説明

X線回折装置及びX線回折の測定方法

【課題】従来は測定し難かった測定対象物であっても容易に測定できるX線回折装置及びX線回折の測定方法を提供する。
【解決手段】X線を照射するX線照射源1と、X線が測定対象物9に照射されて回折したX線を検出する検出器2と、X線照射源1と検出器2とを移動可能に支持する支持部材10と、を備えているX線回折装置100であって、支持部材10は、直交する二軸のそれぞれの軸方向に、それぞれ独立して移動可能な第1の位置決め手段13及び第2の位置決め手段14と、二軸に垂直な軸の軸方向に移動可能な第3の位置決め手段15とを備え、X線照射源1及び検出器2が固定された第1の位置決め手段13、第2の位置決め手段14及び第3の位置決め手段15が所定の位置に移動することにより、X線の照射位置及び回折したX線の検出位置が決定されるように構成されているX線回折装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折装置及びX線回折の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折装置は、結晶材料内部の原子の規則的な配列である格子面にX線が入射して反射した場合に、異なる格子面にて反射したX線同士の光路差が上記X線の波長の自然数倍のときに、反射したX線同士が干渉して強め合う現象を利用したものである。このようなX線回折装置は、材料内部の結晶の様子を非破壊的に検査する検査ツールとして、例えば結晶構造分析、成分分析、残留応力測定等、様々な材料評価に利用されている。
【0003】
従来のX線回折装置においては、装置における光学系の制限から、試料ステージに設置された測定対象物について、特定の方向に対する一定の測定箇所しか測定できないという課題を有していた。即ち、測定対象物の大きさや測定範囲が、装置の光学系や駆動機構によって制限される場合があった。そこで、より高い汎用性を有するX線回折装置を提供するために、例えば特許文献1〜3に記載の技術が知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、試料のx方向及びy方向の移動調整を行う調整機構により駆動される試料ステージが設けられている放射分析装置が記載されている。また、特許文献2には、試料を横断する測定基準平面上のx軸方向にX線発生装置を移動させるための第1の移動機構と、測定基準平面上のy軸方向にX線発生装置を移動させるための第2の移動機構とを具備したX線回折装置が記載されている。さらに、特許文献3には、相対距離及び軸線の交差精度だけでなく、角度の精度制御を必要とするX線計測及び検査で用いる位置決め装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−126767号公報
【特許文献2】特開平5−203591号公報
【特許文献3】特開2006−201167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1〜3に記載の装置は、いずれも駆動機構(位置決め機構)によってX線照射源及び検出器を移動させ、測定位置の範囲を広めている。しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の技術においては、以下のような課題がある。
【0007】
特許文献1に記載の技術においては、測定対象物を試料ホルダ(試料ステージ)に設置しなければならず、試料ホルダに設置できない測定対象物(例えば測定対象物が大型の場合、位置が既に固定されたものである場合、工場や発電プラント等の建造物である場合等)について測定を行うことができないという課題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術においては、水平の直交する方向にしか移動機構が移動できないため、平坦ではない場所での測定が困難であることがある。また、特許文献2に記載のX線回折装置によっては、例えば配管等の管の内部の測定を行うこともできないという課題がある。
【0009】
さらに、特許文献3に記載の技術は、例えばシリコンウエハ等の小型の測定対象物の材料特性の測定に利用されるものであり、上記特許文献1の場合と同様に、試料ホルダに設置できない測定対象物について測定を行うことができないという課題がある。
【0010】
つまり、上記特許文献1〜3に記載の技術によっては、例えば試料ホルダ、X線照射源及び検出器等の光学系幾何条件によって、測定対象物の大きさや重量、設置場所等が制限されることがある。特に、通常の試料ホルダの耐荷重範囲を超える重量を有する測定対象物においては、これらの装置を適用し難いことがある。
【0011】
