説明

Zr添加鋼のノズル閉塞抑制方法および微細酸化物分散鋼の製造方法

【課題】溶鋼中のZrO介在物の分散状態を粒径分布が細かい状態にして、大規模な設備を導入することなく、かつ生産性を低下させることなく、連続鋳造時のZr添加鋼のノズル閉塞を確実に抑制する。
【解決手段】環流型真空脱ガス装置において、製鋼温度域でAlおよびTiで脱酸することにより溶鋼中酸化物をAl−Ti系に制御し、かつ、溶鋼中全酸素濃度を0.008%以下とした溶鋼に、式(1):0.04≦Zr添加量(kg)/(溶鋼重量(kg)×全酸素濃度(%))≦0.07を満たす量のZrを添加して、C:0.005〜0.2%、Si:0.5%以下、Mn:0.5〜2.0%、sol.Al:0.005%以下、Ti:0.005〜0.03%、Zr:0.002〜0.020%、O:0.008%以下、N:0.001%以上0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなるZr添加鋼とし、このZr添加鋼を鋳造する。鋳造時のノズル閉塞が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Zr添加鋼のノズル閉塞抑制方法および微細酸化物分散鋼の製造方法に関し、具体的には、Zr添加鋼中のZrO介在物の分散状態を、粒度分布の細かい状態に制御することによって、連続鋳造時のノズル閉塞を抑制もしくは解消することができるZr添加鋼のノズル閉塞抑制方法および微細酸化物分散鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼中酸化物系介在物は、鋼の製造工程において不可避的に生成して鋼中に分散する、鋼母材とは異なる相である。大半の酸化物系介在物は、溶鋼段階で生成し、高温でも炭化物や窒化物よりも安定であることから、鋼質の改善技術に応用することが注目されている。その一方で、溶鋼中の酸化物系介在物は、高温でも安定であるため、連続鋳造時に浸漬ノズルに付着してその生産性を低下させることがある。特に、ZrO介在物は連続鋳造時にノズル閉塞を起こし易く、これを含む鋼種は難鋳造材として知られる。
【0003】
Zrを含む溶鋼では、特許文献1の段落0003に記載されるように、ZrOにより連続鋳造時に浸漬ノズル詰まりが頻発して連続鋳造が困難になる。浸漬ノズルの閉塞を抑制するための手段として、(a)浸漬ノズルに不活性ガスを吹込むこと、(b)電磁攪拌により流動を付与すること、(c)浸漬ノズルを外部から加熱して酸化物の付着を防ぐこと等が知られる。
【0004】
例えば、特許文献2には、タンディッシュからスライディングノズルを介して溶鋼を連続鋳造鋳型に鋳込む際に、スライディングノズルプレート若しくはその部において溶鋼に電磁攪拌を与え、そこに対流する溶鋼を強制流動させることによってノズルの閉塞を防止する方法に係る発明が開示されている。
【0005】
特許文献3には、溶鋼の脱酸処理工程において、Alを添加した後に、Alを添加する前の溶鋼中フリー酸素濃度に合わせてZrを添加するによって、粗大なサイズの介在物、特にアルミナクラスターを凝固直前に微細化する方法に係る発明が開示されている。この発明によれば、Zrを添加することによってアルミナクラスターが微細化され、これにより、ノズル詰まりを防止できるとしている。
【0006】
さらに、特許文献4には、製鋼温度域で溶鋼中のSiよりも酸素との親和力が強い元素の中から選ばれた1種以上を脱酸元素として溶鋼に添加する操作を行った後、溶鋼に酸素を供給できる酸素源を添加する操作1とその後にSiよりも親和力が強い元素の中から選ばれた1種以上を脱酸元素として溶鋼に添加する操作2とを、それぞれ1回以上繰り返すこと、すなわち、溶鋼への酸素源と脱酸剤との供給順序および供給方法を適正化し、これらの供給操作を繰り返すことによって、酸化物を多量にかつ安定的に微細分散させる方法に係る発明が開示されている。この発明によれば、Zrと酸素源を添加する操作を繰り返すことにより微細なZrOを分散させることが可能になるので、ノズル閉塞を起こすことなく連続鋳造を行うことができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−101259号公報
【特許文献2】特開昭61−60248号公報
【特許文献3】特許第3647969号公報
【特許文献4】特開2007−162085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2により開示された発明を現実に実施するためには、大規模な設備が必要であり、設備費が嵩む。
特許文献3により開示された発明によれば、アルミナクラスターは微細化されるものの、添加したZrが最大粒径120〜350μmのZrOを形成することになるため、単にZrを添加するだけではZr添加鋼におけるZrOに起因するノズル閉塞を抑制できない。
【0009】
さらに、特許文献4により開示された発明では、Zrおよび酸素源を複数回添加する操作を行う必要があるために溶製に時間が掛かり、溶製コストが嵩む。
