Vリブドベルトのベルト進入角度推定方法、その方法を用いたベルト進入角度推定プログラム、及びプーリのレイアウト設計方法
【課題】 背面平プーリからVリブドプーリへのVリブドベルトの進入角度を推定する方法において、前記ベルト進入角度をプーリのレイアウト設計段階で容易に推定できるようにする。
【解決手段】 Vリブドベルト10は、背面平プーリ3に対して略零度の進入角度(回転軸3aを含む平面に略垂直)で進入して、該背面平プーリ3の外周に沿って軸方向にずれることなく巻き付き、該背面平プーリ3の巻き付き終止点cから駆動プーリ1の巻き付き開始点dまで略直線状に延びる軌道を描く。このようなVリブドベルト10の軌道に基づき、例えば3次元CAD等によって、前記背面平プーリ3から駆動プーリ1へのVリブドベルト10の進入角度αを求める。
【解決手段】 Vリブドベルト10は、背面平プーリ3に対して略零度の進入角度(回転軸3aを含む平面に略垂直)で進入して、該背面平プーリ3の外周に沿って軸方向にずれることなく巻き付き、該背面平プーリ3の巻き付き終止点cから駆動プーリ1の巻き付き開始点dまで略直線状に延びる軌道を描く。このようなVリブドベルト10の軌道に基づき、例えば3次元CAD等によって、前記背面平プーリ3から駆動プーリ1へのVリブドベルト10の進入角度αを求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vリブドベルトを用いた伝動装置におけるVリブドプーリへのベルト進入角度を推定するための方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の補機を駆動させる駆動装置として、エンジン回転をベルトによって補機に伝動するベルト式補機駆動装置(ベルト伝動装置)が知られており、その伝動用ベルトとして、伝動能力や寿命等の観点から、一般的に、Vリブドベルトが用いられている。このVリブドベルトは、ベルト幅方向に所定のピッチで並ぶように心線が埋設されたベルト本体の下面(内周面)に、ベルト幅方向に所定のピッチで並ぶようにベルト長手方向に延びる複数条のリブが形成されたものである。
【0003】
ところで、そのようなVリブドベルトを用いたベルト式補機駆動装置では、一般的に、該Vリブドベルトの巻き掛けられるプーリにオフセットや倒れなどのミスアライメントがあるため、厳密には、例えば図11に示すようにベルトがプーリに対し傾いて進入することになる。そして、Vリブドプーリに対するベルトの進入角度が大きいと、該ベルトのリブ部表面とプーリの溝面との間の摺動によってベルト走行時に異音が生じ易くなるという問題があった。
【0004】
そのため、前記図11に示すようにVリブドプーリのみによって構成される駆動系の場合には、プーリのレイアウト設計段階で、該プーリの最大ミスアライメント(オフセット量、倒れ角等)から幾何学的にVリブドベルトの進入角度を算出して、該ベルト進入角度がベルト走行時に異音を発生するような角度であるかどうかを確認し、必要に応じてプーリの配置を修正するようにしている。
【0005】
なお、プーリのミスアライメントによる異音発生を防止する方法としては、上述のように設計段階で予めベルト進入角度を求めて設計変更する以外に、例えば特許文献1に開示されるように、プーリの溝部の側面に配設された歪みゲージによってベルトから受ける側圧を実測することで、プーリのミスアライメントを検出し、そのミスアライメントに基づいてプーリのアライメントを修正するようにしたものが知られている。
【特許文献1】特開2002−349649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際の自動車用補機駆動装置では、一般的に、リブの形成されていないベルト背面が巻き掛けられる背面平プーリが配設されており、この背面平プーリによってVリブドベルトの軌道が変わるため、上述のようにVリブドプーリのアライメントのみによってベルト進入角度を幾何学的に特定することはできず、プーリのレイアウト毎にベルト進入角度を実測する必要があった。
【0007】
したがって、プーリのレイアウト設計段階で異音発生を予測することができず、異音が発生しないようなプーリのレイアウトの検討を十分に行うことができなかった。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、背面平プーリからVリブドプーリへのVリブドベルトの進入角度を推定する方法において、該背面平プーリに対するVリブドベルトの軌道に着目して、前記ベルト進入角度をプーリのレイアウト設計段階で容易に推定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るベルト進入角度推定方法では、発明者らの鋭意努力によって見出された背面平プーリとVリブドベルトの軌道との関係に基づいて、該背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を幾何学的に推定できるようにした。
【0010】
すなわち、請求項1の発明では、少なくとも2つのVリブドプーリと、それらの間に配設された少なくとも1つの背面平プーリとにVリブドベルトが巻き掛けられたベルト伝動装置において、前記少なくとも3つのプーリのうち少なくとも1つのプーリにミスアライメントがある場合に、前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を推定する方法を前提とする。
【0011】
そして、前記Vリブドベルトは、前記背面平プーリに対してその進入側に位置するプーリから直線的に略零度の進入角度で進入し、前記背面平プーリの外周面上に巻き付いてその幅方向にずれることなく進行して、該背面平プーリからその進出側のプーリに直線的に進行するものとして、当該Vリブドベルトの軌道を求め、該Vリブドベルトの軌道に基づいて前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めるものとする。
【0012】
この方法により、例えばプーリのミスアライメントによって前記背面平プーリの回転軸が隣り合う別のプーリとずれていても、そのことによる影響を含めてVリブドベルトの軌道を幾何学的に特定することができるので、背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を実測することなく、容易に求めることができる。
【0013】
上述の構成において、背面平プーリとそのベルト進入側に位置するVリブドプーリとの間のベルトスパン長さが所定値以下の場合には、該背面平プーリに対するVリブドベルトの進入角度を零度よりも大きくなるように補正するのが好ましい(請求項2の発明)。
【0014】
このように、背面平プーリとそのベルト進入側に位置するVリブドプーリとの間のベルトスパン長さが所定値以下になると、該Vリブドプーリの溝とVリブドベルトのリブとの係合の影響によって、該背面平プーリの外周面の摩擦力よりもVリブドベルトの張力の方が大きくなるため、該Vリブドベルトは背面平プーリの外周面上を横滑りして、該背面平プーリに対して2つのVリブドベルトの巻き付き終止点と巻き付き開始点とを結ぶ直線に近づくように進入する。このような場合に、上述のように、前記背面平プーリへのVリブドベルトの進入角度を補正することで、計算上の軌道を実際のVリブドベルトの軌道に近い軌道にすることができ、より精度良くVリブドベルトへのベルト進入角度を算出することができる。なお、ベルトスパン長さが所定値以下とは、背面平プーリの外周面上をVリブドベルトが横滑りするようなベルトスパン長さになることを意味している。
【0015】
また、そのように容易にベルト進入角度を推定できるようになれば、これをプーリのレイアウト設計に利用することができる、すなわち、本願の請求項3の発明は、前記請求項1または2のいずれか一つのベルト進入角度推定方法を用いて、背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を推定するベルト進入角度推定工程と、前記ベルト進入角度推定工程において推定したベルト進入角度が所定角度よりも大きいときに、前記Vリブドプーリと背面平プーリとの間のベルトスパン長さが拡がるか、若しくは該背面平プーリとそのベルト進入側に位置するVリブドプーリとの間のベルトスパン長さが狭まるか、の少なくとも一方となるように、プーリレイアウトを変更するレイアウト変更工程とを備えたプーリのレイアウト設計方法である。
【0016】
この構成により、上述のベルト進入角度推定方法を用いて推定されたVリブドプーリへのベルト進入角度が所定角度よりも大きくなれば、Vリブドプーリ及び背面平プーリの少なくとも一方の配置を変更して、Vリブドプーリとそのベルト進入側の背面平プーリとの間のベルトスパン長さを拡げる、若しくは背面平プーリとそのベルト進入側のVリブドプーリとの間のベルトスパン長さを狭めることで、前記ベルト進入角度を小さくして前記所定角度以内にすることができる。ここで、所定角度とは、ベルト走行時に異音を生じないようなベルト進入角度であり、一般的には、略0.5〜1.0度ぐらいに設定される。
【0017】
したがって、Vリブドプーリ及び背面平プーリの少なくとも一方の配置を変更して前記ベルト進入角度を所定角度以内にすることで、ベルト走行時の異音の発生が防止されるようなプーリのレイアウトを得ることができる。
【0018】
さらに、本願の請求項4の発明は、少なくとも2つのVリブドプーリと、該Vリブドプーリの間に配設された少なくとも1つの背面平プーリとにVリブドベルトが巻き掛けられたベルト伝動装置において、前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めるためのコンピュータプログラムである。
【0019】
そして、前記プログラムは、前記各プーリの少なくともベルトとの接触面の一部を模擬するプーリモデルを仮想の3次元空間内に作成するプーリモデル作成ステップと、前記Vリブドベルトは、背面平プーリに対して略零度の進入角度で進入し、該背面平プーリの外周面上で巻き付いてその幅方向にずれることなく周方向に進行するものとして、前記プーリモデル作成ステップによって作成された各プーリモデルを用いてVリブドベルトの軌道を前記仮想の3次元空間内で計算するベルト軌道演算ステップと、前記ベルト軌道演算ステップによって計算されたVリブドベルトの軌道に基づいて前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めるベルト進入角度演算ステップとを備えているものとする。
【0020】
より具体的には、上述のコンピュータプログラムにおいて、ベルト軌道演算ステップでは、互いに隣り合う2つのプーリ間のVリブドベルトの軌道を、それら2つのプーリのモデルの外周面にそれぞれ接する線分として表し、特に背面平プーリとそのベルト進入側に位置する進入側Vリブドプーリとの間のベルトスパンの軌道は、Vリブドプーリモデルの外周面の幅方向所定位置を通り、且つ背面平プーリモデルの外周面においてその回転軸と平行な線分に直交する線分として計算する一方、背面平プーリに巻き付いて進行するVリブドベルトの軌道は、背面平プーリモデルの外周面上を幅方向にずれることなく周方向に延びる円弧として計算し、さらに、背面平プーリとそのベルト進出側に位置する進出側Vリブドプーリとの間のベルトスパンの軌道は、前記円弧として計算したベルト軌道の終止点と、前記進入側Vリブドプーリモデルの外周面の幅方向所定位置に対応する進出側Vリブドプーリモデルの外周面の所定位置とを結ぶ線分として計算すればよい(請求項5の発明)。ここで、前記幅方向所定位置は、Vリブドプーリ上でのVリブドベルトの幅方向の巻き付き位置を意味していて、例えば幅方向中心に設定される。
