説明

X線発生装置

【課題】光路の形成に利用するミラーの数を低減することでX線発生装置を小型化する。
【解決手段】レーザ光を発生するレーザ光源10と、レーザ光源から発生されたレーザ光を、電子を加速させるための第1レーザ光と加速された電子に衝突させる第2レーザ光とに分光する分光手段11と、真空室中で第1レーザ光にプラズマを発生し、電子を加速する媒体であるガスを発生させる発生手段16と、分光手段で分光された第2レーザ光の光路L2に第1レーザ光及び第2レーザ光と干渉しないように設置され、それぞれ位置と回転角度を調節してこの第2レーザ光の光路L2を設定する2枚のミラー12a,12bと、第1レーザ光を利用して加速された電子と第2レーザ光とが衝突する位置を設定する集光手段13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ光を利用して電子を加速し、X線を発生するX線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力のフェムト秒レーザの実現により、レーザ光を用いた電子加速の研究が進められている。これとは別に、レーザ逆コンプトンを利用する技術も研究されている(例えば、特許文献1参照)。逆コンプトン散乱とは、高エネルギーの電子に波長の短い光をあてると、電子のエネルギーが光に渡されて光の波長が短くなり、X線となって散乱される現象である。
【0003】
これらの技術を合わせ、近年、フェムト秒レーザを利用して逆コンプトン散乱によりX線を発生させるX線発生装置も研究されている。このX線発生装置は、フェムト秒レーザが発光する電子加速用のレーザ光にガスターゲットを投射して発生するプラズマにより加速電子を生成し、電子ビームとなったこの加速電子に衝突用のレーザ光を衝突させて逆コンプトン散乱によるX線(逆コンプトン散乱X線)を発生させる。加速電子の生成にフェムト秒レーザを利用した場合、従来の電子加速器と比較して電子加速の機構を小型化することができるため、X線発生装置全体としても小型化することができる。
【0004】
逆コンプトン散乱X線を発生させるためには、真空室である照射チャンバーの中で、加速電子(加速用レーザ光を利用して生成された電子ビーム)とレーザ光(衝突用レーザ光)とを衝突させる。このとき、電子ビーム(加速電子)とレーザ光との衝突の位置やタイミングを調節することが重要であるが、この電子ビームとレーザ光を衝突させるための光路の調節には、4枚のミラーと可動ミラーの利用が主流である(例えば、非特許文献1、Fig.6参照)。また、この多数のミラーは全て照射チャンバー内に配置する必要があるとともに、各ミラーは照射チャンバー内でレーザ光と干渉しないように配置する必要がある。すなわち、照射チャンバーの大きさは、このようなミラーの配置に依存するが、ミラーの配置には最低限のスペースが必要であるため、照射チャンバーのサイズが大きくなる問題がある。
【0005】
また、X線発生装置ではシールド等の遮蔽手段を使用して発生した放射線を遮断する。フェムト秒レーザを利用することで小型化されたX線発生装置の場合、照射チャンバーに局所シールドを設置して放射線を遮断することができるため、遮蔽手段(シールド)も含めた装置を小型化することができる。しかしながら、上述したように、ミラーの配置スペースを確保するために照射チャンバーの小型化が制限されると、この遮蔽を含む装置の小型化の効果を十分に得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−345503号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N.Hafz,H.J.Lee,J.U.Kim,H.Suk,and Jongmin Lee、“Femtosecond X−Ray Generation via the Thomson Scattering a Terawatt Laser From Electron Bunches Produced From the LWFA Utilizing a Plasma Density Transision” IEEE TRANSACTIONS ON PLAZMA SCIENCE、(米国)、2003年12月、VOL 31,NO.6、p.1393
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来のX線発生装置では、フェムト秒レーザを利用して電子加速を行ったとしても照射チャンバーの小型化の制限により、装置の小型化に限界があった。
【0009】
