説明

X線分析装置及びX線分析方法

【課題】X線分析を行うのに好適なX線分析装置及びX線分析方法を提供する。
【解決手段】照射X線用の開口部36と参照X線用の孔38とが形成されたマスク18と、供試体20を支持する支持部19と、マスクを介して供試体にX線を照射することにより得られるホログラム像を取得する2次元X線検出器22とを有し、マスクと支持部とが相対的に移動自在である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分析装置及びX線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、X線ホログラフィ測定が注目されている(被特許文献1)。
【0003】
X線ホログラフィ測定とは、コヒーレントX線の波面を2つに分割し、試料を透過したX線(物体光)と試料を透過しないX線(参照光)とを遠方の検出面で重ね合わせ、その干渉縞をホログラムとして記録する方法である。
【0004】
ホログラムには位相情報も記録されているため、フーリエ変換を行うことで、実空間像を一義的に求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−323543号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Eisebitt et al., “Lensless imaging of magnetic nanostructures by X-ray spectro-holography,” Nature, vol. 432, p. 885-888 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、提案されているX線ホログラフィ測定では、ホログラフィ測定を迅速且つ容易に行うことはできなかった。
【0008】
本発明の目的は、X線ホログラフィ測定を行うのに好適なX線分析装置及びX線分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の一観点によれば、照射X線用の開口部と参照X線用の孔とが形成されたマスクと、供試体を支持する支持部と、前記マスクを介して前記供試体にX線を照射することにより得られるホログラム像を取得する2次元X線検出器とを有し、前記マスクと前記支持部とが相対的に移動自在であることを特徴とするX線分析装置が提供される。
【0010】
実施形態の他の観点によれば、照射X線用の開口部と参照X線用の孔とが形成されたマスクと、支持部により支持された供試体との位置合わせを行うステップと、前記マスクを介して前記供試体にX線を照射することにより得られるホログラム像を2次元X線検出器により取得するステップとを有することを特徴とするX線分析方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
開示のX線分析装置及びX線分析方法によれば、供試体と別個にマスクが設けられており、供試体を支持する支持部とマスクとが相対的に移動自在であるため、所望の被測定箇所についてのホログラム像を迅速且つ容易に取得することができる。しかも、供試体に電圧を印加するための電極がマスクに設けられているため、供試体に電圧を印加しながら測定を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態によるX線分析装置を示すブロック図である。
【図2】一実施形態によるX線分析装置の一部を拡大して示す断面図である。
【図3】一実施形態によるX線分析装置のマスクの一部を示す斜視図である。
【図4】強誘電体キャパシタに電圧を印加する場合の例を示す斜視図である。
【図5】一実施形態によるX線分析方法の一例を示すフローチャートである。
【図6】X線のエネルギーとPZTの分極反転による(111)回折ピーク強度の変化との関係を示すグラフ(その1)である。
【図7】X線のエネルギーとPZTの分極反転による(111)回折ピーク強度の変化との関係を示すグラフ(その2)である。
【図8】参照X線が供試体内を通過することの影響についてのシミュレーション結果を示す図である。
【図9】一実施形態によるX線分析装置による測定結果を示す図である。
【図10】参考例によるX線分析方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図10は、参考例によるX線分析方法を示す断面図である。
【0014】
