説明

X線発生装置及びX線発生装置の制御方法

【課題】線形加速器から出射させる電子ビームのエネルギを異ならせても、発生させるX線の線量の変動を抑制する、ことを目的とする。
【解決手段】X線発生装置10は、電子ビームを発生させる電子銃12、電子銃12によって発生された電子ビームをマイクロ波によって加速させる線形加速器14、線形加速器14によって加速された電子ビームが照射されることによって、X線を発生するX線ターゲット16、線形加速器14に導入させるマイクロ波を発生するマイクロ波発生装置、マイクロ波の電力が変化するようにマイクロ波発生装置を制御するパルスモジュレータを備える。線形加速器14は、複数のバンチャ空洞40を有しているため、マイクロ波の電力を低下させることで加速位相からずれた電子が生じても、該電子を次の時間周期の加速位相にて加速させることができるので、マイクロ波の電力を低下させても出射される電子ビームの強度の低下が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生装置及びX線発生装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、空港での手荷物検査等に用いられるエックス線(以下、「X線」という。)を利用した非破壊検査装置には、数十から数百キロボルト程度の管電圧で駆動するX線管が搭載されているものがある。このような非破壊検査装置は、X線管から出力されたX線を手荷物等の検査対象物に照射し、検査対象物を透過したX線の線量の空間分布から検査対象物の嵩密度(物質の比重と密度との積)の濃淡を画像として構成している。
また、上記非破壊検査装置は、各元素によってX線の減衰(線源弱係数)のX線エネルギ依存性が異なることを利用して、検査対象物の原子番号の特定(元素同定)を行う場合がある。このような元素同定を目的として、上記非破壊検査装置は、X線管の管電圧を変化させてX線を照射する、又は複数のX線管により異なる管電圧によるX線の照射を行い、例えば2つの異なる管電圧、すなわち2つの異なるX線のエネルギによる透視画像を得ることによって、検査対象物の原子番号を特定する。
【0003】
一方、港湾や国境におけるコンテナ等の嵩密度の大きい荷物に対するX線を利用した非破壊検査では、数百キロボルト程度の管電圧で駆動するX線管から発生するX線では透過能力が不十分であり、より高エネルギのX線を用いた非破壊検査が行われている。
【0004】
高エネルギのX線を得るためには、線形加速器(Linear Accelerator:LINAC)と呼ばれる加速器が主に用いられており、線形加速器によって高エネルギ(3MeVから9MeV程度)に加速させた電子が、ターゲット材料に照射されることにより、制動放射によってターゲット材料から高エネルギのX線が発生する。このように、線形加速器を用いた非破壊検査装置は、X線管で発生されるX線よりも高エネルギのX線を得ることができるため、コンテナ等の比較的嵩密度が大きい検査対象物に対してもX線を透過させ、透視画像を得ることができる。
【0005】
ここで、線形加速器を用いたX線発生装置について説明する。
【0006】
線形加速器を用いたX線発生装置は、電子銃、バンチャ、加速管、X線ターゲット、パルスモジュレータ、及びマイクロ波発生装置を備え、電子銃によって発生された電子ビームは、バンチャ及び加速管によって加速され、X線ターゲットに照射される。
【0007】
より具体的には、パルスモジュレータは、高電圧パルスを発生させ、発生された高電圧パルスは、電子銃とマイクロ波発生装置に印加される。
電子銃は、パルスモジュレータから高電圧パルスが印加されると、電子ビームを発生させ、発生させた電子ビームをバンチャへ入射させる。なお、バンチャへ入射される電子ビームの電子密度は、高電圧パルス幅にわたって時間的に一様である。
一方、マイクロ波発生装置は、パルスモジュレータから高電圧パルスが印加されると、数メガワット(MW)の大電力のマイクロ波を発生させる。なお、高電圧パルスのパルス幅は、マイクロ波発生装置によって発生されるマイクロ波の周期よりも十分長い。
【0008】
そして、マイクロ波発生装置によって発生されたマイクロ波は、共振空洞が複数連結して構成された加速管へ入射される。なお、加速管を構成する共振空洞を加速空洞という。加速管へ入射されたマイクロ波は、各加速空洞によって共振され、各加速空洞において、マイクロ波の周波数によって振動する中心軸方向を向いた、電子ビームを加速させるための加速電界を励起させる。なお、隣接する加速空洞に励起される加速電界との位相差は、180度とされる。
【0009】
また、バンチャも、共振空洞により構成されており、加速管へ入射されたマイクロ波は、加速管内部を伝わってバンチャにも加速電界を励起させる。そして、電子銃からバンチャへ入射された電子ビームは、バンチャで励起された加速電界により速度変調を受ける。すなわち、バンチャの加速電界が正となったタイミングでバンチャへ入射された電子ビームは増速する一方、加速電界が負となったタイミングでバンチャへ入射された電子ビームは減速する。
