説明

TRPV1媒介性疾患治療剤

【課題】一般式[I]で表される構造を有するウレア化合物の新たな薬理作用を見出すこと。
【解決手段】一般式[I]で表される構造を有するウレア化合物またはその塩類は、優れたTRPV1媒介性疾患治療作用を有する。式中、Aは低級アルキレン基または低級アルケニレン基を示し、;Rは水素原子、アルキル基またはアルケニル基を示し、該アルキル基およびアルケニル基は任意の置換基で置換されていてもよく;RおよびRは同一または異なって水素原子または低級アルキル基を示し、該低級アルキル基は単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレア誘導体を有効成分として含むTRPV1媒介性疾患の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
TRPV1はTransient Receptor Potential(TRP)スーパーファミリーに属する6回膜貫通領域を有するカルシウムイオン透過性の高い非選択性陽イオンチャンネルで、別名をバニロイド受容体1(VR1)またはカプサイシン受容体といい、唐辛子の辛味成分であるカプサイシン、およびカプサイシンの誘導体であるレジニフェラトキシンなどのバニロイドがTRPV1のアゴニストとして知られている。一方、TRPV1のアンタゴニストとしてはヨードレジニフェラトキシンやカプサゼピン等の化合物が知られている。
【0003】
TRPV1は主として感覚神経に存在しているが、上皮、骨、膀胱、消化管および肺をはじめ多数の内臓器官の神経組織のみならず非神経組織においても発現されている。
【0004】
酸(pH5.9以下)、熱(セ氏43度以上)などの侵害刺激によって活性化されることが知られており、TRPV1の活性化がもたらす生理的な作用は多岐にわたっている(非特許文献1参照)。
【0005】
疼痛はその発生メカニズムにより侵害受容性疼痛(体性痛と内臓痛)、神経因性疼痛(神経の障害による疼痛で侵害刺激なしで疼痛が発生する)等に分類される。
【0006】
侵害受容性疼痛は熱刺激などの刺激により組織を傷害することによって生じる痛みである。体性痛は皮膚や深部組織の侵害受容器が活性化されて生じる痛みであり、これは表在痛(皮膚、粘膜由来)と深部痛(筋、骨、関節由来)に分けられる。体性痛は限局性の痛みであるのが特徴である。
【0007】
内臓痛は体性痛に比べて分布や性質がはっきりしないことが多い。内臓を支配する自律神経と一緒に走っている求心線維によって痛みが伝えられると考えられている。
【0008】
神経因性疼痛は末梢あるいは中枢神経系そのものの機能異常による病的な疼痛である。灼熱感のような持続性の痛みに加えて、間欠的・発作的に強い痛みもある。知覚鈍麻、痛覚過敏、アロディニアなどの現象を伴うのが特徴である(非特許文献2参照)。
【0009】
過活動膀胱は尿意切迫感・頻尿・切迫性尿失禁で構成される症状症候群を呈する病的状態である。日本排尿機能学会により行われた疫学調査によると、日本人の有病率は40歳以上で12.4%であり、総数は810万人と推定されている。その頻度は加齢と高い相関を有しており、70歳以上では30%以上に達する。また、過活動膀胱の患者の生活の質(QOL)は日常生活や精神状態を含む広い領域で著しく低下していることが示されている。
【0010】
過活動膀胱の病因としては脳血管障害、脊髄損傷等の神経性の病因、および、下部尿路閉塞等の非神経性の病因が知られているが、病因の大部分は特定できない特発性であり、その発症にはいくつかの機序が複合的に関与していると推察されている。過活動膀胱の治療の中心は薬剤療法であり、なかでもムスカリン受容体拮抗薬が第一選択薬として治療に用いられるが、満足な治療効果が得られない患者の存在や、口内乾燥等の不快感による服用コンプライアンスの低下が生じる場合も認められる。このため、さらなる過活動膀胱の治療剤の開発が望まれている(非特許文献3および非特許文献4参照)。
【0011】
消化管粘膜は生体が外界と接している広範な境界面であり、管腔内の様々な刺激や変化に対して迅速で的確な生理反応を誘導することによってその恒常性を維持している。胃や十二指腸などの消化管はストレスに非常に敏感に応答する臓器であり、なかでも胃は精神的ストレスや火傷、外傷、手術などの身体ストレスのみならず、食物、アルコール、薬剤などの外因性因子や胃酸、胆汁などの内因性因子などの多くの粘膜障害因子に曝露されることから粘膜障害が発生しやすい環境にある。
【0012】
胃粘膜防御機構を担う代表的な内因性因子としてはプロスタグランジンが知られている。
【0013】
胃潰瘍等の消化管障害の治療には、H受容体阻害剤のような胃酸分泌を抑制する化合物が使用されるが、投与中止時に潰瘍再発等の問題が生じることがある(非特許文献5参照)。
【0014】
また、カプサイシンによるTRPV1を介した交感神経系の活性化はエネルギー代謝を活発にすることで脂肪燃焼すなわち肥満防止に繋がっていると考えられている。
【0015】
このような背景から種々の活性を有する化合物のTRPV1媒介性疾患の治療薬への応用可否が検討されているが、必ずしもその成果は芳しいとは言えず、さらなるTRPV1媒介性疾患の治療薬の探索が望まれる。
【0016】
一方、本発明における有効成分であるウレア誘導体は、TNF−α産生阻害作用を有し、関節リウマチ(RA)等の自己免疫疾患治療薬として使用できることが特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2002−53555号公報
【非特許文献1】戴毅・野口光一 医学のあゆみ 2004 Vol.211 No.5 pp389-392
【非特許文献2】医学のあゆみ vol.195 No.9 2000 582-584痛み発生の生理機構 角田俊信 花岡一雄
【非特許文献3】過活動膀胱治療薬の臨床評価方法に関するガイドライン (厚生労働省通知 薬食審査発第0628001号)
【非特許文献4】日本薬理学雑誌129巻5号 p361-p373
【非特許文献5】加藤伸一 他、G.I.Research 13巻、367ページ、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
TRPV1媒介性疾患、特に疼痛、過活動膀胱または消化管障害の治療薬として好適な化合物を探索すること、および、公知のウレア誘導体の新たな医薬用途を見出すことは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで、本発明者らは、医薬として有用な下記一般式[I]で示される公知のウレア誘導体(特開2002−53555)に着目し、TRPV1媒介性疾患の治療薬の探索研究を行った。
【0019】
その結果、これらのウレア誘導体が、TRPV1アゴニストであることを見出した。さらにこれらのウレア誘導体が、疼痛、過活動膀胱および消化管障害の実験モデルで治療効果を有することから、TRPV1媒介性疾患、特に疼痛、過活動膀胱または消化管障害の治療剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
本発明は、下記一般式[I]で示される化合物またはその塩類(以下特記なき限り「本化合物」とする)を有効成分とするTRPV1媒介性疾患治療剤に関するものである。
【化1】

