説明

X線撮影装置及び磁気共鳴イメージング装置

【課題】動態観察ができ、三次元再構成ができ、血管内手術や術中撮影に適し、高い空間解像度を持つ、経済的合理性を持つ、という条件を全て満たすダイナミック3D−DSA対応のX線撮影装置を提供すること。
【解決手段】X線撮影装置は、X線管装置12とX線検出器14とを被検体の周囲を回転自在に支持する支持機構51〜54と、X線管装置とX線検出器とが被検体の周囲を回転しながら撮影を繰り返す回転撮影動作を撮影開始角度を変えながらK回(Kは2以上の整数)繰り返すように管電圧発生部、X線検出器及び支持機構を制御する制御装置とを具備し、K回の回転撮影動作によりX線検出器で検出した複数の画像から補間処理により回転撮影動作の開始又は造影開始からの経過時間が略同一を示す複数の画像を生成し、生成した複数の画像から3次元画像を再構成する画像再構成部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転撮影の可能なX線撮影装置及び磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血管撮影(アンギオグラフィ:angiographyは、動脈に挿入したカテーテルを通して血管内に造影剤を注入し、X線撮影を行う撮影法である。この血管撮影に対応するX線撮影装置は、脳塞栓溶解術、動脈瘤閉塞術、狭窄血管拡張術などの血管内手術に必須の装置であって、精密な診断、血管内でのカテーテルの動作の観察、治療過程の観察、結果観察などに用いられる。また、診断だけの目的に用いられることもある。なお、以下に述べるデジタル・サブトラクション・アンギオグラフィ(DSA;digital subtraction angiography)、ダイナミックDSA、回転DSA、3D−DSAも含めて、「アンギオグラフィ(血管撮影)」と総称することが多い。
【0003】
デジタル・サブトラクション・アンギオグラフィ; アンギオグラフィにより造影剤を注入する前に第一の撮影を行ってデジタル画像(マスク画像)を得る。さらに、造影剤を注入して第二の撮影を行う。得られたデジタル画像からマスク画像を減算することによって、造影剤によって生じた像(すなわち血管の像)以外の像を消去し、血管像の観察を容易にする。
【0004】
ダイナミック・デジタル・サブトラクション・アンギオグラフィ(ダイナミック-DSA); DSAの第二の撮影において、造影剤を短時間かつ高濃度で注入(「ボーラス注入」と言う)し、その後、撮影を繰り返すことによって、造影剤が血流に乗って流れて行く様(動態)の時系列的なデジタル画像を得る。そして、これら一連のデジタル画像からマスク画像を減算することによって、血管の像以外の像を消去した一連のデジタル画像を生成する。
【0005】
回転デジタル・サブトラクション・アンギオグラフィ(回転DSA); デジタル・サブトラクション・アンギオグラフィ(DSA)において、被写体の周囲を巡る軌道上の所定の角度範囲に渡る多数の異なる方向から第一および第二の撮影を行って、対応する方向から撮影した後者のデジタル画像から前者のデジタル画像を減算することによって、多数の異なる方向から撮影した血管像を得る。
【0006】
三次元デジタル・サブトラクション・アンギオグラフィ(3D−DSA: three dimensional DSA); 回転デジタル・サブトラクション・アンギオグラフィにおいて、円軌道上の180度を越える所定の角度範囲に渡る多数の異なる方向から第一および第二の撮影を行って回転DSAを得て、これらの画像を画素ごとに対数変換し、コーンビーム再構成法(X線CTで用いられる画像再構成法やそのバリエーション)を適用して、血管の三次元データ(volume data)を再構成する。
【0007】
図1には、回転DSA、3D−DSAの可能な血管X線撮影装置(アンギオグラフィ装置)の撮影部を概念的に示している。X線焦点と撮像デバイスは図示しないアームに取り付けられており、これらが一体となって、回転中心軸Oを中心として回転できる。図1では、X線焦点が角度θの位置にあり、撮影範囲の中に置かれた被写体の影を撮像デバイス上に投影している。X線の広がり角度は2αである。X線焦点の角度をθ=θ0から少なくともθ0+π+2αまで動かしながら繰り返し撮影を行うことによって、三次元画像再構成に必要な投影データを収集できる。
【0008】
図2には回転DSA撮影の手順を示している。
[1]撮影準備
(1)操作盤から撮影条件を入力し、撮影準備を指令すると、(2)制御装置はアーム駆動回路に指令を発して、撮影条件で定められた所定のアーム角度を設定するよう求める。アーム駆動回路はアーム回転モータを動作させてアームを回転させ、指令された回転角度になるようにする。(3)制御装置は高電圧発生装置に指令を発して、撮影条件に定められたX線条件(X線管装置の管電流、管電圧などの情報)を設定させる。(4)制御装置はオートインジェクタに指令を発して、撮影条件に定められた造影剤の流量、造影剤注入量を設定させる。
【0009】
[2]撮影
(1)操作盤から撮影開始を指示すると、(2)制御装置はオートインジェクタに指令を発して、造影剤の注入を開始させる。オートインジェクタは予め設定された注入量(ml)と注入時間(sec)に従って造影剤をカテーテルに注入する。(3)制御装置は造影剤注入開始後、撮影条件に定められた所定の遅延時間(d)だけ待ってから、アーム駆動回路に指令を発して、アームの回転を開始させる。(4)制御装置はアーム角度エンコーダを参照して、アームが撮影条件に定められた所定の角度に到達したときに高電圧発生装置に指令を送り、X線曝射を開始させる。(5)制御装置はアーム角度エンコーダを参照して、アームが撮影条件に定められた多数の所定の角度に到達するたびに、データ収集装置に指令を発して、X線像のデジタルデータを収集させる。収集したデータは記憶装置(図示しない)に蓄えられるとともに、データ処理装置(図示しない)によって、撮影条件に定められた所定の処理を受ける。
【0010】
[3]撮影終了