本発明は、従来の技術が有するこれらの課題に鑑みてなされたものであり、大規模な設備を必要とすることなく、溶鋼中酸化物系介在物の分散状態を適切に制御することによって、Zr添加鋼のノズル閉塞を抑制もしくは解消することができるZr添加鋼のノズル閉塞抑制方法および微細酸化物分散鋼の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが、Zrを添加した溶鋼を鋳造した後の浸漬ノズルの内壁における付着物を詳細に調査した結果、付着物はZrO介在物を主とする酸化物および地金により構成され、その酸化物の大きさは、粒子径(円相当径)が5μm程度よりも大きいものが大部分であり、粒子径(円相当径)が1μm以下の小さい酸化物は殆ど観察されなかった。この結果より、本発明者らは、ノズル閉塞を起こし易いと考えられるZrO介在物であっても、その粒子径が1μm以下の細かい介在物は浸漬ノズルに付着しないため、溶鋼中のZrO介在物の量が同じであってもZrO介在物の分散状態が細かい粒径分布である場合にはノズル閉塞は発生しないこと、すなわちZr含有鋼であっても溶鋼中のZrO介在物の分散状態によってはノズル閉塞を起こすことなく鋳造できることを知見した。
【0011】
本発明者らは、Zr含有鋼のノズル閉塞挙動を、酸化物系介在物の分布状態という従来とは異なる観点から鋭意検討し、ノズル閉塞しなかった条件およびノズル閉塞した条件のそれぞれについて溶鋼段階および鋳片段階それぞれにおけるZrO介在物の分散状態を調査したところ、ノズル閉塞しなかった条件とノズル閉塞した条件との間には、粒子径が1μm以下の小さいZrO介在物の分散量に関して明確な相違が認められた。
【0012】
本発明者らはさらに鋭意検討を重ねた結果、溶鋼中のZrO介在物の微細化挙動に関して、以下に列記する知見(1)〜(3)を得た。
(1)酸素源
溶鋼中の酸素源は、一般的には、溶存酸素、酸化物系介在物として存在する酸素、耐火物やスラグ中の酸素がある。溶鋼に合金元素が添加された場合における酸化物系介在物の生成経路は、その合金元素の酸素との親和力の違いによって相違し、その酸素源の寄与も異なる。すなわち、合金元素の添加により溶存酸素を酸素源として新たに酸化物系介在物が生成する場合は、微細な酸化物系介在物が多量に生成すると考えられる。一方、酸化物系介在物を酸素源とする場合には、たいていは複合酸化物を形成するか、もしくは金属元素が入れ替わるだけの置換反応が起こり、元の酸化物系介在物の粒径分布を引き継ぐため、一般に酸化物の微細化は起こらない。
【0013】
本発明者らは、脱酸剤としてZrを用いるとともにZrの添加条件を適正化すると、酸化物系介在物を酸素源とする場合においても、酸化物系介在物中の酸素が一旦溶鋼中に溶解する経路を辿るため、粒子径が1.0μm以下の微細なZrO介在物が急増することを実験的に確認した。酸化物系介在物中の酸素が一度溶解する経路を辿ることは、Zr添加に特有な現象であり、同じ条件でZrの代わりにAlやTiを添加しても、Zr添加において認められた微細な酸化物系介在物の急増現象は、認められない。
【0014】
このため、Zrの添加によって酸化物径介在物を微細化させる場合には、生成する微細なZrO介在物の酸素源が、溶存酸素に加えてZr添加前から溶鋼中に存在する酸化物系介在物中の酸素となることから、Zr添加前の全酸素濃度を考慮する必要がある。
【0015】
(2)ZrO介在物の分散条件
本発明者らは、ZrO介在物の分散挙動を決定する因子に関して詳細に検討した結果、ZrO介在物の微細化は、溶鋼中の全酸素濃度と添加するZr量との関係がZrOの化学量論比を概ね満足する条件において、発生することを知見した。すなわち、溶鋼中の全酸素濃度が添加するZr量に対して多すぎる場合には、生成するZrO介在物が容易に凝集するため、ZrO介在物の微細化の効果は低いものとなる。また、添加するZr量が全酸素濃度に対して多すぎる場合には、元の酸化物系介在物との置換反応が起こってしまうため、ZrO介在物の微細化の効果が低く、Zrの添加量が少な過ぎる場合にはZrO介在物の微細化の効果は限定的なものとなる。
【0016】
一方、本発明者らは、ZrO介在物の分散量は、Zrの添加前における介在物の組成にも影響され、Zrの添加前における介在物の組成にSiOやMnO等が多量に含まれる場合には、溶存酸素を介した新規なZrO介在物の生成は起こらず、ZrO介在物はもともと存在していた介在物との置換反応によって生成することを知見した。一方、一度Zrを添加し、介在物の組成がZrOである状態にさらにZrを添加すると、新規なZrOの生成効果は低かった。
【0017】
このため、Zrを添加する前における介在物の組成は、製鋼温度域において、脱酸力がSiおよびMnとZrとの間にあるAlもしくはTiにより脱酸されて生成するAlもしくはTiを主体とすること、すなわち溶鋼中酸化物をAl−Ti系に制御することが必要である。ここで、「溶鋼中酸化物をAl−Ti系に制御する」とは、EDSによる半定量分析結果において、得られた構成成分の定量分析結果を酸化物に換算した際、%Alと%Tiの和が全量の70%を超える介在物が、調査した介在物個数の9割以上となることを意味する。なお、Zr添加前の脱酸状態を考慮すればTi酸化物はTi3として存在していると考えられるため、Ti酸化物としてTiOもしくはTiOが発見された場合でもTi濃度をTi濃度に換算して取り扱うものとする。
【0018】
(3)添加順序
Zrによる微細なZrO介在物の生成においては、Zrの添加前に溶鋼をAlおよびTiで脱酸しておくことが必要である。ただし、一度ZrO介在物が生成した後であれば、製鋼温度域においてZrよりも脱酸力の弱い合金を添加しても、新たな酸化物を形成することなく溶解するため、酸化物の分散状態が変わることはない。
