説明

X線CT装置

【課題】シールド部材等のX線吸収部材を被検体に装着したままスカウトスキャンを行っても自動露出機構が適正に機能し、シールド領域におけるX線出力を適正に制御することができるX線CT装置を提供する。
【解決手段】X線CT装置が、スカウトスキャンより得られたスカウトデータPSまたはこのデータにより得られるスカウト像GSにおけるX線吸収部材に対応するシールド領域RSを特定する特定手段62と、上記スカウトデータPSまたはスカウト像GSを、シールド領域RSに対応するデータがX線吸収部材のない場合に得られるデータに近づくよう補正する補正手段66と、補正されたデータを基にX線出力変調パターンAMを決定する決定手段67とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT(Computed Tomography)装置に関し、詳しくは、X線出力を変調させるX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、X線CT装置は、自動露出機構(CT automatic exposure control:CT-AEC)を備えたものが一般的になりつつある。自動露出機構は、スカウトスキャン(scout scan)により得られたスカウトデータ(scout data)やこれにより生成されるスカウト像を解析して被検体の各スキャン位置でのX線吸収量(X線透過長)を調べ、本スキャン時のX線出力、主にはX線管の管電流を、各スキャン位置でのX線吸収量に応じて変化するよう変調制御するものである(例えば特許文献1、図16等参照)。自動露出機構が実用化される前は、スキャン時のX線出力は一定であり、その設定は、操作者の経験や勘を頼りに行われていた。そのため、被検体の大きさやスライス(slice)位置ごとのX線吸収量の違いにより、生成画像における画質のばらつきが生じていた。しかし、この自動露出機構により、被検体へのX線出力を最適化し、上記のような画質のばらつきを低減するとともに、しいては被検体への無駄被曝を低減することが可能になっている。
【0003】
一方、X線CT撮影において、被検体の体表面近くに存在する放射線感受性の高い臓器への被曝を低減するため、その体表面にX線吸収量の大きいシールド(shield)部材を置いてスキャンする手法が用いられるようになってきている。ちなみに、放射線感受性の高い臓器としては、例えば、乳腺、甲状腺、水晶体などが挙げられる。また、シールド部材としては、例えば、鉛、ビスマス(bismuth)若しくはその化合物などを含有しており、シールドする臓器の種類に応じた大きさや形状でシート状に形成されたものを考えることができる。なお、このようなシールド部材は、既に複数のメーカ(maker)から販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-325853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シールド部材による臓器の保護と自動露出機構とを組み合わせて撮影する場合、次のような点に留意する必要がある。
【0006】
被検体にシールド部材を装着した状態でスカウトスキャンを行うと、スカウトスキャンにより得られた投影データやその画像データにおけるシールド領域が、X線吸収量の高い領域として現れる。このような投影データや画像データを基に自動露出機構を用いると、そのシールド領域に対するX線出力が異常に高くなるよう設定されてしまい、放射線感受性の高い臓器をシールドするという本来の目的を達成できなくなる。
【0007】
そこで、通常は、被検体にシールド部材を装着しない状態でスカウトスキャンを行った後、被検体にシールド部材を装着して自動露出機構による本スキャンを行う。
【0008】
しかしながら、上記の撮影方法では、操作者は、まず、X線CT装置が設置されている検査室内にて被検体にシールド部材を装着しない状態でのスカウトスキャンの準備を行い、その後、検査室とは別の操作室に移動し、操作コンソール(console)を操作してスカウトスキャンを行う。次に、再び検査室内に戻り、被検体にシールド部材を装着して本スキャンの準備を行い、その後、また操作室に移動して本スキャンを行う。つまり、操作者は、検査室と操作室との間を繰り返し移動して、スカウトスキャン用の準備と本スキャン用の準備とをそれぞれ行う必要があり、煩雑な作業を強いられる。
【0009】
また、放射線感受性の高い臓器として乳腺を保護する場合、胸部に装着したシールド部材の脱落を防止するため、撮影テーブル(table)に備え付けの固定帯で被検体とシールド部材とを覆うように固定することが多い。この場合、被検体の姿勢や撮影部位の形状がスカウトスキャン時と本スキャン時とで変化してしまい、自動露出機構によるX線出力の最適化の精度が悪くなる。
【0010】
このような事情により、シールド部材等のX線吸収部材を被検体に装着したままスカウトスキャンを行っても自動露出機構が適正に機能し、シールド領域におけるX線出力を適正に制御することができるX線CT装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の観点の発明は、X線管と、X線検出器と、体表面または内部にX線吸収部材が設けられた被検体をスカウトスキャンするよう、前記X線管およびX線検出器を制御する制御手段と、前記スカウトスキャンにより収集された投影データまたは該投影データにより得られる画像データにおける前記X線吸収部材に対応する領域を特定する特定手段と、前記投影データまたは画像データを、前記特定された領域に対応するデータが前記X線吸収部材のない場合に得られるデータに近づくよう補正する補正手段と、前記補正された投影データまたは画像データに基づいて、前記X線管の前記被検体に対する位置に応じたX線出力変調パターン(pattern)を決定する決定手段と、該決定されたX線出力変調パターンにしたがってX線出力を変調させる変調手段とを備えているX線CT装置を提供する。
【0012】
第2の観点の発明は、前記補正手段が、前記X線吸収部材のX線吸収特性に基づいて、前記投影データまたは画像データにおける前記特定された領域に対応するデータの前記X線吸収部材によるX線吸収分を求め、前記投影データまたは画像データから前記X線吸収分を差し引くことにより補正する上記第1の観点のX線CT装置を提供する。
【0013】
第3の観点の発明は、X線吸収部材の種別とそのX線吸収特性とを前記種別ごとに対応付けて記憶する記憶部と、操作者により指定された種別と対応付けて記憶されているX線吸収特性を取得する取得手段とをさらに備えており、前記補正手段が、前記取得されたX線吸収特性に基づいて補正する上記第2の観点のX線CT装置を提供する。
【0014】
第4の観点の発明は、前記補正手段が、前記投影データまたは画像データにおける前記特定された領域に対応するデータを、該データの近傍のデータを用いて補正する上記第1の観点のX線CT装置を提供する。
