説明

SCF遊離抑制剤および鎮痒剤

【課題】乾燥や紫外線照射等の刺激によるSCFの挙動の中で、特に表皮角化細胞からのSCF遊離を効果的に抑制する製剤を提供する。また、SCF遊離抑制により、肥満細胞の異常増殖、異常脱顆粒化を防止して、該肥満細胞からのヒスタミン等のケミカルメディエーターの遊離を抑制し、これにより掻痒、肌荒れ、敏感肌等を防止すること、特には、アトピー性皮膚炎、乾皮症に代表される乾燥性皮膚疾患の予防・改善をするために好適に用いられる鎮痒剤、および皮膚外用剤を提供する
【解決手段】関平鉱泉水からなるSCF遊離抑制剤、および当該SCF遊離抑制剤を含む鎮痒剤、並びに当該SCF遊離抑制剤を10〜95質量%、保湿剤を1〜30質量%含み、ミストスプレーの形態で用いる皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮角化細胞からの幹細胞因子(SCF:stem cell factor。以下「SCF」とも記す)の遊離を抑制するSCF遊離抑制剤、および鎮痒剤に関する。本発明は特に、アトピー性皮膚炎、乾皮症に代表される乾燥性皮膚疾患の予防・改善のために好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
SCF〔別名:kit ligand(=KL)、mast cell growth factor(=MCGF。マスト細胞成長因子)〕は、角化細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞等において産生されるタンパク質である。SCFの作用としては、未分化造血幹細胞の増殖、生殖細胞の分化促進、肥満細胞(=マスト細胞)の増殖促進、色素細胞の増殖促進作用等がある。SCFには膜結合型(SCF−2)と、タンパク質分解酵素の作用により切断された膜から遊離する分泌型(SCF−1)があることが知られている。SCF−2は角化細胞などに結合したまま色素細胞のSCFレセプターに結合して色素細胞の増殖を活性化し、また、SCF−1はその切断部位において切断されて細胞膜から遊離して色素細胞や肥満細胞のSCFレセプターに結合し、色素細胞の増殖活性化や、肥満細胞の増殖活性化および脱顆粒化をもたらす(非特許文献1参照)。このようなSCFレセプターへの結合は、皮膚が乾燥、紫外線等の刺激を受けることで促進される。SCFの異常産生や遊離は、肥満細胞の異常増殖、異常脱顆粒化にもつながり、該肥満細胞からのヒスタミン、セロトニン、LTB4等のケミカルメディエーターの遊離を亢進させ(非特許文献2参照)、掻痒、肌荒れ、敏感肌等の原因となる。
【0003】
したがって、上記したヒスタミン等のケミカルメディエーターの肥満細胞からの遊離が原因となる掻痒、肌荒れ、敏感肌等の予防・改善には、SCFの異常産生や角化細胞からのSCF遊離を防止する方策が効果的である。
【0004】
従来、SCF産生抑制製剤、SCF遊離抑制製剤として、例えば、ジャトバおよび/または岩白菜の抽出物を含有するSCF遊離抑制剤(特許文献1)、ホップエキス、サンザシエキス等のSCF産生および/または放出を抑制する成分を含有する掻痒用皮膚外用剤(特許文献2)等が提案されている。またSCFの産生および/または放出を抑制することにより掻痒、肌荒れ若しくは敏感肌の改善効果を発揮する有効成分をスクリーニングする方法も提案されている(特許文献3)。
【0005】
なお、後述するように、本発明は関平鉱泉水を使用した発明であるが、従来、鉱泉水や温泉水を利用した発明が、例えば以下に示す特許文献4〜6等に開示されている。
【0006】
すなわち特許文献4(特許第2636140号公報)には、塩化ナトリウムと海水シルビンからなる混合物にクエン酸塩を混合したミネラル組成物を、温泉水(重炭酸土類泉、硫黄泉)に添加したアトピー性皮膚炎治療用温泉水組成物が開示されている。この温泉水組成物は温泉入浴療法に用いられるもので、従来の温泉入浴療法に比べ比較的短期間で治療することができるということが記載され、実際の使用に際しては該温泉水組成物を約10倍量の水道水に溶解した後、風呂釜で適温に温め、この風呂に入浴することで、痒みを止める等の効果が得られることが記載されている。
【0007】
特許文献5(特開2002−326942号公報)には、特定の鉱泉水、湯の花および/または湯の花の溶媒抽出物を配合した皮膚外用剤が皮膚の肌荒れ改善、ニキビ改善等の効果を有することが記載されている。
【0008】
特許文献6(特開2005−40403号公報)にはアベンヌ温泉水を主成分とする敏感肌用化粧料、およびこれを利用した美容施術方法が記載されている。
