説明

ころ軸受

【課題】回転トルクが小さく、軌道輪の鍔部ところとの間に焼付きを生ずるおそれのないころ軸受を提供すること。
【解決手段】周面に鍔部3を有する軌道輪2と、軌道輪2上を転動する複数のころ10とを有するころ軸受において、ころ10に回転中心を通り軸方向に延びる貫通穴11を設けると共に、ころ10の端面に貫通穴11に連通するほぼ半球状の凹部12を設け、凹部12と軌道輪2の鍔部3との間に玉13を転動可能に介装した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のディファレンシャルギヤ、トランスアクスルや変速機等の駆動装置系や一般産業機械などに用いられるころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は従来の円錐ころ軸受の要部の断面図である。なお、以下の説明では、図の右側を大径側、左側を小径側という。
円錐ころ軸受21の内輪22の大径側の外周には大鍔部23が設けられており、小径側の外周には小鍔部24が設けられて、両鍔部23,24の間には軌道面25が形成されている。26は内輪22の外周において内輪22と対向配置された外輪で、内周面には軌道面27が形成されている。
【0003】
28は周方向に所定の間隔で複数のポケット30が設けられた保持器29のポケット30に、転動自在に保持された円錐ころで、その軸方向の長さは内輪22の大鍔部23と小鍔部24の内側間隔とほぼ等しく形成され、内輪22と外輪26の軌道面25,27の間に配設されている。そして、円錐ころ28の外周面は両軌道面25,27に当接し、大径側端面は大鍔部23の内側面23aに、小径側端面は小鍔部24の内側面にそれぞれ当接し、予圧が付与されている。
【0004】
上記のような円錐ころ軸受21は、例えば内輪22は駆動軸に圧入され、外輪26がハウジングに固定されて両者の間に設置される。そして、駆動軸の回転によりこれと一体化された内輪22が回転すると、円錐ころ28は自転しながら内輪22と外輪26の軌道面25,27に沿って転走し、駆動軸のアキシアル及びラジアル荷重を支持する。このとき、円錐ころ28の大径側端面は、内輪22の大鍔部23の内側面23aにすべり接触する。
【0005】
このように、円錐ころ28の大径側端面は、内輪22の大鍔部23の内側面23aにすべり接触するため摩擦が大きいので、駆動軸、特に低速回転時の負荷が大きいばかりでなく、高速回転時にこのすべり接触面に焼付きなどの損傷を生ずるおそれがあるため、駆動軸の最高回転をあまり高くすることができなかった。
【0006】
このような問題を解決するために、円錐ころの大径側の端面に円錐状又は球形状の凹部を設け、この凹部と内輪の大鍔部の内壁面との間に遊転する鋼球を配置し、両者の摩擦を小さくした円錐ころ軸受がある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、円錐ころの大径側の端面に円周溝を設け、この円周溝に多数の小球をかしめにより回転自在に取付けて、この小球を鍔面と円錐ころの端面との間に介装して転がり接触とし、相対すべりをほとんど無くして焼付きなどの損傷を防止するようにした円錐ころ軸受がある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特許第118838号公報(第35−37頁、第4図)
【特許文献2】実願昭56−148096号(実開昭58−52316号)のマイクロフィルム(第4−5頁、第4−6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の円錐ころ軸受は、鋼球と円錐ころに設けた凹部との接触部に潤滑油が十分に行き渡らないため、この部分に焼付きが生じ易いという問題があった。
また、特許文献2の円錐ころ軸受は、円錐ころの端面に設けた円周溝に多数の小球をかしめにより取付けるようにしているため、構造が複雑で製造が面倒であり、大幅なコストアップになるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、回転トルクが小さく、軌道輪の鍔部の内側面ところの端面との間に焼付きを生ずることのないころ軸受を提供することを目的としたものである。
【0011】
