説明

X線診断装置

【課題】ステントを用いたイメージングにおいて、より簡易な手法で微細なステントのストラットを描出することである。
【解決手段】X線診断装置は、データ収集手段及びデータ処理手段を備える。データ収集手段は、複数のマーカを設けたステントが挿入された被検体に複数の方向からX線を曝射することによって前記被検体から前記複数の方向に対応するX線投影データを収集する。データ処理手段は、前記X線投影データに対する第1の画像再構成処理によって生成した第1の三次元画像データに基づいて前記複数のマーカのうちの少なくとも1つのマーカの空間位置を求め、前記X線投影データの投影面への前記マーカの空間位置の投影位置と前記X線投影データに基づいて求められた対応するマーカの二次元位置との間におけるシフト量を用いた補正を伴う前記X線投影データに対する第2の画像再構成処理によって第2の三次元画像データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線診断装置及びX線診断用のステントに関する。
【背景技術】
【0002】
X線診断装置によるイメージングの一つとして、ステントを併用したイメージングが知られている。ステントは、ワイヤーのような構造を有するストラットを用いて網目の筒状に形成したものである。X線診断装置とともに用いられる代表的なステントとしては、頭蓋内ステントが挙げられる。
【0003】
頭蓋内ステントのストラットは非常に細く、X線診断装置でステント自体を観察することは困難である。具体的には、頭蓋内ステントのストラットの断面径は60μm程度である。そこで、従来のステントには、X線診断装置によるイメージングによっておおよその位置が把握できるようにマーカが設けられている。具体的には、ステントの一端を形成する同一円上に4つのマーカが均等間隔で設けられ、4つのマーカをステントの長手方向に投影した他端側の位置に別の4つのマーカが設けられる。
【0004】
一方、X線診断装置は、X線CT (computed tomography)装置に比べて空間分解能の高いX線検出器を備えている。しかしながら、X線診断装置を用いた透視画像及び撮影画像ではマーカ以外殆ど観察できない。但し、三次元(3D: three dimensional) イメージングを行うと、ステントのストラットを観察することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−104353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のX線診断装置では、X線検出器及びX線管を搭載した回転系の位置決め誤差を100〜150μmに抑えることが困難な場合があった。すなわち、回転系の回転に起因する振動やX線管の管球の熱量変化に伴う僅かな焦点ずれ等の要因によってX線の投影系の位置は、回転の度に僅かに変化する。このため、100〜150μmの範囲内における回転系の再現性を保証することができない。
【0007】
これに対して、一般にX線診断装置による3Dイメージングにおいて振動などの補正に使用されている、過去に収集された振動テーブルを用いて振動を補正する方法を用いる場合には、微細な構造を有するステントのストラットを描出するために、100〜150μmの回転系の再現性が要求される。特にストラットを明瞭に描出するためには、1pixelの1/4以下に相当する50μm以下の回転再現性が回転系の支持装置に必要と考えられる。
【0008】
そこで、X線診断装置の安定性を機構学的に向上させる試みや、回転系の位置の微細な変化を検出し、検出された位置の変化を補正する試みがなされている。しかしながら、これらの試みはX線診断装置のコストの増加に繋がるという問題がある。
【0009】
加えて、患者となる被検体が撮影中に僅かでも動くと、微細な構造を有するステントのストラットを描出することが困難になるという問題がある。この場合、X線診断装置の安定性を向上させたり、或いは回転系の位置の変化を補正させたとしても、ステントのストラットを明瞭に描出することは困難である。
【0010】
本発明は、ステントを用いたイメージングにおいて、より簡易な手法で微細なステントのストラットを描出することが可能なX線診断装置及びX線診断用のステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態に係るX線診断装置は、データ収集手段及びデータ処理手段を備える。データ収集手段は、複数のマーカを設けたステントが挿入された被検体に複数の方向からX線を曝射することによって前記被検体から前記複数の方向に対応するX線投影データを収集する。データ処理手段は、前記X線投影データに対する第1の画像再構成処理によって生成した第1の三次元画像データに基づいて前記複数のマーカのうちの少なくとも1つのマーカの空間位置を求め、前記X線投影データの投影面への前記マーカの空間位置の投影位置と前記X線投影データに基づいて求められた対応するマーカの二次元位置との間におけるシフト量を用いた補正を伴う前記X線投影データに対する第2の画像再構成処理によって第2の三次元画像データを生成する。
【0012】
また、本発明の実施形態に係るX線診断用のステントは、筒状に形成されたストラット及び複数のマーカを有する。前記複数のマーカは、前記ストラットの軸方向と異なる単一の方向に投影した場合に少なくとも1つが重ならないように前記ストラットの少なくとも一端に配置される。
【0013】
また、本発明の実施形態に係るX線診断用のステントは、筒状に形成されたストラット及び複数のマーカを有する。前記複数のマーカは、前記ストラットの軸方向に投影した場合に互いに重ならないように前記ストラットの両端にそれぞれ配置される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るX線診断装置の構成図。
【図2】図1に示すX線診断装置とともに使用可能な従来のステントの構造を示す斜視図。
【図3】図1に示すX線診断装置とともに使用可能な本発明の実施形態に係るX線診断用のステントの構造例を示す斜視図。
