説明

Nbを主成分とする酸化物触媒及びこれを用いた不飽和化合物の製造方法

【課題】揮発性の元素を主成分とせずとも、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応に対する低い温度での活性を有し、不飽和ニトリル、不飽和カルボン酸の選択率が大きく、しかも、アンモ酸化の場合には青酸選択率が高い触媒を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリル、あるいは気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造する際に用いる酸化物触媒であって、Nbを主成分とするタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物触媒が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応、あるいは気相接触酸化反応に用いる触媒、および該触媒を用いた不飽和ニトリル又は不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、プロピレン又はイソブチレンに代わって、プロパン又はイソブタンを原料とし、気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応によって不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸を製造する技術が着目されており、多数の触媒が提案されている。
【0003】
それらの中でも特に注目されている触媒は、モリブデンを主成分とするMo−V−Te−Nb又はMo−V−Sb−Nbから構成される酸化物触媒であり、例えば特許文献1や特許文献2等に開示されている。これらが着目される理由は、不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸の選択率が比較的高く、そのうえ反応が420〜450℃と低い温度で運転されているためである。こうした温度領域では熱に誘引されたプロパンの活性化はほとんど生じないため、比較的高い選択性を有すると考えられている。
【0004】
一般に、気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応では、水が反応副生成物として生成する。モリブデンを含む酸化物触媒を用いた気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応においては、モリブデンは、気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応で発生した水と化合して蒸気圧を有するモリブデン酸Mo2(OH)2へと変化し、このモリブデン酸はガス気流に乗って飛散し、この結果、触媒中のモリブデン量は減少していく。(例えば、非特許文献1参照、特許文献3参照)。こうした理由から、モリブデンを含む複合酸化物触媒は触媒が劣化し、生産性の低下を引き起こすという問題があるうえ、飛散したモリブデンは反応器の冷却コイルや反応ラインに固着し、除熱の効率を低下させ、汚れや閉塞を引き起こすという問題がある。そのため劣化した触媒の活性化やモリブデンの追添を行ったり、反応器や反応ラインに固着したモリブデンを定期的に除去しなければならない、などという問題がある。
【0005】
一方、モリブデンを主成分としない触媒として、Sb−Nb/Ta−Vを含む触媒など(例えば、特許文献4参照)が、Nb−Bi−Vを含む触媒など(例えば、特許文献5参照)が、W−Cr−Biを含む触媒など(例えば、特許文献6参照)が、Bi−Vを含む触媒など(例えば、特許文献7参照)が開示されている。また、モリブデン含有量が低い触媒として、鉄を主成分とするFe−Sb−Cr−Moを含む触媒など(例えば、特許文献8参照)が、Fe−Sb−V−Moを含む触媒(例えば、特許文献9参照)、Nb−Sb−Crを含む触媒(例えば、特許文献10参照)、V−Sbを主活性相とする触媒(例えば、特許文献11等参照)などが開示されている。しかしながら、これらの触媒では、目的生成物である不飽和ニトリル又は不飽和カルボン酸の選択率や収率、活性が低い。また、500℃前後ないしはそれ以上の極めて高い反応温度を必要とするため、反応器の材質、製造コストなどの面で不利であるうえ、500℃以上の反応では熱に誘引されたラジカル反応によるプロパン、イソブタンの活性化メカニズムであるため、選択率、収率の向上の望める触媒にはなりにくい。さらに、アンチモンも揮発性があるといわれており(例えば、非特許文献2参照)、これを主成分としない触媒が望まれる。
【0006】
こうした理由から、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応に用いられる触媒で、モリブデンを主成分とせずとも比較的低い反応温度で活性が高い触媒が切望されている。くわえて、目的生成物である不飽和ニトリル、不飽和カルボン酸の選択率などの反応成績が良好な触媒が切望されている。
【0007】
アンモ酸化反応において特に利用価値の高い副生物は青酸である。青酸はアルデヒド類とのストレッカー反応などに用いられ、そこで得られたシアンヒドリン類はメタクリル酸メチルやアミノ酸などに転化される。アンモ酸化の場合には不飽和ニトリルの選択率に加えて青酸選択率の高い触媒が望まれている。
【特許文献1】特開平5−208136号公報
【特許文献2】特開平9−157241号公報
【特許文献3】特開2005−211844号公報
【特許文献4】特開平11−246505号公報
【特許文献5】特開2000−117103号公報
【特許文献6】特開平10−87513号公報
【特許文献7】特開昭63−295545号公報
