説明

PI3K活性を有する治療薬としてのテトラゾールベンゾフランカルボキシアミド

炎症性疾患、循環器疾患、及び癌を含む疾病及び症状の治療に有用な薬物としての、式(I)
【化1】


(式中、R1、R2、R3、及びLは、明細書中に定義されるいずれかの意味を有する)のベンゾフラン、及びその製薬的に許容される塩を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その教示が参照により本願に加入される、2003年6月5日に出願された、米国仮特許出願第60/476,251号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
フォスフォイノシタイド−3−キナーゼ(PI3K)は、フォスフォイノシトールを3’−OH上においてリン酸化して、PI−3−P(フォスファチジルイノシトール3−リン酸)、PI−3,4−P2及びPI−3,4,5−P3を生成させる脂質キナーゼのファミリーである。成長因子により刺激されるPI3Kの一つのクラスは、PI3Kα、PI3Kβ、及びPI3Kδを含む。PI3Kの別のクラスは、Gタンパク質共役受容体により活性化され、それはPI3Kγを含む。成長因子により刺激されるPI3K(例、PI3Kα)は、細胞増殖及び癌と関係があるとされる。PI3Kγはシグナル伝達カスケードに関与することが明らかになっている。例えば、PI3Kγは、C5a、fMLP、ADP、及びIL−8等のリガンドに応答して活性化される。またPI3Kγは、免疫疾患に関与があるとされている(Hirsch等、Science 2000;287:1049-1053)。PI3Kγヌルマクロファージ(null macrophage)は、走化性応答が低下し、また炎症に抵抗する能力が低下している(Hirsch等、2000, 前出)。更に、PI3Kγは、血栓溶解性疾患(例、血栓塞栓症、虚血性疾患、心臓発作、及び脳卒中)にも関与があるとされている(Hirsch等、FASEB J. 2000; 15(11):2019-2021;及びHirsch等、FASEB J., July 9 2001;10.1096/fj.00-0810fje(本願にHirsche等、2001として引用する)。
【0003】
PI3Kのメンバーの阻害剤が、ヒトの疾病の治療用に開発されている(例、国際特許出願WO01/81346、WO01/53266及びWO01/83456参照)。医薬品として使用するための、PI3Kを阻害し得る更なる化合物が必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一局面において、式I
【化1】

(式中、R2及びR3は、
(i)R2がメトキシで、R3がH;
(ii)R2がClで、R3がH;
からなる群から選択され;
Lは、存在しないか、又は−C(CH3)H、−C(CH2CH3)H、−CH2−、若しくはC1−C3アルキレンであり;
1は、C3-8シクロアルキル、シクロヘキセニル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル、4,5又は6員環のヘテロシクロアルキル、デカヒドロ−ナフタレニル、オキセタニル、及びテトラヒドロピラニルからなる群から選択される、場合によって置換されている基であり、
前記の場合によって置換されている基は、独立して、C1−C4アルキル、メチル、及びC2−C3アルケニルからなる群から選択される1〜3個の基で置換されてもよい)のベンゾフラン、又はその製薬的に許容される塩を提供する。
【0005】
式Iの特定の実施態様において、R2はメトキシで、R3は水素であり、式II
【化2】

の化合物である。
【0006】
式IIの特定の実施態様において、R1は、C3-8シクロアルキル、シクロヘキセニル、及びビシクロ[2.2.1]ヘプタニルの群から選択される、場合によって置換されている基であり、この場合によって置換されている基は、C1−C4アルキル、及びメチルからなる群から独立して選択される1〜3個の基で置換されてもよい。式IIの化合物の例には、
3−シクロオクチルオキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(2−メチル−シクロヘキシルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(2−メチル−シクロペンチルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(2,4−ジメチル−シクロペンチルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(3−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−イルメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(3−メチル−シクロヘキシルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(3,5−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(2−メチル−シクロヘキシルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(1−シクロペンチル−エトキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(1−シクロヘキシル−プロポキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(3,4−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
【0007】
3−(3,5−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(デカヒドロ−ナフタレン−2−イルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(1−メチル−シクロメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−シクロブチルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−シクロヘプチルオキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−シクロヘプチルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−シクロペンチルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−シクロヘキシルオキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、及び
3−シクロヘキシルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミドが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0008】
式Iの特定の実施態様において、R2はClで、R3はHであり、式III
【化3】

