説明

X線発生装置

【課題】1次X線の混入がほとんどない単色X線を発生させることができ、しかも放熱性に優れているため、大強度のX線を発生することができるX線発生装置を提供する。
【解決手段】放熱性に優れた回転陽極のエッジ付近1次ターゲット層と2次ターゲット層を重ねて設置する。2次ターゲットで発生した特性X線は、回転陽極に近接したスリット20より、ベリリウム層30を介して電子ビームに対して垂直方向に取り出す。1次X線は、1次ターゲット層と、遮蔽材によって吸収されスリット20からは、射出されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2層からなるターゲットを用いて、特性X線を発生するX線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を用いた血管造影検査においては、ヨウ素(原子番号53)を含む造影剤が用いられる。ヨウ素のK吸収端(33.2keV)より少しエネルギの大きいX線が最も効率よくヨウ素に吸収されるため、この検査装置においては、このエネルギ領域のX線を多く発生するX線発生装置を用いることで、被ばく量を軽減することができる。
しかしながら、現状は、高エネルギの電子をタングステンターゲットに照射して発生する連続X線を用いており、効率の悪い低エネルギのX線や高エネルギのX線も一緒に照射している。
【0003】
特許文献1に開示されたX線発生装置は、例えば、図9に示すように、1次ターゲット18に重ねて2次ターゲット19を設ける。電子銃14が発生した電子ビームが1次ターゲット18に入射し、1次ターゲット18は連続X線を透過させて放出する。2次ターゲット19は、1次ターゲット18から放出される連続X線にて励起した特性X線を透過させて放出する。1次ターゲット18と2次ターゲット19とを重ね、1次ターゲット18から放出する連続X線を2次ターゲット19の励起に効率良く利用し、特性X線を発生させる。
【0004】
【特許文献1】特開2007−207539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のX線発生装置では、1次ターゲット18に対してX線取り出し側に2次ターゲット19が位置していることから、1次ターゲット18から放出された連続X線の一部が2次ターゲット19を透過してX線取り出し側に放出されてしまい、医療用としての使用は困難である。また、1次ターゲット18で発生する熱を効率的に逃がすことができないという問題もある。
【0006】
本発明は、特性X線に連続X線がほとんど混入しないようにでき、しかも放熱性に優れたX線発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した従来技術の問題点を解決し、上述した目的を達成するために、本発明のX線発生装置は、電子ビームを発生する陰極と、前記電子ビームの照射によりX線を放出する陽極ターゲットと、回転により前記電子ビームが照射される位置が移動するように前記陽極ターゲットを回転可能に支持する回転機構と、前記陽極ターゲットを収容し、前記陽極ターゲットからの特性X線を外部に放出するX線窓が形成された外囲体とを有し、前記陽極ターゲットは、前記陽極ターゲットの前記陰極側の表面に形成されており、前記陰極からの電子が照射されると制動放射によって1次X線を発生する1次ターゲット層と、前記1次ターゲット層に対して、前記陰極と反対側に位置し、前記1次ターゲット層が発生した前記1次X線を受けて、所定のエネルギの特性X線を発生する2次ターゲット層とをエッジ周辺にドーナツ状に配置し、前記1次ターゲット層の前記電子が照射される領域とスリットとの間に、当該領域で発生した前記1次X線を吸収する部材が配置されている。
【0008】
好適には、本発明のX線発生装置は、前記1次ターゲット層の前記電子が照射される領域と前記スリットとの間に、前記1次ターゲット層と同じ部材が形成されている。この部材は、前記領域で発生した前記1次X線を吸収し、前記1次ターゲット層と一体的に形成されている。
【0009】
好適には、本発明のX線発生装置は、前記2次ターゲット層と前記スリットとの間にはX線をあまり吸収・散乱せず、且つ熱伝導率が高い部材が配置されている。
好適には、本発明のX線発生装置の前記陽極ターゲットは、前記2次ターゲットに対して前記1次ターゲットと反対側に配置され、前記2次ターゲットを透過した前期1次X線が照射されると前記2次ターゲットのK吸収端より大きいエネルギの特性X線を発生する補助ターゲット層をさらに有する。
