説明

RR間隔指標を取得する方法およびシステム

【構成】 NAMマイクロフォン10を、人体の所定部位の体表面上に装着し、そのNAMマイクロフォンに組み込まれるコンデンサマイクロフォンで、調音呼気音(NAM)による振動波形(原信号)を取り出す。この原信号をローパスフィルタ処理することによって得た基本信号に基づいてテンプレート信号を作り(S3)、そのテンプレート信号と基本信号との相互相関関数を計算して出力信号を得る(S5)。出力信号波形のピーク間間隔時間をRR間隔(代替指標)としてカウントする(S7)。
【効果】 被験者の所定部位にNAMマイクロフォンを装着するだけで、RR間隔またはそれの代替指標を取得できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はRR間隔指標を取得する方法およびシステムに関し、特にたとえば、NAMマイクロフォンを利用して心電図のRR間隔と同等の一過性の変化や呼吸性変動を捉えられる、新規なRR間隔指標を取得する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の拍動は、自律神経によってリズムの調整がなされている。自律神経は、交感神経と副交感神経とからなり、両者は拮抗的に働く。交感神経は、緊張や興奮など何らかのストレス状態になったときに優位となり、反対に副交感神経が優位のときは、心臓の働きは抑制される。したがって、心拍数やRR間隔変動(心拍変動)を測定することにより自律神経の影響、さらにそれを変化させる原因となっている精神的な安定度やストレスの程度などを類推することができる。ただし、RR間隔とは、心電図の波形で一番大きくスパイク状に出るR波と次のR波までの間隔のことである。
【0003】
このようなRR間隔を計測するためには被験者の体に電極を装着して心電図データを取得する方法が一般的であるが、電極を装着することはそれ自体がストレスを与えることになり、RR間隔からストレスを類推する場合などには不適当である。
【0004】
電極を装着しないでRR間隔を計測できる方法が、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2001−8922号[A61B5/16 5/0402]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の従来技術では、電極装着の必要はないが、被験者を座位において固定する必要があり、たとえば看護師などの動きを伴う作業者のRR間隔計測には不適である。
【0006】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、RR間隔指標を取得する方法およびシステムを提供することである。
【0007】
この発明の他の目的は、動きを伴う作業者であっても簡便にRR間隔指標を得ることができる、RR間隔指標を取得する方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、被験者の所定部位の体表面上に、軟弾性材料を介して、装着される機械‐電気変換マイクロフォンを用いてRR間隔指標を取得する方法であって、機械‐電気変換マイクロフォンからの基本信号をノイズ除去処理することによって得た基本信号に基づいてテンプレート信号を作るテンプレート信号作成ステップ、テンプレート信号と基本信号との相互相関関数を計算して出力信号を得る相互相関関数計算ステップ、および出力信号のピーク間時間間隔をカウントするカウントステップを含む、方法である。
【0009】
請求項1の発明では、たとえばNAMマイクロフォン(10:実施例で対応する部分またはコンポーネントを示す参照符号。以下、同様。)を用い、機械‐電気変換マイクロフォン(14)がたとえばソフトシリコーンのような軟弾性材料を介して、被験者の体表面上に装着される。コンデンサマイクロフォンには被験者の筋肉や結合組織などの軟部組織を通して、調音呼気音の振動が伝達される。軟弾性材料の音響インピーダンスは、被験者の軟部組織の音響インピーダンスとほぼ等しいため、被験者の軟部組織から体表面を介して伝導する調音呼気音の反射がなく、調音呼気音がほぼそのまま機械‐電気変換マイクロフォンに到達する。したがって、機械‐電気変換マイクロフォンで効率よく、調音呼気音を電気信号に変換することができる。
