説明

ZnO系光機能素子及びその製造方法

【課題】ZnO系蛍光体の有する特性を阻害することなく、安定して製造できる構造のZnO系光機能素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のZnO系光機能素子1aは、基体10と、基体10上に配置されたZnOを基質とする発光層40と、発光層40に電界を印加するための一対の電極層20と、を備え、一対の電極層20は、基体10上に発光層40と並んで配置されている。更に、一対の電極層20の少なくとも一部は発光層40と基体10との間に入り込んで配置された構造とすることができる。本発明のZnO系光機能素子1aは、一対の電極層20を形成する電極層形成工程の後に、発光層40を形成する発光層形成工程を行うことで得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はZnO系光機能素子及びその製造方法に関する。更に詳しくは、発光効率に優れたZnO系光機能素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光による情報制御技術の進展がめざましい。例えば、薄膜の電気的励起(電圧印加、電流注入)により発光を得る電界発光型(エレクトロルミネッセンス)素子は、ディスプレー装置等に利用されるに至っている。この電界発光型素子に用いられる発光材料としては、各種窒化物及び各種酸化物等が知られており、下記特許文献1〜3ではZnOを基質とする発光層が開示されている。これらの素子でフォトルミネセンスを得るには電極を要しないが、エレクトロルミネセンスを得る場合には電界を印加するための電極を素子内に要することとなる。
【0003】
従来の電界発光型素子1fでは、図8に示すように、基板10、ITO等の透明電極層20、絶縁層30、発光層40、絶縁層30、及び透明電極層20の順で全ての層が積層された構造が採用される(電界の印加は各電極層に接続されたボンディング50等による)。即ち、基板上に各機能層が全て一方向に向かって重ねられた積層構造となっている。このような積層構造を有する発光素子は製造効率がよく、発光特性にも優れるため多く用いられている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−323818号公報
【特許文献2】特開2005−197327号公報
【特許文献3】特開2005−268196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ZnOを基質とする発光層を用いる場合に上記積層構造を採用すると、種々の問題を生じることが分かった。ZnOは優れた発光特性を有するものの、電気特性等が変化し易いという側面を有する。このため、例えば、発光層表面に電極や絶縁層をスパッタ法により積層形成するとその物理的衝撃によって発光層と隣接層(電極層及び絶縁層等)との界面で化学変化を生じる場合がある。また、発光層と隣接層とが大面積で接することとなるため隣接層を構成するイオン及び原子が、発光層にマイグレーションなどにより混入する場合がある。これらの現象を生じるとZnOを基質とする発光層の光学特性及び電気特性が変化し、目的波長の光を得られなくなったり、理論的に得られてよいはずの発光強度に比べて十分な発光効率が得られなかったり、抵抗値が減じた場合には消費電力が増大したり、と種々の問題を生じることが分かった。また、製造面においてZnO系発光層は、他の材質を用いた発光層に比べて歩留まりが小さく、コスト高であるという問題がある。
本発明は、上記問題を解決するものであり、ZnO系蛍光体の有する特性を阻害することなく、安定して製造できる構造のZnO系光機能素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、理論的発光強度に対して十分な発光効率が得られないという問題は、ZnO基質である発光層に対して異層を積層形成した場合に、これらの層の界面においてZnOの性質・性状等が影響を受けるためであると考えた。このため、光機能素子の構造において、発光層上に異層を形成することなく電界印加できる構造とすれば、同材質の発光層を備える前記積層構造の光機能素子よりも優れた発光効率が得られると考えた。
