説明

PILRαと結合するポリペプチド、およびそれをコードするポリヌクレオチド、並びにその利用

【課題】PILRと結合するポリペプチドおよびその代表的な利用方法を提供する。
【解決手段】本発明者らは、配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが、PILRαに結合することを見出した。そして、このポリペプチドが免疫細胞を活性化する、または免疫細胞の活性化を抑制することができることを見出した。このポリペプチドは、医薬品等に好適に利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫応答の制御に関するものである。本発明は、特に、PILRαに結合することができるポリペプチドに関するものである。PILRαに結合するという本発明のポリペプチドの特性は、抗原提示細胞である樹状細胞やマクロファージ等の活性化を制御することに利用可能なので、免疫応答抑制用医薬品および免疫応答増強用医薬品等、免疫応答を制御する医薬品に好適に利用可能である。
【背景技術】
【0002】
免疫細胞は、感染や腫瘍等に対する生体防御において重要な役割を担っている。その一方で、免疫細胞が異常に活性化されることで、自己免疫疾患やアレルギー疾患が発症することが知られている。従って、免疫応答を適度に調節することが、生体防御応答を制御する上で重要である。免疫細胞にはその活性化を制御する分子として、活性化レセプターおよび抑制化レセプターからなるペア型レセプターが発現しており、これらレセプターが免疫応答の制御に重要な役割を担っていることが明らかになってきた。これら活性化レセプターおよび抑制化レセプターは、細胞外領域の相同性が非常に高いにもかかわらず、相反する機能(活性化・抑制化)を持っている。なお、本明細書中、免疫細胞とは、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、マクロファージ、マスト細胞、好塩基球、抗酸球、または好中球等の、免疫応答に関与する細胞を含む。
【0003】
活性化レセプターは、そのリガンドを発現している細胞を認識し、免疫細胞を活性化する。免疫細胞を活性化するとは、免疫細胞からのサイトカイン産生や細胞障害性を誘起することを意味する。活性化レセプターは、細胞膜貫通領域に陽性荷電アミノ酸を有している。この陽性荷電アミノ酸を介して、DAP12、CD3zまたはFcRγといったITAM(Immunoreceptor Tyrosine-based Activation Motief)配列[Y-x-x-L-x(6〜8)-Y-x-x-x-L(xは任意のアミノ酸)]を有したアダプター分子と会合することで、活性化レセプターは活性化シグナルを伝達する。
【0004】
一方、抑制化レセプターは、細胞質内領域にITIM(Immunoreceptor Tyrosine-based Inhibitory Motief)配列[(I/V/L/S)-x-Y-x-x-(L/V)(xは任意のアミノ酸)]を有し、SHP-1などのホスファターゼを動員することで、活性化レセプターからのシグナルを遮断する。こうして、抑制化レセプターは免疫細胞の活性化を抑制する。
【0005】
免疫細胞に発現が認められるペア型レセプターとして、ヒトでは免疫グロブリン様構造を持つKIR(Killer cell Ig-like receptor)、マウスではC型レクチン様構造を持つLy49が挙げられる。抑制化レセプターの多くはMHCクラスIを認識し、免疫細胞の自己応答性を抑えると考えられている。一方、活性化型Ly49、KIRレセプターは自己のMHCをほとんど認識せず、その存在の生理学的意味を含めリガンド認識機構は明らかになっていないものが多い。
【0006】
また、ペア型レセプターの一つとして、PILR(Paired Ig-like Type2 Receptor)が知られている。PILRは抑制型レセプターであるPILRαと、活性化型レセプターであるマウスPILRβとからなるペア型レセプターである。PILRもNK細胞に限らず、樹状細胞、マクロファージ、マスト細胞等の免疫細胞に幅広く発現している
PILRα(FDF03と称される場合もある)は、ヒトおよびマウスにおいてクローニングされている(非特許文献1・2)。また、本発明者らは、非特許文献3において、マウスPILRαとPILRβのリガンドであるマウスPILR-L(PILR Ligand)のクローニングを行っている。本発明者らは同文献において、PILR-LとPILRβとの会合を介したシグナルが、NK細胞や樹状細胞を活性化することを明らかにしている。
【非特許文献1】Mousseau D. D., et al., J. Biol. Chem. 275 (2000) p.4467-4474
【非特許文献2】Fournier, N., et al., J. Immunol. 165 (2000) p.1197-209.
