る。また、いずれかの治療分子に加えて、患者に投与される医薬組成物は、他の治療上有効な剤、医薬上許容される担体、緩衝剤、添加剤、補助剤、防腐剤、充填剤または安定化剤または増粘剤および/または対応する生成物に通常見出されるいずれの成分も含み得る。
【0066】
医薬組成物は、投与に適した固体、半固体または液体形態のごとき、いずれの形態ともなり得る。薬物の投与は、例えば、経口または吸入投与を介して、または腫瘍内、筋肉内、動脈内または静脈内注射を介して行なうこともできる。
【0067】
本発明の診断、処置またはいずれかの他の方法または使用のための対象は、ヒトまたは動物である。本発明の特定の具体例において、対象はヒトである。本発明の特定の具体例において、対象は結腸直腸腺腫または結腸直腸癌を有する。本発明のもう一つの特定の具体例において、対象は、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を有する。
【0068】
NAV3
NAV3(ニューロンナビゲーター3、POMFIL1とも呼ばれる)は、c12q21.1に位置したスプライスされた遺伝子(40エクソン)であり、脳組織、活性化T細胞、胎盤、結腸、およびある種の癌細胞系において発現される。NAV3のアミノ酸配列は、異なる種の中でよく保存され、これは、NAV3が細胞プロセスに基本的な役割を演じることを示している。アミノ酸配列相同性は、NAV3が細胞シグナリングおよび腫瘍抑制に関与することを示唆する。NAV3は、細胞遊走の非常に重要な媒介物質のC.Elegansのunc−53タンパク質のヒト相同体である。また、NAV3相同体のNAV1およびNAV2は、細胞内フィラメントに結合し、細胞の伸長および遊走を調節する。
【0069】
証拠の蓄積は、NAV3遺伝子の混乱が癌進行の原因となることを示唆する。NAV3転写物発現は、40%の一次神経芽細胞腫において下方制御される(Coy JFら 2002, Gene 290(1-2):73-94)。また、NAV3は、いくつかのサブタイプの皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)において欠失または転座される(Karenko L.ら 2005, Cancer Res 65(18):8101-10; Hahtola S.ら 2008, J Invest Dermatol 128(9):2304-9, Vermeer M.H.ら 2008, Cancer Res 68(8):2689-98)。また、発明者らは、上皮起源の癌におけるNAV3遺伝子コピー数変化(欠失/増幅)(Hahtola Sら 2008, J Invest Dermatol 128(9):2304-9; Hahtola Sら 2008, Genes Chromosomes Cancer 47(2):107-17; WO 2008059112 (A1))、および結腸直腸癌における対立形質NAV3欠失を同定した(Sipila Lら 2008, EJC supplements 6(12) 118)。
【0070】
本発明の特定の具体例において、NAV3コピー数変化は、NAV3遺伝子またはその主要部分の欠失、増幅または転座によって引き起こされる。NAV3遺伝子のコピー数変化は、一倍体、二倍体および/または倍数体細胞において決定できる。
【0071】
「欠失」とは、遺伝子のいずれかの断片の不存在をいい、この不存在は、遺伝子の機能に悪影響する。また、「欠失」とは、全体の遺伝子の不存在またはその遺伝子を含む染色体断片の不存在をいう。本発明の特定の具体例において、NAV3欠失は、NAV3の全体または部分的な欠失である。
【0072】
「増幅」とは、少なくとも1コピーの遺伝子の存在下でのその遺伝子のいずれかの断片の挿入をいう。また、「増幅」とは、遺伝子を含む全体の遺伝子または染色体断片の増幅をいうこともできる。本発明の特定の具体例において、NAV3増幅は、NAV3の全体または部分的な増幅である。例えば、遺伝子の増幅は、遺伝子のコピー数変化によって検出される。
【0073】
「転座」とは、非相同性染色体間の染色体領域の移行をいう。NAV3は、部分的に、全体的に、またはNAV3を含むより大きな染色体の断片の一部として転座し得る。
【0074】
本発明の方法によれば、遺伝子コピー数変化の存在または不存在は、欠失または増幅を検出するのに適当ないずれかの公知の検出方法によって生物学的試料から検出できる。かかる方法は、当業者によって容易に認識され、多重色蛍光インサイツハイブリダイゼーション、多重蛍光インサイツハイブリダイゼーション(MFISH)のごとき蛍光インサイツハイブリダイゼーション、スペクトル核型決定(SKY)、総合二値比標識 (COBRA)、色変化核型決定(colour changing karyotyping)(CCK)を含む。比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)において、遺伝子変化は、DNA獲得および損失として分類される。CGHは、染色体およびサブ染色体のレベルの異常を含む特徴パターンを明らかにする。また、獲得または損失の粗い検出が十分とみなされる場合において、通常のG−バンディング技術を用いることができる。望ましい方法は、臨床検査室における使用に適するものである。
【0075】
いずれかの遺伝子またはNAV3のコピー数の遺伝子発現を検出するのに適当ないずれかの公知の検出方法、すなわち、遺伝子(またはDNA)のコピー数の検出に基づいた方法、および/または遺伝子発現生成物(mRNAまたはタンパク質)の検出に基づいたものは、本発明の方法に用いることができる。かかる方法は、当業者によって容易に認識され、通常のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、RT−PCR、FISH、mRNAインサイツハイブリダイゼーションのごときインサイツハイブリダイゼーション、mRNAインサイツハイブリダイゼーション、ノーザン解析、サザンおよびウェスタン解析、免疫組織化学、およびELISAのごとき他の免疫学的検定を含む。好ましい方法は、ルーチンの臨床検査室に用いるのに適したものである。
【0076】
また、LOH分析は、遺伝子コピー数変化の検出のために利用し得る。本明細書に用いた「ヘテロ接合性の消失(LOH)」なる表現は、一部の細胞のゲノムに対する単一の親の寄与の損失をいう。LOHは腫瘍形成の抑制において役割を演じ得る遺伝子の変異遺伝子を曝露する事象と考えることができる。かくして、LOHは、腫瘍開始または増悪についての重要なマーカーである。癌におけるLOHは、生殖系DNAにおける遺伝子座のヘテロ接合性の存在および腫瘍細胞の同一の座のヘテロ接合性の不存在によって同定できる。
【0077】
本発明の特定の具体例において、NAV3コピー数変化は、FISH、LOH、CGH、配列解析、免疫組織化学、PCR、qPCRまたは組織マイクロアレイによって確認される。
【0078】
遺伝子発現または遺伝子コピー数変化を検出するのに適したマーカーは、標的遺伝子に関連したマイクロサテライトマーカー、SNPマーカー、いずれかのプローブ、プライマーまたは抗体のごときいずれかの生物学的マーカーを含む。
【0079】
NAV3異常の効果
また、本検討の結果が、NAV3の異常が種々の腫瘍および癌において一般的であることを確認する。発明者らは、NAV3コピー数変化を探索する3種の異なる方法:LOH、アレイ−CGHおよびFISHを用いた。FISH法を用いて、発明者らは、結腸直腸癌(CRC)を持った実質的な数の症例における第12染色体およびNAV3遺伝子のコピー数変化で細胞を観察した。また、重要なことには、NAV3欠失は、23%の腺腫試料で検出した。しかしながら、すべての症例での知見は、主として正常な二倍体形質を含む細胞、および可変数の第12染色体および/またはNAV3標識を含む異常細胞よりなる腫瘍細胞の異種集団を示した。この設定において、遺伝子の対立形質の欠失または増幅は、例えば、同種腫瘍中の腫瘍抑制遺伝子における変異を含む状況とは異なる。このタイプのコピー数異常が、個々の細胞を分析するFISH法でのみ観察できるが、同じタイプの異常を示すために試料中に細胞の40%以上を必要とする2種の方法のアレイ−CGH、またはLOHではほとんどの場合観察できないことに注目することは重要である。未選択の臨床系の組織試料からの発明者らの知見は、同様の第12染色体の多染色体性およびNAV3コピー数変化がMSSタイプの3種のCRC樹立細胞系、およびMSIタイプの1種の細胞系においても観察されたという事実によって強調される。
【0080】
明白な癌腫の症例において、NAV3異常を持つ症例は、明らかにより多くのリンパ節転移を示した。
【0081】
本検討では、腺腫性ポリープにおいて、NAV3損失は、古典的基準(サイズ、分化)により、引き続いての悪性形質転換のより高いリスクを示した場合に、よりしばしば見られた。
【0082】
遺伝子発現プロフィールに対するNAV3下方制御の効果を理解し、かつin vitroでのNAV3欠失の効果を特徴付けるために、発明者らは、正常な結腸上皮細胞、膠芽腫樹立細胞系、新しく誘導した膠芽腫細胞系およびヒト乳頭腫ウィルス感染を欠いている一次ヒト角化細胞におけるRNA干渉でNAV3発現を抑制させた。トランスフェクション後のいくつかの時点の遺伝子発現プロフィールは、アジレント2重色4×44Kマイクロアレイを用いて分析された。このアプローチでは、NAV3遺伝子抑制は結腸細胞において39の遺伝子の一貫した上方制御に導いたが、28の遺伝子は、膠細胞において上方制御された。これらのうち、IL23およびGnRHの受容体は、PathwayExpress解析が、GnRHおよびJak−Statシグナル経路がNAV3により標的とされることを示唆した。すべての細胞系からの結果を組み合わせた場合、GnRHRおよびIL23Rを含めた、49の遺伝子は、10の試料のうちの7において、各細胞型中で少なくとも1回上方制御された。結局、性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体(GnRHR)およびインターロイキン23受容体(IL23R)を含めた17の遺伝子が、結腸および膠細胞の8つの実験すべてにおいて上方制御された。
【0083】
NAV3のsiRNA発現抑制は、in vivoにて見出された対立形質の欠失を模倣し、かくして、腫瘍形成性ならびに炎症/免疫反応の双方に関与することが知られた2種の受容体分子のGnRHRおよびIL23Rの上方制御は、悪性プロセスの開始ならびに悪性細胞の生物学的挙動の決定の双方に潜在的な重要性を有する。
【0084】
重要なことには、MSS腫瘍において、IL23R免疫反応性の上方制御はデューク病期分類(p<0.001)およびリンパ節転移(p<0.001)と相関したが、核β−カテニンは、リンパ節転移にだけ相関した(p=0.045)。ログランク検定は、上方制御されたIL23R免疫反応性を好ましくないマーカーと同定した(p=0.009)。
【0085】
さらに、NAV3欠乏は、炎症伝達物質IL23R、バニン3およびCYSLTR2の上方制御により、組織炎症を腫瘍成長に連結した。かくして、発明者らの知見は、炎症の微小環境において、上方制御されたIL23Rが悪性細胞に増殖の有利さを与えるので、NAV3コピー数変化が初期の発癌に直接的に関与することを示唆する。
【0086】
GnRHR
