説明

X線CT装置

【課題】スカウト画像により被検体内の金属の検出を行うX線CT装置において、金属の検出漏れを低減する。
【解決手段】区間設定部202は、スカウト画像形成部200に対し、複数の方向からのスカウト画像を形成させる。そして、各スライス位置(回転軸方向の位置)につき、それら複数のスカウト画像の中に、そのスライス位置についてのX線減衰量が金属を示す閾値よりも高いものが1つでもあれば、そのスライス位置には金属が存在すると判定する。また、金属の区間を、更に、X線減衰量が大きい区間(演算による補正が不可能な区間)と、X線減衰量が小さい区間(演算による補正が可能な区間)に分別し、それら区間の種類に応じた制御を行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT装置に関し、特に、被検体内の金属によるアーチファクトへの対策技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CTその他のX線診断では、被検体内に金属が存在すると、金属のX線吸収などの作用によりアーチファクトが生じ、診断の妨げとなる。そこで、従来様々な対策が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1に開示されたX線CTシステムでは、ガントリ装置の回転を停止状態にして、X線の照射と検出及び被検体の搬送を行うことで、被検体のスカウト画像を得る。そして、このスカウト画像から低周波成分或いは背景成分を除去し、その除去した像のデータを、スカウト画像から減じ、所定の閾値を用いて2値化する。領域番号付け(ラベリング)処理後、2値化後の“1”となっている或る面積以上の連続領域について、特徴パラメータを抽出し、その特徴パラメータに基づいて該当する領域が金属物であるかどうかを判断する。
【0004】
また、特許文献2に開示された装置は、スカウト画像から金属を含んでいるスライス位置を検出し、その後、スキャンを開始し、入力されたスライス位置毎の投影データを画像再構成するにあたり、画像再構成を行うスライス位置が金属領域を含むスライス位置かどうかを、X線の減衰量に基づき判断する。その結果、金属領域を含むスライス位置については、X線の投影データに対し、金属部分の影響を低減するアーチファクト除去処理を適用する。
【0005】
また、特許文献3に開示された装置では、表示したスカウト画像上に断層像撮影位置を示すローカライザ図形と、X線通過領域を示すX線ビーム図形が重ねて表示される。そして、それら図形をユーザーが操作することで、金属の領域にX線が照射されないように、撮影計画が作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−209881号公報
【特許文献2】特開2005−006832号公報
【特許文献3】特開2005−323627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1方向から撮影したスカウト画像においてX線の減衰量から金属の区間を判定する場合、その方向についての金属の厚みが非常に薄いと、減衰量が小さいため金属と判定されないことが考えられる。しかし、そのように非常に薄い金属であっても、別の方向に沿ってある程度以上の厚みを持っていると無視できないアーチファクトを生じてしまうことがある。
【0008】
本発明は、スカウト画像により被検体内の金属の検出を行うX線CT装置において、金属の検出漏れを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るX線CT装置は、X線発生器とX線検出器とを含んだ測定部を被検体に対して回転中心軸回りに回転走査を行わせると共に、前記測定部と前記被検体との前記回転中心軸方向についての相対位置を変化させる移動走査を行うことで、前記被検体のCT画像を生成するCT画像生成手段と、前記回転走査を行わずに前記移動走査を行うよう前記測定部を制御することにより、指定された方向から前記被検体を見た場合の二次元透過像であるスカウト画像を形成するスカウト画像形成手段と、前記CT画像生成手段が前記被検体のCT画像を生成する前に、前記スカウト画像形成手段に、異なる複数の方向について、それぞれ当該方向から前記被検体を見た場合の前記被検体のスカウト画像を形成させ、それら各方向についてのスカウト画像の組合せから、前記被検体内の前記回転中心軸方向に沿った金属の分布区間を特定する金属区間特定手段と、前記CT画像生成手段による前記CT画像の生成の際に、前記金属区間特定手段が特定した金属の分布区間については、金属によるアーチファクトを低減するための低減処理を行う低減処理手段と、を備える。
