説明

X線コンピュータ断層撮影装置

【課題】 一連の撮影シーケンスにおいて撮影部位毎に画像SDを設定可能とすることで、被検体の被爆を低減させると共に、撮影時間の短縮及び撮影者の作業負担を低減させることができるX線コンピュータ断層撮影装置を提供すること。
【解決手段】 スキャノグラム上に、複数の部位別領域を設定し、部位別領域毎の画像SDの値を設定する。管電流計算部37は、管電流パターン保管部41内の管電流パターンと、各部位別領域の画像SDの値、各部位別領域内のスキャノグラムの各位置でのCT値に基づいて、各位置における管電流値を計算する。スキャンコントローラ30は、計算された各位置における管電流値に従って、X線曝射を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部位毎に画像SD(Standard Deviation:標準偏差)を指定することにより、一度のヘリカルスキャンにて異なる部位に対して適切な管電流(mA)を設定することが可能なX線コンピュータ断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、X線コンピュータ断層撮影装置は、X線が被検体内で受けた吸収量に基づいて臓器等の組織のX線吸収率を水のそれを基準としたCT値という指標として計算(再構成)することによって画像(断層像)を得るものである。
【0003】
再構成した画像には画像ノイズが不可避である。画像ノイズは、典型的には均質ファントム像のCT値のばらつきを標準偏差として定義し、通常、画像SDと称される。再構成した画像を観察して診断を下すには、例えば画像上の陰影がノイズなのか、腫瘍なのかを区別するために、その画像が固有する画像SDを考慮する必要がある。
【0004】
図8は、従来のreal ECと呼ばれる技術を説明するための図である。従来のreal ECとは、対応する位置のスキャノ像のCT値から、指定した画像SDに対して管電流(mA)を自動計算するものである。この技術は、各位置で指定した画像SDとなるように、管電流が決定される。従って、患者の体系によらず、均一な画質の画像を取得することができ、また、一定の管電流で収集する場合に比して、被検体の被爆を低減させることができる。
【0005】
ところで、この画像SDは、主には管電流と被検体との関係で決まるX線の透過線量に依存する傾向が強い。そのため、臨床上要求される画質を得るための画像SDは、撮影部位や診断対象となる腫瘍等により異なる。この様な一般的事情を考慮すると、被爆低減の観点からすれば、一連のシーケンスにおいて、撮影部位毎に画像SDを設定できることが好ましい。
【0006】
しかしながら、従来のシステムにおいては、一連のシーケンスにおいて、撮影部位毎に画像SDを設定することはできない。そのため、さらなる被爆低減のため、撮影部位毎に画像SDを変更しようとすると、ヘリカルスキャンを分割して実行し、各スキャンについて個別の画像SDを指定することになる。これは、撮影のための時間と手間が増えることに加えて、各スキャンにおいてX線曝射領域を再構成範囲より広くする必要があるため、かえって被爆を増加させてしまう可能性がある。
【0007】
なお、本願に関連する文献については、例えば次のようなものがある。
【特許文献1】特開2003−33346号公報
【特許文献2】特開平9−313476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のシステムにおいては、一連のシーケンスにおいて、撮影部位毎に画像SDを設定することはできない。そのため、さらなる被爆低減のため、撮影部位毎に画像SDを変更しようとすると、ヘリカルスキャンを分割して実行し、各スキャンについて個別の画像SDを指定することになる。これは、撮影のための時間と手間が増えることに加えて、各スキャンにおいてX線曝射領域を再構成範囲より広くする必要があるため、かえって被爆を増加させてしまう可能性がある。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、一連の撮影シーケンスにおいて撮影部位毎に画像SDを設定可能とすることで、被検体の被爆を低減させると共に、撮影時間の短縮及び撮影者の作業負担を低減させることができるX線コンピュータ断層撮影装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0011】
