説明

[18F]標識化合物及びその製造方法、並びに[18F]標識リポソーム及び[18F]標識リポソーム製剤の製造方法

【課題】製造後のリポソーム又はリポソーム製剤を事後的にポジトロン核種標識することを可能とし、リポソーム又はリポソーム製剤のヒトにおける体内動態を、PETを利用して解析できるようにすること。
【解決手段】下記の一般式(I)で表される、[18F]標識化合物。


(式中、nは7〜25の整数、mは2〜20の整数を表し、Xはメチレン等の二価の基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、[18F]標識化合物及びその製造方法、並びに[18F]標識リポソーム又は[18F]標識リポソーム製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放出型断層撮影(以下、PET)とは、陽電子を放出する核種(以下、ポジトロン核種)で標識した薬剤を体内に投与して、その体内分布を画像化する撮影法である。
【0003】
サイクロトロンで生成された放射性同位元素から放出される陽電子は、電子と正反対のプラスの電荷を持っており、放出された陽電子はすぐに電子と結合して一対のγ線(消滅放射線)を放出するため、この消滅放射線をPET装置で測定することにより、ポジトロン核種の体内分布を定量的に画像化することを可能にする。
【0004】
サイクロトロンで生成されるポジトロン核種(11C、13N、15O、18F)は生体内に存在する元素であるため、水、酸素、ブドウ糖、アミノ酸などを直接標識して、生体内の生理的・生化学的情報を捉えることができ、これにより、病気の早期発見や治療後の経過を知ることを可能にする。特に、脳疾患、心臓疾患及び癌の診断において効果を発揮しており、急速に普及している(非特許文献1)。
【0005】
最近では、医薬品の前臨床及び臨床試験において、PETを利用して医薬品の体内動態をヒトで解析する必要性が指摘されている(非特許文献2)。医薬品は人体に対して用いるものであるため、薬物動態は、実験動物ではなく、ヒトで調べるべきものだからである。
【0006】
一方、近年では、ペプチド、タンパク質、抗体、核酸などの生体高分子が医薬品として数多く開発され、その薬効が期待されている。しかし、これらの生体高分子は血液中で分解されやすく、標的臓器に到達しにくい性質を有しているために、血中での化学的安定性の付与を目的としてリポソームに生体高分子を包含して投与するリポソーム製剤の開発が進められている(非特許文献3)。
【0007】
また、抗がん剤などの毒性の強い医薬品では、より多くの有効成分を標的部位に到達させ、副作用を低減させるために、Drug Delivery System(以下、DDS)の実現を目的としてリポソームに抗癌剤を包含して投与するリポソーム製剤の開発が進められている(非特許文献4)。
【0008】
これまでにポジトロン核種でリポソームを標識し、実験動物における動態をPETで解析することを試みた例は1例だけある(非特許文献5)。この標識方法は、フルオロデオキシグルコースを[18F]で標識し、得られた[18F]フルオロデオキシグルコースを標識プローブとしてリポソームを調製する際に添加し、リポソーム内部の水相に[18F]フルオロデオキシグルコースを封入することによりリポソームを標識するものである。
【0009】
【非特許文献1】Gibsonら、Australasian physical and engineering sciences in medicinee、1999年、22巻、4号、p.136−144
【非特許文献2】Wangら、Current Topics in Medicinal Chemistry、2005年、5巻、11号、p.1053−1075
【非特許文献3】秋吉一成、辻井 薫、「リポソーム応用の新展開」、NTS社、2005年
【非特許文献4】Minkoら、2005年、Anti−Cancer Agents in Medicinal Chemistry、6巻、6号、p.537−552
【非特許文献5】Okuら、Biochimica et Biophysica Acta、1995年、1238巻、p.86−90
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ポジトロン核種の半減期は数分から数時間と非常に短いために、リポソームを構成する物質や封入する薬剤をポジトロン核種で標識し、これらを用いてリポソーム製剤を製造した場合であっても、医薬品には品質保証を得るための検査などが必要であるため、PETに必要な放射活性を有し、かつ、ヒトに投与可能な標識リポソーム製剤を製造することは不可能である。
【0011】
また、実験動物への投与を目的とし、品質保証を得るための検査などを実施しない場合であっても、リポソームを構成する物質や封入する薬剤をポジトロン核種で標識する手法では、ポジトロン核種で標識され、かつ、医薬品を含有するリポソーム製剤の収率は多くとも10〜15%であり、これらを分離精製することはほとんど不可能であるため、PETを利用した医薬品の体内動態の解析に使用できないのが現状である。
【0012】
そこで本発明は、製造後のリポソーム又はリポソーム製剤を事後的にポジトロン核種標識することを可能とし、リポソーム又はリポソーム製剤のヒトにおける体内動態を、PETを利用して解析できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、下記の一般式(I)で表される[18F]標識化合物を提供する。
【化1】

(式中、nは7〜25の整数、mは2〜20の整数を表し、Xはメチレン又は下記の一般式(II)、(III)若しくは(IV)で表される二価の基を表す。)
【化2】

(式中、n’は5〜23の整数を表す。)
【化3】

【化4】

(式中、n’’は7〜25の整数を表す。)
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、リポソームの脂質二重膜に簡易かつ高効率に取り込まれる[18F]標識化合物を見出した。製造後のリポソーム又はリポソーム製剤を事後的にポジトロン核種で標識する方法はこれまでなかったが、上記の[18F]標識化合物はこれを可能とし、マウスを使った実験においてPETに使用できることが判明した。
【0015】
上記[18F]標識化合物を使用すれば、リポソーム、高分子ミセルなどの両親媒性分子集合体、及び脂質が集合してできる脂質集合体を、製造後に事後的に[18F]で標識することができる。また、上記[18F]標識化合物を使用すれば、両親媒性分子集合体又は脂質集合体をドラッグキャリアとして使用する医薬品であって、ヒトに投与するために必要な品質検査を終えた医薬品、例えば、リポソーム製剤、高分子ミセル製剤など、についても[18F]で事後的に標識することが可能となるため、これらの製剤のヒトに対する体内動態をPETで解析することが可能となる。
【0016】
上記[18F]標識化合物は、下記の一般式(V)、(VI)、(VII)又は(VIII)であることが好ましく、両親媒性分子集合体標識用プローブ、脂質二重膜標識用プローブ又はリポソーム標識用プローブとして好ましく使用できる。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【0017】
一般式(V)、(VI)、(VII)又は(VIII)で表される[18F]標識化合物は、リポソーム、高分子ミセルなどの両親媒性分子集合体、脂質が集合してできる脂質集合体及びこれらをドラッグキャリアとして使用する医薬品をより効率よく[18F]で標識することができるため、PETを利用した動態解析の感度をさらに高めることができる。
【0018】
本発明は、下記の一般式(IX)で表される化合物と、[18F]標識フッ化カリウムとを反応させて、一般式(IX)で表される化合物を[18F]で標識する標識ステップを備える、上記[18F]標識化合物の製造方法を提供する。
【化9】

