説明

p−ジクロロベンゼンの製造方法

【課題】高いp−ジクロロベンゼン選択率と高い塩素転化率の両方を同時に満足するp−ジクロロベンゼンの新規な製造方法を提供する。
【解決手段】ルイス酸触媒及びフェノチアジン類化合物の存在下、ベンゼン及び/又はクロロベンゼンを塩素により核塩素化反応させてp−ジクロロベンゼンを製造する方法において、反応器1へベンゼン及び/又はクロロベンゼンとルイス酸触媒との混合溶液11を連続的に供給する第一供給路、前記反応器へベンゼン及び/又はクロロベンゼンとフェノチアジン類化合物との混合溶液12を連続的に供給する第二供給路、前記反応器へ塩素17を連続的に供給する第三供給路を有する反応器を用い、反応開始時に前記第一供給路及び第三供給路は順不同に開き、その後第二供給路の順に流路を開いて反応原料を供給するp−ジクロロベンゼンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゼン及び/又はクロロベンゼンを塩素による核塩素化反応によりp−ジクロロベンゼンを製造するにおいて、高い選択性を有し、かつ未反応の塩素量を著しく低減できる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
p−ジクロロベンゼンは、エンジニアリングプラスチックであるポリフェニレンサルファイド(Poly Phenylene Sulfide、いわゆるPPS)の原料であり、工業的価値が高く、また近年急激にその需要が伸びている。
【0003】
従来から液相において、ルイス酸触媒の存在下、ベンゼンやクロロベンゼンを塩素分子により塩素化することでp−ジクロロベンゼンを製造する方法が知られている。例えば、特許文献1には、ルイス酸に塩化第二鉄、助触媒に二塩化二硫黄を用い、反応温度35〜37℃を維持しながら塩素ガスでクロロベンゼンを塩素化することで、75%の選択率でp−ジクロロベンゼンを製造できることが記載されている。この製法によれば、塩素転化率は比較的高いが、工業的に需要が少ないo−ジクロロベンゼンが25%副生すると記載されている。また、二塩化二硫黄の一部が塩素化反応途中にクロロベンゼンなどと反応し、ジフェニルスルフィドやチアントレンに変化して減少することが知られている。このように反応の間に助触媒が変質するので、二塩化二硫黄を助触媒とする系では触媒をリサイクルすることは難しい。よって、ジフェニルスルフィドやチアントレンは、反応液を水洗浄して塩化第二鉄を除いた後、蒸留操作を行い蒸留残渣として分離後、廃棄されている。更に、このプロセスでは廃水の処理工程が別に必要になる。
【0004】
また、特許文献2には、ベンゼン又はクロロベンゼンとルイス酸とN−クロロカルボニルフェノチアジンを反応器に仕込み、塩素ガスを導入して塩素化するバッチ式のp−ジクロロベンゼンの製造方法が記載されている。その明細書には、ベンゼンを原料とし、触媒として三塩化アンチモン及び塩化第二鉄、助触媒としてN−クロロカルボニルフェノチアジンを用い、60℃の反応温度を維持しながら塩素化すると、p−ジクロロベンゼンの選択率が82%程度に達すると記載されている。しかし、この手法では塩素化活性が低く、導入した塩素の総量及び反応液組成から計算できる塩素転化率は90%程度で、排ガス(副生HCl)に多量の未反応塩素が同伴する。これは工業化する場合に、副生HClの精製設備が必要となる、塩素ガスの原単位が悪化する、装置腐食が起き易くなるなどの問題が生じる。また、反応液を蒸留して触媒及び助触媒を含む蒸留残渣にベンゼンを加え、再び塩素化を行い触媒を再使用しているが、使用回数が増える毎に触媒活性の低下(未反応塩素量の増加)とp−ジクロロベン選択率の低下が幾分見られる。更に、塩化第二鉄は融点が282℃と高く、ベンゼンやクロロベンゼンに対する溶解度も低いため蒸留残渣はスラリー状態になることが容易に予想される。触媒をリサイクルする際に、この残渣が抜出し配管やリサイクル配管に付着しやすく、また、付着物を洗浄する場合にも塩化第二鉄は溶解度が低いため、多量のベンゼンやクロロベンゼンが必要となるため、工業的なこの触媒系のリサイクルは難しい。
【0005】
更に、特許文献3には、反応器にベンゼンと塩化アルミニウムとフェノチアジン類を仕込んだ後、50℃を維持しながら塩素ガスを導入して2〜3時間かけて塩素化するバッチ式のp−ジクロロベンゼンの製造方法が記載されており、塩素化度1.62まで塩素化したときのp−ジクロロベンゼンの選択率が86%程度に達すると記載されている。しかし、塩素転化率の記載がなく、導入した塩素総量の記載もないので、塩素転化率を計り知ることもできず反応活性が不明である。また、ルイス酸の塩化アルミニウムは原料のベンゼンに溶存する微量の水分と即座に反応してベンゼンに不溶性の水酸化アルミニウムに変わり、ルイス酸としてもはや作用しなくなることは一般的に知られている。この特許文献3には、ベンゼンは乾燥及び/又は蒸留処理を行い完全に脱水したものを使用するとの記載があり、塩化アルミニウムをルイス酸として使用する場合には操作が煩雑となる。また、塩化アルミニウムは昇華点160℃、沸点183℃で、o−ジクロロベンゼンの沸点181℃、p−ジクロロベンゼンの沸点174℃と接近しているため、蒸留での触媒と目的物との分離が困難である。従って、工業的には塩化アルミニウムはリサイクルされずに反応後に水洗浄を行い、除去、廃棄されている。よって、このプロセスでは廃水の処理工程が別に必要となる。
【0006】
特許文献4には、カリウムを担持させたL型ゼオライトを触媒に用い、原料にクロロベンゼンを用いて、70℃で塩素ガスを吹き込んでp−ジクロロベンゼンを製造する方法が記載されている。この方法では、反応初期にp−ジクロロベンゼンの選択率が87.6%に達すると記載がある。しかし、このときの塩素転化率は99.3%と低く、更に反応を繰り返すごとに80%台にまで塩素転化率が低下している。この原因は一般的に知られているが、ゼオライト法では多塩素化物が生成し、これがゼオライトの細孔を塞いで触媒活性を低下させるからである。また、この製法では、反応後、反応液をろ過してゼオライト触媒を取り除く必要があり、操作が煩雑となる。よって、ゼオライト触媒は工業的にはリサイクルに適さない。