GnRHRは、脳下垂体の性腺刺激ホルモン分泌細胞により、黄体形成ホルモン(LH)、濾胞刺激ホルモン(FSH)および性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌を刺激するオートクリン性腺刺激ホルモン受容体である(Yeung CMら 2005, Mol Hum Reprod 11(11):837-42)。脳下垂体の性腺刺激ホルモン分泌細胞に加えて、GnRHRは、リンパ球、乳房、卵巣および前立腺細胞の表面上で発現されることが知られている。多数の最近の報告は、GnRH−GnRHR軸も下垂体細胞外において活性であり、GnRHRの上方制御が、多数の癌、特に、癌腫に観察されたことを示している(Harrison GSら 2004, Endocr Relat Cancer 11(4):725-48)。GnRHR活性化は、β−カテニンおよびT細胞因子(TCF)経路に影響する前初期遺伝子(IE)の活性化に最初に導くと考えられる(Salisbury TBら 2008, Mol Endocrinol 22(6):1295-303)。また、基準Wntシグナル経路のメンバーのβ−カテニンは、β−カテニン分解を調節するグリコーゲン合成酵素キナーゼ3の不活性化(Gardner Sら 2009, Neuroendocrinology 89(3):241-51)を介してGnRHシグナルの変換(Salisbury TBら 2008, Mol Endocrinol 22(6):1295-303)に必須の役割を演じる。他方、いくつかの報告は、β−カテニンの発現レベルの増加が腫瘍のリンパ節転移に影響することを示している(Buhmeida Aら 2008, APMIS 116(1):1-9)。
【0087】
発明者らの患者の材料において、核β−カテニン発現が、NAV3異常と関連し、リンパ節転移と相関することを驚くべきことに見出した。また、NAV3で調節された標的分子としてのGnRHの発明者らの同定は、癌腫予防および治療用の候補経路を表わす。
【0088】
IL23R
IL−23Rの同定は、JAK−STATシグナリングに連結され、炎症促進性の組織微小環境が腫瘍細胞の増殖能および拡散に影響するという発明者らの仮説を支持する。IL−23RリガンドIL−23はマクロファージおよび樹状細胞のごとき活性化された炎症細胞によって分泌される。IL−23Rヘテロ二量体は、IL−12受容体・ベータ1(IL−12Rベータ1)およびIL−23R(IL−12Rベータ2に関連)鎖からなり(Beyer BMら 2008, J Mol Biol 382(4):942-55);その後者は、NAV3発現抑制細胞中で上方制御された。JAK2およびSTAT3の双方は、IL−23Rと関連する。JAK2はIL−23に応じて受容体を燐酸化し、活性化STAT3二量体は、核に移動させ、リガンド依存性にIL−23Rに結合する。また、JAK/STAT経路は、上流の遺伝子における突然変異によって活性化され、多数のヒト悪性腫瘍において構成的に活性化されることが示されている(Constantinescu SNら 2008, Trends Biochem Sci 33(3):122-31; Li WX. 2008, Trends Cell Biol 18(11):545-51)。
【0089】
最近の蓄積する証拠は、IL−23が腫瘍細胞に対する細胞傷害性T細胞反応を炎症促進性エフェクター経路に変え得ることを示唆し、これはそれと戦う代わりに腫瘍を育てる(Langowski JLら 2006, Nature 442(7101):461-5)。結果的に、IL−23Rを発現する腫瘍細胞は、増殖優位を得、腫瘍特異的T細胞の存在下でさえ持続するようである。また、IL−23Rは炎症性腸疾患(IBD)に関連付けられている。初期のクローン病の小児において、IL12p40およびIL23R mRNAの粘膜レベルは、後期疾病においてよりもかなり高いことが示されている(Kugathasan Sら2007, Gut 56(12):1696-705)。注目すべきことには、IBDは、CRCおよび他の癌のリスク増加に関係している(Lakatos PLら 2008, World J Gastroenterol 14(25):3937-47; Hemminki Kら 2008, Int J Cancer 123(6):1417-21)。
【0090】
癌が始まっている間の組織炎症細胞と上皮細胞との間の情報伝達は、マウスの胃腸管における自発的な上皮癌に導くT細胞におけるSmad 4依存性シグナリングの損失を介して示された(Kim BGら 2006, Nature 441(7096):1015-9)。Smad4−/−T細胞は、IL23/IL−23R複合体のようなJAK−STATシグナル経路を活性化するIL−6を生成した。また最近、L−6/STAT3シグナリングは、大腸炎関連癌のマウスモデルの腫瘍形成に極めて重要な役割を有することが示された(Grivennikov Sら 2009, Cancer Cell 15(2):103-13)。
【0091】
他の標的遺伝子
GNRHRおよびIL23Rに加えて、発癌に関連付けられる5つの遺伝子(ARL11、SMR3B、FAM107A、MFSD2およびBCLB6)および炎症に関連付けられる2種の遺伝子(CYSLTR2およびVNN3)が、本検討におけるNAV3発現抑制により上方制御されることが示された。最近、MFSD2を含めたMYCL1 LD領域における多形性は、MFSD2遺伝子は対立遺伝子頻度における人種差を示すが、肺癌生存率に影響することが示された(Spinola Mら 2007, Lung Cancer 55(3):271-7)。最近、大腸炎関連結腸癌マウスモデルにおいて上皮バニン−1が炎症駆動の発癌を制御し(Poyet et al, 2009)、バニン−1およびバニン−3発現レベルの双方が、乾癬皮膚細胞の炎症促進性サイトカインによって増強される(Jansen PAら 2009, J Invest Dermatol Mar 26)ことが示された。この文脈において、乾癬および腹腔の患者群の双方が癌のリスク増加を有することに注目することは興味深い(Grulich AE および Vajdic CM. 2005, Pathology 37(6):409-19)。膜関連タンパク質クラスターおよびそれらの下流標的の上方制御は、特に注目される。
【0092】
本発明において、少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物は、方法、手段または使用につき選択される。本発明の特定の具体例において、IL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される遺伝子は、タンパク質をコードし、このタンパク質は、膜タンパク質、細胞プロセス調節タンパク質またはプリンヌクレオチド結合タンパク質である。本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物は、ARL11、SMR3B、FAM107A、MFSD2、BCLB6、CYSLTR2、VNN3、GNGT1、DNER、GnRHR、IL23R、β−カテニン、JAK1およびJAK3よりなる群から選択される。本発明のもう一つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物はIL23Rまたは/およびGnRHRである。
【0093】
本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは、少なくともIL23R、GNRHRおよびβ−カテニンである。本発明の特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せはIL23R、GNRHRおよびβ−カテニンである。
【0094】
本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは、表9に記載されたすべての49の遺伝子または遺伝子産物である。本発明のもう一つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは、表8に記載されたすべての17の遺伝子または遺伝子産物である。本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは、表10に記載されたすべての14の遺伝子または遺伝子産物である。本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは表11に記載されたすべての遺伝子または遺伝子産物である。本発明の1つの特定の具体例において、遺伝子または遺伝子産物の組合せは、表12に記載されたすべての遺伝子または遺伝子産物である。
【0095】
以下の実施例は本発明のさらなる例示のために与えられる。技術進歩につれて、種々の方法で本発明の概念を実施できることは当業者には明らかであろう。本発明およびその具体例は、下記の実施例に限定されず、特許請求の範囲の範囲内で変更し得る。
【実施例】
【0096】
実施例1.組織試料、細胞および細胞系
組織試料
直腸結腸腫瘍試料
ミッケリ中央病院にてCRCで手術した59名の患者から外科的生検試料(61のCRCおよび10の腺腫試料)をFISH、LOHおよび免疫組織化学によって検討した。この検討は、ミッケリ・セントラル病院の倫理審査委員会、および法医学的業務のための国内当局によって承認された。ホルマリン固定のパラフィン包埋組織試料の組織学を経験のある病理学者(MH)によって確認し、腫瘍、腺腫または正常な粘膜を顕微解剖して、純粋に正常または少なくとも50%比の癌腫または腺腫組織を得た。標準的なプロトコールに従い、パラフィン包埋切片を50μmの厚みに切り、核をFISH分析のために単離し、DNAをLOH分析のために精製した(Hyytinen Eら 1994, Cytometry 16: 93-96; Isola J.ら 1994, Am. J. Pathol 145: 1301-1308)。すべての腺腫はMSSであったが、56の癌のうちの14は高度のMSIを有した。
【0097】
5つのジヌクレオチド反復マーカー(D12S1684、D12S326、D12S1708、D18S474およびD9S167)を補足した、ベセスダの委員会からのモノヌクレオチド反復マーカーBAT25およびBAT26を用いて、マイクロサテライト不安定性(MSI)ステータスを決定した。少なくとも2つの不安定なマーカーを含む試料は、MSIを有すると考え、一方、1つの不安定なマーカーを含むかまたは全く含まないものをマイクロサテライト安定性(MSS)とみなした。
【0098】
以下のパラメーターを統計解析に含めた:腫瘍グレード、デュークによる腫瘍病期分類、および米国癌学会(www.cancer.org)によって定義されたTNM分類による腫瘍病期、リンパ節転移の存在、追跡時間(月)、および臨床結果(生存、他の理由で死亡、または疾患で死亡)。
【0099】
脳腫瘍試料
FISHアッセイ用試料を119例の脳腫瘍症例から調製した。症例は、55例の星状細胞腫、20例の乏突起膠腫、13例の上衣腫、18例の髄芽腫、および13例の神経芽細胞腫よりなった。すべての組織試料をルーチンのホルマリン固定によって処理し、パラフィン中に包埋した。
【0100】
標準的プロトコールに従い、パラフィン包埋切片を50μm厚みに切り、核をFISH分析のために単離した(Hyytinen Eら 1994, Cytometry 16: 93-96; Isola J.ら 1994, Am. J. Pathol 145: 1301-1308)。
【0101】
細胞、細胞系、および細胞培養
CRL−1541およびCRL−1539の正常結腸細胞(ATCC, Manassas, VA, USA)、グレード4膠芽腫に由来した膠芽腫細胞系A172、および一次表皮角化細胞(すべてATCC, Manassas, VA, USAから)を30を超える継代のためにATCCにより指示されたように増殖させた。また、結腸直腸癌の細胞系CCL−228(SW480)、CCL−230(SW403)、CCL−248(T84)、RKO、LIM1215およびHCA7(ATCC, Manassas, VA, USA)をATCCにより指示されたように増殖させた。CRC細胞系の中で、RKO、LIM1215およびHCA7は、ミスマッチ修復欠損性であり、MSIを有することが知られている。