(1)制御装置はアーム角度エンコーダを参照して、アームが撮影条件に定められた所定の角度に到達したときに、高電圧発生装置に指令を送り、X線曝射を停止させる。さらに、アーム駆動回路に指令を送り、アームの回転を停止させる。
【0011】
コーンビームCT; X線CTであって、二次元の検出器を持ち、一度の撮影でボリュームデータを得られる装置である。
CTA(CT angiography); 造影剤注入前のCT画像をマスク画像とし、造影剤を動脈もしくは静脈から注入して撮影したCT画像からマスク画像を減算して、血管のCT画像を得る手法である。ヘリカルCTやコーンビームCTを用いてCTAを行うと、血管の三次元データ(volume data)が得られる。コーンビームCTでは1回の撮影が0.5秒程度でできるので、繰り返し撮影を行って、時系列的なCTAの三次元データを得ることが可能である。しかしながら、空間分解能(解像度)に限界があって、直径1mm以下の細い血管を正確に描出することは困難である。
【0012】
従来の問題点は次の通りである。
(1)時系列的な撮影による血流動態観察が必要な場合が多い。動脈から注入された造影剤は、末梢の毛細血管系を通過し、静脈に至る。アンギオグラフィにおいては、造影剤注入から撮影までの遅延時間を変える事によって、主に撮影される血管が動脈であるか、末梢血管系であるか、静脈であるかを選択する。DSAの第二の撮影においても、この事情は全く同じである。
【0013】
しかし、血管内手術の対象となるような、血管系の一部が狭窄や閉塞を起こしている症例では、本来あるべき血流路が詰まっていたり、血流が正常の経路以外の経路(側副血行路)を経由して流れていたりすることがしばしばある。その病態の正確な診断には、血管系のどの部分が正常なタイミングで造影され(すなわち造影剤が到達し)、どの部分は正常よりも遅延するか、また、どの部分が先に造影され、どの部分が後で造影されるか、という動態を観察することが本質的に重要である。
【0014】
ダイナミックDSAを使えば、造影剤注入後の数秒間ないし十数秒間に渡って反復して撮影を行うことによって、造影剤が動脈、末梢血管系、静脈を通過する動態を時系列的なデジタル画像として観察できるので、この必要性を満たす事ができる。
【0015】
一方、回転DSAや3D−DSAにおいては、被写体の周囲を巡る円軌道上の所定の角度範囲に渡る多数の異なる方向から撮影を行うために、一定の時間が必要で、典型的には10秒程度掛かるため、血流動態観察に適さない。
【0016】
(2)三次元再構成が必要な場合が多い。脳のアンギオグラフィでは、三次元的に屈曲した多数の血管が観察される。この画像の上で、小さい動脈瘤と血管の屈曲部を見分けること、また、血管像が重なり合った部分にまぎれた狭窄部位を発見することは容易でない。
【0017】
回転DSAは被写体を囲む円軌道上の多様な方向から血管の像を観察できるので、この困難を若干緩和する。さらに3D−DSAを用いれば、volume dataが得られるので、これを任意の方向から観察したり、特定の部分(例えば観察したい部分以外の、重なり合っている血管)を除去した像を作って観察したりでき、小さい動脈瘤や、血狭窄部位を検索するのが容易である。また、直達手術を行う際の進入方向から見た像を作ることによって、手術前に外科医が術野の構造を理解するのに役立つ。
【0018】
ただし、毛細血管系は非常に微細でしかも多数の血管から成るため、3D−DSAやCTを以てしても個別の血管を識別することは不可能である。しかし、3D−DSAやコーンビームCTを用いれば、局所の組織における、造影剤の平均濃度を定量的に測定することが可能である。すなわち、血中造影剤濃度が至るところ一様であったとすると、造影剤の平均濃度はその組織に占める毛細血管系の内腔体積の比率(血管床体積比率)、言い換えれば、当該局所組織の含む血液量(blood volume)に比例する。この血液量は梗塞の診断指標として重要である。
【0019】
(3)高速回転する撮影装置は、カバーがないと危険であるが、カバーを持つ撮影装置は血管内手術や、開頭手術中の撮影に適さない。コーンビームCTにおいては、被写体を非常に多数の方向から短時間の内に撮影するために、撮影部が大きな角速度で回転する(1回転を0.5秒で行う装置もある)。このため、回転する機構部分をすべてカバーで覆って、安全性を確保することが必須である。
【0020】
回転DSAは通常カバーを持たない。そして、被写体の周囲を巡る円軌道上から、所定の角度範囲に渡る多数の異なる方向から撮影を行うために、典型的には10秒程度掛ける。これよりも短い時間で撮影を行うと、大きな角速度で装置を回転させることになり、危険性が高まって臨床に適さない。一方、通常のアンギオグラフィ装置は、いつでも撮影が開始できるように患者を位置決めした状態(撮影を行っていないとき)において、患者の周囲に比較的広い空間(open space)があって、カテーテル操作等を容易に行えることが特長である。また、装置が軽量で可動であるため、開頭手術等の外科手術の途中で撮影を行う際に、(患者を動かさずに)装置を移動して撮影することができる。
【0021】
一方、撮影時間を短縮し、かつ安全性を確保するために、回転する機構部分をすべてカバーで覆い、短時間での撮影を可能にした回転DSA装置の製品もかつて存在した。このような回転DSA装置においては、カバーの一部にトンネル状もしくはくぼみ状の穴があり、患者の撮影対象部位をこの穴の中に入れて撮影を行う必要がある。このため、カテーテル操作等を容易に行える、手術中に撮影できる、という特長が損なわれてしまう。さらに、このような装置、あるいはX線CT装置は非常に高価であって、しかも広い設置面積を必要とする。アンギオグラフィを使って行う必要がある血管内手術は時間が掛かる場合が多く、一日に多数の患者を捌くことは難しいため、これらの装置をアンギオグラフィやDSAの代用として用いかつ合理的な経済性を持って運用するのは困難である。
【0022】
