説明

ころ軸受

【課題】軸方向両端に油を供給可能にすることができ、かつ、外輪の局部的な応力集中を抑制するとともに外輪外周面の研磨加工の際には外輪の欠けを抑制することのできるころ軸受の提供。
【解決手段】円筒状に形成され内周面に外輪軌道面42aを有する外輪42と、円筒状に形成され外周面に内輪軌道面48aを有する内輪48と、外輪と内輪48との間に転動可能に配置される複数個のころ44と、ころ44を収容するポケットを備えた保持器46と、を備えるころ軸受40であって、外輪外周面42bには、軸方向に対して傾斜するとともに軸方向両端を連通する油溝43が複数個、隣接して設けられており、油溝43によって油圧供給源から供給される油がころ軸受40の軸方向両端に導かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転する軸部材を軸支持する軸受構成の一例として例えば、特許文献1に示されるようにエンジンのクランクシャフトの回転振動の低減を図るバランサシャフト装置に滑り軸受を介して軸支持するものが知られている。この滑り軸受は、金属部材からなる円筒状部材をバランサシャフト回りに配設し滑り接触にて軸支持するものである。
バランサシャフトには、滑り軸受の軸方向両端を挟みこむように鍔状部位が立設されている。この鍔状部位はバランサシャフトと滑り軸受の軸方向における相対的な移動を規制するために構成されている。
一方、滑り軸受においては、周方向に切りかかれた環状溝(環状溝はハウジング側に設けられる場合もある)と、この環状溝上の周方向複数箇所に外周面と内周面を貫通する貫通孔が形成されている。かかる環状溝と貫通孔を介することでハウジングから供給される潤滑油が、バランサシャフトと滑り軸受の摺接面の潤滑を行うと共に、軸方向両端に流出した潤滑油がバランサシャフトの回転に伴う遠心力によってハウジングとバランサシャフトの鍔状部位の接触部位に流れ込み、係る部位の潤滑を行っている。
【0003】
ところで、この滑り軸受は、バランサシャフトを滑り接触にて軸支持するものであることからエンジンのトルクロスが懸念される。そのため、図6、7のように、滑り軸受に代えてころ軸受140を配設するものが考えられる。ころ軸受140は、円筒状に形成され内周面に外輪軌道面を有する外輪142と、円筒状に形成され外周面に内輪軌道面を有する内輪148と、該外輪142と内輪148との間に転動可能に配置される複数個のころ144と、該ころ144を収容するポケットを備えた保持器146と、を備えている。
このころ軸受140を採用することによって、バランサシャフト130の回転時における摩擦抵抗の低減が期待できる。ところが、ころ軸受140に構成される外輪142が、単に円筒形状であると、かかる円筒形状の外輪142がハウジング104の油圧供給孔107を塞いでしまうという新たな問題点が生ずる。ここで、ころ軸受140内の潤滑は、エンジン内のミスト状となったオイルによって保たれるものの、ハウジング104とバランサシャフト130の鍔状部位138の接触部位は、潤滑油が断たれてしまうことに伴い焼きつきが生じるおそれがある。
そこで、図6、7に図示されるように、ころ軸受140の外輪142に環状溝145と軸方向に連通する軸方向溝147を形成することで潤滑油を軸方向両端に供給し、ハウジング104とバランサシャフト130の鍔状部位138の接触部位の潤滑を行うことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−129814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、滑り軸受に代えてころ軸受が配設される部位はスペース状の制約がある。そのため内輪148及び外輪142は、薄肉円筒に形成することが必要となる。
この薄肉円筒の外輪外周面に軸方向溝147が形成されると、かかる部位は更に薄肉となる。そうすると、バランサシャフト130の回転力によって生ずる荷重がころ144を介して外輪142に及ぼされ、かかる軸方向溝の部位に応力が集中して外輪自体の割れが発生するおそれがある。また、外輪外周面の研磨加工の際に、かかる軸方向溝の段差部位における角部が欠けるおそれがある。
【0006】
而して、本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、軸方向両端に油を供給可能にすることができ、かつ、外輪の局部的な応力集中を抑制するとともに外輪外周面の研磨加工の際には外輪の欠けを抑制することのできるころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のころ軸受は次の手段をとる。
