説明

排風を利用した風力発電装置

【課題】ダクト内静圧に与える影響を減少させ、発電電力量を増加させることのできる排風を利用した風力発電装置を提供する。
【解決手段】ダクト1の排気口1aの口径をDとし、風車2の径をφとし、さらに、ダクト1と風車2との設置距離をLとする。風車2とダクト1の排気口1aとの設置距離は、ダクト1の排気口1aの口径D以上とする。また、ダクト1の排気口1aの口径Dと風車2の径φとの関係は、風車2の径φを排気口1aの口径Dの1.75倍〜2倍とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場の排風等の排気口からの排風を利用した風力発電装置及びその設置方法であって、排気口からの距離及び排気口と風車との口径比に改良を加えた排風を利用した風力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等の施設には、一般的に排気設備が付随する。それらの排気は、安定した風速(風量)で排出され、その後も気流としてエネルギーを保持している。しかし、そのエネルギーは通常利用されず自然に消失している。この排気という小さなエネルギーであっても、利用されていないものを有効的に使うことは、環境問題や現在の社会情勢からも意義がある。
【0003】
そこで近年、工場等の施設の排気設備近傍に風力発電装置を設け、工場排風が有するエネルギーを二次利用する技術が提案されている(特許文献1)。
【0004】
工場等の施設の排気設備さまざまな種類の排気口があり、通常は、搬送動力への影響や周辺への騒音防止等のため、排気風速は4m/s以下である。しかし、例えば、塵埃など粒子状の物質を搬送する系統においては、例外的に風速10m/sを超える排気口も存在する。
【0005】
風力を利用して発電を行う場合、風速の3乗に比例してエネルギー量は増加するため、排気風速の速い場所に発電装置を設置した方が比較的大きなエネルギーを取り出せる可能性が高い。
【0006】
また、風力発電装置の設置位置は、排気口からの距離が近いほど排気エネルギーを多く回収できるが、排気ファンの動力を増加させダクト内静圧を高くする。発電装置の風車径も排気口という限定された空間から発生する気流に対してどの程度の大きさが最適なのかは不明である。そこで、特許文献2では、排気口からの風力発電部の羽根までの距離、羽根の受風面積についての検討がなされている。
【特許文献1】特開2002−54553公報
【特許文献2】特開2005−36780公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2では、排気口からの風力発電部の羽根までの距離は、排気口の開口部の辺又は直径の0.02〜0.03倍とされている。また、羽根の受風面積については、排気口の断面積の1.1〜2.0倍、つまり、排気口の開口部の辺又は直径の約1〜1.4倍とされている。
【0008】
しかしながら、本発明者らの実験によれば、このような設定値によって生ずる効果よりもダクト内静圧に与える影響を減少させ、発電電力量を増加させることのできる排気口からの風車の設置距離、排気口径と風車径との関係が存在する可能性があることがわかった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、ダクト内静圧に与える影響を減少させ、発電電力量を増加させることのできる排風を利用した風力発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、気流を排出する排気口と、この排気口に近接して設けられ排気口から排気される排風を利用して回転する風車と、前記風車をその軸部を介して回転可能に支持する支持部と、前記風車の回転を発電装置の回転軸に伝達する回転伝達手段と、この回転伝達手段を介して風車の回転により電力を発生する発電装置とを備えた排風を利用した風力発電装置において、前記風車の口径が、前記排気口の口径の1.75〜2倍であることを特徴とする。
【0011】
以上のような態様では、風車の口径を前記排気口の口径の1.75〜2倍にすることによって、従来の排風を利用した風力発電装置に比べて、発電電力量を大幅に増加させることができる。ここで、本発明において、排気口径とは、次の意義を有する。すなわち、排気口が円形の場合には、その直径を排気口径とする。また、排気口が楕円形の場合には、(長径+短径)/2を排気口径とする。排気口が正方形の場合には、その一辺を排気口径とする。さらに、排気口が長方形の場合には、(長辺+短辺)/2を排気口径とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記風車と前記排気口との設置距離が、前記排気口の口径以上であることを特徴とする。
【0013】
以上のような態様では、風車と排気口との設置距離を排気口の口径以上とすることにより、従来の排風を利用した風力発電装置に比べて、排気口内静圧に与える影響を大幅に減少させることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明によれば、ダクト内静圧に与える影響を減少させ、発電電力量を増加させることが可能な排風を利用した風力発電装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の排風を利用した風力発電装置に係る実施の形態(以下、実施形態という)の一例について、図面を参照して具体的に説明する。
【0016】
(1)風力発電装置の基本的構成
本実施形態の排風を利用した風力発電装置の基本的な構成は従来と同様である。すなわち、図1に示すように、インバータIとこのインバータIに接続される送風機Sと、この送風機Sから送られる気流を排出する円筒形状のダクト1とを備える。また、このダクト1の排気口1aに近接して設けられ、送風機Sよりダクト1を介して送られ排気口1aより排出される気流により回転する風車2と、風車2に発電装置Hが接続される。
【0017】
この発電装置Hにおいて発電された電力は整流器3を通り、コントローラ4で蓄電に最適な電圧に変換された後、バッテリー5に蓄電されるようになっている。
【0018】
本実施形態では、上記のような基本的構成からなる排風を利用した風力発電装置において、ダクト1の排気口1aの口径とこれに近接した風車2の径との関係、およびダクト1と風車2との設置距離について改良を加えたものである。
【0019】
なお、本実施形態におけるダクト1の排気口1aのアスペクト比は、1.0、すなわち、排気口が正方形の場合を示すものであり、この場合、排気口径とは一辺をいう。ただし、本発明の排気口は、このような場合に限られず、円形、楕円形又は長方形によっても構成することが可能である。そして、排気口が円形の場合にはその直径を排気口径とし、楕円形の場合には(長径+短径)/2を排気口径とする。また、排気口が長方形の場合には、(長辺+短辺)/2を排気口径とする。
【0020】
そこで、以上のような基本的な構成からなる排風を利用した風力発電装置において、ダクト1の排気口1aからの設置距離Lと、ダクト1の排気口1a口径Dと風車2の径φとの関係について以下に示す。
【0021】
なお、本実施形態において、気流の持つエネルギーやそのエネルギーを電気に変換する理論などは、既存の風力発電と同じであり、気流の持つエネルギーP(m2 kg/s3 =W)は次式で求めた。
[式1]