【非特許文献3】Shiratori, I., et al., J. Exp. Med. 199 (2004) p.525-533
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記論文で同定したマウスPILRαおよびβのリガンドと相同性の高いヒト分子は存在せず、ヒトPILRのリガンドは不明であった。また、マウスにおいても上記論文で同定したリガンドの非発現細胞の中にPILR-Igに認識される細胞が存在することから、本発明者らは、未知のPILRリガンドが存在すると考えた。
【0008】
本発明は、上記従来の問題に鑑みたものであり、その目的は、PILRαと結合するポリペプチド、およびそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、並びにその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、PILRαと結合するポリペプチドを独自に見出し、本発明を完成するに至った。本発明は上記新規な知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
【0010】
(1) 下記(a)または(b)のいずれかであり、PILRαと結合するポリペプチド。
【0011】
(a)配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0012】
(b)配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0013】
(2) 配列番号2〜4のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0014】
(3) 上記(2)に記載のポリペプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0015】
(4) 下記(c)または(d)のいずれかであるポリヌクレオチド。
【0016】
(c)配列番号8〜10のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0017】
(d)下記(i)または(ii)のいずれかであるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつPILRαと結合するポリぺプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0018】
(i)配列番号8〜10のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0019】
(ii)配列番号8〜10のいずれか1つに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0020】
(5) 上記(3)または(4)に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【0021】
(6) 上記(3)または(4)に記載のポリヌクレオチドが発現可能に導入されてなる細胞。

(7) 上記(3)または(4)に記載のポリヌクレオチドを用いてPILRαに結合するタンパク質を生産する方法。
【0022】
(8) 上記(1)に記載のポリペプチド、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または当該ポリペプチドを発現する細胞を含むと共に、免疫細胞を活性化する、または免疫細胞の活性化を抑制する組成物。
【0023】
(9) 下記(e)または(f)のいずれかであるポリヌクレオチドを含み、免疫細胞を活性化する、または活性化を抑制する組成物。
【0024】
(e)配列番号7〜12のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0025】
(f)下記(iii)または(iv)のいずれかであるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつPILR−αと結合するポリぺプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0026】
(iii)配列番号7〜12のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0027】
(iv)配列番号7〜12のいずれか1つに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【発明の効果】
【0028】
配列番号1〜4のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または、下記(a)または(b)のいずれかであり、PILRαと結合するポリペプチド
(a)配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
は、PILRαに結合することができる。従って、上記ポリペプチドは、例えば免疫細胞を活性化する、または活性化を抑制することによって、免疫応答を調整する医薬品等に好適に利用される。
【0029】
なお、本発明には上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも含まれる。当該ポリヌクレオチドは、上記ポリペプチドの生産に利用可能であるだけでなく、上記ポリペプチドと同様に免疫応答を抑制する医薬品等に利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、PILRαのリガンドであるポリペプチド、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびその利用に関するものである。そこで、以下ではまず、本発明に係るポリペプチド、次いでそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、最後にその利用方法等について説明する。
【0031】
<1.ポリペプチド>
本発明は、配列番号1〜4のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。また、本発明は、下記(a)または(b)のいずれかであり、PILR−αと結合するポリペプチドを含む。
【0032】
(a)配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0033】
(b)配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0034】