先ず、第1の発明に係るころ軸受は、円筒状に形成され内周面に外輪軌道面を有する外輪と、円筒状に形成され外周面に内輪軌道面を有する内輪と、該外輪と内輪との間に転動可能に配置される複数個のころと、該ころを収容するポケットを備えた保持器と、を備えるころ軸受であって、前記外輪外周面には、軸方向に対して傾斜するとともに軸方向両端を連通する油溝が複数個、隣接して設けられており、前記油溝によって油圧供給源から供給される油が前記ころ軸受の軸方向両端に導かれることを特徴とする。
【0008】
この第1の発明によれば、油溝は、外輪外周面上において軸方向に対して傾斜して形成され、複数個が隣接して設けられていることから、ころの配設方向と平行しないため外輪において局部的な応力集中を抑制することができる。また、外輪外周面の研磨加工の際に外輪の欠けを抑制することができる。また、油溝は、軸方向両端を連通して形成されていることから、油圧供給源から供給される油をころ軸受の軸方向両端に導く構成となる。
よって、軸方向両端に油を供給可能にすることができ、かつ、外輪の局部的な応力集中を抑制するとともに外輪外周面の研磨加工の際には外輪の欠けを抑制することのできるころ軸受を提供することができる。
【0009】
次に、第2の発明に係るころ軸受けは、上述した第1の発明において、前記油溝は、該油溝の直交断面で見て台形状の凹凸形状で形成されており、隣接する前記凹凸形状の間隔は、油圧供給源から供給される油孔よりも小さく形成されていることを特徴とする。
【0010】
この第2の発明によれば、油溝は、油溝の直交断面で見て台形状の凹凸形状で形成されている。そのため、溝を形成する凸状部位の角部は鈍角となるため上記構成のごとく油溝が軸方向に対して傾斜して形成されていることと相俟って、外輪外周面の研磨加工において、より一層外輪の欠けを抑制することができる。
また、隣接する凹凸形状の間隔は、油圧供給源から供給される油孔よりも小さく形成されていることから、溝を形成する凸状部位によって油圧供給孔が塞がれることも無く複数の溝を跨いで油の供給が可能とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記各発明の手段をとることにより、軸方向両端に油を供給可能にすることができ、かつ、外輪の局部的な応力集中を抑制するとともに外輪外周面の研磨加工の際には外輪の欠けを抑制することのできるころ軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態1に係るころ軸受を適用したバランサシャフト装置がエンジン内に配置された状態を模式的に示す軸方向断面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るころ軸受の分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るころ軸受の断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係るころ軸受の側面図である。
【図5】図4のV-V線断面図である。
【図6】従来のころ軸受を適用したバランサシャフト装置がエンジン内に配置された状態を模式的に示す軸方向断面図である。
【図7】従来のころ軸受の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明を実施するための実施形態1について図1から図6にしたがって説明する。なお、本発明を説明する各図において構成内容の理解をより容易とすることに鑑み、本発明に影響を及ぼさない構成については、詳細な構造の図示を省略した模式的な図示とし、かかる箇所の説明を省略することがある。
なお、ここでは、回転する軸部材を軸支持する軸受構成の一例としてエンジン1のクランクシャフト2の回転振動の低減を図るバランサシャフト装置10を例示して説明する。
図1に示すように、エンジン1の回転振動を抑制するために、クランクシャフト2の周期的な回動に対し相殺的な周期でクランクシャフト2と連動して回動するバランサシャフト装置10がハウジング4のシャフト支持凹部5に回動自在に支持されている。
【0014】
このバランサシャフト装置10は、バランサシャフト30ところ軸受40とを備えて構成されている。ここで、このバランサシャフト30は、エンジン1の回転振動を抑制するために、クランクシャフト2の周期的な回動に対し、相殺的な周期でクランクシャフト2と連動して回動するものである。また、ころ軸受40は、バランサシャフト30の軸部32をエンジン1本体のハウジング4に対して回動自在に支持するために構成されるものである。以下に、このバランサシャフト30、ころ軸受40の構成について説明する。
【0015】
先ず、バランサシャフト30について説明する。
