説明

SiC繊維結合型セラミックスの製造方法

【課題】高温特性及び破壊靭性に優れたSiC繊維結合型セラミックスの特性を維持したまま、製造装置の有効面積を効率的に活用したSiC繊維結合型セラミックスの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリシラン又はその加熱反応物に2A族、3A族及び3B族の金属元素のうち少なくとも1種以上の金属元素を含有する化合物を添加し、不活性ガス中で加熱反応して金属元素含有有機ケイ素重合体を得たのち、これを溶融紡糸、さらに不融化及び無機化して所定の無機化繊維を得る。この無機化繊維を織物として予備成形体を作製し、カーボン製上下パンチ間に側面を開放して配置し、真空、不活性ガス、還元ガス及び炭化水素いずれかの雰囲気中において、1700〜2200℃の温度及び予備成形体の垂直方向に100〜1000kg/cmの加圧下で加熱加圧処理を行って、SiC繊維結合型セラミックスを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緻密で耐熱性に優れたSiC繊維結合型セラミックスの製造方法に関する。特に、耐熱衝撃性及び高温特性が要求される緻密な部材、例えば、燃焼器、熱防護板、焼結用棚板及び高温試験用ジグ等に利用可能なSiC繊維結合型セラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙・航空機分野及びエネルギー・環境分野においては、高効率化や高性能化のため、耐酸化性に優れ、高温下においても長時間使用可能な構造材料が必要とされている。その有力な候補材料としては、単体のセラミックス、SiC繊維強化SiC基複合材料(以下、「SiC/SiC」という)及びSiC繊維結合型セラミックスが挙げられる。
【0003】
炭化ケイ素、窒化ケイ素等に代表される単体セラミックスは、高い耐熱性及び硬度を有し、さらに表面加工によって優れた表面平滑性を示すことから、潤滑油の使えない高温領域又は極低温領域において、転がり軸受、すべり軸受等の摺動部品として使用されている。また、これらの単体セラミックスは、1300℃以上の高温においても優れた特性を示すことから、高効率ガスタービン用部材としても期待されている。しかし、単体セラミックスは固有の欠点として脆さを有しており、微小欠陥に敏感であるため、高温用構造材料としての信頼性に欠けるという問題がある。
【0004】
SiC/SiCは、繊維のブリッジングやクラックの偏向等の機構により、単体セラミックスの脆さを改善した材料である。このSiC/SiCは、CVI法(Chemical Vapor Infiltration)、PIP法(Polymer Infiltration and Pyrolysis)及びMI法(Melt Infiltration)によって製造される。CVI法は、気相法であり、ガス同士の反応によってSiCを繊維間に析出させる方法である。しかし、CVI法においては、SiCの析出速度が遅いため、製造に時間を要する。また、ガスの流れの不均一な部分においては、緻密性が得られないという問題がある。PIP法は、液相法であり、有機ケイ素ポリマーの含浸及び熱分解によってSiCを生成する方法である。PIP法についても、含浸と熱分解を数回繰り返すため製造に時間を要する、あるいは、含浸の不均一な部分においては緻密性が得られないというCVI法と同様の問題が生じる。MI法は、溶融Siを含浸する方法であり、繊維間に炭素源を分散した予備成形体中に溶融Siを含浸し、CとSiの反応によってSiCマトリックスを生成させ複合化する方法である。MI法においては、製造時間は短いものの、未反応Siが残存する、あるいは、反応の不均一な部分においては緻密性が得られないという問題が生じる。以上のように、SiC/SiCは、単体セラミックスに比べて優れた破壊靱性を有しているものの、上記いずれの方法によって製造しても、緻密性に劣るという問題がある。
【0005】