【0021】

[式中、Aは低級アルキレン基または低級アルケニレン基を示し、;Rは水素原子、アルキル基またはアルケニル基を示し、該アルキル基およびアルケニル基は任意の置換基で置換されていてもよく;RおよびRは同一または異なって水素原子または低級アルキル基を示し、該低級アルキル基は単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。]
上記一般式[I]で示される本化合物は、腎における虚血性障害の抑制効果を有しており、急性腎不全、慢性腎不全等のTRPV1媒介性疾患の治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
一般式[I]で規定された各基について詳しく説明する。
【0023】
低級アルキレン基とはメチレン基、メチルメチレン基、エチレン基、メチルエチレン基、トリメチレン基、メチルメチレン基、テトラメチレン基、メチルテトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の1〜6個の炭素原子を有するアルキレン基を示し、該アルキレン基は低級アルキル基で置換されていてもよく、すなわち分枝のアルキレン基であってもよく;好ましくは低級アルキレン基とは1〜6個の炭素原子を有する直鎖アルキレン基を示し、該アルキレン基は単数または複数のメチル基で置換されていてもよく;さらに好ましくは、低級アルキレン基とは1〜6個の炭素原子を有する直鎖アルキレン基を示し、1個のメチル基で置換されていてもよい。
【0024】
低級アルケニレン基とは、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基等の1個以上の二重結合を有し、2〜6個の炭素原子を有するアルケニレン基を示し、該アルケニレン基は低級アルキル基で置換されていてもよく、すなわち分枝のアルケニレン基であってもよく;好ましくは低級アルケニレン基とは2〜6個の炭素原子を有する直鎖アルケニレン基を示し、該アルケニレン基は単数または複数のメチル基で置換されていてもよく;さらに好ましくは、低級アルケニレン基とは2〜6個の炭素原子を有する直鎖アルケニレン基を示し、1個のメチル基で置換されていてもよい。
【0025】
アルキル基とはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソオクチル基、t-ブチル基、3,3−ジメチルブチル基等の1〜12個の炭素原子を有する直鎖または分枝のアルキル基を示す。
【0026】
低級アルキル基とは、アルキル基のうち、特に1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝のアルキル基を示し、好ましくは直鎖の1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を示す。
【0027】
アルケニル基とはビニル基、アリル基、3−ブテニル基、5−ヘキセニル基、イソプロペニル基等の2〜12個の炭素原子を有する直鎖または分枝のアルケニル基を示し、好ましくは2〜6個の炭素原子を有する直鎖または分枝のアルケニル基であり、特に好ましくは2〜6個の炭素原子を有する直鎖のアルケニル基である。
【0028】
単環式のシクロアルキル基とは、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等の3〜10個の炭素原子を有するシクロアルキル基を示し、好ましくは5〜7個の炭素原子を有するシクロアルキル基を示し、より好ましくはシクロヘキシル基を示す。
【0029】
多環式のシクロアルキル基とは、アダマンチル基等の4〜10個の炭素原子を有する多環式シクロアルキル基を示し、好ましくは10個の炭素原子を有する多環式シクロアルキル基を示し、より好ましくはアダマンチル基を示す。
【0030】
アリール基とは、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素環を示し、好ましくはフェニル基を示す。
【0031】
ハロゲン原子とはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示し、好ましくはフッ素原子を示す。
【0032】
任意の置換基とは、例えばハロゲン原子、トリハロゲノメチル基、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基またはメトキシ基を示し、好ましくはハロゲン原子、トリハロゲノメチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、フラニル基、チオフェニル基、チアゾリル基またはモルフォリノ基を示し、さらに好ましくはトリハロゲノメチル基を示す。
【0033】
本発明における塩類とは医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸との塩、また、ナトリウム、カリウム、カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩などが挙げられる。また、本化合物の第四級アンモニウム塩も本発明における塩類に包含される。さらに、本化合物に幾何異性体または光学異性体が存在する場合には、それらの異性体も本発明の範囲に含まれる。なお、本化合物は水和物または溶媒和物の形態をとっていてもよい。
【0034】
前記一般式[I]で示される化合物において、本発明のTRPV1媒介性疾患治療剤に用いられる好ましい化合物は、
1) Aが低級アルキレン基または低級アルケニレン基であり;
2) Rが低級アルキル基であり、該低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;
かつ、
3) R2が水素原子であり、かつ、R3が単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換された低級アルキル基であるか
または、
R3が水素原子であり、かつ、R2が単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換された低級アルキル基である、
化合物である。
【0035】
前記一般式[I]で示される化合物において、本発明のTRPV1媒介性疾患治療剤に用いられるより好ましい化合物は、
1) Aが低級アルキレン基であり;
2) Rが低級アルキル基であり、該低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;
3) R3が水素原子であり、
かつ、
4) R2が単環式のシクロアルキル基、または多環式のシクロアルキル基で置換された低級アルキル基である、
化合物である。
【0036】
ここで、該単環式のシクロアルキル基または多環式のシクロアルキル基で置換された低級アルキル基は、単環式のシクロアルキル基または多環式のシクロアルキル基で置換された直鎖の低級アルキル基であることが好ましい。
【0037】
前記一般式[I]で示される化合物において、本発明のTRPV1媒介性疾患治療剤に用いられるさらに好ましい化合物は、
Aがトリメチレン基またはメチルトリメチレン基であり;Rが直鎖低級アルキル基であり、該直鎖低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;Rがアダマンチルエチル基またはアダマンチルプロピル基であり;かつ、Rが水素原子である、
化合物である。
【0038】
本発明によるTRPV1媒介性疾患治療剤は、前記一般式[I]で示される化合物のうち、好ましい具体的化合物として、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア (化合物1)、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]−1−(3,3,3−トリフルオロプロピル)ウレア (化合物2)、
1−[3−(1−アダマンチル)プロピル]−1−プロピル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア (化合物3)、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[1−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア (化合物4)、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア (化合物5)、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア (化合物6)、および、
(E)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)−2−プロペニル]ウレア (化合物7)、
からなる群から選択される化合物またはその塩類を有効成分として含有する。
【0039】
上記化合物1〜7のうち、1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレアまたはその塩類を有効成分として含有するTRPV1媒介性疾患治療剤が特に好ましい。
【0040】
本化合物に含まれる代表的な化合物の構造式を以下に示す。
【表1】

