説明

Sm菌特異的アプタマー、Sm菌増殖抑制剤及びSm菌の検出方法

【課題】Sm菌特異的アプタマー、Sm菌特異的アプタマーを有効成分とするSm菌増殖抑制剤及びSm菌特異的アプタマーを使用したSm菌の検出方法の提供。
【解決手段】下記式(1)で表される塩基配列からなり、ストレプトコッカス・ミュータンス(Sm)菌に結合する活性を有する核酸からなるSm菌特異的アプタマー。5’−X−Y−Z−3’…(1)[式中、Yは特定の塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であり、Xはグアニン塩基の割合が20%以下である5〜30塩基の塩基配列であり、Zはアデニン塩基の割合が20%以下であり、グアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合が70%以上である1〜40塩基の塩基配列である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans、以下「Sm」という。)菌に特異的に結合するアプタマーに関する。より具体的には、Sm菌特異的アプタマー、Sm菌増殖抑制剤及びSm菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アプタマーは、標的分子と特異的に結合する核酸分子であり、分子認識が可能な生体物質として様々な応用が検討されている。アプタマーは、化学的に短時間で合成可能であり、抗体などのタンパク質と比べて熱や乾燥に強く、部位特異的な修飾や固定化が容易であるなどの利点を有している。
【0003】
う蝕原因菌であるSm菌の口腔内における存在とう蝕の発症との間には密接な関係があることが知られており、Sm菌を検出する技術が求められている。従来、Sm菌を検出するためには、培養法、PCR法及びインベーダー法などの分子生物学的方法や、抗Sm菌抗体を使用する免疫学的方法(例えば、特許文献1及び2を参照。)などの方法が用いられてきた。
【0004】
特許文献3には、抗Sm菌抗体を有効成分とするう蝕予防剤が開示されており、特定の抗Sm菌抗体がSm菌の歯面への付着に対する十分な阻害効果を有し、う蝕予防の有効成分として優れた効果を与えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−241335号公報
【特許文献2】特開2003−183299号公報
【特許文献3】特開平6−122633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や2に記載のSm菌の検出方法や特許文献3に記載のう蝕予防剤は抗Sm菌抗体を必要とする。しかしながら、抗体には、製造に時間とコストがかかること、品質保持期間が短いこと、保管管理が困難であることなどの問題があった。一方、アプタマーは、抗体と比較して、製造に時間がかからず、より低コストであり、品質保持期間がより長く、保管管理がより容易であるが、Sm菌に特異的に結合するアプタマー(Sm菌特異的アプタマー)を同定することは困難であった。そこで本発明は、Sm菌特異的アプタマーを提供することを目的とする。別の目的として、本発明は、Sm菌特異的アプタマーを有効成分とするSm菌増殖抑制剤及びSm菌特異的アプタマーを使用したSm菌の検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記式(1)で表される塩基配列からなり、Sm菌に結合する活性を有する核酸からなるSm菌特異的アプタマーを提供する。式(1)中、Yは配列番号72に記載の塩基配列又は配列番号72に記載の塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であり、Xはグアニン塩基の割合が20%以下である5〜30塩基の塩基配列であり、Zはアデニン塩基の割合が20%以下であり、グアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合が70%以上である1〜40塩基の塩基配列である。
5’−X−Y−Z−3’ …(1)
【0008】
上記本発明のSm菌特異的アプタマーによれば、特異的にSm菌を検出することができる。また、抗体と比較して、製造に時間がかからず、より低コストであり、品質保持期間がより長く、保管管理がより容易である。さらに、本発明のSm菌特異的アプタマーは、部位特異的な修飾や固定化が容易であるため、さまざまな機能を容易に持たせることができる。
【0009】
上記本発明のSm菌特異的アプタマーにおいて、Yは配列番号72〜77からなる群から選択される塩基配列であり、Xは配列番号78〜136からなる群から選択される塩基配列であり、Zは配列番号137〜193からなる群から選択される塩基配列であることが好ましい。
【0010】
このような塩基配列からなるアプタマーは、より良好なSm菌との結合性を示す。
【0011】
上記本発明のSm菌特異的アプタマーは、(i)配列番号1〜61からなる群から選択される塩基配列からなる核酸、(ii)配列番号1〜61からなる群から選択される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつストレプトコッカス・ミュータンス(Sm)菌に結合する活性を有する核酸、又は(iii)配列番号1〜61からなる群から選択される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつSm菌に結合する活性を有する核酸からなることが更に好ましい。
【0012】
このような塩基配列からなるアプタマーは、更に良好なSm菌との結合性を示す。
【0013】
本発明はまた、上記のSm菌特異的アプタマーを有効成分とするSm菌増殖抑制剤を提供する。
【0014】
