説明

揮発性成分揮散用基板および揮発性成分の揮散方法

【課題】(1)押圧力などの機械的方法を用いることなく揮発性成分を揮散させることができると共に、(2)不使用時に密閉梱包しなくても揮発性能が劣化しない揮発性成分揮散用基板を提供すること。
【解決手段】シート状基材20Aと、シート状基材20Aの一部領域40Aを選択的に加熱する加熱素子30、32と、少なくとも加熱領域40内に配置され、揮発性成分を含有する芯材および該芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有することを特徴とする揮発性成分揮散用基板10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性成分揮散用基板および揮発性成分の揮散方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鎮静効果、入眠効果、覚醒効果、鎮痛効果、抗菌効果、消臭効果などを目的として、様々な芳香製品が提供されている。これらの芳香製品の中でも、いわゆる精油を用いたものとしては、精油(あるいはこれを含む溶液や当該溶液をしみ込ませたシートなど)を加熱して芳香を揮散させる加熱方式と、精油を加熱せずに自然に揮散させる非加熱方式がある。
【0003】
非加熱方式の芳香製品としては、芳香剤を溶解させた溶液を満たしたボトルと、ボトル中の溶液を吸い上げて外部に揮散する揮散部とを有するものが知られている。また、芳香剤を含有させたシート状の芳香製品(以下、「芳香シート」と称す場合がある)も知られている。芳香シートとしては、たとえば、基板に、芳香成分を入れたマイクロカプセルを付着させたものが知られている(特許文献1)。特許文献1に開示される芳香シートでは、圧力を加えることでマイクロカプセルが破壊され、これにより芳香成分が芳香シートの外部へと揮散する。また、芳香シートに類似した機能や構成を有する製品としては、電気式の加温機による加熱によってシートにしみ込ませた揮発性の殺虫成分を揮散させるいわゆる蚊取りマットが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−265353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される芳香シートでは、芳香シートを手で押さえたり、こすったりするなどして圧力を加えない限り、芳香成分を揮散させることができない。また、蚊取りマットのように揮発性の殺虫成分をしみ込ませたシートでは、使用する直前までは保管のためにアルミ袋等により密閉して梱包した状態で保管する必要がある。これに加えて、一旦、梱包袋から取り出した後は、殺虫成分が自然と揮発するために、揮発性能が劣化する。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、(1)押圧力などの機械的方法を用いることなく揮発性成分を揮散させることができると共に、(2)不使用時に密閉梱包しなくても揮発性能が劣化しない揮発性成分揮散用基板およびこれを用いた揮発性成分の揮散方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明の揮発性成分揮散用基板は、シート状基材と、シート状基材の一部領域を選択的に加熱する加熱素子と、少なくとも加熱素子により選択的に加熱される加熱領域内に配置され、揮発性成分を含有する芯材および芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の揮発性成分揮散用基板の一実施態様は、揮発性成分が、芳香成分、殺虫成分および抗菌成分から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
本発明の揮発性成分揮散用基板の他の実施態様は、シート状基材が中空部を有し、中空部にマイクロカプセルが配置されるものであることが好ましい。
【0010】
本発明の揮発性成分揮散用基板の他の実施態様は、シート状基材を構成する材料が、樹脂、繊維状物質、セラミックスから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
本発明の揮発性成分揮散用基板の他の実施態様は、シート状基材には、シート状基材内のマイクロカプセルが配置された領域から、シート状基材表面へと連通する連通孔が設けられていることが好ましい。
【0012】
本発明の揮発性成分揮散用基板の他の実施態様は、可撓性を有することが好ましい。
【0013】
本発明の揮発性成分揮散用基板の他の実施態様は、加熱素子が、軸方向がシート状基材の平面と略平行な一の配線と、シート状基材の厚み方向に対して一の配線と離間し、シート状基材の平面と略平行で、かつ、一の配線と交差するように配置された他の配線と、を備え、一の配線と他の配線とが交差する領域が、加熱領域として機能することが好ましい。
【0014】
本発明の揮発性成分揮散用基板の他の実施態様は、加熱素子が、発熱チップから構成されることが好ましい。
【0015】
本発明の揮発性成分揮散用基板の他の実施態様は、筒状部材と、筒状部材の内部に配置されたマイクロカプセルと、筒状部材の片方側の開口部を封止するように配置された発熱チップと、を有する揮発性成分揮散ユニットを備えたものであることが好ましい。
【0016】
本発明の揮発性成分揮散用基板の他の実施態様は、加熱領域を2つ以上有することが好ましい。
【0017】
本発明の揮発性成分揮散用基板の他の実施態様は、一の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに内包される揮発性成分の種類と、他の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに内包される揮発性成分の種類とが、異なることが好ましい。
【0018】
本発明の揮発性成分揮散用基板の他の実施態様は、加熱素子を4つ以上備え、各々の加熱素子がシート状基材の平面方向に、マトリックス状に配置されていることが好ましい。
【0019】
本発明の揮発性成分の揮散方法は、シート状基材と、シート状基材の一部領域を選択的に加熱する加熱素子と、少なくとも加熱素子により選択的に加熱される加熱領域内に配置され、揮発性成分を含有する芯材および芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有する揮発性成分揮散用基板を用い、少なくとも1つの加熱領域を加熱することにより、揮発性成分を揮発性成分揮散用基板の外部へと揮散させることを特徴とする。
【0020】
本発明の揮発性成分の揮散方法の一実施態様は、揮発性成分揮散用基板が、2つ以上の加熱領域を有し、全ての加熱領域のうちの一部を選択して加熱を行う初回の加熱処理を行った後に、加熱を1度も行っていない残りの加熱領域のうちの一部または全部を選択して加熱を行う加熱処理を1回以上繰り返すことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、(1)押圧力などの機械的方法を用いることなく揮発性成分を揮散させることができると共に、(2)不使用時に密閉梱包しなくても揮発性能が劣化しない揮発性成分揮散用基板およびこれを用いた揮発性成分の揮散方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の揮発性成分揮散用基板の一例を示す模式断面図である。
【図2】図1に示す揮発性成分揮散用基板を、片方の面側から見た場合を示す発熱線、発熱線および中空部の配置を示す概略透視模式図である。
【図3】図1に示す揮発性成分揮散用基板を、片方の面側から見た場合における示す発熱線、発熱線および中空部の配置を示す概略模式図である。
【図4】図1〜図3に示す本実施形態の揮発性成分揮散用基板の変形例を示す模式断面図である。
【図5】本実施形態の揮発性成分揮散用基板の他の例を示す模式断面図である。
【図6】本実施形態の揮発性成分揮散用基板の他の例を示す模式断面図である。
【図7】本実施形態の揮発性成分揮散用基板の他の例を示す模式断面図である。
【図8】本実施形態の揮発性成分揮散用基板に用いられる揮発性成分揮散ユニットの一例を示す概略模式図である。
【図9】図8に示す揮発性成分揮散ユニットを用いた揮発性成分揮散用基板の一例を示す平面図である。
【図10】マイクロカプセルを用いない揮発性成分揮散用基板の一例を示す模式断面図である。
【図11】実施例2で用いた本実施形態の揮発性成分揮散用基板を構成する発熱チップを含む回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
−揮発性成分揮散用基板−
本実施形態の揮発性成分揮散用基板は、シート状基材と、シート状基材の一部領域を選択的に加熱する加熱素子と、少なくとも加熱素子により選択的に加熱される加熱領域内に配置され、揮発性成分を含有する芯材および芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有することを特徴とする。
【0024】
本実施形態の揮発性成分揮散用基板では、揮発性成分を含有する芯材および芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルを用いている。このため、加熱領域内に配置されたマイクロカプセルが加熱素子により加熱されると、外殻材が破壊されることにより揮発性成分が揮発性成分揮散用基板の外部に揮散される。それゆえ、押圧力などの機械的方法を用いることなく揮発性成分を揮散させることができる。さらに揮発性成分は、マイクロカプセルに内包されているため、マイクロカプセルが外部から加熱されない限りは、揮発性成分が自然に揮発して失われることもない。このため、不使用時に揮発性成分揮散用基板を密閉梱包しなくても揮発性能が劣化しない。以下、本実施形態の揮発性成分揮散用基板を構成する各部の詳細や、揮発性成分揮散用基板の構造について説明する。
【0025】
−揮発性成分−
本実施形態の揮発性成分揮散用基板に用いられる揮発性成分とは、揮発性成分揮散用基板の利用が想定される一般的な温度環境(−10℃〜50℃前後)において、揮発性を有する成分であれば、その成分は特に限定されず、公知の物質が利用できる。しかしながら、揮発性成分は、芳香成分、覚醒成分、殺虫成分および抗菌成分から選択される少なくとも1種であることが好ましく、これらを2種類以上組み合わせて用いてもよい。また、これら3種類の揮発性成分の中でも特に芳香成分を用いることが好適である。さらに、使用する揮発性成分が芳香機能と抗菌機能とを兼ね備えるなど、2種類以上の機能を有するものであってもよい。