(4)高速回転する撮影装置は空間分解能に限界がある。脳などのアンギオグラフィにおいて行われる診断では、特に太い動脈に生じた動脈瘤、狭窄、閉塞を観察する事が重要であるが、開頭手術の準備として撮影を行う場合、あるいは血管内手術の際に撮影を行う場合には、しばしば、脳底部の太い動脈から生えている穿通枝動脈を観察することが重要になる。穿通枝動脈は脳深部にあって、重要な機能を持つ部分を司る部分を栄養しており、直径1mm以下のものが多く、また側副血行路(穿通枝動脈の血流が失われた際に代替の働きをする血管)がほとんどない。すなわち、もし閉塞したり、破裂したりすると重篤かつ不可逆的な症状を呈しやすく、致命的である場合も多い。
【0023】
このため、開頭手術においては、誤って穿通枝動脈を切断しないように、また、誤って動脈瘤と一緒に穿通枝動脈をクリップで挟むことによって閉塞してしまうことのないように十分注意しなくてはならない。一方、血管内手術においては、太い動脈の内壁からはがれ落ちたアテローム(コレステロール塊)や凝固した血の塊が穿通枝動脈に流入して塞栓や狭窄を起こすことのないように十分注意しなくてはならず、もしそのような状況が生じたら、即座に塞栓物を溶解するなどの処置を行わなくてはならない。
【0024】
しかし一般に、高速回転する撮影装置では、穿通枝動脈を確実かつ鮮明に描出することは難しい。これらの装置は空間分解能に限界があるという弱点を持からである。すなわち、高速回転で短時間の内に多数の方向から撮影を行うためには、高出力のX線管装置を搭載する必要がある。その場合、X線管装置の陰極と陽極の間に、短時間のうちに大きな電流が流れることになる。ところが、一般にX線管装置においては、電流の持つエネルギーのほとんど全てが、陽極において熱エネルギーに変わる。そして、陽極の表面が溶融・蒸散することを防ぐためには熱が発生する場所を集中させないことが必要不可欠であるから、回転陽極を用い、さらにX線焦点(陽極上でX線が発生する領域)の寸法を大きくせざるを得ない。このために、撮影されたX線像にぼけが生じる。この現象は、点光源による影が鮮明であるのに対して、広がりのある光源による影は不鮮明になるという幾何光学の原理的問題であり、回避できない。
【0025】
さらにX線CT装置の場合には、撮像デバイスが多数のX線検出チャネルによって構成されている。このため、X線CT装置の空間分解能は、各X線検出チャネルのX線受光面の開口サイズによっても制約されている。すなわち、非常に小さい開口サイズを持つX線検出チャネルを用いれば空間分解能を向上させることができるが、そうすると、一定の撮影領域をカバーするには極めて多数のX線検出チャネルが必要になり、また、これらのX線検出チャネルから出力されるデータの量も膨大となって、装置が大規模なシステムになり、技術的に難しく、また非常に高価な装置になってしまう。
【0026】
以上から、臨床での利用において要求される、(1)動態観察ができ、(2)三次元再構成ができ、(3)血管内手術、術中撮影に適し、(4)高い空間解像度を持ち、(5)経済的合理性を持つ、という条件を全て満たす手段は存在しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の目的は、動態観察ができ、三次元再構成ができ、血管内手術や術中撮影に適し、高い空間解像度を持つ、経済的合理性を持つ、という条件を全て満たすダイナミック3D−DSA対応のX線撮影装置及び磁気共鳴イメージング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明のある局面によるX線撮影装置は、X線を発生するX線管装置と、前記X線管装置からX線を発生させるために管電圧を発生する管電圧発生部と、被検体を透過したX線を検出する2次元のX線検出器と、前記X線管装置と前記X線検出器とを前記被検体の周囲を回転自在に支持する支持機構と、前記X線管装置と前記X線検出器とが前記被検体の周囲を回転しながら撮影を繰り返す回転撮影動作を撮影開始角度を変えながらK回(Kは2以上の整数)繰り返すように前記管電圧発生部、前記X線検出器及び前記支持機構を制御する制御部とを具備し、前記K回の回転撮影動作により前記X線検出器で検出した複数の画像から補間処理により前記回転撮影動作の開始又は造影開始からの経過時間が略同一を示す複数の画像を生成し、前記生成した複数の画像から3次元画像を再構成する画像再構成部とをさらに備える。
本発明の他の局面によるX線撮影装置は、X線を発生するX線管装置と、前記X線管装置からX線を発生させるために管電圧を発生する管電圧発生部と、被検体を透過したX線を検出する2次元のX線検出器と、前記X線管装置と前記X線検出器とを前記被検体の周囲を回転自在に支持する支持機構と、前記X線管装置と前記X線検出器とが前記被検体の周囲を回転しながら撮影を繰り返す回転撮影動作を撮影開始角度を変えながらK回(Kは2以上の整数)繰り返すように前記管電圧発生部、前記X線検出器及び前記支持機構を制御する制御部とを具備し、前記各回転撮影動作において撮影が行われるサンプリング点は、前回までの回転撮影動作において撮影が完了したサンプリング点の間隙を埋めていくように配置される。
【0029】
本発明の更に他の局面による磁気共鳴イメージング装置は、被検体を載置する静磁場に傾斜磁場を重畳すると共にRF波を照射することによりデータ収集を行うデータ収集部と、前記データ収集をフーリエ空間を構成する複数のボクセルグループを対象として複数回繰り返す撮影動作を撮影開始時のボクセルグループを変えながらK回(Kは2以上の整数)繰り返すように前記データ収集部を制御する制御部とを具備する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、動態観察ができ、三次元再構成ができ、血管内手術や術中撮影に適し、高い空間解像度を持つ、経済的合理性を持つ、という条件を全て満たすダイナミック3D−DSA対応のX線撮影装置及び磁気共鳴イメージング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態に係るX線撮影装置をダイナミック3D−DSAとして適用したとき、次の作用効果を奏することができる。