の化合物である。
【0009】
式IIIの特定の実施態様において、R1は場合によって置換されているC3-8シクロアルキルであり、この場合によって置換されているC3-8シクロアルキルは、C1−C4アルキル、及びメチルからなる群から独立して選択される1〜3個の基で置換されてもよい。式IIIの化合物の一例は、5−クロロ−3−シクロヘプチルオキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミドである。
【0010】
別の一局面において、本発明は、治療的有効量の式I〜IIIの化合物及び製薬的に許容される担体を含有する薬剤組成物を提供する。特定の実施態様において、これらの化合物は、PI3Kに仲介される疾患又は症状の治療に有用である。本発明の化合物はまた、同様に癌、血栓性疾患、心疾患、脳卒中、関節リウマチ等の炎症性疾患、又はPI3Kに仲介される他の疾患の治療に有用な化合物を含有する薬剤組成物中に組み合わせることも可能である。
【0011】
別の一局面において、本発明は、PI3Kに仲介される疾患又は症状に罹患している患者を治療するための方法を提供する。同方法は、PI3K仲介疾患又は症状に罹患している患者に、治療的有効量の式I〜IIIの化合物及び製薬的に許容される担体とを含有する薬剤組成物を投与することを含む。一実施態様では、PI3K仲介疾患又は症状は、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、乾癬、炎症性疾患、及び自己免疫疾患からなる群から選択される。別の実施態様では、PI3K仲介疾患又は症状は、循環器疾患、アテローム硬化症、高血圧症、深部静脈血栓症、脳卒中、心筋梗塞、不安定狭心症、血栓塞栓症、肺塞栓症、血栓性疾患、急性動脈虚血、抹消性血栓閉塞、及び冠動脈疾患からなる群から選択される。更に別の実施態様において、PI3K仲介疾患又は症状は、癌、大腸癌、グリア芽細胞種、子宮内膜癌、肝細胞癌、肺癌、黒色腫、腎細胞癌、甲状腺癌、細胞リンパ腫、リンパ増殖性疾患、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、グリア細胞種、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、及び白血病からなる群から選択される。また別の一実施態様おいて、PI3K仲介疾患又は症状は、2型糖尿病からなる群から選択される。更に別の実施態様において、PI3K仲介疾患又は症状は、呼吸器疾患、気管支炎、喘息、及び慢性閉塞生肺疾患の群から選択される。特定の実施形態において、患者はヒトである。
【0012】
定義
本願に使用されているように、以下の用語は、別様に特定されない限り、該用語に対して付与された意味を有する。
【0013】
「PI3Kに仲介される疾患又は症状」は、一種又はそれ以上のPI3K又はPI3Pフォスファターゼ(例、PTEN等)が、疾患又は症状の、発端、一つ又はそれ以上の兆候若しくは疾病マーカの発現、重症度、又は進行の関与によって特徴付けられる。PI3K仲介疾患又は症状には、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、乾癬、炎症性疾患、肺線維症、自己免疫疾患、循環器疾患、アテローム硬化症、高血圧症、深部静脈血栓症、脳卒中、心筋梗塞、不安定狭心症、血栓塞栓症、肺塞栓症、血栓性疾患、急性動脈虚血、末梢性血栓閉塞、冠動脈疾患、癌、乳癌、グリア芽細胞種、子宮内膜癌、肝細胞癌、大腸癌、肺癌、黒色種、腎細胞癌、甲状腺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、グリア細胞種、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、白血病、細胞リンパ種、リンパ増殖性疾患、2型糖尿病、呼吸器疾患、気管支炎、喘息、及び慢性閉塞性肺疾患が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
PI3Kは、フォスフォイノシトールの3’−OHをリン酸化して、PI3Pを生成できる酵素である。PI3Kには、PI3Kα、PI3Kβ、PI3Kγ、及びPI3Kδが含まれるが、これらに限定されるものではない。一般にPI3Kは、少なくとも一つの触媒サブユニット(例えば、p110γ)を含み、また更に調節サブユニット(例、p101等)を含む場合もある。
【0015】
用語「アルキル基」又は「アルキル」には、直鎖及び分岐鎖からなる炭素鎖基が含まれる。用語「アルキレン」とは、非置換又は置換アルカンの二価基を意味する。例えば「C1-6アルキル」は、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基である。直鎖アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル等が含まれるが、これらに限定されるものではない。分岐鎖アルキル基の例には、イソプロピル、tert−ブチル、イソブチル等が含まれるが、これらに限定されるものではない。アルキレン基の例には、−CH2−、−CH2−CH2−、−CH2−CH(CH3)−CH2−、及び−(CH21-6が含まれるが、これらに限定されるものではない。アルキレン基は、アルキルについて以下に記述する基によって置換されることも可能である。
【0016】
さらに、用語アルキルには、「非置換アルキル」と「置換アルキル」とが含まれ、後者は炭化水素基幹の一つ又はそれ以上の炭素上の水素と置き換わった(例、1、2、3、4、5、又は6個の炭素上の水素と置き換わった)置換基を有するアルキル部分を意味する。このような置換基には、C2−C3−アルケニル、C2−C6−アルキニル、ハロ、I、Br、Cl、F、−OH、−COOH、スルフヒドリル、(C1−C6−アルキル)S−、C1−C6−アルキルスルフィニル、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチル、−NH2、=O、=S、=N−CN、=N−OH、−OCH2F、−OCHF2、−OCF3、−SCF3、−SO2−NH2、C1−C6−アルコキシ、−C(O)O−(C1−C6アルキル)、−O−C(O)−(C1−C6アルキル)、−C(O)−NH2、−C(O)−N(H)−C1−C6アルキル、−C(O)−N(C1−C6アルキル)2、−OC(O)−NH2、−C(O)−H、−C(O)−(C1−C6アルキル)、−C(S)−(C1−C6アルキル)、−NR7072(R70及びR72は、各々独立してH、C1−C6−アルキル、C2−C6−アルケニル、C2−C6−アルキニル、及びC(O)−C1−C6−アルキルから選択される)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
従って、典型的な置換アルキル基は、アミノメチル、2−ニトロエチル、4−シアノブチル、2,3−ジクロロペンチル、及び3−ヒドロキシ−5−カルボキシヘキシル、2−アミノエチル、ペンタクロロエチル、トリフルオロメチル、2−ジエチルアミノエチル、2−ジメチルアミノプロピル、エトキシカルボニルメチル、メタニルスルファニルメチル、メトキシメチル、3−ヒドロキシペンチル、2−カルボキシブチル、4−クロロブチル、及びペンタフルオロエチルである。
【0018】
「アルコキシ」とは、酸素を介して結合している上述のアルキル基を意味し、その例には、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、tert−ブトキシ等が含まれる。また「アルコキシ」は、O−(CH22−O−CH3のようなポリエーテルを意味する。用語「アルコキシ」は、置換及び非置換のアルコキシ基の双方を含むことを意図する。アルコキシ基は、アルキルについて上述したような基で、炭素原子上で置換されていてもよい。典型的な置換アルコキシ基には、アミノメトキシ、トリフルオロメトキシ、2−ジエチルアミノエトキシ、2−エトキシカルボニルエトキシ、3−ヒドロキシプロポキシ等が含まれる。
【0019】
「ハロ」には、フルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨードが含まれる。
【0020】
「アルケニル」とは、2個またはそれ以上の炭素原子を有し、かつ少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を含む直鎖及び分岐鎖の炭化水素基を意味し、それにはエテニル、3−ブテン−1−イル、2−エテニルブチル、3−ヘキセン−1−イル等が含まれる。用語「アルケニル」には置換及び非置換アルケニル基の双方が含まれることを意図する。「C2−C6−アルケニル」は、2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基である。アルケニル基は、アルキルについて上述したような基で置換されてもよい。用語「アルケニレン」とは、置換又は非置換アルケンの二価基を意味する。アルケニレン基の例には、−CH=CH−、−CH=CH−CH2−、及び−(CH21-6−CH=CH−CH2−が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
「アルキニル」とは、2個またはそれ以上の炭素原子を有し、かつ少なくとも1個の炭素−炭素三重結合を含む直鎖及び分岐鎖の炭化水素基を意味し、それにはエチニル、2−ブチン−1−イル、プロピニル、2−ブチン−1−イル、3−ペンチン−1−イル等が含まれる。用語「アルキニル」には置換及び非置換アルキニル基の双方が含まれることを意図する。アルキニル基はアルキルについて上述したような基で置換されてもよい。特定の実施態様において、直鎖及び分岐鎖アルキニル基は、6個またはそれ以下の炭素原子をその基幹内に有する(例、直鎖ではC2−C6、分岐鎖ではC3−C6)。C2−C6という表現は、2〜6個の炭素原子を有するアルキニル基を含む。用語「アルキニレン」とは、置換又は非置換アルキンの二価基を意味する。アルキニレン基の例には、−CH≡CH−、−C≡C−CH2−、及び−(CH21-6−C≡C−CH2−が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
「カルボシクル」又は「シクロアルキル」とは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル、ビシクロ[3.2.1]オクタニル、デカヒドロ−ナフタレニル、及びビシクロ[5.2.0]ノナニルが含まれるが、これらに限定されない単環又は二環の炭素環官能基を意味し;ここでシクロアルキル基は、場合により1個又は2個の二重結合を含んでもよく(即ち、シクロアルキレニル)、それらにはシクロペンテニル、シクロヘキセニル、及びシクロヘプテニルが含まれるが、これらに限定されるものではない。用語「シクロアルキル」には置換及び非置換シクロアルキル基の双方が含まれることを意図する。シクロアルキル基とシクロヘキシル基は、アルキルについて上述したような基で置換されてもよい。別に示さない限り、「(C3−C8)シクロアルキル」という表現は、3〜8個の炭素原子を有するシクロアルキル基を意味する。従って、「(C3−C8)シクロアルキル」という表現には、3〜8個の炭素を有する単環シクロアルキル基と、6〜10個の炭素を有する二環シクロアルキル基とが包含される。置換シクロアルキル基の例には、2−メチル−シクロヘキシル、3−メチル−シクロヘキシル、及び4−メチル−シクロヘキシルが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
用語「4,5,又は6員環ヘテロシクロアルキル」は、炭素原子と、S、N又はOから独立して選択された1〜3個のヘテロ原子とを有する安定な環基を意味し;ここで2個のO原子、又は1個のO原子と1個のS原子とが存在する場合、2個のO原子、又は1個のO原子と1個のS原子とは、各々、互いに結合していない。場合により、4,5,又は6員環ヘテロシクロアルキルは、1個又は2個の炭素−炭素二重結合、又は炭素−窒素二重結合を含んでもよい。4,5,又は6員環ヘテロシクロアルキルの典型的な例には、1−オキサ−シクロブタン−2−イル、テトラヒドロフラン−3−イル、モルフォリン−4−イル、2−チアシクロヘキサ−1−イル、2−オキソ−2−チアシクロヘキサ−1−イル、2,2−ジオキソ−2−チアシクロヘキサ−1−イル、及び4−メチル−ピペラジン−2−イルがある。
【0024】
用語「ヘテロシクロアルキル」には置換及び非置換ヘテロシクロアルキル基の双方が含まれることを意図する。ヘテロシクロアルキル基は、アルキルについて上述したような1〜4個の基で置換されてもよい。置換3〜8員環ヘテロシクロアルキルの典型的な例には、2−ヒドロキシ−アジリジン−1−イル、3−オキソ−1−オキサシクロブタン−2−イル、2,2−ジメチル−テトラヒドロフラン−3−イル、3−カルボキシ−モルフォリン−4−イル、及び1−シクロプロピル−4−メチル−ピペラジン−2−イルがある。
【0025】
別様に示されない限り、前述したヘテロシクロアルキルは、それが可能であって安定な構造を形成する場合、C−結合、又はN−結合し得る。例えば、ピペリジニルは、ピペリジン−1−イル(N−結合)であっても、又はピペリジン−4−イル(C−結合)であってもよい。
【0026】
用語「ヘテロシクロアルキル」には、環内に1個の炭素−炭素二重結合、又は1個の炭素−窒素二重結合を有する5員環(例、2−ピロリニル、3−ピロリニル等)、及び環内に1個の炭素−炭素二重結合、又は1個の炭素−窒素二重結合を有する6員環(例、ジヒドロ−2H−ピラニル、1,2,3,4−テトラヒドロピリジン、3,4−ジヒドロ−2H−[1,4]オキサジン等)が包含される。
【0027】
「4員環ヘテロシクロアルキル」は、3個の炭素原子と、1O、1S及び1Nから選択された1個のヘテロ原子とを有する安定な4員環の単環シクロアルキル環である。安定な4員環ヘテロシクロアルキルの典型的な例には、オキセタニル、アゼチジニル、及びチエタニルがある。
【0028】
「5員環ヘテロシクロアルキル」は、2〜4個の炭素原子と、1O;1S;1N;2N;3N;1S及び1N;1S及び2N;1O及び1N;並びに1O及び2Nからなる群から選択された1〜3個のヘテロ原子とを有する安定な5員環の単環シクロアルキル環である。安定な5員環ヘテロシクロアルキルの典型的な例には、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、ジヒドロチエニル、イミダゾリジニル、オキサゾリジニル、イミダゾリニル、イソオキサゾリジニル、ピロリジニル、2−ピロリニル、及び3−ピロリニルがある。
【0029】
「6員環ヘテロシクロアルキル」は、3〜5個の炭素原子と、1O;2O;1S;2S;1N;2N;3N;1S、1O及び1N;1S及び1N;1S及び2N;1S及び1O;1S及び2O;1O及び1N;並びに1O及び2Nからなる群から選択された1〜3個のヘテロ原子とを有する、安定な6員環の単環シクロアルキル環である。安定な6員環ヘテロシクロアルキルの典型的な例には、テトラヒドロピラニル、ジヒドロピラニル、ジオキサニル、1,3−ジオキソラニル、1,4−ジチアニル、ヘキサヒドロピリミジン、モルフォリニル、ピペラジニル、ピペリジニル、2H−ピラニル、4H−ピラニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、1,2,3,6−テトラヒドロピリジニル、テトラヒドロチオピラニル、1,1−ジオキソ−ヘキサヒドロ−1λ6−チオピラニル、1,1−ジオキソ−1λ6−チオモルフォリニル、チオモルフォリニル、チオキサニル、及びトリチアニルがある。
【0030】
用語「4,5,又は6員環ヘテロシクロアルキル」には、飽和及び不飽和「4,5,又は6員環ヘテロシクロアルキル」が含まれる。「4,5,又は6員環ヘテロシクロアルキル」は、アルキルについて上述したように置換されてもよい。
【0031】
本発明の化合物のいくつかは、エナンチオマー、ジアステレオマー、及び幾何異性体を含む立体異性体として存在していてよい。幾何異性体には、entgegen及びzusammen立体配座のいずれかとして存在できるアルケニル基を有した本発明の化合物が含まれ、この場合、その幾何異性体の全て、即ちentgegen及びzusammenの双方、シス及びトランス、並びにそれらの混合物は、本発明の範囲内に含まれる。本発明の化合物のいくつかは、2個以上の炭素原子において置換されたシクロアルキル基を有し、この場合、全ての幾何形態、シス及びトランスの双方、並びにこれらの混合物は本発明の範囲内に含まれる。(R)、(S)、エピマー、ジアステレオマー、シス、トランス、シン、アンチ、(E)、(Z)、互変異性体、及びこれらの混合物を含む全ての幾何形態が、本発明の化合物に含まれることを想定している。
【0032】
I.序
本発明は、炎症性疾患、循環器疾患、及び癌を含む疾患及び症状の治療における薬剤として有用な、式I〜III(式中、R1、R2、R3、及びLは、明細書中でそれらに定義された任意の意味を有する)のベンゾフランと、それらの製薬的に許容される塩とに関する。また本発明は、式I〜IIIの化合物の一種またはそれ以上を含有する薬剤組成物も提供する。
【0033】
II.化合物の製造
本発明の化合物(例、式I〜IIIの化合物)は、公知の合成方法と、以下に説明するスキーム中に概略される合成方法とを適用して製造され得る。
【化4】