SiC繊維結合型セラミックスは、アモルファス構造のSi−M−C−O繊維(Mは、2A族、3A族及び3B族のうち少なくとも1種以上の金属元素である)のみをホットプレスすることによって製造される。このアモルファス繊維は、高温高圧下において多結晶SiC繊維に構造が変化し、同時に最密充填構造の六角柱状に変形する。そのため、SiC繊維結合型セラミックスは、非常に緻密である。また、繊維の構造が変化する過程において、アモルファス繊維中の余剰な炭素が繊維表面に排出されて、繊維表面に層状に生成する。この繊維表面の炭素層は、亀裂の進展を偏向させるすべり層となるため、SiC繊維結合型セラミックスは、優れた破壊靱性を示す。このように、SiC繊維結合型セラミックスは、単体セラミックスの脆さ、及びSiC/SiCの不十分な緻密性を改善するものである。
【0006】
従来、SiC繊維結合型セラミックスは、C/Cモールドによって補強したカーボン製のダイスの中に、無機化繊維を積層した予備成形体を配置し、ホットプレス法等を用いて加熱加圧処理することにより製造されている(例えば、特開2004−131365号公報参照)。C/Cモールドによって補強したカーボンダイスの中に予備成形体を配置することにより、セラミックス粉末等を加圧焼結する際に、セラミックス粉末等が流出することを防止することができる。
【0007】
【特許文献1】特開2004−131365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のSiC繊維結合型セラミックスの製造方法においては、装置炉内にC/Cモールド及びカーボンダイスのスペースが必要になるため、製造できるSiC繊維結合型セラミックスのサイズは、装置炉の有効面積に比べて小さくなるという問題がある。例えば、最高加圧力350ton、有効径400mmのホットプレス装置を用いる場合、カーボンダイスの占める割合が大きく、SiC繊維結合型セラミックスを成形できるサイズは、僅か180mm×180mm程度となる。このときの成形圧力は200ton程度であるため、装置の加圧能力には余裕がある。従って、従来の方法は、装置の性能を効率的に活用した製造方法とは言えない。また、SiC繊維結合型セラミックスの製造に適した新たな専用設備の導入には、膨大な設備投資が必要となるため、既存装置の能力を十分に活かし、装置炉内のスペースを有効に活用したSiC繊維結合型セラミックスの製造方法が望まれている。
【0009】
そこで、本発明は、従来の方法によって製造されたSiC繊維結合型セラミックスの優れた特性を維持したまま、製造装置の有効面積を効率的に活用したSiC繊維結合型セラミックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の無機化繊維を製織した織物からなる予備成形体を用いることによって、C/Cモールドやカーボンダイスを使用することなく、カーボン製の上下パンチのみでSiC繊維結合型セラミックスの成形が可能であることを知見し、その結果、装置炉内の有効面積を最大限に活用し、既存装置を用いて従来より大きなサイズのSiC繊維結合型セラミックスが製造できることを見出した。すなわち、本発明は、ポリシラン又はその加熱反応物に、2A族、3A族及び3B族の金属元素のうち少なくとも1種以上の金属元素を含有する化合物を添加し、不活性ガス中で加熱反応することによって、金属元素含有有機ケイ素重合体を得る第1工程と、前記金属元素含有有機ケイ素重合体を溶融紡糸することによって、紡糸繊維を得る第2工程と、前記紡糸繊維を酸素含有雰囲気中50〜170℃で加熱することによって、不融化繊維を得る第3工程と、前記不融化繊維を不活性ガス中で無機化することによって、無機化繊維を得る第4工程と、前記無機化繊維を製織し、その織物を所定の形状に裁断し積層することによって、予備成形体を得る第5工程と、前記予備成形体をカーボン製の上下パンチ間に側面を開放して配置し、真空、不活性ガス、還元ガス及び炭化水素いずれかの雰囲気中において、1700〜2200℃の温度及び前記予備成形体の垂直方向に100〜1000kg/cmの加圧下で加熱加圧処理を行う第6工程と、を備えたことを特徴とするSiC繊維結合型セラミックスの製造方法である。
【0011】
