Tb含有発光性化合物、これを含む発光性組成物と発光体、発光素子、固体レーザ装置
【課題】多結晶構造のガーネット型Tb含有発光性化合物において、Tbドープ量と発光特性との関係を明らかにして、Tbドープ量を好適化する。
【解決手段】本発明のTb含有発光性化合物は、Tb及び2種以上のTb以外の金属元素を含み、励起光照射により発光するTb含有発光性化合物において、Tbを含むすべての金属元素の総モル数に対するTb濃度が3.75モル%超20.625モル%以下であることを特徴とするものである。
【解決手段】本発明のTb含有発光性化合物は、Tb及び2種以上のTb以外の金属元素を含み、励起光照射により発光するTb含有発光性化合物において、Tbを含むすべての金属元素の総モル数に対するTb濃度が3.75モル%超20.625モル%以下であることを特徴とするものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tb含有発光性化合物及びこれを含む発光性組成物と発光体、並びにこの発光体を用いた発光素子と固体レーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般式TbxY3−xAl5O12で表されるTb:YAG等の、発光中心イオンとしてTbイオンをドープした発光性化合物は、蛍光効率の良い蛍光材料として広く研究が行われている。
【0003】
特許文献1には、水熱合成法によるTb:YAG微粒子の製造方法が記載されている。特許文献1では、上記一般式で表されるTb:YAGにおいて、x=0.05(C(Tb/A)=約1.7モル%)、x=0.15(C(Tb/A)=5モル%)、x=0.3(C(Tb/A)=約10モル%)、x=1.0(C(Tb/A)=約33モル%)、x=2.0(C(Tb/A)=約67モル%)、及びx=3.0(C(Tb/A)=100モル%)のTb:YAGが、実際に調製されている(特許文献1の第5頁表1を参照)。本明細書においては、C(Tb/A)を、ガーネット構造の8配位サイトであるAサイト中(Tbを含む)のTb濃度を示すパラメータとして使用している。
【0004】
特許文献1には、調製されたx=0.15(C(Tb/A)=5モル%)のTb:YAGは、励起光として波長254〜366nmの紫外光を照射することにより緑色の蛍光を発することが記載されているが(特許文献1の第4頁第8コラム第31行目を参照)、実際に調製された各Tb:YAGの発光強度や蛍光寿命等の発光特性の評価はされていない。
【0005】
特許文献1には、従来技術としてTb:YAGはx=0.15(C(Tb/A)5モル%)において効率よく蛍光を発することが知られていると記載されている(特許文献1の第1頁第2コラム第11行目)。
【0006】
Tb:YAGの単結晶と多結晶セラミックスに関する基礎研究の公知文献リスト(非特許文献1〜24)を表1に挙げる。この表には、文献に記載されているTb濃度C(Tb/A)(特に明記していない限り、単位はモル%)を合わせて示してある。非特許文献14を除いたすべての文献において、実際に調製されたTb:YAGのTb濃度C(Tb/A)は10モル%以下である。
【0007】
表1に示すリストのうち、Tb濃度と発光特性の評価がなされているのは、非特許文献3,18及び23のみである。これら非特許文献では、Tb濃度C(Tb/A)が10モル%以下のデータしか記載されていない。
以上のように、従来、Tb:YAGでは、蛍光強度から見て、Tb濃度C(Tb/A)10モル%以下が好適であるとされている。
【0008】
表1に示すリストのうちTb濃度C(Tb/A)が10モル%超のTb:YAGが報告されているのは、唯一非特許文献14である。この文献では、チョクラルスキー法を用いたTb濃度C(Tb/A)が100モル%の単結晶のみが実際に調製されているにすぎない。また、得られた単結晶の光学特性等の評価は一切なされていない。
【0009】
その他、特許文献2には、一般式M3Al5O12(式中、M=Er,Tm,Ho,Dy,Lu,Tbのうち少なくとも1種)で表される透光性セラミックスが開示されており、メタルハライドランプの発光管としての用途が記載されている。この文献では、8配位サイトのイオンが全て希土類元素(但しEr,Tm,Ho,Dy,Lu,Tb)のみから構成されていることが記載されているが、Tb濃度の具体的な例示はなく、Tb濃度C(Tb/A)が100モル%のTb:YAGのみが実際に調製されている。
【0010】
Tb:YAGは、白色発光ダイオード(以下白色LEDとする。)用の蛍光体あるいは固体レーザ装置のレーザ媒質等として、利用することが考えられる。
自然な発光の指標となる演色性が良く、色調調整の容易な白色LEDを得る方法として、光の三原色である青、緑、赤の加法混色により白色を実現する方法が検討されており、紫外〜青色の波長範囲の光を効率良く、青、緑、赤の各色に変換する蛍光体に関する研究が広く行われている。Tb:YAGは、高効率な緑色蛍光体の一つとして考えられるが、実際に白色LED用の緑色蛍光体として具体的な検討がされたという報告はない。
【0011】
また、特許文献3には、希土類イオンをドープした発光性化合物からなる固体レーザ媒質と、この固体レーザ媒質を励起する発振波長340〜640nmのレーザダイオードとを備えた、レーザダイオード励起固体レーザ装置が開示されており、可視域の波長400〜700nmのレーザ光を発振することができることが記載されている。特許文献3には、ドープする希土類イオンとして、Tbが挙げられている。Tbをドープする母体化合物としては、CaF2やLiYF4等のフッ化物のみが具体的に挙げられており、YAG等の酸化物については一切例示がない。また、固体レーザ媒質として好適なTb量についても記載がなされていない。
【特許文献1】特許2705183号公報
【特許文献2】特開平11−147757号公報
【特許文献3】特開2002−43662号公報
【表1】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記したように、Tb:YAGにおいては、Tb濃度C(Tb/A)が0〜100モル%の範囲で、Tb:YAGを調製できることが記載されている。しかしながら、従来、Tb濃度C(Tb/A)は10モル%以下が好適であるとされてきたために、Tb濃度と発光特性との関係、Tb濃度の好適化については、Tb濃度C(Tb/A)10モル%以下においてのみ検討され、Tb濃度C(Tb/A)10モル%超においては、研究がなされていない。
【0013】
上記従来のTb:YAGの発光特性評価及びTb濃度好適化は、ほとんどが電子線励起、及び波長280nm以下の深紫外光を励起光として検討された結果であると考えられる。
また、Tb:YAG以外のTb含有発光性化合物においては、発光特性等の詳細な報告はほとんどない。
【0014】
白色LED用の蛍光体や固体レーザ媒質としての用途を対象とした場合は、紫外〜可視光域の光が励起光として好適と考えられ、励起条件が従来評価されている励起条件と異なる。発光特性は励起条件によって変化するため、使用用途に応じた励起条件を対象にした評価がなされる必要がある。しかしながら、従来は、Tb含有発光性化合物をかかる用途に応用すること自体がほとんど研究されておらず、白色LED用の蛍光体や固体レーザ媒質としての用途を対象とした評価はなされていない。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、Tb含有発光性化合物において、白色発光ダイオード用の蛍光体あるいは固体レーザ装置のレーザ媒質等として用いる場合に好適な励起条件における、Tb濃度と発光特性との関係を明らかにして、該励起条件におけるTb濃度を好適化することを目的とするものである。本発明はまた、上記励起条件におけるTb濃度の好適化により、白色発光ダイオード用の蛍光体あるいは固体レーザ装置のレーザ媒質等として好適な、発光特性に優れたTb含有発光性化合物を提供すること、及びこのTb含有発光性化合物を用いた発光性組成物と発光体、並びにこの発光体を用いた発光素子と固体レーザ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のTb含有発光性化合物は、Tb及び2種以上のTb以外の金属元素を含み、励起光照射により発光するTb含有発光性化合物において、Tbを含むすべての金属元素の総モル数に対するTb濃度が3.75モル%超20.625モル%以下であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明のTb含有発光性化合物としては、ガーネット型結晶構造を有することが好ましく、下記一般式で表されるガーネット型化合物が挙げられる。
一般式:(A(III)1−xTbx)3B(III)2C(III)3O12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Sc,Y,In,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Cr,Ga,In,Sm、Eu、Gd、Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
0.1<x≦0.55)
【0018】
本明細書において、「Tbを含むすべての金属元素の総モル数に対するTb濃度」は、C(Tb/all)のパラメータでもって表記することとする。
上記一般式で表されるガーネット型化合物においては、0.2≦x≦0.4であることが好ましい。
本発明のTb含有発光性化合物としては、上記一般式において、A(III)がYであり、B(III)がAlであり、C(III)がAlであるものが挙げられる。
【0019】
本発明の発光性組成物は、上記本発明のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とするものである。
本発明の発光体は、励起光照射により発光する発光性を有し、所定の形状を有する発光体において、上記本発明のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とするものである。
【0020】
本発明の発光体において、前記Tb含有発光性化合物は、励起光により励起されてレーザ光を発振するレーザ物質である場合、本発明の発光体を固体レーザ媒質として利用でき、下記本発明の固体レーザ装置を提供することができる。
本発明の第1の固体レーザ装置は、固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、前記固体レーザ媒質が、上記本発明の発光体からなることを特徴とするものである。
また、本発明の第2の固体レーザ装置は、固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、前記固体レーザ媒質がTb含有酸化物を含むことを特徴とするものである。
【0021】
本発明の発光素子は、上記本発明の発光体と、該発光体に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、Tb含有発光性化合物において、従来報告されていなかった紫外〜可視光域の光を励起光とした場合の、Tb濃度と発光特性との関係及び好適なTb濃度を明らかにした。本発明では、Tbを含むすべての金属元素の総モル数に対するTb濃度C(Tb/all)が3.75モル%超20.625モル%以下において高い発光強度が得られることを明らかにした。
【0023】
本発明では、Tb濃度の好適化により、発光特性の優れたTb含有発光性化合物を実現した。従って、本発明のTb含有発光性化合物によれば、発光効率の良い発光体を提供することができる。
従って、本発明の発光体を用いることによって、発光強度が高く、高効率な発光素子及び固体レーザ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について詳述する。
「Tb含有発光性化合物」
本発明者は、Tb含有発光性化合物において、Tb濃度と発光特性との関係について研究を行った結果、発光性化合物を構成するすべての金属元素(Tbを含む)の総モル数に対するTb濃度C(Tb/all)が3.75モル%超20.625モル%以下の範囲内において高い発光強度が得られることを見出した(実施例1の図14を参照。実施例1に記載のTb含有発光性化合物はガーネット型結晶構造を有しており、図14においてTb濃度はガーネット構造の8配位サイトであるAサイト中(Tbを含む)に占めるTb濃度C(Tb/A)で示してある。上記Tb濃度C(Tb/all)=3.75モル%超20.625モル%以下は、図14においては、Tb濃度C(Tb/A)=10.0モル%超55.0モル%以下に対応している)。
すなわち、本発明のTb含有発光性化合物は、Tb及び2種以上のTb以外の金属元素を含み、励起光照射により発光するTb含有発光性化合物において、発光性化合物を構成するすべての金属元素(Tbを含む)の総モル数に対するTb濃度C(Tb/all)が、3.75モル%超20.625モル%以下であることを特徴とするものである。
【0025】
本発明のTb含有発光性化合物は、単結晶構造でも多結晶構造でもよい。本発明のTb含有発光性化合物は、不可避不純物を含んでいてもよい。
本発明のTb含有発光性化合物においては、発光中心イオンとしてTb以外の元素を共ドープしなくても、良好な発光特性が得られるので、発光中心イオンとして、実質的にTbのみを含む構成とすることができる。ここで、「発光中心イオンとして、実質的にTbのみを含む」とは、不可避不純物を除けば、発光中心イオンとしてTbのみを含むことを意味する。ただし、必要に応じて、発光中心イオンとして、Tb以外の元素を共ドープすることは差し支えない。
【0026】
本発明のTb含有発光性化合物は、ガーネット型結晶構造を有することが好ましい。以下、ガーネット型Tb含有発光性化合物を例に説明する。
ガーネット型結晶構造を有する場合、Tbは通常ガーネット構造の8配位サイト(通常Aサイト)を置換固溶するため、ガーネット構造については、基本的には8配位サイト中(Tbを含む)のTb濃度C(Tb/A)でもってTb濃度を表記することとする。
【0027】
上記したように、本発明の発光性化合物は、発光性化合物を構成するすべての金属元素(Tbを含む)の総モル数に対するTb濃度(Tb/all)が、3.75モル%超20.625モル%以下であることを特徴とするものであり、このTb濃度の範囲は、8配位サイト中のTb濃度C(Tb/A)=10.0モル%超55.0モル%以下に対応している。
【0028】
本発明のガーネット型Tb含有発光性化合物は、Tb濃度C(Tb/A)が0〜100モル%の全範囲において、単相構造を得ることができる(実施例1の図9(a)及び(b)を参照)。ただし、特性上支障のない範囲で異相を含むものであってもよい。
【0029】
本発明のガーネット型Tb含有発光性化合物としては、下記一般式で表されるガーネット型化合物が挙げられる。
一般式:(A(III)1−xTbx)3B(III)2C(III)3O12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Sc,Y,In,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Cr,Ga,In,Sm、Eu、Gd、Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
0.1<x≦0.55)
上記式中、xは、Tbモル数を示す数値であり、この値はTb濃度に応じて決まる。すなわち、Tb濃度C(Tb/A)=10.0モル%超55.0モル%以下は、0.1<x≦0.55に相当する。
【0030】
上記一般式で表される本発明のガーネット型Tb含有発光性化合物においては、0.2≦x≦0.4であることが好ましい(Tb濃度C(Tb/A)=20.0モル%以上40.0モル%以下に相当)。また、上記一般式で表される本発明のガーネット型Tb含有発光性化合物としては、A(III)がYであり、B(III)がAlであり、C(III)がAlであるものが挙げられる。この場合、母体ガーネット型化合物は、Y3Al5O12(YAG)となる。
【0031】
本発明では、従来報告されていない、紫外〜可視光域の光を励起光とした場合の、Tb濃度と発光特性との関係及び好適なTb濃度を明らかにした。従来は、Tb含有発光性化合物の発光特性は、電子線励起あるいは波長280nm以下の深紫外光を励起光とした場合において、好適Tb濃度とされているTb濃度C(Tb/A)が10モル%以下においてのみ検討されており、Tb濃度C(Tb/A)が10モル%超においては発光特性等の評価は一切なされていなかった。
【0032】
本発明は、Tb:YAGについて、Tb濃度C(Tb/A)=0〜100モル%の範囲において、発光特性の評価を実施し、Tb濃度C(Tb/A)=10.0モル%超55.0モル%以下(=Tb濃度C(Tb/all)=3.75モル%超20.625モル%以下)において高い発光強度が得られることを明らかにした。
【0033】
本発明を適用可能なガーネット構造以外の母体化合物としては、下記M1〜M8が挙げられる。
(M1)母体化合物:下記一般式で表されるC希土類型化合物
一般式R(III)2O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
Rは、Y、及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0034】