【特許文献8】特開2000−351760号
【特許文献9】特開平11−246504号公報
【特許文献10】特開平10−1465号公報
【特許文献11】特開2005−254240号公報
【非特許文献1】ビュッテン(J.Buiten)、Oxidation of propylen by means of SnO2−MoO3 catalysts、「ジャーナル オブ キャタリシス(Journal of catalysis)」(オランダ)、エルセビア(Elsevier)、1968年、188−199頁
【非特許文献2】伊藤ら 資源・素材2000秋季大会2000年、67−68頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルと青酸を、あるいは気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造する際に用いる触媒であって、飛散性の元素であるモリブデンを主成分とせずに、比較的低い反応温度で活性が高く、目的生成物である不飽和ニトリル、不飽和カルボン酸の選択率が高く、副生物として青酸選択率の高い触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる事情のもと、本発明者らは、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを、あるいは気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造する際に用いる触媒を鋭意検討した結果、全く新しい技術であるNbを主成分とするタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物触媒が、比較的低い反応温度で不飽和ニトリル又は不飽和カルボン酸の選択率が大きく、しかも活性が高いこと、また副次的な効果としてアンモ酸化の場合には青酸選択率の高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第一の態様では、
[1] プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリル、あるいは気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造する際に用いる酸化物触媒であって、
Nbを主成分とするタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物触媒、
[2] 前記還元型酸化物触媒が、下記式(I)で表される、
Nb1an1 (I)
(式中、
Xは、バナジウム、ビスマス、セリウム、モリブデン及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
a及びn1は、Nb1原子あたりの原子比を表し、aは、0<a<0.8であり、n1は構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
前項[1]に記載の還元型酸化物触媒、
[3] 前記還元型酸化物触媒が、下記式(II)で表される、
Nb1bBicdn2(II)
(式中、
Yは、セリウム、モリブデン及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
b、c、d及びn2は、Nb1原子あたりの原子比を表し、b及びcは、各々0.01≦b<0.8、0.01≦c<0.8であり、dは、0≦d<0.8であり、n2は、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
前項[1]に記載の還元型酸化物触媒、
[4] 前記還元型酸化物触媒が、該還元型酸化物触媒とシリカの全重量に対し、10〜60重量%のシリカに担持されている、前項[1]ないし[3]のうち何れか一項に記載の還元型酸化物触媒、
を提供する。
【0011】
また、本発明の第二の態様では、
[5] プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを製造する方法であって、
前項[1]ないし[4]のうち何れか一項に記載の還元型酸化物触媒と、前記プロパン又はイソブタンとを接触させる工程を含む不飽和ニトリルの製造方法、
[6] プロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造する方法であって、
前項[1]ないし[4]のうち何れか一項に記載の還元型酸化物触媒と、前記プロパン又はイソブタンとを接触させる工程を含む不飽和カルボン酸の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る還元型酸化物触媒によれば、プロパン又はイソブタンから、比較的低い反応温度にて高活性で反応させることができ、さらに不飽和ニトリル又は不飽和カルボン酸を高い選択率で製造することができる。また、本発明に係る還元型酸化物触媒を用いた気相接触アンモ酸化反応では、有用な副生物である青酸の選択率が高い。さらに、本発明に係る還元型酸化物触媒は、飛散性の元素を主成分としないため、反応器の冷却コイルや反応ラインの汚れといった運転上の厄介な問題が生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0014】
