説明

X線源

【課題】低エネルギの単色性の高い特性X線20を得ることができるX線源11を提供する。
【解決手段】ターゲット19の厚み寸法を電子ビーム15の浸透深さ以上とし、低エネルギのX線成分を吸収する。電子ビーム15のエネルギを10keV以下とし、高エネルギのX線成分がターゲット19を透過するのを制限する。低エネルギのX線成分の吸収と高エネルギのX線成分の非透過により、低エネルギの単色性の高い特性X線20を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特性X線を放出するX線源に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なX線源では、高電圧で加速した電子を陽極であるターゲットに入射することにより、制動X線とターゲット特有の特性X線とが混在して放出されることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
制動X線は、連続的なエネルギスペクトルであって白色で構成され、そのスペクトル分布は入射する電子エネルギによって変化するのに対し、特性X線は、電子エネルギに依存せず、ターゲット固有の単一的なエネルギ分布の単色である。
【0004】
現在、チタンのK線エネルギ(4.5keV)以上の単色X線発生については、蛍光X線分析向けに様々なタイプが製品化されている。単色X線源の利用は、蛍光X線分析の高分解能化に有効であり、X線撮影に用いた場合もエネルギ弁別による補正が可能となり、高コントラスト化のための有効な手段となる。
【特許文献1】特開平2004−28845号公報(第4−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、生体などX線減弱率と密度とが小さい物質で構成された試料に対しては、4.5keV以上のX線エネルギを使用する限りでは、X線透過撮影で高いコントラストが得られない場合がある。
【0006】
低エネルギの単色性が高い特性X線が利用できれば、高コントラストの撮影と蛍光X線分析とを同時に行うことが可能となるが、従来のX線源では4.5keV以下の低エネルギの特性X線の単色化を高めることが困難であった。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、低エネルギの単色性の高い特性X線を得ることができるX線源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、10keV以下のエネルギを有する電子ビームを発生する電子銃と、厚み寸法が前記電子銃から入射する電子ビームの浸透深さ以上に設けられ、前記電子ビームを入射して特定X線を透過させて放出するターゲットとを具備しているものである。
【0009】
また、本発明は、5keV以上30keV以下のエネルギを有する電子ビームを発生する電子銃と、材質がチタンであり、前記電子銃からの電子ビームを入射してチタンの特性X線を放出する1次ターゲットと、この1次ターゲットのチタンの特性X線より小さいエネルギの吸収端を有する材質で形成され、前記1次ターゲットからチタンの特性X線を入射して特性X線を放出する2次ターゲットとを具備しているものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ターゲットの厚み寸法を電子ビームの浸透深さ以上とすることにより低エネルギのX線成分を吸収し、かつ、電子ビームのエネルギを10keV以下とすることにより高エネルギのX線成分がターゲットを透過せず、したがって、低エネルギの単色性の高い特性X線を得ることができる。
【0011】
また、本発明によれば、5keV以上30keV以下のエネルギを有する電子ビームをチタンの1次ターゲットに入射し、この1次ターゲットから放出されるチタンの特性X線を、チタンの特性X線より小さいエネルギの吸収端を有する材質で形成された2次ターゲットに入射すれば、2次ターゲットは、チタンの特性X線を効率良く吸収し、2次ターゲット自身の特性X線を放出することができ、低エネルギの単色性の高い特性X線を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0013】
図1に第1の実施の形態を示す。
【0014】
X線源11は、内部が真空保持される真空容器12を有し、この真空容器12の一端にはX線を外部に放出する透過窓13が配設されている。