【0034】
スキーム1では、PS−トリフェニルフォスフィン(ポリスチレン−トリフェニルフォスフィン)又はトリフェニル−フォスフィンを、20(例、3−ヒドロキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸メチルエステル)のTHF溶液に加える。ジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)を加えた後、Rb−OHを加えて、22(例、3−シクロプロピルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸メチルエステル)を得る。3−ヒドロキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸メチルエステルのような化合物は、Connor等(1992)、J. Med. Chem. 35: 958-965に記載されている方法により製造することができる。Rb−OHは、式R1−L−OHの化合物であり、式中L及びR1は、本願に定義される値の任意の1個を有する。Rb−OHの例には、2−シクロプロピル−エタノール、シクロヘキシル−メタノール、シクロヘキサ−3−エニル−メタノール、2,4−ジメチル−シクロペンタノール、及び(3−メチル−オキセタン−3−イル)−メタノールが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
メタノール中のエステル22を水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムのような無機塩基を用いて加水分解して、対応するカルボン酸24(例、3−シクロプロピルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸)を得る。次いでカルボン酸24をTHF(テトラヒドロフラン)のような非プロトン性溶媒中にてカルボニルジイミダゾール(CDI)で処理した後、5−アミノテトラゾールを加えて、カルボキシアミド26(例、3−シクロプロピルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド)を生成させる。
【0036】
別法として、無水CH2Cl2中の24を触媒量のDMFで処理した後、塩化オキサリルで処理することも可能である。次いで、この混合物中にアセトニトリルを加えた後、5−アミノテトラゾールとトリエチルアミンを加えて26を得る。
【0037】
【化5】

