説明

NC旋盤およびNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法

【課題】主軸に装着し回転された被切削物に切削工具を当接させて切削を行うNC旋盤であっても、確実に切削時における振動を検出し、確実に切削工具の工具状態を検出することのできるNC旋盤およびNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法を提供する。
【解決手段】複数の切削工具を収納する工具収納部を備え、予め入力された加工データによって、自動的に前記工具収納部から所望の切削工具を選択し、被切削物に対して切削加工を行うNC旋盤であって、前記NC旋盤は、前記工具収納部に設けられ切削時における振動を検知する1つの検出センサと、前記検出センサから出力されたセンサ出力値のセンサ出力波形の解析により、前記複数の切削工具の状態が正常であるか異常であるかを認識する異常判別装置と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め入力された加工データによって、複数の切削工具の中から自動的に切削工具を選択し、被切削物に対して切削加工を行うNC旋盤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多数の切削工具を自動的に確実に交換できる自動工具交換機能を備えた自動工作機が、機械加工の現場などで使用されている。
このような自動工作機は、予め加工に伴う数値情報を自動工作機に与えることによって、自動的に切削工具を選択して被切削物を切削することができるようになっており、自動工作機としては、高速で回転する切削工具で、固定された被切削物を切削するNC研削盤、NCフライス盤、NC中ぐり盤、マシニングセンタ、主軸に装着し回転された被切削物に切削工具を当接させて切削を行うNC旋盤などを挙げることができる。
【0003】
ところでこのような自動工作機では、被切削物を切削していくうちに切削工具が折れたり、欠けたりする場合がある。このように切削工具が折れたり欠けたりすると、所定の形状に切削がなされていないにも関わらず、自動工作機は自動的に切削を続けたりすることとなり、不良製品を生産し続けてしまうなどの不具合が生ずることとなる。
【0004】
また切削工具は使用によって工具寿命に達するものであり、工具寿命に達した切削工具で被切削物を切削し続けると、所望の寸法精度の得られない製品となってしまう。
このため、従来より切削工具の不具合による不良製品の生産を極力抑え、所望の寸法精度が得られない製品を生産しないため、切削工具や切削工具の周辺に、切削工具の切削時における振動を感知するセンサを設置し、このセンサで異常な振動を感知した際には、切削工具が異常であることや工具寿命に達していることを判断することのできる技術が開示されている。
【0005】
このような技術として特許文献1には、図7に示したように、切削工具100または切削工具取付け治具102に加速度検出子104を装着し、加速度検出子104から出力される切削工具振動情報の周波数成分解析を行い、また切削工具形状から工具刃先の共振周波数を計算して工具摩耗監視周波数帯域を設定し、工具摩耗監視周波数帯域の振動レベルと全周波数帯域の振動レベルの比率を工具の摩耗度として演算し、摩耗度が予め定めた摩耗限界レベルに到達した場合に、信号を発する切削工具の刃先摩耗検出方法が開示されている。
【0006】
また特許文献2には、図8に示したように、工作機械200の主軸202に振動センサ204を取付け、振動センサ204で回転に伴う振動のピーク値を検出し、工作機械200の回転数、送り速度、工具の種類等の加工条件ごとに、振動のピーク値を検出して工具交換時期の判定値を記録し、条件毎に設定された判定基準から、工具交換時期を判定するようにした工具交換時期判定システムが開示されている。
【0007】
さらに特許文献3には、図9に示したように、マシニングセンタ300の切削工具による切削加工に伴って発生する振動を振動検出センサ302で検出し、検出した振動のうち、所定値を越えるピークが発生する回数をピーク検出部で周期的にカウントし、ピーク発生回数と所定の閾値とを比較して、ピーク発生回数が所定の閾値を越えたときにマシニングセンタの制御装置に停止信号を出力し、無線呼出し部で作業者に切削工具の交換を報知するようにした切削工具異常検出装置が開示されている。