【0010】
好適には、本発明のX線発生装置は、前記2次ターゲット層と前記補助ターゲット層との間に、前記1次ターゲット層および前記補助ターゲット層に比べてX線を吸収・散乱せず、且つ熱伝導率が高い部材が配置されている。
【0011】
本発明のX線発生装置は、回転方向におけるX線源の大きさが前記スリットの回転方向の開口幅によって決定される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、1次X線の混入がほとんどない単色X線を発生させることができ、しかも放熱性に優れているため、大強度のX線を発生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係わるX線診断システムについて説明する。
先ず、本実施形態の構成要素と、本発明の構成要素との対応関係を説明する。
X線発生装置3が本発明のX線発生装置の一例である。電子ビーム発生部9が本発明の陰極の一例であり、1次ターゲット層11が本発明の1次ターゲットの一例であり、2次ターゲット層32が本発明の2次ターゲットの一例である。また、回転陽極10が本発明の陽極ターゲットの一例である。回転機構40が本発明の回転機構の一例である。
また、1次ターゲット層11が発生する連続X線が本発明の1次X線の一例であり、2次ターゲット層32が発生する特性X線が本発明の特性X線の一例である。
【0014】
図1は本発明の実施形態に係るX線診断システム1の全体構成図である。図2は図1に示すX線発生装置3の全体構成図である。図3は図2に示す回転陽極10のエッジ部分、並びにその周辺部分の断面図である。図4および図5は図3を上側から見た図である。図5は、2次ターゲット層32の所定の深さでの断面図である。
図1に示すように、X線診断システム1は、X線発生装置3で発生したX線を被検体6に照射し、被検体6を透過したX線をX線検出装置7で検出してX線画像(投影)データを生成する。
本実施形態では、X線発生装置3において、例えば、X線画像において骨、脂肪および造影剤等の間に十分なコントラストを得るために適切なエネルギの特性X線を効率的に生成することを特徴としている。当該エネルギは、被検体6の厚みが20cm程度の場合、30keV台半ばから後半である。
【0015】
従来では、前述したように、1次ターゲットに対してX線取り出し側に連続X線を十分に吸収する部材が配置されていないため、1次ターゲットから放出された連続X線の一部が2次ターゲットを透過してX線取り出し側に放出されてしまい、医療用としての使用が困難であった。
これに対して、本実施形態のX線発生装置3では、電子ビーム発生部9からの電子ビームが照射される1次ターゲット層11の電子ビーム照射領域50とスリット20との間に、連続X線を十分に吸収する量の1次ターゲット層11が配置されている。
また、1次ターゲット層11で発生した連続X線のうち2次ターゲット層32を透過した連続X線が入射する位置にスリット20がない。
そのため、電子ビーム照射領域50で発生した連続X線がスリット20を介して放出されることを抑制できる。これにより、被検体6の被ばく量を低減できる。
【0016】
以下、X線発生装置3について詳細に説明する。
図2に示すように、X線発生装置3は、例えば、電子ビーム発生部9および回転陽極10を真空容器5内に収容した構成を有している。
回転陽極10は、回転機構40からの駆動力により、回転軸10aを中心に回転する。
真空容器5には、回転陽極10から発生した特性X線を外部に取り出すスリット20が設けられている。
【0017】
図2に示すように、X線発生装置3では、例えば、電子ビーム発生部9から所定の距離を隔てて回転陽極10が配設されている。
回転陽極10は、図3に示すように、電子ビーム発生部9の側に1次ターゲット層11が配置されている。
回転陽極10の外周付近は、電子ビーム発生部9側から順に1次ターゲット層11、ベリリウム層30、補助ターゲット層34および基板36が積層されている。回転陽極10は、回転機構40によって駆動されて回転軸10aを中心に回転する。
また、回転陽極10の外周付近に対して回転軸10a側では、電子ビーム発生部9側から順に1次ターゲット層11、ベリリウム層31、2次ターゲット層32、ベリリウム層33、補助ターゲット層34および基板36が積層されている。
