説明

β−ユークリプタイトと酸化物とに基づくセラミックス複合材および該複合材の製造方法

【課題】 β−ユークリプタイトと酸化物とに基づくセラミックス複合材および該複合材の製造方法を提供する。
【解決手段】 55重量%(69体積%)未満のβ−ユークリプタイト含有率を有する、酸化物とβ−ユークリプタイト結晶とに基づく焼結セラミックスであることを特徴とする、1.3×10−6−1未満の熱膨張係数を有する複合材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、反射鏡のような宇宙用途の光学素子の製造および光学素子を定置かつ支持する機能を有する光学構造体(構造部材とも呼ばれる)の製造に好適な複合材の分野である。
【背景技術】
【0002】
宇宙観測の一般的傾向は、たとえば静止軌道から宇宙観測および地球観測を行う両方の将来的科学ミッションのために反射鏡の直径を増大させることである。したがって、近い将来、剛性かつ強靭な状態を保ったまま非常に高い軽量化度の達成を可能にして2m超の直径を有しかつ25kg/m−2未満の単位面積重量を有する反射鏡の製造を可能にするきわめて安定な複合材が必要になるであろう。寸法安定性反射鏡を得るために、極低温用途(たとえば赤外観測)では、外界温度近傍および/または外界温度未満で非常に低いCTE(熱膨張係数)を有する複合材が要求される。
【0003】
望遠鏡構造体のような光学構造体はまた、画像品質を保証できるようにするために寸法安定性に関して非常に厳しい要件がそれ自体に課される。それに加えて、そのサイズが増大するにつれて、剛性かつ強靭な状態を保ったまま高い軽量化度の達成を可能にする複合材が必要になる。
【0004】
そのような用途では、良好な寸法安定性すなわち1.3×10−6−1未満の正の熱膨張係数を有する複合材が知られている。たとえば、登録商標に相当するZerodurと呼ばれる複合材がある。Zerodurは、地球上および宇宙で使用するための反射鏡の製造に広く使用されているガラスセラミックスである。それは、室温で非常に低い熱膨張係数(2×10−8−1)、優れた光学的性質、および低い密度(d=2.54)を有する。しかしながら、その機械的性質が中程度であるため、その軽量化の可能性は大きく制限される。Zerodur(著作権)で作製された反射鏡の最小単位面積質量は、約35〜40kg/m−2である。1.5m超の直径を有する宇宙反射鏡にZerodurを使用することを想定するのは、やや非現実的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の1つの目的は、宇宙用途に適合可能な良好な寸法安定性さらには大型の光学素子および光学構造体の製造を可能にする良好な機械的性質を呈する複合材を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、簡単な製造方法から取得可能なこのタイプの複合材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明の1つの対象は、1.3×10−6−1未満の熱膨張係数を有する複合材である。ただし、該複合材は、酸化物とβ−ユークリプタイト結晶とに基づく焼結セラミックスであり、そのβ−ユークリプタイト含有率は、約55重量%(約70体積%)未満であり、酸化物は、β−ユークリプタイトの融点未満の温度で焼結可能であり、かつ100GPa超のヤング率および100MPa超の測定曲げ強度を有する。
【0008】
有利には、β−ユークリプタイトは、約6μm超の粒子サイズを有する。
【0009】
有利には、β−ユークリプタイト粒子は、微小亀裂を生じている。
【0010】
第1の実施形態では、酸化物はアルミナである。
【0011】
有利には、酸化物は、ナノスケールのアルミナ結晶の焼結から得られる。
【0012】
第2の実施形態では、酸化物はジルコニアである。
【0013】
有利には、ジルコニアは、四価元素たとえば酸化セリウムでドープされている。
【0014】
本発明の他の対象は、本発明に係る複合材で作製された宇宙用途向けの光学素子である。
【0015】
本発明の他の対象は、宇宙用途向けの少なくとも1つの光学素子を定置かつ支持することが意図された構造部材である。ただし、この構造部材は、本発明に係る複合材で作製されている。