本発明の第1の視点は、被検体を載置する天板を連続的に移動させると共に、X線管によってX線を曝射しながら前記被検体の周囲を連続的に回転することにより、前記被検体の体軸方向に関する任意範囲の投影データを収集する撮影手段と、被検体のCT画像を各部位に対応した複数の部位領域について固有の画質レベルを設定する画質レベル設定手段と、前記各画質レベルに基づいて、前記各部位領域内の複数の位置に対応する複数のX線条件を計算する計算手段と、前記計算によって得られたX線条件に基づいて前記X線管によるX線曝射を実行して、前記複数の部位領域の投影データ収集を連続的に行うように制御する制御手段と、を具備することを特徴とするX線コンピュータ断層撮影装置である。
【0012】
本発明の第2の視点は、被検体を載置する天板を連続的に移動させると共に、X線管によってX線を曝射しながら前記被検体の周囲を連続的に回転することにより、前記被検体の体軸方向に関する任意範囲の投影データを収集する撮影手段と、被検体のスキャノグラムを各部位に対応した複数の部位領域に分割し、前記各部位領域について固有の画像SD値を設定する画像SD値設定手段と、各CT値と各X線条件とを対応付けた第1のX線条件情報を、画像SD値毎に記憶する記憶手段と、前記各部位領域内の前記複数の位置のそれぞれにおける前記スキャノグラムのCT値と、設定された前記各部位領域についての前記画像SD値と、前記第1のX線条件とに基づいて、前記各部位領域内の複数の位置に対応する複数のX線条件を計算する計算手段と、前記計算によって得られたX線条件に基づいて前記X線管によるX線曝射を実行して、前記複数の部位領域の投影データ収集を連続的に行うように制御する制御手段と、を具備することを特徴とするX線コンピュータ断層撮影装置である。
【発明の効果】
【0013】
以上本発明によれば、一連の撮影シーケンスにおいて撮影部位毎に画像SDを設定可能とすることで、被検体の被爆を低減させると共に、撮影時間の短縮及び撮影者の作業負担を低減させることができるX線コンピュータ断層撮影装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0015】
以下、図面を参照して本発明によるX線コンピュータ断層撮影装置の実施形態を説明する。なお、X線コンピュータ断層撮影装置には、X線管とX線検出器とが1体として被検体の周囲を回転する回転/回転(ROTATE/ROTATE)タイプと、リング状に多数の検出素子がアレイされ、X線管のみが被検体の周囲を回転する固定/回転(STATIONARY/ROTATE)タイプ等様々なタイプがあり、いずれのタイプでも本発明を適用可能である。ここでは、現在、主流を占めている回転/回転タイプとして説明する。
【0016】
また、1スライスの断層像データを再構成するには、被検体の周囲1周、約360°分の投影データが、またハーフスキャン法でも180°+ビュー角分の投影データが必要とされる。いずれの再構成方式にも本発明を適用可能である。ここでは、前者を例に説明する。
【0017】
また、入射X線を電荷に変換するメカニズムは、シンチレータ等の蛍光体でX線を光に変換し更にその光をフォトダイオード等の光電変換素子で電荷に変換する間接変換形と、X線による半導体内の電子正孔対の生成及びその電極への移動すなわち光導電現象を利用した直接変換形とが主流である。X線検出素子としては、それらのいずれの方式を採用してもよいが、ここでは、前者の間接変換形として説明する。
【0018】
また、近年では、X線管とX線検出器との複数のペアを回転フレームに搭載したいわゆる多管球型のX線コンピュータ断層撮影装置の製品化が進み、その周辺技術の開発が進んでいる。本発明では、従来からの一管球型のX線コンピュータ断層撮影装置であっても、多管球型のX線コンピュータ断層撮影装置であってもいずれにも適用可能である。ここでは、一管球型として説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置のブロック構成を示した図である。このX線コンピュータ断層撮影装置は、架台1、寝台2、計算機システム3から構成されている。
【0020】
架台1は、被検体Pに関する投影データを収集するために構成されたものであり、X線管10、回転フレーム12、高電圧発生器21、スリット22、X線検出器23、データ収集装置24、架台駆動装置25を具備している。
【0021】
回転フレーム12は、Z軸を中心として回転駆動されるリングであり、X線管10とX線検出器23とを搭載している。この回転フレーム12の中央部分は開口されており、この開口部に、寝台2の天板2a上に載置された被検体Pが挿入される。
【0022】
架台駆動装置25は、回転フレーム12を回転駆動する。この回転駆動により、X線管10とX線検出器23とが対向しながら、被検体の体軸中心に螺旋状に回転することになる。
【0023】
スリット22は、X線管10と回転フレーム12の開口部との間に設けられ、スライス厚に応じてX線管10から曝射されるX線ビームの形状をコーン状(四角錐状)又はファンビーム状に整形する。
