説明

X線検出器及びX線検査装置

【課題】 検出感度が高く、アフターグローの低減された、X線検査装置を提供する。
【解決手段】 増感紙を具備するX線検出器において、透過型増感紙10、または反射型増感紙11の少なく共いずれか一方に、増感紙用蛍光体としてGdS:、Pr、CeまたはGdS:Prの少なく共一種を使用する。本発明のX線検出器では、3msec後のアフターグローの光出力は0.2%以下となり、残像等の問題の無い、明瞭な画像が得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線検出器およびそれを用いたX線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、航空機内に荷物を持ち込む際には、航空機の安全運行を確保するために、空港内で予め当該荷物の検査を行っている。この様な手荷物検査装置としては、X線の透過を利用した透過X線検査装置やX線のコンプトン散乱を利用したコンプトン散乱X線検査装置が、一般的に広く使用されている。前者はX線を通しにくい金属製の物品、例えば銃火器や刃物等の金属製凶器を比較的容易に発見することができる。一方、プラスチック爆弾や麻薬等の原子番号の小さい元素によって主として構成される物質は、X線が透過しやすい為、コンプトン散乱を利用した後者の検査装置を用いることで、発見が可能となる。
【0003】
上述したような透過X線やコンプトン散乱X線を利用したX線検査装置は、一般に、透過X線もしくはコンプトン散乱X線をX線検出器に導き、これら検出X線を蛍光体にて可視光に変換した後、この可視光の強度を光電子倍増管、いわゆるホトマルチプライア(以下、ホトマルと略す)で検出し、その強度に応じて荷物内を画像化することによって、検査を実施するように構成されている。
【0004】
荷物検査の精度を上げるためには、より鮮明な画像を得ることが必要となるが、この為には十分な強度の可視光がホトマルに入力されることが求められる。可視光の強度を高めるには、荷物等に照射するX線の強度を高めることで得られるが、空港荷物検査装置の様に、公の場所に設置されるX線検査装置において、照射するX線の強度を高めることは、装置の大型化を招くと共に、危険性も増大してしまう。
【0005】
そこで重要となるのが、蛍光体の輝度である。X線を可視光に変換する際、変換効率の高い蛍光体を使用すれば、X線の強度を高めることなく、高輝度の可視光を得ることが出来、ホトマルに十分な強度の可視光が入力されることになる。
【0006】
ところで、上記したようなX線検出器では、通常、図9に示すように、 400nm付近に分光感度特性のピークを有するホトマルが用いられている。そこで、X線を可視光に変換する蛍光体としては、400nm付近に発光波長のピークを有する蛍光体を利用した方が、ホトマルとの組合せで有利となる。その上で変換効率の高い蛍光体を使用するのが、最も望ましい選択である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2,928,677号公報
【0008】
特許文献1によれば、この様な用途に最適な蛍光体として、AS:D(AはGd、LaおよびYから選ばれた少なくとも1種の元素を示し、DはPrとCeおよびYbから選ばれた少なくとも1種の元素を示す)、BaFX:Eu、A(XはClおよびBrから選ばれた少なくとも1種の元素を示し、AはCeおよびYbから選ばれた少なくとも1種の元素を示す。)等の蛍光体を、透過型X線や、コンプトン散乱X線を可視光に変換する材料として有効に利用できることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら最近では、検査荷物の多様化により、より複雑な形状をより正確に判別することが求められる様になり、従来以上の検査精度の向上が必要になって来ている。この為、より高輝度な蛍光体が求められるのは当然ながら、最近では輝度特性に加えて、アフターグロー特性の向上も要求される様になってきた。
【0010】
特に最近では航空機の利用が手軽になり、旅行者の手荷物や航空貨物が増加し、連続使用でなおかつ高速度で検査される様になって来ており、アフターグロー特性の改善がより厳しく求められる様になっている。見方を変えると蛍光体のアフターグロー特性の為に、検査速度が制限されるケースもあり、この面からもアフターグローの短い蛍光体が望まれているものである。