(M2)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B(IV)O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Ba,Sr,Ca,Mg,及びPbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Ti,Zr,Hf,Th,Sn,及びSiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0035】
(M3)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(I)B(V)O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Li,Na,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:V,Nb,及びTaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0036】
(M4)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(II) 1/2B2(VI) 1/2O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Fe,Cr,Co,及びMgからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:W,Mo,Re,及びOsからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0037】
(M5)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(III) 2/3B2(VI) 1/3O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:In,Sc,Y,Cr,Fe,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:W,Mo,及びReからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0038】
(M6)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(III) 1/2B2(V) 1/2O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Sc,Fe,Bi,Mn,Cr,In,Ga,Ca,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Nb,Ta、Os,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0039】
(M7)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(II)1/3B2(V) 2/3O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Mg,Co,Ni、Zn,Fe,Pb,Sr,及びCaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Nb及びTaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0040】
(M8)母体化合物:下記一般式で表される化合物(ペロブスカイト型化合物又はGdFeO3型化合物と称される。)
一般式:A(III)B(III)O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,及びBiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Ga,Cr,V,Fe,Co,及びYからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0041】
本発明を適用可能なガーネット構造以外の母体化合物としては、例示したような酸化物以外に、CaF2やLiYF4等のフッ化物等の化合物を用いることもできる。
本発明では、Tb濃度の好適化により、励起光を紫外〜可視光域の光とした場合に好適な、発光特性の優れたTb含有発光性化合物を実現した。
【0042】
本発明のTb含有発光性化合物は、励起光により励起されてレーザ光を発振するレーザ物質であり、固体レーザ媒質等の種々の用途に使用することができる。
また、本発明のTb含有発光性化合物は、紫外〜可視光域の既存の光源(例えばGaN系レーザダイオード等)で励起可能であり、Tbの高濃度ドープが可能であり、高濃度ドープしても発光強度の減衰が小さく(濃度消光が小さく)、蛍光寿命も充分であるので、固体レーザ媒質等として有用である(実施例1を参照)。
【0043】
「本発明の発光性組成物」
本発明の発光性組成物は、上記の本発明のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とするものである。
本発明の発光性組成物は必要に応じて、本発明の化合物以外の任意成分(例えば、樹脂等)を含むことができる。
【0044】
「発光体」
本発明の発光体は、励起光照射により発光する発光性を有し、所定の形状を有する発光体において、上記本発明のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とするものである。
本発明の発光体は、固体レーザ媒質や白色発光ダイオード(LED)用蛍光体等として利用できる。
【0045】
本発明の発光体の態様としては、本発明のTb含有発光性化合物の構成成分を含む1種若しくは2種以上の原料粉末が所定の形状に成形された粉末成形体を焼結させてなる多結晶焼結体が挙げられる。本発明では、プロセス等を工夫することで、固体レーザ媒質等として利用可能な透明性に優れた多結晶焼結体(透明セラミックス)を製造することができる。
【0046】
多結晶焼結体は、必要に応じて、切削等による所望の形状(角柱状等)への加工、端面研磨(レーザグレードの光学研磨等)等を経て、固体レーザ媒質等に使用される。
多結晶焼結体は、例えば、通常の固相反応セラミックス法により本発明の化合物の構成成分を含む焼結用粉末を調製し、焼結用粉末の圧縮成型等により粉末成形体を得、この粉末成形体を焼結することで製造できる(詳細なプロセス例は実施例1,2を参照)。必要に応じて、SiO2等の焼結助剤を用い、真空焼結を行うことで、透明性に優れた多結晶焼結体(透明性セラミックス)を製造することができる。透明性を考慮すれば、焼結助剤の使用は少ない方が好ましい。
【0047】
焼結用粉末は、通常の固相反応セラミックス法とは異なる方法でも調整することができる。例えば、水熱合成法やアルコキシドエマルジョン法等の他の方法により本発明の化合物の構成成分を含む焼結用粉末を調製することができる。
【0048】
通常の固相反応セラミックス法により得られる焼結用粉末は、粒子のサイズ及び形状は不均一(ランダム)である。この焼結用粉末を焼結させて得られる多結晶焼結体の走査電子顕微鏡(SEM)断面写真の一例を図1(a)に示す。図には、結晶粒のサイズ及び形状が不均一(ランダム)な様子が示されている。
【0049】
これに対して、水熱合成法やアルコキシドエマルジョン法等では、略同一サイズかつ略同一形状の多数の粒子からなる焼結用粉末を調製することができる。かかる焼結用粉末を用いて焼結を行うことで、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなる多結晶焼結体を製造することができる。結晶粒のサイズと形状の均一性が高いので、均質で透明性に優れた多結晶焼結体(透明セラミックス)が得られる。
【0050】
アルコキシドエマルジョン法では、例えば略同一サイズの多数の略球状の粒子からなる焼結用粉末(粒径は、例えば0.2〜0.8μm程度)を調製することができる(実施例3を参照)。
【0051】
水熱合成法では、略同一サイズかつ略同一形状の多数の粒子からなり、粒子形状が、該粒子単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体形状である焼結用粉末(粒径は、例えば数〜20μm程度)を調製することができる(実施例4を参照)。この焼結用粉末を用いて焼結を行うと、個々の粒子が結晶粒となり、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなり、該結晶粒の形状が、該結晶粒単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体形状である多結晶焼結体を製造することができる。この方法では、粒界の割合が少なく、均質で空間充填率が高く、透明性に優れた多結晶焼結体(透明セラミックス)が得られる。
【0052】
本明細書において、多数の結晶粒が「略同一サイズ」であるとは、多数の結晶粒の粒径が平均粒径の±5%の範囲に収まることを意味するものとする。ここで、「平均粒径」は、結晶粒の直径(円/球換算)の相加平均である。
【0053】
単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体としては、立方体、図2(a)に示す切頂八面体(truncated octahedron、切頭八面体と称されることもある)、及び図2(b)に示す菱形十二面体(rhombic dodecahedron、斜方十二面体と称されることもある)が挙げられる。図3に切頂八面体状の粒子が空間を充填していく様子を示す。この図には、該粒子単独で空間を略隙間なく充填可能であることが示されている。
【0054】
ガーネット型化合物を水熱合成する場合、得られる粒子の形状は反応時間等の反応条件によって異なる。反応時間以外の条件を同一条件とした場合、図4に示すように、得られる粒子の形状は、立方体状、切頂八面体状、菱形十二面体状と経時的に順次変化する。
【0055】
ガーネット型化合物を水熱合成する場合、切頂八面体状又は菱形十二面体状の粒子が、得られやすい。従って、水熱合成法により焼結用粉末を調製し、該焼結用粉末を用いて焼結を行うことで、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなり、該結晶粒の形状が切頂八面体状又は菱形十二面体状である多結晶焼結体を比較的容易に得ることができる。
【0056】
図1(b)に、結晶粒の形状が切頂八面体状であり、結晶粒のサイズと形状が揃った多結晶焼結体の断面イメージを示す。ここでは、図1(a)のランダム構造と比較しやすくするため、模式的に示してある。実際には図3に示すように、切頂八面体状の結晶粒が、3次元的に組まれた構造であるので、1つの断面に正八角形状がきれいに並ぶことはない。縮尺も図1(a)と異ならせてある。また、ここでは、粒界を大きく図示してあるが、粒界の大きさは図1(a)と略同様である。
【0057】
本発明の発光体の態様としては、多結晶焼結体の他に、粉末状の本発明の化合物(多結晶焼結体の粉砕物等)が透光性樹脂バインダやシリカゲル、ガラスなどの固体媒質中に分散された成形体が挙げられる。透光性樹脂バインダとしては、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0058】
「第1の固体レーザ装置」
本発明の第1の固体レーザ装置は、固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、前記固体レーザ媒質が、上記本発明の発光体からなることを特徴とするものである。
図5及び図6に基づいて、本発明に係る固体レーザ装置の一実施形態について説明する。ここでは、端面励起型を例として説明する。
【0059】
本実施形態の固体レーザ装置10は、励起光により励起されてレーザ光を発振する本発明の発光体からなる固体レーザ媒質14と、固体レーザ媒質14に励起光を照射する励起光源であるレーザダイオード11とを備えたレーザダイオード励起固体レーザ装置である。
【0060】
レーザダイオード11と固体レーザ媒質14との間に集光レンズ12が配置され、固体レーザ媒質14の後段に、出力光を選択的に透過する出力ミラー17が配置されている。固体レーザ媒質14は、一対の共振器ミラー13、16の間に配置されている。
【0061】
本実施形態において、固体レーザ媒質14は、本発明で規定するTb濃度(C(Tb/A)=10.0モル%超55.0モル%以下、好ましくは20.0モル%以上40.0モル%以下)の透明性に優れたTb:YAGの多結晶焼結体(実施例1〜4のいずれか)により構成され、必要に応じて、切削等による所望の形状への加工及び端面研磨(レーザグレードの光学研磨)が施されたものである。
固体レーザ媒質14の形状は特に制限なく、円柱ロッド状、角柱ロッド状、ディスク状、及び角板状等が挙げられる。
【0062】
Tb:YAGは、220〜500nmの光によって励起されて可視域(400〜700nm)の蛍光を示すので、所望の発光波長に応じて、励起光源を選定すればよい。
Tb:YAGの励起ピーク波長は例えば377nmである(実施例1の図12(b)を参照)。励起光源であるレーザダイオード11としては、350〜470nmの範囲に発振ピーク波長を有するレーザダイオードが好ましく用いられ、360〜390nmの範囲に発振ピーク波長を有するレーザダイオードが特に好ましい。
【0063】
350〜470nmの範囲に発振ピーク波長を有するレーザダイオードとしては、具体的には、GaN,AlGaN,InGaN,InAlGaN,InGaNAs,GaNAs等の含窒素半導体化合物を1種又は2種以上含む活性層を備えたGaN系レーザダイオードが挙げられる。GaN系レーザダイオードの活性層は、AlN/AlGaN,AlGaN/GaN,InGaN/InGaN,InAlGaN/InAlGaN等の多重量子井戸層や、AlGaN,GaN,InGaN等の量子ドット層が好ましく用いられる。GaN系レーザダイオードは、活性層等の設計により略350〜470nmの範囲において任意に発振波長を変化させることができる。
【0064】
350〜470nmの範囲に発振ピーク波長を有するレーザダイオードとしては、ZnO系やZnSe系等のII-VI族化合物系レーザダイオードも挙げられる。
本実施形態の固体レーザ装置10は、波長470〜640nmの光を発振することができる。本実施形態の固体レーザ装置10は、例えば、377nmの紫外光により励起されて、可視域(緑色)の542nm光を発振することができる。
【0065】
図6に示されるように、一対の共振器ミラー13、16の間に、非線形光学結晶体等の波長変換素子15が配置された構成とすることにより、紫外光を発振させることができる。
波長変換素子15としては、BBO結晶やBIBO結晶等のSHG結晶が用いられる。固体レーザ媒質14から発振された542nm光は、波長変換素子15により、紫外域の235〜320nm光(例えば271nm光)に波長変換されて短波長化される。波長変換素子15は、一対の共振器ミラー13、16により構成される共振器構造の中に配置しても外に配置しても構わない。
本実施形態の固体レーザ装置10は、以上のように構成されている。
【0066】
本実施形態の固体レーザ装置10では、励起光により励起されてレーザ光を発振する本発明の化合物を含む発光体からなる固体レーザ媒質14を用いているので、発光特性に優れ、高輝度レーザ光を出力可能なものとなる。
【0067】
従来の固体レーザ装置では、例えば、発振ピーク波長808nmのGaAs系半導体レーザにより、Nd:YAG又はNd:YVO4からなる固体レーザ媒質を励起して、1064nm光を発振させ、これを第1の波長変換素子(SHG結晶)により波長変換して、波長532nmの可視光を得ており、紫外光を得るには、さらに、この532nm光を第2の波長変換素子(THG又はFHG結晶)により355nm光又は266nm光に波長変換しており、すなわち2段階の波長変換を経て紫外光を得ている。また、波長変換素子として用いられる非線形結晶は、エネルギー変換効率が低いため、このような構成の固体レーザ装置においては、高効率化が課題とされている。
【0068】
本実施形態の固体レーザ装置10では、図5に示されるように、波長変換素子15を設けずに、固体レーザ媒質14から発振された可視域の542nm光を出力させることができ、また、図6に示されるように、紫外光を得る場合にも、必要な波長変換は1回でよい。従って、本実施形態の固体レーザ装置10は、従来の固体レーザ装置に比して、装置構成がシンプルで、小型化が可能であり、光の利用効率の高い、紫外〜可視光域の光を出力する固体レーザ装置が得られる。
【0069】
Tb:YAGは複数の発振ピーク波長を有するので、固体レーザ媒質14から発振させるレーザ光の波長、及び固体レーザ装置10から出力する出力光の波長は、上記以外にも適宜変更可能である。
【0070】
(設計変更例)
本発明の固体レーザ装置は上記実施形態に限らず、装置構成は適宜設計変更可能である。
例えば、図7(a)に示す如く、固体レーザ媒質14の1つの面に、複数のレーザダイオード11がアレイ状に並べて配置された面発光レーザアレイを取り付け、該面の対向面に反射ミラー18を配置し、固体レーザ媒質14の両端部に対向させて反射ミラー13と出力ミラー17とを略対称な関係で配置することで、ジグザグパススラブ固体レーザ装置を構成することができる。かかる構成では、反射ミラー13と固体レーザ媒質14の励起光入射面と反射ミラー18と出力ミラー17との間で共振器構造が構成されている。