【0010】
この発明は、上記のごとき調音呼気音の波形には、被験者の呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化も重畳されているという、発明者等が実験の過程で発見した知見に基づくものである。
【0011】
すなわち、この発明では、機械‐電気変換マイクロフォンからの基本信号を、ノイズ除去処理、たとえば100Hzでローパスフィルタ処理することによって得た基本信号に基づいてテンプレート信号を形成し、そのテンプレート信号と基本信号との相互相関関数を計算する。相互相関関数の計算結果(データ列)には鋭いピークが形成される。発明者等は、そのピーク間間隔がRR間隔の代替指標として利用可能なことを実験によって確認した。
【0012】
請求項1の発明では、被験者には機械‐電気変換マイクロフォンを軟弾性材料を介して装着するだけでよく、装着の負担は極めて小さくなるので、電極を装着して心電図データからRR間隔を計測する方法に比べて、被験者に余計なストレスを与えたりすることがない。さらに、被験者は機械‐電気変換マイクロフォンを装着した状態でも移動や作業をすることができるので、動きを伴う作業者のヒヤリ・ハットの検出やストレス・緊張の評価にも利用できる。
【0013】
テンプレート信号は、請求項2あるいは請求項3に記載した発明に従って形成することができる。
【0014】
具体的には、請求項2の発明は、テンプレート信号作成ステップは、基本信号の所定帯域の帯域平均パワー信号を計算する帯域平均パワー信号計算ステップ、帯域平均パワー信号のピークを検出するピーク検出ステップ、ピークの前後の予め設定した第1時間幅で基本信号を切出す切出しステップ、および切出した基本信号の加算平均を計算する加算平均計算ステップを含み、加算平均計算ステップの結果をテンプレート信号として利用する、請求項1記載の方法である。
【0015】
請求項2の発明では、1回だけの一連の処理でテンプレート信号を作成するので、テンプレート信号の精度は余りよくないが、計算負荷が小さくて済むという利点がある。これに対して、請求項3の発明では、テンプレート信号の精度をさらに改善することができる。請求項3の発明は、テンプレート信号の精度を改善するために、請求項2の発明で得られた第1テンプレート信号による処理を経て第2テンプレート信号を作成する。
【0016】
具体的には、請求項3の発明は、テンプレート信号作成ステップは、さらに、加算平均をテンプレートとして基本信号との相互相関関数を計算して第2出力信号を得る第2相互相関関数計算ステップ、第2出力信号のピークを検出する第2ピーク検出ステップ、ピークの前後の予め設定した第2時間幅で基本信号を切出す第2切出しステップ、および切出した基本信号の加算平均を計算する第2加算平均計算ステップを含み、第2加算平均計算ステップの結果をテンプレート信号として利用する、請求項2記載の方法である。
【0017】
請求項4の発明は、被験者の所定部位の体表面上に、軟弾性材料を介して、装着される機械‐電気変換マイクロフォンを用いてRR間隔指標を取得するシステムであって、機械‐電気変換マイクロフォンからの基本信号をノイズ除去処理することによって得た基本信号に基づいてテンプレート信号を作るテンプレート信号作成手段、テンプレート信号と基本信号との相互相関関数を計算して出力信号を得る相互相関関数計算手段、および出力信号のピーク間時間間隔をカウントするカウント手段を備える、システムである。
【0018】
請求項4の発明でも、請求項1の発明と同様の効果が期待できる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、被験者の所定部位の体表面上に、軟弾性材料を介して、機械‐電気変換マイクロフォンを装着するだけで、RR間隔指標を簡便に取得できる。さらに、被験者の所定部位に機械‐電気変換マイクロフォンを装着するだけでよいので、動きを伴う作業者(被験者)であっても、利用可能である。
【0020】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1はこの発明の実施例で用いるNAMマイクロフォン10を被験者に装着した状態を示す図解図である。ただし、この図1の実施例では、この実施例の効果を検証するためだけに必要な心電計の電極3も同時に図示している。つまり、検証のための心電図は、3つの使い捨て電極3を用いて胸部(CM5)誘導で計測するようにした。