このため、バンチャへ入射した時点では高電圧パルス幅内で時間的に一様であった電子ビームの電子密度は、上記速度変調の影響を受けて、除々に集群(バンチング)され、マイクロ波の周波数で決定される時間周期で粗密を有するようになる。
【0010】
バンチャにおける共振空洞の形状は、バンチングされた電子ビームの電子密度の高い部分が加速管に入射されるタイミングと、加速管の最初の加速空洞の加速電界が正であるタイミングを同期させるように設計されており、このように同期させることによって、電子を正の加速電界で効率的に加速させることができ、かつ負の加速電界によって電子銃側へ逆行して加速される電子を減らすことができる。
【0011】
なお、加速管において各々隣接する加速空洞の加速電界の位相差が180度とされているが、加速空洞の形状は、加速管の最初の加速空洞により加速された電子が隣接する加速空洞に到達するタイミングと、隣接する加速空洞の加速電界が正となるタイミングとを同期させるように設計されており、このように同期させることにより、電子はさらに加速される。線形加速器は、同様にして複数の加速空洞においても、加速電界が正となるタイミングで同期させながら電子を加速させることにより、目的とする高エネルギの電子ビームを発生させる。
【0012】
そして、加速された高エネルギの電子ビームが、X線ターゲットに照射されることにより、高エネルギの制動放射X線が得られる。
【0013】
さらに、線形加速器を用いた非破壊検査装置において元素同定を行う場合には、X線管の場合と同様に2つの異なる電子ビームのエネルギを持つ線形加速器が必要とされる。
【0014】
例えば、手荷物検査を行うための非破壊検査装置で用いられるX線管の場合には、X線管の管電圧を変化させることにより容易に異なるエネルギのX線を得ることができる。またX線管は比較的安価であるため、2つのX線管を非破壊検査装置に搭載することが経済的に成立しえる。
【0015】
しかしながら、線形加速器は、X線管に比べ高価であり、2つの異なる電子エネルギを得るために2つの異なる線形加速器を非破壊検査装置に搭載することは大きなコスト増の原因となる。
【0016】
ここで、特許文献1には、加速管に入射するマイクロ波の電力(以下、「マイクロ波電力」という。)をP、電子ビームの電流値をI、電子ビームのエネルギをEとすると、下記(1)式に示される関係式が成り立つことが記載されている。なお、AとBは、定数である。
【数1】

従って、加速管へ導入するマイクロ波電力を下げ、かつ電子ビームの電流を上げると、電子ビームのエネルギは低下する。
【0017】
線形加速器は、(1)式に示される関係を利用して、高電圧パルスの電圧波高値を定格値に対して下げることによってマイクロ波増幅器から出力されるマイクロ波電力を下げ、電子銃のグリッド電圧を定格値に対して上げることによって電子銃で発生される電子ビームの電流値を上げることで、定格値よりも低い加速エネルギの電子ビームを出力することができる。そして、線形加速器は、このような制御をパルスモジュレータの高電圧パルスのパルス毎に切り換えることで、2つの異なる加速エネルギの電子ビームを発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第7646851号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、特許文献1に記載されている制御方法によって、加速管へ導入するマイクロ波電力を低下させると以下のような問題が生じる。
加速管に入射するマイクロ波電力を定格値よりも低下させると加速空洞に励起される加速電界は小さくなる。すると加速される電子の速度が、定格のマイクロ波電力によって運転する定格運転時に比べて遅くなるため、1つの加速空洞を通過するのに要する時間が定格運転時に比べ長くなる。
【0020】
このため電子が次の加速空洞に到達するタイミングが、定格運転時に比べて遅くなる。このタイミングが遅いため、次の共振駆動に電子が到達した時点では、次の加速空洞の加速電界の位相は正から負に変わろうとしてしまう。つまり、次の加速空洞に到達するタイミングが遅くなると、適正な正の加速電界により電子が加速されないこととなり、加速管で適正に加速されてX線ターゲットに到達する電子ビームの電流は小さくなってしまう。
【0021】
上記のような電子が加速電界の正の位相に乗れないという問題は、加速管に電子が入射された最初の加速空洞で特に問題となる。この理由は以下の通りである。
一般に高エネルギの電子の速度vと加速エネルギEは、下記(2)式で示すような関係が成り立つ。
【数2】

【0022】