【図4】図1に示すX線診断装置とともに使用可能な本発明の実施形態に係るX線診断用のステントの別の構造例を示す斜視図。
【図5】図1に示すX線診断装置により、ステントを挿入した被検体のイメージングを行う際の流れを示すフローチャート。
【図6】図1に示すデータ処理系におけるデータ処理において用いられる座標系及びパラメータの定義を示す図。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るX線診断装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係るX線診断装置及びX線診断用のステントについて添付図面を参照して説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係るX線診断装置の構成図である。
【0017】
X線診断装置1は、撮影系2、制御系3、データ処理系4及びコンソール5を備えている。撮影系2は、X線管6、X線検出器7、C型アーム8、土台9及び寝台10を有する。また、データ処理系4は、A/D (analog to digital)変換器11、コンピュータ12、D/A (digital to analog)変換器13及び表示装置14を有する。
【0018】
X線管6及びX線検出器7は、寝台10を挟んで対向配置するようにC型アーム8の両端に固定される。C型アーム8は、土台9によって保持される。土台9は、モータ9A及び回転機構9Bを備え、モータ9A及び回転機構9Bの駆動により、C型アーム8とともにX線管6及びX線検出器7を所望の位置にプロペラのように高速に回転させることができる。
【0019】
X線検出器7としては、平面検出器(FPD: flat panel detector)やイメージインテンシファイアテレビ(I.I.-TV: image intensifier TV)を用いることができる。また、X線検出器7の出力側は、データ処理系4のA/D変換器11と接続される。
【0020】
制御系3は、撮影系2を構成する各構成要素に制御信号を出力することによって撮影系2を駆動制御する装置である。制御系3は入力装置としてのコンソール5と接続され、制御系3への撮像条件等の指示情報は、コンソール5から入力することができる。
【0021】
そして、撮影系2は、制御系3による制御下において回転可能なX線管6から寝台10にセットされた被検体Oに向けて互いに異なる角度でX線を順次曝射し、複数の方向から被検体Oを透過したX線をX線検出器7によりX線投影データとして順次収集できるように構成される。
【0022】
特に、X線診断装置1では、被検体Oの撮像部位に挿入されたステントを含む撮像領域のイメージングを実行し、ステントを構成するストラットを描出できるように構成されている。すなわち、撮影系2では、被検体Oの撮像部位に挿入されたステントを含む領域からのX線投影データを収集することができる。
【0023】
図2は、図1に示すX線診断装置1とともに使用可能な従来のステントの構造を示す斜視図である。
【0024】
図2に示すように、従来のステント15は、網目の筒状に形成されたストラット16の両端にそれぞれ4つのマーカ17を対称かつ均等配置して構成される。このような構成を有するステント15は、頭蓋内などの動脈瘤を含む血管内に挿入し、主として血管内の治療をより安全に行うためなどに用いられる。
【0025】
マーカ17は、撮像部位周辺に存在する基準物質よりも高いCT値を呈する物質で構成される。例えば、頭蓋内で使用されるステントであれば、骨又は歯のCT値よりも高いCT値を有する材料によってマーカ17を構成することが実用的である。
【0026】
このため、ステント15を含む領域からX線投影データを収集すると、マーカ17に対応する領域が低信号値として描出される画像データを生成することが可能となる。この場合、撮影系2は、複数のマーカ17を設けたステント15が挿入された被検体Oに複数の方向からX線を曝射することによって被検体Oから複数の方向に対応するX線投影データを収集するデータ収集手段として機能する。但し、同様なデータ収集手段としての機能がX線診断装置1に備えられれば、他の構成要素でデータ収集手段を構成してもよい。
【0027】
図2に示す従来のステント15では、各端部に4つのマーカ17が同一円上に均等間隔で配置される。従って、投影方向によっては、複数のマーカ17が重なる場合がある。例えば、ストラット16の長手方向となる軸方向Lに垂直な方向P1からX線投影データを収集すると、全てのマーカ17が重なる場合がある。このような場合、X線投影データから画像データを再構成しても、画像データ上において各マーカ17を互いに区別することが困難になる恐れがある。
【0028】
そこで、複数のマーカ17を、ある単一の方向に位置を投影した場合に少なくとも1つが重ならないように、ストラット16の少なくとも一端に配置することが好適である。
【0029】
図3は、図1に示すX線診断装置1とともに使用可能な本発明の実施形態に係るX線診断用のステントの構造例を示す斜視図である。
【0030】
図3に示すステント15Aは、網目の筒状に形成されたストラット16の両端にそれぞれ3つのマーカ17を対称かつ均等配置して構成した例を示している。図3に示すように、マーカ17の数を奇数にすれば、少なくともストラット16の軸方向Lと異なる単一の方向P2に投影した場合において、少なくとも1つが重ならないように複数のマーカ17を配置することができる。
【0031】
尚、ストラット16の一端に設けられるマーカ17の数を5個以上とすると、ステントの構造及び製造過程が複雑になるといった弊害も考えられることから、実用的には3つのマーカ17をストラット16の一端に配置することが適切である。すなわち、ストラット16の少なくとも一端に3つのマーカ17を配置すれば、ストラット16の軸方向Lと異なる単一の方向P2に投影した場合に全てのマーカ17が重なることを防ぐことができる。
【0032】
更に、複数のマーカ17を、ストラット16の軸方向Lに位置を投影した場合において互いに重ならないように、ストラット16の両端にそれぞれ配置することもできる。