【0026】
芳香成分としては、公知の芳香成分であれば特に制限なく利用できるが、たとえば、精油、合成香料、動物性香料、これらの有効成分や単体化合物などが好適なものとして挙げられ、精油または精油に含まれる有効成分が好ましい。
【0027】
精油としては、たとえば、イランイラン精油、ゼラニウム精油、ラベンダー精油、ジャスミン精油、カモミール精油、ラベンティン精油、ヒソップ精油、ローズ精油、ネロリ精油、シダーウッド精油、ユーカリ精油、サイプレス精油、ヒノキ精油、サンダルウッド精油、ジュニパー精油、ティートリー精油、パイン精油、パチュリ精油、オレンジ精油、グレープフルーツ精油、ライム精油、レモングラス精油、レモン精油、シトロネラ精油、ベルガモット精油、ペパーミント精油、ローズマリー精油、クラリセージ精油、クローブ精油、タイム精油、フェンネル精油、マジョラム精油、メリッサ精油、ローズウッド精油、バジル精油、バテ精油、シナモン精油等の天然の精油が挙げられる。このなかでも特に、イランイラン精油、ゼラニウム精油、シダーウッド精油、ユーカリ精油、サイプレス精油、オレンジ精油、グレープフルーツ精油、ライム精油、ペパーミント精油、ローズマリー精油が好ましい。また、これらの精油を複数組み合わせて用いてもよい。
【0028】
精油に含まれる有効成分としては、たとえば、リナロール、酢酸リナリル、1‐リモネン、1‐メントール、α‐ピネン、β‐ピネン、シトラール、シネオール、d‐カンファー、チモール、オイゲノール、ケイヒアルデヒド、カマズレン、ツヤノール‐4、ボルネオール、α‐テルピネオール、β‐テルピネオール、テルピネノール‐4、ゲラニオール、ネロール、α‐サンタロールβ‐サンタロール、カロトール、セドロール、ビリジフロロール、スクラレオール、サフロール、アピオール、ミリスチシン、メチルカビコール、アネトール、スクラレオールオキサイド、マノイルオキサイド、シトロネラールなどが挙げられる。また、これらの有効成分を複数組み合わせて用いてもよい。
【0029】
殺虫成分としては、その用途により公知の揮発性を有する殺虫剤を適宜選択することができる。具体例としては、フェルノトリン、フェンプロパトリン等のピレスロイド系殺虫剤や、フェニトロチオン等の有機リン系、ケルセン等のジフェニルカルニノール系、サリチル酸フェニル等、エンペントリン、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル 3−(1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル 3−(1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートおよび2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、ピレスロイド類などが挙げられる。
【0030】
抗菌成分としては、その用途により公知の揮発性を有する抗菌剤を適宜選択することができる。具体例としては、ヒノキチオール、キサトン、フィトンなどが挙げられる。
【0031】
−マイクロカプセル−
本実施形態の揮発性成分揮散用基板に用いられるマイクロカプセルは、公知のマイクロカプセル製造方法を利用して作製することができる。マイクロカプセル製造方法としては、大別すると化学的方法、物理化学的方法、および機械的方法が挙げられる。そして、(1)化学的方法としては、たとえば、懸濁重合法、ミニエマルション重合法、エマルション(乳化)重合法、析出重合法、分散重合法、界面重合法、液中硬化法が挙げられ、(2)物理化学的方法としては、たとえば、液中乾燥法、転相乳化法、コアセルベーション法が挙げられ、(3)機械的方法としては、たとえば、スプレードライ法、ヘテロ凝集法が挙げられる(たとえば、「ナノ・マイクロカプセル調整のキーポイント」、田中眞人、株式会社テクノシステム参照)。
【0032】
これらのマイクロカプセル化の方法の中でも、通常の場合、界面重合法や、コアセルベーション法等が好ましい。マイクロカプセルの製造は、界面重合法を利用した場合、たとえば、以下のように実施することができる。まず、マイクロカプセルの芯材を構成する原料として揮発性成分を、疎水性の有機溶媒に溶解または分散させて調製した油相を準備する。次に、この油相を水溶性高分子を溶解した水相中に投入し、ホモジナイザー等の攪拌手段により乳化分散する。そして得られた乳化液を、加温することによりその油滴界面で高分子形成反応を起こさせる。これにより、揮発性成分を含む芯材が外殻材で被覆されたマイクロカプセルを得ることができる。
【0033】
なお、マイクロカプセルを構成する外殻材としては、加熱によって溶解したり熱分解により破壊される材料が利用される。このような材料としては、融点が85℃〜135℃前後ぐらいの有機材料を利用することが好ましい。なお、融点は、85℃〜105℃の範囲がより好ましい。融点が85℃未満では、揮発性成分揮散用基板が高温環境下に放置された場合に、マイクロカプセルの外殻材が自発的に溶解し、揮発性成分が外部へと揮散してしまう場合がある。また、融点が135℃を超える場合には加熱素子で加熱しても、マイクロカプセルの外殻材が溶解せず、揮発性成分が外部へと揮散されない場合がある。
【0034】
外殻材の具体例としては、たとえば、ゼラチン、ロジン、アラビアゴム、シェラック、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、エポキシ、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ポリアミド、ウレア等が挙げられる。また、芯材として、揮発性成分と共に併用可能な疎水性の有機溶媒としては、沸点300℃以下の有機溶媒が好ましく、たとえば、エステル類の他、ジメチルナフタレン、ジエチルナフタレン、ジイソプロピルナフタレン、ジメチルビフェニル、ジイソプロピルビフェニル、ジイソブチルビフェニル、1−メチル−1−ジメチルフェニル−2−フェニルメタン、1−エチル−1−ジメチルフェニル−1−フェニルメタン、1−プロピル−1−ジメチルフェニル−1−フェニルメタン、トリアリルメタン(たとえば、トリトルイルメタン、トルイルジフェニルメタン)、ターフェニル化合物(たとえば、ターフェニル)、アルキル化合物、アルキル化ジフェニルエーテル(たとえば、プロピルジフェニルエーテル)、水添ターフェニル(たとえば、ヘキサヒドロターフェニル)、ジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0035】
マイクロカプセルの平均粒径としては、特に限定されないが、10μm〜500μmの範囲内が好ましく、150μm〜350μmの範囲内がより好ましく、10μm〜50μmの範囲内がさらに好ましい。平均粒径が10μm未満の場合、マイクロカプセルの全質量に占める揮発性成分の含有割合が小さくなり過ぎるために、十分な濃度で揮発性成分を揮散させることが困難となる場合がある。また、平均粒径が500μmを超える場合、マイクロカプセルの機械的強度が低下する場合がある。このため、揮発性成分揮散用基板を折り曲げたり押さえつけたりするなどにより、マイクロカプセルに圧力が加わった際に、マイクロカプセルが容易に破壊され、意図しないタイミングで揮発性成分が外部に揮散され易くなる。
【0036】
また、マイクロカプセルは、少なくとも加熱領域内に配置されるのであれば、シート状基材の表面や内部の任意に位置に配置することができる。しかしながら、シート状基材の表面は、摩擦などの機械的刺激にさらされ、マイクロカプセルが破壊されやすい。このため、マイクロカプセルはシート状基材の内部に配置されることが好ましい。この場合、シート状基材が中空部を有し、この中空部にマイクロカプセルを配置することが好適である。また、必要に応じて加熱領域から離れた領域にもマイクロカプセルを配置してもよい。たとえば、シート状基材が、繊維状物質から構成されていたり、多孔質体から構成されている場合には、マイクロカプセルをシート状基材中に満遍なく分散して配置することもできる。シート状基材が、繊維状物質から構成されている場合は、繊維状物質によって形成される網目構造中にマイクロカプセルを閉じ込めることができる。なお、加熱領域内に配置されるマイクロカプセルの数は特に限定されず、1つの加熱領域には1個以上のマイクロカプセルが配置されていればよい。たとえば、マイクロカプセルの直径と、加熱領域のサイズとが同程度であれば、1つの加熱領域に1個のマイクロカプセルを配置するだけでもよい。また、加熱領域のサイズに対してマイクロカプセルの直径が十分に小さい場合には、1つの加熱領域には複数個(たとえば、十数個〜数百個)のマイクロカプセルを配置することが好ましい。なお、後述する図面を用いた具体例の説明においては、1つの加熱領域に複数個のマイクロカプセルが配置された態様を前提として説明しているが、1つの加熱領域に1個のマイクロカプセルが配置された態様を除外するものではない。
【0037】
−シート状基材−
本実施形態の揮発性成分揮散用基板を構成するシート状基材は、透気性を有するものであってもよく、透気性を有さないものであってもよい。当該「透気性」とは、パルプ繊維を主成分とする紙用紙のように表面から裏面へと気体が分子レベルで拡散しながら透過できるような場合を意味する。シート状基材が透気性を有する場合は、揮発性成分を構成する分子はシート状基材を、分子レベルで拡散して通過することができる。シート状基材を構成する材料としては、繊維状材料や多孔質材料などのように微細、かつ、連続する空隙を有する透気性材料を用いることができる。
【0038】
また、樹脂フィルムやプラスチック基板などから構成されたシート状基材のように、シート状基材が、透気性を有さない場合(非透気性である場合)、揮発性成分を構成する分子は、シート状基材を、分子レベルで拡散して通過することができない。このため、たとえば、非透気性のシート状基材の内部や、端面の全周が完全に封止されたような一対の非透気性のシート状基材の間に、マイクロカプセルが配置されたような構成を有する揮発性成分揮散用基板では、マイクロカプセルの加熱破壊よりマイクロカプセル外へと放散され揮発性成分が、揮発性成分揮散用基板の外部へと揮散することができなくなる。このような場合は、シート状基材内のマイクロカプセルが配置された領域から、シート状基材表面へと連通する連通孔や、シート状基材の一方の面から他方の面へと連通する連通孔が設けられる。なお、連通孔は、必要であれば、透気性を有するシート状基材に設けてもよい。また、非透気性のシート状基材を用いる場合、非透気性のシート状基材に連通孔を設ける代わりに、揮発性成分揮散用基板内部のマイクロカプセルが配置された位置から、揮発性成分揮散用基板の端面へと連通するガス拡散経路を設けることもできる。たとえば、一対の非透気性のシート状基材間に柱状のスペーサーを配置させた構造を有する揮発性成分揮散用基板では、揮発性成分揮散用基板の内部から端面側へと揮発性成分が容易に拡散移動できる。