以上のように、本発明に係るSiC繊維結合型セラミックスの製造方法によれば、高温特性及び破壊靭性に優れたSiC繊維結合型セラミックスの特性を維持したまま、製造装置の有効面積を効率的に活用してSiC繊維結合型セラミックスを製造することができる。従って、既存装置を用いて従来より大きなサイズのSiC繊維結合型セラミックスを製造できるので、製造コスト及び設備投資の削減にも有効である。
【0012】
本発明に係るSiC繊維結合型セラミックスの製造方法は、上記第1工程乃至第4工程によって得られた無機化繊維を用いること、及びその無機化繊維を織物状に製織して予備成形体を作製することを特徴とする。上記第1工程乃至第4工程によって得られた無機化繊維以外の無機化繊維を用いた場合は、無機化繊維を織物状に製織しても本願発明と同様の効果を得ることができない。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係るSiC繊維結合型セラミックスの製造方法によれば、従来の方法によって製造されたSiC繊維結合型セラミックスの優れた特性を維持したまま、製造装置の有効面積を効率的に活用したSiC繊維結合型セラミックスの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係るSiC繊維結合型セラミックスの製造方法は、以下の第1工程乃至第6工程からなる。
【0015】
第1工程
第1工程においては、前駆体重合体である金属元素含有有機ケイ素重合体を調製する。第1工程において用いられるポリシランは、例えば「有機ケイ素化合物の化学」(化学同人、1972年)に記載の方法に従い、ナトリウムを用いて1種類以上のジクロロシランを脱塩素反応させることによって得られる鎖状又は環状の重合体であり、その平均分子量は、通常300〜1000である。このポリシランは、化1に一般式を示すように、ケイ素の側鎖として、水素原子、低級アルキル基、フェニル基又はシリル基を有することができるが、いずれの場合も、ケイ素原子に対する炭素原子の割合がモル比で1.5以上であることが望ましい。ケイ素原子に対する炭素原子の割合がモル比で1.5より少ないと、繊維中の炭素が不融化の際に導入された酸素と共に、焼結に至るまでの昇温過程において炭酸ガスとして脱離するため、繊維間の境界炭素層が均一に形成されにくくなるので好ましくない。
【0016】
【化1】

【0017】
第1工程において用いられるポリシランの代わりに、その加熱反応物を用いてもよい。ポリシランの加熱反応物は、上記の鎖状又は環状のポリシランを加熱して得られるポリシラン結合単位に加えて、一部にカルボシラン結合を含む有機ケイ素重合体を包含する。このような有機ケイ素重合体は、それ自体公知の方法によって調製することができる。調製法の例としては、鎖状又は環状のポリシランを400〜700℃の比較的高い温度で加熱反応する方法、及び、このポリシランにフェニル基含有ポリボロシロキサンを加えて250〜500℃の比較的低い温度で加熱反応する方法などを挙げることができる。こうして得られる有機ケイ素重合体の平均分子量は、通常1000〜5000である。
【0018】
フェニル含有ポリボロシロキサンは、特開昭53-42300号公報及び特開昭53-50299号公報に記載の方法に従って調製することができる。例えば、フェニル含有ポリボロシロキサンは、ホウ酸と1種類以上のジオルガノクロロシランとの脱塩酸縮合反応によって調製することができ、その平均分子量は通常500〜10000である。フェニル基含有ポリボロシロキサンの添加量は、ポリシラン100重量部に対して通常15重量部以下である。
【0019】
上記のポリシラン、又はその加熱物である有機ケイ素重合体に対して、2A族、3A族及び3B族の金属元素のうち少なくとも1種以上の金属元素を含有する化合物を添加し、さらに、不活性ガス中において、通常250〜350℃の温度で1〜10時間反応することによって、原料である金属元素含有有機ケイ素重合体を調製することができる。前記金属元素は、最終的に得られるSiC繊維結合型セラミックス中の金属元素の含有割合が0.05〜4.0重量%になる割合で使用されるが、具体的割合は、本発明の教示に従って当業者が適宜に決定することができる。また、前記の金属元素含有有機ケイ素重合体は、ポリシランのケイ素原子の少なくとも一部が、金属原子と酸素原子を介して、あるいは介さずに結合された構造を有する橋架重合体である。