【0033】
図4は、図1に示すX線診断装置1とともに使用可能な本発明の実施形態に係るX線診断用のステントの別の構造例を示す斜視図である。
【0034】
図4に示すステント15Bは、網目の筒状に形成されたストラット16の両端にそれぞれ4つのマーカ17を均等配置して構成した例を示している。但し、一旦側に設けられた4つのマーカ17をストラット16の軸Lに沿って投影すると、他端側に設けられた4つのマーカ17に対して所定の角度θだけ回転させた位置となる。このため、ストラット16の軸方向Lを含む単一の方向に全てのマーカ17の位置を平行投影した場合において、全てのマーカ17が重なることを防ぐことができる。
【0035】
このように従来のステント15のストラット16の一方に設けられた4つのマーカ17の配置を他方の4つのマーカ17に対してシフトさせれば、マーカ17の数を変えなくてもマーカ17同士の重なりを防止することができる。
【0036】
尚、マーカ17同士の重なりの防止効果の向上及び製造方法を容易にする観点からは、ストラット16の軸方向Lに投影した場合に互いに45度回転させた位置となるようにストラット16の両端にそれぞれ4つのマーカ17を配置することが好適である。
【0037】
もちろん、ストラット16の両端にそれぞれ3つのマーカ17を設け、ストラット16の軸方向Lに一端側のマーカ17の位置を投影した場合に、他端側のマーカ17の位置と重ならないようにしてもよい。この場合においても、マーカ17同士の重なりの防止効果の向上及び製造方法を容易にする観点からは、ストラット16の軸方向Lに投影した場合に互いに60度回転させた位置となるようにストラット16の両端にそれぞれ3つのマーカ17を配置することが好適である。この他、ストラット16の両端にそれぞれ異なる数のマーカ17を設けることも可能である。
【0038】
次に、データ処理系4の詳細機能について説明する。
【0039】
データ処理系4のA/D変換器11の出力側は、コンピュータ12の入力側と接続される。一方、コンピュータ12の出力側には、D/A変換器13を介して表示装置14が接続される。また、コンピュータ12は、コンソール5と接続される。そして、コンピュータ12には、コンソール5の操作によってデータ処理に必要な指示情報を入力することができる。
【0040】
更に、コンピュータ12は、プログラムを読み込むことにより、フィルタリング部18、第1の画像再構成部19、3Dマーカ同定部20、マーカ投影部21、2Dマーカ同定部22、第2の画像再構成部23、3D画像処理部24、アフィン変換部25及びLUT (Look Up Table)26として機能する。但し、これらの機能を得るために回路を用いてデータ処理系4を構成してもよい。
【0041】
フィルタリング部18は、X線検出器7からA/D変換器11を介してコンピュータ12に入力されたX線投影データやX線投影データに基づいて生成されるデータに対して高周波強調フィルタリング等の必要なフィルタ処理を施す機能を有する。
【0042】
第1の画像再構成部19は、X線検出器7からA/D変換器11を介してコンピュータ12に入力された複数の方向に対応する複数のX線投影データに基づく画像再構成処理を実行することにより、複数の方向に対応するX線投影データから第1の3D画像データとしてボリュームデータを再構成する機能を有する。
【0043】
3Dマーカ同定部20は、第1の画像再構成部19において生成された第1の3D画像データに基づいて、ステント15、15A、15Bに設けられた複数のマーカ17のうちの少なくとも1つのマーカ17の3D座標系における3D位置を同定する機能を有する。単一又は複数のマーカ17の空間位置は、第1の3D画像データに対する閾値処理によって求めることができる。すなわち、マーカ17のCT値は基準となる物質よりも高い。このため、第1の3D画像データのCT値に相当する画素値が閾値よりも大きくなる点又は領域を閾値処理によって特定すれば、第1の3D画像データ上におけるマーカ17の空間位置を同定することができる。
【0044】
但し、基準となる物質よりもCT値が高いマーカ17以外の物質が撮像領域に存在すると、マーカ17の位置を同定するための閾値処理によって、マーカ17の位置が誤認識される恐れがある。例えば、歯の治療跡として金属が存在する場合において、歯のCT値よりも高い部位を閾値処理によって抽出すると、金属部分がマーカ17として誤認識される恐れがある。
【0045】
そこで、3Dマーカ同定部20には、第1の3D画像データに対する閾値処理によって一旦、マーカ17の候補を特定し、マーカ17の候補として誤認識されたマーカ17以外の点又は領域を除外するエラー処理を実行する機能を設けることができる。第1の3D画像データに基づいて誤認識されたマーカ17の候補を除去するためのエラー処理は、ステント15、15A、15Bに設けられた複数のマーカ17の幾何学的情報に基づいて実行することができる。
【0046】
具体的には、ステント15、15A、15Bに設けられた各マーカ17の大きさ、形状、他のマーカ17との間における距離、ストラット16の中心からの距離及び第1の3D画像データの中心からの距離等の幾何学的情報は既知であるため、既知情報に基づいてマーカ17の位置となり得ない位置におけるマーカ17の候補を誤認識された候補として除外することができる。これにより、歯の治療跡として存在する金属領域等をマーカ17の候補から除外することができる。
【0047】
マーカ投影部21は、3Dマーカ同定部20により求められた第1の3D画像データ上におけるマーカ17の3D空間位置を、各X線投影データの投影面にそれぞれ投影した場合における2D投影位置を求める機能を有する。換言すれば、マーカ投影部21は、マーカ17の3D空間位置のX線投影データの各投影面への投影位置を算出する機能を備えている。この各投影面上におけるマーカ17の2D投影位置の算出は、各X線投影データの収集にそれぞれ用いられた投影系の空間座標情報に基づいて行うことができる。
【0048】