【0039】
シート状基材に、連通孔を設ける場合、連通孔のサイズは、通常、繊維状材料や多孔質材料などの有する空隙サイズよりも十分に大きいため、シート状基材の厚み方向に対する揮発性成分の拡散速度をより大きくすることができる。このため、シート状基材が非透気性材料から構成されるか否かに係わらず、加熱素子によりマイクロカプセルを加熱してから、短時間の内に、揮発性成分揮散用基板の外部へと揮散させる揮発性成分の濃度を高濃度に制御したい場合にも、同様に、シート状基材に連通孔を設けることが好ましい。また、シート状基材が、2枚のシート状材料を貼り合わせて構成される場合は、貼り合わせ界面の一部に連通孔が形成されるように隙間を設けてもよい。
【0040】
連通孔の直径は、特に限定されないが、5μm〜30μmの範囲が好ましく、5μm〜9μmの範囲がより好ましい。直径が5μm未満では、シート状基材に連通孔を形成することが困難となったり、ゴミや埃などにより目詰まりを起こしやすくなる場合がある。また、直径が30μmを超える場合は、シート状基材表面の連通孔の開口部が目立ち易くなるため、審美性が劣化する場合がある。なお、「連通孔の直径」とは、連通孔の断面形状が円形でない場合は、当該断面形状と同一の断面積を有する円の最大直径を意味する。
【0041】
シート状基材を構成する材料としては、公知の固体材料が利用でき、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。そして、これらの中でも特に、樹脂、繊維状物質、セラミックスから選択される少なくとも1種を用いることが好適である。なお、樹脂としては、たとえば、ポリイミド、テフロン(登録商標)などを挙げることができる。繊維状物質としては、たとえば、パルプ繊維、カーボンファイバー(カーボン繊維)、ガラス繊維などを挙げることができる。セラミックスとしては、たとえば、アルミナ、ジルコニアなどを挙げることができる。なお、樹脂やセラミックスは、材料そのものは、非透気性である。しかしながら、必要に応じて、多孔質状の樹脂やセラミックスを用いることもできる。
【0042】
また、シート状基材として樹脂や繊維状物質など変形の容易な材料を用いた場合には、揮発性成分揮散用基板に可撓性を付与することができる。また、シート状基材として脆性破壊の起こりやすいセラミックスなどを用いる場合でも、シート状基材の厚みを薄くしたり、曲げ強度を高いセラミックスを利用することにより揮発性成分揮散用基板に可撓性を付与することができる。このように揮発性成分揮散用基板が可撓性を有する場合には、曲げたり伸ばしたりすることが要求される用途でも揮発性成分揮散用基板を利用することができる。これにより、たとえば、揮発性成分揮散用基板を、表面に凹凸のある部材の表面に貼り付けて利用することができる。
【0043】
シート状基材の厚みは特に限定されるものではないが、30μm〜300μmの範囲内であることが好ましく、50μm〜100μmの範囲内であることがより好ましい。厚みが30μm未満の場合は、引張り強度が不足して揮発性成分揮散用基板が破損し易くなる場合がある。また、厚みが300μmを超えると、柔軟性のある材料からなるシート状基材を用いて揮発性成分揮散用基板を作製したとしても、揮発性成分揮散用基板に可撓性を付与することが困難となる場合がある。シート状基材は、1枚のシート状材料から構成されたものでもよいが、2枚以上のシート状材料を貼り合わせるなどによって構成されたものでもよい。なお、2枚以上のシート状材料を用いる場合は、各々のシート状材料を構成する材料や断面構造が異なるものであってもよい。
【0044】
−加熱素子−
本実施形態の揮発性成分揮散用基板に設けられる加熱素子は、シート状基材の一部領域を選択的に加熱する機能を有するものである。そして、この加熱素子は、後述するように電気的にON/OFF制御される。このため、特許文献1に開示されるよう揮発性成分揮散用基板に押圧力を加えなくても、加熱素子を所望のタイミングで電気的に制御することにより、マイクロカプセルを加熱破壊して、揮発性成分を揮散させることができる。
【0045】
なお、マイクロカプセルの加熱方式としては、たとえば、下記に示す2つの加熱方式が挙げられる。
(1)第一の加熱方式
マイクロカプセルが存在する領域に外部から熱エネルギーを直接供給することによりマイクロカプセル(の外殻材)を加熱する加熱方式。
(2)第二の加熱方式
マイクロカプセルが存在する領域に高周波を発生させることにより、外殻材を構成する分子を激しく振動させ、マイクロカプセル(の外殻材)を加熱する加熱方式。
【0046】
第一の加熱方式では、加熱素子は、電流を流すことにより発熱する発熱部材を用いて構成される。この発熱部材の形状は特に限定されないが、線状の発熱部材(発熱線)であってもよく、チップ状の発熱部材(発熱チップ)であってもよい。
【0047】
加熱素子として発熱線を用いる場合、1本の発熱線から供給される熱エネルギーがマイクロカプセルを加熱破壊するのに十分なエネルギー量である場合、加熱素子は1本の発熱線から構成される。この場合、マイクロカプセルは、少なくとも発熱線の近傍(加熱領域)に配置される。なお、加熱素子が1本の発熱線から構成される場合、発熱線は直線状であってもよいが、コイル状としたものでもよい。この場合は、コイル内やその近傍(加熱領域)にマイクロカプセルが配置される。
【0048】
また、1本の発熱線から供給される熱エネルギーがマイクロカプセルを加熱破壊するのに不十分なエネルギー量であっても、互いに交差または平行となるように離間して配置された2本の発熱線から各々供給される熱エネルギー量の総和がマイクロカプセルを加熱破壊するのに十分なエネルギー量であれば、加熱素子はこれら2本の発熱線から構成される。なお、2本の発熱線が、互いにシート状基材の平面または内部において交差し、かつ、シート状基材の厚み方向において離間するように配置されている場合は、2本の発熱線が交差する領域近傍が加熱領域となる。
【0049】
なお、発熱線としては、電流を流すことにより発熱するものであれば公知の発熱線が利用できるが、タングステンワイヤー、ニクロム線、ステンレス線、ピアノ線などを用いることができる。発熱線は、シート状基材の表面に配置してもよいが、審美性確保の観点からは、シート状基材の内部に埋め込むように配置されることが好ましい。発熱線の直径は特に限定されるものではないが、発熱線をシート状基材の内部に埋め込む場合には、12μm〜200μmの範囲内が好ましく、20μm〜100μmの範囲内がより好ましい。直径が12μm未満では、十分な発熱量が得られなかつたり、断線を起こしやすくなる場合があり、直径が200μmを超えると、発熱線をシート状基材の内部に埋め込むことが困難となったり、発熱制御が難しくなる場合がある。なお、発熱線の発熱量は、発熱線の電気抵抗、電流量、発熱線の直径、2本の発熱線を用いる場合は発熱線間の距離を適宜選択することにより調整できる。
【0050】
また、加熱素子として発熱チップを用いる場合、1個の発熱チップにより1つの加熱領域を形成し、この発熱チップの近傍にマイクロカプセルを配置することができる。ただし、1個の発熱チップでは、マイクロカプセルを加熱破壊するのに十分な熱エネルギーが得られない場合や、マイクロカプセルの加熱破壊の度合を発熱させる発熱チップの数により制御したい場合などにおいては、1箇所に2個以上の発熱チップを密集して配置することで1つの加熱領域を形成してもよい。1つの加熱領域を形成するために2個以上の発熱チップを用いる場合、1つの加熱領域における発熱チップの配置態様は特に限定されないが、たとえば、シート状基材の平面方向に並べて配置したり、あるいは、シート状基材の厚み方向に対して、マイクロカプセルを間に挟み込むように対向配置することができる。
【0051】
また、発熱チップは、シート状基材の表面に配置してもよく、内部に埋め込むように配置してもよい。シート状基材の表面に、凹部が設けられている場合には、たとえば、凹部の底面や側面に発熱チップを配置することができる。この場合は、発熱チップを配置した後に、凹部を充填するようにマイクロカプセルを配置することができる。あるいは、先に凹部を充填するようにマイクロカプセルを配置した後に、凹部の開口部に蓋をするように発熱チップを配置してもよい。この場合、発熱チップが配置された凹部内にマイクロカプセルも密集して配置されるため、発熱チップによるマイクロカプセルの加熱破壊効率をより高くすることが容易である。すなわち、マイクロカプセルの利用効率がより高くなる。
【0052】
また、筒状部材と、この筒状部材の内部に配置されたマイクロカプセルと、筒状部材の
片方側の開口部を封止するように配置された発熱チップと、を有する揮発性成分揮散ユニットを利用してもよい。このような揮発性成分揮散ユニットは、一つの加熱領域として機能すると共に、筒状部材内に密集してマイクロカプセルが配置されるため、発熱チップによるマイクロカプセルの加熱破壊効率をより高くすることが容易である。
【0053】
個々の加熱領域に対応する揮発性成分揮散ユニットは、たとえば、シート状基材の厚み方向と、筒状部材の中心軸とが略一致するように、筒状部材の発熱チップが配置された側がシート状基板側となるように、シート状基板の表面に千鳥配列や正方配列などで密集配置することができる。この場合、互いに隣接して配置された揮発性成分揮散ユニットを構成する筒状部材の外周面間に隙間が形成されるように、揮発性成分揮散ユニットを配置することが特に好ましい。これにより、隣接する揮発性成分揮散ユニット間に、筒状部材などの固体材料や、液体状または加熱により液体化した芳香成分などの液体材料よりも熱伝導率が低い気体材料(空気層)が存在することになる。このため、隣接する揮発性成分揮散ユニット間の絶熱性が極めて高くなる。この場合、隣接する揮発性成分揮散ユニットのうち、一方の揮発性成分揮散ユニットにて、加熱を行った場合、一方の揮発性成分揮散ユニットにて発生した熱エネルギーが、他方の揮発性成分揮散ユニットへと伝達され難くなる。それゆえ、個々の加熱領域単位での揮発性成分の揮散制御性が非常に高くなる。
【0054】
