RE123系酸化物超電導体とその製造方法
【課題】超電導特性を安定して備え、単芯又は多芯線材の素線として使用し得る長尺のRE123系酸化物超電導体、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料の混合原料を用いて形成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層、及び、該導電層を保持する保持部材からなることを特徴とするRE123系酸化物超電導体。但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【解決手段】少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料の混合原料を用いて形成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層、及び、該導電層を保持する保持部材からなることを特徴とするRE123系酸化物超電導体。但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RE123系酸化物超電導体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Bi系及びY系の酸化物超電導体材料は、Nb3Sn等の金属超電導体材料に比べ、臨界温度(Tc)が高いので、電磁石用や、送電用の線材としての応用が大いに期待されている。
【0003】
Bi系の酸化物超電導体材料は、既に実用化の段階にある(特許文献1、参照)が、c軸に平行に磁界を印加した場合、77K(液体窒素による冷却温度)での不可逆磁界(Birr)が0.5T以下と低いので、線材化しても、その用途は限られてしまう。
【0004】
一方、REBa2Cu3O7-δ系酸化物を主体とした超電導体(以下「RE123系酸化物超電導体」という)材料は、Bi系の酸化物超電導体材料に比べ、臨界電流密度(Jc)及び不可逆磁界(Birr)が高いので、強磁場用の線材や、高圧送電用ケーブルの素線として大いに期待されている。
【0005】
しかし、RE123系酸化物超電導体材料の場合、(i)溶融成長法で配向結晶を得ることができるが、熱処理温度が1000℃以上と高く、従来、線材作製に用いているAgシース材(Agの融点:約960℃)を使用できないし、また、(ii)圧延等の機械的手法では結晶が配向せずかつ粒界結合が弱く、高い電流密度が得られない等の理由で、Bi系の線材のように、Agシース材を用い、PIT法(Powder in Tube Method)で線材化しても、所望の電流特性が得られなかった(非特許文献1、参照)。
【0006】
そこで、金属基材を用いて線材化する方法として、金属基材の上に配向性の中間層を設け、その上に、配向性の超電導膜を形成する塗布熱分解法や、物理蒸着法等が開発された(特許文献2、非特許文献2、参照)。しかし、これらの方法は、成膜速度が遅く、量産性の点で課題を抱えている。
【0007】
このように、優れた超電導特性(高い臨界電流密度と高い不可逆磁界)を安定して備える長尺のRE123系酸化物超電導線材、又は、線材用の基礎材となるRE123系酸化物超電導体の開発においては、解決すべき課題がいまなお多く残っているが、上記RE123系酸化物超電導線材の開発は、強磁場用の線材や高圧送電用ケーブルの素線としての利用の観点だけでなく、省資源・エネルギーの観点からもメリットは極めて大きく、現在、日米欧の三極において、超電導特性を高めるとともに、多芯化にも容易に対応できるRE123系酸化物超電導線材を量産する技術の開発競争が激しく繰り広げられている。
【0008】
【特許文献1】特開平3−138820号公報
【特許文献2】特開平11−504767号公報
【非特許文献1】Jpn.J.Appl.Phys. Vol.26,No.5(1987)pp.L865〜L866
【非特許文献2】Adv. Superconductivity VI (1994) pp.749-754
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた超電導特性(高い臨界電流密度と高い不可逆磁界)を有するRE123系酸化物超電導線材を開発することのメリットを踏まえ、液体窒素温度において優れた超電導特性を安定して備え、単芯又は多芯線材の素線として使用し得る長尺のRE123系酸化物超電導体、及び、該超電導体を量産できる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願人は、特願2004−217594号にて、RE123系酸化物超電導体を作製する新規な作製方法(UING法)を提案した。この方法によれば、従来の溶融成長法における熱処理温度よりも低い温度で、RE123系酸化物超電導体(バルク体)を作製することができる。
【0011】
そこで、本発明者は、熱処理温度が低温化することに注目し、RE−Ba−O系成分(固相成分)とBa−Cu−O系成分(液相となる成分[以下単に「液相成分」という])の反応を、示差熱分析法を用い、より低温域まで詳細に調査した。
【0012】
その結果、RE−Ba−O系成分(固相成分)とBa−Cu−O系成分(液相成分)の混合系において、液相の介在下でRE123系酸化物超電導体の生成が可能であること、及び、より低温で、結晶配向性に優れ、かつ、超電導特性に優れたRE123系酸化物超電導体を作製できる、新規な固相−液相反応を見出した。
【0013】
図1に、従来法と上記固相−液相反応に係る示差熱分析曲線を模式的に示す。図1(a)に、従来法に従い、REBa2Cu3O7-δ粉末を加熱、昇温した時の熱分析曲線を示す。高温域の曲線に下向きピーク(吸熱ピーク)P’が存在するが、これは、REBa2Cu3O7-δ粉末が溶解して吸熱したことを示している。この溶解・吸熱温度は、REのイオン半径の増大とともに高温化するが、通常、1000℃前後である。
【0014】
一方、図1(b)に、RE2BaO4(固相成分、図中、RE210と表示)とBax−Cuy−Oz系原料(液相成分、図中、Ba−Cu−Oと表示)を混合し、加熱、昇温した時の熱分析曲線を示す。
【0015】
温度が上昇する過程で2つの吸熱ピークP1及びP2が現れるが、高温から急冷した試料のX線回折データと照合すると、次のことが判明した。
【0016】
(w)吸熱ピークP1は、吸熱ピークが現れ始める温度、即ち、吸熱反応が起こり始める温度(以下「P1温度」という。)で、Bax−Cuy−Oz系原料(液相成分)が溶解し始め、P1温度以上で、液相を介しRE123系酸化物(図中、123相と表示)が生成することを示している。
【0017】
(x)吸熱ピークP2は、吸熱ピークが現れ始める温度、即ち、吸熱反応が起こり始める温度(以下「P2温度」という。)で、生成した上記RE123系酸化物(図中、123相と表示)が分解、溶融し始めることを示している。
【0018】
そして、さらに、図1(b)中に、P1温度とP2温度の間の温度領域に対応させて、「(Z)高配向多結晶」領域として示すように、
(y)上記温度領域における固相−液相反応により、結晶配向性に優れ、かつ、超電導特性が均一の板状のRE123系酸化物超電導体が生成する、
ことが判明した。
【0019】
このように、本発明者は、RE2BaO4(固相成分)とBax−Cuy−Oz系原料(液相成分)の混合系の反応に係る示差熱分析により、上記(w)、(x)、及び、(y)で特徴付けられ、UING法とは、RE123系酸化物の生成過程の点で異なる、新規な固相−液相反応を見出した。
【0020】
そして、本発明は、上記新規な固相−液相反応を根幹とするものである。
【0021】
なお、図1(b)に示すように、P1温度より低温側では、固相−固相反応で、無配向のRE123系酸化物が生成し、また、P2温度より高温側では、RE123相が溶解するので、種結晶を用いる溶融成長法(溶融後徐冷等により結晶を作製する方法)により、配向性の高いRE123系酸化物を結晶成長させることができる。
【0022】
次に、本発明者は、図1(b)に示す固相−液相反応における吸熱ピークP1に着目し、P1温度(低温液相生成温度)を、より低温側に、例えば、Agの融点(約960℃)以下の温度まで下げることができれば、RE123系酸化物超電導線材の量産を阻む理由の一つの「溶融成長法における熱処理温度(RE123系酸化物の溶融温度)が1000℃以上と高く、従来、線材作製に用いているAgシース材(Agの融点:約960℃)を使用できない」を解消できるとの発想に至り、P1温度に影響を及ぼす要因とその影響について鋭意調査した。
【0023】
その結果、本発明者は、本発明の根幹をなす新規な固相−液相反応において、
(z1)原料粉の粒径を小さくする、
(z2)反応雰囲気の酸素分圧を低くする、及び、
(z3)原料粉に所要量のAgを添加する
ことのいずれか一つ、又は、二つ以上により、図1(b)中、P1温度を、Agの融点(約960℃)以下の温度まで下げることができることを見出した。
【0024】
これらの知見は、本発明の基礎をなす知見であるので、後で詳細に説明する。
【0025】
即ち、本発明者は、図1(b)中、P1温度とP2温度の間の温度領域であって、Agの融点(約960℃)以下の温度領域においては、RE2BaO4(固相)とBax−Cuy−Oz系原料(液相)を反応させ、Ag基材上に、結晶配向性と超電導特性に優れた板状のRE123系酸化物超電導体を作製できることを見出した。
【0026】
また、本発明者は、上記固相−液相反応でAg管等の基材に一体化して生成したRE123系酸化物超電導体を線材化できること、さらに、多芯構造の線材をも製造できることの可能性を確認した。
【0027】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は、以下のとおりである。
【0028】
(1)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料の混合原料を用いて形成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層、及び、該導電層を保持する保持部材からなることを特徴とするRE123系酸化物超電導体。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【0029】
(2)前記Bax−Cuy−Oz系原料が、金属酸化物、及び/又は、その化合物を混合したものであることを特徴とする前記(1)に記載のRE123系酸化物超電導体。
【0030】
(3)前記x、y、zが、2x≦y≦2.2x、及び、z=x+yを満たすことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のRE123系酸化物超電導体。
【0031】
(4)前記混合原料が、15質量%以下のAg又はAg酸化物を含有するものであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体。
【0032】
(5)前記REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体が、非超電導相を分散して含むものであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体。
【0033】
(6)前記保持部材が、長尺のものであって、長手方向に垂直な断面において、導電層と一部で又は全周にわたり接触していることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体。
【0034】
(7)前記保持部材が、金属材料で構成されたものであることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体。
【0035】
(8)前記金属材料が、化学的に活性な液相と反応せず、かつ、酸素を透過する金属材料であることを特徴とする前記(7)に記載のRE123系酸化物超電導体。
【0036】
(9)前記金属材料が、化学的に活性な液相と反応しない材料を含む中間層で被覆されていることを特徴とする前記(7)又は(8)に記載のRE123系酸化物超電導体。
【0037】
(10)(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【0038】
(11)(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、(b)1回又は2回以上の減面加工を施し、その後、(c)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【0039】
(12)前記(b)及び(c)の処理を繰り返して、より結晶配向性の優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とする前記(11)に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0040】
(13)(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱しつつ、1回又は2回以上の減面加工を施し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【0041】
(14)前記(b)を繰り返して、より結晶配向性の優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とする前記(13)に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0042】
(15)前記REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する際、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度への加熱に続き、該温度より低い温度に加熱する熱処理を1回以上行うことを特徴とする前記(10)〜(14)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0043】
(16)前記混合原料の粒径を1μm未満に細粒化し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化すことを特徴とする前記(10)〜(15)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0044】
(17)前記酸素を含む雰囲気の酸素分圧を0.02MPa以下に低減し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化することを特徴とする前記(10)〜(16)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0045】
(18)前記混合原料に15質量%以下のAg又はAg酸化物を添加し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化することを特徴とする前記(10)〜(17)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0046】
(19)前記RE123系酸化物超電導体を、10MPa以上の等方圧力で加圧処理した後、加熱処理することを特徴とする前記(11)〜(18)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0047】
(20)前記RE123系酸化物超電導体を、0.5MPa以上の等方圧力下で加熱処理することを特徴とする前記(11)〜(18)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、優れた超電導特性を安定して備え、単芯又は多芯線材の素線として使用し得る長尺のRE123系酸化物超電導体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
1)固相−液相反応
まず、本発明の根幹をなす固相(RE2BaO4)−液相(Bax−Cuy−Oz系原料)反応について説明する。なお、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素である。
【0050】
