説明

p−ホスフィン基含有スチレン−スチレン系共重合体を配位子とする新規なポリマー担持遷移金属錯体及び該錯体からなる触媒

【課題】構造が簡単であり、容易に低コストで製造でき、回収再利用性の点などで優れた、より実用的なポリマー担持金属錯体触媒および該触媒の調製に好適な触媒用配位子の提供。
【解決手段】スチレンモノマー(1a):25〜90モル%と、p−ホスフィン基含有スチレン(2a):1〜70モル%と、ジビニルベンゼン(3a):1〜30モル%(但し、全モノマー((1a)+(2a)+(3a))=100モル%)とを共重合させてなるリン含有スチレン系共重合体(A)と、式(B):「M−Xqr」(MはPdなどの遷移金属原子やそのイオン、Xはハロゲンイオンなど、Lはトリフェニルホスフィンなどの配位子、q,rは0以上の整数)で表される金属塩または遷移金属錯体とを接触させてなり、該錯体(C)中における、遷移金属原子または遷移金属イオンMの遷移金属換算量が0.1〜20重量%であるポリマー担持遷移金属錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p-ホスフィン基含有スチレン−スチレン系共重合体を配位子とする新規な
ポリマー担持遷移金属錯体及び該錯体からなる触媒に関し、さらに詳しくは、構造が簡単であり低コストで容易に製造でき、しかも十回以上、好ましくは数十回の繰返し使用にも耐えうるポリマー担持遷移金属錯体触媒として好適に使用可能であるような、p-ホスフ
ィン基含有スチレン−スチレン共重合体を配位子とする新規なポリマー担持遷移金属錯体、その製造方法および該錯体からなる触媒、並びに該触媒を用いた化合物の合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒は、目的化合物を効率よく製造する上で、今日多くの反応に使用されている。特に近年、遷移金属錯体触媒を用いた選択性・特異性が高いなどの有用な反応が数多く見いだされている。
【0003】
しかしながら、錯体触媒反応は、均一系の反応であるため触媒と生成物および未反応原料の分離が困難であること、熱的には必ずしも安定でないこと、酸素、水等に敏感であり触媒寿命が固体触媒より短いことなどの問題がある。
【0004】
特に、生成物と触媒を分離することの困難さの問題を解決するために、水不溶性あるいは有機溶媒不溶性のポリマーに配位子をつけ、これらにさらに金属を配位させて不均一系触媒を形成する試みが数多くなされている。そのなかでも、ホスフィン化合物をポリマーに導入して遷移金属に配位させ、不均一系触媒を得ることが盛んに行われている。
【0005】
ホスフィン化合物のポリマー配位子に目を向けると複雑な構造のものが多く、単純・簡単な合成法にてポリマー担持触媒が得られるか否か、あるいは効率よく触媒の回収再利用が可能か否かなどの点についてまで充分に検討されている例は少ない。
【0006】
ポリマー配位子で最も単純な構造のものとしては、ポリスチレン骨格にトリフェニルホスフィン構造が組み込まれたものが挙げられ、このポリマー配位子は、市販されているくらい一般的なものである。そのため、トリフェニルホスフィン構造を有するポリマー担持金属錯体触媒の研究は、数多く報告されている(非特許文献1,2,3)。
【0007】
しかしながら、これらは配位子構造がトリフェニルホスフィンまたはこれと類似した構造であるため、適用可能な反応や基質などが限定されてしまう。
例えば、パラジウムを担持させたポリマー担持錯体触媒では、基質が反応性の高いヨード体に限定されたり、長時間の反応時間が必要であったり、容易な反応に限定されたりする(非特許文献2、3)。
【0008】
もし、トリフェニルホスフィン以外の配位子をポリマーに固定化できれば、反応の選択性が広がり、その有用性は増す。
トリフェニルホスフィン以外の配位子のひとつの例として、ジシクロヘキシルフェニルホスフィンが挙げられる。このジシクロヘキシル(p−ビニルフェニル)ホスフィン構造を有するポリマーはいくつかあり(特許文献1)、ポリスチレン骨格に直接組み込まれたものは市販されている。
【0009】
しかしながら、これらのポリマーを配位子として反応に利用し、その上、回収再使用の
ことまで十分に検討している例はない。
また、均一系遷移金属錯体触媒で見られるように、ポリマー担持金属錯体触媒の配位子の構造を変えることで、触媒活性や回収再使用を向上させることが可能であると考えられる。実際に、さまざまな構造の配位子をポリマーに担持した例が数多く報告されている(非特許文献4)。
【0010】
しかしながら、これらは配位子の構造や重合方法が煩雑なものが多く、また触媒の回収再使用について十分に検討されている例は少ない。
このように従来の触媒は、配位子の構造の単純さの点、触媒調製の容易さの点、繰り返し再利用の利便さの点などの何れかの点で、更なる改良の余地があり、これら特性がよりいっそう改善され、より実用的なポリマー担持遷移金属錯体の出現が求められている。
【0011】
そこで、本願発明者らは、鋭意検討して、特開2005−281454号公報(特許文献2)において、特定のスチレン系モノマーと、ジフェニル(p−イソプロペニルフェニル)ホスフィンと、必要によりジビニルベンゼンとを共重合させてなるリン含有スチレン系共重合体(A)と、特定の式(B):M−Xqr(Mは、9族または10族の遷移金属原子または1〜3価の9族または10族の遷移金属陽イオンを示し、Xは、ハロゲンイオンなどを示し、Lは、トリフェニルホスフィン等の配位子を示し、q,rはそれぞれ0以上の整数を示す。)で表される金属塩または遷移金属錯体とを接触させてなり、遷移金属原子または遷移金属イオンMの遷移金属換算量が0.1〜20重量%であるポリマー担持遷移金属錯体およびこの錯体からなる触媒を提案している。この触媒は、構造が簡単であり低コストで容易に製造でき、しかも多数回の繰返し使用に耐えうるもので、従来の触媒に比して1.5〜2倍程度も回収再使用性が向上しており、ポリマー担持遷移金属錯体触媒として好適に使用可能であるという利点を有している。
【0012】
しかしながら、この特許文献2に記載のポリマー担持遷移金属錯体触媒は、原料(基質)にクロロ体(Cl体)を使用した場合、反応時間が長く、また触媒の回収再使用性の点で改良の余地があった。
【0013】
特に、遷移金属錯体触媒に含まれる遷移金属は高価なものが多く、工業的に使用する場合は回収再利用回数を伸ばすことが経済性の面で望まれている。
このため、さらに研究を重ねた結果、ポリマー担持遷移金属錯体触媒中のリン原子(P)と、「遷移金属原子または遷移金属イオン」(M)とのモル比(P:M)を適宜選択することにより再使用回数を大幅に伸ばすことができることを見出した。また、ジシクロヘキシル(p−ビニルフェニル)ホスフィン−スチレン系共重合体などのp-ホスフィン基
含有スチレン−スチレン系共重合体を配位子とするポリマー担持遷移金属錯体からなる触媒は、原料(基質)がCl体であるような場合においても優れた触媒活性を示し、より広範な原料に対して反応がスムーズに進行し、反応時間も短縮することが可能であることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【特許文献1】国際公開WO04/030816号パンフレット
【特許文献2】特開2005−281454号公報
【非特許文献1】ジャーナルオブオーガニックケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、1981年、46巻、2356頁
【非特許文献2】ジャーナルオブオーガニックケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、1985年、50巻、3891頁
【非特許文献3】テトラヘドロン(Tetrahedron)、2000年、56巻、8661頁
【非特許文献4】ケミカルレビューズ(Chemichal Reviews)、2002年、102号(10巻)、3217頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、構造が簡単であり低コストで容易に製造でき、しかも十回以上、好ましくは数十回の繰返し使用にも耐えうるポリマー担持遷移金属錯体触媒として好適に使用可能であるようなポリマー担持遷移金属錯体及びその触媒、並びに触媒用配位子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記のような本発明を見出すに至った。
すなわち、本発明に係るポリマー担持遷移金属錯体(C)は、下記式(1a)で表されるスチレンモノマー:25〜90モル%と、
下記式(2a)で表されるp-ホスフィン基含有スチレン:1〜70モル%と、
下記式(3a)で表されるジビニルベンゼン:1〜30モル%(但し、全モノマー((1a)+(2a)+(3a))=100モル%)とを共重合させてなるリン含有スチレン系共重合体(A)と、下記式(B)で表される金属塩または遷移金属錯体とを接触させてなり、該錯体(C)中における、遷移金属原子または遷移金属イオンMの遷移金属換算量が0.1〜20重量%であることを特徴としている。
【0016】
【化4】