【0071】
励起光源は、複数のレーザダイオード11がアレイ状に並べて配置された面発光レーザアレイの代わりに、複数のファイバレーザの先端部をアレイ状に並べて配置したものでもよい。
【0072】
図7(b)に示す如く、固体レーザ媒質14を、透明性に優れたTb:YAGの多結晶焼結体(実施例1〜4のいずれか)を切削及び研磨等して得られる多面プリズムにより構成し、固体レーザ媒質14の1つの面に対向させて出力ミラー17を配置し、その他の面に対向させて複数の半導体レーザダイオード11を配置することで、レーザダイオード励起多面プリズム型固体レーザ装置を構成することができる。この例では、固体レーザ媒質14の励起光入射面14a〜14cに、励起波長の光を透過し出力波長の光を反射するコートがなされている。かかる構成では、固体レーザ媒質14自身が共振器構造を構成している。励起光源としては、複数の半導体レーザダイオード11の代わりに、複数のファイバレーザを用いてもよい。
【0073】
図7(a)、(b)に示す固体レーザ装置では、1個の固体レーザ媒質14を複数のレーザダイオード11により励起することができるので、高出力化が可能である。これらの例では、波長変換素子を配置していないが、上記実施形態と同様に、必要に応じて波長変換素子を配置することもできる。
【0074】
「第2の固体レーザ装置」
固体レーザ装置においては、Tb濃度に関係なく、Tb:YAG等のTb含有酸化物を含む固体レーザ媒質を用いた構成自体が新規である。
すなわち、本発明の第2の固体レーザ装置は、固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、前記固体レーザ媒質がTb含有酸化物を含むことを特徴とするものである。
【0075】
上記Tb含有酸化物としては、下記一般式で表されるガーネット型化合物が挙げられる。
一般式:(A(III)1−xTbx)3B(III)2C(III)3O12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Sc,Y,In,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Cr,Ga,In,Sm、Eu、Gd、Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
0<x<1)
【0076】
上記一般式で表されるガーネット型Tb含有化合物としては、A(III)がYであり、B(III)がAlであり、C(III)がAlであるものが挙げられる。この場合、母体ガーネット型化合物は、Y3Al5O12(YAG)となる。
【0077】
「背景技術」で述べたように、特許文献3には、希土類イオンをドープした発光性化合物からなる固体レーザ媒質と、この固体レーザ媒質を励起する発振波長340〜640nmのレーザダイオードとを備えた、レーザダイオード励起固体レーザ装置が開示されている。特許文献3において、ドープする希土類イオンとして、Tbが挙げられており、Tbをドープする母体化合物としては、CaF2やLiYF4等のフッ化物が具体的に例示されている。従って、Tb含有フッ化物を固体レーザ媒質とした固体レーザ装置は公知である。
【0078】
しかしながら、Tbをドープする母体化合物として、フッ化物以外の化合物については、一切言及されていない。Tbをドープする母体化合物として言及されていない以上、特許文献3においては、酸化物についてはその対象とされていないと考えられる。従って、Tb含有酸化物を固体レーザ媒質とした固体レーザ装置は新規である。
【0079】
Tbをドープする母体化合物として、フッ化物等のハロゲン化物は、化学的に不安定であり、大型な製造設備を要するなど製造コストの点でも難があり、好ましくない。Tbをドープする母体化合物としては、ガーネット型化合物等の酸化物が化学的に安定で製造コストも安く、好ましい。
【0080】
「発光素子」
本発明の発光素子は、上記の本発明の発光体と、該発光体に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
図8(a)に基づいて、本発明に係る実施形態の発光素子の構造について説明する。図8(a)は、回路基板22の厚み方向の断面図である。
【0081】
本実施形態の発光素子20は、円板状の回路基板22の表面中央に、励起光源である発光素子23が実装され、回路基板22上に発光素子23を囲むようにドーム状の発光体25が成形されたものである。
発光体25を励起する励起光を出射する発光素子23は、発光ダイオード等からなり、回路基板22にボンディングワイヤ24を介して導通されている。
【0082】
本実施形態では、発光体25は、本発明で規定するTb濃度(C(Tb/A)=10モル%超55.0モル%以下、好ましくは20.0〜40.0モル%)の透明性に優れたTb:YAGの多結晶焼結体(実施例1〜4のいずれか)の粉砕物が、(メタ)アクリル系樹脂等の透光性樹脂バインダに分散された成形体である。
【0083】
発光体25は、本発明のTb:YAGの多結晶焼結体を乳鉢で粉砕して粉砕物を得、この粉砕物と(メタ)アクリル系樹脂等の透光性樹脂とを樹脂溶融状態で混練して混合物を得(例えば、Tb:YAG/PMMA樹脂=3/4(質量比))、発光素子23を実装した回路基板22を金型内に載置して射出成形を実施して、成形することができる。
【0084】
Tb:YAGは、220〜500nmの光によって励起されて可視光域(400〜700nm)の発光を示すので、所望の発光波長に応じて、励起光源を選定すればよい(実施例1の図12(a)を参照)。例えば、上記励起波長(紫外〜可視光域)において、波長542nmの強い緑色の蛍光を発し、励起波長を377nmとした時に最も効率良く発光する(実施例1の図12(b)を参照)。
【0085】
励起光源である発光素子23としては、GaN,AlGaN,InGaN,InAlGaN,InGaNAs,GaNAs等の含窒素半導体化合物を1種又は2種以上含む活性層を備えたGaN系発光ダイオード(発振ピーク波長:360〜500nm)、ZnSSe系半導体発光ダイオード(発振ピーク波長:450〜520nm)、ZnO系発光ダイオード(発振ピーク波長:360〜450nm)、等が好ましく用いられる。
上記のように、本実施形態の発光素子20は、本発明の化合物を含む発光体25を用いているので、発光特性に優れ、高輝度な可視光を出力することができる。
【0086】
「背景技術」の項において述べたように、白色LEDにおいては、光の三原色である青、緑、赤の加法混色により白色を実現する方法が検討されている。発光体25は、上記のように高効率な緑色蛍光体となるので、青、緑、赤の加法混色により白色を得る白色LED用の緑色蛍光体等として好ましい。
【0087】
従って、本実施形態の発光素子20において、発光素子23として紫外光源を用い、発光体25として、(メタ)アクリル系樹脂等の透光性樹脂バインダに、本発明のTb:YAGの多結晶焼結体および赤色、青色の蛍光化合物の粉砕物が分散された成形体を用いることにより、本実施形態の発光素子20を、高効率な白色LEDとすることができる。
【0088】
また、発光素子23を例えば青色の可視光源とした場合は、発光体25を、本発明のTb:YAGの多結晶焼結体および赤色蛍光化合物の粉砕物により作製されたものを用いることにより同様に白色LEDとすることができる。
本発明の化合物、組成物、及び発光体は、固体レーザ装置や発光素子に限らず、種々の用途に利用することができる。
【実施例】
【0089】
本発明に係る実施例について説明する。
(実施例1)
以下のようにして、YAG(Y3Al5O12)を母体化合物としてTbをドープしたTb:YAGの多結晶焼結体を調製した。Tb濃度を変えて下記計11種の試料を調製した(「%」はTb濃度C(Tb/A)モル%を示す。)。
試料1:0.0%Tb:YAG、
試料2:1.0%Tb:YAG、
試料3:5.0%Tb:YAG、
試料4:10.0%Tb:YAG、
試料5:15.0%Tb:YAG、
試料6:30.0%Tb:YAG、
試料7:40.0%Tb:YAG、
試料8:50.0%Tb:YAG、
試料9:60.0%Tb:YAG、
試料10:80.0%Tb:YAG、
試料11:100.0%Tb:YAG。
【0090】
はじめに、所望の組成となるよう、Y2O3粉末(純度99.9%)、α−Al2O3粉末(純度99.99%)、及びTb4O7粉末(純度99.99%)をそれぞれ秤量した。
例えば、1.0%Tb:YAG(試料2、Y/Tbモル比=2.97/0.03)では、原料粉末組成を、Y2O3粉末33.533g、α−Al2O3粉末25.490g、及びTb4O7粉末0.561gとした。
【0091】
上記の原料粉末とエチルアルコール100mLと10mmφアルミナボール150個とをポットミルに入れ、12時間湿式混合を行った。
アルミナボールを取り除き、得られた混合粉末スラリー中のエチルアルコールを、ロータリーエバポレーターを用いて除去した後、100℃で12時間乾燥し、得られた乾燥粉末を乳鉢で軽くほぐした。得られた乾燥粉末を、成型圧100MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。
【0092】
得られた圧縮成型体に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1450℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという仮焼成プロセスを実施した。
常温まで冷却した仮焼結体を乳鉢で粉砕した。以上のようにして、通常の固相反応セラミックス法により、Tb:YAGの構成成分を含む焼結用乾燥粉末を得た。この焼結用乾燥粉末は、粒子のサイズ及び形状が不均一(ランダム)である。
【0093】
得られた焼結用乾燥粉末を、成型圧100MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。
得られた圧縮成型体(粉末成形体)に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1700℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという本焼成プロセスを実施し、所望のTb濃度のTb:YAGの多結晶焼結体を得た。
【0094】
<粉末X線回折(XRD)測定>
試料1〜11を各々乳鉢で粉砕し、リガク社製X線回折装置にて粉末X線回折(XRD)測定を実施した。測定条件は、CuKα、40kV、40mA、スキャンスピード:0.5deg/min、受光スリット:0.15mmとした。主な試料のXRD測定結果を図9に示す。図9(a)には、試料1及び2のXRD測定結果、(b)には試料4、8、及び11のXRD測定結果を示してある。いずれも回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶) の回折ピークと完全に一致し、単相構造であることが確認された。このことは、Tbをドープした試料2〜11では、投入したすべてのTbが母体化合物のYAG中に入って、ガーネット構造の8配位サイトのYがTbに良好に固溶置換されたことを示している。
主な試料における高角度領域のXRD挙動を、図10に拡大して示す。Tb濃度の増加に伴って、回折ピークが低角度側にシフトし、格子が膨張していく様子が示されている。
【0095】
<格子定数>
本発明者は、上記XRD測定の結果から格子定数を求めた。すなわち、2θ=100〜150°におけるYAG立方晶の回折ピーク値を、接線法を用いて得、Nelson−Riley関数を用いて、正確な格子定数を算出した。算出された格子定数を図11に示す。
Nelson−Riley関数は、式1/2(cosθ)2(1/sinθ+1/θ)で与えられ、得られた値をx軸とし、Braggの回折条件から得られた格子定数aをy軸にプロットし、最小二乗法の直線のy切片の値を真の格子定数とするものである。
【0096】
図11には、Tb濃度0〜100モル%の全範囲において、Tb濃度の増加に伴って、格子定数が線形に増加していることが示されている。このことは、Tb濃度0〜100モル%の全範囲において、Vegard則に従って固溶置換が行われており、投入したすべてのTbが母体化合物のYAG中に入って、ガーネット構造の8配位サイトのYがTbに良好に固溶置換されたことを示している。
【0097】
図11において、Tb濃度を100モル%とした場合(YのTbによる完全置換)の格子定数は、JCPDS#17−0735のTb3Al5O12の格子定数=1.2074nmに極めて近い値である。このことから、図11の評価が妥当であると言える。
【0098】
<1.0%Tb:YAGの発光特性>
比較的低濃度の代表として、1.0%Tb:YAG(試料2)について、日立分光蛍光光度計F−4500を用いて、発光スペクトル(蛍光スペクトル)測定を行った。
励起光の波長λexは、励起スペクトルを取ったときに最大発光強度を示す377nmとした。発光スペクトルを図12(a)に示す。可視光域である400〜700nmの波長域に多数の発光ピークが見られ、542nmに最強発光ピークが見られた。
【0099】
次に、同試料について、励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長(542nm)の発光強度(蛍光強度)を示す励起スペクトル測定を行った。励起スペクトルを図12(b)に示す(図中、「×」で示してあるのは、励起光の高次光の漏れである。)。
【0100】
図12(b)に示す励起スペクトルでは、波長500nm以下に多数の励起ピークが見られ、波長500nm以下の複数の励起ピーク波長のうち、吸収が最も大きく1番目に高い蛍光強度を示す励起ピーク波長が377nmであり、370nm、360nm、及び深紫外域の230nmにおいても吸収が大きく、高い蛍光強度を示している。このことは、377nm光、370nm光、360nm光、及び230nm光等の励起によって、542nmの発光が得られることを示している。
377nmは、GaN系やZnO系等のレーザダイオードの発振波長域内にあるので、Tb:YAGの励起光源として既存の光源を使用できることが示された。
【0101】
次に、1.0%Tb:YAG(試料2)の蛍光寿命を、浜松ホトニクス社製ピコ秒蛍光寿命測定装置C4780を用いて測定した。励起光源として窒素レーザ励起色素レーザ(10Hz)を用い、377nmの波長に選定して励起した。
測定結果を図13に示す。レーザ発振に必要な反転分布を考慮すれば、固体レーザ媒質として用いるにはある程度長い寿命が必要と考えられる。図に示すように、1.0%Tb:YAGの蛍光寿命は3.1ミリ秒であり、固体レーザ媒質として充分に長い蛍光寿命を有することが示された。
【0102】
<濃度と発光特性との関係>
他の試料についても、試料2と同様に、発光スペクトル測定を行った。Tb濃度と、励起波長を377nmとしたときの542nmの発光強度との関係を図14に示す。
Tb:YAGでは、Tb濃度C(Tb/A)=0モル%超100モル%以下の範囲の全範囲において発光性を示し、特にC(Tb/A)=10.0超55.0モル%以下の範囲内において高い発光強度が得られることが明らかとなった(C(Tb/all)=3.75モル%超20.625モル%以下に相当)。Tb:YAGでは、これまで、Tb濃度C(Tb/A)=10モル%以下が好適濃度とされており、C(Tb/A)=10モル%超における発光強度の評価結果は、過去に報告されていない。
【0103】
また、蛍光寿命についても、試料2と同様に測定を行った。Tb濃度と、励起波長を377nmとしたときの蛍光寿命との関係を図15に示す。
図15において、Tb濃度C(Tb/A)=50.0モル%以上において、2つの緩和成分が観測されているが、Tb濃度C(Tb/A)=50.0モル%のTb:YAGにおいては、2成分ともミリ秒オーダの長い蛍光寿命を有している。従って、Tb:YAGは、Tb濃度C(Tb/A)=0.0モル%超50.0モル%以下の広い濃度範囲においてミリ秒オーダの長い蛍光寿命を有していることが明らかとなった(C(Tb/all)=0.0モル%超18.50モル%以下に相当)。
【0104】
多くの発光性希土類では高濃度ドーピングによる発光の減衰(濃度消光と称される)が、低ドープ濃度側で起こるが、Tb:YAGでは、高濃度まで濃度消光が起こっていない。Tbを高濃度ドープしても濃度消光を起こしにくく、蛍光寿命の長いTb:YAGは、固体レーザ媒質として用いる場合、励起光の吸収量を増加させることが可能であるなど、有用である。
本実施例においては、多結晶Tb:YAGによりその発光特性等の評価を行ったが、単結晶においても同様の特性を有すると考えられる。
【0105】
<走査型電子顕微鏡(SEM)観察>
試料1〜11の多結晶焼結体のSEM断面観察を行ったところ、結晶粒のサイズ及び形状は不均一(ランダム)であった(図1(a)を参照)。
【0106】
(実施例2)
以下のようにして、30.0%Tb:YAGの多結晶焼結体(透明セラミックス、Y/Tbモル比=2.10/0.90)を調製した。この例では、焼結助剤の役目を担うSiO2を添加した。Alサイトの1.0モル%をSiに置換するように原料粉末を配合した。
【0107】
はじめに、所望の組成となるよう、Y2O3粉末(純度99.9%)、α−Al2O3粉末(純度99.99%)、Tb4O7粉末(純度99.99%)、及びSiO2粉末(純度99.99%)をそれぞれ秤量した。
実施例1と同様にして、上記の原料粉末の湿式混合、混合粉末スラリーの乾燥、乾燥粉末の圧縮成型、及び1450℃仮焼成を実施し、仮焼結体を乳鉢で粉砕した。