【0038】
スキーム2では、式39の化合物の固相合成を示す。DMFのような溶媒中の20(例、3−ヒドロキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸メチルエステル)溶液を、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムのような水素化物で処理した後、MEM−Cl(2−メトキシエトキシメチルクロリド;CH3OCH2CH2OCH2−Cl)のような適切なヒドロキシル保護基の試薬を加えて、化合物31(例、5−メトキシ−3−(2−メトキシ−エトキシメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸メチルエステル)を与える。当業者は、スキーム3において、2−メトキシエトキシメチル基に加えて他のヒドロキシル保護基を使用し得ることを理解するであろう(例、Greene and Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, 2nd ed., Chapter 2(John Wiley & Sons, Inc., 1991)参照)。次いで、THF及び水中のエステル31をNaOHのような塩基で加水分解して、カルボン酸32(例、5−メトキシ−3−(2−メトキシ−エトキシメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸)を生成させる。
【0039】
その後、ジクロロメタン中の32を、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)又はジシクロヘキシルカルボジイミドとMarshall樹脂(フェノールスルフィドポリスチレン(PS)樹脂;Marshall及びLiener(1970)J. Org. Chem. 35: 867-868)との反応により、Marshall樹脂のような固相樹脂と結合させて34を得る。次いで、ジクロロメタン中でトリフルオロ酢酸のような適切な酸を用いて34から2−メトキシ−エトキシメチル基を加水分解して、ポリマーに支持されたアルコール35(例、ポリマーに支持された3−ヒドロキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸)を得る。
【0040】
ジクロロメタン中の35を、トリフェニルフォスフィン及びジエチルアゾジカルボキシラート(DEAD)処理R1−L−OHで処理した溶液と一緒にして、R1−L−置換化合物37を得る。次いで、スキーム1に記載したように、37を5−アミノ−テトラゾールと結合させて、39を得る。
【0041】
III.化合物の評価
本発明の化合物(例、式I〜IIIの化合物、及びそれらの製薬的に許容される塩)のPI3K抑制能力についてアッセイすることができる。これらアッセイの例には、以下に記述するPI3K活性のインビトロ及びインビボアッセイが含まれる。
【0042】
本発明の特定の実施態様による化合物は、環状ヌクレオチド依存性タンパク質キナーゼ、PDGF、チロシンキナーゼ、MAPキナーゼ、MAPキナーゼキナーゼ、MEKK、サイクリン依存性キナーゼを含むがこれらに限定されない酵素の一種またはそれ以上と比較して、PI3Kの一種またはそれ以上を選択的に抑制する。本発明の他の実施態様の化合物は、PI3Kの一種を別のPI3Kと比較して選択的に抑制する。例えば、一実施態様において本発明の化合物は、PI3Kα又はPI3Kβと比較してPI3Kγを選択的に抑制する能力を示す。化合物は、化合物の第一酵素に対するIC50が、第二化合物に対するIC50より小さい場合、第二酵素と比較して第一酵素を選択的に抑制している。IC50は、例えばインビトロPI3Kアッセイによって測定することができる。
【0043】
現在の好ましい実施態様において、本発明の化合物のPI3K活性を抑制する能力は、インビトロ又はインビボアッセイで評価することができる(以下参照)。
【0044】
PI3Kアッセイは、PI3K抑制化合物の存在下、又は不在下で実施され、酵素活性量を比較してPI3K抑制化合物の抑制活性を決定する。
【0045】
PI3K抑制化合物を含有しないサンプルに、相対的なPI3K活性値100を付与する。PI3K抑制化合物存在下のPI3K活性がコントロールサンプル(即ち、抑制化合物が不在)の活性よりも小さい場合、PI3K活性抑制が達成されている。化合物のIC50は、コントロールサンプル活性の50%を示す化合物の濃度である。一実施態様において、本発明の化合物は約100μM未満のIC50を有する。別の実施態様において、本発明の化合物は1μM以下のIC50を有する。更に別の実施態様において、本発明の化合物は約200nM以下のIC50を有する。
【0046】
PI3Kγアッセイは、当該技術分野にて文献に記載されている(例、Leopoldt等、J.Biol.Chem., 1998;273:7024-7029)。一般に、p101及びp110γタンパク質の複合体を含むサンプルを、Gβ及びGγタンパク質と組み合わせる(例、Gタンパク質β1/γ2サブユニット)。次いで、この混合物に、放射線同位元素で標識されたATP(例、γ−32P−ATP)を加える。PIP2含有脂質ミセルを形成することによって脂質基質を形成する。その後、脂質と酵素混合物を加えて反応を開始させ、H3PO4を加えることによって反応を停止する。その後、脂質生成物をグラスファイバーフィルタプレートに移動して、H3PO4で数回洗浄する。当業者に周知の放射分析法を使用して放射性脂質生成物(PIP3)の存在を測定し得る。
【0047】
成長因子調節PI3Kの活性も、脂質キナーゼアッセイを用いて測定することが出来る。例えば、PI3Kαは、調節及び触媒サブユニットを含有するサンプルを用いてアッセイすることができる。放射性同位元素で標識されたATPと共にサンプルに活性化ペプチド(例、pYペプチド、SynPep Corp.)を加える。次いで、このサンプルにPIP2含有脂質ミセルを加えて、反応を開始させる。反応を進めて、直前のPI3Kγアッセイにて記載したように分析する。アッセイは、抽出物を用いて実施することも可能である(Susa等、J.Biol.Chem., 1992;267:22951-22956)。
【0048】
IV.製薬的に許容される塩及び溶媒和物
本発明で使用されるべき化合物は、非溶媒和物の形態で、及び水和物形態を含む溶媒和物の形態で存在できる。一般に、水和物形態を含む溶媒和物形態は、非溶媒和物形態と等価であり、本発明の範囲内に包含されるものとする。
【0049】
本発明の化合物(例、式I〜IIIの化合物)は、更に酸付加塩、及び/又は塩基塩を含むがこれらに限定されない、製薬的に許容される塩のいずれをも形成することが可能である。式Iの化合物の製薬的に許容される塩には、その酸付加及び塩基塩(二酸も含む)が含まれる。適切な塩の例は、Stahl及びWermuthによるHandbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use, Wiley-VCH, Weinheim, Germany(2002)と、Berge等による“Pharmaceutical Salts," J. of Parmaceutical Science, 1977;66:1-19に見出すことができる。
【0050】
式I〜IIIの化合物の製薬的に許容される酸付加塩には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、塩化臭素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸等の無機酸から誘導された無毒性塩と、脂肪族モノ及びジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、アルカン二酸、芳香族酸、脂肪族及び芳香族スルフォン酸等の有機酸から誘導された塩とが含まれる。従ってこのような塩には、酢酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩(ベンゼンスルホン酸塩)、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩、カプロン酸塩、カンシル酸塩(カンファースルホン酸塩)、クロロ安息香酸塩、クエン酸塩、エジシル酸塩(1,2−エタンジスルホン酸塩)、リン酸二水素塩、ジニトロ安息香酸塩、エシル酸塩(エタンスルホン酸塩)、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩化水素/塩化物、臭化水素/臭化物、ヨウ化水素/ヨウ化物、イソ酪酸塩、リン酸一水素塩、イセチオン酸塩、D−乳酸塩、L−乳酸塩、リンゴ酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩(メタンスルホン酸塩)、メタリン酸塩、メチル安息香酸塩、メチル硫酸塩、2−ナプシル酸塩(2−ナフタレンスルホン酸塩)、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルモ酸塩、フェニル酢酸塩、リン酸塩、フタル酸塩、プロピオン酸塩、ピロリン酸塩、ピロ硫酸塩、糖酸塩、セバシン酸塩、ステアリン酸塩、スベリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、D−酒石酸塩、L−酒石酸塩、トシル酸塩(トルエンスルホン酸塩)、及びキシナホ酸塩、並びに式I〜IIIの化合物の同様物が含まれる。また、アルギン酸塩、グルコン酸塩、ガラクツロン酸塩等のアミノ酸塩も想定される。
【0051】
基本化合物の酸付加塩は、従来の方法により、遊離塩基形態を十分量の所望の酸と接触させて塩を生成させることによって製造される。遊離塩基形態は、従来の方法により、塩形態を塩基と接触させて遊離塩基を単離することによって再生成され得る。遊離塩基形態は、極性溶媒中の溶解度等の物理的性質の面で対応する塩形態とは幾分か異なるが、それ以外の点では本発明の目的において、塩は対応する遊離塩基と等価である。
【0052】
製薬的に許容される塩基付加塩は、アルカリ及びアルカリ土類金属水酸化物等の金属、又は有機アミン等のアミンを用いて形成される。カチオンとして使用される金属の例は、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム等である。適切なアミンの例には、アルギニン、コリン、クロロプロカイン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジオールアミン、エチレンジアミン(エタン−1,2−ジアミン)、グリシン、リシン、メグルミン、N−メチルグルカミン、オラミン、プロカイン(ベンザチン)、及びトロメタミンが含まれる。
【0053】
酸性化合物の塩基付加塩は、従来の方法により、遊離酸形態を十分量の所望の塩基を接触させて塩を生成させることによって製造される。遊離酸形態は、従来の方法により、塩形態を酸と接触させて遊離酸を単離することにより再生成され得る。遊離酸形態は、極性溶媒中の溶解度等の物理的性質の面で対応する塩形態とは幾分か異なるが、それ以外の点では、本発明の目的において、塩は対応する遊離酸と等価である。
【0054】
V.薬剤組成物及び投与方法
本発明は、治療的有効量の式I〜IIIの化合物、又はその製薬的に許容される塩を、それらの製薬的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤と共に含有する薬剤組成物にも関する。用語「薬剤組成物」は、医学的又は獣医学的使用において、投与に適した組成物を意味する。用語「治療的有効量」は、単独で、又は他の一薬剤若しくは治療と併せて特定の患者又は患者集団に対して投与された際に、治療している疾患若しくは症状を抑制、停止、若しくは改善するに十分な、化合物又はその製薬的に許容される塩の量を意味する。例えば、ヒト又は他の哺乳動物の治療的有効量は、研究室又は臨床の下で実験的に決定されてもよく、あるいはまた特定の疾病及び治療している患者に関する米国食品医薬品局、又はそれと等価の外国機関のガイドラインにより要求される量であってもよい。
【0055】
適切な投与形態、投与量、及び投与経路の決定は、薬剤及び医療分野における当業者の裁量内にあることを理解するべきである。
【0056】
本発明の化合物は、シロップ、エリキシル、縣濁液、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、ロゼンジ、トローチ剤、水溶液、クリーム、軟膏、ローション、ジェル、乳液等の形態を有する薬剤組成物として調剤されてよい。本発明の化合物は、定量的又は定性的に測定して、PI3K仲介疾患に関連する徴候、又は疾病の指標を軽減するものであることが好ましい。
【0057】
本発明の化合物から薬剤組成物を製造する際、製薬的に許容される担体は、固体又は液体のいずれであってもよい。固体形態の調製品には、粉末、錠剤、ピル、カプセル、カシェ剤、坐薬、及び分散性顆粒が含まれる。固体担体は、希釈剤、矯味矯臭剤、結合剤、保存剤、錠剤崩壊剤、又は封入材としても作用し得る、一種またはそれ以上の物質であってよい。
【0058】
粉末の場合、担体は微細に分割された固体であり、微細に分割された活性化合物と混合物をなしている。錠剤の場合、活性化合物は、必須の結合特性を有する担体と適切な割合にて混合されて、所望の形状及び寸法に圧縮される。
【0059】
粉末及び錠剤は、1〜95%(w/w)の活性化合物を含有する。特定の実施態様において、活性化合物は5〜70%(w/w)の範囲に亘る。適切な担体は、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、滑石、糖、乳糖、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、ココアバター等である。用語「調製品」には、担体としての封じ込め材と一緒になった活性化合物の製剤が含まれることを意図し、ここで活性成分は他の担体と供に、又は伴わずに担体により包囲され、それによってその担体と結びつく。同様に、このような調製品にはカシェ剤及びロゼンジも含まれる。錠剤、粉末、カプセル、ピル、カシェ剤、及びロゼンジを経口投与に適した固体投与形態で用いることができる。
【0060】
坐薬を製造する際には、最初に脂肪酸グリセリド又はココアバター等の混合物の低融点ワックスを融解し、攪拌によって活性成分をその内部に均質に分散させる。次いで、融解した均質混合物を、都合のよい寸法に形成された鋳型内に注入し、冷やして固化させる。
【0061】
液体形態の製剤には、例えば水溶液、又は水/プロピレングリコール溶液等の溶液、縣濁液、及び乳液が含まれる。非経口注入用には、液体製剤は水性ポリエチレングリコール溶液中の溶液に調製され得る。
【0062】
経口使用に適した水溶液は、活性化合物を水に溶解し、所望により適切な色素、香料、安定剤、及び増粘剤を加えることによって調製され得る。経口使用に適した水性縣濁液は、微細分割された活性化合物を天然ゴム又は合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、及び他の周知の縣濁化剤等の粘着性物質を含む水中に分散することによって製造され得る。
【0063】
また、経口投与のために使用直前に液体形態製剤に変換されることが意図される固体形態の製剤も含まれる。この液体形態には溶液、縣濁液、及び乳液が含まれる。これらの調製品は、活性化合物に加えて着色剤、香料、安定剤、緩衝剤、人工及び天然甘味料、分散剤、増粘剤、可溶化剤等を含有してもよい。
【0064】
薬剤調製品は、単位用量形態にあることが好ましい。この単位用量形態において、調製品は適量の活性化合物を含有する単位用量に再分される。単位用量形態はパッケージ化された製剤であり得、そのパッケージは、個別量の調製品を収容したパックされた錠剤、カプセル、及びガラス瓶又はアンプル内の粉末等であり得る。また、単位用量形態はカプセル、錠剤、カシェ剤、又はロゼンジ自体でもよいし、パッケージ形態の適切な任意数であってもよい。
【0065】
単位用量製剤中の活性化合物の量は、特定の用途と、活性化合物の効力とに従って0.1〜1000mgの間で変動又は調整され、好ましくは1.0〜100mg、即ち単位用量の1〜95%(w/w)であり得る。組成物は所望であれば、適合性を有する他の治療薬を含有してもよい。
【0066】
製薬的に許容される担体は、投与される特定組成物と、組成物の投与に使用される特定の方法とによって決定される。従って、本発明の薬剤組成物の適切な製剤は、非常に様々である(例、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th ed., Gennaro等、Eds., Lippincott Williams and Wilkins, 2000)。
【0067】
本発明の化合物は、単独で、又は他の適切な成分と共に、エアロゾル製剤に製造されて(即ち、化合物は「霧状にされて」)、吸引を介して投与されてもよい。エアロゾル製剤は、加圧された許容可能な、例えばジクロロジフルオロメタン、プロパン窒素等の噴射剤中に配置され得る。
【0068】
例えば、静脈内、筋肉内、皮内、及び皮下経路による非経口投与に適した製剤には、水性及び非水性の等張無菌注射液と、水性及び非水性の無菌縣濁液とが含まれる。前者は酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、及び製剤を意図される受容者の血液と等張にする溶質を含有してもよい。後者は縣濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、及び保存剤を含有してもよい。本発明を実施する際、組成物は、例えば静脈内注入により、経口的、局所的に、又は腹膜内、膀胱内、若しくはくも膜下腔内に投与され得る。化合物の製剤は、単位用量又は複数用量の密封容器、たとえばアンプル及びガラス瓶内に配置され得る。注射用溶液及び縣濁液は、前述した種類の無菌粉末、顆粒、及び錠剤から調製され得る。
【0069】
本発明の事情において、患者に投与される用量は、ある時間に亘って対象の身体内で有利な治療的応答を付与するに十分である必要がある。用語「患者」とは、ほ乳類の一員を意味する。ほ乳類の例にはヒト、霊長類、チンパンジー、齧歯類、マウス、ラット、兎、馬、家畜、犬、猫、羊、及び雌牛が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
用量は、使用される特定の化合物の効力及び患者の状態、並びに治療される患者の体重又は身体表面積により決定されるであろう。用量の範囲は、特定の患者に対する特定の化合物の投与に付随する任意の副作用の存在、性質、及び程度によっても決定されるであろう。治療疾患の治療又は予防の際の化合物の有効な投与量を決定する際、開業医は化合物の循環血漿中濃度、化合物の有毒性、及び/又は疾患の進行等の要因を評価し得る。一般に、化合物と等価の用量は、典型的な患者に対して約1μg/kg〜100mg/kgである。多数の異なる投与方法が当業者に公知である。
【0071】
投与の際、本発明の化合物は、その化合物のLD50、化合物の薬物動態的プロファイル、禁忌薬物、及び多様な濃度における化合物の副作用を含むが、それらに限定されない要因により決定される投与量にて投与され得る。化合物は一回、又は複数回で投与されてよい。
【0072】
典型的な錠剤、非経口、及びパッチ製剤には、以下のものが含まれる。
【表1】