【特許文献1】特開平08−85047号公報
【特許文献2】特開2001−205545号公報
【特許文献3】国際公開第00/73018号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された切削工具の磨耗検出方法は、一本の切削工具を使用して被切削物を切削する工作機(実施例においては旋盤を使用。)が対象であって、複数の切削工具を使用し、加工データによって切削工具を選択して被切削物を切削する工作機に対応した方法ではないものである。
【0009】
仮に、複数の切削工具を使用した工作機であったとしても、特許文献1に開示された方法は、切削工具か切削工具取付け治具にセンサを取付けて行うものであるため、使用される切削工具の数だけ、センサを用意する必要が有り、多大なコストを要するものである。
【0010】
さらに特許文献2、3に開示された技術は、固定された被切削物を、高速で回転する切削工具で切削するタイプの工作機が主であるため、主軸に装着し回転された被切削物に、切削工具を当接させて切削を行うNC旋盤での使用を考えたものではないものである。
【0011】
またこれらの工作機は、被切削物と切削工具との当接時以外にも、工作機の動作、切削工具の回転、工具収納部の移動などにより、既に大きな振動が発生してしまっているため、検出センサで切削中の振動を拾う際に、検出がうまくできない場合が生ずる可能性のある方法である。
【0012】
本発明は、このような現状に鑑み、主軸に装着し回転された被切削物に切削工具を当接させて切削を行うNC旋盤であっても、確実に切削時における振動を検出し、確実に切削工具の工具状態を検出することのできるNC旋盤およびNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法を提供することを目的とする。
【0013】
さらにセンサによる検出の際に、センサが切削工具の振動を確実に検出することのできるNC旋盤およびNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、複数の切削工具の一つ一つに検出センサを取付けなくても、確実に複数の切削工具の工具状態を検出することのできるNC旋盤およびNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前述したような従来技術における課題及び目的を達成するために発明されたものであって、本発明のNC旋盤は、
複数の切削工具を収納する工具収納部を備え、
予め入力された加工データによって、自動的に前記工具収納部から所望の切削工具を選択し、被切削物に対して切削加工を行うNC旋盤であって、
前記NC旋盤は、
前記工具収納部に設けられ切削時における振動を検知する1つの検出センサと、
前記検出センサから出力されたセンサ出力値のセンサ出力波形の解析により、前記複数の切削工具の状態が正常であるか異常であるかを認識する異常判別装置と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法は、
複数の切削工具を収納する工具収納部を備え、
予め入力された加工データによって、自動的に前記工具収納部から所望の切削工具を選択し、被切削物に対して切削加工を行うNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法であって、
前記工具収納部に設けられた1つの検出センサによって切削時における振動を検知してセンサ出力値を出力し、
前記検出センサから出力されたセンサ出力値のセンサ出力波形を異常判別装置で解析することにより、前記切削工具の状態が正常であるか異常であるかを認識することを特徴とする。
【0017】
このように、振動の少ない工具収納部に検出センサを1つ設ければ、検出センサで加工に伴う振動をより確実に検出することができるため、NC旋盤の切削工具の状態を正確に把握することができる。
【0018】
また、1つの検出センサで、複数の切削工具の状態を把握することができるため、装置が必要以上に大きくなることがなく、また装置のコストを抑えることができる。
また、本発明のNC旋盤は、
前記検出センサのケーブルが、
編組密度80%以上のシールド線からなることを特徴とする。
【0019】
このようなケーブルを使用することによって、NC旋盤本体側の電気的ノイズ、例えば主軸用モータ、バーフィーダー駆動部、油圧モータなどから不定期的に発生する電気的ノイズ、更には作業設置内を飛び交う種々の電気的ノイズに対して遮断することができ、検出センサで確実に検出ができ、切削工具が正常であるか異常であるかを認識することができる。
