説明

α−ヒドロキシカルボン酸の微生物学的異性化方法

本発明は、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼを用いたα-ヒドロキシカルボン酸の微生物学的異性化方法、適当なラセマーゼ活性を示す酵素および微生物、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する微生物のスクリーニング方法、該酵素をコードし、該ラセマーゼを発現する核酸配列、発現ベクターおよび組換え微生物ならびに、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有するタンパク質の製造または分離のための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼを用いたα-ヒドロキシカルボン酸の微生物学的異性化方法、この方法に使用される酵素、適当なラセマーゼ活性を発現する微生物、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する微生物をスクリーニングする方法、この酵素をエンコードする核酸配列、発現ベクター、このラセマーゼを発現する組換え微生物およびα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有するタンパク質の製造または分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
従来技術から、何が微生物のマンデレートラセマーゼとして知られているかが公知であり、これは、in vitroまたはin vivoでマンデル酸をラセミ化することができる(G.L. Kenyon, J.A. Gerlt, G.A. Petsko および J.W. Kozarich, 「マンデレートラセマーゼ:擬似対称酵素の構造-機能研究」(“Mandelate Racemase: Structure-Function Studies of a Pseudosymmetric Enzyme”), Accts. Chem. Res., 28, 178-186 (1995); R. Li, V.M. Powers, J.W. Kozarich および G.L. Kenyon,「マンデレートラセマーゼにより触媒されるビニルグリコレートのラセミ化」( “Racemization of Vinylglycolate Catalyzed by Mandelate Racemase”), J. Org. Chem., 60, 3347-3351 (1995); S.S. Schafer, A.T. Kallarakal, J.W. Kozarich, J.A. Gerlt, J.R. Clifton および G.L. Kenyon, 「マンデレートラセマーゼにより触媒される反応のメカニズム:D270N変異体の構造および機械作用特性」(“Mechanism of the Reaction Catalyzed by Mandelate Racemase: The Structure and Mechanistic Properties of the D270N Mutant”), Biochemistry, 35, 5662-5669 (1996))。
【0003】
同時に、キラルな非ラセミ物質の簡単な製造が、例えば製薬工業における活性成分の製造のために、大いに必要とされる。所望の鏡像体に至る、化合物の立体異性体形態の酵素が触媒するラセミ化は、所望のキラルな非ラセミ物質を製造するための適当な経路を構成する。しかしながら、時代遅れであることが知られているラセマーゼは、高い基質特異性により区別される。かくして、マンデレートラセマーゼは、β、γ-不飽和α-ヒドロキシ酸の生物触媒ラセミ化にのみ適当である。飽和α-ヒドロキシカルボン酸は、受け入れられない(Felfer, U. ら, J. Mol. Catal. B: Enzymatic 15, 213 (2001)参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の概要
したがって、公知のラセマーゼと比較して異なるかまたは広い基質スペクトルを有するラセマーゼ活性を有する酵素が必要とされる。
【0005】
本発明の目的は、新規なラセマーゼ活性を有する微生物および酵素調製物を提供すること、ならびにこれらの酵素または微生物を用いて立体異性体化合物のラセミ化を行なう方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことに、この目的は、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素を用いるα-ヒドロキシカルボン酸の微生物学的異性化方法によって達成されることを本発明者らは見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の第1の態様は、式I
【化1】

