説明

NMDA受容体拮抗作用を有するピペリジン誘導体

式(I)で示されるピペリジン誘導体が、NR1/NR2Bの受容体に特異的に結合し、鎮痛剤(疼痛治療剤)として用いられることを見出した。
【化1】


(式中、XはOHまたは低級アルキルスルホニルオキシ;Arは置換されていてもよいアリールまたは置換されていてもよいヘテロアリール;nは1〜4の整数;mは0〜1の整数;Rは水素;RはOH、または、R及びRは一緒になって単結合を形成してもよい;但し、1)nが2、mが0、R及びRが一緒になって単結合、且つArが置換されていてもよいフェニルである場合、2)nが3、mが0、R及びRが一緒になって単結合、且つArがフェニルである場合を除く)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経細胞のグルタミン酸受容体、特にNMDA受容体の1種であるNR1/NR2B受容体に対して特異的な拮抗作用を示し、好ましくは運動機能(例:知覚異常)、精神症状(例:精神分裂)などに対して副作用が少なく鎮痛剤等の医薬として有用なピペリジン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
L−グルタミン酸、L−アスパラギン酸などのアミノ酸は、中枢神経系における神経伝達物質として神経細胞活性化のために重要である。しかし、これら興奮性アミノ酸の細胞外での過剰な蓄積は、神経細胞の過度な刺激を誘引し、パーキンソン病、老人性痴呆症、ハンチントン舞踏病、てんかんなどの種々の脳神経学的疾患、ならびに、酸素欠乏時、虚血症、低血糖状態時、頭部または脊髄損傷時などに見られるような精神および運動機能の欠失を引き起こすと考えられている(非特許文献1、2)。
上記興奮性アミノ酸の中枢神経細胞に対する活性は、神経細胞上に存在するグルタミン酸受容体を介して作用することが知られている。したがって、このような受容体への上記興奮性アミノ酸の結合に拮抗する物質は、上記疾患および症状の治療薬剤、例えば、抗てんかん薬、虚血性脳傷害予防薬、抗パーキンソン病薬として有用であると考えられている。特に、脳梗塞などの脳虚血によってグルタミン酸が大量に放出されるので、グルタミン酸受容体への拮抗物質は脳梗塞急性期治療薬として、またアルツハイマー病などの慢性神経変性疾患の治療薬として有用であると考えられている。
上記グルタミン酸受容体は、イオンチャンネル型と代謝型に分類され、さらにイオンチャンネル型は、アゴニストに対する選択性に基づいて3種に分類される。これらは各々、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体、2−アミノ−3−(3−ヒドロキシ−5−メチルイソキサゾール−4−イル)プロパン酸(AMPA)受容体およびカイネート受容体と呼ばれる。
このうちNMDA受容体は、グルタミン酸、NMDA、イボテン酸などのアゴニストによって選択的に活性化される。このNMDA受容体の強い刺激は、大量のカルシウムイオンの神経細胞への流入を引き起こし、これが神経変性細胞死の原因の一つと考えられている。近年、ラットおよびマウスの脳からそれぞれNMDA受容体の遺伝子がクローニングされ、NMDA受容体はNR1およびNR2の2つのサブユニットから構成されることが明らかとなった(非特許文献3、4)。NR2サブユニットにはさらに4種(NR2A、2B、2C、2D)のサブファミリーが存在する(非特許文献5、6)。NR1/NR2A受容体は専ら記憶形成や学習獲得に関与し、NR1/NR2B受容体は脳虚血時における神経変性細胞死や疼痛の伝達に関与するといわれている(非特許文献7、8)。
このNMDA受容体の拮抗薬としては、従来から1)NR1/NR2受容体のサブファミリーにグルタミン酸やNMDAなどのアゴニストと競合的に結合する薬物(以下、競合的NMDA受容体拮抗薬という、例:D−2−アミノ−5−ホスホノ吉草酸)や2)NMDA受容体へグルタミン酸やNMDAなどのアゴニストとは関係なく非競合的に結合し、神経細胞内へのカルシウムイオン流入を抑制する薬物(以下、非競合的NMDA受容体拮抗薬という、例:MK−801(特許文献2))が知られている。
しかし競合的NMDA受容体の拮抗薬は、一般的には、NR1/NR2B受容体ばかりでなくNR1/NR2A受容体にも拮抗する可能性があるので、アルツハイマー病などで長期間薬物を服用した場合等には、学習能力、記憶形成などの低下が懸念される。
また最近、癌疼痛治療にモルヒネが広く使用されているが、モルヒネの効き難い疼痛や副作用の軽減の目的でその他の鎮痛薬や鎮痛補助薬等が用いられている(非特許文献9)。そのような鎮痛薬として例えばケタミンが知られているが、非競合的NMDA受容体拮抗薬であるため副作用として精神依存や精神症状(例:精神分裂)を発現することが知られている。
一方、脳循環改善薬であるイフェンプロジルは、NR1/NR2B受容体に高い親和性を示し、モルヒネ誘発鎮痛効果を増強する。競合的NMDA受容体拮抗薬であるCP−101606は、NR1/NR2B受容体に選択的な拮抗作用を示し、パーキンソン病、脳卒中、疼痛、片頭痛、耳鳴及び頭部外傷に対して有効であるということが知られている(特許文献1)。これらのNR1/NR2B受容体に高い親和性を示す薬剤は、運動機能(例:知覚異常)、精神症状(例:精神分裂)などに対する副作用の少ない新規な鎮痛剤になる可能性が高い。
特許文献3には本発明のピペリジン誘導体と類似構造を有し、NMDA拮抗作用を有する化合物が開示されているが、本発明化合物のRに対応する置換基がヒドロキシである化合物は具体的には記載されていない。 特許文献4〜6には本発明のピペリジン誘導体と類似構造を有する化合物が開示されているが、NMDA受容体拮抗作用については開示されていない。
本発明のピペリジン誘導体と類似構造を有する化合物が特許文献7に記載されているが、NMDA受容体サブタイプに対する拮抗作用は、選択性に乏しいか低活性である。
【特許文献1】米国特許第5338754号明細書
【特許文献2】米国特許第4232158号明細書
【特許文献3】国際公開第96/02250号パンフレット
【特許文献4】特開昭61−36262号公報
【特許文献5】国際公開第91/08200号パンフレット
【特許文献6】英国特許第881894号明細書
【特許文献7】国際公開第03/035641号パンフレット
【非特許文献1】NATURE 1976年、第263巻 P.517
【非特許文献2】NATURE 1991年、第349巻 P.414
【非特許文献3】NATURE 1992年、第357巻 P.70
【非特許文献4】NATURE 1992年、第358巻 P.364
【非特許文献5】SCIENCE 1992年、第256巻 P.1217
【非特許文献6】FEBS LETT 1992年、第300巻 P.39
【非特許文献7】STROKE 1997年、第28巻 P.2244
【非特許文献8】TRENDS PHARMA SCI 2001年、第22巻 P.636
【非特許文献9】日本薬理雑誌 2001年、第117巻 P.13
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述したように、NMDA受容体の拮抗薬は、各種の中枢疾患や癌疼痛等に対する治療薬として期待されているが、受容体サブタイプに対する選択性が低い、非競合的NMDA受容体拮抗作用であるために種々の副作用を発現する恐れがある、等の課題を有していた。
よって、強活性であり、より好ましくはサブタイプ、特にNR1/NR2B受容体に高い親和性を示し、さらに好ましくは副作用発現の恐れがない、NMDA受容体拮抗薬の開発が望まれている。特に臨床上有用な癌疼痛等に対する鎮痛薬が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、ある種のピペリジン誘導体が強力なNR1/NR2B受容体拮抗作用および顕著な鎮痛効果を示し、また精神障害などの副作用が発現しないことを見出し、以下に示す発明を完成した。
(1)式(I):
【化1】