本発明は上記の課題を解決するべくなされたものであり、その目的は、従来は測定し難かった測定対象物であっても迅速かつ容易に測定できるX線回折装置及びX線回折の測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、二軸を含み、かつ、当該二軸の交点で直交する方向に移動した面内で測定箇所を移動させるようにX線回折装置を構成することにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来は測定し難かった測定対象物であっても迅速かつ容易に測定できるX線回折装置及びX線回折の測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態に係るX線回折装置を用いて、円筒形状の配管の外側面のX線回折を測定する様子を模式的に表した図である。
【図2】一体化したX線管球及び二次元検出器の近傍を模式的に表した図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係るX線回折装置を用いて、円筒形状の配管の内側面のX線回折を測定する様子を模式的に表した図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係るX線回折装置において、図1におけるA方向からの様子を模式的に示す図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係るX線回折装置における入射角制御手段を模式的に示す図である。
【図6】(a)は、本発明の第二実施形態に係るX線回折装置において、円盤状の表面のX線回折を測定する部位を模式的に表す図であり、(b)は、(a)におけるA−A線部を模式的に表す図である。
【図7】一体化したX線照射源及び検出器の変更例を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)について、図面を参照しながら説明するが、本発明は下記の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施できる。
【0016】
[1.第一実施形態に係るX線回折装置]
[1−1.構成]
図1は、第一実施形態に係るX線回折装置を用いて、円筒形状の配管の外側面のX線回折を測定する様子を模式的に表した図である。図1に示すように、第一実施形態に係るX線回折装置100は、X線照射源としてのX線管球1と、検出器としての二次元検出器2と、支持部材としてのx軸方向位置決め手段(第1の位置決め手段)3、y軸方向位置決め手段(第2の位置決め手段)4及びz軸方向位置決め手段(第3の位置決め手段)5と、を備えてなる。なお、ここで言う「x軸」、「y軸」及び「z軸」とは、図1において示すx方向、y方向及びz方向の軸を表すものとする。
【0017】
また、第一実施形態に係るX線回折装置100は、一体となって備えられているX線管球1及び二次元検出器2のy−z平面内での角度を変化させるための入射角制御手段6、x軸方向位置決め手段3、y軸方向位置決め手段4、z軸方向位置決め手段5等を支持するための架台7、フレーム8及びシャフト10も備えられている。そして、図1に示す第一実施形態に係るX線回折装置100は、上記のように測定対象物として円筒形状の配管9の外側面のX線回折を測定している。
【0018】
はじめに、一体化されたX線管球1及び二次元検出器2について説明する。図2は、一体化したX線管球1及び二次元検出器2の近傍を模式的に表した図である。図2において、矢印はX線の流れを示す。
【0019】
図2に示すように、第一実施形態に係るX線回折装置100においては、X線管球1及び二次元検出器2が一体となって備えられている。そして、X線管球1の先端部1aから配管9の外側面にX線が照射されるようになっている。配管9に照射されたX線は回折し、回折したX線は二次元検出器2によって測定(検出)されるようになっている。
【0020】
X線管球1は、その先端部1aから配管9に対してX線を照射するものである。X線管球1の具体例としては特に制限されるものではなく、公知の任意のX線管球を用いることができ、具体的には公知のX線回折装置に用いられるX線管球を用いることができる。
【0021】
二次元検出器2は、X線管球1から測定対象物9に対してX線が照射されることにより、回折されたX線の回折を測定(検出)するものである。二次元検出器2もX線管球1の場合と同様に、公知のX線回折装置に用いられるものを用いることができる。ただし、第一実施形態においては、平板状(平面状)の二次元検出器2を用いている。そして、平板状の二次元検出器2としては、中でも、二次元位置敏感型検出器若しくは輝尽性蛍光体を用いているものを用いることが好ましい。輝尽性蛍光体を用いているものの具体例としては、イメージングプレート等が挙げられる。
なお、図2に示す第一実施形態に係るX線回折装置100においては、二次元検出器2としてイメージングプレートが用いられている。