【0017】
(但し、式(2a)中、Rはアルキル基、シクロアルキル基およびアリール基のうちの何れかの基を示す。)
M−Xqr ・・・・・・・・・・(B)
(但し、式(B)中、Mは、9族または10族の遷移金属原子または1〜3価の9族または10族の遷移金属陽イオンを示し、
Xは、ハロゲンイオン、アセトキシイオン、硝酸イオン、シアンイオンのうちの何れかのイオンを示し、
Lは、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、1,5−シクロオクタジエンのうちから選択される配位子を示し、q,rはそれぞれ独立に0以上の整数を示す。)
本発明に係るポリマー担持遷移金属錯体(C)は、
下記式(1)で表される、スチレンモノマー由来の成分単位:25〜90モル%と、
下記式(2)で表される、p-ホスフィン基含有スチレン由来の成分単位:1〜70モ
ル%と、
下記式(3)で表される、ジビニルベンゼン由来の成分単位:1〜30モル%(但し、
全成分単位((1)+(2)+(3))=100モル%)とを含有するリン含有スチレン系共重合体(A)に、そのリン原子部位で、金属塩または遷移金属錯体(B)が配位結合しており、
上記錯体中における、遷移金属原子または遷移金属イオンMの遷移金属換算量が0.1〜20重量%である。
【0018】
【化5】

【0019】
(式(C)中、成分単位(1)、(2)、(3)の結合順序は任意であり、繰返し単位数k、l、mは、それぞれ独立に1以上の整数を示す。
Rはアルキル基、シクロアルキル基およびアリール基のうちの何れかの基を示し、
Mは、9族または10族の遷移金属原子または1〜3価の9族または10族の遷移金属陽イオンを示し、
Xは、ハロゲンイオン、アセトキシイオン、硝酸イオン、シアンイオンのうちの何れかのイオンを示し、
Lは、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、1,5−シクロオクタジエンのうちから選択される配位子を示し、
q,rはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、
dは、1以上の整数を示す。)
本発明においては、上記リン含有スチレン系共重合体合成用のモノマー混合物中、あるいはリン含有スチレン系共重合体(配位子)中における、p-ホスフィン基含有スチレン
(2a)またはその成分単位(2)の含有量が10〜30モル%(但し、リン含有スチレン系共重合体合成用の全モノマーまたはリン含有スチレン系共重合体中の全成分単位の合計=100モル%)であることが好ましい。
【0020】
上記ポリマー担持遷移金属錯体(C)中のリン原子(P)と、「遷移金属原子または遷移金属イオン」(M)とのモル比(P:M)が、通常1:1〜20:1、好ましくは、2:1〜15:1、さらに好ましくは3:1〜8:1であることが触媒活性、触媒の再使用
性などの点で望ましい。
【0021】
本発明においては、上記モノマー混合物中、あるいはリン含有スチレン系共重合体(配位子)中における、上記ジビニルベンゼン(3a)またはその成分単位(3)の含有量が2〜8モル%(但し、全モノマーまたは全成分単位の合計=100モル%)であることが好ましい。
【0022】
また本発明においては、錯体(C)中における、上記遷移金属原子または遷移金属陽イオン(M)の遷移金属換算量が、ポリマー担持遷移金属錯体中、1〜10重量%であることが好ましい。
【0023】
本発明においては、上記遷移金属原子または遷移金属陽イオン(M)がパラジウムまたはそのイオンであることが好ましい。
本発明に係るポリマー担持遷移金属錯体(C)の製造方法は、
上記の式(1a)で表されるスチレンモノマー:25〜90モル%と、上記の式(2a)で表されるp-ホスフィン基含有スチレン:1〜70モル%と、
上記の式(3a)で表されるジビニルベンゼン:1〜30モル%(但し、全モノマー((1a)+(2a)+(3a))=100モル%)とを共重合させてなるリン含有スチレン系共重合体(A)と、
上記の式(B)[M−Xqr :定義は同上。]で表される金属塩または遷移金属錯体
とを接触(作用)させることを特徴としている。
【0024】
本発明に係る有機合成用触媒は、上記の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体(C)からなる、Grignardカップリング反応用、Suzuki−Miyaura反応用、Heck反応用、水素化反応用、オキソ法用、ヒドロシリル化反応用のうちの何れかの触媒であることを特徴としている。
【0025】
本発明に係るポリマー担持触媒用配位子、特に好ましくはポリマー担持遷移金属錯体触媒用配位子は、
上記式(1a)で表されるスチレンモノマー:25〜90モル%と、
上記式(2a)で表されるp-ホスフィン基含有スチレン:1〜70モル%と、
上記式(3a)で表されるジビニルベンゼン:1〜30モル%(但し、全モノマー((1a)+(2a)+(3a))=100モル%)とを共重合させてなる上記リン含有スチレン系共重合体(A)よりなる。
【0026】
本発明に係るビフェニル類の製造方法は、上記の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体(C)からなる有機合成用触媒の存在下に、ハロゲン化ベンゼンと、アリールマグネシウムハロゲン化物とをGrignardカップリング反応させることを特徴としている。
【0027】
また本発明に係るビフェニル類の製造方法は、上記の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体(C)からなる有機合成用触媒の存在下に、ハロゲン化ベンゼンと、フェニル基含有ボロン酸とをSuzuki−Miyaura反応させることを特徴としている。
【0028】
また本発明に係るアルキル−アルコキシシランの製造方法は、上記の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体(C)からなる有機合成用触媒の存在下に、1−アルケンと、ヒドロシラン化合物とを反応させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、前記p−ホスフィン基含有スチレンモノマー(2a)をスチレンモノ
マー(スチレン誘導体)(1a)及びジビニルベンゼン化合物(3a)と共重合させて得られるリン含有スチレン系共重合体(A)を、配位子として使用することにより、構造が簡単であり、容易に低コストで製造でき、回収再利用性の点などで優れた、より実用的なポリマー担持金属錯体触媒および該触媒の調製に好適な触媒用配位子が提供される。
【0030】
また本発明によれば、上記のようなポリマー担持遷移金属錯体(C)を安全かつ低コストで効率良く製造し得るような上記ポリマー担持遷移金属錯体の好適な製造方法が提供される。
【0031】
また本発明によれば、上記錯体からなる触媒の用途である、該錯体(C)を触媒として繰返し再利用しつつ、該触媒を用いた4−メチルビフェニルその他のビフェニル類、アルキル−モノ、ジ、トリアルコキシシラン化合物などの化合物を、安価で効率良く安全に製造し得るようなこれら化合物の合成法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る、リン含有スチレン系共重合体を配位子とする新規なポリマー担持遷移金属錯体、その製造方法および該錯体からなる触媒、並びに該触媒を用いた化合物の合成法などについて具体的に説明する。
【0033】
[ポリマー担持遷移金属錯体]
すなわち、本発明に係るポリマー担持遷移金属錯体(C)は、以下に詳述する特定のリン含有スチレン系共重合体(A)と、下記式(B)[すなわち、M−Xqr]で表される金属塩または遷移金属錯体とを接触(作用)させてなり、錯体(C)中における遷移金属原子または遷移金属イオンMの遷移金属換算量が0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0034】
また、錯体(C)中におけるリン原子(P)と、「遷移金属原子または遷移金属イオン」(M)とのモル比(P:M)が、通常、1:1〜20:1、好ましくは、2:1〜15:1、さらに好ましくは3:1〜8:1である。
【0035】
この錯体(C)中における、遷移金属原子または遷移金属イオンMの遷移金属換算量や、リン原子(P)と「遷移金属原子または遷移金属イオン」(M)とのモル比(P:M)が上記範囲より少ないと、得られる触媒を用いた上記種々の反応の反応速度の低下、該ポリマー担持遷移金属錯体を触媒として用いた場合に目的化合物の収率の低下となる傾向がある。
【0036】
このポリマー担持遷移金属錯体(C)は、ビーズ状の固体であり、常圧下に、下記に示すような種々の溶媒(D)の沸点まで昇温しても、これらの溶媒に対して膨潤性を示すとしても、実質上、不溶性を示す。
【0037】
この不溶性の溶媒(D)としては、水の他、
ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;
エチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類;
クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;
メタノール、エタノール、ブタノール等の脂肪族アルコール類;
ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;
アセトン等のケトン類;
が挙げられる。
【0038】
以下、このポリマー担持遷移金属錯体(C)中のポリマー配位子(A)となるリン含有
スチレン系共重合体(A)、および該錯体(C)中の「金属塩または遷移金属錯体」(B)部分となる、金属塩または遷移金属錯体(B)について説明する。
<リン含有スチレン系共重合体(A)あるいはポリマー配位子(A)>
このポリマー担持遷移金属錯体(C)中のポリマー配位子(A)は、リン含有スチレン系共重合体(A)配位子である。
【0039】
このポリマー配位子(A)は、下記式(1a)で表されるスチレンモノマー:25〜90モル%、好ましくは60〜80モル%と、
下記式(2a)で表されるp−ホスフィン基含有スチレンモノマー:1〜70モル%、好ましくは10〜30モル%と、
下記式(3a)で表されるジビニルベンゼン:1〜30モル%、好ましくは1〜20モル%、特に2〜8モル%(但し、全モノマー((1a)+(2a)+(3a))=100モル%)とを共重合させてなる。
【0040】
【化6】

