説明

PTFE封止要素およびそれを伴うシャフト封止アセンブリの製造方法

PTFE封止要素およびそれを伴う回転式シャフト封止アセンブリの製造方法を提供する。この方法は、PTFE封止要素、および電極を中に有する真空チャンバを設けるステップを含む。次に、PTFE封止要素を一方の電極上に置くステップ、チャンバにおいて真空圧を引くステップ、チャンバ内に第1の処理ガスを導入するステップを含む。さらに、高周波信号を電極に対して与えるステップ、放電プラズマを生成するステップ、PTFE封止要素の表面を放電プラズマでエッチングおよび化学修飾するステップを含む。次いで、真空チャンバ内を第2の処理ガスで一掃するステップ、真空チャンバを大気圧に回復させるステップを含む。その後、封止要素をすすぐステップ、接着促進剤をエッチングおよび化学修飾された表面に適用するステップを含む。最後に、PTFE封止要素とキャリアとの間においてエラストマー材料を成形することによりPTFE封止要素のエッチングおよび化学修飾された表面をキャリアに取付けるステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.技術分野
この発明は一般的に回転式シャフト封止に関し、より特定的には、PTFE封止要素およびそれを伴う回転式シャフト封止アセンブリの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術
回転式シャフト封止アセンブリは、回転するシャフトに対して低摩擦封止を確立するためのPTFE封止要素を組込むとして知られている。これらの封止アセンブリを製造する際において理解されている課題は、PTFE封止要素と封止アセンブリの付近の基板との間における信頼性の高い接合を確立することである。PTFEの特性は、潤滑性があり、典型的には、それと付近の基板との間において信頼性の高い接合を形成することを困難にする。PTFE封止アセンブリを製造する1つの公知の方法においては、PTFE封止要素をまずPTFEビレットから機械加工し、次いで、そのPTFE封止要素を、さらに、二次作業において「湿式化学」プロセスを用いてPTFE封止要素の表面をエッチングおよび化学修飾することにより処理する。化学修飾されたPTFE要素は、次いで、封止アセンブリの基板に成形される。このプロセスは、PTFE要素と付近の封止アセンブリ基板との間における接合を達成することにおいて効果的であることがわかっているが、PTFE要素を化学修飾するよう用いられる湿式化学プロセスを考慮すると、潜在的に危険である。湿式化学プロセスが潜在的に危険であることに加えて、それは、多くの供給業者によっては実施されてはおらず、したがって、そのプロセスを実行することができる可能性のある供給源の数は限られる。したがって、湿式化学プロセスが、潜在的に危険であり、かつ限られた供給業者によってのみ供給されるという状態では、このプロセスに関連付けられるコストは典型的には高くなる。したがって、PTFE封止アセンブリの総製造コストは増大する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
この発明の1つの現在好ましい局面に従うと、回転式シャフト封止アセンブリのPTFE封止要素の製造方法が提供される。この方法は、PTFE封止要素を提供するステップと、電極を中に有する真空チャンバを設けるステップと、PTFE封止要素の一表面を電極の一方上に置くステップとを含む。次いで、真空チャンバにおいて真空圧を引くステップと、真空チャンバ内に第1の選択された処理ガスを導入するステップとを含む。さらに、高周波信号を電極に対して予め定められた時間期間の間与え、放電プラズマを電極間の処理ガスから生成するステップを含み、放電プラズマは、電極に接するPTFE封止要素の一表面の少なくとも一部をエッチングおよび化学修飾する。次いで、真空チャンバ内を第2の選択された処理ガスで一掃し、真空チャンバを大気圧に回復させるステップを含む。その後、封止要素の一表面をすすぎ溶液中においてすすぐステップと、接着促進剤をすすいだ表面に適用するステップとを含む。
【0004】
この発明の別の局面に従うと、回転式シャフト封止アセンブリを製造する方法が提供される。この方法は、剛性の環状キャリアと、対向する第1の表面および第2の表面を有するPTFE封止要素と、電極を中に有する真空チャンバとを設けるステップを含む。次に、PTFE封止要素の第1の表面を電極の一方上に置くステップと、真空チャンバにおいて真空圧を引くステップと、真空チャンバ内に第1の選択された処理ガスを導入するステップとを含む。さらに、高周波信号を電極に対して予め定められた時間期間の間与え、放電プラズマを電極間の処理ガスから生成するステップを含み、放電プラズマは、第1の表面と対向しないPTFE封止要素の第2の表面の少なくとも一部をエッチングおよび化学修飾する。次いで、真空チャンバ内を第2の選択された処理ガスで一掃し、真空チャンバを大気圧に回復させるステップを含む。その後、封止要素の第2の表面をすすぎ溶液中においてすすぐステップと、接着促進剤をすすいだ表面に適用するステップとを含む。最後に、キャリアとすすいだ表面との間においてエラストマーを成形することにより、すすいだ表面をキャリアに取付けるステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】この発明の1つの現在好ましい局面に従って構成される回転式シャフト封止アセンブリの部分断面図である。