【0024】
X線管10は、X線を発生する真空管であり、回転フレーム12に設けられている。当該X線管10には、X線の曝射に必要な電力(管電流、管電圧)が高電圧発生器21からスリップリング(図示せず)を介して供給される。X線管10は、供給された高電圧により電子を加速させターゲットに衝突させることで、有効視野領域FOV内に載置された被検体に対してX線を曝射する。
【0025】
高電圧発生器21は、スリップリング(図示せず)を介して、X線の曝射に必要な電力をX線管10に供給する装置であり、高電圧変圧器、フィラメント加熱変換器、整流器、高電圧切替器等から成る。
【0026】
X線検出器23は、被検体を透過したX線を検出する検出器システムであり、X線管10に対向する向きで回転フレーム12に取り付けられている。当該X線検出器23は、シングルスライスタイプ又はマルチスライスタイプの検出器であり、シンチレータとフォトダイオードとの組み合わせで構成される複数の検出素子が、それぞれのタイプに応じた形態にて配列されている。すなわち、X線検出器23がシングルスライスタイプであれば、例えば0.5mm×0.5mmの正方の受光面を有する複数のX線検出素子が916個チャンネル方向に一列に配列される。また、X線検出器23がマルチスライスタイプであれば、例えば素子列がスライス方向に40列並設される。
【0027】
データ収集装置24は、一般的にDAS(data acquisition system) と呼ばれ、検出器23からチャンネルごとに出力される信号を電圧信号に変換し、増幅し、さらにディジタル信号に変換する。このデータ(生データ)は架台外部の計算機手段3に取り込まれる。計算機手段3の前処理手段34は、データ収集装置24から出力される生データに対して感度補正等の補正処理を施して投影データを出力する。この投影データは計算機システム3のデータ記憶装置35に送られ記憶される。
【0028】
寝台2には天板2aをその長軸(回転軸と平行)の方向に関して移動するための天板駆動部2bが装備されている。天板駆動部2bは、天板2aの位置を検出するためのロータリーエンコーダ等の天板位置検出部が有している。
【0029】
計算機システム3は、システムコントローラ29、スキャンコントローラ30、前処理手段34、データ記憶装置35、再構成手段36、管電流計算部37、ディスプレイ38、入力部39、管電流補正部40、管電流パターン保管部41、パラメータ保管部42、計画補助システム43、送受信部44を具備している。
【0030】
システムコントローラ29は、計算機手段3において実行される信号処理、画像処理等についての統括的な制御を行う。
【0031】
スキャンコントローラ30は、撮影処理に関する統括的な制御を行う。例えば、撮影処理においては、スキャンコントローラ30は、予め入力されたスライス厚等のスキャン条件を内部メモリに格納し、患者ID等によって自動的に選択されたスキャン条件(あるいは、マニュアルモードにおいて、入力部39から直接設定されたスキャン条件)に基づいて、高電圧発生器21、寝台駆動部(図示せず)、架台駆動部25、及び寝台2の天板2aの体軸方向への送り量、送り速度、X線管10及びX線検出器23の回転速度、回転ピッチ、及びX線の曝射タイミング等を制御し、被検体の所望の撮影領域に対して多方向からX線コーンビーム又はX線ファンビームを曝射させ、X線CT画像の撮影処理を行う。
【0032】
前処理手段34は、非接触データ伝送装置(図示せず)を介して、データ収集装置24から生データを受け取り、感度補正やX線強度補正を実行する。各種補正を受けた360度分の生データは、データ記憶装置35に一旦記憶される。なお、当該前処理手段34によって前処理が施された生データは、「投影データ」と呼ばれる。
【0033】
データ記憶装置35は、生データ、投影データ、スキャノグラムデータ、断層像データ等の画像データや、検査計画のためのプログラム等を記憶する。
【0034】
再構成手段36は、複数種類の再構成法を装備し、操作者から選択された再構成法により画像データを再構成する。複数種類の再構成法には、例えば、ファンビーム再構成法(ファンビーム・コンボリューション・バックプロジェクション法ともいう)、再構成面に対して投影レイが斜めに交差する場合の再構成法として、コーン角が小さいことを前提として畳み込みの際にはファン投影ビームとみなして処理し、逆投影はスキャンの際のレイに沿って処理する近似的画像再構成法としてのフェルドカンプ法と、フェルドカンプ法よりもコーン角エラーを抑える方法として再構成面に対するレイの角度に応じて投影データを補正するコーンビーム再構成法が含まれる。
【0035】