【0020】
第1工程で添加される、2A族、3A族及び3B族の金属元素のうち少なくとも1種以上の金属元素を含有する化合物としては、前記金属元素のアルコキシド、アセチルアセトキシド化合物、カルボニル化合物、及びシクロペンタジエニル化合物等を挙げることができる。具体的には、ベリリウムアセチルアセトナ−ト、マグネシウムアセチルアセトナ−ト、イットリウムアセチルアセトナ−ト、セリウムアセチルアセトナ−ト、ホウ酸ブトキシド、及びアルミニウムアセチルアセトナ−ト等を挙げることができる。これらはいずれも、ポリシラン又はその加熱反応物との反応時に生成する有機ケイ素ポリマー中のSi−H結合と反応して、それぞれの金属元素がSiと直接あるいは他の元素を介して結合した構造を生成し得るものである。
【0021】
第2工程
第2工程においては、第1工程で得られた金属元素含有有機ケイ素重合体を溶融紡糸することによって、紡糸繊維を得る。紡糸繊維は、溶融紡糸及び乾式紡糸等のそれ自体公知の方法によって、前駆重合体である金属元素含有有機ケイ素重合体を紡糸することにより得ることができる。
【0022】
第3工程
第3工程においては、第2工程で得られた紡糸繊維を酸素含有雰囲気中50〜170℃で加熱することによって、不融化繊維を調製する。不融化の目的は、紡糸繊維を構成するポリマー間に酸素原子による橋架点を形成させて、次工程の無機化工程において不融化繊維が溶融せず、かつ隣接する繊維同士が融着しないようにすることである。酸素含有雰囲気を構成するガスとしては、空気、酸素及びオゾンが例示される。不融化時間は不融化温度に依存するが、通常数分〜30時間である。不融化繊維中の酸素の含有量は、8〜16重量%になるように調整することが望ましい。この酸素の大部分は、次工程の無機化後も繊維中に残存し、最終の焼結に至るまでの昇温過程において、無機繊維中の余剰炭素をCOガスとして脱離させる重要な働きをする。なお、酸素含有量が8重量%より少ない場合は、無機繊維中の余剰炭素が必要以上に残存し、昇温過程においてSiC結晶の回りに偏析して安定化するため、β−SiC結晶同士が粒界第2相を介すことなく焼結することを阻害する。また、酸素含有量が16重量%よりも多い場合には、無機繊維中の余剰炭素が完全に脱離して、繊維間の境界炭素層が生成されない。いずれの場合も、得られる材料の力学的特性に悪影響を及ぼすので、好ましくない。
【0023】
上記の不融化繊維は、さらに不活性雰囲気中で予備加熱することが好ましい。不活性雰囲気を構成するガスとしては、窒素、アルゴン等を例示することができる。加熱温度は通常150〜800℃であり、加熱時間は数分〜20時間である。不融化繊維を不活性雰囲気中で予備加熱することにより、繊維への酸素の取り込みを防止しつつ、繊維を構成するポリマーの橋架反応をより進行させて、前駆体重合体からの不融化繊維の優れた伸びを維持しつつ、強度をより向上させることができる。これにより、次工程の無機化を作業性よく安定に行うことができる。
【0024】
第4工程
第4工程においては、第3工程で得られた不融化繊維を不活性ガス中において無機化することによって、無機化繊維を得る。この不融化繊維の無機化は、連続式又は回分式により、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中において、1000〜1700℃の温度で加熱処理して行う。
【0025】
上記の方法により得られた無機化繊維は、主としてSiCの焼結構造からなる無機化繊維であって、酸素(O)0.01〜1重量%、並びに2A族、3A族及び3B族の金属原子のうち少なくとも1種以上の金属原子を含有している。このSiCの焼結構造からなる無機繊維は、主としてβ−SiCの多結晶焼結構造、又はβ−SiC及びCの結晶質微粒子からなる。Cの微結晶及び極微量の酸素(O)の少なくとも一方を含有するβ−SiC結晶粒子同士が粒界第2相を介すことなく焼結した領域においては、SiC結晶間の強固な結合が得られる。仮に繊維中で破壊が起こる場合は、少なくとも30%以上の領域がSiCの結晶粒内において進行する。場合によっては、SiC結晶間の粒界破壊領域と粒内破壊領域が混在する。