【0041】
(但し、式(2a)中、Rはアルキル基、シクロアルキル基およびアリール基のうちの何れかの基を示す。)
Rがアルキル基である場合には、炭素数1〜10程度で、直鎖状でも分岐を有していてもよく、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。
【0042】
Rがシクロアルキル基である場合には、炭素数5〜7程度のものが挙げられ、具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基が挙げられる。
【0043】
Rがアリール基である場合には、含まれる水素原子の一部は、炭素数1〜3程度の上記アルキル基で置換されていてもよく、具体的には、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0044】
本発明では、このような種々のRを有する1種または2種以上のモノマー(2a)を、(1a)と(2a)と(3a)との共重合時に用いてもよい。
本発明では、上記式(2a)中の2個のRは互いに同一でも異なっていてもよいが、同一であることが原料入手の容易性、低コスト化、合成の容易性等の点から好ましい。
【0045】
上記Rのうちでも、上記シクロアルキル基、上記アリール基が、得られる触媒の回収再
使用性の点で望ましい。
このようなモノマー(2a)として、具体的には、例えば、ジシクロヘキシル(p−ビニルフェニル)ホスフィン、ジフェニル(p−ビニルフェニル)ホスフィン等が好適に挙げられる。
【0046】
このリン含有スチレン系共重合体(A)(ポリマー配位子(A)ともいう。)も、前記ポリマー担持遷移金属錯体(C)と同様に、ビーズ状の固体であり、また、前記ポリマー担持遷移金属錯体(C)が常圧下に各溶媒の沸点まで昇温しても不溶性を示した溶媒(D)に対して、常圧下に、上記したような種々の溶媒(D)の沸点まで昇温しても、これらの溶媒に対して膨潤性を示すとしても、実質上、不溶性を示す。
【0047】
このポリマー配位子(A)は、該ポリマー配位子(A)の合成時に用いられる上記各モノマー(1a)、(2a)、(3a)量がそれぞれ上記範囲にあると、このような配位子(A)を有するポリマー担持遷移金属錯体触媒(C)を用いて、Grignardカップリング反応、Suzuki−Miyaura反応などを行う際に、反応開始に伴い、溶媒中で該触媒(C)は速やかに膨潤し、触媒中に、特にポリマー鎖部位であるリン含有スチレン系共重合体(A)部位に間隙が生じて、触媒を構成しているポリマー鎖の自由度が増すことにより、触媒(特に、その金属塩または遷移金属錯体(B)の部位)と基質(例:
Grignardカップリング反応用の原料など)との接触の機会が増加し接触性が向上
し、これらGrignardカップリング反応、Suzuki−Miyaura反応などが迅速に進行する傾向がある。
【0048】
なお、このスチレンモノマー(1a)量が上記範囲より少ないと経済性の面で不利とな
る傾向があり、また上記範囲より多いとリン原子の含有率が減少することになり配位子としての効果が低下する傾向がある。
【0049】
また、このモノマー(2a)量すなわちジシクロヘキシル(p−ビニルフェニル)ホスフィンなどのp−ホスフィン基含有スチレン(2a)量が上記範囲より少ないと配位子としての効果が低下する傾向があり、また上記範囲より多いと経済性の面で不利となる傾向がある。
【0050】
また、このモノマー(3a)を用いる場合には、このモノマー(3a)量すなわちジビニルベンゼン(3a)量が上記範囲より少ないとポリマー担持遷移金属錯体の強度低下となる傾向があり、また上記範囲より多いと反応時のポリマー担持遷移金属錯体触媒の溶媒中での膨潤性が低下し、触媒と基質との接触の機会が低減することにより反応性が低下する傾向がある。
【0051】
このようなリン含有スチレン系共重合体(A)では、各モノマー(1a)、(2a)、(3a)から誘導される各成分単位(後述する成分単位(1)、(2)、(3))はランダムに配列していてもよく、ブロックを形成して配列していてもよい。
【0052】
ジビニルベンゼン(3a)の2個のビニル基は、ベンゼン環のo,m,p位に結合し得るが、通常m,p位に結合したものが入手し易く、特にこれらm位,p位に結合したジビニルベンゼンの混合物が安価に入手し易く、しかもこのようなジビニルベンゼン(3a)などを上記他のモノマー(1a)、(2a)と共重合させるなどすれば、最終的に所望の性能のポリマー担持遷移金属錯体などが得られる。
【0053】
このようなリン含有スチレン系共重合体(A)の構造は、赤外線吸収スペクトル(IR)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)などを利用することにより、決定することができる。
【0054】
また、ポリマー配位子となるリン含有スチレン系共重合体(A)中のリン(P)の含量は、後述する方法により決定することができる。
<金属塩または遷移金属錯体(B)>
M−Xqr ・・・・・・・・・・(B)
式(B)中、Mは、9族または10族の遷移金属原子、または1〜3価の9族または10族の遷移金属陽イオンを示す。
【0055】
9族の遷移金属としては、例えば、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)などが挙げられ、10族の遷移金属としては、例えば、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)等が挙げられ、中でもロジウム、コバルト等の9族のもの、パラジウム、ニッケル等の10族のものが好ましい。
【0056】
Xは、ハロゲンイオン、アセトキシイオン、硝酸イオン、シアンイオンのうちの何れかのイオンを示し、中でもF-、Cl-、Br-、I-等のハロゲンイオン、アセトキシイオンなどが原料入手の容易性の点で好ましい。
【0057】
Lは、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、1,5−シクロオクタジエンのうちから選択される配位子を示し、配位交換可能なものであれば、これらに限定されるものではない。q,rはそれぞれ独立に0以上の整数を示す。
【0058】
このような金属塩または遷移金属錯体(B)として、具体的には、例えば、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロ(1,5−シクロペンタジエン)パラジウムに代表されるパラジウム錯体、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、塩化ロジウム、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムなどが挙げられ、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、塩化パラジウムが好ましい。これら金属塩または遷移金属錯体(B)は、1種または2種以上組合わせて用いてもよい。
<接触>
本発明のポリマー担持遷移金属錯体(C)は、上記リン含有スチレン系共重合体(A)と、上記金属塩または遷移金属錯体(B)とが接触され、配位結合しており、このような本発明に係るポリマー担持遷移金属錯体は、下記式(C)で示される構造を有していると推定される。
【0059】
【化7】

【0060】
((C)中の各符号の定義等は、後述する。)
また、ポリマー担持遷移金属錯体(C)中のリン含有スチレン系共重合体(A)配位子では、含まれる各成分単位(1)、(2)、(3)の結合順序は任意であり、これらはランダムに配列していてもよく、ブロックを形成して配列していてもよい。繰返単位数k、l、mはそれぞれ独立に1以上の整数を示す。
【0061】
本発明のポリマー担持遷移金属錯体(C)では、上記式(C)に示すように、用いられたリン含有スチレン系共重合体(A)に、上記金属塩または遷移金属錯体(B)が配位結合した構造を有しており、該錯体(C)中の遷移金属原子または遷移金属イオンMの遷移金属換算量が0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0062】
また、本発明では、上記ポリマー担持遷移金属錯体(C)中のリン原子(P)と、「遷移金属原子または遷移金属イオン」(M)とのモル比(P:M)は、得られる錯体触媒の再利用回数が著しく伸びる、つまり原料としての高価なPd等を有効利用できるなどの点を考慮すると、通常、1:1〜20:1、好ましくは、2:1〜15:1、さらに好ましくは3:1〜8:1である。
【0063】
このような効果(:得られる錯体触媒の再利用回数が著しく伸びる点。)は、上記ポリマー担持遷移金属錯体(C)中のRが上記シクロアルキル基(例:シクロヘキシル基)である場合に顕著となるが、係る態様に限定されず、該Rが上記アリール基(例:フェニル基)である場合にも、上記モル比(P:M)であれば、かなり優れた効果が得られる。
【0064】
なお、該Rが上記アルキル基である場合には、該アルキル基は酸化を受けやすく、そのため得られる錯体触媒の再利用回数は、Rが上記2者(シクロアルキル基、アリール基)である場合に比して、やや低下することがある。
【0065】
錯体(C)中のMの遷移金属換算量あるいは、上記モル比(P:M)を上記範囲にするには、錯体調製時のポリマー配位子と遷移金属塩または遷移金属錯体(B)との仕込み比率を変えることで調節することができる。
【0066】
なお、該リン含有スチレン系共重合体(A)(あるいはポリマー配位子(A))には、各成分単位(1)、(2)、(3)は、それぞれ用いられた上記各モノマー(1a)、(2a)、(3a)量に対応する量で存在している。
【0067】
すなわち、該リン含有スチレン系共重合体(A)には、上記モノマー(1a)由来の成分単位(1)は、25〜90モル%、好ましくは60〜80モル%の量で含有され、
下記式(2)で表されるp−ホスフィン基含有スチレン(2a)由来の成分単位は1〜70モル%、好ましくは10〜30モル%の量で含有されている。
【0068】
また、下記式(3)で表される、ジビニルベンゼン(3a)由来の成分単位は1〜30モル%、好ましくは1〜20モル%、特に2〜8モル%の量(但し、全成分単位((1)+(2)+(3))=100モル%)で含有されている。
【0069】
式(C)中、成分単位(1)、(2)、(3)の結合順序は任意である。
なお成分単位(3)中には、フェニレン基(ベンゼン環)を挟んで2個の
【0070】
【化8】