(2)式によると電子が静止状態から1MeVに加速されると、電子は、光速の94%の速度まで到達する。そして、電子は、エネルギが1MeV程度を超えると、加速されるほど速度の上限である光速に近づく。従って電子速度の変化(上昇)の大部分は1MeV程度に加速されるまでに起こり、1MeV程度を超えると速度変化は緩やかになる。
【0023】
このため、マイクロ波電力の低下時に、電子が加速電界の正の位相に乗れないという問題は、加速管に電子が入射された最初の加速空洞で顕著となる。そして、この問題により、加速管で加速され、X線ターゲットに照射される電子ビームの電流値は小さくなり、その結果、発生するX線の線量も小さくなる。
【0024】
また、一般に電子ビームがX線ターゲットに照射されて制動放射により発生するX線の線量は、電子ビームのエネルギが低くなるほど小さくなる。このため、電子ビームのエネルギが低くなるほど検査対象物を透過するX線の線量も小さくなり、低エネルギのX線を発生させる場合には、十分な画像を得るためのS/N比が得られず、又、X線検出器の感度域を広く確保する必要が生じる。
【0025】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、線形加速器から出射させる電子ビームのエネルギを異ならせても、発生させるX線の線量の変動を抑制できる、X線発生装置及びX線発生装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために、本発明のX線発生装置及びX線発生装置の制御方法は以下の手段を採用する。
【0027】
本発明の第一態様に係るX線発生装置は、電子ビームを発生させる電子ビーム発生手段と、複数のバンチャ空洞と複数の加速空洞を有し、前記電子ビーム発生手段によって発生された電子ビームをマイクロ波によって加速させる線形加速器と、前記線形加速器によって加速された電子ビームが照射されることによって、X線を発生するターゲットと、前記線形加速器に導入させるマイクロ波を発生するマイクロ波発生手段と、マイクロ波の電力が変化するように前記マイクロ波発生手段を制御する制御手段と、を備える。
【0028】
上記構成によれば、電子ビーム発生手段によって電子ビームを発生させ、複数のバンチャ空洞と複数の加速空洞を有する線形加速器によって、電子ビーム発生手段で発生された電子ビームをマイクロ波によって加速させ、線形加速器で加速された電子ビームをターゲットに照射することで、X線を発生させる。このようにして発生されたX線は、検査対象物に照射されることによって非破壊検査が行われる。
また、マイクロ波発生手段は、制御手段によって線形加速器へ導入されるマイクロ波の電力が変化するように制御される。マイクロ波の電力を変化させることによって、線形加速器で加速される電子ビームのエネルギが変化するので、ターゲットから発生するX線のエネルギも変化させることができ、異なるエネルギのX線を用いた検査対象物の元素同定が可能となる。
【0029】
ここで、マイクロ波の電力を定格運転時よりも低下させると、電子ビームの速度が遅くなるため、加速空洞に到達するタイミングが定格運転時に比べて遅くなり、加速位相からずれ、適正な正の加速電界により電子を加速することができない。そのため、線形加速器から出射される電子ビームの強度は、定格運転で加速させた場合に比較して大幅に低下する。
【0030】
しかしながら、線形加速器が複数のバンチャ空洞を有すると、電子ビームが加速位相からずれても、次の時間周期の加速位相にて加速されることとなる。そして、複数のバンチャを通過した電子ビームは、略光速まで加速されることとなるため、バンチャ空洞よりも下流側に位置する加速空洞を定格運転とほぼ同じ時間で通過することができる。
【0031】
このように、本発明は、線形加速器が複数のバンチャを有することで、マイクロ波の電力を低下させることで加速位相からずれた電子が生じても、次の時間周期の加速位相にて加速される。従って、マイクロ波の電力を低下させても出射される電子ビームの強度の低下が抑制されるので、線形加速器から出射させる電子ビームのエネルギを異ならせても、発生させるX線の線量の変動を抑制できる。
【0032】
また、上記第一態様では、前記制御手段が、前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入させるマイクロ波の電力の大きさに応じて、該マイクロ波をパルス状に繰り返し導入する周波数を変化させることが好ましい。
【0033】
線形加速装置から出射される電子ビームの強度が電子ビームのエネルギに応じて変化し、高エネルギのX線の線量に比べ、低エネルギのX線線量の方が小さくなると、感度域の広いX線検出器を用いる必要が生じる。
【0034】