【0010】
好適な例では、前記金属区間特定手段は、前記金属が存在する区間を、前記各方向についてのスカウト画像の組合せに基づき、アーチファクト低減のための補正処理では十分に抑圧できない程度のX線減衰量を示す第1種類の区間と、アーチファクト低減のための補正処理でアーチファクトが十分に抑圧できる程度のX線減衰量を示す第2種類の区間と、に分類し、前記低減処理手段は、前記第1種類の区間については、前記測定部にX線照射を停止させてCT画像の生成を行わないよう前記CT画像生成手段を制御し、前記第2種類の分布区間については、前記X線検出器の検出信号に対してアーチファクト低減のための補正処理を行うことでアーチファクトが低減されたCT画像を生成するよう前記CT画像生成手段を制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の方向からのスカウト画像に基づき判定を行うので、金属の検出漏れを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態のX線CT装置の全体構成を示す図である。
【図2】X線CT装置の構成を示すブロック図である。
【図3】改良例における区間の種類を示す図である。
【図4】複数の方向から見たスカウト画像と区間の種類との関係の例を示す図である。
【図5】区間設定部の処理手順の例を示す図である。
【図6】アーチファクト低減処理部の処理手順の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1には、X線CT装置の一例が示されている。このX線CT装置は、特にマウス、ラットなどの小動物のCT測定を行うための装置である。このX線CT装置は、大別して、測定部10と演算制御部12とによって構成される。
【0015】
測定部10はガントリ18を備えた本体16を有する。本体16の上面16Aには開口が形成され、その開口からアーム26が上方に突出している。アーム26は後述するスライド機構の一部をなすものであり、そのアーム26は後に説明する容器24に連結され、それを回転中心軸方向にスライド運動(移動走査)させる。
【0016】
一方、ガントリ18内には後述する測定ユニット(X線発生器、X線検出器)が収納され、それらは回転中心軸回りにおいて回転運動する。ガントリ18の中央部には回転中心軸方向に空洞部18Aが形成されている。この空洞部18Aは非貫通型であるが、貫通型としてもよい。
【0017】
容器24は、本実施形態において、被検体(小動物やそこから摘出された組織など)を収納するカプセルであり、その容器24は本実施形態において略円筒形状を有し、その容器中心軸が回転中心軸に一致した状態で配置される。具体的には、容器24の基端部が上述したアーム26の上端部に着脱自在に装着される。この場合において、着脱機構としては各種の係合機構あるいはネジ止め機構などを挙げることができる。上述したように、容器24は中空の円筒形状を有しており、その内部には本実施形態において複数の小動物が配置されるが、このような構成により、小動物の体毛が直接的にガントリ18に接触することなどを防止できる。また、小動物の排泄物や離脱体毛などが外部に放出されてしまう問題を防止できる。さらに、後述するように、小動物を固定的に拘束することが可能となるので、CT画像を再構成する場合における画像ぶれなどの問題を防止することができる。なお、サイズや形状が異なる複数種類の容器を用意して選択的に使用するのが望ましい。
【0018】
アーム26に対して容器24が装着された後、アーム26が回転中心軸方向に沿って前方に駆動され、これにより、ガントリ18の空洞部18A内に容器24が差し込まれる。この時、検体における所定位置に対してX線ビームが照射されるように、容器24の位置決めがなされる。また、そのような測定位置は連続的にあるいは段階的に変更される。
【0019】
本体16の上面16A上には操作パネル20が設けられており、この操作パネル20は複数のスイッチや表示器などを有する。この操作パネル20を利用してユーザーは測定現場において装置の動作を操作することが可能となる。本体16の下方には複数のキャスター22が設けられている。ちなみに測定部10の高さは例えば100cmである。