【0011】
アフターグロー特性とは、蛍光体にX線が照射された場合、蛍光体により吸収されたX線が可視光に変換され、蛍光体が発光を始めるが、その後X線の照射が遮断された場合、蛍光体の発光は徐々に低下し、やがて消失してしまう。この時X線の照射が止められた後の発光のことを、アフターグローと呼んでいる。この様なアフターグローを強く示す蛍光体を、荷物検査用として用いた場合、検査精度に悪影響を及ぼしてしまう。何故なら、連続して荷物検査を行う場合に、目的の画像を観察すると、前の画像の残像と重なることにより、鮮明な画像が得られなくなる為である。
【0012】
なお、アフターグローに類似する特性として、残光特性がある。残光特性とは、X線の照射を遮断後、蛍光体の発光強度が十分の一に低下するまでの時間を求めたものである。例えば特許文献1においては、
蛍光体の残光特性を1msec以下に管理することにより、残像の対策を行っている。しかしながら近年の検査条件では、残光特性の管理のみでは不十分であることが明らかとなってきた。何故なら、蛍光体の発光強度が、短時間で十分の一に減少しても、百分の一から千分の一程度まで低下した後、微弱な光がダラダラと継続する場合がある。荷物検査においては、この様な微弱な光が残像として影響を与え、問題となる為である。アフターグロー特性は、蛍光体の発光を限りなくゼロに近くなるところまで観察した特性であり、このアフターグロー特性を管理することが、特に重要となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、この様な課題に対処する為になされたもので、検査精度の高いX線検査装置を提供することを目的としており、比較的低強度のX線によって十分な検出感度が得られると共に、アフターグローの問題も無く、明瞭な画像が得られるX線検査装置を提供することにある。
【0014】
すなわち、本発明のX線検査装置は、X線の入射部を有する筐体状の検出器本体と、前記入射部に配置された透過型蛍光発生手段と、前記入射部を除く前記検出器本体内の内壁面に沿って配置された反射型蛍光発生手段と、前記検出器本体内に配置された光電変換手段を具備するX線検出器において、前記透過型蛍光発生手段は透過型増感紙を有し、かつ前記反射型蛍光発生手段は反射型増感紙を有し、前記透過型増感紙または反射型増感紙の少なく共いずれか一方に、GdOS:Pr、Ce(式中、PrとCeの濃度はGdSを100重量%としたとき、Prは0.03重量%以上0.3重量%以下、Ceは0.005重量%以下含有される。)蛍光体を用いたことを特徴としている。また、使用する蛍光体は3msec後のアフターグローの出力が0.2%以下であることを特徴としている。
【0015】
また、本発明のX線検査装置は、被検査物に対してX線を照射するX線照射手段と、被検査物からのコンプトン散乱X線または透過X線を検出するX線検出手段と、このX線検出手段により測定したX線強度に基づいて前記被検査物内部を画像化する手段とを具備するX線検査装置において、前記X線検出手段は、コンプトン散乱X線または透過X線が照射されることにより蛍光を発生する手段を有し、この蛍光発生手段には、少なくともGdOS:Pr、Ce(式中、PrとCeの濃度は、GdSを100重量%としたとき、Prは0.03重量%以上0.3重量%以下、Ceは0.005重量%以下含有される。)蛍光体を用いた増感紙を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明のX線検査装置によれば、比較的低強度のX線によって十分な検出感度を示し、更に3msec後のアフターグローの出力が0.2%以下に改善されて、残像等の無い明瞭な検査画像を得ることができ、空港の手荷物検査等において、高速度で連続して検査を行っても、精度の高い検査を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のX線検査装置の一実施例の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明のX線検出器の一実施例の構成を示す断面図である。
【図3】本発明に用いられる増感紙の構成例を示す断面図である。
