説明

SOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査方法及び装置

【課題】SOIウエーハのシリコン膜厚を目視により検査する方法を実現する。
【解決手段】光源から放出される赤外線に近い波長を含む可視光2をSOIウエーハ1の表面4に斜めに照射し、SOIウエーハ1から反射される反射光7,8の干渉縞を目視観察することにより、シリコン膜厚を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエーハの内部に埋め込み酸化膜が形成されたSOIウエーハにおいては、半導体デバイスが形成される活性側のシリコン層の膜厚の均一性が要求される。しかし、種々の原因によりウエーハ面内のシリコン膜厚にムラや不均一分布が生ずる場合があるから、従来、種々の方法によりシリコン膜厚のムラや不均一分布を計測して、著しく不均一な場合は不良品とするか、あるいは膜厚を調整して均一化する処理が行なわれている。図5に、一例として、貼り合せ法によるSOIウェーハの製造工程のフローを示す。この例では、支持ウェーハと活性ウェーハを別々に製造した後、例えば活性ウエーハの裏面に酸化膜を形成して支持ウェーハの一方の面に貼り合わせ、熱処理を施した後、薄膜化やテラス部形成加工をする。そして、活性側のシリコン層の膜厚検査をして出荷する。
【0003】
従来、このようなシリコン膜厚を計測する技術としては、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)や赤外線を用いた光分光法を適用した膜厚計測器により、ウエーハ面内の数点あるいはウエーハ面を全面走査して、シリコン膜厚のムラや不均一分布を計測する方法が一般に行なわれている。例えば、特許文献1には、照明部から光をウエーハ表面に照射して、ウエーハ表面に形成されたレジスト膜の欠陥部を検出し、その欠陥部の表面に照明部から光を斜めに照射し、レジスト膜の表面及び内面からの反射波をラインセンサカメラで受光して干渉縞画像を撮像し、その干渉縞の明暗のピッチに基づいてレジスト膜の膜厚を演算により求めることが提案されている。なお、同特許文献に記載の技術は、シリコン膜厚の計測ではなく、レジスト膜厚を計測する技術であるから、照明部から照射する光の波長については記載されてない。
【0004】
他方、SOIウエーハの表面の傷やパーティクル等の異物付着の有無の検査は、投光器や集光灯などを用いて目視により行うことがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−267416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、膜厚計測器でシリコン膜厚を計測して良否を判定する場合、例えば、ウエーハの中心部に所定の径を有する円形領域を設定し、その領域内における膜厚ムラの有無を計測して良否を判定することが行なわれている。この場合、設定領域以外に膜厚ムラ等が存在する可能性が残るという問題がある。しかし、ウエーハ全面に対してシリコン膜厚を計測すると、計測点が膨大になるため、計測時間が長くなり作業効率が低下する。
【0007】
そこで、膜厚計測器でシリコン膜厚を計測する前に、シリコン膜厚のムラの有無及び程度を目視で観察して良否の判断ができれば、目視検査の結果に基づいて特定の領域のみを膜厚計測器で精密に計測すればよいから、膜厚計測の作業効率を向上させることができる。しかし、従来技術では、シリコン膜厚のムラの有無及び程度を目視により外観検査する方法及び装置については配慮されていない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、SOIウエーハのシリコン膜厚を目視により検査する方法及び装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のSOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査方法は、光源から放出される赤外線に近い波長を含む可視光をSOIウエーハの表面に斜めに照射し、前記SOIウエーハから反射される反射光の干渉縞を目視観察することを特徴とする。
【0010】
すなわち、SOIウエーハの表面に可視光を照射すると、照射光の一部はシリコン層の表面で反射し、残りの一部はシリコン層を透過して埋め込み酸化膜の表面(つまり、シリコン層の底面)で反射する。シリコン層の底面で反射した反射光は伝播経路が長いことから、シリコン層の表面で反射した反射光に対しシリコン層の膜厚に応じて位相が遅れる。そのため、2つの反射光が互いに干渉しあった干渉縞を目視により観察することができる。干渉縞は膜厚の等高線に対応しており、干渉縞の明暗の縞模様の間隔が狭い部位は膜厚が大きく変化し、間隔が広い部位は膜厚の変化が小さいことになる。例えば、縞模様が閉じている部位が最も膜厚が厚く、かつ縞模様が密に表れている部位に、膜厚の不均一分布が存在することを目視により判定できる。
【0011】
また、光源は、赤外線に近い波長を含む少なくとも2つの異なる波長を含む可視光を放出するものを適用でき、この場合、その可視光を同時にSOIウエーハの表面に斜めに照射することができる。これによれば、各波長間の反射の違いにより干渉幅が狭まり2つの異なる波長の反射光により生じる干渉縞の変化が明瞭に表れるので、目視検査がやりやすくなる。