(式中、nは7〜25の整数、mは2〜20の整数を表し、Xはメチレン又は下記の一般式(II)、(III)若しくは(IV)で表される二価の基を表す。)
【化10】

(式中、n’は5〜23の整数を表す。)
【化11】

【化12】

(式中、n’’は7〜25の整数を表す。)
【0019】
上記製造方法によれば、リポソーム、高分子ミセルなどの両親媒性分子集合体、及び脂質が集合してできる脂質集合体を、製造後に事後的に[18F]で標識することができる[18F]標識化合物を、簡易に製造できる。上記製造方法で得られた[18F]標識化合物によれば、リポソーム、高分子ミセルなどの両親媒性分子集合体、及び脂質が集合してできる脂質を使用すれば、両親媒性分子集合体又は脂質集合体をドラッグキャリアとして使用する医薬品であって、ヒトに投与するために必要な品質検査を終えた医薬品、例えば、リポソーム製剤、高分子ミセル製剤など、についても[18F]で事後的に標識することが可能となるため、これらの製剤のヒトに対する体内動態をPETで解析することが可能となる。
【0020】
本発明は、[18F]標識リポソームの製造方法であって、上記の[18F]標識化合物と、リポソームとを含む溶液を20〜80℃に加温する加温ステップと、加温ステップ後にこの溶液を0〜25℃に冷却する冷却ステップと、冷却ステップ後にこの溶液を遠心分離して、[18F]標識リポソームを沈殿として回収する若しくはカラムにより回収する回収ステップとを備える製造方法を提供する。また、本発明は、[18F]標識リポソーム製剤の製造方法であって、上記の[18F]標識化合物と、リポソーム製剤とを含む溶液を20〜80℃に加温する加温ステップと、加温ステップ後にこの溶液を0〜25℃に冷却する冷却ステップと、冷却ステップ後にこの溶液を遠心分離して、[18F]標識リポソーム製剤を沈殿として回収する若しくはカラムにより回収する回収ステップとを備える製造方法を提供する。
【0021】
上記製造方法によれば、上記の[18F]標識化合物を60%以上の高い効率でリポソーム又はリポソーム製剤に取り込ませることを可能とし、[18F]標識リポソーム又は[18F]標識リポソーム製剤を短時間で製造できる。上記製造方法で得られた[18F]リポソーム又は[18F]標識リポソーム製剤を使用すれば、これらのヒトに対する体内動態をPETで解析することが可能となる。
【0022】
本発明は、上記の製造方法で製造されるPET用[18F]標識リポソーム又はPET用[18F]標識リポソーム製剤を提供する。
【0023】
PET用[18F]標識リポソーム又はPET用[18F]標識リポソーム製剤を、動植物又はこれらの培養細胞に投与又は処理すれば、投与又は処理した[18F]標識リポソーム又は[18F]標識リポソーム製剤をPETで追跡することが可能となり、これらの体内動態の解析及び分子イメージング画像の取得が可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、リポソーム、高分子ミセルなどの両親媒性分子集合体、及び脂質が集合してできる脂質集合体を、製造後に事後的に[18F]で標識することができ、両親媒性分子集合体又は脂質集合体をドラッグキャリアとして使用する医薬品、例えばリポソーム製剤、のヒトに対する体内動態をPETで解析することが可能となる。
【0025】
また本発明の[18F]標識化合物は、脂質二重膜標識用プローブ及び両親媒性分子集合体標識用プローブとしての用途を提供し、細胞レベルから動物レベルでのトレーサー実験のツール及びPET解析用薬剤の標識用プローブとして両親媒性分子集合体又は脂質集合体をドラッグキャリアとして使用する広範囲の医薬品に使用できる。
【0026】
さらに、本発明によれば、上記[18F]標識化合物を、簡易に製造でき、60%以上の高い効率で[18F]標識された[18F]標識リポソーム又は[18F]標識リポソーム製剤を短時間で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0028】
本発明の[18F]標識化合物は、下記の一般式(I)で表されることを特徴としている。
【化13】

(式中、nは7〜25の整数、mは2〜20の整数を表し、Xはメチレン又は下記の一般式(II)、(III)若しくは(IV)で表される二価の基を表す。)
【化14】

(式中、n’は5〜23の整数を表す。)
【化15】

【化16】

(式中、n’’は7〜25の整数を表す。)
【0029】
一般式(I)中のnは、7〜15の整数であることが好ましく、11〜15の整数であることがより好ましく、mは2〜4の整数であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0030】
一般式(II)中のn’は、5〜13の整数であることが好ましく、9〜13の整数であることがより好ましい。
【0031】
一般式(IV)中のn’’は、7〜15の整数であることが好ましく、11〜15の整数であることがより好ましい。
【0032】
一般式(I)で表される[18F]標識化合物は、以下の反応スキームで化学合成できる。
【0033】
【化17】

【0034】
化合物(1a)と化合物(2a)とをYb(OTf)などのルイス酸の存在下で反応させることにより、化合物(3a)が得られる。本反応は、窒素、アルゴンなどの不活性気体の気流下又は雰囲気下で行うことができる。本反応に用いる溶媒としては、出発原料をある程度溶解し、かつ、反応を阻害しないものであれば、特に制限はないが、例えば、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒を用いることができる。反応温度は、出発原料、溶媒などにより異なり、好適には25〜70℃である。反応時間は、出発原料、溶媒、反応温度などにより異なり、好適には10〜150時間である。ルイス酸は、化合物(1a)に対して0.05〜0.5倍モルの量を用いることが好ましい。
【0035】
その後、化合物(3a)をトシル化し、化合物(4a)を得る。化合物(3a)のトシル化は、一般的なトシル化反応を適用でき、例えば、化合物(3a)をトルエンスルホン酸クロリドと反応させればよい。本反応に用いる溶媒としては、化合物(3a)を溶解し、かつ、反応を阻害しないものであれば、特に制限はなく、反応温度は、25〜70℃が好ましい。反応時間は、出発原料、溶媒、反応温度などにより異なり、好適には5〜48時間である。
【0036】
引き続き、化合物(4a)を[18F]KFと反応させることにより、本発明の[18F]標識化合物(5a)が得られる。[18F]KFは、サイクロトロンのターゲットに[18O]HOを充填し、プロトンビームを照射して18O(p,n)18F反応を引き起こさせ、これにより生じた[18F]FをKCOと反応させれば得ることができる。
【0037】
化合物(4a)を[18F]KFと反応させる場合には、例えば、[18F]KFを4,7,13,16,21,24−Hexaoxa−1,10−diazabicyclo[8,8,8]hexacosane(商品名:Kryptofix(商標)[2,2,2]、メルク社)と反応させて複合体(以下、[18F]KF/K[2,2,2])を製造し、この複合体を化合物(4a)と反応させればよい。
【0038】
反応終了後は、例えば、反応残渣にアセトニトリル水溶液を加え、逆相HPLCで分画すれば、化合物(5a)を分離精製できる。HPLCの条件としては、以下の条件を例示できる。
<HPLCの条件>
・HPLCカラム:Inertsil ODS3(7.6×250mm、5m)
・移動相:CHCN:HO=800:200
流速:6mL/min
【0039】
上記[18F]標識化合物は、リポソーム、高分子ミセルなどの両親媒性分子集合体、及び脂質が集合してできる脂質集合体を、製造後に事後的に[18F]で標識することができ、ヒトを含む動物に標識された両親媒性分子集合体及び脂質集合体を投与すれば、両親媒性分子集合体及び脂質集合体の体内動態を、PETを利用して解析することが可能となる。
【0040】
上記[18F]標識化合物に加えて、上記反応スキームに記載した化合物(1a)の代わりに、炭素数8〜26、好ましくは炭素数8〜16の直鎖又は分枝アルキル鎖(以下、親油性鎖)と、ベンゼン、ナフタレンあるいはアントラセンなどの炭化水素からなる芳香環、フラン、ピロール、チオフェン、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリンあるいはフタラジンなどの複素芳香環、シクロヘキサン、デカリンあるいはテトラリンなどの炭化水素環、又はテトラヒドロフラン、ピロリジンあるいはピペリジンなどの複素環を有する環状化合物(以下、リンカー化合物)とを結合した化合物(以下、化合物(1b))を使用し、上記反応スキームにしたがって[18F]標識化合物を化学合成すれば、こうして得られた[18F]標識化合物についても、リポソーム、高分子ミセルなどの両親媒性分子集合体、及び脂質が集合してできる脂質集合体を、製造後に事後的に[18F]で標識することができる。上記リンカー化合物は、芳香環、複素芳香環、炭化水素環又は複素環に、炭素数1〜5のアルキル基が1〜3個結合していてもよい。
【0041】
リンカー化合物としては、以下の一般式で表されるリンカー化合物を例示できる。式中、R1及びR2は、親油性鎖と結合し、Lは反応スキームにおける化合物(2a)又は後述する化合物(2b)と結合する。
【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【0042】
上記の化合物(1b)は、当業者であれば公知の方法で容易に化学合成でき、例えば、親油性鎖の末端を、メタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基などのスルホン酸エステル、クロロ、ブロモ、ヨードのハロゲン基又は水酸基などの脱離基とし、リンカー化合物と、エーテル、エステルなどの含酸素結合、アミン、アミドなどの含窒素結合、炭素−炭素結合すればよい。
【0043】
また、上記[18F]標識化合物に加えて、上記反応スキームに記載した化合物(2a)の代わりに、ポリエチレングリコール、グリセリン、エタノールアミン又は2−アミノ−1,3−プロパンジオール(以下、化合物(2b))を使用し、反応スキームにしたがって[18F]標識化合物を化学合成すれば、こうして得られた[18F]標識化合物についても、リポソーム、高分子ミセルなどの両親媒性分子集合体、及び脂質が集合してできる脂質集合体を、製造後に事後的に[18F]で標識することができる。
【0044】
化合物(2b)として使用するポリエチレングリコールの鎖長は1〜100であればよいが、1〜20が好ましい。また、化合物(2b)には、これらの水酸基がリン酸エステル結合したものが含まれ、リン酸エステルの末端にアミノアルキル基、N−アシルアミノアルキル基を有するものも含まれる。なお、化合物(2b)は、当業者であれば公知の方法で容易に化学合成できる。
【0045】
上記[18F]標識化合物は、下記の一般式(V)、(VI)、(XII)又は(VIII)であることが好ましい。
【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【0046】
一般式(V)で表される化合物は、上記反応スキームにおいて、化合物(1a)の代わりに下記の一般式(1b)を使用し、化合物(2a)の代わりにジエチレングリコールを使用すれば化学合成できる。
【化28】

