説明

RFID用複合磁性体及びRFID用アンテナ装置

【課題】 複合磁性体内部での帯電が起きないように設計された、換言すれば適切な導電率をもたせたRFID用複合磁性体を提供すると共に、静電気による共振周波数の変動の少ないRFID用アンテナ装置を提供する。
【解決手段】 RFID用アンテナ装置は、アンテナ基板1とRFID用複合磁性体10とを備え、アンテナ基板1は、絶縁基板2の片面にループ状アンテナとなる良導体アンテナパターン3を形成したものであり、RFID用複合磁性体10は少なくとも軟磁性金属粉末と結合剤とを含み、体積抵抗率が1000Ω・cm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MHz帯で使用されるRFID(Radio Frequency Identification)の感度向上や良導体の影響を軽減する目的で使用されるRFID用複合磁性体及びそれを用いたRFID用アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFID技術を用いた無線通信システムが注目されている。この通信システムは一般に、各種データを記憶可能なデータキャリアと、このデータキャリアに対して非接触で情報の読み書き(リード/ライト)を行なうリーダライタとで構成される。データキャリアは、その形状や大きさ等に応じてRFIDタグ(無線ICタグ)、非接触ICカード等と呼ばれる(以下では、総称して非接触ICカードと呼ぶ)。この非接触ICカードに利用される無線周波数帯としては、135kHz以下の帯域、13.56MHz帯、及び2.45GHz帯等がある。この非接触ICカードは、使用者にとって取り扱いが容易であること等から、最近では交通機関の自動改札機等、各種入退出管理に利用されている。またその他にも、電子マネーや物品管理等への応用も検討されている。
【0003】
これら、非接触ICカード、リーダライタは、一般にループ状アンテナ(アンテナコイル)が内蔵されており、リーダライタのアンテナが発する磁場を介して、電磁誘導により非接触ICカードに電力が供給され、データのリード/ライトが行なわれる。
【0004】
ところで、それらのアンテナの周囲が金属等の良導体により構成されている場合(例えば、非接触ICカードが金属製の物品に装着されている場合)、通信用電力の一部が良導体表面に発生する渦電流等の影響で損失するため、通信距離が短くなるという問題があった。
【0005】
この対策として、下記特許文献1及び特許文献2では、アンテナと物品との間に複合磁性体等の軟磁性部材を挿入することにより、アンテナ特性を改善する提案がなされている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−290131号公報
【特許文献2】特許第3647446号公報
【0007】
これら軟磁性部材については、より高い透磁率であることが好ましく、軟磁性粉末と結合材からなる複合磁性体においては、比較的高い透磁率の得やすい偏平状の軟磁性金属磁粉末が広く利用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、非接触ICカードのループ状アンテナ近傍に磁性体を配置する場合、磁性体の透磁率並びに誘電率により当該アンテナの共振周波数は大きく変動することは周知の事実である。そのため、アンテナの設計を行なうためには、ループ状アンテナと磁性体(さらに場合によっては背面の物品)を組み合わせた状態で所望の共振周波数となるように、アンテナパターンや該アンテナパターンに接続されるコンデンサを設定することにより設計を行なう。
【0009】
ここで、本発明者等の研究の成果により、前記アンテナ近傍に位置する複合磁性体部分に間接又は直接的に静電気が印加された場合に、複合磁性体内部に電荷が帯電し、それにより複合磁性体の実効的な誘電率が変化し、結果、非接触ICカードの共振周波数が変化することが分かった。特に、軟磁性粉末として前述した金属磁性粉を使用した場合において共振周波数の変化が顕著に認められた。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑み、複合磁性体内部での帯電が起きないように設計された、換言すれば適切な導電率をもたせたRFID用複合磁性体を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、複合磁性体内部での帯電が起きないように設計されたRFID用複合磁性体を用いることにより、静電気による共振周波数の変動の少ないRFID用アンテナ装置を提供することをもう1つの目的とする。