【0016】
本発明の他の対象は、光学素子と構造部材との両方を本発明に係る複合材で作製して含む光学デバイスである。
【0017】
有利には、光学デバイスは、光学素子と構造部材との両方を同一の複合材で作製して含む。
【0018】
本発明の他の対象は、結晶形の酸化物の粉末を結晶形のβ−ユークリプタイトの粉末とブレンドする第1の粉末ブレンドの作製工程と、酸化物を焼結するために、第1のブレンドから得られた酸化物とβ−ユークリプタイトとの複合材を加熱する熱処理工程と、を含む、本発明に係る複合材の製造方法である。
【0019】
有利には、熱処理工程は、酸化物とβ−ユークリプタイトとの複合材を熱処理条件下でβ−ユークリプタイトの融点未満の焼結温度に加熱することに依拠する。
【0020】
有利には、方法は、
・ β−ユークリプタイトを得るために、好適な比率で炭酸リチウム粉末とアルミナ粉末とシリカ粉末とのブレンドを作製する工程、
・ β−ユークリプタイトを得るために、ブレンドから得られた粉末を仮焼する工程、および
・ β−ユークリプタイト粒子の成長および亀裂生成を引き起こすための熱処理工程、
を含む、β−ユークリプタイト粉末の製造工程を含む。
【0021】
有利には、仮焼工程は、温度を最高温度まで上昇させる工程、続いて、温度が最高温度に達した直後から開始して温度を低下させる工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0022】
β−ユークリプタイトの融点未満の温度で焼結可能な酸化物(正の熱膨張係数を有する)に基づく複合材を用いて、宇宙用途に適合可能な寸法安定性を呈する複合材が容易に得られる。酸化物粒子とβ−ユークリプタイト粒子とをブレンドして、ブレンドを酸化物の焼結が可能な温度に加熱すれば十分である。さらに、高ヤング率および高強度を有する酸化物を選択することにより、宇宙分野の光学用途に適合した機械的性質、より特定的には2m超の直径を有する光学素子および適切な光学構造体の製造に適合した機械的性質を有する複合材が得られる。
【0023】
本発明に係る複合材は、1.3×10−6−1未満の熱膨張係数を有するものである。本発明に係る複合材は、酸化物粒子と結晶β−ユークリプタイト粒子とに基づく焼結セラミックス複合材である。β−ユークリプタイトは、頭字語LASにより広く参照されるリチウムアルミノシリケートであり、その組成は、次のとおり、すなわち、(LiO)(Al(SiO〔式中、x、y、およびzは、酸化リチウムLiO、アルミナAl、およびシリカSiOの各モル分率である〕である。β−ユークリプタイトの各モル分率は、次のとおり、すなわち、x=1、y=1、およびz=2である。
【0024】
結晶形のβ−ユークリプタイトは、約−0.4×10−6−1のわずかに負の熱膨張係数を有するという特有の特徴を有する。すなわち、温度を上昇させた場合、それは収縮する。結晶形のβ−ユークリプタイトの熱膨張係数は、成分の粒子サイズに依存して異なる。熱膨張係数の変動は、β−ユークリプタイト粒子の亀裂生成に由来する。たとえば、約7μmの粒子サイズでは−6.1×10−6−1の熱膨張係数および約13μmの粒子サイズでは−10.9×10−6−1の熱膨張係数を得ることが可能である(Kはケルビンに相当する)。アモルファス形のβ−ユークリプタイトは、結晶形の場合よりも高い熱膨張係数を有するので回避しなければならない。焼結酸化物マトリックス中に結晶形のβ−ユークリプタイトを含む複合材(その熱膨張係数は正である)は、焼結酸化物マトリックスのものよりも低い熱膨張係数を有する。
【0025】
β−ユークリプタイトの融点未満の温度で焼結可能でありかつ単独で良好な機械的性質を有する酸化物を選択する。
【0026】
β−ユークリプタイトの融点未満の温度で焼結可能な酸化物を選択することにより、非常に簡単な製造方法を利用して宇宙分野の光学用途に好適な寸法安定性の複合材を得ることが可能である。宇宙分野の光学用途に好適な寸法安定性の複合材は、1.3×10−6−1未満の熱膨張係数を有するものである。
【0027】
有利には、以下の製造方法が使用される。
【0028】
第1の粉末ブレンドは、結晶形のβ−ユークリプタイト粉末と結晶形の酸化物粉末(以上に列挙された特性を有する)とから製造される。