(1)時系列的な一連の三次元再構成データ(volume data)が得られるので、血流の動態を観察することができる。
(2)三次元再構成データが得られるので、これを任意の方向から観察したり、特定の部分、例えば観察したい部分以外の、重なり合っている血管を除去した像を作って観察したりできる。
(3)撮影時に高速回転する必要がなく、従って、カバーを持たない撮影装置として構成する事ができる。このため、機構的には、従来のアンギオグラフィとほとんど同等の装置として構成でき、ゆえに、従来の3D−DSA装置と同等程度の価格、設置面積の装置が実現できる。そして、いつでも撮影が開始できるように患者を位置決めした状態(撮影を行っていないとき)において、患者の周囲に比較的広い空間(open space)があって、カテーテル操作等を容易に行えるという、アンギオグラフィの特長をそのまま継承することができる。
【0032】
(4)高い空間分解能が実現できる。1回のデータ収集(以下これを「RUN」と呼ぶ)に掛かる時間は従来の3D−DSA装置とほぼ同等であり、特に短時間で多量のデータを集中的に収集する必要がなく、従って、撮影時に高速回転する必要もない。このため、X線管装置の出力を抑えて、X線焦点のサイズが小さい装置を構成することができる。以上から、従来のアンギオグラフィ装置と同等の空間分解能が実現できる。
(5)経済的合理性を持つ装置が構成できる。撮像デバイスとしてイメージインテンシファイアや平面撮像デバイスなど、主要な高額デバイスは、従来のアンギオグラフィ装置と同じものを使用できる。また、従来のアンギオグラフィの特長をそのまま継承しているために、アンギオグラフィ装置として利用でき、対象となる症例が幅広い。
【0033】
また、本実施形態では多様な観察手段を提供することができ、それにより次の作用効果を奏することができる。本実施形態により撮影されたダイナミック3D−DSAは、ダイナミック3D−CTAで撮影されたデータと同等の多様な様式で観察できる。
【0034】
つまり、注目する部位を囲む体積領域(Volume of interest: VOI)以外の血管や組織の像を消去して観察することによって、所望の部位における血流の動態を、多様な方向から観察することができる。
また、任意の平面あるいは曲面を選択して、三次元データ選択した面上にあるボクセルだけを集めて平面画像を構成し、この平面画像を各時刻に置ける三次元データについて生成して、これらを系列的に並べることによって、時間軸と空間的平面から構成される三次元データを構成することができる。この三次元データ上では、選択した面上にある各所における造影剤の濃度変化が一覧できる。
【0035】
また、選択した血管上の選択した2箇所に造影剤が到達した時刻を測定することによって、当該血管の血流速を測定することができる。
さらに、選択した体積領域(Volume of interest: VOI)内の造影剤含有量の経時変化を測定して、これを動脈内の造影剤濃度変化の測定と比較することによって、当該VOIにおける、血流の平均通過時間と血液量が測定でき、これらから血流量が計算できる。血流量は虚血の診断指標として非常に重要である。
【0036】
図3、図4に示すように、X線撮影装置は、X線管装置12と撮像デバイス14とを有する。X線管装置12は、高電圧発生装置13から管電圧の印加を受けてX線をファン角αで発生する。撮像デバイス14は、典型的には、マトリクス状に配列された半導体検出素子を有するフラットパネルディテクタ(FPD:平面型撮像デバイス)で構成される。データ収集装置23は、被検体150を透過したX線のデータを撮像デバイス14を介して収集する。
【0037】
X線管装置12は、撮像デバイス14とともに、寝台18の天板17上の被検体150を挟んで互いに対向する向きでCアーム51に搭載される。Cアーム51は、回転軸Z1を中心に旋回自在に床面に支持される床旋回アーム54から、スタンド53、アームホルダ52を介して支持される。スタンド53は略鉛直な回転軸Z2まわりに回転自在に設けられ、アームホルダ52は略水平な回転軸Z3まわりに回転自在に設けられる。Cアーム51は、アームホルダ52に、回転軸Z4まわりにスライド回転自在に設けられる。これら回転軸Z1,Z2,Z3,Z4各々周りの回転は、アーム駆動回路16に駆動されるアーム回転モータ18により個別に駆動される。アーム角度エンコーダ19は、回転軸Z1,Z2,Z3,Z4周りの回転角度を個別に検出するために設けられている。
【0038】
制御装置20は、システム全体の制御とともに、撮影制御を担う。撮影制御に際しては、制御装置20は、操作盤21を介して管電圧、管電流、撮影角度範囲、サンプリングピッチ(撮影間隔)Δθ、回転撮影の回数、造影開始から撮影開始までの遅延時間等の撮影条件を決定する。操作盤21を介して撮影トリガが入力される。制御装置20は、撮影条件に従って撮影が行われるように高電圧発生装置13、アーム回転モータ16、オートインジェクタ22を制御する。
【0039】
上記装置により、回転アンギオグラフィを繰り返し撮影すること(造影は毎回の回転撮影ごとに行う)によって収集したデータに基づいて、任意の時刻における3Dアンギオ像(3D×時刻=4D)を生成する。この機能を実現するための制御方法が従来とは違っている。
【0040】
本実施形態の構成では、図5に示すように、
(1)K回(Kは2以上の整数)造影剤注入を行い、その都度1回ずつ回転撮影を行う。
(2)毎回の回転撮影(RUN)は、造影開始後所定の遅延時間Tsが経過した時点から、造影開始後所定の時間Te(Te>Ts)が経過した時点まで行う。毎回の回転撮影において、X線像の撮影はアーム51の回転角度が所定のサンプリングピッチΔθの整数倍になった毎時に行う。
(3)回転撮影を行う際のアームの回転方向は全て同じである。
