説明

SCF発現阻害剤

【課題】 SCFの発現を阻害し、医薬、化粧料又は食品として有用なSCFの発現阻害剤を提供すること。
【解決手段】 プレニ(Pureni)、ケンポナシ、カファール(Kaphal)、ガンディラ(Gandirah)、アマチャ、メリロート、ショウキョウ、セイヨウネズ、セイヨウハッカ、テンチャ、モモ葉、ナツメ、クマザサ、クロバナヒキオコシ、タイラ(Tilah)、キハダ、ベニバナ、ウワウルシ若しくはコウホネ又はそれらの抽出物を有効成分とするSCF発現阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー疾患等の予防・治療等に有用なSCF発現阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
SCFは、造血細胞の増殖、分化を促す増殖因子として知られている。SCFはmast cell growth factor,c‐kit ligand,steel factorとも呼ばれ、骨髄ストローマ細胞や線維芽細胞から産生される。SCFには273残基のアミノ酸からなる膜結合型と,プロテアーゼ消化により産生された分泌型とがあることが知られており、正常ヒト血清中には高濃度の分泌型SCFが検出されるが,生体内の造血においては、膜結合型SCFが重要と考えられている。
【0003】
SCFは、多能性造血幹細胞、巨核球系前駆細胞、肥満細胞、赤芽球系前駆細胞、顆粒球・マクロファージ系前駆細胞などに単独もしくは他のサイトカインと共同で作用し、その増殖や分化を促進することが知られている。さらに急性骨髄性白血病細胞の増殖をも促進することが知られている。SCFが肥満細胞上のc−kitレセプターに結合することにより、肥満細胞が遊走、分化・増殖し、これにより喘息やアトピー性皮膚炎等の即時型アレルギーが引き起こされることが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
また、SCFの異常産生は色素細胞の異常増殖につながり、メラニン産生を亢進させ、しみ、そばかす、くすみ等の原因となることも知られている。また、肥満細胞の異常増殖、異常脱顆粒化にもつながり、ヒスタミン、セロトニン、LTB4等のケミカルメディエーターの遊離を亢進させ(非特許文献2)、掻痒、肌荒れ、敏感肌等の原因となることも知られている。
【0005】
従って、SCFの発現を抑制することは、アレルギー疾患等の予防・治療、掻痒、肌荒れ、敏感肌の改善、肌の美白化などに有用であると考えられ、これまでにバラエキスローズ水、チャエキスなどがSCFの発現を抑制することが報告されている。
【非特許文献1】NW Lukacs et al, "J.Immunol" 1996,156, p.3945-3951
【非特許文献2】J. Grabbe et al., "Arch Dermatol Res", 1984, 287, p.78-84
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、SCFの発現を阻害し、医薬、化粧料又は食品として有用なSCFの発現阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、SCFの発現を特異的に阻害する天然物を探索したところ、特定の植物又はその抽出物にSCFの発現阻害活性があり、医薬、化粧料又は食品として有用であることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、プレニ(Pureni)、ケンポナシ、カファール(Kaphal)、ガンディラ(Gandirah)、アマチャ、メリロート、ショウキョウ、セイヨウネズ、セイヨウハッカ、テンチャ、モモ葉、ナツメ、クマザサ、クロバナヒキオコシ、タイラ(Tilah)、キハダ、ベニバナ、ウワウルシ若しくはコウホネ又はそれらの抽出物を有効成分とするSCF発現阻害剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のSCF発現阻害剤は、SCFの発現を阻害することから、喘息、枯草熱、アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患等を予防若しくは治療するための医薬、化粧料又は食品として、また掻痒、肌荒れ若しくは敏感肌の改善効果又は美白効果を有する医薬、化粧料又は食品として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のSCF発現阻害剤は、SCFの発現を阻害する作用を有し、医薬、化粧料又は食品等として使用できる。ここで、SCFの発現の阻害とは、ある細胞内及び/又は生体内のある部分においてSCFの量の減少が観察される状態を含み、SCFを産生する細胞におけるSCFの存在量及び/又は産生量の減少、及びSCFを産生する細胞からのSCFの放出量の減少を含む。