【0022】
つづいて、図1実施例で用いられるNAMマイクロフォン10について説明する。NAMマイクロフォンとは、本件発明者等が、非可聴つぶやき(NAM:Non-Audible Murmur)を利用した音声入力インタフェースの実現をめざして開発したものである。ここで、「非可聴つぶやき(NAM)」の語は、周囲の人が内容を聴取することが困難な、口の中で自己処理的に行う発話行動を指す、発明者等が提唱した造語である。これを音響学的にいえば、声帯振動を伴わない無声呼気音が発話器官の運動による音響的フィルタ特性変化により調音されて、人体頭部の主に軟部組織を伝導したもの、と定義できる。したがって、NAMマイクロフォンとは、一般的に表現すれば、声帯の振動を伴わない調音呼気音(NAM)の体内伝導を収集するために、体表面に接着または装着するマイクロフォンのことである。発明者等のNAM採取の実験の過程で、NAMマイクロフォンを特定部位に装着することによって、被験者の呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化が調音呼気音に重畳されることを確認した。NAM採取の観点からは、呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化は除去する必要があるが、一方では、心拍や呼吸情報は人の身体的および/または精神的状態を推定するのに有用な情報である。そこで、この実施例は、NAMマイクロフォンから得られる調音呼気音に呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化が重畳されるという、確認した事実に基づいて、新規な構成で、RR間隔の代替指標となる情報を取得しようとするものである。荷物の積み下ろしなどの動きの多いドライバ(運転手)や看護や患者の監視などのため激しい動作をする看護士などの作業場面では、装着の負担が可及的小さいことが要求されるので、このような小型のNAMマイクロフォン10を装着するだけでよいこの実施例は特に有用である。
【0023】
ただし、この実施例では上で定義したNAMそのものを利用するのではないので、この実施例で用いるNAMマイクロフォンとしては、体内の音を肉伝導などを介して取り出すことができる任意の構成のマイクロフォンが利用できる。
【0024】
つづいて、この実施例に好適するNAMマイクロフォンについて、必要な範囲で、図2および図3を参照して説明する。
【0025】
図2に示すNAMマイクロフォン10は、軟弾性材料、たとえばソフトシリコーンのような樹脂からなる截頭円錐形(頂部を切り取った形の円錐形)の装着部12を有し、この装着部12の截頭部上端面にコンデンサマイクロフォン(Electret Condenser Microphone)14を接着する。このコンデンサマイクロフォン14は、よく知られているように、適宜の間隔を隔てた2枚の電極16を有し、電極間容量の変化で音声振動を検知するものである。つまり、ソフトシリコーンからなる装着部12が被験者の特定部位の体表面1Aに接着または装着され、この装着部12を介して伝播する調音呼気音(それに重畳した呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化も含む)による振動に応じて、2つの電極16の間の容量が変化するので、その容量変化を電気信号として取り出すことによって、調音呼気音およびそれに重畳している波形の電気信号が得られる。この波形信号(電気信号)が端子18から取り出される。なお、外部雑音を遮断するために、装着部12の上方に、コンデンサマイクロフォン14を囲繞するように、ケース20が設けられる。このケース20は金属もしくは樹脂で形成され得る。
【0026】