【0073】
本発明の化合物(例、式I〜IIIの化合物、又はその製薬的に許容される塩)を乳糖及びコーンスターチ(混合物用)と混合して、均質に融合して顆粒状にしてもよい。コーンスターチ(ペースト用)を水6mL中に浮遊させ、攪拌しながら加熱してペーストを形成する。ペーストを混合粉末に加えて混合物を顆粒状にする。湿潤顆粒をNo.8ハードスクリーンに通して、50℃で乾燥する。混合物を1%ステアリン酸マグネシウムで滑らかにした後、圧縮して錠剤にする。錠剤は、PI3K仲介疾患又は症状を治療するために1〜4個/日の割合で患者に投与される。
【0074】
非経口溶液製剤の実施例1
ポリプロピレングリコール700mL及び注射用水200mLの溶液を、本発明の化合物20.0gに加え得る。混合物を攪拌して、pHを塩酸で5.5に調整する。容積を注射用水で1000mLに調整する。溶液を殺菌して、各々2.0mL(本発明の化合物40mg)を収容する5.0mLアンプル内に充填して、窒素中で密封する。溶液は、PI3K仲介疾患又は症状に罹患し、治療する必要のある患者に対して注射により投与される。
【0075】
パッチ製剤の実施例1
本発明の化合物10mgを、プロピレングリコール1mLと、樹脂質架橋剤を含有するアクリル酸ベースのポリマー接着剤2mgと共に混合し得る。混合物は不浸透性の背面部材(backing)(30cm2)に塗布されて、PI3K仲介疾患又は症状の徐放治療のために患者の背中上部に貼付される。
【0076】
VI.PI3K仲介疾患又は症状の治療方法
本発明の化合物と、本発明の化合物を含む薬剤組成物とは、PI3K仲介疾患又は症状に罹患している患者に投与され得る。PI3K仲介疾患及び症状は、本発明の化合物を用いて、その疾患又は症状の種類に応じて予防的に、短期的に、及び長期的に治療することができる。一般に、この方法の主体又は患者はヒトであるが、他のほ乳類に対しても本発明の化合物を有利に投与し得る。
【0077】
治療的用途において、本発明の化合物は非常に様々な経口及び非経口の投与形態で調製及び投与され得る。用語「投与する」とは、患者に対する化合物の接触方法を意味する。従って、本発明の化合物は静脈内、筋肉内、皮内、皮下、十二指腸内、非経口、又は腹腔内に投与されることができる。また、本願に説明されている化合物は、例えば鼻腔内吸引により投与されてもよい。また本発明の化合物は、経皮的に、局所的に、移植を介して投与されてもよい。一実施態様にて、本発明の化合物は経口投与される。化合物はまた、直腸経由で、口腔内、膣内、眼内、耳内(andially)、又は通気により投与され得る。
【0078】
本発明の薬剤的方法に使用される化合物は、一日約0.001〜100mg/kgの初回投与量にて投与され得る。一実施態様では、一日用量は約0.1〜10mg/kgの範囲にある。しかしながら、投与量は、患者の要求、治療する状態の重症度、及び使用化合物に応じて変動し得る。特定の状況に適した投与量を決定することは開業医の技量に含まれる。一般的には、化合物の最適投与量と比較的して少ない投与量にて治療が開始される。その後、投与量は状況下で最適効果に到達するまで、少しずつ増大される。所望であれば利便性をよくするため一日の合計投与量を分割して、一日に一部ずつ投与してもよい。用語「治療」は、治療する疾患に関連した、又は疾患により生じる症状又は特徴の少なくとも一つを短期的、長期的若しくは予防的に、軽減、又は緩和することを含む。例えば、治療には、疾患の症状の一部の軽減、疾患の病理学的進行の抑制、又は疾患の根絶が含まれ得る。本発明の化合物は、患者に対して併用投与されてもよい。用語「併用投与」とは、二種またはそれ以上の異なる薬剤又は治療(例、放射線治療)を、同一又は別個の薬剤組成物中にて患者に投与することを意味する。従って、併用投与は、二種またはそれ以上の薬剤を、同薬剤を含有する一種の薬剤組成物にて同時に投与すること、又は同一患者に二種又はそれ以上の組成物を同時に、又は異なる時間に投与することを含む。例えば、患者は、本発明の化合物の第一用量を午前8時に投与され、次いでCELEBREX(登録商標)を1〜12時間後、例えば同一日の午後6時に投与され、ここで本発明の化合物とCELEBREX(登録商標)とは併用投与されている。代替的に、例えば、対象は本発明の化合物とCELEBREX(登録商標)とを含有する一回用量を午前8時に投与されてもよく、ここで本発明の化合物とCELEBREX(登録商標)とは併用投与されている。
【0079】
従って、本発明の化合物は、癌の治療に有用な化合物と共に併用投与されてもよい(例、TAXOL(登録商標)、タキソテール、GLEEVEC(登録商標)(メシル酸イマチニブ)、アドリアマイシン、ダウノマイシン、シスプラチン、エトポシド、ビンカアルカロイド、ビンブラスチン、ビンクリスチン、メトトレキサートのような細胞毒性剤、又はアドリアマイシン、ダウノマイシン、シスプラチン、エトポシド、及びビンクリスチンのようなアルカロイド、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、エンドスタチン及びアンジオスタチン、VEGF阻害剤、並びにメトトレキサートのような代謝阻害剤。本発明の化合物はまた、タキサン誘導体、白金配位錯体、ヌクレオシド類似体、アンスラサイクリン、トポイソメラーゼ阻害剤、又はアロマターゼ阻害剤と一緒に使用されてもよい)。癌治療のために放射線治療を本発明の化合物と併用してもよい。
【0080】
本発明の化合物はまた、血栓性疾患、心疾患、脳卒中等の治療に有用な化合物(例、アスピリン、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノゲン活性化因子、ウロキナーゼ、抗凝血剤、抗血小板薬(例、PLAVIX(登録商標)、硫酸クロピドグレル)、スタチン(例、LIPITOR(登録商標)(アトルバスタチンカルシウム)、ZOCOR(登録商標)(シンバスタチン)、CRESTOR(登録商標)(ロスバスタチン)等)、ベータ遮断薬(例、アテノロール)、NORVASC(登録商標)(ベシル酸アムロジピン)、及びACE阻害剤(例、Accupril(登録商標)(キナプリル塩酸塩)、リシノプリル等)と共に併用投与されてもよい。
【0081】
本発明の化合物はまた、高血圧症の治療のためにACE阻害剤、スタチンのような脂質低下剤、LIPITOR(登録商標)(アトロバスタチンカルシウム)、NORVASC(登録商標)のようなカルシウムチャネル遮断薬(ベシル酸アムロジピン)等の化合物と共に併用投与されてもよい。本発明の化合物はまた、フィルブラート、ベータ遮断薬、NEPI抑制剤、アンギオテンシン−2受容体拮抗薬、及び血小板凝集抑制剤等と一緒に使用することも可能である。
【0082】
関節リウマチを含む炎症性疾患の治療の際、本発明の化合物は、抗TNFαモノクローナル抗体(例、REMICADE(登録商標)、CDP−870及びHUMIRA(登録商標)(アダリムマブ)並びにTNF受容体−免疫グロブリン融合分子(例、ENBREL(登録商標))、IL−1阻害剤、受容体拮抗薬、又は可溶性IL−1Rα(例、KINERET(登録商標)又はICE阻害剤)、非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDS)、ピロキシカム、ジクロフェナク、ナプロキセン、フルルビプロフェン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、イブプロフェン、フェナメート、メフェナム酸、インドメタシン、スリンダク、アパゾン、ピラゾロン、フェニルブタゾン、アスピリン、COX−2阻害剤(例、CELEBREX(登録商標)(セレコキシブ)、VIOXX(登録商標)(ロフェコキシブ)、BEXTRA(登録商標)(バルデコキシブ)及びエトリコキシブ、メタロプロテアーゼ阻害剤(好ましくはMMP−13選択的阻害剤)、NEUROTIN(登録商標)、プレガバリン、低用量メトトレキサート、レフルノミド、ヒドロキシクロロキノン、d−ペニシラミン、オーラノフィン即ち非経口又は経口金剤等のTNF−α阻害剤のような薬品と共に併用投与されてもよい。
【0083】
本発明の化合物は、変形性関節症の治療用の現存する薬剤と共に併用投与されてもよい。一緒に使用されるべき適切な薬品には、ピロキシカム、ジクロフェナク、ナプロキセンのようなプロピオン酸、フルルビプロフェン、フェノプロフェン、ケトプロフェン及びイブプロフェン、メフェナム酸のようなフェナメート、インドメタシン、スリンダク、アパゾン、フェニルブタゾンのようなピラゾロン、アスピリンのようなサリチル酸塩、セレコキシブ、バルデコキシブ、ロフェコキシブ及びエトリコキシブのようなCOX−2阻害剤、鎮痛薬、並びにコルチコステロイド及びヒアルガン及びシンビスクのようなヒアルロン酸等の関節内治療薬が例としてあげられる標準的な非ステロイド系抗炎症剤(以後、NSAIDと称する)が含まれる。
【0084】
本発明の化合物は、ビラセプト、AZT、アシクロビル及びファムシクロビルのような抗ウイルス剤、並びにバラントのような殺菌性化合物と共に併用投与されてもよい。
【0085】
本発明の化合物は、更に、抗うつ薬(例、セルトラリン)のようなCNS剤、抗パーキンソン薬(例、デプレニル、L−ドーパ、レクイップ、ミラペックス、セレジンおよびラサジリンのようなMAOB阻害剤、タスマールのようなcomP阻害剤、A−2阻害剤、ドーパミン再取り込み阻害剤、NMDA拮抗薬、ニコチン作動薬、ドーパミン作動薬、及び神経型一酸化窒素合成酵素の阻害剤)、並びにドネペジル、タクリン、NEUROTIN(登録商標)、プレガバリン、COX−2阻害剤、プロペントフィリン又はメトリフォナートのような抗アルツハイマー薬と共に併用投与されてもよい。
【0086】
本発明の化合物はまた、EVISTA(登録商標)(塩酸ラロキシフェン)、ドロロキシフェン、ラソフォキシフェン又はフォソマックスのような骨粗しょう症薬、並びにFK−506及びラパミシンのような免疫抑制剤と共に併用投与されてもよい。
【0087】
実施例
実施例1〜43
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
【表6】