本発明に係る酸化物触媒は、Nbを主成分とするタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物触媒である。ここで、用語「Nbを主成分とする」とは、酸化物触媒を構成する酸素以外の元素のうち、Nbが最も含有量が多い触媒を意味する。また、用語「タングステンブロンズ構造」とは、一般的には、AxWO3(A=H、Li、Na、K、Rb、Cs、Ca、Sr、Ba、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Cu、Agなどのカチオン性元素、x≧0)としてよく知られ、酸素八面体(WO6)の単位ブロックが頂点、稜を共有して連なった構造である(例えば、結晶構造ハンドブック(共立出版)p832、第4版実験化学講座16無機化合物(丸善)p448、Lars Kihlborg, Renu Sharma,J. Microsc. Spectrosc. Electron.,7,387(1982)等参照)。その頂点、稜の共有の仕方によって極めて多様な構造をとり得るが、例として、ペロブスカイト型ブロンズ構造、五員環、六員環、七員環等のトンネル構造を有するブロンズ構造(トンネルには金属元素が存在していても空であってもよい)、インターグロースブロンズ構造などが知られている。なお、本明細書中では、用語「タングステンブロンズ構造」という表現を構造名称として用いているが、化合物骨格がタングステンおよび酸素から形成されることを意味するものではなく、タングステンブロンズ型構造を有するものとして知られているすべての構造を指す。
【0015】
本発明では、タングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物の一つの特徴は、層状的な構造をとるため、CuKα線によって測定されたX線回折図において、層の面間隔(c軸を面ベクトルにとった場合(001))に相当する22.5±1°、好ましくは22.5±0.5°、より好ましくは22.5±0.2°、さらに好ましくは22.5±0.1°に強いピークを有することである。上記の面間隔に相当するピーク強度は、タングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物に帰属されるピークのうちで1番強いか、2番目ないし3番目に強い。本発明に係る還元型酸化物触媒では、タングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物に帰属されないピークが存在しても存在しなくてもよいし、帰属されないピークの大小は問わない。
【0016】
本発明により還元型タングステンブロンズ構造を示す一例として、CuKα線によって測定されたX線回折図において、22.5°±0.5°(P1ピーク)、28.4°±0.5°(P2ピーク)、36.7°±0.5°(P3ピーク)、46.3°±0.5°(P4ピーク)にピークを持つ。好ましくは22.5°±0.2°、28.4±0.2°、36.7°±0.2°、46.3°±0.2°である。より好ましくは22.5°±0.1°、28.4±0.1°、36.7°±0.1°、46.3°±0.1°、である。P1ピーク強度を1としたとき、P2ピーク強度は0.2〜1.5、P3ピーク強度は0.03〜0.6、P4ピーク強度は0.01〜0.5が好ましい。
【0017】
本発明に係る酸化物触媒の好ましい一の態様では、Nbを主成分とする酸化物触媒の組成が、下記式(I)で表される還元型酸化物触媒である:
Nb1an1 (I)
(式中、
Xは、バナジウム、ビスマス、セリウム、モリブデン及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
a及びn1は、Nb1原子あたりの原子比を表し、aは、0<a<0.8であり、n1は構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)。
ここで、aは、好ましくは0.02≦a≦0.5であり、より好ましくは0.03≦a≦0.3であり、さらに好ましくは0.04≦a≦0.2である。
【0018】
また、本発明に係る酸化物触媒の好ましい別の態様では、Nbを主成分とする酸化物触媒の組成が、下記式(II)で表される還元型酸化物触媒である:
Nb1bBicdn2(II)
(式中、
Yは、セリウム、モリブデン及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
b、c、d及びn2は、Nb1原子あたりの原子比を表し、b及びcは、各々0.01≦b<0.8、0.01≦c<0.8であり、dは、0≦d<0.8であり、n2は、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)。
ここで、bは、好ましくは0.02≦b≦0.5であり、より好ましくは0.03≦b≦0.3であり、さらに好ましくは0.04≦b≦0.2である。cは、好ましくは0.02≦c≦0.5であり、より好ましくは0.03≦c≦0.3であり、さらに好ましくは0.04≦c≦0.2である。また、dは、好ましくは0≦d≦0.5であり、より好ましくは0≦d≦0.2であり、さらに好ましくは0<d≦0.1である。なお、上記式(I)及び(II)における、Nb1原子あたりの原子比a、b、cおよびdの値は、構成元素の仕込む組成比を示す。
【0019】
本発明に係る還元型酸化物触媒は、上記式(I)及び(II)にて表されるが、これらの中心組成の任意成分として、Cr、W、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、In、Ge、Sn、P、Pb、Y、Ga、希土類元素及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素を添加してもよい。好ましくは、W、Al、Zr、Ge、Sn、Re、B、In、P、Y、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素である。任意成分の添加量はNbのモル数に対して0.8未満であり、0.2未満が特に好ましい。
【0020】