図3に示すNAMマイクロフォン10も、図2のものと同様に、たとえばソフトシリコーンのような軟弾性材料からなる截頭円錐形の装着部12を有するが、この例では、コンデンサマイクロフォン14は、図2の例とは異なり、装着部12の材料中に埋め込まれる。そして、装着部12が被験者の特定部位の体表面1Aに接着または装着され、図2の場合と同様に、調音呼気音の波形およびそれに重畳した呼吸音や心臓の拍動に関連した波形の電気信号を端子18から取り出す。なお、この図3の例でも、外部雑音を遮断するために、装着部12の上方に、装着部12を全体的に囲繞するように、金属または樹脂のケース20が設けられる。図2ではコンデンサマイクロフォン14が装着部12から露出しているのに対し、図3のNAMマイクロフォン10では、コンデンサマイクロフォン14は装着部14の軟弾性材料内に完全に埋め込まれている。この構造によれば、コンデンサマイクロフォン14の裏面や側背部から外部ノイズが浸透する領域と、体表面から伝わる振動音が伝達される領域とを隔離し易く、人体の肉内にコンデンサマイクロフォンを直接埋め込んだと同様の効果が期待できる。
【0027】
なお、装着部12の素材としては、実施例では、松風株式会社製の歯科複模型用シリコーン印象剤「デュプリコーン(DUPLICONE: vinyl polysiloxane)」を用いた。
【0028】
NAMマイクロフォンについては、発明者等による別の論文に詳しいので、ここでは参考のためにその論文を引用する。
【0029】
(1) 中島淑貴,柏岡秀紀,キャンベルニック「非可聴つぶやき認識」電子情報通信学会論文誌D−II,Vol.J87−D−II,NO.9,pp.1757−1764,2004
(2) 鹿野清宏,中島淑貴,竹苗浩司,柏岡秀紀,鹿野清宏,キャンベルニック「NAM Interface Communication」情処研報,Vol.2004,No.74,pp.33−40,2004
図1の実施例では、図2または図3に示すNAMマイクロフォン10を被験者1の所定部位、耳介後下方部に装着する。詳しく説明すると、頭蓋底の耳孔のすぐ後ろに乳様突起と呼ばれる骨の突起がある。これは首の筋肉(胸鎖乳突筋)と頭蓋骨とをつなぐ起始部となる部位である。この乳様突起に振動版の上部が一部かかる位置にNAMマイクロフォン10を装着する。このように装着することで、固定板が乳様突起という骨の先端に一部かかるので、NAMマイクロフォン10がしっかりと当該部位に固定される。ただし、振動板の中心は筋肉の上にある。解剖学的にみると、この筋肉の部分は、調音器官である声道を、上は頭蓋底、左右は下顎骨と頸椎とに挟まれた骨の窓を通して、斜め後ろ側から水平に眺めた形になる。骨などの音響的障害物なしに、筋肉や結合組織などのほぼ同じ音響インピーダンスの軟部組織だけを通して直線的に見渡せる構造となっており、調音器官の共鳴による音響フィルタ特性を捕らえるのに適している。
【0030】
この実施例では、本来のNAM採取も兼ねているので、調音器官の共鳴による調音呼気音を効率的にピックアップできる位置にNAMマイクロフォン10を装着した。しかしながら、もし、NAM採取が必要なく、ただ心拍情報だけを取得するためには、上で説明した位置とは異なる位置にNAMマイクロフォン10を装着するようにしてもよい。たとえば、被験者の胸、手首、臀部下方などが考えられる。
【0031】
このような部位の体表面1A上に、図2または図3のNAMマイクロフォン10を取り付けると、装着部12が軟弾性材料であり、その軟弾性材料の音響インピーダンスは、被験者の上記軟部組織の音響インピーダンスと等しいかほぼ等しいため、その軟部組織から体表面を経て伝導する調音呼気音(それに重畳した呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化も含む)の体表面1Aと装着部12との界面での反射が少なく、その調音呼気音による振動がほぼそのままNAMマイクロフォン10内のコンデンサマイクロフォン14に到達する。したがって、コンデンサマイクロフォン14で効率よく、調音呼気音やそれに重畳した呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化を電気信号に変換することができる。
【0032】
なお、実験では、NAMマイクロフォン10を被験者の耳介後下方部に装着するために、カチューシャ(C字状に丸く曲げて弾力を持たせたプラスチックなどからなるヘアバンド)状の装着具を用いたが、このNAMマイクロフォン10の装着または接着方法は、外れたりずれたりしなければ、テープで止めるなど任意でよい。
【0033】