上記本発明のSm菌増殖抑制剤によれば、抗体を有効成分とするものと比較して、製造に時間がかからず、より低コストであり、品質保持期間がより長く、保管管理がより容易なSm菌増殖抑制剤を提供することができる。また、口腔内の主要な菌床バランスを崩すことなくSm菌の増殖のみを抑制することができ、口腔内に存在する他の常在菌への影響が少ないため、安全性が高い。
【0015】
上記のSm菌増殖抑制剤において、Sm菌特異的アプタマーは、細菌増殖抑制物質で修飾されていることが好ましい。
【0016】
細菌増殖抑制物質で修飾されていることにより、よりSm菌増殖抑制剤効果が高いSm菌増殖抑制剤を提供することができる。
【0017】
本発明はまた、チオール基修飾を有する上記のSm菌特異的アプタマーと、チオール基修飾を有しないSm菌特異的アプタマーとを混合し、多量体を形成したアプタマーを得る、多量体形成ステップと、多量体を形成したアプタマーに、チオール基修飾を介して金コロイドを結合して金コロイド標識アプタマーを得る、金コロイド標識ステップと、上記の金コロイド標識アプタマーをSm菌と結合させる、アプタマー結合ステップとを有する、Sm菌の検出方法を提供する。
【0018】
上記本発明のSm菌の検出方法によれば、チオール基修飾を有するSm菌特異的アプタマーのみを使用した場合と比較して、Sm菌の検出感度を高めることができる。
【0019】
上記のSm菌の検出方法において、チオール基修飾を有しないSm菌特異的アプタマーは、FITC標識を有することが好ましい。
【0020】
チオール基修飾を有しないSm菌特異的アプタマーがFITC標識を有することにより、Sm菌の検出感度を更に高めることができる。
【0021】
上記のSm菌の検出方法の多量体形成ステップにおいて、チオール基修飾を有するSm菌特異的アプタマーと、チオール基修飾を有しないSm菌特異的アプタマーの混合比が、質量比で1:1〜1:10であることが好ましい。
【0022】
チオール基修飾を有するSm菌特異的アプタマーと、チオール基修飾を有しないSm菌特異的アプタマーの混合比が上記の範囲にあることによって、Sm菌の検出感度を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、Sm菌特異的アプタマーが提供される。また、上記のSm菌特異的アプタマーを有効成分とするSm菌増殖抑制剤及び上記のSm菌特異的アプタマーを使用したSm菌の検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】Sm菌特異的アプタマーの構造を示す模式図である。
【図2】(a)〜(c)は、CD−スペクトルの結果を示すグラフである。
【図3】アプタマーのSm菌に対する結合強度を示すグラフである。
【図4】(a)〜(e)は、アプタマーの各種細菌への結合を評価した結果を示す写真である。図中の略号は以下の通りである。Sm:Streptococcus mutans、La:Lactobacillus acidophilus、Ss:Streptococcus sobrinus、Sal:Streptococcus salivarius。
【図5】(a)及び(b)は、アプタマーの各種細菌への結合を評価した結果を示す写真である。図中の略号は以下の通りである。Sm:Streptococcus mutans、Ss:Streptococcus sobrinus、La:Lactobacillus acidophilus、Sal:Streptococcus salivarius、San:Streptococcus sanguinis、Aug:Streptococcus anginosus、Mit:Streptococcus mitis、Ora:Streptococcus oralis、Ec:Escherichia coli。
【図6】Sm菌特異的アプタマーのアガロースゲル電気泳動の結果を示す写真である。
【図7】Sm菌の検出結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のSm菌特異的アプタマーにおいて、核酸は、DNAでもRNAでもよく、ペプチド核酸(PNA)やLocked Nucleic Acid(LNA)などの核酸類似体であってもよく、部分的にこれらの核酸や核酸類似体が混合したものであってもよいが、安定性やコストの観点からDNAであることが好ましい。
【0026】
発明者らは、抗体と同等のSm菌結合能をもつ複数のアプタマー配列の設計に成功し、それらに共通する配列特性を解明した。その結果、Sm菌特異的アプタマーの塩基配列は3つのブロックからなる配列で構成されていることが明らかとなった。
【0027】
図1に示すように、本発明のSm菌特異的アプタマーは、5’側領域、コア領域及び3’側領域から構成されている。5’側領域は上記式(1)におけるXであり、コア領域は上記式(1)におけるYであり、3’側領域は上記式(1)におけるZである。5’側領域は5〜30塩基の塩基配列からなる。3’側領域は1〜40塩基の塩基配列からなる。
【0028】
コア領域は、配列番号72又は配列番号72に記載の塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列である。コア領域は、配列番号72〜77からなる群から選択される塩基配列であることが好ましく、配列番号72に記載の塩基配列であることが更に好ましい。
【0029】
5’側領域は、グアニン塩基の割合が20%以下である5〜30塩基の塩基配列である。グアニン塩基の割合とは、5’側領域の塩基配列を構成する塩基数に対するグアニン塩基の割合を意味する。5’側領域は、配列番号78〜136からなる群から選択される塩基配列であることが好ましく、配列番号78〜119からなる群から選択される塩基配列であることが更に好ましく、配列番号78〜107からなる群から選択される塩基配列であることが特に好ましい。
【0030】