(式中、XはOHまたは低級アルキルスルホニルオキシ;
Arは、置換されていてもよいアリールまたは置換されていてもよいヘテロアリール;
nは、1〜4の整数;
mは、0〜1の整数;
は水素;
はOH、または、R及びRは一緒になって単結合を形成してもよい;
但し、1)nが2、mが0、R及びRが一緒になって単結合、且つArが置換されていてもよいフェニルである場合、2)nが3、mが0、R及びRが一緒になって単結合、且つArがフェニルである場合を除く)で示される化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
(2)nが3または4である上記1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
(3)mが1である上記1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
(4)nが3、mが1、Arが置換されていてもよいフェニルである、上記1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
(5)nが3、mが1、Rが水素、RがOH、Arが置換されていてもよいフェニルである、上記1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
(6)nが3、mが1、R及びRが一緒になって単結合、Arが置換されていてもよいフェニルである、上記1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
(7)nが3、mが0、R及びRが一緒になって単結合、Arが置換フェニルである、上記1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
(8)Arが置換されていてもよいヘテロアリールである、上記1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
(9)nが3、mが0、R及びRが一緒になって単結合、Arが置換されていてもよいヘテロアリールである、上記1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
(10)上記1〜9のいずれかに記載の化合物を含有する医薬組成物。
(11)NMDA受容体拮抗作用を有する、上記10記載の医薬組成物。
(12)NR1/NR2B受容体拮抗作用を有する、上記11記載の医薬組成物。
(13)鎮痛剤または片頭痛、脳卒中、頭部外傷、アルツハイマー病、パーキンソン病もしくは耳鳴りの治療剤である、上記1〜9のいずれかに記載の化合物を含有する医薬組成物。
(14)鎮痛剤である、上記1〜9のいずれかに記載の化合物を含有する医薬組成物。
(15)上記1〜9のいずれかに記載の化合物を投与することを特徴とする、痛みの軽減方法または片頭痛、脳卒中、頭部外傷、アルツハイマー病、パーキンソン病もしくは耳鳴りの治療方法。
(16)上記1〜9のいずれかに記載の化合物を投与することを特徴とする、痛みの軽減方法。
(17)鎮痛剤または片頭痛、脳卒中、頭部外傷、アルツハイマー病、パーキンソン病もしくは耳鳴りの治療剤の製造のための、上記1〜9のいずれかに記載の化合物の使用。(18)鎮痛剤の製造のための、上記1〜9のいずれかに記載の化合物の使用。
(19)
式(I):
【化2】