1次ターゲット層11、2次ターゲット層32、ベリリウム層31,33およびタングステン層34は、ドーナツ形状をしている。
【0018】
X線発生装置3では、電子ビーム発生部9からの電子ビームが1次ターゲット層11の電子ビーム照射領域50に照射されると、1次ターゲット層11内で制動放射が起こり、1次X線としての連続X線が発生する。ここで、制動放射とは、高速の電子が原子核の作る電場で曲げられることによってX線を発生する現象である。
【0019】
そして、この連続X線が、略等方向に放出され、その一部がスリット20および2次ターゲット層32に向けて放出される。ここで、スリット20に向けて放出された連続X線は、X線を効率よく吸収する金からなる1次ターゲット層11内を長い距離通るため、1次ターゲット層11内において吸収されてスリット20に達しない。一方、2次ターゲット層32に向けて放出された連続X線は、あまりX線を吸収・散乱しないベリリウム層31を通るため、殆ど吸収されずに2次ターゲット層32に達する(照射される)。
2次ターゲット層32に連続X線が照射されると、2次ターゲット層32内で光電効果が起こり、2次ターゲット層32の原子番号に対応したエネルギの特性X線が発生する。
2次ターゲット層32で発生した特性X線の一部は、ベリリウム層30,33を介して、真空容器5のスリット20からX線発生装置3の外部に出射される。残りの特性X線は、基板36や真空容器5等によって遮蔽されてX線発生装置3の外部には漏れないようにX線発生装置3が構成されている。
【0020】
[1次ターゲット層11]
1次ターゲット層11は、例えば、金であり、ベリリウム層30およびベリリウム層31の上に形成されている。
なお、1次ターゲット層11の材料としては、金の他に、タングステン、白金、あるいはこれらの金属を主成分とする合金が挙げられる。
【0021】
1次ターゲット層11の電子ビーム照射領域50に、電子ビーム発生部9から例えば180keVの電子ビームが照射されると、当該電子ビームと1次ターゲット層11内の原子(原子核)との間で制動放射(相互作用)が起こり、最大180keVまで連続X線が発生する。
1次ターゲット層11の厚みは、例えば、回転陽極10の外周付近では約120μm、回転陽極10の外周付近に対して回転軸10a側の2次ターゲット層32と対面している部分では約15μmである。厚み15μmは、電子ビームの飛程より決定される。
なお、1次ターゲット層11の厚み約120μmの部分は、1次X線の遮蔽材として機能し、スリット20に向かう1次X線が遮蔽材中を十分な距離を通過するように設定される。
このように1次ターゲット層11の厚みを既定することで、1次ターゲット層11のうち電子ビーム発生部9からの電子ビームが照射される電子ビーム照射領域50とスリット20との間に、連続X線を十分に吸収する量の1次ターゲット層11を配置できる。これにより、電子ビーム照射領域50で発生した連続X線がスリット20を介して外部に放出されることを抑制できる。
一方、1次ターゲット層11のうち2次ターゲット層32と対面している部分の厚みを薄くし、そこにあまりX線を吸収・散乱しないベリリウム層31を配置することで、電子ビーム照射領域50で発生した連続X線の大半を2次ターゲット層32に照射することができる。
【0022】
1次ターゲット層11には、例えば、以下の性質が要求される。
(1−1)原子番号が大きい。1次X線は、制動放射によって生成されるが、制動放射は原子番号の約2乗に比例するため、原子番号の大きいものが良い。
(1−2)融点が高い。電子ビームを照射した部分は、電子の運動エネルギがほとんど熱エネルギになり、高温になる。融点はベリリウム層やセリウム層の融点より高い方がよいが、高すぎても無駄である。1次ターゲット層11としては、金の他に、例えばタングステンを用いることが可能であるが、タングステンの原子番号は73、熱伝導率は174W/mKでともに金の方が優れている。タングステンが優れている点は融点(3420℃)が高いことであるが、回転陽極10では、内部に融点(800℃)の2次ターゲット層32や融点(1280℃)のベリリウム層30を配置するので、タングステンが融解する前に2次ターゲット層やベリリウム層が融解する。他に考えられる物質としては、白金(プラチナ)等がある。
(1−3)熱伝導率が大きい。電子ビームの焦点で1次ターゲット層11が融解しないように、上記(1−2)で述べた融点が高いことに加えて、発生した熱を熱伝導により、逃がす特性も重要である。ここで、金の熱伝導率は、317W/mKで非常に大きい。