【0092】
【表7】

【0093】
中間体1.5−メトキシ−3−(2−メトキシ−エトキシメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸メチルエステル
3−ヒドロキシ−3−メトキシ−3−ベンゾフラン−2−カルボン酸メチルエステル(10.0g、41.9mmol、Conner等、(1992)J.Med.Chem.35:958-965)のTHF(350mL)溶液を一部ずつNaH(60%分散油、1.76g、44.0mmol)で処理して、1時間半攪拌した。MEM−Cl(5.3mL、46.0mmol)を加えて、混合物を18時間攪拌した。溶媒を減圧下で除去して、残留物を酢酸エチル中に溶解した。溶液をNaOH(1N)、ブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥して濾過し、減圧下で溶媒を除去した。熱酢酸エチルから再結晶させて表題の生成物を得た(8.5g、68%)。1H−NMR(400MHz、D6DMSO)δ、7.57(d、J=9.1Hz、1H)、7.29(d、J=2.7Hz、1H)、7.14(d、J=6.6Hz、1H)、5.44(s、1H)、3.87(m、2H)、3.83(s、3H)、3.80(s、3H)、3.37(m、2H)、3.31(s、1H)。
【0094】
中間体2.5−メトキシ−3−(2−メトキシ−エトキシメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸
中間体1(8.5g、26.0mmol)、THF(100mL)、水(50mL)、及びNaOH(1N、52mL、52mmol)の溶液を3時間加熱して50℃とした。THFを減圧下で除去して、HClを加えて最終pH=3.5とした。化合物を濾過により回収して、表題の生成物を得た(7.5g、97%)。1H−NMR(400MHz、D6DMSO)δ、7.52(d、J=0.98Hz、1H)、7,50(d、J=0.98Hz、1H)、7.23(d、J=1.36Hz、1H)、5.39(s、2H)、3.84(m、2H)、3.77(s、3H)、3.43(m、2H)、3.29(s、3H).MS:M+1=297。
【0095】
中間体3.ポリマー支持された3−ヒドロキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸
中間体2(6.0g、19.2mmol)、ジイソプロピルカルボジイミド(3.16mL、20.1mmol)、TFA(30mL)及びジクロロメタン(90mL)の溶液を1時間半攪拌した。Marshall樹脂(5.48g、1.4mmol/g、Marshall及びLiener(1970)J.Org.Chem.35:867-868)(5.4g、1.4mmol/g)DMAP(0.92g、7.6mmol)、及びジクロロメタンを収容したシェーカーフラスコに該溶液を加えた。反応物を18時間、穏やかに振った。濾過して樹脂を除去し、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド(DMF)、及びヘキサンで洗浄して、減圧下で乾燥して8.8gを得た。樹脂をジクロロメタン(90mL)及びトリフルオロ酢酸(30mL)で3時間処理した。樹脂を濾過して除去し、ジクロロメタン、DMF、メタノール、ジクロロメタン、及びヘキサンで洗浄した。樹脂を一定重量になるまで乾燥して、6.6gの表題生成物を得た。理論値6.9g。
【0096】
中間体4.5−クロロ−3−(2−メトキシ−エトキシメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸メチルエステル
3−ヒドロキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸メチルエステル(10.0g、44.0mmol、Conner等、(1992)J.Med.Chem.35:958-965)のTHF(200mL);溶液を一部ずつNaH(60%分散油、1.84g、46.2mmol)で処理して、1時間半攪拌した。MEM−Cl(5.5mL、48.5mmol)を加えて、混合物を18時間攪拌した。溶媒を減圧下で除去して、残留物を酢酸エチルに溶解した。溶液をNaOH(1N)、ブラインで洗浄して、MgSO4上で乾燥して濾過し、溶媒を減圧下で除去した。熱酢酸エチルから再結晶させて、表題の生成物(12.9g、93%)を得た。1H−NMR(400MHz、D6DMSO)δ、7.98 9s、1H)、7.70(d、J=9.9Hz、1H)、7.55(d、J=8.8Hz、1H)、5.42(s、2H)、3.82(m、5H)、3.44(m、2H)、3.29(s、3H)。
【0097】
中間体5.5−クロロ−3−(2−メトキシ−エトキシメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸
中間体4(12.9g、41.0mmol)、THF(150mL)、水(80mL)、及びNaOH(1N、82mL、82mmol)を3時間加熱して50℃とした。THFを減圧下で除去して、HClを加えて最終pH=3.5とした。濾過して化合物を回収し、表題化合物(8.1g、65%)を得た。1H−NMR(400MHz、D6DMSO)δ、7.94(s、1H)、7.67(d、J=8.79Hz、1H)、7.53(d、J=6.84Hz、1H)、5.39(s、2H)、3.84(m、2H)、3.45(m、2H)、3.18(s、3H)。
【0098】
中間体6.ポリマー支持された3−ヒドロキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸
中間体6(8.1g、27mmol)、ジイソプロピルカルボジイミド(4.43mL、28.3mmol)、TFA(30mL)及びジクロロメタン(90mL)の溶液を1時間半攪拌した。Marshall樹脂(7.7、1.4mmol/g)、DMAP(1.13g、7.6mmol)、及びジクロロメタンを収容したシェーカーフラスコに該溶液を加えた。反応物を18時間、穏やかに振った。濾過して樹脂を除去し、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド(DMF)、及びヘキサンで洗浄して、減圧下で乾燥して8.8gを得た。樹脂をジクロロメタン(90mL)及びトリフルオロ酢酸(30mL)で3時間処理した。濾過して樹脂を除去し、ジクロロメタン、DMF、メタノール、ジクロロメタン、及びヘキサンで洗浄した。一定重量になるまで樹脂を乾燥して、表題の化合物10.1gを得た。理論値10.3g。
【0099】
実施例1〜43の化合物を以下の方法で合成した。中間体3又は中間体6をIrori Maxi Cans内に配置して(一缶当たり樹脂約250mg)、缶を20mLガラスジャー内に配置して、ジクロロメタン(4mL)で処理した。缶を10分間振って、溶媒を排出させ、ジクロロメタン(3mL)で再処理した。所望のアルコールR1−L−OH(4.2mL、0.71M)のジクロロメタン溶液を、トリフェニルフォスフィン/ジエチルアジドジカルボキシラート(DEAD)(5.0mL、0.599Mトリフェニルフォスフィン/DEAD)溶液で処理して、20分間攪拌した。所望のジャーに各々R1−L−OH/トリフェニルフォスフィン/DEAD溶液(5mL)を加えた。蓋をしたジャー内で缶を4時間振って、試薬を吸引して除去した。缶をジクロロメタン(4mL)で2回、DMF(4mL)で2回、ジクロロメタン(4mL)で2回、次いでヘキサン(4mL)で2回洗浄した。真空炉内にて減圧下で缶を0.5時間乾燥した。上述した反応と、その後の洗浄とを、樹脂結合された基質及びR1−L−OHの各々について更に2回行った。各反応物に、THF(1.5mL)、アセトニトリル(3mL)、5−アミノテトラゾール(0.089g、1.05mmol)、及びトリエチルアミン(TEA)(0.097mL、0.7mmol)を加えた。ジャーに蓋をして、70℃で20時間加熱した。溶液を個別の容器に移して、樹脂をTHF(2mL)で1回、DMF(1mL)で2回、次いでTHF(1mL)で再度洗浄した。洗浄物を母液と一緒にして、溶媒を減圧下で除去した。逆相クロマトグラフィー、又はメタノール/水/トリエチルアミン/HClから再結晶することによって、表題の化合物を精製できた。
【0100】
実施例1.3−シクロプロピルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例2.3−(シクロヘキサ−3−エニルメトキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例3.3−シクロオクチルオキシ5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例4.5−メトキシ−3−(3−メチル−オキセタン−3−イルメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例5.5−メトキシ−3−(2−メチル−シクロヘキシルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例6.3−(3−エチル−オキセタン−3−イルメトキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例7.3−(5−イソプロペニル−2−メチル−シクロヘキシルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例8.5−メトキシ−3−(2−メチル−シクロペンチルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例9.3−(2,4−ジメチル−シクロペンチルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例10.3−(1−シクロプロピル−エトキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
【0101】
実施例11.5−メトキシ−3−(3−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−イルメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例12.3−(2,5−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例13.3−(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−イルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例14.5−メトキシ−3−(3−メチル−シクロヘキシルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例15.3−(ビシクロヘキシル−4−イルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例16.5−メトキシ−3−(6−メチル−シクロヘキサ−3−エニルメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例17.3−(3,5−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例18.5−メトキシ−3−(2−メチル−シクロヘキシルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例19.3−(1−シクロペンチル−エトキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例20.3−(1−シクロヘキシル−プロポキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
【0102】
実施例21.3−(3,4−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例22.3−(3,5−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例23.3−(デカヒドロ−ナフタレン−2−イルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例24.5−メトキシ−3−(1−メチル−シクロメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例25.3−シクロブチルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例26.3−シクロヘプチルオキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例27.3−シクロブトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例28.5−メトキシ−3−(テトラヒドロ−ピラン−4−イルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例29.3−シクロヘプチルオキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例30.3−シクロペンチルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