【0009】
しかしながらこれら特許文献4〜6には、SCF遊離抑制についての記載・示唆はない。
【0010】
【特許文献1】特開2006−241102号公報
【特許文献2】特開2006−56902号公報
【特許文献3】特許第3759714号公報
【特許文献4】特許第2636140号公報
【特許文献5】特開2002−326942号公報
【特許文献6】特開2005−40403号公報
【非特許文献1】T. Kunisada et al., J. Exp. Med., Vol.187, No.10, (1998) pp.1565-1573
【非特許文献2】J. Grabbe et el., Arch Dermatol Res, 287:78-84, (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、乾燥や紫外線照射等の刺激によるSCFの挙動の中で、特に表皮角化細胞からのSCF遊離を効果的に抑制する製剤を提供することを目的とする。また本発明は、SCF遊離抑制により、肥満細胞の異常増殖、異常脱顆粒化を防止して、該肥満細胞からのヒスタミン等のケミカルメディエーターの遊離を抑制し、これにより掻痒、肌荒れ、敏感肌等を防止すること、特には、アトピー性皮膚炎、乾皮症に代表される乾燥性皮膚疾患の予防・改善をするために好適に用いられる鎮痒剤、および皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明は、関平鉱泉水からなるSCF遊離抑制剤を提供する。
【0013】
また本発明は、関平鉱泉水からなるSCF遊離抑制剤を含む鎮痒剤を提供する。
【0014】
また本発明は、関平鉱泉水からなるSCF遊離抑制剤を10〜95質量%、保湿剤を1〜30質量%含み、ミストスプレーの形態で用いることを特徴とする皮膚外用剤を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、SCFの遊離を効果的に抑制することができるSCF遊離抑制剤、および鎮痒剤、皮膚外用剤が提供される。本発明は特に、アトピー性皮膚炎、乾皮症に代表される乾燥性皮膚疾患の予防・改善のために好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ミネラルを含む水が地中から地表へ湧出している場合、これを鉱泉と呼び、鉱泉の中で温度が高いものを一般に温泉と呼ぶ。本発明に用いる関平鉱泉水は、鹿児島県牧園町の霧島山麓から湧出する鉱泉水である。関平鉱泉水は、日本最初の国立公園である霧島山麓の自然の中で湧出する温泉水であり、高熱の地下深くを伝ってきていることから、その地下の高熱によって溶かされた多くのミネラルが含まれているとされる。
【0017】
温泉法第2条によれば、温泉とは、地中から湧出する温水、鉱水および水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表(省略)に掲げる温度または物質を有するものをいう、と定義される。すなわち前記温度、物質のいずれかの条件を満たせばよい。前記温度は、温泉源から採取されるときの温度が25℃以上であり、前記物質は別表(省略)に列記されたいずれか1つを所定量以上(1キログラム中)含有すればよい。別表に列記された物質として、溶存物質(ガス性のものを除く)総量1,000mg以上、遊離炭酸(CO2)250mg以上等の他に、各種イオン(Li+、Sr++、Ba++、Fe++またはFe+++、Mn++、H+、Br-、I-、F-、HASO4--、等)や、メタ亜ヒ酸(HASO2)総硫黄(S)、メタホウ酸(HBO2)、メタケイ酸(H2SiO3)重炭酸ソーダ(NaHCO3)、ラドン(Rn)、ラジウム塩(Raとして)等(それぞれ所定量以上)が記載されている。
【0018】
関平鉱泉水は、温泉法に定義する温泉水に該当し、かつ、医薬部外品に配合可能とするための日本薬局方の「常水」の規格項目に合致するミネラルウォーターであり、しかも供給安定性、品質安定性に優れる。
【0019】
関平鉱泉水は、鹿児島県牧園町の関平鉱泉販売所等において「関平鉱泉水」(登録商標)として販売もされている。
【0020】
なお関平鉱泉水と他の鉱泉水とのミネラル組成(単位:mg/L)の比較として、アクアパンナナチュラルミネラルウォーターと比較したものを下記表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