【0008】
のα-ヒドロキシカルボン酸の微生物学的異性化方法に関し、
ここで、
Rは、直鎖もしくは分岐の低級アルキルまたは低級アルケニル、好ましくはC2〜C8アルキルまたは-(CH2)n-Cycであり、nは0〜4の整数、好ましくは1、2または3であり、Cycは非置換または1置換もしくは多置換の、単核もしくは2核または複素環式環、例えば非置換もしくは置換の芳香族環またはヘテロ芳香族環、好ましくは非置換もしくは置換の単核芳香族環であり、
本質的に式(I)のα-ヒドロキシカルボン酸の第1の立体異性体形態((R)または(S)形態)を含む基質は、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素によって異性化され、適当なら、得られる異性体混合物((R)/(S))または得られる第2の立体異性体((S)または(R)形態)が単離されるか、または得られる第2の立体異性体は、反応平衡から除去される。
【0009】
酵素的異性化は好ましくは、基質を、例えばタンパク質に基づく純度>50%、例えば>80%または>90%または90〜99%を有する精製した酵素と、酵素含有細胞抽出物(例えば、細胞破壊および細胞破壊物の除去後の粗抽出物)と、またはα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する少なくとも1種の酵素を発現するそのままの細胞の存在下で、反応することによって行なわれる。
【0010】
α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素は好ましくは、ラクテート(lactate)を産生または代謝する微生物、例えば乳酸菌またはプロピオン酸菌から分離することができる。特に適当な供給源は、Lactobacillus属およびLactococcus属の菌である。
【0011】
好ましい変形に従えば、反応は、Lactobacillus属の微生物のそのままの細胞または、本発明に従うα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を発現する組換え微生物のそのままの細胞の存在下で行なわれる。
【0012】
好ましい微生物は、L. paracasei, L. delbrueckii , L. sakei および L. orisの中から選択され、特にL. paracasei DSM 20207 および DSM 2649, L. delbrueckii DSM20074, L. sakei DSM 20017 ならびに L. oris DSM 4864の株の中から選択される。
【0013】
さらに好ましいプロセスの変形においては、酵素は、広範囲の基質スペクトルを有するラクテートラセマーゼ(E.C.5.1.2.1)、すなわち(R)-または(S)-ラクテートの他に、少なくとも1種のさらなる上記式Iの(R)-または(S)- α-ヒドロキシカルボン酸をラセミ化する酵素である。
【0014】
本発明に従い有用である酵素活性は、例えば乳酸フェニル、乳酸4-フルオロフェニル、2-ヒドロキシ-4-フェニル酪酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタンカルボン酸および2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸の(R)および/または(S)形態の中から選択される少なくとも1種のラセミ化を包含する。
【0015】
上記プロセスの好ましい実施態様においては、所望の立体異性体が、例えばクロマトグラフィー、化学または酵素による立体選択的な後続の反応、および適当なら下流生成物のさらなる分離によって、好ましくは、反応媒体から例えばクロマトグラフィーによって混合物を分離した後に形成される異性体混合物から本質的に除去され、望まない立体異性体を本質的に含む残渣は再び異性化される。これは、所望の立体異性体またはその所望の下流生成物への完全な転化が得られるまで、任意の回数繰り返すことができる。
【0016】
上記プロセスのさらなる好ましい変形においては、形成された異性体混合物は、好ましくは、反応媒体から例えばクロマトグラフィーによって混合物を分離した後に、化学または酵素による立体選択的な後続の反応に供され、ヒドロキシカルボン酸の望まない異性体をまた含む得られた反応混合物は、本発明に従う別の異性化に供される。これは、所望の立体異性体またはその所望の下流生成物への完全な転化が得られるまで、任意の回数繰り返すことができる。
【0017】
上記プロセスのさらなる好ましい変形においては、異性化反応は、α-ヒドロキシカルボン酸の得られる所望の立体異性体が段階的にまたは連続的に反応平衡から除去される、好ましくは「1ポット反応」と称されるものにおける、化学または酵素的エナンチオ選択的な後続の反応と連結される。
【0018】
本発明に従う異性化工程後の好ましい化学または酵素的エナンチオ選択的な後続の反応は、α-ヒドロキシカルボン酸の立体異性体形態のエステル化およびアミド化の中から選択される。次のエナンチオ選択的な反応は、特にカルボキシルまたはヒドロキシル基において行なうことができる。
【0019】
本発明のさらなる態様は、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素を発現する微生物のスクリーニング法に関し、ここで、ラセマーゼ活性が推測される微生物は、上記式Iのα-ヒドロキシカルボン酸の立体異性体形態を本質的に含む基質の存在下で培養され、反応培地は、基質のラセミ化(例えば1種の立体異性体形態の減少する量および/または他の立体異性体形態の増加する量)について検査される。
【0020】
本発明に従うスクリーニング法は、特定の微生物に限定されない。原則として、全ての公知の真核生物および原核生物、動物細胞または植物細胞を用いて行なうことができる。しかしながら、ラクテートを形成または代謝するそれらの微生物、例えば乳酸菌またはプロピオン酸菌が好ましい。特に適当な供給源は、Lactobacillus属の細菌である。
【0021】
好ましくスクリーニングされる微生物は、本質的に立体異性体基質を1〜100%、好ましくは20〜100%、特に50〜100%または80〜100%ラセミ化するものである(ラセミ化(%)=2R/(R+S) x 100;R = R形態の濃度;S = S形態の濃度)。適当な転化率は、1〜50%、好ましくは5〜50%、特に15〜50%または30〜50%の範囲にある(転化率(%) = R/(R+S) x 100)。
【0022】
本発明のさらなる態様は、上記式Iの少なくとも1種の化合物をラセミ化/異性化することができ、かつ先に定義したスクリーニング法においてラセマーゼ活性について肯定的な試験結果である微生物を培養し、培養物からα-ヒドロキシカルボン酸ラセミ体を分離することによって得ることができるα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼに関する。
【0023】
特に好ましいα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼは、上記式Iの少なくとも1種のα-ヒドロキシカルボン酸を1〜100%、好ましくは20〜100%、特に50〜100%までラセミ化するものである。
【0024】
本発明のさらなる態様は、先に定義した少なくとも1種のα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼをエンコードする核酸配列に関する。
【0025】
本発明はさらに、少なくとも1種の調節核酸配列に動作可能に結合した(operable linkage)、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼについて少なくとも1つのコード核酸配列を含む発現ベクターに関する。
【0026】
本発明の態様はまた、先に定義した少なくとも1種の核酸配列または先に定義した少なくとも1種の発現ベクターを含む、組換え真核生物または原核生物である。
【0027】
本発明のさらなる態様は、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有するタンパク質を製造する方法であって、所望のラセマーゼ活性を有する酵素を発現する先に定義した組換え微生物が培養され、タンパク質がその培養物から分離される方法に関する。
【0028】
最後に、本発明は、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有するタンパク質を分離する方法であって、ラセマーゼ活性について肯定的に試験された先に定義した非組換え微生物、特にLactobacillus属の微生物が粉砕され、細胞壁の破片が分離され、かつ所望の酵素活性を有するタンパク質が分離される方法に関する。
【0029】
発明の詳細な説明
A. 一般的用語および定義
他に特定されなければ、以下の一般的条件が適用される。
【0030】
「ラセミ体」は、光学活性な化合物の2種の鏡像体の等モル混合物を示す。
【0031】
本発明によれば、「ラセミ化」または「異性化」は、ヒドロキシカルボン酸のα-炭素原子で起こる。
【0032】
「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素または要素であり、特にフッ素または塩素である。
【0033】
「低級アルキル」は好ましくは、直鎖もしくは分岐の、2〜8個、特に2〜6個の炭素原子を有するアルキル基、例えばエチル、i-もしくはn-プロピル、n-、i-、sec-もしくはtert-ブチル、n-ペンチルもしくは2-メチルブチル、n-ヘキシル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2-エチルブチルである。
【0034】
「低級アルケニル」は、1不飽和もしくは多不飽和、好ましくは1不飽和の、2〜8個、特に2〜6個の炭素原子を有する上記したアルキル基の類似体であり、炭素鎖の任意の位置に二重結合があることが可能である。
【0035】
「アリール」は、単核もしくは多核、好ましくは単核もしくは2核の非置換もしくは置換された芳香族基であり、特にフェニルまたはさもなければ、任意の環位置を介して結合するナフチル、例えば1-もしくは2-ナフチルである。適当なら、これらのアリール基は、先に定義したハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはトリフルオロメチルの中から選択される、1個または2個の同じまたは異なる置換基を結合することができる。
【0036】
B. ラセミ化を受けることができるα-ヒドロキシカルボン酸
本発明に従いラセミ化によって転化されることができるα-ヒドロキシカルボン酸は、Rが直鎖もしくは分岐の低級アルキルまたは低級アルケニルであるか、または-(CH2)n-Cycである(nは0〜4の整数であり、Cycは非置換または1置換もしくは多置換の単核もしくは2核の炭素環または複素環式環である)上記式(I)のα-ヒドロキシカルボン酸である。これらの化合物は、鏡像体的に純粋な形態で、すなわちRまたはS鏡像体として、または2種の鏡像体の非ラセミ混合物として、本発明に従いラセミ化されることができる。
【0037】
酵素的合成のために使用される式Iのα-ヒドロキシカルボン酸は、自体公知であり、有機合成の一般的に知られた方法を用いて得ることができる化合物である。
【0038】
挙げなければならない炭素環および複素環式基Cycの例は特に、4個まで、例えば0、1または2個の、O、NおよびSの中から選択される同じまたは異なる環ヘテロ原子を有する、単核もしくは2核の、好ましくは単核の基である。
【0039】
これらの炭素環または複素環は、特に3〜12個、好ましくは4、5または6個の環炭素原子を含む。挙げることができる例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、その1不飽和もしくは多不飽和類似体、例えばシクロブテニル、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニルおよびフェニル;ならびに、O、NおよびSの中から選択される1〜4個のヘテロ原子を有する5-〜7-員環の飽和または1不飽和もしくは多不飽和複素環式基である。ピロリジン、テトラヒドロフラン、ピペリジン、モルホリン、ピロール、フラン、チオフェン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピリジン、ピラン、ピリミジン、ピリダジンおよびピラジンから誘導される複素環式基を特に挙げなければならない。
【0040】
他に挙げるべきものは、上記した炭素環または複素環の1つがさらなる複素環または炭素環に縮合した2核の基、例えばクマロン、インドール、キノリンおよびナフタレンから誘導される基である。
【0041】
これについては、基Cycは、任意の環位置を介して、好ましくは環炭素原子を介して結合されることができる。
【0042】
適当なCyc基の例は、フェニル、ナフチル、2-チエニル、3-チエニル;2-フラニル、3-フラニル;2-ピリジル、3-ピリジルまたは4-ピリジル;2-チアゾリル、4-チアゾリルまたは5-チアゾリル;4-メチル-2-チエニル、3-エチル-2-チエニル、2-メチル-3-チエニル、4-プロピル-3-チエニル、5-n-ブチル-2-チエニル、4-メチル-3-チエニル、3-メチル-2-チエニル;3-クロロ-2-チエニル、4-ブロモ-3-チエニル、2-ヨード-3-チエニル、5-ヨード-3-チエニル、4-フルオロ-2-チエニル、2-ブロモ-3-チエニルおよび4-クロロ-2-チエニルである。
【0043】
基Cycはさらには、1置換または多置換、例えば1置換または2置換されることができる。好ましくは置換基は、環炭素原子に結合される。適当な置換基の例は、ハロゲン、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルコキシ、-OH、-SH、-NO2またはNR2R3であり、R2およびR3は互いに独立してH、メチルまたはエチルである。好ましい置換基はハロゲン基である。
【0044】
Cyc基のさらなる好ましい基は、先に定義したアリール基である。
【0045】
C. α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素
本発明に従ってα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素は、特にLactobacillus属の微生物から得ることができる。
【0046】
好ましい酵素は、Lactobacillusの菌株L.paracaseiDSM20207(DSM 15755) および DSM 2649 (DSM 15751), L. delbrueckii DSM 20074 (DSM 15754), L. sakei DSM 20017 (DSM 15753) および L. oris DSM 4864 (DSM 15752)から分離することができる。これらの菌株は、DSM (Deutsche Stammsammlung fur Zellkulturen und Mikroorganismen; 細胞培養物および微生物のドイツ菌株コレクション(German Strain Collection of cell cultures and microorganisms))から入手可能である。
【0047】
この酵素は、慣用の調製の生化学的方法を用いて、細胞培養物から分離することができる。よって最初のアミノ酸配列情報は、慣用の方法で、例えばペプチド断片化およびN-末端配列決定によって、分離された酵素から導き出すことができる。
【0048】