図10に示すように、基板130の一方の面側には、供試体(サンプル)120が設けられている。基板130の他方の面側には、X線吸収層132が形成されている。
【0015】
X線吸収層132及び基板130には、供試体120にX線を照射するための開口部136が形成されている。
【0016】
X線吸収層132、基板130及び供試体120には、参照X線となるX線を通すための孔138が形成されている。孔138は、X線吸収層132、基板130及び供試体120を貫通している。
【0017】
X線吸収層132が設けられている側からX線146を照射すると、供試体120にX線146を照射して得られる回折X線148と参照X線150とが干渉して得られるホログラム像が、2次元X線検出器122により検出される。
【0018】
しかしながら、図10に示すX線分析方法では、供試体120が設けられた基板130にX線遮蔽層132を形成し、供試体120にX線を照射するための開口部136をX線遮蔽層132及び基板130に形成することが必要である。また、参照X線となるX線を通すための孔138をX線遮蔽層132、基板130及び供試体120に形成しなければならない。微細な開口部136を、X線遮蔽層132及び基板130を貫通するように形成することは、容易ではない。特に、微細な孔138を、X線遮蔽部132、基板130及び供試体120を貫通するように形成することは、非常に困難である。また、開口部136や孔138を形成する際に、供試体120にダメージが加わってしまう場合もある。また、図10に示すX線分析方法では、開口部136が形成された箇所についての測定しかできず、供試体120の様々な箇所についての測定はできなかった。
【0019】
[一実施形態]
一実施形態によるX線分析装置及びX線分析方法を図1乃至図9を用いて説明する。
【0020】
(X線分析装置)
まず、本実施形態によるX線分析装置について図1乃至図3を用いて説明する。図1は、本実施形態によるX線分析装置を示すブロック図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態によるX線分析装置では、X線源10から照射されたX線が、モノクロメータ12、シャッタ14、照射領域制限手段16及びマスク18を介して、支持部19により支持された供試体(サンプル)20に照射されるようになっている。そして、供試体20にX線を照射して得られる回折X線(物体光、物体波、信号光)と参照X線(参照光、参照波)とを干渉させて得られるホログラム像が、2次元X線検出器22により検出されるようになっている。
【0022】
X線源10としては、例えば、放射光施設やX線管等が用いられる。X線源10からは例えば白色X線が照射される。
【0023】
X線源10には、X線源10を制御するX線源制御部24が接続されている。X線源制御部24は、X線源10のオン・オフの制御、X線放射量の制御等を行う。
【0024】
X線の進行経路には、モノクロメータ12が設けられている。モノクロメータ12は、X線源10から放射される白色X線を単色化するものである。モノクロメータ12としては、例えば単結晶シリコンが用いられる。
【0025】
モノクロメータ12には、モノクロメータ12を回動させるモノクロメータ用の駆動機構(図示せず)が設けられている。かかる駆動機構は、例えば駆動機構制御部26により制御される。
【0026】
モノクロメータ12により単色化されたX線の進行経路には、シャッタ14及び照射領域制限手段16が設けられている。
【0027】
シャッタ14は、ホログラム像を取得する時に開き、それ以外の時にはX線を遮るものである。シャッタ14は、例えば検出制御部28により制御される。
【0028】
照射領域制限手段16は、X線の照射領域を制限するためのものである。照射領域制限手段16には、X線を通すためのピンホール(開口部)17が形成されている。ピンホール17が十分に小さいため、コヒーレント性を有するX線を取り出すことが可能である。ピンホール17のサイズは、例えば10μmφとする。照射領域制限手段16の材料としては、例えば鉛、白金等の重金属を用いる。照射領域制限手段16には、照射領域制限手段16をX方向、Y方向に駆動し得る照射領域制限手段用の駆動機構(図示せず)が設けられている。かかる駆動機構は、駆動機構制御部26により制御される。なお、X方向は、図1における紙面左右方向であり、Y方向は、図1における紙面垂直方向である。
【0029】
図2は、本実施形態によるX線分析装置の一部を拡大して示す断面図である。
【0030】