【0108】
次に、得られた粉砕物とエタノールとを粘度の高いスラリー状に混合し、ボールミル粉砕を24時間行った後、これを乾燥した。以上のようにして、通常の固相反応セラミックス法により、Tb:YAGの構成成分を含む焼結用乾燥粉末を得た。この焼結用乾燥粉末は、粒子のサイズ及び形状が不均一(ランダム)である。得られた焼結用乾燥粉末を、成型圧100MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。
得られた圧縮成型体(粉末成形体)に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1450℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという仮焼成プロセスを実施した。
【0109】
次に、粉砕することなく、真空焼成可能な電気炉にて、真空雰囲気下(1.0×10−3Pa)、500℃/hrで1750℃まで昇温し、同温度で15時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという本焼成プロセスを実施した。さらに両面を研磨して、所望のTb濃度のTb:YAG(Si添加)の多結晶焼結体を得た。
得られた多結晶焼結体は透明性に優れ、本実施例のプロセスにより固体レーザ媒質等として良好な透明性を有する透明セラミックスが得られることが示された。
実施例1と同様に、得られた多結晶焼結体を粉砕してXRD測定を実施したところ、回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶)と全て一致し、単相構造であることが確認された。
【0110】
(実施例3)
以下のようにして、30.0%Tb:YAGの多結晶焼結体(透明セラミックス)を調製した。
はじめに、アルコキシドエマルジョン法により焼結用粉末を調製した。原料の金属アルコキシドとして、Y(iso−OPr)3粉末[純度99.9%]2.80g、Al(sec−OBu)3ゲル状物質[純度99.99%]6.16g、及びTb(iso−OPr)3粉末[純度99.9%]1.51gを各々秤量した。これら金属アルコキシドを1−オクタノール52.9mL中に投入し、パイレックス(登録商標)製のフラスコ内でN2気流下、120℃で12時間撹拌して溶解した。
【0111】
室温まで冷却した後、アセトニトリル36.36mL、及び分散剤としてヒドロキシプロピルセルロース0.02gを加えて5分間撹拌し、アルコキシドエマルジョンを得た。40℃まで昇温後、得られたアルコキシドエマルジョンに1−オクタノール/アセトニトリル/水混合液(配合比2.46mL/1.64mL/0.90mL)を加え、40℃で1時間撹拌してアルコキシドの加水分解を行い、多数の粒子を得た。
【0112】
次に、遠心分離器にて、5000rpm・10分間の条件で遠心分離処理を実施して、粉末を分離回収した。さらに、回収した粉末をエタノール中へ分散させ、5000rpm・10分間の遠心分離処理を実施する操作を2回繰り返して、粉末を洗浄した。さらに乾燥機にて、粉末を80℃で24時間乾燥し、焼結用粉末を得た。
走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行ったところ、得られた焼結用粉末は、略同一サイズの多数の略球状微粒子からなり、粒子サイズと粒子形状の揃った粉末であった。
【0113】
得られた焼結用粉末を成型圧10MPaで一軸圧縮成型し(仮成型)、さらに140MPaでCIP処理を行うことで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)の圧縮成型体(粉末成形体)を得た。
得られた圧縮成型体(粉末成形体)に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1400℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという仮焼成プロセスを実施した。
【0114】
次に、粉砕することなく、真空焼成可能な電気炉にて、真空雰囲気下(1.0×10−3Pa)、500℃/hrで1750℃まで昇温し、同温度で10時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという本焼成プロセスを実施した。さらに両面を研磨して、所望のTb濃度のTb:YAGの多結晶焼結体を得た。
得られた多結晶焼結体は透明性に優れ、本実施例のプロセスにより固体レーザ媒質等として良好な透明性を有する透明セラミックスが得られることが示された。
実施例1と同様に、得られた多結晶焼結体を粉砕してXRD測定を実施したところ、回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶)と全て一致し、単相構造であることが確認された。
【0115】
(実施例3の変更)
アルコキシドエマルジョン法により得られ焼結に用いた上記粉末を、600℃で12時間熱処理するなどして脱炭して、実質上Y,Al,Tb,及びOのみからなるアモルファス粉末を得、これを焼結用粉末として用いても構わない。また、上記アモルファス粉末をさらに、1200℃で2時間熱処理するなどして多結晶化して、実質上Y,Al,Tb,及びOのみからなる多結晶粉末を得、これを焼結用粉末として用いても構わない。本発明者は、かかる焼結用粉末を用いても、実施例3と同様に、透明性に優れたTb:YAGの多結晶焼結体が得られることを確認している。
【0116】
(実施例4)
以下のようにして、30.0%Tb:YAGの多結晶焼結体(透明セラミックス)を調製した。
はじめに、水熱合成法により焼結用粉末を調製した。
酸化イットリウム(Y2O3)粉末(純度99.99%)4.742gを精秤し、これをビーカーに入れた。このビーカー内に過剰の濃硝酸水溶液をゆっくり加え、加熱しながら攪拌して酸化イットリウムを完全に溶解させ、その後蒸発乾固させた。常温まで冷却後、少量の硝酸水溶液(例えば、35%濃硝酸2〜3滴)と硝酸テルビウム6水和物(Tb(NO3)3・6H2O)8.155gとを加えて攪拌して、YイオンとTbイオンとを含む30〜50mLの水溶液を調製した(Y+Tb水溶液)。
【0117】
別途、無水塩化アルミニウム(AlCl3)粉末(純度99.99%)13.334を精秤し、これを水を入れた別のビーカー内にゆっくり加え、攪拌して無水塩化アルミニウムを完全に溶解させ、Alイオンを含む30〜50mLの水溶液を調製した(Al水溶液)。
別途、別のビーカーに、水酸化カリウム(KOH)の高濃度水溶液(99.99%)を用意しておいた。
【0118】
以上3つのビーカーを用意した後、Y+Tb水溶液とAl水溶液とを混合した。この混合液に対して、攪拌下、pHメータを見ながらKOH高濃度水溶液を徐々に加えた。pH変化に伴って液がゲル化するが撹拌は続け、pH=12.0になった時点で、KOH高濃度水溶液の添加を停止した。以上のようにして、水熱合成反応原料液(pH=12.0、200mL)を調製した。
【0119】
上記原料液をハステロイ(HASTELLOY)(登録商標)製のオートクレーブ内に仕込み、内面に白金ライニング処理が施された反応槽内で撹拌しながら、360℃で2時間水熱反応させた。
反応終了後、内溶液をビーカーに移し、熱水を添加して上澄み液のみを廃棄するデカンテーションプロセスを10回以上繰り返し、最後に反応沈殿物を濾過し、焼成用粉末を得た。この粉末は水分を含んでいるが、特に乾燥せずに次工程に供した。
【0120】
水熱合成反応後に得られた反応沈殿物の一部は多結晶焼結体の製造に供さずに、乾燥させて評価に供した。反応沈殿物を乾燥させて得られた粉末のXRD測定を行ったところ、回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶)と全て一致し、単相構造であることが確認された。また、SEM観察を行ったところ、同粉末は、略同一サイズの多数の菱形十二面体状微粒子からなり、粒子サイズと粒子形状の揃った粉末であった。
【0121】
非乾燥の上記焼成用粉末約5gに、分散媒質としてエタノール10mLを添加混合し、得られた混合液を底面が極めて平滑な容器内に注入し、ゆっくりと微粒子を沈降させた。分散媒質としては、ポリビニルブチラール等を使用することもできる。
その後、上澄み液を静かに抜き取り、自然乾燥させて、パンケーキ状の粉末成形体を得た。この工程では、上澄み液を静かに抜き取った後、防振台の上に載置し、減圧下で乾燥させて、パンケーキ状の粉末成形体を得ることもできる。
【0122】
次に、真空焼成可能な電気炉にて、真空雰囲気下(1.0×10−3Pa)、500℃/hrで1750℃まで昇温し、同温度で5時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという焼成プロセスを実施した。さらに両面を研磨して、所望のTb濃度のTb:YAGの多結晶焼結体を得た。
【0123】
得られた多結晶焼結体は透明性に優れ、本実施例のプロセスにより固体レーザ媒質等として良好な透明性を有する透明セラミックスが得られることが示された。
SEM観察を行ったところ、得られた多結晶焼結体は、略同一サイズ(結晶粒径約8.5μm)の多数の菱形十二面体状結晶粒の集合体からなり、結晶粒のサイズと結晶粒の形状の揃った空間充填率の高い多結晶焼結体であった。
【0124】
本実施例では、菱形十二面体状微粒子からなる焼成用粉末が調製されたが、水熱反応の反応条件(温度や時間等)を変えることで、切頂八面体状微粒子からなる焼成用粉末を調製することができる(図4を参照)。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のTb含有発光性化合物は、固体レーザ媒質や白色発光ダイオード用蛍光体等の用途に好ましく利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】(a)、(b)は多結晶焼結体の断面例((b)はイメージ図)
【図2】(a)は切頂八面体状の粒子を示す図、(b)は菱形十二面体状の粒子を示す図
【図3】(a)〜(d)は切頂八面体状の粒子が空間を充填していく様子を示す図
【図4】ガーネット型化合物を水熱合成する場合の、反応時間の経過に伴う粒子形状の変化を示す図
【図5】本発明に係る一実施形態の固体レーザ装置の構造を示す図(可視光発振)
【図6】本発明に係る一実施形態の固体レーザ装置の構造を示す図(紫外光発振)
【図7】(a)、(b)は固体レーザ装置の設計変更例を示す図
【図8】(a)、(b)は本発明に係る実施形態の発光装置の構造を示す図
【図9】(a)、(b)実施例1の粉末X線回折測定結果を示す図
【図10】実施例1の粉末X線回折測定結果を示す図
【図11】実施例1のTb濃度と格子定数との関係を示す図
【図12】(a)は1.0%Tb:YAG(試料2)の発光スペクトル、(b)は励起スペクトル
【図13】1.0%Tb:YAG(試料2)の蛍光寿命の測定結果を示す図
【図14】実施例1のTb濃度と励起波長を377nmとしたときの波長542nmにおける発光強度との関係を示す図
【図15】実施例1のTb濃度と蛍光寿命との関係を示す図
【符号の説明】
【0127】
10 固体レーザ装置
11 レーザダイオード(励起光源)
14 固体レーザ媒質
15 波長変換素子
20 発光装置
23 発光素子(励起光源)
25 発光体
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tb含有発光性化合物及びこれを含む発光性組成物と発光体、並びにこの発光体を用いた発光素子と固体レーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般式TbxY3−xAl5O12で表されるTb:YAG等の、発光中心イオンとしてTbイオンをドープした発光性化合物は、蛍光効率の良い蛍光材料として広く研究が行われている。
【0003】
特許文献1には、水熱合成法によるTb:YAG微粒子の製造方法が記載されている。特許文献1では、上記一般式で表されるTb:YAGにおいて、x=0.05(C(Tb/A)=約1.7モル%)、x=0.15(C(Tb/A)=5モル%)、x=0.3(C(Tb/A)=約10モル%)、x=1.0(C(Tb/A)=約33モル%)、x=2.0(C(Tb/A)=約67モル%)、及びx=3.0(C(Tb/A)=100モル%)のTb:YAGが、実際に調製されている(特許文献1の第5頁表1を参照)。本明細書においては、C(Tb/A)を、ガーネット構造の8配位サイトであるAサイト中(Tbを含む)のTb濃度を示すパラメータとして使用している。
【0004】
特許文献1には、調製されたx=0.15(C(Tb/A)=5モル%)のTb:YAGは、励起光として波長254〜366nmの紫外光を照射することにより緑色の蛍光を発することが記載されているが(特許文献1の第4頁第8コラム第31行目を参照)、実際に調製された各Tb:YAGの発光強度や蛍光寿命等の発光特性の評価はされていない。
【0005】
特許文献1には、従来技術としてTb:YAGはx=0.15(C(Tb/A)5モル%)において効率よく蛍光を発することが知られていると記載されている(特許文献1の第1頁第2コラム第11行目)。
【0006】
Tb:YAGの単結晶と多結晶セラミックスに関する基礎研究の公知文献リスト(非特許文献1〜24)を表1に挙げる。この表には、文献に記載されているTb濃度C(Tb/A)(特に明記していない限り、単位はモル%)を合わせて示してある。非特許文献14を除いたすべての文献において、実際に調製されたTb:YAGのTb濃度C(Tb/A)は10モル%以下である。
【0007】
表1に示すリストのうち、Tb濃度と発光特性の評価がなされているのは、非特許文献3,18及び23のみである。これら非特許文献では、Tb濃度C(Tb/A)が10モル%以下のデータしか記載されていない。
以上のように、従来、Tb:YAGでは、蛍光強度から見て、Tb濃度C(Tb/A)10モル%以下が好適であるとされている。
【0008】
表1に示すリストのうちTb濃度C(Tb/A)が10モル%超のTb:YAGが報告されているのは、唯一非特許文献14である。この文献では、チョクラルスキー法を用いたTb濃度C(Tb/A)が100モル%の単結晶のみが実際に調製されているにすぎない。また、得られた単結晶の光学特性等の評価は一切なされていない。
【0009】
その他、特許文献2には、一般式M3Al5O12(式中、M=Er,Tm,Ho,Dy,Lu,Tbのうち少なくとも1種)で表される透光性セラミックスが開示されており、メタルハライドランプの発光管としての用途が記載されている。この文献では、8配位サイトのイオンが全て希土類元素(但しEr,Tm,Ho,Dy,Lu,Tb)のみから構成されていることが記載されているが、Tb濃度の具体的な例示はなく、Tb濃度C(Tb/A)が100モル%のTb:YAGのみが実際に調製されている。
【0010】
Tb:YAGは、白色発光ダイオード(以下白色LEDとする。)用の蛍光体あるいは固体レーザ装置のレーザ媒質等として、利用することが考えられる。
自然な発光の指標となる演色性が良く、色調調整の容易な白色LEDを得る方法として、光の三原色である青、緑、赤の加法混色により白色を実現する方法が検討されており、紫外〜青色の波長範囲の光を効率良く、青、緑、赤の各色に変換する蛍光体に関する研究が広く行われている。Tb:YAGは、高効率な緑色蛍光体の一つとして考えられるが、実際に白色LED用の緑色蛍光体として具体的な検討がされたという報告はない。
【0011】
また、特許文献3には、希土類イオンをドープした発光性化合物からなる固体レーザ媒質と、この固体レーザ媒質を励起する発振波長340〜640nmのレーザダイオードとを備えた、レーザダイオード励起固体レーザ装置が開示されており、可視域の波長400〜700nmのレーザ光を発振することができることが記載されている。特許文献3には、ドープする希土類イオンとして、Tbが挙げられている。Tbをドープする母体化合物としては、CaF2やLiYF4等のフッ化物のみが具体的に挙げられており、YAG等の酸化物については一切例示がない。また、固体レーザ媒質として好適なTb量についても記載がなされていない。
【特許文献1】特許2705183号公報
【特許文献2】特開平11−147757号公報
【特許文献3】特開2002−43662号公報
【表1】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記したように、Tb:YAGにおいては、Tb濃度C(Tb/A)が0〜100モル%の範囲で、Tb:YAGを調製できることが記載されている。しかしながら、従来、Tb濃度C(Tb/A)は10モル%以下が好適であるとされてきたために、Tb濃度と発光特性との関係、Tb濃度の好適化については、Tb濃度C(Tb/A)10モル%以下においてのみ検討され、Tb濃度C(Tb/A)10モル%超においては、研究がなされていない。
【0013】
上記従来のTb:YAGの発光特性評価及びTb濃度好適化は、ほとんどが電子線励起、及び波長280nm以下の深紫外光を励起光として検討された結果であると考えられる。
また、Tb:YAG以外のTb含有発光性化合物においては、発光特性等の詳細な報告はほとんどない。
【0014】