【0021】
上述のコンピュータプログラムをコンピュータ装置によって実行することで、3次元で表現されるVリブドベルトへのベルト進入角度をコンピュータ装置によって求めることができるため、机上で煩雑な計算を行うことなく容易にベルト進入角度を得ることができ、ひいては、ベルト進入角度を考慮した最適なレイアウト設計を容易に行うことができる。
【0022】
また、上述のコンピュータプログラムにおいて、ベルト軌道演算ステップでは、背面平プーリとそのベルト進出側に位置する別の背面平プーリとの間のベルトスパンの軌道を、相対的にベルト進入側に位置する前記背面平プーリのモデルの外周面におけるベルト軌道の終止点を通り、相対的にベルト進出側に位置する前記別の背面平プーリのモデルの外周面においてその回転軸と平行な線分に直交する線分として計算すればよい(請求項6の発明)。
【0023】
こうすれば、背面平プーリが連続して複数個、並設されている場合でも、それらに巻き掛けられるVリブドベルトの軌道を特定することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上より、本発明に係るベルト進入角度推定方法によれば、Vリブドベルトが、背面平プーリに対してその進入側のプーリから略零度の進入角度で進入し、該背面平プーリの外周に沿って巻き付くとともに、その進出側に位置するプーリへ略直線状に延びるような軌道を描くことを見出し、該Vリブドベルトの軌道に基づいて前記背面平プーリからVリブドプーリへのVリブドベルトの進入角度を幾何学的に計算できるようにしたため、プーリレイアウトの設計時に、ベルト走行時に異音が生じないようなレイアウトの検討が可能となり、異音発生の不具合を未然に防止することができる。
【0025】
また、本発明に係るベルト進入角度推定プログラムによって、上述のベルト進入角度推定方法をコンピュータ装置により実行すれば、Vリブドプーリへのベルト進入角度を極めて容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る伝動ベルト駆動系T(ベルト伝動装置)を示す。この伝動ベルト駆動系Tは、各々駆動プーリ及び従動プーリであるVリブドプーリ1,2と、これらのVリブドプーリ1,2の間に配設される背面平プーリ3とを備えていて、該各プーリ1,2,3には、内周側にベルト長手方向に延びる複数のリブが形成された伝動ベルトとしてのVリブドベルト10が巻き掛けられている。
【0028】
前記駆動プーリ1は、駆動軸5に回転一体に取り付けられていて、その駆動軸5によって図1(b)において反時計回りに回転するように構成されている。一方、前記従動プーリ2は、入力軸6に回転一体に取り付けられていて、前記駆動プーリ1からVリブドベルト10を介して伝達される動力を入力軸6に伝達するように構成されている。
【0029】
また、前記駆動プーリ1及び従動プーリ2には、それぞれ、外周面上に周方向に延びる複数の溝(図示省略)が形成されていて、該溝面に前記Vリブドベルト10の内周側に形成された複数のリブの側面が当接するようになっている。
【0030】
前記背面平プーリ3は、その外周面が平滑に形成されていて、該外周面上に前記Vリブドベルト10のリブの形成されていない外周側(背面側)が巻き掛けられた状態で、図1(b)に示すように反時計回りに回行するVリブドベルト10において駆動プーリ1の入り側であるスパン10aを押圧して、ベルト10の張力を調整するようになっている。
【0031】
このような構成において、前記背面平プーリ3が相対的に傾いていると、前記駆動プーリ1へのベルト進入角度が大きくなり、該駆動プーリ1の溝面とVリブドベルト10のリブ側面との摺動によってベルト走行時に異音を発生する。この異音発生を抑えるためには、プーリのレイアウト設計段階でベルト進入角度を予測し、異音の発生しないベルト進入角度になるように各プーリ1,2,3のレイアウトを検討する必要があるが、上述のような構成では、前記背面平プーリ3によってVリブドベルト10の軌道が変わるため、前記Vリブドプーリ1,2のアライメントのみによって幾何学的にベルト進入角度を特定することができず、プーリのレイアウト毎にベルト進入角度を実測する必要があった。
【0032】
これに対して、本願の発明者らは、鋭意努力の結果、前記背面平プーリ3が相対的に傾いた状態で、前記Vリブドベルト10が以下のような軌道を描くことを見出した。なお、前記背面片プーリ3の傾きは3次元空間内での傾きであるが、以下の説明では、簡略化のために前記背面平プーリ3は図2に示すようにその回転軸3aが上方から見て反時計回りにのみ傾いた状態とし、その状態でのVリブドベルト10の軌道について説明する。
【0033】
すなわち、前記背面平プーリ3が図2に示すように傾いた状態では、前記Vリブドベルト10は、背面平プーリ3の外周面の摩擦によって該背面平プーリ3の軸方向(幅方向)所定位置でその外周に沿って周方向に巻き付こうとする。そのため、前記Vリブドベルト10の軌道は、背面平プーリ3に対して略零度の進入角度、すなわち該背面平プーリ3の回転軸3a及び巻き付き開始点bを含む平面に対して略垂直に進入し、該背面平プーリ3の外周に沿って軸方向(幅方向)にずれることなく巻き付いた後、前記Vリブドベルト10の幅方向中心を結んだ中心線(以下、ベルト中心線と呼ぶ)が該背面平プーリ3の巻き付き終止点cから駆動プーリ1の巻き付き開始点dに向かって略直線状に延びるような軌道となる。
【0034】
このようなVリブドベルト10の挙動を考慮することで、その軌道を幾何学的に特定することができ、これにより、前記駆動プーリ1へのベルト進入角度αを計算によって求めることができるようになるから、設計段階で異音の発生しないようなプーリのレイアウトの検討が可能となる。以下で、前記ベルト進入角度αの推定方法について詳細に説明する。
【0035】
−ベルト進入角度の推定方法−
前記ベルト進入角度αは、例えば、数式等によって計算することができるが、設計効率化の観点からコンピュータ装置内の3次元CAD等のコンピュータプログラムを用いて求めるのが好ましい。以下で、ベルト進入角度αの推定方法の一例として、3次元CADのプログラムを用いた場合の推定方法について図3を用いて説明する。
【0036】
まず、コンピュータ装置上で動作する3次元CADにおいて、3次元の仮想空間内に駆動プーリ1、従動プーリ2及び背面平プーリ3の各プーリを円柱状のモデル(プーリモデル)として作成する。そして、前記駆動プーリ1及び従動プーリ2の各プーリモデルの外周面上にVリブドプーリ10の内周側が巻き掛けられるとともに、該Vリブドプーリ10の外周側が前記背面平プーリ3の外周面上に巻き掛けられるようにVリブドベルト10をモデル化する。
【0037】
この際、前記Vリブドベルト10は、上述のように、そのベルト中心線10bが、従動プーリ2の巻き付き終止点aから背面平プーリ3に対して略零度の進入角度、すなわち該背面平プーリ3の回転軸3a及び巻き付き開始点bを含む平面に対して略垂直に進入して、該背面平プーリ3の外周面に沿って円周方向に巻き付き、その巻き付き終止点cから駆動プーリ1の巻き付き開始点dまで略直線状に延びるような軌跡を描くように、該各プーリモデル1,2,3に巻き掛けられる。
【0038】
このVリブドベルト10のモデル化について以下でさらに詳細に説明する。
【0039】
まず、前記Vリブドベルト10のベルト幅方向の中心線10bの軌道を3次元空間内に線分または円弧として描く。このとき、該Vリブドベルト10は、前記従動プーリ2及び背面平プーリ3の各外周面に接する第1の接平面21上を通るとともに、該背面平プーリ3及び駆動プーリ1の各外周面に接する第2の接平面22上を通るため、前記ベルト中心線10bも前記2つの接平面21,22上にそれぞれ位置するように描かれる。
【0040】
具体的には、前記第1の接平面21上で且つ前記従動プーリ2外周面上の軸方向中央(幅方向所定位置)に位置するベルト巻き付き終止点aから、該第1の接平面21と背面平プーリの外周面との交線(回転軸3aと平行な線分)に対して直交するようにベルト中心線10bを引く。このとき、該ベルト中心線10bと前記交線との交点がベルト巻き付き開始点bとなる。
【0041】
そして、前記巻き付き開始点bから前記第2の接平面22と背面平プーリ3の外周面との交線まで、該背面平プーリ3の軸方向にずれることなくその外周に沿うように円弧状のベルト中心線10bを描き、さらに、前記第2の接平面22と背面平プーリ3の外周面との交線上に位置するベルト巻き付き終止点cから、前記駆動プーリ1外周面上の軸方向中央位置(幅方向所定位置)で且つ前記第2の接平面22上に位置するベルト巻き付き開始点dまでベルト中心線10bを直線状に描く。
【0042】
一方、前記駆動プーリ1及び従動プーリ2の外周面上では、それぞれ軸方向中央に位置するようにベルト中心線10bを描き、前記駆動プーリ1及び従動プーリ2の外周面に接する接平面上に位置する該駆動プーリ1の巻き付き終止点から従動プーリ2の巻き付き開始点まで直線状に前記ベルト中心線10bを描く。このようにしてベルト中心線10bを描くことで、Vリブドベルト10の軌道を表すことができる。
【0043】
ここで、前記各プーリ1,2,3のモデルを作成するステップがプーリモデル作成ステップに、該各プーリ1,2,3に巻き掛けられるVリブドベルト10の軌道を描くステップがベルト軌道演算ステップに、それぞれ対応している。
【0044】
なお、駆動プーリ1及び従動プーリ2は、すべてモデル化する必要はなく、背面平プーリ3との間のベルト10の軌道が求められるように、ベルト巻き付き終止点a及び巻き付き開始点d近傍を含む外周面(ベルト10との接触面)の一部のみをモデル化するようにしてもよい。
【0045】
上述のようにしてVリブドベルト10の軌道を特定すれば、3次元CAD上で、前記Vリブドベルト10の駆動プーリ1へのベルト進入角度αを計算することができる。このベルト進入角度αを求めるステップがベルト進入角度演算ステップに対応する。これにより、駆動プーリ1へのベルト進入角度αを設計段階で計算によって求めることができるため、ベルト走行時に異音が発生しないようなレイアウト設計を効率良く行うことができる。なお、前記ベルト進入角度αは、駆動プーリ1の回転軸に直交し且つ巻き付き開始点dを含む平面に対するベルト10の中心線10bの傾きを意味している。
【0046】
次に、上述のようにベルト10の軌道を仮定してベルト進入角度αを算出するベルト進入角度推定方法の計算精度を確認する。計算精度を確認するために、3次元CADのモデルと同じレイアウトの試験機を用いてベルト進入角度αを実測するとともに、その試験の状態を模擬した3次元モデルを用いてFEM解析によりベルト進入角度α(以下、αaとする)を求めた。それらの結果をそれぞれ図4及び図5に示す。