このNAMマイクロフォン10からの信号は図4に示すように、マイクロフォンアンプ22によって増幅されて、コンピュータ24に入力される。つまり、NAMマイクロフォン10からのNAMのアナログ信号がA/D変換器26を介して、NAMマイクロフォン10からの基本信号データとしてコンピュータ24に入力される。
【0034】
そして、コンピュータ24は、図5に示すフローチャートに従って、RR間隔を計測する。最初のステップS1では、コンピュータ24は、A/D変換器26から、NAMマイクロフォン10の基本信号データを取り込む。この基本信号データは、コンピュータ24の内部メモリ(図示せず)に順次蓄積される。そして、ステップS2において、その原信号データをたとえば100Hzのローパスフィルタ処理することによって、基本信号データを得る。この基本信号に基づいてステップS3でテンプレート信号を作成する。ただし、このステップS2は基本的にはノイズ除去処理であり、ローパスフィルタ以外の他のノイズ除去フィルタ、あるいは、特徴抽出フィルタ、さらにはバンドパスフィルタ等の処理であってもよい。
【0035】
ここで、図6を参照して、ステップS3のテンプレート信号作成ステップについ詳細に説明する。
【0036】
図6の最初のステップS11では、コンピュータ24は、NAMマイクロフォン10からの基本信号の帯域平均パワーを計算する。一例として、たとえば図7に示すような基本信号を、心拍数が含まれる周波数帯域あるいは心音のI音かII音の帯域に相当する帯域(実施例では50−100Hz)のバンドパスフィルタ処理し、そのバンドパスフィルタ処理された信号の平均パワーを計算する。その結果である帯域平均パワー波形の一例が図8に示される。
【0037】
ただし、帯域平均パワーは、たとえばフーリェ変換などの周波数解析から計算するなど、任意の方法で計算されてもよい。また、帯域周波数の上限や下限の周波数、さらには周波数帯域幅も適宜変更可能である。つまり、実施例ではII音を抽出することにして、50−100Hzの周波数帯域を用いたが、I音に対応する帯域でもよいし、個人や装着場所によって適応的に周波数帯域を決めればよい。
【0038】
図8に示すように、帯域平均パワー波形にはパワー値のピークが形成されるので、図6の次のステップS13では、コンピュータ24は、その帯域平均パワー波形のピークをトリガとして、ピーク毎に、基本信号データを繰り返し抽出する。抽出する時間幅は、一例として、ピークの前のたとえば0.5秒からピークの後のたとえば0.2秒までの0.7秒間とした。抽出時間幅や、抽出開始時間および抽出終了時間なども適宜変更可能であるが、いずれにしても、ピーク毎にピークを含む前後の一定時間幅(第1時間幅)の間、基本信号データが繰り返し抽出され、メモリ(図示せず)内に蓄積される。抽出信号の一例が図9に示される。
【0039】
図6のステップS15では、コンピュータ24は、ステップS13で抽出し蓄積しておいた基本信号データの加算平均(第1加算平均)を計算して、テンプレート信号(第1テンプレート信号)を得る。第1テンプレート信号もまた適宜コンピュータ24内にメモリされる。第1テンプレート信号の一例が図10に示される。
【0040】
その後、ステップS17において、コンピュータ24は、第1テンプレート信号と基本信号との相互相関関数(第1相互相関関数)を計算する。第1相互相関関数波形の一例が図11に示される。
【0041】
図11に示すように、第1相互相関関数波形にはピークが形成されるので、次のステップS19では、コンピュータ24は、その第1相互相関関数波形のピークをトリガとして、ピーク毎に、基本信号データを繰り返し抽出する。抽出する時間幅は、一例として、ピークの前のたとえば0.35秒からピークの後のたとえば0.35秒までの0.7秒間とした。ただし、抽出時間幅や、抽出開始時間および抽出終了時間なども適宜変更可能であるが、いずれにしても、第1相互相関関数波形のピーク毎にピークを含む前後の一定時間幅(第2時間幅)の間、基本信号データが繰り返し抽出され、メモリ内に蓄積される。抽出信号の一例が図12に示される。
【0042】
続くステップS21では、コンピュータ24は、ステップS19で繰り返し抽出した基本信号データの加算平均(第2加算平均)を計算して、テンプレート信号(第2テンプレート信号)を得る。第2テンプレート信号はコンピュータ24内のメモリに保持される。第2テンプレート信号の一例が図13に示される。