白色LED用の蛍光体や固体レーザ媒質としての用途を対象とした場合は、紫外〜可視光域の光が励起光として好適と考えられ、励起条件が従来評価されている励起条件と異なる。発光特性は励起条件によって変化するため、使用用途に応じた励起条件を対象にした評価がなされる必要がある。しかしながら、従来は、Tb含有発光性化合物をかかる用途に応用すること自体がほとんど研究されておらず、白色LED用の蛍光体や固体レーザ媒質としての用途を対象とした評価はなされていない。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、Tb含有発光性化合物において、白色発光ダイオード用の蛍光体あるいは固体レーザ装置のレーザ媒質等として用いる場合に好適な励起条件における、Tb濃度と発光特性との関係を明らかにして、該励起条件におけるTb濃度を好適化することを目的とするものである。本発明はまた、上記励起条件におけるTb濃度の好適化により、白色発光ダイオード用の蛍光体あるいは固体レーザ装置のレーザ媒質等として好適な、発光特性に優れたTb含有発光性化合物を提供すること、及びこのTb含有発光性化合物を用いた発光性組成物と発光体、並びにこの発光体を用いた発光素子と固体レーザ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のTb含有発光性化合物は、Tb及び2種以上のTb以外の金属元素を含み、励起光照射により発光するTb含有発光性化合物において、Tbを含むすべての金属元素の総モル数に対するTb濃度が3.75モル%超20.625モル%以下であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明のTb含有発光性化合物としては、ガーネット型結晶構造を有することが好ましく、下記一般式で表されるガーネット型化合物が挙げられる。
一般式:(A(III)1−xTbx)3B(III)2C(III)3O12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Sc,Y,In,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Cr,Ga,In,Sm、Eu、Gd、Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
0.1<x≦0.55)
【0018】
本明細書において、「Tbを含むすべての金属元素の総モル数に対するTb濃度」は、C(Tb/all)のパラメータでもって表記することとする。
上記一般式で表されるガーネット型化合物においては、0.2≦x≦0.4であることが好ましい。
本発明のTb含有発光性化合物としては、上記一般式において、A(III)がYであり、B(III)がAlであり、C(III)がAlであるものが挙げられる。
【0019】
本発明の発光性組成物は、上記本発明のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とするものである。
本発明の発光体は、励起光照射により発光する発光性を有し、所定の形状を有する発光体において、上記本発明のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とするものである。
【0020】
本発明の発光体において、前記Tb含有発光性化合物は、励起光により励起されてレーザ光を発振するレーザ物質である場合、本発明の発光体を固体レーザ媒質として利用でき、下記本発明の固体レーザ装置を提供することができる。
本発明の第1の固体レーザ装置は、固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、前記固体レーザ媒質が、上記本発明の発光体からなることを特徴とするものである。
また、本発明の第2の固体レーザ装置は、固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、前記固体レーザ媒質がTb含有酸化物を含むことを特徴とするものである。
【0021】
本発明の発光素子は、上記本発明の発光体と、該発光体に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、Tb含有発光性化合物において、従来報告されていなかった紫外〜可視光域の光を励起光とした場合の、Tb濃度と発光特性との関係及び好適なTb濃度を明らかにした。本発明では、Tbを含むすべての金属元素の総モル数に対するTb濃度C(Tb/all)が3.75モル%超20.625モル%以下において高い発光強度が得られることを明らかにした。
【0023】
本発明では、Tb濃度の好適化により、発光特性の優れたTb含有発光性化合物を実現した。従って、本発明のTb含有発光性化合物によれば、発光効率の良い発光体を提供することができる。
従って、本発明の発光体を用いることによって、発光強度が高く、高効率な発光素子及び固体レーザ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について詳述する。
「Tb含有発光性化合物」
本発明者は、Tb含有発光性化合物において、Tb濃度と発光特性との関係について研究を行った結果、発光性化合物を構成するすべての金属元素(Tbを含む)の総モル数に対するTb濃度C(Tb/all)が3.75モル%超20.625モル%以下の範囲内において高い発光強度が得られることを見出した(実施例1の図14を参照。実施例1に記載のTb含有発光性化合物はガーネット型結晶構造を有しており、図14においてTb濃度はガーネット構造の8配位サイトであるAサイト中(Tbを含む)に占めるTb濃度C(Tb/A)で示してある。上記Tb濃度C(Tb/all)=3.75モル%超20.625モル%以下は、図14においては、Tb濃度C(Tb/A)=10.0モル%超55.0モル%以下に対応している)。
すなわち、本発明のTb含有発光性化合物は、Tb及び2種以上のTb以外の金属元素を含み、励起光照射により発光するTb含有発光性化合物において、発光性化合物を構成するすべての金属元素(Tbを含む)の総モル数に対するTb濃度C(Tb/all)が、3.75モル%超20.625モル%以下であることを特徴とするものである。
【0025】
本発明のTb含有発光性化合物は、単結晶構造でも多結晶構造でもよい。本発明のTb含有発光性化合物は、不可避不純物を含んでいてもよい。
本発明のTb含有発光性化合物においては、発光中心イオンとしてTb以外の元素を共ドープしなくても、良好な発光特性が得られるので、発光中心イオンとして、実質的にTbのみを含む構成とすることができる。ここで、「発光中心イオンとして、実質的にTbのみを含む」とは、不可避不純物を除けば、発光中心イオンとしてTbのみを含むことを意味する。ただし、必要に応じて、発光中心イオンとして、Tb以外の元素を共ドープすることは差し支えない。
【0026】
本発明のTb含有発光性化合物は、ガーネット型結晶構造を有することが好ましい。以下、ガーネット型Tb含有発光性化合物を例に説明する。
ガーネット型結晶構造を有する場合、Tbは通常ガーネット構造の8配位サイト(通常Aサイト)を置換固溶するため、ガーネット構造については、基本的には8配位サイト中(Tbを含む)のTb濃度C(Tb/A)でもってTb濃度を表記することとする。
【0027】
上記したように、本発明の発光性化合物は、発光性化合物を構成するすべての金属元素(Tbを含む)の総モル数に対するTb濃度(Tb/all)が、3.75モル%超20.625モル%以下であることを特徴とするものであり、このTb濃度の範囲は、8配位サイト中のTb濃度C(Tb/A)=10.0モル%超55.0モル%以下に対応している。
【0028】
本発明のガーネット型Tb含有発光性化合物は、Tb濃度C(Tb/A)が0〜100モル%の全範囲において、単相構造を得ることができる(実施例1の図9(a)及び(b)を参照)。ただし、特性上支障のない範囲で異相を含むものであってもよい。
【0029】
本発明のガーネット型Tb含有発光性化合物としては、下記一般式で表されるガーネット型化合物が挙げられる。
一般式:(A(III)1−xTbx)3B(III)2C(III)3O12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Sc,Y,In,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Cr,Ga,In,Sm、Eu、Gd、Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
0.1<x≦0.55)
上記式中、xは、Tbモル数を示す数値であり、この値はTb濃度に応じて決まる。すなわち、Tb濃度C(Tb/A)=10.0モル%超55.0モル%以下は、0.1<x≦0.55に相当する。
【0030】
上記一般式で表される本発明のガーネット型Tb含有発光性化合物においては、0.2≦x≦0.4であることが好ましい(Tb濃度C(Tb/A)=20.0モル%以上40.0モル%以下に相当)。また、上記一般式で表される本発明のガーネット型Tb含有発光性化合物としては、A(III)がYであり、B(III)がAlであり、C(III)がAlであるものが挙げられる。この場合、母体ガーネット型化合物は、Y3Al5O12(YAG)となる。
【0031】
本発明では、従来報告されていない、紫外〜可視光域の光を励起光とした場合の、Tb濃度と発光特性との関係及び好適なTb濃度を明らかにした。従来は、Tb含有発光性化合物の発光特性は、電子線励起あるいは波長280nm以下の深紫外光を励起光とした場合において、好適Tb濃度とされているTb濃度C(Tb/A)が10モル%以下においてのみ検討されており、Tb濃度C(Tb/A)が10モル%超においては発光特性等の評価は一切なされていなかった。
【0032】
本発明は、Tb:YAGについて、Tb濃度C(Tb/A)=0〜100モル%の範囲において、発光特性の評価を実施し、Tb濃度C(Tb/A)=10.0モル%超55.0モル%以下(=Tb濃度C(Tb/all)=3.75モル%超20.625モル%以下)において高い発光強度が得られることを明らかにした。
【0033】
本発明を適用可能なガーネット構造以外の母体化合物としては、下記M1〜M8が挙げられる。
(M1)母体化合物:下記一般式で表されるC希土類型化合物
一般式R(III)2O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
Rは、Y、及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0034】
(M2)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B(IV)O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Ba,Sr,Ca,Mg,及びPbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Ti,Zr,Hf,Th,Sn,及びSiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0035】
(M3)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(I)B(V)O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Li,Na,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:V,Nb,及びTaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0036】
(M4)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(II) 1/2B2(VI) 1/2O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Fe,Cr,Co,及びMgからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:W,Mo,Re,及びOsからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0037】
(M5)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(III) 2/3B2(VI) 1/3O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:In,Sc,Y,Cr,Fe,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:W,Mo,及びReからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0038】
(M6)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(III) 1/2B2(V) 1/2O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Aサイトの元素であり、トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Sc,Fe,Bi,Mn,Cr,In,Ga,Ca,及び3価の希土類(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Nb,Ta、Os,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0039】
(M7)母体化合物:下記一般式で表されるペロブスカイト型化合物
一般式A(II)B1(II)1/3B2(V) 2/3O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:トータルのイオン価数が2価である少なくとも1種の元素、
B1:Mg,Co,Ni、Zn,Fe,Pb,Sr,及びCaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B2:Nb及びTaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0040】
(M8)母体化合物:下記一般式で表される化合物(ペロブスカイト型化合物又はGdFeO3型化合物と称される。)
一般式:A(III)B(III)O3
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,及びBiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Ga,Cr,V,Fe,Co,及びYからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
【0041】
本発明を適用可能なガーネット構造以外の母体化合物としては、例示したような酸化物以外に、CaF2やLiYF4等のフッ化物等の化合物を用いることもできる。
本発明では、Tb濃度の好適化により、励起光を紫外〜可視光域の光とした場合に好適な、発光特性の優れたTb含有発光性化合物を実現した。
【0042】
本発明のTb含有発光性化合物は、励起光により励起されてレーザ光を発振するレーザ物質であり、固体レーザ媒質等の種々の用途に使用することができる。
また、本発明のTb含有発光性化合物は、紫外〜可視光域の既存の光源(例えばGaN系レーザダイオード等)で励起可能であり、Tbの高濃度ドープが可能であり、高濃度ドープしても発光強度の減衰が小さく(濃度消光が小さく)、蛍光寿命も充分であるので、固体レーザ媒質等として有用である(実施例1を参照)。
【0043】
「本発明の発光性組成物」
本発明の発光性組成物は、上記の本発明のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とするものである。
本発明の発光性組成物は必要に応じて、本発明の化合物以外の任意成分(例えば、樹脂等)を含むことができる。
【0044】
「発光体」
本発明の発光体は、励起光照射により発光する発光性を有し、所定の形状を有する発光体において、上記本発明のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とするものである。
本発明の発光体は、固体レーザ媒質や白色発光ダイオード(LED)用蛍光体等として利用できる。
【0045】
本発明の発光体の態様としては、本発明のTb含有発光性化合物の構成成分を含む1種若しくは2種以上の原料粉末が所定の形状に成形された粉末成形体を焼結させてなる多結晶焼結体が挙げられる。本発明では、プロセス等を工夫することで、固体レーザ媒質等として利用可能な透明性に優れた多結晶焼結体(透明セラミックス)を製造することができる。
【0046】
多結晶焼結体は、必要に応じて、切削等による所望の形状(角柱状等)への加工、端面研磨(レーザグレードの光学研磨等)等を経て、固体レーザ媒質等に使用される。
多結晶焼結体は、例えば、通常の固相反応セラミックス法により本発明の化合物の構成成分を含む焼結用粉末を調製し、焼結用粉末の圧縮成型等により粉末成形体を得、この粉末成形体を焼結することで製造できる(詳細なプロセス例は実施例1,2を参照)。必要に応じて、SiO2等の焼結助剤を用い、真空焼結を行うことで、透明性に優れた多結晶焼結体(透明性セラミックス)を製造することができる。透明性を考慮すれば、焼結助剤の使用は少ない方が好ましい。
【0047】