【図4】GdS::Pr、Ce蛍光体の発光波長特性を示す図である。
【図5】GdS:Pr蛍光体を用いた増感紙において、蛍光体中のPr濃度を変化させたときの、相対光出力の変化を示す図である。
【図6】GdS:Pr蛍光体を用いた増感紙において、蛍光体中のPr濃度を変化させたときの、アフターグロ−特性の変化を示す図である
【図7】GdS:Pr、Ce蛍光体を用いた増感紙において、蛍光体中のCe濃度を変化させたときの、相対光出力の変化を示す図である。
【図8】GdS:Pr、Ce蛍光体を用いた増感紙において、蛍光体中のCe濃度を変化させたときの、アフターグロ−特性の変化を示す図である。
【図9】X線検出器に用いられるホトマルの分光感度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のX線検出器およびX線検査装置における蛍光発生手段は、少なくとも1つの増感紙用蛍光体において、GdOS:Pr、Ce(式中、PrとCeの濃度は、GdSを100重量%としたとき、Prは0.03重量%以上0.3重量%以下、Ceは0.005重量%以下含有される。)蛍光体を使用している。図4は本発明のGdS:Pr、Ce蛍光体の発光スペクトルとX線検出器および検査装置に使用した場合のアフターグロー特性を示している。
【0019】
GdS:Pr、Ce蛍光体の発光スペクトルは、発光波長のピークが 400nm付近からはずれているものの、発光効率(X線を可視光に変換する効率)が非常に高い(比較標準蛍光体のLaOBr:Tmに対して)。したがって、X線検出器において、 400nm付近に受光感度のピークを有するホトマルを用いた場合においても、コンプトン散乱X線や透過X線の検出を十分に行うことができる。またGdS:Prに加えるCe共付活剤は、発光波長に影響を与えることは無く、Ce添加しても発光ピーク波長は変わらない。
【0020】
一方の蛍光体のアフターグロー特性は3msec後の光出力が0.2%以下であることが望ましい。0.2%以下であれば、通常の条件で連続してX線の検出を行っても、残像の残らない鮮明な画像を得ることができる。ただし高速条件で検査を行う場合は、0.2%以下でも不十分な場合がある。より望ましい特性は、3msec後の光出力が0.1%以下である。この特性であれば、現在の検査装置を使用してどの様な速度で行っても、残像の無い鮮明な画像を得ることができる。図4の本発明の蛍光体は、X線の照射を止めた3msec後の光出力は、約0.2%と非常に低い値を示しており、優れたアフターグロー特性を示している。このため、この様な蛍光体を有する増感紙を用いて、連続してX線の検出を行う場合に、残像の残らない鮮明な画像を得ることができる。
【0021】
本発明のこのようなアフターグロー特性は、GdS:Pr蛍光体において、Prの濃度を最適化すると共に、Ceを共付活することで得られる。特許文献1では、使用可能な蛍光体として、例えばGdS:TbやBaFCl:Euなどの蛍光体も挙げられているが、Tb付活蛍光体の場合、3msec後のアフターグロー特性が0.2%以下の特性を得ることが難しく、本発明の目的には適さない。またBaFCl:Eu蛍光体は、アフターグロー特性のみを満足することは可能であるが、輝度を含めた総合特性で比較すると、GdS:PrまたはGdS:Pr、Ceより劣るため、この蛍光体を単独で使用することはできない。
【0022】
【表1】

【0023】
表1および図5、図6は、GdS:Pr蛍光体において、Prの濃度を変化させた時の検出器の相対光出力と、アフターグロー特性をそれぞれ表す。表1、図6から、Pr濃度を増加させるとともに、アフターグロー特性は減少してゆくが、0.2重量%以上では殆ど減少しなくなり、その後は飽和することがわかる。一方相対光出力は、図5に示される通り、Pr濃度が増加するに従い高くなり、0.07重量%で出力最大となるが、0.07重量%を超えると減少し始める。相対光出力は高ければ高いほど良いのが当然であるが、比較標準蛍光体(LaOBr:Tm)に対して、少なくとも150%以上が必要である。この値より低くなると、限界以上にX線強度を強くするか、X線強度を変えない場合には、正確に画像を分析するだけの光出力が得られなくなる。従い、光出力を考慮するとPr濃度の上限は0.3重量%となる。この時3msec後のアフターグローは0.1%であり、残像の面からは十分な特性を示している。一方Pr濃度の下限値は、光出力のみを考慮した場合は、0.005重量%でも十分である。しかしながら、3msec後のアフターグロー特性をみると、0.1重量%でも既に0.2%を上回っており、0.1重量%から0.2重量%の範囲内に下限値が存在することになる。