【0029】
β−ユークリプタイトおよび酸化物の相対的比率および粒子サイズは、最終的複合材の所望の熱膨張係数に従って調整される。これらは、最終的複合材の熱膨張係数が1.3×10−6−1未満になるように選択される。所望の熱膨張係数が小さいほど、β−ユークリプタイトの比率は高くなる。同様に、所望の熱膨張係数が小さいほど、β−ユークリプタイトの粒子サイズは大きくなる。複合材を光学素子として使用することが望まれる場合、相対的比率は、好ましくは、最終的複合材の熱膨張係数が1.3×10−6−1未満になるように、有利には可能なかぎりゼロに近くなるように選択される。
【0030】
複合材を構造部材として使用することが望まれる場合、相対的比率は、好ましくは、1.3×10−6−1未満の熱膨張係数を保持したまま機械的性質を最大化するような方法で選択される。
【0031】
得られた複合材は、少なくとも1つの光学構造体と、同一の材料から製造された光学構造体で支持された少なくとも1つの光学素子と、を含む光学デバイスたとえば望遠鏡の製造を可能にする。これは、熱光学デバイス、すなわち、すべての要素が同様に温度と共に変形するデバイスの取得を可能にする。
【0032】
同じ1つのデバイス内で複合材を構造部材(または基材)としてかつ光学素子として使用することが望まれる場合、すべての要素の熱膨張係数は、有利には、1.3×10−6−1未満の同一の単一値になるように調整される。
【0033】
酸化物をβ−ユークリプタイトとブレンドする工程は、たとえば、回転ボールミルなどを用いた分散工程である。次に、こうして得られたスリップを成形する。その際、好適な成形型形状を選択することにより、チューブや単純なプレートのような種々の造形品を製造することが可能である。
【0034】
得られた複合材は、乾燥される。乾燥は、たとえば、オーブン内で行われる。有利には、乾燥工程は、物品が離型された後、行われる。
【0035】
変形形態として、分散工程時に得られたスリップは、乾燥され(たとえば、スプレー乾燥および顆粒化ならびにバインダーおよび可塑剤の添加により)、次に、コールドプレス法またはホットプレス法を用いてプレスされる。
【0036】
変形形態として、ブレンドは、溶液状態では作製されず、回転ボールミルなどを用いた乾式処理により作製され、次に、コールドプレス法またはホットプレス法によりプレスされる。
【0037】
この段階で、キャストまたはコールドプレスにより得られた物品は、複雑な幾何形状を与えるために機械加工可能である。たとえば、物品を軽量化するためにグリーン体内にキャビティーを作製することが可能である。
【0038】
次に、複合材は、熱処理を行うことにより焼結される。熱処理は、場合によりガス圧力または機械的圧力の助けを借りて、酸化物とβ−ユークリプタイトとの複合材を焼結温度に加熱することに依拠する。温度上昇はまた、放射加熱またはパルス電流加熱またはマイクロ波加熱により達成可能である。焼結温度は、β−ユークリプタイトを溶融させずに酸化物を焼結するように選択される。言い換えれば、焼結温度は、選択された操作条件下(圧力、温度上昇速度、電流、焼結温度の保持時間に関して)でβ−ユークリプタイトの融点未満である。焼結条件は、選択される酸化物に依存する。一例として、β−ユークリプタイトの融点は、自然焼結条件下で約1340℃である。焼結温度は、たとえば、1340℃未満である。
【0039】
キャスト法またはプレス法に続いて自然焼結を使用することが可能であるので、非常に大型の物品を製造することが可能である。
【0040】
酸化物の焼結の後、得られた複合材の冷却工程が続く。次に、得られた物品は、機械加工、研削、および反射鏡の場合は研磨を行うことが可能である。
【0041】
この方法の後で得られる複合材は、光学素子たとえば反射鏡または光学素子を支持可能な光学構造体たとえば望遠鏡構造体でありうる物品を形成する。得られる物品の性質は、使用される成形型の形状、達成される任意の軽量化、実施される任意選択の機械加工操作および研磨操作、さらには第1のブレンド中の酸化物粉末とβ−ユークリプタイト粉末との相対的比率に依存する。
【0042】