【0015】
真空容器12の他端には電子銃14が配設され、真空容器12内に位置して透過窓13に対向する電子銃14の端部に、透過窓13へ向けて電子ビーム15を放出するエミッタ16が設けられている。電子銃14は、駆動電源17により、10keV以下のエネルギを有する電子ビーム15を発生する。
【0016】
真空容器12内には、電子銃14から放出された電子ビーム15を透過窓13へ向けて収束させる収束用電極18が配設されている。
【0017】
透過窓13の真空容器12内に臨む内面には、電子ビーム15が入射するターゲット19が配置されている。このターゲット19は、透過窓13にコーティングされて形成されており、そのコーティングの厚み寸法は電子銃14から入射する電子ビーム15の浸透深さ(飛程)以上とされている。
【0018】
そして、電子銃14で発生した10keV以下のエネルギを有する電子ビーム15が収束用電極18で収束されてターゲット19に入射する。
【0019】
このとき、ターゲット19の厚み寸法を電子ビーム15の浸透深さ以上としているため、低エネルギのX線成分をターゲット19内で吸収する。また、電子ビーム15のエネルギを10keV以下としているため、高エネルギのX線成分がターゲット19を透過しない。これらによって、低エネルギで単色性の高い特性X線20が透過窓13を透過して放出される。
【0020】
したがって、真空容器12の透過窓13にターゲット19をコーティングする単純な構成で、低エネルギの単色性の高い特性X線が得られるX線源11を提供できる。さらに、電子ビーム15の収束によって焦点が小さでき、高い分解能が得られる。
【0021】
なお、収束用電極18は、収束用電磁石でも同様の効果を得ることができる。
【0022】
次に、図2に第2の実施の形態を示す。
【0023】
X線源11は、内部が真空保持される真空容器12を有し、この真空容器12の一端にはX線を外部に放出する透過窓13が配設されている。
【0024】
真空容器12の他端には電子銃14が配設され、真空容器12内に位置して透過窓13に対向する電子銃14の端部に、透過窓13へ向けて電子ビーム15を放出するエミッタ16が設けられている。電子銃14は、駆動電源17により、5keV以上30keV以下のエネルギを有する電子ビーム15を発生する。
【0025】
透過窓13の真空容器12内に臨む内面には、電子ビーム15が入射する1次ターゲット23が配置されている。この1次ターゲット23は、材質がチタンであって透過窓13にコーティングされて形成されており、電子ビーム15の入射によってチタンの特性X線であるK線24を発生する。
【0026】
真空容器12の一端にボックス形の枠体25が取り付けられ、この枠体25の内面に透過窓13を透過して枠体25内に侵入するK線24が入射する2次ターゲット26が形成されている。枠体25には、K線24が入射した2次ターゲット26で発生する特性X線(L線またはK線)27を外部に取り出す取出窓28が形成されている。
【0027】
そして、電子銃14で発生した5keV以上30keV以下のエネルギを有する電子ビーム15がチタンの1次ターゲット23に入射し、1次ターゲット23からチタンの特性X線であるK線24が発生する。
【0028】
1次ターゲット23のチタンのK線24が透過窓13を透過して2次ターゲット26に入射し、2次ターゲット26から特性X線(L線またはK線)27が発生し、この特性X線(L線またはK線)27が取出窓28から取り出される。
【0029】
すなわち、5keV以上30keV以下のエネルギを有する電子ビーム15をチタンの1次ターゲット23に入射し、この1次ターゲット23から放出されるチタンのK線24を、チタンのK線24より小さいエネルギの吸収端を有する材質で形成された2次ターゲット26に入射すれば、2次ターゲット26は、チタンのK線24を効率良く吸収し、2次ターゲット26自身の特性X線27を放出することができ、低エネルギの単色性の高い特性X線27を得ることができる。
【0030】
なお、2次ターゲット26をチタンのK線24より大きいエネルギの吸収端を有する材質で形成した場合には、2次ターゲット26の特性X線27は放出されず、連続X線(制動X線)だけとなり、単色X線は得られない。
【0031】
本実施の形態のようなX線励起方式を用いれば、ノイズ(連続成分)の含有率が極めて小さく、低エネルギの単色性の高い特性X線が得られるX線源11を提供できる。