【0024】
【表2】

【0025】
GdO2S:Prのアフターグロー特性は、Prに加えCeを共付活することで改善することができる。表2および図7、図8は、GdS:Pr蛍光体において、光出力が最大となるPr濃度0.07重量%の蛍光体に、Ceを共付活させた場合の相対光出力とアフターグロー特性を表したものである。共付活剤のCe濃度を高くしてゆくと、光出力はどんどん低下するが、アフターグロー特性も同時に改善されてゆくことがわかる。Ce濃度が0.002重量%を超えると、3msec後のアフターグロー特性は0.1%と十分小さくなる為、それ以上Ce濃度を増加させてもアフターグロー特性はもはや改善されない。一方光出力は、Ce濃度と共に減少してゆくため、Prが0.07重量%の場合、相対光出力が152%となる時のCe濃度である0.005重量%が上限となる。Gd2O2S蛍光体の場合、Pr濃度0.07重量%において、光出力が最大である為、Ce濃度を0.005重量%を超えて添加すると、光出力が下限値を下回る蛍光体しか得られないため、Ce濃度の上限値は0.005重量%が最大となる。一方Ce濃度の下限値はゼロでも良い。何故なら、例えばPr濃度が0.2重量%の蛍光体は、相対光出力が167%で、3msec後のアフターグローが0.1%であり、Ceを添加しなくても、アフターグロー特性は本発明の目的を十分満足するためである。
【0026】
この様に、共付活剤であるCeは蛍光体のアフターグロー特性を改善することが出来るため、Pr、Ce共付活蛍光体においては、Pr単独付活蛍光体よりも、Pr濃度の下限値をより低い範囲まで拡大することがでる。具体的には、0.03重量%のPrで単独付活された蛍光体の場合、3msec後のアフターグロー特性は0.5%で残像が問題となるが、この蛍光体にCeを0.0008重量%添加すると、3msec後のアフターグロー特性は0.2%まで改善され、本発明の改善効果が得られることになる。このとき共付活蛍光体の相対光出力は151%であり、Prが0.03重量%より少ない蛍光体にCeを共付活することはできない。
【0027】
以上の通り、本発明のGdS:Pr、Ce蛍光体において、望ましい付活剤の濃度範囲は、Prが、0.03重量%以上、0.3重量%以下、Ceが0以上、0.005重量%以下となる。なお残像の観点からは、Prが0.1重量%以上0.3重量%以下であれば、より望ましい範囲となる。この場合Ce濃度は0.005%以下で変わらない。
【0028】
本発明においては、GdS:PrにCeを共付活することにより、アフターグロー特性を改善させたが、添加するCeはなるべく少なくすることが望ましい。何故なら、Ceは蛍光体のアフターグロー特性を改善する反面、光出力が低下するとの問題がある。これはCeを添加することで、蛍光体の体色が黄色味を帯びた白色となり、蛍光体の体色が、蛍光体自身の発光を吸収してしまい、蛍光体より取り出される光量が減少するためである。
【0029】
このため本発明の蛍光体では、Ceの添加量をなるべく低減できる様、蛍光体の製造法を改善した。CeとPrの共沈原料粉末を作成し、予め均一に混合された付活剤粉末を、蛍光体合成時の原料として使用することにより、Ce量を低減したものである。これは、蛍光体粉末結晶中に導入されたPrとCeの原子間距離をできるだけ近付け、Prの発光に影響を及ぼすCeの割合を高めると共に、蛍光体の体色のみに影響を与え、輝度低下を引き起こすCeをなるべく低減することにより、低アフターグロー、高光出力を狙ったものである。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に本発明の蛍光体と、従来法による蛍光体の増感紙のアフターグロー特性および光出力特性の比較特性を纏めた。蛍光体はGdS:Pr,Ce蛍光体を使用し、従来法と本発明の方法で製造した特性を比較したものである。