【0020】
また、本発明のNC旋盤は、
前記検出センサのケーブルが、
前記シールド線上に耐ヒドリン系合成ゴムからなるシース層を被覆してなることを特徴とする。
【0021】
このようなケーブルを使用することによって、検出センサが切削油や切りくずが直接的に接触する環境下に設置されていても、さらに検出センサで加工時における振動のみを検出することができるため、正確に切削工具が正常であるか異常であるかを認識することができる。
【0022】
また、本発明のNC旋盤は、
前記異常判別装置が、
前記検出センサによって出力されたセンサ出力値に閾値を設け、
前記センサ出力値が閾値から外れた場合に前記切削工具が異常であることを認識するように構成されていることを特徴とする。
【0023】
このように切削工具が異常であるかまたは正常であるかの把握を、センサ出力値に設けた閾値によって把握すれば、簡単でしかも正確に切削工具が異常であるかまたは正常であるかを認識することができる。
【0024】
また、本発明のNC旋盤は、
前記異常判別装置が、
前記センサ出力値が閾値から外れた場合、前記加工データによって自動的に選択される前記切削工具の選択順序から、複数の切削工具のうち、どの切削工具が異常であるかを認識することができるように構成されていることを特徴とする。
【0025】
このように構成することによって、加工データによって選択される切削工具と、この際に得られたセンサ出力値から、複数の切削工具の内でどの切削工具が異常であるかを確実に把握することができる。
【0026】
また、本発明のNC旋盤は、
前記異常判別装置が、
前記切削工具が異常であることを前記センサ出力値が閾値から外れた場合に認識し、
前記切削工具の異常状態によって異なる前記センサ出力値から、どのような異常状態であるかを識別することができるように構成されていることを特徴とする。
【0027】
このように、例えば切削工具の折れ、欠け、磨耗などによって異なるセンサ出力値を予め異常判別装置内にデータベース化しておけば、切削工具の異常識別とともに、異常発生の原因も特定することができ、作業者が迅速に対応することができる。
【0028】
また、本発明のNC旋盤は、
前記異常判別装置が、
前記切削工具が寿命に達すると仮定した工具寿命を加工条件より算出し、
前記仮定された工具寿命と実際に使用される前記切削工具の工具寿命が異なる場合には、
前記仮定された工具寿命を実際の工具寿命に合わせて更新するように構成されていることを特徴とする。
【0029】
このように構成すれば、例えば実際の工具寿命が仮定された工具寿命よりも長かった場合には、切削工具の使用限度を従来よりも長めに設定し、逆に実際の工具寿命が仮定された工具寿命よりも短かった場合には、切削工具の使用限度を従来よりも短めに設定することで、切削工具の工具寿命による異常を極力防止することができる。さらに、工具寿命の限界付近まで切削工具を使用することができるため、切削工具代や工具交換にかかる人件費などのコストを抑えることができる。
【0030】
また、本発明のNC旋盤は、
前記異常判別装置が、
前記切削工具の異常が認識された場合、前記切削工具の異常を特定作業者に知らせる異常通知機能を有することを特徴とする。
【0031】
このように切削工具の異常が特定作業者に通知されるように構成すれば、複数のNC旋盤を一人の特定作業者が管理していたとしても、直ぐにどのNC旋盤が異常であるかを把握することができるため、迅速に復旧作業を行うことができる。
【0032】
また、本発明のNC旋盤は、
前記検出センサが、
振動センサ、AE(アコースティック エミッション)センサ、加速度センサ、圧力センサのいずれかであることを特徴とする。
【0033】
このような検出センサを用いれば、切削工具の僅かな異常であっても正確かつ確実に把握することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、主軸に装着し回転された被切削物に切削工具を当接させて切削を行うNC旋盤であっても、確実に切削時における振動を検出し、確実に切削工具の工具状態を
検出することのできるNC旋盤およびNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法を提供することができる。