アクアパンナナチュラルミネラルウォーターと比較すると、硬度が低いことと、カリウム、マグネシウム、カルシウムの含有量が多いことが特徴である。
【0023】
本発明に用いる関平鉱泉水は優れたSCF遊離抑制作用を有し、SCF遊離抑制剤として用いられる。SCF遊離抑制剤を皮膚等に適用することにより、SCF遊離に起因する種々の症状や疾病、病態等の治療、予防、改善等に役立つ。具体的適用例としては、例えば、乾燥性皮膚疾患、しみ等の色素沈着等の予防・改善等が挙げられる。中でも乾燥性皮膚疾患の予防・改善に好適に用いられる。なお乾燥性皮膚疾患とは、アトピー性皮膚炎、乾皮症、接触性皮膚炎、手(主婦)湿疹、乾燥性湿疹などに代表される疾患であり、いずれも痒みを伴う皮疹を主な症状とする。したがって本発明製剤をこれら皮膚疾患に適用することにより痒みを効果的に抑えることができ、鎮痒剤としても用いられる。
【0024】
本発明のSCF遊離抑制剤を皮膚外用剤に配合する場合、その剤型は特に限定されるものでなく、溶液系、可溶化系、乳化系、油液系、ゲル系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系等、任意である。本発明の皮膚外用剤とは、化粧料、医薬品、医薬部外品として、外皮(頭皮を含む)に適用されるものを指し、例えば、化粧水、乳液等のフェーシャル化粧料や、頭皮頭髪化粧料等として用いることができる。
【0025】
中でも、使用の簡便性、利便性等の点から、本発明皮膚外用剤はスプレーミストの形態で用いる化粧水の剤型が好ましい。スプレーミストとすることにより、いつでもどこでも手軽に、痒い部位にスプレーで噴霧することで速やかに痒みを鎮めることができる。例えばストッキングの上からでも手軽に、かつ簡便に用いることができる。また顔面やそれに近い部位でも、化粧した肌の上からじかに噴霧しても、化粧崩れを生じることなく効果的に速やかに痒みを鎮めることができる。
【0026】
皮膚外用剤がスプレーミストの形態で用いる化粧水である場合、スプレーミストとしては、エアゾールタイプ、ノンエアゾールタイプのいずれでも用いられ得る。エアゾールタイプのものでは化粧水(原液)の他に噴射剤を配合する。
【0027】
上記スプレーミストの形態で用いる化粧水は、関平鉱泉水および保湿剤を含有する。
【0028】
関平鉱泉水の配合量は10〜95質量%が好ましく、より好ましくは40〜92質量%、最も好ましくは70〜90質量%である。関平鉱泉水が10質量%未満では本発明効果を得ることが難しい。
【0029】
上記保湿剤としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ムコイチン硫酸、カロニン酸、アテロコラーゲン、コレステリル−12−ヒドロキシステアレート、乳酸ナトリウム、胆汁酸塩、dl−ピロリドンカルボン酸塩、短鎖可溶性コラーゲン、ジグリセリン(EO)PO付加物などが例示される。ただしこれら例示に限定されるものでない。保湿剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
保湿剤の配合量は1〜30質量%が好ましく、より好ましくは6〜25質量%であり、最も好ましくは10〜20質量%である。保湿剤が1質量%未満では保湿効果が不十分となり、一方、30質量%超ではべたつく傾向がみられる。
【0031】
スプレーミストタイプの化粧水は常法により製造することができる。すなわち、例えば保湿剤等の成分を関平鉱泉水等を溶媒としてここに混合溶解して混合液(原液)を調製し、これを噴霧容器に充填する。エアゾールタイプのものでは、通常、噴射剤とともに噴霧容器に充填される。噴射剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ジメチルエーテル等の液化ガス、窒素、圧縮空気等の圧縮ガスなど、エアゾールの分野に公知の噴射剤を任意に用いることができる。これら噴射剤の配合量は化粧水(原液)100質量%に対して液化ガスでは4〜98質量%、圧縮ガスでは0.2〜1.2質量%が好ましい。これら液化ガス、圧縮ガスは1種または2種以上を用いることができる。
【0032】
上記化粧水には、さらに水(イオン交換水、精製水など)、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、香料、油成分、殺菌剤、植物抽出液、ビタミン類など公知の成分を本発明効果を損わない範囲で適宜配合することができる。
【0033】