【0012】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、第1発明に係るRFID用複合磁性体は、少なくとも軟磁性金属粉末と結合剤とを含み、体積抵抗率が1000Ω・cm以下であることを特徴としている。
【0014】
第2発明に係るRFID用複合磁性体は、少なくとも軟磁性金属粉末と結合剤とを含み、体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴としている。
【0015】
第3発明に係るRFID用複合磁性体は、第1又は第2発明において、前記軟磁性金属粉末が扁平状Fe−Ni系合金、Fe−Si−Cr系合金又はFe−Si−Cr−Ni系合金であることを特徴としている。
【0016】
第4発明に係るRFID用複合磁性体は、第1、第2又は第3発明において、前記軟磁性金属粉末が86重量部以上含有されてなることを特徴としている。
【0017】
第5発明に係るRFID用アンテナ装置は、通信対象側との間で磁場を送信又は受信するアンテナと、該アンテナに対し磁場の送信又は受信側の反対側に配置された複合磁性体とを備え、
前記複合磁性体は少なくとも軟磁性金属粉末と結合剤とを含み、体積抵抗率が1000Ω・cm以下であることを特徴としている。
【0018】
第6発明に係るRFID用アンテナ装置は、第5発明において、前記アンテナが基板の一面に設けられたループ状アンテナであり、前記複合磁性体が前記基板を挟んで前記ループ状アンテナと対向するシート状複合磁性体であることを特徴としている。
【0019】
第7発明に係るRFID用アンテナ装置は、第6発明において、前記ループ状アンテナと共振回路を構成するコンデンサが前記基板に設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るRFID用複合磁性体は、少なくとも軟磁性金属粉末と結合剤とを含み、体積抵抗率を1000Ω・cm以下(より好ましくは10Ω・cm以下)とすることにより、間接又は直接的に静電気が印加された場合であっても、複合磁性体内部に電荷が帯電することを防止し、ひいては、誘電率の変動を抑制することが可能である。
【0021】
従って、良導体物品がアンテナに近接することによる感度低下を防止する目的で、前記RFID用複合磁性体を、アンテナに対し磁場の送信又は受信側の反対側に配置してRFID用アンテナ装置を構成した場合、静電気に起因する誘電率の変動が小さいため、RFID用アンテナ装置の共振周波数の変動を抑制することが可能である。
【0022】
また、RFID用複合磁性体を配置したことで、静電気放電に起因する放電電流を導電特性、磁気特性の両方の作用により、減衰させることができ、他の回路等に静電気放電の悪影響が及ぶのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、RFID用複合磁性体及びRFID用アンテナ装置の実施の形態を図面に従って説明する。
【0024】
図1で本発明に係るRFID用複合磁性体及びRFID用アンテナ装置の実施の形態1を説明する。図1(A),(B)において、RFID用アンテナ装置は、アンテナ基板1とRFID用複合磁性体10とを備えるものである。アンテナ基板1は、絶縁基板2の片面にループ状アンテナとなる良導体アンテナパターン3を形成したものであり、ループ状アンテナは通信対象側(リーダライタ)からの磁場を受信し、また通信対象側に磁場を放射する機能を有する。
【0025】
RFID用複合磁性体10は一様な厚みのシート状(薄板状)であり、図1(B)のようにアンテナ基板1の磁場放射方向(送信又は受信側)の反対側、つまり前記絶縁基板2の他方の面に配置、固定されている。つまり、複合磁性体10は絶縁基板2を挟んでループ状アンテナと対向する配置となっている。また、絶縁基板2の同じ側の面にチップコンデンサ20が固着され、良導体アンテナパターン3に並列に接続されており、アンテナ基板1上のループ状アンテナと共に共振回路を構成している。なお、コンデンサ20は配線を介して別の回路基板に配置されても良いが、アンテナの共振周波数調整の作業性の観点からアンテナ基板1上に搭載されるほうが好ましい。