【0019】
本発明者らは、これらの知見(1)〜(3)に基づいてさらに検討した結果、微細なZrO介在物を生成させるためには、Zr添加前の溶鋼をまずAlおよびTiで脱酸することにより溶鋼中介在物組成をAl−Ti系とするとともに、溶鋼中全酸素濃度を適正化し、その全酸素濃度に見合う適量のZrを添加してから鋳造することによって、ノズル閉塞を起こすことなく鋳造を行うことができ、微細酸化物分散鋼であるZr添加鋼を製造することが可能になることを知見し、本発明を完成した。
【0020】
本発明は、環流型真空脱ガス装置において、製鋼温度域でAlおよびTiで脱酸することにより溶鋼中酸化物をAl−Ti系に制御し、かつ、溶鋼中全酸素濃度を0.008%以下(本明細書では特に断りがない限り「%」は「質量%」を意味する)とした溶鋼に、式(1):0.04≦Zr添加量(kg)/(溶鋼質量(kg)×全酸素濃度(%))≦0.07を満たす量のZrを添加して、C:0.005%以上0.2%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以上2.0%以下、sol.Al:0.005%以下、Ti:0.005%以上0.03%以下、Zr:0.002%以上0.020%以下、O:0.008%以下、N:0.001%以上0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなるZr添加鋼とし、このZr添加鋼を鋳造することを特徴とするZr添加鋼のノズル閉塞抑制方法である。
【0021】
別の観点からは、本発明は、環流型真空脱ガス装置において、製鋼温度域でAlおよびTiで脱酸することにより溶鋼中酸化物をAl−Ti系に制御し、かつ、溶鋼中全酸素濃度を0.008%以下とした溶鋼に、式(1):0.04≦Zr添加量(kg)/(溶鋼質量(kg)×全酸素濃度(%))≦0.07を満たす量のZrを添加した後に鋳造することによって、C:0.005%以上0.2%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以上2.0%以下、sol.Al:0.005%以下、Ti:0.005%以上0.03%以下、Zr:0.002%以上0.020%以下、O:0.008%以下、N:0.001%以上0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなる鋼を製造することを特徴とする微細酸化物分散鋼の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、溶鋼中のZrO介在物の分散状態を粒径分布が細かい状態にすることができるので、大規模な設備を導入することなく、かつ生産性を低下させることなく、連続鋳造時のZr添加鋼のノズル閉塞を確実に抑制しながら、微細酸化物分散鋼であるZr添加鋼を製造することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る方法を実施する際に用いる鉄鋼中酸素分析装置の一例を模式的に示す説明図である。
【図2】Zr添加前の全酸素濃度と、Zr添加量/(溶鋼質量×全酸素濃度)との関係において、ノズル閉塞を生じない鋳造可能領域を示すグラフである。
【図3】鋳片でのZrO介在物の粒子径の度数分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
本発明は、(i)環流型真空脱ガス装置でのAlおよびTiによる脱酸工程、(ii)Zr添加工程および(iii)鋳造工程をこの順に有するので、これらの各工程を順次説明する。
【0025】
(i)環流型真空脱ガス装置でのAlおよびTiによる脱酸工程
本発明では、はじめに、環流型真空脱ガス装置において、製鋼温度域でAlおよびTiで脱酸することにより溶鋼中酸化物をAl−Ti系に制御し、かつ、溶鋼中全酸素濃度を0.008%以下とする。ここで、「製鋼温度域」とは、製鋼工程における操作が行われる温度領域を意味し、具体的には1550℃以上1700℃以下の温度領域を意味する。
【0026】
例えば、容量300トンの取鍋を用いて、転炉から出鋼された溶鋼に、環流型真空脱ガス装置において、酸素源もしくは脱酸元素を添加する。
この溶製では、転炉等の精錬容器による脱リンや脱炭等の精錬工程の後、その溶鋼を取鍋上部より注入する出鋼流に副原料を投入することにより、Mn弱脱酸を行い、Mn弱脱酸された溶鋼に対して、環流型真空脱ガス装置を用いてAl添加および酸素上吹きを伴う環流操作を行う。このときのAl添加量および上吹き酸素量は、上昇させたい溶鋼温度および酸素濃度によって適宜調整する。この環流操作により、溶鋼成分はAl:0.0003%以上0.0050%以下、O:0.0020%以上0.0150%以下に調整され、溶鋼中にはAlが懸濁した状態となる。
【0027】
ここで、環流型真空脱ガス装置内で昇熱された溶鋼に対してTiを添加する。Tiを添加することにより、溶鋼中の介在物(溶鋼中酸化物)は、Al−Ti系に制御される。Ti添加量は、制御したい酸素濃度によって0.008%を上限として適宜調整すればよい。
【0028】