上記課題に鑑み、本発明は、光路の形成に利用するミラーの数を低減することで従来のX線発生装置と比較して、小型なX線発生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、レーザ光を発生するレーザ光源と、前記レーザ光源から発生されたレーザ光を、電子を加速させるための第1レーザ光と加速された電子に衝突させる第2レーザ光とに分光する分光手段と、真空室中で第1レーザ光にプラズマを発生し、電子を加速する媒体であるガスを発生させる発生手段と、前記分光手段で分光された第2レーザ光の光路に第1レーザ光及び第2レーザ光と干渉しないように設置され、それぞれ位置と回転角度を調節してこの第2レーザ光の光路を設定する2枚のミラーと、第1レーザ光を利用して加速された電子と第2レーザ光とが衝突する位置、を設定する集光手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2の発明は、第1レーザ光を利用して加速された電子と第2レーザ光との衝突点の位置を観測する観測手段を備えることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3の発明は、第1レーザ光を利用して加速された電子と第2レーザ光との衝突点の位置を観測する観測手段と、前記観測手段の観測結果に応じて前記2枚のミラーと前記集光手段とを制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光路の形成に利用するミラーの数を低減することでX線発生装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るX線発生装置の構成を説明する図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るX線発生装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、本発明の各実施形態に係るX線発生装置について説明する。本発明に係るX線発生装置は、電子を加速させる電子加速レーザ光にガスターゲットを投射することで電子を加速して電子ビームを生成し、この電子ビームに衝突用のレーザ光を衝突させて逆コンプトン散乱によるX線(逆コンプトン散乱X線)を発生させる装置である。
【0016】
〈第1の実施形態〉
図1(a)に示すように、第1の実施形態に係るX線発生装置1aは、レーザ光20を発生するレーザ光源10と、真空である照射チャンバー(図示せず)内でレーザ光源10から発生されたレーザ光20を電子の加速用レーザ光である第1レーザ光21と電子ビーム(加速電子)に衝突させる衝突用レーザ光である第2レーザ光22とに分光する分光手段であるビームスプリッタ11と、ビームスプリッタ11で分光された第2レーザ光22の光路である第2光路L2に設置され、この第2光路L2の距離を調節する2枚のミラー12a,12bと、第1レーザ光21を利用して発生した電子ビームと第2レーザ光22とが衝突する位置を調節する集光手段13とを備えている。
【0017】
また、X線発生装置1aは、図1(b)に示すように、第1レーザ光21に投射してプラズマを生成して電子を加速させる媒体であるガスターゲット24を発生するガスターゲット発生手段16と、2枚のミラー12a,12bや集光手段13を制御する制御手段15を備えている。
【0018】
なお、図1(a)は、X線発生装置1aを第1レーザ光21の光路である第1光路L1及び第2レーザ光22の第2光路L2に垂直な方向から見た概略図であり、図1(b)は、X線発生装置1aを第1レーザ光21から発生した電子ビームと第2レーザ光22の衝突点23及びガスターゲット24に垂直な方向から見た概略図である。
【0019】
このX線発生装置1aでは、第1レーザ光21にガスターゲット24が投射されるとプラズマが発生し、電子が加速されて電子ビームとなる。この電子ビームが第2レーザ光22と衝突すると、逆コンプトン散乱によって逆コンプトン散乱X線が発生する。図1では、図示を省略しているが、X線発生装置1aでは、ビームスプリッタ11、ミラー12a,12b、集光手段13、反射ミラー14及びガスターゲット発生手段16は、照射チャンバー内に設置されている。また、照射チャンバーには、内部を所定の気圧に保つ排気ポンプ等の排気手段と、内部で発生した逆コンプトン散乱X線を放出するX線放出窓とが設けられている。
【0020】