【0022】
二次元検出器2として、例えば二次元位置敏感型検出器若しくは輝尽性蛍光体を用いているもののいずれを用いるかは、それぞれの特性を考慮して決定すればよい。例えば二次元検出器2として二次元位置敏感型検出器は、一体化して形成されたX線管球1から取り外す必要が無く、さらには、特に高精度でX線回折の測定及び画像化が可能になるという利点がある。一方で、輝尽性蛍光体を用いているものは構造が簡単であるため製造コストが低いという利点がある。特に、イメージングプレートの場合には、イメージングプレートは平板状であるため精度良く形成することが容易であり、測定対象物に対応したイメージングプレートの大きさ及び形状の設計も容易であるという利点がある。従って、これらの利点を考慮して、二次元検出器2の種類を決定すればよい。
【0023】
上記のように、二次元検出器2の具体的な構成は特に制限されないが、例えば二次元検出器2がイメージングプレートである場合、当該イメージングプレートは、通常は基体部2a及び感光部2bの二層からなる。基体部2aは感光部2bを支持するものであり、その材質等は特に制限されるものではないが、例えば軽量の樹脂、プラスチック等を用いることができる。また、感光部2bは、回折したX線を測定(検出)する部材であり、輝尽性蛍光体が塗布されることにより通常は形成される。
【0024】
また、二次元検出器2の周囲に、二次元検出器2を覆うような遮光カバーを設けてもよい。遮光カバーを設けることにより、可視光によるバックグラウンドの影響を低減することができる。
【0025】
従来のX線回折装置(例えば上記特許文献1〜3参照。)においては、X線管球1及び二次元検出器2が一体化されておらず独立していたため、X線回折の測定の都度、X線管球1及び二次元検出器2の位置を決定する必要があった。また、予めX線管球1及び二次元検出器2の位置が決定されたX線回折装置である場合、測定対象物の設置位置が予め設定されていたため、測定対象物の種類が制限されることがあった。
【0026】
しかしながら、上記のように第一実施形態に係るX線回折装置100においては、X線管球1及び二次元検出器2が一体化されたものとなっている。X線管球1及び二次元検出器2をこのように構成することにより、X線管球1から照射され回折したX線を二次元検出器2は確実に測定(検出)することができる。従って、X線回折測定の際には、一体化されたX線管球1及び二次元検出器2のみを移動させればよく、X線回折測定の度に回折したX線の検出器を適切な位置に移動させる(所謂位置決めする)必要がない、即ち煩雑な操作が不要になるという利点がある。
【0027】
また、X線管球1及び二次元検出器2を一体化して構成することにより、X線管球1及び二次元検出器2をそれぞれ独立して設ける必要が無いため、X線回折装置100の構造を簡略化できる。また、X線管球1及び二次元検出器2を独立して設ける必要が無いため、従来よりも狭い測定空間内にこれらを配置することができ、また、構造が複雑な測定対象物についても測定することが可能である。従って、第一実施形態に係るX線回折装置100によれば、工場や発電プラントの現場における例えば大型構造部材等の固定物にも好適に適用することができる。また、例えば図3に示すように、配管の内部等においてもX線回折を測定することができる。
【0028】
一体化されたX線管球1及び二次元検出器2の大きさに特に制限はないが、第一実施形態に係るX線回折装置100を、狭い空間にある測定対象物や周囲に障害物が多数存在する測定対象物に好適に適用するためには、できる限り小型化(即ち、X線光路が短く、占有体積が小さい)して一体化されていることが好ましい。
【0029】
x軸方向位置決め手段3は、一体化したX線管球1及び二次元検出器2をx軸方向に移動させるものである。x軸方向位置決め手段3は、後述するy軸方向位置決め手段4及びz軸方向位置決め手段5とは独立して移動可能になっている。また、x軸方向位置決め手段3は支持部材としても機能している。
【0030】
x軸方向位置決め手段3の具体的な構成は特に制限されず、例えばガイドレールやネジ棒(ボールネジ)等によって構成することができる。また、駆動方式は、例えばハンドルによる手動式や、モータによる電動式等を適用すればよい。特に、X線回折の測定環境が、オペレータ(操作員)がアクセスしにくいようなものである場合、電動式による位置決め機構を採用することで遠隔操作が可能となる。また、必要に応じて、例えば目盛りスケールや磁気ヘッドスライド等を用いて一体化したX線管球1及び二次元検出器2をx軸方向に移動させることにより、より精度の良い位置決めを行うことができる。
【0031】
y軸方向位置決め手段4は、一体化したX線管球1及び二次元検出器2をy軸方向に移動させるものである。y軸方向位置決め手段4は、x軸方向位置決め手段3及び後述するz軸方向位置決め手段5とは独立して移動可能になっている。また、y軸方向位置決め手段4は支持部材としても機能している。