【0026】
RFID用アンテナ装置に情報記憶のためのICチップ25を組み合わせて非接触ICカードを構成する場合、ICチップ25はアンテナ基板1上に搭載されてもよいし、配線を介して別の回路基板に配置されてもよい。前記ICチップは例えば良導体アンテナパターン3の両端に電気的に接続される。
【0027】
図1(C)はRFID用アンテナ装置における共振回路の等価回路であり、Lは、RFID用複合磁性体10及びチップコンデンサ20の装着状態におけるループ状アンテナのインダクタンス成分、C1はチップコンデンサ20の静電容量、C2は複合磁性体10の配置に起因する静電容量及びその他の浮遊容量の和である。
【0028】
図1(C)から判るように、静電気でRFID用複合磁性体10が帯電することに起因してRFID用複合磁性体10の実効的な誘電率が変化した場合、静電容量C2が変化し、この結果、ループ状アンテナ、チップコンデンサ、及び複合磁性体配置等に起因する静電容量を含む共振回路の共振周波数が変動してしまう。このことは、例えば13.56MHz帯において非接触ICカードとリーダライタ間の電磁誘導で通信を行うことを前提としたシステムの場合、相互の共振周波数がずれることにより、通信の感度が低下する問題がある。
【0029】
そこで、本実施の形態では、RFID用複合磁性体10内部で帯電が起きないように(換言すれば実効的な誘電率が変動しないように)、複合磁性体10を構成しており、その代表的な特徴は、複合磁性体に適切な導電率を持たせたことにある。適切な導電性を持った複合磁性体は、静電気が印加されても、複合磁性体内部に電荷が帯電する現象は起きない。本発明者等は、実験的に複合磁性体10の体積抵抗率が1000Ω・cm以下であれば共振周波数の変動を1%以下に、500Ω・cm以下であれば共振周波数の変動を0.5%以下に抑制することが可能であることを見いだした。さらに、体積抵抗率10Ω・cm以下に設定すれば、共振周波数の変動を0.2%以下に抑制でき、変動を実質的に無視でき、いっそう好ましい。一方、複合磁性体10の体積抵抗率が1000Ω・cmより大きい場合には、複合磁性体に電荷が帯電する現象が顕著になり、誘電率の変化量が無視できない大きさとなるため好ましくない。
【0030】
なお後述するように、複合磁性体は、結合剤として各種合成ゴムや熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの絶縁性の高い材料を使用するため、複合磁性体自体の抵抗率はパーマロイ、電磁軟鉄、ケイ素鋼板などの金属磁性体のように大きく低下することはないが、複合磁性体で発生する渦電流を抑制するために、体積抵抗率として0.1Ω・cm以上とすることが好ましく、必要があれば、ループ状アンテナとほぼ直交する方向で複合磁性体に隙間を設けることが好ましい。
【0031】
前記RFID用複合磁性体10は少なくとも軟磁性粉末と結合剤とを含むものであり、軟磁性粉末としては、導電性を有する軟磁性金属粉末、例えばFe−Ni系合金粉末やFe−Si−Cr系合金粉末、Fe−Si−Cr−Ni系合金粉末等が好適に使用可能であり、高透磁率化ならびに適切な導電性を確保するために、扁平形状が好ましい。結合剤としては、特に限定されるものではなく、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム等の各種合成ゴムや、塩素化ポリエチレン、エチレン-ビニルアセテート共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂等の各種熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などが主材として使用可能である。また、必要に応じ、添加剤として、シランカップリング剤や脂肪酸などの表面改質剤、水酸化物、赤燐、リン酸エステル等の難燃剤や架橋のための過酸化物等の架橋剤を加えてもよい。