【0026】
また、上記の無機化繊維を構成する元素の割合は、通常、Si:55〜70重量%、C:30〜45重量%、O:0.01〜1重量%、M(2A族、3A族及び3B族の金属元素):0.05〜4.0重量%、好ましくは、0.1〜2.0重量%である。2A族の金属元素としてはBe、Mg、Ca及びSrが、3A族の金属元素としてはSc及びYが、3B族の金属元素としてはB、Al及びGaが挙げられる。その中でも、特にBe、Mg、Y、B及びAlが好ましく用いられる。これらは、いずれもSiCの焼結助剤として公知の金属元素であり、また、有機ケイ素ポリマーのSi−H結合と反応し得るキレート化合物やアルキシド化合物が存在するものである。この金属元素の割合が過度に少ないと、繊維材の十分な結晶性が得られず、逆に、その割合が過度に高くなると、粒界破壊が多くなり力学的特性の低下を招くことになるので、好ましくない。
【0027】
第5工程
第5工程においては、第4工程で得られた無機化繊維を製織し、その織物を所定の形状に裁断し積層することによって、予備成形体を作製する。無機化繊維は、2次元織物の積層状態と同様の配向状態に製織される。製織方法としては、縦糸・横糸各2本ずつで循環し、いずれの糸も1本ごとに浮沈して交錯する平織り、縦糸・横糸3本以上から作られ、平織りのように交互に浮沈せず、連続的に浮沈した組織点で斜めに綾線をあらわす綾織り、及び縦糸・横糸5本以上で作られ、ただ1つの交錯点を一定の間隔に配置した朱子織等が挙げられる。しかし、これら織物の種類及び繊維の配向方向は、目的とする形状物に要求される特性により随時選択されるものであり、これらに限定されるものでなく、種々の織物の組合せであってもよい。
【0028】
本発明に係るSiC繊維結合型セラミックスの製造方法においては、第1工程乃至第4工程により得られた無機化繊維を製織して、その織物から予備成形体を作製する。また、前記無機化繊維の特性から、マトリックス成分となるセラミックス粉末等を添加せずに、予備成形体を作製することができる。そのため、従来の製造方法とは異なり、カーボンダイスやC/Cモールドを装置炉内に配置することなしに、カーボン製の上下パンチのみを用いて、予備成形体の加熱加圧処理を行うことができる。よって、従来の製造方法と比べて、装置炉の同一の有効直径に対して、より大きなサイズの予備成形体を使用することができる。
【0029】
第6工程
第6工程においては、第5工程で得られた予備成形体を、カーボン製の上下パンチ間に側面を開放して配置し、真空、不活性ガス、還元ガス及び炭化水素いずれかの雰囲気中において、1700〜2200℃の温度及び予備成形体の垂直方向に100〜1000kg/cmの加圧下で加熱加圧処理することによって、SiC繊維結合型セラミックスを成形する。第6工程の加熱加圧処理には、それ自体公知のホットプレス装置を使用することができる。
【0030】
第6工程においては、従来の製造方法とは異なり、カーボンダイスやC/Cモールドを装置炉内に配置することなしに、カーボン製の上下パンチのみを用いて、予備成形体の加熱加圧処理を行う。その結果、装置炉内の有効面積を最大限に活用し、既存装置を用いて従来より大きなサイズのSiC繊維結合型セラミックスが製造できることができる。
【0031】
予備成形体の上側にセットするカーボン製の上パンチは、加圧装置の可動ロッド側に固定して、加圧開始時に予備成形体に接触させてもよい。また、予備成形体を真垂直方向に加圧するため、上パンチ及び予備成形体の1以上の側面にガイドを設けてもよい。
【0032】
得られたSiC繊維結合型セラミックスを構成する無機化繊維の全て又は大部分は、多角形状に変形し、最密充填に極めて近い構造に結合していることが好ましい。また、無機化繊維間の境界領域には、1〜100nmの炭素(C)を主成分とする境界層が形成されていることが好ましい。この構造を反映して、得られたSiC繊維結合型セラミックスは、1600℃における強度が室温強度の80%以上という極めて高い力学的特性を発現する。