下記実施例で述べるように、本発明者らは、配列番号1〜4のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを新たに同定した。また、配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが、PILRαと結合することを見出した。すなわち本発明者らは、配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが、PILRαのリガンドとして機能することを見出した。このPILRαは、ヒトまたはマウス由来であることが好ましいが、ヒト以外の哺乳類等、他の生物に由来し、免疫細胞の機能制御を有する分子であってもよい。なお、本発明には、配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体であって、PILRαと結合するポリペプチドも含まれる。
【0035】
また、本発明に係るポリペプチドは、ヒトまたはマウス由来であることが好ましいが、ヒト以外の哺乳類等、他の生物に由来し、免疫細胞の機能制御を有する分子のリガンドともなり得る。
【0036】
本発明に係るポリペプチドは、天然の細胞より精製された産物、化学合成の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0037】
上記「ポリペプチドの変異体」とは、「配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド」を指す。
【0038】
上記「1個もしくはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により置換、欠失、挿入、もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、最も好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されていることを意味する。このような変異ポリペプチドは、上述した公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0039】
変異体としては、欠失、挿入、逆転、反復、およびタイプ置換(例えば、親水性の残基の別の残基への置換、しかし通常は強く親水性の残基を強く疎水性の残基には置換しない)を含む変異体が挙げられる。特に、ポリペプチドにおける「中性」アミノ酸置換は、一般的にそのポリペプチドの活性にほとんど影響しない。
【0040】
ポリペプチド中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0041】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望の活性を有するか否かを容易に決定し得る。
【0042】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。
【0043】
また、本発明に係るポリペプチドは、後述する本発明に係るポリヌクレオチド(本発明に係るポリペプチドをコードする遺伝子)を宿主細胞に導入して、そのポリペプチドを細胞内発現させた状態であってもよいし、細胞、組織などから単離精製された場合であってもよい。また、本発明に係るポリペプチドは、化学合成されたものであってもよい。
【0044】
他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で組換え発現され得る。すなわち、上述した本発明に係るポリペプチドの末端、特にN末端側にタグ等のアミノ酸配列が付加されてなるポリペプチドも、本発明に含まれる。
【0045】
また、糖鎖修飾がタンパク質、特に細胞表面に発現するタンパク質の機能発現に重要な役割を果たすことが知られており、本発明のポリペプチドとしては、上述したポリペプチドが糖鎖修飾されたものも含まれる。
【0046】
<2.ポリヌクレオチド>
本発明に係るポリヌクレオチドとしては、まず、配列番号1〜4のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。当業者は、本明細書の記載、例えば配列番号1〜4の記載を見れば、上記ポリヌクレオチドを容易に作製することができる。
【0047】
上記ポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0048】
また、本発明には、下記の(a)または(b)のいずれかであるポリヌクレオチドも含まれる。
【0049】
(c)配列番号7〜10のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0050】
(d)以下の(i)または(ii)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつPILR−αと結合するポリぺプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド:
(i)配列番号7〜10のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0051】
(ii)配列番号7〜10のいずれか1つに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0052】
なお、配列番号7〜10に示される塩基配列は、それぞれ、配列番号1〜4に示されるポリペプチドをコードする。
【0053】
なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%以上の同一性、好ましくは少なくとも95%以上の同一性、最も好ましくは97%の同一性が配列間に存在する時にのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。
【0054】
上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、従来公知の条件を好適に用いることができ、特に限定しないが、例えば、42℃、6×SSPE、50%ホルムアミド、1%SDS、100μg/ml サケ精子DNA、5×デンハルト液(ただし、1×SSPE;0.18M 塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、pH7.7、1mM EDTA。5×デンハルト液;0.1% 牛血清アルブミン、0.1% フィコール、0.1% ポリビニルピロリドン)が挙げられる。
【0055】
また、本欄(d)に係るポリヌクレオチドとしては、その長さ等も特に限定されるものではなく、例えば配列番号7〜10に示される塩基配列のフラグメントであってもよい。
【0056】