【0047】
前記図4は、背面平プーリ3の傾きと、駆動プーリ1の入り側スパン、すなわち背面平プーリ3の巻き付き終止点cから駆動プーリ1の巻き付き開始点dまでの距離(40、88、122mm)とを変化させた場合のFEM解析によるベルト進入角度αaの解析結果(図中の黒塗りマーカー)及び実機でのベルト進入角度αの実測結果(図中の白抜きマーカー)を示しているが、どのスパンにおいても、FEM解析によって求められたベルト進入角度αaは、実機で計測されたベルト進入角度αとほぼ一致していて、FEM解析による計算精度が高いことが分かる。なお、前記図4の結果(解析結果及び実測結果)は、駆動プーリ1及び従動プーリ2の径を145mm、背面平プーリ3の径を70mm、ベルト長さを1200mmとした場合の結果である。
【0048】
そして、前記図5では、FEM解析を用いて算出されたベルト進入角度αaは、上述のようなベルト進入角度推定方法を用いて算出されたベルト進入角度α(以下、αbとする)とほぼ一致しており、前記図4も併せて考慮すると、Vリブドベルト10の軌道が、発明者らの見出した上述のような軌道に近いことが分かる。なお、前記図5の各ベルト進入角度αa,αbは、駆動プーリ1及び従動プーリ2の径を145mm、背面平プーリ3の径を70mm、ベルト長さを1200mmとして、ベルト10に張力が作用するように前記従動プーリ2に980Nを負荷した状態で、該背面平プーリ3の傾きや該背面平プーリ3と駆動プーリ1との間のベルトスパン長さ(基本寸法は40mm)を変化させた場合の計算結果である。
【0049】
次に、前記背面平プーリ3と従動プーリ2との間のベルトスパン長さL1が所定値以下の場合に、該背面平プーリ3へのベルト進入角度を補正する方法について以下で説明する。なお、以下の説明では、説明簡略化のために、図6及び図7に示すように駆動系Tを上方から見た状態の2次元モデルに基づいて前記背面平プーリ3へのベルト進入角度を補正するようにしているが、実際には、例えば3次元CAD等によって、3次元モデルにおける前記背面平プーリ3へのベルト進入角度を補正するのが好ましい。
【0050】
図6に示すように、駆動系Tを上方から見た状態で、Vリブドベルト10の幅方向の中心線のみを考慮して、従動プーリ2からのVリブドベルト10の進出角度をβb(本実施形態では背面平プーリ3の回転軸3aの傾きxに等しい)、従動プーリ2と該背面平プーリ3との間のベルトスパン長さ(巻き付き終止点aと巻き付き開始点bとの間の距離)をL1、該背面平プーリ3の外周面上でのVリブドベルト10の巻き付き長さをL2、該背面平プーリ3と駆動プーリ1との間のベルトスパン長さ(巻き付き終止点cと巻き付き開始点dとの間の距離)をL3とすると、前記駆動プーリ1の巻き付き開始点dと従動プーリ2の巻き付き終止点aとを結ぶ直線Taに対する、前記背面平プーリ3の巻き付き開始点bの変位量y1及び該背面平プーリ3の巻き付き開始点bに対する巻き付き終止点cの変位量y2は、
y1=L1×tan(βbπ/180) (1)
y2=L2×tan(βbπ/180) (2)
となり、これらの変位量y1,y2を用いて、前記Vリブドベルト10の駆動プーリ1へのベルト進入角度αbは、
αb=tan-1((y1+y2)/L1)×180/π (3)
により求められる。
【0051】
ところで、前記背面平プーリ3と従動プーリ2との間のベルトスパン長さL1が所定値以下になると、該従動プーリ2の溝とVリブドベルト10のリブとの係合の影響を受けて、該背面平プーリ3の外周面の摩擦力よりもVリブドベルト10のベルト張力の方が大きくなるため、該Vリブドベルト10は、背面平プーリ3の外周面上を横滑りするようになる。そのため、前記Vリブドプーリ10は、上述のように背面平プーリ3の回転軸3aを含む平面に略垂直に進入せずに、駆動プーリ1の軸方向中央(巻き付き開始点d)と従動プーリ2の軸方向中央(巻き付き終止点a)とを結ぶ直線Taに近づくように進入する。
【0052】
詳しくは、図8に示すように従動プーリ2と背面平プーリ3との間のベルトスパン長さL1を変化させると、FEM解析によって算出される従動プーリ2からのベルト進出角度βaと上述の2次元モデルでのベルト進出角度βb(=x)との比は図9に示すように変化する。なお、この図9の結果は、駆動プーリ1及び従動プーリ2の径を145mm、背面平プーリ3の径を70mm、該背面平プーリ3と駆動プーリ1との間のベルトスパン長さを40mmとして、ベルト10に張力がかかるように前記従動プーリ2にDW=980Nを負荷した状態で、前記ベルトスパン長さL1に応じてベルト全体の長さを1100、1200、1300mmと変化させた場合の計算結果である。
【0053】
前記図9は、前記ベルトスパン長さL1が所定値以下の場合には、実機の状態を模擬したFEM解析によって算出される従動プーリ2からのベルト進出角度βaが前記ベルトスパン長さL1に応じて小さくなるの対し、2次元モデルを用いた数式計算の場合には、背面平プーリ3の回転軸3aを含む平面に対してVリブドベルト10は90度で進入するものとして、従動プーリ2からのベルト進出角度βbを一定としているため、結果として、前記ベルトスパン長さL1が小さくなるほど、FEM解析によって算出される従動プーリ2からのベルト進出角度βaと2次元モデルで算出される進出角度βbとの比が小さくなることを示している。
【0054】
すなわち、前記図9から、従動プーリ2と背面平プーリ3との間のベルトスパン長さL1が所定値(本実施形態では略185mm)以下の場合には、該ベルトスパン長さL1が所定値よりも大きい場合に比べてVリブドベルト10の従動プーリ2からの進出角度βが小さくなる(直線Taに近い位置に進入している)ことが分かる。
【0055】
そして、このように前記Vリブドベルト10の従動プーリ2からの進出角度βが小さくなると、Vリブドベルト10は、図7に拡大して示すように背面平プーリ3の回転軸3aを含む面に対して前記直線Ta側の角度(図中に示すγ)が90度よりも大きい角度、すなわち該背面平プーリ3へのベルト進入角度が零度よりも大きい角度で進入することになり、該Vリブドベルト10の駆動プーリ1へのベルト進入角度αは、該ベルト10が背面平プーリ3の回転軸3aを含む面に対して略垂直に進入する場合に比べて小さくなる。なお、前記図7では、Vリブドベルト10の中心線10bのみが記載されている。
【0056】
したがって、従動プーリ2と背面平プーリ3との間のベルトスパン長さL1が所定値以下の場合には、Vリブドベルト10の背面平プーリ3の外周面上での横滑りを考慮して、背面平プーリ3の回転軸3aを含む平面に対するベルト軌道の角度γ(この角度γから90度を引いた値が背面平プーリ3へのベルト進入角度に相当する)、従動プーリ2からのベルト進出角度βb及び駆動プーリ1へのベルト進入角αbに関して、下式のような補正を行う。
【0057】
γ=90+x(1−F(L)) (4)
この(4)式によって、上述の(1)式中のβbが補正されて、
βb’=βb×F(L) (5)
となり、(1)式及び(3)式は、それぞれ、
y1’=L1×tan(βb’π/180) (6)
αb’=tan-1((y1’+y2)/L1)×180/π (7)
となる。
【0058】
ここで、xは背面平プーリ3の傾き、F(L)はベルトの種類やプーリの形状等によって決まる補正関数であり、この補正関数F(L)は、例えば図9に示すような実際の従動プーリ2からのベルト進出角度β(本実施形態では3次元CADを用いて推定される角度βa)と2次元モデルでのベルト進出角度βbとの比に基づいて決められる。
【0059】
具体的には、前記補正関数F(L)は、本実施形態の場合、前記ベルトスパン長さL1が所定値よりも大きければF(L)=1となり、該ベルトスパン長さL1が所定値以下であれば、図9においてL1=185mm以下の場合の近似曲線として得られる0.0043×L1+1.929を用いる。すなわち、上記(4)式に示すx(1−F(L))が背面平プーリ3へのベルト進入角度の補正分であり、該背面平プーリ3と従動プーリ2との間のベルトスパン長さL1が所定値よりも大きければ、F(L)=1となるため、背面平プーリ3へのベルト進入角度は補正されず零のままである一方、前記ベルトスパン長さL1が所定値以下であれば、該スパン長さL1が短くなるほど背面平プーリ3へのベルト進入角度が大きくなるように補正される。
【0060】
なお、上述の図5において、本ベルト進入角度推定方法を用いて求められたベルト進入角度αbは、従動プーリ2と背面平プーリ3との間のベルトスパン長さL1が所定値以下の場合には(7)式を用いて求められ、該ベルトスパン長さL1が所定値よりも大きい場合には(3)式を用いて求められている。
【0061】
−プーリのレイアウト設計方法−
上述のようなベルト進入角度推定方法を用いることで、プーリのレイアウトを設計する段階でベルト進入角度αを推定することができ、該ベルト進入角度αが、ベルト走行時に異音を生じないような所定角度になるようにプーリのレイアウトを変更することが可能になる。以下で、そのレイアウト設計方法について図10のフローに基づいて説明する。
【0062】
まず、図10のフローがスタートすると、ステップS1で各種入力データをインプットする。この入力データは、大きく分けて2種類のデータからなるもので、後述するステップS2で行われる設計計算に必要な各プーリの寸法及び位置座標、駆動軸の回転数、各補機の負荷等のデータ(条件1)と、ステップS4で行われるベルト進入角度計算に必要な各プーリで想定される最大ミスアライメント(オフセット量、倒れ量など)のデータ(条件2)とからなる。
【0063】
そして、続くステップS2で、前記ステップS1で入力された条件1の入力データに基づいて、駆動系Tの設計計算が行われる。この設計計算では、具体的には、各プーリのレイアウト、ベルトの張力及びベルトに形成するリブ数について計算を行う。続いてステップS3では、これらの計算結果が所定の設計要件を満たしているかどうかの判定が行われ、設計要件を満たしていれば(YESの場合)、ステップS4に進む一方、設計要件を満たしていなければ(NOの場合)、ステップS6に進んでプーリのレイアウトの見直しを行って、前記ステップS2で再度、設計計算を行う。
【0064】
ここで、前記ステップS6で行うプーリのレイアウトの見直しとは、各プーリの位置等を見直すことを意味しており、このように各プーリの位置を見直すことで、Vリブドベルトの張力やリブ数が所定の設計要件を満たすようにすることができる。
【0065】
前記ステップS3でYESの場合に進むステップS4では、駆動プーリ1へのベルト進入角度αを計算する。このベルト進入角度αの計算は、設計効率の観点から、上述のように3次元モデルを作成可能な3次元CADを用いるのが好ましい。
【0066】
前記ステップS4でベルト進入角度αを計算した後、続くステップS5で、その計算結果がベルト走行時に異音を生じないような所定角度以下であるかどうかを判定し、ベルト進入角度αが所定角度以下の場合(YESの場合)には、レイアウト設計が設計要件及びベルト進入角度の要件を満たし、成立しているものと判断してこのフローを終了する。ここで、ベルト走行時に異音を生じないような角度(所定角度)とは、一般的に、0.5〜1.0度以下である。