【0102】
周術期に摘出したグレード4多形態の膠芽腫からの新鮮な細胞を用いて、細胞系0205を誘導した。腫瘍組織を機械的に分離し、細胞を血清の添加なくして、栄養素混合物F12(Sigma-Aldrich, ST Louis, MO, USA)、ファンギゾン2.5μg/μl(Apothecon, NJ, USA)、B27(Gibco/Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)、上皮成長因子(EGF)20ng/ml(Sigma-Aldrich, ST Louis, VA, USA) 、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)40ng/ml(Sigma-Aldrich, ST Louis, VA, USA)、ペニシリン−ストレプトマイシン100U/ml(Biowhittaker, Verviers, Belgium)およびGlutamax(1x)(Gibco/Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を補足したDMEM中で培養した。5継代後、クローン細胞集団がバルク調製物から出現し、アリコートを冷凍した。すべての引き続いての実験について、新鮮なアリコートを解凍し、20継代未満の細胞培養物だけを用いた。神経細胞マーカー(神経膠線維酸性タンパク質および神経細胞クラスベータ−チューブリン)発現を免疫染色により評価した。細胞の回収は、ヘルシンキおよびウーシマー病院地区倫理委員会によって承認され、書面のインフォームドコンセントを患者から得た。
【0103】
実施例2.FISHおよびLOH分析
FISH(蛍光インサイチューハイブリダイゼーション)
細胞系CRL−1541、CRL−1539およびA172を、従前に記載されたマルチカラーFISHを用いてNAV3コピー数変化につき検討した(Karenko Lら 2005, Cancer Res 65:8101-10)。また、FISH分析は、0205細胞系を確立した腫瘍組織につき行った。
【0104】
さらに、NAV3特異的FISHアッセイを、患者試料(61のCRCおよび10の腺腫)から単離した核、および結腸癌細胞系(CCL−228、CCL−230、CCL−248、RKO、LIM1215およびHCA7)の中期染色体に行った。NAV3 DNA(RP11−36P3およびRP11−136F16;Research Genetics Inc., Huntsville, AL, USA)および第12染色体動原体プローブ(pA12H8;American Type Cell Culture)に特異的なバクテリア人工染色体(BAC)クローンを用い、各々(患者試料)、またはジゴキシゲニンもしくはビオチン(細胞系から分裂中期)と共に、Alexa594−5−dUTPおよびAlexa 488−5−dUTP(Invitrogen)のいずれかで標識した。プローブ標識のための詳細な方法、FISHアッセイのスライドの調製およびアーム特異的MFISHの使用を以下に示す。
【0105】
また、NAV3特異的FISHアッセイを119の脳腫瘍症例の試料から単離した核に行った。プローブ標識のための詳細な方法、FISHアッセイのスライドの調製およびアーム特異的MFISHの使用を以下に示す。
【0106】
プローブ標識.患者試料の分析のために、NAV3 DNAに特異的な2種のバクテリア人工染色体(BAC)クローン(RP11−36P3およびRP11−136F16;Research Genetics Inc., Huntsville, AL, USA)および第12染色体動原体プローブ(pA12H8;American Type Cell Culture)を、ニックトランスレーション法を用いて、各々、Alexa 594−5−dUTPおよびAlexa 488−5−dUTP(Invitrogen)で標識した。BACおよび動原体プローブをヒトCOT−1 DNA(Invitrogen)と一緒に混合し、沈殿させ、ハイブリダイゼーション緩衝液(15%w/v硫酸デキストラン、2×SSC、pH7.0中の70%ホルムアミド)で希釈した。
【0107】
細胞系の分析のために、NAV3特異的BACプローブを調製し(前記参照)、ジゴキシゲニンで標識し、動原体12特異的プローブを調製し、従前に記載されたニックトランスレーション (Karenkoら 2005)により、ビオチンまたはイソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)をコンジュゲートしたdUTPで、あるいは同様にジエチルアミノクマリン−5−dUTP(DEAC, Perkin Elmer Life and Analytical Sciences, Boston, MA, USA)で標識した。
【0108】
FISH法. 核スライドを1Mチオシアン酸ナトリウムで+80℃で5分間前処理し、2×SSCで3回洗浄し、50%グリセロールで処理し、0.1×SSCで+90℃で6分間、2×SSCで3分間洗浄し、次いで蒸留水で2分間3回洗浄した。スライドをプロテイナーゼK(Sigma;20mM Tris−HCl,pH7.5,2mM CaCl2中の8μg/ml)で+37℃で8分間消化した。脱水および風乾後に、プローブ混合物を添加し、スライドを+85℃で6分間変性させ、+37℃で48時間ハイブリダイズした。スライドを1.5M尿素で3回、0.1×SSCで+47℃で10分間、0.1×SSCで+47℃で10分間、PBSで3回、室温にて0.1%NP−40で洗浄し、蒸留水で濯ぎ、風乾し、4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドールジヒドロクロリド(DAPI;Vector)を用いてVectashield Mounting Medium中で開始した。
【0109】
患者試料のFISHスライドは、60倍油浸レンズおよび、Alexa488、Alexa594およびDAPI(Chroma Technology Corp., Brattleboro, VT, USA)の同時検出用のトリプルバンドパスフィルターを備えたオリンパスBX51顕微鏡(Tokyo, Japan)を用いて評価した。
【0110】
通常の中期スライドを、従前に記載されたごとくFISHのために調製した(Abdel-Rahman W. M.ら 2001, Proc Natl Acad Sci USA 98: 2538-43)。プローブのハイブリダイゼーション、ならびにジゴキシゲニン標識NAV3プローブおよびビオチン標識動原体12特異的プローブの検出は、従前に記載される(Karenkoら 2005)ごとく、アビジン−FITC(Vector laboratories, Burlingame, CA, USA)、およびローダミンでコンジュゲートしたヒツジ抗ジゴキシゲニン(Roche, Mannheim, Germany)を用いて行った。アーム特異的なMFISHは、製造者により推奨されるようなXaCyteキット(Metasystems GmbH, Altlusheim, Germany)で行った。ハイブリダイズした中期は、マニュアルまたは、自動捕捉機能(Metafer, Metasystems, Altlussheim, Germany)のいずれかを用いて、落射蛍光顕微鏡(Axioplan Imaging 2, Zeiss, GmbH, Jena, Germany equipped with a CCD-camera)およびMFISHプログラムモジュール(Isis, Metasystems, Altlussheim, Germany)で分析した。
【0111】
FISH結果の評価
患者由来の結腸直腸および脳腫瘍試料からのFISHスライドは、2種の独立した分析機器によって、同一性をサンプリングするようにブラインドして分析した。結果は、200の計数された細胞核の総数中の異常細胞の百分率として示す。2つの第12染色体シグナルおよび1つだけのNAV3シグナルを含む細胞、および2を超える第12染色体シグナルを含むが、より少数のNAV3シグナル(例えば、3つの第12染色体動原体シグナルおよび1つのNAV3シグナル)を含む細胞をNAV3欠失を含む細胞と解釈した。動原体12−シグナルより頻繁なNAV3シグナルを示す細胞は、NAV3増幅を含む細胞と解釈した。増幅を示す間期細胞の百分率が7%を超えるか、または欠失を示す間期細胞の百分率が4%を超える(平均+3標準偏差として通常のサンプル結果の正規分布から計算)ならば、試料は異常なNAV3であると考えた。細胞系CCL−228、CCL−230、CCL−248、RKO、LIM1215およびHCA7について、10〜47の中期をNAV3および動原体12につき分析し、6〜11の中期をアーム−MFISHにつき分析した。
【0112】
マイクロサテライトマーカーを用いるNAV3 LOH分析および単一ヌクレオチドプライマー伸張SnuPE
NAV3 LOHアッセイは、従前に記載される (Hahtola Sら 2008, J Invest Dermatology 128: 2304-9)ごとく直腸結腸腫瘍試料で行った。加えて、白人/欧州人において0.493までのヘテロ接合性を示すNAV3遺伝子のエクソン19内のA/G多形性(rs1852464)を、SNuPE反応に用いた。
【0113】
まず、DNA試料は、プライマーrs1852464F 5’−CCTGCTATTTTCATCTTTCAAGC 3’(配列番号:1)およびrs1852464R 5’GGCTGGGATGCTGTTTGAG 3’(配列番号:2)用いてPCR 増幅して、A/G多形性を含む130の130bp PCR断片を得た。引き続いて、PCR生成物をエキソヌクレアーゼI(10U/μl)およびSAP(エビアルカリホスファターゼ、2U/μl) (ExoSAP-IT, Amersham Biosciences)により精製し、PCR伸長を蛍光標識伸長プライマーの5’GATGCTGTTTGAGCGCATCATGCTGGGCCC 3’(配列番号:3)およびddCTPを含むヌクレオチド混合物を用いて行った。伸長生成物は、GまたはAがテンプレート中に存在するかに依存して、43bpまたは49bpであり、それらを分離し、従前に記載される(Hahtolaら 2008, J Invest Dermatology 128: 2304-9)ごとく、結果を分析した。
【0114】
試料は、その通常の適合に比較したフランキングマイクロサテライトマーカーにて、rs1852464で、またはこのマーカーにつき構成的ホモ接合性の事象において、腫瘍試料中の対立遺伝子のうちの1つが40%以上のシグナルの現象を有したならば、LOHを示すとして得点した(Cleton-Jansen A. M.ら 2001, Cancer Res 61: 1171-7)。
【0115】
対応するNAV3異常は、FISHまたはLOH方法を用いた場合、同一患者に生起された結腸直腸の腺腫および癌に見出される
2症例以外の全てに同一の外科手術にて得られた所与の患者の腺腫および癌の試料間のNAV3コピー数の比較は、NAV3欠失が腺腫段階におけるFISH技術によって頻繁に検出できることも明らかにした(図1)。しかしながら、NAV3異常細胞の量は、組織学的悪性病変において常により高かった。同様に、LOHでの3つの腺腫のうちの2つにおいて、適合する癌は、大抵同様のパターンのLOHを示した。これは、NAV3異常を含む細胞を有する組織学的に良性の腺腫は、既に悪性腫瘍の特性を有し得ることを示唆する。