図2に示すように、マスク18は、基板30と、基板30の一方の面側に形成されたX線吸収層32と、基板30の他方の面に形成された電極34a、34bとを有している。X線吸収層32は、照射領域制限手段16に対向する側に位置する。電極34a、34bは、供試体20に対向する側に位置する。電極34a、34bは、供試体20に電圧を印加するためのものである。X線吸収層32の材料としては、例えば金や白金等を用いる。X線吸収層32の厚さは、例えば0.5〜10μm程度とする。基板30の材料としては、例えばSi、SiN、SiC等を用いる。基板30の厚さは、例えば0.1〜2μm程度とする。電極34a、34bの材料としては、例えば金、白金、タングステン等を用いる。電極34a、34bは、導電膜をパターニングすることにより形成することができる。
【0031】
なお、電極34a、34bは、プローブ状のものであってもよい。また、電極34a、34bに突起を形成するようにしてもよい。
【0032】
図3(a)は、本実施形態によるX線分析装置のマスクの一部を示す斜視図である。図3(b)は、図3(a)において丸印で囲んだ部分を拡大して示したものである。
【0033】
図3に示すように、マスク18には、基板34a、34b及びX線吸収層32を貫通する照射X線用の開口部(窓)36が形成されている。開口部36は、供試体20の被測定箇所に照射されるX線(照射X線)を通すためのものである。開口部36のサイズは、例えば2μm×2μm程度とする。
【0034】
また、図3に示すように、マスク18には、基板30及びX線吸収層32を貫通する参照X線用の孔38が形成されている。孔38は、参照X線(参照光)となるX線を通すためのものである。孔38のサイズは、例えば0.1μmφとする。
【0035】
開口部36や孔38は、例えば集束イオンビーム(FIB、Focused Ion Beam)を用いて形成することが可能である。
【0036】
マスク18には、マスク18をX方向、Y方向に移動し得るとともに、マスクを回転させ得るマスク用の駆動機構(図示せず)が設けられている。かかる駆動機構は、駆動機構制部26により制御される。
【0037】
マスク18の電極34a、34bは、配線により電圧印加手段40に電気的に接続されている。電圧印加手段40は、マスク18の電極34a、34bを介して、供試体20に電圧を印加する。電圧印加手段40は、印加する電圧の大きさや極性を変化させ得る。電圧印加手段40としては、例えばファンクションジェネレータ等を用いることができる。
【0038】
マスク18の近傍には、供試体20を支持する支持部(サンプルホルダ)19が配されている。支持部19の材料としては、例えばアルミニウム等を用いる。
【0039】
支持部19には、支持部19をX方向、Y方向、Z方向に移動し得るとともに、支持部19を回転させ得る支持部用の駆動機構(図示せず)が設けられている。かかる駆動機構は、駆動機構制御部26により制御される。なお、Z方向は、図1における紙面上下方向である。支持部19とマスク18とは相対的に移動自在である。供試体20は、例えば接着剤(図示せず)等により支持部19に固定し得る。
【0040】
照射領域制限手段16により取り出されたコヒーレント性を有するX線は、マスク18を介して供試体20に導入される。そして、供試体20にX線46(図2参照)を照射することにより得られる回折X線48(図2参照)と参照X線50(図2参照)とが干渉することにより、ホログラム像(干渉縞)が得られる。
【0041】
こうして得られるホログラム像は、2次元X線検出器22の検出面において検出される。2次元X線検出器22としては、例えばX線用CCD検出器等を用いることが可能である。
【0042】
2次元X線検出器22には、2次元X線検出器22をX方向、Y方向に駆動し得るとともに、2次元X線検出器22を回転させ得る2次元X線検出器用の駆動機構(図示せず)が設けられている。かかる駆動機構は、駆動機構制御部26により制御される。
【0043】
2次元X線検出器22は、検出制御部28により制御される。検出制御部28は、シャッタ14をも制御する。検出制御部28は、シャッタ14を開くことにより供試体20へのX線の照射を開始し、シャッタ14を閉じることにより供試体20へのX線の照射を終了する。検出制御部28は、2次元X線検出器22により検出されたX線の2次元画像を読み取ることにより、ホログラム像を取得する。
【0044】