【0067】
一方、前記ステップS5において、ベルト進入角度αが前記所定のベルト進入角度よりも大きいと判定された場合(NOの場合)には、ステップS7へ進み、プーリの位置を見直して、前記ステップS5でベルト進入角度αが所定角度以下になるように上述のステップS2〜S5の計算及び判定を繰り返し行う。
【0068】
前記ステップS7で行われるプーリの位置変更は、主に背面平プーリ3及び従動プーリ2の位置を修正するもので、該背面平プーリ3と駆動プーリ1との間のベルトスパン長さを拡げるか、若しくは従動プーリ2と背面平プーリ3との間のベルトスパン長さを狭めるか、の少なくとも一方となるようにプーリレイアウトを変更することによって、該駆動プーリ1へのベルト進入角度αを小さくすることができる。すなわち、Vリブドベルト10が背面平プーリ上のほぼ同じ幅方向位置を通る場合、前記背面平プーリ3と駆動プーリ1との間のベルトスパン長さを拡げることで、駆動プーリ1へのベルト進入角度αを相対的に小さくすることができる。また、前記背面平プーリ3と従動プーリ2との間のベルトスパン長さを狭めることによって、背面平プーリ3に対してVリブドベルト10は直線Ta(図2参照)により近い位置に進入するため、駆動プーリ1へのベルト進入角度αを相対的に小さくすることができる。
【0069】
ここで、ベルト進入角度αの計算を行う前記ステップS4がベルト進入角度推定工程に、ベルト進入角度αが所定角度よりも大きいときにプーリのレイアウトの見直しを行う前記ステップS7がレイアウト変更工程に、それぞれ対応している。
【0070】
なお、上述のように、ステップS3及びS5で、各種設計計算結果が設計要件を満たしていない場合やベルト進入角度が所定角度よりも大きい場合に、ステップS2に戻って各種設計計算を再度行うのではなく、条件を満たしていない旨の確認(若しくは表示)のみを行うようにしてもよい。これにより、設計条件が所定の設計要件やベルト進入角度の条件を満たしているかどうかを迅速に把握することができる。
【0071】
以上より、本実施形態では、駆動プーリ及び従動プーリとしてのVリブドプーリ1,2と、両者の間に配設される背面平プーリ3とに巻き掛けられたVリブドベルト10が、背面平プーリ3に対して略零度のベルト進入角度、すなわち回転軸3aを含む平面に略垂直に進入して、該背面平プーリ3の外周に沿って軸方向にずれることなく巻き付くとともに、その出側に位置する前記駆動プーリ1に対して直線状に延びる軌道を描くことを見出し、この軌道に基づいて、駆動プーリ1へのベルト進入角度αを幾何学的に推定できるようにしたため、プーリのレイアウト設計時に、従動プーリ2へのVリブドベルト10の進入角度αを考慮して設計を行うことができ、ベルト走行時の異音の発生を未然に防止することができる。
【0072】
しかも、前記ベルト進入角度αを推定する場合に、3次元CADを用いることで机上で煩雑な計算を行うことなく容易にベルト進入角度αを求めることができ、これにより、ベルト進入角度を考慮したプーリのレイアウト設計も容易に行うことができる。
【0073】
(その他の実施形態)
本発明の構成は、前記実施形態に限定されるものではなく、それ以外の種々の構成を包含するものである。すなわち、前記実施形態では、駆動プーリ1と従動プーリ2との間に、一つの背面平プーリ3が配設された駆動系Tを用いているが、これに限らず、駆動プーリ1と従動プーリ2との間に複数個の背面平プーリ3,3,…を配設するようにしていもよい。この場合でも、各背面平プーリ3に対するVリブドベルト10の軌道は、背面平プーリ3が1個の場合と同様、該背面平プーリ3の回転軸3aを含む平面(若しくは回転軸3aと平行な線分)に略垂直に進入して、該背面平プーリ3の外周に沿って巻き付くとともに、駆動プーリ1に向かって略直線状に延びる軌道を描くことになる。
【0074】
また、前記実施形態では、駆動プーリ1へのVリブドベルト10のベルト進入角度αを求めるようにしているが、この限りではなく、従動プーリ2へのベルト進入角度を求めるようにしてもよい。
【0075】
また、前記実施形態では、3次元CAD上にベルト駆動系Tをモデル化して、該3次元CAD上で駆動プーリ1へのベルト進入角度αを求めるようにしているが、この限りではなく、例えば、各プーリの位置や背面平プーリ3の最大ミスアライメント等の数値データから数値の計算結果のみを出力する数式計算用プログラムを用いてベルト進入角度αを求めるようにしてもよい。
【0076】
さらに、前記実施形態では、例えば図2に示すように、Vリブドベルト10が、各プーリ1,2,3の巻き付き開始点b,d及び終止点a,cで、ベルト幅方向に折れ曲がっているものとしてベルト進入角度αを計算しているが、これに限らず、ベルト10の幅方向の剛性を考慮して、該幅方向に円弧状に曲がるようにしてもよい。なお、当然のことではあるが、このように折れ曲がり部分を円弧状とする場合、数式計算及び3次元CADでは、その円弧部分を考慮して計算を行う必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施形態に係る駆動系の概略構成を示す(a)Vリブドベルトの進行方向に直交する方向から見た上面図、(b)正面図である。
【図2】背面平プーリが傾いている状態を示す図1(a)相当図である。
【図3】3次元CADにおける3次元モデルを示す図である
【図4】背面平プーリの傾き角を変化させた場合の、FEM解析によるベルト進入角度の解析結果と実測値とを比較した図である。
【図5】FEM解析によるベルト進入角度の解析結果と2次元モデルを用いた数式による計算結果との関係を示す図である。
【図6】2次元モデルを用いた数式計算において、計算条件を示す上面図である。
【図7】2次元モデルにおける駆動プーリ及び背面平プーリの部分を示す拡大模式図である。
【図8】従動プーリと背面平プーリとの間のベルトスパン長さを変化させた場合の駆動系の概略構成を示す正面図である。
【図9】従動プーリと背面平プーリとの間のベルトスパン長さを変化させた場合の、FEM解析による背面平プーリへのベルト進入角度の解析結果と2次元モデルを用いて数式によって求めた計算結果との関係を示す図である。
【図10】本発明に係るベルト進入角度推定方法を用いたプーリのレイアウト設計方法を示すフローチャートである。
【図11】Vリブドプーリのみからなる駆動系において、(a)Vリブドプーリがオフセットしている場合、(b)Vリブドプーリが傾いている場合、の上面図である。
【符号の説明】
【0078】
T 駆動系
a 駆動プーリの巻き付き終止点
b 背面平プーリの巻き付き開始点
c 背面平プーリの巻き付き終止点(ベルト軌道の終止点)
d 駆動プーリの巻き付き開始点
α 駆動プーリへのベルト進入角度
1 駆動プーリ(Vリブドプーリ)
2 従動プーリ(Vリブドプーリ)
3 背面平プーリ
3a 回転軸
10 Vリブドベルト
10b ベルト中心線
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vリブドベルトを用いた伝動装置におけるVリブドプーリへのベルト進入角度を推定するための方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の補機を駆動させる駆動装置として、エンジン回転をベルトによって補機に伝動するベルト式補機駆動装置(ベルト伝動装置)が知られており、その伝動用ベルトとして、伝動能力や寿命等の観点から、一般的に、Vリブドベルトが用いられている。このVリブドベルトは、ベルト幅方向に所定のピッチで並ぶように心線が埋設されたベルト本体の下面(内周面)に、ベルト幅方向に所定のピッチで並ぶようにベルト長手方向に延びる複数条のリブが形成されたものである。
【0003】
ところで、そのようなVリブドベルトを用いたベルト式補機駆動装置では、一般的に、該Vリブドベルトの巻き掛けられるプーリにオフセットや倒れなどのミスアライメントがあるため、厳密には、例えば図11に示すようにベルトがプーリに対し傾いて進入することになる。そして、Vリブドプーリに対するベルトの進入角度が大きいと、該ベルトのリブ部表面とプーリの溝面との間の摺動によってベルト走行時に異音が生じ易くなるという問題があった。
【0004】
そのため、前記図11に示すようにVリブドプーリのみによって構成される駆動系の場合には、プーリのレイアウト設計段階で、該プーリの最大ミスアライメント(オフセット量、倒れ角等)から幾何学的にVリブドベルトの進入角度を算出して、該ベルト進入角度がベルト走行時に異音を発生するような角度であるかどうかを確認し、必要に応じてプーリの配置を修正するようにしている。
【0005】
なお、プーリのミスアライメントによる異音発生を防止する方法としては、上述のように設計段階で予めベルト進入角度を求めて設計変更する以外に、例えば特許文献1に開示されるように、プーリの溝部の側面に配設された歪みゲージによってベルトから受ける側圧を実測することで、プーリのミスアライメントを検出し、そのミスアライメントに基づいてプーリのアライメントを修正するようにしたものが知られている。
【特許文献1】特開2002−349649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際の自動車用補機駆動装置では、一般的に、リブの形成されていないベルト背面が巻き掛けられる背面平プーリが配設されており、この背面平プーリによってVリブドベルトの軌道が変わるため、上述のようにVリブドプーリのアライメントのみによってベルト進入角度を幾何学的に特定することはできず、プーリのレイアウト毎にベルト進入角度を実測する必要があった。
【0007】
したがって、プーリのレイアウト設計段階で異音発生を予測することができず、異音が発生しないようなプーリのレイアウトの検討を十分に行うことができなかった。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、背面平プーリからVリブドプーリへのVリブドベルトの進入角度を推定する方法において、該背面平プーリに対するVリブドベルトの軌道に着目して、前記ベルト進入角度をプーリのレイアウト設計段階で容易に推定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るベルト進入角度推定方法では、発明者らの鋭意努力によって見出された背面平プーリとVリブドベルトの軌道との関係に基づいて、該背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を幾何学的に推定できるようにした。
【0010】
すなわち、請求項1の発明では、少なくとも2つのVリブドプーリと、それらの間に配設された少なくとも1つの背面平プーリとにVリブドベルトが巻き掛けられたベルト伝動装置において、前記少なくとも3つのプーリのうち少なくとも1つのプーリにミスアライメントがある場合に、前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を推定する方法を前提とする。
【0011】