【0041】

本化合物は、例えば特開2002−53555号公報記載の方法によって製造できる。
【0042】
本明細書および請求の範囲において、疼痛(pain)とは、その質を問わず痛み全般を意味する。
【0043】
本明細書において、バニロイド受容体とは、TRPV1、TRPV2等のバニロイド受容体全般を意味する。
【0044】
本化合物の有用性を調べるべく、まず、本化合物がTRPV1アゴニストであるか否かを確認した。詳細は後述の薬理試験の項に記載するが、本化合物はTRPV1を含む神経細胞膜標本に、公知アゴニストであるカプサイシンよりも高い結合親和性を示し、かつ、本化合物による神経細胞終末からの神経伝達物質の遊離促進作用はTRPV1アンタゴニストであるカプサゼピンによって拮抗された。これらの実験結果から、本化合物は優れたTRPV1アゴニストであることが示された。
【0045】
TRPV1によって媒介される疾患、すなわち、TRPV1媒介性疾患としては、例えば、疼痛、過活動膀胱、消化管障害、肥満症、しゃっくり、熱への暴露による熱傷、酸への暴露による熱傷、日焼け等が例示される。本化合物は優れたTRPV1アゴニスト作用を有するので、これらのTRPV1媒介性疾患の治療に有用であるが、中でも特に疼痛、過活動膀胱または消化管障害の治療剤として有用である。
【0046】
本化合物がTRPV1によって媒介される疾患の治療剤として有用であることを薬理試験によって確認した。
【0047】
痛みは外界からの侵害刺激を感受し、障害部位を認知するために生体にとって必要不可欠な感覚情報である。TRPV1は主として神経終末に存在しており、酸(pH5.9以下)、熱(43℃以上)などの侵害刺激によって活性化されるイオンチャンネル型受容体である。TRPV1の活性化により神経終末よりsubstance P、CGRPなどのニューロペプチドが遊離され、これらが痛覚伝達に関与しているとされる。
【0048】
神経終末において、これらのニューロペプチドを枯渇させることは痛覚伝達を遮断する一つの方法であることが知られている。例えば、カプサイシンなどのTRPV1アゴニストは神経終末におけるこれらのニューロペプチドの枯渇を誘導することが知られている。実際にカプサイシンは疼痛、特に炎症に伴う長期にわたる疼痛などの侵害受容疼痛の治療に臨床使用されており、また、神経因性疼痛の治療にも使用可能であることが坐骨神経損傷モデルを用いた検討により報告されている(Rashid H.他 The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 304巻,940ページ,2003年)。
【0049】
TRPV1アゴニストによって治療される疼痛の種類としては、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛、内臓痛、体性痛、急性疼痛、慢性疼痛、酸又は熱による熱傷に伴う疼痛、歯痛、一般的な頭痛、偏頭痛、群発頭痛、神経痛等が挙げられる。
【0050】
詳細については後述の薬理試験の項で示すが、本化合物の鎮痛作用を酢酸ライジングモデルを用いて検討したところ、本化合物がライジング回数を抑制し、優れた鎮痛効果を持つことを見出した。即ち、TRPV1アゴニストである本化合物は、疼痛、例えば侵害受容性疼痛、神経因性疼痛、内臓痛、体性痛、急性疼痛、慢性疼痛、酸又は熱による熱傷に伴う疼痛、歯痛、一般的な頭痛、偏頭痛、群発頭痛、神経痛の治療剤として有用であり、特に侵害受容性疼痛、神経因性疼痛、内臓痛または体性痛の治療剤として有用である。
【0051】
近年、尿路上皮細胞上にTRPV1の発現が確認され、排尿とTRPV1の関係が解明されつつある。さらに、神経性、非神経性いずれの過活動膀胱に対してもTRPV1アゴニストが有効であることが報告されており、レジニフェラトキシンなどのTRPV1アゴニストが過活動膀胱の治療に臨床上有用であることがKuoらによって報告されている(Kuo,H他、The Journal of Urology 第176巻、641−645ページ 2006年)。
【0052】
本化合物の過活動膀胱治療剤としての活性はラット膀胱内持続的生理食塩水注入モデルを用いて検討した。詳細は後述の薬理試験の項に記載するが、本化合物は顕著なTRPV1アゴニスト活性を示し、ラット膀胱内持続的生理食塩水注入モデルにおいて優れた排尿間隔の延長効果を示したことから、過活動膀胱、特に尿意切迫感、頻尿または切迫性尿失禁の治療剤として有用である。本化合物は特に神経性または非神経性の過活動膀胱の治療剤として有用であり、神経性過活動膀胱の例としては、脳幹部橋より上位の中枢の障害(脳血管障害、パーキンソン病、他系統萎縮症、認知症、脳腫瘍、脳炎、髄膜炎など)、または、脊髄の障害(脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、脊髄腫瘍、頚椎症、後縦靱帯骨化症、脊柱管狭窄症、脊髄血管障害、脊髄炎、二分脊椎など)に伴う過活動膀胱が挙げられ、非神経性の過活動膀胱の例としては、下部尿路閉塞に伴う過活動膀胱、加齢に伴う過活動膀胱、骨盤底の脆弱化に伴う過活動膀胱、特発性過活動膀胱等が挙げられる。
【0053】
また、カプサイシンなどのTRPV1アゴニストは、消化管を支配する知覚神経終末からCGRP等の伝達物質を遊離することが知られている。TRPV1の活性化によって遊離されたCGRPは微小循環改善作用により消化管粘膜の血流量を増加し、また、CGRPはNOやPGI等の伝達物質を介する粘液分泌の促進等により消化管粘膜保護作用を発揮し、これらを介して消化管障害に対して抑制的に作用することが指摘されている。(原田直明 他、Progress in Medicine 22巻,1997ページ,2002年)(加藤伸一 他、G.I.Research 13巻、367ページ、2005年)
本化合物の消化管障害治療剤としての活性はラット消化管粘膜血流量および消化管障害モデルを用いて検討した。詳細は後述するが、本化合物はTRPV1アゴニストであり、かつ、優れた粘膜血流の増加作用および胃粘膜障害の治療効果を示したことから、消化管障害、特に、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、非糜爛性胃食道逆流症、上部消化管出血、急性胃炎、慢性胃炎等の上部消化管障害の治療剤として有用である。
【0054】
本化合物の投与は非経口でも経口でも行うことができる。投与剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、注射剤、貼付剤、軟膏剤、ローション剤、懸濁剤、膀胱内注入剤等が挙げられる。本化合物の製剤例は特開2002−53555、特開2003−226686の公報に記載されているが、これらの特許文献記載の方法に限らず、汎用されている技術を用いて本化合物を製剤化することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の経口剤は、乳糖、結晶セルロース、デンプン、植物油等の増量剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、シリコン樹脂等のコーティング剤、ゼラチン皮膜等の皮膜剤などを必要に応じて本化合物に加えて、調製することができる。
【0055】
本化合物の投与量は症状、年令、剤型等によって適宜選択できるが、経口剤であれば通常1日当り0.1〜5000mg、好ましくは1〜1000mgを1回または数回に分けて投与すればよい。
【実施例】
【0056】
(製剤例)
本化合物の経口剤および注射剤としての一般的な製剤例を以下に示す。
【0057】
1)錠剤
処方1(100mg中)
本化合物 1 mg
乳糖 66.4mg
トウモロコシデンプン 20 mg
カルボキシメチルセルロース カルシウム 6 mg
ヒドロキシプロピルセルロース 4 mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6mg

上記処方の錠剤に、コーティング剤(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、シリコン樹脂等通常のコーティング剤)2mgを用いてコーティングを施し、目的とするコーティング錠を得る(以下の処方の錠剤も同じ)。また、本化合物および添加物の量を適宜変更することにより、所望の錠剤を得ることができる。
【0058】
2)カプセル剤
処方1(150mg中)
本化合物 5 mg
乳糖 145 mg