【0007】
このように、液相でベンゼンやクロロベンゼンを塩素分子により塩素化することでp−ジクロロベンゼンを製造する方法として、鉄、アルミニウム、アンチモン金属のハロゲン化物であるルイス酸触媒と、助触媒である硫黄、フェノチアジン類との組み合わせ、又はゼオライト触媒を使用した製法が開示されている。しかし、これらは高いp−ジクロロベンゼンの選択率と高い塩素転化率の両方を同時に満足するものではなく、どちらかを妥協せざるを得ない製法であった。また、従来技術はバッチ式反応のため、反応後に反応液の抜出しを行い、抜出し完了を待った後、原料及び触媒を追加して再度塩素化反応を行う生産性の低い製法であった。さらに、容易に触媒をリサイクルできる製法ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3226447号
【特許文献2】特開昭59−206051号公報
【特許文献3】特開2004−91440公報
【特許文献4】特開昭62−87536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の課題を鑑みて、リサイクルが容易な触媒を用いた高いp−ジクロロベンゼン選択率と高い塩素転化率の両方を同時に満足するp−ジクロロベンゼンの新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ルイス酸触媒及びフェノチアジン類化合物の存在下、ベンゼン及び/又はクロロベンゼンを塩素により核塩素化反応させてp−ジクロロベンゼンを製造する方法において、反応器へベンゼン及び/又はクロロベンゼンとルイス酸触媒との混合溶液を連続的に供給する第一供給路、前記反応器へベンゼン及び/又はクロロベンゼンとフェノチアジン類化合物との混合溶液を連続的に供給する第二供給路、前記反応器へ塩素を連続的に供給する第三供給路を有する反応器を用い、反応開始時に前記第一供給路及び第三供給路は順不同に開き、その後第二供給路の順に流路を開いて反応原料を供給することにより、高いp−ジクロロベンゼン選択率と高い塩素転化率の両方を同時に満足することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、ルイス酸触媒及びフェノチアジン類化合物の存在下、ベンゼン及び/又はクロロベンゼンを塩素により核塩素化反応させてp−ジクロロベンゼンを製造する方法において、反応器へベンゼン及び/又はクロロベンゼンとルイス酸触媒との混合溶液を連続的に供給する第一供給路、前記反応器へベンゼン及び/又はクロロベンゼンとフェノチアジン類化合物との混合溶液を連続的に供給する第二供給路、前記反応器へ塩素を連続的に供給する第三供給路を有する反応器を用い、反応開始時に前記第一供給路及び第三供給路は順不同に開き、その後第二供給路の順に流路を開いて反応原料を供給することを特徴とするp−ジクロロベンゼンの連続的製造方法である。
【0013】
ここで、本発明の実施態様の一例として連続式反応装置を図1として示す。図1には、ベンゼン及び/又はクロロベンゼンとルイス酸触媒との混合溶液を貯槽(11)から反応器(1)へ、ポンプ(13)により連続的に供給する第一の供給路が示されている。また、ベンゼン及び/又はクロロベンゼンとフェノチアジン類化合物との混合溶液を貯槽(12)から反応器(1)へ、ポンプ(13)により連続的に供給する第二の供給路が示されている。さらに、塩素ガスを供給できる液化塩素ボンベ(17)から反応器(1)へ、マスフローコントローラ(14)を使って、吹き込み口(6)より連続的に供給する第三の供給路が示されている。これらの供給路の内、少なくとも第一の供給路と第二の供給路とが独立していることが必要である。ルイス酸触媒の種類により、フェノチアジン類化合物との接触で沈殿が生じることがあるため、製造プロセスに支障が生じないようにするためである。さらに、すべての供給路がいずれも独立していることが好ましい。
【0014】
本発明においては、反応器内の反応液を撹拌しつつ、生成したp−ジクロロベンゼンを含む反応液を連続的に抜き出しながら反応を継続することが好ましい。
【0015】
ここで、原料となるベンゼン及び/又はクロロベンゼン、塩素、ルイス酸触媒及びフェノチアジン類化合物が反応器(1)へ連続的に供給され、反応器(1)内を撹拌モーター(3)の駆動力を使って撹拌羽根(2)により撹拌し、反応を進行させる。撹拌効率を向上させるために、邪魔板(4)を反応器(1)に設置しても良い。
【0016】
反応形式は、上記のような攪拌羽根による内部攪拌式でも良いし、また一般的に行われている方式である、攪拌羽根を用いないで反応器にバイパスラインとポンプを設置して液循環させる流動攪拌方式でも良く、塩素と原料及び反応液の混合が十分に行われさえすれば良い。
【0017】
また本発明では、生成したp−ジクロロベンゼンを含む反応液を反応器(1)より連続的に抜き出すため、図1に見られるように、オーバーフロー反応液取り出し口(16)より反応液を抜き出すと良い。本発明のp−ジクロロベンゼン製造に係る反応液を連続的に抜き出すことができる方式であれば特に限定されない。このような連続的な抜き出し方式により、連続的にp−ジクロロベンゼンを回収できるとともに、供給塩素と反応液中の原料の滞留時間を設定することにより、反応効率を適切に制御することができる。
【0018】
本発明に用いられる原料であるベンゼンやクロロベンゼンは市販品を使用することができ、それぞれ単独、あるいは両者の混合物のいずれも使用することができる。脱水処理をしていない市販の工業用ベンゼン、クロロベンゼンには水分が100ppm程度含まれるが、これらをそのまま使用しても良い。また、蒸留操作により水分を除去したり、乾燥後又は乾燥剤の存在下に蒸留したものを使用しても良い。