(式中、XはOHまたは低級アルキルスルホニルオキシ;
Arは、置換されていてもよいアリールまたは置換されていてもよいヘテロアリール;
nは、1〜4の整数;
mは、0〜1の整数;
は水素;
はOH、または、R及びRは一緒になって単結合を形成してもよい;
但し、1)nが1〜2、mが0、R及びRが一緒になって単結合、且つArが置換されていてもよいフェニルである場合、2)nが3、mが0、R及びRが一緒になって単結合、且つArがフェニルである場合を除く)で示される化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
【発明の効果】
【0005】
本化合物は、脳卒中及び脳外傷のような神経変性治療に用いられるばかりでなく、副作用の少ない鎮痛薬(例:癌疼痛鎮痛薬)等としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
化合物(I)における各基について以下に説明する。
Xは、OH、低級アルキルスルホニルオキシまたは低級アルコキシである。低級アルキルスルホニルオキシは、スルホニルオキシ基に低級アルキルが置換して形成される基である。CHSO−、CHCHSO−等が例示される。好ましくはCHSO−である。低級アルキルは、炭素数が1から6までの直鎖状または分岐状のアルキルを包含し、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、iso−ペンチル、neo−ペンチル、tert−ペンチル、n−ペンチル、iso−ペンチル、neo−ペンチル、tert−ペンチル、n−ヘキシル等が例示される。好ましくは炭素数1から3のアルキルであり、特に好ましくはメチルまたはエチルである。低級アルキルは、ハロゲンで置換されていてもよく、CF−、CHF−、CHF−、CCl−等が例示される。ハロゲンとは、F、Cl、Br等が挙げられる。低級アルコキシの低級アルキル部分も上記「低級アルキル」と同様である。
Arは、置換されていてもよいアリールまたは置換されていてもよいヘテロアリールである。アリールは、フェニル、ナフチル又は多環芳香族炭化水素基(フェナンスリル等)である。好ましくは、フェニルである。ヘテロアリールは、N、OおよびSからなる群から選択されるヘテロ原子を1〜4個含む5〜6員の芳香環基(例えば、フラン、チオフェン、ピロール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン等)、それらの縮合環、又は上記「芳香環」と上記「アリール」との縮合環(例えば、ベンゾチオフェン、キノリン等)を意味する。好ましくは、チオフェンである。
置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいフェニルまたは置換されていてもよいヘテロアリールにおける置換基としては、OH、ハロゲン(例、F、Br、Cl等)、低級アルキル(例、CH−、CHCH−、tert−Bu−等)、ハロゲン化低級アルキル(例、CF−等)、低級アルコキシ(例、CHO−、CHCHO−、iso−プロポキシ等)、ハロゲン化低級アルコキシ(例、CFO−、CFCFO−等)、低級アルキルスルホニルオキシ(例、CHSO−、CHCHSO−等)、ハロゲン化低級アルキルスルホニルオキシ(例、CFSO−、CHFSO−、CFCHSO−等)、アリールスルホニルオキシ(例、PhSO−等)、低級アルコキシアリールスルホニルオキシ(例、CHO−p−PhSO−等)、低級アルキルアリールスルホニルオキシ(例、CH−p−PhSO−等)、アシルオキシ(例、アセトキシ、プロパノイルオキシ等)、アロイルオキシ(例、ベンゾイルオキシ等)、アシル(例、アセチル)、アロイル(例、ベンゾイル)、ホルミル、置換されても良いアミノ(例、アミノ、ジメチルアミノ等)、ニトロ、シアノ、低級アルキルカルボキシエステル(例、メトキシカルボニルエステル、エトキシカルボニルエステル等)、カルボキシ、カルバモイル、置換されてもよいアリールオキシ(例、フェノキシ、モノクロロフェノキシ、ジクロロフェノキシ、トリフルオロメチルフェノキシ等)である。これらの置換基で1〜5箇所、好ましくは1または2箇所が置換されていてもよい。
Arにおける置換基は、好ましくは、F、Cl、CHO−、CH−またはCFO−等である。
nは、1〜6の整数である。好ましくは1〜4、特に好ましくは、3である。
mは、0〜1の整数である。特に好ましくは、1である。
は、水素、C1〜C3アルキル(好ましくはメチル)、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、OH、CN、置換されてもよいアミノ、置換されてもよいアルコキシである。置換されてもよいアミノにおける置換基としては、ハロゲン、低級アルキル、アシル等である。置換されてもよいアルコキシにおける置換基としては、OH、ハロゲン(例、F、Br、Cl等)である。好ましくは、水素である。
は、Rと同様である。好ましくは、OHである。
及びRは、一緒になって単結合になってもよい。
活性発現に必要とされる置換基は、XがOHまたは低級アルキルスルホニルオキシ(例、CHSO−等)である。好ましくは、OHである。
本発明化合物はいずれもNMDA拮抗作用、特にNR1/NR2B受容体拮抗作用を有するが、特に下記化合物が好ましい。
(i)nが1、2または4である化合物
(ii)mが1である化合物
(iii)Arがパラ置換されたフェニルである化合物
(iv)nが1であり、mが1である化合物、
(v)nが2であり、mが1である化合物、
(vi)nが3であり、mが1である化合物、
(vii)nが4であり、mが1である化合物、
(viii)nが1であり、mが0である化合物、
(ix)nが2であり、mが0である化合物、
(x)nが4であり、mが0である化合物、
(xi)nが1であり、mが1であり、Arがパラ置換されたフェニルである化合物、
(xii)nが2であり、mが1であり、Arがパラ置換されたフェニルである化合物、
(xiii)nが3であり、mが1であり、Arがパラ置換されたフェニルである化合物、
(xiv)nが4であり、mが1であり、Arがパラ置換されたフェニルである化合物、
(xx)nが1であり、mが0であり、Arがパラ置換されたフェニルである化合物、
(xvi)nが2であり、mが0であり、Arがパラ置換されたフェニルである化合物、
(xvii)nが3であり、mが0であり、Arがパラ置換されたフェニルである化合物、
(xviii)nが4であり、mが0であり、Arがパラ置換されたフェニルである化合物、
【0007】
化合物(I)の代表的な製法を以下に例示する。
【化3】