【0103】
実施例31.3−シクロヘキシルオキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例32.3−シクロヘキシルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例33.3−シクロペンチルオキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例34.5−クロロ−3(1−メチル−シクロプロポキシメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例35.5−クロロ−3−シクロブチルメトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例36.5−クロロ−3−シクロヘプチルオキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例37.5−クロロ−3−シクロブトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例38.5−クロロ−3−シクロペンチルメトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例39.5−クロロ−3−(1−シクロペンチル−エトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例40.5−クロロ−3−(3,4−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
【0104】
実施例41.5−クロロ−3−(3,5−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例42.5−クロロ−3−シクロヘキシルオキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
実施例43.5−クロロ−3−シクロペンチルオキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
【0105】
中間体7.5−クロロ−3−シクロプロピルメトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸メチルエステル
3−ヒドロキシ−5−クロロ−3−ベンゾフラン−2−カルボン酸メチルエステル(0.68g、3.0mmol)のTHF10mL中の0℃の溶液に、トリフェニルフォスフィン(0.81g、3.1mmol)とジエチルアゾジカルボキシラート(DEAD)(0.50mL、3.1mmol)とを加えた。反応物を15分間攪拌した後、シクロプロピルメタノール(0.25mL、3.1mmol)を加えた。反応物を0℃で20分間攪拌した後、一夜で反応物の温度を周囲温度まで上昇させた。反応物を50℃で5時間加熱した。溶媒を真空下で除去して、粗物質をシリカゲル上にてクロマトグラフィーにかけ、EtOAc/ヘキサン(10%〜40%)の勾配で溶出した。表題の生成物を無色の油状物として単離した。収率:0.43g、50%。
【0106】
中間体8.5−クロロ−3−シクロプロピルメトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸
THF(3mL)及び1N NaOH(3mL)中の中間体7(0.36g、1.3mmol)を2時間加熱還流した。反応物を冷却して、1N HClで酸性化し、EtOAcで抽出した。有機相をMgSO4上で乾燥して、濾過し濃縮して、表題の生成物を得た。収率0.32g、92%。
【0107】
実施例44.5−クロロ−3−シクロプロピルメトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド
中間体8(0.28g、1.1mmol)を、アルゴンパージ下のフラスコ内の無水アセトニトリル(5mL)中に溶解した。DMFの触媒滴下を行った後、シリンジを介してオキサリルクロリド(0.45mL、5.1mmol)を加えた。反応物を室温で30分間攪拌した。溶媒を真空下で除去した。残留物をアセトニトリル(10mL)に再び溶解した後、5−アミノテトラゾール(0.11g、1.3mmol)とトリエチルアミン(0.18mL、1.3mmol)を加えた。反応物を室温で4時間攪拌した。反応物をH2Oで希釈して、固体を濾過により収集した。固体にメタノールを加え、沸騰させた。この物質を熱いうちに濾過した。固体としての表題生成物を、真空で乾燥した。収率0.16g、44%。C141253Clの微量分析:計算値:C、50.39;H、3.62;N、20.98。実測値:C、50.73;H、20.81;N、20.81。融点243〜244℃。
【0108】
生物学的実施例1
PI3Kγタンパク質の発現及び精製プロトコル
ESF921媒体中で増殖したヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞を、glu標識p101を発現するバキュロウイルス及びHA標識p110γを発現するバキュロウイルスを用いて、p101バクロウイルスとp110γバキュロウイルスとの比を3:1として、共感染した。Sf9細胞を10Lバイオリアクター中で1×107総細胞/mLまで増殖し、感染から48〜72時間後に回収した。次いで、感染細胞のサンプルについて免疫沈降法とウエスタンブロット分析法(以下参照)を用いて、p101/p101γPI3キナーゼの発現を調べた。
【0109】
PI3Kγを精製するために、細胞ペースト1gにつき室温の低浸透圧溶解緩衝液(1mM MgCl2、1mM DTT、5mM EGTA、1mM ペファブロック(pefabloc)、0.5μMアプロチニン、5μMロイペプチン、2μMペプスタチン、5μM E64、pH8)の4容積を、凍結細胞ペレット上に攪拌しながら注ぎ、その後400psiにて窒素「ボンブ(bomb)」中で溶解した(599HCT316、Parr Instrument Co,Moline, IL)。NaClを加えて150mMとし、コール酸ナトリウムを加えて1%として更に45分間混合した。溶解物を14,000rpmで25分間遠心分離して透明にした。次いで、20mL樹脂/50g細胞ペーストを用いて、溶解物を抗glu結合タンパク質−GSepaharoseビーズ(Covance Research Products, (Richmond, CA所在))上に充填した。カラムを洗浄緩衝液(1mM DTT、0.2mM EGTA、1mMペファブロック、0.5μMアプロチニン、5μMロイペプチン、2μMペプスタチン、5μM E64、150mM NaCl、1%コール酸ナトリウム、pH8)の15容積で洗浄した。100μg/mLのglu標識の結合と競合するペプチドを含有する洗浄緩衝液の6カラム容積で、PI3Kγを溶出した。溶出タンパク質(OD280読取値により決めた)を含むカラム分画を収集して、0.2mM EGTA、1mMDTT、1mMペファブロック、5μMロイペプチン、0.5%コール酸ナトリウム、150mM NaCl、及び50%グリセロール、pH8中で透析した。更なる使用時まで分画を−80℃で保管した。
【0110】
生物学的実施例2
Gタンパク質サブユニット発現
ヨトウガ細胞を、glu標識Gタンパク質β1を発現するバキュロウイルス及びGタンパク質β2を発現するバキュロウイルスを用いて、glu標識Gタンパク質β1バキュロウイルスとGタンパク質β2バキュロウイルスとの比を1:1として、共感染させた。Sf9細胞を10Lバイオリアクター中で増殖させて、感染から48〜72時間後に回収した。感染細胞のサンプルについてウエスタンブロット分析法(以下参照)を用いて、Gタンパク質β1/β2の発現を調べた。細胞溶解物をホモジナイズして、生物学的実施例1と同様の、glu標識ビーズのカラム上に充填し、カラムからgluペプチドで競合させて取り出し、生物学的実施例1中の記載と同様に処理した。
【0111】
生物学的実施例3
ウエスタンブロット分析
タンパク質のサンプルを8%トリス−グリシンゲル上に流し、45μMのニトロセルロース膜に転写した。次いで、このブロットをTBST(50mMトリス、200mM NaCl、0.1%ツィーン20、pH7.4)中の5%ウシ血清アルブミン(BSA)及び5%卵白アルブミンにより室温で1時間ブロッキングして、0.5%BSAを含むTBSTにより1:1000に希釈した一次抗体と共に一夜インキュベートした。p110γ、p110α、p110β、p85α、Gタンパク質β1、及びGタンパク質γ2サブユニットのための一次抗体をSanta Cruz biotechnology, Inc.,Santa Cruz, CAより購入した。p101サブユニットの抗体は、p101ペプチド抗原を基にResearch Genetics, Inc.,Huntsville, ALにて開発された。
【0112】
一次抗体と共にインキュベートした後、ブロットをTBST中で洗浄して、0.5%BSAを含むTBSTにより1:10,000に希釈したヤギ抗ウサギHRPコンジュゲート(Bio-Rad Laboratories, Inc.,Hercules, CA、製品番号170-6515)と共に室温にて2時間インキュベートした。抗体をECL(登録商標)検出試薬(Amersham biosciences Corp.,Piscataway, New Jerseyで検出して、Kodak ISO400Fスキャナ上で定量した。
【0113】
生物学的実施例4
免疫沈降法
生物学的実施例1又は2からの細胞ペースト100μLを解凍して、氷上で低浸透圧溶解緩衝液(25mMトリス、1mM DTT、1mM EDTA、1mMペファブロック、5μMロイペプチン、5μM E−64(Roche)、1%ノニデットP40、pH7.5〜8)400μLで溶解した。溶解物をglu標識ビーズ(Covance Research Products, Cambridge, England, 製品番号AFC−115P)と共に室温で2時間インキュベートした。ビーズを洗浄緩衝液(20mMトリス、pH7.8〜7、150mM NaCl2、0.5%NP40)中で3回洗浄し、サンプル緩衝液(Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA、製品番号LC1676)中で2度加熱することによりビーズからタンパク質を溶出させた。
【0114】
生物学的実施例5
PI3Kγインビトロキナーゼアッセイ
表1の化合物の阻害特性を、インビトロPI3Kアッセイにより検定した。96ウエルのポリプロピレン製プレート内において、DMSO中で所望の最終濃度の50倍の濃度を有する化合物2μLを、各ウエルにスポットした。各反応につき精製された組み換え体p101/p110γタンパク質(0.03μg、〜2.7nM)とGタンパク質β1/γ2サブユニット(0.09μg、〜57.7nM)とを、アッセイ緩衝液(30mM HEPES、100mM NaCl、1mM EGTA、及び1mM DTT)中で一緒にした。この混合物にATP及び[γ−32P−ATP](0.09μCi)を加え、反応物の最終ATP濃度を20μMとした。アッセイ緩衝液中で10分間、フォスファチジルイノシトール−4,5−ジフォスフェート(PIP2)、フォスファチジルエタノールアミン(PE)、及びコール酸ナトリウムを超音波処理することにより脂質ミセルを形成し、MgCl2を加えて、氷上で20分間インキュベートした。反応物中の最終濃度は、25μM PIP2、300μM PE、0.02%コール酸ナトリウム、及び10mM MgCl2であった。合計容積が50μLである等量の脂質及び酵素混合物を加えて反応を開始させ、室温で20分間反応させて、100μLの75mM H3PO4で停止した。脂質生成物をグラスファイバー製フィルタプレートに移動して、75mM H3PO4で数回洗浄した。Wallac Optiphaseミックスを各ウエルに加え、Wallac 1450 Triluxプレートリーダー(PerkinElmer Life Sciences Inc.,Boston, MA 02118)内で計数することにより放射性脂質生成物(PIP3)の存在を測定した。試験した各化合物のIC50を、表1に報告する。
【0115】
【表8】