X線発生装置1aで用いるレーザ光源10は、例えば、フェムト秒レーザ等の電子加速に利用することができる高出力のレーザ光を発光するレーザ装置である。また、ガスターゲット発生手段16は、光に投射することでプラズマを発生して電子を加速するための媒体である水素、ヘリウム、窒素又はアルゴン等のガスをガスターゲット24として発生する。上述したように、レーザ光源10やガスターゲット発生手段16が配置される照射チャンバーは真空であるため、このガスターゲット24が照射された空間は、照射チャンバー内の他の空間(約1012〜13個/cm3)に比べて気体密度が高く(約1017〜19個/cm3)なる。
【0021】
ここで、X線発生装置1aでは、制御手段15によって第1ミラー12a及び第2ミラー12bの位置と第2レーザ光22に対する角度とを制御することで、第2光路L2を設定する。第2光路の距離を設定することで、第2レーザ光22が電子ビームに衝突するまでの時間も設定することができる。具体的には、第2レーザ光22の光路L2の距離を、第1レーザ光21の第1光路L1の距離及び第1レーザ光21によって生成された電子ビームの軌道の距離に合わせて設定する。このとき、ミラー12a,12bが各光路のビーム光21,22と干渉しないようにする必要がある。
【0022】
なお、第1光路L1は、ビームスプリッタ11を始点とし、反射ミラー14を通り、ガスターゲット24内での電子ビームの発生地点を終点とする光路である。また、第2光路L2は、ビームスプリッタ11を始点とし、第1ミラー12a、第2ミラー12b、集光手段13の順に衝突点23を終点とする光路である。さらに、電子ビームは、ガスターゲット24に第1レーザ光21が照射されると発生するため、電子ビームの軌道は、第1光路L1の終点が始点であって、衝突点23が終点である。ここで、電子ビームの軌道の距離は短く、図1では省略している。
【0023】
第1ミラー12aと第2ミラー12bとは前後左右方向(XY方向)に移動可能な一つのリニアガイド12上に、それぞれの回転軸を基準として回転可能に設置されている。X線発生装置1aでは、このリニアガイド12を前後左右方向に移動するとともに、リニアガイド12上の各ミラー12a,12bを回転することにより、第2レーザ光22に対する各ミラー12a,12bの角度を調節して第2光路L2を設定する。
【0024】
また、X線発生装置1aでは、制御手段15の制御によって集光手段13の位置を調節することで、第1レーザ光21によって生成された電子ビームと第2レーザ光22とが衝突する衝突点23の位置を設定する。この集光手段13も、前後左右方向(XY方向)に移動可能であるとともに回転軸を基準として回転可能に設置されており、第2ミラー12bから入射する第2レーザ光22に応じた前後左右方向の移動及び回転により、第1レーザ光21によって生成された電子ビームと第2レーザ光22とが衝突する衝突点23の位置を設定することができる。なお、この集光手段13は、例えば、集光レンズや集光ミラー等であって、第2レーザ光を集光する手段である。
【0025】
さらに、X線発生装置1aでは、制御手段15の制御によってガスターゲット発生手段16の位置を調節することも可能であり、第1レーザ光21と第2レーザ光22の位置を基準として設定した位置にガスターゲット24を発生させることができる。
【0026】
上述したように、本発明の第1の実施形態に係るX線発生装置1aでは、第1レーザ光21及び第2レーザ光22と干渉しないように2枚のミラー12a,12bと集光手段13を配置するとともに第2光路L2と集光状態を調節し、第2レーザ光22を第1レーザ光21によって生成された電子ビーム(加速電子)に衝突させる。ミラー12a,12bと集光手段13の位置や第2レーザ光22に対する角度は制御手段15を介して容易に調節することができるため、X線発生装置1aでは、小型の照射チャンバー内に各機構を収めることができる。したがって、X線発生装置1aを小型化することができる。
【0027】
〈第2実施形態〉
続いて、図2を用いて第2の実施形態に係るX線発生装置1bについて説明する。図2は、図1(a)と同様に、X線発生装置1bを第1レーザ光21及び第2レーザ光22の光路L2と垂直な方向からみた概略図である。また以下の説明において、図1を用いて上述した同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0028】
図2に示す第2の実施形態に係るX線発生装置1bを図1に示す第1の実施形態に係るX線発生装置1aと比較すると、第1レーザ光21、第1レーザ光21によって生成された電子ビーム、第2レーザ光22、衝突点23及びガスターゲット24を含む範囲に対して光を発光する発光手段17aと、発光手段17aからの光を受光して第1レーザ光21によって生成された電子ビーム及び第2レーザ光22の衝突点23と、ガスターゲット24との位置関係を画像として取得する受光手段17bとを備えている点で異なる。なお、図2では、ガスターゲット発生手段16及びガスターゲット発生手段16から発生するガスターゲット24の図示は省略している。