化合物(I)は化合物(I′)を包含する。
式中、YはCHO−、CHSO−、4−メトキシベンゼンスルホニルオキシ等である。Zは、脱離基(例、ハロゲン;Cl、Br等、スルホネート;CHSO−、CFSO−等、アシルオキシ;CHCO−等)である。その他の記号は前記と同意義、X及びYは同意義の場合がある(例;CHSO−)。
化合物(II)と化合物(III)とを、所望により塩基存在下で反応させて化合物(I′)を得る。塩基としては、炭酸塩(KCO、NaCO等)やNaOH、3級アミン(例:EtN)等を使用できる。またKBr、NaI、KIを併用してもよい。溶媒としては、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、メタノール、エタノール、ピリジン、ダイグライム等が使用できる。反応温度は通常、約10〜200℃、好ましくは室温〜約140℃であり、反応時間は数時間〜数十時間、好ましくは約1〜20時間、より好ましくは約3〜15時間である。化合物(II)および(III)は周知の反応により合成するか、または市販品を利用すればよい。YがCHO−の時、化合物(I′)は、ピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン等の3級アミンの塩酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩等の塩と溶媒存在下又は非存在下加熱して、XがOHの化合物(I)を与える。YがCHSO−、4−メトキシベンゼンスルホニルオキシの時、化合物(I′)は、NaOH、LiOH、KOH、KCO、Ca(OH)等の塩基とメタノール、エタノール、アセトニトリル、DMSO、DMF、ダイグライム等の溶媒存在下又は非存在下加熱して、XがOHの化合物(I)を与える。
なお、上記の反応前には所望により、当業者に周知の方法に従い官能基に対して適当な保護反応を行ない、また反応後は脱保護反応を行なってもよい。
【0008】
本発明化合物の塩としては製薬的に許容される塩が使用可能であり、塩基性付加塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;例えばアンモニウム塩;例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩;ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩;例えばN,N−ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;例えばピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;例えばテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩;リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
酸付加塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、りん酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、りんご酸塩、くえん酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;例えばメタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等を挙げることができる。
化合物(I)は、水やアセトニトリル等の溶媒和物であってもよい。又本発明化合物の水和物の水和数は通常、合成方法、精製方法又は結晶化条件等によって変化し得るが、例えば、化合物1分子当り1〜5分子の範囲である。
化合物(I)は、常法によりプロドラッグ化されていてもよい。
プロドラッグは、化学的又は代謝的に分解できる基を有する本発明化合物の誘導体であり、加溶媒分解により又は生理学的条件下でインビボにおいて薬学的に活性な本発明化合物となる化合物である。適当なプロドラッグ誘導体を選択する方法および製造する方法は、例えばDesign of Prodrugs,Elsevier,Amsterdam 1985に記載されている。プロドラッグは、それ自身が活性を有する場合がある。
本合物がヒドロキシル基を有する場合は、例えばヒドロキシル基を有する化合物と適当なアシルハライド、適当な酸無水物、適当なスルホニルクロライド、適当なスルホニルアンハイドライド及びミックスドアンハイドライドとを反応させることにより或いは縮合剤を用いて反応させることにより製造されるアシルオキシ誘導体やスルホニルオキシ誘導体のようなプロドラッグが例示される。例えばCHCOO−、CCOO−、t−BuCOO−、C1531COO−、PhCOO−、(m−NaOOCPh)COO−、NaOOCCHCHCOO−、CHCH(NH)COO−、CHN(CHCOO−、CHSO−、CHCHSO−、CFSO−、CHFSO−、CFCHSO−、p−CH−O−PhSO−、PhSO−、p−CHPhSO−が挙げられる。
化合物(I)は、医薬、特にNMDA受容体、とりわけNR1/NR2B受容体に起因する各種中枢の疾患(例:片頭痛、脳卒中、脳梗塞、頭部外傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、耳鳴り、慢性神経変性疾患、ハンチントン舞踏病、てんかん、筋萎縮性側索硬化症、細菌やウイルス感染に関連する神経変性等)に対する予防・治療薬、又は鎮痛薬(癌疼痛等)として、人を含む動物に経口又は非経口的に投与可能である。投与剤形としては、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、注射剤等が例示される。製剤化に際しては、所望により種々の添加剤、例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、安定化剤、着色剤、コーティング剤を使用できる。投与量は、被験体の年齢、体重、症状や投与方法などにより異なり特に限定されないが、通常、成人1日当たり、経口投与の場合、約1mg〜約5000mgであり、非経口投与の場合、約0.1mg〜約1000mgである。
【実施例】
【0009】
以下に実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0010】
実施例1
【化4】

4−[4−Hydroxy−4−(4−methyl−benzyl)−piperidin−1−yl]−1−(4−methoxy−phenyl)−butan−1−one(3)の合成
4−Chloro−1−(4−methoxy−phenyl)−butan−1−one(1)1.62g、4−(4−Methyl−benzyl)−piperidin−4−ol(2)1.20g、K2CO3 1.62gとKI 0.49gのアセトニトリル(30mL)溶液を窒素気流中105〜110℃で9時間攪拌還流した。溶媒を留去し、氷水を注ぎ酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、MgSO4で乾燥した。溶媒を留去後、得られた油状の残渣をシリカゲルクロマトグラフィ(クロロホルム:メタノール=20/1〜10/1)で精製し、AcOEt/Et2Oより再結晶して(3)1.73g得た。
(3)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.45−1.75(4H,m),1.936(2H,quint,J=7.2Hz),2.24−2.76(4H,m),2.324(3H,s)2.427(2H,t,J=6.9Hz),2.692(2H,s),2.935(2H,t,J=7.2Hz),3.86(3H,s)6.922(2H,d,J=9.0Hz),7.04−7.16(4H,m),7.945(2H,d,J=9.0Hz)
元素分析(%):C24H31NO・1/5H2O
計算値:C=74.85,H=8.22,N=3.64,
実験値:C=74.84,H=8.23,N=3.85,
1−(4−Hydroxy−phenyl)−4−[4−(4−methyl−benzyl)−3,6−dihydro−2H−pyridin−1−yl]−butan−1−one(4)の合成
化合物(3)1.40g、ピリジン塩酸塩7.29gを180〜185℃で6.5時間攪拌した。室温に冷却後、NaHCO水溶液にてアルカリ性にした後に酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、MgSO4で乾燥した。溶媒を留去後、得られた油状の残渣をシリカゲルクロマトグラフィ(クロロホルム:メタノール=50/1〜20/1)で精製し、油状の(4)0.34g得た。このフリー体をシュウ酸塩として結晶化し、MeOH/i−PrOH/EtOより再結晶した。
(4)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.987(2H,quint,J=7.5Hz)1.95−2.15(2H,m),2.290(3H,s),2.612(2H,t,J=7.8Hz),2.681(2H,t,J=6Hz),2.899(2H,t,J=7.2Hz),3.114(2H,brs),3.238(2H,s),5.407(1H,brs),6.560(2H,d,J=8.7Hz),6.96−7.10(4H,m),7.648(H,d,J=8.7Hz)
元素分析(%):C23H27NO2・C2H2O4・1/10H2O
計算値:C=68.04,H=6.67,N=3.17,
実験値:C=67.94,H=6.65,N=3.41,
実施例2
【化5】