3’側領域は、アデニン塩基の割合が20%以下であり、グアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合が70%以上である、1〜40塩基の塩基配列である。アデニン塩基の割合とは、3’側領域の塩基配列を構成する塩基数に対するアデニン塩基の割合を意味する。同様に、グアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合とは、3’側領域の塩基配列を構成する塩基数に対するグアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合を意味する。3’側領域は、配列番号137〜193からなる群から選択される塩基配列であることが好ましく、配列番号137〜176からなる群から選択される塩基配列であることが更に好ましく、配列番号137〜165からなる群から選択される塩基配列であることが特に好ましい。
【0031】
ところで、各核酸塩基の酸解離定数(pKa)として、表1に示す値が報告されている。表中の(a)についてはJ.Clauwaert and J.Stockx,Z.Naturforsch.,23b,25,1968を参照されたい。(b)についてはI.Wempen,R.Duschinsky,L.Kaplan and J.J.Fox,J.Am.Chem.Soc.,83,4755,1961を参照されたい。(c)についてはJ.J.Fox and D.Shugar,Biochim.Biophys.Acta,9,369,1952を参照されたい。
【0032】
【表1】

【0033】
これらの報告によると、pKaの値はアデニン塩基とシトシン塩基が低く、グアニン塩基とチミン塩基が高い。この性質により、グアニン塩基とチミン塩基にプロトンが付加されると相互作用を引き起こす可能性が考えられる。また、アプタマーは核酸であり、リン酸骨格が負に帯電していることから、Sm菌の膜上に存在する正に荷電している部分に結合しやすいと考えられる。しかし、アプタマー中のグアニン塩基やチミン塩基が多い領域は正に荷電し、Sm菌の膜上に存在する負に帯電している部分と結合しやすい可能性が考えられる。
【0034】
特定の理論に拘泥するものではないが、本発明のSm菌特異的アプタマーの5’側領域は、グアニン塩基の割合が少ないことにより、上述したようにリン酸骨格に由来して負に荷電し、Sm菌との結合が生じている可能性が考えられる。また、3’側領域は、グアニン塩基及びチミン塩基の割合が高く、アデニン塩基の割合が低いことにより、上述したようにグアニン塩基及びチミン塩基が正に荷電し、Sm菌の膜上に存在する局所的に負に帯電している部分との結合が生じている可能性が考えられる。
【0035】
Sm菌特異的アプタマーは、(i)配列番号1〜61からなる群から選択される塩基配列からなる核酸、(ii)配列番号1〜61からなる群から選択される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつストレプトコッカス・ミュータンス(Sm)菌に結合する活性を有する核酸、又は(iii)配列番号1〜61からなる群から選択される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつSm菌に結合する活性を有する核酸からなることが更に好ましい。
【0036】
1若しくは数個の塩基とは、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個の塩基を意味する。また、「90%以上の相同性を有する塩基配列」とは、2つの塩基配列をアラインメントして比較した場合に、90%以上の塩基が同一である塩基配列を意味する。塩基配列をアラインメントする際には、最大の相同性を与えるようにギャップを挿入してもよい。ギャップとは空白(空白の塩基)を意味する。下記実験例において示すように、例えば、配列番号1〜61に記載の塩基配列からなるアプタマーは、Sm菌に対して良好な反応性(Sm菌に結合する活性)を示す。
【0037】
ここで、コア領域には変異が入らないことが好ましい。変異が入る場合、1若しくは2個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であり、1若しくは2個の塩基の置換であることが好ましい。コア領域は、配列番号72〜77からなる群から選択される塩基配列であることが好ましく、配列番号72に記載の塩基配列であることが更に好ましい。
【0038】
発明者らは、下記実験例において示すように、(Circular Dichroism)CD−スペクトルの結果から、コア領域がG−Quadruplex(グアニン4重鎖)構造をとっていることを明らかにした。G−Quadruplex構造とは、DNAの高次構造の一種であり、グアニンの4量体が形成した面が2〜3面重なったものである。この構造は1本鎖DNA単体が形成することもできるが、2量体や4量体の1本鎖DNAが形成することも知られている。下記実験例のCD−スペクトルは、4量体構造を意味する可能性が高い。G−Quadruplex構造は、内部に1価の金属イオンを取り込むことで安定化することが知られている。
【0039】
特定の理論に拘泥するものではないが、発明者らは、下記実験例において示すように、コア領域の塩基配列からなる核酸がSm菌と結合しないことから、本発明のSm菌特異的アプタマーは、コア領域が5’側領域及び3’側領域を特定の空間に立体配置するための骨格となっており、5’側領域及び3’側領域でSm菌と結合していると考えられる。コア領域によって複数のアプタマー分子が束ねられて4量体などの多量体を形成することによって、アプタマーの立体配置が固定され、Sm菌に対する反応性が飛躍的に向上していると考えられる。
【0040】