【0015】
第5の観点の発明は、X線管と、X線検出器と、体表面または内部にX線吸収部材が設けられた被検体をスカウトスキャンするよう、前記X線管およびX線検出器を制御する制御手段と、前記スカウトスキャンにより収集された投影データまたは該投影データにより得られる画像データに基づいて、前記X線管の前記被検体に対する位置に応じたX線出力変調パターンを決定する決定手段と、前記投影データまたは画像データにおける前記X線吸収部材に対応する領域を特定する特定手段と、前記決定されたX線出力変調パターンを、前記特定された領域に対応するパターンが前記X線吸収部材のない場合に得られるパターンに近づくよう補正する補正手段と、該補正されたX線出力変調パターンにしたがってX線出力を変調させる変調手段とを備えているX線CT装置を提供する。
【0016】
第6の観点の発明は、前記補正手段が、前記X線出力変調パターンにおける前記特定された領域に対応するパターンを、該パターンの近傍のX線出力を用いて補正する上記第4の観点のX線CT装置を提供する。
【0017】
第7の観点の発明は、前記特定手段が、前記投影データまたは画像データ上で操作者により指定された領域に基づいて、前記X線吸収部材に対応する領域を特定する上記第1の観点から第6の観点のいずれか一つの観点のX線CT装置を提供する。
【0018】
第8の観点の発明は、前記特定手段が、前記投影データまたは画像データにおけるデータ値の大小に基づいて、前記X線吸収部材に対応する領域を特定する上記第1の観点から第6の観点のいずれか一つの観点のX線CT装置を提供する。
【0019】
第9の観点の発明は、前記X線吸収部材が、前記被検体の体表面に設けられたシールド部材である上記第1の観点から第8の観点のいずれか一つの観点のX線CT装置を提供する。
【0020】
第10の観点の発明は、前記X線吸収部材が、前記被検体の内部に設けられた医療用部材である上記第1の観点から第8の観点のいずれか一つの観点のX線CT装置を提供する。
【0021】
上記観点の発明において、スカウトスキャンとは、本スキャンに先行して本スキャンより低いX線出力で行うスキャンであり、当該スキャンにより得られた投影データまたはこの投影データを基に生成される画像データは、例えば、位置決め等を含むスキャン計画や自動露出機構などに用いられる。
【0022】
また、X線出力変調パターンは、被検体の体軸方向におけるX線管およびX線検出器の被検体に対する位置に応じて変調させるだけでなく、被検体のスライス断面形状を考慮して、回転方向におけるX線管およびX線検出器の位置にも応じて変調させるパターンであってもよい。なお、X線出力変調パターンは、主には、X線管電圧を固定して、X線管電流変調パターンとするが、X線管電流を固定して、X線管電圧変調パターンとしてもよいし、X線管電圧とX線管電流の両方を変調させるパターンとしてもよい。
【0023】
また、シールド部材としては、例えば、鉛、ビスマス若しくはその化合物などを含有するものを考えることができる。また、前記シールド部材としては、放射線感受性の高い臓器に対する被曝を低減する用途のものを考えることができる。
【0024】
また、医療用部材としては、例えば、人工骨、人工臓器、ワイヤ(wire)、ボルト(bolt)、ナット(nut)などを考えることができる。
【発明の効果】
【0025】
上記第1の観点の発明のX線CT装置によれば、スカウトスキャンより得られた投影データまたはこの投影データにより得られる画像データにおけるX線吸収部材に対応する領域を特定し、上記投影データまたは画像データを、上記特定された領域に対応するデータがX線吸収部材のない場合に得られるデータに近づくよう補正し、補正されたデータを基にX線出力変調パターンを決定するので、シールド部材等のX線吸収部材を被検体に装着したままスカウトスキャンを行っても自動露出機構が適正に機能し、X線吸収部材に対応する領域におけるX線出力を適正に制御することができる。
【0026】
また、上記第5の観点の発明のX線CT装置によれば、スカウトスキャンより得られた投影データまたはこの投影データにより得られる画像データに基づいてX線出力変調パターンを決定し、上記投影データまたは画像データにおけるX線吸収部材に対応する領域を特定し、X線出力変調パターンを、上記特定された領域に対応するパターンがX線吸収部材のない場合に得られるパターンに近づくよう補正するので、シールド部材等のX線吸収部材を被検体に装着したままスカウトスキャンを行っても自動露出機構が適正に機能し、X線吸収部材に対応する領域におけるX線出力を適正に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第一実施形態のX線CT装置を概略的に示す図である。
【図2】第一実施形態のX線CT装置の構成を機能的に表す機能ブロック(block)図である。
【図3】シールド部材が装着された被検体の一例を示す図である。
【図4】スカウトスキャンの一例を模式的に示す図である。
【図5】スカウトデータの一例を示す図である。
【図6】シールド領域が特定されたスカウト像の一例を示す図である。
【図7】X線吸収特性記憶部が記憶するシールド部材の種別とX線吸収特性の一例を示す図である。
【図8】シールド部材のX線吸収特性を用いたAPスカウトデータの補正を概念的に示す図である。
【図9】シールド部材のX線吸収特性を用いて補正されたAPスカウトデータの一例を示す図である。
【図10】シールド部材のX線吸収特性を用いたラテラルスカウトデータ(lateral scout data)の補正を概念的に示す図である。
【図11】シールド部材のX線吸収特性情報を用いて補正されたラテラルスカウトデータの一例を示す図である。
【図12】シールド領域に対応するデータの近傍のデータを用いたAPスカウトデータの補正を概念的に示す図である。
【図13】シールド領域に対応するデータの近傍のデータを用いて補正されたAPスカウトデータの一例を示す図である。
【図14】シールド領域に対応するデータの近傍のデータによるラテラルスカウトデータの補正を概念的に示す図である。
【図15】シールド領域に対応するデータの近傍のデータを用いて補正されたラテラルスカウトデータの一例を示す図である。
【図16】スカウトデータをz方向と垂直な方向へ積算投影して得られる積算データの一例を示す図である。
【図17】第一実施形態のX線CT装置による撮影の流れを示すフローチャート(flowchart)である。
【図18】第二実施形態のX線CT装置の構成を機能的に表す機能ブロック図である。
【図19】シールド領域の近傍の管電流値による管電流変調曲線の補正を概念的に示す図である。
【図20】第二実施形態のX線CT装置による撮影の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、発明の実施形態について説明する。