本発明者は、まず、図1(b)中、P1温度に影響を及ぼす要因について調査した。
【0051】
その結果、主に、(z1)原料粉の粒度、(z2)反応雰囲気の酸素分圧、及び、(z3)原料粉へのAg添加が、P1温度に影響することが判明した。
【0052】
図2に、各種混合原料を加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す。
【0053】
図2中(a)に示す熱分析曲線は、粒径1〜5μmの原料粉(Er2BaO4粉末とBax−Cuy−Oz系粉末)をEr123系酸化物が得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した原料粉(Ag入り無粉砕原料粉)を、1%の酸素を含有するアルゴン雰囲気(1%O2−Ar)中で加熱し昇温した時の熱分析曲線である。
【0054】
また、図2中(b)に示す熱分析曲線は、上記Ag入り無粉砕原料粉をボールミルで約4時間粉砕した粒径約0.1μmの原料粉(Ag入り粉砕原料粉)を、1%O2−Ar中で加熱し昇温した時の熱分析曲線である。
【0055】
上記2つの熱分析曲線のそれぞれに存在する2つの吸熱ピークP1及びP2は、図1(b)で示す吸熱ピークP1及びP2に、それぞれ対応するものである。そして、Ag入り無粉砕原料粉の熱分析曲線におけるP1温度は、約860℃であり(図2(a)、参照)、Ag入り粉砕原料粉の熱分析曲線におけるP1温度は、約840℃である(図2(b)、参照)。このことから、混合原料粉の粒度を小さくすれば、P1温度が低下することが解る。
【0056】
即ち、原料粉の粒度を適宜選択、設定することにより、Bax−Cuy−Oz系原料(液相)が溶解し始めて、RE123系酸化物を生成する固相−液相反応が起こり始める温度、即ち、P1温度を適宜調整することができる。
【0057】
また、図2中(c)に示す熱分析曲線は、上記Ag入り無粉砕原料粉を、大気中で加熱し昇温した時の熱分析曲線である。この熱分析曲線におけるP1温度は、約890℃である。
【0058】
そして、図2中(a)に示す熱分析曲線(Ag入り無粉砕原料粉を1%O2−Ar中で加熱)と、図2中(c)に示す熱分析曲線(同じく、Ag入り無粉砕原料粉を大気中で加熱)との対比から明らかなように、原料粉の粒径が同じ場合、反応雰囲気中の酸素分圧を小さくする(大気→1%O2)と、P1温度は、890℃から860℃へ低下する。
【0059】
また、図2中(d)に示す熱分析曲線は、粒径1〜5μmの原料粉(Er2BaO4粉末とBax−Cuy−Oz系粉末)をEr123系酸化物が得られる混合比で混合した原料粉(Agを含有しないので、以下「Ag無し無粉砕原料粉」という)を、大気中で加熱し昇温した時の熱分析曲線である。この熱分析曲線におけるP1温度は、約920℃である。
【0060】
図2中(c)に示す熱分析曲線(Ag入り無粉砕原料粉を大気中で加熱、P1温度:約890℃)と、図2中(d)に示す熱分析曲線(Ag無し無粉砕原料粉を大気中で加熱、P1温度:約920℃)との対比から明らかなように、Agの添加で、P1温度は、920℃から890℃へと低下する。
【0061】
図3に、以上のP1温度の低温化に係る知見をまとめて模式的に示す。図3から明らかなように、(z1)原料粉の粒径を小さくする、(z2)反応雰囲気の酸素分圧を低くする、及び、(z3)原料粉に所要量のAgを添加することのいずれか一つ、又は、二つ以上により、P1温度を、相加して下げる(P1温度の低温化)ことができる。この知見が、本発明の基礎をなす知見である。
【0062】
上述したように、P1温度の低温化においては、上記(z1)、(z2)、及び/又は、(z3)を適宜選択して、P1温度を所要の温度に調整し設定できるので、基材は、特定の融点を有するものに限定されない。
【0063】
本発明のRE123系酸化物超電導体の生成においては、種々の基材を用い得るが、該基材の中から、P1温度と基材融点で区画される固相−液相反応領域(図3、参照)における結晶配向性の高低や適否を考慮して適切な基材を選択する。
【0064】
即ち、本発明においては、選択した基材の融点との関係で、上記(z1)、(z2)、及び/又は、(z3)を適宜選択して、P1温度を所要の温度に設定してもよいし、また、上記(z1)、(z2)、及び/又は、(z3)を適宜選択して調整、設定したP1温度との関係で、所要の融点を有する基材を選択してもよい。
【0065】
そこで、本発明者は、基材としてMgO基板を用い、その上にRE123系酸化物超電導体層を形成し、その結晶配向性及び超電導特性を調査した。以下に、その一調査結果を説明する。
【0066】
2)MgO基板上での超電導体の形成
MgOの融点は、1600℃以上であり、P1温度及びP2温度よりはるかに高温側に位置するので、MgO基板は、図1(b)中の「(Z)高配向多結晶」で形成される多結晶の配向性を評価する際の基板に適している。
【0067】
粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末をErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、MgO基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱した。
【0068】
図4に、上記加熱で得られた生成物のX線回折強度を示す。図4中に、ミラー指数(00n)の強度が強く現れているので、MgO基板上には、c軸が基板面に垂直に配向した結晶組織を有するErBa2Cu3O7-δが形成されている。
【0069】
図5に、上記ErBa2Cu3O7-δを、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率300の顕微鏡写真)を示す。この図から、MgO基板上には、10〜100μm程度の板状の結晶が隙間なく繋がった結晶組織を有するErBa2Cu3O7-δが形成されていることが解る。
【0070】
このように、図4及び図5に示すように、本発明の固相−液相反応により、MgO基板上には、c軸が基板面に垂直に配向し、a−b面が基板面に平行な結晶組織を有する板状のErBa2Cu3O7-δが形成されている。
【0071】
そして、上記ErBa2Cu3O7-δを超電導体化するために、300〜700℃で酸素付加処理をし、該ErBa2Cu3O7-δが、オンセット臨界温度(Tc)約90Kの超電導体であることを確認した。
【0072】
また、図6に、Ag3質量%を含有する粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末を、ErBa2Cu3O7-δと非超電導相Er2BaCuO5(以下「Er211相」という)が生成するEr過剰な混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、MgO基板上に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱して得た生成物を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率2000の顕微鏡写真)を示す。
【0073】
この図から、MgO基板上には、上記板状のErBa2Cu3O7-δ系酸化物の結晶が隙間なく繋がり、かつ、該結晶の他に、数μm程度の大きさの針状のEr211相微粒子(電子線マイクロアナライザーで確認した)が存在する結晶組織を有するErBa2Cu3O7-δが形成されていることが解る。
【0074】
超電導体(バルク体)中に存在する非超電導相RE2BaCuO5(以下「RE211相」という)は、超電導体中に侵入した磁力線をピン止めし、電流特性を著しく高める作用をなすものであり、粒状のものより針状のものが、ピン止め効果の点でより優れていることが知られているが、この作用は、MgO基板上に形成された板状のRE123系酸化物結晶中に分散して存在する上記RE211相(非超電導相)にも当然に期待できる。
【0075】
したがって、本発明の固相−液相反応によれば、MgO基板の上に、c軸が基板面に垂直に配向し、a−b面が基板面に平行で、RE211相(非超電導相)微粒子が分散した結晶組織を有し、結晶配向性と電流特性に優れた板状のRE123系酸化物超電導体を安定して形成できる。
【0076】
さらに、本発明者は、Gd2BaO4粉末と、Bax−Cuy−Oz系粉末を混合した原料粉を用いて、Agを添加していない場合でも、MgO基板に、前述のErBa2Cu3O7-δの場合と同様に、結晶配向性に優れた板状のGdBa2Cu3O7-δを安定に形成できることを確認した。
【0077】
このように、本発明者は、本発明の固相−液相反応によれば、MgO基板に、c軸が基板面に垂直に配向し、a−b面が基板面に平行な結晶組織からなる“結晶配向性と電流特性”に優れた板状のRE123系酸化物超電導体、また、上記結晶組織中にRE211相(非超電導相)微粒子を分散して含む結晶組織からなる結晶配向性に優れた板状のRE123系酸化物超電導体を安定して形成できることを確認した。
【0078】
3)Ag基板上での超電導体の形成
RE123系酸化物超電導体を線材化する場合、金属基材上に、RE123系酸化物超電導体を含む導電層を形成することが不可欠である。
【0079】
そこで、本発明者は、PIT法等で汎用するAg基材にも、本発明の固相−液相反応を用いて、結晶配向性に優れたRE123系酸化物超電導体を形成できることを確認するため、MgO基板をAg基板に替え、Ag基板にRE123系酸化物を形成し、該酸化物の結晶配向性と超電導特性を調査した。以下に、その一調査結果を説明する。
【0080】
(1)粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末を、ErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)をAg基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱した。
【0081】
そして、上記加熱後、該加熱で得られた生成物に、300〜700℃で、酸素付加処理を施した。
【0082】
図7に、上記加熱で得られた生成物のX線回折強度を示す。図7に示すように、ミラー指数(00n)の強度が強く現れているので、Ag基板上には、c軸が基板面に垂直に配向したErBa2Cu3O7-δが生成している。
【0083】
また、図8に、上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率2000の顕微鏡写真)を示す。図8から、Ag基板上には、10μm程度の板状の結晶が隙間なく繋がった結晶組織を有するErBa2Cu3O7-δが形成されていることが解る。
【0084】
このように、図7及び図8から、Ag基板上には、c軸が基板面に垂直に配向し、a−b面が基板面に平行な結晶組織を有する板状のErBa2Cu3O7-δが形成されていることを確認できる。
【0085】
ここで、上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)に、300〜700℃で酸素付加処理を施した後の“帯磁率の温度依存性”及び“臨界電流密度の磁場依存性”を、それぞれ、図9及び図10に示す。
【0086】
図9によれば、上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)は、オンセット臨界温度(Tc)約90K以上の超電導体である。即ち、Ag基板上には、配向結晶の核となる種結晶を用いなくても、c軸が基板面に垂直に配向し、a−b面が基板面に平行な板状のErBa2Cu3O7-δ超電導体が形成されている。
【0087】
そして、図10によれば、上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)は、2Tの磁場中においても、0.5×104A/cm2程度の電流が流れており、不可逆磁界(Birr)が高いものである(なお、Bi系超電導材料の不可逆磁界(Birr)は0.5T以下である)。
【0088】
このように、本発明者は、本発明の固相−液相反応において、本発明者が見出した知見に従い、吸熱反応が開始するP1温度を、Ag基材の融点(約960℃)以下の温度にまで低温化することができ、その結果、Ag基板の上に、結晶配向性と電流特性に優れた板状のRE123系酸化物超電導体を安定して形成できるとの知見を得るに至った。
【0089】
そして、上記知見は、従来、PIT法による線材化に不適とされていたRE123系酸化物超電導体をPIT法で線材化できるとの可能性を予見するものであり、RE123系酸化物超電導体の線材化を実現する上で重要な知見である。
【0090】
(2)粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末を、ErBa2Cu3O7-δとEr211相が生成するEr過剰な混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、Ag基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱した。
【0091】
上記加熱で得られた生成物に係るX線回折強度とSEM写真により、該生成物が、Er211相(非超電導相)微粒子が分散した結晶組織を有するErBa2Cu3O7-δであることを確認した。
【0092】
上記Er211相(非超電導相)微粒子は、前述したように、超電導体中に侵入した磁力線をピン止めする作用をなすものであるので、上記Er211相(非超電導相)微粒子が存在する上記生成物の電流特性は、より優れていると推測される。
【0093】
(3)以上、Ag基板上で、結晶配向性に優れたRE123系酸化物超電導体を形成することについて説明したが、該超電導体の形成において、従来にない特異な点は、結晶の配向方位を支配する外的圧力等を結晶に加えていないにもかかわらず、図7及び図8に示すように、RE123系酸化物の結晶のc軸が、Ag基板上で、基板面に対し垂直に配向していることである。
【0094】
単に、RE2BaO4粉末(固相成分)とBax−Cuy−Oz系粉末(液相成分)の固相−液相反応により、結晶配向性のないAg基板上にRE123系酸化物の結晶が生成するのであれば、特定の結晶軸がAg基板面に対し配向することは考え難いが、Ag基板上で上記固相−液相反応が起きる場合においては、該固相−液相反応に加え、Ag(固相)とBa−Cu−O系液相との反応も起き、その結果、Ag界面に、Agが溶け込んだ液相膜が形成され、この液相膜が、上記固相−液相反応で生成するRE123系酸化物の結晶の配向に大きく関与していると考えられる。
【0095】
即ち、図11に示すように、上記固相−液相反応によるRE123系酸化物の結晶の生成と、Ag基板界面に生成して存在する液相との相乗作用により、Agの融点以下の温度において、Ag基板上に、RE123系酸化物の結晶が、板状にかつ配向して生成すると同時に成長する。
【0096】
上記相乗作用の詳細についてはまだ明らかでないが、該相乗作用により、例えば、次の(A1)〜(A3)の何れかの結晶成長が進行しているものと考えられる。
【0097】
(A1)板状に成長した結晶の幾何学的に安定なa−b面が、Ag界面で生じた液相上において、基板面上に平行に配向する。
【0098】
(A2)Ag界面に生じた液相がフラックスの作用をなし,該液相の表面で、結晶生成が起きて、液相面上で2次元的に成長する。
【0099】
(A3)Ag界面における液相の生成は、Ag表面上に限定されるので、結晶が成長できる方向は、2次元方向に限定されてしまい、a−b面の成長が、基板面(2次元)方向に限定されて配向する。
【0100】
しかし、いずれにしても、結晶成長に際し、結晶の配向を図る外的圧力等を加えなくても、本発明の固相−液相反応により、Ag基板上に、c軸がAg基板面に対し垂直に配向した結晶からなるRE123系酸化物超電導体を形成できるとの知見も、本発明者が新たに見出した知見である。
【0101】
そして、Ag基板上におけるRE123系酸化物超電導体の生成は、本質的には、Ag上で起きる固相−液相反応によるものであるから、本発明の固相−液相反応を用いれば、長尺のAg基材上にも、同様に、結晶配向性と電流特性に優れたRE123系酸化物超電導体を形成できる。
【0102】
この場合、結晶配向性のないAg基材に替えて、圧延等の加工により2軸配向性を付与したAg基材を用いれば、配向したRE123系酸化物結晶の生成は、より容易になる。