図2に図示されるように、バランサシャフト30は、エンジン1のクランクシャフト2(図1参照)と平行に配置構成される軸部32と、軸部32の軸心から偏心した位置に配置されるバランサウェイト34とを有して一体的に形成されている。ここで、バランサウェイト34は、所定の径を有する軸部32が形成されており、この軸部32の軸心から偏心した位置に、径方向断面で見て断面略半円状のバランサウェイト34が一体に形成されている。
更に、このバランサシャフト30には、軸心からバランサウェイト34が構成される位置とは反対の径方向外方に向かってリブ36が立設されている。このリブ36は、バランサシャフト30の曲げ剛性の向上を図るために構成されている。このように構成されるバランサシャフト30を径方向断面で見た断面形状は、リブ36が形成される位置側が欠肉として構成されて軸方向に一様に非円形形状として形成されている。また、このバランサシャフト30は、軸方向の所定間隔を隔ててころ軸受40が配置される円柱部位37が構成される。
この円柱部位37は、軸部32より相対的に大径の円柱に形成される。この円柱部位37の外周面にころ軸受40が配設される。
また、円柱部位37の軸方向両端には、径方向に放射状に延出形成された鍔上部位38が立設されている。この鍔状部位38により、ころ軸受40が軸方向両端から挟みこまれてバランサシャフトところ軸受40の軸方向における相対的な移動が規制される。
また、図1に図示されるように、バランサシャフト30の軸上には、クランクシャフト2に配設された駆動歯車3と噛み合う従動歯車31が配置されている。
【0016】
次に、ころ軸受40について説明する。
図2に示すように、ころ軸受40は、外輪42と、内輪48と、ころ44と、保持器46を備えている。
外輪42は、金属製の円筒状の部材が径方向断面で見て半円状に分割されて二つが一対となった分割型である。この円筒状の内周面が外輪軌道面42aとして構成されている。
内輪48は、金属製の円筒状の部材が径方向断面で見て半円状に分割されて二つが一対となった分割型である。この円筒状の外周面が内輪軌道面48aとして構成されている。
ころ44は、外輪42と内輪48との間に転動可能に配置される。ころ44は、金属製の円柱部材からなる針状ころである。
保持器46は、合成樹脂で構成されており、内輪48の内輪軌道面48aの外周を覆う径の円環形状で形成されている。この保持器46には、ころ44が周方向に並んで嵌め込まれる複数のポケット46aが円周方向に等配に形成されている。
この保持器46は、円周方向一箇所が分離して形成されており、この分離部分46bを径方向に弾性変形させて開口してバランサシャフト30の半径方向から装着する構成とされている。
【0017】
外輪42についてさらに詳しく説明する。
図2〜5に図示されるように、この油溝43は、ハウジング4の油路7から供給される潤滑油(油圧供給源から供給される油)をころ軸受40の軸方向両端に導くために構成される。図2、4に図示されるように外輪42の外輪外周面42bには、軸方向に対して傾斜するとともに軸方向両端を連通する油溝43が、平行に等間隔を隔てて複数個、隣接して設けられている。図5に図示されるように、この油溝43は、直交断面で見て油溝凹部43aと油溝凸部43bからなる凹凸形状に形成される。また、油溝凸部43bは、直交断面で見て上面と、この上面の両端から油溝凹部43aに向かう面で形成される角部43cが鈍角に形成される。これにより、油溝凸部43bは、台形状に形成されている。図4、5に図示されるように、隣接する油溝凹部43aと油溝凸部43bの間隔43dは、ハウジング4の油路7の径7aよりも小さく形成されている。
なお、この油溝43は、外輪42の外輪外周面42bに浅い切削加工を施すことで形成される。例えば、ローレット加工によって形成される。
【0018】
図2に図示されるように、バランサシャフト30上にころ軸受40が装着されたバランサシャフト装置10は、先ずバランサシャフト30の円柱部位37に径方向外方から内輪48を嵌め込む。そして、ころ44が嵌め込まれた保持器46を内輪48の内輪軌道面48a上に装着する。その上で、外輪42を装着する。こうして、バランサシャフト装置10となる。
図1に図示されるように、ハウジング4には、軸方向に所定間隔を保ってバランサシャフトを支持するシャフト支持凹部5が配置されている。図示を省略するがシャフト支持凹部5は、ころ軸受40の外輪42の外周面に対応した半円弧状に形成されている。また、ハウジング4には、このシャフト支持凹部5の位置まで潤滑油の油路7(油圧供給源)が開口形成されている。そして、各シャフト支持凹部5に、ころ軸受40が装着されたバランサシャフト装置10を設置する。そして、ころ軸受40を覆うようにカバー部材6を被せたうえでボルトによって締め付ける。このようにして、エンジン1本体のハウジング4内にバランサシャフト装置10が組み付けられる。