【0029】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態のX線CT装置を概略的に示す図である。本X線CT装置100は、操作コンソール1と、撮影テーブル10と、走査ガントリ(gantry)20とにより構成されている。
【0030】
操作コンソール1は、操作者からの入力を受け付ける入力装置2と、被検体40をスキャンするための各部の制御や各種のデータ処理などを行う中央処理装置3と、走査ガントリ20で取得したデータを収集するデータ収集バッファ(buffer)5と、画像を表示するモニタ(monitor)6と、プログラム(program)やデータなどを記憶する記憶装置7とを具備している。
【0031】
撮影テーブル10は、被検体40を載せて走査ガントリ20の開口部Bに入れ出しするクレードル(cradle)12を具備している。クレードル12は、撮影テーブル10に内蔵するモータ(motor)で昇降および水平直線移動される。なお、ここでは、被検体40の体軸方向すなわちクレードル12の水平直線移動方向をz方向、鉛直方向をy方向、z方向およびy方向に垂直な水平方向をx方向とする。
【0032】
走査ガントリ20は、回転部15と、回転部15を回転可能に支持する支持部16とを有する。回転部15には、X線管21と、X線管21を制御するX線コントローラ(controller)22と、X線管21から発生したX線81をコリメート(collimate)して整形するコリメータ(collimator)23と、X線管21から照射され、被検体40を透過したX線81を検出するX線検出器24と、X線検出器24の出力を投影データに変換して収集するデータ収集装置(DAS;Data Acquisition System)25と、X線コントローラ22,コリメータ23,DAS25の制御を行う回転部コントローラ26とが搭載される。X線検出器24は、検出器列が複数配列されたマルチ検出器である。支持部16は、制御信号などを操作コンソール1や撮影テーブル10と通信する制御コントローラ29を具備する。回転部15と支持部16とは、スリップリング(slip ring)30を介して電気的に接続されている。
【0033】
図2は、第一実施形態のX線CT装置の構成を機能的に表す機能ブロック図である。この図では、操作コンソールの要部を機能的に表している。
【0034】
第一実施形態のX線CT装置100における操作コンソール1は、図2に示すように、スキャン条件設定部60、スキャン制御部(制御手段)61、シールド領域特定部(特定手段)62、シールド部材種別取得部63、X線吸収特性記憶部(記憶手段)64、X線吸収特性取得部(取得手段)65、データ補正部(補正手段)66、管電流変調曲線決定部(決定手段)67、画像生成部68、および表示制御部69を備えている。
【0035】
スキャン条件設定部60は、操作者からの操作に応じて、スカウトスキャン時のスキャン条件と本スキャン時のスキャン条件とを設定する。スカウトスキャン時のスキャン条件としては、例えば、管電圧および管電流、z方向スキャン範囲、投影角度(0°、90°など)などが含まれる。また、本スキャン時のスキャン条件としては、例えば、管電圧、z方向スキャン範囲、スライス厚若しくはスライス数、ガントリ回転速度、ヘリカルピッチ(helical pitch)、生成画像のノイズレベル(noise level)などが含まれる。
【0036】
スキャン制御部61は、放射線感受性の高い臓器を含む部位の体表面にシールド部材が装着された被検体40に対して、スカウトスキャンSSや本スキャンSHを行うよう、撮影テーブル10および走査ガントリ20を制御する。
【0037】
図3は、シールド部材が装着された被検体の一例を示す図であり、図3(a)は、被検体40をAP方向すなわちy方向に見た図、図3(b)は、被検体40をLateral方向すなわちx方向に見た図である。図3の例では、被検体40がクレードル12に載置され、被検体40の乳腺をシールドするためにその胸部の体表面にシールド部材42が装着されている様子を示している。
【0038】
スカウトスキャンSSは、位置決め等を含むスキャン計画や自動露出機構などに用いる被検体40の構造に関する情報を取得するために、本スキャンSHに先行して低X線出力で行われるスキャンである。このスカウトスキャンSSを行うことにより、その投影データであるスカウトデータPSが収集され、このスカウトデータPSにより画像データであるスカウト像GSが生成される。スカウトスキャンSSは、X線管21およびX線検出器24を回転方向に固定して行うスキャンと、X線管21およびX線検出器24を回転方向に回転しながら行うヘリカルスカウトスキャンとが考えられるが、本例では前者のスキャンを想定する。この場合、X線管21およびX線検出器24をAP方向(0°)に固定して行うAPスカウトスキャンSSAPと、X線管21およびX線検出器24をラテラル方向(90°)に固定して行うラテラルスカウトスキャンSSLateralとが考えられる。
【0039】
図4は、スカウトスキャンの一例を模式的に示す図である。図4の例では、APスカウトスキャンSSAPを行う様子を示しており、X線管21およびX線検出器24をAP方向に固定し、クレードル12をz方向に直線移動させてX線を曝射している。またこの例では、X線管21およびX線検出器24の被検体40に対するz方向の位置を、座標ZaからZbまで相対移動させており、この範囲のスカウトデータPSが収集される。
【0040】
図5は、スカウトデータの一例を示す図である。図5(a)は、APスカウトスキャンSSApにより得られるAPスカウトデータPSAP、図5(b)は、ラテラルスカウトスキャンSSLateralにより得られるラテラルスカウトデータPSLateralをそれぞれ示している。なお、この図では、データ値が小さいほど白くなるよう表現されている。
【0041】
本スキャンSHとしては、ヘリカルスキャン(helical scan)、ヘリカルシャトルスキャン(helical shuttle
scan)、アキシャルスキャン(axial scan)など種々のスキャンが考えられるが、本例ではヘリカルスキャンを想定する。
【0042】
また、スキャン制御部61は、X線管21によるX線出力(線量)を、管電圧Vおよび管電流Aの少なくとも一方を変えて制御することができるが、本例では、管電圧Vを固定して管電流Aを制御することにより行う。すなわち、本スキャンSH時には、管電圧Vを固定し、管電流Aを、管電流変調曲線決定部67により決定された管電流変調曲線AMに従って変調させることにより、X線出力の変調を実現させる。
【0043】
画像生成部68は、スカウトスキャンSSにより得られたスカウトデータPSに基づいて、被検体40のスカウト像GSを生成する。また、画像生成部68は、本スキャンSHにより得られる投影データPHに基づいて、被検体40の所定のスライスに対応する断層像を、3次元画像再構成処理などにより再構成して生成する。