【0032】
y軸方向位置決め手段4の具体的な構成は特に制限されず、例えばx軸方向位置決め手段3と同様の構成とすることができる。また、例えば目盛りスケールや磁気ヘッドスライド等についても、上記の場合と同様に設けることができる。
【0033】
z軸方向位置決め手段5は、一体化したX線管球1及び二次元検出器2をz軸方向に移動させるものである。z軸方向位置決め手段5は、x軸方向位置決め手段3及びy軸方向位置決め手段4とは独立して移動可能になっている。また、z軸方向位置決め手段5は支持部材としても機能している。
【0034】
z軸方向位置決め手段5の具体的な構成は特に制限されず、例えばx軸方向位置決め手段3と同様の構成とすることができる。また、例えば目盛りスケールや磁気ヘッドスライド等についても、上記の場合と同様に設けることができる。
【0035】
以上のように、第一実施形態に係るX線回折装置100は、x軸方向位置決め手段3、y軸方向位置決め手段4及びz軸方向位置決め手段5が、それぞれ独立して移動するようになっている。従って、三次元空間内の任意の位置にX線管球1及び二次元検出器2を移動させることができ、測定対象物9が例えば複雑な形状を有するものであったり、大型のものであったり、建造物等の固定物であっても、第一実施形態に係るX線回折装置100を適用することができる。また、X線管球1及び二次元検出器2が一体化されて形成されているため、二次元のX線回折パターンを一度の移動で記録することができる。従って、X線回折の測定効率を向上させることができる。
【0036】
即ち、X線回折装置100自体を移動させることなく、X線管球1及び二次元検出器2だけを測定箇所(即ちX線の照射位置及びX線の検出位置)まで移動すれば直ちにX線回折を測定することができる。従って、同一の測定対象物において、特に複数の箇所を測定する場合には、位置決め時間を大幅に短縮することができるため、測定の効率を向上させることができる。
【0037】
入射角制御手段6は、一体化したX線管球1及び二次元検出器2において、X線管球1から照射されるX線の測定対象物への入射角を変化させるものである。ここで、図4を参照して、入射角制御手段6を説明する。図4は、第一実施形態に係るX線回折装置100において、図1におけるA方向からの様子を模式的に示す図である。
【0038】
図4に示すように、入射角制御手段6は、一体化したX線管球1及び二次元検出器2が曲面のガイドレール11上を摺動可能に設けられているものである。そして、入射角制御手段6により一体化したX線管球1及び二次元検出器2がガイドレール11上を曲面的に摺動することにより、X線管球1の先端部1aから測定対象物9に照射されるX線の入射角Ψを変化させることができる。なお、図4に示す入射角制御手段6において曲面のガイドレール11を用いているが、例えばカップリングを用いてもよい。
【0039】
また、図5は、第一実施形態に係るX線回折装置100における仰角制御手段12を模式的に示す図である。図5に示すように、仰角制御手段12は、一体化したX線管球1及び二次元検出器2をx−z平面(図1参照。)内で移動させるものである。移動させる際の仰角αは、測定対象物9の大きさ、構造、位置等に応じて設定すればよい。
【0040】
第一実施形態に係るX線回折装置100は、図1や図5に示すように、入射角制御手段6及び仰角制御手段12を併せて備えている。従って、第一実施形態に係るX線回折装置100によれば、複雑な傾斜面や曲面を有する測定対象物に対しても好適に適用することができる。
【0041】
架台7及びフレーム8は、x軸方向位置決め手段3、y軸方向位置決め手段4及びz軸方向位置決め手段5を支持するものである。第一実施形態に係るX線回折装置100においては、フレーム8を伸縮自在に構成しているため、平坦ではない設置環境においても、十分な安定性を保ちながらX線回折装置100を設置することができる。
【0042】
架台7及びフレーム8を構成する材料としては特に制限されないが、X線管球1及び二次元検出器2等の重量に耐えられること、及び運搬や設置の際の操作性を考慮し、例えばアルミニウム合金等の、ある程度の強度とある程度の軽さとを有する材料を用いることが好ましい。
【0043】
また、シャフト10は、x軸方向位置決め手段3、y軸方向位置決め手段4及びz軸方向位置決め手段5を構成するものである。従って、例えばステンレス鋼等の、少なくともX線管球1及び二次元検出器2の重量に耐えられる材料を用いることが好ましい。
【0044】
[1−2.動作]
次に、第一実施形態に係るX線回折装置100における、各部の作用について説明する。x軸方向位置決め手段3、y軸方向位置決め手段4及びz軸方向位置決め手段5は、上記のように、それぞれ独立して移動するようになっている。そして、これらはX線管球1及び二次元検出器2に直接又は間接的に接続されているため、一体化したX線管球1及び二次元検出器2の位置は、これらの各位置決め手段が移動することにより制御される。