表中の3種類の増感紙の特性を比較すると、本発明の蛍光体において、従来法と同等レベルのアフターグロー特性を得ようとすると、従来法よりCeの添加量を約10%(0.0010重量%から0.0008重量%)低減でき、同等のアフターグロー特性で、より光出力の大きい増感紙の得られることがわかった。一方、本発明の蛍光体において、従来法と同じ濃度のCeを添加した場合には、輝度低下を抑えながら、アフターグロー特性の改善されることが同時に確認される。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明のX線検査装置を空港荷物検査装置に適用した一実施例の構成を模式的に示す図である。同図において、1はX線照射手段例えばX線管であり、このX線管1から射出されたX線Aは、まず直線コリメータ2によって、所定の幅を有するスリット状にコリメートされる。このコリメートされたX線Bは、さらに半径方向に複数のスリットが設けられた回転コリメータ3によって、直線運動を反復して行うペンシルビームCとされ、コンベア4によって移動する被検査物例えば荷物5に対して走査照射される。なお、被検査物である荷物5は、X線の検出感度に応じた速度で移動する。
【0033】
荷物5によって反射されたX線すなわちコンプトン散乱X線Dは、散乱X線検出器6によって検出される。また、荷物5を透過したX線Eは、透過X線検出器7によって検出される。これら散乱X線検出器6および透過X線検出器7によって検出されたコンプトン散乱X線Dおよび透過X線Eは、連続的な強度値として測定され、このX線強度に応じて図示を省略した液晶ディスプレー等の表示装置上に荷物5内部の状態が画像化される。そして、この画像によって荷物5内部の検査が行われる。
【0034】
上記した散乱X線検出器6および透過X線検出器7は、以下に示すような構成を有している。例えば、散乱X線検出器6を例として説明すると、図2に示すように、ペンシルビーム状にされたX線Cの通過用の間隙が形成されるように、2つの散乱X線検出器6を配置して構成している。
各散乱X線検出器6は、一側面を傾斜させた筐体状の検出器本体8を有している。この検出器本体8の被検査物である荷物5と対向する面は、X線の入射面8aとされており、このX線入射面8aはX線を透過する材質、例えば樹脂等によって形成されている。また、X線入射面8aを除く検出器本体8の他の部分は、検出器本体8の強度を維持するために、例えばアルミニウム等によって構成されている。上記X線入射面8aを除く検出器本体8の他の部分の外面は、鉛等のX線遮蔽部材9によって覆われている。これは、外部からのX線の影響を排除するためである。
【0035】
上記検出器本体8のX線入射面8aの内側には、透過型蛍光発生手段として、発光方向を検出器本体8の内側に向けた透過型増感紙10が設置されている。また、X線入射面8aを除く検出器本体8の内壁面には、反射型蛍光発生手段として、反射型増感紙11が設置されている。X線入射面8aと直角を成す検出器本体8の側面8bには、光電変換手段としてホトマル12が設置されている。このホトマル12としては、 400nm付近に受光感度のピークを有するものが使用され、例えばR−1307(商品名、浜松ホトニクス (株) 製)が使用される。
【0036】
そして、まず上記X線入射面8aの内側に配置された透過型増感紙10にコンプトン散乱X線D1 が照射され、透過型増感紙10から選択した蛍光体に応じた可視光aが検出器本体8の内側に向けて発光される。また、反射型増感紙11には、X線入射面8aを透過したコンプトン散乱X線D2 が照射されることによって、同様に可視光bが検出器本体8の内側に向けて発光される。そして、これら可視光a、bがホトマル12によって検知され、可視光aおよびbの合計強度を測定することにより、入射されたコンプトン散乱X線Dの強度が求められる。
【0037】
コンプトン散乱X線による検出原理は、以下に示す通りである。すなわち、エネルギーがE0で強度I0のX線が厚さtの吸収体を透過した後の強度Iは、次式によって求められる。
I=I0e-μt .........(1)
上記式中のμは物質に固有の係数(単位:cm-1)で、線減弱係数と呼ばれるものであり、エネルギーE0 のX線が 1cm進む間に減弱する比率を示す。μは原子番号の大きい物質ほど大きいという性質を有し、次のように分解することができる。
μ=τ+σT+σC+κ .........(2)