【0035】
さらにセンサによる検出の際に、センサが切削工具の振動を確実に検出することのできるNC旋盤およびNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法を提供することができる。
【0036】
また、複数の切削工具の一つ一つに検出センサを取付けなくても、確実に複数の切削工具の工具状態を検出することのできるNC旋盤およびNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
図1は本発明のNC旋盤を示した概略図、図2は本発明のNC旋盤において、切削工具を使用した際の状況を説明する概略図、図3は、本発明のNC旋盤における検出センサの取付け(固定)方法を説明する概略図、図4は本発明のNC旋盤における切削工具の工具状態を検出する方法を示した模式図、図5は本発明のNC旋盤における検出センサで検出されたセンサ出力波形をグラフ化した波形グラフ、図6は本発明のNC旋盤において切削工具の状態が異常な場合の波形グラフである。
【0038】
<NC旋盤10>
図1に示したように本発明のNC旋盤10は、予め入力された加工データによって、複数の切削工具の中から自動的に切削工具を選択し、被切削物に対して切削加工を行う自動工作機の一種であり、主軸に被切削物を装着してこれを回転させ、回転する被切削物に切削工具を当接させて切削を行うものである。
【0039】
このようなNC旋盤10には、複数の切削工具16a〜16e,18a〜18d,20a〜20dを収納する工具収納部12が備えられている。
工具収納部12は、図1に示したNC旋盤10の概略図において、前後方向に配設された被切削物26の周囲を取り囲むような状態で設置されており、切削工具16a〜16eは被切削物26の外径を切削するためのものであり、図2に示した矢印のようにXYステージによって被切削物26に向かって、工具収納部12全体が移動するようになっている。そして、移動する工具収納部12のうち、所望の切削工具を被切削物26に当接させることで切削が行われるようになっている。
【0040】
また、切削工具18a〜18d,20a〜20dは、主に被切削物の内径を切削するためのものであり、切削工具18a〜18dは被切削物26の背面から内径を切削し、切削工具20a〜20dは被切削物26の正面から内径を切削するものである。
【0041】
このような切削工具18a〜18d,20a〜20dについても、切削工具16a〜16eと同様、XYステージなどによって被切削物26の前方または後方付近に移動し、切削を行うようになっている。
【0042】
さらにこのような工具収納部12には、検出センサ14が1つ取付けてあり、検出センサ14は、ケーブル22を介して、後述する異常判別装置(図示せず)と接続されている。
【0043】
検出センサ14の取付け位置としては、工具収納部12上のいずれでも良いが、1つの検出センサ14で、複数の切削工具16a〜16e,18a〜18d,20a〜20dを確実に検出する目的から、各切削工具の中心付近に取付けられることが好ましい。
【0044】
また、検出センサ14の取付け(固定)方法としては、工具収納部12から検出センサ14が外れないようにしてあれば如何なる方法でも良いが、例えば図3に示したように、工具収納部12に螺子穴36加工を施し、検出センサ14を埋め込んだセンサ固定部材32を螺子穴36にぴったりと螺着させ、検出センサ14の上からケーブル22とともにモールド剤34で固定し、さらに後述するケーブル22を被覆するシース層24の上に固定バンド38を配設し、これを締結部材40で工具収納部12に固定することで、検出センサ14を工具収納部12に取付けることができる。
【0045】
このような検出センサ14としては、特に限定されるものではないが、例えば振動センサ、AE(アコースティック エミッション)センサ、加速度センサ、圧力センサなどを用いることができる。中でも切削工具の切削中における僅かな振動を確実に捕らえることができ、比較的安価である振動センサを用いることが好ましい。
【0046】
また、検出センサ14と異常判別装置(図示せず)とを接続するケーブル22としては、設置される環境が切削油や切り粉の飛散する過酷な環境であることから、好ましくは編組密度80%以上のシールド線、さらに好ましくは編組密度90%以上のシールド線を用いることが好ましい。
【0047】