なお、互いに隣接して配置された揮発性成分揮散ユニットを構成する筒状部材の外周面間に隙間を形成するためには、単純に、揮発性成分揮散ユニット同士の配置間隔を調整する方法が挙げられる。また、筒状部材の形状として、揮発性成分揮散ユニットを、その配置密度が最大となるように配置しても、互いに隣接して配置された揮発性成分揮散ユニットを構成する筒状部材の外周面間に隙間が生ずる形状を採用することもできる。このような形状からなる筒状部材としては、たとえば、円筒状部材や、中心軸に対して直交する面の断面形状が5角形以上の多角形からなる筒状部材などが挙げられる。
【0055】
発熱チップとしては、低純度の半導体材料など、通電により発熱する材料を用いたものが利用できる。このような発熱チップの電気的特性としては、抵抗加熱に利用可能なものであれば特に限定されるものではないが、本実施形態の揮発性成分揮散用基板に用いられる加熱対象物(マイクロカプセル)のサイズや、加熱破壊特性などを考慮すると、電圧3.3V〜5.0Vにおいて抵抗が15Ω〜33Ωであることが好ましい。発熱チップの形状としては特に限定されないが、通常は、円板状、角板状などの平板状のものが好ましく、表面実装性に加えて市販品の入手容易性等の観点からは角板状であることが好ましい。また、発熱チップのサイズとしては、加熱領域の大きさに応じて選択されるが、たとえば、角板状の発熱チップであれば、縦0.4mm×横0.2mm〜縦3.2mm×横1.6mm程度のものを利用することが好ましい。また、発熱チップとしては、新たに作製したものも利用できるが、市販のチップ抵抗を利用してもよい。
【0056】
第二の加熱方式では、加熱素子は、互いにシート状基材の平面または内部において交差し、かつ、シート状基材の厚み方向において離間するように配置された2本の導線から構成され、2本の導線が交差する領域近傍が高周波が発生する領域(加熱領域)となる。このため、この領域にマイクロカプセルを配置した状態で、2本の導線に同時に電流を流せば、マイクロカプセルを加熱破壊することができる。導線は、シート状基材の表面に配置してもよいが、審美性確保の観点からは、シート状基材の内部に埋め込むように配置されることが好ましい。導線の直径は特に限定されるものではないが、導線をシート状基材の内部に埋め込む場合には、30μm〜200μmの範囲内が好ましく、50μm〜100μmの範囲内がより好ましい。直径が30μm未満では、断線を起こしやすくなる場合があり、直径が200μmを超えると、発熱線をシート状基材の内部に埋め込むことが困難となる場合がある。
【0057】
なお、発熱線や導線は、その軸方向が、シート状基材の平面と略平行となるように配置されることが好ましい。言い換えれば、第一の加熱方式や第二の加熱方式においては、加熱素子は、軸方向がシート状基材の平面と略平行な一の配線(発熱線または導線、以下、同様)と、シート状基材の厚み方向に対して一の配線と離間し、シート状基材の平面と略平行で、かつ、一の配線と交差するように配置された他の配線と、を備えたものであることが好ましい。この場合、一の配線と他の配線とが交差する領域が、加熱領域として機能することになる。また、2本の配線を組み合わせて加熱素子を構成する場合、一の配線が、シート状基材の厚み方向の中心よりも片方側に配置され、他の配線が、厚み方向の中心よりも他方側に配置されることが好ましい。
【0058】
揮発性成分揮散用基板に設けられる加熱領域の数は、少なくとも1つあればよいが、2つ以上であることが好ましい。また、後述するように、様々な態様で揮発性成分を揮散させることができる点からは加熱領域の数は2つ以上であることがより好ましく、4つ以上であることが更に好ましい。なお、加熱領域の数の上限は特に限定されるものではないが、実用上は5つ以下であることが好ましい。加熱領域の数を少なくとも2つ以上とした場合、個々の加熱領域の加熱/非加熱制御をそれぞれ独立して制御することにより、経時的に2回以上に分けて揮発性成分を揮散させることができる。また、加熱領域の数が2つ以上である場合、一の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに内包される揮発性成分の種類と、他の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに内包される揮発性成分の種類とを、異なるものとしてもよい。この場合、所望の組み合わせからなる2種類以上の揮発性成分を同時に揮散させたり、あるいは、異なる種類の揮発性成分を異なるタイミングで順次揮散させることができる。なお、加熱領域の数は揮発性成分揮散用基板の利用用途に応じて適宜選択することができる。
【0059】
また、加熱領域の数が4つ以上である場合、各々の加熱領域は、シート状基材の平面方向にマトリックス状に配置されていることが好ましい。この場合、2本以上の発熱線(または導線)を行方向に配置すると共に、行方向に配置された発熱線(または導線)に対して交差するように2本以上の発熱線(または導線)を列方向に配置することで、シート状基材の平面方向にマトリックス状に加熱領域を設けることができる。このような構成を採用した場合、行方向および列方向の発熱線(または導線)の中から、特定の行方向および列方向の発熱線(または導線)を選択して電流を流すことにより、特定の加熱領域のみを加熱状態とすることができる。一方、加熱素子として、発熱チップを用いる場合には、行方向と列方向との交差点上に発熱チップを配置することで、シート状基材の平面方向にマトリックス状に加熱領域を設けることができる。この場合、発熱チップは、たとえば、行方向の電流を制御する配線(行配線)、および、列方向の電流を制御する配線(列配線)に接続した状態で、電流のON/OFFを制御することで、特定の加熱領域のみを加熱状態/非加熱状態とすることができる。
【0060】
加熱素子を構成する発熱線(または導線)や、発熱チップへの電流の供給は、揮発性成分揮散用基板の外部の電源(外部電源)が利用できる。外部電源は、コンセントであってもよいし、電池であってもよい。また、加熱領域の加熱/非加熱制御は、手動で行ってもよいが、ICチップなどの制御手段を利用することが好ましい。特に、加熱領域が揮発性成分揮散用基板の平面方向に対してマトリックス状に設けられている場合には、制御手段を利用して加熱領域の加熱/非加熱制御を行うことが好ましい。なお、電源や制御手段は、通常は揮発性成分揮散用基板の外部に設けられていることが好ましいが、必要であれば、揮発性成分揮散用基板側に設けられていてもよい。
【0061】
−揮発性成分の揮散方法−
本実施形態の揮発性成分揮散用基板を用いて、揮発性成分を揮発性成分揮散用基板の外部へと揮散させるには、揮発性成分揮散用基板に設けられた(1つ以上の加熱領域から選択される)少なくとも1つの加熱領域にて加熱を行えばよい。これにより、加熱を行った加熱領域内に存在するマイクロカプセルが加熱破壊され、揮発性成分を揮発性成分揮散用基板の外部へと揮散させることができる。
【0062】
なお、揮発性成分揮散用基板が、2つ以上の加熱領域を有する場合は、全ての加熱領域のうちの一部を選択して加熱を行う初回の加熱処理を行った後に、加熱を1度も行っていない残りの加熱領域のうちの一部または全部を選択して加熱を行う加熱処理を1回以上繰り返すことが特に好ましい。この場合、経時的に2回以上に分けて、揮発性成分を揮発性成分揮散用基板の外部へと揮散させることができる。このため、加熱領域を選択して加熱させるタイミングを制御することで、所望のタイミングで、揮発性成分を何度でも揮散させることができる。また、必要であれば、一旦加熱処理された加熱領域を再度加熱してもよい。この場合、熱破壊されずに残留しているマイクロカプセルを破壊したり、加熱領域近傍に染み込んだ状態で残留している揮発性成分を揮散させることで、再度揮発性成分を外部に揮散させることができる。このため、マイクロカプセルに内包される揮発性成分の利用効率を更に高めることができる。
【0063】
−揮発性成分揮散用基板の具体例−
次に、本実施形態の揮発性成分揮散用基板の具体例について、図面を用いて説明する。図1は、本実施形態の揮発性成分揮散用基板の一例を示す模式断面図である。図1に示す揮発性成分揮散用基板10は、シート状基材20Aと、このシート状基材20Aの厚み方向中心部付近に設けられた中空部22と、中空部22内に充填された複数のマイクロカプセルと、シート状基材20Aの一方の側の表面と中空部22との間の領域に、軸方向がシート状基材20Aの平面と平行となるように配置された発熱線(加熱素子の一部を構成)30と、シート状基材20Aの他方の側の表面と中空部22との間の領域に、軸方向がシート状基材20Aの平面と平行を成し、かつ、発熱線30の軸方向と直交するように配置された発熱線(加熱素子の一部を構成)32と、から構成されている。
【0064】
図2は、図1に示す揮発性成分揮散用基板10を、片方の面側から見た場合を示す発熱線30、発熱線32および中空部22の配置を示す概略透視模式図である。図2に示すように、発熱線30A、30B、30C、30Dは列方向に平行で、かつ、互いに等間隔を保つように配置され、発熱線32A、32B、32C、32Dは行方向に平行で、かつ、互いに等間隔を保つように配置され、発熱線30A、30B、30C、30Dと、発熱線32A、32B、32C、32Dとは互いに直交している。そして、発熱線30A、30B、30C、30Dと、発熱線32A、32B、32C、32Dとの交差する領域に中空部22が配置されている。そして、発熱線30、32は、不図示の電源および制御回路に接続されており、個々の発熱線単位で、ON/OFF状態の制御がなされる。
【0065】
シート状基材20Aは、透気性を有する材料(多孔質材料または繊維状物質)を主材料として構成されているため、透気性を有する。このため、中空部22内に配置されたマイクロカプセルが加熱破壊された場合にマイクロカプセルに内包されていた揮発性成分が中空部22から、シート状基材20Aの表面へと拡散移動し、外部へ揮散させることができる。なお、シート状基材を構成する材料が透気性を有さない場合には、中空部22から、シート状基材20Aの表面へと連通する連通孔が設けられる。また、揮発性成分揮散用基板10において、発熱線30A、30B、30C、30Dと発熱線32とが交差する部分(図1の点線で示される領域40A、40B、40C、40D)が、各々加熱領域として機能する。このため、個々の中空部22A、22B、22C、22Dを含むようにそれぞれ加熱領域が設けられることになる。ただし、図1および図2に示す態様では、中空部22内に配置されたマイクロカプセルを加熱破壊するために、発熱線30のみ、または、発熱線32のみに電流を流した場合には、マイクロカプセルが加熱破壊できないように発熱線30、32の発熱量が制御される。
【0066】