本発明のSm菌特異的アプタマーを用いてSm菌を検出することができる。例えば、次のような方法が使用できる。まず、Sm菌特異的アプタマー配列を標識物質で標識する。次に、標識Sm菌特異的アプタマーとSm菌を反応させる。反応後、未反応の標識Sm菌特異的アプタマーを遠心及び洗浄、吸引ろ過などの方法によって除去し、その後、フィルター、メンブレン、ろ紙などの検出基材上に載せる。検出基材の上には、Sm菌と反応した標識Sm菌特異的アプタマーが残っているため、その標識物質を検出することにより、Sm菌の存在を確認できる。
【0041】
標識物質としては、金コロイド粒子、銀コロイド粒子、白金コロイド粒子などの貴金属コロイド、ビーズ、着色した脂質小胞(リボソーム)や小胞、ラテックス粒子、着色ラテックス粒子、磁気微粒子などの各種微粒子、FITCなどの各種蛍光物質、酵素、補酵素、ビオチン、色素、化学発光物質、放射性同位元素、酸化還元物質などを使用することができる。
【0042】
標識物質として金コロイドを使う場合、金コロイドとアプタマーの結合にはビオチン−アビジン結合を利用する方法及びチオール基を利用する方法などが使用できる。チオール基を利用する場合、チオール基修飾アプタマーを使うと容易にアプタマーを金コロイド標識することができる。
【0043】
本発明はまた、Sm菌特異的アプタマーを有効成分とするSm菌増殖抑制剤を提供する。本発明のSm菌増殖抑制剤は、上記のSm菌特異的アプタマーを単独で、又は適宜、薬理学的に許容される賦形剤、希釈剤などと混合し、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤若しくはシロップ剤などの製剤として使用することができる。
【0044】
これらの製剤は、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤などの添加剤を用いて周知の方法で製造される。
【0045】
賦形剤は、有機系賦形剤又は無機系賦形剤であり得る。有機系賦形剤は、例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉、デキストリンのようなデンプン誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;又はプルランなどであり得る。無機賦形剤は、例えば、軽質無機ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムのようなケイ酸塩誘導体;リン酸水素カルシウムのようなリン酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;又は硫酸カルシウムのような硫酸塩などであり得る。
【0046】
滑沢剤は、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーガムのようなワックス類;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DL−ロイシン;脂肪酸ナトリウム;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水ケイ酸、ケイ酸水和物のようなケイ酸類;又は上記デンプン誘導体であり得る。
【0047】
結合剤は、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、又は上記賦形剤と同様の化合物であり得る。
【0048】
崩壊剤は、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;又はカルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類であり得る。
【0049】
安定剤は、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラヒドロキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなクレゾール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;又はソルビン酸であり得る。
【0050】
矯味矯臭剤は、例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料であり得る。
【0051】
希釈剤は、例えば、蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖液などの通常使用されるものであり得る。
【0052】
本発明のSm菌増殖抑制剤において、Sm菌特異的アプタマーに細菌増殖抑制物質を修飾することにより、Sm菌増殖抑制効果を更に高めることができる。細菌増殖抑制物質とは、公知の殺菌剤や阻害剤や抗菌剤を意味し、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化第一錫、フッ化ストロンチウム、モノフルオロリン酸ナトリウムなどのフッ化物;正リン酸のカリウム塩、ナトリウム塩などの水溶性リン酸化合物;アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、ヒノキチオール、アスコルビン酸、塩化リゾチーム、グリチルリチン酸及びその塩類、塩化ナトリウム、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、酢酸dl−トコフェロール、α−ビサボロール、イソプロピルメチルフェノール、クロルヘキシジン塩類、塩化セチルピリジニウム、アズレン、グリチルレチン酸、銅クロロフィリンナトリウム、グルコン酸銅などの銅化合物、乳酸アルミニウム、塩化ストロンチウム、硝酸カリウム、ベルベリン、ヒドロキサム酸及びその誘導体、トリポリリン酸ナトリウム、ゼオライト、アミラーゼ、メトキシェチレン、無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、エピジヒドロコレステリン、塩化ベンゼトニウム、ジヒドロコレステロール、トリクロロカルバニド、クエン酸亜鉛塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、トリクロサン、イソプロピルフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノール、トリクロロカルバニド、ハロゲン化ジフェニルエーテル類、プロアントシアニジン類(ポリフェノール化合物、フェノール化合物)、ハロゲン化カルバニリド、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、コウジ酸、コウジ酸誘導体、ペニシリン系試薬、マイクロライド系試薬、クリンダマイシン系試薬を使用することができる。