4−[4−(4−Chloro−benzyl)−4−hydroxy−piperidin−1−yl]−1−(4−methoxy−phenyl)−butan−1−one(6)の合成
4−Chloro−1−(4−methoxy−phenyl)−butan−1−one(1)2.11g、4−(4−Chloro−benzyl)−piperidin−4−ol(5)1.60g、K2CO3 1.96gとKI 0.45gのアセトニトリル(50mL)溶液を窒素気流中100〜110℃で19時間攪拌還流した。溶媒を留去し、氷水を注ぎ酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、MgSO4で乾燥した。溶媒を留去後、得られた油状の残渣をシリカゲルクロマトグラフィ(クロロホルム:メタノール=20/1〜10/1)で精製し、AcOEt/Et2Oより再結晶して(6)1.55g得た。
元素分析(%):C23H28ClNO3・1/3H2O
計算値:C=67.72,H=7.08,N=3.43,
実験値:C=67.67,H=6.91,N=3.51,
[4−(4−Chloro−benzyl)−3,6−dihydro−2H−pyridin−1−yl]−1−(4−hydroxy−phenyl)−butan−1−one(7)の合成
化合物(6)1.25g、ピリジン塩酸塩4.31gを180〜185℃で5時間攪拌した。室温に冷却後、NaHCO水溶液にてアルカリ性にした後に酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄しMgSOで乾燥した。溶媒を留去後、得られた油状の残渣をシリカゲルクロマトグラフィ(クロロホルム:メタノール=50/1〜20/1)で精製し、油状の(7)0.55gを得た。このフリー体(7)をシュウ酸塩として結晶化し、MeOH/i−PrOHより再結晶した。
(7)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.985(2H,quint,J=7.2Hz),2.00−2.16(2H,m),2.598(2H,t,J=7.5Hz),2.668(2H,t,J=5.7Hz),2.902(2H,t,J=7.2Hz),3.100(2H,brs),3.234(2H,brs)5.414(1H,brs),6.563(2H,d,J=8.7Hz),7.041(2H,d,J=8.4Hz),7.177(2H,d,J=8.4Hz),7.665(2H,d,J=8.7Hz),
元素分析(%):C22H24ClNO2・C2H2O4
計算値:C=62.68,H=5.70,Cl=7.71,N=3.05,
実験値:C=63.01,H=5.77,Cl=7.52,N=3.41,
【0011】
上記と同様に(9)、(10)、(11)を合成した。
【化6】

(9)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.46−1.61(2H,m),1.806(2H,t−d J1=13.5Hz,J2=3.6Hz),1.972(2H,quint,J=7.2Hz),2.318(2H,s),2.38−2.52(2H.m),2.566(2H,t,J=7.2Hz),2.700(2H,s),2.78−2.90(2H,m)2.875(2H,t,J=7.2Hz),6.575(2H,d,J=8.7Hz),7.050(2H,d,J=8.1Hz),7.110(2H,d,J=8.1Hz),7.671(2H,d,J=8.7Hz)
元素分析(%):C23H29NO3・1/2C2H2O4・1/4H2O
計算値:C=68.21,H=7.59,N=3.46,
実験値:C=68.14,H=7.41,N=3.40,
(10)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.50−1.60(2H,m),1.738(2H,t−d J1=13.8Hz,J2=3.9Hz),1.957(2H,quint,J=6.9Hz),2.40−2.86(2H,m),2.765(2H,s),2.956(2H,t,J=6.9Hz),6.858(2H,d,J=8.7Hz),7.143(2H,d,J=8.14z),7.251(2H,d,J=8.7Hz),7.863(2H,d,J=8.4Hz)
元素分析(%):C23H26F3NO4・1/4H2O
計算値:C=62.51,H=6.04,N=3.17,F=12.90,
実験値:C=62.32,H=6.03,N=3.26,F=13.32,
(11)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.64−2.26(6H,m),2.811(2H,s),3.00−3.44(8H,m),6.868(2H,d,J=8.7Hz),6.94−7.26(4H,m),7.868(2H,d,J=8.7Hz)
【0012】
実施例3
【化7】

Methanesulfonic acid 4−{3−[4−hydroxy−4−(4−trifluoromethoxy−benzyl)−piperidin−1−yl]−propionyl}−phenyl ester(14)の合成
Methanesulfonic acid 4−(4−chloro−butyryl)−phenyl ester(12)0.54g、(13)0.45g、K2CO3 0.45gとKI 0.14gのアセトニトリル(20mL)溶液を窒素気流中105〜110℃で9.5時間攪拌還流した。溶媒を留去し、氷水を注ぎ酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄しMgSO4で乾燥した。溶媒を留去後、得られた油状の残渣をシリカゲルクロマトグラフィ(クロロホルム:メタノール=10/1)で精製し、油状の(14)0.21gを得た。このフリー体(14)をシュウ酸塩として結晶化し、MeOH/i−PrOH−Et2Oより再結晶した。
(14)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.42−1.56(2H,m),1.637(2H,t−d J1=13.8Hz,J2=4.5Hz),1.967(2H,quint,J=7.2Hz),2.320(2H,t−d J1=11.4Hz,J2=2.4Hz),2.448(2H,t,J=7.2Hz),2.602.74(2H,m),2.719(2H,s),2.978(2H,t,J=7.2Hz),3.197(3H,s),7.139(2H,d,J=9.0Hz),7.213(2H,d,J=8.7Hz),7.368(2H,d,J=9.0Hz),8.029(2H,d,J=8.7Hz)
元素分析(%):C24H28F3NO6S・C2H2O4
計算値:C=51.57,H=4.99,N=2.31,F=9.41,S=5.30,
実験値:C=51.88,H=5.00,N=2.54,F=9.47,S=5.68,
【0013】
上記と同様に(15)、(16)、(17)を合成した。
【化8】

(15)
元素分析(%):C23H25ClF3NO3・C2H2O4
計算値:C=63.15,H=6.36,F=4.00,N=2.95,
実験値:C=64.16,H=6.52,F=3.64,N=3.09,
(16)
元素分析(%):C23H28ClNO3・1/3H2O
計算値:C=67.72,H=7.08,Cl=8.69,N=3.43,
実験値:C=67.67,H=6.91,Cl=9.38,N=3.51,
(17)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.45−1.75(4H,m),1.936(2H,quint,J=7.2Hz),2.24−2.76(4H,m),2.324(3H,s)2.427(2H,t,J=6.9Hz),2.692(2H,s),2.935(2H,t,J=7.2Hz),3.865(3H,s)6.922(2H,d,J=9.0Hz),7.04−7.16(4H,m),7.945(2H,d,J=9.0Hz)
元素分析(%):C24H31NO・1/5H2O
計算値:C=74.85,H=8.22,N=3.64,
実験値:C=74.84,H=8.23,N=3.85,
【0014】
上記と同様に(18)、(19)、(20)を合成した。
【化9】