但し、上述したようにX線投影データの投影方向によっては、互いに異なるマーカ17の2D投影位置が重なったり、区別が困難になる恐れがある。特に図2に示すような従来のステント15を用いる場合には、異なる複数のマーカ17の2D投影位置の区別が困難になる場合が多い。
【0049】
そこで、マーカ投影部21において、投影面上において近接するマーカ17の2D投影位置間における距離を算出し、算出した距離が閾値以下となる場合には2D投影位置の算出対象から除外するエラー処理を行うようにすることができる。
【0050】
2Dマーカ同定部22は、X線検出器7からコンピュータ12に入力された複数の方向に対応する複数のX線投影データに基づいて、ステント15、15A、15Bに設けられた各マーカ17の各投影面上における2D位置を同定する機能と、マーカ17の空間位置のX線投影データの投影面への2D投影位置と、同定されたマーカ17の2D位置との間におけるシフト量を補正データとして求める機能を有する。
【0051】
尚、2D位置の同定の対象となるマーカ17は、マーカ投影部21により算出され、エラー処理によって除外されなかった2D投影位置に対応するマーカ17とすれば十分である。従って、マーカ投影部21により算出された2D投影位置近傍の範囲内におけるX線投影データから実際のマーカ17の2D位置を同定すればよい。そのため、2Dマーカ同定部22は、マーカ投影部21からマーカ17の2D投影位置を取得できるように構成される。
【0052】
X線投影データ上における実際のマーカ17の2D位置は、信号の僅かな極小値として現れる。従って、僅かな極小値及び極小値に対応する位置を高精度で検出するための任意の信号処理によってマーカ17の2D位置を同定することができる。
【0053】
また、マーカ投影部21において近接するマーカ17の2D投影位置間における距離を計算する代わりに、2Dマーカ同定部22において同定された近接するマーカ17の実際の2D位置間における距離を計算するようにしてもよい。この場合、2Dマーカ同定部22は、投影面上において近接するマーカ17の2D位置間における距離を算出し、算出した距離が閾値以下となる場合には2D投影位置に対する2D位置のシフト量、つまり補正データの算出対象から除外するエラー処理を行うように構成される。
【0054】
第2の画像再構成部23は、2Dマーカ同定部22において求められた補正データを用いた補正を伴って、X線投影データに対する第2の画像再構成処理を実行することによって第2の3D画像データを生成する機能を有する。
【0055】
すなわち、マーカ17の2D投影位置の実際の2D位置からの位置ずれ量は、マーカ17の位置の再現性の誤差と考えることができる。そこで、このマーカ17の位置ずれ量をキャンセルさせる補正処理を各投影方向に対応するX線投影データに対してそれぞれ実行することによって、撮影系2における位置決め精度の誤差及び被検体Oの動きによる撮像部位の微細な位置ずれを補正することができる。そして、微細な位置ずれの補正後におけるX線投影データに基づく第2の画像再構成処理によって、より空間分解能の高い第2の3D画像データを生成することができる。
【0056】
尚、マーカ投影部21又は2Dマーカ同定部22において、重なる恐れのあるマーカ17の2D投影位置又は2D位置を除外するエラー処理が実行される場合には、一部のマーカ17に対応する補正データを用いて位置の補正処理が実行されることとなる。つまり、複数のマーカ17のうち2D投影面上において2D投影位置又は実際の2D位置が近接するマーカ17の2D投影位置間における距離又は実際の2D位置間における距離が閾値よりも大きいマーカ17に対応する2D投影位置と実際の2D位置間との間におけるシフト量のみを用いて補正を伴う第2の画像再構成処理が実行される。
【0057】
このように、マーカ投影部21又は2Dマーカ同定部22にエラー処理を実行する機能を設けることによって、一部のマーカ17が重なったとしてもマーカ17の位置情報に基づく高精度な位置補正処理を実行することができる。特に、図3及び図4に示すステント15A、15Bを用いれば、一部のマーカ17が投影面上において重なったとしても、他のマーカ17の位置情報に基づいて高精度かつ適切な補正処理を行うことができる。
【0058】
3D画像処理部24は、第1の画像再構成部19において生成された第1の3D画像データ及び第2の画像再構成部23において生成された第2の3D画像データの一方又は双方に基づく3D画像処理によって表示用の2D画像データを生成する機能と、生成した表示用の2D画像データをD/A変換器13を介して表示装置14に表示させる機能を有する。
【0059】
3D画像処理の例としては、最大値投影(MIP: maximum intensity projection)処理、断面変換(MPR: multi-planar reconstruction)処理、ボリューム・レンダリング(VR: volume rendering)処理、サーフェス・レンダリング(SR: surface rendering)処理等の3D画像データから2D画像データを生成するための様々な処理が挙げられる。これらの画像処理の種類及び画像処理条件については、コンソール5から指示情報を3D画像処理部24に入力することによって設定することができる。
【0060】
アフィン変換部25は、コンソール5から入力された指示情報に基づいて、3D画像処理部24において生成された2D画像データに対して回転、移動、拡大及び縮小等のアフィン変換処理を実行する機能と、アフィン変換処理後の画像データをD/A変換器13を介して表示装置14に出力させる機能を有する。換言すれば、アフィン変換部25は、入力装置としてのコンソール5から入力された指示情報に従って、表示装置14に表示されている2D診断画像を回転、移動、拡大及び縮小させる機能を有する。
【0061】
LUT26には、画像データの階調変換を行うための階調情報が保存されており、階調情報を参照することにより表示装置14に表示すべき画像データの階調変換を行う機能が備えられる。
【0062】