【0053】
本発明はまた、チオール基修飾を有するSm菌特異的アプタマーと、チオール基修飾を有しないSm菌特異的アプタマーとを混合し、多量体を形成したアプタマーを得る、多量体形成ステップと、多量体を形成したアプタマーに、チオール基修飾を介して金コロイドを結合して金コロイド標識アプタマーを得る、金コロイド標識ステップと、金コロイド標識アプタマーをSm菌と結合させる、アプタマー結合ステップとを有する、Sm菌の検出方法を提供する。
【0054】
下記実験例において示すように、本発明者らは、チオール基修飾アプタマーと金コロイドとを結合させると、多量体を形成したアプタマーの全てのチオール基が金コロイドと結合することにより、標的であるSm菌と結合する際に結合部位の柔軟性が乏しくなり、本来の結合性が発揮できない場合があることを見出した。
【0055】
本発明のSm菌の検出方法により、上記の問題を解消することができる。すなわち、チオール基修飾アプタマーに、チオール基修飾を有しないアプタマー又は未標識のアプタマーを混合して多量体を形成させ、その後、多量体を形成したアプタマーのうち、チオール基修飾のものと金コロイドとを結合させるとよい。これにより、多量体を形成したアプタマー中のチオール基修飾を有しないアプタマーの存在により、結合部位の柔軟性を確保することができる。
【0056】
チオール基修飾を有しないアプタマーとしては、未標識アプタマーやFITC標識アプタマーなどが使用できるが、Sm菌への結合がより向上することからFITC標識アプタマーを用いることが好ましい。
【0057】
チオール基修飾アプタマーと、チオール基修飾を有しないアプタマーとの混合比は、質量比で1:1〜1:10であることが好ましく、1:2〜1:7であることがより好ましく、1:3〜1:5であることが特に好ましい。
【実施例】
【0058】
(実験例1)
CD−スペクトルの測定
配列番号73に示すコア領域の塩基配列からなるDNA断片、配列番号1の塩基配列からなるアプタマー及び配列番号2の塩基配列からなるアプタマーのCD−スペクトルを、Tris緩衝液(10mM Tris−HCl、0.05mM EDTA、pH8.0)中、及びTBS緩衝液(10mM Tris−HCl、150mM NaCl、5mM KCl、5mM MgCl、pH7.4)中で測定した。Tris緩衝液はカリウムイオンを含んでおらず、TBS緩衝液はカリウムイオンを含んでいる。
【0059】
図2に結果を示す。(a)は、コア領域の塩基配列からなるDNA断片の結果を示すグラフであり、「A」はTris緩衝液中での結果を、「B」はTBS緩衝液中での結果を示す。(b)は、配列番号1の塩基配列からなるアプタマーの結果を示すグラフであり、「C」はTris緩衝液中での結果を、「D」はTBS緩衝液中での結果を示す。(c)は、配列番号2の塩基配列からなるアプタマーの結果を示すグラフであり、「E」はTris緩衝液中での結果を、「F」はTBS緩衝液中での結果を示す。
【0060】
パラレル型G−Quadruplex構造と呼ばれる構造を有する場合には、240nmにおいて負のピークが、265nmにおいて正のピークが検出されることが知られている。図2の結果から、コア領域の塩基配列からなるDNA断片は、カリウムイオンの存在の有無にかかわらずパラレル型G−Quadruplex構造を形成することが明らかとなった。また、配列番号1の塩基配列からなるアプタマー及び配列番号2の塩基配列からなるアプタマーは、いずれもカリウムイオンの存在下でパラレル型G−Quadruplex構造を形成することが明らかとなった。
【0061】
(実験例2)
アプタマーのSm菌に対する結合強度の測定
Sm菌をTBS緩衝液(10mM Tris−HCl)(pH7.5)で1.0×10cfu/mlに調製した。この溶液に、5’末端をFITC標識した、配列番号1〜68の塩基配列からなるアプタマー(終濃度 1μM)及びTBS−T緩衝液(0.05質量%Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)−10mM Tris−HCl)(pH7.5)で500倍希釈したセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗FITC抗体を混合し反応させた。続いて、Sm菌をTBS−T緩衝液で洗浄し、Sm菌に結合しなかったアプタマーや抗体を除去した。洗浄後の反応液1μlをニトロセルロースメンブレンにブロットし、ECL advance(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を添加して、酵素−基質反応による化学発光を生じさせた。生じた発光量をImageQuantTL(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて測定し、測定値と陰性対象の発光量との比を算出し、アプタマーのSm菌に対する結合強度として数値化した。
【0062】
結果を図3に示す。特に、配列番号1〜43の塩基配列からなるアプタマーはSm菌に対する良好な反応性を示した。
【0063】