【0116】
【表9】

【0117】
本明細書中に記載された実施例及び実施態様は、例示のみを目的とし、当業者はこれらに照らして多様な改良又は変更を思いつくものと想定されるが、それらは本願の趣旨及び範囲、並びに添付の特許請求の範囲の領域内に包含されるものとする。本明細書中に引用される全刊行物、特許、及び特許出願は、その全体が本明細書中で参照により本願に加入される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

(式中、R2及びR3は、
(i) R2がメトキシで、R3がHであり;
(ii) R2がClで、R3がHである;
からなる群から選択され;
Lは、存在しないか、又は−C(CH3)H、−C(CH2CH3)H、−CH2−、若しくはC1−C3アルキレンであり;
1は、C3-8シクロアルキル、シクロヘキセニル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル、4,5又は6員環のヘテロシクロアルキル、デカヒドロ−ナフタレニル、オキセタニル、及びテトラヒドロピラニルからなる群から選択される、場合によって置換されている基であり、そして
場合によって置換されている基は、独立して、C1−C4アルキル、メチル、及びC2−C3アルケニルからなる群から選択される1〜3個の基で置換されてもよい)
の化合物、又はその製薬的に許容される塩。
【請求項2】
2がメトキシで、R3が水素である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
1がC3-8シクロアルキル、シクロヘキセニル、及びビシクロ[2.2.1]ヘプタニルからなる群から選択される、場合によって置換されている基であり、
場合によって置換されている基は、C1−C4アルキル、及びメチルからなる群から独立して選択される1〜3個の基で置換されてもよい、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
化合物は、
3−シクロオクチルオキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(2−メチル−シクロヘキシルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(2−メチル−シクロペンチルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(2,4−ジメチル−シクロペンチルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(3−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−イルメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(3−メチル−シクロヘキシルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(3,5−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(2−メチル−シクロヘキシルオキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(1−シクロペンチル−エトキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(1−シクロヘキシル−プロポキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(3,4−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(3,5−ジメチル−シクロヘキシルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−(デカヒドロ−ナフタレン−2−イルオキシ)−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
5−メトキシ−3−(1−メチル−シクロメトキシ)−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−シクロブチルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−シクロヘプチルオキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−シクロヘプチルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−シクロペンチルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
3−シクロヘキシルオキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、及び
3−シクロヘキシルメトキシ−5−メトキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミド、
からなる群から選択される、請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
2がClで、R3がHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
1が場合によって置換されているC3-8シクロアルキルで、
場合によって置換されているC3-8シクロアルキルは、C1−C4アルキル、及びメチルからなる群から独立して選択される1〜3個の基で置換されてもよい、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
化合物は、5−クロロ−3−シクロヘプチルオキシ−ベンゾフラン−2−カルボン酸(1H−テトラゾール−5−イル)−アミドである、請求項5に記載の化合物。
【請求項8】
PI3Kに仲介される疾患又は症状に罹患している患者に、治療的有効量の請求項1に記載の化合物及び製薬的に許容される担体を含有する医薬組成物を投与することを含む、PI3Kに仲介される疾患又は症状に罹患している患者の治療方法。
【請求項9】
PI3Kに仲介される疾患又は症状は、
関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節症、乾癬、炎症性疾患、及び自己免疫疾患からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
PI3Kに仲介される疾患又は症状は、
循環器疾患、アテローム硬化症、高血圧症、深部静脈血栓症、脳卒中、心筋梗塞、不安定狭心症、血栓塞栓症、肺塞栓症、血栓性疾患、急性動脈虚血、末梢性血栓閉塞、及び冠動脈疾患からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
PI3Kに仲介される疾患又は症状は、
癌、乳癌、グリア芽細胞種、子宮内膜癌、肝細胞癌、大腸癌、肺癌、黒色腫、腎細胞癌、甲状腺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、グリア細胞種、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、白血病、細胞リンパ腫、及びリンパ増殖性疾患からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
PI3Kに仲介される疾患又は症状は、
2型糖尿病、呼吸器疾患、気管支炎、喘息、及び慢性閉塞性肺疾患からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
化合物が、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物である請求項8に記載の方法。
【請求項14】
治療的有効量の請求項1に記載の化合物及び製薬的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【請求項15】
治療的有効量の請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物及び製薬的に許容される担体を含有する医薬組成物。

【公表番号】特表2006−526608(P2006−526608A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508422(P2006−508422)
【出願日】平成16年5月24日(2004.5.24)
【国際出願番号】PCT/IB2004/001788
【国際公開番号】WO2004/108709
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(503181266)ワーナー−ランバート カンパニー リミティド ライアビリティー カンパニー (167)
【Fターム(参考)】