そこで、上記構成によれば、線形加速器へ導入するマイクロ波の電力の大きさに応じて、該マイクロ波をパルス状に繰り返し導入する周波数を変化させることが可能とされているので、マイクロ波の電力に応じて電子ビームの電流量を増減させることができる。従って、高エネルギのX線を発生させる場合と低エネルギのX線を発生させる場合とで、検査対象物へ照射させるX線線量を同等とできるため、X線検出器の感度域を広く取る必要がなくなる。
【0035】
また、上記第一態様では、前記制御手段が、定格運転におけるマイクロ波の電力を前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入させることで高エネルギのX線を発生させ、前記定格運転におけるマイクロ波の電力よりも低いマイクロ波の電力を前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入させることで低エネルギのX線を発生させることが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、定格運転におけるマイクロ波の電力を基準として高エネルギのX線及び低エネルギのX線を発生させるので、容易に異なるエネルギのX線を発生させることができる。
【0037】
本発明の第二態様に係るX線発生装置は、電子ビームを発生させる電子ビーム発生手段と、前記電子ビーム発生手段によって発生された電子ビームをマイクロ波によって加速させる線形加速器と、前記線形加速器によって加速された電子ビームが照射されることによって、X線を発生するターゲットと、前記線形加速器に導入させるマイクロ波を発生するマイクロ波発生手段と、マイクロ波の電力が変化するように前記マイクロ波発生手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入させるマイクロ波の電力の大きさに応じて、該マイクロ波をパルス状に繰り返し導入する周波数を変化させる。
【0038】
本発明の第三態様に係るX線発生装置の制御方法は、電子ビームを発生させる電子ビーム発生手段、複数のバンチャ空洞と複数の加速空洞を有し、前記電子ビーム発生手段によって発生された電子ビームをマイクロ波によって加速させる線形加速器、前記線形加速器によって加速された電子ビームが照射されることによって、X線を発生するターゲット、前記線形加速器に導入させるマイクロ波を発生するマイクロ波発生手段、及びマイクロ波の電力が変化するように前記マイクロ波発生手段を制御する制御手段を備えたX線発生装置の制御方法であって、第1の大きさのマイクロ波の電力を前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入し、前記電子ビーム発生手段によって発生された電子ビームを加速させ、前記ターゲットに照射させてX線を発生させる第1工程と、前記第1の大きさのマイクロ波の電力とは異なる大きさの電力のマイクロ波を前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入し、前記電子ビーム発生手段によって発生された電子ビームを加速させ、前記ターゲットに照射させてX線を発生させる第2工程と、を含む。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、線形加速器から出射させる電子ビームのエネルギを異ならせても、発生させるX線の線量の変動を抑制できる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係るX線発生装置の構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る線形加速器の断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る線形加速器の加速電界分布を示すグラフである。
【図4】本発明の第1実施形態に係る線形加速器による電子群の加速の状態を示す模式図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るX線発生装置によって発生させたX線のエネルギスペクトル分布を示すグラフである。
【図6】本発明の第2実施形態に係るX線発生装置によって発生させたX線線量の時間分布である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に、本発明に係るX線発生装置及びX線発生装置の制御方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0042】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
【0043】
図1は、本第1実施形態に係るX線発生装置10の構成図である。
図1に示されるようにX線発生装置10は、電子銃12、線形加速器14、X線ターゲット16、マイクロ波発生装置18、及びパルスモジュレータ20を備える。
【0044】