焼結用粉末は、通常の固相反応セラミックス法とは異なる方法でも調整することができる。例えば、水熱合成法やアルコキシドエマルジョン法等の他の方法により本発明の化合物の構成成分を含む焼結用粉末を調製することができる。
【0048】
通常の固相反応セラミックス法により得られる焼結用粉末は、粒子のサイズ及び形状は不均一(ランダム)である。この焼結用粉末を焼結させて得られる多結晶焼結体の走査電子顕微鏡(SEM)断面写真の一例を図1(a)に示す。図には、結晶粒のサイズ及び形状が不均一(ランダム)な様子が示されている。
【0049】
これに対して、水熱合成法やアルコキシドエマルジョン法等では、略同一サイズかつ略同一形状の多数の粒子からなる焼結用粉末を調製することができる。かかる焼結用粉末を用いて焼結を行うことで、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなる多結晶焼結体を製造することができる。結晶粒のサイズと形状の均一性が高いので、均質で透明性に優れた多結晶焼結体(透明セラミックス)が得られる。
【0050】
アルコキシドエマルジョン法では、例えば略同一サイズの多数の略球状の粒子からなる焼結用粉末(粒径は、例えば0.2〜0.8μm程度)を調製することができる(実施例3を参照)。
【0051】
水熱合成法では、略同一サイズかつ略同一形状の多数の粒子からなり、粒子形状が、該粒子単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体形状である焼結用粉末(粒径は、例えば数〜20μm程度)を調製することができる(実施例4を参照)。この焼結用粉末を用いて焼結を行うと、個々の粒子が結晶粒となり、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなり、該結晶粒の形状が、該結晶粒単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体形状である多結晶焼結体を製造することができる。この方法では、粒界の割合が少なく、均質で空間充填率が高く、透明性に優れた多結晶焼結体(透明セラミックス)が得られる。
【0052】
本明細書において、多数の結晶粒が「略同一サイズ」であるとは、多数の結晶粒の粒径が平均粒径の±5%の範囲に収まることを意味するものとする。ここで、「平均粒径」は、結晶粒の直径(円/球換算)の相加平均である。
【0053】
単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体としては、立方体、図2(a)に示す切頂八面体(truncated octahedron、切頭八面体と称されることもある)、及び図2(b)に示す菱形十二面体(rhombic dodecahedron、斜方十二面体と称されることもある)が挙げられる。図3に切頂八面体状の粒子が空間を充填していく様子を示す。この図には、該粒子単独で空間を略隙間なく充填可能であることが示されている。
【0054】
ガーネット型化合物を水熱合成する場合、得られる粒子の形状は反応時間等の反応条件によって異なる。反応時間以外の条件を同一条件とした場合、図4に示すように、得られる粒子の形状は、立方体状、切頂八面体状、菱形十二面体状と経時的に順次変化する。
【0055】
ガーネット型化合物を水熱合成する場合、切頂八面体状又は菱形十二面体状の粒子が、得られやすい。従って、水熱合成法により焼結用粉末を調製し、該焼結用粉末を用いて焼結を行うことで、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなり、該結晶粒の形状が切頂八面体状又は菱形十二面体状である多結晶焼結体を比較的容易に得ることができる。
【0056】
図1(b)に、結晶粒の形状が切頂八面体状であり、結晶粒のサイズと形状が揃った多結晶焼結体の断面イメージを示す。ここでは、図1(a)のランダム構造と比較しやすくするため、模式的に示してある。実際には図3に示すように、切頂八面体状の結晶粒が、3次元的に組まれた構造であるので、1つの断面に正八角形状がきれいに並ぶことはない。縮尺も図1(a)と異ならせてある。また、ここでは、粒界を大きく図示してあるが、粒界の大きさは図1(a)と略同様である。
【0057】
本発明の発光体の態様としては、多結晶焼結体の他に、粉末状の本発明の化合物(多結晶焼結体の粉砕物等)が透光性樹脂バインダやシリカゲル、ガラスなどの固体媒質中に分散された成形体が挙げられる。透光性樹脂バインダとしては、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0058】
「第1の固体レーザ装置」
本発明の第1の固体レーザ装置は、固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、前記固体レーザ媒質が、上記本発明の発光体からなることを特徴とするものである。
図5及び図6に基づいて、本発明に係る固体レーザ装置の一実施形態について説明する。ここでは、端面励起型を例として説明する。
【0059】
本実施形態の固体レーザ装置10は、励起光により励起されてレーザ光を発振する本発明の発光体からなる固体レーザ媒質14と、固体レーザ媒質14に励起光を照射する励起光源であるレーザダイオード11とを備えたレーザダイオード励起固体レーザ装置である。
【0060】
レーザダイオード11と固体レーザ媒質14との間に集光レンズ12が配置され、固体レーザ媒質14の後段に、出力光を選択的に透過する出力ミラー17が配置されている。固体レーザ媒質14は、一対の共振器ミラー13、16の間に配置されている。
【0061】
本実施形態において、固体レーザ媒質14は、本発明で規定するTb濃度(C(Tb/A)=10.0モル%超55.0モル%以下、好ましくは20.0モル%以上40.0モル%以下)の透明性に優れたTb:YAGの多結晶焼結体(実施例1〜4のいずれか)により構成され、必要に応じて、切削等による所望の形状への加工及び端面研磨(レーザグレードの光学研磨)が施されたものである。
固体レーザ媒質14の形状は特に制限なく、円柱ロッド状、角柱ロッド状、ディスク状、及び角板状等が挙げられる。
【0062】
Tb:YAGは、220〜500nmの光によって励起されて可視域(400〜700nm)の蛍光を示すので、所望の発光波長に応じて、励起光源を選定すればよい。
Tb:YAGの励起ピーク波長は例えば377nmである(実施例1の図12(b)を参照)。励起光源であるレーザダイオード11としては、350〜470nmの範囲に発振ピーク波長を有するレーザダイオードが好ましく用いられ、360〜390nmの範囲に発振ピーク波長を有するレーザダイオードが特に好ましい。
【0063】
350〜470nmの範囲に発振ピーク波長を有するレーザダイオードとしては、具体的には、GaN,AlGaN,InGaN,InAlGaN,InGaNAs,GaNAs等の含窒素半導体化合物を1種又は2種以上含む活性層を備えたGaN系レーザダイオードが挙げられる。GaN系レーザダイオードの活性層は、AlN/AlGaN,AlGaN/GaN,InGaN/InGaN,InAlGaN/InAlGaN等の多重量子井戸層や、AlGaN,GaN,InGaN等の量子ドット層が好ましく用いられる。GaN系レーザダイオードは、活性層等の設計により略350〜470nmの範囲において任意に発振波長を変化させることができる。
【0064】
350〜470nmの範囲に発振ピーク波長を有するレーザダイオードとしては、ZnO系やZnSe系等のII-VI族化合物系レーザダイオードも挙げられる。
本実施形態の固体レーザ装置10は、波長470〜640nmの光を発振することができる。本実施形態の固体レーザ装置10は、例えば、377nmの紫外光により励起されて、可視域(緑色)の542nm光を発振することができる。
【0065】
図6に示されるように、一対の共振器ミラー13、16の間に、非線形光学結晶体等の波長変換素子15が配置された構成とすることにより、紫外光を発振させることができる。
波長変換素子15としては、BBO結晶やBIBO結晶等のSHG結晶が用いられる。固体レーザ媒質14から発振された542nm光は、波長変換素子15により、紫外域の235〜320nm光(例えば271nm光)に波長変換されて短波長化される。波長変換素子15は、一対の共振器ミラー13、16により構成される共振器構造の中に配置しても外に配置しても構わない。
本実施形態の固体レーザ装置10は、以上のように構成されている。
【0066】
本実施形態の固体レーザ装置10では、励起光により励起されてレーザ光を発振する本発明の化合物を含む発光体からなる固体レーザ媒質14を用いているので、発光特性に優れ、高輝度レーザ光を出力可能なものとなる。
【0067】
従来の固体レーザ装置では、例えば、発振ピーク波長808nmのGaAs系半導体レーザにより、Nd:YAG又はNd:YVO4からなる固体レーザ媒質を励起して、1064nm光を発振させ、これを第1の波長変換素子(SHG結晶)により波長変換して、波長532nmの可視光を得ており、紫外光を得るには、さらに、この532nm光を第2の波長変換素子(THG又はFHG結晶)により355nm光又は266nm光に波長変換しており、すなわち2段階の波長変換を経て紫外光を得ている。また、波長変換素子として用いられる非線形結晶は、エネルギー変換効率が低いため、このような構成の固体レーザ装置においては、高効率化が課題とされている。
【0068】
本実施形態の固体レーザ装置10では、図5に示されるように、波長変換素子15を設けずに、固体レーザ媒質14から発振された可視域の542nm光を出力させることができ、また、図6に示されるように、紫外光を得る場合にも、必要な波長変換は1回でよい。従って、本実施形態の固体レーザ装置10は、従来の固体レーザ装置に比して、装置構成がシンプルで、小型化が可能であり、光の利用効率の高い、紫外〜可視光域の光を出力する固体レーザ装置が得られる。
【0069】
Tb:YAGは複数の発振ピーク波長を有するので、固体レーザ媒質14から発振させるレーザ光の波長、及び固体レーザ装置10から出力する出力光の波長は、上記以外にも適宜変更可能である。
【0070】
(設計変更例)
本発明の固体レーザ装置は上記実施形態に限らず、装置構成は適宜設計変更可能である。
例えば、図7(a)に示す如く、固体レーザ媒質14の1つの面に、複数のレーザダイオード11がアレイ状に並べて配置された面発光レーザアレイを取り付け、該面の対向面に反射ミラー18を配置し、固体レーザ媒質14の両端部に対向させて反射ミラー13と出力ミラー17とを略対称な関係で配置することで、ジグザグパススラブ固体レーザ装置を構成することができる。かかる構成では、反射ミラー13と固体レーザ媒質14の励起光入射面と反射ミラー18と出力ミラー17との間で共振器構造が構成されている。
【0071】
励起光源は、複数のレーザダイオード11がアレイ状に並べて配置された面発光レーザアレイの代わりに、複数のファイバレーザの先端部をアレイ状に並べて配置したものでもよい。
【0072】
図7(b)に示す如く、固体レーザ媒質14を、透明性に優れたTb:YAGの多結晶焼結体(実施例1〜4のいずれか)を切削及び研磨等して得られる多面プリズムにより構成し、固体レーザ媒質14の1つの面に対向させて出力ミラー17を配置し、その他の面に対向させて複数の半導体レーザダイオード11を配置することで、レーザダイオード励起多面プリズム型固体レーザ装置を構成することができる。この例では、固体レーザ媒質14の励起光入射面14a〜14cに、励起波長の光を透過し出力波長の光を反射するコートがなされている。かかる構成では、固体レーザ媒質14自身が共振器構造を構成している。励起光源としては、複数の半導体レーザダイオード11の代わりに、複数のファイバレーザを用いてもよい。
【0073】
図7(a)、(b)に示す固体レーザ装置では、1個の固体レーザ媒質14を複数のレーザダイオード11により励起することができるので、高出力化が可能である。これらの例では、波長変換素子を配置していないが、上記実施形態と同様に、必要に応じて波長変換素子を配置することもできる。
【0074】
「第2の固体レーザ装置」
固体レーザ装置においては、Tb濃度に関係なく、Tb:YAG等のTb含有酸化物を含む固体レーザ媒質を用いた構成自体が新規である。
すなわち、本発明の第2の固体レーザ装置は、固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、前記固体レーザ媒質がTb含有酸化物を含むことを特徴とするものである。
【0075】
上記Tb含有酸化物としては、下記一般式で表されるガーネット型化合物が挙げられる。
一般式:(A(III)1−xTbx)3B(III)2C(III)3O12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Sc,Y,In,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Cr,Ga,In,Sm、Eu、Gd、Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
0<x<1)
【0076】
上記一般式で表されるガーネット型Tb含有化合物としては、A(III)がYであり、B(III)がAlであり、C(III)がAlであるものが挙げられる。この場合、母体ガーネット型化合物は、Y3Al5O12(YAG)となる。
【0077】
「背景技術」で述べたように、特許文献3には、希土類イオンをドープした発光性化合物からなる固体レーザ媒質と、この固体レーザ媒質を励起する発振波長340〜640nmのレーザダイオードとを備えた、レーザダイオード励起固体レーザ装置が開示されている。特許文献3において、ドープする希土類イオンとして、Tbが挙げられており、Tbをドープする母体化合物としては、CaF2やLiYF4等のフッ化物が具体的に例示されている。従って、Tb含有フッ化物を固体レーザ媒質とした固体レーザ装置は公知である。
【0078】
しかしながら、Tbをドープする母体化合物として、フッ化物以外の化合物については、一切言及されていない。Tbをドープする母体化合物として言及されていない以上、特許文献3においては、酸化物についてはその対象とされていないと考えられる。従って、Tb含有酸化物を固体レーザ媒質とした固体レーザ装置は新規である。
【0079】
Tbをドープする母体化合物として、フッ化物等のハロゲン化物は、化学的に不安定であり、大型な製造設備を要するなど製造コストの点でも難があり、好ましくない。Tbをドープする母体化合物としては、ガーネット型化合物等の酸化物が化学的に安定で製造コストも安く、好ましい。
【0080】
「発光素子」
本発明の発光素子は、上記の本発明の発光体と、該発光体に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とするものである。
図8(a)に基づいて、本発明に係る実施形態の発光素子の構造について説明する。図8(a)は、回路基板22の厚み方向の断面図である。
【0081】
本実施形態の発光素子20は、円板状の回路基板22の表面中央に、励起光源である発光素子23が実装され、回路基板22上に発光素子23を囲むようにドーム状の発光体25が成形されたものである。
発光体25を励起する励起光を出射する発光素子23は、発光ダイオード等からなり、回路基板22にボンディングワイヤ24を介して導通されている。
【0082】
本実施形態では、発光体25は、本発明で規定するTb濃度(C(Tb/A)=10モル%超55.0モル%以下、好ましくは20.0〜40.0モル%)の透明性に優れたTb:YAGの多結晶焼結体(実施例1〜4のいずれか)の粉砕物が、(メタ)アクリル系樹脂等の透光性樹脂バインダに分散された成形体である。
【0083】
発光体25は、本発明のTb:YAGの多結晶焼結体を乳鉢で粉砕して粉砕物を得、この粉砕物と(メタ)アクリル系樹脂等の透光性樹脂とを樹脂溶融状態で混練して混合物を得(例えば、Tb:YAG/PMMA樹脂=3/4(質量比))、発光素子23を実装した回路基板22を金型内に載置して射出成形を実施して、成形することができる。
【0084】
Tb:YAGは、220〜500nmの光によって励起されて可視光域(400〜700nm)の発光を示すので、所望の発光波長に応じて、励起光源を選定すればよい(実施例1の図12(a)を参照)。例えば、上記励起波長(紫外〜可視光域)において、波長542nmの強い緑色の蛍光を発し、励起波長を377nmとした時に最も効率良く発光する(実施例1の図12(b)を参照)。
【0085】
励起光源である発光素子23としては、GaN,AlGaN,InGaN,InAlGaN,InGaNAs,GaNAs等の含窒素半導体化合物を1種又は2種以上含む活性層を備えたGaN系発光ダイオード(発振ピーク波長:360〜500nm)、ZnSSe系半導体発光ダイオード(発振ピーク波長:450〜520nm)、ZnO系発光ダイオード(発振ピーク波長:360〜450nm)、等が好ましく用いられる。
上記のように、本実施形態の発光素子20は、本発明の化合物を含む発光体25を用いているので、発光特性に優れ、高輝度な可視光を出力することができる。
【0086】
「背景技術」の項において述べたように、白色LEDにおいては、光の三原色である青、緑、赤の加法混色により白色を実現する方法が検討されている。発光体25は、上記のように高効率な緑色蛍光体となるので、青、緑、赤の加法混色により白色を得る白色LED用の緑色蛍光体等として好ましい。
【0087】