以上の例では、プログラムを読み込ませたコンピュータ12がX線投影データに対する第1の画像再構成処理によって生成した第1の三次元画像データに基づいて複数のマーカ17のうちの少なくとも1つのマーカ17の空間位置を求め、X線投影データの投影面へのマーカ17の空間位置の投影位置とX線投影データに基づいて求められた対応するマーカ17の二次元位置との間におけるシフト量を用いた補正を伴うX線投影データに対する第2の画像再構成処理によって第2の三次元画像データを生成するデータ処理手段として機能している。但し、同様なデータ処理手段としての機能がX線診断装置1に備えられれば、他の構成要素でデータ処理手段を構成してもよい。
【0063】
次にX線診断装置1の動作及び作用について説明する。
【0064】
図5は、図1に示すX線診断装置1により、ステント15、15A、15Bを挿入した被検体Oのイメージングを行う際の流れを示すフローチャートである。
【0065】
まずステップS1において、制御系3による制御下において撮影系2が駆動する。そして、撮影系2は、複数のマーカ17を設けたステント15、15A、15Bが挿入された被検体Oに複数の方向からX線を曝射することによって被検体Oから複数の方向に対応するX線投影データを収集する。
【0066】
より具体的には、土台9に設けられたモータ9A及び回転機構9Bの駆動により、C型アーム8が所定の角度となるように回転される。そして、寝台10にセットされた被検体Oに向けてX線管6からX線が曝射される。このため、被検体Oを透過したX線がX線検出器7によりX線投影データとして検出される。
【0067】
このX線の曝射及びX線投影データの検出は、C型アーム8の回転によって投影角度を変化させながら繰り返される。例えば、投影角度を1度間隔で変化させ、200度分の透過X線の強度分布を200パターンのX線投影データとして収集することができる。
【0068】
診断目的によっては、X線投影データの収集を、造影剤の注入後に行うこともできる。造影剤を注入して被検体Oの造影イメージングを行う場合には、X線投影データの収集に先だって、予め造影剤注入器(Injector) により被検体Oに造影剤が注入される。そして、造影剤の注入時から一定時間経過した後に、50度/秒程度の撮影系2の回転速度でX線投影データの収集が実行される。
【0069】
このようにしてX線検出器7により収集された200フレーム分程度のX線投影データは、データ処理系4に出力される。そして、データ処理系4に入力されたX線投影データは、A/D変換器11でディジタル信号に変換された後、コンピュータ12に出力される。
【0070】
次に、ステップS2において、ディジタル信号に変換されたX線投影データは、第1の画像再構成部19に転送される。第1の画像再構成部19では、X線投影データに対する第1の3D画像再構成処理によって、X線投影データから第1の3D画像データとして3Dボリューム画像データが再構成される。
【0071】
画像再構成処理の方法としては様々な方法が知られているが、ここでは、Feldkamp等によって提案されたフィルタードバックプロジェクション法による画像再構成処理を行う場合を例に説明する。もちろん、フィルタードバックプロジェクション法に限らず、逐次近似法等の所望の画像再構成処理法を用いることができる。
【0072】
図6は、図1に示すデータ処理系4におけるデータ処理において用いられる座標系及びパラメータの定義を示す図である。
【0073】
図6に示すように3D固定座標系(X, Y, Z)及び固定座標系に対して角度φだけ回転した3D回転座標系(x, y, z)を定義することができる。この場合、ベクトルrは、回転するx軸上のX線源であるX線管6から曝射されるX線のコーンビームにより投影面Sp上において(y, z)を成分とするベクトルVに投影される。
【0074】
一方、画像再構成領域は、X線管6の管球から全ての方向に向かうX線束に内接する円筒として定義することができる。そして、円筒内は、X線検出器7に備えられる1つのX線検出素子の幅に投影されるX線の再構成領域の中心における距離dで離散化される。そして、離散点における画像データが求められる。但し、離散間隔は、距離dに限らず、装置ごとに定義された離散間隔を用いることができる。
【0075】
フィルタードバックプロジェクション法による画像再構成処理を行う場合、画像再構成処理によって生成される3D画像データfは、図6に示す座標系及びパラメータを用いて式(1)で示される。
【数1】

但し、式(1)においてW2は式(2)で表される重み関数である。
【数2】

【0076】
また、式(1)における(y, z)は、ベクトルrがX線のコーンビームにより投影される点を示しており、式(3)のように表される。
【数3】

【数4】

【0077】
但し、式(4)において*はコンボリューション演算子、Pφ(y, z)はX線投影データから得られるサブトラクションデータ、W1(y,z)は重み関数、g(y)はフィルタ関数である。フィルタ関数g(y)は逆投影演算に因るボケを補正するための高周波強調フィルタである。フィルタ関数g(y)の具体例としては、Shepp-LoganフィルタやRamachandran フィルタ等のコンボリューションフィルタが代表的である。
【0078】
一方、式(4)における重み関数W1(y,z)は、式(5)のように表される。
【数5】

【0079】
すなわち、画像再構成処理は、式(1)から式(5)で示される。具体的には、まず200フレーム分程度のX線投影データは、濃度ムラの補正用の画像データとの間でサブトラクション処理される。次に、式(4)に示すように、サブトラクションによって生成された200フレーム分程度のサブトラクションデータPφ(y, z)は、重み関数W1(y,z)で重み付けされた後、コンボリューションフィルタg(y)がかけられる。
【0080】
更に、コンボリューション演算によって生成されたデータに式(1)で示すような逆投影演算を行うことにより画像再構成後の3Dボリューム画像データfを得ることができる。
【0081】