【0103】
さらに、長尺のAg基材は、Bi系超電導酸化物の線材化、及び、多芯線材化に汎用されている基材であるから、本発明のRE123系酸化物超電導体は、長尺のAg基材を用いたPIT法により、単芯又は多芯の線材作製に適したものである。
【0104】
4)本発明の特徴的要件
ここで、本発明を構成する特徴的要件について説明する。
(1)まず、本発明のRE123系酸化物超電導体(本発明超電導体)を構成する特徴的要件について説明する。
【0105】
本発明超電導体においては、保持部材に、少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を用いて生成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層が形成されている。
【0106】
ここで、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素であり、所望の結晶配向性や超電導特性を考慮して選択される。
【0107】
Bax−Cuy−Oz系原料は、金属酸化物及び/又はその化合物(例えば、BaCuO2、CuO)を、所要の混合比で混合したものである。この混合原料に、15質量%以下のAg又はAg酸化物を添加してもよい。Ag又はAg酸化物の添加は、P1温度を、より低温化する点で好ましい。
【0108】
Ba、Cu、Oの混合比(x、y、z)は、RE123系酸化物の組成、特性、組織等を考慮して、適宜、選択できるが、CuOがAg基板に僅かではあるが固溶すること、また、必要に応じ、適切量のRE211相(非超電導相)をRE123系酸化物結晶内に分散して生成させること等を考慮すれば、
2x≦y≦2.2x 及び z=x+y
を満たす範囲で選択することが好ましい。
【0109】
即ち、RE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料の混合比、及び/又は、Ba、Cu、Oの混合比(x、y、z)を適宜選択することにより、非超電導相(RE211相)が分散したRE123系酸化物超電導体を生成させることができる。
【0110】
非超電導相は、超電導体中に侵入した磁力線を捕捉して固定(ピン止め)する機能を有するので、超電導電流の磁場依存性を改善する上で重要な存在である。
【0111】
REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層は、導電層の特性を維持するため、保護層又は安定化層で被覆されたものでもよい。
【0112】
導電層を保持する保持部材は、結晶配向促進層、歪緩衝層、拡散防止層、電流漏洩防止層等、超電導特性の向上に資する機能を有する中間層で被覆されたものでもよい。
【0113】
中間層は、上記機能を発揮するため、金属酸化物(例えば、MgO)、複合酸化物、電気抵抗の高い金属酸化物又は複合酸化物で構成することが好ましい。
【0114】
例示したMgOの基板上には、前述したように、結晶配向性の優れたRE123系酸化物超電導体が形成されるので、MgOは、結晶配向性を高める中間層を構成する材料として好適なものである。
【0115】
保持部材は、特定の形状のものに限定されないし、また、保持部材が導電層を保持する態様も、特定の態様に限定されない。例えば、保持部材が長尺なものである場合、長手方向に垂直な断面において、一部分で導電層と接触して導電層を保持してもよいし、また、全周にわたり導電層と接触して導電層を保持してもよい。
【0116】
長尺の保持部材として、管状又は帯状の部材を使用することができる。管状部材としては、円環状閉断面又は偏平矩形状閉断面を有する管状部材が好ましい。
【0117】
また、減面加工を施して超電導体を線材化することを考慮すれば、保持部材は、金属材料で構成したものが好ましく、金属材料としては、
(i)固相−液相反応で生じる化学的に活性な液相と反応しない、及び、
(ii)超電導特性を高める酸素付加処理で酸素を透過する
の2条件を満たすものが好ましい。
【0118】
そして、Ag又はAg基材料が、上記2条件を満たす金属材料として最も好ましい。
【0119】
また、保持部材は、少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料と直接接触する部材面を、Ag又はAg基材料で被覆した複合金属材料で構成してもよい。さらに、保持部材は、予め所要の加工を施し、部材の長手方向に、表面組織の配向性を付与した部材でもよい。
【0120】
(2)次に、本発明超電導体の製造方法の特徴的要件について説明する。
【0121】
本発明超電導体の製造方法においては、
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する。
【0122】
なお、REは、前述したように、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素である。
【0123】
本発明の固相−液相反応により、REBa2Cu3O7-δ酸化物を生成するために、保持部材に付着させた混合原料を、酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱する。
【0124】
図1(b)に示すように、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解と同時に、RE2BaO4との反応が始まるので、REBa2Cu3O7-δ酸化物を生成する加熱温度の下限は、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度、即ち,吸熱ピークP1のP1温度と規定した。
【0125】
Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度(P1温度)は、前記(z1)、(z2)、及び/又は、(z3)を適宜採用することにより低温化することができる。例えば、(z1’)混合原料の粒径を1μm未満に細粒化する、(z2’)酸素を含む雰囲気の酸素分圧を0.02MPa以下に低減する、(z3’)混合原料に15質量%以下のAg又はAg酸化物を添加する等の手段を一つ又は適宜組み合せて、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化することが好ましい。
【0126】
上記溶解温度は、Bax−Cuy−Oz系原料の組成にも依存するので、特定の温度に特定できず、また、特定する必要はないが、x、y、zを、2x≦y≦2.2x、及び、z=x+yを満たす範囲で選択した場合に定まる溶解温度が、金属材料で構成した保持部材の表面で本発明の固相−液相反応を推進する上で好ましい。
【0127】
なお、図1(b)から明らかなように、加熱温度が、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度未満であると、反応は固相−固相反応となり、配向したREBa2Cu3O7-δ酸化物は得られない。
【0128】
加熱温度の上限は、保持部材の融点以下であればよい。加熱温度が、REBa2Cu3O7-δ酸化物の融点を超えている場合は、加熱後、徐冷等により、結晶化を、REBa2Cu3O7-δ酸化物の融点以下で行えばよい。
【0129】
本発明では、前述したように、P1温度は、前記(z1)、(z2)、及び/又は、(z3)を適宜採用することにより低温化するので、保持部材の融点も、特定の温度範囲に限定する必要はない。ただし、保持部材の融点は、P1温度以上でなければならない。
【0130】
また、本発明超電導体の製造方法においては、
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)1回又は2回以上の減面加工を施し、その後、
(c)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する。
【0131】
この製造方法においては、本発明の固相−液相反応によりREBa2Cu3O7-δ酸化物の配向結晶を形成する前に、1回又は2回以上の減面加工を施し、上記混合原料の一部と、保持部材の接触面積を増大させる。この点が特徴である。
【0132】
そして、上記(b)及び(c)の処理を繰り返して行うことにより、結晶配向性と電流特性がより向上した長尺のRE123系酸化物電導体を製造することができる。
【0133】
また、本発明超電導体の製造方法においては、
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱しつつ、1回又は2回以上の減面加工を施し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する。
【0134】
このように、本発明超電導体の製造方法においては、加熱と減面加工を同時に行ってもよい。この同時の加熱・減面加工により、結晶配向性と電流特性が優れた長尺のRE123系超電導体を製造することができる。
【0135】
また、上記(b)の処理を繰り返して行うことにより、結晶配向性と電流特性がより向上した長尺のRE123系酸化物電導体を製造することができる。
【0136】
さらに前記REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する際、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度への加熱に続き、該温度より低い温度に加熱する熱処理を1回以上行ってもよい。
【0137】
本発明においては、固相(RE2BaO4)−液相(Bax−Cuy−Oz系原料)反応によりREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成するが、この時、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度(P1温度)以上の温度(P温度)への加熱により液相を生成せしめた後、続いて、該溶解温度以上の温度(P温度)より低い温度(P’温度)に保持して熱処理を行う。
【0138】
上記熱処理により、非超電導相の生成反応を抑制し、保持部材の面上に結晶配向性に優れた導電層を形成することができる。また、熱処理温度(P’温度)を適宜選択することにより、生成するREBa2Cu3O7-δ系酸化物の結晶成長を制御することができるので、結晶の大きさを適宜制御することが可能となり、保持部材の面上に、より結晶配向性に優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物からなる導電層を形成することができる。
【0139】
上記熱処理は、導電層の特性安定化と向上のため、一回に限らず、複数回行ってもよい。上記熱処理を複数回行う場合の温度(P’温度)は、出発混合原料を加熱した温度、即ち、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度(P1温度)以上の温度(P温度)より低い温度であればよく、特定の温度に限定されない。なお、P’温度が、P1温度以下の温度であれば、非超電導相の生成抑制及び123相の板状結晶の生成制御の点で好ましい。
【0140】
上記熱処理により、結晶配向性が向上する理由は、次のように推察される。
【0141】
CuOを多く含む液相を用いて、RE123結晶を作製する場合、該結晶は、c軸方向に薄い板状結晶に成長することが知られている(「J. Wojcik, M. Rosochowska, H. Niculescu, A. Pajaczkowska, J. Cryst. Growth 91[3] (1988) 255-260」、参照。この研究論文は、「CuOリッチな液相組成(Y:Ba:Cu=1:4:10)から、c軸方向に薄い板状のY123結晶が得られた」ことを報告している。)。
【0142】
本発明の場合、Bax−Cuy−Oz系原料を、該原料の溶解温度(P1温度)以上の温度(P温度)へ加熱して液相を生成する熱処理(第1段熱処理)を長時間行うと、RE2BaCuO5固相(211相)の割合が増加することが確認された。
【0143】
このことから、第1段熱処理を長時間行うと、固相(RE2BaO4)の一部がRE2BaCuO5固相に変化し、液相組成が、(3BaO+6CuO)からCuOの少ない(3BaO+5CuO)へと変化してしまうことが想定されるが、この液相組成の変化が生じると、生成する結晶はブロック状となり易く、結晶配向性は低下し、かつ、RE2BaCuO5固相(211相)等の非超電導相が超電導相中に残留する量が増加すると考えられる。
【0144】
一方、第1段熱処理を、RE2BaCuO5固相(211相)の割合が増加しない、即ち、生成した液相の組成が変化しない短時間の内に終了し、続いて、第1段熱処理温度(P温度)より低い温度で、次の熱処理(第2段熱処理)を数時間、適宜行い、RE123結晶を成長させた場合、CuOリッチな液相を維持したまま、RE123の結晶を生成することになるので、板状の結晶がより生成し易くなり、より結晶配向性に優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物からなる導電層を形成できると考えられる。
【0145】
ここで、図12に、第1段熱処理を925℃、8分行い、次いで、第2段熱処理を875℃、2時間行って生成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物のX線回折図を示す。図7に示すX線回折図と比較すると、図12においては、30度近辺で、BaCuO2相を示すピークがなく、かつ、123相の(00L)強度が強く現れている。また、(003)と(005)の間にある面指数を付していない強度ピークは、123相の(103)の強度ピークである。
【0146】
即ち、図7と図12の対比から、「Bax−Cuy−Oz系原料を、該原料の溶解温度(P1温度)以上の温度(P温度)へ加熱して液相を生成する第1段熱処理を、液相組成が変化しない短時間の内に終了し、続いて、P温度より低い温度で第2段熱処理を数時間、適宜行ってRE123結晶を成長させた場合、よりc軸配向性に優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物の結晶が生成することが解る。
【0147】
なお、第1段熱処理を925℃、8分行い、次いで、第2段熱処理を850℃、又は、825℃で2時間行った場合には、c軸配向を示す(00L)以外のピーク強度が増加し、著しくc軸配向性が低下することが判明した。このことは、第2段階の熱処理温度は、比較的第1熱処理に近い温度に設定することが好ましいことを示唆している。
【0148】
以上、段落[0136]〜[0147]に記載した技術的知見は、本発明者が、新たに見出した知見であり、本発明の基礎をなす知見である。
【0149】
また、本発明超電導体の製造方法で製造したRE123系酸化物超電導体を、10MPa以上の等方圧力で加圧処理した後、加熱処理してもよい。この処理は、結晶をより緻密化する点で好ましい。
【0150】
さらに、本発明超電導体の製造方法で製造したRE123系酸化物超電導体を、0.5MPa以上の等方圧力下において加熱処理してもよい。この熱処理も、結晶をより緻密化する点で好ましい。
【0151】
そして、本発明超電導体の製造方法で製造したRE123系酸化物超電導体には、通常のRE123系酸化物超電導体と同様に、300〜700℃で酸素付加処理を施す。この酸素付加処理により、より超電導特性の優れたRE123系酸化物超電導体を得ることができる。
【実施例】
【0152】
以下、本発明の実施例について説明するが、実施例で採用した条件は、本発明の実施可能性又は再現性を実証するために採用した一条件例であり、本発明、この一条件例に限定されるものではない。
【0153】
本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0154】
(実施例1)
粒径約0.05μmの混合原料(1〜5μmのEr2BaO4粉とBax−Cuy−Oz系原料[BaCuO2+CuO]を、ErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて2質量%のAgを添加した後、10時間粉砕)をAg基板上に付着させ、1%酸素を含むアルゴン雰囲気中で、900℃、3時間加熱し、ErBa2Cu3O7-δ超電導体を形成した。