電子銃12は、電子ビームを発生させ、発生された電子ビームは、線形加速器14によって加速され、X線ターゲット16に照射される。そして、X線ターゲット16は、制動放射によって電子ビームのエネルギに応じたX線を発生させ、該X線は、検査対象物22へ照射される。そして、検査対象物22を透過したX線は、X線検出器24によって検出され、X線透視画像が得られることとなる。
【0045】
また、パルスモジュレータ20は、高電圧パルスを発生させ、発生された高電圧パルスは、電子銃12とマイクロ波発生装置18に印加される。パルスモジュレータ20は、高電圧パルスの大きさを変化させることによって、マイクロ波発生装置18から発生させるマイクロ波電力を変化させる。
【0046】
電子銃12は、パルスモジュレータ20から高電圧パルスが印加されると、電子ビームを発生させて線形加速器14へ入射させる。一方、マイクロ波発生装置18は、パルスモジュレータ20から高電圧パルスが印加されると、高電圧パルスに応じた大電力(数メガワット(MW))のマイクロ波を発生させ、線形加速器14へ導入する。
【0047】
図2は、本第1実施形態に係る線形加速器14の断面図である。
【0048】
線形加速器14は、マイクロ波導入窓30、加速管32、バンチャ部34を備える。加速管32は、複数の加速空洞36が複数連結して構成されると共に、複数のサイドカップルド空洞38を有する。バンチャ部34は、複数のバンチャ空洞40−1〜40−5を有する。なお、以下の説明において、各バンチャ空洞40を区別する場合は、符号の末尾に1〜5の何れかを付し、各バンチャ空洞40を区別しない場合は、1〜5を省略する。
【0049】
電子ビームは、バンチャ部34によって1MeV程度、すなわち略光速まで加速され、加速管32によってさらに加速される。
【0050】
マイクロ波発生装置18によって発生されたマイクロ波は、マイクロ波導入窓30から加速管32へ導入される。マイクロ波導入窓30から導入されたマイクロ波は、加速空洞36とサイドカップルド空洞38を通って、全ての加速空洞36に加速電界を励振する。
【0051】
そして、最も電子銃12に近い上流側の加速空洞36に伝わったマイクロ波は、サイドカップルド空洞38を経由してバンチャ空洞40−5に加速電界を励振させる。
バンチャ空洞40−5に伝わったマイクロ波は、さらにビームホールを経由してバンチャ空洞40−4、バンチャ空洞40−3、バンチャ空洞40−2、バンチャ空洞40−1の順に伝達され、各バンチャ空洞40に加速電界を励振させる。
【0052】
図3は、本第1実施形態に係る線形加速器14の加速電界分布の一例を示すグラフであり、横軸が加速管32の中心軸上の位置(z)を示し、縦軸が加速電界の強度(Ez)を示す。図3における各加速電界Aは、加速空洞36に励振される加速電界を示し、加速電界B−5はバンチャ空洞40−5に励振される加速電界を示し、加速電界B−3はバンチャ空洞40−3に励振される加速電界を示し、加速電界B−1はバンチャ空洞40−1に励振される加速電界を示す。なお、加速電界は、マイクロ波の周波数に応じて時間的に振動している。
【0053】
図3に示されるように、加速空洞36に励振される加速電界Aは、隣接する加速空洞36とは位相が180度異なっている。
また、本第1実施形態に係るバンチャ空洞40は、π/2(2分のπ)モードの定在波を励振されるため、バンチャ空洞40−1,40−3,40−5に加速電界が励振される一方、バンチャ空洞40−2,40−4には加速電界が励振されない。
【0054】
そして、線形加速器14は、バンチャ部34及び加速管32に加速電界が励振された状態で、電子銃12によって発生された電子ビームがバンチャ部34のバンチャ空洞40−1に入射される。
バンチャ空洞40−1に入射された電子ビームは、バンチャ空洞40−2からバンチャ空洞40−5までを通過する間に加速電界により集群されると共に略光速まで加速され、加速空洞36へ入射される。加速空洞36へ入射された電子ビームは、加速空洞36の加速電界の加速位相に同期され、さらに高エネルギへ加速される。
そして、加速空洞36から出射された電子ビームは、X線ターゲット16に照射され、X線ターゲット16からX線が発生する。
【0055】
次に、線形加速器14が複数のバンチャ空洞40を備えることによる作用を説明する。
線形加速器14は、バンチャ部34が複数のバンチャ空洞40で構成されることにより、定格運転時と比べて低いエネルギの電子ビームの強度を大きく下げることなく、導入されるマイクロ波電力を下げるだけで得ることができる。この理由は、以下の通りである。
【0056】
電子銃12からバンチャ部34へ入射された電子ビームは、上述したように、バンチャ空洞40に励振される加速電界B−1,B−3,B−5により電子ビームが集群され、かつ略光速まで加速された後に、加速空洞36に入射される。
【0057】
