説明

X線管のフィラメント電流のブースティング/ブランキング

X線管の陰極のフィラメント電流をブースティング/ブランキングするために、X線管の管電流の時間変動が測定され、第1のメモリに保存される。そして反復的ブースティング/ブランキングが実行され、ブースティング/ブランキング電流が短い時間間隔Δtの間フィラメントに印加され、保存された管電流の時間変動に基づいて短い時間間隔Δt後の管電流が決定され、管電流は第2のメモリに保存される。保存された管電流の時間変動に基づいて、管電流IEがその目標値IE2未満であるかどうかが決定され、もしそうであればブースティング/ブランキング電流がさらなる時間間隔Δtの間フィラメントに印加され、その他の場合は管電流IEが目標値IE2に等しいことが決定される。従って、反復的ブースティング/ブランキングがいつでも中断され得るように、各時間間隔Δt後の管電流IEがわかる(第2のメモリに保存された管電流データから決定され得る)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線システムに、より具体的にはX線管に関する。
【背景技術】
【0002】
参考文献US5,546,441は、フィラメント電流によって加熱され得る陰極を持つX線管を操作するためのX線発生器を含むX線システムに関し、これはブースト時間の間フィラメント電流をブースト値にブーストするために露出モードで操作される手段と、フィラメント電流を減らし管電圧のスイッチを入れるために露出モードで操作される手段とを有する。X線発生器は、管電圧のスイッチが入っている間フィラメント電流がブースト値にブーストされる特殊モードを持ち、特殊モードにおいて流れる管電流を測定するための手段が設けられ、測定された管電流の時間変動を保存するための第1のメモリが設けられ、第1のメモリに保存された時間変動からブースト時間を導き出すための手段が設けられる。様々な管電圧と管電流に対してフィラメント電流の定常値が保存される第2のメモリが設けられ、ブースト時間を導き出すための手段は第1のメモリと第2のメモリへのアクセスを実行する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
参考文献に記載のX線発生器はブースト時間を提供し、これは上述の通り決定された後、ブースト電流がブースト時間の全期間印加されるように固定される。
【0004】
ブースト時間が中断され、そして新たな管電流を供給するために必要な新たなブースト時間への即時切り替えが実行され得るならば、有利である。しかしながら、ブースト時間が中断されるとき、中断が起こった時点の管電流(又はフィラメント温度、すなわちフィラメント電流)はわからない。
【0005】
言い換えれば、前の管電流値から新たな管電流値への切り替えが実行される、X線管の反応時間が短縮され得るならば、有利である。
【0006】
本発明は上述の認識に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的はX線管の反応時間を短縮することである。
【0008】
本発明は独立請求項に定義される。本発明の有利な実施形態は従属請求項に示される。
【0009】
本発明によれば、ブースティング/ブランキング電流が連続ステップにおいて繰り返し、各ステップにおいて短い時間間隔だけ、フィラメントに印加される。かかる短い時間間隔のフィラメントへのブースティング/ブランキング電流の印加の毎回後、この短い時間間隔後の管電流が、保存された管電流の時間変動に基づいて決定され、この管電流は第2のメモリに保存される。従って、短い時間間隔のブースティング/ブランキング電流の印加後の管電流がわかる。
【0010】
そして、保存された管電流の時間変動に基づいて、短い時間間隔のブースティング/ブランキング電流の印加後、管電流が管電流の目標値未満であるかどうかが決定される。もしそうであれば、フィラメントへのブースティング/ブランキング電流の印加はさらに短い時間間隔だけ繰り返され、もしそうでなければ、管電流が目標値に等しいことが決定される。
【0011】
このようにして、管電流の目標値への反復的アプローチが実行される。このフィラメントへのブースティング/ブランキング電流の反復的印加の各ステップにおいて、実際の管電流が、保存された管電流の時間変動に基づいて、すなわち短い時間間隔の回数に基づいて決定され得る。この反復的ブースティング/ブランキングプロセスはいかなる時点においても中断され得、中断が起こる時点の管電流がわかる。そして新たなブースティング/ブランキング時間への切り替えが、既知の管電流から、言い換えれば既知のフィラメント電流、すなわち既知のフィラメント温度から始めて、直ちに実行されることができる。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、時間間隔は管電流の初期値と目標値の間の期間と比較して短い。このように、ブースティング/ブランキングプロセスの繰り返しは、ブースティング/ブランキング時間が微細に分割されるように多数の反復ステップを含む。
【0013】
管電流の時間変動が管電圧をパラメータとして測定されるならば、及びそれに従って複数の時間変動が第1のメモリに保存されるならば、有利である。管電流の時間変動の測定は新たなX線管に対する較正プロセスによって、X線管が製造される工場において、若しくは新たなX線管が導入される場所のいずれかにおいて実行され得る。こうした較正プロセスはまたX線管の経年効果を考慮するために一定間隔で実行され得る。
【0014】