【0032】
また、2次ターゲット26を取り替えることにより、簡単に複数のエネルギを選ぶこともできる。
【0033】
なお、1次ターゲット23は、真空容器12内に内蔵された反射型ターゲット構造としても同様の効果を得ることができる。
【0034】
次に、図3に第3の実施の形態を示す。
【0035】
X線源11は、内部が真空保持される真空容器12を有し、この真空容器12の一端にはX線を外部に放出する透過窓13が配設されている。
【0036】
真空容器12の他端には電子銃14が配設され、真空容器12内に位置して透過窓13に対向する電子銃14の端部に、透過窓13へ向けて電子ビーム15を放出するエミッタ16が設けられている。電子銃14は、駆動電源17により、5keV以上30keV以下のエネルギを有する電子ビーム15を発生する。
【0037】
透過窓13の真空容器12内に臨む内面には、電子ビーム15が入射する1次ターゲット23が配置されている。この1次ターゲット23は、材質がチタンであって透過窓13にコーティングされて形成されており、電子ビーム15の入射によってチタンの特性X線であるK線24を発生する。
【0038】
透過窓13に対向して、2次ターゲット26が配置されているとともに、透過窓13と2次ターゲット26との間には透過窓13を透過するK線24を集光して2次ターゲット26に照射させる例えばフレネルゾーンプレートのような集光素子31が配置されている。
【0039】
そして、電子銃14で発生した5keV以上30keV以下のエネルギを有する電子ビーム15がチタンの1次ターゲット23に入射し、1次ターゲット23からチタンの特性X線であるK線24が発生する。
【0040】
1次ターゲット23のチタンのK線24が透過窓13を透過して集光素子31で集光されて2次ターゲット26に入射し、2次ターゲット26から特性X線(L線またはK線)27が発生し、この特性X線(L線またはK線)27が2次ターゲット26を透過して取り出される。
【0041】
すなわち、5keV以上30keV以下のエネルギを有する電子ビーム15をチタンの1次ターゲット23に入射し、この1次ターゲット23から放出されるチタンのK線24を、チタンのK線24より小さいエネルギの吸収端を有する材質で形成された2次ターゲット26に入射すれば、2次ターゲット26は、チタンのK線24を効率良く吸収し、2次ターゲット26自身の特性X線27を放出することができ、低エネルギの単色性の高い特性X線27を得ることができる。
【0042】
このようなX線励起方式を用いれば、ノイズ(連続成分)の含有率が極めて小さく、低エネルギの単色性の高い特性X線が得られるX線源11を提供できる。
【0043】
また、集光素子31で1次ターゲット23のチタンのK線24を2次ターゲット26上に集光して照射することにより、2次ターゲット26の小さな領域(小焦点)から特性X線27を得ることができる。したがって、集光素子31を用いることにより、焦点が小さく、高い分解能が得られる。
【0044】
また、2次ターゲット26を取り替えることにより、簡単に複数のエネルギを選ぶこともできる。
【0045】
なお、1次ターゲット23は、真空容器12内に内蔵された反射型ターゲット構造としても同様の効果を得ることができる。
【0046】
次に、図4に第4の実施の形態を示す。
【0047】
第3の実施の形態において、真空容器12の透過窓13から集光素子31および2次ターゲット26までの領域を覆う気密容器34を設け、この気密容器34を例えばOリング35を介して真空容器12に気密を取って結合する。気密容器34の内部は、真空またはHeなどのガス雰囲気とする。
【0048】
気密容器34には、2次ターゲット26を透過した特性X線27を取り出す取出窓36が設けられ、この取出窓36は十分薄いものを使用するかBeなどの特性X線27の減衰が小さな材質を選ぶ。
【0049】
そして、低エネルギのチタンのK線24は空気中での吸収により減衰しやすいため、チタンのK線24の領域を気密容器34によって真空またはHeなどのガス雰囲気とすることで、チタンのK線24の減衰を低減し、低エネルギの特性X線27を効率よく取り出すことができる。
【0050】
効率よく取り出した特性X線27を試料37に照射し、この試料37を透過する特性X線27を測定器38で測定することにより、測定感度を高くできる。
【0051】