本発明は、周面に鍔部を有する軌道輪と、該軌道輪上を転動する複数のころとを有するころ軸受において、前記ころに回転中心を通り軸方向に延びる貫通穴を設けると共に、該ころの端面に前記貫通穴に連通するほぼ半球状の凹部を設け、該凹部と前記軌道輪の鍔部との間に玉を転動可能に介装したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
また、本発明に係る円錐ころ軸受は、大径側の外周に大鍔部を有する内輪と、該内輪の外周に設けられた外輪と、保持器に設けた複数のポケットに転動自在に保持され、前記内輪と外輪との間に配設された複数の円錐ころとを有し、前記円錐ころに回転中心を通り軸方向に延びる貫通穴を設けると共に、該円錐ころの大径側端面に前記貫通穴に連通するほぼ半球状の凹部を設け、該凹部と前記内輪の大鍔部の内側面との間に玉を転動可能に介装したものである。
【0013】
また、上記の鍔部の内側面に、前記玉が周方向に転走する軌道凹部を設けたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ころの端面に設けた凹部と軌道輪の鍔部の内側面との間に玉を転動可能に介装したので、玉と内側面との接触部のすべり成分がほとんどなくなるため、軸受の回転トルクが大幅に低減する。また、上記のころ端面の凹部表面と玉の表面との摺動面はころに設けた貫通穴から供給された潤滑剤によって確実に潤滑されるので、これらの接触部に焼付きを生ずることがない。
このため、回転軸の低速回転時のトルクが小さく、軸受の最高回転速度が高いころ軸受を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係るころ軸受の軸方向断面図、図2は図1の要部の説明図、図3は図2の円錐ころと玉の説明図及び円錐ころの大径部の正面図である。
図1〜図3において、ころ軸受1の内輪2の大径側の外周には大鍔部3が設けられており、小径側の外周には小鍔部4が設けられて、両鍔部3,4の間には小径側が縮径された傾斜面からなる内輪軌道面5が形成されている。なお、大鍔部3の内側面3aは、内輪軌道面5とほぼ直交する傾斜面で形成されている。
【0016】
6は内輪2の外周に設けられた外輪で、その内周には小径側が縮径された傾斜面からなり、内輪軌道面5と対向する外輪軌道面7が設けられている。
10は転動体である円錐ころで、軸受用鋼材等からなり、回転中心を通り中心軸方向に延びる貫通穴11が設けられており、大径側端面には貫通穴11に連通するほぼ半球状の凹部12が形成されている。なお、円錐ころ10の長さLは、内輪2の両鍔部3,4の内側面間の幅Wより若干短く形成されている。
【0017】
13は軸受用鋼材やセラミックスなどからなり、円錐ころ10の凹部12に転動可能に収容されて保持された玉である。なお、凹部12の内径dは、玉13の転動面との間に油膜が形成される程度に、玉13の外径d1より若干大きく形成されている。
14は周方向に所定の間隔で複数のポケット15が設けられた保持器で、各ポケット10には円錐ころ10が転動自在に保持されている。
【0018】
上記のようなころ軸受1は、凹部12に玉13が収容され保持器14のポケット15に保持された複数の円錐ころ10を、小径側から内輪2の外周に嵌合し、その外周に外輪6を嵌合する。このとき、各円錐ころ10の外周面は内輪軌道面5と外輪軌道面7に当接し、その大径側端面は大鍔部3の内側面3aとすき間を隔て対峙し、玉13が内側面3aに当接して各円錐ころ10は内輪2の両鍔部3,4の間に収容され、内外軌道輪に挾持されて予圧が付与されている。
【0019】
そして、このころ軸受1は、例えば、内輪2が駆動軸に圧入され、外輪6がハウジングに固定されて、両者の間に設置される。
駆動軸が回転してこれと一体化された内輪2が回転すると、円錐ころ10は自転しながら内輪軌道面5と外輪軌道面7との間を転走し、駆動軸の荷重を支持する。このとき、円錐ころ10に設けた玉13は自転しながら大鍔部3の内側面3aを転がり接触(若干のすべり接触を含む)し、円錐ころ10の凹部12の凹部12の表面とはすべり接触する。
【0020】
このように、玉13は大鍔部3の内側面3に沿って転がり接触するため、円錐ころ10と大鍔部3と内側面3aとのすべり接触に起因する軸受の回転トルクは大幅に低減する。また、玉13と円錐ころ10の凹部12との接触面積が大きくなるためその接触面圧が小さくなり、さらに、内輪2と外輪6との間に供給されるオイルやグリースの如き潤滑剤が、貫通穴11内を矢印方向に移動して凹部12と玉13との接触部に確実かつ十分に供給されるためすべり接触が小さくなり、これらにより、焼付きを防止することができる。