上記フラグメントは、少なくとも12nt(ヌクレオチド)、好ましくは約15nt、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、なおより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは少なくとも約40ntの長さのフラグメントを指す。本明細書を参照すれば配列番号7〜10に示される塩基配列が提供されるので、当業者は,配列番号7〜10に基づくDNAフラグメントを容易に作製することができる。例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断または超音波による剪断は、種々のサイズのフラグメントを作製するために容易に使用され得る。あるいは、このようなフラグメントを化学的に合成することもできる。
【0057】
また、本欄(d)に係るポリヌクレオチドとしては、本欄(c)のポリヌクレオチドにおいて、1または数個の塩基が欠失、置換、または付加した変異体が挙げられる。変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的もしくは非保存的なアミノ酸欠失、置換、または付加を生成し得る。
【0058】
また、上述した本発明に係るポリヌクレオチドは全て、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0059】
<3.ベクター>
本発明には、上記<2>欄で述べた本発明に係るポリヌクレオチドを含むベクターが含まれる。すなわち、本発明に係るベクターとしては、配列番号1〜4のいずれか1つにしめされるポリペプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、上記(c)または(d)のいずれかであるポリヌクレオチドが挿入された組換え発現ベクターなどが挙げられる。組換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0060】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明に係るポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明に係るポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
【0061】
発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含んでもよい。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性、およびE.coliおよび他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。
【0062】
上記選択マーカーを用いれば、本発明に係るポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認することができる。本発明に係るポリペプチドを融合ポリペプチドとして発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光ポリペプチドGFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明に係るポリペプチドをGFP融合ポリペプチドとして発現させてもよい。
【0063】
上記の宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母 Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞、哺乳類由来の細胞等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。上記の宿主細胞のための適切な培養培地および条件は当分野で周知である。
【0064】
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、レトロウィルス法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0065】
このように、本発明に係るベクターは、少なくとも、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含めばよいといえる。すなわち、発現ベクター以外のベクターも、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
【0066】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法に存するのではない。したがって、上記以外のベクター種およびベクター作製方法を用いて取得したベクターも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0067】
<4.細胞>
本発明には、上記<2>欄に記載のポリヌクレオチドが発現可能に導入されてなる細胞も含まれる。この細胞は、上記<3>欄にて上述した発現ベクターが、同じく上述した宿主細胞に導入されてなる細胞であると換言することもできる。ベクターおよび宿主細胞としては既に述べた通りである。
【0068】
<5.ポリペプチドの生産方法>
本発明には、上記<2>欄に記載のポリヌクレオチドを用いて、PILRαに結合するタンパク質を生産する方法も含まれる。このポリペプチドの生産方法として、上記<2>欄に記載のポリヌクレオチドを用いる組換え発現系を採用することができる。組換え発現系を用いる場合、ポリペプチドの生産方法は、上記<4>欄に記載の細胞から、上記ポリペプチドを精製する方法であると換言することもできる。つまり、上記ポリペプチドの生産方法は、上記<3>欄に記載のベクターを宿主細胞に導入する工程を含んでもよい。ベクターおよび宿主細胞についての詳細は、上記<3>欄で述べた通りである。
【0069】
本発明に係るポリペプチドの生産方法は、上記ポリペプチドを含む細胞または組織の抽出液から上記ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。ポリペプチドを精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、免疫沈降、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために好適に用いられる。宿主細胞内で産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することも可能である。
【0070】