【0155】
得られたErBa2Cu3O7-δ超電導体に係るX線回折強度測定及び結晶表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、Ag基板の全面に、低温で、結晶配向性の優れたErBa2Cu3O7-δ超電導体が、安定して形成されていることを確認できた。
【0156】
このことは、混合原料の粒径を1μm未満に細粒化することで、低温での結晶配向が充分に可能であることを示している。
【0157】
また、得られたErBa2Cu3O7-δ超電導体に、酸素気流中にて、600℃から400℃まで200時間かけて酸素付加処理を施した後、超電導量子干渉型磁束計(SQUID)で、超電導特性の評価を行った。その結果、オンセットTcは約90Kであり、77Kでの臨界電流密度は2.0×104A/cm2以上であった。
【0158】
(実施例2)
実施例1で用いた混合原料と同様の混合原料を、6mmのペレット状に一軸成型し、内径6mm、外径10mmのAg管に詰めた後、減面加工を施し、幅3mm、厚み1mmの帯状線材に加工した。
【0159】
その後、上記帯状線材に、大気中、920℃にて熱処理を施し、次いで、該線材から、100mm長さの線材試料を切り取り、酸素気流中、700℃から400℃まで200時間かけて徐冷をして酸素を導入した。
【0160】
この線材試料の臨界電流特性を4端子法にて測定したところ、臨界電流密度が880A/cm2であった。
【0161】
(実施例3)
粒径約0.1μmの混合原料(1〜5μmのEr2BaO4粉とBax−Cuy−Oz系原料[BaCuO2+CuO]を、ErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて4質量%のAgを添加した後、4時間粉砕)を、内径6mm、外径12mm、長さ20cmのAgパイプに充填し、0.3mmの板厚に減面加工して平板状Agシース線材材料とした。
【0162】
上記材料を、1%酸素を含むアルゴン雰囲気中で、925℃、8分間加熱し、続いて、(a)875℃、(b)850℃、(c)825℃、及び、(d)800℃において、2時間、加熱処理し、ErBa2Cu3O7-δを形成した。
【0163】
得られたErBa2Cu3O7-δに係るX線回折強度測定及び結晶表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、925℃、8分間の加熱処理を施した後、続けて、(a)875℃で2時間、熱処理した場合、特にc軸配向性に優れ、かつ、板状組織を有するErBa2Cu3O7-δが形成されることを確認した。
【0164】
ここで、X線回折強度測定結果を図12に、走査型電子顕微鏡観察像を図13に示す。
図12から、生成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物は、c軸配向性がより優れたものであることが解り、また、図13から、板状のRE123結晶が生成しているのが解る。
このことは、混合原料に、異なる温度で、2段以上の熱処理を施すと、生成するRE123結晶の形状が板状となり易く、かつ、c軸配向性が向上することを示している。
【0165】
また、得られたErBa2Cu3O7-δAgシース線材材料に、酸素気流中にて、600℃から400℃まで、200時間かけて酸素付加処理を施した後、超電導量子干渉型磁束計(SQUID)で、磁化の温度依存性の評価を行った。その結果、オンセットTcは、上記(a)〜(d)の熱処理の場合(図中、(a)〜(d))のすべてにおいて、91〜92Kであった。
【0166】
しかし、2段目の加熱温度が高いほど超電導転移曲線がシャープとなり、良質な超電導特性が得られた。これを図14に示す。また、最も超電導転移がシャープに現れる(a)のAgシース線材材料について、誘導法の第3高調波を用いる臨界電流密度の測定方法により、77Kでの臨界電流密度を求めたところ、70×104A/cm2以上と非常に高い臨界電流密度が得られた。これを図15に示す。
【産業上の利用可能性】
【0167】
前述したように、本発明によれば、優れた超電導特性を安定して備え、単芯又は多芯線材の素線として使用し得る長尺のRE123系酸化物超電導体を提供することができる。したがって、本発明は、強磁場発生装置や、高電圧送電の他、省資源・エネルギー等へ幅広く利用され得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】RE2BaO4とBa−Cu−O系原料の固相−液相反応に係る示差熱分析曲線を模式的に示す図である。(a)は、従来法に従い、REBa2Cu3O7-δ系化合物粉末を加熱し昇温した時の熱分析曲線を示し、(b)は、RE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合し、加熱、昇温した時の熱分析曲線を示す。
【図2】各種混合原料を加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す図である。(a)は、粒径1〜5μmの原料粉(Er2BaO4粉末とBax−Cuy−Oz系粉末)をEr123系酸化物が得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した原料粉(Ag入り無粉砕原料粉)を、1%の酸素を含有するアルゴン雰囲気(1%O2−Ar)中で加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す。(b)は、上記Ag入り無粉砕原料粉をボールミルで約4時間粉砕した粒径約0.1μmの原料粉(Ag入り粉砕原料粉)を、1%O2−Ar中で加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す。(c)は、上記Ag入り無粉砕原料粉を、大気中で加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す。(d)は、粒径1〜5μmの原料粉(Er2BaO4粉末とBax−Cuy−Oz系粉末)をEr123系酸化物が得られる混合比で混合した原料粉(Ag無し無粉砕原料粉)を、大気中で加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す。
【図3】P1温度の低温化に係る知見をまとめて模式的に示す図である。
【図4】粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末をErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、MgO基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱して得た生成物のX線回折強度を示す図である。
【図5】上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率300の顕微鏡写真)示す図である。
【図6】粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系原料粉末を、ErBa2Cu3O7-δとEr211相が得られるEr過剰となる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、MgO基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱して得た生成物を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率2000の顕微鏡写真)を示す図である。
【図7】粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末を、ErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、Ag基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱して得た生成物(ErBa2Cu3O7-δ)のX線回折強度を示す図である。
【図8】上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率2000の顕微鏡写真)を示す。
【図9】酸素付加処理を施した上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)の帯磁率の温度依存性を示す図である。
【図10】酸素付加処理を施した上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)の臨界電流密度(Jc)の磁場(B)依存性を示す図である。
【図11】Ag基板上に、RE123系超電導体の結晶が板状にかつ配向して生成する態様を示す図である。(a)は全面的な成長態様を示す図であり、(b)はその断面を示す図である。
【図12】粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末をErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて4質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、Agパイプに充填した後、板厚0.3mmに減面加工し、1%O2−Ar中で、925℃で8分間加熱した後、875℃で2時間、加熱処理を施して生成した生成物のX線回折強度を示す図である。
【図13】上記生成物の断面の微細組織を示す図である。
【図14】粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末をErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて4質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、Agパイプに充填した後、板厚0.3mmに減面加工した材料を、1%O2−Ar中で、925℃で8分間加熱した後、4種の温度で2時間加熱処理を行った生成物の磁化の温度依存性を示す図である。(a)875℃、(b)850℃、(c)825℃、(d)800℃。
【図15】図12に示す生成物の電流−電圧特性を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、RE123系酸化物超電導体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Bi系及びY系の酸化物超電導体材料は、Nb3Sn等の金属超電導体材料に比べ、臨界温度(Tc)が高いので、電磁石用や、送電用の線材としての応用が大いに期待されている。
【0003】
Bi系の酸化物超電導体材料は、既に実用化の段階にある(特許文献1、参照)が、c軸に平行に磁界を印加した場合、77K(液体窒素による冷却温度)での不可逆磁界(Birr)が0.5T以下と低いので、線材化しても、その用途は限られてしまう。
【0004】
一方、REBa2Cu3O7-δ系酸化物を主体とした超電導体(以下「RE123系酸化物超電導体」という)材料は、Bi系の酸化物超電導体材料に比べ、臨界電流密度(Jc)及び不可逆磁界(Birr)が高いので、強磁場用の線材や、高圧送電用ケーブルの素線として大いに期待されている。
【0005】
しかし、RE123系酸化物超電導体材料の場合、(i)溶融成長法で配向結晶を得ることができるが、熱処理温度が1000℃以上と高く、従来、線材作製に用いているAgシース材(Agの融点:約960℃)を使用できないし、また、(ii)圧延等の機械的手法では結晶が配向せずかつ粒界結合が弱く、高い電流密度が得られない等の理由で、Bi系の線材のように、Agシース材を用い、PIT法(Powder in Tube Method)で線材化しても、所望の電流特性が得られなかった(非特許文献1、参照)。
【0006】
そこで、金属基材を用いて線材化する方法として、金属基材の上に配向性の中間層を設け、その上に、配向性の超電導膜を形成する塗布熱分解法や、物理蒸着法等が開発された(特許文献2、非特許文献2、参照)。しかし、これらの方法は、成膜速度が遅く、量産性の点で課題を抱えている。
【0007】
このように、優れた超電導特性(高い臨界電流密度と高い不可逆磁界)を安定して備える長尺のRE123系酸化物超電導線材、又は、線材用の基礎材となるRE123系酸化物超電導体の開発においては、解決すべき課題がいまなお多く残っているが、上記RE123系酸化物超電導線材の開発は、強磁場用の線材や高圧送電用ケーブルの素線としての利用の観点だけでなく、省資源・エネルギーの観点からもメリットは極めて大きく、現在、日米欧の三極において、超電導特性を高めるとともに、多芯化にも容易に対応できるRE123系酸化物超電導線材を量産する技術の開発競争が激しく繰り広げられている。
【0008】
【特許文献1】特開平3−138820号公報
【特許文献2】特開平11−504767号公報
【非特許文献1】Jpn.J.Appl.Phys. Vol.26,No.5(1987)pp.L865〜L866
【非特許文献2】Adv. Superconductivity VI (1994) pp.749-754
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた超電導特性(高い臨界電流密度と高い不可逆磁界)を有するRE123系酸化物超電導線材を開発することのメリットを踏まえ、液体窒素温度において優れた超電導特性を安定して備え、単芯又は多芯線材の素線として使用し得る長尺のRE123系酸化物超電導体、及び、該超電導体を量産できる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願人は、特願2004−217594号にて、RE123系酸化物超電導体を作製する新規な作製方法(UING法)を提案した。この方法によれば、従来の溶融成長法における熱処理温度よりも低い温度で、RE123系酸化物超電導体(バルク体)を作製することができる。
【0011】
そこで、本発明者は、熱処理温度が低温化することに注目し、RE−Ba−O系成分(固相成分)とBa−Cu−O系成分(液相となる成分[以下単に「液相成分」という])の反応を、示差熱分析法を用い、より低温域まで詳細に調査した。
【0012】
その結果、RE−Ba−O系成分(固相成分)とBa−Cu−O系成分(液相成分)の混合系において、液相の介在下でRE123系酸化物超電導体の生成が可能であること、及び、より低温で、結晶配向性に優れ、かつ、超電導特性に優れたRE123系酸化物超電導体を作製できる、新規な固相−液相反応を見出した。
【0013】
図1に、従来法と上記固相−液相反応に係る示差熱分析曲線を模式的に示す。図1(a)に、従来法に従い、REBa2Cu3O7-δ粉末を加熱、昇温した時の熱分析曲線を示す。高温域の曲線に下向きピーク(吸熱ピーク)P’が存在するが、これは、REBa2Cu3O7-δ粉末が溶解して吸熱したことを示している。この溶解・吸熱温度は、REのイオン半径の増大とともに高温化するが、通常、1000℃前後である。
【0014】
一方、図1(b)に、RE2BaO4(固相成分、図中、RE210と表示)とBax−Cuy−Oz系原料(液相成分、図中、Ba−Cu−Oと表示)を混合し、加熱、昇温した時の熱分析曲線を示す。
【0015】
温度が上昇する過程で2つの吸熱ピークP1及びP2が現れるが、高温から急冷した試料のX線回折データと照合すると、次のことが判明した。
【0016】
(w)吸熱ピークP1は、吸熱ピークが現れ始める温度、即ち、吸熱反応が起こり始める温度(以下「P1温度」という。)で、Bax−Cuy−Oz系原料(液相成分)が溶解し始め、P1温度以上で、液相を介しRE123系酸化物(図中、123相と表示)が生成することを示している。
【0017】
(x)吸熱ピークP2は、吸熱ピークが現れ始める温度、即ち、吸熱反応が起こり始める温度(以下「P2温度」という。)で、生成した上記RE123系酸化物(図中、123相と表示)が分解、溶融し始めることを示している。
【0018】
そして、さらに、図1(b)中に、P1温度とP2温度の間の温度領域に対応させて、「(Z)高配向多結晶」領域として示すように、
(y)上記温度領域における固相−液相反応により、結晶配向性に優れ、かつ、超電導特性が均一の板状のRE123系酸化物超電導体が生成する、