【0021】
本実施の形態によれば、円錐ころ10の大径側端面が内輪2の大鍔部3の内周面3aに接触することなく、この間に介装された玉13が内側面3aに転がり接触するので、ころ軸受の回転トルクをきわめて小さくすることができる。また、円錐ころ10の大径側端面に設けた凹部12と玉13の接触面圧が低減されると共に、貫通穴11から供給された潤滑剤により確実に凹部12と玉13とのすべり接触面が潤滑されるため、両者の間に焼付き等を生ずることがない。
【0022】
[実施の形態2]
図4は本発明の実施の形態2に係るころ軸受の要部の説明図である。なお、実施の形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。
本実施の形態に係るころ軸受は、内輪2の大鍔部3の内側面3aの円周上(玉13が通過する軌跡上)に、玉13の外形に対応した円弧状の軌道凹部3bを設け、玉13をこの軌道凹部3bに沿って転走させるようにしたものである。なお、軌道凹部3bと玉13との間は内輪2と外輪6との間に供給された潤滑剤により潤滑される。また、軌道凹部3bと玉13との接触面圧を低減できるため、この部分の接触条件が緩和される。
その他の構造、作用、効果は、実施の形態1の場合とほぼ同様である。
【0023】
上記の説明では、転動体として円錐ころ10を用いた円錐ころ軸受1に本発明を実施した場合を示したが、転動体として円筒ころを用いた円筒ころ軸受にも本発明を実施することができる。なお、この場合は、円筒ころに回転中心を通り中心軸方向に延びる貫通穴を設けると共に、内輪又は外輪の鍔部側の端面に貫通穴に連通するほぼ半球状の凹部を設ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1に係るころ軸受の縦断面図である。
【図2】図1の要部の説明図である。
【図3】図2の円錐ころと玉の説明図及び円錐ころの大径側の正面図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係るころ軸受の要部の説明図である。
【図5】従来のころ軸受の要部の説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ころ軸受、2 内輪、3 大鍔部、3a 大鍔部の内周面、3b 軌道凹部、5 内輪軌道面、6 外輪、7 外輪軌道面、10 円錐ころ、11 貫通穴、12 凹部、13 玉。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周面に鍔部を有する軌道輪と、該軌道輪上を転動する複数のころとを有するころ軸受において、
前記ころに回転中心を通り軸方向に延びる貫通穴を設けると共に、該ころの端面に前記貫通穴に連通するほぼ半球状の凹部を設け、該凹部と前記軌道輪の鍔部との間に玉を転動可能に介装したことを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
大径側の外周に大鍔部を有する内輪と、該内輪の外周に設けられた外輪と、保持器に設けた複数のポケットに転動自在に保持され、前記内輪と外輪との間に配設された複数の円錐ころとを有し、
前記円錐ころに回転中心を通り中心軸方向に延びる貫通穴を設けると共に、該円錐ころの大径側端面に前記貫通穴に連通するほぼ半球状の凹部を設け、該凹部と前記内輪の大鍔部の内側面との間に玉を転動可能に介装したことを特徴とする円錐ころ軸受。
【請求項3】
前記鍔部の内側面に、前記玉が周方向に転走する軌道凹部を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載のころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−168171(P2009−168171A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7691(P2008−7691)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】