次に、ステップS3において、第1の3Dボリューム画像データは、3Dマーカ同定部20に送られる。3Dマーカ同定部20では、第1の3Dボリューム画像データに基づいて、ステント15、15A、15Bに設けられた各マーカ17の3D座標系における3D位置が同定される。
【0082】
そのために、まず3Dボリューム画像データに対する閾値処理によって骨等の基準となる物質よりもCT値が高い部位が抽出される。例えば、閾値を3000として画素値が3000以上となる領域が抽出される。
【0083】
閾値を3000として抽出される領域は金属である。従って、ステント15、15A、15Bに設けられたマーカ17の他、歯科治療用の金属等がマーカ17の候補として抽出される場合がある。
【0084】
そこで、3Dマーカ同定部20は、抽出されたマーカ17の候補から誤認識されたマーカ17の候補を除外するエラー処理を実行する。エラー処理は、既知情報であるマーカ17の幾何学情報を参照した閾値処理によって行うことができる。
【0085】
例えば、ステント15、15A、15Bは通常撮影視野の中心付近に存在する。従って、撮影視野の中心から一定距離以内にあるマーカ17の候補をマーカ17の位置として選択することができる。これにより、歯科治療用の金属を除外することができる。
【0086】
或いは、マーカ17の候補の体積を用いてエラー処理を実行することも可能である。すなわち、マーカ17の体積は0.1mm3以下であるのに対して歯科治療用の金属の体積は小さくても100mm3である。従って、領域の体積が閾値以下となるマーカ17の候補をマーカ17の位置として選択することによって、歯科治療用の金属を除外することができる。
【0087】
更に別の例としてマーカ17の数を利用したエラー処理も可能である。例えば、マーカ17の数が8個である場合にマーカ17の候補が10個抽出された場合には、2個のマーカ17の候補が除外すべきマーカ17の候補である。そこで、各マーカ17の候補間における相対距離を算出し、相対距離が長い順に2つのマーカ17の候補を除外することができる。
【0088】
次に、3Dマーカ同定部20は、同定された8個のマーカ17の重心を計算する。
【0089】
次に、ステップS4において、同定された各マーカ17の3D重心位置は、マーカ投影部21に送られる。マーカ投影部21では、マーカ17の3D空間位置を各X線投影データの投影面にそれぞれ投影した場合における2D投影位置が算出される。2D投影位置は、X線投影データを収集した各投影方向に対応する投影系に基づいて幾何学的に算出することができる。
【0090】
次にマーカ投影部21は、複数のマーカ17の2D投影位置間における距離を計算する。そして、2D投影位置間における距離が閾値以下となるマーカ17の2D投影位置を除外する。これにより、投影面上において重なっている可能性のあるマーカ17の2D投影位置をデータ処理から除外することができる。
【0091】
次に、ステップS5において、算出されたマーカ17の2D投影位置は、2Dマーカ同定部22に送られる。また、2Dマーカ同定部22は、X線投影データを取得する。そして、2Dマーカ同定部22は、複数の方向に対応するX線投影データに基づいて、マーカ17の各投影面上における2D位置を同定する。
【0092】
具体的には、2Dマーカ同定部22は、まずX線投影データ上におけるマーカ17の2D投影位置の周辺の一定の範囲について最小となる画素値を探索する。尚、最小画素値の探索対象となる範囲は、撮影系2の不安定性の程度に応じて経験的に或いはシミュレーションなどによってマーカ17の2D位置が検出される可能性のある範囲に予め決定することができる。
【0093】
一例として、マーカ17の2D投影位置を中心とする300μm以内の初期範囲を設定し、初期範囲内において最小値が存在する可能性のあるより詳細な範囲を公知の粗い探索方法で最小画素位置の探索範囲として特定するようにしてもよい。逆に、初期範囲を設定せずにマーカ17の2D投影位置を中心とする300μm以内を最小画素位置の探索範囲としてもよい。
【0094】
2Dマーカ同定部22において最小画素位置の探索範囲が設定されると、設定された探索範囲について最小画素位置の探索処理が実行される。最小となる画素値は、極めて幅が狭い負のピークとして現れる。そこで、高精度でピークを検出するための信号処理が行われる。
【0095】
最小画素位置の探索対象となるX線投影データには、撮像部位からの信号、つまりマーカ17の背景信号とマーカ17からの信号が重畳している。そこで、まず最小画素位置の探索範囲におけるX線投影データにローパスフィルタをかけて高周波成分を除去した低周波データを作成し、低周波データとフィルタ処理前におけるX線投影データとのサブトラクションデータを取得することが望ましい。これにより、マーカ17の背景信号をキャンセルしたデータを得ることができる。
【0096】
次に、サブトラクションデータ上の2D投影位置周辺における探索範囲についてピーク位置の探索が実行される。そして、検出されたピークに対応する画素を中心としてX線投影データ又はサブトラクションデータの重心位置を計算することによって、高精度にマーカ17の実際の2D位置を同定することができる。
【0097】
尚、上述したピークの検出処理は一例であり、他の手法によってX線投影データ上におけるマーカ17の実際の2D位置を同定するようにしてもよい。
【0098】
次に、2Dマーカ同定部22は、マーカ投影部21によって算出されたマーカ17の2D投影位置と、X線投影データに基づいて同定されたマーカ17の実際の2D位置との間におけるシフト量を補正データとして求める。補正データ(Δy, Δz)は、i番目のマーカ17の2D投影位置を(Pyi,Pzi)とし、i番目のマーカ17の同定された実際の2D位置を(Qyi,Qzi)とすると、式(6)で求めることができる。
【数6】

【0099】
但し、式(6)においてNは、投影面上において重なったマーカ17を除外するエラー処理によって除外されなかったマーカ17の個数である。従って、例えば8つのマーカ17がステント15、15Bに設けられており、マーカ投影部21におけるエラー処理によって2つのマーカ17が2Dマーカ同定部22における2D位置の同定処理から除外された場合には、N=6となる。