配列番号62の塩基配列からなるアプタマーは、配列番号76に記載の塩基配列からなるコア領域を有し、コア領域に必要な条件を満たす。また、5’側領域の長さが18塩基であり、グアニン塩基の割合が20%未満であり(6%)、5’側領域に必要な条件を満たす。また、3’側領域のアデニン塩基の割合が20%未満であり(14%)、グアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合が70%以上であるが(77%)、3’領域の長さが40塩基を超えており(64塩基)、3’側領域に必要な条件を満たしていない。配列番号62の塩基配列からなるアプタマーは、上記の方法により測定したSm菌に対する結合強度(相対値)が0.63であり、Sm菌に対する結合性は比較的低かった。
【0064】
配列番号63の塩基配列からなるアプタマーは、配列番号72に記載の塩基配列からなるコア領域を有し、コア領域に必要な条件を満たす。また、5’側領域の長さが18塩基であるが、グアニン塩基の割合が20%を超えており(22%)、5’側領域に必要な条件を満たしていない。また、3’側領域の長さが23塩基であるが、アデニン塩基の割合が20%を超えており(26%)、更にグアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合が70%未満であり(61%)、3’側領域に必要な条件を満たしていない。配列番号63の塩基配列からなるアプタマーを用いて検討した結果、Sm菌に対する結合能が検出されなかった。
【0065】
配列番号64の塩基配列からなるアプタマーは、配列番号72に記載の塩基配列からなるコア領域を有し、コア領域に必要な条件を満たす。また、5’側領域の長さが18塩基であるが、グアニン塩基の割合が20%を超えており(44%)、5’側領域に必要な条件を満たしていない。また、3’側領域の長さが23塩基であるが、アデニン塩基の割合が20%を超えており(30%)、更にグアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合が70%未満であり(52%)、3’側領域に必要な条件を満たしていない。配列番号64の塩基配列からなるアプタマーを用いて検討した結果、Sm菌に対する結合能が検出されなかった。
【0066】
配列番号65の塩基配列からなるアプタマーは、配列番号72に記載の塩基配列からなるコア領域を有し、コア領域に必要な条件を満たす。また、5’側領域の長さが18塩基であるが、グアニン塩基の割合が20%を超えており(22%)、5’側領域に必要な条件を満たしていない。また、3’側領域の長さが12塩基であり、アデニン塩基の割合が20%未満であり(0%)、更にグアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合が70%以上であり(83%)、3’側領域に必要な条件を満たす。配列番号65の塩基配列からなるアプタマーを用いて検討した結果、Sm菌に対する結合能が検出されなかった。
【0067】
配列番号66の塩基配列からなるアプタマーは、配列番号73に記載の塩基配列からなるコア領域を有し、コア領域に必要な条件を満たす。また、5’側領域の長さが18塩基であるが、グアニン塩基の割合が20%を超えており(28%)、5’側領域に必要な条件を満たしていない。また、3’領域の長さが38塩基であり、アデニン塩基の割合が20%未満であり(16%)、グアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合が70%以上であり(71%)、3’側領域に必要な条件を満たす。配列番号66の塩基配列からなるアプタマーを用いて検討した結果、Sm菌に対する結合能が検出されなかった。
【0068】
配列番号67の塩基配列からなるアプタマーは、配列番号72に記載の塩基配列からなるコア領域を有し、コア領域に必要な条件を満たす。また、5’側領域の長さが18塩基であり、グアニン塩基の割合が20%未満であり(17%)、5’側領域に必要な条件を満たす。また、3’側領域の長さが23塩基であるが、アデニン塩基の割合が20%以上であり(30%)、更にグアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合が70%未満であり(65%)、3’側領域に必要な条件を満たしていない。配列番号67の塩基配列からなるアプタマーを用いて検討した結果、Sm菌に対する結合能が検出されなかった。
【0069】
配列番号68の塩基配列からなるアプタマーは、配列番号72に記載の塩基配列からなるコア領域を有し、コア領域に必要な条件を満たす。また、5’側領域の長さが21塩基であり、グアニン塩基の割合が20%未満であり(19%)、5’側領域に必要な条件を満たす。また、3’側領域の長さは21塩基であり、アデニン塩基の割合は20%未満であった(19%)。しかしながら、3’側領域のグアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合が70%未満であり(67%)、3’側領域に必要な条件を満たしていない。配列番号68の塩基配列からなるアプタマーを用いて検討した結果、Sm菌に対する結合能が検出されなかった。
【0070】
(実験例3)
アプタマーの各種細菌への結合性の評価
配列番号1、配列番号2、配列番号70、配列番号71及び配列番号73の塩基配列からなるアプタマーの、Sm菌、Lactobacillus acidophilus(La)菌、Streptococcus sobrinus(Ss)菌及びStreptococcus salivarius(Sal)菌への結合性を評価した。配列番号73はコア領域の塩基配列である。
【0071】
上記のアプタマーの5’末端をFITC標識した。これらのアプタマーを、実験例2と同様にして、上記の各菌体及びHRP標識抗FITC抗体とそれぞれ反応させて、ニトロセルロースメンブレンにブロットし、化学発光を生じさせ、ImageQuantTL(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて撮影した。