そして、本発明者らは予め離間させて形成した電極層上に跨るように発光層を積層形成することで、従来に比べて優れた発光効率が得られ、尚かつ歩留まりよく光機能素子を製造できることを知見し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)基体と、
該基体上に配置されたZnOを基質とする発光層と、
該発光層に電界を印加するための一対の電極層と、を備え、
該一対の電極層は、該基体上に該発光層と並んで配置されていることを特徴とするZnO系光機能素子。
(2)上記一対の電極層は、少なくとも一部が上記発光層と上記基体との間に入り込んでいる上記(1)に記載のZnO系光機能素子。
(3)少なくとも一方の上記電極層と、上記発光層と、の間に絶縁層を備える上記(1)又は(2)に記載のZnO系光機能素子。
(4)上記一対の電極層の間は、5μm〜2mmである上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載のZnO系光機能素子。
(5)基体と、
該基体上に配置されたZnOを基質とする発光層と、
該基体上に配置された一対の電極層と、を備え、
該一対の電極層は、該発光層の端部から電界を印加できるように、該発光層の端部に配置されているZnO系光機能素子の製造方法であって、
上記一対の電極層を形成する電極層形成工程と、
上記発光層を形成する発光層形成工程と、を備え、
上記発光層形成工程は、電極層形成工程の後に行うことを特徴とするZnO系光機能素子の製造方法。
(6)上記電極層形成工程は、少なくともスパッタリングを伴う工程である上記(5)に記載のZnO系光機能素子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のZnO系光機能素子によれば、ZnO系蛍光体の有する特性を阻害することなく、安定して製造できる構造とすることができる。また、優れた発光効率及び安定した発光を得ることができる。
一対の電極層の少なくとも一部が発光層と基体との間に入り込んでいる場合は、より優れた発光効率及び安定した発光を得ることができる。
少なくとも一方の電極層と、発光層と、の間に絶縁層を備える場合は、発光強度を向上させることができる。
一対の電極層の間が5μm〜2mmである場合は、更に優れた発光効率及び安定した発光を得ることができる。
本発明のZnO系光機能素子の製造方法によれば、ZnO系蛍光体の有する特性を阻害することなく、安定してZnO系光機能素子を製造できる。また、得られるZnO系光機能素子は優れた発光効率及び安定した発光を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
[1]ZnO系光機能素子
本発明のZnO系光機能素子は、基体と、該基体上に配置されたZnOを基質とする発光層と、該発光層に電界を印加するための一対の電極層と、を備え、該一対の電極層は、該基体上に該発光層と並んで配置されていることを特徴とする。
【0010】
上記「基体」は、後述する電極層及び発光層を支持する部分である。この基体は、他層(電極層及び発光層等)を支持する目的のみに設けられているものであってもよく、他の機能を有する他機能層の一部であってもよい。
基体を構成する材料は限定されず、例えば、絶縁体材料及び/又は半導体材料とすることができる。絶縁材料としてはAl、SiO、SrTiO及びMgO等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、半導体材料としてはSi、AlN、GaN及びSiC等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0011】
また、基体を構成する材料の状態は特に限定されず、単結晶状態、多結晶状態及び非晶質状態が挙げられる。これらのうちの1種のみからなる状態であってもよく、これらのうちの2種以上が共存された状態であってもよい。更に、基体の構造は特に限定されず、単層構造、複層構造及び傾斜構造等が挙げられる。このうち複層構造の基体としては、(1)ZnO(発光層の主構成成分)と基体の表面(発光層が形成される表面)との格子整合を向上させるために、該表面に格子定数がZnOにより近い(基体の他部を構成する材料に比べて)材料を積層した基体、(2)最表層に半導体層が形成された基体(SiO及びAl等の絶縁層上にSi、SiC及びAlN等の半導体層が形成されている)、(3)屈折率の異なる複数の層が積層された基体、及び、屈折率がZnO含有部に比較して基体等の、発光層から放出された光を目的とする発光方向へ反射するための反射能を有する基体などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、上記のうち傾斜構造の基体とは、基体を構成する構成成分及び/又は構成成分の状態等が傾斜的である基体である。即ち、例えば、発光層と接する基体表面に向かって、裏面側から表面側へ向かって次第に結晶度が高くなっている基体が挙げられる。