また、この脱酸工程により溶鋼中全酸素濃度は、転炉から出鋼の際に添加するMnおよびSiの添加量、さらに、Alの酸化熱を利用した昇温操作に伴う酸素上吹き、その他Zr添加前に行うTiを始めとする合金添加量によって、調整することが可能である。また、環流型真空脱ガス装置によって真空度及び環流量や環流時間等を制御することにより、溶鋼中全酸素濃度を調整することが可能である。
【0029】
Zr添加前の溶鋼中全酸素濃度は、ノズル閉塞を防ぐ視点からは少ないほど好ましいが、酸化物系介在物による鋼材特性向上、およびノズル閉塞挙動を勘案し、0.008%を上限とする。
【0030】
(ii)Zr添加工程
本発明では、上述した脱酸工程を経た溶鋼に対し、還流型真空脱ガス処理を終了する前にZrを添加する。本発明では、Zrを、金属Zrとして、もしくはZrおよびFeが一定の割合で混合されたFeZr合金など、他の一種以上の金属との合金として、添加することが可能である。また、添加の形態としては、塊状、粒状またはワイヤー等として添加することが可能である。
【0031】
Zrの添加量は、式(1):0.04≦Zr添加量(kg)/(溶鋼質量(kg)×全酸素濃度(%))≦0.07を満たすようにする。Zr添加量は、具体的には、Tiを添加した後に、迅速分析用のサンプルを採取し、迅速分析装置によりその場で分析することにより、Zr添加前の全酸素濃度を算出し、算出したこの値を(1)式に代入することにより、決定される。
【0032】
以下、この迅速分析方法を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係る方法を実施する際に用いる鉄鋼中酸素分析装置10の一例を模式的に示す説明図である。
【0033】
本発明に係る分析方法に求められる短時間かつ高精度の分析を実現するために、迅速かつ再現性の高い試料前処理方法として、真空アークプラズマ処理を選択した。例えば、特開2002−328125号公報により開示された金属中成分分析用試料の調整方法及び装置を適用すればよい。図1において、予め真空に保った試料前処理装置1内に、隔離バルブ4を介して、真空度をほとんど変化させることなく、処理前試料投入口3から試料を挿入する。その後、真空アークプラズマ処理により、試料の表面の酸化皮膜を数秒間で除去する。この装置10では、試料を自動搬送するため、試料の形状を円柱体またはブロック(直方体)とする。試料は、試料台に載置して処理するため、試料台と接する面は処理されない。そこで、試料を反転させて処理する必要がある。つまり、ひとつの試料に対して、少なくとも2回は放電する必要がある。放電回数が増えると、試料が長時間加熱されることになり、一旦、酸化皮膜が除去された試料の表面が再び酸化されてしまう。したがって、試料の表面の酸化皮膜を確実、正確かつ再現性良く除去し、精錬操業上必要とされる分析精度を確保するため、下記の条件(a)〜(d)でアークプラズマ処理する。
【0034】
(a)真空度:5Pa以上35Pa以下とする。真空アークプラズマによる試料の表面の酸化皮膜除去反応は真空度が高いほど促進されるが、真空度が35Paを超えると、試料の温度上昇に伴う再酸化反応が顕著になるため好ましくない。一方、真空度が5Paより低いと、酸化皮膜除去反応自体が進行しなくなるため、好ましくない。なお、処理時に真空度が一定値に保持されるよう、真空排気バルブとガス導入バルブの開閉を制御する圧力制御機構を有することがなお好ましい。
【0035】
(b)アークプラズマ出力電流:15A以上55A以下とする。
(c)処理時間:ひとつの試料に対して、合計の処理時間は0.2秒間以上1.2秒間以下とする。
【0036】
(d)処理回数:ひとつの試料に対して、合計の処理回数は4回以下とする。
処理後の試料は、大気と接触させることなく、分析装置2に配置した前処理済試料投入口5を通じて、最終的に黒鉛るつぼに投入される。試料前処理チャンバーと分析装置の試料投入口は真空または不活性ガスで内部を置換した連結管8で連結する。不活性ガスとしては、空気との比重差を考慮して、連結管8内を確実にガス置換して、処理後の試料の再酸化を防止する観点、さらには経済的な観点から、Arが好ましい。特開2002−328125号公報に開示された装置構成では、前処理済試料は払い出された後、別置きの酸素分析装置に移送される。しかし、本発明の目的では迅速性が要求されることから、試料前処理装置1と酸素分析装置2を、それぞれ鉛直上下に配置し、連結管8内を自由落下させて、試料を移送する方法、すなわち図1に示す装置構成を採用した。
【0037】
この装置構成では、酸素分析装置2が床面に近い位置に配置され、分析装置2の内部の清掃がガス中の不純物吸着剤の交換等、装置の維持管理作業に支障をきたす。そこで、架台6に組み込まれた装置全体をリフター7に載せて昇降可能とし、この作業の際には装置全体を上昇して、作業性を確保した。このリフター7の駆動方式は特に問わないが、装置全体では相当な重量であることから、操作性の観点で、自動油圧式が好ましい。また、リフター7の可動部は伸縮可能な材料で覆い、作業者が挟まれることのないよう、安全性に配慮した構造を有することが望ましい。
【0038】
さらに、連結した酸素分析装置2が故障して使えない場合や、分析待ちの前処理済試料を別の酸素分析装置で分析する場合に備えて、試料前処理装置1と酸素分析装置2の連結管8途中に、前処理済試料の取出口9を設ける。
【0039】