【0043】
図5に戻って、この実施例では、図13に示す第2テンプレート信号をステップS5でのテンプレート信号として用いる。すなわち、ステップS5では、コンピュータ24は、ステップS3で求めたテンプレート信号、つまり第2テンプレート信号と基本信号との相互相関関数(第2相互相関関数)を計算して出力波形を得る。この第2相互相関関数の波形すなわち出力波形の一例が図14に示される。図14から分かるように、テンプレート信号と基本信号との相互相関関数の波形にはピークが形成されるので、図14の波形をたとえば閾値処理することによってこのピークを検出し、前のピークから次のピークまでの時間をコンピュータ24でカウントすれば、ピーク間時間間隔を計測することができる。そのピーク間時間間隔がRR間隔に相当する。
【0044】
比較のために、図1の電極3を使って同じ被験者の心電図(ECG)を得て、その心電図からRR間隔を計測した(図15)が、この図15に示す正規のRR間隔と、図14の第2相関関数は形成のピーク間時間間隔とのずれ(誤差)は、図16に示すように、数(多くても5)ミリ秒以下であることが確認できた。この程度の誤差であれば、被験者の瞬時の心拍変動によるRR間隔の変動も確実に検出できる。したがって、この実施例のように、NAMマイクロフォン10からの基本信号に基づいてテンプレート信号を作成し、そのテンプレート信号と基本信号との相互相関関数の波形を得て、ピーク間時間間隔を計測することによって、そのピーク間時間間隔をRR間隔の代替指標として利用することができる。
【0045】
上述の実施例では、第1テンプレート信号に基づいて第2テンプレート信号を作り、その第2テンプレート信号を使うようにした。その理由は、一定以上のテンプレート信号の精度すなわちRR間隔の精度を確保するためである。したがって、第1テンプレート信号だけでも必要な精度が得られる場合、あるいはそのような用途では、第1テンプレート信号をステップS5のテンプレート信号として用いるようにしてもよい。この場合には、当然、図6のステップS17-S21までは省略される。したがって、この場合には計算負荷は最小になる。
【0046】
さらに、実施例ではこのように2回目に得られたテンプレート信号を使うようにしたが、さらに精密にRR間隔を検出する必要があるときには、テンプレート信号の作成回数を3回以上にすればよい。たとえば、図6のステップ21で作った第2テンプレート信号を用いてステップS17を実行し、ステップS19およびS21を繰り返し実行すれば、結局、最後のステップS21では実施例の第2テンプレート信号の精度がさらに改善された第3テンプレート信号を得ることができる。ただし、この場合には計算負荷が増大する。
【0047】
要するに、テンプレート信号の精度すなわちRR間隔の精度と計算負荷とはトレードオフの関係にあるので、用途に応じた最適条件を選考すればよい。
【0048】
さらに、上述の実施例では、全ての計算をコンピュータ24で行うものとしたが、たとえばDSP(Digital Signal Processor)などを用いて、たとえば図6の各ステップを個別に計算する専用回路(ハードウェア)を設けることによって、コンピュータ24の計算負荷を減じるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1はこの発明の一実施例においてNAMマイクロフォンを装着した状態を、参照のための他のセンサの装着状態とともに示す図解図である。
【図2】図2は図1の実施例に使用するNAMマイクロフォンの一例を示す断面図解図である。
【図3】図3は図1の実施例に使用するNAMマイクロフォンの他の例を示す断面図解図である。
【図4】図4はこの発明の一実施例を示すブロック図である。
【図5】図5は図4の実施例においてRR間隔(またはそれの代替指標)を検出するための動作を示すフロー図である。
【図6】図6は図5のテンプレート信号作成ステップを詳細に示すフロー図である。
【図7】図7はNAMマイクロフォンからの原信号をローパスフィルタ処理することによって得た基本信号を示す波形図である。
【図8】図8は基本信号の帯域平均パワーを示す波形図である。