【0047】
一般式(VI)で表される化合物は、上記反応スキームにおいて、化合物(1a)の代わりに下記の一般式(1c)を使用し、化合物(2a)の代わりにジエチレングリコールを使用すれば化学合成できる。
【化29】

【0048】
一般式(VII)で表される化合物は、上記反応スキームにおいて、化合物(1a)の代わりに下記の一般式(1d)を使用し、化合物(2a)の代わりにジエチレングリコールを使用すれば化学合成できる。
【化30】

【0049】
一般式(VIII)で表される化合物は、上記反応スキームにおいて、化合物(1a)の代わりに下記の一般式(1e)を使用し、化合物(2a)の代わりにジエチレングリコールを使用すれば化学合成できる。
【化31】

【0050】
上記[18F]標識化合物は、脂質二重膜標識用プローブ及び両親媒性分子集合体標識用プローブとして好ましく使用できる。
【0051】
ここで、「両親媒性分子集合体標識用プローブ」とは、脂質集合体、リポソーム、高分子ミセルのような両親媒性分子集合体の標識に使用できるプローブのことをいう。本明細書に記載する両親媒性分子集合体標識用プローブは、ポジトロン核種である[18F]と結合した[18F]標識化合物が両親媒性分子集合体に好適に取り込まれるため、両親媒性分子集合体を[18F]で標識し、この標識を追跡することによって両親媒性分子集合体の追跡を可能とするものである。
【0052】
また、「脂質二重膜標識用プローブ」とは、生物の細胞を構成する細胞膜のような天然の脂質二重膜や人為的に製造した脂質二重膜の標識に使用できるプローブのことをいう。本明細書に記載する脂質二重膜標識用プローブは、ポジトロン核種である[18F]と結合した[18F]標識化合物が脂質二重膜と好適に取り込まれるため、脂質二重膜を[18F]で標識し、この標識を追跡することによって脂質二重膜の追跡を可能とするものである。
【0053】
さらに、「リポソーム標識用プローブ」とは、リポソームの標識に使用できるプローブのことをいう。本明細書に記載するリポソーム標識用プローブは、ポジトロン核種である[18F]と結合した[18F]標識化合物がリポソームに好適に取り込まれるため、リポソームを[18F]で標識し、この標識を追跡することによってリポソームの追跡を可能とするものである。
【0054】
本発明の上記[18F]標識化合物の製造方法は、下記の一般式(IX)で表される化合物と、[18F]標識フッ化カリウムとを反応させて、一般式(IX)で表される化合物を[18F]で標識する標識ステップを備えることを特徴としている。
【化32】