本化合物および乳糖の混合比を適宜変更することにより、所望のカプセル剤を得ることができる。
【0059】
3)注射剤
処方1(10ml中)
本化合物 10〜100 mg
塩化ナトリウム 90 mg
水酸化ナトリウム 適量
塩酸 適量
滅菌精製水 適量

本化合物および添加物の混合比を適宜変更することにより、所望の注射剤を得ることができる。
【0060】
以下に本化合物を用いた薬理試験の結果を例示するが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0061】
薬理試験
1.ラット脊髄膜標本における本化合物の結合活性
ラット脊髄に存在する知覚神経にはTRPV1が発現していることが知られている。Szallasiらは、ラット脊髄神経細胞膜標本を用い、TRPV1アゴニストであるレジニフェラトキシンの膜標本に含まれるバニロイド受容体への結合と、カプサイシン拮抗薬であるカプサゼピンによる拮抗実験の結果を報告している(Journal of Phamacology and Experimental Therapeutics,267巻、728−733ページ.)。Szallasiらの方法に準じ、本化合物のラット脊髄膜標本に含まれるバニロイド受容体への結合活性を検討した。
【0062】
(被験化合物含有液等の調製)
被験化合物、競合化合物をそれぞれ含み、かつ、1%DMSOを含む精製水からなる被験化合物含有液および競合化合物含有液を調製した。競合化合物にはトリチウム標識レジニフェラトキシン(H−RTX)を用い、競合化合物含有液中のH−RTXの濃度は0.2nMとした。
【0063】
(膜標本の調製)
ラット脊髄を定法に従いホモジナイズし、数回洗浄した後遠心分離し、得られたペレットを10mg/mLとなるようにインキュベーション緩衝液 (10 mM HEPES, pH 7.4, 0.25 mg/ml BSA, 0.75 mM CaCl2, 5 mM KCl, 2 mM MgCl2, 5.8 mM NaCl, 137 mM Sucrose)に懸濁して膜標本を調製した。
【0064】
(結合実験)
被験化合物含有液5.25μLおよび膜標本500μLを混合した後、この混合物に20μLの競合化合物含有液を加え、全体を37℃で60分インキュベートした。生じた膜/H−RTX複合体をろ過して回収し、洗浄した後、シンチレーションカウンターにて放射活性を測定した。
【0065】
(実験結果の解析)
種々の濃度の被験化合物を含有する被験化合物含有液を用いて上記実験を行い、以下の通り結果の解析を行った。
【0066】
以下の式により被験化合物の各濃度における阻害率(%)を求めた。
【数1】

【0067】

次に、各濃度での阻害率をプロットし、50%阻害濃度(IC50)およびヒル係数を非線形回帰分析により求めた。回帰式には以下の2パラメーターロジスティック式を用いた。
【数2】