上記界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、親油性非イオン界面活性剤、親水性非イオン界面活性剤等が挙げられる。中でも親水性非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤が好ましく用いられるが、これに限定されるものでない。
【0034】
上記親水性非イオン界面活性剤としては、例えば、POEソルビタンモノオレエート、POE−ソルビタンモノステアレート、POE−ソルビタンモノオレート、POE−ソルビタンテトラオレエート等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POE−ソルビットモノラウレート、POE−ソルビットモノオレエート、POE−ソルビットペンタオレエート、POE−ソルビットモノステアレート等のPOEソルビット脂肪酸エステル類;POE−グリセリンモノステアレート、POE−グリセリンモノイソステアレート、POE−グリセリントリイソステアレート等のPOEグリセリン脂肪酸エステル類;POEモノオレエート、POEジステアレート、POEモノジオレエート、システアリン酸エチレングリコール等のPOE脂肪酸エステル類;POEラウリルエーテル、POEオレイルエーテル、POEステアリルエーテル、POEベヘニルエーテル、POE2−オクチルドデシルエーテル、POEコレスタノールエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POEオクチルフェニルエーテル、POEノニルフェニルエーテル、POEジノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類;ブルロニック等のプルアロニック型類;POE・POPセチルエーテル、POE・POP2−デシルテトラデシルエーテル、POE・POPモノブチルエーテル、POE・POP水添ラノリン、POE・POPグリセリンエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル類;テトロニック等のテトラPOE・テトラPOPエチレンジアミン縮合物類;POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油、POE硬化ヒマシ油モノイソステアレート、POE硬化ヒマシ油トリイソステアレート、POE硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノイソステアリン酸ジエステル、POE硬化ヒマシ油マレイン酸等のPOEヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体;POEソルビットミツロウ等のPOEミツロウ・ラノリン誘導体;ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、脂肪酸イソプロパノールアミド等のアルカノールアミドのほか、POEプロピレングリコール脂肪酸エステル、POEアルキルアミン、POE脂肪酸アミド、ショ糖脂肪酸エステル、POEノニルフェニルホルムアルデヒド縮合物、アルキルエトキシジメチルアミンオキシド、トリオレイルリン酸などが例示される。
【0035】
上記カチオン界面活性剤としては、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩;塩化ジステアリルジメチルアンモニウムジアルキルジメチルアンモニウム塩、塩化ポリ(N,N’−ジメチル−3,5−メチレンピペリジニウム)、塩化セチルピリジニウム等のアルキルピリジニウム塩のほか、アルキル四級アンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、ジアルキルモリホニウム塩、POEアルキルアミン、アルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどが例示される。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。配合量は特記しない限りすべて質量%(実分)である。
【0037】
(実施例1)
乾燥刺激により角化細胞から放出されるSCFの測定と抑制薬剤のスクリーニング
【0038】
1.被験試料