また、溶鋼から採取した鋼塊より簡便かつ迅速に分析試料を得る方法として、溶鋼から採取した鋼塊を切断して作製した高さ(厚さ)が1.5mm以上7mm以下のスライスに対して、打ち抜いた円柱状小片を試料として用いる。具体的には、例えば、特開平10−311782号公報により開示された分析試料の調整方法及び装置を適用すればよい。試料表面の酸化皮膜を確実、正確かつ再現性良く除去するためには、試料の底面の直径と高さから計算される表面積Sと体積Vの比S/Vが、下記式(2)を満たすような形状を確保する。
【0040】
1.05≦S/V≦1.30 (2)
さらに、高精度な鋼中酸素分析方法として、不活性ガス中加熱融解−赤外線吸収法を動作原理とする酸素分析装置を選択した。この分析法では、試料ホルダと試料の脱酸反応剤(炭素)供給源を兼ねる黒鉛るつぼを使用する。
【0041】
分析に先立って、るつぼの表面に吸着した酸素や汚染を除去するため、分析時よりもやや高い温度でるつぼだけを予め加熱する、いわゆる空焼き処理を行う。この空焼き処理により、黒鉛るつぼから発生する酸素、一酸化炭素あるいは二酸化炭素が分析値を変動させる影響を低減できる。市販の酸素分析装置で鋼中の酸素を分析する際には、通常、るつぼ、すなわち試料を1800℃〜2200℃程度の温度に加熱する。本発明で要求される高い分析精度を実現するためには、例えば、分析時の温度よりも100℃以上高い温度で、かつ、15秒間以上加熱すればよい。
【0042】
また、市販の酸素分析装置では、まず、分析装置内に試料を取り込み、試料の周辺の雰囲気をキャリアガスであるヘリウムガスで置換する間に、るつぼの交換、電極の清掃および空焼き処理を実施する。したがって、試料を投入してから分析値が判明するまで、比較的長い時間を要する。るつぼの交換および電極の清掃、さらに空焼き処理を先行して実施させ、分析装置が分析可能な状態で清浄化前処理した試料を投入することによって、要求される分析所要時間に応じた迅速化を実現することができる。
【0043】
通常、酸素分析に際して、検出したガス量を試料中の酸素濃度に変換するため、試料の重量を精密に秤量する必要がある。真空アークプラズマ処理前後での試料の質量変化を評価した結果、試料の形状や表面酸化度合いによって多少ばらつきはあるものの、高々1mg程度の減量であったことから、試料重量0.5〜1.0gに対しては実用上無視できる程度の誤差しか与えないことが判明した。そこで、本発明を実施する際には、機械加工して得た後に予め秤量した分析試料を、真空アークプラズマ処理し、大気と接触させることなく、そのまま酸素分析装置に挿入する。
【0044】
次に、Zr添加前の全酸素濃度とZr添加量、溶鋼質量との限定理由を説明する。
図2は、Zr添加前の全酸素濃度と、Zr添加量/(溶鋼質量×全酸素濃度)との関係において、ノズル閉塞を生じない鋳造可能領域を示すグラフである。
【0045】
本発明では、Zr添加前の全酸素濃度、および、Zr添加量/(溶鋼質量×全酸素濃度)は不可分な関係であり、どちらか一方でも満たさない場合には、酸化物の微細分散を生じず、ノズル閉塞が発生する。
【0046】
すなわち、Zr添加量が適正であってもZr添加前の全酸素濃度が高い場合には、ノズル閉塞が発生する。この時、閉塞したノズルの内壁にはZrO介在物が多数付着しており、全酸素濃度が高すぎる場合には鋳造性の悪化を防ぎ切れないことがわかる。このため、Zr添加前の全酸素濃度の上限を0.008%とする。
【0047】
また、Zr添加前の全酸素濃度が適正であってもZr添加量が多い場合にも、ノズルは詰まり気味であった。
さらに、Zr添加量が少ない場合、ノズルは詰まり気味もしくはノズルが詰まった。この時のノズルの内壁においてもZrO介在物が多数付着しており、Zrの添加に伴うZrO介在物の微細化効果が充分に発揮されないことがわかる。
【0048】
以上の理由により、本発明では、値{Zr添加量(kg)/(溶鋼質量(kg)×全酸素濃度(質量%))}を、0.04以上0.07以下とする。
続いて、本発明例と比較例のZrO介在物の粒子径の度数分布について説明する。図3は、図2のグラフにおける本発明例および比較例について鋳片でのZrO介在物の粒子径の度数分布を示すグラフである。
【0049】
図3にグラフで示すように、本発明例では、1.0μm以下の領域でZrO介在物の個数密度が高く、ZrO介在物が微細分散していることがわかる。これは、本発明に係る製造方法によってZrO介在物の分散状態が粒径分布の細かい状態、すなわち、ノズル閉塞を起こす5μmよりも大きいZrO介在物の数が少ない分散状態になっていることを示すものである。
【0050】
本発明例および比較例のZrO介在物の粒径分布を比較した場合、本発明例に見られるようなZrO介在物が微細化している場合では、1μm以下の細かい領域での個数密度の増加が顕著である。このため、ZrO介在物分布が細かい粒径分布であるか否かを1.0μm以下の領域の個数密度により判断する。また、0.5μm以下の微細なZrO介在物は、ノズル閉塞挙動には無関係であると考えられることに加え、顕微鏡での測定条件を勘案し、本発明では0.5μm以上1.0μm以下のZrO介在物の個数密度を計数する。
【0051】
なお、酸化物の分散状態は、Zr添加の前後において、Zrを添加する環流型真空脱ガス装置および次工程であるタンディッシュにおいて溶鋼サンプルを採取し、以下に示す確性方法によって確認することができる。
【0052】
[確性方法]