(4)回転撮影開始時のアーム51の角度(回転撮影開始角度)は毎回異なる。第k回目の回転撮影の撮影開始時のアームの角度をs(k)とするとき、K回の撮影によってs(K)(K=1, 2, …, K)が、所定の撮影角度範囲の中に概ね一様に分布するようになるよう、s(K)を決める。撮影角度範囲は、いわゆるハーフ再構成の可能な角度範囲(π+2α以上、αはX線のファン角)に設定される。
【0041】
実際に(4)を実現するための最も単純な方法は、k回目の撮影(RUN kと呼ぶ)における、撮影開始時のアームの角度をs(k)とし、βをβ>π+2αである定数とするとき、
s(k+1)=s(k)+β/(k-1)
とすることである。
【0042】
図5は、このようにしてs(K)を決定したものである。より実用的には、K回の回転撮影を予定していても、何らかの事情(たとえば患者の容態が悪化する、患者が動くなど)によって途中で撮影を止めなくてはならないことを考慮して、途中で撮影をやめた場合にでも(品質は多少悪くなっても)任意の時刻における3Dアンギオ像が得られるようにs(k)を設定することが望ましい。
【0043】
画像生成装置24では、K回の回転撮影(RUN)で実際に収集されたX線像群Q(θ,k), k=1,2,…,K(黒丸で示す)から任意の時刻tにおけるX線像群(白抜き四角)を補間により生成し、各撮影角度aで撮影されたであろうX線像群P(θ,t)が生成される。画像P(a,t)は、同じ撮影角度aにおける最寄りのデータから推算によって生成する。推算された画像の撮影角度の範囲がπ+2α以上あれば、これらの推算された画像から、時刻tにおける3D−CTA画像を再構成できる。
【0044】
図6に示すように、補間の最も簡単な方法は、一次補間である。一次補間の場合、実際に撮影できたX線像Qの中から、アームの回転角度が同じaであって、しかも造影開始後の経過時間がtに最も近いX線像Q(a,K+1)とQ(a,K)から、P(a,t)を推算する。なお、ここで言うX線像とは、X線撮影で得られた平面画像を対数変換したものを指す。
【0045】
図7には、一次補間によってP(a,t)を推算する場合に、計算に使用される「アームの回転角度が同じaであって、しかも造影開始後の経過時間がtに最も近いX線像」を丸印で囲んで示している。
【0046】
一次補間の方法としては、X線像はデジタル画像であり、画素(pixel)が二次元に配列されたもので構成される。各画素は濃度値という一つの数値を持つ。そこで、図8に示すように、X線像Q(a,K)上の、ヨコ方向の座標がx、タテ方向の座標がyの位置にあるひとつの画素の値をQ(a,K)[x,y]と表すことにする。Q(a,K+1)[x,y], P(a,t)[x,y]も同様の意味である。X線像Q(a,K)が撮影された時の、造影開始後の経過時間をu、X線像Q(a,K+1)が撮影された時の、造影開始後の経過時間をvとする。
【0047】
このとき、P(a,t)[x,y]を以下のようにして推算する。
P(a,t)[x,y]=((t-u) Q(a,K+1)[x,y] + (v-t) Q(a,K)[x,y])/(v-u)
こうして、所望のX線像(すなわちアームの回転角度がaであって造影開始後の経過時間がtであるX線像)の推定P(a,t)が得られる。
【0048】
このようにして、造影開始後の経過時間tの任意の値について、アーム回転角度θの範囲がπ+2α以上に渡って、画像P(θ,t)が推算できる。そこで、従来の方法(回転アンギオグラフィにおける、コーンビーム投影からの3次元再構成法)を用いて、P(θ,t)(θはπ+2α以上の範囲に渡る)から3次元再構成を行って、造影開始後の経過時間がtである時点における3次元像を再構成できる。
【0049】
従って、繰り返し撮影を行って得たデータひと組から、造影開始後の経過時間tの異なる一連の3次元像が得られる。
【0050】
(2)毎回の回転撮影(RUN)は、造影開始後所定の遅延時間Tsが経過した時点から、第二の所定の遅延時間Teが経過した時点まで行う。毎回の回転撮影において、X線像の撮影はアームの回転角度が所定の定数Δθの整数倍になった時に行う。
【0051】
ここで、Δθは回転角度のサンプリングピッチである。臨床使用に耐える画質の3D像を得るには、Δθは比較的小さく例えば3度が必要とされる。それよりも大きいと、再構成された3D像に含まれる偽像(artifact)が強くなって、診断を妨げる。
【0052】
また、もしアーム51が常に一定の角速度で回転するのであれば、(a)「毎回の回転撮影において、X線像の撮影はアームの回転角度が所定の定数Δθの整数倍になった時に行う」という規則と(b)「毎回の回転撮影において、X線像の撮影は所定の時間Δt周期で行う」という規則とは同じことである。しかし、実際の装置では角速度は誤差を持つ。すなわち、回転部分の荷重の偏り、モータ18の出力のふらつき、回転の加速・減速に伴う角速度変動などの要因によって、必ずしも正確に一定の角速度を維持できるとは限らず、さらに、K回の繰り返し撮影に於いてどの回転撮影(RUN)でも同じ角速度になるようにできるとは限らない。
【0053】
一方、本実施形態で開示する補間法の方式が要請するのは、所定の時間間隔で撮影された一連のX線像が得られていることではなく、所定のアーム回転角度において撮影された一連のX線像が得られていることである。
【0054】
従って、上記のような角速度の誤差があっても適切な撮影ができるように構成するためには、(a)の規則に従う必要があり、規則(b)では旨く行かない。
【0055】
より実用的には、K回の回転撮影が完遂できなかった場合にも撮影が無駄にならないように構成するのが望ましい。K回の回転撮影を予定していても、何らかの事情(たとえば患者の容態が悪化する、患者が動くなど)によって途中で撮影をやめなくてはならないことがあり得る。途中で撮影をやめた場合にでも(品質は多少悪くなっても)任意の時刻における3Dアンギオ像が得られるようにs(K)を設定することが望ましい。
【0056】