【図2】図1の封止アセンブリのPTFE封止要素の平面図である。
【図3】この発明の1つの現在好ましい局面に従うプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
現在好ましい実施例の詳細な記載
この発明のこれら並びに他の局面、特徴および利点は、現在好ましい実施例並びにベストモードの以下の詳細な説明、特許請求の範囲および添付の図面と関連して考慮された場合により容易に理解されることになる。
【0007】
より詳細に図面を参照して、図1は、この発明の1つの現在好ましい局面に従って構成される回転式シャフト封止アセンブリ10を示す。アセンブリ10は剛性の環状キャリア12を有し、それは、好ましくは、鋼などの金属から製造され、たとえば軌道輪またはハウジング(図示せず)などのような機械構成要素に対する取付用に構成される。キャリア12は任意の好適な態様で構成され得ることが理解される。アセンブリ10は、さらに、それに対して成形プロセスまたは好適な接着剤によって取付けられる環状エラストマー14と、エラストマー14に取付けられる環状PTFE封止要素16とを有する。PTFE封止要素16は、キャリア12から径方向に内方向に延在して、封止要素16に対して回転するシャフト20との動的な封止係合のための封止リップ18を与える。
【0008】
この発明の1つの局面に従い、および図3に示されるように、PTFE封止要素16は、所望の直径を有する管状ビレットなどのようなPTFEビレットから所望の幅の円板を切断することにより形成される。この切断動作は、任意の好適な切断機構を用いて実行され得る。したがって、円板は、好ましくは、切断で、仕上がった封止要素16のおおよそのサイズおよび形状をとる。したがって、封止要素16に対しては、円板は、互いに面さない対向する平坦な側部を有する対称の環状円板である。円板は、任意の所望のサイズおよび形状を有して形成され得ることが理解されるべきである。
【0009】
次いで、PTFE円板は、さらに、それらを好適にサイズ決めされた真空チャンバに配置することによって処理される。この真空チャンバは、1対または複数対の、互いから間隔をおかれた電極を有し、電極の一方は、好ましくは、円板が上に置かれる支持体またはキャリアとして設けられる。支持電極は、たとえばスクリーンなどのような金属ワイヤのメッシュとして構成され得る。メッシュのサイズは、電極に対する特性を与えるよう所望のように変更され得る。円板は、対称である場合には、その表面または側部のいずれかが支持電極と係合する状態で置かれ得、非対称である場合には、所望の面または側部が支持電極と係合する状態で置かれ得る。
【0010】
PTFEの円板を真空チャンバ内の支持電極上に置くと、処理は、真空チャンバ内において真空圧を引くことによって続く。真空圧は、好ましくは、約1mbarまで引かれる。
【0011】
次に、水素、酸素、アルゴン、アンモニア、ヘリウム、窒素または水蒸気などのような第1の選択された処理ガスを真空チャンバ内に導入することによって、処理が続く。第1の処理ガスがチャンバ内に導入されると、たとえば約40kHz、13,56MHzまたは2.45GHzなどのような高周波信号を所定の時間期間の間電極に与え、放電プラズマを電極間の処理ガスから生成することによって、処理が続く。高周波信号は好ましくは約10〜60分間の間与えられるが、この時間期間は、PTFE円板のサイズ並びに所望される表面のエッチングおよび化学修飾によって、異なることが考えられる。放電プラズマは、図1および図2において概ね22で示されるように、プラズマに晒されるPTFE円板の部分をエッチングおよび化学修飾することによって、PTFE円板の表面を変性させる。したがって、ワイヤメッシュと接するPTFE円板の部分または円板の第1の側部は、対向する第2の側部がエッチングされる程にはエッチングされないが、そのエッチングはその適用例に対しては十分なものである。
【0012】
このプロセスの次のステップは、真空チャンバ内を、窒素などのような第2の選択された処理ガスで一掃すること、および真空チャンバを大気圧に回復させることを含む。
【0013】
真空チャンバ内が一掃されると、処理は、次いで、円板のエッチングおよび化学修飾された表面をすすぐことを伴う。このすすぎは、浴槽または噴霧プロセスにおいて、すすぎ溶液が希釈した酢酸などのような穏やかな酸性溶液として提供される状態で行なわれ得る。
【0014】
すすぎステップの後、このプロセスは、好ましくは、接着促進剤を、エッチングされ化学修飾された表面に適用することを含む。この接着促進剤は、シランまたはフェノール接着剤として提供され得る。接着促進剤は、噴霧プロセスまたは任意の他の好適なプロセスにおいて適用され得る。
【0015】
最後に、封止要素をキャリアに取付ける。この封止要素は、優先的にエッチングされ化学修飾された表面がキャリアに面する状態で向き付けられ、次いで、エラストマーをキャリアと封止要素のエッチングおよび化学修飾された表面との間において成形する。成形プロセスは、たとえば、射出成形プロセスなどのようなエラストマーの成形の際に用いられる典型的な成形プロセスを含む。したがって、封止要素をキャリアに取付ける取付プロセスは腐食性の化学薬品または他の潜在的に有害なプロセスを用いることを必要としない。
【0016】