画像処理部42は、再構成手段36により生成された再構成画像データに対して、ウィンドウ変換、RGB処理等の表示のための画像処理を行い、ディスプレイ38に出力する。また、画像処理部42は、オペレータの指示に基づき、任意断面の断層像、任意方向からの投影像、3次元表面画像等のいわゆる疑似3次元画像の生成を行い、ディスプレイ38に出力する。
【0036】
計画補助システム43は、操作者によるスキャン計画の決定を対話形式で案内するために必要な機能を備えている。例えば、患者情報、検査目的、検査部位等の事項の入力を促す画面を構築し、表示し、その画面に操作者が必要事項を入力すると、それに応じたスキャン計画案を作成し、その案の選択及び修正を促す画面を構築し、表示する。スキャン計画画面には、その上部に患者情報、ガントリ情報、スキャノグラムが表示され、その下部には、スキャン条件の詳細が表示される。スキャン条件には、スキャノグラム上の枠線を連動したヘリカルスキャンの開始位置及び終了位置、スキャンモード、スキャン数、管電圧(kV)、管電流(mA)、X線管10が1回転するのに要する時間を表すスキャンスピード(括弧内は撮影時間)、再構成モード、撮影視野(FOV)、スキャンスピードで天板が移動する距離を表すヘリカルピッチ等の複数項目が含まれる。
【0037】
スキャン計画画面の管電流(mA)の項目には、管電流値を直接的に数値入力するボックスとともに、プルダウンメニューが用意されている。プルダウンメニューの選択肢には、複数の管電流値とともに、自動(Auto)が用意されている。この管電流値の自動設定とは、画質を表す指標としての画像SDを操作者が指定したとき、その指定した画像SDを実現するために必要とされる管電流値をシステム側で自動的に設定するための機能として定義される。この画像SDの指定については、SD値を直接指定したり、SD値対応付けした名前等を指定する方法等を採用することができる
また、本計画補助システム43は、スキャン計画画面に表示されるスキャノグラムを複数の領域に分割し、個々の領域に対して画像SDを設定するための機能を有している。この機能については、後で詳しく説明する。
【0038】
管電流パターン保管部41は、各CT値と各管電流値との対応パターンが、画像SDの値毎に設定された情報(管電流パターン情報)を保管している。管電流パターンは、例えば人体もしくは人体模擬ファントム(例えば、水ファントム)を利用して、予め取得される。操作者が、後述する様に、所望とする画像SDを部位別領域毎に選択したとき、その選択した画像SDに対応する管電流パターンが選択される。
【0039】
管電流計算部37は、スキャノグラム上の個々の領域に対して、計画補助システム43によって設定された各画像SDを実現するために必要な管電流値を、管電流パターン保管部41内の管電流パターンに基づいて計算する。実際には、管電流計算部37はROMであり、必要なパラメータを入力すると、それに対応する計算済みの管電流値が出力される。なお、近年、被検体を例えば楕円体と見立て、照射方向に関する被検体の厚みに依存してX線条件を変化させるモジュレーションと呼ばれる技術がある。係るモジュレーションを実行する場合には、管電流計算部37は、モジュレーションを実行するように定義された管電流パターン保管部41内の管電流パターンに基づいて管電流値を計算する。
【0040】
管電流補正部40は、管電流計算部37において計算された管電流値の時間変化が当該X線コンピュータ断層撮影装置の動作限界値を超える場合には、動作限界値を超えないように上記計算された管電流値を補正する。すなわち、例えば、画像SDが隣り合う部位別撮影領域において異なる場合、それぞれの領域で指定された画像SDを実現するために、部位別撮影領域の境界において管電流値の時間的変化が急勾配となり、当該X線コンピュータ断層撮影装置の動作限界値を超える場合がある。係る場合には、管電流補正部40は、部位別撮影領域の境界において、動作限界値を超えないように管電流値を補正する。
【0041】
ディスプレイ38は、画像処理部42から入力したコンピュータ断層画像、スキャノグラム像等のCT画像を表示する出力装置である。なお、本実施形態においては、CT画像を、「X線コンピュータ断層装置によって取得された撮影領域内の各CT値に基づいて生成された画像」と定義する。ここで、CT値とは、物質のX線吸収係数を、基準物質(例えば、水)からの相対値として表したものである。また、ディスプレイ38は、計画補助システム43によって実現されるスキャン計画画面等を表示する。
【0042】
入力部39は、キーボードや各種スイッチ、マウス等を備え、オペレータを介してスライス厚やスライス数等の各種スキャン条件を入力可能な装置である。
【0043】