凍結乾燥後、原液の50倍の濃度になるよう蒸留水で溶解した関平鉱泉水を無血清培地にて50倍希釈したものを「dry×1」(図1参照。以下同)とし、同様に、原液の5倍の濃度になるよう蒸留水で溶解した関平鉱泉水を無血清培地にて50倍希釈したものを「dry×10-1」、原液の0.5倍の濃度になるよう蒸留水で溶解した関平鉱泉水を無血清培地にて50倍希釈したものを「dry×10-2」、原液の0.05倍の濃度になるよう蒸留水で溶解した関平鉱泉水を無血清培地にて50倍希釈したものを「dry×10-3」として、培養液を作製した。蒸留水のみを無血清培地にて50倍希釈したものを「dry control」とした。
【0039】
2.試験方法
市販のヒト表皮角化細胞(新生児:Cryo NHEK−Neo、三光純薬)を、市販の無血清培地(Defined Keratinocyte−SFM、Gibco社)を用いて培養した。12穴マイクロプレートに1×105cells/mLで細胞を撒いて、コンフルエントになるまで37℃で約72時間培養した。
培養液を上記被験試料に置換し、37℃で48時間インキュベートした。
乾燥刺激として、上清を完全に除去した後、CO2インキュベータ内に1時間放置した。次いで培地を添加し、その2時間後に上清を回収した。上清中SCF量を市販ELISA法による測定キット(R&D System社)で定量した。
乾燥刺激を加えなかったものを対照(コントロール。図1中、「非刺激」と記載)として、被験試料のSCF遊離量抑制作用を評価した。結果を図1に示す。
【0040】
図1の結果から明らかなように、乾燥刺激で増加するSCF遊離を、関平鉱泉水添加により、濃度依存性をもって効果的に抑制することができたことが確認された。
【0041】
(実施例2)
本発明の鉱泉水ミストを用いて使用試験を行って評価した。
【0042】
1.試験試料
下記表2に示す化粧水(原液)を噴射剤(窒素)とともにアルミニウム製エアゾール缶に充填して鉱泉水ミストとした。
【0043】
【表2】

【0044】
2.被験者
医療専門機関(病院の皮膚科、皮膚科クリニック)に通院する、軽症から中等症の乾燥性皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、乾皮症)を有し、かつ、顔面に軽度から中等度の乾燥症状を有する年齢20歳以上の患者(合計47名)。具体的には以下のとおりである。
アトピー性皮膚炎患者:13名(軽症8名、中等症5名)
乾皮症患者:34名(軽症24名、中等症10名)
【0045】
3.被験部位
顔面において、乾燥・落屑症状が軽度から中等度で、試験中に抗炎症外皮用薬を使用しないと予想する部位を1か所選択し、被験部位とした。
【0046】
4.使用部位
全身に使用可とした。
【0047】
5.使用期間
4週間
【0048】
6.使用方法
被験部位に、朝昼夜1日3回使用した。特に入浴後は必ず使用した。加えて、乾燥や痒みを感じた時に適宜使用した。被験部位以外の使用部位についても、乾燥や痒みに応じて、適宜使用し、次項7.で述べる痒みのVASの評価の対象とした。使用の際は、使用部位から20cmほど離して円を描くように1〜2秒間スプレーし、その後、手のひらで軽くなじませた。
【0049】
7.評価方法および評価結果
[痒みのVAS]
試験開始日並びに試験終了日(=4週間経過後)に、痒みの評価尺度として汎用されているVAS(=visual analogue scale。視覚的アナログ尺度)により評価した。
すなわち、それぞれの観察日に、被験者に10cmの横一直線に引いた直線を記載した用紙を配布し、直線の左端を「痒みなし」、右端を「これまでに経験した最高の痒み」として、試験日(観察日)の前日1日間に感じた痒みの平均値を記入(=痒みの強さに応じて被験者が線分上の1か所に印を付す)してもらい、その部位までの距離を痒みの尺度値として評価した。顔面の痒みのVAS結果を図2、身体の痒みのVAS結果を図3に示す。図2〜3から明らかなように、顔面、身体ともに、痒みについてのVASは有意に低下した。
【0050】
[皮膚所見の観察(乾燥・落屑)]
試験開始時と、試験終了後(4週間後)に、被験部位の皮膚所見(乾燥・落屑)について医師による観察を行い、その症状の程度を下記の5段階で評価した。結果を表3に示す。
(評価基準)
0.なし(症状がみられない)
1.軽微(わずかに症状がみられる)
2.軽度(少し症状がみられる)
3.中等度(明らかな症状がみられる)
4.重度(著しい症状がみられる)
【0051】
【表3】

【0052】
[自覚症状の問診(掻痒感、刺激感)]
試験開始時と、試験終了後(4週間後)に、被験部位の自覚症状(掻痒感、刺激感)について医師による問診を行い、その症状の程度を下記の5段階で評価した。結果を表4に示す。
(評価基準)
0.なし(症状がみられない)