採取したサンプルに対して、走査電子顕微鏡とそれに付属したエネルギー分散型X線マイクロアナライザによって酸化物の組成を調査し、共焦点レーザ顕微鏡によって酸化物系介在物の個数を調査する。
【0053】
酸化物の組成は、サンプル表面を鏡面研磨し、研磨面上の中央部に存在する酸化物系介在物を1サンプルあたり10点無作為に抽出して調査する。
Zr添加前の介在物の組成は、EDSによる半定量分析結果において、得られた構成成分の定量分析結果を酸化物に換算した際、%Alと%Tiの和が全量の70%を超える介在物が、調査した介在物個数の9割以上である場合、介在物組成をAl−Ti系介在物と定義する。なお、Zr添加前の脱酸状態を考慮すればTi酸化物はTiとして存在していると考えられるため、Ti酸化物としてTiOもしくはTiOが発見された場合でもTi濃度をTi濃度に換算して取り扱うものとする。
【0054】
一方、Zr添加後の介在物組成は、EDSによる半定量分析結果において、得られた構成成分の定量分析結果を酸化物に換算した際、%ZrOが90%を超える介在物が、調査した介在物個数の9割以上である場合、介在物組成をZrOと定義する。なお、本発明におけるZr添加後の介在物組成は全てZrOである。
【0055】
また、酸化物の個数は、波長408nmの紫色レーザを光源とする共焦点レーザ顕微鏡を用い、鏡面研磨したサンプル中央部に存在する介在物個数を計数することにより求める。この顕微鏡による測定では、100倍の対物レンズを用いることで、横128μm、縦96μmの視野を1024pix×768pixのデジタル画像として撮影可能である。この撮影条件での1画素の面積は0.015625μmであり、1視野中に存在する円相当径0.5μmに相当する13画素以上で構成されるものを介在物と判別する。この時、12画素以下で構成されるものは酸化物と不可分な疵や汚れである場合があるため、除外した。また、Al−TiやZrOなどの酸化物は、共焦点レーザ顕微鏡の測定時には反射輝度によって256階調のグレースケールでは0から50階調程度で観察され、酸化物と同時に測定される硫化物や窒化物は、反射輝度の違いによって80から120階調程度で観察される一方、マトリックス(検鏡面)は180階調以上で観察される。これらは、画像処理ソフトを用いることにより、それぞれを容易に分離可能であるため、Zr添加前はAl−Tiを始めとする酸化物を計数可能であり、Zr添加後はZrOのみを計数可能である。また、測定視野は、電動ステージによって、1視野0.0123mmの測定を100視野、すなわち1.23mmの測定視野を連続的に測定し、画像処理ソフトで得られた画像を処理することで、0.5μm以上の酸化物系介在物の個数を計数する。
【0056】
(iii)鋳造工程
上述したZr添加工程によりZrを添加された後、必要に応じてMn等の成分の微調整を行われることにより、C:0.005%以上0.2%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以上2.0%以下、sol.Al:0.005%以下、Ti:0.005%以上0.03%以下、Zr:0.002%以上0.020%以下、O:0.008%以下、N:0.001%以上0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなるZr添加鋼とされ、このZr添加鋼を、連続鋳造工程で鋳込むことにより、所定の厚さ(例えば250mm)を有する連続鋳造鋳片とされる。
【0057】
本発明においてこのZr添加鋼の組成を限定する理由を説明する。なお、本発明において規定するZrおよびOの含有量は、鋳造工程での鋳込み後の鋳片段階での含有量を意味し、Zr添加前におけるO含有量は、上述したように、0.008%以下である。
【0058】
[C:0.005%以上0.2%以下]
Cは、母材の強度を確保するため、0.005%以上含有する。しかし、C含有量が多すぎると溶接した際の靱性を著しく低下させる、0.2%以下とする。
【0059】
[Si:0.5%以下]
Siは、溶鋼の予備脱酸に利用可能であり、母材の強度確保に有用である。しかし、Si含有量が多すぎると溶接性が低下するため、0.5%以下とする。
【0060】
[Mn:0.5%以上2.0%以下]
Mnは、溶鋼の予備脱酸に利用可能であり、母材の強度確保に不可欠であることから、0.5%以上含有する。しかし、Mn含有量が多すぎるとスラブの中心偏析を助長するなどの問題が起こるため、2.0%以下とする。
【0061】
[sol.Al:0.005%以下]
Alは、強力な脱酸作用を持つ重要な元素である。ただし、Alが多量に含有されると、ノズル閉塞を助長するAlクラスタを形成し、このクラスタはZr添加によっても残存する可能性があるため、sol.Alの含有量は0.005%以下とする。
【0062】
[Ti:0.005%以上0.03%以下]
Tiは、Alと同様に強力な脱酸作用を有する元素であるとともに、鋼中でTiNとして析出して溶接時の勒性を向上させる。このため、Ti含有量は0.005%以上とする。一方、Ti含有量が多すぎると固溶Tiが増加して勒性が低下するため、0.03%以下とする。
【0063】
[Zr:0.002%以上0.020%以下]
Zrは、本発明において最も重要な元素の一つであり、酸化物の微細化に不可欠な元素である。ZrOは粒内フェライトの生成核として有用であり、鋼材の勒性を向上させることができる。この効果を得るために0.002%以上含有する。一方、Zrが多すぎるとかえって鋼材の清浄性を悪化させることから、0.020%以下とする。