(18)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.980(2H,quint,J=6.9Hz),2.00−2.20(2H,m),2.203(3H,s),2.603(2H,t,J=7.5Hz),2.705(2H,t,J=5.7Hz),2.890(2H,t,J=6.9Hz),3.067(2H,brs),3.247(2H,brs)5.180(2H,brs),6.557(2H,d,J=8.7Hz),6.50−6.90(1H,m),7.02−7.14(4H,m)7.646(2H,d,J=9.0Hz)
元素分析(%):C23H27NO2・3/5C2H2O4
計算値:C=72.04,H=7.04,N=3.47,
実験値:C=72.12,H=7.25,N=3.67,
(19)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.989(2H,quint,J=7.2Hz),2.00−2.15(2H,m),2.606(2H,t,J=7.5Hz),2.680(2H,t,J=6.0Hz),2.901(2H,t,J=7.2Hz),3.113(2H,brs),3.237(2H,brs)5.406(1H,brs),6.569(2H,d,J=8.4Hz),6.85−7.12(4H,m),7.664(2H,d,J=8.4Hz)
元素分析(%):C22H24FNO2・1/2C2H2O4・4/3H2O
計算値:C=65.70,H=6.15,N=3.33,F=4.52,
実験値:C=65.72,H=5.84,N=3.38,F=4.25,
(20)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.88−2.16(4H,m),2.505(2H,t,J=6.0Hz),2.55−2.70(2H,m)2.945(2H,t,J=6.6Hz),3.039(2H,brs),5.400(1H,brs),6.841(2H,d,J=7.2Hz),7.08−7.28(4H,m)7.851(2H,d,J=7.2Hz),
元素分析(%):C23H24F3NO3・C2H2O4・1/10H2O
計算値:C=58.73,H=5.17,F=11.15,N=2.74,
実験値:C=58.50,H=5.00,F=11.02,N=2.94,
【0015】
実施例4
【化10】

1−(4−Hydroxy−phenyl)−4−[4−(4−methoxy−phenyl)−3,6−dihydro−2H−pyridin−1−yl]−butan−1−oneの合成(25)
4−Methoxy−benzenesulfonic acid 4−(4−chloro−butyryl)−phenyl ester(21)2.58g、4−(4−Methoxy−phenyl)−piperidin−4−ol(22)1.30g、K2CO3 1.74gとKI 0.52gのアセトニトリル(50mL)溶液を窒素気流中105〜110℃で10時間攪拌還流した。溶媒を留去し,氷水を注ぎ酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄しMgSO4で乾燥した。溶媒を留去後、得られた油状の残渣をシリカゲルクロマトグラフィ(酢酸エチル:メタノール=10/1)で精製し、AcOEt/Et2Oより再結晶して(23)1.34g得た。
(23)1.20gに4N−NaOH溶液1.95mL、DMSO 15mLを加えて55℃にて2.5時間加温攪拌した。冷却後2N−HClにて酸性にした後、NaHCO3にてアルカリ性にして酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄しMgSO4で乾燥した。溶媒を留去後、得られた油状の残渣をシリカゲルクロマトグラフ(クロロホルム:メタノール=5/1〜3/1)で精製し、結晶して(24)0.55g得た。(24)0.35gのトリフルオロ酢酸10mL溶液を4時間還流した。過剰の試薬を留去したのち、残渣をNa2CO3水溶液にてアルカリ性にした。
析出した粗製の結晶をシリカゲルクロマトグラフ(クロロホルム:メタノール=20/1〜10/1)で精製し、結晶として(25)0.25g得た。
(25)
NMR(DMSO−d6)δ ppm(300MHz)(Free)1.813(2H,quint,J=7.5Hz),2.36−2.48(4H,m),2.592(2H,t,J=5.7Hz),2.941(2H,t,J=7.2Hz),3.038(2H,brs),3.741(3H,s),6.018(1H,brs),6.833(2H,d,J=8.7Hz),6.882(2H,d,J=8.7Hz),7.344(2H,d,J=8.7Hz),7.844(2H,d,J=8.7Hz)
元素分析(%):C22H25NO3・H2O
計算値:C=71.52,H=7.37,N=3.79,
実験値:C=71.23,H=7.40,N=3.97,
【0016】
上記と同様に(26)〜(32)を合成した。
【化11】