【0019】
本発明においては、ルイス酸触媒として三塩化アンチモン及び/又は塩化第二鉄を使用することが好ましく、助触媒としてフェノチアジン類化合物を使用する。
【0020】
本発明に用いられるルイス酸である三塩化アンチモンや塩化第二鉄は市販品を使用することができる。また、塩化第二鉄を使用する代わりに鉄線や鉄片を反応器に仕込んで代用することも可能である。
【0021】
本発明において、反応液のルイス酸濃度は100〜2000wtppmが好ましく、特に200〜1000wtppmが好ましい。
【0022】
本発明に用いられるフェノチアジン類化合物は市販品を使用しても良く、またフランス特許第1192168号、WO97/43041号に記載の方法又はこれらに準じた方法により種々の置換基を有するフェノチアジン類を調製しても良い。
【0023】
本発明において、フェノチアジン類化合物は、式(1)で表される化合物が好ましい。
【0024】
【化1】

(式中、m及びnは各々独立して0〜3の整数のいずれかを表す。)
より具体的には、フェノチアジン類化合物は、N−クロロカルボニルフェノチアジン、N−カルボン酸フェニルエステルフェノチアジン、N−カルボン酸メチルエステルフェノチアジン、N−カルボン酸エチルエステルフェノチアジン及びこれらのフェノチアジン核の核塩素化物が挙げられる。特にN−クロロカルボニルフェノチアジンが安価で汎用的であり好ましい。
【0025】
本発明において、助触媒であるフェノチアジン類化合物の使用量は、ルイス酸触媒が塩化第二鉄のとき、助触媒/塩化第二鉄のモル比が0.5〜1.5であることが好ましく、さらに1.0〜1.5であることが好ましい。また、ルイス酸触媒が三塩化アンチモンのとき、助触媒/三塩化アンチモンのモル比が0.25〜2.0であることが好ましく、さらに0.5〜1.5であることが好ましい。モル比が小さいと十分なパラ選択率が得られないことがあり、大きいとコストがかかりすぎる恐れがある。
【0026】
また、本発明において、ルイス酸触媒が三塩化アンチモンと塩化第二鉄の混合物のとき、助触媒であるフェノチアジン類化合物の使用量は、助触媒/三塩化アンチモンモル比0.25〜2.0と助触媒/塩化第二鉄のモル比1.0〜1.5の総和であることが好ましい。すなわち、三塩化アンチモンと塩化第二鉄のモル量を、それぞれ、X、Xとし、三塩化アンチモンと塩化第二鉄のモル分率を、それぞれ、Y、Yとすると(但し、Y+Y=1)、助触媒量(モル)/総ルイス酸量(モル)=助触媒量(モル)/(X+X)=(0.25〜2.0)×Y+(1.0〜1.5)×Yとなることが好ましい。
【0027】
本発明に用いられる核塩素化に使用する塩素は、気体状または液体状塩素を用い、好ましい塩素化度の値は0.5〜2.0の範囲であり、特に1〜1.7が好ましい。2.0より大きいとトリクロロベンゼンの副生量が増え、0.5より小さいとp−ジクロロベンゼンの生産性が低下する。
【0028】
反応温度としては、反応器内の温度を30〜80℃とすることが好ましく、特に50〜70℃とすることが好ましい。30℃より低いと塩素化の反応速度が低下し、80℃より高いと塩素が十分溶解しないことがある。
【0029】
本発明において溶媒を使用することもできる。好ましい溶媒としては、o−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2−ジクロロエタンなどの塩素化化合物が挙げられる。
【0030】
本発明においては、上記した核塩素化反応にてp−ジクロロベンゼンを生成させた後に、反応液を蒸留し、蒸留残渣に含まれるルイス酸触媒及び/又はフェノチアジン類化合物を回収して、その一部又は全部を前記の核塩素化反応の反応器へ供給することが好ましい。
【0031】
本発明においては、ルイス酸触媒として三塩化アンチモン及び/又は塩化第二鉄、助触媒としてフェノチアジン類化合物を使用するが、蒸留により反応液中のo−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼンなどを留出させることで得られる三塩化アンチモン及び/又は塩化第二鉄、フェノチアジン類化合物を含む残渣をリサイクルする。特に、本発明では三塩化アンチモンを使用するが、その融点が比較的低く、また原料となるベンゼン、クロロベンゼンへの溶解度も比較的高いため、留出後の蒸留残渣を60℃程度に加熱しただけで液体状にて中間タンクや反応器に移液できる。あるいは少量のクロロベンゼンやベンゼンを溶媒として加えるだけで、より低い温度でも固体析出しないで移液可能となりハンドリングが容易となる。
【0032】
回収した蒸留残渣に含まれる三塩化アンチモン及び/又は塩化第二鉄とフェノチアジン類化合物の量に応じて、不足する三塩化アンチモン及び/又は塩化第二鉄とフェノチアジン類化合物を前記の核塩素化反応の反応器へ供給することが好ましい。すなわち、リサイクルするルイス酸触媒及び/又は助触媒の割合は100%でも、一部が新品で一部が使用済みのものでも良い。
【0033】
蒸留は、常圧あるいは減圧下で行い、一般的に行われる連続式又はバッチ式の単蒸留もしくは多段蒸留法が用いられる。蒸留における触媒及び助触媒の濃縮倍率は任意であるが、10〜300倍が適当である。濃縮が不十分であると、製品のp−ジクロロベンゼンが残渣に多量に含まれたままリサイクルされることになり、生産効率が低下する。上記の連続式反応のときは、蒸留操作についても連続蒸留塔を使用してルイス酸触媒及び助触媒の連続回収とリサイクルができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の製造方法によれば、塩素転化率が高く、副生塩酸(排ガス)に同伴する塩素濃度を極めて低くできるため、その除外設備が不要か必要としても簡単にでき、また、排ガス中に含まれる未反応塩素による装置腐食も抑制できる。
【0035】