【実施例】
【0033】
次に、本発明に係るSiC繊維結合型セラミックスの製造方法を、実施例に基づいて説明する。得られたSiC繊維結合型セラミックスの力学的特性を評価するため、切欠き材及び平滑材の引張試験を実施した。SiC繊維結合型セラミックスは、切欠きによる応力集中の影響をほとんど受けないため、切欠き材の引張強度は、ほぼ正味断面応力基準に従うことが知られている。言い換えれば、切欠き材の引張強度は、切欠き部分を除いた正味断面積と同じ断面積を有する平滑材の引張強度とほぼ同じであると言える。このことから、実施例に係るSiC繊維結合型セラミックスの切欠き材の引張強度が、切欠き部分を除いた正味断面積と同じ断面積を有する平滑材の引張強度とほぼ同じであれば、優れた破壊靱性を有することを意味する。
【0034】
[引張試験]
切欠き材及び平滑材の高温引張試験は、油圧チャック式のサーボ型試験機を用いて、大気中、1400℃、クロスヘッド速度0.5mm/minの条件において行った。切欠き材の実破壊強度は、破断荷重を断面積(幅10mm×厚さ2mm)で除して求めた。また、平滑材の破壊強度も切欠き材と同様に、破断荷重を断面積(幅10mm×厚さ2mm)で除して求めた。
【0035】
(実施例1)
窒素ガス気流下において、ナトリウム400gを含有する無水キシレンを加熱環流させながら、ジメチルジクロロシラン1Lを滴下し、引き続き10時間加熱環流して沈殿物を生成させた。この沈殿物をろ過し、メタノール、次いで水を用いて洗浄して、白色のポリジメチルシラン420gを得た。このポリジメチルシランの一般式を化2に示す。化2から明らかなように、得られたポリジメチルシランにおけるSi:Cの原子数比は1:2であり、従って、ケイ素原子に対する炭素原子の割合はモル比で1.5以上となる。次に、窒素ガス雰囲気下、n−ブチルエーテル中においてジフェニルジクロロシラン750g及びホウ酸124gを100〜120℃で加熱し、生成した白色樹脂状物をさらに真空中400℃で1時間加熱処理することにより、フェニル基含有ポリボロシキサン530gを得た。得られたポリジメチルシラン100部に対してフェニル基含有ポリボロシロキサン4部を添加し、窒素ガス雰囲気中において、350℃で5時間熱縮合し、高分子量の有機ケイ素重合体を得た。この有機ケイ素重合体100部を溶解したキシレン溶液に、アルミニウム−トリ−(sec−ブトキシド)7部を添加し、窒素ガス気流下において310℃で架橋反応させることにより、ポリアルミノカルボシランを合成した。
【0036】
【化2】

【0037】
得られたポリアルミノカルボシランを245℃で溶融紡糸し、空気中140℃で5時間加熱処理した後、さらに窒素中300℃で10時間加熱して、不融化繊維を得た。続いて、窒素中1500℃でこの不融化繊維を連続焼成し、炭化ケイ素系連続無機繊維を合成した。
【0038】
続いて、得られた炭化ケイ素系連続無機繊維を製織して朱子織物シートを作製し、長さ300mm×幅180mmに切断した後、50枚を積層して、予備成形体を得た。予備成形体のサイズは装置炉内の有効直径の制約を受けるが、実施例1においては、装置炉内にカーボンダイスやC/Cモールドを配置しないため、後述の比較例1と比べて、同一の有効直径に対してより大きなサイズの予備成形体を使用することができた。
【0039】
次に、予備成形体をホットプレス装置にセットして、加熱加圧処理を行った。図1は、実施例1において使用した装置炉内を示す平面図である。また、図2は、装置炉内のA〜A’方向の断面図である。加熱加圧処理は、以下のようにして行なった。まず、装置炉3内において、カーボン製の上パンチ1及び下パンチ4の間に、予備成形体2を配置した。続いて、予備成形体2を、アルゴン雰囲気下、温度1900℃、圧力50MPaの条件でホットプレス成形することにより、長さ300mm×幅180mm、厚さ4mmのSiC繊維結合型セラミックスを得た。得られたSiC繊維結合型セラミックスは、後述の比較例1と比べると面積比で約1.67倍大きく、装置炉内のスペースをより有効に利用することができた。