(式中、nは7〜25の整数、mは2〜20の整数を表し、Xはメチレン又は下記の一般式(II)、(III)若しくは(IV)で表される二価の基を表す。)
【化33】

(式中、n’は5〜23の整数を表す。)
【化34】

【化35】

(式中、n’’は7〜25の整数を表す。)
【0055】
一般式(VIII)中のnは、7〜15の整数であることが好ましく、12〜15の整数であることがより好ましく、mは2〜4の整数であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0056】
上記標識ステップは、一般式(IX)で表される[18F]標識化合物を[18F]標識フッ化カリウムと反応させて、一般式(IX)で表される化合物を[18F]で標識する標識ステップは、上記の反応スキームに記載した化合物(4a)から化合物(5a)化学合成するステップに該当する。
【0057】
すなわち、上記の反応スキームに記載した化合物(3a)をトシル化することにより得られた化合物(4a)を[18F]KFと反応させるステップである。化合物(4a)との反応に使用する[18F]KFは、サイクロトロンのターゲットに[18O]HOを充填し、プロトンビームを照射して18O(p,n)18F反応を引き起こさせ、これにより生じた[18F]FをKCOと反応させれば得ることができ、例えば、[18F]KF/K[2,2,2])を化合物(4a)との反応に使用できる。
【0058】
上記製造方法で製造された[18F]標識化合物は、上記標識ステップ後に、逆相HPLCで分画することにより分離精製できる。
【0059】
本発明の[18F]標識リポソームの製造方法は、上記の[18F]標識化合物と、リポソームとを含む溶液を20〜80℃に加温する加温ステップと、加温ステップ後にこの溶液を0〜25℃に冷却する冷却ステップと、冷却ステップ後にこの溶液を遠心分離して、[18F]標識リポソームを沈殿として回収する若しくはカラムにより回収する回収ステップとを備えることを特徴としている。また、本発明の[18F]標識リポソーム製剤の製造方法は、上記の[18F]標識化合物と、リポソーム製剤とを含む溶液を20〜80℃に加温する加温ステップと、加温ステップ後にこの溶液を0〜25℃に冷却する冷却ステップと、冷却ステップ後にこの溶液を遠心分離して、[18F]標識リポソーム製剤を沈殿として回収する若しくはカラムにより回収する回収ステップとを備えることを特徴としている。
【0060】
上記加温ステップでは、上記の[18F]標識化合物と、リポソーム又はリポソーム製剤とを含む溶液をバイヤル、ビーカー又試験管などの容器に入れ、その容器を密封して20〜80℃のお湯に浸漬したり、恒温室に入れたりして加温すればよい。加温する温度としては、製剤により適宜決めることができる。
【0061】
冷却ステップでは、加温ステップ後の溶液の入った容器を0〜25℃の水に浸漬したり、氷中に置いたりして冷却すればよい。冷却する温度としては、0〜25℃が好ましく、0〜10℃がより好ましい。
【0062】
回収ステップでは、冷却ステップ後の溶液を遠心分離して、[18F]標識リポソーム又は[18F]標識リポソーム製剤を沈殿として集め、上清を廃棄すれば回収できるが、遠心分離における遠心力は、100,000〜1,000,000×gが好ましく、20,000〜700,000×gがより好ましいが製剤の比重により適宜決めることができる。またゲルろ過クロマトグラフィーの分子篩カラムなどを用いて回収することが可能である。
【0063】
本発明の製造方法で製造される[18F]標識リポソーム又は[18F]標識リポソーム製剤は、PET用リポソーム又はPET用リポソーム製剤として好適に使用できる。
【0064】
「陽電子放出型断層撮影(PET)用[18F]標識リポソーム」又は「陽電子放出型断層撮影(PET)用[18F]標識リポソーム製剤」とは、[18F]標識リポソーム又は[18F]標識リポソーム製剤を体内に投与し、体内で[18F]が放出する消滅放射線をPET装置で測定することにより、[18F]標識リポソーム又は[18F]標識リポソーム製剤の体内分布を定量的に画像化するために使用する[18F]標識リポソーム又は[18F]標識リポソーム製剤のことである。
【0065】
PET用[18F]標識リポソーム製剤を使用すれば、医薬品を包含し、医薬品のDDSを実現可能とするリポソーム又は医薬品であるリポソーム製剤の体内動態を、PETを利用してヒトで解析することが可能となる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)リポソーム標識用プローブの候補化合物のリポソームへの取り込み率
1.リポソーム標識用プローブの候補化合物の化学合成
1)7−[4−(Octyloxy)phenyl]−3,6−dioxaheptan−1−ol(以下、C8−N2−OH)の化学合成
窒素気流下、4−octyloxybenzyl alcohol(0.20g、0.84mmol)とdiethylene glycol(0.36g、3.4mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(4mL)にYb(OTf)(0.11g、0.17mmol)を加えて50℃で6日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、有機層を水で洗浄し、ジクロロメタンで抽出した。回収した有機層に無水硫酸マグネシウムを加え、濾過後の液体を減圧下で濃縮乾固し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶離(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)することにより、C8−N2−OH(0.136g、50%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.89 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.29-1.32 (8H, m), 1.44 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 1.77 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.59-3.74 (8H, m), 3.94 (2H, t, J = 7.0 Hz), 4.50 (2H, s), 6.87 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.26 (2H, d, J = 8.0 Hz).
【0068】
2)13−[4−(Octyloxy)phenyl]−3,6,9,12−tetraoxatridecan−1−ol(以下、C8−N4−OH)の化学合成
窒素気流下、4−octyloxybenzyl alcohol(0.31g、1.32mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量200)(1.06g、5.3mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(6.5mL)にYb(OTf)(82mg、0.13mmol)を加えて50℃で2日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(ヘキサン:酢酸エチル=1:3から100%酢酸エチル、酢酸エチル:メタノール=10:1)することにより、C8−N4−OH(0.110g、20%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.28-1.49 (10H, m), 1.77 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.58-3.73 (16H, m), 3.93 (2H, t, J = 7.0 Hz), 4.49 (2H, s), 6.86 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.25 (2H, d, J = 8.0 Hz).
【0069】
3)22−[4−(Octyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21−heptaoxadocosan−1−ol(以下、C8−N7−OH)の化学合成
窒素気流下、4−octyloxybenzyl alcohol(100mg、0.42mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量300)(0.51g、1.7 mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(2.1mL)にYb(OTf)(26mg、0.042mmol)を加えて50℃で20時間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(ヘキサン:酢酸エチル=1:3から100%酢酸エチル、酢酸エチル:メタノール=10:1)することにより、C8−N7−OH(32mg、10%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.89 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.29-1.45 (10H, m), 1.77 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.59-3.73 (28H, m), 3.94 (2H, t, J = 7.0 Hz), 4.49 (2H, s), 6.86 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.25 (2H, d, J = 8.0 Hz).
【0070】
4)7−[4−(Dodecyloxy)phenyl]−3,6−dioxaheptan−1−ol(以下、C12−N2−OH)の化学合成
窒素気流下、4−dodecyloxybenzyl alcohol(0.40g、1.37mmol)とdiethylene glycol(0.58g、5.5mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(7.0mL)にYb(OTf)(0.17g、0.27mmol)を加えて50℃で4日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(ヘキサン:酢酸エチル=2:1からヘキサン:酢酸エチル=1:1)することにより、C12−N2−OH(0.19g、36%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 6.5 Hz), 1.25-1.35 (16H, m), 1.44 (2H, quint, J = 7.0 Hz ), 1.77 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.59-3.74 (8H, m), 3.94 (2H, t, J = 7.0 Hz ), 4.50 (2H, s), 6.86 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.25 (2H, d, J = 8.5 Hz); 13C NMR (CDCl3): δ14.1, 22.7, 26.0, 29.2, 29.3, 29.4, 29.5, 29.55, 29.60, 29.61, 31.9, 61.7, 67.9, 69.0, 70.4, 72.4, 72.9, 114.3, 129.4, 129.6, 158.8 . IR (KBr): 3599, 1612 cm-1. MS: 398 [(M+NH4)+], 403 [(M+Na)+], 419 [(M+K)+].
【0071】
5)13−[4−(Dodecyloxy)phenyl]−3,6,9,12−tetraoxatridecan−1−ol(以下、C12−N4−OH)の化学合成
窒素気流下、4−dodecyloxybenzyl alcohol(0.10g、0.34 mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量200;0.27g、1.37mmol)のジクロロメタン溶液(1.7mL)にYb(OTf)(22mg、0.034mmol)を加え、室温で3日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(ヘキサン:酢酸エチル=1:3から100%酢酸エチル、酢酸エチル:メタノール=50:1)することにより、C12−N4−OH(0.033g、20%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 6.5 Hz), 1.14-1.44 (18H, m), 1.77 (2H, quint, J = 7.5 Hz), 3.58-3.79 (16H, m), 3.94 (2H, t, J = 6.5 Hz), 4.49 (2H, s), 6.85 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.24 (2H, d, J = 8.0 Hz); 13C NMR (CDCl3): δ14.1, 22.7, 26.0, 29.2, 29.3, 29.4, 29.55, 29.57, 29.60, 29.63, 31.9, 61.7, 68.0, 69.0, 70.3, 70.5, 70.58, 70.60, 72.5, 72.9, 114.3, 129.4, 130.0, 158.7. IR (KBr): 3446, 1629 cm-1. MS: 486 [(M+NH4)+], 491 [(M+Na)+].
【0072】
6)22−[4−(Dodecyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21−heptaoxadocosan−1−ol(以下、C12−N7−OH)の化学合成