【0012】
また、基体は、構成成分及びその構造(単層構造、複層構造及び傾斜構造等)等に関わらず、発光層から発せられる光の透過の有無はとわない。発光層からの光に対して透光性を有する基体を備える光機能素子は、回路等の光路の妨げがなく特に広い面積にわたって発光できる。このような透光性の材料としては、Al及びSiO等が挙げられる。
尚、基体全体又は発光層が形成される少なくとも基体表面に単結晶シリコンを用いた場合には、汎用のシリコンプロセス技術を用いて効率よく光機能素子の製造を行うことができる点において優れている。
【0013】
この基体の形状及び大きさ等は特に限定されず、例えば、板状であってもよく、ブロック状であってもよい。また、基体を構成する材料により適宜の厚さとすればよいが、基体は0.3μm〜10mmとすることができる。この範囲では発光層及び電極層を支持体としてのより十分な強度を発揮できる。
【0014】
上記「発光層」は、ZnOを基質とする層である。この発光層は、通常、ZnOを90質量%以上含有する。ZnOは半導体材料であり、更に、優れた紫外発光材及び紫外線吸収材でもある。また、このZnO含有部は、単結晶、多結晶及び非晶質等のいずれの状態であってもよいが、単結晶又は多結晶であることが好ましい。特に発光強度に優れるからである。
【0015】
この発光層は、ZnO以外に他の成分(Zn及びO以外の他の元素)を含有できる。他の成分としては、蛍光色(蛍光波長)を各々固有の色(波長)とすることができる元素(蛍光元素)が挙げられる。このような蛍光色を変化させることができる元素としては稀土類元素(Er、Yb、Nd、Pr、Tm、Eu、Tb並びにCe等)、カルコゲン元素(S、Se並びにTe等)及びMn等の発色元素が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、発光層をn型半導体化するためのGa、B及びAl等の元素(n型半導体化元素)が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、発光層をp型半導体化するためのN、及び、GaとN等の元素(p型半導体化元素)が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、これらの各元素は酸化物として含有されてもよく、その他の化合物として含有されてもよく、ZnOに固溶して含有(Znとの複酸化物)されてもよい。更にこれらの成分は、ZnOに対して均一分布して含有されてもよく、不均一に分布して含有されてもよい。
【0016】
上記のなかでも上記発色元素のうちの少なくとも1種が含有されることが好ましく、更には少なくともErが含有されることが好ましい。ZnOに発色元素が含有されることにより、紫外線だけでなく可視光線、赤外線及び近赤外線等の他の波長の光を用いることができるためより有用とすることができる。更に、Erが含有される場合には1.5μm近傍(1.54μm程度)の波長の光を得ることができ、特に光通信用途において有用とすることができる。
上記のうち、Erが含有される場合、その含有量は特に限定されないが、発光層に含まれるZnを100atm%とした場合に、Erは2atom%以下(より好ましくは0.6atom%以下、更に好ましくは0.35atom%以下、通常0.01atom%以上)であることが好ましい。2atm%以下では優れた発光強度が得られるからである。
【0017】
更に、このErはZnOにどのような手段で含有されたものであってもよいが、ドーピングにより含有させたものであることが好ましい。即ち、発光層にはErがドーピングされて含有されていることが好ましい。即ち、例えば、スパッタリング法を用いて本発明の発光材料を得ようとする場合等に、ターゲット材として、Er酸化物を用いた場合にはErとOとが共ドープされる。また、単体金属Erを用いた場合にはErのみのドープとなる。更に、その他のEr化合物を用いた場合にはErとEr化合物中に共存する元素が共ドーピングされることとなる。これらのいずれの場合も含むものである。