また、本発明の製造方法によれば、p−ジクロロベンゼンの選択率(生産性)が向上し、o−ジクロロベンゼンの副生量が減り、装置をコンパクトにでき、また、原料の供給及び反応液の抜出しを連続して行えるので、p−ジクロロベンゼンの生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1〜12及び比較例3で使用した連続式反応装置を示す図である。
【図2】比較例1及び比較例2で使用したバッチ式反応装置を示す図である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0038】
実施例1
実施例1で使用した連続式反応装置を図1に示す。
【0039】
連続式反応装置は、オーバーフロー反応液取り出し口(16)、邪魔板(4、4枚)、攪拌機(3)、攪拌羽根(2)、上部に約5℃を維持する冷却管(7)が付いた円筒状ガラス製容器(反応器)(1)を使用した。反応器の外径は10cmで、底から高さ15cmの位置に反応液オーバーフローラインが設置されており、攪拌羽根は2段で4枚設置されている。
【0040】
この反応器に675gのベンゼンと225gのクロロベンゼン(ベンゼンとクロロベンゼンのwt比=75/25)と0.54gの塩化第二鉄を仕込んだ(塩化第二鉄の濃度は600wtppm)。使用したベンゼン中に存在する水分は160ppm、クロロベンゼン中に存在する水分は120ppmであった。(以下の実施例及び比較例についても上記水分を含んだベンゼン、及びクロロベンゼンを使用した。)仕込液と同じ組成の液をその貯槽(11)からポンプ(13)を使用して反応器に157g/時間の速度で連続的に供給した。また別のラインより、液化塩素ボンベ(17)からマスフローコントローラー(14)により流量調節して、塩素ガスを攪拌下187g/時間の速度で反応器底部から連続的に吹き込んだ。その後、さらに別のラインより0.38wt%のN−クロロカルボニルフェノチアジンを含有するクロロベンゼン溶液をその貯槽(12)からポンプ(13)を使用して40g/時間で連続的に供給し、反応温度を60℃に維持した。
【0041】
上記条件で反応液の液体積はオーバーフローラインまで1.16リットル、反応液の反応器での滞在時間は5時間、N−クロロカルボニルフェノチアジン/塩化第二鉄モル比は1.0であった。反応途中、反応液は茶色で澄んでいた。
【0042】
副生塩酸ガスを含む排ガス(8)は、冷却管(7)を通して反応器(1)の上部に放出され、その冷却管(7)に5℃の水を供給口(9)から供給し、排出口(10)から排出することにより排ガスに同伴するベンゼン、及びクロロベンゼンの量を抑制した。
【0043】
20時間の塩素化反応後、排ガス中の未反応塩素をo−トリジン法で分析したところ90volppm(塩素転化率99.991%)であった。また、オーバーフローした反応液をガスクロマトグラフィー分析及び鉄濃度分析(o−フェナントロリン法)を行ったところ、以下の重量組成であった。
【0044】
ベンゼン4.3%、クロロベンゼン30.3%、p−ジクロロベンゼン55.0%、o−ジクロロベンゼン10.8%、m−ジクロロベンゼン0.19%、トリクロロベンゼン0.53%、塩化第二鉄340wtppm。
【0045】
上記組成から計算するとパラ選択率(p−ジクロロベンゼン/(o−ジクロロベンゼン+p−ジクロロベンゼン)×100)は83.5%、塩素化度は1.52であった。
【0046】
実施例2
仕込液及び供給する液中の塩化第二鉄の濃度460wtppm、別ラインから供給するクロロベンゼン中のN−クロロカルボニルフェノチアジン濃度を0.35%にする以外は実施例1と同様に操作を行なった。上記条件で、N−クロロカルボニルフェノチアジン/塩化第二鉄モル比は1.20、反応液の反応器での滞在時間は5時間であった。反応途中、反応液は茶色で澄んでいた。20時間の塩素化反応後、副生HClガス中の未反応塩素は450volppm(塩素転化率99.955%)であった。また、反応液は以下の重量組成であった。
【0047】
ベンゼン4.1%、クロロベンゼン30.9%、p−ジクロロベンゼン53.8%、o−ジクロロベンゼン10.7%、m−ジクロロベンゼン0.19%、トリクロロベンゼン0.53%、塩化第二鉄230wtppm。
【0048】
上記組成から計算するとパラ選択率は83.4%、塩素化度は1.51であった。
【0049】
実施例3
実施例1の反応装置を用いて、反応器に675gのベンゼンと225gのクロロベンゼン(ベンゼンとクロロベンゼンのwt比=75/25)と0.84gの三塩化アンチモンを仕込んだ(三塩化アンチモンの濃度は930wtppm)。仕込液と同じ組成の液を反応器に157g/時間の速度で連続的に供給した。また、別のラインより攪拌下187g/時間の速度で塩素ガスを反応器底部から連続的に吹き込んだ。その後、さらに別のラインより0.42wt%のN−クロロカルボニルフェノチアジンを含有するクロロベンゼン溶液を40g/時間で連続的に供給し、反応温度を60℃に維持した。上記条件で、N−クロロカルボニルフェノチアジン/三塩化アンチモンのモル比は1.0、反応液の反応器での滞在時間は5時間であった。反応途中、反応液は茶色で澄んでいた。
【0050】
20時間の塩素化反応後、副生HClガス中の未反応塩素をo−トリジン法で分析したところ6volppm(塩素転化率99.9994%)であった。また、オーバーフローした反応液をガスクロマトグラフィー分析及びアンチモン濃度分析(ICP法)を行ったところ、以下の重量組成であった。
【0051】
ベンゼン3.8%、クロロベンゼン28.8%、p−ジクロロベンゼン57.0%、o−ジクロロベンゼン10.5%、m−ジクロロベンゼン0.08%、トリクロロベンゼン0.27%、三塩化アンチモン500wtppm。
【0052】
上記組成から計算するとパラ選択率は84.5%、塩素化度は1.54であった。また、ガスクロマトグラフ質量分析装置にて反応液を分析した結果、N−クロロカルボニルフェノチアジンのフェノチアジン核には1〜3個の塩素原子が置換していた。