また、本発明に係る還元型酸化物触媒は、担体に担持させて用いることができる。担体としては公知の担体を用いることができるが好ましくは、例えばシリカである。シリカの重量は、好ましくは10〜60重量%であり、より好ましくは20重量%〜50重量%である。シリカの重量が10重量%未満では強度が小さく、60重量%以上では強度は大きいものの、活性が低くなるか、不飽和ニトリル、不飽和カルボン酸の選択率が低くなる。
【0021】
なお、シリカの重量%は、式(I)又は式(II)の酸化物の重量をW1、シリカの重量をW2として、下記の式(III)式で定義される。W1は、仕込み組成と仕込み金属成分の酸化数に基づいて算出された重量である。W2は、仕込み組成に基づいて算出された重量である。
シリカの重量%=100×W2/(W1+W2) (III)
【0022】
本発明のNbを主成分とするタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物触媒は、還元的に製造された酸化物触媒である。焼成法でも水熱合成法でもよい。空気をイナートガスで希釈した雰囲気、イナートガス雰囲気、空気とともに有機物、アンモニア、水素など還元ガスを共存させた雰囲気、還元ガス雰囲気などの空気よりも酸素濃度が希釈された雰囲気、または空気などの酸素含有ガスに還元ガスを共存させた雰囲気で焼成したり、水熱合成することで製造される酸化物触媒である。好ましくは触媒原料調合工程の原料に、有機物やアンモニウムイオンなどを用いて得られた触媒前駆体をイナートガス雰囲気で焼成して製造された酸化物触媒である。
【0023】
本発明に還元型酸化物触媒を製造するための原料は後記の化合物を用いることができる。ニオブの原料としては、ニオブ酸、酸化ニオブ、二塩基酸にニオブ酸を溶解させた水溶液などを用いることができる。シュウ酸水溶液にニオブ酸を溶解させた水溶液を好適に用いることができる。シュウ酸/ニオブのモル比は1〜10であり、好ましくは2〜6であり、より好ましくは2〜4である。得られた水溶液に過酸化水素を添加してもよい。過酸化水素/ニオブのモル比は好ましくは0.5〜10であり、より好ましくは2〜6である。
【0024】
バナジウム原料としては、メタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)、バナジウムのオキシ塩化物、バナジウムのアルコキシド等を用いることができ、好ましくはメタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)である。
【0025】
ビスマス原料としては、硝酸ビスマス・五水和物、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、炭酸酸化ビスマス、酢酸ビスマス、酢酸酸化ビスマス等を用いることができ、好ましくは硝酸ビスマスである。
【0026】
なお、担体としてシリカを用いる場合は原料としてシリカゾルが好適に用いられる。
【0027】
本発明に係る酸化物触媒の製造方法を、下記の原料調合、乾燥および焼成の3つの工程を経て製造する場合を用いて説明する。
<原料調合工程>
ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解してニオブ原料液を調製する。このときニオブ原料液に過酸化水素水を添加してもよい。硝酸ビスマスを硝酸水溶液に溶解させてビスマス原料液を調製する。メタバナジン酸アンモニウムを水に溶解させてバナジウム原料液を調製する。ニオブ原料液にバナジウム原料液を添加して、ついでビスマス原料液を添加し、触媒原料液を調製する。原料調合工程に用いる触媒原料には、この例のようにシュウ酸などの有機物やアンモニウムイオンを含むことが好ましい。
シリカ担持触媒を製造する場合には、上記調合順序のいずれかのステップにおいてシリカゾルを添加して触媒原料液を得ることができる。
その他の成分を含む触媒を製造する場合には、上記調合順序のいずれかのステップにおいて任意成分を含む原料を添加して触媒原料液を得ることができる。
【0028】
<乾燥工程>
原料調合工程で得られた触媒原料液を噴霧乾燥法または蒸発乾固法によって乾燥させ、触媒前駆体を得ることができる。噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式または高圧ノズル方式を採用することができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気を用いることができる。このとき熱風の乾燥機入口温度は150〜300℃が好ましい。噴霧乾燥は簡便には100℃〜300℃に加熱された鉄板上へ触媒原料液を噴霧することによって行うこともできる。
【0029】
<焼成工程>
乾燥工程で得られた触媒前駆体を焼成することによって酸化物触媒を得ることができる。焼成は回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉等を用いる。焼成雰囲気は、空気をイナートガスで希釈した雰囲気、イナートガス雰囲気、空気とともに有機物、アンモニアなど還元ガスを共存させた雰囲気、還元雰囲気などの空気よりも酸素濃度が希釈された雰囲気、または空気などの酸素含有ガスに還元ガスを共存させた雰囲気である。実質的に酸素を含まない窒素等の不活性ガスを流通させながら行うことがより好ましい。本発明に係る酸化物触媒は、各元素の最高酸化数よりも還元されていることが好ましく、その方法として触媒原料に有機物やアンモニウム塩を含む原料を用いて、不活性雰囲気で焼成することによってこのような酸化物触媒を得ることができる。焼成温度は500〜900℃、好ましくは550〜670℃で実施することが好ましい。焼成時間は0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間である。不活性ガス中の酸素濃度は、ガスクロマトグラフィー又は微量酸素分析計で測定して1000ppm以下であり、好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下である。焼成は反復することができる。この焼成の前に大気雰囲気下または大気流通下で200℃〜420℃であり、好ましくは250℃〜350℃で10分〜5時間前焼成することができる。また、焼成の後に大気雰囲気下で200℃〜400℃、5分〜5時間、後焼成することもできる。