【0100】
次に、ステップS6において、マーカ17の位置のシフト量として求められた補正データ(Δy, Δz)は、第2の画像再構成部23に転送される。第2の画像再構成部23では、第1の画像再構成部19で実行された画像再構成処理法と同等な画像再構成処理法でX線投影データに対する第2の3D画像再構成処理が実行される。
【0101】
但し、補正データ(Δy, Δz)を用いてベクトルrの投影点における位置(y, z)のずれが補正される。そして、位置補正後の投影点の位置(y', z')を用いて3D画像再構成処理が実行される。画像再構成処理法が、フィルタードバックプロジェクション法である場合には、式(3)の代わりに式(7)で求められた位置補正後の投影点の位置(y', z')を用いて第2の3D画像再構成処理が実行される。
【数7】

【0102】
そして、第2の3D画像再構成処理によってX線投影データから第2の3D画像データが生成される。このようにして生成された第2の3D画像データは、3Dボリューム画像データに基づいて求められたマーカ17の2D投影位置と実際のマーカ17の2D位置とのシフト量に基づいて高精度に位置補正されたデータとなる。従って、微細なステント15、15A、15Bのストラット16であっても描出することができる。
【0103】
次に、ステップS7において、第2の3D画像データを表示装置14に表示させるための2D化処理を含む各種の処理が実行された後、表示用の2D画像が表示装置14に表示される。すなわち、3D画像処理部24において、第2の3D画像データから表示用の2D画像データを生成するための3D画像処理が実行される。また、アフィン変換部25では、表示装置14に表示されている2D診断画像の回転、移動、拡大及び縮小等のアフィン変換処理が実行される。更に、LUT26では、2D診断画像の階調変換が行われる。
【0104】
このため、X線診断装置1のユーザは、ステント15、15A、15Bのストラット16が明瞭に描出された被検体Oの頭部等の撮像部位におけるX線診断画像を観察することができる。
【0105】
つまり以上のようなX線診断装置1は、ステント15、15A、15Bのストラット16に設けられたマーカ17の位置を指標として微細な位置のずれを補正したX線診断画像を再構成できるようにしたものである。すなわち、第1の画像再構成処理によって生成されたボリューム画像データ上においてマーカ17の空間位置を同定し、同定した空間位置の投影面への投影位置と投影位置付近において探索したX線投影データ上における実際のマーカ17の位置との間における位置ずれ量を位置補正データとして第2の画像再構成処理を実行することができる。
【0106】
一方、図3及び図4に示すステント15A、15Bは、任意の投影面上において全てのマーカ17が重ならないように複数のマーカ17を設けたものである。
【0107】
このため、X線診断装置1によれば、撮影系2の回転再現性を常に50μm以下にすることができなくても、或いは患者が微小に動いたとしても、ステント15、15A、15Bのストラット16を従来よりも明瞭に描出することができる。このため、ユーザは、ストラット16と血管との関係を把握することが可能となる。
【0108】
更に、図3及び図4に示すようなステント15A、15Bを使用することによって、投影角度に依らず確実にマーカ17の位置を指標とした微細な位置のずれを補正することができる。
【0109】
(第2の実施形態)
図7は本発明の第2の実施形態に係るX線診断装置の構成図である。
【0110】
図7に示されたX線診断装置1Aでは、ステント15、15A、15Bのマーカ17に付属する発信機30の位置センサ31を設けた点及び3Dマーカ同定部20の詳細機能が図1に示すX線診断装置1と相違する。他の構成および作用については図1に示すX線診断装置1と実質的に異ならないため同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
【0111】
すなわちX線診断装置1Aの寝台10には、複数のマーカ17を設けたステント15、15A、15Bが挿入された被検体Oがセットされる。但し、ステント15、15A、15Bの各マーカ17には、それぞれ発信機30が取り付けられている。
【0112】
一方、撮影系2には、位置センサ31が設けられる。位置センサ31は、ステント15、15A、15Bの複数のマーカ17にそれぞれ設けられた発信機30から発信される無線信号を受信する機能と、受信した無線信号に基づいて発信機30又はマーカ17の空間的な位置を検出する機能を備えている。位置の検出のためのアルゴリズムについては、公知のものを用いることができる。
【0113】
従って、位置センサ31は、ステント15、15A、15Bの発信機30から送信される信号を十分な精度で受信することが可能な所望の位置に設置される。位置センサ31の出力側は、データ処理系4のコンピュータ12と接続される。そして、位置センサ31における発信機30又はマーカ17の空間位置の検出結果は、ディジタルデータとしてコンピュータ12に出力できるように構成されている。
【0114】
一方、コンピュータ12の3Dマーカ同定部20は、位置センサ31から出力された発信機30又はマーカ17の空間位置の検出結果を取得する機能と、取得した発信機30又はマーカ17の空間位置の検出結果に基づいて、3D座標系におけるマーカ17の空間位置を求める機能を有する。
【0115】
そして、マーカ投影部21は、3Dマーカ同定部20により求められたマーカ17の3D空間位置を、各X線投影データの投影面にそれぞれ投影した場合における2D投影位置を求めるように構成される。
【0116】
このような構成を有するX線診断装置1Aでは、ステント15、15A、15Bの発信機30から送信される信号に基づいて位置センサ31により発信機30又はマーカ17の空間位置が検出される。そして、3Dマーカ同定部20では、位置センサ31により検出された発信機30又はマーカ17の空間位置に基づいてマーカ17の3D空間位置が同定される。
【0117】