【0044】
表示制御部69は、画像生成部68により生成された画像をモニタ6の画面に表示する。
【0045】
シールド領域特定部62は、スカウトデータPSまたはスカウト像GSにおけるシールド部材42に対応する領域(以下、シールド領域という)RSを特定する。シールド領域特定部62は、手動と自動のいずれによってもシールド領域RSを特定することができる。手動の場合には、例えば、画像生成部68がスカウトデータPSに基づいてスカウト像GSを生成し、表示制御部69がそのスカウト像GSをモニタ6に表示する。操作者は、そのスカウト像GSが表示されたモニタ6の画面上でポインタ(pointer)Pt等を用いてシールド部材42に相当する領域を囲んだり、あるいはそのような領域の範囲を座標値で入力したりして領域を指定する。シールド領域特定部62は、操作者が指定した領域をシールド領域RSとして特定する。自動の場合には、スカウトデータPSまたはスカウト像GSにおけるデータ値の大小に基づいてシールド領域RSを特定する。例えばスカウトデータPSの場合、X線検出器24の検出素子に到達するX線強度が弱いほどデータ値が小さくなるため、X線吸収量が大きい部位を投影した部分のデータ値は小さくなる。そこで、例えば、スカウトデータPSにおけるデータ値が所定の閾値を下回る領域を求め、この領域をシールド領域RSとして特定する。なお、この所定の閾値は、スカウトスキャンSS時のスキャン条件に応じて変化させてもよい。
【0046】
図6は、シールド領域が特定されたスカウト像の一例を示す図である。図6(a)は、シールド領域RSAPが特定されたAPスカウト像GSAPを、図6(b)は、シールド領域RSLateralが特定されたラテラルスカウト像GSLateralをそれぞれ示している。また、図6の例では、スカウト像上で操作者によりポインタPtを用いて指定された領域をシールド領域RSとして特定している。なお、一般的に、シールド部材の形状は矩形に近いことが多いため、本例ではシールド領域RSを矩形領域として近似的に特定しているが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0047】
シールド部材種別取得部63は、被検体40に装着されたシールド部材42の種別を取得する。例えば、操作者が直接入力したシールド部材の種別を、被検体40に装着されたシールド部材42の種別として取得する。また例えば、X線吸収特性記憶部64に記憶されているシールド部材の種別の中から操作者が選択したシールド部材の種別を、被検体40に装着されたシールド部材42の種別として取得する。この選択は、表示された種別の一覧の中から選択してもよいし、製造メーカや用途(シールドする臓器)などのキーワード(keyword)で検索して該当する種別を特定し選択してもよい。
【0048】
X線吸収特性記憶部64は、シールド部材の種別とそのX線吸収特性とをその種別ごとに対応付けて記憶する。
【0049】
図7は、X線吸収特性記憶部が記憶するシールド部材の種別とX線吸収特性の一例を示す図である。図7の例では、シールド部材の種別として、シールド部材の型番や名称を記憶しており、製造メーカ、用途なども付帯して記憶している。また、X線吸収特性として、鉛等量〔mmPb〕を記憶しており、この鉛等量はAP方向とLateral方向のそれぞれについて記憶している。
【0050】
X線吸収特性取得部65は、被検体40に装着されたシールド部材42のX線吸収特性として鉛等量を取得する。本例では、X線吸収特性取得部65は、シールド部材種別取得部63により取得されたシールド部材の種別と対応付けて記憶されている鉛等量をX線吸収特性記憶部64から読み出し、これをシールド部材42の鉛等量として取得するか、操作者により直接入力された鉛等量をシールド部材42の鉛等量として取得する。
【0051】
データ補正部66は、スカウトデータPSにおけるシールド領域RSに対応するデータが、シールド部材42のない場合に得られるデータに近づくよう、スカウトデータPSを補正する。
【0052】
シールド部材42のX線吸収特性が特定できる場合には、データ補正部66は、スカウトスキャンSS時のスキャン条件とシールド部材42のX線吸収特性とに基づいて、スカウトデータPSにおけるシールド領域に対応するデータのシールド部材42によるX線吸収分を求め、スカウトデータPSからその求めたX線吸収分を差し引く(演算上は加算する)ことにより補正する。
【0053】
例えば、操作者がX線吸収特性を直接入力し、X線吸収特性取得部65が、その入力されたX線吸収特性をシールド部材42のX線吸収特性として取得した場合には、データ補正部66は、その取得されたX線吸収特性を上記の補正に用いる。
【0054】
また例えば、操作者がシールド部材の種別を入力し、シールド部材種別取得部63が、その入力されたシールド部材の種別を被検体40に装着されたシールド部材42の種別として取得した場合には、X線吸収特性取得部65が、その取得されたシールド部材の種別と対応付けて記憶されているX線吸収特性をX線吸収特性記憶部64から読み出して取得し、データ補正部66が、その取得されたX線吸収特性を上記補正に用いる。
【0055】
シールド部材42の種別やX線吸収特性が特定できない場合、あるいは、操作者による入力をなくして自動化する場合には、データ補正部66は、スカウトデータPSにおけるシールド領域RSに対応するデータを、このデータの近傍のデータを用いて補正する。
【0056】
ここで、データ補正部66によるスカウトデータPSの補正について、シールド部材のX線吸収特性を用いた補正と、シールド領域に対応するデータの近傍のデータを用いた補正とに分けて、より詳しく説明する。
【0057】
まず、シールド部材のX線吸収特性を用いた補正について説明する。
【0058】
図8は、シールド部材のX線吸収特性を用いたAPスカウトデータの補正を概念的に示す図である。
【0059】
図8に示すように、APスカウトデータPSAPにおけるシールド領域RSAPのz方向の範囲を座標Z1〜Z2、x方向の範囲を座標X1〜X2とする。APスカウトデータPSAPにおけるシールド領域RSAP、すなわち座標X1〜X2、座標Z1〜Z2の範囲においては、シールド部材42によるX線吸収分だけ相対的に小さいデータ値となる。
【0060】
これを、例えば、座標X1とX2との間の所定の座標Xiにおけるz方向でのデータ値PSAP(Xi,Z)の変化で見てみると、図8のグラフ(graph)GP1APのようになる。
【0061】
ところで、スカウトデータにおける検出素子1セル当りのX線吸収分pdは、例えば、次式にて求めることができる。
【0062】
【数1】

【0063】