【0116】
NAV3コピー数変化はFISHまたはLOH方法を用いることによりCRCおよび結腸直腸腺腫に見出される
NAV3コピー数変化を含む細胞は、MSSタイプの結腸直腸の癌腫試料の40%に検出し;NAV3欠失または増幅のいずれかを含む細胞は試料の15%に検出したが、15%の試料はNAV3欠失だけを示し、10%は単独で低レベルのNAV3増幅(3〜5コピー)を有した。また、NAV3欠失を含む細胞は、MSI標本試料の12.5%および腺腫試料の23%に検出した。加えて、第12染色体の多染色体性を含む、最もしばしば、3または5コピーの細胞を、MSSタイプの結腸直腸の癌腫試料の70%、MSI標本試料の50%および腺腫試料の31%に検出した。FISH結果を図2に示す。
【0117】
結腸癌細胞におけるNAV3コピー数変化をLOHアッセイによって確認した。LOHは、MSS癌の21%および腺腫試料の18%に検出した。各マーカーの結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
* LOH頻度を有益な症例のみにつき計算した。検査した第12染色体マイクロサテライトによりLOHを示した5つの癌およびすべての腺腫における構成的なホモ接合性により、SNuPEテストは情報価値がなかった。
【0119】
FISHで示されたNAV3コピー数変化または転座は、CRC樹立細胞系に見出される
6種の異なるCRC樹立細胞系(CCL−228、CCL−230、CCL−248、RKO、LIM1215およびHCA7)および2種の正常な結腸細胞系(CRL−1541およびCRL−1539)を、NAV3特異的FISHで分析した(表2)。正常な結腸細胞CRL−1541およびCRL−1539は、第12染色体動原体シグナルに関してNAV3につき異常シグナルを示さなかったが、CRL−1539においては、8%の細胞はこれらのシグナル双方に四染色体であった。3種の細胞系(SW403、RKO、T84)は、NAV3の損失を含む中期の注目すべき部分を示した(SW−403およびT84は中期の90%以上およびRKOは中期の40%を超える;表2および図3)。近二倍体系CCL−228は、典型的には、1つの正常な第12染色体、NAV3シグナルの損失を含む2つの染色体異常、およびNAV3シグナルを含むが第12染色体動原体シグナルを含まない1つの染色体異常を示した。アームMFISHによってt(2;12)と解釈されたNAV3のもう一つの染色体への転座は、1つを除いてすべての中期に観察した(表2、図3)。
【0120】
【表2】
従前に観察したHCA7中のクローン12q+染色体(Abdel-Rahman W.M.ら 2001. Proc Natl Acad Sci USA 98: 2538-43)さえ、本検討におけるNAV3シグナルを示したので、細胞系LIM1215(MIN)およびHCA7(MIN)は、NAV3シグナルと同数の動原体12を示した(それぞれ、検討した27/27および27/29の中期)。
【0121】
結腸直腸試料のNAV3異常は、第12染色体の多染色体性およびリンパ節転移と関連する
結腸直腸試料のNAV3異常は、統計的有意差を持って、第12染色体の多染色体性およびおよびリンパ節転移と関連した(表3)。さらに、第12染色体の多染色体性は、高度の悪性を持った腫瘍において、よりしばしば生じた(表3)。
表3。
【0122】
【表3】
1)ns=統計的に有意でない
2)MSS患者群に対して分析した相関性。
2)カイ二乗検定、直接、両側。
3)対数ランクテスト
【0123】
NAV3遺伝子コピー数変化は脳腫瘍で見出される
55の星状細胞腫、20の乏突起膠腫、13の上衣腫、18の髄芽腫および13の神経芽腫の全体で119の脳腫瘍ケースを、FISHを用いてNAV3遺伝子コピー数変化および第12染色体の多染色体性につき分析した(表4参照)。NAV3欠失、NAV3増幅および第12染色体の多染色体性についてのカットオフレベルは、各々、4%、7%および10%であった。
【0124】
NAV3の欠失および増幅の双方は、星状細胞腫に検出し;検討症例の20%(55のうち11)はNAV3欠失および11%(55のうち6)は増幅を示した。第12染色体の多染色体性を、その症例の45%(55のうち25)で観察した。カプラン−マイヤーテストを用いる統計分析はNAV3増幅の傾向を示し、NAV3の欠失または正常なコピー数より疾患のより良好な結果を予測する。
【0125】
検討した乏突起膠腫の症例は、30%(20のうち6)にNAV3欠失および15%(20のうち3)に増幅を示した。第12染色体の多染色体性をその症例の43%(23のうち10)に検出した。第12染色体の多染色体性は、カプラン−マイヤーテストで解析した場合にその疾患のより貧弱な結果を予測するようであった。
【0126】
上衣腫は、検討した症例の31%(13のうち4)でNAV3の欠失、54%(13のうち7)でNAV3増幅、および69%(13のうち9)で第12染色体の多染色体性を示した。統計解析は、NAV3増幅および第12染色体の多染色体性がより貧弱な生存を予測することを示した。NAV3の欠失は、髄芽腫症例の11%(18のうち2)、NAV3の増幅は39%(18のうち7)、および第12染色体の多染色体性は61%(18のうち11)で観察された。カプラン−マイヤーテストを用いる統計解析は、NAV3欠失がより貧弱な生存を予測することを示し、NAV3増幅は、対照的に、NAV3の正常なコピー数よりよい良好な見通しを予測した。
【0127】
NAV3欠失は試験した神経芽細胞腫症例に検出されなかったが、69%(13のうち9)はNAV3増幅を示し、77%(13のうち10)は、第12染色体の多染色体性を示した。カプラン−マイヤーテストにおいて、NAV3増幅および第12染色体の多染色体性は、より貧弱な生存を予測するようであった。
【0128】
【表4】
【0129】
神経膠腫瘍グレード1、2および3を1つのクラスに分類し、NAV3異常(表5)に関するグレード4神経膠腫瘍と比較した(表5)。分析は、より良好に区別された、より低いグレード1、2および3が、グレード4の神経膠腫瘍よりも多数のNAV3増幅を含むことを示した。NAV3増幅は、グレード4神経膠腫瘍における5%(38のうち2)に対して、グレード1、2および3の神経膠腫瘍において27%(48のうち13)で観察した。対照的に、グレード4神経膠腫瘍はグレード1、2および3より多数のNAV3欠失を含んだ。NAV3欠失は、グレード1、2および3腫瘍における15%(48のうち7)に対して、グレード4神経膠腫瘍の18%(38のうち7)で観察した。
【0130】
【表5】
【0131】
実施例3.CGH
アレイCGH
DNAを標準プロトコールによって50マイクロメートルのパラフィン包埋組織切片から抽出した。参照DNAは、4名の健康な男性および女性からフィンランド赤十字にてプールされた血液から抽出した。次いで、製造者(Agilent Technologies, Santa Clara, USA)のプロトコールに従い、消化、標識し、244Kのオリゴヌクレオチドアレイにハイブリダイズした。試料は、DNAマイクロアレイスキャナで走査し、Feature ExtractionおよびCGH解析ソフトウェア(Agilent Technologies, Santa Clara, USA)を用いて解析した。解析は、z−スコアおよび1Mb遊走平均ウィンドウを用いて行った。+/−0.4下のLog2−値は、異常であると考えられなかった。3種の結腸癌細胞系および2種の結腸癌腫瘍試料をこの方法を用いて用いて解析した。
【0132】
選択した症例の患者材料およびCGH細胞系のアレイ−CGH解析
患者材料からの2つの試料および、3種のCRC樹立細胞系CLL−230、CLL−248およびCLL−228に対してアレイ−CGH試験を行った。アレイ−CGHデータは、患者試料のうちの1つにNAV3座にわたる12q21における欠失を示し、それにより、FISH結果を確認した(この患者試料は、FISH法によって41%のNAV3の欠失細胞を有した)(図4)。しかしながら、他の患者試料は、恐らくその試料中のNAV3異常細胞の不十分な比例数により、この解析において正常の結果を示した(28%の細胞は、FISH分析でNAV3シグナルの増幅を示す)。培養された癌細胞の中で期待されるように、結腸癌細胞系のアレイ−CGH分析は、第12染色体ならびに他の染色体のFISHで明らかにされた主要な改変におけるNAV3損失を示す。CLL−230系において、NAV3座にわたる広範囲の欠失を12qに検出した。この欠失は他の(2種の)細胞系(CLL−248およびCLL−228)に検出されず、今度は、その染色体の他の部分の増幅を示した。
【0133】
実施例4。
RNAiおよび遺伝子発現マイクロアレイ
方法
in vitroでのNAV3−遺伝子発現抑制
NAV3遺伝子をプールしたsiRNAオリゴ (On-Target SMART pool, Dharmacon, Chicago, IL, USA)で抑制させた。そのオリゴのその具体的な配列は、以下の通りである:5’−GGACUUAACCUAUAUACUA−3’(配列番号:4)(エクソン12)、5’−GAGAGGGUCUUCAGAUGUA−3’(配列番号:5)(エクソン38−39)、5’−CAGGGAGCCUCUAAUUUAA−3’(配列番号:6)(エクソン7)および5’−GCUGUUAGCUCAGAUAUUU−3’(配列番号:7)(エクソン30−31)。
【0134】
膠芽腫細胞A172、一次表皮角化細胞、ならびに正常な結腸細胞系CRL−1541およびCRL−1539を70%の密集まで6−ウェルプレートで培養し、その後、Dharmafect1トランスフェクション試薬(Dharmacon)を用いて、200pmolのNAV3 siRNAプールまたは組換え対照siRNA(Dharmacon, IL, USA)でトランスフェクトした。膠芽腫細胞0205を誘導して、以下の通り前記培養条件を改変することにより接着性単層として増殖させた:bFGFおよびEGFを回収し、その培地をトランスフェクション前の4日間に10%のFCSを補足した。1つの6プレートウェルのトランスフェクションについて、siRNAを、100μlの1×siRNA緩衝液(製造者から受け取った)中で1μMまで希釈し、等量の通常の増殖培地と混合させた。4マイクロリットルのトランスフェクション試薬を196μlの増殖培地と室温にて5分間培養した。siRNA希釈を加え、室温で20分間インキュベートした後、1600μlの増殖培地中の細胞に添加した。トランスフェクションの6時間後、トランスフェクション培地を通常の増殖培養液と交換した。細胞の生存率はトリパンブルー染色でトランスフェクションの48時間後にモニターした。すべての細胞タイプが、70%以上の生存率を示し、付着細胞だけをRNA調製に用いた。
【0135】
遺伝子発現マイクロアレイ
NAV3によって調節された遺伝子を同定するために、NAV3標的RNAiによって誘導された遺伝子発現プロフィールの変化を、Agilent4×44K2重色マイクロアレイおよびオリゴヌクレオチドプローブ(Biochip center, Biomedicum Helsinki, http://www.helsinki.fi/biochipcenter/)で測定した。この分析については、siRNAをトランスフェクトした細胞からの合計のRNA試料をトランスフェクションの6、24および48時間後に得た(CRL1541:6および48時間、CRL1539:6および24時間、A172:6および48時間、0205:6および48時間、一次表皮角化細胞(PEK):24および48時間)。
【0136】