【0045】
即ち、例えば配管9に対して1箇所のみのX線回折パターンを測定すればよい場合、x軸方向位置決め手段3、y軸方向位置決め手段4及びz軸方向位置決め手段5を制御して、一体化したX線管球1及び二次元検出器2の位置を所望の位置に移動すればよい。そしてその後、X線を配管9に対して照射すればよい。第一実施形態に係るX線回折装置100は、X線管球1及び二次元検出器2が一体化されて構成されているため、これらの一連の動作により、X線の照射位置及び回折したX線の測定位置が同時に決定されることになる。
【0046】
また、例えば配管9の複数個所を容易に連続的に測定することもできる。具体的には、例えば図1において、x方向位置決め手段3、y軸方向位置決め手段4及びz軸方向位置決め手段5の位置を配管9の表面における任意の位置に設定し、その後y軸方向位置決め手段4のみをX線を照射しながら或いは所定の間隔毎に照射しながら徐々に移動させることにより、配管9の表面の複数個所におけるX線回折を連続的かつ迅速に測定することができる。
【0047】
そして、結晶材料は特定の波長を有する特性X線(例えばCuKα線等)の回折角度2θ(図4参照。)が当該材料に固有のものであるため、上記のようにして回折角度2θを測定することにより、測定対象物の材質を同定することができる。
【0048】
[2.第二実施形態に係るX線回折装置]
本実施形態に係る別のX線回折装置として、図6に示す、第二実施形態に係るX線回折装置200を例に説明する。図6(a)は、第二実施形態に係るX線回折装置200において、円盤状の表面のX線回折を測定する部位を模式的に表す図であり、(b)は、(a)におけるA−A線部を模式的に表す図である。なお、図1と同じものを表す部材については同様の符号を用い、その説明を省略する。
【0049】
図6に示す第二実施形態においては、測定対象物として円環状の鋼板21を用いている。鋼板21は、外径D=4000mm、内径d=3200mmのものを用い、円環状の鋼板21の周方向をh方向、半径方向をr方向、鋼板に対して垂直な方向をz方向と定義する。また、図6中、「×」印で示した複数の箇所がX線の照射部分であり、具体的な照射間隔は、h方向でa=200mm、r方向でb=75mmとしている。
【0050】
図6(a)及び(b)に示す、第二実施形態に係るX線回折装置200は、第1の位置決め手段としてのh方向位置決め手段13、第2の位置決め手段としてのr方向位置決め手段14、及び第3の位置決め手段としてのz方向位置決め手段15とを備えている。また、図6(a)及び(b)に示すように、h方向位置決め手段13を制御するためのハンドル17a、r方向位置決め手段14を制御するためのハンドル17b、及びz方向位置決め手段15を制御するためのハンドル17cも備えている。さらに、より精度良くh方向の位置決めを行うために、目盛りスケール16が備えられている。
【0051】
X線回折装置200は上記の構成を有し、以下のような動作が行われることにより、X線回折が測定される(つまり、X線の照射位置及び回折したX線の検出位置が決定される。)。即ち、ハンドル17aを操作することにより、X線を照射する位置(即ち、二次元検出器2と一体となって形成されているX線管球1が備える先端部1aの位置)のh方向の位置を、目盛りスケール16を参照しながら決定する。具体的には、ハンドル17aを回転させることにより、ガイドレール19により支持されたh方向位置決め手段13が移動し、h方向の位置が決定される。同様に、ハンドル17bを操作してX線を照射するr方向の位置を決定し、最後にハンドル17cを操作してz方向の位置を決定する。
なお、ガイドレール19の材質としては、一体化したX線管球1及び二次元検出器2の移動位置によっては高いモーメント負荷がかかる可能性があるため、例えばステンレス鋼等の強度の高い金属材料を用いることが好ましい。
【0052】
このようにすることで、例えばh方向に連続的に測定したい場合(図6(a)参照。)には、はじめにh方向、r方向及びz方向の位置を決定した後、ハンドル17aのみを操作してh方向に照射位置をずらすことにより、迅速かつ容易に連続的にX線回折を測定することができる。
【0053】
[3.変更例]
以上、本実施形態に係るX線回折装置の構成及び動作を、具体例を挙げつつ説明した。このように、上記の本実施形態に係るX線回折装置に拠れば、X線照射位置を迅速かつ容易に位置決めし、X線回折を測定することが可能となる。特に、複数個所を連続して測定する場合に、このような効果が顕著なものとなる。また、本実施形態に係るX線回折装置に拠れば、複雑な形状を有する測定対象物や固定された測定対象物に対しても、容易にX線回折を測定することができる。