X線源制御部24、駆動機構制御部26、検出制御部28、及び、電圧印加手段40は、本実施形態によるX線分析装置の全体を制御する制御処理部42により制御される。制御処理部42には、表示部44が設けられている。制御処理部42は、取得したホログラム像をフーリエ変換することによりフーリエ変換像を取得する機能をも有している。また、制御処理部42は、複数のフーリエ変換像の差分像を求める機能をも有している。制御処理部42としては、例えばパーソナルコンピュータ等を用いることができる。制御処理部42には、本実施形態によるX線分析方法を実行するコンピュータプログラムがインストールされている。制御処理部42には、データを記憶する記憶手段(図示せず)が設けられている。記憶手段としては、例えばハードディスクドライブ(HDD)やメモリ等が設けられている。
【0045】
こうして、本実施形態によるX線分析装置が構成されている。
【0046】
(X線分析方法)
次に、本実施形態によるX線分析装置を用いたX線分析方法について図1乃至図7を用いて説明する。
【0047】
まず、供試体20を支持部19により支持する。供試体20は、例えば接着剤等により支持部19に固定し得る。
【0048】
次に、マスク18の開口部36を介して供試体20の所望の被測定箇所にX線が照射されるように、マスク18と供試体20との位置合わせを行う。マスク18と供試体20との位置合わせを行う際には、支持部駆動機構のみを用いて位置合わせを行ってもよいし、マスク駆動機構のみを用いて位置合わせを行ってもよいし、支持部駆動機構とマスク駆動機構の両方を用いて位置合わせを行ってもよい。
【0049】
供試体20に電圧を印加して測定を行う場合には、マスク18の電極34a、34bを供試体20の電極52、54にそれぞれ接続する。例えば、支持部駆動機構を用いてZ方向に支持部19を移動させることにより、マスク18の電極34a、34bと供試体20の電極52、54とをそれぞれ接続することができる。
【0050】
図4は、強誘電体キャパシタに電圧を印加する場合の例を示す斜視図である。なお、図4においては、供試体20として、供試体20の一部の構成要素である強誘電体キャパシタ58のみが示されており、供試体20の他の構成要素については省略されている。
【0051】
図4に示すように、強誘電体キャパシタ58は、下部電極52と、下部電極52上に形成された強誘電体膜53と、強誘電体膜53上に形成された上部電極54とを有している。このような強誘電体キャパシタ58に電圧を印加して測定を行う場合には、例えば、マスク18の一方の電極34aを強誘電体キャパシタ58の上部電極54に接続し、マスク18の他方の電極34bを強誘電体キャパシタ58の下部電極52に接続する。
【0052】
次に、シャッタ14が閉じている状態で、X線源10をオン状態にする。
【0053】
供試体20に電圧を印加して測定を行う場合には、電圧印加手段40を用い、マスク18の電極34a、34bを介して供試体20に電圧を印加する。
【0054】
次に、所定時間だけシャッタ14を開く。これにより、マスク18を介して供試体20にX線が照射される。これにより、供試体20にX線46(図2参照)を照射することにより得られる回折X線48(図2参照)と参照X線50(図2参照)とが干渉し、ホログラム像が得られる。こうして得られるホログラム像は、2次元X線検出器22により検出される。検出したホログラム像のデータは、例えば制御処理部42の記憶手段(図示せず)に記憶される。
【0055】
次に、取得したホログラム像に対してフーリエ変換を行うことにより、フーリエ変換像を取得する。フーリエ変換は、例えば制御処理部42により行われる。
【0056】
こうして、X線ホログラフィの測定が行われる。
【0057】
供試体20の複数の被測定箇所に対してX線ホログラフィの測定を行う場合には、各々の被測定箇所にX線が順次照射されるようにマスク18の開口部36と供試体20との位置合わせを順次行い、各々の被測定箇所についてX線ホログラフィの測定を順次行う。
【0058】
供試体20に印加する電圧の大きさを変化させてX線ホログラフィの測定を行う場合には、電圧印加手段40により供試体20に印加する電圧を順次変化させ、各々の印加電圧においてX線ホログラフィの測定を順次行う。
【0059】
供試体20に印加する電圧の極性を変化させてX線ホログラフィの測定を行う場合には、まず、電圧印加手段40により第1の極性の電圧を供試体20に印加した状態でX線ホログラフィの測定を行う。この後、第1の極性の反対の第2の極性の電圧を電圧印加手段40により供試体20に印加した状態でX線ホログラフィの測定を行う。
【0060】
次に、本実施形態によるX線分析方法について、より具体的に説明する。ここでは、強誘電体を分析する場合を例に説明する。
【0061】
