説明

TFT基板の製造方法およびレーザーアニール装置

【課題】ダミー基板および金属膜から、TFT基板を金属膜から容易に剥離するとともに、TFT基板とその支持基板とを分離することを可能とする、TFT基板の製造方法を提供する。
【解決手段】第一基板101と第二基板102との間に、機能素子を含む構造体103を挟んでなるTFT基板100の製造方法であって、ダミー基板104の上に、柱状の結晶粒子からなる金属膜105と、第一基板101と、構造体103と、第二基板102とを順に形成した後に、金属膜105に、レーザー光Lの焦点Laを集光させて、ダミー基板104と金属膜105とを、第一基板101と構造体103と第二基板102から分離する工程を、少なくとも有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TFT基板の製造方法およびレーザーアニール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される電子機器の小型・軽量化、多機能化が急速に進展している。それに伴って、搭載されるTFT基板等の素子基板に対して、機器が屈曲しても物理的に破壊されず、特性も変化しないことが要求されている。こうした屈曲性を実現する方法として、素子基板自体を折り曲げられるように、フレキシブル化する方法が広く適用されつつあり、屈曲性をさらに向上させるための技術開発が進められている。
【0003】
フレキシブル化されたTFT基板は、ポリイミド等のフレキシブルな材料からなる基板(フレックス基板)に、所定の機能素子を形成してなる。フレックス基板には、熱が加わった際に大きく変形する性質があり、熱処理等のプロセス処理中に、形状を維持させることが難しい。そのため、フレックス基板を含む被処理体のプロセス処理は、ガラス等の剛性を有する基板(ダミー基板)に、被処理体を固定して行われる。被処理体の固定は、犠牲層(剥離層)を介してダミー基板に接合して行われる。一般に、犠牲層を構成する材料としては、アモルファスシリコン、金属の酸化物、金属の窒化物等の無機材料が用いられる(特許文献1)。
【0004】
特許文献1によれば、被処理体に対するプロセス処理を行って形成されたTFT基板は、レーザー光を用いることにより、犠牲層から剥離させることができるとされている。この剥離は、犠牲層のTFT基板側の表面を構成する結晶構造が、レーザー光の熱により変化し、TFT基板との密着性を失った状態になることを利用するものである。レーザー光は、ダミー基板側から犠牲層の内部に入射し、犠牲層において、焦点が集光するように制御される。
【0005】
しかしながら、本発明者が、特許文献1に記載される方法にしたがって実験を行ったところ、TFT基板の犠牲層からの剥離は容易でなかった。犠牲層の構成材料として用いられる、アモルファスシリコン、金属の酸化物、金属の窒化物等は、いずれも熱の吸収効率が低いため、ダミー基板側から入射させたレーザー光を十分に吸収しきれていない虞がある。そこで、本発明者は、剥離が容易でない原因として、犠牲層において十分な熱が発生せず、犠牲層とTFT基板との密着性が弱まり難い点を想定している。
【0006】
TFT基板を剥離させるレーザー光としては、主にエキシマレーザー光が用いられており、ランニングコストの高いことが課題とされている。また、エキシマレーザー光は目視できない光であるため、照射する位置の調整が難しいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2010−516021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたものであり、TFT基板を犠牲層から容易に剥離するとともに、TFT基板とダミー基板とを分離することを可能とする、TFT基板の製造方法を提供することを、第一の目的とする。
【0009】
また、本発明は、金属膜にグリーンレーザー光を照射し、グリーンレーザー光の焦点を金属膜上で走査させることが可能な、レーザーアニール装置を提供することを、第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係るTFT基板の製造方法は、第一基板と第二基板との間に、機能素子を含む構造体を挟んでなるTFT基板の製造方法であって、ダミー基板の上に、柱状の結晶粒子からなる金属膜と、前記第一基板と、前記構造体と、前記第二基板とを順に形成した後に、前記金属膜に、レーザー光の焦点を集光させて、前記ダミー基板と前記金属膜とを、前記第一基板と前記構造体と前記第二基板から分離する工程を、少なくとも有することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2に係るTFT基板の製造方法は、請求項1