【0032】
なお、RFID用複合磁性体10に、体積抵抗率1000Ω・cm以下の適切な導電性をもたせるために、カーボン、グラファイト、各種非磁性金属等の非磁性導電性粉末を添加してもよいが、非磁性導電性粉末を用いずに、前記軟磁性粉末として導電性の良好な磁性金属粉末を用いること、又は結合剤に対し非常に高密度に磁性金属粉末を含有させることにより、適切な導電性と磁気特性が得られる。例えば、軟磁性粉末として導電性の良好なFe−Ni系合金粉末を結合剤に対して比較的高密度に用いることにより、体積抵抗率1000Ω・cm以下に設定することができる。また、軟磁性粉末としてのFe−Si−Cr系合金粉末やFe−Si−Cr−Ni系合金粉末等を結合剤に対し非常に高密度(例えば86重量部以上)に含有させることでも体積抵抗率1000Ω・cm以下に設定することができる。
【0033】
この実施の形態1によれば、次の通りの効果を得ることができる。
【0034】
(1) RFID用複合磁性体10は、少なくとも軟磁性金属粉末と結合剤とを含み、体積抵抗率を1000Ω・cm以下(より好ましくは10Ω・cm以下)とすることにより、間接又は直接的に静電気が印加された場合であっても、複合磁性体内部に電荷が帯電することを防止し、ひいては、誘電率の変動を抑制することが可能である。
【0035】
(2) 従って、良導体物品がアンテナ基板1のループ状アンテナに近接することによる感度低下を防止する目的で、前記RFID用複合磁性体10を、ループ状アンテナに対し磁場の送信又は受信側の反対側に配置してRFID用アンテナ装置を構成した場合、複合磁性体10の静電気に起因する誘電率の変動が小さいため、RFID用アンテナ装置の共振周波数の変動を抑制することが可能である。
【0036】
(3) RFID用複合磁性体10を配置したことで、静電気放電に起因する放電電流を導電特性、磁気特性の両方の作用により、減衰させることができ、他の回路等に静電気放電の悪影響が及ぶのを防止できる。
【0037】
また、RFID用アンテナ装置にICチップを組み合わせた非接触ICカードが電子機器内(例えば携帯電話内)で使用される場合、RFID用複合磁性体の表面に絶縁性が要求される。このような場合には、図2の本発明の実施の形態2のように、絶縁性誘電体層30をRFID用複合磁性体10の少なくとも一部の面に装着又は形成することにより、高い絶縁性を確保することができる。なお、その他の構成は前述した実施の形態1と同様であり、同一又は相当部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0038】
また、RFID用複合磁性体の少なくとも一部の面に装着又は形成する絶縁性誘電体層に粘着性を持たせることにより、非接触ICカードのアンテナ部分に直接的に装着可能であり、この場合を本発明の実施の形態3として図3に示す。図3では、アンテナ基板1の片面に良導体アンテナパターン3として形成されたループ状アンテナ上に粘着性を有する絶縁性誘電体層31を介してRFID用複合磁性体10が装着されている。この場合、複合磁性体10の配置されていない側が、ループ状アンテナの磁場送受信側となる。なお、その他の構成は前述した実施の形態と同様であり、同一又は相当部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0039】
なお、実施の形態1,2又は3において、非接触ICカードが取り付けられる物品の影響を事前に取り除くために、RFID用複合磁性体のループ状アンテナとは逆側の面に、導電体層を装着又は形成することも可能である。さらに、導電体層表面に絶縁層を設けてもよい。
【0040】
以下、本発明に係るRFID用複合磁性体について実施例で詳述するとともに、後述するRFID基板のアンテナに貼り付けた場合における、ESDに対する共振周波数の変化について比較例と対比して検証する。
【実施例1】
【0041】
本発明の実施例1は軟磁性粉末として導電性の良好な軟磁性金属粉末を使用したものである。すなわち、軟磁性粉末として、扁平状Fe−Ni系合金粉末、結合剤として、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂を主材として用い、その他、添加剤として、水酸化物、赤燐、リン酸エステル等の難燃剤や架橋のための過酸化物等の架橋剤を加えたものを使用し、厚さ0.25mmのシート状複合磁性体を作成した。但し、軟磁性粉末:79重量部、結合剤:21重量部の配合割合とした。