さらにケーブル22は、シールド線上に耐ヒドリン系合成ゴムからなるシース層24を被覆することが好ましい。このようにシース層24をシールド線からなるケーブル22上に被覆することで、耐油性能を一段と向上させ、更にリード線への耐衝撃、耐振動性も含めて向上させることができ、確実に加工時における振動のみを検出することができるようになっている。
【0048】
このようなケーブル22に接続された異常判別装置(図示せず)としては、一般的なコンピュータを用いることができる。
なお異常判別装置(図示せず)は、NC旋盤10に加工データを送るコンピュータが、異常判別装置(図示せず)としての機能も有するように構成しても良く、またNC旋盤10に加工データを送るコンピュータと異常判別装置(図示せず)とを別々に設けても良いものである。
【0049】
なお、異常判別装置(図示せず)には、後述するように切削工具が異常であると判別された際には、特定作業者の携帯する受信機(図示せず)に信号を送信する異常通知機能が備えられている。異常通知機能は、特に限定されるものではなく、例えば警報装置、無線機を用いることができる。
【0050】
なお、本願実施例では、異常通知機能として無線機を用いて説明しているが、この場合、異常の発生しているNC旋盤の番号を受信機(図示せず)に送信することが好ましい。
また、上記のNC旋盤の番号以外にも、切削工具の種類、異常の状態、異常発生時間なども一緒に送信すれば、特定作業者が迅速に復旧作業を行うことができる。
【0051】
<切削工具の工具状態検出方法>
次に本発明のNC旋盤10による切削工具の工具状態検出方法について説明する。
図4に示したように、NC旋盤10の工具収納部12には1つの検出センサ14が取付けられており、検出センサ14にはケーブル22を介して、異常判別装置28が接続されている。
【0052】
なおNC旋盤10には、予め被切削物の加工データが入力されており、この加工データに従って、工具収納部12内に収納された各切削工具が自動的に選択されるようになって
いる。
【0053】
このようなNC旋盤10は、NC旋盤10の主軸に被切削物を装着した状態で、切削加工を開始させると、XYステージによって工具収納部12全体が被切削物に向けて移動し、被切削物と当接することで切削が開始されるようになっている。
【0054】
さらに切削の開始と同時に、工具収納部12に取付けられた検出センサ14からは、切削工具の振動に伴うセンサ出力値が出力され、異常判別装置28内へセンサ出力値が送られることとなる。
【0055】
なお、異常判別装置28内には、予めデータベースとして、正常な状態の切削工具による被切削物の切削加工時のセンサ出力値が蓄積されている。この蓄積された正常な状態のセンサ出力値には、予め切削工具の正常な範囲として設定された閾値が設けられている。
【0056】
異常判別装置28内に送られたセンサ出力値は、アンプによってセンサ出力値が増幅され、さらにフィルターで所定の周波数のみにフィルタリングされることとなる。さらに、フィルタリングされたセンサ出力値はA/D変換されて、正常な状態のセンサ出力値と比較できるように信号処理が施される。
【0057】
これによって、切削加工時におけるセンサ出力値が、正常な状態のセンサ出力値の閾値から外れているか否かを判別し、この閾値からセンサ出力値が外れた場合には、切削工具が異常な状態であると判別がなされるようになっている。
【0058】
さらに、切削工具が異常な状態であると判別された場合には、異常判別装置28の無線機能によって、NC旋盤10を管理する特定作業者の携帯する受信機30に、異常である旨が伝えられることとなる。
【0059】
また各切削工具には、加工条件に合わせて工具メーカーが推奨する工具寿命があるため、最初に工具収納部12へ切削工具を取付ける際に、仮定された各切削工具の工具寿命を異常判別装置にデータベースとして入力しておくことが好ましい。
【0060】
このようにすれば、例えば実際の工具寿命が仮定された工具寿命よりも長かった場合には、切削工具の使用限度を従来よりも長めに設定し、逆に実際の工具寿命が仮定された工具寿命よりも短かった場合には、切削工具の使用限度を従来よりも短めに設定することで、切削工具の工具寿命による異常を極力防止することができる。
【0061】
さらに、工具寿命の限界付近まで切削工具を使用することができるため、切削工具代や工具交換にかかる人件費などのコストを抑えることができる。