つまりX線診断装置1Aは、図1に示すX線診断装置1のように第1の画像再構成処理によって生成される3Dボリューム画像データからマーカ17の空間位置を同定する代わりに、マーカ17に発信機30を取り付けるとともに位置センサ31で検知した発信機30又はマーカ17の空間位置に基づいてマーカ17の3D空間位置を同定するようにしたものである。
【0118】
このため、図7に示すX線診断装置1Aによれば、図1に示すX線診断装置1のように2回に亘る画像再構成処理などの複雑なデータ処理を行うことなく、マーカ17の位置を指標として高精度に位置補正されたX線診断画像データを生成することができる。この結果、図1に示すX線診断装置1と同様にステント15、15A、15Bのストラット16が従来よりも明瞭に描出されたX線診断画像を得ることができる。
【0119】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0120】
例えば、上述した実施形態では、X線診断装置1、1Aによりステント15、15A、15Bを挿入した被検体Oのイメージングを行う場合の例を示したが、X線CT装置を用いたイメージングにおいても、十分な空間分解能を有するX線検出器をX線CT装置に搭載すれば、同様な画像再構成処理によってステント15、15A、15Bの描出が可能である。すなわち、画像再構成法に応じたアルゴリズムによって、マーカ17を指標とした高精度な位置の補正処理を実行することができる。そして、2回の画像再構成処理によって、ステント15、15A、15Bの描出に必要な空間分解能を有するX線CT画像データを生成することができる。
【符号の説明】
【0121】
1、1A X線診断装置
2 撮影系
3 制御系
4 データ処理系
5 コンソール
6 X線管
7 X線検出器
8 C型アーム
9 土台
9A モータ
9B 回転機構
10 寝台
11 A/D変換器
12 コンピュータ
13 D/A変換器
14 表示装置
15、15A、15B ステント
16 ストラット
17 マーカ
18 フィルタリング部
19 第1の画像再構成部
20 3Dマーカ同定部
21 マーカ投影部
22 2Dマーカ同定部
23 第2の画像再構成部
24 3D画像処理部
25 アフィン変換部
26 LUT
30 発信機
31 位置センサ
O 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマーカを設けたステントが挿入された被検体に複数の方向からX線を曝射することによって前記被検体から前記複数の方向に対応するX線投影データを収集するデータ収集手段と、
前記X線投影データに対する第1の画像再構成処理によって生成した第1の三次元画像データに基づいて前記複数のマーカのうちの少なくとも1つのマーカの空間位置を求め、前記X線投影データの投影面への前記マーカの空間位置の投影位置と前記X線投影データに基づいて求められた対応するマーカの二次元位置との間におけるシフト量を用いた補正を伴う前記X線投影データに対する第2の画像再構成処理によって第2の三次元画像データを生成するデータ処理手段と、
を備えるX線診断装置。
【請求項2】
前記データ処理手段は、前記複数のマーカのうち前記投影面上において前記投影位置又は前記二次元位置が近接するマーカの前記投影位置又は前記二次元位置間における距離が閾値よりも大きいマーカに対応する投影位置と二次元位置との間におけるシフト量のみを用いて前記補正を伴う前記第2の画像再構成処理を実行するように構成される請求項1記載のX線診断装置。
【請求項3】
前記データ処理手段は、前記第1の三次元画像データに基づいて誤認識されたマーカの候補を前記複数のマーカの幾何学的情報に基づいて除去するエラー処理を実行するように構成される請求項1又は2記載のX線診断装置。
【請求項4】
前記データ処理手段は、前記複数のマーカの幾何学的情報として各マーカの大きさ、形状、他のマーカとの距離、前記ステントのストラットの中心からの距離及び前記第1の三次元画像データの中心からの距離の少なくとも1つを用いるように構成される請求項3記載のX線診断装置。
【請求項5】
前記データ処理手段は、前記第1の三次元画像データに対する閾値処理によって前記マーカの空間位置を求めるように構成される請求項1乃至4のいずれか1項に記載のX線診断装置。
【請求項6】
前記複数のマーカに設けられた発信機から送信される無線信号を受信することによって前記発信機又は前記複数のマーカの位置を検出する位置センサを更に備え、
前記データ処理手段は、前記位置センサにより検出された前記発信機又は前記複数のマーカの位置に基づいて前記マーカの空間位置を求めるように構成される請求項1乃至4のいずれか1項に記載のX線診断装置。
【請求項7】
筒状に形成されたストラットと、
前記ストラットの軸方向と異なる単一の方向に投影した場合に少なくとも1つが重ならないように前記ストラットの少なくとも一端に配置された複数のマーカと、
を有するX線診断用のステント。
【請求項8】
筒状に形成されたストラットと、
前記ストラットの軸方向に投影した場合に互いに重ならないように前記ストラットの両端にそれぞれ配置された複数のマーカと、
を有するX線診断用のステント。
【請求項9】
3つのマーカを前記ストラットの少なくとも一端に配置した請求項7又は8記載のX線診断用のステント。
【請求項10】
前記ストラットの軸方向に投影した場合に互いに45度回転させた位置となるように前記ストラットの両端にそれぞれ配置された4つのマーカ又は前記ストラットの軸方向に投影した場合に互いに60度回転させた位置となるように前記ストラットの両端にそれぞれ配置された3つのマーカを有する8記載のX線診断用のステント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−52051(P2013−52051A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191315(P2011−191315)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】