本発明に係る生産方法は、PILRαへの結合活性を有するポリペプチドを提供することを目的にしているのであって、上述した種々の工程以外の工程を包含する生産方法も、本発明に含まれることは言うまでもない。
【0071】
なお、上記<1>欄のポリペプチドは、組換え発現系を利用したこのような生産方法に限定されるものではなく、天然に発現する細胞または組織から当該ポリペプチドを精製することによって生産されるものであってもよい。精製方法としては、上述した種々の技術を利用することができる。また、本発明に係るポリペプチドは、化学合成によって生産されるものであってもよい。当業者は、本明細書中に記載される本発明に係るポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて周知の化学合成技術を適用すれば、本発明に係るポリペプチドを化学合成できることを、容易に理解する。すなわち、本発明に係るポリペプチドは、天然に存在する変異ポリペプチドであっても、人為的に作製された変異ポリペプチドであってもよい。
【0072】
<6.本発明に係る利用>
本発明には、上記(a)または(b)のいずれかであり、PILRαと結合するポリペプチド、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または当該ポリペプチドを発現する細胞を含むと共に、免疫細胞を活性化する、または活性化を抑制する組成物も含まれる。
【0073】
上記ポリペプチドは、免疫細胞の抑制化レセプターであるPILRαに結合することができるという特性を有する。それゆえ、この特性を利用することによって、本発明に係る組成物は、免疫細胞を活性化または活性化を抑制することができる。
【0074】
なお、ここで「免疫細胞を活性化する」とは、その機構等を限定されるものではなく、結果として免疫細胞が活性化されればよい。活性化する機構としては、上記ポリペプチドが、PILRαまたは免疫細胞の活性化を制御する他のレセプターに結合することによって、このレセプターを介して直接的に免疫細胞を活性化するものであってもよい。また、活性化の機構としては他に、上記ポリペプチドが、レセプターを介して免疫細胞の活性化を抑制したり不活性化したりする他のリガンドによる免疫細胞の不活性化を阻害し、間接的に免疫細胞を活性化させるものであってもよい。
【0075】
また、「免疫細胞の活性化を抑制する」とは、同じくその機構等を限定されるものではなく、結果として免疫細胞の活性化が抑制されればよい。活性化抑制の機構としては、免疫細胞のレセプターに結合することで、レセプターを介したシグナルによって直接免疫細胞の活性化を抑制するものであってもよい。また、免疫細胞を活性化させるリガンド−レセプターの相互作用を阻害することによって、間接的に免疫細胞の活性化を抑制するものであってもよい。
【0076】
このように、上記ポリペプチドは、アンタゴニストまたはアンタゴニストとして機能することによって、免疫細胞を活性化するか、または活性化を抑制するものであることが好ましい。
【0077】
なお、「免疫細胞の活性化」とは、上述したように、免疫細胞からのサイトカイン産生や細胞障害性が誘起されることを意味する。また、「免疫細胞の活性化の抑制」とは、免疫細胞を不活性化することであるとも、免疫細胞が活性化される条件下においても活性化が起こらないようにすることであるとも言い換えることができる。
【0078】
なお、上記組成物の活性化または活性化の抑制の対象となる免疫細胞は、その由来となる生物種等、特に限定されるものではなく、上記ポリペプチドによって、活性化されるか、活性化が抑制される免疫細胞であれば、ヒト、またはその他の哺乳類由来であってもよい。また、当該組成物の対象となる器官、組織等も特に限定されるものではない。
【0079】
また、上記組成物は、免疫細胞の活性を調節することによって、免疫応答を増強または抑制することができる。これは、個々の免疫細胞の活性化および活性化の抑制が、それぞれ、免疫応答の増強および抑制のどちらの方向にも作用し得るためである。例えば、免疫応答を抑制する機能を有する免疫細胞(抑制化サイトカインを産生する細胞等)について、該免疫細胞の活性化を上記組成物によって抑制すると、免疫応答全体は増強される。逆に、免疫応答を活性化する機能を有する免疫細胞について、該免疫細胞の活性化を上記組成物によって抑制すると、免疫応答全体は抑制される。
【0080】
また、上記組成物において、上述した以外の構成、すなわちポリペプチド、ポリヌクレオチド、および細胞の含有量、形状、製造方法等は、特に限定されない。
【0081】
なお、上記組成物中に含まれる細胞は、組換え体であってもよく、組換え体でない細胞、すなわち外来遺伝子が導入されていない細胞であってもよい。また、組成物中に含まれるポリヌクレオチドは、ベクターに挿入された状態で含まれていてもよい。ベクターとしては、上記<3>欄で述べた通り、好適な従来公知のベクターを利用することができる。また、本発明の組成物において、これらポリペプチド、ポリヌクレオチド、および細胞は、単独でも、適宜組み合わせて用いてもよい。
【0082】
上記組成物は、その精製物を生体に投与することで、生体内の免疫細胞の活性化が抑制され、免疫反応を抑制することができる。すなわち、上記組成物は医薬品として利用可能である。上記組成物は、その免疫細胞を活性化するか、または活性化を抑制する効果を発揮することができれば、投与方法、他の組成、対象となる生物等は特に限定されない。投与方法としては注射等の非経口投与が好ましい。
【0083】
上記ポリペプチドを含む組成物を、例えば、生体の或る箇所に注射等によって投与すると、組成物中のポリペプチドが、当該箇所で免疫細胞のPILRαに会合するので、目的の箇所で免疫細胞の機能を制御することができる。また、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組成物を生体内に投与すると、組成物中のポリヌクレオチドが生体内で発現し、本発明に係るポリペプチドを生成するので、上記ポリペプチドを含む組成物と同様の効果を奏する。このとき、組成物中のポリヌクレオチドは、細胞内で発現可能であることが好ましい。また、上記ポリペプチドを発現する細胞を投与しても、同様の効果を得られる。
【0084】
以上のように、本発明に係る組成物は、免疫細胞の機能を制御することによって、免疫応答を制御する医薬品として利用され、特に、樹状細胞、マクロファージ、マスト細胞の活性化を抑制する医薬品として好適に利用される。
【0085】
また、本発明の組成物に含まれるポリヌクレオチドは、下記(e)または(f)のいずれかであってもよい。
【0086】
(e)配列番号7〜12のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0087】