【図9】図9は帯域平均パワー波形のピークをトリガとして基本信号を繰り返し抽出した重ね書き信号を示す波形図である。
【図10】図10は帯域平均パワー波形のピークをトリガとした第1加算平均信号(第1テンプレート信号)を示す波形図である。
【図11】図11は第1テンプレート信号と基本信号との相互相関関数(第1相互相関関数)を示す波形図である。
【図12】図12は第1相互相関関数波形のピークをトリガとして基本信号を繰り返し抽出した重ね書き信号を示す波形図である。
【図13】図13は第1相互相関関数波形のピークをトリガとした第2加算平均信号(第2テンプレート信号)を示す波形図である。
【図14】図14は第2テンプレート信号と基本信号との相互相関関数(第2相互相関関数)を示す波形図である。
【図15】図15は比較のために採取した心電図を示す波形図である。
【図16】図16は実施例で取得したRR間隔(代替指標)と図15の心電図から取得したRR間隔とのずれ(誤差)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
10 …NAMマイクロフォン
12 …装着部
14 …コンデンサマイクロフォン
22 …マイクロフォンアンプ
24 …コンピュータ
26 …A/D変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の所定部位の体表面上に、軟弾性材料を介して、装着される機械‐電気変換マイクロフォンを用いてRR間隔指標を取得する方法であって、
前記機械‐電気変換マイクロフォンからの原信号をノイズ除去処理することによって得た基本信号に基づいてテンプレート信号を作るテンプレート信号作成ステップ、
前記テンプレート信号と前記基本信号との相互相関関数を計算して出力信号を得る相互相関関数計算ステップ、および
前記出力信号のピーク間時間間隔をカウントするカウントステップを含む、方法。
【請求項2】
前記テンプレート信号作成ステップは、前記基本信号の所定帯域の帯域平均パワー信号を計算する帯域平均パワー信号計算ステップ、前記帯域平均パワー信号のピークを検出するピーク検出ステップ、前記ピークの前後の予め設定した第1時間幅で前記基本信号を切出す切出しステップ、および切出した基本信号の加算平均を計算する加算平均計算ステップを含み、前記加算平均計算ステップの結果を前記テンプレート信号として利用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記テンプレート信号作成ステップは、さらに、前記加算平均をテンプレートとして前記基本信号との相互相関関数を計算して第2出力信号を得る第2相互相関関数計算ステップ、前記第2出力信号のピークを検出する第2ピーク検出ステップ、前記ピークの前後の予め設定した第2時間幅で前記基本信号を切出す第2切出しステップ、および切出した基本信号の加算平均を計算する第2加算平均計算ステップを含み、前記第2加算平均計算ステップの結果を前記テンプレート信号として利用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
被験者の所定部位の体表面上に、軟弾性材料を介して、装着される機械‐電気変換マイクロフォンを用いてRR間隔指標を取得するシステムであって、
前記機械‐電気変換マイクロフォンからの基本信号をノイズ除去処理することによって得た基本信号に基づいてテンプレート信号を作るテンプレート信号作成手段、
前記テンプレート信号と前記基本信号との相互相関関数を計算して出力信号を得る相互相関関数計算手段、および
前記出力信号のピーク間時間間隔をカウントするカウント手段を備える、システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−236534(P2007−236534A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61235(P2006−61235)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「日常行動・状況理解に基づく知識共有システムの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】