(1−4)X線をよく吸収する、すなわち原子番号が大きい。
【0023】
上記(1−1),(1−2),(1−3),(1−4)の条件を満たす物質は限られたものになり、金が最適である。なお、1次ターゲット層11は、図3に示す厚さ120μmの遮蔽材として機能する部分としては上記(1−4)の性質が特に重要であり、厚さ15μmの電子ビーム照射領域50の部分としては上記(1−1)の性質が特に重要である。
【0024】
ところで、1次ターゲット層11で発生する連続X線のうち、2次ターゲット層32中の原子(セリウム)のK吸収端以上のエネルギのみが特性X線の発生に有効である。よって、1次ターゲット層11が発生する連続X線は、2次ターゲット層32中の原子(セリウム)のK吸収端より高いエネルギのX線を含んでいる必要がある。
【0025】
連続X線の最高エネルギは、照射する電子ビームのエネルギでほぼ決まり、1次ターゲット層11の材質はあまり関係がない。なお、発生する量は1次ターゲット層11の原子番号のほぼ2乗に比例する。
【0026】
[ベリリウム層30]
ベリリウム層30は、2次ターゲット層32で発生したX線を効率的にスリット20に向けて放出する経路となる。
ベリリウムは原子番号「4」で、密度も1.85g/cmと小さいため、X線をよく透過し、熱伝導率も201W/mKと高い。ベリリウム層30の役割は、X線をよく透過しかつ熱も効率的に逃がすことである。
【0027】
[ベリリウム層31]
ベリリウム層31は、1次ターゲット層11で発生した連続X線(1次X線)をほとんど吸収・散乱することなく2次ターゲット層32に導く経路となる。また、1次ターゲット層11で発生した熱も伝導により分散させる役割もする。
【0028】
[2次ターゲット層32]
1次ターゲット層11で発生した連続X線は、ベリリウム層31を介して2次ターゲット層32に達し、2次ターゲット層32中で光電効果を起こし、2次ターゲット層32を構成する原子の原子番号に対応したエネルギ34〜40keVの特性X線を発生する。
2次ターゲット層32の材料としては、セリウム、またはセリウムとベリリウムやホウ素などとの合金、化合物あるいは混合物が挙げられる。
【0029】
以下、2次ターゲット層32における特性X線の発生原理について説明する。
1次ターゲット層11で発生した連続
2次ターゲット層32に照射されると、連続X線と2次ターゲット層32の原子が光電効果という相互作用を起こす。光電効果を起こすと、連続X線は原子に吸収されて消滅し、原子からは光電子が飛び出す。飛び出してくる光電子は、主に最内殻(K殻)の電子であり、光電効果が起こると最内殻(K殻)の軌道に空きができる。最内殻(K殻)に空きがあると、主にその上の軌道(L殻)から電子が最内殻に落ちる。この時に発生するのが特性X線(単色X線、KX線)である。
【0030】
特性X線のエネルギは、K殻にある電子の束縛エネルギとL殻にある電子の束縛エネルギの差となる。L殻の電子の方がゆるく原子核に束縛されているので、K殻に落ちる時に、その差のエネルギを特性X線として放出する。特性X線のエネルギは、原子番号によって決まり原子番号58のセリウムは、X線撮像、特にヨウ素を含む造影剤による血管造影に最適なエネルギの特性X線を放出する。
ここで、2次ターゲット層32により原子番号の大きな原子の材料を用いれば、より高いエネルギの単色X線を発生し、より小さな原子番号の原子の材料を用いれば、より低いエネルギの特性X線を発生する。
【0031】
このように、2次ターゲット層32で、光電効果を起こして原子の最内殻に空きを作り出すには、その原子のK吸収端より大きいエネルギのX線を照射しなければならない。K吸収端というのは、最内殻(K殻)の電子の束縛エネルギのことで、このエネルギ以上のX線であれば、K殻の電子を光電子として放出させることができる。
【0032】
なお、K吸収端も、特性X線(KX線)のエネルギも、原子番号のほぼ2乗に比例する。
【0033】
前述したように、発生する特性X線のエネルギは、2次ターゲット層32の原子番号によって決まる。
医療診断においては、血管造影の際にヨウ素(I)が入った造影剤が使用されるため、ヨウ素のK吸収端より大きいX線を照射する必要があるが、特に被検体の厚みの薄い乳幼児の撮影においては、低エネルギの方が良いコントラストが得られるので、ヨウ素のK吸収端をぎりぎり越える特性X線を放出するセリウム(原子番号58)が2次ターゲット層32の材料として適している。成人用においては、もう少し高い特性X線を放出するセリウムより原子番号の大きいものを使用することが望ましい場合もある。