において、前記金属膜は、モリブデン元素を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3に係るTFT基板の製造方法は、請求項1または2において、前記レーザー光として、グリーンレーザー光を用いることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4に係るレーザーアニール装置は、ダミー基板とTFT基板との間に挟まれた金属膜を加熱して、該金属膜の結晶構造を熱変化させるレーザーアニール装置であって、前記金属膜に向けてグリーンレーザー光を照射する光源と、前記グリーンレーザー光の焦点を、前記金属膜上で走査させる手段と、を少なくとも有することを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項5に係るレーザーアニール装置は、請求項4において、前記グリーンレーザー光のパワー密度は、前記金属膜において、367.6[mJ/cm]以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るTFT基板の製造方法によれば、TFT基板をダミー基板から剥離させる際の犠牲層(剥離層)として金属膜を用いる。金属膜は、ダミー基板側から金属膜に入射したレーザー光を、効率的に吸収する。そして、レーザー光の吸収により、金属膜から熱が発生するため、金属膜と第一基板との密着性が弱まり、TFT基板を金属膜から容易に剥離するとともに、TFT基板とダミー基板とを分離することができる。
【0016】
本発明に係るレーザーアニール装置の構成によれば、金属膜にグリーンレーザー光を照射し、グリーンレーザー光の焦点を金属膜上で走査させることができる。そして、グリーンレーザー光を、金属膜に走査させるとともに吸収させ、熱を発生させることにより、金属膜のTFT基板に対する密着性を弱めることができる。また、従来のようにエキシマレーザー光を照射する光源として用いる場合に比べて、ランニングコストを低く抑えることができる。また、グリーンレーザー光は、目視が可能な光であるため、照射する位置の調整が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第一実施形態に係るTFT基板の構成例を示す図である。
【図2】(a)〜(d)第一実施形態に係るTFT基板の製造工程図である。
【図3】(a)、(b)第一実施形態に係るTFT基板の製造工程図である。
【図4】レーザーアニール装置の斜視図である。
【図5】レーザー光を成形する光学系の一例について、説明する図である。
【図6】レーザー光の照射部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0019】
<第一実施形態>
図1は、第一実施形態に係るTFT基板100の構成例を示す図である。TFT基板100は、第一基板101と第二基板102との間に、機能素子を含む構造体103を挟んでなる。
【0020】
第一基板101は、ポリイミド等のフレキシブルな材料により構成された、平板状の基材である。第二基板102は、ポリイミド等のフレキシブルな材料により構成された、平板状の基材であってもよいし、ガラスやプラスティック等により構成された、剛性を有する平板状の基材であってもよい。第一基板101および第二基板102が、いずれもフレキシブルな材料により構成される場合には、製造されるTFT基板100を、紙のように柔軟な表示装置とすることができる。機能素子を含む構造体103は、薄膜トランジスタ(TFT)としての動作を実現させるものであればよく、その内部構成が限定されることはない。
【0021】
[TFT基板の製造方法]
図2(a)〜(d)、3(a)、(b)は、第一実施形態に係るTFT基板の製造工程図である。第一実施形態に係るTFT基板100の製造方法について、図2(a)〜(d)、3(a)、(b)を用いて説明する。
【0022】
まず、図2(a)に示すように、プロセス処理中の被処理体を支持する、ダミー基板104の一方の主面104aに、犠牲層(剥離層)として機能させる金属膜105を形成する。ダミー基板104は、後の工程にてレーザー光を照射するため、レーザー光に対して比較的透明な、ガラス基板等を用いることが望ましい。
【0023】
金属膜105は、柱状の結晶粒子で構成され、厚さは10〜500[nm]である。また、金属膜105は、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等の元素を少なくとも含む、純金属膜であることが望ましい。なお、図1(a)では、ダミー基板の一方の主面104aのうち全域に、金属膜105を形成する例を示したが、金属膜105を必ずしも全域に形成する必要はなく、剥離する領域に適宜形成すればよい。