【0020】
次に演算制御部12について説明する。演算制御部12は測定部10に対してケーブル14によって電気的に接続される。測定部10と演算制御部12は同一の室内に設けられてもよいし、互いに別々の場所に設置されてもよい。この演算制御部12は通常のコンピュータシステムなどによって構成され、具体的には、プロセッサ30、表示器32、キーボード36、マウス38、記憶装置34及びプリンタ40などを有している。この演算制御部12により、測定部10の動作が制御され、また、測定部10から伝送されるデータに基づいてCT画像が構成される。このCT画像は通常は二次元断層画像に相当するものであるが、三次元画像を構築するようにしてもよい。ちなみに、本実施形態の装置において、ガントリ18内における測定ユニットの回転速度は例えば毎分当たり10回転である。もちろん、そのような回転速度は用途に応じて適宜設定可能である。
【0021】
図2には、図1に示したX線CT装置の構成がブロック図として示されている。回転中心軸Oを間において、一方側にX線発生器52が設けられ、他方側にX線検出器60が設けられている。X線発生器52の照射側にはコリメータ54が設けられている。X線発生器52は図示されるように末広あるいは扇状の(ここではファンビーム形状の)X線ビーム56を生成する。一方、X線検出器60は複数の(例えば100個)のX線センサを一列に並べたものとして構成され、X線ビーム56の開き角度に応じてX線の受光開口が設定される。ちなみに、複数のX線センサの配列は直線的であってもよいし、円弧状であってもよい。
【0022】
なお、図2においては、X線発生器52と共に用いられる高電圧源や、X線検出器60と共に用いられるデータ処理回路などについては図示省略されている。
【0023】
図2において符号58は有効視野を示している。これは、X線ビーム56を回転走査させた場合におけるCT画像を構成可能な円形の領域である。ちなみに、この有効視野58は、検体あるいは回転中心軸と、X線発生器52及びX線検出器60のそれぞれの位置関係に応じて定まるものである。本実施形態においては変位機構62が設けられているため、それらの位置関係を変更してCT画像の倍率を機械的に可変することが可能である。
【0024】
すなわち、変位機構62には、X線発生器52及びX線検出器60が連結されており、変位機構62はX線発生器52及びX線検出器60の間の距離を維持したまま、それら(つまり測定ユニット)をX線ビーム56のビーム軸方向に変位させる機能を有する。この場合において、回転中心軸Oは不変であり、すなわち上述した容器を何ら移動させることなく測定ユニット側を移動させて倍率の変更を行い得る。なお、変位機構62は変位力を発生するためのモータ62Aを備えている。
【0025】
ガントリ回転機構66は、回転ベースを回転させることにより、それに搭載された変位機構を含む各構成の全体を回転駆動する機構である。変位機構62には、測定ユニットが搭載されているため、変位機構62によって所望の位置に位置決めされた測定ユニットがその位置を保持したまま回転駆動されることになる。ガントリ回転機構66は、その駆動力を発生するためのモータ66Aを有する。ガントリ回転機構66によるX線発生器52及びX線検出器60の回転に連動して、各回転位置(回転角度)にてそれぞれ、X線検出器60が備えるX線センサアレイの各X線センサにより被検体を透過したX線が検出される。このように1つの回転位置においてアレイの各X線センサが検出した検出値の並びを、投影データと呼ぶ。
【0026】
スライド機構68は図1に示したアーム26をスライド運動させる移動機構であり、その駆動力はモータ68Aによって発生される。このスライド運動により、X線ビームの回転走査の行われる面の位置が回転軸方向に移動する。このように回転軸方向について被検体が回転走査される面の位置のことを、以下では、スライス位置と呼ぶ。ヘリカルスキャンの場合も、例えばX線検出器60の螺旋状のスキャン軌道が特定の回転位置(角度)を通過するときの回転軸方向の位置を、スライス位置と考えればよい。
【0027】
操作パネル20は上述したように本体の上面に設けられる。測定部10側に設けられたローカルコントローラ(図示せず)に対して操作パネル20を接続し、そのローカルコントローラと演算制御部12とが相互に通信を行うように構成してもよい。