【0071】
で表される連結・結合部位{すなわち、成分単位(3)中の(3−1)と(3−2)の部位}:
【0072】
【化9】

【0073】
が存在し、そのため成分単位(3)は共重合体中にあって架橋反応に寄与するが、これらの何れの結合部位においても、成分単位(3)は、上記他の成分単位(1)、(2)、(3)の何れかと結合している。
【0074】
なお、成分単位(3)中のベンゼン環を挟んで存在する2個の連結・結合部位(3−1)、(3−2)、すなわち
【0075】
【化10】

【0076】
は、用いられたモノマー(3a)の種類に対応して、o,m,p位に、好ましくはm位またはp位に存在している。
また、各成分単位の繰返し単位数k、m、lは、それぞれ独立に1以上の整数を示す。
【0077】
なお、共重合体中のk、m、lの比は、用いられた上記各モノマー(1a)、(2a)、(3a)量の比に対応している。
共重合体中のRは、前記モノマー(2a)中のそれと同様である。
【0078】
その他の記号M、X、L、q、rは、上記式(B)の場合と同様である。
dは、1以上の整数を示す。
本発明では、上記したように、上記ポリマー担持遷移金属錯体(C)中のリン原子と遷移金属原子との比率(モル比)が、通常1:1〜20:1、好ましくは、2:1〜15:1、さらに好ましくは3:1〜8:1であることが触媒活性、触媒の再使用性などに優れる点で望ましい。
【0079】
なお、このポリマー担持遷移金属錯体(C)の一例として、リンとパラジウムのモル比(P/Pd)が2/1(モル比)の化合物を下記式(C−1)に示す。ここで、パラジウム(Pd)に配位しているリン(P)は同一ポリマー鎖内にあるものでも、異なるポリマー鎖間にあるものでもよい。
【0080】
【化11】