次に、図1および図2に示す揮発性成分揮散用基板10を用いて、揮発性成分を揮散させる手順の一例について説明する。まず、列方向に配列された発熱線30および行方向に配列された発熱線32から、それぞれ電流を流す発熱線を選択して、同時に電流を流す。たとえば、発熱線30Aおよび発熱線32Aに同時に電流を流すことができる。これにより、発熱線30Aおよび発熱線32Aの交差する領域に存在する中空部22A1(図2中左上の中空部22)中に充填されたマイクロカプセルが加熱されることにより加熱破壊される。この際、マイクロカプセルに内包されていた揮発性成分がシート状基材20A中を通過して、外部へと揮散させられる。なお、この場合は、ひとつの中空部22A1に存在するマイクロカプセルのみを加熱しているが、2つ以上の中空部22に存在するマイクロカプセルを同時に加熱処理してもよい。たとえば、発熱線30A、発熱線32Aおよび発熱線32Bに同時に電流を流すことができる。この場合、中空部22A1、中空部22A2の中に充填されたマイクロカプセルが加熱破壊される。
【0067】
なお、一旦、加熱処理された中空部22は、揮発性成分を揮散させる機能が消失または大幅に低下する。このため、次に、列方向に配列された発熱線30および行方向に配列された発熱線32から、それぞれ電流を流す発熱線を選択する場合は、加熱処理されていない中空部22を加熱できるように発熱線を選択することが特に好ましい。以上に説明したようなプロセスを繰り返すことで、揮発性成分揮散用基板10中に加熱処理されていない中空部22が存在する限り、所望のタイミングで何度でも揮発性成分を揮散させることができる。なお、揮発性成分の揮発量や、揮発速度は、同時に加熱処理する中空部22の数、発熱線30Aおよび発熱線32Aに流す電流の電流量や通電時間、シート状基材20Aの厚み、シート状基材20Aが多孔質材料や繊維状材料などの透気性材料から構成される場合は、これらの材料の空隙率、シート状基材20Aが非透気性材料から構成される場合は連通孔の直径を調整することで制御できる。
【0068】
図1および図2に示す揮発性成分揮散用基板10は、発熱線30、32を備えたものであるが、これらの発熱線30、32の代わりに、導線を用いてもよい。この場合は、導線30と導線32とが交差する領域に高周波を発生させることで、当該領域に存在する中空部22に充填されたマイクロカプセルを加熱破壊することができる。また、図1および図2に示す揮発性成分揮散用基板10では、マイクロカプセルは中空部22内に配置されている。しかしながら、マイクロカプセルは、これ以外の態様で配置することもできる。たとえば、シート状基材20Aが繊維状物質や多孔質材料から構成され、かつ、中空部22を有さない場合には、たとえば、シート状基材20Aの全体にマイクロカプセルを分散して配置させてもよい。ただし、マイクロカプセルの利用効率を高くしたい場合は、図1中に点線で示される加熱領域40内の一部の領域または全部の領域に、マイクロカプセルを分散して配置させることが好ましい。なお、シート状基材20A中にマイクロカプセルを分散させる方法としては、たとえば、マイクロカプセルを分散させた溶液を用いて、この溶液中にシート状基材20Aを浸漬処理したり、あるいは、シート状基材20Aの表面の特定の領域に溶液を滴下する方法が挙げられる。
【0069】
次に、シート状基材に連通孔が設けられた揮発性成分揮散用基板の具体例を図面を用いて説明する。図3は、本実施形態の揮発性成分揮散用基板の他の例を示す概略模式図である。なお、図3中、加熱素子を構成する発熱線(または導線)については記載を省略してある。図3に示す揮発性成分揮散用基板12は、シート状基材20Bと、このシート状基材20B中に、その厚み方向の中心部に設けられた中空部22と、この中空部22からシート状基材20Bの片方の側の表面まで連通するように設けられた連通孔24と、中空部22内に配置された不図示のマイクロカプセルと、不図示の発熱線(または導線)から構成される加熱素子と、から構成されている。なお、加熱素子は、図1、図2に示した場合と同様の態様で設けることができる。
【0070】
図3に示す揮発性成分揮散用基板12では、加熱素子により中空部22内のマイクロカプセルが加熱破壊された際に、マイクロカプセルに内包されていた揮発性成分が連通孔24を経由して、揮発性成分揮散用基板12の外部へと速やかに揮散させることができる。なお、図3に示す揮発性成分揮散用基板12では、連通孔24は、その開口部がシート状基材20Bの片側面のみに位置するように設けられている。このような構成を採用することにより、揮発性成分揮散用基板12を何がしかの部材表面に貼り付けて利用する場合には、貼り付ける面と反対側の面に開口部を設けることにより、マイクロカプセルの利用効率を高めることができる。しかしながら、連通孔24は、その開口部がシート状基材20Bの両面に位置するように設けてもよい。
【0071】
次に、図1〜図3に示す揮発性成分揮散用基板10、12の変形例として、一対のシート状基材の間にスペーサー等の基材支持部材を配置した構造を有する揮発性成分揮散用基板の具体例を図面を用いて説明する。図4は、図1〜図3に示す本実施形態の揮発性成分揮散用基板の変形例を示す模式断面図である。図4に示す揮発性成分揮散用基板14は、複数本の発熱線(加熱素子の一部を構成)34を内蔵する第一のシート状基材20Cと、この第一のシート状基材20Cと一定の距離を保つように対向して配置され、複数本の発熱線(加熱素子の一部を構成)36を内蔵する第二のシート状基材20Dと、第一のシート状基材20Cおよび第二のシート状基材20Dの間に配置された複数個のマイクロカプセル含有部材28と、第一のシート状基材20Cおよび第二のシート状基材20Dの間であって、かつ、これらシート状基材20C、20Dの端面側に配置された基材支持部材26と、を有する。なお、図4に示す揮発性成分揮散用基板14は、発熱線34、36を備えたものであるが、これらの発熱線34、36の代わりに、導線を用いてもよい。
【0072】
ここで、発熱線34は、第一のシート状基材20Cの表面と平行に配置された直線状の発熱線であり、第一のシート状基材20C中において、個々の発熱線34A、34B、34Cは等間隔に配置されている。これは第二のシート基材20Dに内蔵される発熱線36についても同様である。なお、シート状基材20C(20D)は、たとえば、プラスチック基板の片面に発熱線34(36)を配置した後、この発熱線34(36)を覆うように樹脂フィルムを貼り合わせるなどにより作製できる。
【0073】
また、第一のシート状基材20Cと第二のシート状基材20Dとは、各々に内蔵される発熱線34と発熱線36とが直交するように配置される。そして、マイクロカプセル含有部材28は、発熱線34と発熱線36とが交差する位置に配置される。たとえば、図4に示すように、発熱線36と発熱線34Aとが交差する位置であって、第二のシート状基材20Dの第一のシート状基材20Cが配置された側の面上に、マイクロカプセル含有部材28Aが配置され、発熱線36と発熱線34Bとが交差する位置であって、第二のシート状基材20Dの第一のシート状基材20Cが配置された側の面上に、マイクロカプセル含有部材28Bが配置され、発熱線36と発熱線34Cとが交差する位置であって、第二のシート状基材20Dの第一のシート状基材20Cが配置された側の面上に、マイクロカプセル含有部材28Cが配置される。この場合、各々のマイクロカプセル含有部材28A、28B、28Cと、揮発性成分揮散用基板14の厚み方向に対して各々のマイクロカプセル含有部材28A、28B、28Cの両側に配置された発熱線34および発熱線36と、を含む領域(図中、点線で囲まれた領域)が、加熱領域42A、42B、42Cを構成する。
【0074】
マイクロカプセル含有部材28は、マイクロカプセルを複数個含む部材であり、マイクロカプセルのみを含むものであってもよい。また、マイクロカプセルを加熱破壊した際の揮発性成分の揮散が阻害されないのであれば、樹脂やゲルなどの固体材料または半固体材料や、パルプ繊維等からなる多孔質部材中にマイクロカプセルが分散したようものであってもよい。
【0075】
基材支持部材26は、第一のシート状基材20Cと第二のシート状基材20Dとの間に一定の隙間が保たれるように、たとえば、図4に例示するようにシート状基材20C、20Dの外周端面側に配置することができるが、隣接する2つの加熱領域42の間に配置してもよい。基材支持部材26は柱状であってもよく、壁状であってもよい。なお、基材支持部材26が柱状であり、かつ、間隔を置いて配置された場合は、第一のシート状基材20Cと第二のシート状基材20Dと間に形成される空間(基材間空間)と、この基材間空間の外部とで空気が比較的自由に行き来できる。このため、第一のシート状基材20Cおよび第二のシート状基材20Dは、透気性を有さないもととしたり、また、表裏面を連通する連通孔を有さないものとしてもよい。
【0076】
一方、基材支持部材26が壁状の場合であって、実質的に基材間空間の内外での気体の往来が不可能な場合、たとえば、基材支持部材26がシート状基材20C、20Dの端面側全周に連続的に配置されるような場合には、基材間空間で揮散した揮発性成分が、シート状基材20C、20Dの端面を通過して外部へと拡散することができない。この場合は、シート状基材20C、20Dのすくなくともいずれか一方が透気性を有するか、あるいは、シート状基材20C、20Dのすくなくともいずれか一方に連通孔が設けられることが必要である。基材支持部材26が壁状である場合は、この壁状の基材支持部材26を、個々の加熱領域42単位で完全に分離遮断するように配置してもよい。
【0077】
次に、加熱素子として発熱チップを用いた揮発性成分揮散用基板の具体例について説明する。図5は、本実施形態の揮発性成分揮散用基板の他の例を示す模式断面図である。図5は、具体的には、加熱素子として発熱チップを用いた場合において、発熱チップの配置態様および個々の発熱チップの発熱制御の一例を示したものであり、発熱チップおよび配線以外の部材については記載を省略してある。図5に示す揮発性成分揮散用基板50では、不図示のシート状基材の表面に複数の発熱チップ60が正方配列されており、図5中では、3行3列に発熱チップ60が正方配置された状態について示してある。また、揮発性成分揮散用基板50には、個々の発熱チップ60の発熱を制御するために、行方向に沿って配置された発熱チップ60に接続される配線62(62A,62B、62C)と、列方向に沿って配置された発熱チップ60に接続される配線64(64A,64B、64C)が設けられている。配線62A,62B、62Cおよび配線64A,64B、64Cは、不図示の電源に接続されており、不図示の制御回路により通電のON/OFFが制御される。また、個々の発熱チップ60の近傍には、マイクロカプセル(図5中、不図示)が配置される。