上記生物から分離することができるα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する天然の酵素の「機能的等価物」がまた本発明に包含される。
【0049】
天然のラセマーゼの「機能的等価物」または類似体は、本発明の目的のためには、それらと異なるが、所望の生物学的活性、例えば基質特異性を保持するポリペプチドである。かくして、例えば「機能的等価物」は、乳酸フェニル、乳酸4-フルオロフェニル、2-ヒドロキシ-4-フェニル酪酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタンカルボン酸および2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸の中から選択される少なくとも1種の化合物をラセミ化し、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも75%、とりわけ特に好ましくは少なくとも90%の上記したLactobacillus菌株の1つからの天然ラセマーゼ酵素の活性を有するかまたは後者より高い活性を有する酵素を意味すると理解される。その上、機能的等価物は、好ましくは約pH4〜10で安定であり、有利にはpH5〜8に最適pHを有し、20〜80℃の範囲に最適温度を有する。
【0050】
「機能的等価物」は特にまた、本発明に従えば、上記した生物学的活性の1つを保持しつつ、天然アミノ酸配列の少なくとも1つの配列位置に天然のアミノ酸ではないアミノ酸を有する変異体を意味すると理解される。かくして「機能的等価物」は、1個以上のアミノ酸の付加、置換、欠失および/または転化によって得ることができる変異体を包含し、上記した変形は、本発明に従う特性プロファイルを有する変異体に至る限り、任意の配列位置で起こることが可能である。特に、機能的等価物はまた、変異体と未変性のポリペプチドとの間の反応性パターンが品質に関して一致するときに、すなわち例えば同一の基質が異なる速度で転化されるときに、存在する。
【0051】
上記の意味での「機能的等価物」はまた、記載されたポリペプチドの「前駆体」ならびに、ポリペプチドの「機能的誘導体」および「塩」である。
【0052】
これに関しては、「前駆体」は、所望の生物学的活性を有するかまたは有さないポリペプチドの天然または合成の前駆体である。
【0053】
「塩」という語は、カルボン酸基の塩だけでなく、本発明に従うタンパク質分子のアミノ基の付加塩をも意味すると理解される。カルボキシル基の塩は、自体公知の方法で製造することができ、無機塩、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄および亜鉛の塩ならびに、有機塩基、例えばアミン、例えばトリエタノールアミン、アルギニン、リシン、ピペリジン等との塩を包含する。酸付加塩、例えば鉱酸、例えば塩酸または硫酸との塩ならびに、有機酸、例えば酢酸およびシュウ酸との塩はまた同様に、本発明の対象である。
【0054】
本発明に従う酵素の「機能的誘導体」は同様に、公知の技術を用いて、機能的アミノ酸側鎖基またはそのN-もしくはC-末端で製造され得る。そのような誘導体は、例えばカルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアまたは1級もしくは2級アミンとの反応により得られるカルボキシル基のアミド、;アシル基との反応により製造される遊離アミノ基のN-アシル誘導体;または、アシル基との反応により製造される遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体を包含する。
【0055】
天然には、「機能的等価物」はまた、他の生物から得ることができるポリペプチドおよび天然に生じる変異体を包含する。例えば、相同配列の領域は、配列アラインメントによって決定することができ、等価な酵素は、本発明の特定の必要条件に基づいて確立することができる。
【0056】
「機能的等価物」はさらには、天然のラセマーゼ配列の1つまたはそれから誘導される機能的等価物、および機能的N-またはC-末端結合においてそれとは機能的に異なる(すなわち、融合タンパク質部分の機能の実質的な共通の欠陥を有していない)少なくとも1種の他の非相同配列を有する融合タンパク質である。そのような非相同配列の限定されない例は、例えばシグナルペプチドまたは酵素である。
【0057】
本発明によりまた包含される「機能的等価物」は、天然のタンパク質の相同体である。これらは、Pearson および Lipman, Proc. Natl. Acad, Sci. (USA) 85(8), 1988, 2444-2448のアルゴリズムにより計算して、少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、特に少なくとも85%、例えば90%、95%または99%の、天然のアミノ酸配列の1つに対する相同性を有する。本発明に従う相同ポリペプチドのパーセント相同性は特に、本発明に従う酵素または酵素サブユニットのアミノ酸配列の1つの全長に基づくアミノ酸残基のパーセント同一性を意味する。
【0058】
タンパク質のグリコシル化の場合には、本発明に従う「機能的等価物」は、脱グリコシル化形態またはグリコシル化形態、およびグリコシル化パターンを変えることにより得ることができる変性形態での、先に特定したタイプのタンパク質を包含する。
【0059】
本発明に従うタンパク質またはポリペプチドの相同体は、例えばタンパク質の点変異または短小化による変異誘発によって生じさせることができる。
【0060】
本発明に従うラセマーゼの相同体は、変異体、例えば短小化変異体の組合せライブラリーをスクリーニングすることによって同定することができる。例えば、核酸レベルでの組合せ変異誘発によって、例えば合成オリゴヌクレオチドの混合物の酵素的連結によって、タンパク質変形体の多彩なライブラリーを生じさせることが可能である。変性したオリゴヌクレオチド配列について可能な相同体のライブラリーを生じさせるのに使用することができる多数の方法がある。変性遺伝子配列の化学的合成は、自動DNA合成機で行うことができ、よって合成遺伝子は、適当な発現ベクターに結合され得る。変性したひとそろいの遺伝子の使用は、1つの混合物で、所望のひとそろいの可能なタンパク質配列をエンコードする全ての配列を提供することを可能にする。変性したオリゴヌクレオチドを合成する方法は、当業者に公知である(例えばNarang, S.A. (1983) Tetrahedron 39:3; Itakura ら (1984) Annu. Rev. Biochem. 53:323; Itakura ら, (1984) Science 198:1056; Ike ら (1983) Nucleic Acids Res. 11:477)。
【0061】
従来技術から、点変異または短小化により生成された組合せライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングするための種々の技術、および選択された特性を有する遺伝子産物についてcDNAライブラリーをスクリーニングするための種々の技術が知られている。これらの技術は、本発明に従う相同体の組合せ変異誘発によって生じた遺伝子ライブラリーの迅速スクリーニングに適合させることができる。高処理量分析を受けている大きな遺伝子ライブラリーをスクリーニングするために最も頻繁に使用される技術は、遺伝子ライブラリーの複製可能な発現ベクターへのクローニング、得られるベクターライブラリーを有する適当な細胞を形質転換させること、および必要とされる活性の検出が、その産物が検出された遺伝子をエンコードするベクターの分離を促進する条件下で組合せ遺伝子を発現させることを含み、帰納的アンサンブル変異誘発(REM)-ライブラリーにおける機能的変異体の頻度を増加させる技術-を、相同体を同定するためにスクリーニング試験と組合せて使用することができる(Arkin および Yourvan (1992) PNAS 89:7811-7815; Delgrave ら (1993) Protein Engineering 6(3):327-331)。
【0062】
D. 核酸配列のコード化
本発明はまた、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素をエンコードする核酸配列に関する。好ましい核酸配列は、上記微生物から分離することができるラセマーゼの天然のアミノ酸配列から誘導される核酸配列を含むものである。
【0063】
本発明に従う核酸配列の全て(単鎖および二重鎖DNAおよびRNA配列、たとえばcDNAおよびmRNA)は、自体公知のやり方で、化学的合成、例えば二重らせんの個々の重複する相補的核酸単位の断片縮合によって、ヌクレオチド単位から生じさせることができる。オリゴヌクレオチドの化学的合成は、例えば公知のやり方で、ホスホアミダイト法(Voet, Voet, 第2版, Wiley Press New York, pages 896-897)を用いて行なうことができる。合成オリゴヌクレオチドのアニーリングおよびギャップをDNAポリメラーゼクレノウ断片を用いて満たすこと、およびライゲーション反応、ならびに一般的クローニング法は、Sambrook ら(1989), 分子クローニング:実験室便覧(Molecular Cloning: A laboratory manual), Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている。
【0064】
特に、本発明は、本発明に従う酵素の1つをエンコードする核酸配列(単鎖および二重鎖DNAおよびRNA配列、たとえばcDNAおよびmRNA)ならびに、例えば人工ヌクレオチド類似体を用いることによって得ることができるその機能的等価物に関する。
【0065】
本発明は、本発明に従うポリペプチドまたはタンパク質をエンコードする分離された核酸分子またはその生物学的に活性なセグメントと、例えば本発明に従うコード核酸を同定または増幅するためのハイブリッド化プローブまたはプライマーとしての使用に使用することができる核酸断片との両方に関する。
【0066】
本発明に従う核酸分子は追加的に、遺伝子のコード領域の3’および/または5’末端からの未翻訳配列を含むことができる。
【0067】
本発明はさらに、個別に記載されたヌクレオチド配列に相補的な核酸分子またはそのような核酸分子のセグメントを包含する。
【0068】
本発明に従う核酸配列は、他の細胞タイプおよび生物において相同配列を同定および/またはクローニングするのに使用することができるプローブおよびプライマーの生成を可能にする。そのようなプローブおよびプライマーは通常、厳密な条件下(以下参照)で、少なくとも約12個、好ましくは少なくとも約25個、例えば約40、50または75個の、本発明に従う核酸配列のセンス鎖または対応するアンチセンス鎖の連続的なヌクレオチドとハイブリッド形成する、ヌクレオチド配列領域を含む。
【0069】
「単離された」核酸分子は、核酸の天然の供給源に存在する他の核酸分子から分離され、さらには、組換え技術によって製造されるなら、他の細胞物質または培養培地を本質的に有していないか、または化学合成されるなら、化学的前駆体もしくは他の化学物質を有していなくてもよい。
【0070】
本発明に従う核酸分子は、分子生物学の標準の技術および本発明に従い提供される配列情報を用いて単離することができる。例えば、cDNAは、適当なcDNAライブラリーから、ハイブリッド形成プローブとして特に開示された完全な配列またはそのセグメントの1つおよび標準のハイブリッド形成技術を用いて、単離することができる(例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F. および Maniatis, T. 分子クローニング:実験室便覧(Molecular Cloning: A Laboratory Manual). 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載)。その上、開示された配列の1つを含む核酸配列またはそのような分子のセグメントが、この配列に基づいて生成されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリマラーゼ鎖反応によって分離されることが可能である。このようにして増幅された核酸は、適当なベクターへとクローン化することができ、DNA配列分析によって特性決定することができる。本発明に従うオリゴヌクレオチドはさらには、例えば自動DNA合成機を用いて、標準の合成法によって生成されることができる。
【0071】
原則として、本発明に従う核酸配列は、全ての生物から同定され、単離され得る。本発明に従う核酸配列は有利には、上記したタイプの細菌から単離することができる。
【0072】
本発明に従う核酸配列またはその誘導体、これらの配列の相同体または一部は、慣用のハイブリッド形成方法またはPCR技術を用いて、例えばゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーによって、他の微生物から単離することができる。これらのDNA配列は、標準の条件下で本発明に従う配列とハイブリッド形成する。ハイブリッド形成のために、当業者に公知のやり方で、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼと比較することによって同定することができる、保存領域の短いオリゴヌクレオチド、例えば活性中心を用いるのが有利である。あるいは、本発明に従う核酸の長い断片または完全な配列をハイブリッド形成のために使用することができる。使用される核酸(オリゴヌクレオチド、長い断片もしくは完全な配列)に依存して、またはハイブリッド形成のために使用される核酸(DNAもしくはRNA)のタイプに依存して、これらの標準の条件は変わる。かくして、例えばDNA:DNAハイブリッドの融点は、同じ長さのDNA:RNAハイブリッドの融点より約10℃低い。
【0073】
例えば標準条件は、核酸に依存して、0.1〜5 x SSC(1 x SSC = 0.15M NaCl, 15mMクエン酸ナトリウム、pH7.2)の濃度の水性緩衝溶液中で、または追加的に50%ホルムアミドの存在下で42〜58℃の温度、例えば5 x SSC、50%ホルムアミドで42℃を意味すると理解される。DNA:DNAハイブリッドについては、ハイブリッド形成条件は、有利には0.1 x SSCおよび約20〜45℃の温度、好ましくは約30〜45℃の温度である。DNA:RNAハイブリッドについては、ハイブリッド形成条件は、有利には0.1 x SSCおよび約30〜55℃の温度、好ましくは約45〜55℃の温度である。ハイブリッド形成のために述べられたこれらの温度は、約100個のヌクレオチドの長さおよびホルムアミド不在下で50%のG + C含量を有する核酸の例として計算された融点である。DNAハイブリッド形成のための実験条件は、遺伝の関連する教科書、例えばSambrook ら, “分子クローニング(Molecular Cloning)”, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989に記載されており、例えば核酸の長さ、ハイブリッドのタイプまたはG + C含量の関数として、当業者に公知の式を用いて計算することができる。ハイブリッド形成についてのさらなる情報は、以下の教科書において当業者が見出すことができる:Ausubel ら(編), 1985, 分子生物学における現行のプロトコール(Current Protocols in Molecular Biology), John Wiley & Sons, New York; Hames および Higgins (編), 1985, 核酸のハイブリッド形成:実際的アプローチ(Nucleic Acids Hybridization: A Practical Approach), Oxford University PressのIRL Press, Oxford; Brown (編), 1991, 本質的分子生物学:実際的アプローチ(Essential Molecular Biology: A Practical Approach), Oxford University Pressの IRL Press, Oxford。