窒素気流下、4−dodecyloxybenzyl alcohol(0.30g、1.03mmol)とpoly(ethylene glycol) (平均分子量300;1.23g、4.1mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(5.1mL)にYb(OTf)(64mg、0.10mmol)を加え、室温で24時間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(ヘキサン:酢酸エチル=1:3から100%酢酸エチル、酢酸エチル:メタノール=50:1、酢酸エチル:メタノール=19:1)することにより、C12−N7−OH(0.073g、12%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.261.44 (18H, m), 1.77 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.593.72 (28H, m), 3.94 (2H, t, J = 7.0 Hz), 4.48 (2H, s), 6.85 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.24(2H, d, J = 8.5 Hz); 13C NMR (CDCl3): δ14.0, 22.6, 26.0, 29.2, 29.29, 29.35, 29.5, 29.58, 29.59, 31.9, 61.7, 68.0, 69.0, 70.2, 70.5, 70.6, 72.6, 72.9, 114.3, 129.3, 130.0, 158.7 IR (KBr): 3481 cm-1. MS: 618 [(M+NH4)+].
【0073】
7)(28−[4−(Dodecyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21,24,27−nonaoxaoctacosan−1−ol(以下、C12−N9−OH)の化学合成
窒素気流下、4−dodecyloxybenzyl alcohol(100mg、0.34mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量400)(1.23g、3.1mmol)のジクロロメタン溶液(1.7mL)にYb(OTf)(11mg、0.018mmol)を加えて50℃で4日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(ヘキサン:酢酸エチル=1:1からから100%酢酸エチル、酢酸エチル:メタノール=10:1)することにより、C12−N9−OH(21mg、10%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.22-1.36 (16H, m), 1.44 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 1.75 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.58-3.73 (36H, m), 3.94 (2H, t, J = 7.0 Hz), 4.49 (2H, s), 6.85 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.25 (2H, d, J = 8.5 Hz).
【0074】
8)61−[4−(Dodecyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21,24,27,30,33,36,39,42,45,48,51,54,57,60−henhexacontan−1−ol(以下、C12−N20−OH)の化学合成
窒素気流下、4−dodecyloxybenzyl alcohol(100mg、0.34mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量900)(1.23g、1.4mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(1.7mL)にYb(OTf)(11mg、0.018mmol)を加えて50℃で2日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶離(アセトン:メタノール=30:1)することにより、C12−N20−OH(40mg、10%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.85 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.24-1.38 (16H, m), 1.42 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 1.74 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.57-3.70 (80H, m), 3.91 (2H, t, J = 7.0 Hz), 4.46 (2H, s), 6.80 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.21 (2H, d, J = 8.5Hz).
【0075】
9)7−[4−(Hexadecyloxy)phenyl]−3,6−dioxaheptan−1−ol(以下、C16−N2−OH)の化学合成
窒素気流下、4−hexadecyloxybenzyl alcohol(0.40g、1.15mmol)とdiethylene glycol(0.48g、4.6mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(5.7mL)にYb(OTf)(0.14g、0.22mmol)を加えて室温で4日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶離(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)することにより、C16−N2−OH(0.092g、18%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 6.5 Hz), 1.25-1.45 (26H, m), 1.77 (2H, quint, J = 7.5 Hz), 3.59-3.74 (8H, m), 3.94 (2H, t, J = 6.5 Hz ), 4.50 (2H, s), 6.86 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.25 (2H, d, J = 8.5 Hz) ; 13C NMR (CDCl3): δ14.1, 22.7, 26.0, 29.2, 29.3, 29.4, 29.5, 29.56, 29.62, 29.7, 31.9, 61.7, 67.9, 69.0, 70.4, 72.4, 72.9, 114.3, 129.4, 129.6, 158.8 IR (KBr): 3601, 1611 cm-1. MS: 454 [(M+NH4)+], 459 [(M+Na)+], 475 [(M+K)+].
【0076】
10)19−[4−(Hexadecyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18−hexaoxanonadecan−1−ol(以下、C16−N4−OH)の化学合成
窒素気流下、4−hexadecyloxybenzyl alcohol(0.18mg、0.52mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量200)(0.42g、2.1mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(2.6mL)にYb(OTf)(49mg、0.079mmol)を加えて50℃で2日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(ヘキサン:酢酸エチル=1:3から100%酢酸エチル)することにより、C16−N4−OH(54mg、20%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.26-1.44 (26H, m), 1.77 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.58-3.73 (16H, m), 3.94(2H, t, J = 7.0 Hz), 4.49 (2H, s), 6.86(2H, d, J = 8.0 Hz), 7.25(2H, d, J = 8.0 Hz).
【0077】
11)22−[4−(Hexadecyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21−heptaoxadocosan−1−ol(以下、C16−N7−OH)の化学合成
窒素気流下、4−hexadecyloxybenzyl alcohol(180mg、0.52mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量300)(0.62g、2.1mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(2.6mL)にYb(OTf)(32mg、0.052mmol)を加えて50℃で5日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(ジクロロメタンからジクロロメタン:メタノール=20:1)することにより、C16−N7−OH(32mg、10%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.26-1.44 (26H, m), 1.77 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.59-3.73 (28H, m), 3.94 (2H, t, J = 7.0 Hz), 4.49 (2H, s), 6.86 (2H, d, J = 9.0 Hz), 7.24 (2H, d, J = 9.0 Hz).
【0078】
12)28−[4−(Hexadecyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21,24,27−nonaoxaoctacosan−1−ol(以下、C16−N9−OH)の化学合成
窒素気流下、4−hexadecyloxybenzyl alcohol(0.10g、0.29mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量400)(1.03g、2.6mmol)のジクロロメタン溶液(1.5mL)にYb(OTf)(9mg、0.015mmol)を加えて50℃で7日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(100%酢酸エチルから酢酸エチル:メタノール=9:1)することにより、C16−N9−OH(21mg、10%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.22-1.36 (24H, m), 1.44 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 1.78 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.58-3.73 (36H, m), 3.94 (2H, t, J = 7.0 Hz), 4.49 (2H, s), 6.85 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.25 (2H, d, J = 8.5 Hz).
【0079】
13)61−[4−(Hexadecyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21,24,27,30,33,36,39,42,45,48,51,54,57,60−henhexacontan−1−ol(以下、C16−N20−OH)の化学合成
窒素気流下、4−hexadecyloxybenzyl alcohol(0.18g、0.52mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量900)(1.86g、2.0mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(2.6mL)にYb(OTf)(32mg、0.052mmol)を加えて50℃で6日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで溶離(アセトン:メタノール=30:1)することにより、C16−N20−OH(60mg、9%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.20-1.26 (28H, m), 1.44 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 1.73 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.10-3.73 (80H, m), 3.94 (2H, t, J = 7.0 Hz), 4.48 (2H, s), 6.85 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.24 (2H, d, J = 8.5 Hz).
【0080】