【0011】
本発明において、プレニ(Pureni)とは、ブドウ科のCissus repens Lam.を、ケンポナシとは、クロウメモドキ科のケンポナシ(Hovenia dulcis)を、カファール(Kaphal)とは、ヤマモモ科のMyrica esczdenta Buch-Ham ex. D.Donを、ガンディラ(Gandirah)とは、ブドウ科のカイラティア・トリフォリア(Cayratia trifolia (L.) Domin)を、アマチャとは、ユキノシタ科のヤマアジサイ(Hydrangea serrata)を、メリロートとは、マメ科のシナガワハギ/セイヨウエビラハギ(Melilotus officinalis)を、ショウキョウとは、ショウガ科のショウガ(Zingiber officinale)を、セイヨウネズとは、ヒノキ科のセイヨウネズ(Juniperus communis var.communis)を、セイヨウハッカとは、シソ科のセイヨウハッカ(Mentha X ppiperita)を、テンチャとは、バラ科のルブス・スアウィッシムス(Rubus suavissimus)を、モモ葉とは、バラ科のモモ(Amygdalus persica (Prunus persica))を、ナツメとは、クロウメモドキ科のナツメ(Zizphus jujuba)を、クマザサとは、イネ科のクマザサ(Sasa Veitchii)を、クロバナヒキオコシとは、シソ科のクロバナヒキオコシ(Isodon trichocarpus)を、タイラ(Tilah)とは、ゴマ科の胡麻(Sesamum indicum Linn.)を、キハダとは、ミカン科のキハダ(Phellodendron amurense)を、ベニバナとは、キク科のベニバナ(Carthamus tinctorius)を、ウワウルシとは、ツツジ科のウワウルシ(Arctostaphylos uva ursi)を、コウホネとは、スイレン科のコウホネ(Nuphar japonicum)をそれぞれ意味する。
【0012】
上記植物は、その植物の全草、葉、樹皮、枝、果実又は根等をそのまま又は粉砕して用いることができるが、プレニ(Pureni)については、茎/葉を、ケンポナシについては、実を、カファール(Kaphal)については、樹皮を、ガンディラ(Gandirah)については、植物全体を、アマチャについては、葉を、メリロートについては、地上部を、ショウキョウエキスについては、根を、セイヨウネズについては、実を、セイヨウハッカについては、葉を、テンチャについては、実を、モモ葉については、葉を、ナツメについては、果実を、クマザサについては、葉を、クロバナヒキオコシについては、地上部を、タイラ(Tilah)ついては種子を、キハダについては、樹皮を、ベニバナについては、管状花を、ウワウルシについては、葉を、コウホネについては、根茎を使用するのが好ましい。
【0013】
また、本発明における抽出物とは、上記植物を常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を意味するものである。
【0014】
本発明の植物抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;及び二酸化炭素等が挙げられ、これらは混合物として用いることができる。
【0015】
上記の植物抽出物は、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、上記の植物抽出物は、クロマトグラフィー液々分配等の分離技術により、上記抽出物から不活性な夾雑物を除去して用いることもできる。
【0016】
尚、本発明の植物又はそれらの抽出物は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
これらの植物又はその抽出物は、後記実施例に示すように優れたSCF発現阻害活性を有する。SCFは、多能性造血幹細胞、巨核球系前駆細胞、肥満細胞、赤芽球系前駆細胞、顆粒球・マクロファージ系前駆細胞などに単独もしくは他のサイトカインと共同で作用し、その増殖や分化を促進し、さらに急性骨髄性白血病細胞の増殖をも促進する。従って、これらを有効量含有するSCF発現阻害剤は、顆粒球などの増殖に起因する好中球増加症、膿様骨髄、炎症等の疾患や症状、肥満細胞の増殖に起因するアレルギー、色素性蕁麻(じんま)疹、肥満細胞腫、肥満細胞症、血管神経性浮腫、春季カタル等の疾患や症状の治療、改善及び/又は予防に有用である。
ここで、アレルギーとしては、I型アレルギー、II型アレルギー、III型アレルギー、IV型アレルギーが挙げられるが、その作用機構からI型アレルギーおよびIII型アレルギーに対してより有用であり、さらにI型アレルギーに有用である。