【0034】
2次ターゲット層32には、1次ターゲット層で発生した熱を基板36に伝えるという役割もある。セリウムは、熱伝導率が11.4W/(m・K) と小さい。そのため、熱伝導率が201W/(m・K)と大きいベリリウムとの合金または、混合物とすることで高い熱伝導率を達成してもよい。
【0035】
2次ターゲット層32には、1次ターゲット層11から基板36に向けて放出された連続X線が照射される。そして、2次ターゲット層32に達した連続X線によって発生した特性X線のうち、スリット20側に向けて放出された特性X線が、ベリリウム層30やベリリウム層31を透過してスリット20に出射される。被検体6から見た回転方向のX線源の大きさは、スリット20の回転方向の開口幅によって決定される。
【0036】
[ベリリウム層33]
ベリリウム層33は、補助ターゲット層34と2次ターゲット層32との間に位置し、例えば、厚み200μmである。
このように2次ターゲット層32と補助ターゲット層34との間にあまりX線を吸収・散乱しないベリリウム層33を設けることで、2次ターゲット層32と補助ターゲット層34とを直接積層した場合に比べて、を2次ターゲット層32の回転軸10a側で発生した特性X線をスリット20から放出できる量を増大できる。
また、ベリリウム層33は、前述したように熱伝導率が高く、2次ターゲット層32からの熱を効率的に補助ターゲット層34に伝達する。
【0037】
[補助ターゲット層34]
補助ターゲット層34は、2次ターゲット層32およびベリリウム層33を透過した連続X線などが照射されると、補助ターゲット層34中で光電効果を起こし、タングステンの原子番号に対応したエネルギ約60keVの特性X線を発生する。そして、その一部が2次ターゲット層32に出射される。
このように2次ターゲット層32に対して基板36の側に、補助ターゲット層34を配置することで、2次ターゲット層32を透過した連続X線を、2次ターゲット層32における特性X線の発生に利用することができる。
また、補助ターゲット層34の熱伝導率は174W/(m・K)と高く、2次ターゲット層32からの熱を効率的に基板36に伝達でき、放熱効果が高い。
補助ターゲット層34の代わりに、原子番号63以上の金属または、これらを主成分とする合金等を用いてもよい。
【0038】
[基板36]
基板36は、例えば、銅で形成されている。
基板36は、ベリリウム層31等で発生する熱を熱伝導で逃がす役割をする。銅は熱伝導率が401W/(m・K)と非常に大きいので、一般的には銅が用いられる。
【0039】
[X線発生装置3の動作例]
以下、上述したX線発生装置3の動作例(作用)を説明する。
回転機構40によって回転陽極10が回転軸10aを中心に回転する。
そして、電子ビーム発生部9からの電子ビームが、回転陽極10の1次ターゲット層11の電子ビーム照射領域50に向けて出射する。
1次ターゲット層11の電子ビーム照射領域50に上記電子ビームが照射されると、当該電子ビームと1次ターゲット層11内の原子(原子核)との間で制動放射(相互作用)が起こり、連続X線を発生する。このとき、連続X線が発生する領域(電子が到達する領域)は、照射位置から10ミクロン程度しか広がらない。図4および図5に点線の円で示した領域は、2次ターゲット層32において連続X線が到達する領域である。
当該連続X線のうち一部は、スリット20に向けて放射されるが、電子ビーム照射領域50とスリット20との間には十分な量の1次ターゲット層11が存在するため、連続X線は1次ターゲット層11内で略全て吸収・散乱されてスリット20には達しない。
【0040】
一方、上記連続X線のうち2次ターゲット層32に向けて放射され連続X線は、あまりX線を吸収・散乱しないベリリウム層31を透過して2次ターゲット層32に照射される。
2次ターゲット層32では、上記連続X線が達した部分で、光電効果が起こり、2次ターゲット層32の原子番号に対応した30keV台半ばから後半のエネルギの特性X線が発生する。
2次ターゲット層32で発生した特性X線のうち一部は、ベリリウム層30,33を透過してスリット20からX線発生装置3の外部に放出される。