【0074】
本発明はまた、特に開示されているか、または誘導可能な核酸配列の誘導体に関する。
【0075】
かくして、本発明に従うさらなる核酸配列は、天然の配列から誘導することができ、特性の所望のプロファイルを有するポリペプチドをなおエンコードしながら、1個以上のヌクレオチドの付加、置換、挿入または欠失によりそれとは異なる。
【0076】
本発明にしたがってまた包含されるのは、サイレント変異として知られているものを含むか、または、天然に生じる変異体、例えばそのスプライス変異体または対立遺伝子変異体のように、特定の供給源または宿主生物のコドン使用に従って、特に挙げられた配列と比べて変性されている核酸配列である。
【0077】
保存ヌクレオチド置換によって得ることができる配列(すなわち、問題となるアミノ酸が、同じ電荷、大きさ、極性および/または溶解性を有するアミノ酸で置換されている)がまた対象である。
【0078】
本発明はまた、配列の多形性により特に開示された核酸から誘導される分子に関する。これらの遺伝的多形性は、天然の変異に帰する集団内の個体内に存在し得る。これらの天然の変異は通常、遺伝子のヌクレオチド配列において約1〜5%の変動を引起す。
【0079】
本発明に従う核酸の誘導体は、例えば、全配列領域にわたって、導き出されたアミノ酸レベルで少なくとも40%の相同性、好ましくは60%の相同性、大いに特に好ましくは少なくとも80%の相同性を有する対立遺伝子変異体を意味すると理解される(アミノ酸レベルでの相同性に関しては、ポリペプチドに関する上記の説明が参照され得る)。有利には、相同性レベルは、配列の部分-領域にわたって高くあり得る。
【0080】
誘導体はまた、本発明に従う核酸配列の相同体、例えば真菌または細菌相同体、短小化配列、コードおよび非コード配列の単鎖DNAもしくはRNAを意味すると理解される。かくして、例えば配列番号1に対する相同体は、配列番号1において決められた全DNA領域にわたって、DNAレベルで少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、大いに特に好ましくは少なくとも80%の相同性を有する。
【0081】
誘導体はさらには、例えばプロモーターとの融合を意味すると理解される。上記ヌクレオチド配列に先行するプロモーターは、プロモーターの機能または効力に悪影響を及ぼすことなしに、1つ以上のヌクレオチド置換、挿入、転化および/または欠失によって変性されていることができる。さらには、プロモーターの効力は、その配列を変性することによって増加され得るか、または、プロモーターは、さらに有効なプロモーター(非相同の生物からのものを含む)によって完全に置換されることができる。
【0082】
誘導体はまた、出発コドンの上流-1〜-1000塩基の領域または終止コドンの下流0〜1000塩基の領域におけるそのヌクレオチド配列が、遺伝子発現および/またはタンパク質発現が変性される、好ましくは増加されるような方法で変性されている変異体を意味すると理解される。
【0083】
本発明はさらには、「厳密な条件下で(under stringent conditions)」上記したコード配列とハイブリッド形成する核酸配列に関する。これらのポリヌクレオチドは、ゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングするときに同定され、適当なら、適当なプライマーを用いたPCRによって増幅され、その後、例えば適当なプローブを用いて分離されることができる。その上、本発明に従うポリヌクレオチドはまた、化学的に合成することができる。この特徴は、厳密な条件下でポリ-またはオリゴヌクレオチドのほとんどの相補的配列に結合する能力を意味すると理解され、一方、これらの条件下で非相補的パートナー間の非特異的結合はない。この目的のためには、配列は、70〜100%、好ましくは90〜100%の相補性を有するべきである。互いに特異的に結合することができる相補的配列の特徴は、例えばノーザンもしくはサザンブロット法において、またはプライマー結合の場合にはPCRもしくはRT-PCRにおいて利用される。通常、30個以上の塩基対の長さを有するオリゴヌクレオチドが、この目的のために使用される。厳密な条件は、例えばノーザンブロット法においては、非特異的なハイブリッド形成したcDNAプローブまたはオリゴヌクレオチドを溶解するために、50〜70℃、好ましくは60〜65℃の温度の洗浄溶液、例えば0.1%SDSを有する0.1 x SSC緩衝液(20 x SSC: 3M NaCl, 0.3M クエン酸Na、pH7.0)を使用することを意味すると理解される。この場合には、上記したように、高程度の相補性を有する核酸のみが互いに結合したままである。厳密な条件の設定は、当業者に公知であり、例えばAusubel ら, 分子生物学における現行のプロトコール(Current Protocols in Molecular Biology), John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に記載されている。
【0084】
E. 本発明に従う構築物
本発明はさらには、調節核酸配列の遺伝的制御下で、本発明の酵素をエンコードする核酸配列を含む発現構築物、および少なくとも1つのこれらの発現構築物を含むベクターに関する。
【0085】
本発明に従うそのような構築物は好ましくは、特定のコード配列から5’-上流のプロモーターおよび3’-下流のターミネーター配列を包含し、適当な場合には、それぞれの場合、コード配列に動作可能に結合されたさらなる慣用の調節要素を包含する。
【0086】
「動作可能な結合(operable linkage)」は、それぞれの調節要素がコード配列の発現において意図される機能に従うことができるような方法での、プロモーター、コード配列、ターミネーター、および適当な場合には他の調節要素の連続的配列を意味すると理解される。動作可能な結合をすることができる配列の例は、標的配列およびまたエンハンサー、ポリアデニル化シグナル等である。他の調節要素は、選択可能なマーカー、増幅シグナル、複製源等を含む。適当な調節配列は、例えばGoeddel, 遺伝子発現技術:酵素学における方法(Gene Expression Technology: Methods in Enzymology) 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。
【0087】
本発明に従う核酸構築物は、特に天然のα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ遺伝子ならびにその誘導体および相同体を意味すると理解され、それらは、有利には制御のために、例えば遺伝子発現を増加させるために、1つ以上の調節シグナルと動作可能に、または機能的に結合されている。
【0088】
これらの調節配列のほかに、これらの配列の天然の調節はなお、実際の構造遺伝子の前に存在することができ、適当なら、天然の調節がスイッチを切られ、遺伝子の発現が増加されるように、遺伝的に変性されていることができる。しかしながら、核酸構築物はまた、構成においてより簡単であることができる。すなわち、追加の調節シグナルがコード配列の前に挿入されておらず、天然のプロモーターが、その調節と一緒に除かれていないことである。その代わり、天然の調節配列は、調節がもはや起こらず、遺伝子発現が増加されるような方法で変異される。
【0089】
好ましい核酸構築物は有利にはまた、核酸配列の促進された発現を可能にする1つ以上の上記したエンハンサー配列を、プロモーターと動作可能な結合で含む。DNA配列の3’末端にはまた、追加の有利な配列、例えばさらなる調節要素またはターミネーターが挿入され得る。本発明に従う核酸の1つ以上のコピーが、構築物に存在し得る。さらなるマーカー、例えば抗生物質に対する抵抗性または、栄養要求性-補足遺伝子が、適当なら構築物の選択のために追加的に存在し得る。
【0090】
本発明に従う方法のために有利な調節配列は、例えばプロモーター、例えばcos, tac, trp, tet, trp-tet, lpp, lac, lpp-lac, lacIq-, T7, T5, T3, gal, trc, ara, rhaP (rhaPBAD)SP6, lambda-PR または lambda-PLプロモーターに存在し、これらは、好ましくはグラム陰性菌において使用される。他の有利な調節配列は、例えばグラム陽性プロモーターamyおよびSPO2、酵母もしくは真菌のプロモーターADC1, MFalpha , AC, P-60, CYC1, GAPDH, TEF, rp28, ADHに存在する。人工のプロモーターをまた調節のために使用できる。
【0091】
宿主生物における発現のために、核酸構築物は有利には、ベクター、例えばプラスミドもしくはファージに挿入され、これらは、宿主における遺伝子の最適発現を可能にする。ベクターは、プラスミドおよびファージの他に、当業者に公知の全ての他のベクター、すなわち、例えばウィルス、例えばSV40、CMV、バキュロウィルスおよびアデノウィルス、トランスポゾン、IS 因子、ファスミド、コスミド、および線状もしくは環状のDNAを意味すると理解される。これらのベクターは、宿主生物における自律的複製または染色体複製を受けることができる。これらのベクターは、本発明のさらなる態様を構成する。適当なプラスミドは、例えばE. coliにおけるpLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223-3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λ gt11もしくはpBdCI、StreptomycesにおけるpIJ101、pIJ364、pIJ702もしくはpIJ361、BacillusにおけるpUB110、pC194もしくはpBD214、CorynebacteriumにおけるpSA77もしくはpAJ667、真菌におけるpALS1、pIL2もしくは pBB116、酵母における2alphaM、pAG-1、YEp6、YEp13もしくはpEMBLYe23、または植物におけるpLGV23、pGHlac+、pBIN19、pAK2004もしくはpDH51である。上記したプラスミドは、可能なプラスミドのわずかの選択である。他のプラスミドは、当業者によく知られており、例えばクローニングベクター(Cloning Vectors) (編集者 Pouwels P. H.ら、Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985 , ISBN 0 444 904018)という本において見出すことができる。
【0092】
存在するさらなる遺伝子の発現のために、核酸構築物は有利には、発現を促進するために3’-および/または5’-末端調節配列を追加的に含み、そのような配列は、選ばれた宿主生物および遺伝子の機能として、最適発現のために選択される。
【0093】
これらの調節配列は、遺伝子の特異的発現およびタンパク質発現を可能にすると解釈される。宿主生物に依存して、これは、例えば、誘発後にのみ遺伝子が発現されるかまたは過剰発現されること、またはそれが直ちに発現されるか、および/または過剰発現されることを意味し得る。
【0094】
調節配列または因子は好ましくは、正の効果を有することができ、従って導入された遺伝子の遺伝子発現を増進することができる。かくして、調節要素の増進は、強い転写シグナル、例えばプロモーターおよび/またはエンハンサーを用いることによって、転写レベルで有利に起こり得る。しかしながら、mRNAの安定性を改善することによって翻訳を増進することがまた可能である。
【0095】
ベクターのさらなる実施態様においては、本発明に従う核酸構築物または本発明に従う核酸を含むベクターは有利にはまた、線状DNAの形態で微生物中に導入され、非相同もしくは相同の組換えによって宿主生物のゲノムに組み込まれることができる。この線状DNAは、線状にされたベクター、例えばプラスミドからなるか、または本発明に従う核酸構築物もしくは核酸のみからなり得る。
【0096】
生物における非相同遺伝子の最適発現のためには、生物において使用される特異的コドン使用頻度に従って核酸配列を変性するのが有利である。コドン使用頻度は、当該生物の他の公知の遺伝子のコンピュータ評価によって、容易に決定することができる。
【0097】
本発明に従う発現カセットは、適当なプロモーターを適当なコドンヌクレオチド配列およびターミネーターシグナルもしくはポリアデニル化シグナルに融合することによって製造される。例えばT. Maniatis, E.F. Fritsch および J. Sambrook, 分子クローニング:実験室便覧(Molecular Cloning: A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989) 、 T.J. Silhavy, M.L. Berman および L.W. Enquist, 遺伝子融合を用いる実験(Experiments with Gene Fusions), Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1984) ならびに、Ausubel, F.M. ら, 分子生物学における現行プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology), Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience (1987)に記載されるような慣用の組換えおよびクローニング技術が、この目的のために使用される。
【0098】
適当な宿主生物における発現のために、組換え核酸構築物または遺伝子構築物は有利には、宿主において遺伝子の最適発現を可能にする宿主特異的なベクターに挿入される。ベクターは当業者によく知られており、例えば”クローニングベクター(Cloning Vectors)” (Pouwels P. H. ら, 編., Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985)において見出すことができる。
【0099】
F. 本発明による有用な宿主
本発明に従うベクターは、少なくとも1つの本発明に従うベクターを用いて形質転換され、本発明に従う酵素の製造に使用することができる組換え微生物の生成を可能にする。上記した本発明に従う組換え構築物は有利には、適当な宿主系に導入され、そこで発現される。これに関しては、当業者によく知られたクローニングおよびトランスフェクション法、例えば共沈、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、レトロウィルストランスフェクション等が、当該発現系において上記した核酸を発現させるために使用される。適当な系は、例えば分子生物学における現行プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology), F. Ausubel ら編, Wiley Interscience, New York 1997, または Sambrook ら、分子クローニング:実験室便覧(Molecular Cloning: A Laboratory Manual). 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されている。