【0019】
このように構成されるころ軸受40によれば、油溝43は、外輪外周面42b上において軸方向に対して傾斜して形成され、複数個が隣接して設けられていることから、ころ44の配設方向と平行しないため外輪42において局部的な応力集中を抑制することができる。また、外輪外周面42bの研磨加工の際に外輪42の欠けを抑制することができる。また、油溝43は、軸方向両端を連通して形成されていることから、ハウジング4の油路7から供給される潤滑油をころ軸受40の軸方向両端に導く構成となる。
よって、軸方向両端に油を供給可能にすることができ、かつ、外輪42の局部的な応力集中を抑制するとともに外輪外周面42bの研磨加工の際には外輪42の欠けを抑制することのできるころ軸受40を提供することができる。
【0020】
また、油溝43は、油溝43の直交断面で見て油溝凹部43aと油溝凸部43bからなる凹凸形状によって台形状に形成される。そのため、油溝43を形成する油溝凸部43bの上面と斜面からなる角部43cは鈍角となるため上記構成のごとく油溝43が軸方向に対して傾斜して形成されていることと相俟って、外輪外周面42bの研磨加工において、より一層外輪42の欠けを抑制することができる。
また、隣接する油溝凹部43aと油溝凸部43bの間隔43dは、ハウジング4の油路7の径7aよりも小さく形成されていることから、油溝43を形成する油溝凸部43bによって油路7が塞がれることも無く複数の油溝43を跨いで潤滑油の供給が可能となる。
【0021】
以上、本発明の実施形態1について説明したが、本発明のころ軸受は、本実施の形態に限定されず、その他各種の形態で実施することができるものである。
例えば、実施形態1においては、ころ軸受は、バランサシャフト装置に適用するものについて示した。しかしながらこれに限定されることは無く、本発明のころ軸受は、回転軸を軸支持する部位に配設されるころ軸受であって、外部からの油圧供給源から供給される油を該ころ軸受の軸方向両端に導くことのできる構成であれば、種々の回転軸に適用されるものである。例えば、カムシャフト、クランクシャフト等にも適用可能である。
【0022】
また、バランサシャフト30は、リブ36を構成するものについて示したが、曲げ剛性が十分満たされる場合には、かかるリブを構成しなくてもよい。また、保持器は、径方向断面で見て半円状の保持器二つが一対となった分割型であってもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 エンジン
2 クランクシャフト
3 駆動歯車
4 ハウジング
5 シャフト支持凹部
6 カバー部材
7 油路
7a 油孔の径
10 バランサシャフト装置
30 バランサシャフト
31 従動歯車
32 軸部
34 バランサウェイト
36 リブ
37 円柱部位
38 鍔状部位
40 ころ軸受
42 外輪
42a 外輪軌道面
42b 外輪外周面
43 油溝
43a 油溝凹部
43b 油溝凸部
43c 角部
43d 油溝凹部と油溝凸部の間隔
44 ころ
46 保持器
46a ポケット
46b 分離部分
48 内輪
48a 内輪軌道面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成され内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
円筒状に形成され外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
該外輪と内輪との間に転動可能に配置される複数個のころと、
該ころを収容するポケットを備えた保持器と、を備えるころ軸受であって、
前記外輪外周面には、軸方向に対して傾斜するとともに軸方向両端を連通する油溝が複数個、隣接して設けられており、
前記油溝によって油圧供給源から供給される油が前記ころ軸受の軸方向両端に導かれることを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のころ軸受であって、
前記油溝は、該油溝の直交断面で見て台形状の凹凸形状で形成されており、
隣接する前記凹凸形状の間隔は、油圧供給源から供給される油孔よりも小さく形成されていることを特徴とするころ軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−64461(P2013−64461A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204331(P2011−204331)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】