このためには、K回のうち最初の任意のL回(L≦K)の撮影における撮影開始時のアーム51の角度s(1)〜s(L)が、角度範囲βの中に概ね一様に、かつ、角度範囲β全般に渡るように分布するよう、撮影開始時の角度s(1)〜s(L)を決定すれば良い。
【0057】
具体的には、撮影開始時のアーム51の角度を決定する方法は、例えば以下のように構成しても良い。
1回目の撮影はs(1)=0とする。
【0058】
2回目の撮影はs(2)=βとする。
【0059】
3回目以降K回目の撮影のs(K)は、s(1), s(2), …, s(K-1)を小さい順に並べたときに、隣り合うものの間隔が最も大きい箇所に入るようにし、しかも、その間隔をa:(1-a)に内分する値とする。(ここにaは0.35〜0.48程度の定数である。)
例えばa=0.45とする。 s(1)=0, s(2)=β, s(3)=0.45β, s(4)=0.675β であるとき、小さい順に並べると、
s(1) < s(3) < s(4) < s(2)
であり、隣り合うものの間隔が最大なのはs(1)とs(3)の間(0.45β)である。そこで、s(5)はs(1)とs(3)の間隔を0.45:0.55に内分する値、すなわち、 s(5) = s(1)+0.45(s(3)-s(1))=0.2025β
と計算する。
【0060】
図9は、上記手続きを繰り返すことによって、K回目の撮影までに、角度範囲βがどのようにサンプリングされていくか、その進行の様子を示している。図9では30回撮影する場合までを示している。例えば、当初30回撮影する予定でありながら、実際には15回しか撮影できなかったとしても、角度範囲βをほぼ一様にサンプリングしたデータが得られる。(横軸が15の箇所に縦に並んだ点列が概ね一様に分布している。)つまり、各回の撮影は角度範囲βをほぼ一様にサンプリングするとともに、直前までの撮影によるサンプリング点を補完するようにサンプリングする。要するに、各回転撮影動作において撮影が行われるサンプリング点は、それまでの回転撮影動作において撮影が完了したサンプリング点の間隙を埋めていくように配置される。
【0061】
撮影対象組織における造影剤の濃度の経時的変化は、心拍の影響を受ける。この効果は造影剤を動脈から注入する場合に著しい。特に造影開始直後は、血中造影剤濃度の変化が速いので、心拍の影響が大きくなる。本実施形態では、K回繰り返して回転撮影を行うにあたって、造影剤注入開始からの経過時間につれて撮影対象組織における造影剤の濃度が変化する現象が、毎回ほぼ同じように起こることを利用している。従って、より精度の高い3D画像を得るためには、図10に示すように、毎回の撮影を心拍と同期して行うことが望ましい。
【0062】
既存の心電計の多くは、心電図のR波のピークを自動検出する機能を持つ。図10では、患者に心電計を接続してR波がピークになった時刻を常時モニタする。そして、操作盤15から撮影開始ボタンを押すなどして、K回目の撮影開始を指示したあと、最初にR波のピークが出現した時刻を基準にして、それから所定の遅延時間vが経過した時点で造影剤の注入を開始する。そして、造影開始から所定の遅延時間dが経過した時点で撮影を開始する。
【0063】
この構成によれば、もし患者の(毎分当りの)心拍数が安定しているならば、繰り返して回転撮影を行ううちの毎回の撮影において、心拍の影響がどれもほぼ同程度になるようにすることができる。
【0064】
本装置が何回転も続けて回転できる構造を有するとき、図11に示すように、複数の周回を重ねながら撮影を繰り返すことができる。この場合、撮影は、アームの回転角がΔθの整数倍に至った各時点で行う。この構成では、少なくとも4π(2回転)の回転ができるアンギオグラフィ装置を使用し、K回の繰り返し撮影を行う。
(1)K回造影剤注入を行い、その都度1回ずつ回転撮影を行う。
(2)毎回の回転撮影(RUN)は、造影開始後所定の時間Tsが経過した時点から、第二の所定の時間Teが経過した時点まで行う。毎回の回転撮影において、X線像の撮影はアームの回転角度が所定の定数Δθの整数倍になった時に行う。
(3)回転撮影を行う際のアームの回転方向は全て同じである。
【0065】
(4)回転撮影開始時のアームの角度は毎回異なる。第K回目の回転撮影の撮影開始時のアームの角度をs(K)とするとき、K回の撮影によってs(K)(K=1, 2, …, K)が角度の範囲2πの中に概ね一様に分布するようになるよう、s(K)を決める。
【0066】
実際に(4)を実現するための最も単純な方法は、K回目の撮影(RUN Kと呼ぶ)における、撮影開始時のアームの角度をs(K)とするとき、
s(K+1)=s(K)+2π/K
とすることである。しかしより実用的には、K回の回転撮影を予定していても、何らかの事情(たとえば患者の容態が悪化する、患者が動くなど)によって途中で撮影を止めなくてはならないことを考慮して、途中で撮影をやめた場合にでも(品質は多少悪くなっても)任意の時刻における3Dアンギオ像が得られるようにs(K)を設定することが望ましい。この方法については、図5でβ=πとしたものと同じである。
【0067】
収集したX線像(対数変換したもの)から、所望のP(a,t)を推算する方法も補間法として上述した通りである。
【0068】
アーム51の1回転分に渡る回転角度aについて、造影開始後t秒におけるX線像が推算できるため、コーンビームからの再構成法を用いて、造影開始後任意の時間t秒(Ts<t<Te)が経過した時点における3D像を生成できる。以上をまとめると;
(1)K回造影剤注入を行い、その都度1回ずつ回転撮影を行う。
(2)毎回の回転撮影(RUN)は、造影開始後所定の時間Tsが経過した時点から、第二の所定の時間Teが経過した時点まで行う。毎回の回転撮影において、X線像の撮影はアーム51の回転角度が所定の定数Δθの整数倍になった時に行う。
(3)回転撮影を行う際のアーム51の回転方向は必ずしも同じでない。順逆の両方向で交互に回転撮影を行う。
(4)回転撮影開始時のアーム51の角度は毎回異なる。第K回目の回転撮影の撮影開始時のアーム51の角度をs(K)とするとき、K回の撮影によってs(K)(K=1, 2, …, K)が角度の範囲2πの中に概ね一様に分布するようになるよう、s(K)を決める。