【0028】
ちなみに、図2には、様々な機構62,66,68などが示されているが、それらの機構による位置あるいは変化を検出するためにセンサを設けるのが望ましい。そして、それらのセンサの出力信号に基づいて演算制御部12がいわゆるフィードバック制御を行うようにするのが望ましい。また、変位機構62による倍率の可変はユーザー入力により行わせてもよいし、例えば被検体サイズあるいは容器のサイズを自動検知し、その検知したデータに基づいて自動的に倍率を設定するようにしてもよい。さらに、あらかじめ容器の種別などが登録される場合においては、その登録された情報を利用して倍率の設定を行うようにしてもよい。さらに、図2に示す例では、スライド機構68が駆動源としてのモータ68Aを有していたが、そのスライド力を人為的に発生させるようにしてもよい。
【0029】
次に、演算制御部12について説明すると、上述したように、プロセッサ30には、表示器32、記憶装置34、キーボード36、マウス38、プリンタ40などが接続されている。また、外部装置との間でネットワークを介して通信を行うための通信部42が接続されている。
【0030】
プロセッサ30は、CPU及び各種プログラムによって構成されるものである。図2にはその代表的な機能が示されており、プロセッサ30は、動作制御部44、再構成演算部46、スカウト画像形成部200、区間設定部202、アーチファクト低減処理部204を有している。
【0031】
動作制御部44は、測定部10における全体の動作を制御している。例えば、動作制御部44は、測定部10のガントリ回転機構66及びスライド機構68を制御して回転走査と移動走査を組み合わせることで、ヘリカルスキャン又はノン・ヘリカルスキャンなどの走査方式に従ったX線ビーム走査を実現する。また、1つの例では、動作制御部44は、アーチファクト低減処理部204からの指示に従い、区間毎にX線発生器52にX線ビームの照射を停止させるなどの制御を行ってもよい(詳細は後述)。
【0032】
再構成演算部46は、X線ビームの回転走査によって得られる多くのデータに基づきCT画像を構成する演算を実行する。この場合において三次元画像を構築するようにしてもよい。再構成演算については公知の各種の手法を利用することが可能である。例えば、ノン・ヘリカルスキャン方式の場合、スライス位置ごとに、各回転角度において求められた投影データに対して公知の再構成演算を行うことにより、CT画像を構成する。ヘリカルスキャンの場合も同様に公知の再構成演算を行えばよい。なお、上述した倍率の可変にあたっては、再構成演算で用いられる演算式は基本的にそのまま用いることができる。しかしながら、特殊な倍率の可変方式が適用される場合においては必要に応じて再構成演算式の一部を変更するようにしてもよい。
【0033】
また、1つの例では、再構成演算部46は、アーチファクト低減処理部204からの指示に従って、アーチファクト低減処理を行った上でそのような再構成演算を実行する機能も備えていてもよい(詳細は後述)。
【0034】
スカウト画像形成部200は、複数の検体に対するCT測定に先立って、スカウト画像を形成する。具体的には、測定部10を回転させない状態で、スライド機構68により被
検体を収容した容器が移動走査され、その際に、測定部10によってX線測定が実施される。これにより得られた検出データに基づいて、レントゲン写真のような二次元透過像としてのスカウト画像が形成される。このスカウト画像は、被検体ごとに金属の存在する区間を特定するために形成される。
【0035】
区間設定部202は、スカウト画像形成部200が作成したスカウト画像を解析して金属の存在する領域を求め、回転軸方向(移動走査の方向)に沿って、金属の有無に応じた区間分割を行う。
【0036】