【0040】
得られたSiC繊維結合型セラミックス材から切欠き材及び平滑材を採取して、引張試験を実施した。図3に切欠き材の平面図を、図4に切欠き材の正面図を、図5に切欠き部分の拡大図をそれぞれ示す。また、図6に平滑材の平面図を、図7に平滑材の正面図をそれぞれ示す。切欠き材及び平滑材ともに、長さ150mm×幅10mmの寸法とした。切欠き材には、試験片の両側面に、長さ1mm、幅0.5mmの切欠き部分を設けた。切欠き材及び平滑材の両端部の上下面には、銅製タブを取り付けた。銅製タブの取り付けは、無機系接着剤(アロンセラミック)で接着後、市販のクリップにより90℃で10〜12時間保持して行った。銅製タブは、試験片を直接グリップした場合に生じるグリップ箇所の破壊を防ぎ、試験片の正確な高温強度を測定するために取り付けられる。上述の方法により切欠き材及び平滑材の引張強度を測定したところ、それぞれ平均154MPa及び198MPaであった。切欠き材の引張強度が、切欠き先端の応力集中の影響を受けずに正味断面基準に従うとすると、切欠き材の引張強度σは、式(1)で表すことができる。ここで、σは平滑材の引張強度(198MPa)、aは片側の切欠き長さ(1mm)、Wは試験片の幅(10mm)を示す。式(1)より、切欠き材の引張強度は158.4MPaとなる。実際に測定した切欠き材の実破壊強度は、154MPaであり、式(1)で求めた値にほぼ等しい。このことから、実施例1に係るSiC繊維結合型セラミックスは、切欠き等による応力集中に起因する強度低下はなく、高温における破壊靭性に優れていることが分かる。この結果は、カーボンダイス等を使用して成形した比較例1のSiC繊維結合型セラミックスの結果と、ほぼ同等である。以上から、実施例1では、SiC繊維結合型セラミックスの特性を低下させることなく、装置炉内の有効面積を活用して、従来よりも1.67倍大きなサイズのSiC繊維結合型セラミックスを製造できたことが分かる。
【0041】
【数1】

【0042】
(比較例1)
実施例1と同様の方法によって合成した炭化ケイ素系連続無機繊維を製織して、朱子織物シートを作製し、長さ180mm×幅180mmに切断した後、50枚を積層して、予備成形体を得た。比較例1においては、後述のように、装置炉内にカーボンダイス及びC/Cモールドを設置したため、装置炉内の有効直径に対して比較的小さなサイズの予備成形体しか使用することができなかった。続いて、予備成形体をホットプレス装置にセットして、加熱加圧処理を行った。図8は、比較例1において使用した装置炉内を示す平面図である。また、図9は、装置炉内のA〜A’方向の断面図である。比較例1では、装置炉3内において、C/Cモールド6によって補強したカーボンダイス5を下パンチ4の上面に設置し、カーボンダイス5の中に予備成形体2を配置した。さらに、予備成形体2の上面にカーボンダイス5’を配置して、アルゴン雰囲気下、温度1900℃、圧力50MPaの条件でホットプレス成形することにより、長さ180mm×幅180mm、厚さ4mmのSiC繊維結合型セラミックスを得た。
【0043】
得られたSiC繊維結合型セラミックス材より切欠き材及び平滑材を採取して、実施例1と同様の引張試験を実施した。比較例1の引張実験において用いた切欠き材及び平滑材の形状は、実施例1に係る図3〜図7に示したものと同様である。実施例1と同様の高温引張試験を行なった結果、切欠き材及び平滑材の引張強度は、それぞれ平均155MPa及び201MPaであった。切欠き材の引張強度が、切欠き先端の応力集中の影響を受けずに正味断面基準に従うとすると、切欠き材の引張強度σは、上記の式(1)で表すことができる。ここで、σは平滑材の引張強度(201MPa)、aは片側の切欠き長さ(1mm)、Wは試験片の幅(10mm)を示している。式(1)より、切欠き材の引張強度は160.8MPaとなる。実際に測定した切欠き材の実破壊強度は155MPaであり、式(1)で求めた値にほぼ等しい。以上から、比較例1に係るSiC繊維結合型セラミックスは、切欠き等による応力集中に起因する強度低下はなく、高温における破壊靭性に優れていることが分かる。しかし、装置炉内の有効直径400mmに対して、得られたSiC繊維結合型セラミックスは長さ180mm×幅180mmであり、装置炉内の有効面積を十分に活用することができなかった。