また、ErのドープによるZnO含有部内のEr含有は特に限定されないが2atom%以下(より好ましくは0.6atom%以下、更に好ましくは0.35atom%以下、通常0.01atom%以上)とすることが好ましい。
【0018】
この発光層は、通常、板形状をなす。但し、その平面形状は特に限定されず、自在な形状とすることができる。また、発光層の厚さは特に限定されないが、3μm以下(好ましくは0.3〜3μm、より好ましくは0.6〜1μm)であることが好ましい。この範囲では発光層内のクラック発生を効果的に抑制できる。
また、この発光層は、基体表面に1箇所のみを有してもよく、2箇所以上を有してもよい。
【0019】
上記「電極層」は、発光層に電界を印加するためのものである。また、この電極層は少なくとも一対を有する。即ち、少なくとも2つ以上の互いに共通しない領域を有する電極層を有する。この一対とは、発光層1つに対して少なくとも一対を有する意味である。即ち、例えば、発光層を基体表面に2箇所(2つ)備える場合には、各々の発光層に対して少なくとも一対の電極層を備えるため、光機能素子全体では2対以上の電極層を備えることとなる。
【0020】
電極層を構成する材料は特に限定されず、種々の導電性材料を用いることができる。即ち、例えば、各種金属{貴金属(Au、Ag、Pt、Pd、Ir、Ru及びRh等)、その他の金属(Cu、Ni、Al、Mg及びLi)、合金(Mg−Ag合金及びNa−K合金等の前記貴金属及びその他の金属のうちの2種以上による合金)}の単体、並びにITO(Indium Tin Oxide)、CuI、SnO、ZnO等の金属化合物などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
電極層の形状は特に限定されないが、図1、図3及び図7に示すように凸字形状等とすることができる。電極層の形状が凸字形状である場合は、ボンディングワイヤ等の外部装置との接続を行う接続手段との接合面積を十分に確保できる。更に、電極層の大きさは特に限定されず、発光層に対して十分な電界の印加ができる大きさであればよい。通常、発光層の発光範囲は一対の電極層に挟まれている部位であるため、一対の電極層によりできるだけ広範囲に発光層が挟まれるように形成されていることが好ましい。即ち、例えば、一対の電極層間に挟まれる発光層部分が発光層全体に対して70%(面積割合において)以上(より好ましくは90%以上、100%であってもよい)とすることが好ましい。
また、電極層の厚さは特に限定されないが100nm以上とすることができる。この範囲であればより均質な(アイランド化等を生じない)電極層を得ることができる。
【0022】
更に、発光層に電界を印加する一対の電極層間の距離は特に限定されないが5μm〜2mmが好ましい。この範囲では高い発光効率と低消費電力とを両立させ易い。この電極間距離は、10μm〜2mmがより好ましく、10μm〜1.5mmが更に好ましく、50μm〜1.5mmがより更に好ましく、250μm〜1.0mmが特に好ましく、250μm〜800μmがより特に好ましい。
【0023】
電極層の形成方法は特に限定されず、物理的方法及び化学的方法のいずれを用いてもよい。物理的方法としては、スパッタ法、真空蒸着法及びイオンプレーティング法等が挙げられる。一方、化学的方法としては、気相反応法{熱CVD、プラズマCVD、光CVD、エピタキシャルCVD、アトミックレイヤーCVD、有機金属気相成長法(MOCVD)及び触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等を含む}等が挙げられる。更には、分子線エピタクシー法等が挙げられる。これらの方法は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうちでは物理的方法を用いることが好ましい。物理的方法を用いて電極層を形成する場合には、本発明の光機能素子構造とすることで発光効率を特に効率よく向上させることができる。
また、上記各種方法においては、ターゲット材の加熱を行ってもよく、行わなくてもよい(通常、スパッタ法では加熱を行わない)。ターゲット材の加熱を行う場合の熱源は特に限定されず、レーザー、電子線及び抵抗加熱源等を用いることができる。
【0024】