数式1において、p0は鉛等量1〔mmPb〕すなわち厚さ1〔mm〕の鉛板に相当するX線吸収率を有するシールド部材を所定のスキャン条件C0でスカウトスキャンしたときの検出素子1セル当りのデータ値下降分、EPbはシールド部材42の鉛等量〔mmPb〕、k(C1)は上記所定のスキャン条件C0によるX線出力(線量)に対する実際のスカウトスキャン時のスキャン条件C1によるX線出力の比である。データ値下降分p0と、各スキャン条件Cjに対するX線出力比k(Cj)とは、予め実験によりまたは理論的に求める。
【0064】
これを、例えば、座標Xiにおけるz方向でのX線吸収分のデータ値PD(Xi,Z)の変化で見てみると、Z<Z1,Z2<ZではPD(Xi,Z)=0、Z1≦Z≦Z2ではPD(Xi,Z)=pdとなり、図8のグラフGP2APのようになる。
【0065】
そこで、APスカウトデータPSAPにおける全データ値PSAP(X,Z)のうちシールド領域RSAPに対応するデータ値に対して、X線吸収分のデータ値pdを加算して、補正済みAPスカウトデータPS’AP(X,Z)を求める。
【0066】
【数2】

【0067】
これを、例えば、座標Xiにおけるz方向での補正済みデータ値PSAP(Xi,Z)の変化で見てみると、図8のグラフGP3APのようになる。
【0068】
図9は、シールド部材のX線吸収特性を用いて補正されたAPスカウトデータの一例を示す図である。
【0069】
なお、ラテラルスカウトデータの場合も、APスカウトデータの場合と略同様に補正を行うことができる。
【0070】
図10は、シールド部材のX線吸収特性を用いたラテラルスカウトデータの補正を概念的に示す図である。
【0071】
図10に示すように、ラテラルスカウトデータPSLateralにおけるシールド領域RSLateralのz方向の範囲を座標Z1〜Z2、y方向の範囲を座標Y1〜Y2とする。シールド領域RSLateral、すなわち座標Y1〜Y2、座標Z1〜Z2の範囲においては、シールド部材42によるX線吸収分だけ相対的に小さいデータ値となる。
【0072】
これを、例えば、座標Y1とY2との間の所定の座標Yiにおけるz方向でのデータ値PSLateral(Yi,Z)の変化で見てみると、図10のグラフGP1Lateralのようになる。
【0073】
スカウトデータにおける検出素子1セル当りのX線吸収分pdは、上述の通り、上記の数式1にて求めることができる。
【0074】
これを、例えば、座標Yiにおけるz方向でのX線吸収分のデータ値PD(Yi,Z)の変化で見てみると、Z<Z1,Z2<ZではPD(Yi,Z)=0、Z1≦Z≦Z2ではPD(Yi,Z)=pdとなり、図10のグラフGP2Lateralのようになる。
【0075】
そこで、ラテラルスカウトデータPSLateralにおける全データ値PSLateral(Y,Z)のうちシールド領域RSLateralに対応するデータ値に対して、シールド部材42によるX線吸収分のデータ値pdを加算して、補正済みラテラルスカウトデータPS’Lateralを求める。
【0076】
【数3】

【0077】
これを、例えば、座標Yiにおけるz方向での補正済みデータ値PS’Lateral(Yi,Z)の変化で見てみると、図10のグラフGP3Lateralのようになる。
【0078】
図11は、シールド部材のX線吸収特性情報を用いて補正されたラテラルスカウトデータの一例を示す図である。
【0079】
次に、シールド領域に対応するデータの近傍のデータを用いた補正について説明する。
【0080】
図12は、シールド領域に対応するデータの近傍のデータを用いたAPスカウトデータの補正を概念的に示す図である。
【0081】
図12に示すように、APスカウトデータPSAPにおけるシールド領域RSAPのz方向の範囲を座標Z1〜Z2、x方向の範囲を座標X1〜X2とする。シールド領域RSAP、すなわち座標X1〜X2、座標Z1〜Z2の範囲においては、シールド部材42によるX線吸収分だけ相対的に小さいデータ値となる。
【0082】
これを、例えば、座標X1とX2との間の所定の座標Xiにおけるz方向でのデータ値PSAP(Xi,Z)の変化で見てみると、図12のグラフGP4APのようになる。
【0083】
ところで、被検体40の解剖学的構造を考慮すると、スカウトデータにおけるデータ値は、空間的に連続的かつ滑らかに変化することが多く、また、シールド部材のようにX線吸収量が非常に大きい組織は少ないと考えられる。また、シールド領域RSAPは、元々シールド部材でシールドする部位と位置的に対応する領域であるから、自動露出機構による管電流の変調制御に関し、高い精度は要求されない。つまり、シールド部材42でシールドする部位が、極端に大きいX線出力でスキャンされることがなければ、それでよいという考え方もある。
【0084】
そこで、シールド領域RSAPに対応するデータ値をその近傍のデータ値に近い値へと変更して補正することができる。
【0085】
例えば、APスカウトデータPSAPにおける全データ値PSAP(X,Z)のうちシールド領域RSAPに対応するデータ値を、シールド領域RSAPのデータに隣接するデータ値の重み付け加算により得られる値に変更して、補正済みデータ値PS’AP(X,Z)すなわち補正済みAPスカウトデータPS’APを求める。
【0086】
具体例としては、APスカウトデータPSAP(X,Z)上でX座標=Xiの直線を考える。そして、この直線上のデータ値PSAP(Xi,Z)のうちシールド領域RSAP内のデータ値を、例えば次式に従って変更する。すなわち、これらのデータ値をその直線上でシールド領域RSAPのデータに隣接する両端のデータ値PSAP(Xi,Z1−1),PSAP(Xi,Z2+1)の重み付け加算により得られる値に変更する。これにより、補正済みデータ値PS’AP(Xi,Z)を求める。
【0087】
【数4】

【0088】
ちなみに、座標Xiにおけるz方向での補正済みデータ値PS’AP(Xi,Z)の変化は、図12のグラフGP5APのようになる。
【0089】
このような処理を、座標X1〜X2の各座標Xiごとに行い、補正済みデータ値PS’AP(X,Z)すなわち補正済みAPスカウトデータPS’APを得る。
【0090】
図13は、シールド領域に対応するデータの近傍のデータを用いて補正されたAPスカウトデータの一例を示す図である。
【0091】
なお、ラテラルスカウトデータの場合も、APスカウトデータの場合と略同様に補正を行うことができる。
【0092】
図14は、シールド領域に対応するデータの近傍のデータによるラテラルスカウトデータの補正を概念的に示す図である。
【0093】
図14に示すように、ラテラルスカウトデータPSLateralにおけるシールド領域RSLateralのz方向の範囲を座標Z1〜Z2、y方向の範囲を座標Y1〜Y2とする。シールド領域RSLateral、すなわち座標Y1〜Y2、座標Z1〜Z2の範囲においては、シールド部材42によるX線吸収分だけ相対的に小さいデータ値となる。
【0094】