14)3−[4−(Octyloxy)benzyloxy]−propan−1,2−diol(以下、C8−Glycerine−OH)の化学合成
上記と同様にしてC8−Glycerine−OHを得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.251.34 (8H, m), 1.45 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 1.77 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.52 (1H, dd, J = 6.0, 10.0 Hz), 3.56 (1H, dd, J = 4.0, 10.0 Hz), 3.63 (1H, dd, J = 6.0, 11.0 Hz), 3.70 (1H, dd, J = 4.0, 11.0 Hz), 3.86-3.89 (1H, m), 3.94 (2H, t, J = 7.0 Hz), 4.48 (2H, s), 6.87 (2H, dd, J = 2.0, 8.5 Hz), 7.23 (2H, dd, J = 2.5, 8.5 Hz).
【0081】
15)3−[4−(Dodecyloxy)benzyloxy)−propan−1,2−diol(以下、C12−Glycerine−OH)の化学合成
上記と同様にしてC12−Glycerine−OHを得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.25-1.40 (16H, m), 1.45 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 1.77 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 3.52 (1H, dd, J = 6.0, 10 Hz), 3.57 (1H, dd, J = 4.0, 10.0 Hz), 3.63 (1H, dd, J = 6.0, 11.0 Hz), 3.71 (2H, dd, J = 4.0, 11.0 Hz), 3.88 (1H, m), 3.95 (2H, t, J = 6.5 Hz ), 4.48 (2H, s), 6.88 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.23 (2H, d, J = 8.5 Hz ).
【0082】
16)3−[4−(Hexadecyloxy)benzyloxy)−propan−1,2−diol(以下、C16−Glycerine−OH)の化学合成
上記と同様にしてC16−Glycerine−OHを得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.25-1.40 (24H, m), 1.44 (2H, m), 1.77 (2H, quint., J = 7.0 Hz), 3.53 (1H, dd, J = 6.0, 10.0 Hz), 3.56 (1H, dd, J = 3.5, 9.0 Hz), 3.64 (1H, dd, J = 5.5, 11.5 Hz), 3.70 (1H, dd, J = 4.0, 11.5 Hz), 3.86-3.89 (1H, m), 3.95 ( 2H, t, J = 7.0 Hz ), 4.48 (2H, s), 6.87 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.23 (2H, d, J = 8.0 Hz).
【0083】
17)22−[3,4−Di(octyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21−heptaoxadocosan−1−ol(以下、C8×2−N7−OH)の化学合成
窒素気流下、3,4−di(octyloxy)benzyl alcohol(0.30g、0.82mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量300)(0.99g、3.3mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(4.1mL)にYb(OTf)(51mg、0.082mmol)を加えて50℃で25時間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(ヘキサン:酢酸エチル=1:1から100%酢酸エチルから酢酸エチル:メタノール=10:1)することにより、C8×2−N7−OH(172mg、32%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (6H, t, J = 6.0 Hz), 1.28-1.33 (16H, m), 1.43-1.49 (4H, m), 1.77-1.84 (4H, m), 3.58-3.73 (28H, m), 3.96-4.00 (4H, m), 4.47 (2H, s), 6.83 (2H, s), 6.89 (1H, s).
【0084】
18)28−[3,4−Di(octyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21,24,27−nonaoxaoctacosan−1−ol(以下、C8×2−N9−OH)の化学合成
窒素気流下、3,4−di(octyloxy)benzyl alcohol(0.30g、0.82mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量400)(1.32g、3.3mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(4.1mL)にYb(OTf)(51mg、0.082mmol)を加えて50℃で6日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(100%酢酸エチルから酢酸エチル:メタノール=2:1)することにより、C8×2−N9−OH(0.20g、32%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (6H, t, J = 6.0 Hz), 1.28-1.33 (16H, m), 1.43-1.49 (4H, m,), 1.78-1.83 (4H, m), 3.58-3.73 (36H, m), 3.96-4.00 (4H, m), 4.47 (2H, s), 6.83 (2H, s), 6.89 (1H, s).
【0085】
19)61−[3,4−Di(octyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21,24,27,30,33,36,39,42,45,48,51,54,57,60−henhexacontan−1−ol(以下、C8×2−N20−OH)の化学合成
窒素気流下、3,4−di(octyloxy)benzyl alcohol(0.30mg、0.82mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量900)(3.0g、3.3mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(4.1mL)にYb(OTf)(51mg、0.082mmol)を加えて50℃で2日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(100%酢酸エチルから酢酸エチル:メタノール=3:1)することにより、C8×2−N20−OH(0.20g、20%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (6H, t, J = 7.0 Hz), 1.25-1.36 (16H, m), 1.42-1.47 (4H, m,), 1.77-1.84 (4H, m), 3.59-3.73 (80H, m), 3.96-3.99 (4H, m), 4.47 (2H, s), 6.83 (2H, s), 6.89 (1H, s).
【0086】
20)28−[3,4−Di(dodecyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21,24,27−nonaoxaoctacosan−1−ol(以下、C12×2−N9−OH)の化学合成
窒素気流下、3,4−di(dodecyloxy)benzyl alcohol(0.32g、0.68mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量400)(1.1g、2.7mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(3.2mL)にYb(OTf)(42mg、0.068mmol)を加えて50℃で6日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(100%酢酸エチルから酢酸エチル:メタノール=5:1)することにより、C12×2−N9−OH(0.30g、21%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (6H, t, J = 7.0 Hz), 1.25-1.32 (32H, m), 1.42-1.45 (4H, m), 1.77-1.83 (4H, m), 3.59-3.73 (36H, m), 3.96-4.00 (4H, m), 4.47 (2H, s), 6.83 (2H, s), 6.89 (1H, s).
【0087】
21)61−[3,4−(Dodecyloxy)phenyl]−3,6,9,12,15,18,21,24,27,30,33,36,39,42,45,48,51,54,57,60−henhexacontan−1−ol(以下、C12×2−N20−OH)の化学合成
窒素気流下、3,4−di(dodecyloxy)benzyl alcohol(0.34g、0.72mmol)とpoly(ethylene glycol)(平均分子量900)(2.4g、2.7mmol)の1,2−ジクロロエタン溶液(3.2mL)にYb(OTf)(45mg、0.073mmol)を加えて50℃で2日間攪拌しながら反応させ、反応液にジクロロメタンを加えて希釈した。その後、C8−N2−OHと同様の方法で有機層を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで勾配溶離(100%アセトンからアセトン:メタノール=2:1)することにより、C12×2−N20−OH(0.50g、13%)を得た。1H NMR (CDCl3): δ0.88 (6H, t, J = 7.0 Hz), 1.26-1.36 (32H, m), 1.42-1.48 (4H, m), 1.78-1.82 (4H, m), 3.59-3.73 (80H, m), 3.96-4.00 (4H, m), 4.47 (2H, s), 6.82 (2H, s), 6.89 (1H, s).
【0088】
2.リポソームの調製
リポソームの調製は、凍結乾燥法及び凍結融解法(寺田弘、吉村哲郎 編著、「ライフサイエンスにおけるリポソーム実験マニュアル」、シェプリンガー・フェアラーク東京株式会社発行)にしたがって行った。ジステアロイルフォスファチジルコリン(日本精化株式会社)とコレステロール(日本精化株式会社)とを2:1のモル比で混合し、tert−ブタノール(関東化学株式会社)に溶解し、凍結乾燥を行った。凍結乾燥された脂質混合物は、0.3mol/Lのグルコース水溶液を用いて水和し、脂質二重膜からなるリポソームを作成した。リポソームは、200nm及び50nmのポリカーボネート膜を透過させ、約80〜90nmに整粒した。平均粒子径は、ゼータサイザーナノ(Malvern社)を用いて測定した。こうして調製したリポソームは、0.3mol/Lのグルコース水溶液若しくはリン酸緩衝生理食塩水で希釈し、10mMのリポソーム溶液として以下の実験に用いた。
【0089】
3.リポソーム標識用プローブの候補化合物のリポソームへの取り込み試験
リポソーム標識用プローブの各候補化合物は、0.1mMになるようにアセトニトリル又はクロロホルムに溶解し、その1mLを試験管に移し、遠心真空乾燥機で溶媒を除去し、そこに10mMのリポソーム溶液を加え、65℃で15分間混和した。その後、超遠心分離機(Hitachi CS120EX)を用いて、550000×gで20分間、混和したリポソーム溶液を遠心分離し、上清を除去後、リポソームに取り込まれてリポソームと共に沈殿した各候補化合物の量をHPLCで測定した。HPLCの条件は、以下に示した通りである。
【0090】
<HPLC測定条件>
・カラム:CAPCELL PACK C18 TYPE UG120、5μm、4.6mm(ID)×15.0cm(L)(資生堂)
・移動相:THF/H2O=1/1、1mL/min
・検出:220 nm(HITACHI UV Detector L−2400)
・温度:40℃
・インジェクシヨンボリューム:10μL
【0091】
図1は、リポソーム標識用プローブの各候補化合物のリポソームへの取り込み効率を示したグラフである。
【0092】
その結果、以下の一般式(X)で表すことができるC8−N2−OH、C8−N4−OH、C8−N7−OH、C12−N2−OH、C12−N4−OH、C12−N7−OH、C12−N9−OH、C12−N20−OH、C16−N2−OH、C16−N4−OH、C16−N7−OH、C16−N9−OH及びC16−N20−OH、以下の一般式(XI)で表すことができるC8−Glycerine−OH、C12−Glycerine−OH及びC16−Glycerine−OH、以下の一般式(XII)で表すことができるC8×2−N7−OH、C8×2−N20−OH、C12×2−N9−OH及びC12×2−N20−OHは、リポソームに効率よく取り込まれ、いずれも70%以上の取り込み効率を示した。
【化36】