本発明のZnO系光機能素子では、前述のように発光層と一対の電極層とが並んで配置されている。「並んで配置されている」とは、これら3層(一対の電極層と発光層と)が互いに平面的に配置され、一対の電極層同士(即ち、一対の電極層を構成する第1電極層と第2電極層と)が互いに上下方向に重なる位置(平面視した場合)に配置されていない(図1〜7参照。後述するように電極層と発光層とは重なっていてもよい)ことを意味する。即ち、本発明のZnO系光機能素子は、上記3層が積層されて配置されていない素子である。但し、上記平面的に配置されるとは、同一平面上に並んだ配置(図2、4、5及び6参照)、及び非同一平面に並んだ配置の両方を含むものとする。また、図7に示すように隣接された発光層間で兼用される電極層を備えることができる。
【0025】
更に、一対の電極層は発光層と重ならないように配置(図6参照)されてもよいが、一対の電極の少なくとも一部が発光層と基体との間に入り込んで配置(図2、4及び5参照)することができる。上記入り込んだ配置は、電極層が発光層よりも先に形成された場合に生じる形態である。この入り込んだ配置は、後述する本発明の製造方法(電極層形成工程の後に発光層形成工程を行う)により得ることができる。尚、この発光層と電極層との重なりを有する場合は、電極層の全面であってもよいが一部であることが好ましい。一部であることによって、全面である場合に比べて電界印加効率が良く、消費電力を抑制できるからである。
【0026】
上記「絶縁層」は、少なくとも一方の電極層と発光層との間に配置される層である。この絶縁層の絶縁性は特に限定されないが、抵抗率で10〜1013Ωcmであることが好ましい。また、絶縁層は、一部の電極層と発光層との間のみに設けられていてもよいが、発光層に電界を印加するための全ての電極層と発光層との間に形成されていることが好ましい。この絶縁層を備えることで、発光を安定化させることができる。
【0027】
また、絶縁層の厚さは特に限定されないが、通常、50nm以上である。更に、絶縁層を構成する絶縁材料の種類は特に限定されないが、Al、Ta、Y及び各種チタン酸塩(チタン酸バリウム、チタン酸鉛など)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、この絶縁層は1層のみを設けてもよく2層以上を設けてもよい。
【0028】
また、この絶縁層を備える場合には、電極層と絶縁層とは重なってもよく(図3、4及び5参照)、重なっていなくてもよい(図6参照)。更に、絶縁層と発光層とは重なってもよく(図3、4及び5参照)、重なっていなくてもよい(図6参照)。これらのなかでは、少なくとも電極層と絶縁層とが重なっていることが好ましい。尚、この重なりは、電極層形成工程の後に、絶縁層形成工程を行い、更にその後に発光層形成工程を行うことで得ることができる。即ち、電極層及び絶縁層よりも発光層を後で形成することで得ることができる。
【0029】
本発明のZnO系光機能素子(ZnO系光機能パネル)は、1つの基体に対して、1つの発光層を備えてもよいが、2つ以上の複数の発光層を備えることもできる。複数の発光層を備える場合、その構造は特に限定されないが、例えば、図7に示す構造が挙げられる。即ち、L字型(図7における21)、凸字型(図7における22)及び十字型(図7における23)の各電極層と、これらの電極層のうちの隣接された各突起部間に配置された発光層とを、備える構造である。これにより、大面積の発光パネルを安定的に得ることもできる。また、各発光層にドーピングする元素を変更することで3原色を発光させることもできる。この構造は製造上簡便であり、尚かつ歩留まりを向上させ、安定的に高効率な光機能素子(光機能パネル)を得ることができる。
【0030】
本発明のZnO系光機能素子は、上記基体、一対の電極層、発光層及び絶縁層以外の他部を備えることができる。他部としては、コーティング層(発光層の全面又は一部、及び一対の電極層の全面又は一部、を覆って防湿性を発揮する層等)、光学レンズ等が挙げられる。これらの他部は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0031】
[2]ZnO系光機能素子の製造方法
本発明のZnO系光機能素子の製造方法は、基体と、該基体上に配置されたZnOを基質とする発光層と、該基体上に配置された一対の電極層と、を備え、該一対の電極層は、該発光層の端部から電界を印加できるように、該発光層の端部に配置されているZnO系光機能素子の製造方法であって、