ここで、区間設定部202は、スカウト画像形成部200に対して、異なる複数の方向についてのスカウト画像を形成させ、それら複数の方向のスカウト画像の解析結果を総合することで、金属の存在する区間を特定する。例えば、X線発生器52及びX線検出器60を被検体に対して回転位置0度及び90度にそれぞれ位置させて、スカウト画像形成部200にそれら各回転位置についてのスカウト画像を形成させる。0度及び90度というのはあくまで一例に過ぎず、それぞれ別の角度であってもよい。また3以上の異なる角度(回転位置)についてスカウト画像を形成するようにしてもよい。そして、それら各回転位置のスカウト画像に対して、それぞれ公知技術(例えば特許文献1,2に示された技術)による解析を行うことで、当該画像上で金属の存在する領域を特定する。基本的には、スカウト画像が表す各画素のX線の減衰量(吸収量)を金属判別用の閾値と比較し、その閾値より減衰量が多い画素が金属に該当する画素として求められる。ここで、ノイズを除去するために、互いに隣接する金属に該当する画素同士を連結して連結成分を生成し、ノイズ判別用の閾値サイズよりも大きい連結成分を金属と判定してもよい。また、特許文献1,2に示されるように、最小値フィルタと最大値フィルタとを繰り返し用いて低周波成分を除去して骨などによるX線減衰の成分を除いた上で、金属判別用の閾値と判定してもよい。そして、それら方向(回転位置)の異なる複数のスカウト画像から特定された金属の存在領域を総合することにより、回転軸方向に沿った金属の存在区間を判定する。
【0037】
この判定では、例えば、スライス位置(回転軸方向の位置)ごとに、そのスライス位置がそれら複数方向のスライス画像の中の少なくとも1つのスライス画像における金属の存在領域を通っていれば、そのスライス位置に金属が存在すると判定する。そして、金属が存在すると判定されたスライス位置を隣接するもの同士連結し、同様に金属が存在しないと判定されたスライス位置を隣接するもの同士連結することで、回転軸方向に沿った被検体の全長を、金属が存在する区間と存在しない区間とに区間分けすることができる。区間設定部202は、これら各区間を特定する情報(例えば、各区間の開始位置と終了位置を示す情報)を記憶する。
【0038】
なお、区間設定部202は、スカウト画像における画素値(X線減衰量)から回転軸方向についての被検体の両端を検出し、この両端の外側は、いずれの区間にも含めないことでX線走査の範囲外としてもよい。
【0039】
アーチファクト低減処理部204は、区間設定部202が求めた区間の情報に従い、アーチファクトを低減するための処理を行う。
【0040】
1つの例では、アーチファクト低減処理部204は、金属が存在する区間についてはアーチファクト防止のためにX線ビームの走査を行わずCT画像を生成しないよう動作制御部44に指示する。動作制御部44は、この指示に従い、金属が存在する区間に該当するスライス位置ではX線ビームを走査しないようにする。この場合、CT画像は金属が存在しない区間についてのみ生成される。
【0041】
また、別の例では、金属が存在する区間についてもX線ビームの走査は行い、その結果得られる各回転位置についての投影データに対し、アーチファクト低減のための演算処理(アーチファクト低減演算と呼ぶ)を行う。このため、アーチファクト低減処理部204は、金属が存在する区間については、再構成演算部46に対して、再構成演算の前にそのようなアーチファクト低減演算を行う旨の指示を行う。これにより、再構成演算部46は、金属が存在する区間内の各スライス位置については、各投影データに対してアーチファクト低減演算を行い、その演算結果の各回転位置の投影データ群から再構成演算を行うことで、アーチファクトが低減されたCT画像を生成する。なお、アーチファクト低減演算としては、特許文献2に例示された平滑化処理を用いてもよい。また、投影データから低周波成分を除去して金属による高周波成分のみを抽出し、抽出した金属による高周波成分を投影データから除去する演算を、アーチファクト低減演算として用いてもよい。
【0042】
表示器32には、スカウト画像やCT画像が表示される。例えば、CT画像を表示する場合においては倍率(拡大率)を表す数値あるいはスケールなどを表示するのが望ましい。この構成によれば、画像を視覚的に判断する際に物体の大きさを評価することが可能となる。すなわち、例えば脂肪の量や腫瘍の大きさなどを定量的に判断することが可能となる。
【0043】
以上、一実施形態を説明した。
【0044】
ここで、大きく厚い金属が存在する区間では、X線減衰量が大きいのでアーチファクトが非常に大きくなり、上述したアーチファクト低減演算では十分にアーチファクトを抑圧することができない。このため、そのような区間については診断上あまり有益でないCT画像しか得られない。したがって、厚い金属の存在する区間について、CT画像を生成するための走査を行うことは、診断上の意義は薄い。また、そのような厚い金属が存在すると、X線の散乱も多くなるため、測定対象のスライス位置の外のX線被爆が多くなる。このようなことから、厚い金属が存在する区間はX線ビームの走査を取りやめ、CT画像の生成を行わないことが考えられる。