さらに、光源は、3つの波長を有する蛍光灯から放出される可視光をSOIウエーハの表面に斜めに照射し、SOIウエーハから反射される反射光の干渉縞を目視観察することができる。これによれば、蛍光灯の可視光が照射されたSOIウエーハで反射した反射光により生じる干渉縞が明瞭に表れるので、目視検査がやりやすくなる。
【0012】
本発明のSOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査方法を実施する装置は、検査面側を表にしてSOIウエーハを載置する載置板の載置面の傾斜角度を任意に調整可能な自由継手を介して支持してなる検査台と、前記載置面の上方に配置され前記載置面に載置された前記SOIウエーハの検査面に斜めに可視光を照射する光源と、前記SOIウエーハからの反射光を投影するスクリーンを備えてなり、前記光源は、赤外線に近い波長を含む可視光を放出するものであり、前記SOIウエーハにより反射される反射光の干渉縞を目視観察可能に構成することにより実現できる。この場合において、スクリーンは、半透明のものを適用することができる。
【0013】
このように目視検査装置を構成することにより、目視観察する反射光の干渉縞が観察しにくいときは、検査台の載置面角度を調整して、反射光の干渉縞を見やすい状態に調整することができる。
【0014】
また、光源と載置板との間に反射板を備え、光源から放出される可視光を反射板に反射させてSOIウエーハの検査面に斜めに照射するように構成することができる。これによれば、SOIウエーハの検査面に照射される外乱光(窓等から侵入する太陽光など)を弱めることができるから、目視観察する反射光の干渉縞を認識しやすくなる。
【0015】
本発明の目視検査装置において、光源は、赤外線に近い波長を含む少なくとも2つの異なる波長を含む可視光を同時に放出するもの、又は、3つの波長を有する蛍光灯を適用できる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、SOIウエーハのシリコン膜厚を目視により検査する方法及び装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の原理を説明する図である。
【図2】本発明に適用可能な光源の実施例と比較例の波長データを示す図である。
【図3】実施例1により観察された可視光の干渉縞の一例を示す図である。
【図4】本発明の目視検査装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図5】貼り合せ法によるSOIウェーハの製造工程の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照して、本発明のSOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査方法の原理について説明する。SOIウエーハ1の表面に可視光を照射すると、照射光2の一部はシリコン層3の表面4で反射し、残りの一部はシリコン層3を透過して埋め込み酸化膜5の表面、つまりシリコン層の底面6で反射する。シリコン層3の表面4の反射光7に対し、シリコン層3の底面6の反射光8は光路長が長いことから、それらの反射光7,8が光路差Δを経て1点で出会うときその点(例えば、網膜)での振幅が反射光7,8のそれぞれの振幅の和になる。具体的には、光路差Δが波長の偶数倍だと振幅を強め合い、奇数倍だと振幅を弱めあう。つまり、反射光8はシリコン層3の膜厚dと屈折率n及び波長に依存して位相φが遅れることから、2つの反射光7,8が互いに干渉しあって、反射光7,8を目視すると、網膜にシリコン層3の膜厚dに応じた光の干渉縞が観察される。なお、網膜に代えてスクリーン等の映写体に反射光7,8の干渉縞を投影することができる。
【0019】
ここで、干渉縞は膜厚の等高線に対応しており、干渉縞の明暗の縞模様の間隔が狭い部位は膜厚が大きく変化し、間隔が広い部位は膜厚の変化が小さいことになる。例えば、縞模様が閉じている部位が最も膜厚が厚く、かつ縞模様が密に表れている部位に、膜厚の不均一分布が存在することを目視により判定できる。
【0020】
そこで、本発明の目視検査方法によれば、シリコン層の膜厚dと屈折率nに対応させて、かつ可視光の波長に対応させて、一定の判定領域内に何本の干渉縞が観察できるか否かにより、検査中のSOIウエーハのシリコン膜厚のムラや不均一分布が合格(良品)か、不合格(不良品)かを定めておくことにより、短時間で簡単に判定できる。
【実施例】
【0021】
以下に、可視光の光源として3波長蛍光灯を適用して、本発明の目視検査方法を実施した例を説明する。図2に、3波長蛍光灯の実施例1,2と、3波長以外の蛍光灯及び赤外灯を比較例1,2として示す。実施例1の可視光の波長は0.6μm、0.55μm、0.5μmであり、実施例2の可視光の波長は0.7μm、0.6μm、0.5μmであり、比較例1の可視光の波長は0.55μm、比較例2の赤外光の波長は0.9μmである。実施例1の3波長蛍光灯を用いてSOIウエーハのシリコン膜厚を観察した際の干渉縞の例を図3に示す。図示のように、干渉縞10は膜厚dの等高線に対応して表れる。干渉縞10の明暗の縞模様の間隔が狭い部位は膜厚dが大きく変化している部位であり、間隔が広い部位は膜厚の変化が小さい部位である。また、干渉縞10が閉じている部位は最も膜厚が厚く(又は、最も薄く)、かつ干渉縞10が密に表れている部位は、膜厚の不均一分布が存在することを表している。また、比較例1、2の光では干渉をほとんど見ることができなかった。