【0030】
このようにして製造された触媒は、プロパン又はイソブタンを気相接触アンモ酸化させて不飽和ニトリルを、あるいはプロパン又はイソブタンを気相接触酸化させて不飽和カルボン酸を製造する際の触媒として用いることができる。
【0031】
本発明における気相接触アンモ酸化反応又は気相接触酸化反応に使用されるプロパン又はイソブタンとアンモニアの供給原料は、必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのガスを使用することができる。反応系に供給する酸素源として空気、酸素を富化した空気、又は純酸素を用いることができる。さらに、希釈ガスとしてヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気、窒素などを供給してもよい。
【0032】
気相接触アンモ酸化の場合、反応系に供給するアンモニアのプロパン又はイソブタンに対するモル比は0.1〜1.5であり、好ましくは0.2〜1.2である。反応に供給される分子状酸素のプロパン又はイソブタンに対するモル比は、0.2〜6であり、好ましくは0.4〜4である。
【0033】
気相接触酸化の場合、反応系に供給される分子状酸素のプロパン又はイソブタンに対するモル比は、0.1〜10であり、好ましくは0.1〜5である。反応系に水蒸気の添加が好ましいが、反応に供給され水蒸気のプロパン又はイソブタンに対するモル比は、0.1〜70であり、好ましくは0.5〜40である。
【0034】
反応圧力は、絶対圧で0.01〜1MPaであり、好ましくは0.1〜0.3MPaである。反応温度は350℃〜600℃であり、好ましくは380℃〜490℃であり、より好ましくは400〜470℃である。接触時間は0.05〜30(g・s/ml)であり、好ましくは0.1〜10(g・s/ml)である。気相接触アンモ酸化反応又は気相接触酸化反応は、固定床、流動床、移動床など従来の方式を採用できるが流動床が好ましい。反応は単流方式でもリサイクル方式でもよい。
【実施例】
【0035】
以下に示す本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明は以下の具体例に制限されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができ、かかる変更は本願特許請求の範囲に包含される
【0036】
以下に、本発明をプロパンのアンモ酸化反応、プロパンの酸化反応の実施例で説明する。各例において、プロパン転化率、アクリロニトリル選択率およびアクリル酸選択率は、それぞれ次の定義に従う。
プロパン転化率(%)=(反応したプロパンのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
アクリロニトリル選択率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(反応したプロパンのモル数)×100
青酸選択率(%)=((生成した青酸のモル数)/3)/(反応したプロパンのモル数)×100
接触時間(s・g/ml)=W/F×60×273/(273+T)×((P+0.101)/0.101))
ここで、Wは触媒重量(g)、Fはガス流量(ml/s)、Tは反応温度(℃)、Pはゲージ圧力(MPa)
活性((s・g/ml)-1)=−Ln(1−(転化率/100))/t
ここで、tは接触時間(s)である。
【0037】
(実施例1)
<触媒調製>
組成式がNb10.12Bi0.12nで示される触媒を次のようにして調製した。
水2350gにNb25換算で76重量%を含有するニオブ酸200g、シュウ酸二水和物[H224・2H2O]389.5gを加え、攪拌下、60℃にて加熱して溶解させた後、30℃にて冷却してニオブ原料液を得た。
硝酸ビスマス・五水和物[Bi(NO33・5H2O]66.6gを10重量%硝酸水溶液200gに溶解させてビスマス原料液を得た。
メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]16.1gを5重量%過酸化水素水211gに溶解させてバナジウム原料液を得た。
ニオブ原料液にバナジウム原料液を添加し、ついでビスマス原料液を添加して触媒原料液を得た。
得られた触媒原料液を、遠心式噴霧乾燥器を用い、入口温度230℃と出口温度120℃の条件で乾燥して微小球状の触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体10gを、250℃で、2時間空気中で前焼成したのち、石英容器に充填し、350Ncc/min.の窒素ガス流通下、600℃で2時間焼成して酸化物触媒を得た。
【0038】
<X線回折測定>
マックサイエンス(株)製MXP−18型X線回折装置を用いてX線回折の測定を行った。試料の調製方法とX線回折の条件は以下の通りである。
(試料の調製)
酸化物触媒約0.5gをメノウ乳鉢にとり、メノウ乳棒を用いて2分間手粉砕した後に分級し、粒子径53μm以下の触媒粉末を得た。得られた触媒粉末を、XRD測定用の試料台の表面にある窪み(長さ20mm、幅16mmの長方形状、深さ0.2mm)に乗せ、平板状のステンレス製スパチュラを用いて押しつけて、表面を平らにした。