そして、前記Vリブドベルトは、前記背面平プーリに対してその進入側に位置するプーリから直線的に略零度の進入角度で進入し、前記背面平プーリの外周面上に巻き付いてその幅方向にずれることなく進行して、該背面平プーリからその進出側のプーリに直線的に進行するものとして、当該Vリブドベルトの軌道を求め、該Vリブドベルトの軌道に基づいて前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めるものとする。
【0012】
この方法により、例えばプーリのミスアライメントによって前記背面平プーリの回転軸が隣り合う別のプーリとずれていても、そのことによる影響を含めてVリブドベルトの軌道を幾何学的に特定することができるので、背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を実測することなく、容易に求めることができる。
【0013】
上述の構成において、背面平プーリとそのベルト進入側に位置するVリブドプーリとの間のベルトスパン長さが所定値以下の場合には、該背面平プーリに対するVリブドベルトの進入角度を零度よりも大きくなるように補正するのが好ましい(請求項2の発明)。
【0014】
このように、背面平プーリとそのベルト進入側に位置するVリブドプーリとの間のベルトスパン長さが所定値以下になると、該Vリブドプーリの溝とVリブドベルトのリブとの係合の影響によって、該背面平プーリの外周面の摩擦力よりもVリブドベルトの張力の方が大きくなるため、該Vリブドベルトは背面平プーリの外周面上を横滑りして、該背面平プーリに対して2つのVリブドベルトの巻き付き終止点と巻き付き開始点とを結ぶ直線に近づくように進入する。このような場合に、上述のように、前記背面平プーリへのVリブドベルトの進入角度を補正することで、計算上の軌道を実際のVリブドベルトの軌道に近い軌道にすることができ、より精度良くVリブドベルトへのベルト進入角度を算出することができる。なお、ベルトスパン長さが所定値以下とは、背面平プーリの外周面上をVリブドベルトが横滑りするようなベルトスパン長さになることを意味している。
【0015】
また、そのように容易にベルト進入角度を推定できるようになれば、これをプーリのレイアウト設計に利用することができる、すなわち、本願の請求項3の発明は、前記請求項1または2のいずれか一つのベルト進入角度推定方法を用いて、背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を推定するベルト進入角度推定工程と、前記ベルト進入角度推定工程において推定したベルト進入角度が所定角度よりも大きいときに、前記Vリブドプーリと背面平プーリとの間のベルトスパン長さが拡がるか、若しくは該背面平プーリとそのベルト進入側に位置するVリブドプーリとの間のベルトスパン長さが狭まるか、の少なくとも一方となるように、プーリレイアウトを変更するレイアウト変更工程とを備えたプーリのレイアウト設計方法である。
【0016】
この構成により、上述のベルト進入角度推定方法を用いて推定されたVリブドプーリへのベルト進入角度が所定角度よりも大きくなれば、Vリブドプーリ及び背面平プーリの少なくとも一方の配置を変更して、Vリブドプーリとそのベルト進入側の背面平プーリとの間のベルトスパン長さを拡げる、若しくは背面平プーリとそのベルト進入側のVリブドプーリとの間のベルトスパン長さを狭めることで、前記ベルト進入角度を小さくして前記所定角度以内にすることができる。ここで、所定角度とは、ベルト走行時に異音を生じないようなベルト進入角度であり、一般的には、略0.5〜1.0度ぐらいに設定される。
【0017】
したがって、Vリブドプーリ及び背面平プーリの少なくとも一方の配置を変更して前記ベルト進入角度を所定角度以内にすることで、ベルト走行時の異音の発生が防止されるようなプーリのレイアウトを得ることができる。
【0018】
さらに、本願の請求項4の発明は、少なくとも2つのVリブドプーリと、該Vリブドプーリの間に配設された少なくとも1つの背面平プーリとにVリブドベルトが巻き掛けられたベルト伝動装置において、前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めるためのコンピュータプログラムである。
【0019】
そして、前記プログラムは、前記各プーリの少なくともベルトとの接触面の一部を模擬するプーリモデルを仮想の3次元空間内に作成するプーリモデル作成ステップと、前記Vリブドベルトは、背面平プーリに対して略零度の進入角度で進入し、該背面平プーリの外周面上で巻き付いてその幅方向にずれることなく周方向に進行するものとして、前記プーリモデル作成ステップによって作成された各プーリモデルを用いてVリブドベルトの軌道を前記仮想の3次元空間内で計算するベルト軌道演算ステップと、前記ベルト軌道演算ステップによって計算されたVリブドベルトの軌道に基づいて前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めるベルト進入角度演算ステップとを備えているものとする。
【0020】
より具体的には、上述のコンピュータプログラムにおいて、ベルト軌道演算ステップでは、互いに隣り合う2つのプーリ間のVリブドベルトの軌道を、それら2つのプーリのモデルの外周面にそれぞれ接する線分として表し、特に背面平プーリとそのベルト進入側に位置する進入側Vリブドプーリとの間のベルトスパンの軌道は、Vリブドプーリモデルの外周面の幅方向所定位置を通り、且つ背面平プーリモデルの外周面においてその回転軸と平行な線分に直交する線分として計算する一方、背面平プーリに巻き付いて進行するVリブドベルトの軌道は、背面平プーリモデルの外周面上を幅方向にずれることなく周方向に延びる円弧として計算し、さらに、背面平プーリとそのベルト進出側に位置する進出側Vリブドプーリとの間のベルトスパンの軌道は、前記円弧として計算したベルト軌道の終止点と、前記進入側Vリブドプーリモデルの外周面の幅方向所定位置に対応する進出側Vリブドプーリモデルの外周面の所定位置とを結ぶ線分として計算すればよい(請求項5の発明)。ここで、前記幅方向所定位置は、Vリブドプーリ上でのVリブドベルトの幅方向の巻き付き位置を意味していて、例えば幅方向中心に設定される。
【0021】
上述のコンピュータプログラムをコンピュータ装置によって実行することで、3次元で表現されるVリブドベルトへのベルト進入角度をコンピュータ装置によって求めることができるため、机上で煩雑な計算を行うことなく容易にベルト進入角度を得ることができ、ひいては、ベルト進入角度を考慮した最適なレイアウト設計を容易に行うことができる。
【0022】
また、上述のコンピュータプログラムにおいて、ベルト軌道演算ステップでは、背面平プーリとそのベルト進出側に位置する別の背面平プーリとの間のベルトスパンの軌道を、相対的にベルト進入側に位置する前記背面平プーリのモデルの外周面におけるベルト軌道の終止点を通り、相対的にベルト進出側に位置する前記別の背面平プーリのモデルの外周面においてその回転軸と平行な線分に直交する線分として計算すればよい(請求項6の発明)。
【0023】
こうすれば、背面平プーリが連続して複数個、並設されている場合でも、それらに巻き掛けられるVリブドベルトの軌道を特定することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上より、本発明に係るベルト進入角度推定方法によれば、Vリブドベルトが、背面平プーリに対してその進入側のプーリから略零度の進入角度で進入し、該背面平プーリの外周に沿って巻き付くとともに、その進出側に位置するプーリへ略直線状に延びるような軌道を描くことを見出し、該Vリブドベルトの軌道に基づいて前記背面平プーリからVリブドプーリへのVリブドベルトの進入角度を幾何学的に計算できるようにしたため、プーリレイアウトの設計時に、ベルト走行時に異音が生じないようなレイアウトの検討が可能となり、異音発生の不具合を未然に防止することができる。
【0025】
また、本発明に係るベルト進入角度推定プログラムによって、上述のベルト進入角度推定方法をコンピュータ装置により実行すれば、Vリブドプーリへのベルト進入角度を極めて容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る伝動ベルト駆動系T(ベルト伝動装置)を示す。この伝動ベルト駆動系Tは、各々駆動プーリ及び従動プーリであるVリブドプーリ1,2と、これらのVリブドプーリ1,2の間に配設される背面平プーリ3とを備えていて、該各プーリ1,2,3には、内周側にベルト長手方向に延びる複数のリブが形成された伝動ベルトとしてのVリブドベルト10が巻き掛けられている。
【0028】
前記駆動プーリ1は、駆動軸5に回転一体に取り付けられていて、その駆動軸5によって図1(b)において反時計回りに回転するように構成されている。一方、前記従動プーリ2は、入力軸6に回転一体に取り付けられていて、前記駆動プーリ1からVリブドベルト10を介して伝達される動力を入力軸6に伝達するように構成されている。
【0029】
また、前記駆動プーリ1及び従動プーリ2には、それぞれ、外周面上に周方向に延びる複数の溝(図示省略)が形成されていて、該溝面に前記Vリブドベルト10の内周側に形成された複数のリブの側面が当接するようになっている。
【0030】
前記背面平プーリ3は、その外周面が平滑に形成されていて、該外周面上に前記Vリブドベルト10のリブの形成されていない外周側(背面側)が巻き掛けられた状態で、図1(b)に示すように反時計回りに回行するVリブドベルト10において駆動プーリ1の入り側であるスパン10aを押圧して、ベルト10の張力を調整するようになっている。
【0031】
このような構成において、前記背面平プーリ3が相対的に傾いていると、前記駆動プーリ1へのベルト進入角度が大きくなり、該駆動プーリ1の溝面とVリブドベルト10のリブ側面との摺動によってベルト走行時に異音を発生する。この異音発生を抑えるためには、プーリのレイアウト設計段階でベルト進入角度を予測し、異音の発生しないベルト進入角度になるように各プーリ1,2,3のレイアウトを検討する必要があるが、上述のような構成では、前記背面平プーリ3によってVリブドベルト10の軌道が変わるため、前記Vリブドプーリ1,2のアライメントのみによって幾何学的にベルト進入角度を特定することができず、プーリのレイアウト毎にベルト進入角度を実測する必要があった。
【0032】
これに対して、本願の発明者らは、鋭意努力の結果、前記背面平プーリ3が相対的に傾いた状態で、前記Vリブドベルト10が以下のような軌道を描くことを見出した。なお、前記背面片プーリ3の傾きは3次元空間内での傾きであるが、以下の説明では、簡略化のために前記背面平プーリ3は図2に示すようにその回転軸3aが上方から見て反時計回りにのみ傾いた状態とし、その状態でのVリブドベルト10の軌道について説明する。
【0033】
すなわち、前記背面平プーリ3が図2に示すように傾いた状態では、前記Vリブドベルト10は、背面平プーリ3の外周面の摩擦によって該背面平プーリ3の軸方向(幅方向)所定位置でその外周に沿って周方向に巻き付こうとする。そのため、前記Vリブドベルト10の軌道は、背面平プーリ3に対して略零度の進入角度、すなわち該背面平プーリ3の回転軸3a及び巻き付き開始点bを含む平面に対して略垂直に進入し、該背面平プーリ3の外周に沿って軸方向(幅方向)にずれることなく巻き付いた後、前記Vリブドベルト10の幅方向中心を結んだ中心線(以下、ベルト中心線と呼ぶ)が該背面平プーリ3の巻き付き終止点cから駆動プーリ1の巻き付き開始点dに向かって略直線状に延びるような軌道となる。