2次ターゲット層32で発生した特性X線が、スリット20から外部に放出されるか否かは、図6に示すように、その発生位置とスリット20との位置関係に依存する。図6に示すように、スリット20からの射出角度θが小さくなるに従って、スリット20を介して外部に放出されるX線光子数は多くなる。なお、このようなX線強度の射出角度依存性は特にCT装置に適している。
【0041】
また、1次ターゲット層11で発生した連続X線のうち一部は、2次ターゲット層32を透過して補助ターゲット層34に照射される。
補助ターゲット層34では、連続X線が照射されると、光電効果を起こし、タングステンの原子番号に対応したエネルギの特性X線を発生する。そして、その一部が2次ターゲット層32に出射される。
そして、2次ターゲット層32において、補助ターゲット層34からの特性X線により、光電効果を生じ、セリウムの特性X線を発生する。当該特性X線のうち一部はスリット20から外部に放出される。
【0042】
図7に示すように、X線発生装置3によって外部に放出される30keV台半ばから後半のエネルギの特性X線は、例えば図1に示す被検体6の骨、脂肪および造影剤の間の良好なコントラストを得るために適切なエネルギであり、X線診断システム1の用途に適している。
【0043】
[X線発生装置3の効果]
以上説明したように、X線発生装置3によれば、1次ターゲット層11のうち電子ビーム発生部9からの電子ビームが照射される電子ビーム照射領域50とスリット20との間に、連続X線を十分に吸収する量の1次ターゲット層11が配置されている。
また、X線発生装置3によれば、1次ターゲット層11で発生した連続X線のうち2次ターゲット層32を透過した連続X線が入射する位置にスリット20がない。
これにより、電子ビーム照射領域50で発生した連続X線がスリット20を介して放出されることを抑制できる。また、2次ターゲット層32を透過した連続X線がスリット20を介して放出されることも抑制できる。これにより、被検体6の被ばく量を低減できる。
【0044】
また、X線発生装置3によれば、1次ターゲット層11と2次ターゲット層32とを近接して配置しているため、高いX線発生効率を得ることができる。
【0045】
また、X線発生装置3によれば、2次ターゲット層32と基板36との間に、熱伝導率の高いベリリウム層30および補助ターゲット層34を配置しているため、高い放熱効果が得られる。
【0046】
X線発生装置3によれば、上述したように十分な量の特性X線を発生でき、後述するX線検出装置7との組み合わせにより、造影剤を用いたX線撮像において、X線診断時における被検体6の被ばく量を従来の半分以下にできる。また、造影剤を用いないX線撮像においても、単色X線を用いることにより、被ばく量を従来に比べて4割程度削減できる。
【0047】
X線診断システム1によれば、2次ターゲット層32の材質として用いる原子の原子番号を選択することで、任意のエネルギの特性X線を発生できる。
【0048】
[X線検出装置7]
X線検出装置7としては、例えば、特開2005−62169号公報に開示されているX線検出装置が用いられる。
当該X線検出装置は、コリメータ機能を備えたX線阻止部材と、X線検出機能とコリメータの中間材(支持材)としての機能とを併せ持つ半導体X線検器とを用いることで、高感度なX線検出が可能である。
X線診断システム1では、X線発生装置3で発生したX線を被検体6に照射し、被検体6を透過したX線をX線検出装置7で高感度検出してX線画像(投影)データを生成できる。
【0049】
本発明は上述した実施形態には限定されない。
すなわち、当業者は、本発明の技術的範囲またはその均等の範囲内において、上述した実施形態の構成要素に関し、様々な変更、コンビネーション、サブコンビネーション、並びに代替を行ってもよい。
【0050】
例えば、上述した実施形態では、図3に示すように、1次ターゲット層11の外周側の厚みを内周側に比べて厚くしたが、外周側に1次ターゲットとは別の材料を配置してもよい。当該材料としては、X線を効率良く吸収するものが選択される。
【0051】
また、図3に示すように、2次ターゲット層32と補助ターゲット層34との間にベリリウム層33を設けた場合を例示したが、ベリリウム層33を設けなくてもよい。
また、補助ターゲット層34を設けない構成にしてもよい。
【0052】