1.軽微(ほとんど気にならない程度)
2.軽度(やや気になる程度)
3.中等度(かなり気になる程度)
4.重度(耐えられないため、使用を中止する程度)
【0053】
【表4】

【0054】
表3、4の結果から明らかなように、本発明化粧水(保湿ミスト)の使用により、乾燥、掻痒感、刺激感が軽快した。
【0055】
[使用感]
被験者に、本発明化粧水(保湿ミスト)の使用感について、下記表5に示す各項目についてアンケートを行い、回答してもらった。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】

【0057】
表5の結果から明らかなように、みずみずしさ、しっとりさ、突っ張り感のなさについて、80%以上の被験者が好きであると回答した。
【0058】
以下、本発明の皮膚外用剤の処方例(スプレーミスト)を示す。
【0059】
処方例1(化粧水。ノンエアゾール型ミスト)
(配 合 成 分) (質量%)
関平鉱泉水 81.199
グリセリン 5
1,3−ブチレングリコール 10
PEG−60水添ヒマシ油 0.5
メタリン酸ナトリウム 0.1
フェノキシエタノール 0.1
ココイルアルギニンエチルPCA 0.001
キシリトール 1
エリスリトール 1
ヨモギエキス 0.5
イチョウ葉エキス 0.5
クエン酸 0.05
クエン酸ナトリウム 0.05
【0060】
処方例2(化粧水。ノンエアゾール型ミスト)
(配 合 成 分) (質量%)
関平鉱泉水 65.28
エタノール 5
グリセリン 10
1,3−ブチレングリコール 5
ジプロピレングリコール 10
PPG−13デシルテトラデセス−24 0.3
PEG−60水添ヒマシ油 0.3
メタリン酸ナトリウム 0.01
フェノキシエタノール 0.5
キシリトール 3
ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
イザヨイバラエキス 0.5
クエン酸 0.05
クエン酸ナトリウム 0.05
【0061】
処方例3(化粧水。エアゾール型ミスト)
(配 合 成 分) (質量%)
(原液)
関平鉱泉水 74.48
エタノール 5
グリセリン 1
1,3−ブチレングリコール 5
ジプロピレングリコール 10
PPG−13デシルテトラデセス−24 0.1
PEG−60水添ヒマシ油 0.3
メタリン酸ナトリウム 0.01
フェノキシエタノール 0.5
キシリトール 3
ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
イザヨイバラエキス 0.5
クエン酸 0.05
クエン酸ナトリウム 0.05
(噴射剤)
窒素ガス 0.5
【0062】
処方例4(化粧水。ノンエアゾール型ミスト)
(配 合 成 分) (質量%)
関平鉱泉水 10
イオン交換水 86.89
1,3−ブチレングリコール 5
PEG/PPG−14/7ジメチルエーテル 5
PEG−60水添ヒマシ油 0.5
ジイソステアリン酸ポリグリセリル−2 0.2
トリエチルヘキサノイン 0.5
メチルパラベン 0.3
PEG−20 1
リン酸L−アスコルビン酸マグネシウム 0.01
カッコンエキス 0.5
クエン酸 0.05
クエン酸ナトリウム 0.05
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1において、乾燥刺激によるヒト正常培養表皮角化細胞上清中のSCF量が、関平鉱泉水添加により濃度依存性をもって遊離抑制されたことを示すグラフである。
【図2】実施例2において、顔面の痒みのVAS評価結果を示すグラフである。
【図3】実施例2において、身体の痒みのVAS評価結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関平鉱泉水からなるSCF遊離抑制剤。
【請求項2】
請求項1記載のSCF遊離抑制剤を含む鎮痒剤。
【請求項3】
請求項1記載のSCF遊離抑制剤を10〜95質量%、保湿剤を1〜30質量%含み、ミストスプレーの形態で用いることを特徴とする皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−126494(P2010−126494A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303578(P2008−303578)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】