【0081】
このようなポリマー担持遷移金属錯体(C)の構造は、NMR、ICP分析、IR(KBr錠剤法)などを利用することにより、決定することができる。
[ポリマー担持遷移金属錯体(C)の製造]
本発明においては、上記のポリマー担持遷移金属錯体(C)は、上記のリン含有スチレン系共重合体(A)と、上記の金属塩または遷移金属錯体(B)とを接触させることにより製造することができる。
<リン含有スチレン系共重合体(A)の合成>
先ず、リン含有スチレン系共重合体(A)を得るには、上記共重合用モノマーであるスチレンモノマー(1a)と上記p−ホスフィン基含有スチレン(2a)と、上記ジビニルベンゼン(3a)とを、それぞれ上述したような量で用いて、通常、重合開始剤、溶媒などの存在下に、共重合させる。
【0082】
なお、この共重合の際には、スチレンモノマー(1a)を25〜90モル%、好ましくは60〜80モル%の量で、上記モノマー(2a)を1〜70モル%、好ましくは10〜30モル%の量で、またジビニルベンゼンモノマー(3a)を、1〜30モル%、好ましくは1〜20モル%、特に好ましくは2〜8モル%の量で用いることが望ましい。但し、全モノマー((1a)+(2a)+(3a))=100モル%とする。
【0083】
このスチレンモノマー(1a)量が上記範囲より少ないと経済性の面で不利となる傾向
があり、また上記範囲より多いと配位子としての効果が低下する傾向がある。
このモノマー(2a)量すなわちp−ホスフィン基含有スチレン(2a)量が上記範囲より少ないと配位子としての効果が低下する傾向があり、また上記範囲より多いと経済性
の面で不利となる傾向がある。
【0084】
このモノマー(3a)量すなわちジビニルベンゼン(3a)量が上記範囲より少ないとポリマー強度が低下する傾向があり、また上記範囲より多いと、得られるポリマー担持遷移金属錯体触媒(C)を用いた種々の反応、例えば、Grignardカップリング反応、Suzuki−Miyaura反応、Heck反応、水素化反応、オキソ法による反応、ヒドロシリル化反応などの反応に際し、該触媒(特にポリマー部位)の膨潤性が低下し、該触媒と基質(上記各反応用の原料)との接触性が低下することにより反応性が低下する傾向がある。
【0085】
このリン含有スチレン系共重合体(A)の合成の際には、通常、下記のような重合開始剤、溶媒等が用いられる。
上記重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスシクロヘキシルカルボニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシベンゾエート、過酸化ベンゾイル等の過酸化物などが挙げられ、好ましくはAIBN、アゾビスシクロヘキシルカルボニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が用いられる。これら重合開始剤は、従来より公知のオレフィン系(共)重合体製造用の重合開始剤であり、モノマーの合計量100重量部当たり、例えば、0.5〜5重量部程度の量で用いられる。
【0086】
また、必要により使用される溶媒としては、水;
ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;
n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;
クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒;
メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶媒;
アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;
テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチルエーテル、n−ブチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0087】
該溶媒を用いる場合には、モノマーの合計量100重量部当たり、例えば、100〜500重量部程度の量で用いられる。
また必要に応じて、安定剤としてポリビニルアルコール、メチルセルロース、ゼラチン、ポリアクリル酸塩などをモノマーの合計量100重量部当たり0.01〜30重量部程度の量で添加してもよい。
【0088】
本発明では、上記モノマー(1a)、(2a)及び(3a)を共重合させる際には、加
熱、加圧等してもよいが、その条件は、モノマーの種類、モノマー組成比などにより異なる。
【0089】
例えば、上記スチレンモノマー(1a)と、p−ホスフィン基含有スチレンの1種であ
るジシクロヘキシル(p−ビニルフェニル)ホスフィン(2a)と、ジビニルベンゼン(3a)とを上記のようなモノマー量比で共重合させる場合には、常圧下に、反応温度:20〜100℃、好ましくは30〜80℃で、反応時間:3〜24時間程度反応させればよい。
【0090】
このようにして得られた成分単位組成がスチレン単位/ジシクロヘキシル(p−ビニル
フェニル)ホスフィン(2a)単位/ジビニルベンゼン(3a)単位であるリン含有スチレン系共重合体(A1)は、常温、常圧下で、通常、固体である。
<リン含有スチレン系共重合体(A)と、金属塩または遷移金属錯体(B)との接触、及び得られた触媒(C)>
次いで、本発明では、上記のリン含有スチレン系共重合体(A)と、「金属塩または遷移金属錯体」(B)とを接触(作用)させて、有機合成用触媒として有用なポリマー担持遷移金属錯体(C)を製造している。
【0091】
すなわち、ポリマー(A)を、9族または10族の遷移金属原子または1〜3価の9族または10族の遷移金属陽イオンなどを有する遷移金属化合物(B)に配位させ、ポリマー担持金属錯体触媒(C)を得る。ここで使用される遷移金属としてはパラジウム、ニッケル、ロジウム、白金等が挙げられる。
【0092】
触媒(C)の調製方法は、1例を挙げれば次のとおりである。
触媒(C)は、リン含有ポリマー(A)と、例えば、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムやジクロロ(1,5−シクロペンタジエン)パラジウムに代表されるパラジウム錯体との間の配位子交換によって調製される。また、塩化パラジウムとリン含有ポリマー(A)から直接調製することもできる。
【0093】
触媒として作用する際の金属の価数は、反応中に酸化還元が繰り返されて随時変化するため、それに伴い配位するリンの数にも変化が生ずると考えられる。従って、ポリマー(A)に含まれるリンと金属(例:Pd)のモル比(P/Pd)は一義的に定めることが難しく、触媒活性が有効となる範囲で選択すればよい。
【0094】
本発明の場合は、ポリマー(A)に含まれるリン(P)と金属(M)(例:Pd)のモル比(P/Pd)は、1/1〜20/1の範囲で選択されるが、好ましくは2/1〜15/1、さらに好ましくは3/1〜8/1である。
【0095】
なお、ポリマー(A)に含まれるリンと、金属(M)のモル比(P/M)は、錯体の種類によっても異なり、その金属種により適宜選択される。
上記共重合体(A)と、金属塩または遷移金属錯体(B)との接触(反応)は、例えば、THF溶媒中、60〜65℃で、5〜24時間還流条件下に実施される。
【0096】
本発明に係るポリマー担持遷移金属錯体触媒(C)は、有機合成用触媒として有用であり、上記の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体(C)からなる。
このポリマー担持遷移金属錯体(C)は、特に、Grignardカップリング反応用、Suzuki−Miyaura反応用、Heck反応用の触媒として、10回以上、使用条件によっては30回以上も繰返して使用し、反応完了後はこの高価な貴金属触媒などを反応系から容易に高回収率で分離回収して多数回再利用でき経済性の面で、特に優れる。
【0097】
また、ジシクロヘキシル(p−ビニルフェニル)ホスフィン−スチレン系共重合体を配位子とするポリマー担持遷移金属錯体からなる触媒は、原料(基質)がクロロ体であるような場合においても優れた触媒活性を示し、より広範な原料に対して反応がスムーズに進行し、反応時間も短縮することができる。
【0098】
また目的物の合成の観点からは、目的合成物の純度が高くでき、分離・精製の面で有利な合成反応を提供することができる。
その上、配位子(A)の構造も単純であり、重合方法も公知の方法を使用し、容易に合成することができ、触媒(C)を安価に容易に調製できるという利点がある。
【0099】
[該触媒を用いた化合物の合成法]
<Grignard反応によるビフェニル類の合成>
本発明に係るビフェニル類(ハ)の製造方法では、上記の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体(C)からなる有機合成用触媒(ポリマー担持遷移金属錯体触媒(C))の存在下に、ブロモベンゼン等のハロゲン化ベンゼン(イ)と、p−トリルマグネシウムクロライド等のアリールマグネシウムハロゲン化物(ロ)とを理論的には等モル比で、通常、ハロゲン化ベンゼン(イ)1モルに対してアリールマグネシウムハロゲン化物(ロ)を
0.8〜2.0モル、好ましくは(ロ)が過剰量すなわちモル比:(ロ)/(イ)>1となる量でGrignardカップリング反応させている。このGrignardカップリング反応の際には、溶媒を用いてもよく、必要により加熱等してもよい。
【0100】
Grignardカップリング反応によるビフェニル類の合成時に通常使用可能な溶媒としては、Grignard試薬と共存できる溶媒であればよく、具体的には、例えば、ジエチルエーテル、ジノルマルブチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル、テトラヒドロフランおよび1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒;
ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;
ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタンなどの炭化水素系溶媒;
あるいはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0101】
これらの溶媒は1種または2種以上組合わせて用いることができる。
本発明では、これらの溶媒のうちでは、好ましくは、テトラヒドロフラン、トルエンおよびこれらの混合溶媒が望ましい。
【0102】
本発明のポリマー担持遷移金属錯体(C)からなる触媒の使用量は、反応原料のブロモベンゼン(イ)等のハロゲン化ベンゼン、あるいはp−トリルマグネシウムクロライド(ロ)等のアリールマグネシウムハロゲン化物100モル%に対して、0.0001〜20モル%、好ましくは0.001〜2モル%の量である。
【0103】
反応温度は、室温から溶媒の還流温度までの間で選択されるが、好ましくは40〜80℃である。
上記反応に際して使用された、本発明のポリマー担持遷移金属錯体触媒(C)は、水や有機溶媒に不溶なため、反応後デカンテーションや濾過などの簡単な操作で生成物と分離し、回収することができる。
【0104】
回収されたポリマー担持遷移金属錯体触媒(C)は、活性の低下もほとんどなく、多数回(例:15〜20回)繰り返して使用することができ、低コストでの上記Grignardカップリング反応に好適である。
【0105】
例えば、ホスフィンモノマー(2a)としてジフェニル(p−ビニルフェニル)ホスフィンを使用して、合成した共重合体(A)を、リンとPdの比(P/Pd)を4にして調製したポリマー担持金属錯体触媒(C)を触媒として、ブロモベンゼン(イ)に対し、Pdとして1モル%使用した場合には、ブロモベンゼン(イ)とp−トリルマグネシウムク
ロライド(ロ)とのGrignardカップリング反応を10回繰り返したところ、反応時間が5時間以内で、原料(イ)は反応の進行に伴い消失し、高収率で4−メチルビフェニル(ハ)が得られた。(なお、原料(ロ)は通常、やや過剰量で使用されるため減少するが消失には至らない。)
さらに回収再使用を繰り返してもポリマー担持遷移金属錯体触媒(C)の活性の低下は、ほとんど見られなかった。これに用いた触媒(C)は回収率93〜100%で繰り返し回収して使用でき、この間の目的化合物の収率は、80%以上の高収率が維持できる。
【0106】
なお、上記ポリマー担持遷移金属錯体触媒(C)製造時に、リンPとPdのモル比(P/Pd)=1.7に調整して製造したポリマー担持金属錯体触媒(C’)を、上記Grignardカップリング反応用の触媒としてPdとして1モル%使用した場合には、僅か
3〜4回程度の繰返し使用で活性は低下した。
【0107】
また、上記ポリマー担持遷移金属錯体触媒(C)製造時に、リンPとPdのモル比(P/Pd)=20に調整して製造したポリマー担持金属錯体触媒(C”)を、上記Grignardカップリング反応用の触媒としてPdとして1モル%使用した場合には、反応の
終了に10時間以上かかった。
【0108】
この本発明の触媒(C)、あるいは触媒(C')、(C”)を、Suzuki−Miy
aura反応やHeck反応に利用した場合にも、これと同様の傾向が見られた。
また、本発明のポリマー担持触媒用配位子を用いて本発明のロジウム錯体(Rh触媒)を調製して、水素化反応、ヒドロシリル化反応に使用することができる。
【0109】
以上のように本発明によるポリマー担持金属錯体触媒は、触媒活性は対応する均一系触媒とほぼ同等であり、回収再使用性の点で従来の触媒より優れた効果が得られた。
<Suzuki−Miyaura反応>
また本発明に係るビフェニル類の製造方法では、上記の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体(C)からなる有機合成用触媒の存在下に、ハロゲン化ベンゼンと、フェニル基含有ボロン酸とをSuzuki−Miyaura反応させている。
【0110】
例えば、ハロゲン化ベンゼンとしてp−ブロモアセトフェノン(式:CH3−C(O)
−Ph−Br;Phはベンゼン環)1モルに対して、フェニルボロン酸(Ph−B(OH)2;Phはベンゼン環)を理論的には等モル量で、通常0.8〜1.5モルの量で使用
して、塩基として炭酸カリウム1.2〜3.0モルで、また上記ポリマー担持遷移金属錯体触媒(C)(Pd含量2〜10%)をハロゲン化ベンゼン100モル%に対して0.001〜2.0モル%の量(計算法は後述)で、溶媒のTHFを原料合計の3〜10倍量で、水を3〜10倍量で用いて40℃〜溶媒(例:THF)の還流温度である60〜65℃で、(反応温度、目的化合物や原料、塩基量などの種類、条件にも拠るが)0.5〜5時間程度反応させれば、目的化合物である4−アセチルビフェニル等のビフェニル類が得られる。これに用いた触媒(C)は回収率90〜100%で繰返し回収して使用でき、この間の目的化合物の収率は、92〜99%程度と高収率が維持できる。
【0111】
なお、上記ポリマー担持遷移金属錯体触媒(C)の添加量(モル%)の算出法は、「{ポリマー触媒の重量(g)×Pd含量(%)/Pdの原子量(106.42)}/ハロゲン化ベンゼンのモル数」による。
[実施例]
次に本発明に係るポリマー担持金属錯体触媒等について、実施例、比較例を記載するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1−1]
<ポリマー配位子の合成>
100ml容量のビーカーにスチレン13.5g(0.13モル)、55%ジビニルベンゼン2.4g(0.01モル)、ジフェニル(4−ビニルフェニル)ホスフィン17.3g(純度99%、0.06モル)を混合し、アゾビスイソブチロニトリル1.0g(0.005モル)を加え均一溶液(a’)とした。
【0112】
ゼラチン7gを水140mlに溶解し、先ほどの溶液(a’)と混合して、300ml四つ口フラスコに入れ、80℃に加熱した。さらに同温度で8時間撹拌し、室温まで冷却
後、ガラスフィルターを用いて濾過をした。
【0113】
水、アセトンおよびTHF(テトラヒドロフラン)でそれぞれ2回ずつ洗浄し、60℃で15時間乾燥させ、リン含有スチレン系共重合体であるポリマー配位子30.4gを得た。
【0114】
得られたポリマー配位子に大過剰のベンジルクロライドを作用させ四級化後、ホルハルト法により分析した結果、ポリマー中のリン濃度は、1.76mmol/gであった。
[実施例1−2]
<ポリマー配位子の合成>
100ml容量のビーカーにスチレン8.5g(0.08モル)、55%ジビニルベンゼン0.7g(0.003モル)、ジシクロヘキシル(p−ビニルフェニル)ホスフィン31.5g(純度35%、0.04モル)を混合し、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)1.0g(0.03モル)を加え均一溶液(a)とした。
【0115】
ゼラチン3.2gを水80mlに溶解し、先ほどの溶液(a)と混合して、300ml四つ口フラスコに入れ、40℃に加熱した。さらに同温度で8時間撹拌し、室温まで冷却後、ガラスフィルターを用いて濾過をした。
【0116】
水、アセトンおよびTHF(テトラヒドロフラン)でそれぞれ2回ずつ洗浄し、60℃で15時間乾燥させ、リン含有スチレン系共重合体であるポリマー配位子33.6gを得た。
【0117】
得られたポリマー配位子を下記に記載のリン含量分析法により分析した結果、ポリマー中のリン濃度は、0.86mmol/gであった。
リン含量の分析
<指示薬の作成>
バナジン酸アンモニウム0.12gを温水40mlで溶解し、70%過塩素酸2mlを加え、50mlに水で定容した(A液)。
【0118】
モリブデン酸アンモニウム2.5gを水に溶解し、50mlに定容した(B液)。
<検量線の作成>
リン酸二水素カリウム(MW136.09、リン含量:22.76重量%)を使用し、リン濃度の異なる溶液を数種類調製した((b))。
【0119】
上記溶液(b)と指示薬2種(A液、B液)を、50mlメスフラスコにそれぞれ5ml加え、水で定容した(リン濃度2〜20μg/ml、試料b’)。
次いで、得られた試料(b’)を30分以上(具体的には、60分)放置後、420nmにおける試料の吸光度を測定した(測定装置:U−2000型分光光度計、(株)日立製作所製)。
【0120】
その吸光度より、検量線を作成した。
<試料の調製>
試料(リン含有スチレン系共重合体)中のリン含量が検量線の範囲内になるように、100ml三角フラスコに試料を精秤した。
【0121】
濃硝酸5ml、70%過塩素酸5mlを試料のリン含有スチレン系共重合体に加え、白煙が出るまで(このときの温度:143℃)電熱器上で強熱した。
白煙が出てから1分間強熱を続けた。強熱終了後、室温(27℃)まで冷却した。
【0122】
上記操作(すなわち、濃硝酸5ml、70%過塩素酸5mlを試料に添加〜室温まで冷却の操作)を溶液中に固形成分がなくなるまで繰り返した。
室温(27℃)に冷却後、水10mlを系内に加え、白煙が出るまで電熱器上で強熱した。白煙が出てから1分間強熱を続けた。強熱終了後、室温まで冷却した。この操作をもう一度行った。
【0123】
得られた溶液(分解の済んだ溶液)を50mlメスフラスコに入れ、定容した。
この溶液のうち5mlを50mlメスフラスコに採り、指示薬2種(すなわち、A液とB液)を5mlずつ加え、また70%過塩素酸3mlを加え、水で定容した。
【0124】
30分以上(具体的には、60分間)放置後、420nmにおける吸光度を測定し、検量線よりリン含量を算出した。
[実施例2−1]
<ポリマー担持パラジウム触媒の調製>
50mlビーカーに塩化パラジウム0.58g(3.3mmol)、濃塩酸4mlを加え、塩化パラジウムを溶解し、濾過をした。濾液をエタノール100ml、THF100mlで希釈し、300mlの四口フラスコに入れ、実施例1−1で得たポリマー:リン含有スチレン系共重合体7.52g(ポリマー中に含まれるリンとして13.2mmol)を加えて、還流温度で8時間反応させた。
【0125】
冷却後、濾過をして、THFで2回洗浄した。60℃で15時間乾燥させ、ポリマー担持パラジウム触媒7.8gを得た。得られたポリマー(ポリマー担持パラジウム触媒)をICP分析(セイコーインスツルメンツ(株)製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置、型番:SPS1700HVR)した結果、Pd含量は4.1重量%であった。この結果より、得られたポリマー担持パラジウム触媒中のリンとパラジウムの比(モル比)は下記のようになった。
【0126】
リン:7.52×1.76=13.2mmol、
パラジウム:7.8×0.041×1000/106.42=3.0mmol、
リン/パラジウム(モル比)=13.2/3.0=4.4/1.0=4.4、
となった。
[実施例2−2]
<ポリマー担持パラジウム触媒の調製>
50mlビーカーに塩化パラジウム0.58g(3.3mmol)、濃塩酸4mlを加え、塩化パラジウムを溶解し、濾過をした。濾液をエタノール100ml、THF100mlで希釈し、300mlの四口フラスコに入れ、実施例1−2で得たポリマー:リン含有スチレン系共重合体15.34g(ポリマー中に含まれるリンとして13.2mmol)を加えて、還流温度で8時間反応させた。
【0127】
冷却後、濾過をして、THFで2回洗浄した。60℃で15時間乾燥させ、ポリマー担持パラジウム触媒15.7gを得た。
得られたポリマー(ポリマー担持パラジウム触媒)をICP分析(セイコーインスツルメンツ(株)製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置、型番:SPS1700HVR)した結果、Pd含量は2.2重量%であった。
【0128】
この結果より、得られたポリマー担持パラジウム触媒中のリンとパラジウムの比(モル比)は下記のようになった。
リン:15.34×0.86=13.2mmol、
パラジウム:15.7×0.022×1000/106.42=3.2mmol、
リン/パラジウム(モル比)=13.2/3.2=4.1/1.0=4.1、
となった。
[実施例3−1]
<Grignardカップリング反応>
200ml容量の4つ口フラスコにブロモベンゼン4.0g(25mmol)、1.7mol/kgのp−トリルマグネシウムクロライドTHF溶液20g(p−トリルマグネシウムクロライドとして34mmol)、実施例2−1で得たポリマー担持パラジウム触媒(Pd含量4.1%)0.5g(ブロモベンゼン100mol%に対して1mol%)、トルエン30mlを加え、還流温度で反応させた。反応は、ガスクロマトグラフィーにより追跡し、原料のブロモベンゼンが消失するまで行った。
【0129】
なお、ポリマー担持Pd触媒のモル数は、「ポリマー担持Pd触媒の重量(g)×Pd含量(%)/Pdの原子量(106.42)」で算出した。また、ポリマー担持パラジウ
ム触媒のモル%は、そのモル数をブロモベンゼンのモル数で割った値(%)である。
【0130】
目的化合物である4−メチルビフェニルの収率は、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、型番:GC−14B)にて生成物の純度(面積百分率法)を測定し、その値より算出したところ91%であった。
【0131】
反応終了後、ガラスフィルターを使用して濾過をして、濾別した触媒を20%硫酸、THFでそれぞれ2回ずつ洗浄し、60℃で15時間乾燥して触媒を回収した(回収率99%)。
【0132】
回収した触媒は繰り返し使用したが、10回繰り返し使用しても、原料のブロモベンゼンは3時間以内で消失した。
このように4−メチルビフェニルの合成に繰り返し触媒を使用した間の反応時間(h)、収率(%)、回収率をまとめて表1−1に示す。
【0133】
なお反応時間は、原料のブロモベンゼンが消失するまでの時間であり、収率は、ガスクロマトグラフィーにより生成物の純度(面積百分率法による)を求め、これより算出した値であり、回収率は、回収された触媒量を使用前の触媒使用量で割った値(%)である。
【0134】
4−メチルビフェニルが生成したことの確認は、東京化成工業(株)製の標品と生成物(反応液)のガスクロマトグラフィーのリテンションタイムを比較して、4−メチルビフェニルの生成を確認した。
【0135】
【表1−1】