【0024】
次に、図2(b)に示すように、金属膜105の上に、第一基板101を形成する。このとき、第一基板101の一方の主面101aが、ダミー基板の一方の主面104aと対向するとともに、第一基板101は、金属膜105を介してダミー基板104と接合された状態となる。
【0025】
次に、図2(c)に示すように、第一基板の他方の主面101bに、TFT形成用の所定のプロセス処理を行って、機能素子を含む構造体103を形成する。
【0026】
次に、図2(d)に示すように、構造体103の上に、剛性を有する第二基板102を形成する。このとき、第二基板102の一方の主面102aが、第一基板の他方の主面と対向するとともに、第二基板102は、構造体103を介して第一基板101と接合された状態となる。なお、構造体103の上に第二基板102を形成しておくことにより、後述の工程において分離されたTFT基板が、フレキシブル性を有する第一基板101とともに反って変形するのを抑えることができる。
【0027】
次に、図3(a)に示すように、ダミー基板104側から金属膜105に向けてレーザー光Lを照射し、金属膜105の第一基板101側の表面に、レーザー光の焦点Laを集光させて走査する。これにより、図3(b)に示すように、第一基板101から金属膜105を剥離するとともに、ダミー基板104と金属膜105とを、第一基板101と構造体103と第二基板102とから分離することができる。そして、分離した第一基板101と構造体103と第二基板102とで構成される、TFT基板100を得ることができる。
【0028】
以上説明したように、第一実施形態に係るTFT基板100の製造方法によれば、TFT基板100をダミー基板104から剥離させる際の犠牲層(剥離層)として金属膜105を用いる。金属膜105は、ダミー基板104側から金属膜105に入射したレーザー光を、効率的に吸収する。そして、レーザー光の吸収により、金属膜105から熱が発生するため、金属膜105と第一基板101との密着性が弱まり、TFT基板100を金属膜105から容易に剥離するとともに、TFT基板100とダミー基板104とを分離することができる。
【0029】
なお、TFT基板100から金属膜105を剥離させる工程においては、金属膜105に向けて照射するレーザー光として、グリーンレーザー光や、YAGレーザー等の赤外光を用いることが望ましい。一例として、グリーンレーザー光の照射を実現する光学系について、以下に説明する。
【0030】
[グリーンレーザー光照射装置]
図4は、図3(a)、(b)に示した、TFT基板100を金属膜105およびダミー基板104から分離する工程を実現するために用いる、レーザーアニール装置200の斜視図である。レーザーアニール装置200は、被処理体202の仕込み/取り出し室201と、被処理体202に対してレーザーアニール処理を行うアニール室203と、グリーンレーザー光発振器205と、それらの制御盤(操作盤)207とで構成される。被処理体202は、図2(d)に示した工程後の状態であって、TFT基板100とダミー基板104とが、金属膜105を介して接合してなるものとする。アニール室203内には、被処理体202を支持(固定)するステージ204が配されている。
【0031】
アニール室203は、被処理体202の搬送路(不図示)を介して、仕込み/取り出し室201と接続されている。また、アニール室203は、グリーンレーザー光Lの導光路206を介して、グリーンレーザー光発振器205と接続されている。導光路(光学系)206は、グリーンレーザー光Lを所望の形状となるように成形しつつ、グリーンレーザー光発振器205内に配された光源(不図示)から、アニール室203内に配された被処理体202へ導く機能を備えている。制御盤(操作盤)207は、仕込み/取り出し室201、アニール室203、グリーンレーザー光発信器205のそれぞれと電気的に接続されている。
【0032】
図5は、図4に示した導光路(光学系)206の構成例について、説明する図である。導光路206は、レーザー光の反射用ミラー209、誘導用レンズ210、成形用レンズ211を備えている。グリーンレーザー光Lは、反射用ミラー209および誘導用レンズ210によって構成される導光路206を経由して、被処理体202に到達する。また、グリーンレーザー光Lは、導光路206を経由する間に、成形用レンズ211によって、所望の形状となるように成形される。
【0033】
図6は、図4に示した被処理体202における、グリーンレーザー光Lの照射部を拡大し、ダミー基板104、金属膜105のみを模式的に示した図である。被処理体202に照射されたグリーンレーザー光Lは、ダミー基板104を透過して、金属膜105内に入射し、金属膜105において、焦点が集光されるように制御される。グリーンレーザー光Lが照射された領域105aにおいては、金属膜105の改質し、グリーンレーザー光Lが照射されていない領域105bに比べて、金属膜105とTFT基板100との密着性が弱まることになる。