細胞を350μlのRLT緩衝液(Qiagen)に溶解し、RNAを(細胞量に依存して)RNeasy MicroまたはMiniキット(Qiagen, Hilden, Germany)で精製し、−70℃で貯蔵した。NAV3発現抑制細胞から得た合計RNAを組換えオリゴヌクレオチドでトランスフェクトした同一細胞からの対応する時点の試料とハイブリダイズした。ハイブリダイゼーション前に、RNA試料の品質を2100Bioanalyzer(Agilent Technologies)で評価した。
【0137】
マイクロアレイ分析
その2種の正常な結腸細胞系CRL−1541およびCRL−1539からのマイクロアレイデータ、およびNAV3発現抑制オリゴまたは対照オリゴでトランスフェクトした膠芽腫細胞および一次表皮角化細胞からのデータを分析した。プローブ強度は、Agilent Feature Extractor 9.1.3.1を用いるLOWESSで背景補正し標準化した。各試料について、各試料内の倍変化を計算し、最高発現を含む200のプローブおよび最低発現を含む200のプローブが差動的な発現と考えられた。すべての正常な結腸細胞系および腫瘍試料中で一貫して差動的に発現した遺伝子は、PathwayExpress(Draghici S.ら 2007, Genome Res 17(10): 1537-45)を用いて、計算上の経路分析に用いた。この方法において、差動的に発現した遺伝子の発現値を用いて、KEGGデータベース[REFE: PMID: 18477636]中の経路を示すためのインパクト・ファクターおよび関連p値を計算し、経路のトポロジーを考慮した。
【0138】
この方法では、経路の上流に位置したタンパク質をコードする遺伝子は下流のタンパク質より多数のインパクトを有する。
【0139】
加えて、新規なGene Ontology(GO)ベースのクラスタリング法を用いて、細胞中の共通の生物学的機能または位置を共有する遺伝子集団を明らかにした(Ovaska Kら 2008, BioData Min 1(1):11)。遺伝子間の距離は、GO注釈付けに基づいたLin意味的な類似性尺度 (Lin. Proceedings of the 15th International Conference on Machine Learning 1998: 296-304)を用いて計算する。同様のGO注釈付けを有する遺伝子を相互からのより短い距離を有し、緊密にクラスター化する。これらのクラスターは、発現値と一緒に、ヒートマップおよび系統樹を用いて視覚化する。
【0140】
qRT−PCR
IL23RおよびGnRHRの効率的なNAV3発現抑制および上方制御をLight Cycler qRT−PCRおよびRNAインサイチューハイブリダイゼーションによって確認した。
【0141】
定量的RT−PCRについて、合計RNAを製造者の指示に従い、Revert Aid(商標)First Strand cDNA Synthesis Kitで逆転写した。標準曲線を調製するために、A172細胞からのcDNAの系列希釈を調製した。反応は、LC 480 SYBR Green1マスターキット(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)を用いて、LightCycler480(商標)装置で行った。略言すれば、製造者のガイドラインにより、DNAを95℃で5分間変性させ、次いで、95℃、58℃および72℃の45サイクルを各々10、15および10秒間試行させた後、融解曲線分析を行った。バックグラウンドの調整後、従前に記載される (Linja MJら 2004, Clin Cancer Res 10(3):1032-40)ように、フィット点法を用いて、交差点値を決定した。発現レベルの標準化のために、記載される(Linja MJら 2004, Clin Cancer Res 10(3):1032-40)ように、TATA結合蛋白質(TBP)の発現を測定した。相対的発現レベルはNAV3に対する値をTBP値で除することにより得た。融解曲線分析に加えて、PCR生成物を1.5%アガロースゲル電気泳動によって分離して、正しい生成物サイズを保証した。また、IL23RおよびGnRHRの上方制御をアニーリング温度を60℃まで増加させるqRT PCRにより確認した。反応に用いたすべてのプライマーを表6に列記する。
【0142】
【表6】
【0143】
NAV3発現抑制細胞のNAV3 RNAインサイチューハイブリダイゼーション
NAV3遺伝子のノックダウン効率を評価するために、発明者らは、細胞系A172および0205のsiRNAトランスフェクト細胞のNAV3標的RNAインサイチューハイブリダイゼーションを行った。NAV3の発現を非トランスフェクト細胞および組換えオリゴでトランスフェクトした細胞と比較した。略言すると、NAV3 mRNA転写体をエクソン37−39を認識するプローブで検出し、45℃で一晩ハイブリダイゼーションした。
【0144】
NAV3 mRNA用のmRNAインサイチューハイブリダイゼーション
RNAプローブの調製
RNAプローブを以下のオリゴヌクレオチド(エクソン37−39:アンチセンス 5’−TTGGCTGCTTCTTGGAGTTT−3’(配列番号:14)、センス 5’−CACCAAATCTAGAGCTGCATCA−3’(配列番号:15)を働かせるNAV3遺伝子の特定のエクソン位置に基づいて生成した。得られたPCR生成物をpCR(登録商標)II−TOPO(登録商標)ベクター(Invitrogen)中でクローン化した。RNAプローブは、製造者の指示に従い、DIG RNA標識付けキット(SP6/T7, Roche)を用いて標識した。
【0145】
固定細胞用インサイチューハイブリダイゼーション
細胞系A172および0205を無菌スライドガラス(LAB-TEK II chamber Slide w/Cover RS Glass Slide, Nalge Nunc International)上で培養し、4%パラホルムアルデヒド(MERCK)−PBSで室温にて15分間固定した。スライドをPBSで濯ぎ、1%のPFA−PBS(7分間および+4〜8℃)で再固定した後、PBSで再洗浄した。スライドは、0.1Mトリエタノールアミン(TEA, Riedel-de Haan)pH8.0−0.25%無水酢酸(MERCK)中でアセチル化し、4×SSC−50%脱イオン化ホルムアミドで予めハイブリダイズした。インサイチューハイブリダイゼーションは、変性DIG−RNAアンチセンスプローブ(4ng/μl)またはセンスプローブ(19ng/μl)を含有するハイブリダイゼーション溶液を用いて、45℃にて一晩加湿チャンバーで行った。ハイブリダイゼーション後のスライドを37℃水浴(1×10分間、1×5分間の2×SSCおよび2×5分間の1×SSC)で予め暖めた緩衝液で洗浄し、RNAの過剰を37℃で30分間リボヌクレアーゼ(20μg/mlリボヌクレアーゼA、Sigma;500mM NaCl;10mMトリスpH8.0;1mM EDTA)で除去した。洗浄後、ハイブリダイズしたプローブをブロッキング溶液中で1:1000に希釈した抗−DIGアルカリホスファターゼFabによって免疫学的に検出した。スライドを洗浄し、色基質溶液(0.002mM新鮮なレバミソール(Vector Laboratories)を含有する検出緩衝液中の1:50 NBT/BCIP Stock Solution(Roche))と加湿チャンバーで一晩インキュベートした。反応を終了するために、スライドを洗浄し、簡潔に水で濯ぎ、0.1%のKernchrot(1×5分間, Gurr, BDH Chemicals)で対比染色した。すべての試薬および機具をピロ炭酸ジエチル(DEPC)で処理したか、またはRNアーゼを含まなかった。
【0146】
結果
GnRHRおよびIL23Rの発現の上方制御で生じたNAV3遺伝子発現抑制
正常な結腸細胞系
NAV3のin vivo関連標的遺伝子を同定するために、発明者らは、NAV3を発現抑制した正常結腸細胞CRL−1541およびCRL−1539(正常なNAV遺伝子コピー数を持つ)の遺伝子発現プロフィールを検討した。これらの実験において、発明者らは、NAV3を発現抑制した正常結腸細胞中で常に上方制御された39の遺伝子のうち、発癌に関与する2つのキーとなる受容体の上方制御を同定した。第1に、PathwayExpressを用いて、性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体(GnRHR)経路を統計学的にかなり富化されることを同定し(複合仮説はp値<0.001で修正した)、この結果は転写変異体1のGNRHRの上方制御によって駆動され、4.7〜32.4の倍変化であった。第2に、Jak−STAT経路は、わずかに統計的に有意であることを同定し(修正されたp値<0.058)、インターロイキン23受容体(IL23R)の上方制御によって影響され、3.4〜14.01の倍変化であった。これらの受容体の上方制御は、選択された試料中でqRT−PCRによって確認された。図5を参照されたし。
【0147】
細胞系および組織試料
マルチカラーFISHを用いて、NAV3シグナル数を動原体12シグナル数と比較し、その後、細胞を通常、増幅または欠失したNAV3シグナルのいずれを有するかを規定した。検討した細胞系CRL−1541、CRL−1539、0205およびA172は、NAV3異常のない細胞より主になることを示し(表7)、従って、NAV3発現抑制検討のために適当であった。NAV3の効率的な発現抑制は、qRT−PCRおよびRNAインサイチューハイブリダイゼーションによって確認した(図6および7)。また、Agilent4×44kマイクロアレイ上に存在するNAV3用の双方のプローブを0.26の中央倍変化で過小発現し、これは、NAV3発現抑制が有効であることを示す。全方法は、すべての検討時点で、すべての細胞タイプにおけるNAV3の一貫した下方制御を示した。
【0148】
【表7】
【0149】
すべてのNAV3発現抑制CRL−1541およびCRL−1539の正常な結腸細胞、グレード4膠芽腫に由来した膠芽腫細胞系A172、および一次表皮角化細胞(すべてはATCC, Manassas, VA, USAからのもの) の遺伝子発現プロフィールを評価した場合、発明者らはすべての実験において上方制御された17の遺伝子を同定した(表8)。これらのうち、発癌に関与する2つのキーとなる受容体の上方制御が注目された。第1には、PathwayExpressを用いて、性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体(GnRHR)経路を統計的にかなり富化されることを同定した(複合仮説はp値<0.001に修正した)。この結果は、13.7の中央倍変化を有したGNRHR転写変異体1の上方制御によって駆動した。第2には、Jak−STAT経路は、インターロイキン23受容体(IL23R)の上方制御によってわずかに統計的に有意に改変されることを同定し(修正されたp値<0.058)、これは、7.2の中央倍変化を有した。これらの受容体の上方制御は、選択された試料中でqRT−PCRによって確認した。また、発明者らは、分析おいて、NAV3発現抑制した一次ヒト角化細胞(PEK)の遺伝子発現プロフィールを含むことを決定した。次いで、発明者らは、3種の細胞タイプのすべてで行った10の実験のうちの7つに上方制御されたGnRHRおよびIL23Rを含む52の遺伝子を同定した(表9)。
【0150】
【表8】
【0151】
【表9−1】
【表9−2】
【0152】
NAV3調節遺伝子の遺伝子オントロジー分析