【0034】
このようなVリブドベルト10の挙動を考慮することで、その軌道を幾何学的に特定することができ、これにより、前記駆動プーリ1へのベルト進入角度αを計算によって求めることができるようになるから、設計段階で異音の発生しないようなプーリのレイアウトの検討が可能となる。以下で、前記ベルト進入角度αの推定方法について詳細に説明する。
【0035】
−ベルト進入角度の推定方法−
前記ベルト進入角度αは、例えば、数式等によって計算することができるが、設計効率化の観点からコンピュータ装置内の3次元CAD等のコンピュータプログラムを用いて求めるのが好ましい。以下で、ベルト進入角度αの推定方法の一例として、3次元CADのプログラムを用いた場合の推定方法について図3を用いて説明する。
【0036】
まず、コンピュータ装置上で動作する3次元CADにおいて、3次元の仮想空間内に駆動プーリ1、従動プーリ2及び背面平プーリ3の各プーリを円柱状のモデル(プーリモデル)として作成する。そして、前記駆動プーリ1及び従動プーリ2の各プーリモデルの外周面上にVリブドプーリ10の内周側が巻き掛けられるとともに、該Vリブドプーリ10の外周側が前記背面平プーリ3の外周面上に巻き掛けられるようにVリブドベルト10をモデル化する。
【0037】
この際、前記Vリブドベルト10は、上述のように、そのベルト中心線10bが、従動プーリ2の巻き付き終止点aから背面平プーリ3に対して略零度の進入角度、すなわち該背面平プーリ3の回転軸3a及び巻き付き開始点bを含む平面に対して略垂直に進入して、該背面平プーリ3の外周面に沿って円周方向に巻き付き、その巻き付き終止点cから駆動プーリ1の巻き付き開始点dまで略直線状に延びるような軌跡を描くように、該各プーリモデル1,2,3に巻き掛けられる。
【0038】
このVリブドベルト10のモデル化について以下でさらに詳細に説明する。
【0039】
まず、前記Vリブドベルト10のベルト幅方向の中心線10bの軌道を3次元空間内に線分または円弧として描く。このとき、該Vリブドベルト10は、前記従動プーリ2及び背面平プーリ3の各外周面に接する第1の接平面21上を通るとともに、該背面平プーリ3及び駆動プーリ1の各外周面に接する第2の接平面22上を通るため、前記ベルト中心線10bも前記2つの接平面21,22上にそれぞれ位置するように描かれる。
【0040】
具体的には、前記第1の接平面21上で且つ前記従動プーリ2外周面上の軸方向中央(幅方向所定位置)に位置するベルト巻き付き終止点aから、該第1の接平面21と背面平プーリの外周面との交線(回転軸3aと平行な線分)に対して直交するようにベルト中心線10bを引く。このとき、該ベルト中心線10bと前記交線との交点がベルト巻き付き開始点bとなる。
【0041】
そして、前記巻き付き開始点bから前記第2の接平面22と背面平プーリ3の外周面との交線まで、該背面平プーリ3の軸方向にずれることなくその外周に沿うように円弧状のベルト中心線10bを描き、さらに、前記第2の接平面22と背面平プーリ3の外周面との交線上に位置するベルト巻き付き終止点cから、前記駆動プーリ1外周面上の軸方向中央位置(幅方向所定位置)で且つ前記第2の接平面22上に位置するベルト巻き付き開始点dまでベルト中心線10bを直線状に描く。
【0042】
一方、前記駆動プーリ1及び従動プーリ2の外周面上では、それぞれ軸方向中央に位置するようにベルト中心線10bを描き、前記駆動プーリ1及び従動プーリ2の外周面に接する接平面上に位置する該駆動プーリ1の巻き付き終止点から従動プーリ2の巻き付き開始点まで直線状に前記ベルト中心線10bを描く。このようにしてベルト中心線10bを描くことで、Vリブドベルト10の軌道を表すことができる。
【0043】
ここで、前記各プーリ1,2,3のモデルを作成するステップがプーリモデル作成ステップに、該各プーリ1,2,3に巻き掛けられるVリブドベルト10の軌道を描くステップがベルト軌道演算ステップに、それぞれ対応している。
【0044】
なお、駆動プーリ1及び従動プーリ2は、すべてモデル化する必要はなく、背面平プーリ3との間のベルト10の軌道が求められるように、ベルト巻き付き終止点a及び巻き付き開始点d近傍を含む外周面(ベルト10との接触面)の一部のみをモデル化するようにしてもよい。
【0045】
上述のようにしてVリブドベルト10の軌道を特定すれば、3次元CAD上で、前記Vリブドベルト10の駆動プーリ1へのベルト進入角度αを計算することができる。このベルト進入角度αを求めるステップがベルト進入角度演算ステップに対応する。これにより、駆動プーリ1へのベルト進入角度αを設計段階で計算によって求めることができるため、ベルト走行時に異音が発生しないようなレイアウト設計を効率良く行うことができる。なお、前記ベルト進入角度αは、駆動プーリ1の回転軸に直交し且つ巻き付き開始点dを含む平面に対するベルト10の中心線10bの傾きを意味している。
【0046】
次に、上述のようにベルト10の軌道を仮定してベルト進入角度αを算出するベルト進入角度推定方法の計算精度を確認する。計算精度を確認するために、3次元CADのモデルと同じレイアウトの試験機を用いてベルト進入角度αを実測するとともに、その試験の状態を模擬した3次元モデルを用いてFEM解析によりベルト進入角度α(以下、αaとする)を求めた。それらの結果をそれぞれ図4及び図5に示す。
【0047】
前記図4は、背面平プーリ3の傾きと、駆動プーリ1の入り側スパン、すなわち背面平プーリ3の巻き付き終止点cから駆動プーリ1の巻き付き開始点dまでの距離(40、88、122mm)とを変化させた場合のFEM解析によるベルト進入角度αaの解析結果(図中の黒塗りマーカー)及び実機でのベルト進入角度αの実測結果(図中の白抜きマーカー)を示しているが、どのスパンにおいても、FEM解析によって求められたベルト進入角度αaは、実機で計測されたベルト進入角度αとほぼ一致していて、FEM解析による計算精度が高いことが分かる。なお、前記図4の結果(解析結果及び実測結果)は、駆動プーリ1及び従動プーリ2の径を145mm、背面平プーリ3の径を70mm、ベルト長さを1200mmとした場合の結果である。
【0048】
そして、前記図5では、FEM解析を用いて算出されたベルト進入角度αaは、上述のようなベルト進入角度推定方法を用いて算出されたベルト進入角度α(以下、αbとする)とほぼ一致しており、前記図4も併せて考慮すると、Vリブドベルト10の軌道が、発明者らの見出した上述のような軌道に近いことが分かる。なお、前記図5の各ベルト進入角度αa,αbは、駆動プーリ1及び従動プーリ2の径を145mm、背面平プーリ3の径を70mm、ベルト長さを1200mmとして、ベルト10に張力が作用するように前記従動プーリ2に980Nを負荷した状態で、該背面平プーリ3の傾きや該背面平プーリ3と駆動プーリ1との間のベルトスパン長さ(基本寸法は40mm)を変化させた場合の計算結果である。
【0049】
次に、前記背面平プーリ3と従動プーリ2との間のベルトスパン長さL1が所定値以下の場合に、該背面平プーリ3へのベルト進入角度を補正する方法について以下で説明する。なお、以下の説明では、説明簡略化のために、図6及び図7に示すように駆動系Tを上方から見た状態の2次元モデルに基づいて前記背面平プーリ3へのベルト進入角度を補正するようにしているが、実際には、例えば3次元CAD等によって、3次元モデルにおける前記背面平プーリ3へのベルト進入角度を補正するのが好ましい。
【0050】
図6に示すように、駆動系Tを上方から見た状態で、Vリブドベルト10の幅方向の中心線のみを考慮して、従動プーリ2からのVリブドベルト10の進出角度をβb(本実施形態では背面平プーリ3の回転軸3aの傾きxに等しい)、従動プーリ2と該背面平プーリ3との間のベルトスパン長さ(巻き付き終止点aと巻き付き開始点bとの間の距離)をL1、該背面平プーリ3の外周面上でのVリブドベルト10の巻き付き長さをL2、該背面平プーリ3と駆動プーリ1との間のベルトスパン長さ(巻き付き終止点cと巻き付き開始点dとの間の距離)をL3とすると、前記駆動プーリ1の巻き付き開始点dと従動プーリ2の巻き付き終止点aとを結ぶ直線Taに対する、前記背面平プーリ3の巻き付き開始点bの変位量y1及び該背面平プーリ3の巻き付き開始点bに対する巻き付き終止点cの変位量y2は、
y1=L1×tan(βbπ/180) (1)
y2=L2×tan(βbπ/180) (2)
となり、これらの変位量y1,y2を用いて、前記Vリブドベルト10の駆動プーリ1へのベルト進入角度αbは、
αb=tan-1((y1+y2)/L1)×180/π (3)
により求められる。
【0051】
ところで、前記背面平プーリ3と従動プーリ2との間のベルトスパン長さL1が所定値以下になると、該従動プーリ2の溝とVリブドベルト10のリブとの係合の影響を受けて、該背面平プーリ3の外周面の摩擦力よりもVリブドベルト10のベルト張力の方が大きくなるため、該Vリブドベルト10は、背面平プーリ3の外周面上を横滑りするようになる。そのため、前記Vリブドプーリ10は、上述のように背面平プーリ3の回転軸3aを含む平面に略垂直に進入せずに、駆動プーリ1の軸方向中央(巻き付き開始点d)と従動プーリ2の軸方向中央(巻き付き終止点a)とを結ぶ直線Taに近づくように進入する。
【0052】
詳しくは、図8に示すように従動プーリ2と背面平プーリ3との間のベルトスパン長さL1を変化させると、FEM解析によって算出される従動プーリ2からのベルト進出角度βaと上述の2次元モデルでのベルト進出角度βb(=x)との比は図9に示すように変化する。なお、この図9の結果は、駆動プーリ1及び従動プーリ2の径を145mm、背面平プーリ3の径を70mm、該背面平プーリ3と駆動プーリ1との間のベルトスパン長さを40mmとして、ベルト10に張力がかかるように前記従動プーリ2にDW=980Nを負荷した状態で、前記ベルトスパン長さL1に応じてベルト全体の長さを1100、1200、1300mmと変化させた場合の計算結果である。
【0053】
前記図9は、前記ベルトスパン長さL1が所定値以下の場合には、実機の状態を模擬したFEM解析によって算出される従動プーリ2からのベルト進出角度βaが前記ベルトスパン長さL1に応じて小さくなるの対し、2次元モデルを用いた数式計算の場合には、背面平プーリ3の回転軸3aを含む平面に対してVリブドベルト10は90度で進入するものとして、従動プーリ2からのベルト進出角度βbを一定としているため、結果として、前記ベルトスパン長さL1が小さくなるほど、FEM解析によって算出される従動プーリ2からのベルト進出角度βaと2次元モデルで算出される進出角度βbとの比が小さくなることを示している。
【0054】
すなわち、前記図9から、従動プーリ2と背面平プーリ3との間のベルトスパン長さL1が所定値(本実施形態では略185mm)以下の場合には、該ベルトスパン長さL1が所定値よりも大きい場合に比べてVリブドベルト10の従動プーリ2からの進出角度βが小さくなる(直線Taに近い位置に進入している)ことが分かる。