ことが判明した。
【0019】
このように、本発明者は、RE2BaO4(固相成分)とBax−Cuy−Oz系原料(液相成分)の混合系の反応に係る示差熱分析により、上記(w)、(x)、及び、(y)で特徴付けられ、UING法とは、RE123系酸化物の生成過程の点で異なる、新規な固相−液相反応を見出した。
【0020】
そして、本発明は、上記新規な固相−液相反応を根幹とするものである。
【0021】
なお、図1(b)に示すように、P1温度より低温側では、固相−固相反応で、無配向のRE123系酸化物が生成し、また、P2温度より高温側では、RE123相が溶解するので、種結晶を用いる溶融成長法(溶融後徐冷等により結晶を作製する方法)により、配向性の高いRE123系酸化物を結晶成長させることができる。
【0022】
次に、本発明者は、図1(b)に示す固相−液相反応における吸熱ピークP1に着目し、P1温度(低温液相生成温度)を、より低温側に、例えば、Agの融点(約960℃)以下の温度まで下げることができれば、RE123系酸化物超電導線材の量産を阻む理由の一つの「溶融成長法における熱処理温度(RE123系酸化物の溶融温度)が1000℃以上と高く、従来、線材作製に用いているAgシース材(Agの融点:約960℃)を使用できない」を解消できるとの発想に至り、P1温度に影響を及ぼす要因とその影響について鋭意調査した。
【0023】
その結果、本発明者は、本発明の根幹をなす新規な固相−液相反応において、
(z1)原料粉の粒径を小さくする、
(z2)反応雰囲気の酸素分圧を低くする、及び、
(z3)原料粉に所要量のAgを添加する
ことのいずれか一つ、又は、二つ以上により、図1(b)中、P1温度を、Agの融点(約960℃)以下の温度まで下げることができることを見出した。
【0024】
これらの知見は、本発明の基礎をなす知見であるので、後で詳細に説明する。
【0025】
即ち、本発明者は、図1(b)中、P1温度とP2温度の間の温度領域であって、Agの融点(約960℃)以下の温度領域においては、RE2BaO4(固相)とBax−Cuy−Oz系原料(液相)を反応させ、Ag基材上に、結晶配向性と超電導特性に優れた板状のRE123系酸化物超電導体を作製できることを見出した。
【0026】
また、本発明者は、上記固相−液相反応でAg管等の基材に一体化して生成したRE123系酸化物超電導体を線材化できること、さらに、多芯構造の線材をも製造できることの可能性を確認した。
【0027】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は、以下のとおりである。
【0028】
(1)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料の混合原料を用いて形成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層、及び、該導電層を保持する保持部材からなることを特徴とするRE123系酸化物超電導体。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【0029】
(2)前記Bax−Cuy−Oz系原料が、金属酸化物、及び/又は、その化合物を混合したものであることを特徴とする前記(1)に記載のRE123系酸化物超電導体。
【0030】
(3)前記x、y、zが、2x≦y≦2.2x、及び、z=x+yを満たすことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のRE123系酸化物超電導体。
【0031】
(4)前記混合原料が、15質量%以下のAg又はAg酸化物を含有するものであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体。
【0032】
(5)前記REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体が、非超電導相を分散して含むものであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体。
【0033】
(6)前記保持部材が、長尺のものであって、長手方向に垂直な断面において、導電層と一部で又は全周にわたり接触していることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体。
【0034】
(7)前記保持部材が、金属材料で構成されたものであることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体。
【0035】
(8)前記金属材料が、化学的に活性な液相と反応せず、かつ、酸素を透過する金属材料であることを特徴とする前記(7)に記載のRE123系酸化物超電導体。
【0036】
(9)前記金属材料が、化学的に活性な液相と反応しない材料を含む中間層で被覆されていることを特徴とする前記(7)又は(8)に記載のRE123系酸化物超電導体。
【0037】
(10)(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【0038】
(11)(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、(b)1回又は2回以上の減面加工を施し、その後、(c)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【0039】
(12)前記(b)及び(c)の処理を繰り返して、より結晶配向性の優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とする前記(11)に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0040】
(13)(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱しつつ、1回又は2回以上の減面加工を施し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【0041】
(14)前記(b)を繰り返して、より結晶配向性の優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とする前記(13)に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0042】
(15)前記REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する際、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度への加熱に続き、該温度より低い温度に加熱する熱処理を1回以上行うことを特徴とする前記(10)〜(14)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0043】
(16)前記混合原料の粒径を1μm未満に細粒化し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化すことを特徴とする前記(10)〜(15)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0044】
(17)前記酸素を含む雰囲気の酸素分圧を0.02MPa以下に低減し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化することを特徴とする前記(10)〜(16)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0045】
(18)前記混合原料に15質量%以下のAg又はAg酸化物を添加し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化することを特徴とする前記(10)〜(17)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0046】
(19)前記RE123系酸化物超電導体を、10MPa以上の等方圧力で加圧処理した後、加熱処理することを特徴とする前記(11)〜(18)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【0047】
(20)前記RE123系酸化物超電導体を、0.5MPa以上の等方圧力下で加熱処理することを特徴とする前記(11)〜(18)のいずれかに記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、優れた超電導特性を安定して備え、単芯又は多芯線材の素線として使用し得る長尺のRE123系酸化物超電導体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
1)固相−液相反応
まず、本発明の根幹をなす固相(RE2BaO4)−液相(Bax−Cuy−Oz系原料)反応について説明する。なお、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素である。
【0050】
本発明者は、まず、図1(b)中、P1温度に影響を及ぼす要因について調査した。
【0051】
その結果、主に、(z1)原料粉の粒度、(z2)反応雰囲気の酸素分圧、及び、(z3)原料粉へのAg添加が、P1温度に影響することが判明した。
【0052】
図2に、各種混合原料を加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す。
【0053】
図2中(a)に示す熱分析曲線は、粒径1〜5μmの原料粉(Er2BaO4粉末とBax−Cuy−Oz系粉末)をEr123系酸化物が得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した原料粉(Ag入り無粉砕原料粉)を、1%の酸素を含有するアルゴン雰囲気(1%O2−Ar)中で加熱し昇温した時の熱分析曲線である。
【0054】
また、図2中(b)に示す熱分析曲線は、上記Ag入り無粉砕原料粉をボールミルで約4時間粉砕した粒径約0.1μmの原料粉(Ag入り粉砕原料粉)を、1%O2−Ar中で加熱し昇温した時の熱分析曲線である。
【0055】
上記2つの熱分析曲線のそれぞれに存在する2つの吸熱ピークP1及びP2は、図1(b)で示す吸熱ピークP1及びP2に、それぞれ対応するものである。そして、Ag入り無粉砕原料粉の熱分析曲線におけるP1温度は、約860℃であり(図2(a)、参照)、Ag入り粉砕原料粉の熱分析曲線におけるP1温度は、約840℃である(図2(b)、参照)。このことから、混合原料粉の粒度を小さくすれば、P1温度が低下することが解る。
【0056】
即ち、原料粉の粒度を適宜選択、設定することにより、Bax−Cuy−Oz系原料(液相)が溶解し始めて、RE123系酸化物を生成する固相−液相反応が起こり始める温度、即ち、P1温度を適宜調整することができる。
【0057】
また、図2中(c)に示す熱分析曲線は、上記Ag入り無粉砕原料粉を、大気中で加熱し昇温した時の熱分析曲線である。この熱分析曲線におけるP1温度は、約890℃である。
【0058】
そして、図2中(a)に示す熱分析曲線(Ag入り無粉砕原料粉を1%O2−Ar中で加熱)と、図2中(c)に示す熱分析曲線(同じく、Ag入り無粉砕原料粉を大気中で加熱)との対比から明らかなように、原料粉の粒径が同じ場合、反応雰囲気中の酸素分圧を小さくする(大気→1%O2)と、P1温度は、890℃から860℃へ低下する。
【0059】
また、図2中(d)に示す熱分析曲線は、粒径1〜5μmの原料粉(Er2BaO4粉末とBax−Cuy−Oz系粉末)をEr123系酸化物が得られる混合比で混合した原料粉(Agを含有しないので、以下「Ag無し無粉砕原料粉」という)を、大気中で加熱し昇温した時の熱分析曲線である。この熱分析曲線におけるP1温度は、約920℃である。
【0060】
図2中(c)に示す熱分析曲線(Ag入り無粉砕原料粉を大気中で加熱、P1温度:約890℃)と、図2中(d)に示す熱分析曲線(Ag無し無粉砕原料粉を大気中で加熱、P1温度:約920℃)との対比から明らかなように、Agの添加で、P1温度は、920℃から890℃へと低下する。
【0061】
図3に、以上のP1温度の低温化に係る知見をまとめて模式的に示す。図3から明らかなように、(z1)原料粉の粒径を小さくする、(z2)反応雰囲気の酸素分圧を低くする、及び、(z3)原料粉に所要量のAgを添加することのいずれか一つ、又は、二つ以上により、P1温度を、相加して下げる(P1温度の低温化)ことができる。この知見が、本発明の基礎をなす知見である。
【0062】
上述したように、P1温度の低温化においては、上記(z1)、(z2)、及び/又は、(z3)を適宜選択して、P1温度を所要の温度に調整し設定できるので、基材は、特定の融点を有するものに限定されない。
【0063】
本発明のRE123系酸化物超電導体の生成においては、種々の基材を用い得るが、該基材の中から、P1温度と基材融点で区画される固相−液相反応領域(図3、参照)における結晶配向性の高低や適否を考慮して適切な基材を選択する。
【0064】
即ち、本発明においては、選択した基材の融点との関係で、上記(z1)、(z2)、及び/又は、(z3)を適宜選択して、P1温度を所要の温度に設定してもよいし、また、上記(z1)、(z2)、及び/又は、(z3)を適宜選択して調整、設定したP1温度との関係で、所要の融点を有する基材を選択してもよい。
【0065】
そこで、本発明者は、基材としてMgO基板を用い、その上にRE123系酸化物超電導体層を形成し、その結晶配向性及び超電導特性を調査した。以下に、その一調査結果を説明する。
【0066】
2)MgO基板上での超電導体の形成
MgOの融点は、1600℃以上であり、P1温度及びP2温度よりはるかに高温側に位置するので、MgO基板は、図1(b)中の「(Z)高配向多結晶」で形成される多結晶の配向性を評価する際の基板に適している。
【0067】
粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末をErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、MgO基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱した。
【0068】
図4に、上記加熱で得られた生成物のX線回折強度を示す。図4中に、ミラー指数(00n)の強度が強く現れているので、MgO基板上には、c軸が基板面に垂直に配向した結晶組織を有するErBa2Cu3O7-δが形成されている。
【0069】
図5に、上記ErBa2Cu3O7-δを、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率300の顕微鏡写真)を示す。この図から、MgO基板上には、10〜100μm程度の板状の結晶が隙間なく繋がった結晶組織を有するErBa2Cu3O7-δが形成されていることが解る。
【0070】
このように、図4及び図5に示すように、本発明の固相−液相反応により、MgO基板上には、c軸が基板面に垂直に配向し、a−b面が基板面に平行な結晶組織を有する板状のErBa2Cu3O7-δが形成されている。
【0071】
そして、上記ErBa2Cu3O7-δを超電導体化するために、300〜700℃で酸素付加処理をし、該ErBa2Cu3O7-δが、オンセット臨界温度(Tc)約90Kの超電導体であることを確認した。
【0072】
また、図6に、Ag3質量%を含有する粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末を、ErBa2Cu3O7-δと非超電導相Er2BaCuO5(以下「Er211相」という)が生成するEr過剰な混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、MgO基板上に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱して得た生成物を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率2000の顕微鏡写真)を示す。