得られる複合材は、酸化物とβ−ユークリプタイトとに基づく焼結セラミックス複合材である。焼結温度は、β−ユークリプタイトの融点未満である。このようにして、β−ユークリプタイトを結晶形の状態に保持すると同時に酸化物を焼結することが保証されるので、1.3×10−6−1未満の膨張係数を得ることが可能になる。
【0043】
最小量のβ−ユークリプタイトを含む宇宙用途に好適な熱膨張係数を有する複合材が得られる。さらに、β−ユークリプタイトを結晶化させるために焼結後に熱処理工程を提供する必要がない。
【0044】
良好な機械的性質(100GPa超、好ましくは200GPa超のヤング率、および100MPa超、好ましくは500MPa超の測定曲げ強度)を有する酸化物を選択することにより、宇宙用途に好適な機械的性質を有する、すなわち、100GPa超のヤング率および100MPa超の曲げ強度を有する複合材が得られる。β−ユークリプタイトの機械的性質および寸法安定性は、所望の用途にとくに有利である。ゼロに近い熱膨張係数を必ず有する光学素子は、構造部材の製造に用いられるものよりも高い含有率のβ−ユークリプタイトを有する複合材に基づくものでなければならない。この理由は、熱膨張係数が光学素子のものよりも高い可能性があることにある。これとは対照的に、機械的性質上の制約は、構造部材の場合よりも大きい。その場合、酸化物マトリックス中により少ないβ−ユークリプタイトを添加することだけで、その機械的性質が改良される。
【0045】
さらに、酸化物は、容易に焼結される。したがって、焼結後、十分に緻密な複合材が得られる。その場合、密度は、良好な機械的性質を達成するために不可欠な要素である。それに加えて、十分に緻密な複合材を得ることにより、物品を直接研磨することが可能である。このため、SiC反射鏡基材上にCVDにより従来方式で堆積されるSiC層のような追加の層を追加する必要性が回避される。
【0046】
次に、我々の発明との関連で使用可能な酸化物の2つの例を説明する。これらは、一方がアルミナ(Al)であり、他方が少なくとも1種の四価元素の酸化物でドープされたジルコニアである。四価元素の酸化物は、たとえば、酸化セリウム(セリウム安定化ジルコニアまたはCe−ZrOとも呼ばれるCe−TZP)である。20%以下の酸化セリウムモル含有率を有するジルコニアを使用することが可能である。これらの材料は、本特許出願で説明された理由で選択される。
【0047】
アルミナおよびセリウム安定化ジルコニアの自然焼結は、β−ユークリプタイトの融点(自然焼結条件下で約1340℃)未満の温度で起こると考えられる。ナノスケールのアルミナの融点はより低いので、アルミナ粒子がナノスケールサイズである粉末を使用することが有利である。一般的には、1μm未満のサイズを有するアルミナ粒子が使用可能である。有利には、結晶β−ユークリプタイト粒子が6μm超のサイズであるβ−ユークリプタイト粉末が使用される。
【0048】
さらに、アルミナおよび四価元素の酸化物でドープされたジルコニアは、低い熱膨張係数を有するので、1.3×10−6−1未満の熱膨張係数を有する複合材を得ることが可能になる。室温でのアルミナの熱膨張係数は、約8×10−6−1である。16−Ce−TZPセリウム安定化ジルコニアの熱膨張係数は、約11×10−6−1である。16−Ce−TZPジルコニアは、16%の酸化セリウムモル含有率を有するセリウム安定化ジルコニアである。
【0049】
アルミナおよび四価元素の酸化物でドープされたジルコニアは、良好な機械的性質を有する。
【0050】
アルミナは、約400GPaのヤング率および約400MPaの測定曲げ強度を有する。アルミナはまた、約4MPa/m1/2の靭性を有する。靭性は、亀裂生成状況に付された場合に材料がエネルギーを吸収する能力の尺度であり、材料に影響を及ぼす亀裂が拡がることができないことに対応する。ゼロの熱膨張係数、約100GPaのヤング率、および約100MPaの中程度の強度(曲げ強度)を有するアルミナとβ−ユークリプタイトとのセラミックス複合材を得ることが可能である。
【0051】
16Ce−TZPは、約215GPaのヤング率および約600MPaの測定曲げ強度を有する。16Ce−TZPジルコニアはまた、おそらく11MPa/m1/2までの比較的高い靭性を有する。
【0052】
さらに、アルミナ粉末およびセリウム安定化ジルコニア粉末は、商業的に入手可能である。