(f)下記(iii)または(iv)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつPILR−αと結合するポリぺプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0088】
(iii)配列番号7〜12のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0089】
(iv)配列番号7〜12のいずれか1つに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0090】
また、本発明の組成物中に含まれる細胞としては、上記<4>欄に記載の細胞を用いることができる。細胞としては他に、上記(e)または(f)のいずれかであるポリヌクレオチドが発現可能に導入されてなる細胞を用いることができる。
【0091】
以下、実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0093】
なお、以下の説明において特に言及しない操作は、従来公知の技術を用いた。また、試薬および機器は、添付の取扱説明書に沿って使用した。また、以下の実施例で用いた細胞は、特に言及しない限り、10%のFCSを含むRPMI1640培地で培養した。
【0094】
A.実施例1:B16メラノーマにおけるPILRαリガンド(PILR-L2)のクローニングおよび解析
B16メラノーマ(ヒト由来の細胞)より、PILR-Igによって認識される分子をクローニングした。詳細は以下の通りである。
【0095】
(A−1)可溶型ヒトPILRα(ヒトPILRα-Ig)および可溶型マウスPILRα(マウスPILRα-Ig)の作製
非特許文献1に記載のヒトPILRαの細胞外領域(アミノ酸 20番〜196番)と、ヒトIgG-Fc領域とのキメラ分子の発現プラスミドを作製し、COS7細胞に導入した。3日後、培養上清を採取し、この上清を可溶型のヒトPILRα(以下、ヒトPILRα-Igと称する)として以下の操作に用いた。
【0096】
また、マウスPILRαの細胞外領域(アミノ酸 29番〜200番)とヒトIgG-Fc領域とのキメラ分子を同様にして作製し、可溶型のマウスPILRα(以下、マウスPILRα-Igと称する)として以下の操作に用いた。
【0097】
(A−2)cDNAライブラリーの作製およびPILRαによって認識されるクローンの探索
B16メラノーマのcDNAライブラリーを文献(Arase et al. J. Immunol. 167:1141 2001, Shiratori et al. J. Exp. Med 199:525 2004)に記載した方法で作成した。具体的にはB16メラノーマ細胞よりmRNAを採取し、cDNAをcDNA合成キット(Invitrogen)を用いて作製した。そのSalI-NotI断片をpMx-SalIレトロウィルスライブラリーに導入することにより1x106のクローンからなるcDNAライブラリーを作製した。次に、cDNAライブラリーをパッケージング細胞に遺伝子導入し、その培養上精をBa/F3細胞と混合することによりcDNAライブラリーをBa/F3に導入した。cDNAライブラリーを導入したBa/F3をPILR-IgとPE標識抗ヒトIgG(Jackson laboratory社)を用いて、PE陽性細胞をフローサイトメトリーで採取した。
【0098】
その結果、マウスPILRα-Igによって認識される一つのクローンが得られた。このマウスcDNAクローンに高い相同性を示すヒトcDNAは、配列番号1に示される276アミノ酸残基をコードする、831bpのORF(配列番号7)を含んでいた。配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを以下、hPILR-L2と称する。
【0099】
(A−3)ベクターの構築
PILR-L2をコードするポリヌクレオチド(配列番号7)を含むレトロウィルスベクターpMx-PILR-L2を作製した。すなわち、上記ORFを、レトロウィルスベクターであるpMxのEcoRI-NotI部位に挿入した。
【0100】
(A−4)細胞へのベクターの導入
pMx-PILR-L2を、パッケージング細胞に、Lipofectamine plus(Invitrogen社製)を用いて遺伝子導入した。導入してから3日後に、培養液の上清を採取した。この上清に1/100量のDOTAP(N-[1-(2,3-Dioleoyloxy)])-N,N,N-trimethylammonium propane methylsulfate)を混ぜた。この混合液を標的細胞(Ba/F3細胞)の培養液に加えることによって、標的細胞への遺伝子導入を行った。得られた細胞をBa/F3-L2とする。
【0101】
(A−5)PILRαリガンド発現細胞の解析
Ba/F3-L2について、遺伝子導入から2日後、以下の操作を行い、フローサイトメトリーにて解析した。
【0102】
2×105の形質転換細胞に、50μLのヒトPILRa-Igを加えて放置した。30分後、細胞をHANKS 0.1% BSA溶液で2回洗い、2次抗体として、PE標識されたanti-human IgG Fc抗体(Jackson laboratory社)を加えて放置した。30分後、HANKS 0.1% BSA溶液で2回洗い、フローサイトメトリーで解析した。結果を図1に実線で示す。
【0103】
なお、コントロールとして、ヒトPILRa-Igの代わりにCD200-Igを用いた以外は同様の実験を行った。結果を図1に点線で示す。CD200-IgとはCD200分子の細胞外領域と、ヒトIgG-Fc領域とのキメラ分子である。
【0104】
なお、以下の説明における図1〜5は、フローサイトメトリーの結果を示すヒストグラムであり、横軸が蛍光強度、縦軸がそれぞれの蛍光強度における細胞数を示す。
【0105】
B.比較例1
比較例1として、pMx-PILR-L2の代わりにインサートを持たない空のpMxベクターを用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、細胞Ba/F3-Mockを得た。このBa/F3-Mockについて、実施例1と同様の操作により、フローサイトメトリーによる解析を行った。結果を図3に示す。
【0106】
C.実施例2:ヒト721細胞におけるPILRリガンド(CD23)のクローニングおよび解析
リガンドの探索の対象となる細胞を、マウスB16メラノーマからヒト721.221細胞に替え、ヒトPILRa-Igを用いた以外は、上記(A−2)と同様の操作を行い、新規のPILRリガンドを得た。このPILRリガンドをCD23とする。CD23のアミノ酸配列を配列番号2に、塩基配列を配列番号8に示す。
【0107】