遺伝子オントロジーベースのクラスタリングをNAV3欠乏により影響された生物学的プロセスを同定するために行った。GO分析用遺伝子数を増加させるために、発明者らは、10の実験のうちの7つに上方制御された52の遺伝子に対してクラスタリングを行った。この群から、発明者らは4つのGOクラスター(図8):膜(9の遺伝子)、イオン輸送(2つの遺伝子)、核(4つの遺伝子)およびリボヌクレオチド結合(2つの遺伝子)を同定した。リボヌクレオチド結合クラスターは、2つの遺伝子:グリセロールキナーゼおよびARL11を含んだ。グリセロールキナーゼは、グリセロールの摂取および代謝の調節におけるキー酵素であるが、ARL11(またはARLTS1)は、ヒト発癌における改変された多数の調節経路に関与することが知られた小さなGTPアーゼのRasーのスーパーファミリーのARFファミリーに属する。
【0153】
遺伝子産物は、それらの遺伝子オントロジー(GO)注釈付けに基づいて、クラスター化(グループ化)する。同様の注釈付けを有する遺伝子は同一クラスターに属する。遺伝子産物間の距離は、情報理論的な意味的類似性尺度を用いて定義する。
【0154】
以下の表10において、各クラスターの最も有益な(最も具体的な)共通のGO用語を示す。クラスター中のすべての遺伝子産物を記載したGO用語で注釈付けする。GO用語は、それがまれにしか全ゲノムのGO注釈付けにおいて生じないならば、より有益である。演繹的カラムは、ランダム遺伝子産物が所与のGO用語で注釈付けされる演繹的確率pを含む。情報はlog2pと定義される。一般的には、(1)多数の遺伝子産物および(2)高い情報量を含む共通のGO用語が最も注目される。
【0155】
【表10】
クラスターメンバー
G1 GAL3ST1 GK RDHE2 CECR1
G2 AQP10 ENST00000327625 CLCA3
G3 GNRHR OPRK1 DNER IL23R FLJ33641
G4 BCL6B FAM107A
【0156】
従前に言及した膜クラスター遺伝子IL23RおよびGnRHRに加えて、膜クラスター中の他の遺伝子(図8)は、GNGT1、CYSLTR2およびSMR3Bを含んだ。GNGT1は、主として桿状体外節で見出されたトランスデューシンのガンマサブユニットをコードする。CYSLTR2は、炎症プロセスの病原論に関与する細胞輸送および自然免疫反応の重要な媒介物質であるシステイニルロイコトリエンに属する。IFNガンマは、CysLTR2発現を誘導し、CysLT誘導炎症反応を増強する。SMR3B(顎下腺アンドロゲン調節タンパク質3B)は、候補腫瘍関連遺伝子である。
【0157】
核クラスターは、TU3Aとも呼ばれるFAM107A遺伝子を含み、それを種々の癌において後成的に発現抑制させることが報告されている。加えて、発明者らは、膠細胞系誘導の神経栄養因子によって上方制御される転写因子−コーディング遺伝子のBCLB6遺伝子を同定した。各クラスターにおける遺伝子の完全なリストを図8に与える。また、炎症にリンクした注目すべき他の遺伝子は、分泌または膜関連エクト酵素のバニンファミリーのメンバーのバニン3を含めて、上方制御された遺伝子中で見出された。最近、バニン1およびバニン3は、炎症促進性活性を有することが示された。
【0158】
結腸および神経膠腫の細胞が特定の群として処理される場合、発明者らはNAV3発現抑制の正常結腸細胞における一貫して上方制御された39の遺伝子、および膠細胞中で上方制御された28の遺伝子を同定した(表11および12)。DNERは、細胞外EGF様の繰り返しおよび異型Notchリガンドを運ぶ膜貫通型タンパク質であり、それはNAV3発現抑制結腸細胞のみにおいて上方制御された(表11)。
【0159】
【表11−1】
【表11−2】
【0160】
【表12−1】
【表12−2】
【0161】
実施例5.免疫組織化学
組織試料におけるIL23Rおよびβ−カテニン免疫組織化学
IL23Rおよびβ−カテニン発現は、パラフィン包埋大腸生検法から調製した組織マイクロアレイ中の免疫組織化学により検討した。各患者から、組織学的に正常な結腸からの対での試料およびその結腸腫瘍からの2つの試料を、そのアレイに含めた。また、10名の患者からの腺腫様の病変の対での試料および正常結腸からのもう一つの試料を含んだ。全体で57名の患者の43のMSS腫瘍試料、14のMSI腫瘍試料、14の腺腫試料および57の対応する正常結腸試料を組織マイクロアレイに含めた。
【0162】
免疫組織化学は、色素形成基質としてのDABおよびアメリカおよび対比染色としてのマイヤーのヘマトキシリンと一緒に、アビジン・ビオチン・ペルオキシダーゼの複合体技術(Vectastain Elite ABC kit [mouse IgG], Vector laboratories, Burlingame, CA, USA)を用いて実行した。標準的脱パラフィン後、内因性ペルオキシダーゼ活性をPBS中の3% H2O2において10分間ブロックし、切片をクエン酸塩緩衝液(DakoCytomation, Glostrup, Denmark)中で+95℃水浴中で20分間前処理した。次いで、スライドをIL23R(R&D MAB14001;1:30で希釈、1%トリプシンで37℃にて30分間前処理したスライド)に対する、またはβ−カテニン(Zymed CAT-5H10, Invitrogen, Carlsbad, CA 92008 U.S.A;1:250で希釈、DAKO Target Retrieval Solution S1699, pH6〜6.2中で+95℃にて30分間のスライド前処理)に対するマウスモノクローナル抗体と+4℃にて一晩インキュベートした。DABをIL23Rのための発色基質として用い、一方、VECTOR NovaRED基質キットSK−4800をβ−カテニンに用いた。
【0163】
統計解析については、免疫標識結果を以下のようにスコアした:IL23R免疫反応性について、染色なし(スコア0)、弱陽性染色(スコア1)、明確な陽性染色(スコア2)、強陽性染色(スコア3;実施例については、図9も参照)、β−カテニンについて、染色なし(スコア1)、細胞膜染色(スコア1)、細胞質染色(スコア2)、大多数の腫瘍細胞における核染色(スコア3;図9も参照)。
【0164】
統計解析
カテゴリー変数間の相関をカイ二乗検定または、有効でない場合には、フィッシャーの直接確率法を用いて解析した。生存率分析は、主要終点として結腸癌によって引き起こされた死亡を用いて行った。追跡調査時間は、政府系機関のフィンランド統計局から得た。SPSSバージョン15.0ソフトウェア(SPSS, IL, USA)を用いた。
【0165】
NAV3異常MSS腫瘍中のIL23Rまたは核β−カテニンの発現は、デューク病期分類およびリンパ節転移と関連し、IL23Rの発現は予後不良と関連する
次いで、β−カテニン(GnRH経路に連結した)およびIL23R発現の免疫組織化学的検出は、43のMSS(同一患者の8の腺腫試料を含む)および14のMSI患者試料(腫瘍および対応する正常結腸上皮)を含む組織マイクロアレイで行った。これらのケースのすべての正常結腸試料において、β−カテニン染色は常に膜性であり、3つのケース(図9)を除いて、全くIL23R発現が見出されないか、または弱いIL23R発現(グレード1)だけが見出された。
【0166】
正常な上皮細胞において、β−カテニンは細胞膜に位置するが、癌腫試料中の核および細胞質へのその分布を変更することが知られている。代表的なMSS腫瘍試料(各二連試料)において、核β−カテニンは10/43のケースに、およびIL23R免疫反応性(スコア2〜3)の上方制御は27/43のケースで見出された。核β−カテニン発現はリンパ節転移と相関した。組織アレイ試料中の上方制御されたIL23R免疫反応性は、デューク病期分類(実施例2の表3参照、NAV3異常は第12染色体の多染色体性、そしてリンパ節転移と関連する)、およびさらにリンパ節転移(実施例2の表3参照)と強く相関した。対立形質のNAV3欠失を持つ腫瘍試料は、最も頻繁に明らかに上方制御されたIL23R反応性を示した(図9)。
【0167】
カプラン−マイヤー生存率分析(図10)において、上方制御されたIL−23R免疫反応性(スコア2および3)を持つ患者は、通常または低発現レベルの患者より悪い予後を有することが判明した(すなわち、各々、0または1とスコアされた免疫組織学的染色強度、および正常な結腸試料のそれに匹敵する)(実施例2の表3参照)。低IL23R発現を有する患者についての平均生存時間は44か月(95%CI 38〜50か月)であり、一方、上方制御された高発現を持った患者については、平均生存はわずか23か月(95%CI 13〜33か月)であった。
【0168】
11名のMSSタイプCRC患者について、その腺腫および腫瘍の試料中のIL23R、β−カテニンおよびNAV3 FISH結果を比較することは可能であった。高いIL23R発現(中程度または強い免疫染色)および/または核β−カテニンと一緒のNAV3コピー数変化は腺腫試料のうちの3つに存在し、IL23R発現の上昇単独が、2つのさらなる腺腫に存在した(データを示さず)。対応する腫瘍試料において、NAV3異常が上方制御されたIL23R発現にも拘らず見出されなかった2つの試料を除いてその知見は類似した。これらの後者の双方において、しかしながら、対応する腺腫病変は第12染色体の多染色体性を示した。
【0169】
組織試料におけるIL23RおよびGnRHRの免疫組織化学
GnRHR免疫染色は、900ワットにて24分間の電子レンジ中で、室温にて20分間の冷却し、pH9.0のトリス−EDTA緩衝液を用いて抗原検索後にLabVision immunostainer(Labvision, CA, USA)を行った。GnRHRは、クロモゲン(図11)としてジアミノベンジジン(DAB)を含む、マウスモノクローナル抗体(1:10希釈, Abcam, Cambridge, UK)およびポリマーベースの検出システム(Envision, K5007, DakoCytomation)を用いて検出した(図11)。
【0170】
結腸直腸癌または星状細胞腫の患者のパラフィン包埋大腸生検法から調製された、結腸直腸の組織切片の代表的な2つのケース(組織学的に正常な結腸および結腸腫瘍の対での試料)および星状細胞腫(膠芽腫)の2つのケースを含めた。これらの試料については、抗GnRHR抗体およびIL23Rに対するマウスモノクローナル抗体(R&D MAB14001; 1:30希釈、37℃での30分間の1%トリプシンで前処理されたスライド)、ならびに色素形成基質としてのDABでのアビジン・ビオチン・ペルオキシダーゼの複合体検出(Vectastain Elite ABC kit [mouse IgG], Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を用いて、従前に記載されたように、免疫組織化学を実行した。
【0171】
NAV3発現抑制0205細胞、CRCおよび膠芽腫組織試料におけるIL23およびGnRHRタンパク質上方制御の確認
NAV3発現抑制0205細胞中のGnRHRタンパク質レベルの上方制御を免疫染色により示した。GnRHR染色は野性型細胞およびsiRNA組み換え対照トランスフェクト細胞よりNAV3発現抑制細胞においてより高かった(図11、a〜c)。また、CRC組織試料中のGnRHRタンパク質免疫染色は正常な結腸上皮(図11d)においてよりも高かった。結果は、2つの典型的なCRC患者試料、MSSタイプCRCを持つ1つの症例、および腫瘍(NAV3欠失についてのカットオフは、早期に報告したごとく正常な参照試料において3%である、図11e)におけるNAV3欠失細胞の41%、MSIタイプCRCの1つの症例、および腫瘍(図11f)中のNAV3欠失細胞の8%(図11f)において再現可能であった。同様に、GNRHRおよびIL23Rの上方制御は、欠失のない神経膠腫瘍と比較して、NAV3欠失を示す予備的な一連の膠芽腫(星状細胞腫)試料中で観察した(図11gおよびh)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す方法であって、