【0053】
たとえば、イットリウムでドープされたジルコニアと比較して、四価元素の酸化物でドープされたジルコニア、より特定的には酸化セリウムでドープされたジルコニアは、湿気の存在下で劣化しないという利点を有する。これにより、材料ひいては本発明の複合材の寸法安定性が増強される。
【0054】
同様に使用可能な少なくとも1種の四価元素の酸化物としては、酸化チタンおよび酸化チタンセリウムが挙げられうる。
【0055】
次に、β−ユークリプタイトの合成方法例の工程を説明する。当然ながら、β−ユークリプタイトは、ナノスケールまたはミクロンサイズのβ−ユークリプタイトを合成する任意の他の方法により取得可能である。
【0056】
β−ユークリプタイトを得るために、好適な比率で炭酸リチウムLiCO粉末とアルミナAl粉末とシリカSiO粉末とをブレンドする。この目的のために、炭酸リチウム粉末とアルミナ粉末とシリカ粉末とを、24.96%、34.45%、40.59%に等しいこれらの成分の各重量比率でブレンドする。
【0057】
得られたブレンドを、たとえば50重量%のブレンドを含有する水性溶液にする。場合により、分散剤たとえばDarvan Cを溶液に導入する。
【0058】
たとえば、溶液重量の50%が以上で得られたブレンドに由来しかつ溶液重量の0.15%が分散剤に対応する溶液を作製する。次に、溶液を分散する。分散工程は、たとえば、ジルコニアボールを備えた回転ボールミルを利用して24時間行われる。
【0059】
次に、得られたスリップを乾燥させる。乾燥操作は、たとえば、110℃のオーブン内で行われる。重量損失がゼロになるまで、この操作を継続する。
【0060】
次に、方法は、乾燥粉末を仮焼する工程を含む。仮焼工程の機能は、β−ユークリプタイトを得るために、炭酸リチウムLiCO粉末とアルミナAl粉末とシリカSiO粉末との間の固相反応が達成される条件を形成することである。有利には、仮焼工程は、温度を最高温度Tmaxまで上昇させる工程、続いて、最高温度に達し次第、温度を低下させる工程を含む。言い換えれば、最高温度の保持時間は、ゼロである。本出願人は、この方法により、得られたβ−ユークリプタイトが緻密化したり焼結したりするのが防止されることを見いだした。これは、ゼロでない時間にわたり粉末を最高温度で保持した場合には見られないことである。β−ユークリプタイト粒子の緻密化は、得られた粉末のミル粉砕がより容易になるように回避される。変形形態として、ゼロでない時間にわたり最高温度で保持して仮焼を行うことが可能である。これは、より大きいサイズのβ−ユークリプタイトを使用することが望まれる場合に有利である。乾燥粉末は、たとえば、次のプロトコルに従って炉内で仮焼される。すなわち、5℃/minの速度で温度を1050℃に上昇させ、次に、この温度に達し次第、5℃/minの速度で200℃まで冷却し、そして自然冷却する。
【0061】
次に、ナノスケールまたはミクロンサイズの粒子を得るために、仮焼粉末をミル粉砕する(水性溶液状態でまたは乾式ミル粉砕により)。ミル粉砕は、たとえば、アトリションミルまたは回転ボールミルで行われる。
【0062】
たとえば、40重量%の固形分含有率を有する水性溶液を得る。次に、水性溶液を毎分500回転のアトリションミルで6時間ミル粉砕する。
【0063】
次に、溶液を乾燥させる。
【0064】
乾燥は、たとえば、300mbarの圧力下、70℃で回転蒸発器を利用して行われる。変形形態として、アトリションミル粉砕から得られたスリップは、キャストされる。
【0065】
その場合、40%の固形分含有率を有する水性溶液を得る。次に、ジルコニアボールを用いた回転ボールミルを利用して水性溶液を24時間分散させる。
【0066】
次に、得られたスリップをキャストする。こうして得られたグリーン体を、たとえば50℃のオーブン内で乾燥させる。この操作を重量損失がゼロになるまで継続する。
【0067】
次に、乾燥グリーン体をゼロでない時間にわたり1300℃で熱処理する。これにより、たとえば、1300℃で6時間熱処理した後、7μmの粒子サイズを有するβ−ユークリプタイト粒子が得られる。それに加えて、これらの粒子は、微小亀裂を呈する。変形形態として、仮焼から得られた粉末は、アトリションなしでミル粉砕され、そしてゼロでない時間にわたり1300℃で熱処理される。