明らかに、この発明の数多くの修正および変形が上記の教示に照らして可能である。したがって、特許請求の範囲内において、この発明は具体的に記載される以外の他の態様で実施されてもよいことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式シャフト封止アセンブリのPTFE封止要素の製造方法であって、
対向する第1の表面および第2の表面を有するPTFE封止要素を提供するステップと、
電極を中に有する真空チャンバを設けるステップと、
前記PTFE封止要素の前記第1の表面を前記電極の一方上に置くステップと、
前記真空チャンバにおいて真空圧を引くステップと、
前記真空チャンバ内に第1の選択された処理ガスを導入するステップと、
高周波信号を前記電極に対して予め定められた時間期間の間与え、放電プラズマを前記電極間の前記処理ガスから生成するステップとを含み、前記放電プラズマは、前記PTFE封止要素の前記第2の表面をエッチングおよび化学修飾し、前記方法はさらに、
前記真空チャンバ内を第2の選択された処理ガスで一掃し、前記真空チャンバを大気圧に回復させるステップと、
前記第2の表面をすすぎ溶液中においてすすぐステップと、
接着促進剤を前記第2の表面に適用するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記接着促進剤のためにシランまたはフェノール接着剤を用いるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記すすぎ溶液のために酸性溶液を用いるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の選択された処理ガスを、水素、酸素、アルゴン、アンモニア、ヘリウム、窒素および水蒸気からなる群から提供するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の選択された処理ガスを窒素として与えるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ワイヤメッシュトレイを前記電極の前記一方として用いるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記高周波信号を前記電極に対して約10〜60分間の間与えるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
回転式シャフト封止アセンブリを製造する方法であって、
剛性の環状キャリアを設けるステップと、
対向する第1の表面および第2の表面を有する環状PTFE封止要素を提供するステップと、
電極を中に有する真空チャンバを設けるステップと、
前記PTFE封止要素の前記第1の表面を前記電極の一方上に置くステップと、
前記真空チャンバにおいて真空圧を引くステップと、
前記真空チャンバ内に第1の選択された処理ガスを導入するステップと、
高周波信号を前記電極に対して予め定められた時間期間の間与え、放電プラズマを前記電極間の前記処理ガスから生成するステップとを含み、前記放電プラズマは、前記PTFE封止要素の前記第2の表面の少なくとも一部をエッチングおよび化学修飾し、前記方法はさらに、
前記真空チャンバ内を第2の選択された処理ガスで一掃し、前記真空チャンバを大気圧に回復させるステップと、
前記第2の表面をすすぐステップと、
接着促進剤を前記第2の表面に適用するステップと、
前記第2の表面と前記キャリアとの間においてエラストマーを成形することにより前記第2の表面を前記キャリアに取付けるステップとを含む、方法。
【請求項9】
前記すすぎ溶液のために酸性溶液を用いるステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記接着促進剤のためにシランを用いるステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の選択された処理ガスを、水素、酸素、アルゴン、アンモニア、ヘリウム、窒素および水蒸気からなる群から提供するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の選択された処理ガスを窒素として与えるステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ワイヤメッシュトレイを前記電極の前記一方として用いるステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記高周波信号を前記電極に対して約10〜60分間の間与えるステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−518145(P2012−518145A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551123(P2011−551123)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/023735
【国際公開番号】WO2010/096311
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(599058372)フェデラル−モーグル コーポレイション (234)
【Fターム(参考)】