【0044】
(比較例2)
実施例1と同様の方法により炭化ケイ素系連続無機繊維を合成し、長さ1mm〜2mmの短繊維を調製した。この短繊維を10重量%のポリビニルアルコール(PVA)溶液と混合した後、離型剤を塗布した型内に入れて100℃で乾燥し、これを長さ180mm×幅180mm、厚さ30mmに切断して予備成形体を得た。この予備成形体を、実施例1と同様に、カーボン製の上下パンチ間に側面を開放して配置し、アルゴン雰囲気下、温度1900℃、圧力50MPaの条件でホットプレス成形した。
【0045】
比較例2においては、成形中に、予備成形体の端部の短繊維が上下パンチ外にはみ出したことにより、端部に十分な圧力がかからず、得られた成形体の端部に気孔が発生していた。さらに、予備成形体の端部が型崩れしたことにより、圧力が端部以外の箇所に集中したため、上パンチにクラックが入っていた。比較例2においては、実施例1とは異なり炭化ケイ素系連続無機繊維を織物状に製織しなかったため、上下パンチのみでは予備成形体の形状を維持することが困難となり、安定した形状の成形体を得ることができなかったものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1に係る装置炉内を示す平面図である。
【図2】実施例1に係る装置炉内のA−A’方向の断面図である。
【図3】実施例1に係る引張実験で用いた切欠き材の平面図である。
【図4】実施例1に係る引張実験で用いた切欠き材の正面図である。
【図5】実施例1に係る引張実験で用いた切欠き材の切欠き部分の拡大図である。
【図6】実施例1に係る引張実験で用いた平滑材の平面図である。
【図7】実施例1に係る引張実験で用いた平滑材の正面図である。
【図8】比較例1に係る装置炉内を示す平面図である。
【図9】比較例1に係る装置炉内のB−B’方向の断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1…上パンチ、2…予備成形体、3…装置炉、4…下パンチ、5、5’…カーボンダイス、6…C/Cモールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシラン又はその加熱反応物に、2A族、3A族及び3B族の金属元素のうち少なくとも1種以上の金属元素を含有する化合物を添加し、不活性ガス中で加熱反応することによって、金属元素含有有機ケイ素重合体を得る第1工程と、
前記金属元素含有有機ケイ素重合体を溶融紡糸することによって、紡糸繊維を得る第2工程と、
前記紡糸繊維を酸素含有雰囲気中50〜170℃で加熱することによって、不融化繊維を得る第3工程と、
前記不融化繊維を不活性ガス中で無機化することによって、無機化繊維を得る第4工程と、
前記無機化繊維を製織し、その織物を所定の形状に裁断し積層することによって、予備成形体を得る第5工程と、
前記予備成形体をカーボン製の上下パンチ間に側面を開放して配置し、真空、不活性ガス、還元ガス及び炭化水素いずれかの雰囲気中において、1700〜2200℃の温度及び前記予備成形体の垂直方向に100〜1000kg/cmの加圧下で加熱加圧処理を行う第6工程と、
を備えたことを特徴とするSiC繊維結合型セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記第4工程は、不活性ガス中において前記不融化繊維を予備加熱した後に、前記不融化繊維の無機化を行なうことを特徴とする請求項1記載のSiC繊維結合型セラミックスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−222462(P2008−222462A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59911(P2007−59911)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】