i)対象からの生物学的試料中のNAV3コピー数変化を決定し;次いで
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料中のIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;
iii)NAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方が、該対象からの試料に存在する場合に、対象の腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す
ことを含むことを特徴とする該方法。
【請求項2】
in vitro方法であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
NAV3コピー数変化を含み、かつIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍を有する対象の処置方法であって、
過剰発現を含む少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物が影響される工程を含むことを特徴とする該方法。
【請求項4】
さらに、IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択された遺伝子または遺伝子産物が、遺伝子または遺伝子産物を低発現または不活性化するか、あるいは遺伝子産物の量を減少させることにより影響される工程を含むことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
さらに、NAV3の遺伝子または遺伝子産物が影響される工程を含むことを特徴とする請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
NAV3の遺伝子または遺伝子産物が、遺伝子または遺伝子産物を過剰発現または活性化するか、あるいは遺伝子産物の量を増加させることにより影響されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
少なくともGnRHおよび/またはJAK/STATシグナル経路が影響されることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1記載の方法。
【請求項8】
遺伝子治療であることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1記載の方法。
【請求項9】
アンタゴニスト、抗体または抑制分子が、少なくとも1つの遺伝子産物に影響させるために用いられることを特徴とする請求項3〜8のいずれか1記載の方法。
【請求項10】
i)対象からの生物学的試料のNAV3コピー数変化を決定し;
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料において、IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;次いで
iii)試料中のNAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方を有する対象に対する予後を予測する
ことを含むことを特徴とする予後の予測方法。
【請求項11】
i)対象からの生物学的試料中のNAV3コピー数変化を決定し;
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料において、IL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;次いで
iii)試料中のNAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方を有する対象に対する処置を選択する
ことを含むことを特徴とする対象に対する処置の選択方法。
【請求項12】
対象におけるNAV3コピー数変化を含み、かつIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の過剰発現を含む、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための、NAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用。
【請求項13】
対象に対する予後を予測するためのNAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用。
【請求項14】
対象に対する処置を選択するためのNAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用。
【請求項15】
NAV3コピー数変化を含む腫瘍を有する対象における癌治療のための、IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用。
【請求項16】
予後が不良であることを特徴とする請求項10記載の方法または請求項13記載の使用。
【請求項17】
NAV3コピー数変化を含み、かつIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍を有する対象における癌治療のための、IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物のアンタゴニスト、抗体または抑制分子の使用。
【請求項18】
抑制分子がsiRNAであることを特徴とする請求項17記載の使用。
【請求項19】
NAV3コピー数変化が、NAV3遺伝子またはその主要部分の欠失、増幅または転座によって引き起こされることを特徴とする請求項1〜18のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項20】
NAV3欠失がNAV3の全体的または部分的な欠失であることを特徴とする請求項1〜19のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項21】
NAV3コピー数変化が、FISH、LOH、CGH、配列解析、免疫組織化学、PCR、qPCRまたは組織マイクロアレイによって確認されることを特徴とする請求項1〜20のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項22】
腫瘍が、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍であることを特徴とする請求項1〜21のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項23】
腫瘍が、良性腫瘍または悪性腫瘍であることを特徴とする請求項1〜22のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項24】
腫瘍が癌であることを特徴とする請求項1〜23のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項25】
遺伝子および/または遺伝子産物が、活性化、不活性化、過剰発現または低発現するか、または遺伝子産物の量が増加または減少することを特徴とする請求項1〜24のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項26】
NAV3コピー数変化を含み、かつIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍の存在が、リンパ節転移、高度の悪性および/または貧弱な生存に関係することを特徴とする請求項1〜25のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項27】
IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される遺伝子が、膜タンパク質、細胞プロセス調節タンパク質またはプリンヌクレオチド結合蛋白質であるタンパク質をコードすることを特徴とする請求項1〜26のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項28】
遺伝子または遺伝子産物が、ARL11、SMR3B、FAM107A、MFSD2、BCLB6、CYSLTR2、VNN3、GNGT1、DNER、GnRHR、IL23R、β−カテニン、JAK1およびJAK3よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜27のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項29】
遺伝子または遺伝子産物が、IL23Rまたは/またGnRHRであることを特徴とする請求項1〜28のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項30】
遺伝子産物がタンパク質であることを特徴とする請求項1〜29のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項31】
生物学的試料中のNAV3コピー数変化を検出するための手段、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を検出するための手段を含む、診断用キット。
【請求項32】
腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための請求項31記載の診断用キット。
【請求項33】
腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための請求項31記載の診断用キットの使用。
【請求項34】
直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ対象に対する予後を予測するための請求項31記載の診断用キットの使用。
【請求項35】
直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ対象に対する処置を選択するための請求項31記載の診断用キットの使用。
【請求項36】
脳腫瘍が神経膠腫であることを特徴とする請求項1〜35のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項1】
対象における腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す方法であって、
i)対象からの生物学的試料中のNAV3コピー数変化を決定し;次いで
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料中のIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;
iii)NAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方が、該対象からの試料に存在する場合に、対象の腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示す
ことを含むことを特徴とする該方法。
【請求項2】
in vitro方法であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