【0100】
相同の組換えを受けた微生物をまた、本発明に従って製造することができる。このために、本発明に従う遺伝子またはコード配列の少なくとも1つのセグメントを含むベクターが製造され、これには、適当なら、本発明に従う配列を変性するために、例えば機能的に破壊するために、少なくとも1つのアミノ酸欠失、付加または置換が導入されている(「ノックアウトベクター」)。導入された配列は、例えばまた、関連する微生物からの相同体であることができるか、またはさもなければ、哺乳動物、酵母もしくは昆虫源から誘導されることができる。しかしながら、相同の組換えに使用されるベクターはまた、なお機能的タンパク質をエンコードしながら、相同の組換えをしたなら、内因性遺伝子が変異されるかさもなければ変性されるような方法で、設計され得る(例えば、上流の調節領域は、内因性タンパク質の発現がかくして変性されるようなやり方で変性されることができる)。本発明に従う遺伝子の変性されたセグメントは、相同の組換えベクターに存在する。相同の組換えのために適当なベクターの構築は、例えばThomas, K.R. および Capecchi, M.R. (1987) Cell 51:503に記載されている。
【0101】
本発明に従う核酸または核酸構築物のために適当な組換え宿主生物は、原則として全ての原核生物または真核生物である。微生物、例えば細菌、真菌または酵母は、宿主生物として有利に使用される。グラム陽性菌またはグラム陰性菌は有利に使用される。Escherichia coli属および種は、大いに特に好ましい。
【0102】
本発明に従う宿主生物は好ましくは、本発明において記載され、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素をエンコードする、少なくとも1つの核酸配列、核酸構築物またはベクターを含む。
【0103】
宿主生物に依存して、本発明の方法において使用される生物は、当業者に良く知られたやり方で培養もしくは増殖される。概して、微生物は、通常糖の形態での炭素源、通常有機窒素源、例えば酵母抽出物または塩、例えば硫酸アンモニウムの形態での窒素源、痕跡元素、例えば鉄、マンガン、マグネシウムの塩および適当ならビタミンを含む液体培地で、0〜100℃、好ましくは10〜60℃の温度で、酸素を通しながら、培養される。液体栄養培地のpHは一定に保持されることができ、すなわち培養期間中調整されるかまたはされないことができる。微生物は、バッチ式、半バッチ式または連続的に培養されることができる。栄養分は、発酵の始めに提供されるか、または半連続的もしくは連続的に供給され得る。ケトンを、培養期間中に、または有利にはその後に、直接添加することができる。酵素は、実施例に記載された方法によって生物から分離することができるかまたはさもなければ、粗抽出物の形態で反応に使用することができる。
【0104】
G. 本発明の酵素の組換え製造
本発明はさらに、本発明に従うポリペプチドまたは機能的な生物学的に活性なその断片の組換え製造するための方法であって、ポリペプチドを製造する微生物が培養され、適当ならポリペプチドの発現が誘発され、かつポリペプチドが培養物から分離される方法に関する。所望なら、ポリペプチドはまた、このやり方で、工業的規模で製造することができる。
【0105】
組換え微生物は、公知の方法で培養し、発酵させることができる。細菌は、例えばTBまたはLB培地で、20〜40℃の温度で、6〜9のpH値で増殖させることができる。適当な個々の培養条件は、例えばT. Maniatis, E.F. Fritsch および J. Sambrook, 分子クローニング:実験室便覧(Molecular Cloning: A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)に記載されている。
【0106】
ポリペプチドが培養培地に分泌されなければ、細胞は破壊され、生成物は、公知のタンパク質分離法によって細胞溶解物から得られる。細胞は、高周波数の超音波によって、例えばフレンチプレッシャー細胞(French pressure cell)においては高圧によって、オスモリシス(osmolysis)によって、洗剤、細胞溶解酵素もしくは有機溶媒を作用させることによって、ホモジナイザーによって、または上記した方法を幾つか組合わせることによって破壊することができる。
【0107】
ポリペプチドは、公知のクロマトグラフィー法、例えば分子ふるいクロマトグラフィー(ゲルろ過)、例えばQ-セファロースクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性クロマトグラフィーを用いて、またはさもなければ他の慣用の方法、例えば限外ろ過、結晶化、塩析、透析および自然ゲル電気泳動によって、精製することができる。適当な方法は、例えばCooper, F. G., Biochemische Arbeitsmethoden [生化学における方法(Methods in Biochemistry)], Verlag Walter de Gruyter, Berlin, New York またはScopes, R., タンパク質精製(Protein Purification), Springer Verlag, New York, Heidelberg, Berlinに記載されている。
【0108】
組換えタンパク質を分離するために、特異的ヌクレオチド配列によってcDNAを伸長し、かくして、例えば簡単な精製のために役に立つ変性ポリペプチドまたは融合タンパク質をエンコードする、ベクター系またはオリゴヌクレオチドを使用するのが有利であり得る。そのような適当な変性は、例えば、アンカー、例えばヘキサ-ヒスチジンアンカーとして知られた変性または、抗原として抗体により認識されることができるエピトープとして作用する「標識」として知られているものである(例えば、Harlow, E. および Lane, D., 1988, 抗体:実験室便覧(Antibodies: A Laboratory Manual). Cold Spring Harbor (N.Y.) Pressに記載されている)。これらのアンカーは、タンパク質を、固体支持体、例えば、例えばクロマトグラフィーカラムに詰めるのに使用することができるポリマーマトリックスに、またはさもなければマイクロタイタープレートもしくは任意の他の支持体に付けるのに役立つことができる。
【0109】
これらのアンカーは同時にまた、タンパク質を同定するのに使用することができる。さらには、慣用の標識、例えば蛍光染料、基質との反応後に検出可能な反応生成物を形成する酵素標識、または放射性標識は、単独またはアンカーと組合せて、タンパク質を誘導するためにタンパク質を同定するのに追加的に使用することができる。
【0110】
H. 本発明による酵素の非組換え分離
本発明に従う酵素は上記した天然の供給源の1つ(Lactobacillus株)から、またはα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を発現し、本発明のスクリーニング法によって同定された別の微生物から、適切に分離される。
【0111】
微生物は、公知の方法によって培養され、発酵されることができる。ポリペプチドが培養培地に分泌されなければ、細胞は破壊され、生成物は、公知のタンパク質分離法によって細胞溶解物から得られる。細胞は、高周波数の超音波によって、例えばフレンチプレッシャー細胞(French pressure cell)においては高圧によって、オスモリシス(osmolysis)によって、洗剤、細胞溶解酵素もしくは有機溶媒を作用させることによって、ホモジナイザーによって、または上記した方法を幾つか組合わせることによって破壊することができる。
【0112】
ポリペプチドは、公知のクロマトグラフィー法、例えば分子ふるいクロマトグラフィー(ゲルろ過)、例えばQ-セファロースクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性クロマトグラフィーを用いて、またはさもなければ他の慣用の方法、例えば限外ろ過、結晶化、塩析、透析および自然ゲル電気泳動によって、精製することができる。適当な方法は、例えばCooper, F. G., Biochemische Arbeitsmethoden [生化学における方法(Methods in Biochemistry)], Verlag Walter de Gruyter, Berlin, New York またはScopes, R., タンパク質精製(Protein Purification), Springer Verlag, New York, Heidelberg, Berlinに記載されている。
【0113】
I. α-ヒドロキシカルボン酸の異性化のための本発明の実行
α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素は、遊離の酵素として、または不動化された酵素として、本発明の方法において使用することができる。
【0114】
本発明の方法は有利には、0〜95℃、好ましくは10〜85℃、特に好ましくは15〜75℃、特に25〜40℃の温度で行なわれる。
【0115】
本発明の方法におけるpH値は有利には、pH4〜12、好ましくはpH4.5〜9、特に好ましくはpH5〜8に維持される。
【0116】
本発明の方法は、本発明に従う核酸、核酸構築物またはベクターを含む、増殖している細胞を使用することができる。あるいは、休止もしくは破壊細胞を使用することができる。破壊細胞は、例えば、例えば溶媒で処理することによって透過性にされた細胞またはさもなければ、酵素処理、機械的処理(例えばフレンチプレスもしくは超音波)または任意の他の方法によって破壊された細胞を意味すると理解される。かくして得られた粗抽出物は有利には、本発明の方法のために適当である。完全にまたは一部精製された酵素がまた、本発明の方法に使用できる。不動化した微生物または酵素が同様に適当であり、これらは、有利に反応に使用することができる。
【0117】
遊離の生物または不動化された酵素が本発明の方法に使用されるなら、それらは、例えばろ過または遠心分離による抽出工程の前に、適切に分離される。
【0118】
本発明の方法において製造される生成物は、水性反応溶液から、抽出または蒸留によって有利に回収することができる。収率を高めるために、抽出工程を数回繰り返すことができる。適当な抽出剤の例は、当業者によく知られた慣用の溶媒、例えばトルエン、塩化メチレン、ジイソプロピルエーテル、ベンゼン、MTBEまたは酢酸エチルであるが、限定されることはない。
【0119】
有機相の濃縮後、生成物を、概して良好な化学純度で、すなわち80%より上の化学純度で回収することができる。しかしながら、生成物を含む有機相はまた、抽出後、一部しか濃縮されることはなく、生成物は、析出させることができる。このために、溶液は有利には、0〜10℃の温度に冷却される。しかし、結晶化はまた、有機溶液または水性溶液から直接行なうことができる。析出した生成物は、再結晶のために、同じかもしくは異なる溶媒に再び溶解し、再結晶させることができる。
【0120】
本発明の方法は、バッチ式、半バッチ式または連続的に操作することができる。
【0121】
この方法は、バイオリアクター、例えばBiotechnology, 第3巻, 第2版, Rehm ら (編), (1993)の特に第II章に記載されたバイオリアクターにおいて有利に行なうことができる。
【0122】
K. 本発明のさらなる適用
本発明は、本発明に従う異性化反応の種々のさらなる可能な適用を展開する。いかなる限定をすることもなく、以下の例を挙げることができる。
【0123】
a) 所望の生成物の除去後、従来のラセメート分離における望ましくない立体異性体を「再利用」するためのα-ヒドロキシカルボン酸のラセミ化。その利点は、適切な酵素的ラセミ化反応であり;それに対して、化学的に触媒されたラセミ化反応は通常、強烈な反応条件下で進み、これは分解、二次生成物の形成および副反応(脱離等)に至る。(また、以下と比較:Kontrollierte Racemisierung von organischen Verbindungen [有機化合物の制御されたラセミ化(Controlled racemization of organic compounds)]: E. J. Ebbers, G. J. A. Ariaans, J. P. M. Houbiers, A. Bruggink, B. Zwanenburg, Tetrahedron, 1997, 53, 9417-9476)
b) α-ヒドロキシカルボン酸の段階的脱ラセミ化。ラセマーゼが、(化学的または酵素的に触媒された)エナンチオ選択的工程における「1ポットプロセス」に直接使用することができないなら(例えば必要とされる反応条件のため)、酵素的ラセミ化は、エナンチオ選択的工程後に、鏡像体生成物を分離することなしに行なわれる(マンデレートラセマーゼを使用する類似の例参照:U. T. Strauss, K. Faber, Tetrahedron: Asymmetry, 1999, 10, 4079-4081)。
【0124】
c) 適用の理想的な場合は、「動的ラセメート分離」として知られる「1ポットプロセス」におけるラセマーゼと化学-もしくは生物触媒工程との直接の組合せに対応する。そのような方法は、洗練され、きわめて有効である。
【0125】
本発明に従うラセミ化と組合せることができるエナンチオ選択的な工程の例として以下を挙げることができる:
(i) リパーゼが触媒するエステル化、例えばアシル転移反応(U. T. Strauss, K. Faber, Tetrahedron: Asymmetry, 1999, 10, 4079-4081)。
【0126】
(ii) リパーゼ-またはプロテアーゼが触媒するアミド形成(F. van Rantwijk, M. A. P. J. Hacking, R. A. Sheldon, Monatsh. Chem. / Chem. Monthly, 2000, 131, 549-569)。
【実施例】
【0127】
先の説明および以下の実施例は、単に本発明を説明するものと解釈される。当業者に明らかな多数の可能な変形がまた、本発明の範囲内に入る。
【0128】
実験の部
A. 一般的情報
1. 使用した装置および方法
薄層クロマトグラフィー
薄層クロマトグラフィーによって、反応が監視され、生成物の純度が調べられる。Merckからの、アルミ箔上のシリカゲル60F254をこの目的のために使用した。検出は、UV光(254nm)と、モリブデン酸塩溶液[(NH4)6Mo7O24 x 4H2O (100g/l) および Ce(SO4)2 x 4H2O (4g/l) 、H2SO4 (10%)中]の噴霧後加熱との両方によって行った。
【0129】
カラムクロマトグラフィー
ラセミ化生成物は、カラムクロマトグラフィーにより精製される。Merckからの、43〜63μmの粒径を有するシリカゲルを、この目的のために静止相として使用した。石油エーテル(PE)および酢酸エチル(EA)の混合物を溶離剤として使用し、組成物は、当該分離問題に合うように適合された。分離は、昇圧下で行なった。
【0130】
ガスクロマトグラフィー
ラセミ化生成物のガスクロマトグラフィー分離は、Varianガスクロマトグラフィー3800 - スプリット/スプリットレス インジェクター(FID)を用いて行なった。使用したカラムは、Chirasil-DEX, Chrompack, パーメチル-β-シクロデキストリン、 化学的に結合、 25m x 0.32mm x 0.25 μm, H2であった。適当な分離条件の例を以下の表1に示す。
【表1】