【実施例2】
【0042】
本発明の実施例2は、結合剤に対し、高密度に軟磁性粉末を含有させることにより、導電性を持たせたものである。すなわち、軟磁性粉末として、扁平状Fe−Si−Cr−Ni系合金粉末、結合剤として、エチレンプロピレンゴムを主材として用い、その他、添加剤として、架橋のための過酸化物等の架橋剤を加えたものを使用し、厚さ0.25mmのシート状複合磁性体を作成した。但し、軟磁性粉末:86重量部、結合剤:14重量部の配合割合とした。
【実施例3】
【0043】
本発明の実施例3は、結合剤に対し、高密度に軟磁性粉末を含有させることにより、導電性を持たせたものである。すなわち、軟磁性粉末として、扁平状Fe−Si−Cr系合金粉末、結合剤として、エチレンプロピレンゴムを主材として用い、その他、添加剤として、架橋のための過酸化物等の架橋剤を加えたものを使用し、厚さ0.25mmのシート状複合磁性体を作成した。但し、軟磁性粉末:88重量部、結合剤:12重量部の配合割合とした。
【0044】
[比較例1]
軟磁性粉末として、扁平状Fe−Si−Cr−Ni系合金粉末、結合剤として、エチレンプロピレンゴムを主材として用い、その他、架橋のための過酸化物等の架橋剤を加えたものを使用し、厚さ0.25mmのシート状複合磁性体を作成した。但し、軟磁性粉末:84重量部、結合剤:16重量部の配合割合とした。
【0045】
[比較例2]
軟磁性粉末として、扁平状Fe−Si−Cr系合金粉末、結合剤として、エチレンプロピレンゴムを主材として用い、その他、添加剤として、架橋のための過酸化物等の架橋剤を加えたものを使用し、厚さ0.25mmのシート状複合磁性体を作成した。但し、軟磁性粉末:83重量部、結合剤:17重量部の配合割合とした。
【0046】
(1) 体積抵抗率について
本発明に係る実施例1,2,3並びに比較例1,2の複合磁性体に関し、四探針法(JIS K 7194)又はリング電極法(JIS K 6911)にて測定した結果を下記表1に示す。

【表1】

【0047】
(2) RFID基板について
ガラスエポキシ基材(50mm×40mm×0.3mm)の片面に4ターンのループ状アンテナを形成し、前記基材のループ状アンテナとは逆側に、共振周波数調整用のチップ積層セラミックコンデンサ(60pF〜110pF)を電気的に並列接続して搭載し、RFID基板を作成した。本発明に係る実施例1,2,3並びに比較例1,2の複合磁性体を、前記基材のループ状アンテナの形成面側に両面粘着テープ(株式会社寺岡製作所製707N 厚さ30μm)を介して貼り付け、以下の検討1,2を行った。
【0048】
(3) 検討1 ESD放電が与える複合磁性体への影響について
(a) 複合磁性体の表面に、ESD放電装置(ノイズ研 ESS−630A、TC−815C)により、15kVの電圧を直接放電した際の、放電前後の13.56MHzにおける複素比誘電率ならびに複素比透磁率をネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー株式会社製 8753E)と同軸導波管(株式会社関東電子応用製)を使用してS11法により測定を行なった。
(b) 評価結果
誘電率の測定結果を下記表2に示す。また、透磁率の測定結果を表3に示す。なお、本発明に係る実施例1,2,3の複合磁性体では、導電性が高いため、正確な誘電率を測定できなかったため、記載していない。

【表2】


【表3】


静電気が印加されることにより、複合磁性体の誘電率が増加することが確認された。一方、透磁率については、静電気の印加による変化は認められなかった。
【0049】
(4) 検討2 ESDによる共振周波数変化検討
(a) 本発明に係る実施例1,2,3並びに比較例1,2の複合磁性体を48mm×38mmの方形寸法に打ち抜き加工し、上記両面粘着テープを介して上記RFID基板に貼り付け、ループ状アンテナとチップ積層セラミックコンデンサとを含む共振回路の共振周波数が13MHz〜14MHzになるよう当該コンデンサの容量を調整したRFID用アンテナ装置を作成し、複合磁性体表面に、ESD放電装置(ノイズ研 ESS−630A、TC−815C)により、15kVの電圧を直接放電した際の、ESD試験前後による共振周波数の変化について実験を行なった。