【0034】
図6においては、Y方向の広がりLbを有する線状(帯状)のグリーンレーザー光Lを、X方向に走査する例を示しているが、グリーンレーザー光Lの形状および走査方法は、この例に限定されない。すなわち、例えば、点状のグリーンレーザー光LをX方向およびY方向に走査させてもよいし、X方向に広がりをもった線状(または帯状)のグリーンレーザー光Lを、Y方向に走査させてもよい。
【0035】
金属膜105に対するグリーンレーザー光Lの照射位置の移動は、グリーンレーザー光Lを走査させて行ってもよいが、ステージ204をグリーンレーザー光Lと相対的に移動させて行ってもよい。
【0036】
グリーンレーザー光Lは、金属膜105において、所望のパワー密度となるように調整される。表1は、TFT基板を金属膜105から剥離させるのに必要な、グリーンレーザー光のパワー密度を調べる実験を行い、その結果をまとめたものである。表1の左欄の数値は、金属膜105における、グリーンレーザー光Lのパワー密度を示し、各パワー密度で照射された場合における、TFT基板と金属膜105との剥離の可否を、表1の右欄に示している。
【0037】
表1に示す実験結果によれば、金属膜105において、パワー密度が367.6[mJ/cm]以上である場合に、TFT基板を金属膜105から剥離することが可能となる。なお、金属膜105において、パワー密度がこの範囲に保たれるならば、グリーンレーザー光Lは、金属膜105に対して、垂直に照射されなくてもよい。
【0038】
【表1】

【0039】
上述したレーザーアニール装置200の構成によれば、金属膜105にグリーンレーザー光Lを照射し、グリーンレーザー光の焦点Laを金属膜105上で走査させることができる。そして、グリーンレーザー光の焦点Laを、金属膜105において走査させることにより、金属膜105のTFT基板に対する密着性を弱めることができる。また、従来のようにエキシマレーザー光を照射する光源を用いる場合に比べて、ランニングコストを低く抑えることができる。また、グリーンレーザー光Lは、目視が可能な光であるため、照射する位置の調整が容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、フレキシブルディスプレイパネルを製造する場合に対し、広く適用することが出来る。
【符号の説明】
【0041】
101・・・第一基板、102・・・第二基板、103・・・構造体、
104・・・ダミー基板、105・・・金属膜、200・・・レーザーアニール装置、
208・・・光源、L・・・レーザー光、La・・・焦点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基板と第二基板との間に、機能素子を含む構造体を挟んでなるTFT基板の製造方法であって、
ダミー基板の上に、柱状の結晶粒子からなる金属膜と、前記第一基板と、前記構造体と、前記第二基板とを順に形成した後に、
前記金属膜に、レーザー光の焦点を集光させて、前記ダミー基板と前記金属膜とを、前記第一基板と前記構造体と前記第二基板から分離する工程を、少なくとも有することを特徴とするTFT基板の製造方法。
【請求項2】
前記金属膜は、モリブデン元素を含むことを特徴とする請求項1に記載のTFT基板の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光として、グリーンレーザー光を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のTFT基板の製造方法。
【請求項4】
ダミー基板とTFT基板との間に挟まれた金属膜を加熱して、該金属膜の結晶構造を熱変化させるレーザーアニール装置であって、
前記金属膜に向けてグリーンレーザー光を照射する光源と、
前記グリーンレーザー光の焦点を、前記金属膜上で走査させる手段と、を少なくとも有することを特徴とするレーザーアニール装置。
【請求項5】
前記グリーンレーザー光のパワー密度は、前記金属膜において、367.6[mJ/cm]以上であることを特徴とする請求項4に記載のレーザーアニール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−69769(P2013−69769A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206070(P2011−206070)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】