【0131】
NMR
Bruker 360 または 500 MHz を使用して1H--および13CNMRスペクトルを記録し;化学シフトはppmで表し(δスケール);テトラメチルシラン(TMS)を内部標準として使用した。
【0132】
HPLC
JASCO HPLC 系タイプ PU-980 ポンプ およびMD 910 UV 検出器によって、e.e.値を決定した。DAICEL Chiralpack AD (0.46 cm x 25 cm)カラムを分離のために使用した。
【0133】
融点
融点は、GALLENKAMPからのMPD 350.BML.5を使用して決定した。
【0134】
2. 微生物学的方法および材料
2.1 培養物の培養
菌株
表2は、研究した菌株、その培養条件およびその寄託番号のリストを含む。
【表2】

【0135】
菌株の維持
菌株は、特定の寒冷溶液中で細胞を凍結させることによって維持した。このために、培養物を滅菌遠心分離管に移し、8000rpmおよび4℃で30分間遠心分離し、上清溶液をデカンテーションで排出した。その後、細胞を寒冷溶液中に懸濁させ、滅菌びんに移し、-70℃に維持した。使用した寒冷溶液は、20体積%のDMSOおよびH2O中0.7重量%のNaClの溶液(Solkner)または、5体積%のH2Oを有するグリセロール(Weigers)であった。
【0136】
菌株の培養
培養物は、(菌株に依存して)30℃または37℃の乾燥オーブン中1000mlのエルレンマイヤーフラスコ中で培養した。各菌株について、1リットルの当該滅菌培地をまず4つのフラスコに分け入れ、各場合に500μlの予め解凍しておいた細胞溶液と共に植え付けた。手順の全ての滅菌工程は、層流クリーンベンチ(Heraeus “Herasafe”, タイプ HS9)で行なった。
【0137】
細胞の採取
菌株に依存して3〜15日間の増殖期の後、細胞を採取した。このために、培養物は遠心分離管に移され、8000rpmおよび4℃にて20分間遠心分離され、上清をデカンテーションで排出した。細胞を洗浄するために、約40mlの緩衝液(50mMのBis-Tris、0.01MのMgCl2、pH=6)に懸濁させ、さらに20分間遠心分離した。洗浄工程を2回行なった。次に細胞を少量の緩衝液に再懸濁させ、丸底フラスコに移し、急速冷凍した。これは、液体窒素を入れたデュワーびん中でフラスコを渦をまくように動かすことによって行なった。Braunからの凍結乾燥機(「Christ Alpha 1-4」)で凍結乾燥を行なった。凍結乾燥細胞をガラスフラスコに移し、使用するまで冷蔵庫で貯蔵した。
【0138】
2.2 栄養培地および滅菌
該当する菌株のために推奨される栄養培地を、微生物を培養するために使用した。培地は、植え付ける前に、121℃および1バールの過大気圧でオートクレーブ処理することによって滅菌した(Varioklav水蒸気滅菌機、H+P Labortechnik GmbH, Munich)。
【0139】
培地11
以下の菌株のための栄養培地として、培地11を使用した:L. paracasei, L. acidophilus, L. brevis, L. halotolerans, L. confusus, L. farciminis, L. gasseri, L. alimentarius, L. jensenii, L. delbrueckii, L. curvatus, L. sakei ssp.sakei, L. kandeleri および L. fructosus。
【0140】
表3は、培地の組成を示す。起こり得るメイラード反応および塩の沈殿を防ぐために、培地の成分は別々に滅菌し、滅菌後にのみ合わせた。化合物、例えば還元糖がアミノ酸およびタンパク質と反応するときにメイラード反応が生じ、それは培地の黒ずんだ着色を引起す。
【表3】