【0068】

ここで、Xは化合物の濃度(対数)を、Yは阻害率(%)を示しており、Yはbottomから始まりtopまでシグモイド曲線を描いて変化した。bottomとして0%を、topとして100%を使用した。
【0069】
また、阻害定数(Ki値)を以下の式で求めた。
【0070】
Ki=IC50/(1+放射標識リガンド濃度/解離定数)
ここで、解離定数には、同実験系における確立された解離定数(バニロイド受容体として、0.046nM)を用いた。
【0071】
このようにして求めた本化合物の実験結果として、化合物1の実験結果を例示する。
【0072】
化合物1の阻害曲線を例示すると図1のようになり、化合物1のラット脊椎神経細胞膜標本バニロイド受容体に対するIC50値は191±28nM(三回の同様の実験の平均±SEM)、Ki値は35.8±5.2nM、ヒル係数は1.83±0.449であった。また、同様な実験系で求めたカプサイシンのIC50値は3.14±0.76μMであり、Ki値は0.587±0.142μMであった。以上のことから、本化合物はバニロイド受容体に対して、公知アゴニストであるカプサイシンと比較して極めて強い結合親和性を有することが示された。
【0073】
2.ラット脊髄後根神経節由来神経細胞を用いるTRPV1アゴニスト誘発 CGRP遊離系における本化合物の効果
脊椎後根神経節(DRG)にはTRPV1が発現していることが知られており、TRPV1の活性化によって神経末端から神経伝達物質であるCGRPが遊離されることが知られている。Ahluwaliaらの方法(European Journal of Neuroscience,17巻、2611ページ、2003年)に準じ、ラットDRG由来培養神経細胞における本化合物のCGRP遊離活性を検討した。
【0074】
(被験化合物含有液等の調製)
被験化合物を秤量してDMSOに溶解し、この溶液を培地にて希釈して被験化合物含有液を調製した。尚、被験化合物含有液はそれぞれ0.4%のDMSOを含有するように調製した。陽性対照としてTRPV1アゴニストであるカプサイシンを、被験化合物に対する競合化合物としてTRPV1アンタゴニストであるカプサゼピンをそれぞれ用い、同様に競合化合物含有液を調製した。
【0075】
(実験方法)
ラット脊髄より摘出した後根神経節を細切した後、コラゲナーゼ-DNase I溶液にて37℃、1時間酵素処理を行ない、次いでトリプシンDNase I溶液にて37℃、20分間酵素処理を行なった。遊離した神経細胞を洗浄して回収し、Poly−D−lysine/laminin coated培養皿に播種して37℃、5%二酸化炭素条件下、神経培養因子を添加した神経細胞用培地(NGF/NCS培地)で1日培養した。培地をシトシンアラビノシド含有NGF/NCS培地に交換してさらに2日培養した。培地をNGS/NCS培地に交換して1日培養し、カプサゼピンの存在下または非存在下30分培養した後、さらに化合物1を添加して10分間培養し、培養上清を回収した。
【0076】
培養上清中のCGRPの測定は市販のELISA法による定量キットを用い、キットの説明書どおりに操作して測定した。一群3例にて検討を行い、各群の培養上清中CGRP濃度の平均およびSEMを求めた。統計解析は、スチューデントのt検定またはダネットの多重比較により実施した。
【0077】
(実験結果)
試験結果の例として、カプサゼピンの非存在下に化合物1のCGRP遊離に対する用量反応性を検討した結果(平均+SEM)を図2に、化合物1のCGRP遊離作用に対するカプサゼピン10μM(終濃度)による競合阻害実験の結果(同)を図3に示す。これらの図において、##はスチューデントのt検定により無処置群に対する危険率が1%以下であることを、**はダネットの多重比較により無処置群に対する危険率が1%以下であることを、++はスチューデントのt検定により化合物処置群に対する危険率が1%以下であることを示す。
【0078】
図2より明らかなように、化合物1は用量依存的にCGRPを遊離し、その作用は陽性対照であるカプサイシンよりも低濃度で同程度の作用強度であった。一方、図3より明らかなように化合物1によるCGRP遊離はカプサゼピンにより拮抗され、その拮抗の程度はカプサイシンの場合と同程度であった。これらの実験結果から、本化合物はTRPV1に特異的なアゴニストであることが示された。
【0079】
以上の薬理試験の結果から、本化合物は優れたTRPV1アゴニストであることが認められる。
【0080】
3. ヒトTRPV1発現細胞における本化合物の細胞内カルシウム流入の測定
TRPV1はイオンチャンネル型受容体であり、その活性化により細胞内にカルシウムイオンの流入が生じることが知られている。Phelpsらの方法 (Eur. J. Pharmacol., 513: 57-66, 2005) に準じ、ヒトTRPV1をコードする遺伝子をトランスフェクトしたCHO細胞を用いて本化合物のヒトTRPV1の活性化作用を検討した。
【0081】
(被験化合物含有液等の調製)
CHO細胞はDMEMで懸濁し、3.5×104 cell/wellとなるように培養プレートに播種した。被験化合物又はコントロール化合物をDMSOに溶解し、それぞれを含むHBSSからなる10倍濃縮の被験化合物含有液およびコントロール化合物含有液を調製した。コントロール化合物にはカプサイシンを用い、コントロール化合物、被験化合物含有液中の薬物の濃度は10μMとした。
【0082】
(カルシウム流入実験)
CHO細胞にカルシウム指示薬を添加し、37℃ 30minインキュベートした後、さらに22℃ 30minインキュベートし、平衡化した。これらのインキュベートに続き、1/10量の被験化合物、コントロール化合物(終濃度1μM)またはHBSS液を添加し、細胞内のカルシウム濃度指示薬の蛍光強度の変化を測定した。
【0083】
(実験結果の解析)
コントロール化合物である1μMカプサイシンによる刺激時の蛍光強度に対する被験化合物による刺激時の蛍光強度の割合を以下の式で求め%表示する。
【数3】