送受信部44は、ネットワークNを介して、他の装置と画像データ、患者情報等を送受信する。特に、送受信部44は、ネットワークNに接続されたRIS(Radiology Information System)から、当該被検体の撮影に関する情報(患者情報、診断部位、担当医が希望する画像SD等)を受信する。
【0044】
(撮影部位別の画質レベル設定機能)
次に、本X線コンピュータ断層撮影装置が有する撮影部位別の画質レベル設定機能について説明する。本機能は、一連の撮影シーケンスにおいて、撮影部位毎に画質レベルを設定可能とするものである。撮影部位毎に画質レベルが設定されると、各画質レベルを実現するために必要なX線条件が、撮影部位毎に計算され、これに従ってX線曝射に関する制御が実行される。ここで、X線条件とは、X線管電流値、X線管電圧値等の照射X線に影響する物理量を意味する。本実施形態では、説明を具体的にするため、X線条件としてX線管電流値を計算する場合を例とする。
【0045】
本実施形態では、撮影部位毎の画質レベル設定を可能とするために、「部位別領域」という概念を導入する。この「部位別領域」とは、計画補助システム43を利用してCT画像上に設定され、当該CT画像を被検体の体軸方向に対して複数の領域に分割するためのものである。
【0046】
なお、本実施形態では、説明を具体的とするため、画質レベルの設定は画像SDの設定であるとし、また、計画補助システム43を利用して部位別領域が設定されるCT画像は、本撮影(ヘリカルスキャンによる診断画像取得)に先立って取得されるスキャノグラムであるとする。
【0047】
スキャノグラム上に複数の部位別領域が設定されると、計画補助システム43を利用した所定の画面において、各部位別領域についての画像SDを設定する。管電流計算部37は、設定された画像SDに対応する管電流パターンを選択し、これと各部位別領域内のスキャノグラムのCT値に基づいて、体軸方向に沿ったスライス位置毎の管電流を計算する。本撮影においては、当該計算によって得られた管電流に従って高電圧発生器21が制御され、X線曝射が実行されることになる。
【0048】
(動作)
次に、本X線コンピュータ断層撮影装置の一連の撮影動作について、撮影部位別の画像SD設定を中心に説明する。
【0049】
図2は、本X線コンピュータ断層撮影装置の撮影において実行される処理の流れを示したフローチャートである。同図に示すように、まず、ヘリカルスキャンによる本撮影に先立って、スキャノグラムが取得され(ステップS1)、計画補助システム43を利用して、患者情報、検査目的、検査部位等の必要事項を入力することにより、スキャン計画が作成される(ステップS2)。
【0050】
次に、計画補助システム43を利用した所定画面によって、部位別撮影領域数が設定される(ステップS3)。説明を具体的にするため、ここでは、部位別撮影領域数を「3」と設定するものとする。
【0051】
部位別撮影領域数が設定されると、当該数に応じた部位別撮影領域が、スキャノグラム上に表示される。図3は、部位別撮影領域数を「3」設定することにより、スキャノグラム上に設定された三つの部位別撮影領域(同図右側)と、体軸方向に沿ったスライス位置を横軸、管電流値を縦軸とした座表系(同図左側)とを示した図である。なお、この段階でスキャノグラム上に設定された三つの部位別撮影領域の大きさは、初期設定に従って決定されている。
【0052】
次に、図3右側に示すように、部位別撮影領域間の境界線、又は部位別撮影領域の外枠をマウス操作等によって移動させることで、各部位別撮影領域を所望の大きさに設定する(ステップS4)。
【0053】
次に、部位別撮影領域毎に画像SDの値を設定する(ステップS5)。この部位別撮影領域毎に画像SDの設定は、入力部39からの入力の他、送受信部44によりネットワークNを介して取得した情報に基づいても行うことができる。例えば、図4に示すように、IDナンバー123456の患者に関して、RIS経由により異なる二つの撮影オーダー(例えば、受付番号T230、T210)が送受信部44により受信されたとする。係る場合には、管電流計算部37は、各撮影オーダーにおいて指定された撮影部位と画像SDとに基づいて、部位別撮影領域毎に画像SDの値を設定する。なお、RIS経由によって受信された二つの撮影オーダーは、撮影回数をなるべく少なくする観点から、必要に応じて一つの撮影シーケンスに統合される。
【0054】
次に、管電流計算部37は、スキャノグラム上の個々の部位別撮影領域について、計画補助システム43によって設定された各画像SDを実現するために必要な管電流値を、管電流パターン保管部41内の管電流パターンに基づいて計算する(ステップS6)。
【0055】