【0136】
[実施例3−2]
<Grignardカップリング反応>
200ml容量の4つ口フラスコにブロモベンゼン4.0g(25mmol)、1.7mol/kgのp−トリルマグネシウムクロライドTHF溶液20g(p−トリルマグネシウムクロライドとして34mmol)、実施例2−2で得たポリマー担持パラジウム触
媒(Pd含量2.2%)1.2g(ブロモベンゼン100mol%に対して1mol%)、トルエン30mlを加え、還流温度で反応させた。反応は、ガスクロマトグラフィーにより追跡し、原料のブロモベンゼンが消失するまで行った。
【0137】
なお、ポリマー担持Pd触媒のモル数は、「ポリマー担持Pd触媒の重量(g)×Pd含量(%)/Pdの原子量(106.42)」で算出した。また、ポリマー担持パラジウ
ム触媒のモル%は、そのモル数をブロモベンゼンのモル数で割った値(%)である。
【0138】
目的化合物である4−メチルビフェニルの収率は、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、型番:GC−14B)にて生成物の純度(面積百分率法)を測定し、その値より算出したところ92%であった。
【0139】
反応終了後、ガラスフィルターを使用して濾過をして、濾別した触媒を20%硫酸、THFでそれぞれ2回ずつ洗浄し、60℃で15時間乾燥して触媒を回収した(回収率99%)。
【0140】
回収した触媒は繰り返し使用したが、20回繰り返し使用しても、原料のブロモベンゼンは5時間以内で消失した。
このように4−メチルビフェニルの合成に繰り返し触媒を使用した間の反応時間(h)、収率(%)、回収率をまとめて表1−2に示す。
【0141】
なお反応時間は、原料のブロモベンゼンが消失するまでの時間であり、収率は、ガスクロマトグラフィーにより生成物の純度(面積百分率法による)を求め、これより算出した値であり、回収率は、回収された触媒量を使用前の触媒使用量で割った値(%)である。
【0142】
4−メチルビフェニルが生成したことの確認は、東京化成工業(株)製の標品と生成物(反応液)のガスクロマトグラフィーのリテンションタイムを比較して、4−メチルビフェニルの生成を確認した。
【0143】
【表1−2】