【0055】
そして、このように前記Vリブドベルト10の従動プーリ2からの進出角度βが小さくなると、Vリブドベルト10は、図7に拡大して示すように背面平プーリ3の回転軸3aを含む面に対して前記直線Ta側の角度(図中に示すγ)が90度よりも大きい角度、すなわち該背面平プーリ3へのベルト進入角度が零度よりも大きい角度で進入することになり、該Vリブドベルト10の駆動プーリ1へのベルト進入角度αは、該ベルト10が背面平プーリ3の回転軸3aを含む面に対して略垂直に進入する場合に比べて小さくなる。なお、前記図7では、Vリブドベルト10の中心線10bのみが記載されている。
【0056】
したがって、従動プーリ2と背面平プーリ3との間のベルトスパン長さL1が所定値以下の場合には、Vリブドベルト10の背面平プーリ3の外周面上での横滑りを考慮して、背面平プーリ3の回転軸3aを含む平面に対するベルト軌道の角度γ(この角度γから90度を引いた値が背面平プーリ3へのベルト進入角度に相当する)、従動プーリ2からのベルト進出角度βb及び駆動プーリ1へのベルト進入角αbに関して、下式のような補正を行う。
【0057】
γ=90+x(1−F(L)) (4)
この(4)式によって、上述の(1)式中のβbが補正されて、
βb’=βb×F(L) (5)
となり、(1)式及び(3)式は、それぞれ、
y1’=L1×tan(βb’π/180) (6)
αb’=tan-1((y1’+y2)/L1)×180/π (7)
となる。
【0058】
ここで、xは背面平プーリ3の傾き、F(L)はベルトの種類やプーリの形状等によって決まる補正関数であり、この補正関数F(L)は、例えば図9に示すような実際の従動プーリ2からのベルト進出角度β(本実施形態では3次元CADを用いて推定される角度βa)と2次元モデルでのベルト進出角度βbとの比に基づいて決められる。
【0059】
具体的には、前記補正関数F(L)は、本実施形態の場合、前記ベルトスパン長さL1が所定値よりも大きければF(L)=1となり、該ベルトスパン長さL1が所定値以下であれば、図9においてL1=185mm以下の場合の近似曲線として得られる0.0043×L1+1.929を用いる。すなわち、上記(4)式に示すx(1−F(L))が背面平プーリ3へのベルト進入角度の補正分であり、該背面平プーリ3と従動プーリ2との間のベルトスパン長さL1が所定値よりも大きければ、F(L)=1となるため、背面平プーリ3へのベルト進入角度は補正されず零のままである一方、前記ベルトスパン長さL1が所定値以下であれば、該スパン長さL1が短くなるほど背面平プーリ3へのベルト進入角度が大きくなるように補正される。
【0060】
なお、上述の図5において、本ベルト進入角度推定方法を用いて求められたベルト進入角度αbは、従動プーリ2と背面平プーリ3との間のベルトスパン長さL1が所定値以下の場合には(7)式を用いて求められ、該ベルトスパン長さL1が所定値よりも大きい場合には(3)式を用いて求められている。
【0061】
−プーリのレイアウト設計方法−
上述のようなベルト進入角度推定方法を用いることで、プーリのレイアウトを設計する段階でベルト進入角度αを推定することができ、該ベルト進入角度αが、ベルト走行時に異音を生じないような所定角度になるようにプーリのレイアウトを変更することが可能になる。以下で、そのレイアウト設計方法について図10のフローに基づいて説明する。
【0062】
まず、図10のフローがスタートすると、ステップS1で各種入力データをインプットする。この入力データは、大きく分けて2種類のデータからなるもので、後述するステップS2で行われる設計計算に必要な各プーリの寸法及び位置座標、駆動軸の回転数、各補機の負荷等のデータ(条件1)と、ステップS4で行われるベルト進入角度計算に必要な各プーリで想定される最大ミスアライメント(オフセット量、倒れ量など)のデータ(条件2)とからなる。
【0063】
そして、続くステップS2で、前記ステップS1で入力された条件1の入力データに基づいて、駆動系Tの設計計算が行われる。この設計計算では、具体的には、各プーリのレイアウト、ベルトの張力及びベルトに形成するリブ数について計算を行う。続いてステップS3では、これらの計算結果が所定の設計要件を満たしているかどうかの判定が行われ、設計要件を満たしていれば(YESの場合)、ステップS4に進む一方、設計要件を満たしていなければ(NOの場合)、ステップS6に進んでプーリのレイアウトの見直しを行って、前記ステップS2で再度、設計計算を行う。
【0064】
ここで、前記ステップS6で行うプーリのレイアウトの見直しとは、各プーリの位置等を見直すことを意味しており、このように各プーリの位置を見直すことで、Vリブドベルトの張力やリブ数が所定の設計要件を満たすようにすることができる。
【0065】
前記ステップS3でYESの場合に進むステップS4では、駆動プーリ1へのベルト進入角度αを計算する。このベルト進入角度αの計算は、設計効率の観点から、上述のように3次元モデルを作成可能な3次元CADを用いるのが好ましい。
【0066】
前記ステップS4でベルト進入角度αを計算した後、続くステップS5で、その計算結果がベルト走行時に異音を生じないような所定角度以下であるかどうかを判定し、ベルト進入角度αが所定角度以下の場合(YESの場合)には、レイアウト設計が設計要件及びベルト進入角度の要件を満たし、成立しているものと判断してこのフローを終了する。ここで、ベルト走行時に異音を生じないような角度(所定角度)とは、一般的に、0.5〜1.0度以下である。
【0067】
一方、前記ステップS5において、ベルト進入角度αが前記所定のベルト進入角度よりも大きいと判定された場合(NOの場合)には、ステップS7へ進み、プーリの位置を見直して、前記ステップS5でベルト進入角度αが所定角度以下になるように上述のステップS2〜S5の計算及び判定を繰り返し行う。
【0068】
前記ステップS7で行われるプーリの位置変更は、主に背面平プーリ3及び従動プーリ2の位置を修正するもので、該背面平プーリ3と駆動プーリ1との間のベルトスパン長さを拡げるか、若しくは従動プーリ2と背面平プーリ3との間のベルトスパン長さを狭めるか、の少なくとも一方となるようにプーリレイアウトを変更することによって、該駆動プーリ1へのベルト進入角度αを小さくすることができる。すなわち、Vリブドベルト10が背面平プーリ上のほぼ同じ幅方向位置を通る場合、前記背面平プーリ3と駆動プーリ1との間のベルトスパン長さを拡げることで、駆動プーリ1へのベルト進入角度αを相対的に小さくすることができる。また、前記背面平プーリ3と従動プーリ2との間のベルトスパン長さを狭めることによって、背面平プーリ3に対してVリブドベルト10は直線Ta(図2参照)により近い位置に進入するため、駆動プーリ1へのベルト進入角度αを相対的に小さくすることができる。
【0069】
ここで、ベルト進入角度αの計算を行う前記ステップS4がベルト進入角度推定工程に、ベルト進入角度αが所定角度よりも大きいときにプーリのレイアウトの見直しを行う前記ステップS7がレイアウト変更工程に、それぞれ対応している。
【0070】
なお、上述のように、ステップS3及びS5で、各種設計計算結果が設計要件を満たしていない場合やベルト進入角度が所定角度よりも大きい場合に、ステップS2に戻って各種設計計算を再度行うのではなく、条件を満たしていない旨の確認(若しくは表示)のみを行うようにしてもよい。これにより、設計条件が所定の設計要件やベルト進入角度の条件を満たしているかどうかを迅速に把握することができる。
【0071】
以上より、本実施形態では、駆動プーリ及び従動プーリとしてのVリブドプーリ1,2と、両者の間に配設される背面平プーリ3とに巻き掛けられたVリブドベルト10が、背面平プーリ3に対して略零度のベルト進入角度、すなわち回転軸3aを含む平面に略垂直に進入して、該背面平プーリ3の外周に沿って軸方向にずれることなく巻き付くとともに、その出側に位置する前記駆動プーリ1に対して直線状に延びる軌道を描くことを見出し、この軌道に基づいて、駆動プーリ1へのベルト進入角度αを幾何学的に推定できるようにしたため、プーリのレイアウト設計時に、従動プーリ2へのVリブドベルト10の進入角度αを考慮して設計を行うことができ、ベルト走行時の異音の発生を未然に防止することができる。
【0072】
しかも、前記ベルト進入角度αを推定する場合に、3次元CADを用いることで机上で煩雑な計算を行うことなく容易にベルト進入角度αを求めることができ、これにより、ベルト進入角度を考慮したプーリのレイアウト設計も容易に行うことができる。
【0073】
(その他の実施形態)
本発明の構成は、前記実施形態に限定されるものではなく、それ以外の種々の構成を包含するものである。すなわち、前記実施形態では、駆動プーリ1と従動プーリ2との間に、一つの背面平プーリ3が配設された駆動系Tを用いているが、これに限らず、駆動プーリ1と従動プーリ2との間に複数個の背面平プーリ3,3,…を配設するようにしていもよい。この場合でも、各背面平プーリ3に対するVリブドベルト10の軌道は、背面平プーリ3が1個の場合と同様、該背面平プーリ3の回転軸3aを含む平面(若しくは回転軸3aと平行な線分)に略垂直に進入して、該背面平プーリ3の外周に沿って巻き付くとともに、駆動プーリ1に向かって略直線状に延びる軌道を描くことになる。
【0074】
また、前記実施形態では、駆動プーリ1へのVリブドベルト10のベルト進入角度αを求めるようにしているが、この限りではなく、従動プーリ2へのベルト進入角度を求めるようにしてもよい。
【0075】
また、前記実施形態では、3次元CAD上にベルト駆動系Tをモデル化して、該3次元CAD上で駆動プーリ1へのベルト進入角度αを求めるようにしているが、この限りではなく、例えば、各プーリの位置や背面平プーリ3の最大ミスアライメント等の数値データから数値の計算結果のみを出力する数式計算用プログラムを用いてベルト進入角度αを求めるようにしてもよい。
【0076】
さらに、前記実施形態では、例えば図2に示すように、Vリブドベルト10が、各プーリ1,2,3の巻き付き開始点b,d及び終止点a,cで、ベルト幅方向に折れ曲がっているものとしてベルト進入角度αを計算しているが、これに限らず、ベルト10の幅方向の剛性を考慮して、該幅方向に円弧状に曲がるようにしてもよい。なお、当然のことではあるが、このように折れ曲がり部分を円弧状とする場合、数式計算及び3次元CADでは、その円弧部分を考慮して計算を行う必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施形態に係る駆動系の概略構成を示す(a)Vリブドベルトの進行方向に直交する方向から見た上面図、(b)正面図である。
【図2】背面平プーリが傾いている状態を示す図1(a)相当図である。
【図3】3次元CADにおける3次元モデルを示す図である
【図4】背面平プーリの傾き角を変化させた場合の、FEM解析によるベルト進入角度の解析結果と実測値とを比較した図である。
【図5】FEM解析によるベルト進入角度の解析結果と2次元モデルを用いた数式による計算結果との関係を示す図である。