【0073】
この図から、MgO基板上には、上記板状のErBa2Cu3O7-δ系酸化物の結晶が隙間なく繋がり、かつ、該結晶の他に、数μm程度の大きさの針状のEr211相微粒子(電子線マイクロアナライザーで確認した)が存在する結晶組織を有するErBa2Cu3O7-δが形成されていることが解る。
【0074】
超電導体(バルク体)中に存在する非超電導相RE2BaCuO5(以下「RE211相」という)は、超電導体中に侵入した磁力線をピン止めし、電流特性を著しく高める作用をなすものであり、粒状のものより針状のものが、ピン止め効果の点でより優れていることが知られているが、この作用は、MgO基板上に形成された板状のRE123系酸化物結晶中に分散して存在する上記RE211相(非超電導相)にも当然に期待できる。
【0075】
したがって、本発明の固相−液相反応によれば、MgO基板の上に、c軸が基板面に垂直に配向し、a−b面が基板面に平行で、RE211相(非超電導相)微粒子が分散した結晶組織を有し、結晶配向性と電流特性に優れた板状のRE123系酸化物超電導体を安定して形成できる。
【0076】
さらに、本発明者は、Gd2BaO4粉末と、Bax−Cuy−Oz系粉末を混合した原料粉を用いて、Agを添加していない場合でも、MgO基板に、前述のErBa2Cu3O7-δの場合と同様に、結晶配向性に優れた板状のGdBa2Cu3O7-δを安定に形成できることを確認した。
【0077】
このように、本発明者は、本発明の固相−液相反応によれば、MgO基板に、c軸が基板面に垂直に配向し、a−b面が基板面に平行な結晶組織からなる“結晶配向性と電流特性”に優れた板状のRE123系酸化物超電導体、また、上記結晶組織中にRE211相(非超電導相)微粒子を分散して含む結晶組織からなる結晶配向性に優れた板状のRE123系酸化物超電導体を安定して形成できることを確認した。
【0078】
3)Ag基板上での超電導体の形成
RE123系酸化物超電導体を線材化する場合、金属基材上に、RE123系酸化物超電導体を含む導電層を形成することが不可欠である。
【0079】
そこで、本発明者は、PIT法等で汎用するAg基材にも、本発明の固相−液相反応を用いて、結晶配向性に優れたRE123系酸化物超電導体を形成できることを確認するため、MgO基板をAg基板に替え、Ag基板にRE123系酸化物を形成し、該酸化物の結晶配向性と超電導特性を調査した。以下に、その一調査結果を説明する。
【0080】
(1)粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末を、ErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)をAg基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱した。
【0081】
そして、上記加熱後、該加熱で得られた生成物に、300〜700℃で、酸素付加処理を施した。
【0082】
図7に、上記加熱で得られた生成物のX線回折強度を示す。図7に示すように、ミラー指数(00n)の強度が強く現れているので、Ag基板上には、c軸が基板面に垂直に配向したErBa2Cu3O7-δが生成している。
【0083】
また、図8に、上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率2000の顕微鏡写真)を示す。図8から、Ag基板上には、10μm程度の板状の結晶が隙間なく繋がった結晶組織を有するErBa2Cu3O7-δが形成されていることが解る。
【0084】
このように、図7及び図8から、Ag基板上には、c軸が基板面に垂直に配向し、a−b面が基板面に平行な結晶組織を有する板状のErBa2Cu3O7-δが形成されていることを確認できる。
【0085】
ここで、上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)に、300〜700℃で酸素付加処理を施した後の“帯磁率の温度依存性”及び“臨界電流密度の磁場依存性”を、それぞれ、図9及び図10に示す。
【0086】
図9によれば、上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)は、オンセット臨界温度(Tc)約90K以上の超電導体である。即ち、Ag基板上には、配向結晶の核となる種結晶を用いなくても、c軸が基板面に垂直に配向し、a−b面が基板面に平行な板状のErBa2Cu3O7-δ超電導体が形成されている。
【0087】
そして、図10によれば、上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)は、2Tの磁場中においても、0.5×104A/cm2程度の電流が流れており、不可逆磁界(Birr)が高いものである(なお、Bi系超電導材料の不可逆磁界(Birr)は0.5T以下である)。
【0088】
このように、本発明者は、本発明の固相−液相反応において、本発明者が見出した知見に従い、吸熱反応が開始するP1温度を、Ag基材の融点(約960℃)以下の温度にまで低温化することができ、その結果、Ag基板の上に、結晶配向性と電流特性に優れた板状のRE123系酸化物超電導体を安定して形成できるとの知見を得るに至った。
【0089】
そして、上記知見は、従来、PIT法による線材化に不適とされていたRE123系酸化物超電導体をPIT法で線材化できるとの可能性を予見するものであり、RE123系酸化物超電導体の線材化を実現する上で重要な知見である。
【0090】
(2)粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末を、ErBa2Cu3O7-δとEr211相が生成するEr過剰な混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、Ag基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱した。
【0091】
上記加熱で得られた生成物に係るX線回折強度とSEM写真により、該生成物が、Er211相(非超電導相)微粒子が分散した結晶組織を有するErBa2Cu3O7-δであることを確認した。
【0092】
上記Er211相(非超電導相)微粒子は、前述したように、超電導体中に侵入した磁力線をピン止めする作用をなすものであるので、上記Er211相(非超電導相)微粒子が存在する上記生成物の電流特性は、より優れていると推測される。
【0093】
(3)以上、Ag基板上で、結晶配向性に優れたRE123系酸化物超電導体を形成することについて説明したが、該超電導体の形成において、従来にない特異な点は、結晶の配向方位を支配する外的圧力等を結晶に加えていないにもかかわらず、図7及び図8に示すように、RE123系酸化物の結晶のc軸が、Ag基板上で、基板面に対し垂直に配向していることである。
【0094】
単に、RE2BaO4粉末(固相成分)とBax−Cuy−Oz系粉末(液相成分)の固相−液相反応により、結晶配向性のないAg基板上にRE123系酸化物の結晶が生成するのであれば、特定の結晶軸がAg基板面に対し配向することは考え難いが、Ag基板上で上記固相−液相反応が起きる場合においては、該固相−液相反応に加え、Ag(固相)とBa−Cu−O系液相との反応も起き、その結果、Ag界面に、Agが溶け込んだ液相膜が形成され、この液相膜が、上記固相−液相反応で生成するRE123系酸化物の結晶の配向に大きく関与していると考えられる。
【0095】
即ち、図11に示すように、上記固相−液相反応によるRE123系酸化物の結晶の生成と、Ag基板界面に生成して存在する液相との相乗作用により、Agの融点以下の温度において、Ag基板上に、RE123系酸化物の結晶が、板状にかつ配向して生成すると同時に成長する。
【0096】
上記相乗作用の詳細についてはまだ明らかでないが、該相乗作用により、例えば、次の(A1)〜(A3)の何れかの結晶成長が進行しているものと考えられる。
【0097】
(A1)板状に成長した結晶の幾何学的に安定なa−b面が、Ag界面で生じた液相上において、基板面上に平行に配向する。
【0098】
(A2)Ag界面に生じた液相がフラックスの作用をなし,該液相の表面で、結晶生成が起きて、液相面上で2次元的に成長する。
【0099】
(A3)Ag界面における液相の生成は、Ag表面上に限定されるので、結晶が成長できる方向は、2次元方向に限定されてしまい、a−b面の成長が、基板面(2次元)方向に限定されて配向する。
【0100】
しかし、いずれにしても、結晶成長に際し、結晶の配向を図る外的圧力等を加えなくても、本発明の固相−液相反応により、Ag基板上に、c軸がAg基板面に対し垂直に配向した結晶からなるRE123系酸化物超電導体を形成できるとの知見も、本発明者が新たに見出した知見である。
【0101】
そして、Ag基板上におけるRE123系酸化物超電導体の生成は、本質的には、Ag上で起きる固相−液相反応によるものであるから、本発明の固相−液相反応を用いれば、長尺のAg基材上にも、同様に、結晶配向性と電流特性に優れたRE123系酸化物超電導体を形成できる。
【0102】
この場合、結晶配向性のないAg基材に替えて、圧延等の加工により2軸配向性を付与したAg基材を用いれば、配向したRE123系酸化物結晶の生成は、より容易になる。
【0103】
さらに、長尺のAg基材は、Bi系超電導酸化物の線材化、及び、多芯線材化に汎用されている基材であるから、本発明のRE123系酸化物超電導体は、長尺のAg基材を用いたPIT法により、単芯又は多芯の線材作製に適したものである。
【0104】
4)本発明の特徴的要件
ここで、本発明を構成する特徴的要件について説明する。
(1)まず、本発明のRE123系酸化物超電導体(本発明超電導体)を構成する特徴的要件について説明する。
【0105】
本発明超電導体においては、保持部材に、少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を用いて生成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層が形成されている。
【0106】
ここで、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素であり、所望の結晶配向性や超電導特性を考慮して選択される。
【0107】
Bax−Cuy−Oz系原料は、金属酸化物及び/又はその化合物(例えば、BaCuO2、CuO)を、所要の混合比で混合したものである。この混合原料に、15質量%以下のAg又はAg酸化物を添加してもよい。Ag又はAg酸化物の添加は、P1温度を、より低温化する点で好ましい。
【0108】
Ba、Cu、Oの混合比(x、y、z)は、RE123系酸化物の組成、特性、組織等を考慮して、適宜、選択できるが、CuOがAg基板に僅かではあるが固溶すること、また、必要に応じ、適切量のRE211相(非超電導相)をRE123系酸化物結晶内に分散して生成させること等を考慮すれば、
2x≦y≦2.2x 及び z=x+y
を満たす範囲で選択することが好ましい。
【0109】
即ち、RE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料の混合比、及び/又は、Ba、Cu、Oの混合比(x、y、z)を適宜選択することにより、非超電導相(RE211相)が分散したRE123系酸化物超電導体を生成させることができる。
【0110】
非超電導相は、超電導体中に侵入した磁力線を捕捉して固定(ピン止め)する機能を有するので、超電導電流の磁場依存性を改善する上で重要な存在である。
【0111】
REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層は、導電層の特性を維持するため、保護層又は安定化層で被覆されたものでもよい。
【0112】
導電層を保持する保持部材は、結晶配向促進層、歪緩衝層、拡散防止層、電流漏洩防止層等、超電導特性の向上に資する機能を有する中間層で被覆されたものでもよい。
【0113】
中間層は、上記機能を発揮するため、金属酸化物(例えば、MgO)、複合酸化物、電気抵抗の高い金属酸化物又は複合酸化物で構成することが好ましい。
【0114】
例示したMgOの基板上には、前述したように、結晶配向性の優れたRE123系酸化物超電導体が形成されるので、MgOは、結晶配向性を高める中間層を構成する材料として好適なものである。
【0115】
保持部材は、特定の形状のものに限定されないし、また、保持部材が導電層を保持する態様も、特定の態様に限定されない。例えば、保持部材が長尺なものである場合、長手方向に垂直な断面において、一部分で導電層と接触して導電層を保持してもよいし、また、全周にわたり導電層と接触して導電層を保持してもよい。
【0116】
長尺の保持部材として、管状又は帯状の部材を使用することができる。管状部材としては、円環状閉断面又は偏平矩形状閉断面を有する管状部材が好ましい。
【0117】
また、減面加工を施して超電導体を線材化することを考慮すれば、保持部材は、金属材料で構成したものが好ましく、金属材料としては、
(i)固相−液相反応で生じる化学的に活性な液相と反応しない、及び、
(ii)超電導特性を高める酸素付加処理で酸素を透過する
の2条件を満たすものが好ましい。
【0118】
そして、Ag又はAg基材料が、上記2条件を満たす金属材料として最も好ましい。
【0119】
また、保持部材は、少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料と直接接触する部材面を、Ag又はAg基材料で被覆した複合金属材料で構成してもよい。さらに、保持部材は、予め所要の加工を施し、部材の長手方向に、表面組織の配向性を付与した部材でもよい。
【0120】
(2)次に、本発明超電導体の製造方法の特徴的要件について説明する。
【0121】
本発明超電導体の製造方法においては、
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する。
【0122】
なお、REは、前述したように、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素である。
【0123】
本発明の固相−液相反応により、REBa2Cu3O7-δ酸化物を生成するために、保持部材に付着させた混合原料を、酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱する。
【0124】
図1(b)に示すように、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解と同時に、RE2BaO4との反応が始まるので、REBa2Cu3O7-δ酸化物を生成する加熱温度の下限は、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度、即ち,吸熱ピークP1のP1温度と規定した。
【0125】
Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度(P1温度)は、前記(z1)、(z2)、及び/又は、(z3)を適宜採用することにより低温化することができる。例えば、(z1’)混合原料の粒径を1μm未満に細粒化する、(z2’)酸素を含む雰囲気の酸素分圧を0.02MPa以下に低減する、(z3’)混合原料に15質量%以下のAg又はAg酸化物を添加する等の手段を一つ又は適宜組み合せて、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化することが好ましい。
【0126】
上記溶解温度は、Bax−Cuy−Oz系原料の組成にも依存するので、特定の温度に特定できず、また、特定する必要はないが、x、y、zを、2x≦y≦2.2x、及び、z=x+yを満たす範囲で選択した場合に定まる溶解温度が、金属材料で構成した保持部材の表面で本発明の固相−液相反応を推進する上で好ましい。
【0127】
なお、図1(b)から明らかなように、加熱温度が、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度未満であると、反応は固相−固相反応となり、配向したREBa2Cu3O7-δ酸化物は得られない。
【0128】