【0078】
揮発性成分揮散用基板50では、たとえば、配線62Aおよび配線64Bのみを通電可能とすることにより、第1行目−第2列目に配置された発熱チップ60のみを発熱させることができる。このようにして、個々の加熱領域に対応する個々の発熱チップ60の発熱状態を制御できるため、通電により発熱した発熱チップ60近傍に配置されたマイクロカプセルを加熱破壊して、加熱領域単位で揮発性成分を揮散させることができる。
【0079】
図6は、本実施形態の揮発性成分揮散用基板の他の例を示す模式断面図であり、発熱チップを用いた揮発性成分揮散用基板の断面構造の一例を示す模式断面図である。図6に示す揮発性成分揮散用基板52は、第一のシート状基材70と、この第一のシート状基材70の片面に貼り合わせるように配置され、かつ、一方の面から他方の面へと貫通する複数の縦穴74を備えた第二のシート状基材72と、縦穴74の底面を成す第一のシート状基材70表面に配置された発熱チップ60と、この発熱チップ60上であって縦穴74内を充填するように配置された複数個のマイクロカプセルを含有するマイクロカプセル含有部材80と、を有する。ここで、個々の縦穴74A、74B、74Cは、揮発性成分揮散用基板52の平面方向に対して、たとえば、正方配列を成すように配置される。この場合、発熱チップ60は、たとえば、図5に例示したように配線62、64(図6中、不図示)が設けられ、個々の発熱チップ60A、60B、60C毎に発熱が制御される。図6に示す揮発性成分揮散用基板52では、各々の縦穴74A、74B、74C内に配置された発熱チップ60Aおよびマイクロカプセル含有部材80A、発熱チップ60Bおよびマイクロカプセル含有部材80B、ならびに、発熱チップ60Cおよびマイクロカプセル含有部材80Cが、各々、加熱領域90A、90B、90Cを構成する。
【0080】
なお、縦穴74は、第二のシート状基材72の材料や厚み、縦穴74の平面方向のサイズなどに応じて、打抜き加工などの機械的加工や、エッチングなどの化学的加工により適宜形成される。また、縦穴74内に充填されたマイクロカプセル含有部材80に含まれる個々のマイクロカプセルがばらけて、揮発性成分揮散用基板52の表面から脱落しないように、少なくとも縦穴74の開口部側に露出しているマイクロカプセル含有部材80の表面を、マイクロカプセルの外殻と同程度の融点を持つ樹脂フィルム(または樹脂層)などで被覆してもよい。
【0081】
図7は、本実施形態の揮発性成分揮散用基板の他の例を示す模式断面図であり、発熱チップを用いた揮発性成分揮散用基板の断面構造の他の例を示す模式断面図である。図7に示す揮発性成分揮散用基板54は、片面側にのみ開口する複数の縦穴78を備えたシート状基材76と、縦穴78の底面に配置された発熱チップ60と、この発熱チップ60上であって縦穴78内を充填するように配置されたマイクロカプセル含有部材80と、を有する。図7に示す揮発性成分揮散用基板54は、2枚のシート状基材70,72でなく1枚のシート状基材76のみを用いて構成されている点を除けば、その基本的な構造は、図6に示す揮発性成分揮散用基板52と同様である。
【0082】
図6、図7に示す揮発性成分揮散用基板52,54では、縦穴74、78内に、発熱チップ60が配置され、さらにこの発熱チップ60に隣接して、複数個のマイクロカプセルが密集して配置されている。このため、発熱チップ60によるマイクロカプセルの加熱破壊効率が高い。また、図6、図7に示す揮発性成分揮散用基板52,54では、シート状基材70、72、76として、透気性のシート状基材ではなく、プラスチック基板やセラミックス基板などの非透気性のシート状基材を用いることがより好ましい。この場合、加熱破壊によりマイクロカプセルの外部に放出された揮発性成分が、シート状基材70、72、76側へと浸透・吸収されない、または、浸透・吸収され難しいため、マイクロカプセルの利用効率がより高くなる。
【0083】
図8は、本実施形態の揮発性成分揮散用基板に用いられる揮発性成分揮散ユニットの一例を示す概略模式図である。図8に示す揮発性成分拡散ユニット100は、円筒状部材110と、この円筒状部材110の一方の端部側に、当該端部側の開口部(図8中、不図示)を密閉するように配置された角板状の発熱チップ66と、円筒状部材110の内周部112内に充填されたマイクロカプセル含有部材80と、を有する。そして、1つの揮発性成分拡散ユニット100が、1つの加熱領域90を構成する。図8に示す揮発性成分揮散ユニット100では、円筒状部材110の一方の端部側に発熱チップ66が配置され、さらにこの発熱チップ66に隣接して、複数個のマイクロカプセルが密集して配置されている。このため、発熱チップ66によるマイクロカプセルの加熱破壊効率が高い。また、図8に示す揮発性成分揮散ユニット10では、円筒状部材110が、透気性材料ではなく、プラスチックやセラミックスなどの非透気性材料から構成されることがより好ましい。この場合、加熱破壊によりマイクロカプセルの外部に放出された揮発性成分が、円筒状部材110側へと浸透・吸収されない、または、浸透・吸収され難しいため、マイクロカプセルの利用効率がより高くなる。
【0084】
なお、発熱チップ66の縦横の長さは、たとえば、円筒状部材110の直径と同一またはこれよりも小さいものとすることができる。この場合、揮発性成分揮散用基板の厚み方向と、円筒状部材110の中心軸(図8中の一点鎖線で示されるライン)の方向とが一致するように、揮発性成分揮散用基板の平面方向に並べて揮発性成分拡散ユニット100を配置する場合、配置密度を極大化することが容易である。
【0085】
図9は、図8に示す揮発性成分揮散ユニットを用いた揮発性成分揮散用基板の一例を示す平面図であり、具体的には、揮発性成分揮散ユニット100の配置状態を、円筒状部材110の発熱チップ66が配置された側と反対側の面から見た場合の平面図を示すものである。なお、図9中、シート状基材や、発熱チップ66等、揮発性成分揮散ユニット100を構成する円筒状部材110およびマイクロカプセル含有部材80以外の部材については記載を省略してある。図9に示す揮発性成分揮散用基板56は、シート状基材(図9中、不図示)の表面に、発熱チップ66(図9中、不図示)が、このシート状基材表面と接触するように、揮発性成分揮散ユニット100が正方配列されている。
【0086】
ここで、行方向または列方向に隣合うように配置された2つの揮発性成分揮散ユニット100の中心軸間の距離Dは、円筒状部材110の外径と同じである。すなわち、揮発性成分揮散ユニット100の配置密度は、揮発性成分揮散ユニット100を正方配列した場合において取り得る最大の配置密度となっている。このため、行方向または列方向において隣り合うように配置された2つの揮発性成分揮散ユニット100同士は、その外周面が実質的に線接触(図面上では実質的に点接触)する。しかし、揮発性成分揮散ユニット100の平面方向の形状が円形であるため、対角方向において隣合う2の揮発性成分揮散ユニット100の間には、固体材料よりも熱伝導率の極めて低い隙間(空気層)120が形成される。これに加えて、行方向または列方向において隣り合うように配置された2つの揮発性成分揮散ユニット100同士の接触面積は非常に小さい。それゆえ、図6や図7に例示した揮発性成分揮散用基板52、54と比べると、図9に示す揮発性成分揮散用基板56は、隣接する加熱領域90間の絶熱性が非常に高い。このため、特に、加熱領域90を密集して配置する場合(たとえば、正方配列や、千鳥配列において配置密度が極大となるように配置する場合)、1の加熱領域90にて加熱を行った場合に、当該加熱領域90の近隣の加熱領域90も余熱されてしまい、当該近隣の加熱領域90内に配置されたマイクロカプセルが加熱破壊されるのを抑制できる。このため、マイクロカプセルの利用効率を高めることができる。これに加えて、個々の加熱領域90にてマイクロカプセルを加熱破壊した際に、近隣の加熱領域90でのマイクロカプセルの副次的・ノイズ的な加熱破壊が抑制されるため、揮発性成分の揮発量制御性もより高くなる。
【0087】
−揮発性成分揮散用基板の製造方法−
揮発性成分揮散用基板は、揮発性成分揮散用基板の構成に応じて、公知のシート状部材の製造方法を適宜利用して作製することができる。揮発性成分揮散用基板は、たとえば、以下に示す手順により作製することができる。ただし、本実施形態の揮発性成分揮散用基板の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0088】
(1)マイクロカプセルの準備
既述した方法により所望の揮発性成分を内包したマイクロカプセルを準備する。
【0089】
(2)発熱線(または導線)入りシートの準備
シート状材料の片面に、複数本の発熱線(または導線)を平行、かつ、等間隔に配置する。次に、シート状材料の発熱線(または導線)が配置された側の面を覆うように、もう一枚のシート状材料を貼り合わせることで、発熱線(または導線)入りシートを準備する。
【0090】
(3)マイクロカプセルの配置
発熱線(または導線)入りシートの片面に、発熱線(または導線)が設けられたラインに沿って、等間隔にマイクロカプセルを配置する。なお、マイクロカプセルの配置に際しては、たとえば、マイクロカプセル(あるいはこれを分散させた溶液やゲル)をディスペンサを用いてシート上の所定の位置に注液する方法などを利用することができる。
【0091】
(4)発熱線(または導線)入りシートの貼り合わせ
続いて、発熱線(または導線)入りシートのマイクロカプセルが配置された側の面に、もう一枚の発熱線(または導線)入りシートを貼り合わせる。この場合、2枚のシートを貼り合わせは、一方のシートの発熱線(または導線)と他方のシートの発熱線(または導線)とが直交し、かつ、この直交する領域とマイクロカプセルが配置された領域とが一致するように行われる。これにより、揮発性成分揮散用基板を得ることができる。なお、発熱線(または導線)入りシートのマイクロカプセルが配置される位置に予め凹部を設けておけば、当該凹部が、揮発性成分揮散用基板の中空部を構成することになる。この場合は、図1、図2に示す構成を有する揮発性成分揮散用基板を得ることができる。なお、揮発性成分揮散用基板の厚みを調整したり、凸凹を平滑化するために、貼り合わせ後に、ロールなどを用いてプレス処理してもよい。
【0092】
−揮発性成分揮散用基板の利用態様−