図5は、本実施形態によるX線分析方法の一例を示すフローチャートである。
【0062】
まず、X線源24を選択する(ステップS1)。X線源24としては、分析対象の強誘電体が分極反転する際に変位する原子の吸収端のエネルギーより少し低いエネルギーのX線を放出するX線源を選択する。例えば、分析対象の強誘電体がPb(Zr0.5Ti0.5)O(PZT)である場合には、PZTが分極反転する際に変位する原子はZrとTiである。従って、この場合には、Zr又はTiのK吸収端より少し低いエネルギーのX線を放出するX線源を選択する。
【0063】
図6は、X線のエネルギーとPZTの分極反転による(111)回折ピーク強度の変化との関係を示すグラフ(その1)である。横軸は、X線のエネルギーを示している。縦軸は、PZTの分極反転による(111)回折ピーク強度の変化を示している。
【0064】
図6から分かるように、照射するX線のエネルギーが約13keV〜約18keVのとき、分極反転による(111)回折ピーク強度に大きな変化が得られる。ZrのK吸収端は、約18keVである。このことから、ZrのK吸収端から0keV〜5keV低いエネルギーのX線を照射した際に、(111)回折ピーク強度の大きな変化が得られることが分かる。
【0065】
このことから、強誘電体がPZTの場合には、X線源として、ZrのK吸収端のエネルギーより0keV〜5keV低いエネルギーのX線を放出するX線源を選択すればよいことがわかる。
【0066】
図7は、X線のエネルギーとPZTの分極反転による(111)回折ピーク強度の変化との関係を示すグラフ(その2)である。横軸は、X線の種類を示している。横軸においては、左側から右側に行くにしたがってエネルギーが高くなっている。縦軸は、PZTの分極反転による(111)回折ピーク強度の変化量を示している。
【0067】
図7から分かるように、Mo(モリブデン)のKα線を照射した場合には、PZTの(111)回折ピーク強度の大きな変化を得ることが可能である。また、TiのKα線を照射した場合にも、PZTの(111)回折ピーク強度の大きな変化を得ることが可能である。
【0068】
従って、強誘電体としてPZTを用いる場合には、例えばMoのX線管球又はTiのX線管球を用いることができる。
【0069】
なお、X線源10は、これに限定されるものではなく、強誘電体の種類に応じて適宜選択し得る。
【0070】
また、回折ピークは、強誘電体の分極方向と直交しない指数を選択する。具体的には、強誘電体の分極方向が(001)方向の場合、(100)回折ピークや(110)回折ピークを選択しない。このような指数の回折ピークを選択すると、分極反転しているにもかかわらず、ホログラム像が変化しないためである。
【0071】
次に、供試体20を支持部19により支持する(ステップS2)。
【0072】
次に、マスク18の開口部36を介して供試体20の強誘電体キャパシタ58の強誘電体膜53にX線が照射されるように、マスク18と供試体20との位置合わせを行う(ステップS3)。
【0073】
次に、マスク18の一方の電極34aを強誘電体キャパシタ58の上部電極54に接続し、マスク18の他方の電極34bを強誘電体キャパシタ58の下部電極52に接続する(ステップS4)。
【0074】
次に、シャッタ14が閉じている状態で、X線源19をオン状態にする。
【0075】
次に、電圧印加手段40を用い、マスク18の電極34a、34bを介して、強誘電体キャパシタ58に第1の極性の電圧を印加する(ステップS5)。具体的には、電圧印加手段40の出力電圧のプラス側を、マスク18の電極34aを介して、強誘電体キャパシタ58の上部電極54に接続する。また、電圧印加手段40の出力電圧のマイナス側を、マスク18の電極34bを介して、強誘電体キャパシタ58の下部電極52に接続する。
【0076】
次に、所定時間だけシャッタ14を開く。これにより、マスク18を介して供試体20にX線が照射される。これにより、供試体20にX線46(図2参照)を照射することにより得られる回折X線48(図2参照)と参照X線50(図2参照)とが干渉し、ホログラム像(第1のホログラム像)が得られる(ステップS6)。こうして得られる第1のホログラム像は、2次元X線検出器22により検出される。第1のホログラム像のデータは、例えば制御処理部42に設けられたメモリやHDD等の記憶部(図示せず)に記憶される。
【0077】
次に、取得した第1のホログラム像に対してフーリエ変換を行う。フーリエ変換は、例えば制御処理部42により行われる。こうして、第1のホログラム像がフーリエ変換された第1のフーリエ変換像が取得される(ステップS7)。第1のフーリエ変換像のデータは、例えば制御処理部42に設けられたメモリやHDD等の記憶部(図示せず)に記憶される。