加熱温度の上限は、保持部材の融点以下であればよい。加熱温度が、REBa2Cu3O7-δ酸化物の融点を超えている場合は、加熱後、徐冷等により、結晶化を、REBa2Cu3O7-δ酸化物の融点以下で行えばよい。
【0129】
本発明では、前述したように、P1温度は、前記(z1)、(z2)、及び/又は、(z3)を適宜採用することにより低温化するので、保持部材の融点も、特定の温度範囲に限定する必要はない。ただし、保持部材の融点は、P1温度以上でなければならない。
【0130】
また、本発明超電導体の製造方法においては、
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)1回又は2回以上の減面加工を施し、その後、
(c)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する。
【0131】
この製造方法においては、本発明の固相−液相反応によりREBa2Cu3O7-δ酸化物の配向結晶を形成する前に、1回又は2回以上の減面加工を施し、上記混合原料の一部と、保持部材の接触面積を増大させる。この点が特徴である。
【0132】
そして、上記(b)及び(c)の処理を繰り返して行うことにより、結晶配向性と電流特性がより向上した長尺のRE123系酸化物電導体を製造することができる。
【0133】
また、本発明超電導体の製造方法においては、
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱しつつ、1回又は2回以上の減面加工を施し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する。
【0134】
このように、本発明超電導体の製造方法においては、加熱と減面加工を同時に行ってもよい。この同時の加熱・減面加工により、結晶配向性と電流特性が優れた長尺のRE123系超電導体を製造することができる。
【0135】
また、上記(b)の処理を繰り返して行うことにより、結晶配向性と電流特性がより向上した長尺のRE123系酸化物電導体を製造することができる。
【0136】
さらに前記REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する際、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度への加熱に続き、該温度より低い温度に加熱する熱処理を1回以上行ってもよい。
【0137】
本発明においては、固相(RE2BaO4)−液相(Bax−Cuy−Oz系原料)反応によりREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成するが、この時、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度(P1温度)以上の温度(P温度)への加熱により液相を生成せしめた後、続いて、該溶解温度以上の温度(P温度)より低い温度(P’温度)に保持して熱処理を行う。
【0138】
上記熱処理により、非超電導相の生成反応を抑制し、保持部材の面上に結晶配向性に優れた導電層を形成することができる。また、熱処理温度(P’温度)を適宜選択することにより、生成するREBa2Cu3O7-δ系酸化物の結晶成長を制御することができるので、結晶の大きさを適宜制御することが可能となり、保持部材の面上に、より結晶配向性に優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物からなる導電層を形成することができる。
【0139】
上記熱処理は、導電層の特性安定化と向上のため、一回に限らず、複数回行ってもよい。上記熱処理を複数回行う場合の温度(P’温度)は、出発混合原料を加熱した温度、即ち、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度(P1温度)以上の温度(P温度)より低い温度であればよく、特定の温度に限定されない。なお、P’温度が、P1温度以下の温度であれば、非超電導相の生成抑制及び123相の板状結晶の生成制御の点で好ましい。
【0140】
上記熱処理により、結晶配向性が向上する理由は、次のように推察される。
【0141】
CuOを多く含む液相を用いて、RE123結晶を作製する場合、該結晶は、c軸方向に薄い板状結晶に成長することが知られている(「J. Wojcik, M. Rosochowska, H. Niculescu, A. Pajaczkowska, J. Cryst. Growth 91[3] (1988) 255-260」、参照。この研究論文は、「CuOリッチな液相組成(Y:Ba:Cu=1:4:10)から、c軸方向に薄い板状のY123結晶が得られた」ことを報告している。)。
【0142】
本発明の場合、Bax−Cuy−Oz系原料を、該原料の溶解温度(P1温度)以上の温度(P温度)へ加熱して液相を生成する熱処理(第1段熱処理)を長時間行うと、RE2BaCuO5固相(211相)の割合が増加することが確認された。
【0143】
このことから、第1段熱処理を長時間行うと、固相(RE2BaO4)の一部がRE2BaCuO5固相に変化し、液相組成が、(3BaO+6CuO)からCuOの少ない(3BaO+5CuO)へと変化してしまうことが想定されるが、この液相組成の変化が生じると、生成する結晶はブロック状となり易く、結晶配向性は低下し、かつ、RE2BaCuO5固相(211相)等の非超電導相が超電導相中に残留する量が増加すると考えられる。
【0144】
一方、第1段熱処理を、RE2BaCuO5固相(211相)の割合が増加しない、即ち、生成した液相の組成が変化しない短時間の内に終了し、続いて、第1段熱処理温度(P温度)より低い温度で、次の熱処理(第2段熱処理)を数時間、適宜行い、RE123結晶を成長させた場合、CuOリッチな液相を維持したまま、RE123の結晶を生成することになるので、板状の結晶がより生成し易くなり、より結晶配向性に優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物からなる導電層を形成できると考えられる。
【0145】
ここで、図12に、第1段熱処理を925℃、8分行い、次いで、第2段熱処理を875℃、2時間行って生成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物のX線回折図を示す。図7に示すX線回折図と比較すると、図12においては、30度近辺で、BaCuO2相を示すピークがなく、かつ、123相の(00L)強度が強く現れている。また、(003)と(005)の間にある面指数を付していない強度ピークは、123相の(103)の強度ピークである。
【0146】
即ち、図7と図12の対比から、「Bax−Cuy−Oz系原料を、該原料の溶解温度(P1温度)以上の温度(P温度)へ加熱して液相を生成する第1段熱処理を、液相組成が変化しない短時間の内に終了し、続いて、P温度より低い温度で第2段熱処理を数時間、適宜行ってRE123結晶を成長させた場合、よりc軸配向性に優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物の結晶が生成することが解る。
【0147】
なお、第1段熱処理を925℃、8分行い、次いで、第2段熱処理を850℃、又は、825℃で2時間行った場合には、c軸配向を示す(00L)以外のピーク強度が増加し、著しくc軸配向性が低下することが判明した。このことは、第2段階の熱処理温度は、比較的第1熱処理に近い温度に設定することが好ましいことを示唆している。
【0148】
以上、段落[0136]〜[0147]に記載した技術的知見は、本発明者が、新たに見出した知見であり、本発明の基礎をなす知見である。
【0149】
また、本発明超電導体の製造方法で製造したRE123系酸化物超電導体を、10MPa以上の等方圧力で加圧処理した後、加熱処理してもよい。この処理は、結晶をより緻密化する点で好ましい。
【0150】
さらに、本発明超電導体の製造方法で製造したRE123系酸化物超電導体を、0.5MPa以上の等方圧力下において加熱処理してもよい。この熱処理も、結晶をより緻密化する点で好ましい。
【0151】
そして、本発明超電導体の製造方法で製造したRE123系酸化物超電導体には、通常のRE123系酸化物超電導体と同様に、300〜700℃で酸素付加処理を施す。この酸素付加処理により、より超電導特性の優れたRE123系酸化物超電導体を得ることができる。
【実施例】
【0152】
以下、本発明の実施例について説明するが、実施例で採用した条件は、本発明の実施可能性又は再現性を実証するために採用した一条件例であり、本発明、この一条件例に限定されるものではない。
【0153】
本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0154】
(実施例1)
粒径約0.05μmの混合原料(1〜5μmのEr2BaO4粉とBax−Cuy−Oz系原料[BaCuO2+CuO]を、ErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて2質量%のAgを添加した後、10時間粉砕)をAg基板上に付着させ、1%酸素を含むアルゴン雰囲気中で、900℃、3時間加熱し、ErBa2Cu3O7-δ超電導体を形成した。
【0155】
得られたErBa2Cu3O7-δ超電導体に係るX線回折強度測定及び結晶表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、Ag基板の全面に、低温で、結晶配向性の優れたErBa2Cu3O7-δ超電導体が、安定して形成されていることを確認できた。
【0156】
このことは、混合原料の粒径を1μm未満に細粒化することで、低温での結晶配向が充分に可能であることを示している。
【0157】
また、得られたErBa2Cu3O7-δ超電導体に、酸素気流中にて、600℃から400℃まで200時間かけて酸素付加処理を施した後、超電導量子干渉型磁束計(SQUID)で、超電導特性の評価を行った。その結果、オンセットTcは約90Kであり、77Kでの臨界電流密度は2.0×104A/cm2以上であった。
【0158】
(実施例2)
実施例1で用いた混合原料と同様の混合原料を、6mmのペレット状に一軸成型し、内径6mm、外径10mmのAg管に詰めた後、減面加工を施し、幅3mm、厚み1mmの帯状線材に加工した。
【0159】
その後、上記帯状線材に、大気中、920℃にて熱処理を施し、次いで、該線材から、100mm長さの線材試料を切り取り、酸素気流中、700℃から400℃まで200時間かけて徐冷をして酸素を導入した。
【0160】
この線材試料の臨界電流特性を4端子法にて測定したところ、臨界電流密度が880A/cm2であった。
【0161】
(実施例3)
粒径約0.1μmの混合原料(1〜5μmのEr2BaO4粉とBax−Cuy−Oz系原料[BaCuO2+CuO]を、ErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて4質量%のAgを添加した後、4時間粉砕)を、内径6mm、外径12mm、長さ20cmのAgパイプに充填し、0.3mmの板厚に減面加工して平板状Agシース線材材料とした。
【0162】
上記材料を、1%酸素を含むアルゴン雰囲気中で、925℃、8分間加熱し、続いて、(a)875℃、(b)850℃、(c)825℃、及び、(d)800℃において、2時間、加熱処理し、ErBa2Cu3O7-δを形成した。
【0163】
得られたErBa2Cu3O7-δに係るX線回折強度測定及び結晶表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、925℃、8分間の加熱処理を施した後、続けて、(a)875℃で2時間、熱処理した場合、特にc軸配向性に優れ、かつ、板状組織を有するErBa2Cu3O7-δが形成されることを確認した。
【0164】
ここで、X線回折強度測定結果を図12に、走査型電子顕微鏡観察像を図13に示す。
図12から、生成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物は、c軸配向性がより優れたものであることが解り、また、図13から、板状のRE123結晶が生成しているのが解る。
このことは、混合原料に、異なる温度で、2段以上の熱処理を施すと、生成するRE123結晶の形状が板状となり易く、かつ、c軸配向性が向上することを示している。
【0165】
また、得られたErBa2Cu3O7-δAgシース線材材料に、酸素気流中にて、600℃から400℃まで、200時間かけて酸素付加処理を施した後、超電導量子干渉型磁束計(SQUID)で、磁化の温度依存性の評価を行った。その結果、オンセットTcは、上記(a)〜(d)の熱処理の場合(図中、(a)〜(d))のすべてにおいて、91〜92Kであった。
【0166】
しかし、2段目の加熱温度が高いほど超電導転移曲線がシャープとなり、良質な超電導特性が得られた。これを図14に示す。また、最も超電導転移がシャープに現れる(a)のAgシース線材材料について、誘導法の第3高調波を用いる臨界電流密度の測定方法により、77Kでの臨界電流密度を求めたところ、70×104A/cm2以上と非常に高い臨界電流密度が得られた。これを図15に示す。
【産業上の利用可能性】
【0167】
前述したように、本発明によれば、優れた超電導特性を安定して備え、単芯又は多芯線材の素線として使用し得る長尺のRE123系酸化物超電導体を提供することができる。したがって、本発明は、強磁場発生装置や、高電圧送電の他、省資源・エネルギー等へ幅広く利用され得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】RE2BaO4とBa−Cu−O系原料の固相−液相反応に係る示差熱分析曲線を模式的に示す図である。(a)は、従来法に従い、REBa2Cu3O7-δ系化合物粉末を加熱し昇温した時の熱分析曲線を示し、(b)は、RE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合し、加熱、昇温した時の熱分析曲線を示す。
【図2】各種混合原料を加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す図である。(a)は、粒径1〜5μmの原料粉(Er2BaO4粉末とBax−Cuy−Oz系粉末)をEr123系酸化物が得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した原料粉(Ag入り無粉砕原料粉)を、1%の酸素を含有するアルゴン雰囲気(1%O2−Ar)中で加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す。(b)は、上記Ag入り無粉砕原料粉をボールミルで約4時間粉砕した粒径約0.1μmの原料粉(Ag入り粉砕原料粉)を、1%O2−Ar中で加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す。(c)は、上記Ag入り無粉砕原料粉を、大気中で加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す。(d)は、粒径1〜5μmの原料粉(Er2BaO4粉末とBax−Cuy−Oz系粉末)をEr123系酸化物が得られる混合比で混合した原料粉(Ag無し無粉砕原料粉)を、大気中で加熱し昇温した時の熱分析曲線を示す。
【図3】P1温度の低温化に係る知見をまとめて模式的に示す図である。
【図4】粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末をErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、MgO基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱して得た生成物のX線回折強度を示す図である。
【図5】上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率300の顕微鏡写真)示す図である。