図5は、スキャノグラム上において大きさの決定された各部位別撮影領域(同図右側)と、部位別撮影領域毎の画像SDの値に応じて決定された管電流値のグラフ(同図左側の太線)とを示している。参考のため、図5左側において、従来の管電流値のグラフを重ねて示してある。また、モジュレーションを実行する場合には、部位別撮影領域毎の画像SDの値に応じて決定された管電流値のグラフは、例えば図6の様になる。
【0056】
なお、図5、図6の画面右側においては、例えば「画像SD−7」と言った具合に、部位別撮影領域毎に画像SD値が表示されている。画像SDの表示形態はこれに拘泥されず、例えば「腹部高精細」、「腹部低被爆」といった具合に、画質や被爆量の観点から画像SDを定量的に把握できる情報を表示するようにしてもよい。
【0057】
次に、スキャンコントローラ30は、図5のグラフに示した管電流値に従って高電圧発生器21を制御し、ヘリカルスキャンによる本撮影を実行する(ステップS7)。
【0058】
以上述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0059】
本X線コンピュータ断層撮影装置によれば、一連のスキャンシーケンスにおいて、撮影部位毎に画像SDを設定することができる。従って、特に高画質な診断画像を要する部位については高い画像SDとする一方で、診断に特に重要でない部位については、低めの画像SDを設定することができる。管電流は、各画像SDに従って決定されため、低い画像SDを設定した領域については、従来に比して管電流を低くすることができ、患者への被爆を低減させることができる。
【0060】
また、本X線コンピュータ断層撮影装置によれば、一連のスキャンシーケンスにおいて、撮影部位毎に画像SDを設定することができるので、ヘリカルスキャンを部位毎に分割して実行する必要がない。従って、従来のシステムによりヘリカルスキャンを部位毎に分割して実行した場合に比して、撮影時間の短縮、作業負担の軽減を図ることができ、さらに、患者の被爆を低減させることができる。
【0061】
以上述べた効果は、図面を用いて、例えば次のように説明することもできる。
【0062】
図7(a)は、本X線コンピュータ断層撮影装置により撮影部位毎に画像SDを設定し、一回のヘリカルスキャンを実行した場合の寝台速度と時間との関係を示しめしたグラフである。また、図7(b)は、高画質な診断画像を要する部位の画像SD(画像SD値=7)に合わせて、全ての部位についてヘリカルスキャンを行った場合の寝台速度と時間との関係を示したグラフである。さらに、図7(c)は、従来のシステムによりヘリカルスキャンを部位毎に分割し、各ヘリカルスキャン毎に画像SDを設定した場合の寝台速度と時間との関係を示したグラフである。
【0063】
図7(a)と図7(b)とを比較すると、図7(b)の場合は、全ての領域についての画像SDを高画質部位に合わせている。一方、図7(a)の場合は、前半領域(画像SD=10の領域)については、高画質が要求される後半部位よりも画像SDを高く設定している。従って、図7(a)の前半領域においては、図7(b)の場合に比して余分な被爆を低減させることができる。
【0064】
また、図7(a)と図7(c)とを比較すると、図7(c)の場合は、ヘリカルスキャンを部位毎に分割して実行しているため、全撮影についての画像収集範囲は、図7(a)の場合より長い。画像収集範囲においては、X線曝射が実行されることになるため、例えば図7(c)に示す期間T1、T2等は、図7(a)の場合に比して余分な被爆及び動作となる。
【0065】
従って、本X線コンピュータ断層撮影装置によれば、従来のシステムによりヘリカルスキャンを部位毎に分割して実行した場合に比して、撮影時間の短縮、作業負担の軽減、患者の被爆低減を実現することができる。
【0066】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0067】
例えば、上記実施形態においては、撮影部位毎に設定された画像SDを実現するように、撮影部位毎にX線条件を計算するものとした。しかしながら、これに拘泥されず、例えば被検体の体格、年齢等をも考慮して撮影部位毎にX線条件を計算するようにしてもよい。係る構成は、画像SD、体格(身長や体重)、年齢、X線条件を対応付けた管電流パターンを作成し、これを用いて撮影部位毎にX線条件を計算することで実現することができる。
【0068】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上本発明によれば、一連の撮影シーケンスにおいて撮影部位毎に画像SDを設定可能とすることで、被検体の被爆を低減させると共に、撮影時間の短縮及び撮影者の作業負担を低減させることができるX線コンピュータ断層撮影装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の構成を示している。