【0072】
結果を図4に示す。(a)〜(e)は、それぞれ、配列番号2、配列番号1、配列番号70、配列番号71及び配列番号73の塩基配列からなるアプタマーの各種細菌への結合を評価した結果である。配列番号1(図4(b))及び2(図4(a))の塩基配列からなるアプタマーは、Sm菌に対して強く結合する一方、La菌、Ss菌及びSal菌との結合性は弱く、Sm菌特異的なアプタマーであることが確認された。
【0073】
配列番号1及び2の塩基配列からなるアプタマーとはコア領域の塩基配列が異なる、配列番号70(図4(c))及び71(図4(d))の塩基配列からなるアプタマーは、Sm菌と結合したものの、配列番号1及び2の塩基配列からなるアプタマーよりも弱い結合性を示した。コア領域の塩基配列が異なることでSm菌への結合能が変化することが示された。
【0074】
コア領域の塩基配列(配列番号73)からなるアプタマーは、Sm菌とはほとんど結合せず、La菌との結合性が認められた(図4(e))。このことから、これらのアプタマーのコア領域がSm菌結合部位ではないことが確認された。
【0075】
(実験例4)
アプタマーの各種細菌への結合性の評価
配列番号1及び配列番号2の塩基配列からなるアプタマーの、Sm菌、Ss菌(2種類)、La菌、Sal菌、Streptococcus sanguinis(San)菌、Streptococcus anginosus(Aug)菌、Streptococcus mitis(Mit)菌、Streptococcus oralis(Ora)菌及びEscherichia coli(Ec)菌への結合性を評価した。Ss菌としてはStreptcoccus sobrinus ATCC株(Ss1)菌及びStreptcoccus sobrinus JCM株(Ss2)菌を使用した。
【0076】
各種細菌との反応は実験例3と同様にして行った。結果を図5に示す。配列番号1(図5(b))及び2(図5(a))の塩基配列からなるアプタマーは、Sm菌に対して強く結合する一方、Ss菌、La菌、Sal菌、San菌、Aug菌、Mit菌、Ora菌及びEc菌との結合性は弱く、Sm菌特異的なアプタマーであることが確認された。
【0077】
(実験例5)
Sm菌特異的アプタマーのアガロースゲル電気泳動
配列番号1(47mer)及び配列番号2(44mer)の塩基配列からなるアプタマーのアガロースゲル電気泳動を行った。結果を図6に示す。レーン2は、1μMの配列番号2の塩基配列からなるアプタマーの結果であり、レーン3は、10μMの配列番号2の塩基配列からなるアプタマーの結果であり、レーン4は、1μMの配列番号1の塩基配列からなるアプタマーの結果であり、レーン5は、10μMの配列番号1の塩基配列からなるアプタマーの結果であり、レーン6は、1μMの66merのDNA断片(対照)の結果であり、レーン7は、10μMの66merのDNA断片(対照)の結果である。
【0078】
図6のレーン2〜5において、配列番号1(レーン2及び3)及び配列番号2(レーン4及び5)の塩基配列からなるアプタマーの分子量よりも大きな分子量のバンドがそれぞれ2本ずつ観察された。この結果から、これらのアプタマーが多量体を形成していることが明らかとなった。
【0079】
(実験例7)
金コロイド標識アプタマーを用いたSm菌の検出
配列番号2に記載のアプタマーを用いて、5’チオール基修飾アプタマー、5’チオール基修飾アプタマー及び未標識アプタマーの質量比1:3の混合物並びに5’チオール基修飾アプタマー及び5’FITC標識アプタマーの質量比1:3の混合物を用いたSm菌の検出を行った。
【0080】
カラムを用いて上記の各アプタマー溶液からジチオスレイトール(DTT)を除去した後、0.25μlのDTTを添加し、95℃で4分間保持後、25℃まで2.3℃/分で降温の条件下でフォールディングさせた。続いてアプタマーに金コロイド(40nm、CRL社)を混合して室温で一晩放置して反応させた。続いて1%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液を用いてブロッキングした。続いて遠心及び洗浄を2回繰り返した。以上の操作により、金コロイド標識アプタマーが調製された。
【0081】
Sm菌懸濁液及び上記の金コロイド標識を混合して反応させた。続いて、フロースルーアッセイにより、アプタマーを反応させたSm菌をメンブレン(ウルトラバインド、Pall社)上にトラップした。フロースルーアッセイ用のドットブロッターのウェルの直径は3mmであった。吸引しながら反応液をドットブロッターのウェルに添加した。以上の操作により、メンブレン上にSm菌−金コロイド標識アプタマー複合体が吸着した。メンブレン上にはSm菌と反応した標識アプタマーのみが残るため、メンブレン上に残った金コロイドを検出することにより、Sm菌を検出することができる。Image Quant装置(GE社)を用いて各サンプルのスポット強度(金コロイドの量)を測定した。
【0082】
2回の実験結果をそれぞれ図7(a)及び(b)に示す。図7において、サンプル番号1はチオール基修飾アプタマーのみを反応させた結果であり、サンプル番号2は、チオール基修飾アプタマー及び未標識アプタマーの質量比1:3の混合物を反応させた結果であり、サンプル番号3は、チオール基修飾アプタマー及びFITC標識アプタマーの質量比1:3の混合物を反応させた結果である。
【0083】
図7(a)において、チオール基修飾アプタマーに未標識アプタマーを混合することで、金コロイド標識したアプタマーのSm菌への結合が向上することが示された。また、未標識アプタマーの代わりにFITC標識アプタマーを使用することにより、金コロイド標識したアプタマーのSm菌への結合が更に向上することが示された。図7(b)においては、チオール基修飾アプタマーにFITC標識アプタマーを混合することで、金コロイド標識したアプタマーのSm菌への結合が向上することが示された。