【0069】
図5の例と異なるのは動作(3)である。例えば、少なくとも4πの回転ができるアンギオグラフィ装置を使用し、奇数回目のRUNと偶数回目のRUNとで回転方向が逆になるように構成することができる。
【0070】
K回目の回転撮影RUN Kのあと、K+1回目のRUNに先立って、K+1回目のRUNの開始位置近辺まで帰還させるためにアームを逆回転させる必要があり、図5の例ではこの帰還の回転はかなり大きい。本構成では、逆回転の最中にもX線像の収集を行えるので、検査時間を短縮でき、さらにアームの動きによる事故の危険性を低減する効果が期待できる。
【0071】
しかしこの構成は、図12からわかるように、推算しようとするP(a,t)において、例えば(t,a)のある組み合わせでは、推算に用いるX線像が近傍にないために、推算の精度が落ちるという難点も持っている。
【0072】
一方、図13に示すように、K回繰り返して回転撮影を行う代わりに、アーム51の回転角K通りについて、回転をせずに繰り返し撮影を行うことによっても、造影開始後からt秒経過した時点での3D像を得られる。これは原理的には正しい。しかし、実用的な画質の3D像を得るには、Δθはせいぜい3度以内でなくてはならない。例えばΔθを3度とし、βを210度とすると、K=70である。すなわち、70回に渡って造影剤注入と撮影を繰り返す必要がある。この図12の例と対比すると、図5の例ではK回の繰り返し撮影(RUN)のそれぞれにおいて、アーム51の回転角度を変化させながら撮影を行うという構成の優位性が明らかである。
【0073】
本実施形態では、K回の回転撮影を行う。従って、もし毎回の回転撮影(RUN)を、従来の回転アンギオグラフィ検査と同等のX線量で行ったとすると、被験者の被曝するX線量はK倍になってしまう。そこで、従来の回転アンギオグラフィ検査と同等の被曝線量で検査を行おうとすると、毎回の回転撮影(RUN)で照射するX線量を1/Kにする必要がある。
【0074】
一般に、X線像(対数変換したもの)の各画素の値に含まれるノイズ成分は、主に「量子ノイズ」と呼ばれる、X線光子の発生量のばらつきに起因するノイズである。そして、照射するX線量をx倍にすると、ノイズ成分の振幅は1/x1/2倍になる。従って、X線量を1/Kにするとノイズの振幅はK1/2倍に増えることになる。ノイズの振幅があまり大きいと、3D像のしたときに偽像(artifact)が多くなり、診断の妨げになる。
【0075】
ところが、本実施形態において、図5の例でβ=2πの場合や図11、図12の場合(もともとβ=2πである)には、それぞれのアーム角度aについて、同じアーム角度で撮影した多数のX線像が得られる。そしてこれらは、アーム角度をaに固定したまま反復撮影を行った場合に得られる一連のX線像と同等である。このため、動的画像(ダイナミック image)一般に対して適用可能なノイズ低減処理法、例えばコヒーレントフィルタを用いて、解像度を維持したままノイズを著しく低減できる。従って、本実施形態とノイズ低減処理法を組み合わせることによって、K回の回転撮影による被曝は、通常の回転アンギオグラフィ検査における被曝のK倍よりも小さくでき、実際上はほぼ同等程度の被曝に抑えることが可能である。
【0076】
次に、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置(MRI)への適用例を説明する。MRIで3D像を得るためには、フーリエ変換法を用いるのが一般的である。すなわち、図14に示すように、フーリエ空間を多数のボクセル(voxel)に分け、それぞれのボクセルに測定データ(複素数値)を割り当てる。ただし、一度の測定ではフーリエ空間の全ボクセルに値を割り当てることはできないので、フーリエ空間のボクセルをN個のグループ(グループ番号0, 1, 2, … , N-1)に分け、それぞれのグループごとに、値を割り当てるための測定を行う。従って、測定をN回繰り返すことになる。この繰り返しの周期は繰り返し時間TRと呼ばれている。例えばグループ数がN=128で、繰り返し時間がR=0.1秒の場合、撮影に要する時間(撮影時間)はN×TR=12.8秒である。
【0077】
フーリエ空間のすべてのボクセルについて値が割り当てられたら、フーリエ空間を3次元離散フーリエ変換によって変換すると、3D像(これもボクセルから構成される)が得られる。
【0078】
測定データは傾斜磁場の一連の操作とRF波の照射を組み合わせて行い、被検体から発生するエコー波を測定して得る。このとき、値を割り当てようとするグループに対応して、傾斜磁場の一連の操作の仕方が決まる。
【0079】
図15に本実施形態をMRIに適用する例を示す。この例では、アーム51の回転角度の代わりにグループ番号を縦軸として表す。
(1)K回造影剤注入を行い、その都度1回ずつ連続撮影を行う。
(2)毎回の連続撮影(RUN)は、造影開始後所定の時間Tsが経過した時点から、第二の所定の時間Teが経過した時点まで行う。毎回の連続撮影は、周期TRで繰り返される多数回のデータ収集から成る。一度のデータ収集で、一つのボクセルグループに対応する測定値が決定される。
(3)連続撮影ごとに、N個あるボクセルグループに対応する測定をどの順で実施するかは異なる。
【0080】
MRI装置ではどのボクセルグループに対応するデータを収集するかは撮影シーケンス(傾斜磁場とRF波の操作の組み合わせ)によって決まる。従ってアンギオグラフィ装置を使った例とは違って、撮影に際して機械的可動部を用いる必要がないので、角速度の誤差に関する議論に対応する問題はもともと存在しない。造影開始後Ts秒経過した時点以降、一定の周期(TR秒)でデータ収集を行うことは容易である。
【0081】
図15では、1回目の連続撮影(RUN1)ではボクセルグループS(1)に対応する測定から始めて、TR秒後にはボクセルグループS(1)+1、さらにTR秒後にボクセルグループS(1)+2と測定を繰り返し、ボクセルグループN−1に対応する測定した次には、ボクセルグループ0に対応する測定する。2回目の連続撮影では、ボクセルグループS(2)に対応する測定から始め、以下同様である。