【0045】
一方、アーチファクト低減演算にてアーチファクトを十分に抑圧できる程度の薄い金属だけが存在する区間では、その演算で診断上有益なCT画像が得られるので、CT画像を生成した方がよい。
【0046】
このような検討に鑑みた改良例を以下に示す。この例では、図3に示すように、回転軸方向に沿った被検体の全長を、「通常区間」、「補正可能区間」、「補正困難区間」の3種類の区間に分類する。
【0047】
「通常区間」は、金属を含まない区間である。この例では、複数の方向のスカウト画像の全てについて区間内のX線減衰量の最大値が2未満であり、且つ少なくとも1つの方向のスカウト画像について 区間内のX線減衰量の最大値が0.4以上2未満であれば、その区間は通常区間である。ここで、少なくとも1つの方向のスカウト画像についての通常区間の減衰量を0.4以上としているのは、被検体の減衰量を考慮しているためである。減衰量が0.4未満の区間は被検体自体が存在しない区間と判断される。なお、X線の減衰量とは、X線の減衰の程度を表す値であり、例えば照射したX線の強度と検出したX線の強度の比(あるいはその比から計算された値。例えばその比の対数など)として計算される。減衰量は、減衰率、吸収量などと呼ばれることもある。
【0048】
「補正可能区間」は、薄い金属が存在する区間である。ここでいう「薄い」金属とは、X線の減衰の程度がアーチファクト低減演算によりアーチファクトを十分小さく補正できる程度に小さい金属、という意味である。したがって、そこでいう「薄い」とは、単に厚みをいうのではなく、金属の種類も考慮に入れた上で、X線の減衰の程度が上述の程度に小さいということをいうのである。この例では、複数の方向のスカウト画像の全てについて区間内のX線減衰量の最大値が5未満であり、且つ少なくとも1つの方向のスカウト画像について区間内のX線減衰量の最大値が2以上5未満であれば、その区間は補正可能区間である。
【0049】
「補正困難区間」は、厚い金属が存在する区間である。ここでいう「厚い」金属とは、X線の減衰の程度が、アーチファクト低減演算ではアーチファクトを十分小さく補正することができない程度に大きい金属、という意味である。この例では、複数の方向のスカウト画像の少なくとも1つについて、区間内のX線減衰量の最大値が5以上であれば、その区間は補正困難区間である。
【0050】
図4に、被検体302を0度の回転位置から見た場合のスカウト画像300Aと、90度の回転位置から見た場合のスカウト画像300Bとを示す。この例では、金属304の領域は0度でも90度でも減衰量が2以上5未満である。このため、金属304が含まれる区間Bは補正可能区間となる。一方、金属306の領域は0度でも90度でも減衰量が5以上である。このため、区間Dは補正困難区間である。また、金属308の領域は減衰量が0度では2以上5未満であるが、90度では5以上である。このため、区間Fは補正困難区間である。被検体の全長に沿ったその他の区間A、C、E、Gは、いずれも減衰量が0.4以上2未満なので、通常区間である。
【0051】
この改良例における区間設定部202及びアーチファクト低減処理部204の処理手順の例を、図5及び図6を用いて説明する。
【0052】
この手順では、区間設定部202は、異なるNの方向(Nは2以上の整数)についてのスカウト画像に基づき区間の判定を行う。スカウト画像を形成するN個の方向(回転位置)にはそれぞれ通し番号が付されているとする。区間設定部202は、図5に示すようにまずスカウト画像を作成する方向の番号nを1に初期化し(S10)、n番目の方向からのスカウト画像の形成をスカウト画像形成部200に指示する(S12)。なお、生成したスカウト画像に対し、ノイズ除去等のためのフィルタ処理(例えば平滑化フィルタ処理など)を行ってもよい。そして、区間設定部202は、スカウト画像形成部200が生成したスカウト画像から、各スライス位置(回転軸方向についての位置)における投影データ(X線センサアレイの各センサの検出値の並び)におけるX線減衰量の最大値を求める(S14)。なお、以下では、回転軸方向をZ軸方向と呼ぶ。当該スライス位置に減衰量の大きい金属が存在すれば、その最大値は大きい値となる。このような各スライス位置(Z方向位置)のX線減衰量の最大値の組を、回転軸方向についてのX線減衰量分布と呼ぶことにする。なお、S14においては、スライス位置についての投影データに対し特許文献1,2に示されるような低周波成分の除去を行い、低周波成分除去後の投影データから当該スライス位置におけるX線減衰量の最大値を求めるようにしてもよい。区間設定部202は、このようにして求めたスライス画像又はX線減衰量分布を、(例えば方向を示す番号nに対応づけて)記憶する。