X線管の陰極のフィラメントのフィラメント電流のブースティング/ブランキングのためのX線発生器は、X線管の管電流を測定するための電流測定ユニットと、管電流の時間変動を保存するための第1のメモリと、標準及びブースティング/ブランキングフィラメント電流を発生させるためのフィラメント電流制御ユニットと、ブースティング/ブランキング電流の複数の短い時間間隔の各々の後の管電流を保存するための第2のメモリと、X線発生器とX線管を制御するための制御ユニットとを有する。
【0015】
制御ユニットが、フィラメント電流制御ユニットによって生成されるフィラメント電流を決定し、及び/又は制御ユニットが短い時間間隔の期間を決定するならば、有利である。
【0016】
こうした制御ユニットは典型的にはプロセッサ(若しくはマイクロプロセッサ)を有する。そして制御ユニットの動作は、本発明にかかる方法をプロセッサが実行することを可能にするコンピュータプログラムが保存される記憶媒体によって容易に決定され得る。
【0017】
本発明にかかるX線発生器とX線管を有するX線システムは、ブースティング/ブランキングプロセスが中断されても、新たな管電流値への切り替えが直ちに実行されることができるので、短縮された反応時間を持つ。
【0018】
要約すると、X線管の陰極のフィラメント電流をブースティング/ブランキングするために、X線管の管電流の時間変動が測定され、第1のメモリに保存される。そして反復的ブースティング/ブランキングが実行され、保存された管電流の時間変動に基づいてブースティング/ブランキング電流が短い時間間隔にわたってフィラメントに印加され、短い時間間隔後の管電流が決定され、管電流は第2のメモリに保存される。保存された管電流の時間変動に基づいて、管電流がその目標値未満であるかどうかが決定され、もしそうであればブースティング/ブランキング電流がさらなる時間間隔にわたってフィラメントに印加され、その他の場合は管電流が目標値に等しいことが決定される。従って、反復的ブースティング/ブランキングがいつでも中断され得るように、各時間間隔後の管電流がわかる(第2のメモリに保存された管電流データから決定され得る)。
【0019】
本発明のこれらの及び他の態様は以下に記載の実施形態から明らかとなり、これらを参照して例示される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかるX線発生器とX線管の回路図を示す。
【図2】X線管の放出電流の時間変動、すなわちブースト時間特性の一例を示す。
【図3】本発明にかかる反復的ブースティング/ブランキングプロセスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1はX線管の陰極のフィラメントのフィラメント電流をブースティング/ブランキングするためのX線発生器と、X線管1の一実施形態の回路図を示す。
【0022】
X線管1が図1に概略的に示され、陽極と、ブースティング/ブランキング電流が印加されるフィラメントを持つ陰極とを有する。
【0023】
図1に示されるX線発生器は、X線管1の陽極に対する正の高電圧を発生させるための第1の高電圧発生ユニット2と、X線管1の陰極に対する負の高電圧を発生させるための第2の高電圧発生ユニット3とを有する。X線管1はバイポーラX線管である。X線管がユニポーラX線管である場合、単一の高電圧発生ユニットのみが使用される。
【0024】
2つの高電圧発生ユニット2,3はレジスタ4を介して直列接続され、その一端は接地される。レジスタ4はX線管1を通って流れている管電流IEを測定するはたらきをする。レジスタ4にかかる電圧降下はアナログデジタル変換器6に印加され、これはレジスタ4にかかる電圧降下に比例する値、すなわち管電流IEに比例する値を制御ユニット5へ供給する。レジスタ4とアナログデジタル変換器6は電流測定ユニットを構成する。
【0025】
制御ユニット5はフィラメント電流制御ユニット7によって生成されるX線管1の陰極に対するフィラメント電流IFを決定する。
【0026】
制御ユニット5は、以下で説明する通り動的データが保存される第1のメモリ8と、以下で説明する通り反復的ブースティング/ブランキングプロセス中の管電流の値が保存される第2のメモリ10と、静的若しくは定常データが保存され得る追加メモリ9と連携する。
【0027】
制御ユニット5は、以下により詳細に記載される方法で、X線露出のために与えられる管電流IEと管電圧Uの値とデータを組み合わせる。
【0028】
図1に示されるX線発生器の一般的動作と機能に関するさらなる詳細は上述の参考文献US5,546,441から得られる。
【0029】
図2はブースト時間特性、すなわち典型的なX線管1の放出電流の時間変動を示す。
【0030】
ブースト時間特性、すなわち放出電流の時間変動の曲線が特定のX線管1に対して測定され、複数の管電圧Uに対して第1のメモリ8に保存される。
【0031】
図2に示されるのは、時間t1における放出電流の初期値IE1から開始して、放出電流が時間t2における放出電流の目標値IE2へブーストされる場合である。放出電流IEが高い値から低い値へ減少するとき、同様の考察が"ブランキング"についても当てはまり、ブランキング電流はかなり小さいが無視できる値若しくはゼロの値ではない。
【0032】
本発明にかかる反復的ブースティングプロセスの各ステップにおいて、図2に示される短い時間間隔Δtの間、ブースティング電流がX線管の陰極のフィラメントに印加される。
【0033】
本発明にかかる反復的ブースティングプロセスが図2に概略的に示される。反復的プロセスの開始時に、管電流(放出電流)IE1が時点t1においてX線管1を通って流れる。ブースティングプロセスの目標値は図2に示される時点t2における管電流IE2である。従って、全ブースティングプロセスは(t2−t1)の期間を持つ。
【0034】