ここで、3波長蛍光灯を適用したことによって、望ましい干渉縞が表れる原理的な考察を述べる。光の波長により吸収(減衰)量が異なるため、SOI厚みにより反射する波長が選択される。単一波長だと、反射がなかったり、全部反射するため干渉縞として可視できない。複数波長の光の場合は、図のように微妙な厚さの差により、干渉幅が狭まり干渉縞変化が明確に現れ、目視可能になると考えられる。
【0022】
図4に、本発明の目視検査方法を実施するのに好適な目視検査装置の一実施形態の構成を示す。目視検査装置は、図示のように、作業台20の上に設置された検査台21と、光源30と、スクリーン31を含んで構成されている。検査台21は、ベース22と、ベース22に起立された支持棒23と、支持棒23の先端部にピン24を介して揺動可能に支持された継ぎ手25と、継ぎ手25の他端にピン26を介して揺動可能に支持されたアーム27と、アーム27の他端に固定されたウエーハ載置板28と、載置板28に植設された2本の位置決めピン29を備えて形成されている。
【0023】
このように構成される作業台20のウエーハ載置板28の上面に、2本の位置決めピン29にSOIウエーハ1の周縁を係止させて検査面を上にして載置し、光源30から照射光32をSOIウエーハ1の検査面に斜めに照射すると、SOIウエーハ1で反射された反射光33がスクリーン31に投影される。これにより、スクリーン31上には、図3で説明したように、SOIウエーハ1のシリコン層の膜厚に応じた干渉縞の映像が投影される。検査者は、スクリーン31上の干渉縞像を観察することにより、容易にSOIウエーハ1の良否を判定することができる。
【0024】
ここで、スクリーン31は、干渉縞像を鮮明に写すようにするため、周知のスクリーン素材を用いて形成することが望ましい。しかし、これに限らず、曇りガラスのような半透明のスクリーン31を用いて、スクリーン31の裏側から干渉縞像を観察することもできる。さらに、外乱孔を排除するために、目視検査装置を暗い部屋に設置したり、目視検査装置の全体を覆う光遮蔽体を設けることが好ましい。
【0025】
本発明の目視検査方法を実施する装置の実施形態を説明したが、本発明の目視検査方法は、実施形態のような装置を用いることなく簡単に実施できる。例えば、3波長蛍光灯が取付けられた室内で、蛍光灯の光を手で保持したSOIウエーハ表面に当て、その反射波を白っぽい壁に投影させることにより、図3のような干渉縞を観察できる。なお、赤外線に近い波長の可視光の例として、実施例1,2では0.6μmと0.7μmを示したが、これらに限らず、波長が0.6μm以上、0.7μm以下の間の可視光を適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 SOIウエーハ
2 照射光
3 シリコン層
4 表面
5 埋め込み酸化膜
6 底面(埋め込み酸化膜表面)
7、8 反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から放出される赤外線に近い波長を含む可視光をSOIウエーハの表面に斜めに照射し、前記SOIウエーハから反射される反射光の干渉縞を目視観察するSOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の目視検査方法において、
前記光源は、赤外線に近い波長を含む少なくとも2つの異なる波長を含む可視光を放出するものであり、 該可視光を同時に前記SOIウエーハの表面に斜めに照射することを特徴とするSOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査方法。
【請求項3】
3つの波長を有する蛍光灯から放出される可視光をSOIウエーハの表面に斜めに照射し、前記SOIウエーハから反射される反射光の干渉縞を目視観察するSOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査方法。
【請求項4】
検査面側を表にしてSOIウエーハを載置する載置面の傾斜角度を任意に調整可能な自由継手を介して支持してなる検査台と、前記載置面の上方に配置され前記載置面に載置された前記SOIウエーハの検査面に斜めに可視光を照射する光源と、前記SOIウエーハからの反射光を投影するスクリーンを備えてなり、前記光源は、赤外線に近い波長を含む可視光を放出するものであるSOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査装置。
【請求項5】
請求項4に記載の目視検査装置において、
前記スクリーンは、半透明であることを特徴とするSOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の目視検査装置において、
前記光源は、赤外線に近い波長を含む少なくとも2つの異なる波長を含む可視光を同時に放出するものであることを特徴とするSOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査装置。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の目視検査装置において、
前記光源は、3つの波長を有する蛍光灯であることを特徴とするSOIウエーハのシリコン膜厚の目視検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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