このCD23について、上記(A−3)と同様の操作を行い、配列番号8に示される配列が挿入されたベクターpMx-CD23を作製した。上記(A−4)と同様の操作によって、pMx-CD23をBa/F3細胞に導入し、細胞Ba/F3-CD23を得た。この細胞Ba/F3-CD23をBa/F3-L2の代わりに用いた以外は、上記(A−5)と同様の操作を行い、フローサイトメトリーによる解析を行った。結果を図2に示す。
【0108】
(A〜Cにおけるフローサイトメトリーの結果)
図1より、実施例1では、PILR-L2遺伝子を導入することによって、Ba/F3細胞がPILRa-Igによって強く認識されるようになったことが分かる。また、図3より、実施例2では、CD23遺伝子を導入することによって、Ba/F3細胞がヒトPILRa-Igによって強く認識されるようになったことが分かる。
【0109】
一方、図3より、比較例1では、ヒトPILRa-Igは空ベクターを導入したBa/F3細胞に対して、コントロールとほぼ同じ程度の結合量しか示さなかった。
【0110】
以上のことから、PILR-L2およびCD23が、PILRのリガンドとして機能することが分かった。
【0111】
D.実施例3・4:ヒト末梢血T細胞におけるPILRリガンドのクローニングおよび解析
(D−1)免疫沈降によるPILRリガンド(CD6、CD45)の探索
本発明者らは、ヒト末梢血T細胞を解析した結果、この細胞がPILR-L2およびCD23を発現していないのにもかかわらず、PILRによって認識されることを見出した(データ不図示)。
【0112】
そこで、PILRによって認識される分子を明らかにするために、ヒト末梢血T細胞を可溶化し、ヒトPILRa-Igに会合する分子を免疫沈降によって精製した。具体的には、ヒト末梢血T細胞を回収し、1% Briji97を含有する可溶化剤を加えることにより可溶化した。この可溶化試料にヒトPILRa-Igを結合させたProtein A Sepharoseビーズを加えることによって、ヒトPILRa-Igに会合する分子を精製し、精製物とした。
【0113】
この精製物をSDS-PAGEで電気泳動し、ヒトPILRa-Igに特異的に会合するタンパク質をゲルから切り出した。このタンパク質を質量分析によって同定したところ、それぞれ配列表3および5に示すアミノ酸配列を有していた。それぞれのタンパク質をCD6(実施例3)、CD45(実施例4)とする。
【0114】
こうして得られたCD6、CD45について、そのアミノ酸配列より、それぞれをコードする塩基配列を予想した。この塩基配列を配列番号9および11にそれぞれ示す。
【0115】
(D−2)CD45およびCD6の解析
PILR-L2の代わりに、ヒトCD6遺伝子(配列番号9)またはマウスCD45遺伝子(配列番号12)をpMxベクターに挿入した以外は、上記(A−3)と同様の操作を行って、ベクターpMx-CD6およびpMx-CD45を得た。
【0116】
これらベクターをLipofectamine plusを用いて293T細胞に導入し、細胞293T-CD6および293T-CD45を得た。遺伝子導入から2日後、上記(A−5)と同様の操作を行ってフローサイトメトリーによる解析を行った。
【0117】
(フローサイトメトリーの結果)
細胞293T-CD6(実施例3)および293T-CD45(実施例4)の解析結果を、それぞれ図4・5に示す。図4・5に示すように、ヒトCD6遺伝子またはマウスCD45遺伝子を導入することによって、293T細胞がヒトおよびマウスPILRa-Igに強く認識されるようになった。なお、293T細胞に導入したベクターを空ベクターpMxとした以外は同様の操作を行ったが、この場合、293T細胞はPILRa-Igに認識されなかった(データ不図示)。
【0118】
(免疫沈降)
さらに、PILRαがヒトおよびマウスのCD45を認識することを、免疫沈降によって確認した。まず、CD45を強発現しているヒト抹消血T細胞およびマウス脾臓T細胞を可溶化した。そして、この可溶化細胞試料(ヒト、マウス)に対して、それぞれ、ヒトPILRα-IgまたはマウスPILRα-Igによる免疫沈降を行った。この免疫沈降によって得られた沈降物をSDS-PAGEで電気泳動し、その後、抗マウスCD45抗体および抗ヒトCD45抗体(anti-CD45Ab)によるWestern Blotを行った。その結果、沈降物は抗CD45抗体で特異的に認識された(図8)。なお、図8中に、用いた可溶化細胞試料をそれぞれ「ヒト」または「マウス」と記し、免疫沈降に用いたコントロール用Igを「C」、PILRα-Igを「P」と記す。
【0119】
E.実施例5:PILRリガンドを介したNK細胞の活性化抑制
(E−1)細胞への遺伝子導入
上記(A−4)と同様の手法を用いて、ヒトNK細胞株であるNKL細胞に、インサートとしてPILRaが挿入されたpMxベクター(pMx-PILRa)導入した。こうして遺伝子導入された細胞をNKL-PILRaとする。なお、pMx-PILRaは、pMxのBamH1-NotI部位にPILRaの1−303までが挿入されてなる。
【0120】
一方、コントロールとして、インサートが挿入されていない空のpMxベクターを同様の操作によってNKL細胞に導入した。この細胞をNKL-Mockとする。
【0121】
また、Ba/F3細胞の代わりにULBP陽性Ba/F3細胞を用いた以外は、上記(A−4)と同様の操作を行って、ULBP陽性Ba/F3細胞にpMx-PILR-L2を導入した。この細胞をULBP-Ba/F3-L2とする。
【0122】
なお、ULBPは、NK細胞の活性化レセプターの一つであるNKG2Dによって認識され、NK細胞を活性化する。つまり、ULBP陽性細胞は、NK細胞の活性化を促進し、NK細胞の細胞障害性を誘起する。
【0123】
(E−2)細胞障害アッセイ
上記(E−1)で得られたULBP-Ba/F3-L2に対するNKL細胞(NKL-PILRaまたはNKL-Mock)の細胞障害性を、Cr51遊離細胞障害アッセイにて解析した。
【0124】
Cr51遊離細胞障害アッセイは、通常一般に行われる方法を用いた。具体的には、標的細胞をCr51で標識後、1x104個の標的細胞と図に示す種々の細胞数のエフェクター細胞(NKL細胞)とを4時間培養し、培養上精中の51Crの量をマイクロベーターシンチレーションカウンターで計測した。
【0125】
NKL-Mockを用いたアッセイ結果を図6に、NKL-PILRaを用いたアッセイ結果を図7に示す。
【0126】
F.比較例2
インサートが挿入されていない空のpMxベクターを、用いた以外は実施例5と同様の操作を行い、ULBP陽性Ba/F3細胞に導入した。この細胞をULBP-Ba/F3-Mockとする。このULBP-Ba/F3-Mockについて、実施例5と同様に51Cr遊離細胞障害アッセイを行った。結果を実施例5と同じく図6・7に示す。