(測定条件)X線回折図は以下の条件で得た。
X線源:CuKα1+CuKα2、検出器:シンチレーションカウンター、分光結晶:グラファイト、管電圧:40kV、管電流:190mA、発散スリット:1°、散乱スリット:1°、受光スリット:0.3mm、スキャン速度:1°/分、サンプリング幅:0.02°、スキャン法:2θ/θ法。
X線回折図には、22.5°、28.4°、36.7°、46.3°の位置にピークを持っていた。回折ピークをアサインメントした結果、Inorganic Crystal Database(ICSD)に収録されている番号1840(K.Kato, S.Tamura., Acta Cryst. B,31,673(1975))の構造と同型な構造を含む化合物であり、タングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物であった。
【0039】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
触媒W=0.35gを内径4mmの固定床型反応管に充填し、反応温度T=450℃(外温)、プロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:0.7:1.7:5.3のモル比の混合ガスを流量F=45(ml/min)で流した。このとき圧力Pはゲージ圧で0MPaであった。接触時間は0.18(=W/F×60×273/(273+T)×((P+0.101)/0.101))(g・s/ml)である。反応ガスの分析はオンラインガスクロマトグラフィーで行った。得られた結果を表1に示す。
【0040】
(実施例2)
<触媒調製>
組成式がNb10.12Bi0.12n/SiO2(10重量%)で示される触媒を次のようにして調製した。
シリカ含有量30重量%のシリカゾル73gを触媒原料液に添加した以外は実施例1の触媒調製を反復して、触媒を調製した。
<X線回折測定>
22.5°、28.4°、36.7°、46.3°の位置にピークを持つタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた触媒について実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0041】
(実施例3)
<触媒調製>
組成式がNb10.12Bi0.12Ce0.02nで示される触媒を次のようにして調製した。
硝酸セリウム・六水和物[Ce(NO33・6H2O]10gをビスマス原料液に添加した以外は実施例1の触媒調製を反復して、触媒を調製した。
<X線回折測定>
22.5°、28.4°、36.7°、46.3°の位置にピークを持つタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた触媒について実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0042】
(実施例4)
<触媒調製>
組成式がNb10.12Bi0.12Al0.01nで示される触媒を次のようにして調製した。
酸化アルミニウム[Al23]0.58gを触媒原料液に添加した以外は実施例1の触媒調製を反復して、触媒を調製した。
<X線回折測定>
22.5°、28.4°、36.7°、46.3°の位置にピークを持つタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた触媒について実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0043】
(実施例5)
<触媒調製>
組成式がNb10.12Bi0.12Mo0.01nで示される触媒を次のようにして調製した。
ヘプタモリブデン酸アンモニウム[(NH46Mo724・4H2O]2.0gをバナジウム原料液に添加した以外は実施例1の触媒調製を反復して、触媒を調製した。
<X線回折測定>
22.5°、28.4°、36.7°、46.3°の位置にピークを持つタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた触媒について実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0044】
(実施例6)
<触媒調製>
組成式がNb10.08Bi0.05Mo0.05nで示される触媒を次のようにして調製した。
硝酸ビスマス・五水和物[Bi(NO33・5H2O]66.6gに代えて27.7gを、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]16.1gに代えて10.7gを用い、ヘプタモリブデン酸アンモニウム[(NH46Mo724・4H2O]10gをバナジウム原料液に添加し、前焼成を行わなかった以外は実施例1の触媒調製を反復して、触媒を調製した。
<X線回折測定>
22.5°、28.4°、36.7°、46.3°の位置にピークを持つタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた触媒について触媒W=0.35gに代えて0.20g、混合ガス流量F=45(ml/min)に代えて50(ml/min)とした以外は実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0045】
(実施例7)
<触媒調製>
組成式がNb10.16Bi0.20nで示される触媒を次のようにして調製した。
硝酸ビスマス・五水和物[Bi(NO33・5H2O]66.6gに代えて111gを、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]16.1gに代えて21.4gを用いた以外は実施例1の触媒調製を反復して、触媒を調製した。