従って、本実施形態の発光素子20において、発光素子23として紫外光源を用い、発光体25として、(メタ)アクリル系樹脂等の透光性樹脂バインダに、本発明のTb:YAGの多結晶焼結体および赤色、青色の蛍光化合物の粉砕物が分散された成形体を用いることにより、本実施形態の発光素子20を、高効率な白色LEDとすることができる。
【0088】
また、発光素子23を例えば青色の可視光源とした場合は、発光体25を、本発明のTb:YAGの多結晶焼結体および赤色蛍光化合物の粉砕物により作製されたものを用いることにより同様に白色LEDとすることができる。
本発明の化合物、組成物、及び発光体は、固体レーザ装置や発光素子に限らず、種々の用途に利用することができる。
【実施例】
【0089】
本発明に係る実施例について説明する。
(実施例1)
以下のようにして、YAG(Y3Al5O12)を母体化合物としてTbをドープしたTb:YAGの多結晶焼結体を調製した。Tb濃度を変えて下記計11種の試料を調製した(「%」はTb濃度C(Tb/A)モル%を示す。)。
試料1:0.0%Tb:YAG、
試料2:1.0%Tb:YAG、
試料3:5.0%Tb:YAG、
試料4:10.0%Tb:YAG、
試料5:15.0%Tb:YAG、
試料6:30.0%Tb:YAG、
試料7:40.0%Tb:YAG、
試料8:50.0%Tb:YAG、
試料9:60.0%Tb:YAG、
試料10:80.0%Tb:YAG、
試料11:100.0%Tb:YAG。
【0090】
はじめに、所望の組成となるよう、Y2O3粉末(純度99.9%)、α−Al2O3粉末(純度99.99%)、及びTb4O7粉末(純度99.99%)をそれぞれ秤量した。
例えば、1.0%Tb:YAG(試料2、Y/Tbモル比=2.97/0.03)では、原料粉末組成を、Y2O3粉末33.533g、α−Al2O3粉末25.490g、及びTb4O7粉末0.561gとした。
【0091】
上記の原料粉末とエチルアルコール100mLと10mmφアルミナボール150個とをポットミルに入れ、12時間湿式混合を行った。
アルミナボールを取り除き、得られた混合粉末スラリー中のエチルアルコールを、ロータリーエバポレーターを用いて除去した後、100℃で12時間乾燥し、得られた乾燥粉末を乳鉢で軽くほぐした。得られた乾燥粉末を、成型圧100MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。
【0092】
得られた圧縮成型体に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1450℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという仮焼成プロセスを実施した。
常温まで冷却した仮焼結体を乳鉢で粉砕した。以上のようにして、通常の固相反応セラミックス法により、Tb:YAGの構成成分を含む焼結用乾燥粉末を得た。この焼結用乾燥粉末は、粒子のサイズ及び形状が不均一(ランダム)である。
【0093】
得られた焼結用乾燥粉末を、成型圧100MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。
得られた圧縮成型体(粉末成形体)に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1700℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという本焼成プロセスを実施し、所望のTb濃度のTb:YAGの多結晶焼結体を得た。
【0094】
<粉末X線回折(XRD)測定>
試料1〜11を各々乳鉢で粉砕し、リガク社製X線回折装置にて粉末X線回折(XRD)測定を実施した。測定条件は、CuKα、40kV、40mA、スキャンスピード:0.5deg/min、受光スリット:0.15mmとした。主な試料のXRD測定結果を図9に示す。図9(a)には、試料1及び2のXRD測定結果、(b)には試料4、8、及び11のXRD測定結果を示してある。いずれも回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶) の回折ピークと完全に一致し、単相構造であることが確認された。このことは、Tbをドープした試料2〜11では、投入したすべてのTbが母体化合物のYAG中に入って、ガーネット構造の8配位サイトのYがTbに良好に固溶置換されたことを示している。
主な試料における高角度領域のXRD挙動を、図10に拡大して示す。Tb濃度の増加に伴って、回折ピークが低角度側にシフトし、格子が膨張していく様子が示されている。
【0095】
<格子定数>
本発明者は、上記XRD測定の結果から格子定数を求めた。すなわち、2θ=100〜150°におけるYAG立方晶の回折ピーク値を、接線法を用いて得、Nelson−Riley関数を用いて、正確な格子定数を算出した。算出された格子定数を図11に示す。
Nelson−Riley関数は、式1/2(cosθ)2(1/sinθ+1/θ)で与えられ、得られた値をx軸とし、Braggの回折条件から得られた格子定数aをy軸にプロットし、最小二乗法の直線のy切片の値を真の格子定数とするものである。
【0096】
図11には、Tb濃度0〜100モル%の全範囲において、Tb濃度の増加に伴って、格子定数が線形に増加していることが示されている。このことは、Tb濃度0〜100モル%の全範囲において、Vegard則に従って固溶置換が行われており、投入したすべてのTbが母体化合物のYAG中に入って、ガーネット構造の8配位サイトのYがTbに良好に固溶置換されたことを示している。
【0097】
図11において、Tb濃度を100モル%とした場合(YのTbによる完全置換)の格子定数は、JCPDS#17−0735のTb3Al5O12の格子定数=1.2074nmに極めて近い値である。このことから、図11の評価が妥当であると言える。
【0098】
<1.0%Tb:YAGの発光特性>
比較的低濃度の代表として、1.0%Tb:YAG(試料2)について、日立分光蛍光光度計F−4500を用いて、発光スペクトル(蛍光スペクトル)測定を行った。
励起光の波長λexは、励起スペクトルを取ったときに最大発光強度を示す377nmとした。発光スペクトルを図12(a)に示す。可視光域である400〜700nmの波長域に多数の発光ピークが見られ、542nmに最強発光ピークが見られた。
【0099】
次に、同試料について、励起波長に対する可視域内の最強発光ピーク波長(542nm)の発光強度(蛍光強度)を示す励起スペクトル測定を行った。励起スペクトルを図12(b)に示す(図中、「×」で示してあるのは、励起光の高次光の漏れである。)。
【0100】
図12(b)に示す励起スペクトルでは、波長500nm以下に多数の励起ピークが見られ、波長500nm以下の複数の励起ピーク波長のうち、吸収が最も大きく1番目に高い蛍光強度を示す励起ピーク波長が377nmであり、370nm、360nm、及び深紫外域の230nmにおいても吸収が大きく、高い蛍光強度を示している。このことは、377nm光、370nm光、360nm光、及び230nm光等の励起によって、542nmの発光が得られることを示している。
377nmは、GaN系やZnO系等のレーザダイオードの発振波長域内にあるので、Tb:YAGの励起光源として既存の光源を使用できることが示された。
【0101】
次に、1.0%Tb:YAG(試料2)の蛍光寿命を、浜松ホトニクス社製ピコ秒蛍光寿命測定装置C4780を用いて測定した。励起光源として窒素レーザ励起色素レーザ(10Hz)を用い、377nmの波長に選定して励起した。
測定結果を図13に示す。レーザ発振に必要な反転分布を考慮すれば、固体レーザ媒質として用いるにはある程度長い寿命が必要と考えられる。図に示すように、1.0%Tb:YAGの蛍光寿命は3.1ミリ秒であり、固体レーザ媒質として充分に長い蛍光寿命を有することが示された。
【0102】
<濃度と発光特性との関係>
他の試料についても、試料2と同様に、発光スペクトル測定を行った。Tb濃度と、励起波長を377nmとしたときの542nmの発光強度との関係を図14に示す。
Tb:YAGでは、Tb濃度C(Tb/A)=0モル%超100モル%以下の範囲の全範囲において発光性を示し、特にC(Tb/A)=10.0超55.0モル%以下の範囲内において高い発光強度が得られることが明らかとなった(C(Tb/all)=3.75モル%超20.625モル%以下に相当)。Tb:YAGでは、これまで、Tb濃度C(Tb/A)=10モル%以下が好適濃度とされており、C(Tb/A)=10モル%超における発光強度の評価結果は、過去に報告されていない。
【0103】
また、蛍光寿命についても、試料2と同様に測定を行った。Tb濃度と、励起波長を377nmとしたときの蛍光寿命との関係を図15に示す。
図15において、Tb濃度C(Tb/A)=50.0モル%以上において、2つの緩和成分が観測されているが、Tb濃度C(Tb/A)=50.0モル%のTb:YAGにおいては、2成分ともミリ秒オーダの長い蛍光寿命を有している。従って、Tb:YAGは、Tb濃度C(Tb/A)=0.0モル%超50.0モル%以下の広い濃度範囲においてミリ秒オーダの長い蛍光寿命を有していることが明らかとなった(C(Tb/all)=0.0モル%超18.50モル%以下に相当)。
【0104】
多くの発光性希土類では高濃度ドーピングによる発光の減衰(濃度消光と称される)が、低ドープ濃度側で起こるが、Tb:YAGでは、高濃度まで濃度消光が起こっていない。Tbを高濃度ドープしても濃度消光を起こしにくく、蛍光寿命の長いTb:YAGは、固体レーザ媒質として用いる場合、励起光の吸収量を増加させることが可能であるなど、有用である。
本実施例においては、多結晶Tb:YAGによりその発光特性等の評価を行ったが、単結晶においても同様の特性を有すると考えられる。
【0105】
<走査型電子顕微鏡(SEM)観察>
試料1〜11の多結晶焼結体のSEM断面観察を行ったところ、結晶粒のサイズ及び形状は不均一(ランダム)であった(図1(a)を参照)。
【0106】
(実施例2)
以下のようにして、30.0%Tb:YAGの多結晶焼結体(透明セラミックス、Y/Tbモル比=2.10/0.90)を調製した。この例では、焼結助剤の役目を担うSiO2を添加した。Alサイトの1.0モル%をSiに置換するように原料粉末を配合した。
【0107】
はじめに、所望の組成となるよう、Y2O3粉末(純度99.9%)、α−Al2O3粉末(純度99.99%)、Tb4O7粉末(純度99.99%)、及びSiO2粉末(純度99.99%)をそれぞれ秤量した。
実施例1と同様にして、上記の原料粉末の湿式混合、混合粉末スラリーの乾燥、乾燥粉末の圧縮成型、及び1450℃仮焼成を実施し、仮焼結体を乳鉢で粉砕した。
【0108】
次に、得られた粉砕物とエタノールとを粘度の高いスラリー状に混合し、ボールミル粉砕を24時間行った後、これを乾燥した。以上のようにして、通常の固相反応セラミックス法により、Tb:YAGの構成成分を含む焼結用乾燥粉末を得た。この焼結用乾燥粉末は、粒子のサイズ及び形状が不均一(ランダム)である。得られた焼結用乾燥粉末を、成型圧100MPaで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)に一軸圧縮成型した。
得られた圧縮成型体(粉末成形体)に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1450℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという仮焼成プロセスを実施した。
【0109】
次に、粉砕することなく、真空焼成可能な電気炉にて、真空雰囲気下(1.0×10−3Pa)、500℃/hrで1750℃まで昇温し、同温度で15時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという本焼成プロセスを実施した。さらに両面を研磨して、所望のTb濃度のTb:YAG(Si添加)の多結晶焼結体を得た。
得られた多結晶焼結体は透明性に優れ、本実施例のプロセスにより固体レーザ媒質等として良好な透明性を有する透明セラミックスが得られることが示された。
実施例1と同様に、得られた多結晶焼結体を粉砕してXRD測定を実施したところ、回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶)と全て一致し、単相構造であることが確認された。
【0110】
(実施例3)
以下のようにして、30.0%Tb:YAGの多結晶焼結体(透明セラミックス)を調製した。
はじめに、アルコキシドエマルジョン法により焼結用粉末を調製した。原料の金属アルコキシドとして、Y(iso−OPr)3粉末[純度99.9%]2.80g、Al(sec−OBu)3ゲル状物質[純度99.99%]6.16g、及びTb(iso−OPr)3粉末[純度99.9%]1.51gを各々秤量した。これら金属アルコキシドを1−オクタノール52.9mL中に投入し、パイレックス(登録商標)製のフラスコ内でN2気流下、120℃で12時間撹拌して溶解した。
【0111】
室温まで冷却した後、アセトニトリル36.36mL、及び分散剤としてヒドロキシプロピルセルロース0.02gを加えて5分間撹拌し、アルコキシドエマルジョンを得た。40℃まで昇温後、得られたアルコキシドエマルジョンに1−オクタノール/アセトニトリル/水混合液(配合比2.46mL/1.64mL/0.90mL)を加え、40℃で1時間撹拌してアルコキシドの加水分解を行い、多数の粒子を得た。
【0112】
次に、遠心分離器にて、5000rpm・10分間の条件で遠心分離処理を実施して、粉末を分離回収した。さらに、回収した粉末をエタノール中へ分散させ、5000rpm・10分間の遠心分離処理を実施する操作を2回繰り返して、粉末を洗浄した。さらに乾燥機にて、粉末を80℃で24時間乾燥し、焼結用粉末を得た。
走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行ったところ、得られた焼結用粉末は、略同一サイズの多数の略球状微粒子からなり、粒子サイズと粒子形状の揃った粉末であった。
【0113】
得られた焼結用粉末を成型圧10MPaで一軸圧縮成型し(仮成型)、さらに140MPaでCIP処理を行うことで、径10mmφ高さ5mmのペレット状(円柱状)の圧縮成型体(粉末成形体)を得た。
得られた圧縮成型体(粉末成形体)に対して、電気炉にて、大気雰囲気下、500℃/hrで1400℃まで昇温し、同温度で2時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという仮焼成プロセスを実施した。
【0114】
次に、粉砕することなく、真空焼成可能な電気炉にて、真空雰囲気下(1.0×10−3Pa)、500℃/hrで1750℃まで昇温し、同温度で10時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという本焼成プロセスを実施した。さらに両面を研磨して、所望のTb濃度のTb:YAGの多結晶焼結体を得た。
得られた多結晶焼結体は透明性に優れ、本実施例のプロセスにより固体レーザ媒質等として良好な透明性を有する透明セラミックスが得られることが示された。
実施例1と同様に、得られた多結晶焼結体を粉砕してXRD測定を実施したところ、回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶)と全て一致し、単相構造であることが確認された。
【0115】
(実施例3の変更)
アルコキシドエマルジョン法により得られ焼結に用いた上記粉末を、600℃で12時間熱処理するなどして脱炭して、実質上Y,Al,Tb,及びOのみからなるアモルファス粉末を得、これを焼結用粉末として用いても構わない。また、上記アモルファス粉末をさらに、1200℃で2時間熱処理するなどして多結晶化して、実質上Y,Al,Tb,及びOのみからなる多結晶粉末を得、これを焼結用粉末として用いても構わない。本発明者は、かかる焼結用粉末を用いても、実施例3と同様に、透明性に優れたTb:YAGの多結晶焼結体が得られることを確認している。
【0116】
(実施例4)
以下のようにして、30.0%Tb:YAGの多結晶焼結体(透明セラミックス)を調製した。
はじめに、水熱合成法により焼結用粉末を調製した。
酸化イットリウム(Y2O3)粉末(純度99.99%)4.742gを精秤し、これをビーカーに入れた。このビーカー内に過剰の濃硝酸水溶液をゆっくり加え、加熱しながら攪拌して酸化イットリウムを完全に溶解させ、その後蒸発乾固させた。常温まで冷却後、少量の硝酸水溶液(例えば、35%濃硝酸2〜3滴)と硝酸テルビウム6水和物(Tb(NO3)3・6H2O)8.155gとを加えて攪拌して、YイオンとTbイオンとを含む30〜50mLの水溶液を調製した(Y+Tb水溶液)。
【0117】
別途、無水塩化アルミニウム(AlCl3)粉末(純度99.99%)13.334を精秤し、これを水を入れた別のビーカー内にゆっくり加え、攪拌して無水塩化アルミニウムを完全に溶解させ、Alイオンを含む30〜50mLの水溶液を調製した(Al水溶液)。
別途、別のビーカーに、水酸化カリウム(KOH)の高濃度水溶液(99.99%)を用意しておいた。
【0118】
以上3つのビーカーを用意した後、Y+Tb水溶液とAl水溶液とを混合した。この混合液に対して、攪拌下、pHメータを見ながらKOH高濃度水溶液を徐々に加えた。pH変化に伴って液がゲル化するが撹拌は続け、pH=12.0になった時点で、KOH高濃度水溶液の添加を停止した。以上のようにして、水熱合成反応原料液(pH=12.0、200mL)を調製した。