【0078】
次に、強誘電体キャパシタ58に印加する電圧の極性を反転させる(ステップS8)。具体的には、電圧印加手段40の出力電圧のマイナス側を、マスク18の電極を介して、強誘電体キャパシタ58の上部電極54に接続する。また、電圧印加手段40の出力電圧のプラス側を、マスク18の電極34bを介して、強誘電体キャパシタ58の下部電極52に接続する。
【0079】
次に、所定時間だけシャッタ14を開く。これにより、マスク18を介して供試体20にX線が照射される。これにより、供試体20にX線46(図2参照)を照射することにより得られる回折X線48(図2参照)と参照X線50(図2参照)とが干渉し、ホログラム像(第2のホログラム像)が得られる。こうして得られる第2のホログラム像は、2次元X線検出器22により検出される(ステップS9)。第2のホログラム像のデータは、例えば制御処理部42に設けられたメモリやHDD等の記憶部(図示せず)に記憶される。
【0080】
次に、取得した第2のホログラム像に対してフーリエ変換を行う。フーリエ変換は、例えば制御処理部42により行われる。こうして、第2のホログラム像がフーリエ変換された第2のフーリエ変換像が取得される(ステップS10)。第2のフーリエ変換像のデータは、例えば制御処理部42に設けられたメモリやHDD等の記憶部(図示せず)に記憶される。
【0081】
次に、第1のフーリエ変換像と第2のフーリエ変換像との差分像を求める(ステップS11)。差分像の取得は、例えば制御処理部42により行われる。
【0082】
次に、例えば制御処理部42により、求められた差分像のうちから差分値が0の箇所を抽出する(ステップS12)。差分値が0の箇所は、分極反転が生じていない箇所である。従って、差分値が0の箇所を抽出することにより、分極反転が生じていない箇所を特定することができる。
【0083】
なお、供試体20の複数の被測定箇所についてX線ホログラフィの測定を行う場合には、各々の被測定箇所にX線が順次照射されるようにマスク18の開口部36と供試体20との位置合わせを順次行い、各々の被測定箇所についてX線ホログラフィの測定を順次行う。
【0084】
また、供試体20に印加する電圧の極性を変化させるのみならず、印加する電圧の大きさをも変化させる場合には、電圧印加手段40により供試体20に印加する電圧を順次変化させ、各々の印加電圧においてX線ホログラフィの測定を順次行う。
【0085】
また、複数の強誘電体キャパシタ58に対してX線ホログラフィの測定を順次行う場合には、各々の強誘電体キャパシタ58に対してX線が順次照射されるようにマスク18の開口部36と供試体20との位置合わせを順次行う。そして、各々の強誘電体キャパシタ58に対して順次電圧を印加し、各々の強誘電体キャパシタ58についてX線ホログラフィの測定を順次行う。
【0086】
こうして、本実施形態によるX線分析方法が完了する。
【0087】
(評価結果)
次に、本実施形態によるX線分析装置及びX線分析方法の評価結果について図8を用いて説明する。
【0088】
図8は、参照X線が供試体内を通過することの影響についてのシミュレーション結果を示す図である。
【0089】
供試体20としては、Eという文字パターンを用いた。文字パターンの外径寸法は、縦を1μm、横を0.6μmとした。文字パターンの線幅は、0.2μmとした。マスク18の開口部36と孔38との間の距離は、4μmとした。マスク18の孔38のサイズは、0.1μm×0.1μmとした。照射するX線のエネルギーは、779eVとした。2次元X線検出器22のピクセル数は、128ピクセル×128ピクセルとした。2次元X線検出器22の1ピクセルのサイズは、104μm×104μmとした。
【0090】
シミュレーションにおいては、以下のようなフルネル・キルヒホッフの回折積分式(M. Born and E. Wolf, “Principles of Optics, Sixth Edition”, Pergamon Press, Oxford, 1987)を用いてホログラム像を求め、そのホログラム像をフーリエ変換することによりフーリエ変換像を得た。
【0091】
【数1】

【0092】
(x、y)はマスク面上の座標であり、(x、y)は2次元X線検出器の検出面上の座標であり、rは点(x、y)と点(x、y)との間の距離であり、zはマスク面と2次元X線検出器の検出面との間の距離である。cosαはz/rであり、λはX線の波長であり、kは波数であり、Eはマスクの位置でのX線の振幅であり、Eは2次元X線検出器の位置でのX線の振幅である。