これを、例えば、座標Y1とY2との間の所定の座標Yiにおけるz方向でのデータ値PSLateral(Yi,Z)の変化で見てみると、図14のグラフGP4Lateralのようになる。
【0095】
ここで、ラテラルスカウトデータPSLateralにおける全データ値PSLateral(Y,Z)のうちシールド領域RSLateralに対応するデータ値を、シールド領域RSLateralに隣接するデータ値の重み付け加算により得られる値に変更して、補正済みデータ値PS’Lateral(Y,Z)を求める。
【0096】
具体例としては、ラテラルスカウトデータPSLateral上でY座標=Yiの直線を考える。そして、この直線上のデータ値PSLateral(Yi,Z)のうちシールド領域RSLateral内のデータ値を、例えば次式に従って変更する。これにより、補正済みデータ値PS’Lateral(Yi,Z)を求める。
【0097】
【数5】

【0098】
ちなみに、座標Yiにおけるz方向での補正済みデータ値PS’Lateral(Yi,Z)の変化は、図14のグラフGP5Lateralのようになる。
【0099】
このような処理を、座標Y1〜Y2の座標Yiごとに行い、補正済みデータ値PS’Lateral(Y,Z)すなわち補正済みラテラルスカウトデータPS’Lateralを得る。
【0100】
図15は、シールド領域に対応するデータの近傍のデータを用いて補正されたラテラルスカウトデータの一例を示す図である。
【0101】
なお、上述した補正方法はあくまで一例であり、データ補正部66による補正方法は種々考えることができる。例えば、スカウトデータにおけるシールド領域に対応するデータ値を、そのシールド領域のデータに隣接するデータ値の平均値に変更するようにしてもよいし、予め決められた所定の値に変更するようにしてもよい。
【0102】
管電流変調曲線決定部67は、補正されたスカウトデータに基づいて、z方向におけるX線管21およびX線検出器24の被検体40に対する位置の座標Zに応じた管電流変調曲線(X線出力変調パターン)AMを決定する。管電流変調曲線AMは、例えば次のようにして決定する。
【0103】
図16は、スカウトデータをz方向と垂直な方向へ積算投影して得られる積算データの一例を示す図である。例えば、補正済みAPスカウトデータPS’APのデータ値PS’AP(X,Z)をx方向に積算投影したり、あるいは、補正済みラテラルスカウトデータPS’Lateralのデータ値PS’Lateral(Y,Z)をy方向に積算投影したりして、図16のグラフGP6に示すような積算データ値PS(Z)を得る。そして、この積算データ値PS(Z)に、設定された生成画像のノイズレベルsdに応じた係数を乗算して、図16のグラフGP7に示すような積算データ値PS(Z)に相似の管電流変調曲線AMを求める。
【0104】
これより、第一実施形態のX線CT装置100による撮影の流れについて説明する。
【0105】
図17は、第一実施形態のX線CT装置による撮影の流れを示すフローチャートである。
【0106】
ステップ(step)S1では、被検体40を撮影テーブル10のクレードル12に載置する。
【0107】
ステップS2では、被検体40にシールド部材42を装着する。
【0108】
ステップS3では、スキャン制御部61が、被検体40のスカウトスキャンSSを行う。走査ガントリ20は、スカウトスキャンSSにより収集されたスカウトデータPSを画像生成部68に送信する。
【0109】
ステップS4では、シールド領域RSの特定を行う。例えば、画像生成部68がスカウトデータPSを基にスカウト像GSを生成し、表示制御部69がスカウト像GSをモニタ6に表示する。操作者は、スカウト像GSが表示されたモニタ6の画面上でシールド部材に相当する領域を指定する。シールド領域特定部62は、操作者により指定された領域をシールド領域RSとして特定する。
【0110】
ステップS5では、シールド部材42に関する情報の有無、あるいは自動モードの設定の有無等に基づいて、スカウトデータPSの補正方法を決定する。シールド部材42の種別が特定できる場合にはステップS6に進み、シールド部材42のX線吸収特性(鉛等量)が特定できる場合にはステップS8に進み、これらの情報を特定できないか若しくは自動モードが設定されている場合にはステップ11に進む。
【0111】
ステップS6では、操作者がシールド部材の種別を入力する。シールド部材種別取得部63は、入力されたシールド部材の種別を被検体40に装着されたシールド部材42の種別として取得する。
【0112】
ステップS7では、X線吸収特性取得部65が、ステップS6で取得されたシールド部材の種別と対応付けて記憶されているX線吸収特性すなわち鉛等量を、X線吸収特性記憶部64から読み出して取得する。そして、ステップS9に進む。
【0113】
一方、ステップS8では、操作者がX線吸収特性として鉛等量を入力する。X線吸収特性取得部65は、入力されたその鉛等量をシールド部材42の鉛等量として取得する。そして、ステップS9に進む。
【0114】
ステップS9では、データ補正部66が、スカウトスキャンSS時のスキャン条件と、ステップ7またはステップS8にて取得されたシールド部材42の鉛等量とに基づいて、スカウトデータPSにおけるシールド部材42によるX線吸収分を推定する。
【0115】
ステップS10では、データ補正部66が、スカウトデータPSからステップS9にて推定されたシールド部材42によるX線吸収分を差し引いて、スカウトデータPSを補正する。そして、ステップS12に進む。
【0116】
一方、ステップS11では、データ補正部66が、スカウトデータPSにおけるシールド領域RSに対応するデータをその近傍のデータを用いて補正する。そして、ステップS12に進む。
【0117】
ステップS12では、補正済みスカウトデータPS’から管電流変調曲線AMを決定する。
【0118】
ステップS13では、スキャン条件設定部60が、操作者の操作に応じて、本スキャンSHにおける管電流以外の他のスキャン条件を設定する。
【0119】
ステップS14では、スキャン制御部61が、ステップS12にて決定された管電流変調曲線AMおよびステップS13にて設定されたスキャン条件にしたがって、本スキャンSHを実施する。
【0120】
ステップS15は、画像生成部68が、本スキャンSHによって得られた投影データPHに基づいて画像GHを生成し、表示制御部69が、その生成された画像GHをモニタ6に表示する。
【0121】
このような第一実施形態によれば、スカウトスキャンSSより得られたスカウトデータPSまたはスカウト像GSにおけるシールド領域RSを特定し、スカウトデータPSをシールド領域RSに対応するデータがシールド部材42のない場合に得られるデータに近づくよう補正し、補正されたスカウトデータPS’を基に管電流変調曲線AMを決定するので、シールド部材42を被検体40に装着したままスカウトスキャンSSを行っても自動露出機構が適正に機能し、シールド領域RSにおける管電流Aを適正に制御することができる。