【0084】

このようにして求めた本化合物の実験結果を表2に例示する。
【表2】

【0085】

4.酢酸ライジング法による本化合物の鎮痛効果の検定
薬物の鎮痛効果を評価する方法として、Anderson et al.によるマウス酢酸ライジング法が汎用されている(Fed.Proc.,18巻,412ページ、1959年)。そこで、このマウス酢酸ライジング法を用いて、被験化合物の抗侵害刺激作用試験を行い、被験化合物の鎮痛効果を評価検討した。
【0086】
(0.7%酢酸溶液の調製)
99.7%酢酸に生理食塩水を加え、0 .7%酢酸溶液を調製した。
【0087】
(実験方法)
被験化合物の経口投与20 分後に0.7%酢酸溶液をマウス体重10g当たり0.1mlの割合で腹腔内投与した。ついで、酢酸投与後、10分から20分の間に発現するライジング回数をカウントすることで抗侵害刺激作用を測定した。
【0088】
(試験結果)
試験結果の例として化合物1の抗侵害刺激作用(平均+SEM)を図4に示す。図4において、*は無処置群(化合物0mg/kg投与群)に対しダネットの多重比較により危険率が5%未満であることを示し、**は無処理群に対しダネットの多重比較により危険率が1%未満であることを示す。
【0089】
図4にから明らかなように、本化合物は用量依存的に酢酸ライジングモデルにおけるライジング回数を抑制した。
【0090】
上記の薬理試験の結果から、本化合物は優れた疼痛治療効果、特に侵害受容性疼痛に対する抑制効果を示し、疼痛治療薬として有用であることが認められる。
【0091】
5.ラット膀胱内持続的生理食塩水注入モデルにおける本化合物の排尿間隔延長作用
過活動膀胱に対する治療効果を評価する方法として、Yuらによる膀胱内持続的生理食塩水注入モデルにおける排尿間隔の延長作用の測定が汎用されている(Journal of Phamacology and Experimental Therapeutics ,290 , 825 (1999)) 。Yuらの方法に準じて、被験化合物の膀胱内持続的生食注入モデルにおける排尿間隔の延長作用の測定を行い、被験化合物の過活動膀胱治療効果を評価検討した。
【0092】
(被験化合物含有液の調製)
被験化合物を1%ポリオキシエチレンひまし油(Cremophor EL)含有生理食塩液に溶解して、被験化合物含有液を調製した。
【0093】
(比較対照薬の調製)
対照薬である塩酸オキシブチニンを生理食塩液に溶解して、その含有液を調製した。
【0094】
(使用動物)
CD系ラット(雄性、8週齢)を1週間の検疫馴化の後1群あたり2〜6匹で実験に供した。
【0095】
(実験方法)
ラットにウレタン麻酔(1.2g/kg)を施した。ラットの大腿静脈に薬物注入用の第1カテーテルを挿入し結紮した。腹部を正中線に沿って約2cm切開し、膀胱を露出させ、膀胱頂部に19Gの針で穴を開け、生理食塩液を持続的に注入するための第2カテーテルを挿入し結紮した。第2カテーテルは三方活栓に接続し、三方活栓の一方には生理食塩液を膀胱内に注入するための25mLシリンジ(シリンジポンプ上に設置)、もう一方は圧トランスデューサーを接続した。
【0096】
(排尿間隔の測定)
排尿間隔の測定は、排尿圧を連続的に記録し、排尿圧チャート上で排尿圧が急速に低下した時点を排尿があった時点とし、その間隔を排尿間隔として解析に用いた。
【0097】
2.4〜4.8mL/hrの範囲で安定な排尿反射が得られるような流速でシリンジポンプより生理食塩液を膀胱内に持続的に注入した。大腿静脈に第1カテーテルより溶媒を注入し、排尿間隔を測定した。適当時間の後、排尿間隔が一定となっていることを確認し、同様に被験化合物または比較対照薬を注入し、排尿間隔を測定した。
【0098】
(結果評価)
溶媒投与時および薬物投与時のそれぞれについて、各個体の2回の排尿間隔の平均値を算出してその個体の排尿間隔とし、各群ごとに排尿間隔の平均値を求めた。統計解析には対応のあるt検定を用いた。
【0099】