(式中、τは光電効果による吸収係数を、σT はトムソン散乱による散乱係数を、σC はコンプトン散乱による散乱係数を、κは電子対創生による吸収係数を示す)また、エネルギーがE1 で強度I0 のX線が吸収体の表面から深さxの位置まで入射した場合、xの位置におけるX線強度I1 は、次式によって求められる。
1 =I0e-μx .........(3)
(式中、μはエネルギーがE1 のX線の線減弱係数を示す)また、xの位置で発生し、なおかつX線の入射方向に対して角θの方向に散乱するコンプトン散乱X線の強度I2 は、次式によって求められる。
2 =aσCI1 .........(4)
(式中、aは比例定数である)発生したコンプトン散乱X線が表面から出てくる強度I3 は、発生した点から表面までの距離がbx(b=1/cosθ)であるので、
3 =I2e-μ′bx .........(5)
(式中、μ′は散乱X線の線減弱係数を示す)となる。したがって、コンプトン散乱X線の強度I3 は、 (3)式、 (4)式および (5)式から、
3 =aσC I0 e -(μ+bμ′)x .........(6)
となる。したがって、厚さがtの吸収体を通過した場合のコンプトン散乱X線の総量は、以下の式から求められる。
【数1】

aI0は、原子番号によらない一定値なので、コンプトン散乱X線は物質によって変化する、σC /(μ+bμ′)の値によって、その強度が変化する。このσC/(μ+bμ′)の値は原子番号が小さい物質ほど大きくなる。よって、コンプトン散乱X線を検出することにより、プラスチック製品のような原子番号が小さい元素によって主として構成される物質を見分けることができる。
【0038】
この実施例における入射側の透過型増感紙10およびその他の反射型増感紙11にはGdS:Pr,Ce(GdSを100重量%としたとき、Prは0.07重量%、Ceは0.002重量%含有されている。)蛍光体を用いたものである。
【0039】
この蛍光体は以下の工程を経て製造される。まず酸化プラセオジウムと酸化セリウムを、PrとCeが97.3重量部対2.7重量部となる比率で硝酸に溶解し、両者の混合溶液を作成する。次にこの溶液を、例えば所定量のシュウ酸ジメチル溶液と反応させ、PrとCeの共沈シュウ酸塩を得る。この共沈シュウ酸塩を大気中、1000℃以下の温度で数時間焼成し、PrとCeの混合酸化物を得る。こうして、PrとCeが微小な単位まで均一に分散された混合粉末が得られる。次に、蛍光体を合成する工程として、GdS母体に対するPr添加量が0.07重量%(同時にCe添加量が0.002重量%)となる割合で、原料の酸化ガドリニウム、付活剤混合酸化物(Pr,Ce)、イオウ、更にフラックス材料等を粉末の状態で十分混合し、容器に入れて1000〜1400℃の温度で数時間焼成する。こうして得られた蛍光体焼成物を、洗浄、分散、篩別等の工程を経て、蛍光体完成品とする。
【0040】
次に比較例として、従来の製造方法による蛍光体も同時に合成した。PrやCeの添加量は本発明と同量のGdS蛍光体を製造した。比較例の製造方法では、付活剤のみの混合酸化物は作成せず、出発原料として、酸化ガドリニウム、酸化プラセオジウム、酸化セリウム、硫黄、更にフラックス剤をそれぞれ所定量混合し、粉末の状態で十分混合し、原料混合粉末を得た。次に焼成工程以降は本発明と全く同じ方法で、蛍光体完成品を得た。
【0041】
続いて、入射側の透過型増感紙10およびその他の反射型増感紙11を作成した。これら増感紙は、図 3に示す様に、プラスチックフィルムや不織布の支持体13上に、本発明または比較例の蛍光体をバインダおよび有機溶剤と共に混合したスラリーを塗布することによって、蛍光体層14を形成したものである。
このとき、蛍光体の塗布量はいずれの増感紙においても90mg/cmの条件で行った。
【0042】
こうして得られた増感紙をX線検出器に組込み、特性を評価したところ、本発明のX線検出器の相対出力は174%、3msec後のアフターグローは0.14%であった。一方の比較例のX線検出器は、相対光出力175%、3msec後のアフターグローが0.21%であり、本発明では比較例に対して、光出力が略同等で、アフターグロー特性の良好な検出器を得ることができた。
【0043】