【0029】
制御手段15は、受光手段17bが取得した画像から第1レーザ光21によって生成された電子ビーム及び第2レーザ光22の衝突点23と、ガスターゲット24との位置関係に応じて、この位置関係がX線の発生に最適な所定の関係になるように、リニアガイド12の位置、ミラー12a,12bの回転状況、集光手段13の位置及び回転状況を制御する。たとえば、制御手段15は、電子ビーム生成の際に発生するプラズマによる第2レーザ光22のエネルギーの減衰が最小かつ電子ビーム密度が高くなる位置関係になるように制御する。
【0030】
例えば、制御手段15は、表示手段及び入力手段と接続されており、この表示手段に表示される画像に応じてオペレータが入力する操作信号に基づいてリニアガイド12、ミラー12a,12b及び集光手段13を制御するようにしてもよい。
【0031】
また、制御手段15は、受光手段17bが取得する画像の第1レーザ光21によって生成された電子ビーム及び第2レーザ光22の衝突点23とガスターゲット24との位置関係と、その位置関係の場合の制御方法のパターンを予め記憶していてもよい。制御方法のパターンとは、例えば、リニアガイド12の位置、2枚のミラー12a,12bの回転状況、集光手段13の位置及び回転状況をどのように制御するかのパターンである。この場合、制御手段15は、予め記憶しているパターンから受光手段17bが取得した画像に応じて各機構の制御方法を抽出し、リニアガイド12、ミラー12a,12b及び集光手段13を制御することができる。
【0032】
上述したように、本発明の第2の実施形態に係るX線発生装置1bでは、第1の実施形態に係るX線発生装置1aと同様に、小型化することができる。また、第2の実施形態に係るX線発生装置1bでは、受光手段17bが取得した画像に含まれる第1レーザ光21、第2レーザ光22及びガスターゲット24の位置関係から、ミラー12a,12b、リニアガイド12及び集光手段13の現在の状態を特定し、X線を発生するために最適な状態に制御することができる。したがって、X線発生装置1bでは、より効率的にX線を発生することができる。
【0033】
以上、各実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。
【符号の説明】
【0034】
1a,1b…X線発生装置
10…レーザ光源
11…ビームスプリッタ(分光手段)
12…リニアガイド
12a…第1ミラー
12b…第2ミラー
13…集光手段
14…反射ミラー
15…制御手段
16…ガスターゲット発生手段(発生手段)
17a…発光手段(観測手段)
17b…受光手段(観測手段)
20…レーザ光
21…第1レーザ光
22…第2レーザ光
23…衝突点
24…ガスターゲット
L1…第1光路
L2…第2光路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生するレーザ光源と、
前記レーザ光源から発生されたレーザ光を、電子を加速させるための第1レーザ光と加速された電子に衝突させる第2レーザ光とに分光する分光手段と、
真空室中で第1レーザ光にプラズマを発生し、電子を加速する媒体であるガスを発生させる発生手段と、
前記分光手段で分光された第2レーザ光の光路に第1レーザ光及び第2レーザ光と干渉しないように設置され、それぞれ位置と回転角度を調節してこの第2レーザ光の光路を設定する2枚のミラーと、
第1レーザ光を利用して加速された電子と第2レーザ光とが衝突する位置を設定する集光手段と、
を備えることを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
第1レーザ光を利用して加速された電子と第2レーザ光との衝突点の位置を観測する観測手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記観測手段の観測結果に応じて前記2枚のミラーと前記集光手段とを制御する制御手段とをさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−198568(P2011−198568A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62846(P2010−62846)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】