<X線回折測定>
22.5°、28.4°、36.7°、46.3°の位置にピークを持つタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた触媒について実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0046】
(実施例8)
<触媒調製>
組成式がNb10.12Bi0.12Ti0.01nで示される触媒を次のようにして調製した。
酸化チタンアナターゼ型[TiO2]0.9gを触媒原料液に添加した以外は実施例1の触媒調製を反復して、触媒を調製した。
<X線回折測定>
22.5°、28.4°、36.7°、46.3°の位置にピークを持つタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた触媒について実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0047】
(実施例9)
<触媒調製>
組成式がNb10.41Bi0.30nで示される触媒を次のようにして調製した。
硝酸ビスマス・五水和物[Bi(NO33・5H2O]66.6gに代えて166gを、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]16.1gに代えて54gを用いた以外は実施例1の触媒調製を反復して、触媒を調製した。
<X線回折測定>
22.5°、28.4°、36.7°、46.3°の位置にピークを持つタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた触媒について混合ガス流量F=45(ml/min)に代えて35(ml/min)とした以外は実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
<触媒調製>
実施例1の、窒素ガス流通下に代えて、空気のみの流通下、とした以外は実施例1の触媒調製を反復して、触媒を調製した。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた触媒について混合ガス流量F=45(ml/min)に代えて4(ml/min)とした以外は実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る還元型酸化物触媒によれば、プロパン又はイソブタンから、比較的低い反応温度にて高活性で反応させることができ、さらに不飽和ニトリル又は不飽和カルボン酸を高い選択率で製造することができる。また、本発明に係る還元型酸化物触媒を用いた気相接触アンモ酸化反応では、有用な副生物である青酸の選択率が高い。さらに、本発明に係る還元型酸化物触媒は、飛散性の元素を主成分としないため、反応器の冷却コイルや反応ラインの汚れといった運転上の厄介な問題が生じない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリル、あるいは気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造する際に用いる酸化物触媒であって、
Nbを主成分とするタングステンブロンズ構造を有する還元型酸化物触媒。
【請求項2】
前記還元型酸化物触媒が、下記式(I)で表される、
Nb1an1 (I)
(式中、
Xは、バナジウム、ビスマス、セリウム、モリブデン及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
a及びn1は、Nb1原子あたりの原子比を表し、aは、0<a<0.8であり、n1は、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
請求項1に記載の還元型酸化物触媒。
【請求項3】
前記還元型酸化物触媒が、下記式(II)で表される、
Nb1bBicdn2(II)
(式中、
Yは、セリウム、モリブデン及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
b、c、d及びn2は、Nb1原子あたりの原子比を表し、b及びcは、各々0.01≦b<0.8、0.01≦c<0.8であり、dは、0≦d<0.8であり、n2は、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
請求項1に記載の還元型酸化物触媒。
【請求項4】
前記還元型酸化物触媒が、該還元型酸化物触媒とシリカの全重量に対し、10〜60重量%のシリカに担持されている、請求項1ないし3のうち何れか一項に記載の還元型酸化物触媒。
【請求項5】
プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを製造する方法であって、
請求項1ないし4のうち何れか一項に記載の還元型酸化物触媒と、前記プロパン又はイソブタンとを接触させる工程を含む不飽和ニトリルの製造方法。
【請求項6】
プロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造する方法であって、
請求項1ないし4のうち何れか一項に記載の還元型酸化物触媒と、前記プロパン又はイソブタンとを接触させる工程を含む不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2007−326032(P2007−326032A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158904(P2006−158904)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】