本実施形態の揮発性成分揮散用基板は、所望の揮発性成分を、所望のタイミングで、所望の空間に揮散させる用途であれば、いかなる用途でも利用することができる。たとえば、電子機器の筐体表面に揮発性成分揮散用基板を配置し、この電子機器の所定の動作や操作に連動させて、揮発性成分を揮散させるようにしてもよい。たとえば、折り畳み式の携帯電話の場合、携帯電話を開く動作に連動させて芳香成分を揮散させることができる。これにより、携帯電話の使用者が、携帯電話の使用毎に快適な香りを楽しむことができる。
【0093】
また、揮発性成分揮散用基板を、壁や床、天井などに貼り付けて配置し、赤外線センサーと連動させて、芳香成分を揮散させるようにしてもよい。この場合、人間が赤外線センサーにより感知された場合に、芳香成分を揮散させることができる。これにより、揮発性成分揮散用基板が配置された部屋に入ってきた人間が、快適な香りを楽しむことができる。また、部屋に誰もいない場合は、芳香成分が揮散されないので、芳香成分の無駄な消費を防ぐこともできる。これに加えて、従来の室内芳香用の芳香製品は、スペースを取る安っぽいデザインのボトルタイプのものが主流であるが、本実施形態の揮発性成分揮散用基板は、省スペースであるために目立たないところに配置することが容易である。また、目立つところに配置する場合でも、揮発性成分揮散用基板に壁紙としての機能も兼用させることができる。このため揮発性成分揮散用基板に高いデザイン性を付与することもできる。また、床と絨毯の間に揮発性成分揮散用基板を配置したり、絨毯の床面側に揮発性成分揮散用基板を配置して、時間に連動させて(タイマー制御により)定期的にノミやダニ用の殺虫成分を揮散させるようにしてもよい。この場合、絨毯に発生するノミやダニの殺虫処理が自動的に行われるので、常に衛生的な環境を維持することができる。
【0094】
−揮発性成分揮散用基板のその他の実施形態−
以上に、マイクロカプセルを用いた本実施形態の揮発性成分揮散用基板について説明したが、揮発性成分揮散用基板として、たとえば、図10に例示するようなマイクロカプセルを用いない揮発性成分揮散用基板を利用することもできる。図10は、マイクロカプセルを用いない揮発性成分揮散用基板の一例を示す模式断面図であり、図10中、揮発性成分揮散用基板200は、基本的に図7に示す揮発性成分揮散用基板54と同様の構造を有するものであるが、個々の加熱領域92の構造が異なっている点に特徴がある。ここで、揮発性成分揮散用基板200の加熱領域92は、縦穴78の底面に配置された発熱チップ60と、縦穴78内に、縦穴78の開口部近傍まで充填された揮発性成分82と、この揮発性成分82を縦穴78内に密封するように縦穴78の開口部を覆う封止膜84とから構成されている。ここで、揮発性成分82および封止膜84としては、たとえば、図7に例示したマイクロカプセル含有部材80に含まれるマイクロカプセルの芯材を構成する揮発性成分および外殻材をそのまま利用することができる。また、揮発性成分揮散用基板200の平面方向における加熱領域92の配置態様は特に限定されないが、たとえば、正方配列や千鳥配列、亀の甲状配列とすることができる。
【実施例】
【0095】
以下に、本実施形態の揮発性成分揮散用基板を、実施例を挙げて説明する。
【0096】
<<実施例1>>
以下の手順により、実質的に図4に示す構成を有する芳香成分揮散用基板14を準備した。
【0097】
(マイクロカプセルおよびマイクロカプセル含有溶液)
使用したマイクロカプセルの概要は以下の通りである。また、揮発性成分揮散用基板を作製する際に用いたマイクロカプセル含有溶液としては、溶媒として純水を用いて、これにマイクロカプセルを70質量%の濃度となるように分散させたものを用いた。
・形状:球形
・平均直径:30μm
・外殻:厚み0.1μmのウレタン樹脂(融点:140℃)
・芯材(揮発性成分):ラベンダー精油
【0098】
(発熱線入りシート状基材の作製)
ユニバーサル基板(縦72mm、横48mm、厚み1.6mm)の溝が設けられた面に、ユニバーサル基板の長辺方向に沿って設けられた溝に発熱線34(ニクロム線、線径0.35mm、長さ35.5mm)を2.54mm間隔で4本配置した。続いて、発熱線を覆うようにポリイミドシート(厚み:0025mm)を接着剤により貼り付けることで、第一のシート状基材20Cを得た。また、ユニバーサル基板の短辺方向に沿って設けられた溝に発熱線36を配置した以外は、第一のシート状基材20Cと同様にして第二のシート状基材20Dを作製した。
【0099】
(揮発性成分揮散用基板の作製)
次に、第二のシート状基材20Dのポリイミドシートを貼りつけた面側であって、発熱線36の真上にマイクロカプセル含有溶液を0.06cc滴下して、溶媒成分を自然揮発させた。続いて、第一のシート状基材20Cと第二のシート状基材20Dとを、互いのポリイミドシートが貼りつけられた面同士が向き合うようにして、2.4mmの間隔を保つように重ね合わせた。なお、重ね合わせに際しては、第一のシート状基材20Cと第二のシート状基材20Dとの間に、高さ2.4mmの柱状のスペーサー(基材支持部材26)を複数個配置すると共に、第一のシート状基材20C側の発熱線34と、第二のシート状基材20D側の発熱線36とが直交するようにした。こうして得られた揮発性成分揮散用基板14は、縦横(行方向および列方向)それぞれに4本の発熱線34,36(ニクロム線)を有し、ニクロム線同士が交差するポイント(加熱領域44の数)は4×4個であった。なお、マイクロカプセル含有溶液は、16個ある加熱領域44のうち、1つの加熱領域44(後述する2B番地の加熱領域44)に位置するように滴下した。
【0100】
(芳香評価)
次に、揮発性成分揮散用基板14の行方向に配列された各々のニクロム線と列方向に配列された各々のニクロム線とを、各々のニクロム線単位でON/OFF制御ができるように直流電源(電圧5.0V、電流750mA)に接続した。なお、以下の説明において、行方向のニクロム線については配置順に、A〜D番とし、列方向のニクロム線については配置順に、1〜4番とし、行方向および列方向の交点を指し示す場合は、たとえば、2B番地と表記する。
【0101】
また、芳香評価に際しては、合計16ある番地のうちの2B番地のみにマイクロカプセル含有部材28を配置した状態で加熱する番地を変えてテストを行い、1回のテストが終了する毎に、揮発性成分揮散用基板14を分解して、第二のシート状基材20Dのポリイミドシートを貼り替えた後に、再び2B番地にマイクロカプセル含有溶液を滴下して、再度、揮発性成分揮散用基板14を組み立てた。なお、揮発性成分揮散用基板14の組み立てに際しては、通常、全ての番地にマイクロカプセル含有溶液が滴下されるが、本実施例では、芳香評価において前回のテストにおける残香の影響を極力小さくすると共に、評価時間を短縮する都合上、1つの番地にのみマイクロカプセル含有溶液を滴下することとした。
【0102】
また、2B番地の近傍には、温度センサーを配置して、テスト毎の2B番地近傍の最大温度を確認した。なお、温度センサーは、マイクロカプセルよりも電熱線からは離れた位置にあるため、マイクロカプセル近傍の温度(すなわち、温度がマイクロカプセル外殻の融点に達したか否か)を正確に示すものでは無い。
【0103】
芳香評価は、電熱線に3分間電流を流し続けた直後の芳香の有無およびその強度について電流を流す前を基準として官能評価を行った。ここで官能評価を実施する者は、揮発性成分揮散用基板14から1mのところに位置した状態で評価を行った。また、残香の影響を少なくするために、1回のテストが終了した時点で、室内を十分に換気して室内がほぼ無臭になってから、次のテストを実施した。結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
表1に示すように、2B番地から対角方向に1つ離れた番地である3C番地を加熱した場合に、若干の香りが確認されたが、2B番地を加熱した場合は強い香りが確認され、また、2B番地から対角方向に2つ離れた番地である4D番地を加熱した場合には、香りは確認されなかつた。なお、3C番地を加熱した場合に弱い香りが確認されたのは、3C番地で発生した熱が2B番地に伝達されて、2B番地に位置するマイクロカプセルが部分的に加熱破壊されたためと考えられる。しかしながら、2B番地と3C番地とで、香りの強度に明らかな違いがあることから、加熱時間の短縮により、2B番地を加熱した場合にのみ、香りを揮散させることができるものと考えられる。以上のことから、任意の加熱領域を加熱することにより、所望の香りを揮散させられることが分った。
【0106】
<<実施例2>>
(揮発性成分揮散用基板の作製)
実施例1で用いた揮発性成分揮散用基板14において、加熱素子として発熱線34、36(ニクロム線)の代わりに、第二のシート状基板20D側の発熱線36が配置された位置に、発熱チップを配置したこと、および、マイクロカプセルを、下記に示すものに変更した以外は同様にして、実施例2の芳香評価に用いる揮発性成分揮散用基板を作製した。なお、発熱チップ(ROHM社製チップ抵抗 型番:MCR03)は、発熱線34、36同士が交差する位置(すなわち、16個の各番地)に配置し、各々の発熱チップ単位で加熱のON/OFF制御ができるように電源に接続した。なお、各々の発熱チップを含む回路は、図11に示すように構成し、テストに際しては、トランジスタTR1を接続した発熱チップR1に3.3V、150mAの電流を流した。
【0107】
(マイクロカプセル)
実施例2において使用したマイクロカプセルの概要は以下の通りである。
・形状:球形
・平均直径:100μm
・外殻:厚み0.1μmのウレタン樹脂(融点:140℃)
・芯材(揮発性成分):ラベンダー精油
【0108】
(芳香評価)
芳香評価は、実施例1と同様の手順で実施した。以下の表2に結果を示す。
【0109】
【表2】

【0110】
実施例1では2B番地から対角方向に1つ離れた番地である3C番地を加熱した場合に、若干の香りが確認されたが、本実施例2では2B番地を加熱した場合は強い香りが確認され、また、2B番地から対角方向に1つおよび2つ離れた番地である3C番地、4D番地を加熱した場合には、香りは確認されなかった。以上のことから、任意の加熱領域を加熱することにより、所望の香りを揮散させられることが分った。また、実施例1と比較して、2B番地を加熱した場合の2B番地の最高温度はほぼ同程度であるにもかかわらず、2B番地から対角方向に1つ離れた3C番地において弱い香りも確認されなかつた。実施例1および実施例2では、加熱素子の種類が異なる以外は、揮発性成分揮散用基板の構造は実質的にほぼ同一であることを考慮すると、発熱線よりも発熱チップを用いた方が、揮発性成分の揮散制御性がより高くなるものと考えられる。
【0111】
<<実施例3>>
(芳香成分入りマイクロカプセルの作製)