【0122】
(第二実施形態)
図18は、第二実施形態のX線CT装置の構成を機能的に表す機能ブロック図である。
【0123】
第二実施形態のX線CT装置101における操作コンソール1aは、スキャン条件設定部60、スキャン制御部61、シールド領域特定部62、管電流変調曲線決定部67、画像生成部68、表示制御部69、および管電流変調曲線補正部(補正手段)70を備えている。
【0124】
本実施形態における管電流変調曲線決定部67は、スカウトデータPSに基づいて管電流変調曲線AMを決定する。
【0125】
本実施形態におけるシールド領域特定部62は、第一実施形態と同様に、スカウトデータPSまたはスカウト像GSにおけるシールド領域RSを特定するが、ここでは、シールド領域RSの少なくともz方向の領域が特定できればよい。
【0126】
管電流変調曲線補正部70は、管電流変調曲線AMにおけるシールド領域RSに対応する曲線が、シールド部材42のない場合に得られる曲線に近づくよう、管電流変調曲線AMを補正する。本例では、管電流変調曲線補正部70は、管電流変調曲線AMにおけるシールド領域RSに対応する曲線を、この曲線の近傍の曲線における管電流値を用いて補正する。
【0127】
ここで、管電流変調曲線補正部70による管電流変調曲線AMの補正について、より詳しく説明する。
【0128】
図19は、シールド領域の近傍の管電流値による管電流変調曲線の補正を概念的に示す図である。なお、図19は、ラテラルスカウトデータPSLateralに基づいて管電流変調曲線AMを決定する場合の例である。
【0129】
図19に示すように、ラテラルスカウトデータPSLateral上のz方向のシールド領域RSの範囲を座標Z1〜Z2とする。ラテラルスカウトデータPSLateralをy方向に積算投影したデータPS(Z)では、図19のグラフGP8に示すように、シールド領域RS、すなわち座標Z1〜Z2の範囲においては、シールド部材42によるX線吸収分だけ相対的に小さいデータ値となる。そのため、例えばこのようなスカウトデータの積算投影データPS(Z)に基づいて管電流変調曲線を決定すると、図19のグラフGP9に示すように、シールド領域RS、すなわち座標Z1〜Z2の範囲において、相対的に大きい管電流値が設定されることになる。
【0130】
しかし、被検体40の解剖学的構造を考慮すると、管電流変調曲線における管電流値は、空間的に連続的かつ滑らかに変化することが多いと考えられる。また、シールド領域RSは、元々シールド部材でシールドする部位と位置的に対応する領域であるから、自動露出機構による管電流の変調制御に関し、高い精度は要求されない。つまり、シールド部材42でシールドする部位が、極端に大きいX線出力でスキャンされることがなければ、それでよいという考え方もある。
【0131】
そこで、管電流変調曲線AMにおけるシールド領域RSに対応する曲線の管電流値を、その曲線の近傍の曲線における管電流値に近い値へと変更して補正することができる。
【0132】
例えば、管電流変調曲線AMにおける各Z座標での管電流値AM(Z)のうち、シールド領域RSに対する管電流値を、シールド領域RSの曲線に隣接する管電流値の重み付け加算により得られる値に変更して、補正済み管電流値AM’(Z)すなわち補正済み管電流変調曲線AM’を求める。
【0133】
具体例としては、管電流値AM(Z)のうちシールド領域RS内の管電流値を、例えば次式に従って変更する。すなわち、これらの管電流値をシールド領域RSの曲線に隣接する両端の位置での管電流値AM(Z1−1),AM(Z2+1)の重み付け加算により得られる値に変更する。これにより、補正済み管電流値AM’(Z)すなわち補正済み管電流変調曲線AM’を求める。
【0134】
【数6】

【0135】
ちなみに、補正済み管電流変調曲線AM’は、図19のグラフGP10のようになる。
【0136】
これより、第二実施形態のX線CT装置101による撮影の流れについて説明する。
【0137】
図20は、第二実施形態のX線CT装置による撮影の流れを示すフローチャートである。
【0138】
ステップT1〜T4では、ステップS1〜S4と同様に、被検体40を撮影テーブル10のクレードル12に載置し、被検体40にシールド部材42を装着する。そして、スキャン制御部61が、スカウトスキャンSSを行う。操作者は、スカウトスキャンSSによって得られたスカウト像GS上でシールド部材42に相当する領域を指定し、シールド領域特定部62は、操作者により指定された領域をシールド領域RSとして特定する。
【0139】
ステップT5では、管電流変調曲線決定部67が、スカウトデータPSに基づいて管電流変調曲線AMを決定する。
【0140】
ステップT6では、管電流変調曲線補正部70が、管電流変調曲線AMにおけるシールド領域RSに対応する曲線の管電流値を、その曲線の近傍の曲線における管電流値を用いて変更して、管電流変調曲線AMを補正する。
【0141】
ステップT7では、ステップS13と同様に、スキャン条件設定部60が、操作者の操作に応じて、本スキャンSHにおける管電流以外の他のスキャン条件を設定する。
【0142】
ステップT8では、スキャン制御部61が、ステップT6にて補正された管電流変調曲線AM’およびステップT7にて設定されたスキャン条件にしたがって、本スキャンSHを実施する。
【0143】
ステップT9では、ステップS15と同様に、画像生成部68が、本スキャンSHによって得られた投影データPHに基づいて画像GHを生成し、表示制御部69が、その生成された画像GHをモニタ6に表示する。
【0144】
このような第二実施形態によれば、スカウトスキャンSSより得られたスカウトデータPSまたはスカウト像GSに基づいて管電流変調曲線AMを決定し、スカウトデータPSまたはスカウト像GSにおけるシールド領域RSを特定し、管電流変調曲線AMを、シールド領域RSに対応する管電流値の曲線がシールド部材42のない場合に得られる管電流値の曲線に近づくよう補正するので、シールド部材42を被検体40に装着したままスカウトスキャンSSを行っても自動露出機構が適正に機能し、シールド領域RSにおける管電流Aを適正に制御することができる。
【0145】
以上、発明の実施形態について説明したが、発明の実施形態は、上記の実施形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の組合せおよび変形が可能である。
【0146】
例えば、第一実施形態では、スカウトスキャンSSにより得られた投影データであるスカウトデータPSを補正し、補正済のスカウトデータPS’に基づいて管電流変調曲線AMを決定しているが、スカウトスキャンSSにより得られたスカウトデータPSに基づいてスカウト像GSを生成し、そのスカウト像GSを補正し、補正済のスカウト像に基づいて管電流変調曲線AMを決定してもよい。また、スカウトスキャンSSにより得られたスカウトデータを補正し、補正済のスカウトデータPS’に基づいてスカウト像GSを生成し、そのスカウト像GSに基づいて管電流変調曲線AMを決定してもよい。