【図2】図2は、本X線コンピュータ断層撮影装置の撮影において実行される処理の流れを示したフローチャートである。
【図3】図3は、部位別撮影領域数を設定することにより、スキャノグラム上に設定された三つの部位別撮影領域(同図右側)と、体軸方向に沿ったスライス位置を横軸、管電流値を縦軸とした座表系(同図左側)とを示した図である。
【図4】図4は、RIS経由による部位別撮影領域毎の画像SDの入力を説明するための図である。
【図5】図5は、スキャノグラム上において大きさの決定された各部位別撮影領域(同図右側)と、部位別撮影領域毎の画像SDの値に応じて決定された管電流値のグラフ(同図左側)との一例を示している。
【図6】図6Bは、スキャノグラム上において大きさの決定された各部位別撮影領域(同図右側)と、部位別撮影領域毎の画像SDの値に応じて決定された管電流値のグラフ(同図左側)との他の例を示している。
【図7】図7(a)は、本X線コンピュータ断層撮影装置により撮影部位毎に画像SDを設定し、一回のヘリカルスキャンを実行した場合の寝台速度と時間との関係を示しめしたグラフである。図7(b)は、高画質な診断画像を要する部位の画像SD(画像SD値=7)に合わせて、全ての部位についてヘリカルスキャンを行った場合の寝台速度と時間との関係を示したグラフである。図7(c)は、従来のシステムによりヘリカルスキャンを部位毎に分割し、各ヘリカルスキャン毎に画像SDを設定した場合の寝台速度と時間との関係を示したグラフである。
【図8】図8は、従来のreal ECと呼ばれる技術を説明するための図である。
【符号の説明】
【0071】
1…架台、2…寝台、2a…天板、2b…天板駆動部、3…計算機システム、10…X線管、12…回転フレーム、21…高電圧発生器、22…スリット、23…X線検出器、24…データ収集装置、25…架台駆動装置、29…システムコントローラ、30…スキャンコントローラ、34…前処理手段、35…データ記憶装置、37…管電流計算部、36…再構成手段、38…ディスプレイ、39…入力部、41…管電流パターン保管部、41…画像処理部、43…計画補助システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を載置する天板を連続的に移動させると共に、X線管によってX線を曝射しながら前記被検体の周囲を連続的に回転することにより、前記被検体の体軸方向に関する任意範囲の投影データを収集する撮影手段と、
被検体のCT画像を各部位に対応した複数の部位領域について固有の画質レベルを設定する画質レベル設定手段と、
前記各画質レベルに基づいて、前記各部位領域内の複数の位置に対応する複数のX線条件を計算する計算手段と、
前記計算によって得られたX線条件に基づいて前記X線管によるX線曝射を実行して、前記複数の部位領域の投影データ収集を連続的に行うように制御する制御手段と、
を具備することを特徴とするX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項2】
前記X線条件は、前記X線管の管電流値又は管電圧値であることを特徴とする請求項1記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項3】
前記複数の部位領域の数は、任意に設定可能であることを特徴とする請求項1又は2記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項4】
前記各部位領域の大きさは、任意に設定可能であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項5】
各CT値と各X線条件とを対応付けた第1のX線条件情報を、画質レベル毎に記憶する記憶手段をさらに具備し、
前記計算手段は、前記各部位領域内の前記複数の位置のそれぞれにおける前記CT画像のCT値と、設定された前記各部位領域についての前記画質レベルと、前記第1のX線条件情報とに基づいて、前記各部位領域内の複数の位置に対応する複数のX線条件を計算すること、
を特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項6】
前記被検体の年齢を入力する入力手段と、
各年齢と、各CT値と、各X線条件とを対応付けた第2のX線条件情報を、画質レベル毎に記憶する記憶手段と、
をさらに具備し、
前記計算手段は、前記各部位領域内の前記複数の位置のそれぞれにおける前記CT画像のCT値と、入力された前記被検体の年齢と、設定された前記各部位領域についての前記画質レベルと、前記第2のX線条件情報とに基づいて、前記各部位領域内の複数の位置に対応する複数のX線条件を計算すること、