NAV3コピー数変化を含み、かつIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍を有する対象の処置方法であって、
過剰発現を含む少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物が影響される工程を含むことを特徴とする該方法。
【請求項4】
さらに、IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択された遺伝子または遺伝子産物が、遺伝子または遺伝子産物を低発現または不活性化するか、あるいは遺伝子産物の量を減少させることにより影響される工程を含むことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
さらに、NAV3の遺伝子または遺伝子産物が影響される工程を含むことを特徴とする請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
NAV3の遺伝子または遺伝子産物が、遺伝子または遺伝子産物を過剰発現または活性化するか、あるいは遺伝子産物の量を増加させることにより影響されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
少なくともGnRHおよび/またはJAK/STATシグナル経路が影響されることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1記載の方法。
【請求項8】
遺伝子治療であることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1記載の方法。
【請求項9】
アンタゴニスト、抗体または抑制分子が、少なくとも1つの遺伝子産物に影響させるために用いられることを特徴とする請求項3〜8のいずれか1記載の方法。
【請求項10】
i)対象からの生物学的試料のNAV3コピー数変化を決定し;
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料において、IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;次いで
iii)試料中のNAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方を有する対象に対する予後を予測する
ことを含むことを特徴とする予後の予測方法。
【請求項11】
i)対象からの生物学的試料中のNAV3コピー数変化を決定し;
ii)対象からの生物学的試料またはもう一つの生物学的試料において、IL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を決定し;次いで
iii)試料中のNAV3コピー数変化、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現の双方を有する対象に対する処置を選択する
ことを含むことを特徴とする対象に対する処置の選択方法。
【請求項12】
対象におけるNAV3コピー数変化を含み、かつIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の過剰発現を含む、腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための、NAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用。
【請求項13】
対象に対する予後を予測するためのNAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用。
【請求項14】
対象に対する処置を選択するためのNAV3遺伝子または遺伝子産物、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用。
【請求項15】
NAV3コピー数変化を含む腫瘍を有する対象における癌治療のための、IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物の使用。
【請求項16】
予後が不良であることを特徴とする請求項10記載の方法または請求項13記載の使用。
【請求項17】
NAV3コピー数変化を含み、かつIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍を有する対象における癌治療のための、IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子および/または遺伝子産物のアンタゴニスト、抗体または抑制分子の使用。
【請求項18】
抑制分子がsiRNAであることを特徴とする請求項17記載の使用。
【請求項19】
NAV3コピー数変化が、NAV3遺伝子またはその主要部分の欠失、増幅または転座によって引き起こされることを特徴とする請求項1〜18のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項20】
NAV3欠失がNAV3の全体的または部分的な欠失であることを特徴とする請求項1〜19のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項21】
NAV3コピー数変化が、FISH、LOH、CGH、配列解析、免疫組織化学、PCR、qPCRまたは組織マイクロアレイによって確認されることを特徴とする請求項1〜20のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項22】
腫瘍が、直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍であることを特徴とする請求項1〜21のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項23】
腫瘍が、良性腫瘍または悪性腫瘍であることを特徴とする請求項1〜22のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項24】
腫瘍が癌であることを特徴とする請求項1〜23のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項25】
遺伝子および/または遺伝子産物が、活性化、不活性化、過剰発現または低発現するか、または遺伝子産物の量が増加または減少することを特徴とする請求項1〜24のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項26】
NAV3コピー数変化を含み、かつIL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を含む腫瘍の存在が、リンパ節転移、高度の悪性および/または貧弱な生存に関係することを特徴とする請求項1〜25のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項27】
IL23R、GnRHR、β−カテニン、および表8〜12に記載のものから選択される遺伝子が、膜タンパク質、細胞プロセス調節タンパク質またはプリンヌクレオチド結合蛋白質であるタンパク質をコードすることを特徴とする請求項1〜26のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項28】
遺伝子または遺伝子産物が、ARL11、SMR3B、FAM107A、MFSD2、BCLB6、CYSLTR2、VNN3、GNGT1、DNER、GnRHR、IL23R、β−カテニン、JAK1およびJAK3よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜27のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項29】
遺伝子または遺伝子産物が、IL23Rまたは/またGnRHRであることを特徴とする請求項1〜28のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項30】
遺伝子産物がタンパク質であることを特徴とする請求項1〜29のいずれか1記載の方法または使用。
【請求項31】
生物学的試料中のNAV3コピー数変化を検出するための手段、ならびにIL23R、GnRHR、β−カテニンおよび表8〜12に記載のものから選択される少なくとも1つの遺伝子または遺伝子産物の過剰発現を検出するための手段を含む、診断用キット。
【請求項32】
腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための請求項31記載の診断用キット。
【請求項33】
腫瘍または細胞の亜集団の悪性形質を示すための請求項31記載の診断用キットの使用。
【請求項34】
直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ対象に対する予後を予測するための請求項31記載の診断用キットの使用。
【請求項35】
直腸結腸腫瘍、脳腫瘍または表皮角化細胞腫瘍を持つ対象に対する処置を選択するための請求項31記載の診断用キットの使用。
【請求項36】
脳腫瘍が神経膠腫であることを特徴とする請求項1〜35のいずれか1記載の方法または使用。
【図1】
【図2】
【図3a)】
【図3b)】
【図3c)】
【図3d)】
【図3e)】
【図3f)】
【図3g)】
【図3h)】
【図3i)】
【図3j)】
【図3k)】
【図3l)】
【図3m)】
【図3n)】
【図3o)】
【図3p)】
【図3q)】
【図3r)】
【図3s)】
【図3t)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3a)】
【図3b)】
【図3c)】
【図3d)】
【図3e)】
【図3f)】
【図3g)】
【図3h)】
【図3i)】
【図3j)】
【図3k)】
【図3l)】
【図3m)】
【図3n)】
【図3o)】
【図3p)】
【図3q)】
【図3r)】
【図3s)】
【図3t)】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−505666(P2012−505666A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532675(P2011−532675)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050838
【国際公開番号】WO2010/046530
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(511099456)ファーマテスト・サービシーズ・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】PHARMATEST SERVICES LTD.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050838
【国際公開番号】WO2010/046530
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(511099456)ファーマテスト・サービシーズ・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】PHARMATEST SERVICES LTD.
【Fターム(参考)】
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