この式1において、ρは空気の密度(1.225kg/m3 at25℃)、Aは排気口1aの面積(m2 )、Vは風速(m/s)をそれぞれ表す。
【0022】
(2)排気口から風車の設置距離
本実施形態における風車2とダクト1の排気口1aとの設置距離は、ダクト1の排気口1aの口径以上としたものである。この点の根拠を以下に示す。
【0023】
ここで、図1に示すように、ダクト1の排気口1aの口径をDとし、風車2の径をφとし、さらに、ダクト1と風車2との設置距離をLとする。このダクト1の口径Dと風車2の径φとの関係については、整流器3とバッテリー5との間の電流電圧測定ポイントP2において発電電力量を測定し、これと風車2の径φと排気口1aの口径Dとの比によって求めるようにしたものである。なお、バッテリー5が満充電状態となると発電能力を低下させるので、発電電力量に合わせた負荷6として白熱電球を複数組み合わせて接続している。
【0024】
ダクト内静圧をダクト内静圧測定ポイントP1において、ダクト1と風車2との設置距離Lを、0.1〜0.3Dまで0.1D間隔で測定した。この結果を図2に示す。なお、この図2において、設置距離0.1Dとは、排気口1aの口径が500×500mmの場合は50mmであり、排気口1aの口径が700×700mmの場合は70mmである。
【0025】
この図2から明らかなとおり、設置距離がを1.0D未満の場合にはダクト内静圧が増加する傾向にあることがわかる。一方、設置距離Lが1.0D以上の場合、ダクト内静圧の影響は見られなかった。
【0026】
以上より、風車2を排気口1aから1.0Dに設置するのが最も発電効率が高いことがわかる。ここで、先に示した特許文献2では、0.02〜0.30Dに設置すればダクト内静圧に影響は与えないとされているが(表1において破線で示す範囲)、本実施形態によれば従来よりも顕著な効果を奏する。
【0027】
(3)排気口径と風車径
本実施形態におけるダクト1の排気口1aの口径Dと風車2の径φとの関係は、風車2の径φを排気口1aの口径Dの1.75倍〜2倍としたものである。すなわち、風車2の径φを1.75D〜2.0Dに設定するものである。この点の根拠を以下に示す。
【0028】
このダクト1の排気口1aと風車2との距離関係Lについては、風力発電装置のダクト1の所定位置のダクト内静圧測定ポイントP1において、このダクト内における風車の設置位置による送風圧力損失を測定することにより関係付けたものである。
【0029】
整流器3とバッテリー5との間に設けられた電流電圧測定ポイントP2により、風車2の径φを1.25〜3.0Dに変化させ発電電力量を計測した。大きさの異なる排気口1aの口径で比較するため、気流の持つエネルギーを30W〜65Wまで5W刻みで、各口径について統一して比較した。これを図3に示す。
【0030】
図3から明らかなように、どのエネルギーパターンにおいても、排気口1aの一辺の長さDに対して、風車径を1.75D以上で発電電力量が大きくなり、2.0Dで最大となった。ここで、先に示した特許文献2では、排気口1aの一辺の長さDに対して、風車径φを1.18〜1.60Dの範囲が最も発電効率が良いとしているが(表2において破線で示す範囲)、本実施形態によればこの従来技術よりも顕著な効果を奏する。
【0031】
(4)効果
以上のような本実施形態の排風を利用した風力発電装置によれば、風車の口径を前記ダクトの口径の1.75〜2倍にすることによって、発電電力量を従来の2倍に増加させることができる。また、風車とダクトとの設置距離をダクトの口径以上とすることにより、従来の排風を利用した風力発電装置に比べて、ダクト内静圧に与える影響を25分の1程度に減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態における排風を利用した風力発電装置の全体構成を示す模式図。
【図2】本発明の実施形態における風車の排気口からの設置距離による送風圧力損失の変化を示すグラフ。
【図3】本発明の実施形態におけるダクトの排気口径と風車径の関係による発電電力量の変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0033】
1…ダクト
1a…排気口
2…風車
3…整流器
4…コントローラ
5…バッテリー
6…負荷
H…発電装置
I…インバータ
P1…ダクト内静圧測定ポイント
P2…電流電圧測定ポイント
S…送風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気流を排出する排気口と、この排気口に近接して設けられ排気口から排気される排風を利用して回転する風車と、前記風車をその軸部を介して回転可能に支持する支持部と、前記風車の回転を発電装置の回転軸に伝達する回転伝達手段と、この回転伝達手段を介して風車の回転により電力を発生する発電装置とを備えた排風を利用した風力発電装置において、
前記風車の径が、前記排気口の口径の1.75〜2倍であることを特徴とする排風を利用した風力発電装置。
【請求項2】
前記風車と前記排気口との設置距離が、前記排気口の口径以上であることを特徴とする請求項1記載の排風を利用した風力発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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