【0053】
実施例4
反応温度を50℃に維持する以外は実施例3と同様の操作を行った。20時間の塩素化反応後、副生HClガス中の未反応塩素は10volppm(塩素転化率99.999%)であった。また、反応液は以下の重量組成であった。
【0054】
ベンゼン4.1%、クロロベンゼン32.0%、p−ジクロロベンゼン54.6%、o−ジクロロベンゼン9.5%、m−ジクロロベンゼン0.06%、トリクロロベンゼン0.18%、三塩化アンチモン500wtppm。
【0055】
上記組成から計算するとパラ選択率は85.2%、塩素化度は1.50であった。
【0056】
実施例5
反応温度を70℃に維持する以外は実施例3と同様の操作を行った。20時間の塩素化反応後、副生HClガス中の未反応塩素は25volppm(塩素転化率99.9975%)であった。また、反応液は以下の重量組成であった。
【0057】
ベンゼン4.4%、クロロベンゼン31.4%、p−ジクロロベンゼン54.0%、o−ジクロロベンゼン10.6%、m−ジクロロベンゼン0.09%、トリクロロベンゼン0.30%、三塩化アンチモン500wtppm。
【0058】
上記組成から計算するとパラ選択率は83.6%、塩素化度は1.50であった。
【0059】
実施例6
N−クロロカルボニルフェノチアジンを含有するクロロベンゼン溶液の濃度を0.11wt%にする以外は実施例3と同様の操作を行った。上記条件で、N−クロロカルボニルフェノチアジン/三塩化アンチモンのモル比は0.25、反応液の反応器での滞在時間は5時間であった。20時間の塩素化反応後、副生HClガス中の未反応塩素は280volppm(塩素転化率99.9720%)であった。また、反応液は以下の重量組成であった。
【0060】
ベンゼン3.6%、クロロベンゼン30.8%、p−ジクロロベンゼン54.4%、o−ジクロロベンゼン10.9%、m−ジクロロベンゼン0.13%、トリクロロベンゼン0.36%、三塩化アンチモン500wtppm。
【0061】
上記組成から計算するとパラ選択率は83.3%、塩素化度は1.52であった。
【0062】
実施例7
N−クロロカルボニルフェノチアジンを含有するクロロベンゼン溶液の濃度を0.84wt%にする以外は実施例3と同様の操作を行った。上記条件で、N−クロロカルボニルフェノチアジン/三塩化アンチモンのモル比は2.0、反応液の反応器での滞在時間は5時間であった。20時間の塩素化反応後、副生HClガス中の未反応塩素は3volppm(塩素転化率99.9997%)であった。また、反応液は以下の重量組成であった。
【0063】
ベンゼン3.4%、クロロベンゼン27.4%、p−ジクロロベンゼン57.9%、o−ジクロロベンゼン10.7%、m−ジクロロベンゼン0.08%、トリクロロベンゼン0.30%、三塩化アンチモン500wtppm。
【0064】
上記組成から計算するとパラ選択率は84.4%、塩素化度は1.56であった。
【0065】
実施例8
N−クロロカルボニルフェノチアジンを含有するクロロベンゼン溶液の濃度を0.21wt%にする以外は実施例3と同様の操作を行った。上記条件で、N−クロロカルボニルフェノチアジン/三塩化アンチモンのモル比は0.50、反応液の反応器での滞在時間は5時間であった。20時間の塩素化反応後、副生HClガス中の未反応塩素は47volppm(塩素転化率99.9953%)であった。また、反応液は以下の重量組成であった。
【0066】
ベンゼン3.8%、クロロベンゼン29.9%、p−ジクロロベンゼン55.6%、o−ジクロロベンゼン10.5%、m−ジクロロベンゼン0.09%、トリクロロベンゼン0.29%、三塩化アンチモン500wtppm。
【0067】
上記組成から計算するとパラ選択率は84.2%、塩素化度は1.53であった。
【0068】
実施例9
N−クロロカルボニルフェノチアジンを含有するクロロベンゼン溶液の濃度を0.32wt%にする以外は実施例3と同様の操作を行った。上記条件で、N−クロロカルボニルフェノチアジン/三塩化アンチモンのモル比は0.77、反応液の反応器での滞在時間は5時間であった。20時間の塩素化反応後、副生HClガス中の未反応塩素は25volppm(塩素転化率99.9975%)であった。また、反応液は以下の重量組成であった。
【0069】
ベンゼン4.9%、クロロベンゼン31.0%、p−ジクロロベンゼン55.1%、o−ジクロロベンゼン10.3%、m−ジクロロベンゼン0.09%、トリクロロベンゼン0.30%、三塩化アンチモン500wtppm。
【0070】
上記組成から計算するとパラ選択率は84.3%、塩素化度は1.49であった。
【0071】
実施例10
N−クロロカルボニルフェノチアジンを含有するクロロベンゼン溶液の濃度を0.63wt%にする以外は実施例3と同様の操作を行った。上記条件で、N−クロロカルボニルフェノチアジン/三塩化アンチモンのモル比は1.50、反応液の反応器での滞在時間は5時間であった。20時間の塩素化反応後、副生HClガス中の未反応塩素は8volppm(塩素転化率99.9992%)であった。また、反応液は以下の重量組成であった。
【0072】
ベンゼン3.9%、クロロベンゼン30.1%、p−ジクロロベンゼン55.7%、o−ジクロロベンゼン10.3%、m−ジクロロベンゼン0.08%、トリクロロベンゼン0.25%、三塩化アンチモン500wtppm。
【0073】
上記組成から計算するとパラ選択率は84.5%、塩素化度は1.52であった。
【0074】
実施例11
仕込液及び供給する液中の塩化第二鉄の濃度440wtppm、別ラインから供給するクロロベンゼン中のN−クロロカルボニルフェノチアジン濃度を0.21wt%にする以外は実施例1と同様の操作を行なった。上記条件で、N−クロロカルボニルフェノチアジン/塩化第二鉄のモル比は0.75、反応液の反応器での滞在時間は5時間であった。20時間の塩素化反応後、副生HClガス中の未反応塩素は520volppm(塩素転化率99.948%)であった。また、反応液は以下の重量組成であった。