【0082】
要するに、被検体を載置する静磁場に傾斜磁場を重畳すると共にRF波を照射することによりデータ収集を行うデータ収集部を、データ収集をフーリエ空間を構成する複数のボクセルグループを対象として複数回繰り返す撮影動作を撮影開始時のボクセルグループを変えながらK回(Kは2以上の整数)繰り返すように制御部で制御する。
【0083】
このようにして、各ボクセルグループについて、多数の測定データが得られる。次に、造影開始後t秒(tはTs<t<Teであれば任意)における3D像を生成する方法を述べる。各ボクセルグループの造影開始後t秒における対応する測定値を、既に述べたような補間法を用いて推算する。こうして得たフーリエ空間を3次元離散フーリエ変換すると、造影開始後t秒における3D像が得られる。
【0084】
心拍に同期した撮影開始タイミングの決定を行うことが望ましいのも、アンギオグラフィ装置を用いた例と同様である。
【0085】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】回転DSA、3D-DSAの可能なアンギオグラフィ装置の撮影部の概念図。
【図2】回転DSA、3D-DSAの撮影動作の説明図。
【図3】本実施形態において、回転DSA、3D-DSAができるアンギオグラフィ装置の構成を示す図。
【図4】図3のアンギオグラフィ装置のガントリの外観を示す図。
【図5】図3の制御装置の制御による複数回の回転撮影で得られるデータの配置を示す図。
【図6】図5の配置の一部を拡大図。
【図7】図3の画像生成装置による一次補間処理に関する説明補足図。
【図8】図3の画像生成装置による一次補間処理に関する説明補足図。
【図9】図3の制御装置の制御による複数回の回転撮影で得られるデータの配置の他の例を示す図。
【図10】図3の制御装置の制御による心拍同期撮影開始タイミングの決定に関する説明補足図。
【図11】図3の制御装置の制御による連続的な回転撮影で得られるデータの配置例を示す図。
【図12】図3の制御装置の制御による順逆交互の回転撮影で得られるデータの配置例を示す図。
【図13】図3の制御装置の制御による回転を伴わない撮影で得られるデータの配置例を示す図。
【図14】本実施形態において、MRIへの適用例の説明図。
【図15】図14のMRIにおけるデータ配置例を示す図。
【符号の説明】
【0087】
12…X線管装置、13…高電圧発生装置、14…撮像デバイス、16…アーム駆動回路、17…天板、18…寝台、19…アーム角度エンコーダ、20…制御装置、22…オートインジェクタ、23…データ収集装置、24…画像生成装置、150…被検体、51…Cアーム、52…アームホルダ、53…スタンド、54…床旋回アーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を発生するX線管装置と、
前記X線管装置からX線を発生させるために管電圧を発生する管電圧発生部と、
被検体を透過したX線を検出する2次元のX線検出器と、
前記X線管装置と前記X線検出器とを前記被検体の周囲を回転自在に支持する支持機構と、
前記X線管装置と前記X線検出器とが前記被検体の周囲を回転しながら撮影を繰り返す回転撮影動作を撮影開始角度を変えながらK回(Kは2以上の整数)繰り返すように前記管電圧発生部、前記X線検出器及び前記支持機構を制御する制御部とを具備し、
前記K回の回転撮影動作により前記X線検出器で検出した複数の画像から補間処理により前記回転撮影動作の開始又は造影開始からの経過時間が略同一を示す複数の画像を生成し、前記生成した複数の画像から3次元画像を再構成する画像再構成部とをさらに備えることを特徴とするX線撮影装置。
【請求項2】
X線を発生するX線管装置と、
前記X線管装置からX線を発生させるために管電圧を発生する管電圧発生部と、
被検体を透過したX線を検出する2次元のX線検出器と、
前記X線管装置と前記X線検出器とを前記被検体の周囲を回転自在に支持する支持機構と、
前記X線管装置と前記X線検出器とが前記被検体の周囲を回転しながら撮影を繰り返す回転撮影動作を撮影開始角度を変えながらK回(Kは2以上の整数)繰り返すように前記管電圧発生部、前記X線検出器及び前記支持機構を制御する制御部とを具備し、
前記各回転撮影動作において撮影が行われるサンプリング点は、前回までの回転撮影動作において撮影が完了したサンプリング点の間隙を埋めていくように配置されることを特徴とするX線撮影装置。
【請求項3】
被検体を載置する静磁場に傾斜磁場を重畳すると共にRF波を照射することによりデータ収集を行うデータ収集部と、
前記データ収集をフーリエ空間を構成する複数のボクセルグループを対象として複数回繰り返す撮影動作を撮影開始時のボクセルグループを変えながらK回(Kは2以上の整数)繰り返すように前記データ収集部を制御する制御部とを具備することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記撮影動作において撮影が行われるサンプリング点を、前回までの撮影動作において撮影が完了したサンプリング点の間隔を埋めていくように配置されることを特徴とする請求項3記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−236066(P2012−236066A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−175991(P2012−175991)
【出願日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【分割の表示】特願2007−288947(P2007−288947)の分割
【原出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】