本発明によれば時間t1に開始して短い時間間隔Δtの間ブースト電流が印加される。そして、第1のメモリ8に保存された管電流の時間変動に基づいて、時点(t1+Δt)における放出電流IEが目標値IE2よりも小さいかどうかが決定される(計算される)。もしそうでなければ、ブースト電流が再度さらなる時間間隔Δtの間印加される。これはブースト電流が(t1+2(Δt))の時間にわたって印加されていることを意味する。
【0035】
ブースティングが十分な回数のΔtだけ実行された場合、管電流の目標値IE2に達し、ブースティングプロセスは終了する。
【0036】
反復的ブースティングプロセスの各ステップに対し、ステップの各回数、言い換えれば時間間隔Δtの数が第2のメモリ10に保存されるので、全ブースティングプロセス中(ブースティング電流の初期値IE1から目標値IE2まで、すなわち時間t1から時間t2まで)のいかなるときでも、放出電流IEがわかる。従って、ブースティングプロセスはt1及びt2の間のいかなる時点においても中断され得、新たなブースティング/ブランキングプロセスが、前のブースティング/ブランキングプロセスにおいて得られた放出電流の既知の値から開始され得る。
【0037】
本発明は図面及び前述の説明において詳細に図示され記載されているが、かかる図示と記載は説明若しくは例示であって限定ではないとみなされるものであり、本発明は開示された実施形態に限定されない。
【0038】
例えば、放出電流測定から、若しくは保存された管電流の時間変動に基づくシミュレーションから、ブースティング/ブランキングプロセスの開始時における実際のフィラメント温度(管電流)を決定することが可能である。
【0039】
開示された実施形態への他の変更は、図面、開示、及び従属請求項の考察から、請求された発明を実践する上で当業者によって理解されもたらされることができる。請求項において"有する"という語は他の要素若しくはステップを除外せず、不定冠詞"a"若しくは"an"は複数を除外しない。単一のプロセス若しくは他のユニットが請求項に列挙された複数の項目の機能を満たしてもよい。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示すものではない。コンピュータプログラム(製品)は、他のハードウェアと共に若しくはその一部として提供される光学記憶媒体若しくは固体媒体などの適切な媒体上に保存/分散され得るが、インターネット又は他の有線若しくは無線通信システムなどを介して他の形式で分散されてもよい。請求項における任意の参照符号は範囲を限定するものと解釈されてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管の陰極のフィラメントのフィラメント電流をブースティング/ブランキングするためのブースティング/ブランキング方法であって、
a)X線管の管電流の時間変動を測定するステップと、
b)前記時間変動を第1のメモリに保存するステップと、
c)短い時間間隔にわたって前記フィラメントにブースティング/ブランキング電流を印加するステップと、
d.1)前記保存された管電流の時間変動に基づいて、前記短い時間間隔後の管電流を決定し、該管電流を第2のメモリに保存するステップと、
d.2)前記保存された管電流の時間変動に基づいて、前記管電流が前記管電流の目標値未満であるかどうかを決定するステップと、
d.3)もしそうであればステップcに戻るステップと、
d.4)その他の場合は前記管電流が前記目標値に等しいことを決定するステップとを有する方法。
【請求項2】
前記時間間隔が前記管電流の初期値と前記目標値との間の期間と比較して短い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記管電流の時間変動が管電圧をパラメータとして測定され、複数の時間変動が前記第1のメモリに保存される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
X線管の陰極のフィラメントのフィラメント電流をブースティング/ブランキングするためのX線発生器であって、
前記X線管の管電流を測定するための電流測定ユニットと、
前記管電流の時間変動を保存するための第1のメモリと、
フィラメント電流としてブースティング/ブランキング電流を発生させるためのフィラメント電流制御ユニットと、
前記ブースティング/ブランキング電流の複数の短い時間間隔の各々の後の管電流を保存するための第2のメモリと、
前記X線発生器と前記X線管を制御するための制御ユニットとを有する、X線発生器。
【請求項5】
前記制御ユニットが前記フィラメント電流制御ユニットによって生成される前記フィラメント電流を決定する、請求項4に記載のX線発生器。
【請求項6】
前記制御ユニットが前記短い時間間隔の期間を決定する、請求項4に記載のX線発生器。
【請求項7】
請求項4に記載のX線発生器とX線管を有するX線システム。
【請求項8】
請求項1に記載の方法をプロセッサが実行することを可能にするコンピュータプログラムが保存される記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−503429(P2013−503429A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526171(P2012−526171)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053837
【国際公開番号】WO2011/024136
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】