(式中、nは7〜25の整数、mは2〜20の整数を表す。)
【化37】

(式中、nは7〜25の整数を表す。)
【化38】

(式中、n’’は7〜25の整数、mは2〜20の整数を表す。)
【0093】
(実施例2)リポソーム標識用プローブの候補化合物が取り込まれた標識リポソームの安定性
リポソームに高効率で取り込まれた候補化合物のうち、C12−N2−OH、C16−N2−OH、C8−Gly−OH、C12−Gly−OH及びC12×2−N9−OHについて、リポソームに取り込まれた状態における血清中での安定性を調べた。
【0094】
C12−N2−OH、C16−N2−OH、C8−Gly−OH、C12−Gly−OH及びC12×2−N9−OHのいずれかが取り込まれた各リポソームを、50%牛血清(株式会社ジャパン・バイオシーラム)又はリン酸緩衝液中でそれぞれ1時間インキュベートし、回収した各リポソームをゲルろ過カラムで分画し、リポソーム画分を回収した。その後、リポソーム画分に含まれる各候補化合物の量をHPLCで定量し、リン酸緩衝液中でインキュベートしたリポソームに保持されている候補化合物の量と血清中でインキュベートしたリポソームに保持されている候補化合物の量とを比較することにより、血清中での安定性を評価した。HPLCの条件は実施例1に記載した条件と同じである。
【0095】
図2は、リポソームに取り込まれたリポソーム標識用プローブの各候補化合物の血清中での安定性を示したグラフである。図中の残存率とは、リン酸緩衝液でインキュベートしたリポソームに保持されている各候補化合物の量に対する血清中でインキュベートしたリポソームに保持されている各候補化合物の量の割合を示しており、残存率が高いほど血清に対する安定性が高いと評価できる。
【0096】
その結果、上記の一般式(X)で表すことができるC12−N2−OH及びC16−N2−OH、上記の一般式(XI)で表すことができるC8−Gly−OH及びC12−Gly−OH、上記の一般式(XII)で表すことができる12×2−N9−OHの残存率は、いずれも90%以上の値を示した。これらの化合物は、血清中で分解を受けることなくリポソームに安定して保持されることが判明し、リポソーム標識用プローブとして使用できることが示唆された。
【0097】
(実施例3)[18F]標識化合物のリポソームへの取り込み率
1.[18F]標識化合物の化学合成
1)1−[18F]Fluoro−7−[4−(dodecyloxy)phenyl]−3,6−dioxaheptane(以下、C12−N2−18F)の化学合成
実施例1に記載した方法で化学合成しC12−N2−OH(40mg、0.10mmol)に1mLのトルエンを加え、減圧濃縮して水分を共沸除去し、更に1mmHgで30分間減圧乾燥し、これに0.1mLの無水テトラヒドロフランを加えた。その後、こうして得られたC12−N2−OHのテトラヒドロフラン溶液を、窒素気流下、水素化ナトリウム(0.52mmol)と流動パラフィンとの混合物(流動パラフィンを約55%(w/w)含有)と無水テトラヒドロフラン(0.1mL)の入った別のナス形フラスコに氷冷下で注ぎ入れ、室温で1時間攪拌した。引き続き、そこに0.31mmolのトルエンスルホン酸クロリドを含有する無水テトラヒドロフラン溶液(0.1mL)加えて室温で17時間攪拌し、氷冷下でメタノール(5滴)、水(1mL)、酢酸エチル(5mL)を順次加え、室温で20分間攪拌し、有機層を回収した。回収した有機層は、飽和食塩水で洗浄し、分離した有機層に無水硫酸マグネシウムを加え、濾過後の液体を減圧下で濃縮乾固し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製し、7−[4−(Dodecyloxy)phenyl]−3,6−dioxaheptyl Toluene−4−sulfonate(以下、C12−N2−OTs)(33mg、60%)を得た。得られたC12−N2−OTsの分析結果を以下に記す。
【0098】
1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.24-1.30 (16H, m), 1.46 (2H, quint, J = 7.5 Hz), 1.77 (2H, quint, J = 7.5 Hz), 2.43 (3H, s), 3.52-3.54 (4H, m), 3.68 (2H, t, J = 5.0 Hz), 3.94 (2H, t, J = 6.5 Hz), 4.17 (2H, t, J = 5.0 Hz), 4.45 (2H, s), 6.86 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.22 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.31(2H, d, J = 8.0 Hz), 7.79 (2H, d, J = 8.5 Hz); 13C NMR (CDCl3): δ14.1, 21.6, 22.7, 26.0, 29.2, 29.3, 29.5, 29.6, 29.6, 29.6, 31.9, 68.0, 68.6, 68.9, 69.2, 70.8, 72.9, 114.4, 127.9, 129.3, 129.8, 129.9, 130.0, 133.0, 144.7, 158.8. IR (KBr): 1612 cm-1.
【0099】
その後、予め準備した[18F]KF/K[2,2,2]に、C12−N2−OTsのアセトニトリル溶液を加え、100℃で10分間反応させ、フッ素化を行うことにより[18F]標識を行った。反応終了後、反応残渣にアセトニトリル水溶液(アセトニトリル:水=50:50(w/w))を加え、以下の条件でHPLCを行うことにより、C12−N2−18Fを精製した。HPLCで分取したC12−N2−18Fのフラクションは、減圧濃縮し、残渣にエタノールを加え再溶解して以下の実験に使用した。
<HPLCの条件>
・HPLCカラム:Inertsil ODS3(7.6×250mm、5m)
・移動相:CHCN:HO=800:200
流速:6mL/min
【0100】
なお、[18F]KF/K[2,2,2]は、以下のようにして合成した。
【0101】
まず、サイクロトロンのターゲットに[18O]HOを充填し、ヘリウムガスで1.2MPaに加圧した後にプロトンビーム(20μA)を照射し、18O(p,n)18F反応によって[18F]Fを製造した。その後、カラムに充填した陰イオン交換樹脂(AG1−X8、CO−form、Bio−Rad社)に製造した[18F]Fを吸着させ、40mM KCO水溶液で溶出し、溶出液を反応容器に回収した。回収した溶出液に1.5mgの4,7,13,16,21,24−Hexaoxa−1,10−diazabicyclo[8,8,8]hexacosane(商品名:Kryptofix(商標)[2,2,2]、メルク社)を含むアセトニトリルを2mL加え、110℃で共沸脱水を行い、溶出液がほぼ乾固した後に1mLのアセトニトリルを加え、共沸脱水を2度繰り返した。その後、減圧下で残存溶媒を90秒間留去し、さらに90秒間ヘリウムガス(200mL/min)で反応容器内をパージして水分を完全に除去し、室温まで冷却することにより[18F]KF/K[2,2,2]を得た。
【0102】
2)1−[18F]Fluoro−7−[4−(hexadecyloxy)phenyl]−3,6−dioxaheptane(以下、C16−N2−18F)の化学合成
C12−N2−OTsの合成法と同様にして、実施例1に記載した方法で化学合成したC16n2−OH(32mg、0.074mmol)から7−[4−(Hexadecyloxy)phenyl]−3,6−dioxaheptyl Toluene−4−sulfonate(以下、C16−N2−OTs)(30mg、69%)を得た。得られたC16−N2−OTsの分析結果を以下に記す。
【0103】
1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J=8.0 Hz), 1.26-1.31 (26H, m), 1.44 (2H, quint, J = 7.5 Hz), 1.77 (2H, quint, J = 7.5 Hz), 2.43 (3H, s), 3.53 (2H, quint, J = 3.0 Hz) , 3.58 (2H, quint, J = 4.0), 3.69 (2H, t, J = 4.5 Hz), 3.94 (2H, t, J = 6.5 Hz), 4.17 (2H, t, J = 5.5 Hz), 4.45 (2H, s), 6.85 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.22 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.31 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.79 (2H, d, J = 8.0 Hz); 13C NMR (CDCl3): δ14.1, 21.6, 22.7, 26.0, 29.3, 29.3, 29.4, 29.6, 29.6, 29.7, 31.9, 68.0, 68.7, 69.0, 69.2, 70.8, 73.0, 114.4, 128.0, 129.3, 129.8, 129.9, 144.7, 158.8. IR (KBr): 1610 cm-1.
【0104】
その後、予め準備した[18F]KF/K[2,2,2]に、C16−N2−OTsのアセトニトリル溶液を加え、100℃で10分間反応させ、フッ素化を行うことにより[18F]標識を行った。反応終了後、反応残渣にアセトニトリル水溶液(アセトニトリル:水=50:50(w/w))を加え、上記と同じ条件でHPLCを行うことにより、C16−N2−18Fを精製した。HPLCで分取したC16−N2−18Fのフラクションは、減圧濃縮し、残渣にエタノールを加え再溶解して以下の実験に使用した。
【0105】
3)1−[18F]Fluoro−3,6−dioxatetracosane(以下、stearyl−N2−18F)の化学合成
C12−N2−OTsの合成法と同様にして、実施例1に記載した方法で化学合成したstearyl−N2−OH(150mg、0.42mmol)から3,6−Dioxatetracosanyl Toluene−4−sulfonate(以下、stearyl−N2−OTs)(137mg、64%)を得た。得られたstearyl−N2−OTsの分析結果を以下に記す。
【0106】
1H NMR (CDCl3): δ0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.22-1.33 (30H, m), 1.52-1.58 (2H, m), 2.45 (3H, s), 3.41 (2H, t, J = 7.0 Hz), 3.50 (2H, m), 3.57 (2H, m), 3.69 (2H, t, J = 5.0 Hz), 4.17 (2H, t, J = 5.0 Hz), 7.34 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.80 (2H, d, J = 8.0 Hz); 13C NMR (CDCl3): δ14.0, 21.6, 22.7, 26.0, 29.3, 29.5, 29.6, 29.6, 29.6, 29.7, 31.9, 68.6, 69.2, 69.9, 70.7, 71.5, 127.9, 129.8, 132.9. MS: 530 [(M+NH4)+], 535 [(M+Na)+].
【0107】
その後、予め準備した[18F]KF/K[2,2,2]に、stearyl−N2−OTsのアセトニトリル溶液を加え、100℃で10分間反応させ、フッ素化を行うことにより[18F]標識を行った。反応終了後、反応残渣にアセトニトリル水溶液(アセトニトリル:水=50:50(w/w))を加え、上記と同じ条件でHPLCを行うことにより、stearyl−N2−18Fを精製した。HPLCで分取したstearyl−N2−18Fのフラクションは、減圧濃縮し、残渣にエタノールを加え再溶解して以下の実験に使用した。
【0108】
2.[18F]標識化合物のリポソームへの取り込み試験(リポソームの[18F]による標識試験)
上記のようにして合成した[18F]標識化合物(エタノール溶液)の放射活性を、キューリーメーター(アロカ社)で測定し、100MBq相当量の[18F]標識化合物(エタノール溶液)を試験管に移し取り、ヘリウムガス送流下で55℃に加熱して溶媒を除去した。そこに、実施例1に記載した方法で調製したリポソーム溶液を1mL添加し、65℃で15分間攪拌してリポソームへの取り込みを誘導し、リポソームを[18F]で標識することにより、した。その後、リポソーム溶液を、超遠心分離器(日本ベックマン株式会社)を用いて、70,000rpmで20分間、遠心分離し、上清を除去後、沈殿したリポソームを1mLのリン酸緩衝生理食塩水に懸濁した。こうして得られたリポソームの縣濁液は、新しい試験管に移し、リポソームに取り込まれた[18F]標識化合物の放射活性をキュリーメーターで測定した。[18F]標識化合物のリポソームへの取り込み効率は、リポソーム溶液に加えた[18F]標識化合物の放射活性に対する、リポソームに取り込まれた[18F]標識化合物の放射活性の割合で示した。
【0109】
図3は、[18F]標識化合物のリポソームへの取り込み効率を示したグラフである。
【0110】
その結果、以下の一般式(XIII)で表すことができるC12−N2−18F及びC16−N2−18F、以下の一般式(XIV)で表すことができるStearyl−N2−18Fは、リポソームに効率よく取り込まれ、いずれも70%以上の取り込み効率を示した。
【化39】