また、図8に示すように、電子ビーム発生部9からの電子ビームが射出される方向と直交する回転軸10bを中心に回転陽極10を回転させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、X線CT装置、X線TV装置、単純X線撮像装置等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係わるX線診断システムの全体構成図である。
【図2】図2は、図1に示すX線発生装置の構成を説明するための図である。
【図3】図3は図2に示す回転陽極10のエッジ部分、並びにその周辺部分の断面図である。
【図4】図4は、図3における上側から見た図である。
【図5】図5は、図4において2次ターゲットがある深さでの断面図である。
【図6】図6は、スリットへの入射角と、スリットを介して外部に放出されるX線光子の数との関係を説明するための図である。
【図7】図7は、X線発生装置3から放出されるX線のエネルギを説明するための図である。
【図8】図8は、本発明の実施形態に係るX線発生装置の変形例を説明するための図である。
【図9】図9は、従来技術を説明するための図である。
【符号の説明】
【0055】
1…X線診断システム、
3…X線発生装置、
5…真空容器、
6…被検体、
7…X線検出装置、
9…電子ビーム発生部、
10…回転陽極
11…1次ターゲット層、
20…スリット、
30,31,33…ベリリウム層
32…2次ターゲット層
34…補助ターゲット層
36…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生する陰極と、
前記電子ビームの照射によりX線を放出する陽極ターゲットと、
回転により前記電子ビームが照射される位置が移動するように前記陽極ターゲットを回転可能に支持する回転機構と、
前記陽極ターゲットを収容し、前記陽極ターゲットからの特性X線を外部に放出するX線窓が形成された外囲体と
を有し、
前記陽極ターゲットは、
前記陽極ターゲットの前記陰極側の表面に形成されており、前記陰極からの電子が照射されると制動放射によって1次X線を発生する1次ターゲット層と、
前記1次ターゲット層に対して、前記陰極と反対側に位置し、前記1次ターゲット層が発生した前記1次X線を受けて、所定のエネルギの特性X線を発生する2次ターゲット層と
をエッジ周辺にドーナツ状に配置し、
前記1次ターゲット層の前記電子が照射される領域とスリットとの間に、当該領域で発生した前記1次X線を吸収する部材が配置されている
X線発生装置。
【請求項2】
前記1次ターゲット層の前記電子が照射される領域と前記スリットとの間に、前記1次ターゲット層と同じ部材が当該1次ターゲット層と一体的に形成されており、前記電子が照射される領域で発生した前記1次X線を吸収する
請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記2次ターゲット層と前記スリットとの間には前記1次ターゲット層に比べてX線を吸収・散乱せず、且つ熱伝導率が高い部材が配置されている
請求項1または請求項2に記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記陽極ターゲットは、
前記2次ターゲットに対して前記1次ターゲットと反対側に配置され、前記2次ターゲットを透過した前期1次X線が照射されると前記2次ターゲットのK吸収端より大きいエネルギの特性X線を発生する補助ターゲット層
をさらに有する請求項1〜3のいずれかに記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記2次ターゲット層と前記補助ターゲット層との間に、前記1次ターゲット層および前記補助ターゲット層に比べてX線を吸収・散乱せず、且つ熱伝導率が高い部材が配置されている
請求項4に記載のX線発生装置。
【請求項6】
回転方向におけるX線源の大きさが前記スリットの回転方向の開口幅によって決定される
請求項1〜5のいずれかに記載のX線発生装置。
【請求項7】
前記外囲体の前記スリットは、前記2次ターゲットを透過した前記1次X線が直接入射しない位置に形成されている
請求項1〜6のいずれかに記載のX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−170347(P2009−170347A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9245(P2008−9245)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】