【図6】2次元モデルを用いた数式計算において、計算条件を示す上面図である。
【図7】2次元モデルにおける駆動プーリ及び背面平プーリの部分を示す拡大模式図である。
【図8】従動プーリと背面平プーリとの間のベルトスパン長さを変化させた場合の駆動系の概略構成を示す正面図である。
【図9】従動プーリと背面平プーリとの間のベルトスパン長さを変化させた場合の、FEM解析による背面平プーリへのベルト進入角度の解析結果と2次元モデルを用いて数式によって求めた計算結果との関係を示す図である。
【図10】本発明に係るベルト進入角度推定方法を用いたプーリのレイアウト設計方法を示すフローチャートである。
【図11】Vリブドプーリのみからなる駆動系において、(a)Vリブドプーリがオフセットしている場合、(b)Vリブドプーリが傾いている場合、の上面図である。
【符号の説明】
【0078】
T 駆動系
a 駆動プーリの巻き付き終止点
b 背面平プーリの巻き付き開始点
c 背面平プーリの巻き付き終止点(ベルト軌道の終止点)
d 駆動プーリの巻き付き開始点
α 駆動プーリへのベルト進入角度
1 駆動プーリ(Vリブドプーリ)
2 従動プーリ(Vリブドプーリ)
3 背面平プーリ
3a 回転軸
10 Vリブドベルト
10b ベルト中心線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのVリブドプーリと、それらの間に配設された少なくとも1つの背面平プーリとにVリブドベルトが巻き掛けられたベルト伝動装置において、前記少なくとも3つのプーリのうち少なくとも1つのプーリにミスアライメントがある場合に、前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を推定する方法であって、
前記Vリブドベルトは、前記背面平プーリに対してその進入側に位置するプーリから直線的に略零度の進入角度で進入し、前記背面平プーリの外周面上に巻き付いてその幅方向にずれることなく進行して、該背面平プーリからその進出側のプーリに直線的に進行するものとして、当該Vリブドベルトの軌道を求め、
前記Vリブドベルトの軌道に基づいて前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めることを特徴とするベルト進入角度推定方法。
【請求項2】
請求項1において、
背面平プーリとそのベルト進入側に位置するVリブドプーリとの間のベルトスパン長さが所定値以下の場合には、該背面平プーリに対するVリブドベルトの進入角度を零度よりも大きくなるように補正することを特徴とするベルト進入角度推定方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一つのベルト進入角度推定方法を用いて、背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を推定するベルト進入角度推定工程と、
前記ベルト進入角度推定工程において推定したベルト進入角度が所定角度よりも大きいときに、前記Vリブドプーリと背面平プーリとの間のベルトスパン長さが拡がるか、若しくは該背面平プーリとそのベルト進入側に位置するVリブドプーリとの間のベルトスパン長さが狭まるか、の少なくとも一方となるように、プーリレイアウトを変更するレイアウト変更工程とを備えていることを特徴とするプーリのレイアウト設計方法。
【請求項4】
少なくとも2つのVリブドプーリと、該Vリブドプーリの間に配設された少なくとも1つの背面平プーリとにVリブドベルトが巻き掛けられたベルト伝動装置において、前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めるためのコンピュータプログラムであって、
前記各プーリの少なくともベルトとの接触面の一部を模擬するプーリモデルを仮想の3次元空間内に作成するプーリモデル作成ステップと、
前記Vリブドベルトは、背面平プーリに対して略零度の進入角度で進入し、該背面平プーリの外周面上で巻き付いてその幅方向にずれることなく周方向に進行するものとして、前記プーリモデル作成ステップによって作成された各プーリモデルを用いてVリブドベルトの軌道を前記仮想の3次元空間内で計算するベルト軌道演算ステップと、
前記ベルト軌道演算ステップによって計算されたVリブドベルトの軌道に基づいて前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めるベルト進入角度演算ステップとを備えていることを特徴とするベルト進入角度推定プログラム。
【請求項5】
請求項4において、
ベルト軌道演算ステップでは、
互いに隣り合う2つのプーリ間のVリブドベルトの軌道を、それら2つのプーリのモデルの外周面にそれぞれ接する線分として表すものとし、
背面平プーリとそのベルト進入側に位置する進入側Vリブドプーリとの間のベルトスパンの軌道は、Vリブドプーリモデルの外周面の幅方向所定位置を通り、且つ背面平プーリモデルの外周面においてその回転軸と平行な線分に直交する線分として計算する一方、
背面平プーリに巻き付いて進行するVリブドベルトの軌道は、背面平プーリモデルの外周面上を幅方向にずれることなく周方向に延びる円弧として計算し、
背面平プーリとそのベルト進出側に位置する進出側Vリブドプーリとの間のベルトスパンの軌道は、前記円弧として計算したベルト軌道の終止点と、前記進入側Vリブドプーリモデルの外周面の幅方向所定位置に対応する進出側Vリブドプーリモデルの外周面の所定位置とを結ぶ線分として計算することを特徴とするベルト進入角度推定プログラム。
【請求項6】
請求項5において、
ベルト軌道演算ステップでは、
背面平プーリとそのベルト進出側に位置する別の背面平プーリとの間のベルトスパンの軌道は、相対的にベルト進入側に位置する前記背面平プーリのモデルの外周面におけるベルト軌道の終止点を通り、相対的にベルト進出側に位置する前記別の背面平プーリのモデルの外周面においてその回転軸と平行な線分に直交する線分として計算することを特徴とするベルト進入角度推定プログラム。
【請求項1】
少なくとも2つのVリブドプーリと、それらの間に配設された少なくとも1つの背面平プーリとにVリブドベルトが巻き掛けられたベルト伝動装置において、前記少なくとも3つのプーリのうち少なくとも1つのプーリにミスアライメントがある場合に、前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を推定する方法であって、
前記Vリブドベルトは、前記背面平プーリに対してその進入側に位置するプーリから直線的に略零度の進入角度で進入し、前記背面平プーリの外周面上に巻き付いてその幅方向にずれることなく進行して、該背面平プーリからその進出側のプーリに直線的に進行するものとして、当該Vリブドベルトの軌道を求め、
前記Vリブドベルトの軌道に基づいて前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めることを特徴とするベルト進入角度推定方法。
【請求項2】
請求項1において、
背面平プーリとそのベルト進入側に位置するVリブドプーリとの間のベルトスパン長さが所定値以下の場合には、該背面平プーリに対するVリブドベルトの進入角度を零度よりも大きくなるように補正することを特徴とするベルト進入角度推定方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一つのベルト進入角度推定方法を用いて、背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を推定するベルト進入角度推定工程と、
前記ベルト進入角度推定工程において推定したベルト進入角度が所定角度よりも大きいときに、前記Vリブドプーリと背面平プーリとの間のベルトスパン長さが拡がるか、若しくは該背面平プーリとそのベルト進入側に位置するVリブドプーリとの間のベルトスパン長さが狭まるか、の少なくとも一方となるように、プーリレイアウトを変更するレイアウト変更工程とを備えていることを特徴とするプーリのレイアウト設計方法。
【請求項4】
少なくとも2つのVリブドプーリと、該Vリブドプーリの間に配設された少なくとも1つの背面平プーリとにVリブドベルトが巻き掛けられたベルト伝動装置において、前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めるためのコンピュータプログラムであって、
前記各プーリの少なくともベルトとの接触面の一部を模擬するプーリモデルを仮想の3次元空間内に作成するプーリモデル作成ステップと、
前記Vリブドベルトは、背面平プーリに対して略零度の進入角度で進入し、該背面平プーリの外周面上で巻き付いてその幅方向にずれることなく周方向に進行するものとして、前記プーリモデル作成ステップによって作成された各プーリモデルを用いてVリブドベルトの軌道を前記仮想の3次元空間内で計算するベルト軌道演算ステップと、
前記ベルト軌道演算ステップによって計算されたVリブドベルトの軌道に基づいて前記背面平プーリからVリブドプーリへのベルト進入角度を求めるベルト進入角度演算ステップとを備えていることを特徴とするベルト進入角度推定プログラム。
【請求項5】
請求項4において、
ベルト軌道演算ステップでは、
互いに隣り合う2つのプーリ間のVリブドベルトの軌道を、それら2つのプーリのモデルの外周面にそれぞれ接する線分として表すものとし、
背面平プーリとそのベルト進入側に位置する進入側Vリブドプーリとの間のベルトスパンの軌道は、Vリブドプーリモデルの外周面の幅方向所定位置を通り、且つ背面平プーリモデルの外周面においてその回転軸と平行な線分に直交する線分として計算する一方、
背面平プーリに巻き付いて進行するVリブドベルトの軌道は、背面平プーリモデルの外周面上を幅方向にずれることなく周方向に延びる円弧として計算し、
背面平プーリとそのベルト進出側に位置する進出側Vリブドプーリとの間のベルトスパンの軌道は、前記円弧として計算したベルト軌道の終止点と、前記進入側Vリブドプーリモデルの外周面の幅方向所定位置に対応する進出側Vリブドプーリモデルの外周面の所定位置とを結ぶ線分として計算することを特徴とするベルト進入角度推定プログラム。
【請求項6】
請求項5において、
ベルト軌道演算ステップでは、
背面平プーリとそのベルト進出側に位置する別の背面平プーリとの間のベルトスパンの軌道は、相対的にベルト進入側に位置する前記背面平プーリのモデルの外周面におけるベルト軌道の終止点を通り、相対的にベルト進出側に位置する前記別の背面平プーリのモデルの外周面においてその回転軸と平行な線分に直交する線分として計算することを特徴とするベルト進入角度推定プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−112569(P2006−112569A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302132(P2004−302132)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
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