ここで、本第1実施形態に係る加速管32のバンチャ部34は、加速管32へ導入されるマイクロ波電力を低下させると、バンチャ部34にて加速される電子のエネルギが低下するため、電子速度が低下し、加速電界B−3や加速電界B−5の加速位相に乗り遅れる電子が発生する。
【0058】
例えば、加速電界B−3(n)(nは導入されるマイクロ波の周期)で乗り遅れた電子は、バンチャ空洞40−3近傍に滞留したり、バンチャ空洞40−1方向へ逆行したりする。
【0059】
しかしながら、図4に示されるように、バンチャ空洞40−3近傍で滞留する電子は、加速電界B−3の次の時間周期の加速位相(n+1)にて再度加速され(再捕捉)、光速で集群される電子群に加わることができる。また、バンチャ空洞40−1方向へ逆行した電子もバンチャ空洞40−1に励振される加速電界B−1の加速位相にて再度加速され(再捕捉)、光速で集群される電子群に加わることができる。
なお、加速電界B−5の加速位相に乗り遅れた電子についても同様である。
【0060】
このように、バンチャ部34は複数のバンチャ空洞40で構成されることによって、線形加速器14に導入されるマイクロ波電力を定格値(定格運転時におけるマイクロ波電力)から低下させても、効率よく電子を集群し略光速まで加速させ、加速空洞36に電子を入射させることができる。
【0061】
さらに、マイクロ波電力が定格値から低下されても、加速空洞36に入射された電子ビーム(電子群)は、バンチャ部34における加速によって、すでに略光速まで加速されているため、バンチャ空洞よりも下流側に位置する加速空洞36を定格運転時と略同じ時間で通過することができる。このため、線形加速器14は、導入されるマイクロ波電力が低下されても、加速電界Aの加速位相から大きくずれることなく電子ビームを加速させることができる。
【0062】
このように、本第1実施形態に係る線形加速器14は、電子銃12から入射された電子ビームがバンチャ部34の加速位相からずれても、再び加速位相に乗ることができるため、運転条件であるマイクロ波電力が変化されるだけで、線形加速器14から出射される電子ビームの強度(電子ビーム電流)を低下させることなく、異なるエネルギを持つ電子ビームを1つの加速管32で出射させることができる。
また、本第1実施形態に係るX線発生装置10は、線形加速器14から出射される電子ビームのエネルギに応じて、電子銃12で発生する電子ビームのエネルギを最適化する必要がないため、簡易な制御により電子ビームのエネルギを変更できる。
【0063】
このように、本第1実施形態に係るX線発生装置10は、線形加速器14から出射させる電子ビームのエネルギを変化させても、電子ビーム電流の低下を回避できるので、十分な線量のX線を得ることができ、X線検出器の感度域を大きくとる必要がなくなる。
【0064】
さらに、上記説明したように、導入するマイクロ波電力を定格運転時に比べて低下させた場合、複数のバンチャ空洞40によって加速位相からずれた電子が再補足されるため、電子群の加速軸方向の広がり(位相の広がり)は、定格運転時に比べて大きくなる。
このため、定格運転時に比べて低いマイクロ波電力で加速された電子ビームのエネルギスペクトルは、定格運転時のエネルギスペクトルに比べ広く,低エネルギ側の成分を多く含み、実効的にはマイクロ波電力の1/2乗(2分の1乗)よりもさらに低い実効エネルギを持つ電子ビームとなる。
【0065】
そして、図5に示されるように、定格運転時に比べて低いマイクロ波電力で加速された電子ビームによって発生されたX線のエネルギスペクトル(複数バンチャ有りの低エネルギのX線)は、定格運転で発生された高エネルギのX線よりもエネルギが低くなる。
さらに、X線の実効エネルギも、従来の低エネルギのX線(複数バンチャ無し)のエネルギスペクトルに比べて低くなる(シャープでなくなり)。このため、本実施形態に係るX線発生装置10によって得られる高エネルギのX線と低エネルギのX線の2つのエネルギの実効的な差は、従来に比較して大きくなる。なお、ここでいう、従来の低エネルギのX線を発生させるX線発生装置は、例えば、単一のバンチャ空洞を有する線形加速器に対して導入されるマイクロ波電力を定格運転時よりも低下させて低エネルギのX線を発生させる装置である。
【0066】
この結果、本第1実施形態に係るX線発生装置10では、検査対象物22の原子番号を特定する元素同定に有用な、よりコントラストの大きいX線の透過画像を得ることができる。従って、X線発生装置10をコンテナ等の非破壊検査装置に用い、元素同定の検査を実施するにあたり、非破壊検査装置としての性能とコスト低減を両立できる。
【0067】
なお、本第1実施形態に係るX線発生装置10は、例えば、コンテナ等の嵩密度の大きい荷物を検査対象物22として非破壊検査を、以下のような方法によって実行する。
【0068】