同様にして、実施例2以下に、本発明の種々蛍光体を、上記透過型増感紙10および反射型増感紙11に適用した時のX線検出器の特性を、比較例の蛍光体による増感紙を用いた場合と対比して、表4に示す。これらの実施例では、蛍光体の種類を変更したのみで、増感紙の製造方法、X線検出器の構成等は実施例1と同じものを用いた。
【0044】
【表4】

【0045】
なお、透過型増感紙と反射型増感紙には、少なく共いずれか一方に本発明の蛍光体を使用すれば良い。ただし、アフターグロー特性については、片方でも問題があると残像が残る為、3msec後のアフターグローが0.2%以下の蛍光体以外は使用することができない。一方、一方光出力に関しては、全体で150%を超えれば良く、本発明の蛍光体以外との多様な組合せが可能となる。

【0046】
表4の特性によると、本発明のX線検出器においては、相対光出力が150%(対標準蛍光体)以上で、アフターグローが0.2%以下との特性を同時に得ることができ、この様なX線検出器を用いてX線検査装置を構成すれば、比較的低強度のX線によって十分な検出感度を得ると共に、アフターグローが改善されて、残像等の無い明瞭な検査画像を得ることができ、高速度で連続して検査を行っても、精度の高い検査を可能とするものである。本発明のX線検査装置は、空港手荷物検査装置に限らず、各種のセキュリティシステムにも応用が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…X線管、2…コリメータ、3…回転コリメータ、4…コンベア、5…被検査物、
6…散乱X線検出器、7…透過X線検出器、8…筐体状検出器本体 、8a…X線入射面 、10…透過
型増感紙 、11…反射型増感紙、12…ホトマル 、13… 支持体、14…蛍光膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線の入射部を有する筐体状の検出器本体と、前記入射部に配置された透過型蛍光発生手段と、前記入射部を除く前記検出器本体の内壁面に沿って配置され反射型蛍光発生手段と、前記検出器本体内に設置された光電変換手段とを有しており、前記透過型蛍光発生手段は透過型増感紙を、前記反射型蛍光発生手段は反射型増感紙を具備するX線検出器において、前記透過型増感紙または反射型増感紙の少なく共いずれか一方に、GdOS:PrまたはGdS:Pr,Ce蛍光体の何れかが使用されており、前記増感紙における3msec後のアフターグローの光出力が0.2%以下であることを特徴とするX線検出器。
【請求項2】
請求項1記載のX線検出器において、前記蛍光体がGdOS:Pr,Ce(式中、PrおよびCeの濃度は、GdSを100重量%としたとき、Prが0.03重量%以上0.3重量%以下、Ceは0.005重量%以下)であることを特徴とするX線検出器。
【請求項3】
請求項1、2記載のX線検出器において、前記蛍光体はPrとCe原料が予め共沈法で混合され、Gd酸化物等と共に焼成される工程を経て製造された蛍光体であること特徴とするX線検出器。
【請求項4】
請求項1乃至3記載のX線検出器において、コンプトン散乱X線を検出することを特徴とするX線検出器。
【請求項5】
被検査物に対してX線を照射するX線照射手段と、被検査物からのコンプトン散乱X線または透過X線を検出するX線検出手段と、前記X線検出手段により測定したX線強度に基いて前記被検査物内部を画像化する手段とを有するとともに、前記X線検出手段は、コンプトン散乱X線または透過X線が照射されることにより蛍光を発生する手段を具備するX線検査装置において、前記蛍光発生手段は、GdOS:PrまたはGdS:Pr,Ce蛍光体を用いた増感紙を有しており、前記蛍光体は3msec後のアフターグローの光出力が0.2%以下であることを特徴とするX線検査装置。
【請求項6】
請求項5記載のX線検査装置において、前記X線検査装置は空港荷物検査装置であることを特徴とするX線検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−220348(P2012−220348A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86710(P2011−86710)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】