【0144】
[実施例4−1]
<Suzuki−Miyaura反応>
100mlの4つ口フラスコにp−ブロモアセトフェノン4.0g(20mmol)、フェニルボロン酸3.7g(30mmol)、炭酸カリウム5.5g(40mmol)、実施例2−1で得たポリマー担持パラジウム触媒(Pd含量4.1%)0.4g(p−ブロモアセトフェノン100mol%に対して0.8mol%)、水20ml、THF20mlを加え、還流温度で反応させた。反応は、ガスクロマトグラフィーにより追跡し、原料のp−ブロモアセトフェノンが消失するまで行った。
【0145】
目的化合物である4−アセチルビフェニルの収率は、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、型番:GC−14B)にて生成物の純度(面積百分率法)を測定し、その値より算出したところ95%であった。
【0146】
反応終了後、ガラスフィルターを使用して濾過をして、濾別した触媒を20%硫酸、THFでそれぞれ2回ずつ洗浄し、60℃で15時間乾燥して触媒を回収した(回収率100%)。
【0147】
回収した触媒を繰り返し使用したが、10回繰り返し使用しても、原料のp−ブロモアセトフェノンは3時間以内で消失した。
このように4−アセチルビフェニルの合成に繰り返して触媒を使用した間の反応時間(h)、収率(%)、触媒の回収率(%)をまとめて表2−1に示す。
【0148】
なお、目的化合物である4−アセチルビフェニルが生成したことの確認は、東京化成工業(株)製の標品と生成物(反応液)のガスクロマトグラフィーのリテンションタイムを比較して、4−アセチルビフェニルの生成を確認した。
【0149】
なお反応時間、収率、回収率の定義は上記実施例3−1に同じ。
【0150】
【表2−1】

【0151】
[実施例4−2]
<Suzuki−Miyaura反応>
100mlの4つ口フラスコにp−ブロモアセトフェノン4.0g(20mmol)、フェニルボロン酸3.7g(30mmol)、炭酸カリウム5.5g(40mmol)、実施例2−2で得たポリマー担持パラジウム触媒(Pd含量2.2%)0.8g(p−ブロモアセトフェノン100mol%に対して0.8mol%)、水20ml、THF20mlを加え、還流温度で反応させた。反応は、ガスクロマトグラフィーにより追跡し、原料のp−ブロモアセトフェノンが消失するまで行った。
【0152】
目的化合物である4−アセチルビフェニルの収率は、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、型番:GC−14B)にて生成物の純度(面積百分率法)を測定し、その値より算出したところ97%であった。
【0153】
反応終了後、ガラスフィルターを使用して濾過をして、濾別した触媒を20%硫酸、THFでそれぞれ2回ずつ洗浄し、60℃で15時間乾燥して触媒を回収した(回収率99%)。
【0154】
4−アセチルビフェニルの合成に、回収した触媒を繰り返し使用したが、30回繰り返し使用しても、原料のp−ブロモアセトフェノンは3時間以内で消失した。
このように4−アセチルビフェニルの合成に繰り返して触媒を使用した間の反応時間(h)、収率(%)、触媒の回収率(%)をまとめて表2−2に示す。
【0155】
なお、目的化合物である4−アセチルビフェニルが生成したことの確認は、東京化成工
業(株)製の標品と生成物(反応液)のガスクロマトグラフィーのリテンションタイムを比較して、4−アセチルビフェニルの生成を確認した。
【0156】
なお反応時間、収率、回収率の定義は上記に同じ。
【0157】
【表2−2】

【0158】
[実施例4−3]
(Suzuki−Miyaura反応)
100mlの4つ口フラスコにp−クロロアセトフェノン3.1g(20mmol)、フェニルボロン酸3.7g(30mmol)、炭酸カリウム5.5g(40mmol)、実施例2−2で得たポリマー担持パラジウム触媒(Pd含量2.2%)0.8g(p−クロロアセトフェノン100mol%に対して0.8mol%)、水20ml、THF20mlを加え、還流温度で反応させた。反応は、ガスクロマトグラフィーにより追跡し、原料のp−クロロアセトフェノンが消失するまで行った。
【0159】
目的化合物である4−アセチルビフェニルの収率は、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、型番:GC−14B)により生成物の純度(面積百分率法)を求め、これより算出したところ95%となった。
【0160】
反応終了後、ガラスフィルターを使用して濾過をして、濾別した触媒を20%硫酸、THFでそれぞれ2回ずつ洗浄し、60℃で15時間乾燥して触媒を回収した(回収率99%)。
【0161】
回収した触媒を繰り返し使用したが、10回繰り返し使用しても、原料のp−クロロアセトフェノンは2時間以内で消失した。
このように目的化合物である4−アセチルビフェニルの合成に繰り返して触媒を使用した間の反応時間(h)、収率(%)、触媒の回収率(%)をまとめて表2−3に示す。
【0162】
なお、反応時間(h)、収率(%)、回収率(%)の定義は上記に同じ。
【0163】
【表2−3】

【0164】
[実施例5−1]
<Heck反応>
100mlの4つ口フラスコにp−ブロモアセトフェノン4.0g(20mmol)、アクリル酸メチル2.6g(30mmol)、酢酸カリウム2.3g(23mmol)、実施例2−1で得たポリマー担持パラジウム触媒(Pd含量4.1%)0.2g(p−ブロモアセトフェノン100mol%に対して0.4mol%)、N,N−ジメチルアセトアミド30mlを加え、90〜100℃で反応させた。反応は、ガスクロマトグラフィーにより追跡し、原料のp−ブロモアセトフェノンが消失するまで行った。
【0165】
3−(4−アセチルフェニル)アクリル酸メチルの収率は、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、型番:GC−14B)にて生成物の純度(面積百分率法)を測定し、その値より算出したところ90%であった。
【0166】
反応終了後、ガラスフィルターを使用して濾過をして、濾別した触媒をTHFで2回洗浄し、60℃で15時間乾燥して触媒を回収した(回収率99%)。
回収した触媒を繰り返し使用したが、5回繰り返し使用しても、原料のp−ブロモアセトフェノンは5時間以内で消失した。
【0167】
このように3−(4−アセチルフェニル)アクリル酸メチルの合成に繰り返して触媒を使用した間の反応時間(h)、収率(%)、触媒の回収率(%)をまとめて表3−1に示す。
【0168】
なお反応時間、収率、回収率の定義は上記に同じ。
なお、目的化合物である3−(4−アセチルフェニル)アクリル酸メチルが生成したことの確認は、反応液をGC−MS分析して、分子イオンピークが204(目的化合物の分子量)であることで、確認した。
【0169】
【表3−1】

【0170】
[実施例5−2]
<Heck反応>
100mlの4つ口フラスコにp−ブロモアセトフェノン4.0g(20mmol)、アクリル酸メチル2.6g(30mmol)、酢酸カリウム2.3g(23mmol)、実施例2−2で得たポリマー担持パラジウム触媒(p−ブロモアセトフェノン100molに対してPd含量2.2%)0.2g(p−ブロモアセトフェノン100mol%に対
して0.3mol%)、N,N−ジメチルアセトアミド30mlを加え、90〜100℃で反応させた。反応は、ガスクロマトグラフィーにより追跡し、原料のp−ブロモアセトフェノンが消失するまで行った。
【0171】
3−(4−アセチルフェニル)アクリル酸メチルの収率は、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、型番:GC−14B)にて生成物の純度(面積百分率法)を測定し、その値より算出したところ93%であった。
【0172】
反応終了後、ガラスフィルターを使用して濾過をして、濾別した触媒をTHFで2回洗浄し、60℃で15時間乾燥して触媒を回収した(回収率98%)。
回収した触媒を繰り返し使用したが、10回繰り返し使用しても、原料のp−ブロモアセトフェノンは5時間以内で消失した。
【0173】
このように3−(4−アセチルフェニル)アクリル酸メチルの合成に繰り返して触媒を使用した間の反応時間(h)、収率(%)、触媒の回収率(%)をまとめて表3−2に示す。
【0174】
なお、目的化合物である3−(4−アセチルフェニル)アクリル酸メチルが生成したことの確認は、反応液をGC−MS分析して、分子イオンピークが204(目的化合物の分子量)であることで、確認した。
【0175】
なお反応時間、収率、回収率の定義は上記に同じ。
【0176】
【表3−2】