【0147】
また、上記の各実施形態では、放射線感受性の高い臓器への被曝を低減するために被検体40の体表面に設けられたシールド部材42を、自動露出機構に影響を及ぼすX線吸収部材として想定しているが、被検体40の内部に設けられた医療用部材、例えば、人工骨、人工臓器、ワイヤ、ボルト、ナットなどをそのようなX線吸収部材として想定することもできる。このような場合にも、上記の各実施形態と同様に、自動露出機構が適正に機能し、医療用部材領域における管電流Aを適正に制御することができる。
【0148】
また、上記の各実施形態では、管電流変調曲線AMは、z方向におけるX線管21の被検体40に対する位置座標Zに応じて変調させるためのものであるが、この座標Zに応じた変調に限らず、被検体40のスライス断面形状を考慮した、X線管21の回転角度位置θに応じて変調させるためのものであってもよい。あるいは、これら両方の変調を行うためのものであってもよい。
【0149】
また、上記の各実施形態では、発明におけるX線出力変調パターンの一例として管電流変調曲線(管電圧固定)を用いているが、管電圧変調曲線(管電流固定)や、管電圧と管電流の両方を変調させるパターンを用いてもよい。
【0150】
また、上記の各実施形態では、X線吸収特性として鉛等量を用いているが、他の指標値等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0151】
1,1a 操作コンソール
2 入力装置
3 中央処理装置
5 データ収集バッファ
6 モニタ
7 記憶装置
10 撮影テーブル
12 クレードル
15 回転部
16 支持部
20 走査ガントリ
21 X線管
22 X線管コントローラ
23 コリメータ
24 X線検出器
25 データ収集装置(DAS)
26 回転部コントローラ
29 制御コントローラ
30 スリップリング
40 被検体
60 スキャン条件設定部
61 スキャン制御部
62 シールド領域特定部
63 シールド部材種別取得部
64 X線吸収特性記憶部
65 X線吸収特性取得部
66 データ補正部
67 管電流変調曲線決
68 画像生成部
69 表示制御部
70 管電流変調曲線補正部
81 X線
100,101 X線CT装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管と、
X線検出器と、
体表面または内部にX線吸収部材が設けられた被検体をスカウトスキャンするよう、前記X線管およびX線検出器を制御する制御手段と、
前記スカウトスキャンにより収集された投影データまたは該投影データにより得られる画像データにおける前記X線吸収部材に対応する領域を特定する特定手段と、
前記投影データまたは画像データを、前記特定された領域に対応するデータが前記X線吸収部材のない場合に得られるデータに近づくよう補正する補正手段と、
前記補正された投影データまたは画像データに基づいて、前記X線管の前記被検体に対する位置に応じたX線出力変調パターンを決定する決定手段と、
該決定されたX線出力変調パターンにしたがってX線出力を変調させる変調手段とを備えているX線CT装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記X線吸収部材のX線吸収特性に基づいて、前記投影データまたは画像データにおける前記特定された領域に対応するデータの前記X線吸収部材によるX線吸収分を求め、前記投影データまたは画像データから前記X線吸収分を差し引くことにより補正する請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
X線吸収部材の種別とそのX線吸収特性とを前記種別ごとに対応付けて記憶する記憶部と、
操作者により指定された種別と対応付けて記憶されているX線吸収特性を取得する取得手段とをさらに備えており、
前記補正手段は、前記取得されたX線吸収特性に基づいて補正する請求項2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記投影データまたは画像データにおける前記特定された領域に対応するデータを、該データの近傍のデータを用いて補正する請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項5】
X線管と、
X線検出器と、
体表面または内部にX線吸収部材が設けられた被検体をスカウトスキャンするよう、前記X線管およびX線検出器を制御する制御手段と、
前記スカウトスキャンにより収集された投影データまたは該投影データにより得られる画像データに基づいて、前記X線管の前記被検体に対する位置に応じたX線出力変調パターンを決定する決定手段と、
前記投影データまたは画像データにおける前記X線吸収部材に対応する領域を特定する特定手段と、
前記決定されたX線出力変調パターンを、前記特定された領域に対応するパターンが前記X線吸収部材のない場合に得られるパターンに近づくよう補正する補正手段と、
該補正されたX線出力変調パターンにしたがってX線出力を変調させる変調手段とを備えているX線CT装置。
【請求項6】
前記補正手段は、前記X線出力変調パターンにおける前記特定された領域に対応するパターンを、該パターンの近傍のX線出力を用いて補正する請求項4に記載のX線CT装置。
【請求項7】
前記特定手段は、前記投影データまたは画像データ上で操作者により指定された領域に基づいて、前記X線吸収部材に対応する領域を特定する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項8】
前記特定手段は、前記投影データまたは画像データにおけるデータ値の大小に基づいて、前記X線吸収部材に対応する領域を特定する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項9】
前記X線吸収部材は、前記被検体の体表面に設けられたシールド部材である請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項10】
前記X線吸収部材は、前記被検体の内部に設けられた医療用部材である請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−125600(P2011−125600A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288939(P2009−288939)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】