【0053】
そして、区間設定部202は、N方向の全てについての処理が完了したかどうかを判定し(S16)、完了していなければ、nを1つ大きくしてS12以降の処理を繰り返す。
【0054】
N方向の全てについて処理が完了すると、それらN個の方向の各々についての回転軸方向に沿ったX線減衰量分布から、被検体の全長を、図3の条件に従って、複数の区間に分割する(S20)。この処理では、スライス位置(Z方向位置)ごとに、それらN個のX線減衰量分布におけるそのスライス位置での減衰量の値を調べ、それらN個の値の組合せが「通常区間」、「補正可能区間」、「補正困難区間」のいずれの条件に該当するかを判定し、その判定結果をそのスライス位置に対応づけて記憶する。この処理を全てのスライス位置について行ったあと、同一種類の区間に該当する互いに隣接するスライス位置同士を連結して連結成分を生成する。このようにして生成される各連結成分が、それぞれ該当する種類の区間となる。区間設定部202は、求めた各区間の種類と開始位置及び終了位置との組合せを表す区間情報を記憶する。
【0055】
そして、区間設定部202は、その区間情報に従って、実際の測定のためのスキャン計画を作成する(S22)。ここでは、例えば、通常区間と判定された各区間ではX線ビームの走査を行って通常の再構成演算を行い、補正可能区間と判定された各区間ではX線ビームの走査を行い、その結果得られる投影データにアーチファクト低減のための処理を行った後再構成演算を行い、補正困難区間と判定された区間ではX線ビームの走査を行わない(従って再構成演算も行わない)ことを示すスキャン計画が作成される。このスキャン計画がアーチファクト低減処理部204に渡される。アーチファクト低減処理部204は、スキャン(実測定)の開始指示を待つ(S24)
【0056】
スキャン開始指示があると、アーチファクト低減処理部204は、動作制御部44に対してX線ビームの走査ルーチンを開始させる(S26)。ここでは、被検体の開始端のスライス位置(Z位置)をZ=0とする。次に、現在のスライス位置Zが補正困難区間に該当するかどうかを判定する(S28)。
【0057】
該当する場合は、S30〜S36の処理をスキップしてS38に進み、Z方向の移動走査の終端位置に達しているかを判定し(S38)、達していなければ次のスライス位置に進む(S40)。すなわち、この場合は、動作制御部44は、アーチファクト低減処理部204からの指示に従い、X線ビームの照射は行わず(ガントリの回転は行ってもよい)、次のスライス位置に進むのである。これは、このような場合には、当該スライス位置の走査面内にアーチファクト低減処理では十分に抑圧できないほど影響の大きい金属が存在するため、診断に有益なCT画像が得られないからである。
【0058】
一方、現在のスライス位置Zが補正困難区間に該当しない場合は、動作制御部44は、アーチファクト低減処理部204からの指示に従い、当該スライス位置でのX線ビームの回転走査を実行する(S30)。これにより、当該スライス位置について、360度範囲内の全ての角度についての投影データが得られる。次に、アーチファクト低減処理部204は、現在のスライス位置Zが補正可能区間に該当するかどうかを判定する(S32)。ここで、該当すると判定した場合、それは当該スライス位置の走査面内には、アーチファクト低減処理により十分に低減可能な程度の薄い金属が存在することを意味する。すなわち、この場合は、アーチファクト低減処理により診断に十分利用可能なCT画像が得られるので、X線ビームを走査してCT画像を生成するのである。このために、アーチファクト低減処理部204は、再構成演算部46に対し、それら各角度の投影データについて、アーチファクト低減演算を実行させ(S34)、それらアーチファクト低減演算後の投影データ群を用いて再構成演算を実行させる(S36)。これにより、当該スライス位置についてCT画像が得られる。
【0059】