X線発生装置10は、定格運転時のマイクロ波電力をマイクロ波発生装置18から線形加速器14へ導入し、電子銃12によって発生された電子ビームを加速させ、X線ターゲット16に照射させて高エネルギのX線を発生させる。発生された高エネルギのX線は、検査対象物22へ照射され、X線検出器24で検査対象物22を透過したX線が検出され、透過画像として処理される。
その後、X線発生装置10は、定格運転時の大きさのマイクロ波の電力よりも低い大きさの電力のマイクロ波をマイクロ波発生装置18から線形加速器14へ導入し、電子銃12によって発生された電子ビームを加速させ、X線ターゲット16に照射させてX線を発生させる。発生された低エネルギのX線は、上記検査対象物22へ照射され、X線検出器24で検査対象物22を透過したX線が検出され、透過画像として処理される。
そして、X線検出器24によって検出された2種類の異なるX線の透過画像に基づいて、検査対象物22の元素同定が行われる。
【0069】
以上説明したように、本第1実施形態に係るX線発生装置10は、電子ビームを発生させる電子銃12、電子銃12によって発生された電子ビームをマイクロ波によって加速させる線形加速器14、線形加速器14によって加速された電子ビームが照射されることによって、X線を発生するX線ターゲット16、線形加速器14に導入させるマイクロ波を発生するマイクロ波発生装置18、マイクロ波の電力が変化するようにマイクロ波発生装置18を制御するパルスモジュレータ20を備える。
そして、線形加速器14は、複数のバンチャ空洞40を有しているため、マイクロ波の電力を低下させることで加速位相からずれた電子が生じても、該電子を次の時間周期の加速位相にて加速させることができる。従って、マイクロ波の電力を低下させても出射される電子ビームの強度の低下が抑制されるので、線形加速器14から出射させる電子ビームのエネルギを異ならせても、発生させるX線の線量の変動を抑制できる。
【0070】
また、本第1実施形態に係るX線発生装置10は、異なるエネルギのX線を発生させる場合、定格運転におけるマイクロ波電力をマイクロ波発生装置18から線形加速器14へ導入させることで高エネルギのX線を発生させ、定格運転におけるマイクロ波電力よりも低いマイクロ波電力をマイクロ波発生装置18から線形加速器14へ導入させることで低エネルギのX線を発生させる。
すなわち、本第1実施形態に係るX線発生装置10は、定格運転におけるマイクロ波電力を基準として高エネルギのX線及び低エネルギのX線を発生させるので、容易に異なるエネルギのX線を発生させることができる。
【0071】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
【0072】
本第2実施形態に係るX線発生装置10の構成は、図1に示す第1実施形態に係るX線発生装置10の構成と同様である。しかし、本第2実施形態に係る線形加速器14は、複数のバンチャ空洞40を有してなくてもよい。
そして、本第2実施形態に係るパルスモジュレータ20は、線形加速器14へ導入するマイクロ波の電力の大きさに応じて、該マイクロ波をパルス状に繰り返し導入する周波数(周期)を変化させることが、マイクロ波発生装置18へ出力する高電圧パルスを制御することによって可能とされている。
【0073】
線形加速器14へのマイクロ波電力を定格値から低下させることにより異なるエネルギのX線を得るX線発生装置10は、線形加速器14から出射される電子ビームのエネルギに応じて変化し、高エネルギのX線線量に比べ、低エネルギのX線線量の方が小さくなる場合がある。
このような場合、X線検出器24に入射するX線線量が高エネルギ時と低エネルギ時で異なることとなるため、X線検出器24のX線の検知に対する感度域を大きくする必要が生じる。
【0074】
そこで、本第2実施形態に係るX線発生装置10では、線形加速器14へ導入するマイクロ波電力の大きさに応じて、該マイクロ波をパルス状に繰り返し導入する周波数を変化させることが可能とされているので、マイクロ波電力の大きさに応じて電子ビームの電流量を増減させることができる。従って、X線発生装置10は、高エネルギのX線を発生させる場合と低エネルギのX線を発生させる場合とで、検査対象物22へ照射させるX線線量を同等とできる。
【0075】
例えば、低エネルギのX線線量が高エネルギのX線線量に比べて1/6(6分の1)である場合、低いマイクロ波電力のパルスを120Hzとし、高いマイクロ波電力のパルスを20Hzとして線形加速器14へ導入することによって、図6に示されるようなX線線量の時間分布とし、低エネルギのX線と高エネルギのX線とで同程度のX線線量とすることができる。
従って、本第2実施形態に係るX線発生装置10では、X線検出器24の感度域を広く取る必要がなくなり、精度の高いX線検出システムとすることができる。
【0076】
以上、本発明を、上記各実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記各実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0077】