【0141】
培地231
pH値に関してのみ培地11と異なる培地231を、L. acetotoleransのために使用した。表3に挙げた成分を合わせ、その後でのみ滅菌し、pHを5.2に調整した。
【0142】
培地92
培地92をL. piscicolaのために使用した。その組成を表4に示す。
【表4】

【0143】
培地372
培地372を、株Haloferax volcaniiおよびHaloarcula vallismortisのために使用した。
【表5】

【0144】
B. 行なった実験
実施例1: 基質および対照物質の合成
a) 鏡像体的に純粋な2-ヒドロキシ-3-フェニルプロピオネートの合成
反応混合物:1gの鏡像体的に純粋なフェニルアラニン(6.05ミリモル)が12mlのH2SO4(1M)に溶かされる。1.66g(24ミリモル)のNaNO2が、氷冷しながら分割して添加される。添加後、冷却系は除去され、反応混合物の撹拌が室温で1晩続けられる。
【0145】
製造: 水性溶液は、各場合4mlのエチルエーテルを用いて3回抽出され、有機相は飽和塩化ナトリウム溶液で洗浄され、塩化ナトリウム溶液は、エチルエーテルで1回再抽出される。合わせた有機相は、Na2SO4で乾燥され、溶媒はRotavaporで蒸発させられる。黄色の油状残渣は、2mlのヘキサンで処理され、ガラス棒でこすることによって結晶化される。白色結晶の沈殿が形成する。結晶は、約2mlのヘキサンを用いて3回洗浄され、溶媒の残部はロータリーエバポレーターで蒸発される。
旋光度(文献): (S)-乳酸フェニル:[α]=D25=-20.8(c=2,H2O)
(R)-乳酸フェニル:[α]=D25=+20.9(c=2.3 H2O)。
【0146】
b) rac-4-フルオロフェニルラクテートrac-3の合成
反応混合物:4.8mlのH2SO4(1M)中の400mg(2.2ミリモル)のrac-4-フルオロフェニルアラニン、670mg(9.7ミリモル)のNaNO2
収率:197mg(49.0%)、白色結晶
1H NMR: (360 MHz, CDCl3) δ = 2.97 (1H, dd, J1 = 7.2 Hz, J2 = 14.4 Hz, CH2); 3.17 (1H, dd, J1 = 3.6 Hz, J2 = 14.4 Hz, CH2); 4.49 (1H,dd, J1 = 3.6 Hz, J2 = 6.1 Hz, CH-OH); 6.98 - 7.02 (2H, m, Ar); 7.20 - 7.28 (2H, m, Ar).
13C NMR: (90 MHz, CDCl3) δ = 39.2 (CH2); 70.9 (CH-OH); 115.3 (d, J = 21.6 Hz, Ar-m); 130.9 (d, J = 21.6 Hz, Ar-o); 131.6 (d, J = 3.6 Hz, Ar-i); 162.1 (d, J = 243.9 Hz, Ar-p); 178.1 (COOH).
TLC データ: 溶媒:EA; RF = 0.35
融点: 73℃。
【0147】
c) (S)-4-フルオロフェニルラクテート(S)-3の合成
反応混合物:5.4mlのH2SO4(1M)中の452mg(2.5ミリモル)の(S)-4-フルオロフェニルアラニン、750mg(10.9ミリモル)のNaNO2
収率:330mg(72.5%)、白色結晶
1H NMR: rac-4-フルオロフェニルラクテート参照
13C NMR: rac-4-フルオロフェニルラクテート参照
TLC データ: 溶媒:EA, RF = 0.35
融点69℃
化合物
(S)-(+)-2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸
(S)-(-)-2-ヒドロキシ-4-メチルペンタン酸
(S)-2-ヒドロキシ-4-フェニル酪酸
(S)-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロパン酸
が、実施例1と同様にして、対応する市販の入手可能な鏡像体的に純粋なアミノ酸から出発して合成された。
【0148】
実施例2: ラセマーゼ活性についてのスクリーニング
微生物のラセミ化活性に関しての第1の徴候を得るために、(天然の)基質(S)-ラクテート1および/または(非天然の)基質(S)-フェニルラクテート2および(S)-4-フルオロフェニルラクテート3のラセミ化について観察した。
スクリーニングのために、約10mgの凍結乾燥細胞を、42℃および150rpmで1時間エッペンドルフびん中900μlのBis-Tris緩衝液(50mMのBis-Tris、pH=6)中で再水和させた。次に各場合に、予め100μlの緩衝液に溶かしておき、NaOHでpH6-7にしておいた10mgの基質を添加した。反応混合物を、42℃および150rpmにて振とう機-インキュベーター中でインキュベートした。細胞を添加しないで同じ反応条件を維持したブランク値を、各反応混合物と平行に測定した。全ての対照実験が負であったので、与えられた反応条件下での自発的ラセミ化を除外することができる。
振とう機-インキュベーター中で1日または2日後、エッペンドルフびんを13,000rpmにて5分間遠心分離し、その後、各場合に400μlの上清溶液を除去した。溶液を、各場合600μlのEAと共に振とうすることによって2回抽出し、有機相を合わせ、Na2SO4で乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーターで蒸発させた。キラルカラムを用いて、2種の鏡像体の分離を達成するために、研究した全ての化合物は誘導を必要とした。このために、各試料を500μlのBF3-メタノールで処理し、60℃で10分間振とうし、1mlのCH2Cl2と共に振とうすることによって抽出した。有機相をNa2SO4で乾燥し、約100μlの体積まで濃縮した。
ラセミ化反応は、2日後の鏡像体過剰率が>95%になったとき負(-)とみなされ、鏡像体過剰率<20%は、正(+)と査定された。任意の他の結果はスコア(〜)を受けた。スクリーニングの結果を表6に示す。
【表6】

【0149】
実施例3: 種々の基質を用いての鏡像体過剰率の決定
鏡像体過剰率を決定するために、使用した細胞の量を50mgに減らしたこと以外は実施例2の手順をたどった。
【0150】
a) 基質としてL-(-)-3-フェニル乳酸を用いた実験
まず、50mgの凍結乾燥細胞を1mlのBis-Tris緩衝液(50mM、pH6)で処理し、42℃および150rpmにて振とう機-インキュベーター中で1時間再水和させた。その後、各場合に、100μlの緩衝液に溶解した5mgの基質を添加し、混合物を振とう機-インキュベーター(30℃、150rpm)中でインキュベートした。全ての試料を、各場合24時間または48時間後にキラルGCによって測定した。GCによる鏡像体の分離を達成するために、試料は誘導を必要とした。
誘導は、BF3-メタノール(上記参照)またはトリフルオロ酢酸無水物を用いて行なった。トリフルオロ酢酸無水物での誘導のために、5mgの3-フェニル乳酸を500μlのCH2Cl2に溶かし、5滴のトリフルオロ酢酸無水物で処理し、室温で1分間振とうした後、約500μlのH2Oで処理した。有機相をNa2SO4で乾燥し、次いで試料をキラルカラムでのGCにより測定した。
【0151】
結果は、以下の式を用いて計算した:
ee [%]: (R-S)/(R+S) x 100
転化率[%]:R/(R+S) x 100
ラセミ化度[%]:2R/(R+S) x 100
菌株Lactobacillus paracasei 亜種. paracasei DSM 20008の他に、L-(-)-3-フェニル乳酸に関して良好または優れたラセマーゼ活性を有する以下のさらに4種の株が見出された:
- Lactobacillus paracasei 亜種 paracasei DSM 2649
- Lactobacillus paracasei 亜種 paracasei DSM 20207
- Lactobacillus delbrueckii 亜種 delbrueckii DSM 2649
- Lactobacillus oris DSM 4864。
【0152】
上記株についての結果を表7に集め、培養条件群(振とう機または乾燥オーブン;アルゴンまたは自然大気)および培養時間群として示す。
【表7】

【0153】
観察されたラセマーゼ活性がラクテートラセマーゼ活性と相関しているかどうかを決定するために、天然の基質L-(+)-乳酸を、L-(-)-3-フェニル乳酸と良好〜非常に良好な活性を示す株と反応させた。
【0154】
株DSM 20207, 20074 および20008が天然の基質L-(+)-乳酸を転化させたとき、ほんの24時間後に、100%ラセミ化が検出可能であったことが明らかになった。
【0155】
DSM 2649株では、転化は得られなかった。
【0156】
b) 種々の他のアルキル基質での実験
以下を基質として使用した:
(S)-(+)-2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸(C5H10O3)
(S)-(-)-2-ヒドロキシイソカプロン酸 (C6H12O3)
2種の基質を全ての株と反応させた。ラセミ化度を、各場合24時間後および48時間後にGCにより測定した。
【0157】
(S)-(+)-2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸の場合には、株DSM 20207のみが活性を示す。5株の全部が、基質(S)-(-)-2-ヒドロキシイソカプロン酸に対するラセミ化を示した。結果を表8および9に示す。
【表8】