を特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一項記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項7】
前記画質レベル設定手段は、ネットワークを介して他の装置から受信した、前記複数の部位領域について固有の画質レベルを用いて、前記設定を行うことを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一項記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項8】
計算された前記複数のX線条件の時間的変化が前記撮影手段の動作限界値を超える場合には、前記動作限界値を超えないように前記複数のX線条件を補正する補正手段をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか一項記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項9】
被検体を載置する天板を連続的に移動させると共に、X線管によってX線を曝射しながら前記被検体の周囲を連続的に回転することにより、前記被検体の体軸方向に関する任意範囲の投影データを収集する撮影手段と、
被検体のスキャノグラムを各部位に対応した複数の部位領域に分割し、前記各部位領域について固有の画像SD値を設定する画像SD値設定手段と、
各CT値と各X線条件とを対応付けた第1のX線条件情報を、画像SD値毎に記憶する記憶手段と、
前記各部位領域内の前記複数の位置のそれぞれにおける前記スキャノグラムのCT値と、設定された前記各部位領域についての前記画像SD値と、前記第1のX線条件とに基づいて、前記各部位領域内の複数の位置に対応する複数のX線条件を計算する計算手段と、
前記計算によって得られたX線条件に基づいて前記X線管によるX線曝射を実行して、前記複数の部位領域の投影データ収集を連続的に行うように制御する制御手段と、
を具備することを特徴とするX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項10】
前記X線条件は、前記X線管の管電流値又は管電圧値であることを特徴とする請求項9記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項11】
前記複数の部位領域の数は、任意に設定可能であることを特徴とする請求項9又は10記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項12】
前記各部位領域の大きさは、任意に設定可能であることを特徴とする請求項9乃至11のうちいずれか一項記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項13】
前記被検体の年齢を入力する入力手段と、
各年齢と、各CT値と、各管電流値とを対応付けた第2のX線条件情報を、画像SD値毎に記憶する記憶手段と、
をさらに具備し、
前記計算手段は、前記各部位領域内の前記複数の位置のそれぞれにおける前記CT画像のCT値と、入力された前記被検体の年齢と、設定された前記各部位領域についての前記画像SD値と、前記第2のX線条件情報とに基づいて、前記各部位領域内の複数の位置に対応する複数のX線条件を計算すること、
を特徴とする請求項9乃至12のうちいずれか一項記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項14】
前記画像SD設定手段は、ネットワークを介して他の装置から受信した、前記複数の部位領域について固有の画像SD値を用いて、前記設定を行うことを特徴とする請求項9乃至13のうちいずれか一項記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項15】
計算された前記複数のX線条件の時間的変化が前記撮影手段の動作限界値を超える場合には、前記動作限界を超えないように前記複数のX線条件を補正する補正手段をさらに具備することを特徴とする請求項9乃至14のうちいずれか一項記載のX線コンピュータ断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−55635(P2006−55635A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211513(P2005−211513)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】