(26)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)2.065(2H,quint,J=6.9Hz),2.50−2.60(2H,m),2.604(2H,t,J=7.5Hz),2.763(2H,t,J=5.7Hz)3.069(2H,t,J=6.9Hz),3.15−3.25(2H,m),3.162(3H,s),3.806(3H,S),5.942(1H,brs),6.854(2H,d,J=8.7Hz),7.25−7.40(4H,m),8.046(H,d,J=8.7Hz)
(27)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)1.76−1.88(2H,m),1.986(2H,quint,J=6.9Hz),2.131(2H,t−d,J1=13.2Hz,J2=4.2Hz),2.36−2.50(2H,m),2.469(2H,t,J=6.9Hz),2.66−2.80(2H,m),2.995(2H,t,J=6.9Hz),3.190(3H s),6809(1H,s),7.373(2H,d,J=8.7Hz),8.046(2H,d,J=8.7Hz)
(28)
NMR(DMSO−d6)δ ppm(300MHz)(Free)1.58−1.72(2H,m),1792(2H,quint,J=6.6Hz),2.00−2.75(8H,m),2.902(2H,t,J=6.9Hz),5.250(1H,s),6.838(2H,d,J=8.7Hz),7.052(1H,s),7.848(2H,d,J=8.7Hz),
(29)
NMR(CDCl)δ ppm(300MHz)(Free)2.018(2H,quint,J=7.2Hz),2.36−2.46(2H,m),2.533(2H,t,J=6.9Hz),2.653(2H,t,J=5.7Hz),3.033(2H,t,J=7.2Hz),3.08−3.16(2H,m),3.179(3H,s),5.973(1H,brs),6.688(1H,s),7.364(2H,d,J=8.7Hz),8.045(2H,d,J=8.7Hz)
(30)
NMR(DMSO−d6)δ ppm 2.41−2.46(m,2H),2.75(t,J=5.6Hz,2H),3.16−3.24(m,2H),3.83(s,2H),4.07(brs,1H),6.17−6.19(m,1H),6.83(d,J=8.4Hz,2H),7.37(d,J=8.4Hz,2H),7.43(d,J=8.4Hz,2H),7.88(d,J=8.4Hz,2H).
mp 206−208℃(decomp)
(31)
NMR(CDCl/TMS)δ ppm 2.03(quint,J=6.8Hz,2H),2.44−2.49(m,2H),2.54(t,J=6.8Hz,2H),2.69(t,J=6.0Hz,2H),3.03(t,J=6.8Hz,2H),3.11−3.15(m,2H),3.17(s,3H),6.02−6.04(m,1H),7.27−7.29(m,4H),7.35(d,J=8.8Hz,2H),8.03(d,J=8.8Hz,2H).
mp 122−125℃(decomp)
(32)
NMR(CDCl/TMS)δ ppm 1.81(quint,J=7.2Hz,2H),2.40−2.45(m,2H),2.60(t,J=7.2Hz,2H),2.94(t,J=7.2Hz,2H),3.03−3.07(m,2H),3.17(d,J=4.0Hz,2H),4.08(brs,1H),6.17−6.19(m,1H),6.83(d,J=8.8Hz,2H),7.37(d,J=8.8Hz,2H),7.43(d,J=8.8Hz,2H),7.83(d,J=8.8Hz,2H).
mp 197−199℃(decomp)
【0017】
試験例1
NMDA受容体に対する結合実験
リガンドにNR1/NR2Bサブタイプ受容体特異的な拮抗剤であるIfenprodilを用いて被検化合物(10、18、19)との受容体競合実験を実施した。
動物は雄性、Slc:Wistarラットを用い、断頭後脳を摘出し大脳皮質を分画した。大脳皮質を20倍量の氷冷50mM Tris・HCl緩衝液(pH7.4)でホモジナイズし、4℃、27,500×gで10分間遠心分離した。得られた沈殿を同緩衝液で懸濁後、再度遠心分離した。この操作を3回繰り返し、得られた沈殿を緩衝液で懸濁後、−80℃で保存した。実験直前に、室温で融解後4℃、27,500×gで10分間遠心分離し、得られた沈殿を緩衝液で懸濁した。さらに緩衝液で10倍に希釈し、これを膜標品として実験に用いた。
結合実験は、470μlの上記膜標品に10μlの異なる濃度の被検化合物、10μlの標識リガンド[H]−Ifenprodilおよび10μlのGBR−12909を加え、氷温で120分間インキュベーションした。標識リガンドの[H]−Ifenprodilの濃度は最終5nMとし、GBR−12909の濃度は最終3μMとした。全結合量の測定には溶媒であるDMSOを用い、非特異的結合量の測定には100μMのIfenprodilを使用した。なお、GBR−12909は、[H]−Ifenprodilのnon−polyamine−sensitive siteに対する結合をブロックする為に添加した。インキュベーション後、Whatman GF/C濾紙(Whatman社製)を用いて結合体とフリー体を分離し、2.5mlの氷冷緩衝液で濾紙を4回洗浄した。濾紙をバイアル瓶中で液体シンチレーション(クリアゾルI、ナカライテスク社製)に浸し、液体シンチレーションカウンターで放射活性(dpm)を測定した。測定値より結合阻害率(%)を下式によって求め、結合を50%抑制する用量(IC50)を算出した。被検物質のIC50値を表1に示す。なお、対照剤としてNR1/NR2B受容体の拮抗薬である(±)CP−101606を用いた。
GBR−12909(バノキセリン)及びCP−101606の式を化11に示す。
【化12】

結合阻害率(%)=100−[(被検化合物存在下の結合量−非特異的結合量)/(全結合量 −非特異的結合量)]×100
NR1/NR2B受容体結合実験における結果を表1に示す。
【表1】

以上の結果から本発明化合物は、NR1/NR2Bサブタイプ受容体に強い結合性を示すことが明らかとなった。
【0018】
試験例2
PCP受容体結合実験
MK−801は、PCP受容体に結合し、精神障害を引き起こすといわれている。そこで、MK−801を用いて被検化合物(10、18、19)、NR1/NR2B受容体の拮抗薬であるCP−101606との受容体競合実験を実施した。
動物は雄性、Slc:Wistarラットを用い、断頭後脳を摘出し大脳皮質を分画した。大脳皮質を20倍量の氷冷5mM Tris・HCl緩衝液(pH7.8)でホモジナイズし、4℃、27,500×gで10分間遠心分離した。得られた沈殿を同緩衝液で懸濁後、再度遠心分離した。この操作を3回繰り返し、得られた沈殿を緩衝液で懸濁後、−80℃で保存した。実験直前に、室温で融解後4℃、27,500×gで10分間遠心分離し、得られた沈殿を緩衝液で懸濁した。さらに緩衝液で2.5倍に希釈し、これを膜標品として実験に用いた。
結合実験は上記の膜標品480μlに、10μlの異なる濃度の被検化合物、10μlの標識リガンド[H]MK−801を加え、25℃で60分間インキュベーションした。標識リガンド[H]MK−801の濃度は最終2nMとした。全結合量の測定には溶媒であるDMSOを用い、非特異的結合量の測定には10μMの(+)MK−801を使用した。インキュベーション後、Whatman GF/C濾紙(Whatman社製)を用いて結合体とフリー体を分離し、2.5mlの氷冷緩衝液で濾紙を4回洗浄した。濾紙をバイアル瓶中で液体シンチレーション(クリアゾルI、ナカライテスク社製)に浸し、液体シンチレーションカウンターで放射活性(dpm)を測定した。測定値から結合阻害率(%)を下式によって求め、結合を50%抑制する用量(IC50)を算出した。被検化合物のIC50の値を以下の表2に示す。
MK−801(dizocilpine maleate)の式を以下に示す。
【化13】

結合阻害率(%)=100−[(被検化合物存在下の結合量−非特異的結合量)/(全結合量 −非特異的結合量)]×100
PCP受容体結合実験における結果を表2に示す。
【表2】