このような流れで、工具の異常検出は行われるが、実際に検出センサ14として振動センサを使用した場合には、切削加工開始から切削加工終了までに得たセンサ出力値をグラフ化すると、図5のように図示されることとなる。
【0062】
このグラフにおいて、X軸方向は、加工時間を表しており、切削加工開始から切削加工終了までに、加工データによって複数の切削工具が選択使用されていることが分かる。
またY軸方向は、各切削時におけるセンサ出力値の出力量を示したものであり、振幅の幅が大きくなるにつれて、振動量が大であることを表している。
【0063】
なおグラフのX軸において、切削工具と切削工具との間の、振幅の幅が急激に上昇している箇所は、切削工具の交換の際に生ずる振動を意味している。
ここで例として、グラフのX軸において2番目に選択された切削工具16cは、所定の
閾値内で加工がなされていることが分かる。
【0064】
このような閾値は選択された順序や工具の種類などによって異なり、各切削工具が選択されるごとに正常な閾値の範囲が設定される。この閾値の算出方法としては、正常時における切削加工開始から切削加工終了までのセンサ出力値を少なくとも50回以上、好ましくは100回以上得て、これを平均化することで信頼性の高い正常時における閾値とすることができる。
【0065】
このようにして正常時における閾値が用意された異常判別装置28は、図6に示したように、正常時における閾値からセンサ出力値が外れると、異常であると判別される。なお、異常の判定は、例えば正常時における閾値から5%値が外れた際とするなど、適宜設定することが好ましい。
【0066】
なお異常判別の際には、被切削物の切削加工開始から切削加工終了まで時間を追って判別がなされ、正常時における閾値からセンサ出力値が外れた時間から、どの切削工具がどのような切削時に異常となったかが判別できるようになっている。
【0067】
また切削工具の異常の種類としては、例えば切削工具の折れ、欠け、工具寿命などが考えられるが、各状態はそれぞれ状態に応じて異なる特性を持ったセンサ出力値が出力されるため、これらの特性を持ったセンサ出力値を予め異常判別装置28内にデータベース化しておけば、正常時における閾値から外れた際のセンサ出力値から、切削工具の異常の種類も併せて知ることができるようになっている。
【0068】
そして、これらの情報が異常通知機能によって、特定作業者の受信機30に送信され、これを確認した特定作業者が、異常の発生したNC旋盤10の切削工具を迅速に交換するようになっている。
【0069】
なお、異常発生の際には、特定作業者に異常の旨を通知するとともに、異常の発生したNC旋盤10が自動的に停止するようになっていても良い。
これによって、NC旋盤の切削工具に異常が発生しても、特定作業者の受信機にリアルタイムで情報が送信されるため、不良品を殆ど生産することもなく、また装置の復旧を迅速に行うことができ、生産性を落とすことなく、工場を稼動させることができる。
【0070】
以上、本発明のNC旋盤について説明してきたが、本発明は何らこれに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、本発明のNC旋盤を示した概略図である。
【図2】図2は、本発明のNC旋盤において、切削工具を使用した際の状況を説明する概略図である。
【図3】図3は、本発明のNC旋盤における検出センサの取付け(固定)方法を説明する概略図である。
【図4】図4は、本発明のNC旋盤における切削工具の工具状態を検出する方法を示した模式図である。
【図5】図5は、本発明のNC旋盤における検出センサで検出されたセンサ出力波形をグラフ化した波形グラフである。
【図6】図6は、本発明のNC旋盤において切削工具の状態が異常な場合の波形グラフである。
【図7】図7は、従来の切削工具の刃先摩耗を検出する方法を示した模式図である。
【図8】図8は、従来の工具の交換時期を判定するシステムの模式図である。
【図9】図9は、従来の工具の異常を検出する装置の模式図である。
【符号の説明】
【0072】
10・・・NC旋盤
12・・・工具収納部
14・・・検出センサ
16a〜16e・・・切削工具
18a〜18d・・・切削工具
20a〜20d・・・切削工具
22・・・ケーブル
24・・・シース層
26・・・被切削物
28・・・異常判別装置
30・・・受信機
32・・・センサ固定部材
34・・・モールド剤
36・・・螺子穴
38・・・固定バンド
40・・・締結部材
100・・・切削工具