【0093】
図8(a)は、供試体20内を通過させていないために強度が減少していない参照X線を用いた場合のシミュレーション結果を示す図である。図8(b)は、供試体20内を通過させることにより強度が0.9倍になった参照X線を用いた場合のシミュレーション結果を示す図である。図8(c)は、供試体20内を通過させることにより強度が0.5倍になった参照X線を用いた場合のシミュレーション結果を示す図である。
【0094】
図8(a)〜図8(c)の中心に表れているのは自己相関関数である。自己相関関数の一方の側に表れているのは実像であり、自己相関関数の他方に側に表れているのは虚像である。
【0095】
これら図8(a)〜図8(c)を比較して分かるように、参照X線の強度が弱くなるに伴って得られるホログラム像の輝度は弱くなるが、ホログラム像の形状自体は変化していない。
【0096】
このことから、供試体20を通過させることにより参照X線の強度が弱くなっても、ホログラム像やフーリエ変換像の取得自体は可能であることが分かる。
【0097】
図9は、本実施形態によるX線分析装置による測定結果を示す図である。図9は、取得したホログラム像をフーリエ変換することにより得られたフーリエ変換像のうちの実像を拡大して示したものである。
【0098】
供試体20としては、膜厚0.4nmのCo膜と膜厚0.7nmのPt膜とを交互に40層積層した積層膜を用いた。供試体20に照射するX線としては、エネルギーが779eVの円偏向X線を用いた。マスク18の開口部36のサイズは、2μm×2μmとした。マスク18の孔38のサイズは、0.1μmφとした。開口部36と孔38との間隔は、5.5μmとした。
【0099】
供試体20内を通過することにより参照X線の強度は約50%程度となるが、図9から分かるように、磁気ドメインを明瞭に観測し得る。
【0100】
このことから、本実施形態のように供試体20内を参照X線が通過するようにしても、特段の問題は生じないことが分かる。
【0101】
このように、本実施形態によれば、供試体20と別個にマスク18が設けられており、供試体20を支持する支持部19とマスク18とが相対的に移動自在であるため、所望の被測定箇所についてのホログラム像を迅速且つ容易に取得することができる。しかも、本実施形態によれば、供試体20に電圧を印加するための電極34a、34bがマスク18に設けられているため、供試体20に電圧を印加しながら測定を行うことも可能である。
【0102】
[変形実施形態]
上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0103】
例えば、上記実施形態では、強誘電体キャパシタ58を分析する場合を例に説明したが、分析対象は強誘電体キャパシタ58に限定されるものではない。様々な対象を分析する際に適用することが可能である。
【0104】
上記実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0105】
(付記1)
照射X線用の開口部と参照X線用の孔とが形成されたマスクと、
供試体を支持する支持部と、
前記マスクを介して前記供試体にX線を照射することにより得られるホログラム像を取得する2次元X線検出器とを有し、
前記マスクと前記支持部とが相対的に移動自在である
ことを特徴とするX線分析装置。
【0106】
(付記2)
付記1記載のX線分析装置において、
前記供試体に電圧を印加する電圧印加手段を更に有し、
前記マスクは、前記供試体に電圧を印加するための電極を更に有し、
前記電圧印加手段は、前記マスクの前記電極を介して前記供試体に電圧を印加する
ことを特徴とするX線分析装置。
【0107】
(付記3)
付記1又は2記載のX線分析装置において、
前記ホログラム像をフーリエ変換する処理手段を更に有する
ことを特徴とするX線分析装置。
【0108】
(付記4)
照射X線用の開口部と参照X線用の孔とが形成されたマスクと、支持部により支持された供試体との位置合わせを行うステップと、
前記マスクを介して前記供試体にX線を照射することにより得られるホログラム像を2次元X線検出器により取得するステップと
を有することを特徴とするX線分析方法。
【0109】
(付記5)
付記4記載のX線分析方法において、
前記ホログラム像を取得するステップでは、前記マスクに形成された電極を介して前記供試体に電圧を印加しながら前記ホログラム像を取得する