【0177】
[比較例1−1]
実施例2−1と同様な操作を行い、P/Pd=1.7のポリマー担持パラジウム錯体を得た。
【0178】
得られたポリマー担持パラジウム錯体を使用して、実施例3−1と同様に反応を行った。
反応後、触媒を回収し、繰り返し使用したところ、5回の使用で原料が消失するまでに8時間以上要した。
【0179】
なお、実施例3−1の場合は、10回以上繰り返し触媒を使用しても3時間以内に原料は消失した。
この間の反応時間、収率、回収率をまとめて表4−1に示す。
【0180】
なお反応時間、収率、回収率の定義は上記に同じ。
【0181】
【表4−1】

【0182】
[比較例1−2]
実施例2−2と同様な操作を行い、P/Pd=1.6のポリマー担持パラジウム錯体を得た。
【0183】
得られたポリマー担持パラジウム錯体を使用して、実施例3−2と同様に反応を行った。
反応後、触媒を回収し、繰り返し使用したところ、15回の使用で原料が消失するまでに10時間以上要した。
【0184】
なお、実施例3−2の場合は、20回以上繰り返し触媒を使用しても5時間以内に原料は消失した。
この間の反応時間、収率、回収率をまとめて表4−2に示す。
【0185】
なお反応時間、収率、回収率の定義は上記に同じ。
【0186】
【表4−2】

【0187】
[比較例2−1]
実施例2−1と同様な操作を行い、P/Pd=20.3のポリマー担持パラジウム錯体を得た。
【0188】
得られたポリマー担持パラジウム錯体を使用して、実施例3−1と同様に反応を行った。
しかしながら、10時間かけても反応は終了しなかった。
[産業上の利用可能性]
本発明のポリマー配位子は、構造や重合方法も単純なため、容易に合成することができる。また、これらの配位子を用いて調製されたポリマー担持金属錯体触媒、例えばSuzuki−Miyaura反応、Grignardカップリング反応、Heck反応などに使用されるポリマー担持パラジウム触媒をはじめとするポリマー担持遷移金属錯体触媒は、反応系から容易に除去、回収することができるため、分離・精製の面で有用性が高い。
【0189】
また、高価な貴金属触媒も回収再使用できるので経済性の面からも有用な方法である。
特に本発明のポリマー配位子は通常のスチレンポリマーに比べて使用による劣化が少なく、これを用いて調製されたポリマー担持金属錯体触媒の再使用回数を大幅に伸ばすことができる為、種々の有機合成反応において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1a)で表されるスチレンモノマー:25〜90モル%と、
下記式(2a)で表されるp−ホスフィン基含有スチレンモノマー:1〜70モル%と、
下記式(3a)で表されるジビニルベンゼン:1〜30モル%(但し、全モノマー((1a)+(2a)+(3a))=100モル%)とを共重合させてなるリン含有スチレン系共重合体(A)と、下記式(B)で表される金属塩または遷移金属錯体とを接触させてなり、遷移金属原子または遷移金属イオンMの遷移金属換算量が0.1〜20重量%であるポリマー担持遷移金属錯体。
【化1】

(但し、式(2a)中、Rはアルキル基、シクロアルキル基およびアリール基のうちの何れかの基を示す。)
M−Xqr ・・・・・・・・・・(B)
(但し、式(B)中、Mは、9族または10族の遷移金属原子または1〜3価の9族または10族の遷移金属陽イオンを示し、
Xは、ハロゲンイオン、アセトキシイオン、硝酸イオン、シアンイオンのうちの何れかのイオンを示し、
Lは、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、1,5−シクロオクタジエンのうちから選択される配位子を示し、q,rはそれぞれ独立に0以上の整数を示す。)
【請求項2】
下記式(1)で表される、スチレンモノマー由来の成分単位:25〜90モル%と、
下記式(2)で表される、p-ホスフィン基含有スチレン由来の成分単位:1〜70モ
ル%と、
下記式(3)で表されるジビニルベンゼン由来の成分単位:1〜30モル%(但し、全成分単位((1)+(2)+(3))=100モル%)とを含有するリン含有スチレン系共重合体(A)に、そのリン原子部位で、上記請求項1中の式(B)で表される、金属塩
または遷移金属錯体(B)が配位結合しており、
遷移金属原子または遷移金属イオンMの遷移金属換算量が0.1〜20重量%である、式(C)で表されるポリマー担持遷移金属錯体(C)。
【化2】

(式(C)中、成分単位(1)、(2)、(3)の結合順序は任意であり、繰返し単位数k、l、mは、それぞれ独立に1以上の整数を示す。
Rはアルキル基、シクロアルキル基およびアリール基のうちの何れかの基を示し、
Mは、9族または10族の遷移金属原子または1〜3価の9族または10族の遷移金属陽イオンを示し、
Xは、ハロゲンイオン、アセトキシイオン、硝酸イオン、シアンイオンのうちの何れかのイオンを示し、
Lは、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、1,5−シクロオクタジエンのうちから選択される配位子を示し、
q,rはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、dは、1以上の整数を示す。)
【請求項3】
上記p-ホスフィン基含有スチレン(2a)またはその成分単位(2)の含有量が10
〜30モル%(但し、リン含有スチレン系共重合体合成用の全モノマーまたはリン含有スチレン系共重合体中の全成分単位の合計=100モル%)である請求項1〜2の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体。
【請求項4】
上記ジビニルベンゼン(3a)またはその成分単位(3)の含有量が2〜8モル%(但し、リン含有スチレン系共重合体合成用全モノマーまたはリン含有スチレン系共重合体中の全成分単位の合計=100モル%)である請求項1〜3の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体。
【請求項5】
上記ポリマー担持遷移金属錯体(C)中のリン原子(P)と、遷移金属原子または遷移金属イオン(M)とのモル比(P:M)が、2:1〜15:1である請求項1〜4の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体。
【請求項6】
上記ポリマー担持遷移金属錯体(C)中のリン原子(P)と、遷移金属原子または遷移金属イオン(M)とのモル比(P:M)が、3:1〜8:1である請求項1〜4の何れか
に記載のポリマー担持遷移金属錯体。
【請求項7】
上記遷移金属原子または遷移金属陽イオン(M)の遷移金属換算量が、ポリマー担持遷移金属錯体(C)中、1〜10重量%である請求項1〜6の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体。
【請求項8】
上記遷移金属原子または遷移金属陽イオン(M)がパラジウムまたはそのイオンである請求項1〜7の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体。
【請求項9】
上記請求項1の式(1a)で表されるスチレンモノマー:25〜90モル%と、
上記請求項1の式(2a)で表されるp-ホスフィン基含有スチレン:1〜70モル%
と、
上記請求項1の式(3a)で表されるジビニルベンゼン:1〜30モル%(但し、全モノマー((1a)+(2a)+(3a))=100モル%)とを共重合させてなるリン含有スチレン系共重合体(A)と、
上記請求項1の式(B)で表される金属塩または遷移金属錯体とを接触させることを特徴とする、請求項1〜8の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体の製造方法。
【請求項10】
上記請求項1〜8の何れかに記載のポリマー担持遷移金属錯体からなる、Grignardカップリング反応用、Suzuki−Miyaura反応用、Heck反応用、水素化反応用、オキソ法用、ヒドロシリル化反応用のうちの何れかの有機合成用触媒。
【請求項11】
下記式(1a)で表されるスチレンモノマー:25〜90モル%と、
下記式(2a)で表されるp-ホスフィン基含有スチレン:1〜70モル%と、
下記式(3a)で表されるジビニルベンゼン:1〜30モル%(但し、全モノマー((1a)+(2a)+(3a))=100モル%)とを共重合させてなるリン含有スチレン系共重合体(A)よりなるポリマー担持触媒用配位子。
【化3】

(但し、式(2a)中、Rはアルキル基、シクロアルキル基およびアリール基のうちの何れかの基を示す。)

【公開番号】特開2007−302859(P2007−302859A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175488(P2006−175488)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】