102・・・治具
104・・・加速度検出子
200・・・工作機械
202・・・主軸
204・・・振動センサ
300・・・マシニングセンタ
302・・・振動検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の切削工具を収納する工具収納部を備え、
予め入力された加工データによって、自動的に前記工具収納部から所望の切削工具を選択し、被切削物に対して切削加工を行うNC旋盤であって、
前記NC旋盤は、
前記工具収納部に設けられ切削時における振動を検知する1つの検出センサと、
前記検出センサから出力されたセンサ出力値のセンサ出力波形の解析により、前記複数の切削工具の状態が正常であるか異常であるかを認識する異常判別装置と、
を備えることを特徴とするNC旋盤。
【請求項2】
前記検出センサのケーブルが、
編組密度80%以上のシールド線からなることを特徴とする請求項1に記載のNC旋盤。
【請求項3】
前記検出センサのケーブルが、
前記シールド線上に耐ヒドリン系合成ゴムからなるシース層を被覆してなることを特徴とする請求項2に記載のNC旋盤。
【請求項4】
前記異常判別装置が、
前記検出センサによって出力されたセンサ出力値に閾値を設け、
前記センサ出力値が閾値から外れた場合に前記切削工具が異常であることを認識するように構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のNC旋盤。
【請求項5】
前記異常判別装置が、
前記センサ出力値が閾値から外れた場合、前記加工データによって自動的に選択される前記切削工具の選択順序から、複数の切削工具のうち、どの切削工具が異常であるかを認識することができるように構成されていることを特徴とする請求項4に記載のNC旋盤。
【請求項6】
前記異常判別装置が、
前記切削工具が異常であることを前記センサ出力値が閾値から外れた場合に認識し、
前記切削工具の異常状態によって異なる前記センサ出力値から、どのような異常状態であるかを識別することができるように構成されていることを特徴とする請求項4または5に記載のNC旋盤。
【請求項7】
前記異常判別装置が、
前記切削工具が寿命に達すると仮定した工具寿命を加工条件より算出し、
前記仮定された工具寿命と実際に使用される前記切削工具の工具寿命が異なる場合には、
前記仮定された工具寿命を実際の工具寿命に合わせて更新するように構成されていることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載のNC旋盤。
【請求項8】
前記異常判別装置が、
前記切削工具の異常が認識された場合、前記切削工具の異常を特定作業者に知らせる異常通知機能を有することを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載のNC旋盤。
【請求項9】
前記検出センサが、
振動センサ、AE(アコースティック エミッション)センサ、加速度センサ、圧力センサのいずれかであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のNC旋盤。
【請求項10】
複数の切削工具を収納する工具収納部を備え、
予め入力された加工データによって、自動的に前記工具収納部から所望の切削工具を選択し、被切削物に対して切削加工を行うNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法であって、
前記工具収納部に設けられた1つの検出センサによって切削時における振動を検知してセンサ出力値を出力し、
前記検出センサから出力されたセンサ出力値のセンサ出力波形を異常判別装置で解析することにより、前記切削工具の状態が正常であるか異常であるかを認識することを特徴とするNC旋盤における切削工具の工具状態検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−828(P2008−828A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169828(P2006−169828)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000124362)シチズンセイミツ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】