ことを特徴とするX線分析方法。
【0110】
(付記6)
付記4又は5記載のX線分析方法において、
前記ホログラム像を取得するステップでは、前記供試体に印加する電圧の大きさ又は極性を変化させ、各々の電圧における前記ホログラム像を取得する
ことを特徴とするX線分析方法。
【0111】
(付記7)
付記4乃至6のいずれかに記載のX線分析方法において、
前記ホログラム像をフーリエ変換するステップを更に有する
ことを特徴とするX線分析方法。
【0112】
(付記8)
付記4又は5記載のX線分析方法において、
前記供試体は、強誘電体を含み、
前記ホログラム像を取得するステップでは、前記強誘電体に第1の極性の電圧を印加した際に得られる前記ホログラム像である第1のホログラム像と、前記強誘電体に前記第1の極性と反対の第2の極性の電圧を印加した際に得られる前記ホログラム像である第2のホログラム像とを取得し、
前記第1のホログラム像をフーリエ変換することにより第1のフーリエ変換像を取得し、前記第2のホログラム像をフーリエ変換することにより第2のフーリエ変換像を取得するステップと、
前記第1のフーリエ変換像と前記第2のフーリエ変換像との差分像を求めるステップとを更に有する
ことを特徴とするX線分析方法。
【符号の説明】
【0113】
10…X線源
12…モノクロメータ
14…シャッタ
16…照射領域制限手段
17…ピンホール
18…マスク
19…支持部
20…供試体
22…2次元X線検出器
24…X線源制御部
26…駆動機構制御部
28…検出制御部
30…基板
32…X線吸収層
34a、34b…電極
36…開口部
38…孔
40…電圧印加手段
42…制御処理部
44…表示部
46…X線
48…回折X線
50…参照X線
52…下部電極
53…強誘電体膜
54…上部電極
58…強誘電体キャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射X線用の開口部と参照X線用の孔とが形成されたマスクと、
供試体を支持する支持部と、
前記マスクを介して前記供試体にX線を照射することにより得られるホログラム像を取得する2次元X線検出器とを有し、
前記マスクと前記支持部とが相対的に移動自在である
ことを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
請求項1記載のX線分析装置において、
前記供試体に電圧を印加する電圧印加手段を更に有し、
前記マスクは、前記供試体に電圧を印加するための電極を更に有し、
前記電圧印加手段は、前記マスクの前記電極を介して前記供試体に電圧を印加する
ことを特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
照射X線用の開口部と参照X線用の孔とが形成されたマスクと、支持部により支持された供試体との位置合わせを行うステップと、
前記マスクを介して前記供試体にX線を照射することにより得られるホログラム像を2次元X線検出器により取得するステップと
を有することを特徴とするX線分析方法。
【請求項4】
請求項3記載のX線分析方法において、
前記ホログラム像を取得するステップでは、前記マスクに形成された電極を介して前記供試体に電圧を印加しながら前記ホログラム像を取得する
ことを特徴とするX線分析方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載のX線分析方法において、
前記供試体は、強誘電体を含み、
前記ホログラム像を取得するステップでは、前記強誘電体に第1の極性の電圧を印加した際に得られる前記ホログラム像である第1のホログラム像と、前記強誘電体に前記第1の極性と反対の第2の極性の電圧を印加した際に得られる前記ホログラム像である第2のホログラム像とを取得し、
前記第1のホログラム像をフーリエ変換することにより第1のフーリエ変換像を取得し、前記第2のホログラム像をフーリエ変換することにより第2のフーリエ変換像を取得するステップと、
前記第1のフーリエ変換像と前記第2のフーリエ変換像との差分像を求めるステップとを更に有する
ことを特徴とするX線分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−132756(P2012−132756A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284290(P2010−284290)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】