【0064】
[O(酸素):0.008%以下]
Oは、Zrと並んで本発明において最も重要な元素の一つであり、酸化物の分散量や大きさに直接関係する。本発明では、微細酸化物の形成のため、ある程度のOが鋼材に含有される必要があるものの、必要以上にOが含有されると、母材の清浄性を劣化させるため、O含有量は0.008%以下とする。本発明は、ZrO介在物の分散状態を、粒径分布が細かい状態に制御することから、O含有量は少なくて良いが工業的に低減するには限界がある。このような観点から、本発明におけるO含有量は、0.003%以上0.005%以下であることが望ましい。
【0065】
[N:0.001%以上0.01%以下]
Nは、少なすぎると勒性を悪化させるTiCが生成するため、N含有量は0.001%以上とする。一方、固溶Nが多すぎると勒性の低下を招くため、N含有量は0.01%以下とする。
【0066】
上述した各元素は、いずれも、ノズルの閉塞挙動に直接関係がある脱酸に関わる元素であり、実際の鋼材中には、これらの各元素に加えて、不可避的にP、Sが不純物として含有される。以下、P、Sを説明する。
【0067】
[P:0.04%以下]
Pは、鋼材中に不可避的に混入される不純物元素である。材料の特性面からは少ないほど望ましいが、極端な低減には相応のコスト上昇を伴うので生産性を考慮して、P含有量は0.04%以下とする。
【0068】
[S:0.01%以下]
Sも鋼材中に不可避的に混入される不純物元素である。Sは、偏析率も高いことからも少ないほど良いが、極端な低減には相応のコスト上昇を伴うので生産性を考慮して、S含有量は0.01%以下とする。
【0069】
本発明により製造される微細酸化物分散鋼は、任意添加元素として、さらに、Feの一部に換えて、Cr、Ni、Cu、Mo、V、NbおよびBの中から選んだ1種類または2種以上を含有してもよく、これらの元素を含有することにより、強度もしくは靱性等の機械的特性を改善することができる。これらの任意添加元素を説明する。
【0070】
[Cr:1%以下]
Crは、母材の焼き入れ性を向上させる。この効果を得るには0.05%以上含有させることが望ましい。しかし、Cr含有量が1%を超えると勒性低下を招くため、Cr含有量は1%以下とする。
【0071】
[Ni:6%以下]
Niは、適正量添加することにより、溶接性を劣化させることなく母材強度および勒性を向上させる。Ni含有量が0.1%以上であると上述した効果に加えて焼き入れ性の向上効果も得られるため、Niは0.1%以上含有することが望ましい。しかし、Niは、極めて高価であるために過度の添加は経済性を失うため、Ni含有量は6%以下とする。
【0072】
[Cu:1.5%以下]
Cuは、母材勒性を劣化させることなく母材強度を向上させる。この効果を得るには0.1%以上含有することが好ましい。しかし、Cu含有量が1.5%を超えると鋼の焼き入れ性を過度に高め、勒性等を劣化させることから、Cu含有量は1.5%以下とした。
【0073】
[Mo:0.8%以下]
Moは、母材強度と勒性を向上させる。この効果を得るには0.05%以上含有させることが好ましい。しかし、Mo含有量が0.8%を超えると溶接部を過度に硬化させるため、Mo含有量は0.8%以下とする。
【0074】
[V:0.1%以下]
Vは、焼き戻し時に炭窒化物を析出させて母材強度を向上させる。この効果を得るには0.005%以上含有することが好ましい。しかし、V含有量が0.1%を超えると母材強度の性能向上効果が飽和してコストが嵩むため、V含有量は0.1%以下とする。
【0075】
[Nb:0.05%以下]
Nbは、母材組織を微細化して母材の機械的性質を向上させる。この効果を得るには0.004%以上含有することが好ましい。しかし、Nb含有量が0.05%を超えると母材勒性が劣化するため、Nb含有量は0.05%以下とする。
【0076】
[B:0.002%以下]
Bは、焼入性を高めて母材の機械的性質を向上させる。この効果を得るには、0.0003%以上含有することが好ましい。しかし、B含有量が0.002%を超えると溶接性等の特性が劣化するため、B含有量は0.002%以下とする。
【0077】
上述した以外の残部は、Feおよび不純物である。
本発明により溶製されるZr添加鋼は、上述したように、微細なZrOが分散した微細酸化物分散鋼であって、主に厚板鋼として使用される。この厚板鋼の主な用途は、建材、造船さらには海洋構造物が好適である。
【0078】
本発明によれば、溶鋼中のZrO介在物の分散状態を粒径分布が細かい状態にすることができるので、大規模な設備を導入することなく、かつ生産性を低下させることなく、連続鋳造時のZr添加鋼のノズル閉塞を確実に抑制しながら、微細酸化物分散鋼を製造することができるようになる。
【実施例】
【0079】
本発明を、実施例を参照しながら、より具体的に説明する。
容量300トンの取鍋を用いて、環流型真空脱ガス装置を用いてZrを添加することにより、微細酸化物分散鋼を製造した。表1には、この実施例における溶鋼量、Zr添加前の溶鋼温度、Zr添加前の全酸素濃度、Zr添加前の酸化物の組成、Zr添加量(kg)/Zr添加前の(溶鋼重量(kg)×全酸素濃度(質量%))、タンディッシュで採取したサンプル中、すなわち溶鋼段階での{(0.5〜1.0μmのZrO介在物の個数密度)/(1.0μmを超えるZrO介在物の個数密度)}の比、鋳造性、および、鋳片での{(0.5〜1.0μmのZrO介在物の個数密度)/(1.0μmを超えるZrO介在物の個数密度)}の比を示す。Zr添加量、全酸素濃度、酸化物の組成さらに個数密度は、上述した方法により求めた。