(b) 評価結果
共振周波数の変化量を下記表4及び図4に示す。

【表4】


本発明に係る実施例1,2,3の複合磁性体は、比較例1,2と比較して共振周波数の変化量が少なく、共振周波数の変化量が1%以下に収まることが確認された。共振周波数の変化量は、比較例1,2(体積抵抗率1000Ω・cmより大)では1%を遙かに超えるのに比べ、図4を参照すると、体積抵抗率が1000Ω・cm以下で1%以下、500Ω・cm以下で0.5%以下であり、さらに10Ω・cm以下の場合、0.2%以下にまで変化量を抑えることが可能なことが確認された。
【0050】
以上、検討1ならびに検討2の結果から、静電気印加による複合磁性体の誘電率の変化によりループ状アンテナの容量が変わり(ループ状アンテナを含む共振回路の容量成分が変化し)、その結果、共振周波数が変化してしまうことが確認された。また、複合磁性体の体積抵抗率を適切値(1000Ω・cm以下)とすることで、共振周波数変化量を抑制可能であることが判った。
【0051】
以上本発明の実施の形態及び実施例について説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく請求項の記載の範囲内において各種の変形、変更が可能なことは当業者には自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係るRFID用複合磁性体及びRFID用アンテナ装置の実施の形態1であって、(A)は平面図、(B)は底面図、(C)は等価回路図である。
【図2】本発明の実施の形態2を示す正面図である。
【図3】本発明の実施の形態3を示す正面図である。
【図4】本発明の実施例1,2,3及び比較例1,2の測定結果より得た体積抵抗率と共振周波数変化量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1 アンテナ基板
2 絶縁基板
3 アンテナパターン
10 RFID用複合磁性体
20 チップコンデンサ
25 ICチップ
30,31 絶縁性誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも軟磁性金属粉末と結合剤とを含み、体積抵抗率が1000Ω・cm以下であることを特徴とするRFID用複合磁性体。
【請求項2】
少なくとも軟磁性金属粉末と結合剤とを含み、体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴とするRFID用複合磁性体。
【請求項3】
前記軟磁性金属粉末が扁平状Fe−Ni系合金、Fe−Si−Cr系合金又はFe−Si−Cr−Ni系合金であることを特徴とする請求項1又は2記載のRFID用複合磁性体。
【請求項4】
前記軟磁性金属粉末が86重量部以上含有されてなる請求項1,2又は3記載のRFID用複合磁性体。
【請求項5】
通信対象側との間で磁場を送信又は受信するアンテナと、該アンテナに対し磁場の送信又は受信側の反対側に配置された複合磁性体とを備え、
前記複合磁性体は少なくとも軟磁性金属粉末と結合剤とを含み、体積抵抗率が1000Ω・cm以下であることを特徴とするRFID用アンテナ装置。
【請求項6】
前記アンテナが基板の一面に設けられたループ状アンテナであり、前記複合磁性体が前記基板を挟んで前記ループ状アンテナと対向するシート状複合磁性体である請求項5記載のRFID用アンテナ装置。
【請求項7】
前記ループ状アンテナと共振回路を構成するコンデンサが前記基板に設けられている請求項6記載のRFID用アンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−12689(P2007−12689A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188416(P2005−188416)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】