(式中、nは7〜25の整数、mは2〜20の整数を表す。)
【化40】

(式中、nは7〜25の整数、mは2〜20の整数を表す。)
【0111】
(実施例4)[18F]標識リポソームの安定性
リポソームへの[18F]標識化合物の取り込みは実施例3と同様に行った。リポソーム溶液は、50%牛血清中又はリン酸緩衝液中で1時間インキュベートした。溶液は、ゲルろ過クロマトグラフィーにより分画した。リポソーム画分に含まれる化合物量をHPLCにより測定した。測定条件は上記と同様である。血清中での安定性は、リポソーム画分に含まれるリン酸緩衝液中での化合物量に対する血清中での化合物量の割合で評価した。
【0112】
リポソームに高効率で取り込まれたC12−N2−18F、C16−N2−18F及びStearyl−N2−18Fについて、リポソームに取り込まれた状態における血清中での安定性を調べた。
【0113】
C12−N2−18F、C16−N2−18F及びStearyl−N2−18Fのいずれかが取り込まれた各リポソームを、50%牛血清(株式会社ジャパン・バイオシーラム)又はリン酸緩衝液中でそれぞれ1時間インキュベートし、回収した各リポソームをゲルろ過カラムで分画し、リポソーム画分を回収した。その後、リポソーム画分に含まれる各[18F]標識化合物の量をHPLCで定量し、リン酸緩衝液中でインキュベートしたリポソームに保持されている[18F]標識化合物の量と血清中でインキュベートしたリポソームに保持されている[18F]標識化合物の量とを比較することにより、血清中での安定性を評価した。HPLCの条件は、実施例1に記載した条件と同じである。
【0114】
図4は、リポソームに取り込まれた[18F]標識化合物の血清中での安定性を示したグラフである。図中の残存率とは、リン酸緩衝液でインキュベートしたリポソームに保持されている[18F]標識化合物の量に対する血清中でインキュベートしたリポソームに保持されている[18F]標識化合物の量の割合を示しており、残存率が高いほど血清に対する安定性が高いと評価できる。
【0115】
その結果、上記の一般式(XIII)で表すことができるC12−N2−18F及びC16−N2−18F並びに上記の一般式(XIV)で表すことができるStearyl−N2−18Fの残存率は、いずれも75%以上の値を示した。これらの化合物は、血清中で分解を受けることなくリポソームに安定して保持されることが判明し、リポソームを[18F]で標識可能なリポソーム標識用プローブとして使用できることが示唆された。
【0116】
(実施例5)[18F]標識リポソームを投与したマウスにおける[18F]標識リポソームの組織分布
6週齢のBalb/c系マウス(雄性;日本SLC株式会社)を飽水クロラールで麻酔し、尾静脈内にカニュレーターを設置し、[18F]の検出装置である高感度プラナーイメージング装置(浜松ホトニクス株式会社)に固定し、実施例3及び4と同じ方法でリポソームにC16−N2−18F又はStearyl−N2−18Fは[18F]を取り込ませ、[18F]で標識した[18F]標識リポソーム(約2.5MBq/マウス)をカニュレーターからマウスに投与した。投与開始後、1分、10分、20分、30分、40分、50分及び1時間目に[18F]標識リポソームのマウス体内での分布を高感度プラナーイメージング装置(浜松ホトニクス株式会社)で測定し、投与開始から1時間経過後には、マウスから各臓器を摘出し、各臓器の放射活性をARC2000(アロカ社)で測定した。対照には、C16−N2−18F又はStearyl−N2−18Fを単独でマウスに投与し、マウス体内での分布及び各臓器の放射活性を同様に測定した。
【0117】
図5は、C16−N2−18Fで標識したリポソーム(C16−N2−18F標識リポソーム)のマウス体内での分布の変動を経時的に示した図である。図6は、Stearyl−N2−18Fで標識したリポソーム(Stearyl−N2−18F標識リポソーム)のマウス体内での分布の変動を経時的に示した図である。
【0118】
その結果、C16−N2−18F又はStearyl−N2−18Fを単独でマウスに投与した場合には、投与開始10分以内にそのほとんどが肝臓に集まり、20分以降は速やかに膀胱に蓄積する傾向が認められた。このことは、C16−N2−18F及びStearyl−N2−18Fが血中で分解され、60分以内に代謝され、尿中として排泄されたことを示唆している。
【0119】
一方、C16−N2−18F標識リポソーム又はStearyl−N2−18F標識リポソームをマウスに投与した場合には、投与開始から60分の間を通じて、一部の臓器に集中して蓄積することなく、血液と共に全身に拡散される傾向が認められた。
【0120】
図7は、投与開始1時間経過後におけるマウスの各臓器へのC16−N2−18F標識リポソームの分布を示した図である。図8は、投与開始1時間経過後におけるマウスの各臓器へのStearyl−N2−18F標識リポソームの分布を示した図である。
【0121】
その結果、C16−N2−18F又はStearyl−N2−18Fを単独でマウスに投与した場合には、その大部分が尿として排泄されており、残りの約30%のほとんどが肝臓及び脾臓に蓄積し、血中には5%以下しか存在していなかった。
【0122】
一方、C16−N2−18F標識リポソーム又はStearyl−N2−18F標識リポソームをマウスに投与した場合には、尿として排泄されたのはわずかであり、肝臓及び脾臓に顕著な蓄積が認められるものの、血中にも約25%が存在していた。これらの結果は、マウスの体内においてもC16−N2−18F及びStearyl−N2−18Fがリポソームに保持され、血中で分解を受けることなく、リポソームと同じ動態を示すことを示唆している。
【0123】
(実施例6)従来法での[18F]によるリポソームの標識と本発明の[18F]標識化合物によるリポソームの標識との比較
ポジトロン核種でリポソームを標識する方法はほとんど知られていなかったが、水溶性のポジトロン標識物質である[18F]フルオロデオキシグルコース(以下、[18F]FDG)をリポソーム内部の水相に封入して標識する方法が1995年のBiochimica et Biophysica Actaに報告されている(Okuら、1238巻、p.86−90)。
【0124】
そこで、この文献に記載された方法にしたがって、[18F]フルオロデオキシグルコース(FDG)を製造し、標識効率、リポソーム製剤の標識に必要な操作、標識に要する時間、作業従事者の被曝、標識操作前後のリポソームの性質変化を調べ、実施例3〜5に示した本発明の[18F]標識化合物によるリポソームの標識と比較した。
【0125】
その結果、従来法では、リポソーム内部の水相に水溶性の[18F]FDGを外部から入れるため、凍結融解を繰り返すことによりリポソームの脂質二重膜構造を破壊し、[18F]FDGを生じた隙間から封入し、その後リポソームを再構築し調製することが必要であった。また、このステップの後には予め調製されていたリポソームの粒子径は保持されないため、再度、粒子径を揃えるための作業が必要となった。さらに、リポソーム内部への[18F]FDGの取り込みは、濃度勾配による拡散を原理とするため、効率は最大でも15%に止まるものであった。
【0126】
一方、本発明の方法では、リポソームの標識に両親媒性の[18F]標識化合物を用いるものである。両親媒性化合物は、他の物質を介さずに直接リポソームと混合することで、脂質二重膜に移行する性質を有するものであり、この移行に要する時間は、従来法とは比較にならないほど早く、15分以内で十分なものであった。この操作は、リポソームの粒子径やその他物理化学的性質に影響を与えず、製剤化されたリポソームそのものの性質を解析することが可能であることを意味するものであった。さらに、ポジトロン核種を用いる上で大きな問題となる作業従事者の被曝についても、標識に要する時間とリポソーム製の標識に必要な操作ステップの数の減少に応じて格段に低減することが可能となった。
【0127】
表1は、これらの特徴をまとめたものである。
【0128】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】リポソーム標識用プローブの各候補化合物のリポソームへの取り込み効率を示したグラフである。
【図2】リポソームに取り込まれたリポソーム標識用プローブの各候補化合物の血清中での安定性を示したグラフである。
【図3】[18F]標識化合物のリポソームへの取り込み効率を示したグラフである。
【図4】リポソームに取り込まれた[18F]標識化合物の血清中での安定性を示したグラフである。
【図5】C16−N2−18F標識リポソームのマウス体内での分布の変動を経時的に示した図である。
【図6】Stearyl−N2−18F標識リポソームのマウス体内での分布の変動を経時的に示した図である。
【図7】投与開始1時間経過後におけるマウスの各臓器へのC16−N2−18F標識リポソームの分布を示した図である。
【図8】投与開始1時間経過後におけるマウスの各臓器へのStearyl−N2−18F標識リポソームの分布を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表される、[18F]標識化合物。
【化1】

(式中、nは7〜25の整数、mは2〜20の整数を表し、Xはメチレン又は下記の一般式(II)、(III)若しくは(IV)で表される二価の基を表す。)
【化2】

(式中、n’は5〜23の整数を表す。)
【化3】

【化4】

(式中、n’’は7〜25の整数を表す。)
【請求項2】
下記の一般式(V)、(VI)、(VII)又は(VIII)で表される、請求項1記載の[18F]標識化合物。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【請求項3】
請求項1又は2記載の[18F]標識化合物からなる、両親媒性分子集合体標識用プローブ。
【請求項4】
請求項1又は2記載の[18F]標識化合物からなる、脂質二重膜標識用プローブ。
【請求項5】
請求項1又は2記載の[18F]標識化合物からなる、リポソーム標識用プローブ。
【請求項6】
下記の一般式(IX)で表される化合物と、[18F]標識フッ化カリウムとを反応させて、一般式(IX)で表される化合物を[18F]で標識する標識ステップを備える、請求項1又は2記載の[18F]標識化合物の製造方法。
【化9】

(式中、nは7〜25の整数、mは2〜20の整数を表し、Xはメチレン又は下記の一般式(II)、(III)若しくは(IV)で表される二価の基を表す。)
【化10】

(式中、n’は5〜23の整数を表す。)
【化11】

【化12】

(式中、n’’は7〜25の整数を表す。)
【請求項7】
18F]標識リポソームの製造方法であって、
請求項1又は2記載の[18F]標識化合物と、リポソームとを含む溶液を20〜80℃に加温する加温ステップと、
前記加温ステップ後に前記溶液を0〜25℃に冷却する冷却ステップと、
前記冷却ステップ後に前記溶液を遠心分離して、[18F]標識リポソームを沈殿として回収する若しくはカラムにより回収する回収ステップと、
を備える、製造方法。
【請求項8】
18F]標識リポソーム製剤の製造方法であって、
請求項1又は2記載の[18F]標識化合物と、リポソーム製剤とを含む溶液を20〜80℃に加温する加温ステップと、
前記加温ステップ後に前記溶液を0〜25℃に冷却する冷却ステップと、
前記冷却ステップ後に前記溶液を遠心分離して、[18F]標識リポソーム製剤を沈殿として回収する若しくはカラムにより回収する回収ステップと、
を備える、製造方法。
【請求項9】
請求項6記載の製造方法で製造される、陽電子放出型断層撮影用[18F]標識リポソーム又は陽電子放出型断層撮影用[18F]標識リポソーム製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−184412(P2008−184412A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18476(P2007−18476)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(506295964)
【出願人】(507031055)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】