【0119】
上記原料液をハステロイ(HASTELLOY)(登録商標)製のオートクレーブ内に仕込み、内面に白金ライニング処理が施された反応槽内で撹拌しながら、360℃で2時間水熱反応させた。
反応終了後、内溶液をビーカーに移し、熱水を添加して上澄み液のみを廃棄するデカンテーションプロセスを10回以上繰り返し、最後に反応沈殿物を濾過し、焼成用粉末を得た。この粉末は水分を含んでいるが、特に乾燥せずに次工程に供した。
【0120】
水熱合成反応後に得られた反応沈殿物の一部は多結晶焼結体の製造に供さずに、乾燥させて評価に供した。反応沈殿物を乾燥させて得られた粉末のXRD測定を行ったところ、回折ピークがJCPDS#33−0040(YAG立方晶)と全て一致し、単相構造であることが確認された。また、SEM観察を行ったところ、同粉末は、略同一サイズの多数の菱形十二面体状微粒子からなり、粒子サイズと粒子形状の揃った粉末であった。
【0121】
非乾燥の上記焼成用粉末約5gに、分散媒質としてエタノール10mLを添加混合し、得られた混合液を底面が極めて平滑な容器内に注入し、ゆっくりと微粒子を沈降させた。分散媒質としては、ポリビニルブチラール等を使用することもできる。
その後、上澄み液を静かに抜き取り、自然乾燥させて、パンケーキ状の粉末成形体を得た。この工程では、上澄み液を静かに抜き取った後、防振台の上に載置し、減圧下で乾燥させて、パンケーキ状の粉末成形体を得ることもできる。
【0122】
次に、真空焼成可能な電気炉にて、真空雰囲気下(1.0×10−3Pa)、500℃/hrで1750℃まで昇温し、同温度で5時間保持し、500℃/hrで1000℃まで冷却し、自然炉冷するという焼成プロセスを実施した。さらに両面を研磨して、所望のTb濃度のTb:YAGの多結晶焼結体を得た。
【0123】
得られた多結晶焼結体は透明性に優れ、本実施例のプロセスにより固体レーザ媒質等として良好な透明性を有する透明セラミックスが得られることが示された。
SEM観察を行ったところ、得られた多結晶焼結体は、略同一サイズ(結晶粒径約8.5μm)の多数の菱形十二面体状結晶粒の集合体からなり、結晶粒のサイズと結晶粒の形状の揃った空間充填率の高い多結晶焼結体であった。
【0124】
本実施例では、菱形十二面体状微粒子からなる焼成用粉末が調製されたが、水熱反応の反応条件(温度や時間等)を変えることで、切頂八面体状微粒子からなる焼成用粉末を調製することができる(図4を参照)。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のTb含有発光性化合物は、固体レーザ媒質や白色発光ダイオード用蛍光体等の用途に好ましく利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】(a)、(b)は多結晶焼結体の断面例((b)はイメージ図)
【図2】(a)は切頂八面体状の粒子を示す図、(b)は菱形十二面体状の粒子を示す図
【図3】(a)〜(d)は切頂八面体状の粒子が空間を充填していく様子を示す図
【図4】ガーネット型化合物を水熱合成する場合の、反応時間の経過に伴う粒子形状の変化を示す図
【図5】本発明に係る一実施形態の固体レーザ装置の構造を示す図(可視光発振)
【図6】本発明に係る一実施形態の固体レーザ装置の構造を示す図(紫外光発振)
【図7】(a)、(b)は固体レーザ装置の設計変更例を示す図
【図8】(a)、(b)は本発明に係る実施形態の発光装置の構造を示す図
【図9】(a)、(b)実施例1の粉末X線回折測定結果を示す図
【図10】実施例1の粉末X線回折測定結果を示す図
【図11】実施例1のTb濃度と格子定数との関係を示す図
【図12】(a)は1.0%Tb:YAG(試料2)の発光スペクトル、(b)は励起スペクトル
【図13】1.0%Tb:YAG(試料2)の蛍光寿命の測定結果を示す図
【図14】実施例1のTb濃度と励起波長を377nmとしたときの波長542nmにおける発光強度との関係を示す図
【図15】実施例1のTb濃度と蛍光寿命との関係を示す図
【符号の説明】
【0127】
10 固体レーザ装置
11 レーザダイオード(励起光源)
14 固体レーザ媒質
15 波長変換素子
20 発光装置
23 発光素子(励起光源)
25 発光体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tb及び2種以上のTb以外の金属元素を含み、励起光照射により発光するTb含有発光性化合物において、
Tbを含むすべての金属元素の総モル数に対するTb濃度が3.75モル%超20.625モル%以下であることを特徴とするTb含有発光性化合物。
【請求項2】
ガーネット型結晶構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載のTb含有発光性化合物。
【請求項3】
下記一般式で表されることを特徴とする請求項2に記載のTb含有発光性化合物。
一般式:(A(III)1−xTbx)3B(III)2C(III)3O12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Sc,Y,In,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Cr,Ga,In,Sm、Eu、Gd、Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
0.1<x≦0.55)
【請求項4】
0.2≦x≦0.4であることを特徴とする請求項3に記載のTb含有発光性化合物。
【請求項5】
A(III)がYであり、B(III)がAlであり、C(III)がAlであることを特徴とする請求項3又は4に記載のTb含有発光性化合物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とする発光性組成物。
【請求項7】
励起光照射により発光する発光性を有し、所定の形状を有する発光体において、
請求項1〜5のいずれかに記載のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とする発光体。
【請求項8】
前記Tb含有発光性化合物の構成成分を含む1種若しくは2種以上の原料粉末が所定の形状に成形された粉末成形体を焼結させてなる多結晶焼結体であることを特徴とする請求項7に記載の発光体。
【請求項9】
前記多結晶焼結体は、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなり、該結晶粒の形状が、該結晶粒単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体形状であることを特徴とする請求項8に記載の発光体。
【請求項10】
前記結晶粒の形状が、立方体状、切頂八面体状、及び菱形十二面体状のうちいずれかであることを特徴とする請求項9に記載の発光体。
【請求項11】
前記原料粉末が、水熱合成法又はアルコキシドエマルジョン法により合成された粉末であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の発光体。
【請求項12】
粉末状の前記Tb含有発光性化合物が、樹脂バインダを介して結合された成形体であることを特徴とする請求項7に記載の発光体。
【請求項13】
前記Tb含有発光性化合物が、励起光により励起されてレーザ光を発振するレーザ物質であることを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の発光体。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれかに記載の発光体と、該発光体に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とする発光素子。
【請求項15】
前記励起光源が、350〜470nmの波長域内の光を発光する光源であることを特徴とする請求項14に記載の発光素子。
【請求項16】
前記励起光源が、GaN系発光ダイオード又はZnO系発光ダイオードであることを特徴とする請求項15に記載の発光素子。
【請求項17】
固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、
前記固体レーザ媒質が、請求項13に記載の発光体からなることを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項18】
固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、
前記固体レーザ媒質がTb含有酸化物を含むことを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項19】
前記Tb含有酸化物がガーネット型化合物であることを特徴とする請求項18に記載の固体レーザ装置。
【請求項20】
前記Tb含有酸化物が下記一般式で表されることを特徴とする請求項19に記載の固体レーザ装置。
一般式:(A(III)1−xTbx)3B(III)2C(III)3O12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Sc,Y,In,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Cr,Ga,In,Sm、Eu、Gd、Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
0<x<1)
【請求項21】
A(III)がYであり、B(III)がAlであり、C(III)がAlであることを特徴とする請求項20に記載の固体レーザ装置。
【請求項22】
前記励起光源が、発振波長が350〜470nmの波長域内にある半導体レーザであることを特徴とする請求項17〜21のいずれかに記載の固体レーザ装置。
【請求項23】
前記半導体レーザが、GaN系半導体レーザ又はZnO系半導体レーザであることを特徴とする請求項22に記載の固体レーザ装置。
【請求項24】
前記固体レーザ装置から発振されるレーザ光の発振波長が、470〜640nmの波長域内にあることを特徴とする請求項17〜23のいずれかに記載の固体レーザ装置。
【請求項25】
前記固体レーザ媒質から発振されたレーザ光の波長を変換する波長変換素子をさらに備えたことを特徴とする請求項17〜23のいずれかに記載の固体レーザ装置。
【請求項26】
前記固体レーザ装置から発振されるレーザ光の発振波長が、235〜320nmの波長域内にあることを特徴とする請求項25に記載の固体レーザ装置。
【請求項1】
Tb及び2種以上のTb以外の金属元素を含み、励起光照射により発光するTb含有発光性化合物において、
Tbを含むすべての金属元素の総モル数に対するTb濃度が3.75モル%超20.625モル%以下であることを特徴とするTb含有発光性化合物。
【請求項2】
ガーネット型結晶構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載のTb含有発光性化合物。
【請求項3】
下記一般式で表されることを特徴とする請求項2に記載のTb含有発光性化合物。
一般式:(A(III)1−xTbx)3B(III)2C(III)3O12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Sc,Y,In,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Cr,Ga,In,Sm、Eu、Gd、Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
0.1<x≦0.55)
【請求項4】
0.2≦x≦0.4であることを特徴とする請求項3に記載のTb含有発光性化合物。
【請求項5】
A(III)がYであり、B(III)がAlであり、C(III)がAlであることを特徴とする請求項3又は4に記載のTb含有発光性化合物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とする発光性組成物。
【請求項7】
励起光照射により発光する発光性を有し、所定の形状を有する発光体において、
請求項1〜5のいずれかに記載のTb含有発光性化合物を含むことを特徴とする発光体。
【請求項8】
前記Tb含有発光性化合物の構成成分を含む1種若しくは2種以上の原料粉末が所定の形状に成形された粉末成形体を焼結させてなる多結晶焼結体であることを特徴とする請求項7に記載の発光体。
【請求項9】
前記多結晶焼結体は、略同一サイズかつ略同一形状の多数の結晶粒の集合体からなり、該結晶粒の形状が、該結晶粒単独で空間を略隙間なく充填可能な多面体形状であることを特徴とする請求項8に記載の発光体。
【請求項10】
前記結晶粒の形状が、立方体状、切頂八面体状、及び菱形十二面体状のうちいずれかであることを特徴とする請求項9に記載の発光体。
【請求項11】
前記原料粉末が、水熱合成法又はアルコキシドエマルジョン法により合成された粉末であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の発光体。
【請求項12】
粉末状の前記Tb含有発光性化合物が、樹脂バインダを介して結合された成形体であることを特徴とする請求項7に記載の発光体。
【請求項13】
前記Tb含有発光性化合物が、励起光により励起されてレーザ光を発振するレーザ物質であることを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の発光体。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれかに記載の発光体と、該発光体に励起光を照射する励起光源とを備えたことを特徴とする発光素子。
【請求項15】
前記励起光源が、350〜470nmの波長域内の光を発光する光源であることを特徴とする請求項14に記載の発光素子。
【請求項16】
前記励起光源が、GaN系発光ダイオード又はZnO系発光ダイオードであることを特徴とする請求項15に記載の発光素子。
【請求項17】
固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、
前記固体レーザ媒質が、請求項13に記載の発光体からなることを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項18】
固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質に励起光を照射する励起光源とを備えた固体レーザ装置において、
前記固体レーザ媒質がTb含有酸化物を含むことを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項19】
前記Tb含有酸化物がガーネット型化合物であることを特徴とする請求項18に記載の固体レーザ装置。
【請求項20】
前記Tb含有酸化物が下記一般式で表されることを特徴とする請求項19に記載の固体レーザ装置。
一般式:(A(III)1−xTbx)3B(III)2C(III)3O12
(式中、()内のローマ数字:イオン価数、
A:Sc,Y,In,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Al,Sc,Cr,Ga,In,Sm、Eu、Gd、Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
C:Al及びGaからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子、
0<x<1)
【請求項21】
A(III)がYであり、B(III)がAlであり、C(III)がAlであることを特徴とする請求項20に記載の固体レーザ装置。
【請求項22】
前記励起光源が、発振波長が350〜470nmの波長域内にある半導体レーザであることを特徴とする請求項17〜21のいずれかに記載の固体レーザ装置。
【請求項23】
前記半導体レーザが、GaN系半導体レーザ又はZnO系半導体レーザであることを特徴とする請求項22に記載の固体レーザ装置。
【請求項24】
前記固体レーザ装置から発振されるレーザ光の発振波長が、470〜640nmの波長域内にあることを特徴とする請求項17〜23のいずれかに記載の固体レーザ装置。
【請求項25】
前記固体レーザ媒質から発振されたレーザ光の波長を変換する波長変換素子をさらに備えたことを特徴とする請求項17〜23のいずれかに記載の固体レーザ装置。
【請求項26】
前記固体レーザ装置から発振されるレーザ光の発振波長が、235〜320nmの波長域内にあることを特徴とする請求項25に記載の固体レーザ装置。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1】
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【図1】
【公開番号】特開2008−13607(P2008−13607A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183687(P2006−183687)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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