【0075】
ベンゼン3.2%、クロロベンゼン32.3%、p−ジクロロベンゼン42.9%、o−ジクロロベンゼン18.4%、m−ジクロロベンゼン0.94%、トリクロロベンゼン2.28%、塩化第二鉄220wtppm。
【0076】
上記組成から計算するとパラ選択率は70.0%、塩素化度は1.53であった。
【0077】
比較例1
比較例1で使用したバッチ式反応装置を図2に示す。
【0078】
バッチ式反応装置は、邪魔板(4、4枚)、攪拌機(3)、攪拌羽根(2)、上部に約5℃を維持する冷却管(7)が付いた円筒状ガラス製容器(反応器)(1)を使用した。反応器の外径は7.5cmで、攪拌羽根は2段で4枚設置されている。この反応器に393gのベンゼンと15gのクロロベンゼン(ベンゼンとクロロベンゼンのwt比=96/4)と0.20gの塩化第二鉄(塩化第二鉄の濃度は490wtppm)と0.38gのN−クロロカルボニルフェノチアジン(N−クロロカルボニルフェノチアジンの濃度は930wt%)を仕込んだ(N−クロロカルボニルフェノチアジン/塩化第二鉄のモル比は1.2)。また別のラインより、液化塩素ボンベ(17)からマスフローコントローラー(14)により流量調節して、攪拌下、塩素ガスを114g/時間の速度で反応器底部から計4.5時間かけて吹き込み、反応温度を60℃に維持した。
【0079】
副生HClガスを含む排ガス(8)は、冷却管(7)を通して反応器(1)の上部に放出され、その冷却管(7)に5℃の水を供給口(9)から供給し、排出口(10)から排出することにより排ガスに同伴するベンゼン、及びクロロベンゼンの量を抑制した。
【0080】
塩素転化率は反応開始1.0時間目には99.78%であったが次第に低下し、3.0時間目には94.4%、4.5時間目には42.4%にまで大幅に低下した。また、反応に伴い反応液は赤色から褐色に変化し、濁りが見られた。4.5時間目の反応液は以下の重量組成であった。
【0081】
ベンゼン0.5%、クロロベンゼン51.7%、p−ジクロロベンゼン43.4%、o−ジクロロベンゼン8.5%、m−ジクロロベンゼン0.11%、トリクロロベンゼン0.06%。
【0082】
p−ジクロロベンゼン組成は実施例1、2、及び3に比べ10%以上低下した。一方、クロロベンゼン組成は実施例1、2、及び3に比べ約20%以上上昇した。
【0083】
上記組成から計算するとパラ選択率83.6%、塩素化度1.42、塩素転化率91.1%であった。
【0084】
比較例2
比較例1と同じ図2に示すバッチ式反応装置であるが、反応器の外径は10cmで、攪拌羽根は2段で4枚設置されている反応装置を使用した。
【0085】
この反応器に510.0gのベンゼンと340.3gのクロロベンゼン(ベンゼンとクロロベンゼンのwt比=60/40)と0.61gの三塩化アンチモン(三塩化アンチモンの濃度は716wtppm)と0.72gのN−クロロカルボニルフェノチアジン(N−クロロカルボニルフェノチアジンの濃度は845wt%)を仕込んだ(N−クロロカルボニルフェノチアジン/三塩化アンチモンのモル比は1.03)。
【0086】
また別のラインより、液化塩素ボンベ(17)からマスフローコントローラー(14)により流量調節して、攪拌下、塩素ガスを160.5g/時間の速度で反応器底部から計5.0時間かけて吹き込み、反応温度を60℃に維持した。
【0087】
副生HClガスを含む排ガス(8)は、冷却管(7)を通して反応器(1)の上部に放出され、その冷却管(7)に5℃の水を供給口(9)から供給し、排出口(10)から排出することにより排ガスに同伴するベンゼン、及びクロロベンゼンの量を抑制した。
【0088】
塩素転化率は反応開始1.0時間目から3.0時間目まではほぼ100%であったが、5.0時間目には99.998%に低下していた。反応途中、反応液は茶色透明であった。反応開始後5.0時間目の反応液は以下の重量組成であった。
【0089】
ベンゼン0.06%、クロロベンゼン32.5%、p−ジクロロベンゼン56.4%、o−ジクロロベンゼン11.0%、m−ジクロロベンゼン0.10%、トリクロロベンゼン0.1%。
【0090】
上記組成から計算すると塩素化度1.61、パラ選択率83.7%で、実施例3よりも0.8%低下した。これはp−ジクロロベンゼン生産性の1%の低下に値する。
【0091】
比較例3
実施例1の反応装置を用いて、反応器に603gのベンゼンと297gのクロロベンゼン(ベンゼンとクロロベンゼンのwt比=67/33)、0.36gの塩化第二鉄(塩化第二鉄の濃度は401wtppm)と0.086gの硫黄(硫黄の濃度は95wtppm)を仕込んだ。仕込液と同じ組成の液を反応器に185g/時間の速度で連続的に供給しながら、別のラインから攪拌下187g/時間の速度で塩素ガスを反応器底部から吹き込み、60℃を維持しながら連続的に供給した。上記条件で、硫黄/塩化第二鉄のモル比は1.2、反応液の反応器での滞在時間は5.2時間であった。反応途中、反応液は茶色で澄んでいた。
【0092】
20時間の塩素化反応後、副生HClガス中の未反応塩素をo−トリジン法で分析したところ2volppm(塩素転化率99.9998%)であった。また、オーバーフローした反応液は以下の重量組成であった。
【0093】
ベンゼン3.2%、クロロベンゼン28.8%、p−ジクロロベンゼン50.9%、o−ジクロロベンゼン16.4%、m−ジクロロベンゼン0.21%、トリクロロベンゼン0.70%、塩化第二鉄280wtppm。
【0094】
上記組成から計算するとパラ選択率は75.6%、塩素化度は1.49であった。
【0095】
以下に実施例1〜11及び比較例1〜3の結果を纏めた表1を示す。
【0096】
【表1】