【表9】

【0158】
要約すると、再び、L-(-)-3-フェニル乳酸に対して活性であった同じ株はまたここで活性を示したことを述べることができる。
【0159】
c) (S)-2-ヒドロキシ-4-フェニル酪酸を用いた実験
ラセミ化度を、各場合24時間後および48時間後に、HPLCによって測定した。結果を表10に示す。
【表10】

【0160】
本発明に関して、公に入手可能なDSMZの以下の微生物は、ブダペスト条約の規定にしたがって2003年7月11日に再寄託された。
【表11】

【0161】

【0162】

【0163】

【0164】

【0165】

【0166】

【0167】

【0168】

【0169】

【0170】

【0171】

【0172】

【0173】

【0174】

【0175】

【0176】

【0177】

【0178】

【0179】

【0180】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

[式中、Rは、直鎖もしくは分岐の低級アルキルまたは低級アルケニルまたは-(CH2)n-Cycであり、nは0〜4の整数であり、Cycは非置換または1置換もしくは多置換の、単核もしくは2核の炭素環または複素環式環である。]
のα-ヒドロキシカルボン酸の微生物学的異性化方法であって、本質的に式(I)のα-ヒドロキシカルボン酸の第1の立体異性体形態を含む基質が、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素によって異性化され、適当なら、得られる異性体混合物または得られる第2の立体異性体が単離されるか、または得られる第2の立体異性体が反応平衡から除去される前記方法。
【請求項2】
酵素的異性化が、精製酵素もしくは酵素含有細胞抽出物を用いて、またはα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する少なくとも1種の酵素を発現するそのままの細胞(intact cell)の存在下で、基質を転化することによって行なわれる請求項1記載の方法。
【請求項3】
α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属またはラクトコッカス(Lactococcus)属の微生物から単離される請求項1〜2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
転化が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属もしくはラクトコッカス(Lactococcus)属の微生物のそのままの細胞または、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を発現する組換え微生物のそのままの細胞の存在下で行なわれる請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
微生物が、L.パラカゼイ(L. paracasei)、L.デルブルキ(L. delbrueckii)、L.サケイ(L. sakei)およびL.オリス(L. oris)の中から選択される請求項4記載の方法。
【請求項6】
微生物が、L.パラカゼイ(L. paracasei) DSM 20207 (DSM15755)および DSM 2649(DSM15751), L.デルブルキ(L. delbrueckii) DSM20074(DSM15754), L.サケイ(L. sakei) DSM 20017(DSM15753)ならびにL.オリス(L. oris) DSM 4864(DSM15752)の株の中から選択される請求項5記載の方法。
【請求項7】
酵素が、少なくとも1種のさらなる式Iのα-ヒドロキシカルボン酸を異性化するラクテートラセマーゼ(lactate racemase)である請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
酵素が、乳酸フェニル、乳酸4-フルオロフェニル、2-ヒドロキシ-4-フェニル酪酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタンカルボン酸および2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸の中から選択される少なくとも1種の化合物を異性化する請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素を発現する微生物のスクリーニング法であって、そのラセマーゼ活性が推測される微生物が、本質的に上記式Iのα-ヒドロキシカルボン酸の立体異性体形態を含む基質の存在下で培養され、反応培地を基質のラセミ化について検査するスクリーニング方法。
【請求項10】
請求項4または5記載の微生物がスクリーニングされる請求項9記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
本質的に立体異性体の基質を1〜100%ラセミ化する微生物がスクリーニングされる請求項9または10記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項記載のスクリーニング方法でラセマーゼ活性について肯定的な試験結果である微生物を培養し、培養物からα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼを分離することによって得られるα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ。
【請求項13】
上記式Iの少なくとも1種のα-ヒドロキシカルボン酸を1〜100%、好ましくは20〜100%、特に50〜100%ラセミ化する請求項12記載のα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ。
【請求項14】
請求項12または13記載の少なくとも1種のα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼをエンコードする核酸配列。
【請求項15】
少なくとも1種の調節核酸配列に動作可能に結合した、請求項14記載のコード核酸配列を含む発現ベクター。
【請求項16】
請求項14記載の少なくとも1種の核酸配列または請求項15記載の少なくとも1種の発現ベクターを含む組換え真核微生物または原核微生物。
【請求項17】
α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有するタンパク質を製造する方法であって、請求項16記載の組換え微生物が培養され、タンパク質がその培養物から分離される前記方法。
【請求項18】
α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有するタンパク質を分離する方法であって、ラセマーゼ活性について肯定的に試験された微生物が粉砕され、細胞壁の破片が除去され、かつ所望の酵素活性を有するタンパク質が分離される方法。
【請求項19】
所望の立体異性体が、形成された異性体混合物から本質的に除去され、残部がさらなる異性化工程に供される請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
形成された異性体混合物が、化学的または酵素的な立体選択的な後続の反応に供され、得られた反応混合物がさらなる異性化工程に供される請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
異性化反応が、化学的または酵素的なエナンチオ選択的な後続の反応と連結され、その反応中に、得られた所望のα-ヒドロキシカルボン酸の立体異性体が反応平衡から除去される請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
化学的または酵素的なエナンチオ選択的な後続の反応が、α-ヒドロキシカルボン酸のエステル化およびアミド化の中から選択される請求項20または21記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

[式中、Rは、直鎖もしくは分岐のC2-C8アルキルまたはC2-C8アルケニルまたは-(CH2)n-Cycであり、nは0〜4の整数であり、Cycは非置換または1置換もしくは多置換の、単核もしくは2核の炭素環または複素環式環である。]
のα-ヒドロキシカルボン酸の微生物学的異性化方法であって、本質的に式(I)のα-ヒドロキシカルボン酸の第1の立体異性体形態を含む基質が、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素によって異性化され、適当なら、得られる異性体混合物または得られる第2の立体異性体が単離されるか、または得られる第2の立体異性体が反応平衡から除去され、ここで、前記酵素は少なくとも1種のさらなる式Iのα-ヒドロキシカルボン酸を異性化する広範囲の基質スペクトルを有するラクテートラセマーゼ(lactate racemase)である前記方法。
【請求項2】
酵素的異性化が、精製酵素もしくは酵素含有細胞抽出物を用いて、またはα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する少なくとも1種の酵素を発現するそのままの細胞(intact cell)の存在下で、基質を転化することによって行なわれる請求項1記載の方法。
【請求項3】
α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属またはラクトコッカス(Lactococcus)属の微生物から単離される請求項1〜2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
転化が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属もしくはラクトコッカス(Lactococcus)属の微生物のそのままの細胞または、α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を発現する組換え微生物のそのままの細胞の存在下で行なわれる請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
微生物が、L.パラカゼイ(L. paracasei)、L.デルブルキ(L. delbrueckii)、L.サケイ(L. sakei)およびL.オリス(L. oris)の中から選択される請求項4記載の方法。
【請求項6】
微生物が、L.パラカゼイ(L. paracasei) DSM 20207 (DSM15755)および DSM 2649(DSM15751), L.デルブルキ(L. delbrueckii) DSM20074(DSM15754), L.サケイ(L. sakei) DSM 20017(DSM15753)ならびにL.オリス(L. oris) DSM 4864(DSM15752)の株の中から選択される請求項5記載の方法。
【請求項7】
酵素が、乳酸フェニル、乳酸4-フルオロフェニル、2-ヒドロキシ-4-フェニル酪酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタンカルボン酸および2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸の中から選択される少なくとも1種の化合物を異性化する請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有する酵素を発現する微生物のスクリーニング法であって、ラクテートを産生または代謝し、そのラセマーゼ活性が推測される微生物を本質的に上記式Iのα-ヒドロキシカルボン酸の立体異性体形態を含む基質の存在下で培養し、反応培地を基質のラセミ化について検査するスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項4または5記載の微生物がスクリーニングされる請求項8記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
本質的に立体異性体の基質を1〜100%ラセミ化する微生物がスクリーニングされる請求項8または9記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項記載のスクリーニング方法でラセマーゼ活性について肯定的な試験結果である微生物を培養し、培養物からα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼを分離することによって得られるα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ。
【請求項12】
上記式Iの少なくとも1種のα-ヒドロキシカルボン酸を1〜100%、好ましくは20〜100%、特に50〜100%ラセミ化する請求項11記載のα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ。
【請求項13】
請求項11または12記載の少なくとも1種のα-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼをエンコードする核酸配列。
【請求項14】
少なくとも1種の調節核酸配列に動作可能に結合した、請求項13記載のコード核酸配列を含む発現ベクター。
【請求項15】
請求項13記載の少なくとも1種の核酸配列または請求項14記載の少なくとも1種の発現ベクターを含む組換え真核微生物または原核微生物。
【請求項16】
α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有するタンパク質を製造する方法であって、請求項15記載の組換え微生物が培養され、タンパク質がその培養物から分離される前記方法。
【請求項17】
α-ヒドロキシカルボン酸ラセマーゼ活性を有するタンパク質を分離する方法であって、ラセマーゼ活性について肯定的に試験された微生物が粉砕され、細胞壁の破片が除去され、かつ所望の酵素活性を有するタンパク質が分離される方法。
【請求項18】
所望の立体異性体が、形成された異性体混合物から本質的に除去され、残部がさらなる異性化工程に供される請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
形成された異性体混合物が、化学的または酵素的な立体選択的な後続の反応に供され、得られた反応混合物がさらなる異性化工程に供される請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
異性化反応が、化学的または酵素的なエナンチオ選択的な後続の反応と連結され、その反応中に、得られた所望のα-ヒドロキシカルボン酸の立体異性体が反応平衡から除去される請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
化学的または酵素的なエナンチオ選択的な後続の反応が、α-ヒドロキシカルボン酸のエステル化およびアミド化の中から選択される請求項19または20記載の方法。

【公表番号】特表2006−527588(P2006−527588A)
【公表日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515983(P2006−515983)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006564
【国際公開番号】WO2004/111257
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】