【0084】
特定の理論に拘泥するものではないが、以上の結果から次のようなことが考えられる。実験例5の結果から明らかなように、配列番号2に記載のアプタマーは多量体を形成する。チオール基修飾アプタマーのみで多量体を形成し、金コロイドに結合した場合、多量体に含まれるアプタマーは自由に動くことができないため、Sm菌と結合した場合に最も安定な構造をとることが困難となる。これに対し、チオール基修飾アプタマーとチオール基修飾を有しないアプタマーの混合物が多量体を形成し、金コロイドに結合した場合には、多量体に含まれるチオール基修飾を有しないアプタマーは自由に動くことができるため、Sm菌と結合した場合に最も安定な構造をとることが可能となり、この結果、Sm菌への結合が向上する。
【0085】
(実験例8)
Sm菌増殖抑制実験
Sm菌をMOPS緩衝液中で配列番号1、2及び26の塩基配列からなるSm菌特異的アプタマー並びに対照としてSm菌との結合性が低い配列番号69の塩基配列からなるアプタマーと反応させた。アプタマーと反応させていないSm菌も用意した。続いて、これらのSm菌を液体培地(BHIB)中で18時間培養し、増殖レベルを550nmの吸光度を測定することにより確認した。増殖レベル(相対値)は次のようにして計算した。
増殖レベル(相対値)=(対象のSm菌培養液のOD550)/(アプタマーと反応させていないSm菌培養液のOD550
【0086】
結果を表2に示す。配列番号1、2及び26の塩基配列からなるSm菌特異的アプタマーと反応させたSm菌は、配列番号69の塩基配列からなるアプタマーと反応させたSm菌及びアプタマーと反応させていないSm菌と比較して、増殖が抑制されたことが確認された。
【0087】
【表2】

【0088】
以上の結果から、Sm菌特異的アプタマーをSm菌増殖抑制剤として使用してう蝕を予することができることが明らかとなった。この効果はSm菌に対してのみ発揮され、口腔内に存在する他の常在菌への増殖抑制効果は確認されず、安全性も高いものである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、Sm菌特異的アプタマーが提供される。また、上記のSm菌特異的アプタマーを有効成分とするSm菌増殖抑制剤及び上記のSm菌特異的アプタマーを使用したSm菌の検出方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される塩基配列からなり、ストレプトコッカス・ミュータンス(Sm)菌に結合する活性を有する核酸からなるSm菌特異的アプタマー。
5’−X−Y−Z−3’ …(1)
[式中、Yは配列番号72に記載の塩基配列又は配列番号72に記載の塩基配列において1若しくは2個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であり、
Xはグアニン塩基の割合が20%以下である5〜30塩基の塩基配列であり、
Zはアデニン塩基の割合が20%以下であり、グアニン塩基及びチミン塩基の合計の割合が70%以上である1〜40塩基の塩基配列である。]
【請求項2】
Yは配列番号72〜77からなる群から選択される塩基配列であり、
Xは配列番号78〜136からなる群から選択される塩基配列であり、
Zは配列番号137〜193からなる群から選択される塩基配列である、
請求項1に記載のSm菌特異的アプタマー。
【請求項3】
(i)配列番号1〜61からなる群から選択される塩基配列からなる核酸、
(ii)配列番号1〜61からなる群から選択される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつストレプトコッカス・ミュータンス(Sm)菌に結合する活性を有する核酸、又は
(iii)配列番号1〜61からなる群から選択される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつSm菌に結合する活性を有する核酸
からなる請求項1又は2に記載のSm菌特異的アプタマー。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のアプタマーを有効成分とするSm菌増殖抑制剤。
【請求項5】
前記アプタマーが細菌増殖抑制物質で修飾されている、請求項4に記載のSm菌増殖抑制剤。
【請求項6】
チオール基修飾を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のアプタマーと、チオール基修飾を有しない請求項1〜3のいずれか一項に記載のアプタマーとを混合し、多量体を形成したアプタマーを得る、多量体形成ステップと、
多量体を形成したアプタマーに、チオール基修飾を介して金コロイドを結合して金コロイド標識アプタマーを得る、金コロイド標識ステップと、
前記金コロイド標識アプタマーをSm菌と結合させる、アプタマー結合ステップと
を有する、Sm菌の検出方法。
【請求項7】
前記チオール基修飾を有しない請求項1〜3のいずれか一項に記載のアプタマーが、FITC標識を有する、請求項6に記載の検出方法。
【請求項8】
前記多量体形成ステップにおいて、チオール基修飾を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のアプタマーと、チオール基修飾を有しない請求項1〜3のいずれか一項に記載のアプタマーの混合比が、質量比で1:1〜1:10である、請求項6又は7に記載の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−24026(P2012−24026A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166085(P2010−166085)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】