【図6】粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系原料粉末を、ErBa2Cu3O7-δとEr211相が得られるEr過剰となる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、MgO基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱して得た生成物を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率2000の顕微鏡写真)を示す図である。
【図7】粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末を、ErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて3質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、Ag基板に付着させ、1%O2−Ar中で、940℃、3時間加熱して得た生成物(ErBa2Cu3O7-δ)のX線回折強度を示す図である。
【図8】上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果(倍率2000の顕微鏡写真)を示す。
【図9】酸素付加処理を施した上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)の帯磁率の温度依存性を示す図である。
【図10】酸素付加処理を施した上記生成物(ErBa2Cu3O7-δ)の臨界電流密度(Jc)の磁場(B)依存性を示す図である。
【図11】Ag基板上に、RE123系超電導体の結晶が板状にかつ配向して生成する態様を示す図である。(a)は全面的な成長態様を示す図であり、(b)はその断面を示す図である。
【図12】粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末をErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて4質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、Agパイプに充填した後、板厚0.3mmに減面加工し、1%O2−Ar中で、925℃で8分間加熱した後、875℃で2時間、加熱処理を施して生成した生成物のX線回折強度を示す図である。
【図13】上記生成物の断面の微細組織を示す図である。
【図14】粒径約0.1μmの混合原料粉(1〜5μmのEr2BaO4粉末と同Bax−Cuy−Oz系粉末をErBa2Cu3O7-δが得られる混合比で混合し、さらに、Ag2Oを用いて4質量%のAgを添加した後、約4時間粉砕)を、Agパイプに充填した後、板厚0.3mmに減面加工した材料を、1%O2−Ar中で、925℃で8分間加熱した後、4種の温度で2時間加熱処理を行った生成物の磁化の温度依存性を示す図である。(a)875℃、(b)850℃、(c)825℃、(d)800℃。
【図15】図12に示す生成物の電流−電圧特性を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料の混合原料を用いて形成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層、及び、該導電層を保持する保持部材からなることを特徴とするRE123系酸化物超電導体。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【請求項2】
前記Bax−Cuy−Oz系原料が、金属酸化物、及び/又は、その化合物を混合したものであることを特徴とする請求項1に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項3】
前記x、y、zが、2x≦y≦2.2x、及び、z=x+yを満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項4】
前記混合原料が、15質量%以下のAg又はAg酸化物を含有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項5】
前記REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体が、非超電導相を分散して含むものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項6】
前記保持部材が、長尺のものであって、長手方向に垂直な断面において、導電層と一部で又は全周にわたり接触していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項7】
前記保持部材が、金属材料で構成されたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項8】
前記金属材料が、化学的に活性な液相と反応せず、かつ、酸素を透過する金属材料であることを特徴とする請求項7に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項9】
前記金属材料が、化学的に活性な液相と反応しない材料を含む中間層で被覆されていることを特徴とする請求項7又は8に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項10】
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する
ことを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【請求項11】
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)1回又は2回以上の減面加工を施し、その後、
(c)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する
ことを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【請求項12】
前記(b)及び(c)の処理を繰り返して、より結晶配向性の優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とする請求項11に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項13】
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱しつつ、1回又は2回以上の減面加工を施し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する
ことを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【請求項14】
前記(b)を繰り返して、より結晶配向性の優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とする請求項13に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項15】
前記REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する際、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度への加熱に続き、該温度より低い温度に加熱する熱処理を1回以上行うことを特徴とする請求項10〜14のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項16】
前記混合原料の粒径を1μm未満に細粒化し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化すことを特徴とする請求項10〜15のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項17】
前記酸素を含む雰囲気の酸素分圧を0.02MPa以下に低減し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化することを特徴とする請求項10〜16のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項18】
前記混合原料に15質量%以下のAg又はAg酸化物を添加し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化することを特徴とする請求項10〜17のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項19】
前記RE123系酸化物超電導体を、10MPa以上の等方圧力で加圧処理した後、加熱処理することを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項20】
前記RE123系酸化物超電導体を、0.5MPa以上の等方圧力下で加熱処理することを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項1】
少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料の混合原料を用いて形成したREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層、及び、該導電層を保持する保持部材からなることを特徴とするRE123系酸化物超電導体。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【請求項2】
前記Bax−Cuy−Oz系原料が、金属酸化物、及び/又は、その化合物を混合したものであることを特徴とする請求項1に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項3】
前記x、y、zが、2x≦y≦2.2x、及び、z=x+yを満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項4】
前記混合原料が、15質量%以下のAg又はAg酸化物を含有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項5】
前記REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体が、非超電導相を分散して含むものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項6】
前記保持部材が、長尺のものであって、長手方向に垂直な断面において、導電層と一部で又は全周にわたり接触していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項7】
前記保持部材が、金属材料で構成されたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項8】
前記金属材料が、化学的に活性な液相と反応せず、かつ、酸素を透過する金属材料であることを特徴とする請求項7に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項9】
前記金属材料が、化学的に活性な液相と反応しない材料を含む中間層で被覆されていることを特徴とする請求項7又は8に記載のRE123系酸化物超電導体。
【請求項10】
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する
ことを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【請求項11】
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)1回又は2回以上の減面加工を施し、その後、
(c)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する
ことを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【請求項12】
前記(b)及び(c)の処理を繰り返して、より結晶配向性の優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とする請求項11に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項13】
(a)少なくともRE2BaO4とBax−Cuy−Oz系原料を混合した混合原料の一部を保持部材に接触させ、次いで、
(b)酸素を含む雰囲気中で、保持部材とともに、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度に加熱しつつ、1回又は2回以上の減面加工を施し、REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する
ことを特徴とするRE123系酸化物超電導体の製造方法。
但し、REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYから選択される1種又は2種以上の元素
【請求項14】
前記(b)を繰り返して、より結晶配向性の優れたREBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成することを特徴とする請求項13に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項15】
前記REBa2Cu3O7-δ系酸化物超電導体を含む導電層を形成する際、Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度以上の温度への加熱に続き、該温度より低い温度に加熱する熱処理を1回以上行うことを特徴とする請求項10〜14のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項16】
前記混合原料の粒径を1μm未満に細粒化し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化すことを特徴とする請求項10〜15のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項17】
前記酸素を含む雰囲気の酸素分圧を0.02MPa以下に低減し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化することを特徴とする請求項10〜16のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項18】
前記混合原料に15質量%以下のAg又はAg酸化物を添加し、前記Bax−Cuy−Oz系原料の溶解温度をより低温化することを特徴とする請求項10〜17のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項19】
前記RE123系酸化物超電導体を、10MPa以上の等方圧力で加圧処理した後、加熱処理することを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項20】
前記RE123系酸化物超電導体を、0.5MPa以上の等方圧力下で加熱処理することを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載のRE123系酸化物超電導体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【図8】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【図8】
【図13】
【公開番号】特開2006−310259(P2006−310259A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300766(P2005−300766)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】
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