上記一対の電極層を形成する電極層形成工程と、上記発光層を形成する発光層形成工程と、を備え、上記発光層形成工程は、電極層形成工程の後に行うことを特徴とする。
更に、上記製造方法では、上記電極層形成工程を、少なくともスパッタリングを伴う工程とすることができる。
本方法にいうZnO系光機能素子は、前記本発明のZnO系光機能素子をそのまま適用できる。
【0032】
上記「電極層形成工程」は、一対の電極層を形成する工程である。この電極の形成方法は、前述のように特に限定されないが、前記物理的方法を用いることが好ましい。物理的方法を用いて電極層を形成する場合には、本発明の光機能素子構造とすることで発光効率を特に効率よく向上させることができるからである。
【0033】
上記「発光層形成工程」は、発光層を形成する工程である。この発光層形成工程は電極層形成工程の後に行う工程である。この発光層の形成方法は特に限定されないが、前記電極層の形成と同様の方法を用いることができる。即ち、物理的方法及び化学的方法のいずれを用いてもよい。物理的方法としては、スパッタ法、真空蒸着法及びイオンプレーティング法等が挙げられる。一方、化学的方法としては、気相反応法{熱CVD、プラズマCVD、光CVD、エピタキシャルCVD、アトミックレイヤーCVD、有機金属気相成長法(MOCVD)及び触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等を含む}等が挙げられる。これらの方法は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、上記各種方法においては、ターゲット材の加熱を行ってもよく、行わなくてもよい(通常、スパッタ法では加熱を行わない)。ターゲット材の加熱を行う場合の熱源は特に限定されず、レーザー、電子線及び抵抗加熱源等を用いることができる。
【0034】
上記発光層形成工程において、化学的方法を用いる場合、Zn源としては、単体金属亜鉛、無機亜鉛化合物、及び有機亜鉛化合物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、O源として酸素ガス及び各種酸素含有化合物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらは各々の方法において適した材料を適宜選択することが好ましい。尚、各単体金属亜鉛を用いる場合、このZn源は純度が高い程好ましい(通常3N以上であり、好ましくは4N以上、更に好ましくは5N以上)。
【0035】
また、前記蛍光元素をドープする場合、蛍光元素源としては、各種蛍光元素の酸化物、各種蛍光元素の単体金属、その他蛍光元素の無機化合物、及び有機化合物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、O源として酸素ガス及び各種酸素含有化合物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらは各々の方法において適した材料を適宜選択することが好ましい。特にErをドープする場合、Er源としては単体金属エルビウムを用いることができ、これを用いる場合は純度が高いもの程好ましい(通常3N以上であり、更に好ましくは4N以上)。
更に、前述の絶縁層を備える場合も上記と同様にして物理的方法及び化学的方法を用いて形成できる。
【0036】
本方法では、発光層形成工程において用いるマスクの位置を調整することで、前記一対の電極層の少なくとも一部が発光層と基体との間に入り込んだ形態のZnO系光機能素子を得ることができる。
【0037】
本発明の製造方法では、電極形成工程、発光層形成工程及び絶縁層形成工程以外にも他の工程を備えることができる。他の工程としては、発光層を熱処理する熱処理工程が挙げられる。この熱処理工程を備えることで、ZnO結晶粒界に偏析した不純物等を熱処理によりZnO結晶中に拡散させることができ、紫外線発光のみならず可視領域又は赤外領域における発光を発現させることができる。熱処理工程を行う場合は、発光層形成工程の後に行うことができる。また、加熱の程度は特に限定されないが、温度500〜1100℃且つ加熱時間1分以上(好ましくは600〜900℃において10分以上)であることが好ましい。加熱雰囲気は特に限定されず、酸化雰囲気(大気を含む)、還元雰囲気及び不活性雰囲気のいずれであってもよい。また、加熱時には、加圧を行ってもよく、行わなくてもよい。