試験結果の例として化合物1の排尿間隔を図5に、比較対照薬の排尿間隔を図6に示す。
【0100】
図5および6から明らかなように、本化合物は極低用量で優れた排尿間隔の延長作用を示し、その作用強度は過活動膀胱治療薬として臨床的に用いられる塩酸オキシブチニンよりも強力なものであった。
【0101】
上記の薬理試験の結果から、本化合物は極めて優れた排尿間隔延長作用を示し、過活動膀胱治療薬として有用であることが認められる。
【0102】
6.正常ラット消化管粘膜血流に対する本化合物の血流量増加作用
正常動物における消化管粘膜血流量の増加作用は消化管潰瘍治療剤の薬効評価等に使用されるモデルである。Matsumotoらは、同方法を用いてカプサイシンの胃粘膜血流増加作用を検討した(Japanese Journal of Phamacology 57巻、205ページ、1991年)。Matsumotoの方法に準じ、本化合物の正常ラットにおける胃粘膜血流量増加作用を評価した。
【0103】
(被験化合物含有液の調製)
被験化合物を媒体である1%メチルセルロース水溶液によって懸濁し被験化合物含有液を用時調製した。
【0104】
(実験方法)
粘膜血流量の測定にはレーザー組織血流計(OMEGAFLO FLO−N1)を使用し、組織重量あたりの血流量として血流量を求めた。
【0105】
18時間以上絶食させたラットをウレタン麻酔下開腹し、胃を露出させ灌流用チャンバーの上に置いた。これを大彎に沿って出血がないように切開し、内容物を洗い流した後に、胃を灌流用チャンバーに進展させ、レーザー血流計のプローブを小彎中央付近に設置した。生理食塩液で胃を灌流しながら胃粘膜血流量が安定するのを待ち、血流量が一定の値に保持されている時の血流量を処置前血流量とした。灌流を一旦停止して生理食塩液をすべて除去し、被験化合物含有液を滴下し、60分間の血流量を測定した。
【0106】
(結果評価)
個体毎に処置前血流量および被験化合物処置後5分毎の胃粘膜血流量を記録した。
【0107】
本化合物の消化管粘膜血流増加作用の例として、化合物1の胃粘膜血流量増加作用を例示する。媒体(1%メチルセルロース)のみで処置をした場合の処置前血流量および処置後の血流量、並びに、化合物1含有液で処置をした際の処置前血流量および処置後の血流量測定値の最大値について、それぞれ平均値を図7に示す。統計解析は対応のあるt検定によって行った。
【0108】
図7から明らかなように、本化合物は顕著な胃粘膜血流増加作用を示した。
【0109】
7.ラット消化管障害モデルに対する効果
インドメタシン誘発胃粘膜障害モデルは潰瘍治療剤の薬効評価に汎用される消化管障害モデルである。星野らの方法(日本薬理学雑誌 97巻、287ページ、1991年)に準じ、本化合物のラットインドメタシン誘発胃粘膜障害モデルにおける効果を検討した。
【0110】
(被験化合物含有液等の調製)
被験化合物を媒体である1%メチルセルロース水溶液によって懸濁し被験化合物含有液を用時調製した。対照化合物としてプロトンポンプ阻害剤であり消化性潰瘍治療剤として臨床使用されるオメプラゾールを用い、同様に対照化合物含有液を調製した。
【0111】
(実験方法)
24時間絶食させたラットに被験化合物含有液、対照化合物含有液または媒体(病態対照群)を経口投与し、直後にインドメタシン(和光純薬)を30mg/kgの用量で皮下投与した。インドメタシン処置を行わず、以後同様の操作を行った群を正常対照群とした。インドメタシン処置6時間後に5% Chicago Sky Blue 6B溶液を尾静脈より静脈内注入し、ラットを安楽死させた後に胃を摘出し、これを大彎に沿って切開した。これを生理食塩水にて洗浄した後に1%中性ホルマリン液を用いて半固定した。出血斑を含む青色に染まった障害部位の長径をノギスを用いて肉眼的に測定した。
【0112】
(結果評価)
各個体の障害部位の長径の総和の平均値を求め、Ulcer indexとした。また、胃粘膜障害抑制率を以下の式によって算出した。
【数4】