以上の結果から、PCP受容体において被検化合物(10、18、19)を適用した場合のIC50値はCP−101606と同等であり、MK−801と競合しないことが明らかとなった。よって、本発明化合物は精神障害等の副作用が生じないと考えられる。
【0019】
試験例3
NMDA受容体の発現および電気生理実験
マウスNMDA受容体サブユニットの相補的DNA(cDNA)を鋳型としてメッセンジャーRNA(mRNA)に転写し、このmRNAをアフリカツメガエルの卵母細胞に注入した。注入2日後より、2電極膜電位固定装置を用いNMDA惹起内向き電流を記録した。mRNAの注入量は、卵母細胞1個あたりNR1/NR2Bに相当で0.6/0.6ngとし、サブユニットの共発現を行なった。この卵母細胞に異なる濃度の被験化合物(18)溶液を加え、2電極電位固定装置を用い、NMDA惹起内向き電流を記録した。細胞外敗はMg2+free ND 96(NaCl 96mM、KCl 2mM、CaCl 1.8mM、Hepes 5mM、pH=7.5)とし、保持電位は−60mVとした。NMDA電流は、NMDA 100μM、glycine 10μMの適用により惹起させた。記録したNMDA惹起内向き電流の値を以下の式に代入し、電気応答%を算出し、50%抑制する用量(IC50値)を算出した。また、同様にNR1/NR2A、C、D各受容体に対するIC50値を算出した。
電気応答%=(被験化合物存在下のNMDA惹起内向き電流の値/被験化合物非存在下のNMDA惹起内向き電流の値)×100
通常、被験化合物がNMDA受容体の拮抗作用を示すならば、神経細胞内へのCaイオンの流入が低下し、電気応答%は低下する。
被験化合物(18)のNR1/NR2サブファミリーに対するIC50値の結果を表3に示す。
【表3】

以上の結果から、被検化合物(18)は、NR1/NR2B受容体に特異的に拮抗作用を示すことが明らかとなった。
【0020】
試験例4
マウスホルマリンテストによる鎮痛作用
ホルマリンによる痛み行動は経時的に2相に分けられ、マウスはlicking及びbiting行動と呼ばれる痛み行動を示す。第1相ではホルマリン投与直後の5分間において急性痛を発現し、第2相では投与10から30分までの20分間において炎症性疼痛を発現する。実験にはICR系雄性マウス(5週齢)を使用した。ホルマリン(2%)はマウスの右後肢に皮下投与した。被検化合物(18)はDMSO:HCO50:saline=1.5:1:7.5の媒体に溶解し、ホルマリン投与の5分前に異なる濃度を静脈内投与した。ホルマリン投与後30分間、痛み行動時間を測定した。被検化合物に鎮痛効果が認められた場合痛み行動時間が短縮する。測定時間を以下の式に代入し、鎮痛率(%)を算出し、50%薬効用量(ED50)を算出した。被検化合物の第1相、第2相におけるED50を表4に示す。
鎮痛率(%)=(被験化合物存在下の痛み行動時間/被験化合物非存在下の痛み行動時間)×100
【表4】

被検化合物(18)による鎮痛効果が認められた。
【0021】
上記結果は、本発明化合物が鎮痛剤として、in vivoにおいて良好な活性を有することを示す。
上記に示した化合物以外の本発明化合物も、上記同様、あるいはそれ以上のNR1/NR2B受容体拮抗作用を示した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、中枢神経細胞のグルタミン酸受容体、特にNMDA受容体の1種であるNR1/NR2B受容体に対して特異的な拮抗作用を示し、運動機能(知覚異常)、精神症状(精神分裂)などに副作用の少ない鎮痛剤、神経保護剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、XはOH、低級アルキルスルホニルオキシ;
Arは、置換されていてもよいアリールまたは置換されていてもよいヘテロアリール;
nは、1〜4の整数;
mは、0〜1の整数;
は水素;
はOH、または、R及びRは一緒になって単結合を形成してもよい;
但し、1)nが2、mが0、R及びRが一緒になって単結合、且つArが置換されていてもよいフェニルである場合、2)nが3、mが0、R及びRが一緒になって単結合、且つArがフェニルである場合を除く)で示される化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
【請求項2】
nが3または4である請求項1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
【請求項3】
mが1である請求項1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
【請求項4】
nが3、mが1、Arが置換されていてもよいフェニルである、請求項1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
【請求項5】
nが3、mが1、Rが水素、RがOH、Arが置換されていてもよいフェニルである、請求項1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
【請求項6】
nが3、mが1、R及びRが一緒になって単結合、Arが置換されていてもよいフェニルである、請求項1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
【請求項7】
nが3、mが0、R及びRが一緒になって単結合、Arが置換フェニルである、請求項1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
【請求項8】
Arが置換されていてもよいヘテロアリールである、請求項1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
【請求項9】
nが3、mが0、R及びRが一緒になって単結合、Arが置換されていてもよいヘテロアリールである、請求項1記載の化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の化合物を含有する医薬組成物。
【請求項11】
NMDA受容体拮抗作用を有する、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
NR1/NR2B受容体拮抗作用を有する、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
鎮痛剤または片頭痛、脳卒中、頭部外傷、アルツハイマー病、パーキンソン病もしくは耳鳴りの治療剤である、請求項1〜9のいずれかに記載の化合物を含有する医薬組成物。
【請求項14】
鎮痛剤である、請求項1〜9のいずれかに記載の化合物を含有する医薬組成物。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載の化合物を投与することを特徴とする、痛みの軽減方法または片頭痛、脳卒中、頭部外傷、アルツハイマー病、パーキンソン病もしくは耳鳴りの治療方法。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれかに記載の化合物を投与することを特徴とする、痛みの軽減方法。
【請求項17】
鎮痛剤または片頭痛、脳卒中、頭部外傷、アルツハイマー病、パーキンソン病もしくは耳鳴りの治療剤の製造のための、請求項1〜9のいずれかに記載の化合物の使用。
【請求項18】
鎮痛剤の製造のための、請求項1〜9のいずれかに記載の化合物の使用。

【国際公開番号】WO2005/030720
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514187(P2005−514187)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013775
【国際出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】