更に、この熱処理工程を行うZnO系光機能素子では、電極層を金(Au)で形成することが好ましい。これにより加熱温度を高温化でき、発光強度を向上させることができるからである。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例
[1]ZnO系光機能素子(本発明品−図1及び2)の作製
(1)基体の脱脂処理
透明なSiOガラス基板(厚さ0.5mm×長さ30mm×幅20mm)を脱脂処理(アセトン超音波洗浄10分、エタノール超音波洗浄10分、純水超音波洗浄10分をこの順で)した後、純水を用いて流水洗浄し、次いで、窒素ガスを噴きつけて乾燥させた。その後、洗浄乾燥したこの基体に電極のパターン形状(図1参照)が形成されたメタルマスクを取り付け、これ(基体とメタルマスクとを一体に)をマグネトロンスパッタリング装置(ユニバーサルシステムズ社製、形式「UPS−S30型」)の基体ホルダーに固定した。
【0039】
(2)電極層形成工程
その後、上記基板を温度を200℃まで加熱し、酸化物ITOターゲットを用いて、ITOからなる一対の電極層を形成した。この電極層は、図1に示す凸字形状をなし、厚さ200nmであり、電極間距離は0.5mm、幅(発光層との接触幅)4mmである。
【0040】
(3)発光層形成工程
次いで、上記電極層用のメタルマスクに換えて、四角形状の孔が形成された発光層用のメタルマスクを基板に取り付け、上記マグネトロンスパッタリング装置の基体ホルダーに固定した。その後、酸化雰囲気中でZnO系蛍光体薄膜を上記電極層の端部と重なるように形成した。発光層の形成は、Arガスを17sccm及びOガスを3sccmでチャンバー内に導入し、30mtorrの圧力に設定したチャンバー内でZn(純度5N)ターゲットに100WのRF電圧を印加し、Er(純度4N)ターゲットには6WのRF電圧を印加した。ErにはZnと同時に別のスパッタ銃を用いてスパッタリングを行った。更に形成に際しては、プラズマを発生させ、プラズマが安定した後、基板とターゲット間を隔てるシャッターを開き、製膜を開始した。上記状態で1時間保持して製膜を終え、基体の温度が室温にまで低下させて、得られたZnO系光機能素子を取り出した。得られたZnO系光機能素子(本発明品)における発光層は、厚さ500nmであった。
【0041】
[2]ZnO系光機能素子(比較品−図8)の作製
上記[1](1)と同様にして基体の脱脂処理を行った。
その後、メタルマスクは異なる(電極形状が異なる)が上記[1](2)と同様に基体表面に電極層を形成した。次いで、上記[1](3)と同様に上記電極層の表面に発光層を積層した。その後、上記[1](2)と同様に上記発光層の表面に電極層を形成して、基体(本発明品と同じ)、電極層(長さ20mm×幅15mm×厚さ200nm)、発光層(長さ8mm×幅8mm×厚さ1μm)及び電極層(長さ7mm×幅7mm×厚さ200nm)の順で積層された積層構造のZnO系光機能素子(比較品)を得た。
【0042】
[3]各ZnO系光機能素子の発光強度の評価
上記[1]で得られたZnO系光機能素子の一対の電極間に電圧50VAC(電界強度:100V/mm)を印加した。その結果、波長1.5μmの近赤外線が観測された。また、ZnO光機能素子から発せられた光は、集光した後、光学フィルターL37を通過させてから回折格子分光器(日本分光株式会社製、形式「G−25C型」)に導入し、この分光器を通した光を赤外線用検出器{APPLIED DETECTOR社製、品名「IR Detector(Geディテクター)model 403L」}で検出して得られた電圧をロックインアンプに導入して測定を行った。その結果、発光強度はディテクターにおける感度で0.2(任意単位)であった。一方、同様にして測定した比較品の発光強度は0.01であった。即ち、本発明品の発光強度は比較品に対して20倍以上の発光強度が得られていることが分かる。
【0043】
また、比較品では、電界印加を行ってから約10秒間で発光現象が確認できなくなった。これに対して本発明品では、1分間以上にわたる電界印加時間のあいだ発光し続け、1分経過後に電界印加を停止して初めて発光現象が確認できなくなった。この結果から、本発明のZnO系光機能素子は、安定して確実に発光させることができ、更には長寿命化(高信頼性)を達することができることが分かる。