例えば、上記各実施形態では、加速管32、及びバンチャ空洞40は、π/2モードの定在波が励振される形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、バンチャ空洞40は、πモードによって全てのバンチャ空洞40に加速電界が励振されたり、他のモードによってバンチャ空洞40に加速電界が励振される形態としてもよい。
【0078】
また、上記各実施形態では、線形加速器14から出射される電子ビームのエネルギを2種類とする形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、線形加速器14から出射される電子ビームのエネルギを3種類以上とする形態としてもよい。
【符号の説明】
【0079】
10 X線発生装置
12 電子銃
14 線形加速器
16 X線ターゲット
18 マイクロ波発生装置
20 パルスモジュレータ
36 加速空洞
40 バンチャ空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生させる電子ビーム発生手段と、
複数のバンチャ空洞と複数の加速空洞を有し、前記電子ビーム発生手段によって発生された電子ビームをマイクロ波によって加速させる線形加速器と、
前記線形加速器によって加速された電子ビームが照射されることによって、X線を発生するターゲットと、
前記線形加速器に導入させるマイクロ波を発生するマイクロ波発生手段と、
マイクロ波の電力が変化するように前記マイクロ波発生手段を制御する制御手段と、
を備えたX線発生装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入させるマイクロ波の電力の大きさに応じて、該マイクロ波をパルス状に繰り返し導入する周波数を変化させる請求項1記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記制御手段は、定格運転におけるマイクロ波の電力を前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入させることで高エネルギのX線を発生させ、前記定格運転におけるマイクロ波の電力よりも低いマイクロ波の電力を前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入させることで低エネルギのX線を発生させる請求項1又は請求項2記載のX線発生装置。
【請求項4】
電子ビームを発生させる電子ビーム発生手段と、
前記電子ビーム発生手段によって発生された電子ビームをマイクロ波によって加速させる線形加速器と、
前記線形加速器によって加速された電子ビームが照射されることによって、X線を発生するターゲットと、
前記線形加速器に導入させるマイクロ波を発生するマイクロ波発生手段と、
マイクロ波の電力が変化するように前記マイクロ波発生手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入させるマイクロ波の電力の大きさに応じて、該マイクロ波をパルス状に繰り返し導入する周波数を変化させるX線発生装置。
【請求項5】
電子ビームを発生させる電子ビーム発生手段、複数のバンチャ空洞と複数の加速空洞を有し、前記電子ビーム発生手段によって発生された電子ビームをマイクロ波によって加速させる線形加速器、前記線形加速器によって加速された電子ビームが照射されることによって、X線を発生するターゲット、前記線形加速器に導入させるマイクロ波を発生するマイクロ波発生手段、及びマイクロ波の電力が変化するように前記マイクロ波発生手段を制御する制御手段を備えたX線発生装置の制御方法であって、
第1の大きさのマイクロ波の電力を前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入し、前記電子ビーム発生手段によって発生された電子ビームを加速させ、前記ターゲットに照射させてX線を発生させる第1工程と、
前記第1の大きさのマイクロ波の電力とは異なる大きさの電力のマイクロ波を前記マイクロ波発生手段から前記線形加速器へ導入し、前記電子ビーム発生手段によって発生された電子ビームを加速させ、前記ターゲットに照射させてX線を発生させる第2工程と、
を含むX線発生装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−26070(P2013−26070A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160857(P2011−160857)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】