表1中、触媒/助触媒欄に示す「化合物A」は、いずれもN−クロロカルボニルフェノチアジンを示す。「P選択率」は、p−DCB/(p−DCB+o−DCB)×100により算出される。ここで、p−DCBはp−ジクロロベンゼンを、o−DCBはo−ジクロロベンゼンを示す。また、塩素化度(反応液中のベンゼン核に置換している塩素原子量(モル)/反応液中のベンゼン核数(モル))は、式 A/Bにより算出される。
【0097】
A=反応液中のクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンとして置換している塩素原子量の総和(モル)、
B=反応液中のベンゼン、クロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のベンゼン核数の総和(モル)
また、比較例1及び比較例2はバッチ式であり、それ以外はいずれも連続式による。比較例1におけるCl転化率の数値は、1.0時間後及び4.5時間後の値を示し、比較例2におけるCl転化率の数値は、1.0時間後及び5.0時間後の値を示す。
【0098】
実施例12
実施例1の連続式反応装置を用いて、反応器に675gのベンゼンと225gのクロロベンゼン(ベンゼンとクロロベンゼンのwt比=75/25)と0.84gの三塩化アンチモンを仕込んだ(三塩化アンチモンの濃度は930wtppm)。仕込液と同じ組成の液をその貯槽(11)からポンプ(13)を使用して反応器に157g/時間の速度で連続的に供給した。また別のラインより、攪拌下、塩素ガスを187g/時間の速度で反応器底部から連続的に吹き込んだ。その後、さらに別のラインより0.43wt%のN−クロロカルボニルフェノチアジンを含有するクロロベンゼン溶液をその貯槽(12)からポンプ(13)を使用して、40g/時間で連続的に供給し、反応温度を60℃に維持した。
【0099】
上記条件で反応液の液体積はオーバーフローラインまで1.16リットル、反応液の反応器での滞在時間は5時間、N−クロロカルボニルフェノチアジン/三塩化アンチモンのモル比は1.0であった。反応途中、反応液は茶色で澄んでいた。
【0100】
副生塩酸ガスを含む排ガス(8)は、冷却管(7)を通して反応器(1)の上部に放出され、その冷却管(7)に5℃の水を供給口(9)から供給し、排出口(10)から排出することにより排ガスに同伴するベンゼン、及びクロロベンゼンの量を抑制した。
【0101】
20時間の塩素化反応後、排ガス中の未反応塩素をo−トリジン法で分析したところ6volppm(塩素転化率99.9994%)であった。また、オーバーフローした反応液をガスクロマトグラフィー分析及びアンチモン濃度分析(ICP法)を行ったところ、以下の重量組成であった。
【0102】
ベンゼン4.0%、クロロベンゼン29.9%、p−ジクロロベンゼン55.7%、o−ジクロロベンゼン10.3%、m−ジクロロベンゼン0.08%、トリクロロベンゼン0.25%、三塩化アンチモン511wtppm、N−クロロカルボニルフェノチアジン580wt%(N−クロロカルボニルフェノチアジンが塩素化されていないとした場合)。
【0103】
上記組成から計算するとパラ選択率は84.4%、塩素化度は1.52であった。
【0104】
この反応で得た反応液5000gを水浴及び還流球付きのロータリエバポレータで75℃、25Torrの減圧下において蒸留を行い、p−ジクロロベンゼンなどを留出させた。4641gの留出液と359gの蒸留残渣が得られたところで蒸留を終えた。蒸留仕込み液と蒸留残渣の重量から計算した濃縮倍率は14倍であった。また、75℃において残渣は均一な透明溶液であった。この残渣中のN−クロロカルボニルフェノチアジンは核塩素化されていて、主に1〜3個の塩素原子が置換していた。
【0105】
残渣をガスクロマトグラフィー分析およびアンチモン濃度分析(ICP法)を行ったところ、以下の重量組成であった。
【0106】
クロロベンゼン1.7%、p−ジクロロベンゼン76.7%、o−ジクロロベンゼン18.9%、m−ジクロロベンゼン0.11%、トリクロロベンゼン1.66%、三塩化アンチモン2768wtppm、N−クロロカルボニルフェノチアジン8300wt%(N−クロロカルボニルフェノチアジンが塩素化されていないとした場合)。
【0107】
続いて、図1の連続式反応装置を使用して触媒のリサイクルテストを実施した。反応器には上記反応液(ベンゼン4.0%、クロロベンゼン29.9%、p−ジクロロベンゼン55.7%、o−ジクロロベンゼン10.3%、m−ジクロロベンゼン0.08%、トリクロロベンゼン0.25%、三塩化アンチモン511wtppm、N−クロロカルボニルフェノチアジン580wt%(N−クロロカルボニルフェノチアジンが塩素化されていないとした場合))が1.16リットル充填されている状態から開始した。
【0108】
空の貯槽(11)に上記蒸留残渣290gと2357gのベンゼンと771gのクロロベンゼンと2.38gの三塩化アンチモンを加えた。三塩化アンチモン触媒のリサイクル率は25%であった。その貯槽(11)からポンプ(13)を使用して反応器に157g/時間の速度で連続的に供給した。また別のラインより、液化塩素ボンベ(17)からマスフローコントローラー(14)により流量調節して、塩素ガスを攪拌下180g/時間の速度で反応器底部から連続的に吹き込んだ。その後、さらに別のラインより、0.13wt%のN−クロロカルボニルフェノチアジンを含有するクロロベンゼン溶液を、その貯槽(12)からポンプ(13)を使用して40g/時間で連続的に供給し、反応温度を60℃に維持した。N−クロロカルボニルフェノチアジンのリサイクル率は67%であった。
【0109】
なお、上記三塩化アンチモン触媒及びN−クロロカルボニルフェノチアジンのリサイクル率は、それぞれ以下の式により算出した。
【0110】
三塩化アンチモン触媒のリサイクル率(%)
=(貯槽(11)に加えた蒸留残渣に含まれる三塩化アンチモン量(モル))/(貯槽(11)に存在する三塩化アンチモン量(モル))×100
N−クロロカルボニルフェノチアジンのリサイクル率(%)