S32で現在のスライス位置Zが補正可能区間に該当しないと判定された場合、現在のスライス位置Zは通常区間に該当するということになる。この場合、当該スライス位置内には金属はないので、アーチファクト低減処理を行う必要がない。したがって、アーチファクト低減処理部204は、再構成演算部46に対し、アーチファクト低減処理なしで再構成演算を行わせる(S36)。これにより当該スライス位置のCT画像が得られる。
【0060】
S36の後、現在のスライス位置ZがZ方向の移動走査の終端位置に達しているかを判定し(S38)、達していなければ次のスライス位置に進む(S40)。そして、S38にて移動走査の終端位置に達したと判定された場合、一連の走査処理を終了する。
【0061】
図5及び図6に示した手順はあくまで一例に過ぎず、同様の処理内容を実現できる他の手順を用いてももちろんよい。
【0062】
以上に説明した例によれば、単一方向のスカウト画像では見落とす可能性のある金属を検出することができ、その金属によるアーチファクトに対して対策をとることができる。
【0063】
また、投影データに対する演算処理ではアーチファクトを十分に抑圧できないほど減衰の大きい金属が存在する区間(補正困難区間)については、X線照射を行わないので、不必要な被爆を低減することができる。また、このような区間については、(X線照射がないので)ガントリを(例えば回転させずに)素早く回転軸方向に送ることで、全体の測定時間を低減することができる。
【0064】
また、補正可能区間については、アーチファクト低減演算を利用してCT画像の生成を行うので、金属が存在する区間について一律にCT画像の作成を取りやめる方式と比べて、CT画像を作成する範囲を広げることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 測定部、12 演算制御部、18 ガントリ、24 容器、44 動作制御部、46 再構成演算部、200 スカウト画像形成部、202 区間設定部、204 アーチファクト低減処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線発生器とX線検出器とを含んだ測定部を被検体に対して回転中心軸回りに回転走査を行わせると共に、前記測定部と前記被検体との前記回転中心軸方向についての相対位置を変化させる移動走査を行うことで、前記被検体のCT画像を生成するCT画像生成手段と、
前記回転走査を行わずに前記移動走査を行うよう前記測定部を制御することにより、指定された方向から前記被検体を見た場合の二次元透過像であるスカウト画像を形成するスカウト画像形成手段と、
前記CT画像生成手段が前記被検体のCT画像を生成する前に、前記スカウト画像形成手段に、異なる複数の方向について、それぞれ当該方向から前記被検体を見た場合の前記被検体のスカウト画像を形成させ、それら各方向についてのスカウト画像の組合せから、前記被検体内の前記回転中心軸方向に沿った金属の分布区間を特定する金属区間特定手段と、
前記CT画像生成手段による前記CT画像の生成の際に、前記金属区間特定手段が特定した金属の分布区間については、金属によるアーチファクトを低減するための低減処理を行う低減処理手段と、
を備えるX線CT装置。
【請求項2】
前記金属区間特定手段は、前記金属が存在する区間を、前記各方向についてのスカウト画像の組合せに基づき、アーチファクト低減のための補正処理では十分に抑圧できない程度のX線減衰量を示す第1種類の区間と、アーチファクト低減のための補正処理でアーチファクトが十分に抑圧できる程度のX線減衰量を示す第2種類の区間と、に分類し、
前記低減処理手段は、前記第1種類の区間については、前記測定部にX線照射を停止させてCT画像の生成を行わないよう前記CT画像生成手段を制御し、前記第2種類の分布区間については、前記X線検出器の検出信号に対してアーチファクト低減のための補正処理を行うことでアーチファクトが低減されたCT画像を生成するよう前記CT画像生成手段を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−40284(P2012−40284A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185875(P2010−185875)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】