ここで、I型アレルギーとしては、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、じんま疹、アレルギー性鼻炎、アナフィラキシー、薬物過敏症、枯草熱などが挙げられる。IV型アレルギーとしては、薬品などによる接触性皮膚炎、結核性空洞の形成、結節核型癩の肉芽腫様皮膚炎などが挙げられる。
また、SCFは、さらに急性骨髄性白血病細胞の増殖をも促進することから、本発明のSCF発現抑制剤は、急性骨髄性白血病の治療、改善及び/又は予防に有用である。
【0018】
また、SCFの異常産生は、メラニン産生を亢進させ、しみ、そばかす、くすみ等の原因となり、また、掻痒、肌荒れ、敏感肌等の原因となる。従って、本発明のSCF発現阻害剤は、例えば、掻痒用皮膚外用剤、肌荒れ防止用皮膚外用剤、敏感肌用皮膚外用剤、美白用皮膚外用剤として用いることもできる。
【0019】
本発明のSCF発現阻害剤を医薬として使用する場合には、例えば、錠剤、カプセル剤等の内服剤、軟膏、水剤、エキス剤、ローション剤、乳剤等の外用剤、注射剤とすることができ、当該医薬には、本発明の植物又はその抽出物の他に、助剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、促収促進剤、界面活性化剤等の薬学的に許容される担体を任意に組み合わせて配合することができる。
【0020】
また、化粧料として使用する場合は、種々の形態、例えば、油中水型又は水中油型の乳化化粧料、クリーム、ローション、ジェル、フォーム、エッセンス、ファンデーション、パック、スティック、パウダー等とすることができ、本発明の植物又はその抽出物の他に、化粧料成分として一般に使用されている油分、界面活性剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素類、香料、各種皮膚栄養剤等を任意に組合せて配合することができる。
【0021】
また、食品として使用する場合は、種々の形態、例えば、飲料、スナック類、乳製品、調味料、でんぷん加工製品、加工肉製品等とすることができる。
【0022】
本発明のSCF発現阻害剤における植物又はそれら抽出物の配合量は、乾燥物として通常全組成の0.00001〜10重量%、特に0.0001〜1重量%が好ましい。
【0023】
また、本発明SCF阻害剤を医薬として使用する場合の投与量は、用量、患者の年齢、性別、体重、疾患の度合い等により適宜選択することができるが、好ましくは、一日当たり0.1〜10000mg、より好ましくは1〜1000mg、更に好ましくは10〜100mgであり、これを一日一回ないし数回に分けて投与するのが適当である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
製造例1 プレニ抽出物の製造
原料10gに対し、50%エタノール25mLで約10日間室温で抽出した。その後ろ過してエキスを得た。
【0025】
製造例2
製造例1に準じて下記表1に示す各植物抽出物を調製した。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例1 SCF発現阻害活性
96穴と24穴プレートに正常ヒト表皮角化細胞を播種し、セミコンフルエントになるまで培養後、表2に示す各植物抽出物をそれぞれ表に示す濃度で添加し、さらに4日間培養した。SCFの発現量は、ウェスタンブロッティング法で測定することにより求めた。その際植物抽出物を添加せず、抽出溶媒のみを添加した正常ヒト表皮角化細胞から検出されるSCF量を100%とし、これに対する相対値で評価した。
また、植物抽出物の細胞毒性のチェックは96穴プレートにalamarBlueを添加し、90分間反応後の吸光度を測定することで求めた。毒性のない呼吸活性を100%としたときの各種植物抽出物の呼吸活性を示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に示したとおり、本発明の植物抽出物は、SCFの発現を阻害することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレニ(Pureni)、ケンポナシ、カファール(Kaphal)、ガンディラ(Gandirah)、アマチャ、メリロート、ショウキョウ、セイヨウネズ、セイヨウハッカ、テンチャ、モモ葉、ナツメ、クマザサ、クロバナヒキオコシ、タイラ(Tilah)、キハダ、ベニバナ、ウワウルシ若しくはコウホネ又はそれらの抽出物を有効成分とするSCF発現阻害剤。

【公開番号】特開2006−176436(P2006−176436A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370910(P2004−370910)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】