【0044】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。即ち、例えば、本発明のZnO系光機能素子では、上記3層が並んだ配置の上で、発光層上に電極層が一部だけ重なった配置となっていてもよい。この場合は、図2に示す構造に比べてより優れた発光強度及び発光安定性は得られ難いものの、従来例である図8に示す構造に比べれば優れた発光強度、発光安定性及び長寿命が得られる。これは発光層と電極層との接触面積が従来例に比べて小さくできることに起因するものと考えられる。このような構造のZnO系光機能素子を得る場合には、上記電極層形成工程を上記発光層形成工程の後に行い、且つ、発光層のうちの電極層との接触又は重なりを避けたい部分をマスキングした上で、上記電極層工程を行うことで、電極層形成に伴う発光層へのダメージを低減でき、上記効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のZnO系光機能素子は、光関連分野に広く利用される。例えば、変調素子及び増幅素子等として利用される。これらの変調素子及び増幅素子は、例えば、光通信、光変換(紫外光を近赤外光へ変換、近赤外光を紫外光へ変換等)及び光演算等に用いることができる。また、発光ダイオード用光素子、レーザー発振器用光素子及び共振器用光素子等として利用される。これら各光素子は、例えば、光通信、光記録(読み取り・書き込みを含む)及び光表示(自身の発光及び蛍光体の励起源等として利用)等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のZnO系光機能素子の一例の模式的な平面図である。
【図2】本発明のZnO系光機能素子の一例の模式的な断面図である。
【図3】本発明のZnO系光機能素子の他例の模式的な平面図である。
【図4】本発明のZnO系光機能素子の他例の模式的な断面図である。
【図5】本発明のZnO系光機能素子の更に他例の模式的な断面図である。
【図6】本発明のZnO系光機能素子の更に他例の模式的な断面図である。
【図7】本発明のZnO系光機能素子の更に他例の模式的な平面図である。
【図8】従来のZnO系光機能素子の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1a、1b、1c、1d、1e及び1f;ZnO系光機能素子(1f;従来品)、10;基体、20、21、22及び23;電極層、30;絶縁層、40;発光層、50;ボンディング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
該基体上に配置されたZnOを基質とする発光層と、
該発光層に電界を印加するための一対の電極層と、を備え、
該一対の電極層は、該基体上に該発光層と並んで配置されていることを特徴とするZnO系光機能素子。
【請求項2】
上記一対の電極層は、少なくとも一部が上記発光層と上記基体との間に入り込んでいる請求項1に記載のZnO系光機能素子。
【請求項3】
少なくとも一方の上記電極層と、上記発光層と、の間に絶縁層を備える請求項1又は2に記載のZnO系光機能素子。
【請求項4】
上記一対の電極層の間は、5μm〜2mmである請求項1乃至3のうちのいずれかに記載のZnO系光機能素子。
【請求項5】
基体と、
該基体上に配置されたZnOを基質とする発光層と、
該基体上に配置された一対の電極層と、を備え、
該一対の電極層は、該発光層の端部から電界を印加できるように、該発光層の端部に配置されているZnO系光機能素子の製造方法であって、
上記一対の電極層を形成する電極層形成工程と、
上記発光層を形成する発光層形成工程と、を備え、
上記発光層形成工程は、電極層形成工程の後に行うことを特徴とするZnO系光機能素子の製造方法。
【請求項6】
上記電極層形成工程は、少なくともスパッタリングを伴う工程である請求項5に記載のZnO系光機能素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−98385(P2008−98385A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278090(P2006−278090)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【Fターム(参考)】