=(貯槽(11)から単位時間当たりに反応器へ供給されるN−クロロカルボニルフェノチアジン(その塩素化物も含む)の量(モル))/(貯槽(11)及び貯槽(12)から単位時間当たりに反応器へ供給されるN−クロロカルボニルフェノチアジン(その塩素化物も含む)の量(モル))×100
上記条件で反応液の液体積はオーバーフローラインまで1.16リットル、反応液の反応器での滞在時間は5時間、核塩素化されたものを含むN−クロロカルボニルフェノチアジン/三塩化アンチモンのモル比は1.0であった。反応途中、反応液は茶色で澄んでいた。
【0111】
20時間の塩素化反応後、排ガス中の未反応塩素をo−トリジン法で分析したところ3volppm(塩素転化率99.9997%)であった。また、オーバーフローした反応液をガスクロマトグラフィー分析およびアンチモン濃度分析(ICP法)を行った。リサイクルした290gの残渣に含まれる塩素化化合物(クロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン)を差引いた後の反応液組成は以下の重量組成であった。
【0112】
ベンゼン3.6%、クロロベンゼン29.1%、p−ジクロロベンゼン56.6%、o−ジクロロベンゼン10.4%、m−ジクロロベンゼン0.08%、トリクロロベンゼン0.30%、三塩化アンチモン500wtppm、N−クロロカルボニルフェノチアジン580wt%(N−クロロカルボニルフェノチアジンが塩素化されていないとした場合)。
【0113】
上記組成から計算するとパラ選択率は84.5%、塩素化度は1.54で、未使用触媒を使用した時と同じ結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のp−ジクロロベンゼンの製造方法は、塩素転化率が高く、副生塩酸(排ガス)に同伴する塩素濃度を極めて低くでき、さらにp−ジクロロベンゼンの選択率が高く、また、原料の供給及び反応液の抜出しを連続して行えるなど産業上の利用が可能である。
【符号の説明】
【0115】
1:反応器
2:攪拌羽根
3:攪拌モーター
4:邪魔板
5:湯浴
6:塩素ガス吹き込み口
7:冷却管
8:排ガス(副生塩酸)
9:冷却管への水の供給口
10:冷却管からの水の排出口
11:ベンゼン+クロロベンゼン+ルイス酸貯槽
12:クロロベンゼン+フェノチアジン類化合物貯槽
13:ポンプ
14:マスフローコントローラ
15:温度計(熱電対)
16:オーバーフロー反応液取り出し口
17:液化塩素ボンベ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルイス酸触媒及びフェノチアジン類化合物の存在下、ベンゼン及び/又はクロロベンゼンを塩素により核塩素化反応させてp−ジクロロベンゼンを製造する方法において、反応器へベンゼン及び/又はクロロベンゼンとルイス酸触媒との混合溶液を連続的に供給する第一供給路、前記反応器へベンゼン及び/又はクロロベンゼンとフェノチアジン類化合物との混合溶液を連続的に供給する第二供給路、前記反応器へ塩素を連続的に供給する第三供給路を有する反応器を用い、反応開始時に前記第一供給路及び第三供給路は順不同に開き、その後第二供給路の順に流路を開いて反応原料を供給することを特徴とするp−ジクロロベンゼンの連続的製造方法。
【請求項2】
フェノチアジン類化合物が、以下の式(1)で表されるフェノチアジン化合物であることを特徴とする請求項1に記載のp−ジクロロベンゼンの連続的製造方法。
【化1】

(式中、m及びnは各々独立して0〜3の整数のいずれかを表す。)
【請求項3】
ルイス酸触媒が、三塩化アンチモン及び/又は塩化第二鉄であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のp−ジクロロベンゼンの連続的製造方法。
【請求項4】
ルイス酸触媒が三塩化アンチモンのとき、フェノチアジン類化合物/三塩化アンチモンのモル比が0.25〜2.0であることを特徴とする請求項3に記載のp−ジクロロベンゼンの連続的製造方法。
【請求項5】
ルイス酸触媒が塩化第二鉄のとき、フェノチアジン類化合物/塩化第二鉄のモル比が1.0〜1.5であることを特徴とする請求項3に記載のp−ジクロロベンゼンの連続的製造方法。
【請求項6】
反応器内の温度を50〜70℃に調整することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のp−ジクロロベンゼンの連続的製造方法。
【請求項7】
反応器内の反応液を攪拌しつつ、生成したp−ジクロロベンゼンを含む反応液を連続的に抜き出しながら反応を継続することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のp−ジクロロベンゼンの連続的製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の生成したp−ジクロロベンゼンを含む反応液を蒸留し、蒸留残渣中に含まれるルイス酸触媒及び/又はフェノチアジン類化合物を回収し、その一部又は全部を核塩素化反応の反応器に供給することを特徴とするp−ジクロロベンゼンの連続的製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の蒸留残渣中に含まれるルイス酸触媒及び/又はフェノチアジン類化合物の量に応じて、新たにルイス酸触媒及び/又はフェノチアジン類化合物を追加してから核塩素化反応の反応器に供給することを特徴とするp−ジクロロベンゼンの連続的製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−120934(P2010−120934A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244953(P2009−244953)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】