このように、真空容器12の透過窓13から2次ターゲット26に至る領域を真空またはHeなどのガス雰囲気とすることにより、低エネルギの特性X線27を効率よく取り出し、測定器38できの計測感度を高くできる。
【0052】
次に、図5に第5の実施の形態を示す。
【0053】
第3の実施の形態において、真空容器12の透過窓13から集光素子31、2次ターゲット26、試料37および測定器38までの領域を覆う気密容器34を設け、この気密容器34を例えばOリング35を介して真空容器12に気密をとって結合するとともに例えばOリング39を介して測定器38に気密をとって結合する。気密容器34の内部は、真空またはHeなどのガス雰囲気とする。
【0054】
そして、低エネルギのチタンのK線24や特性X線27は空気中での吸収により減衰しやすいため、チタンのK線24および特性X線27の領域を気密容器34によって真空またはHeなどのガス雰囲気とすることで、低エネルギのチタンのK線24および特性X線27の減衰を低減し、低エネルギの特性X線27を効率よく取り出すことができる。
【0055】
効率よく取り出した特性X線27を試料37に照射し、この試料37を透過する特性X線27を測定器38で測定することにより、測定感度を高くできる。
【0056】
このように、真空容器12の透過窓13から計測器38に至る領域を真空またはHeなどのガス雰囲気とすることにより、低エネルギの特性X線27を効率よく取り出し、測定器38できの計測感度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【図5】本発明の第5の実施の形態を示すX線源の説明図である。
【符号の説明】
【0058】
11 X線源
12 真空容器
13 透過窓
14 電子銃
15 電子ビーム
19 ターゲット
20 特性X線
23 1次ターゲット
26 2次ターゲット
27 特性X線
31 集光素子
34 気密容器
37 試料
38 測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10keV以下のエネルギを有する電子ビームを発生する電子銃と、
厚み寸法が前記電子銃から入射する電子ビームの浸透深さ以上に設けられ、前記電子ビームを入射して特定X線を透過させて放出するターゲットと
を具備していることを特徴とするX線源。
【請求項2】
5keV以上30keV以下のエネルギを有する電子ビームを発生する電子銃と、
材質がチタンであり、前記電子銃からの電子ビームを入射してチタンの特性X線を放出する1次ターゲットと、
この1次ターゲットのチタンの特性X線より小さいエネルギの吸収端を有する材質で形成され、前記1次ターゲットからチタンの特性X線を入射して特性X線を放出する2次ターゲットと
を具備していることを特徴とするX線源。
【請求項3】
1次ターゲットから放出されるチタンの特性X線を集光して2次ターゲットに入射させる集光素子を具備している
ことを特徴とする請求項2記載のX線源。
【請求項4】
透過窓を有し、透過窓を通じてチタンの特性X線を放出可能に1次ターゲットが内部に配置されるとともに、透過窓を通じて放出されるチタンの特性X線が入射可能に2次ターゲットが外部に配置された真空容器と、
この真空容器の透過窓から2次ターゲットまでを覆い、真空および所定のガス雰囲気のいずれか一方に保持する気密容器とを具備している
ことを特徴とする請求項2または3記載のX線源。
【請求項5】
透過窓を有し、透過窓を通じてチタンの特性X線を放出可能に1次ターゲットが内部に配置されるとともに、透過窓を通じて放出されるチタンの特性X線が入射可能に2次ターゲットが外部に配置された真空容器と、
この真空容器の透過窓から2次ターゲットとともに2次ターゲットからの特定X線を照射する試料および試料に照射された特定X線を測定する測定器までを覆い、真空および所定のガス雰囲気のいずれか一方に保持する気密容器とを具備している
ことを特徴とする請求項2または3記載のX線源。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−123782(P2008−123782A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305078(P2006−305078)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】