【0054】
また、第一実施形態に係るX線回折装置100、及び第二実施形態に係るX線回折装置200を上記のように説明したが、本実施形態に係るX線回折装置は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。例えば、第一実施形態に係るX線回折装置100、及び第二実施形態に係るX線回折装置200において、二次元検出器として平板状のイメージングプレートを用いたが、図7に示すように、円錐状の二次元検出器22を用いてもよい。
【0055】
また、上記の説明においては、X線管球1及び二次元検出器2が一体化されたものとして本実施形態を説明したが、X線管球1及び二次元検出器2が一体化されずに独立したものであってもよい。即ち、X線管球1及び二次元検出器2が、x軸方向位置決め手段3、y軸方向位置決め手段4及びz軸方向位置決め手段5によって、その場所(具体的には、X線の照射位置及び回折したX線の測定(検出)位置)を制御(決定)するのであれば、本発明の範疇に含まれるものとする。
【0056】
さらに、X線照射源としてX線管球を、また、検出器として二次元検出器を例に挙げて本実施形態に係るX線回折装置を説明したが、本実施形態に係るX線回折装置に用いることが可能なX線照射源及び検出器はこれらに限定されるものではない。即ち、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、X線照射源及び検出器に任意に選定すればよい。
【符号の説明】
【0057】
1 X線管球(X線照射源)
1a 先端部
2 二次元検出器(検出器)
3 x軸方向位置決め手段(第1の位置決め手段;支持部材)
4 y軸方向位置決め手段(第2の位置決め手段;支持部材)
5 z軸方向位置決め手段(第3の位置決め手段;支持部材)
6 入射角制御手段
7 架台
8 フレーム
9 配管(測定対象物)
10 シャフト
11 ガイドレール
12 仰角制御手段
13 h方向位置決め手段(第1の位置決め手段;支持部材)
14 r方向位置決め手段(第2の位置決め手段;支持部材)
15 z方向位置決め手段(第3の位置決め手段;支持部材)
16 目盛りスケール
17a ハンドル
17b ハンドル
17c ハンドル
19 ガイドレール
21 鋼板(測定対象物)
22 二次元検出器
100 X線回折装置
200 X線回折装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を照射するX線照射源と、
前記X線が測定対象物に照射されて回折した前記X線を検出する検出器と、
前記X線照射源と前記検出器とを移動可能に支持する支持部材と、
を備えているX線回折装置であって、
前記支持部材は、
直交する二軸のそれぞれの軸方向に、それぞれ独立して移動可能な第1の位置決め手段及び第2の位置決め手段と、前記二軸に垂直な軸の軸方向に移動可能な第3の位置決め手段とを備え、
前記X線照射源及び前記検出器が固定された前記第1の位置決め手段、前記第2の位置決め手段及び前記第3の位置決め手段が所定の位置に移動することにより、前記X線の照射位置及び回折した前記X線の検出位置が決定されるように構成されている
ことを特徴とする、X線回折装置。
【請求項2】
前記X線発生源と前記検出器とが一体となって備えられている
ことを特徴とする、請求項1に記載のX線回折装置。
【請求項3】
前記検出器が平面状の二次元検出器である
ことを特徴とする、請求項2に記載のX線回折装置。
【請求項4】
前記二次元検出器が二次元位置敏感型検出器である
ことを特徴とする、請求項3に記載のX線回折装置。
【請求項5】
前記二次元検出器が、輝尽性蛍光体を用いているものである
ことを特徴とする、請求項3に記載のX線回折装置。
【請求項6】
X線を照射するX線照射源と、
前記X線が測定対象物に照射されて回折したX線を検出する検出器と、を用いたX線回折の測定方法であって、
直交する二軸のそれぞれの軸方向に、それぞれ独立して移動可能な第1の位置決め手段及び第2の位置決め手段と、前記二軸に垂直な軸の軸方向に移動可能な第3の位置決め手段とがそれぞれ移動し、前記X線照射源及び前記検出器が所定の位置に移動されることにより、前記X線の照射位置及び回折した前記X線の検出位置が決定される
ことを特徴とする、X線回折の測定方法。
【請求項7】
前記測定対象物が、固定物である
ことを特徴とする、請求項6に記載のX線回折の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−103224(P2012−103224A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254443(P2010−254443)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】