ポリビニルアルコール溶液中に分散された自己乳化性蝋、非自己乳化性蝋、及び香料混合物の配合物を含有する乳濁液を、以下の工程により調製した。20gの自己乳化性Duroxon J−324蝋(融点105〜115℃,Durachem),20gの非自己乳化性Unilin 700蝋(融点110℃,Petrolite)、0.50gの水酸化カリウム、及び20gの脱イオン水を、攪拌機、温度調節器、及び冷却器を装備した500ml反応器に入れた。
【0112】
続いて、反応器を加熱し、蝋が溶融して滑らかな均一溶液を生じるまで100℃に保持した。16gの沸騰脱イオン水を溶融水混合物に徐々に添加し、無色透明溶液が観察されるまで100℃に保持した。この後、44gの香料(Musk C−14,高砂香料工業社製;ムスクの香り)を100℃の蝋混合物に徐々に添加して蜂蜜様粘性溶液を生じた。次に、80gの沸騰脱イオン水を反応器に添加して、乳状蝋/香料混合乳濁液を生成した。この乳濁液に、136gのポリビニルアルコール溶液(重量平均分子量2,000,17.6%固体)を添加し、乳濁液を水浴で40〜50℃に冷却して、安定乳濁液を生成した。その結果生じた乳濁液を、Yamato GA31 ミニ噴霧乾燥機を用いて120℃入口空気温度で噴霧乾燥して、40%の香料を含有するマイクロカプセルを作製した。
【0113】
(発熱線入りシートの作製)
縦横25mm×25mmに裁断した市販のPPC用紙(富士ゼロックス社製、C紙)上に、直径0.2mmのニクロム線を直線状に2mm間隔で配置した後、その上からもう一枚のPPC用紙を貼り合わせた。これによりニクロム線入りの紙基材を2枚得た。
【0114】
(芳香成分揮散用基板の作製)
続いて、このニクロム線入りのシートの片面に、ニクロム線上に沿って2mm毎に、濃度10%のマイクロカプセルを分散させたアルコール溶液(マイクロカプセル溶液)を0.2ccづつ滴下した。その後、ニクロム線同士が直交するように、マイクロカプセル溶液を滴下した面上にもう一枚の基材を貼り合わせることで芳香成分揮散用基板(以下、「芳香基板」と略す)を得た。なお、貼り合わせに際しては、表裏面の紙基材のニクロム線同士が交差するポイントと、マイクロカプセル溶液を滴下したポイントとが一致するように調整した。こうして得られた芳香基板は縦横(行方向および列方向)それぞれに12本のニクロム線を有し、ニクロム線同士が交差するポイント(加熱領域の数)は12×12個であった。
【0115】
(芳香評価)
次に、芳香基板の行方向に配列された各々のニクロム線と列方向に配列された各々のニクロム線とを、各々のニクロム線単位でON/OFF制御ができるように直流電源(電圧1.5Vの乾電池、各々のニクロム線に印加される電圧は1.5V)に接続した。なお、以下の説明において、行方向、列方向の個々のニクロム線を指す場合、1番〜12番の番号を付して区別する。
【0116】
−環境テスト−
次に、全てのニクロム線への導通をOFFとした状態で、芳香基板を、高温高湿環境(温度50度、湿度90%)下に放置し、この際の芳香の有無を確認したが、なんらの芳香も確認できなかつた。このことから、一般的な高温環境下では、芳香基板中のマイクロカプセルが熱破壊されないことが確認された。
【0117】
−芳香テスト−
次に、行方向の1番目および2番目のニクロム線と、列方向の1番目と2番目のニクロム線とに、電流を3秒間流したところ、ムスクの香りが確認された。ムスクの香りがしなくなった時点で、今度は、行方向の3番目および4番目のニクロム線と、列方向の1番目と2番目のニクロム線とに、電流を3秒間流したところ、1回目の芳香テストと同程度の強さのムスクの香りが確認された。以上のことから、縦横にニクロム線が交差するポイント近傍に存在するマイクロカプセルが熱破壊されて、マイクロカプセル中の芳香成分が揮散されていることが確認された。
【0118】
−長期放置テスト−
続いて、上記芳香テストを終えた芳香シートを、常温常湿環境(温度23℃、湿度60%)下にて、約1月放置した。その後、行方向の5番目および6番目のニクロム線と、列方向の1番目と2番目のニクロム線とに、電流を3秒間流したところ、1回目および2回目の芳香テストと同程度のムスクの香りが確認された。以上のことから、芳香シートを長期間使用しない状態においても、芳香基板の芳香機能が劣化しないことが確認された。
【符号の説明】
【0119】
10、12、14 揮発性成分揮散用基板
20A、20B、20C、20D シート状基材
22、22A、22B、22C、22D 中空部
24 連通孔
26 基材支持部材
28、28A、28B、28C マイクロカプセル含有部材
30、30A、30B、30C、30D 発熱線または導線(加熱素子の一部)
32、32A、32B、32C、32D 発熱線または導線(加熱素子の一部)
34、34A、34B、34C、34D 発熱線または導線(加熱素子の一部)
36 発熱線または導線(加熱素子の一部)
40、40A、40B、40C、40D 加熱領域
42、42A、42B、42C 加熱領域
50、52、54、56 揮発性成分揮散用基板
60、60A、60B、60C 発熱チップ(加熱素子)
62、62A、62B、62C 配線
64、64A、64B、64C 配線
66 発熱チップ(加熱素子)
70 第一のシート状基材
72 第二のシート状基材
74 縦穴
76 シート状基材
78 縦穴
80、80A、80B、80C マイクロカプセル含有部材
82 揮発性成分
84 封止膜
90、90A、90B、90C 加熱領域
92 加熱領域
100 揮発性成分揮散ユニット
110 円筒状部材
112 内周部
120 隙間(空気層)
200 揮発性成分揮散用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材と、
該シート状基材の一部領域を選択的に加熱する加熱素子と、
少なくとも該加熱素子により選択的に加熱される加熱領域内に配置され、揮発性成分を含有する芯材および該芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、
を有することを特徴とする揮発性成分揮散用基板。
【請求項2】
前記揮発性成分が、芳香成分、殺虫成分および抗菌成分から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の揮発性成分揮散用基板。
【請求項3】
前記シート状基材が中空部を有し、該中空部に前記マイクロカプセルが配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の揮発性成分揮散用基板。
【請求項4】
前記シート状基材を構成する材料が、樹脂、繊維状物質、セラミックスから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の揮発性成分揮散用基板。
【請求項5】
前記シート状基材には、前記シート状基材内の前記マイクロカプセルが配置された領域から、前記シート状基材表面へと連通する連通孔が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の揮発性成分揮散用基板。
【請求項6】
可撓性を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の揮発性成分揮散用基板。
【請求項7】
前記加熱素子が、軸方向が前記シート状基材の平面と略平行な一の配線と、前記シート状基材の厚み方向に対して上記一の配線と離間し、前記シート状基材の平面と略平行で、かつ、上記一の配線と交差するように配置された他の配線と、を備え、
上記一の配線と上記他の配線とが交差する領域が、前記加熱領域として機能することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の揮発性成分揮散用基板。
【請求項8】
前記加熱素子が、発熱チップから構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の揮発性成分揮散用基板。
【請求項9】
筒状部材と、該筒状部材の内部に配置された前記マイクロカプセルと、筒状部材の片方側の開口部を封止するように配置された前記発熱チップと、を有する揮発性成分揮散ユニットを備えたことを特徴とする請求項8に記載の揮発性成分揮散用基板。
【請求項10】
前記加熱領域を2つ以上有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の揮発性成分揮散用基板。
【請求項11】
一の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに内包される揮発性成分の種類と、他の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに内包される揮発性成分の種類とが、異なることを特徴する請求項10に記載の揮発性成分揮散用基板。
【請求項12】
前記加熱領域を4つ以上備え、各々の加熱領域が前記シート状基材の平面方向に、マトリックス状に配置されていることを特徴とする請求項10または11に記載の揮発性成分揮散用基板。
【請求項13】
シート状基材と、該シート状基材の一部領域を選択的に加熱する加熱素子と、少なくとも該加熱素子により選択的に加熱される加熱領域内に配置され、揮発性成分を含有する芯材および該芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有する揮発性成分揮散用基板を用い、
少なくとも1つの加熱領域を加熱することにより、上記揮発性成分を上記揮発性成分揮散用基板の外部へと揮散させることを特徴とする揮発性成分の揮散方法。
【請求項14】
上記揮発性成分揮散用基板が、2つ以上の加熱領域を有し、
全ての加熱領域のうちの一部を選択して加熱を行う初回の加熱処理を行った後に、
加熱を1度も行っていない残りの加熱領域のうちの一部または全部を選択して加熱を行う加熱処理を1回以上繰り返すことを特徴とする請求項13に記載の揮発性成分の揮散方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−131366(P2010−131366A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194411(P2009−194411)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(595128455)大栄工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】