【0080】
また、表2にはZr添加前の化学組成を、表3には鋳片の化学組成を、それぞれ示す。
なお、表1における「Zr添加量」は、合金の品位および添加歩留りを考慮し、実際にZr純分として溶鋼に添加された質量を示す。また、「鋳造性」は、鋳造速度を監視し、スライディングノズルの開度とともにあわせて判断した。すなわち、鋳込み初期の鋳造速度を1.0m/minとし、スライディングノズルの開度調整等によって鋳造開始時点の鋳造速度から30%以上低下させることなく鋳造を完了できた場合を「ノズル閉塞無し」とし、鋳造開始時点の鋳造速度から30%超低下させたものの、鋳造を完了できた場合を「閉塞気味」とし、スライディングのズルの開度を最大にしても鋳造を中断せざるを得なかった場合を「ノズル閉塞発生」とした。
【0081】
表1における試験番号1〜6は、本発明で規定する要件を全て満足する本発明例の試験結果であり、試験番号7〜10は本発明で規定する要件を満足しない比較例の試験結果である。
【0082】
表1〜3に示すように、試験番号1〜6は、Zr添加前の介在物組成、全酸素濃度およびZr添加量が適正であることから、Zr添加に伴うZrOの分散状態は粒子径が細かい粒度分布に制御されており、ノズル閉塞は発生しなかった。
【0083】
一方、試験番号7〜10は、Zr添加前の全酸素濃度、もしくはZr添加量が本発明で規定する条件を外れるため、Zr添加を添加してもZrO介在物は微細分散しておらず、鋳造性が悪化した。
【0084】
以上の結果より、本発明におけるZr添加した溶鋼の溶鋼段階での{(0.5〜1.0μmのZrO介在物の個数密度)/(1.0μmを超えるZrO介在物の個数密度)}の比は2.0以上であること、および、そのような溶鋼を連続鋳造して製造した鋳片の{(0.5〜1.0μmのZrO介在物の個数密度)/(1.0μmを超えるZrO介在物の個数密度)}の比は、1.75以上であることが分かった。
【0085】
本発明によれば、溶鋼中のZrO介在物の分散状態を粒径分布が細かい状態にすることができるので、大規模な設備を導入することなく、かつ生産性を低下させることなく、連続鋳造時のZr添加鋼のノズル閉塞を確実に抑制しながら、微細酸化物分散鋼を製造できることがわかる。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【符号の説明】
【0089】
1 前処理装置
2 酸素分析装置
3 処理前試料投入口
4 隔離バルブ
5 前処理済試料投入口
6 架台
7 リフター
8 連結管
9 前処理済試料途中取出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環流型真空脱ガス装置において、製鋼温度域でAlおよびTiで脱酸することにより溶鋼中酸化物をAl−Ti系に制御し、かつ、溶鋼中全酸素濃度を0.008質量%以下とした溶鋼に、式(1)を満たす量のZrを添加して、質量%でC:0.005%以上0.2%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以上2.0%以下、sol.Al:0.005%以下、Ti:0.005%以上0.03%以下、Zr:0.002%以上0.020%以下、O:0.008%以下、N:0.001%以上0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなるZr添加鋼とし、該Zr添加鋼を鋳造することを特徴とするZr添加鋼のノズル閉塞抑制方法。
0.04≦Zr添加量(kg)/(溶鋼重量(kg)×全酸素濃度(質量%))≦0.07
・・・・・(1)
【請求項2】
環流型真空脱ガス装置において、製鋼温度域でAlおよびTiで脱酸することにより溶鋼中酸化物をAl−Ti系に制御し、かつ、溶鋼中全酸素濃度を0.008%以下とした溶鋼に、式(1)を満たす量のZrを添加した後に鋳造することによって、質量%で、C:0.005%以上0.2%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以上2.0%以下、sol.Al:0.005%以下、Ti:0.005%以上0.03%以下、Zr:0.002%以上0.020%以下、O:0.008%以下、N:0.001%以上0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなる鋼を製造することを特徴とする微細酸化物分散鋼の製造方法。
0.04≦Zr添加量(kg)/(溶鋼重量(kg)×全酸素濃度(質量%))≦0.07
・・・・・(1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−280953(P2010−280953A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135198(P2009−135198)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】