【0113】

本化合物の消化管障害抑制効果の例として、化合物1のインドメタシン誘発胃粘膜障害に対する抑制効果を図8に、また、前述のように求めた胃粘膜障害抑制率を表3に示す。
【表3】

【0114】

図8および表3より明らかなように、本化合物は消化性潰瘍治療剤であるオメプラゾールよりも低用量で同等の胃粘膜障害抑制作用を示すという顕著な効果を示した。
【0115】
以上の薬理試験の結果から、本化合物は消化管障害の治療剤として極めて有効であることが認められる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】化合物1の阻害曲線を示すグラフである。
【図2】カプサゼピンの非存在下に化合物1のCGRP遊離に対する用量反応性を検討した結果(平均+SEM)を示すグラフである。
【図3】化合物1のCGRP遊離作用に対するカプサゼピン10μM(終濃度)による競合阻害実験の結果を示すグラフである。
【図4】化合物1の抗侵害刺激作用(平均+SEM)を示すグラフである。
【図5】化合物1の排尿間隔を示すグラフである。
【図6】比較対照薬の排尿間隔を示すグラフである。
【図7】媒体(1%メチルセルロース)のみで処置をした場合の処置前血流量および処置後の血流量、並びに、化合物1含有液で処置をした際の処置前血流量および処置後の血流量測定値の最大値について平均値を示すグラフである。
【図8】化合物1のインドメタシン誘発胃粘膜障害に対する抑制効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]で表される化合物またはその塩類を有効成分として含むTRPV1媒介性疾患治療剤。
【化1】


[式中、Aは低級アルキレン基または低級アルケニレン基を示し、;Rは水素原子、アルキル基またはアルケニル基を示し、該アルキル基およびアルケニル基は任意の置換基で置換されていてもよく;RおよびRは同一または異なって水素原子または低級アルキル基を示し、該低級アルキル基は単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。]
【請求項2】
1) Aが低級アルキレン基または低級アルケニレン基であり;
2) Rが低級アルキル基であり、該低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;
かつ、
3) R2が水素原子であり、かつ、R3が単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換された低級アルキル基であるか
または、
R3が水素原子であり、かつ、R2が単環式のシクロアルキル基、多環式のシクロアルキル基またはアリール基で置換された低級アルキル基である
請求項1に記載のTRPV1媒介性疾患治療剤。
【請求項3】
1) Aが低級アルキレン基であり;
2) Rが低級アルキル基であり、該低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;
3) R3が水素原子であり、
かつ、
4) R2が単環式のシクロアルキル基または多環式のシクロアルキル基で置換された低級アルキル基である
請求項2に記載のTRPV1媒介性疾患治療剤。
【請求項4】
Aがトリメチレン基またはメチルトリメチレン基であり;Rが直鎖低級アルキル基であり、該直鎖低級アルキル基は任意の置換基で置換されていてもよく;Rがアダマンチルエチル基またはアダマンチルプロピル基であり;かつ、Rが水素原子である
請求項3に記載のTRPV1媒介性疾患治療剤。
【請求項5】
化合物が、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア 、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]−1−(3,3,3−トリフルオロプロピル)ウレア、
1−[3−(1−アダマンチル)プロピル]−1−プロピル−3−[3−(4−ピリジル)プロピル]ウレア 、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[1−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、
(+)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−3−[2−メチル−3−(4−ピリジル)プロピル]−1−ペンチルウレア、および、
(E)−1−[2−(1−アダマンチル)エチル]−1−ペンチル−3−[3−(4−ピリジル)−2−プロペニル]ウレア、
からなる群から選択される
請求項1記載のTRPV1媒介性疾患治療剤。
【請求項6】
TRPV1媒介性疾患が疼痛、過活動膀胱および消化管障害からなる群から選択される請求項1〜5のいずれかに記載のTRPV1媒介性疾患治療剤。
【請求項7】
TRPV1媒介性疾患が疼痛である請求項6記載のTRPV1媒介性疾患治療剤。
【請求項8】
TRPV1媒介性疾患が過活動膀胱である請求項6記載のTRPV1媒介性疾患治療剤。
【請求項9】
TRPV1媒介性疾患が消化管障害である請求項6記載のTRPV1媒介性疾患治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−114182(P2009−114182A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266985(P2008−266985)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】