【0127】
(E・FのCr51遊離細胞障害アッセイの結果)
図6・7において、縦軸は細胞障害性を示し、横軸はEffector(NKL細胞:NKL-PILRaまたはNKL-Mock)の細胞数/Target(Ba/F3細胞:ULBP-Ba/F3-L2またはULBP-Ba/F3-Mock)の細胞数の比率を示す。なお、細胞障害性とは、全標的細胞に対する死細胞の比率を意味する。
【0128】
図6・7に示すように、NKL-PILRaとULBP-Ba/F3-L2(実施例5)との組み合わせ(図7の実線)で、細胞障害性が著しく抑制された。すなわち、PILR-L2は、PILRに特異的に作用することで、NK細胞の活性化を抑制する機能を有することが明らかとなった。
【0129】
上記実験はNK細胞の活性化を例にとりPILRの抑制効果を示したが、抑制効果はPILRを発現しているすべての免疫細胞に認められると考えられる。従って、本発明のPILRリガンドは、PILRを発現しているすべての免疫細胞の活性化を制御するのに利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明に係るポリヌクレオチドは、免疫応答を制御する医薬品、特に、自己免疫疾患の治療薬等、免疫応答を抑制するための医薬品に好適に利用することができる。そのため、本発明に係るポリペプチドおよびそれに付加する糖鎖を含めた構造は、非常に有望な産業上の利用可能性を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の実施例1に係るBa/F3-L2を、フローサイトメトリーによって解析した結果を示すヒストグラムである。
【図2】本発明の実施例2に係るBa/F3-CD23を、フローサイトメトリーによって解析した結果を示すヒストグラムである。
【図3】比較例1に係るBa/F3-Mockを、フローサイトメトリーによって解析した結果を示すヒストグラムである。
【図4】本発明の実施例3に係る293T-CD6を、フローサイトメトリーによって解析した結果を示すヒストグラムである。
【図5】本発明の実施例4に係る293T-CD45を、フローサイトメトリーによって解析した結果を示すヒストグラムである。
【図6】本発明の実施例5に係るULBP-Ba/F3-L2、および、比較例2に係るLBP-Ba/F3-Mockについての、NKL-Mockを用いたCr51遊離細胞障害アッセイの結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例5に係るULBP-Ba/F3-L2、および、比較例2に係るLBP-Ba/F3-Mockについての、NKL-PILRaを用いたCr51遊離細胞障害アッセイの結果を示すグラフである。
【図8】可溶化細胞試料(ヒト、マウス)中の、PILRαとの共沈物を抗マウスCD45抗体(anti-CD45Ab)によるWestern Blotに供した結果を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)または(b)のいずれかであり、PILRαと結合することを特徴とするポリペプチド。
(a)配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1〜6のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項2】
配列番号2〜4のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなることを特徴とするポリペプチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリペプチドをコードする塩基配列からなることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項4】
下記(c)または(d)のいずれかであることを特徴とするポリヌクレオチド。
(c)配列番号8〜10のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(d)下記(i)または(ii)のいずれかであるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつPILRαと結合するポリぺプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(i)配列番号8〜10のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(ii)配列番号8〜10のいずれか1つに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項3または4に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。
【請求項6】
請求項3または4に記載のポリヌクレオチドが発現可能に導入されてなることを特徴とする細胞。
【請求項7】
請求項3または4に記載のポリヌクレオチドを用いてPILRαに結合するタンパク質を生産する方法。
【請求項8】
請求項1に記載のポリペプチド、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または当該ポリペプチドを発現する細胞を含むと共に、免疫細胞を活性化する、または免疫細胞の活性化を抑制することを特徴とする組成物。
【請求項9】
下記(e)または(f)のいずれかであるポリヌクレオチドを含み、免疫細胞を活性化する、または免疫細胞の活性化を抑制することを特徴とする組成物。
(e)配列番号7〜12のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(f)下記(iii)または(iv)のいずれかであるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつPILR−αと結合するポリぺプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(iii)配列番号7〜12のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(iv)配列番号7〜12のいずれか1つに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−131151(P2009−131151A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52750(P2006−52750)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】