【0068】
最後に、こうして得られた熱処理β−ユークリプタイトセラミックスをミル粉砕し、そして選別する。
【0069】
1300℃の6時間熱処理では、たとえば、7μmの粒子から形成される7μm〜20μmのサイズを有するβ−ユークリプタイトアグリゲートが得られる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物とβ−ユークリプタイト結晶とに基づく焼結セラミックスでありかつ約55重量%未満のβ−ユークリプタイト含有率を有することを特徴とする、1.3×10−6−1未満の熱膨張係数を有する複合材。
【請求項2】
含まれるβ−ユークリプタイト粒子サイズが約6μm超である、複合材。
【請求項3】
含まれるβ−ユークリプタイト粒子が微小亀裂を生じている、複合材。
【請求項4】
前記酸化物がアルミナである、請求項1に記載の複合材。
【請求項5】
前記酸化物がナノスケールのアルミナ結晶の焼結から得られる、請求項4に記載の複合材。
【請求項6】
前記酸化物がジルコニアである、請求項1に記載の複合材。
【請求項7】
前記酸化物が少なくとも1種の四価元素の酸化物でドープされたジルコニアである、請求項6に記載の複合材。
【請求項8】
前記ジルコニアが酸化セリウムでドープされている、請求項7に記載の複合材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合材で作製されている、宇宙用途向けの光学素子。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合材で作製されている、宇宙用途向けの少なくとも1つの光学素子を定置かつ支持することが意図された構造部材。
【請求項11】
請求項9に記載の光学素子と請求項10に記載の構造部材とを含む、光学デバイス。
【請求項12】
前記光学素子および前記構造部材が同一の複合材で作製されている、請求項11に記載の光学デバイス。
【請求項13】
結晶形の酸化物の粉末を結晶形のβ−ユークリプタイトの粉末とブレンドする第1の粉末ブレンドの作製工程と、前記酸化物を焼結するために、前記第1のブレンドから得られた酸化物とβ−ユークリプタイトとの複合材を加熱する熱処理工程と、を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合材の製造方法。
【請求項14】
前記熱処理が、前記酸化物と前記β−ユークリプタイトとの複合材を熱処理条件下でβ−ユークリプタイトの融点未満の焼結温度に加熱することに依拠する、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記β−ユークリプタイト粉末の製造工程を含み、前記β−ユークリプタイト粉末の製造工程が、
・ β−ユークリプタイトを得るために、好適な比率で炭酸リチウム粉末とアルミナ粉末とシリカ粉末とのブレンドを作製する工程、
・ β−ユークリプタイトを得るために、前記ブレンドから得られた粉末を仮焼する工程、および
・ β−ユークリプタイト粒子の成長および亀裂生成を引き起こすための熱処理工程、
を含む、請求項13および14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記仮焼工程が、温度を最高温度まで上昇させる工程、続いて、温度が前記最高温度に達した直後から開始して温度を低下させる工程を含む、請求項15に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−236120(P2011−236120A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−97234(P2011−97234)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(505157485)テールズ (231)
【出願人】(509197324)サントル ナショナル ド ラ ルシェルシュ シアンティフィク (10)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】