説明

つなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体

【課題】デザイン印刷やエンボス加工などのパターン形成用途に用いられる樹脂製凸版スリーブの構成体において、パターン形成の品質に影響を与えることなく支持体スリーブ上から使用後の樹脂製凸版機能層を簡単に除去し、新たな樹脂製凸版機能層を同スリーブ上に再生することができるつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体の提供。
【解決手段】支持体スリーブ表面に実質的につなぎ目なく剥離可能に設けられた合成樹脂層が存在し、さらに化学線露光製版が可能な樹脂層が積層されてなることを特徴とする、つなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁紙・包装材料・液体容器・贈答箱などへのデザイン印刷、化粧板や飲料化粧缶などの建築部材やアルミ缶などへのエンボス加工、電子基板プリント時のマスク形成など、凸版印刷方式によって行われる被加工体表面へのパターン形成に用いられるつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体に関する。
【背景技術】
【0002】
凸版印刷方式における印刷版としては、ゴムや熱可塑性エラストマーなど常温領域にゴム弾性を有する樹脂製凸版が一般に用いられ、多くはその柔軟性を特徴とするフレキソ凸版印刷向けに使用されている。このためオフセット印刷方式やグラビア印刷方式などで用いられる金属基材を用いた平凹版に比べて被加工体表面に対して軽い圧力でパターン形成でき、段ボールのような表面粗度が高く剛性の低い材料や、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなど張力で伸長しやすい薄いフィルム材料へのパターン形成で好適に用いられている。
フレキソ凸版印刷に使用される樹脂製凸版は、一般的にはシート状の感光性の熱可塑性エラストマーからなるものが多く用いられており、これらは所望のネガフィルムを通して紫外線などの化学線を照射して光硬化させた感光性樹脂を現像処理することで凸型レリーフをもつ凸版として製版される。最近ではこれらの製版工程におけるネガフィルムの特性を樹脂表面に直接付与するCTP版の製版技術によって製版工程の簡略化、凸型レリーフの高精細な再現が得られ、より短納期・高品質な用途にも使用できるようになってきた。
【0003】
一方、樹脂製凸版を印刷機に装着する際には、印刷機のシリンダ上に両面粘着テープなどでシート状の樹脂製凸版の位置を決め、精度よく貼り付ける必要があり、品目交換ごとにこの貼り付け作業が必要になるという問題がある。このため最近ではシリンダから着脱可能な中空円筒状の支持体スリーブにあらかじめ両面粘着テープなどで樹脂製凸版シートを固定しておき、品目の交換を支持体スリーブごと印刷機シリンダから出し入れすることによって行う方法がとられている。また特開平8−305030号公報(特許文献1)には、予めその表面に非赤外線遮蔽性に優れた赤外線感受性層を設けた感光性樹脂CTP版シートを支持体スリーブに両面粘着テープなどで貼り付け、赤外線レーザーによって所望のパターンに赤外線感受性層を選択的に切除してその表面にネガ型マスクを形成し、このネガ型マスクを通して紫外線などの化学線を照射して光硬化させた感光性樹脂を現像処理することで印刷機上での位置決めを製版工程で事前に行うと同時に、CTP版の特徴である高精細なパターンの凸型レリーフをスリーブ上に得る方法が提案されている。
【0004】
このような技術の発明により、フレキソ凸版印刷方式によるパターン形成がより生産効率の高い方法として見直されている。しかし、このように使用される樹脂製凸版は全てシート状であり、印刷機シリンダの円周方向に生じる版端部の隙間により円周方向につなぎ目なく連続するパターンを形成することができず、そのような連続パターンが要求される場合にはシート状の樹脂製凸版を印刷機シリンダまたは支持体スリーブに貼りあわせた後に円周方向の版端部間に液状の感光性樹脂などを流し込んで後処理するなどの後加工が必要であった。またこのように後加工しても複雑な連続パターンや高精度・高精細な連続パターンでは完全に対応することはできなかった。
【0005】
最近では前記したフレキソ凸版印刷方式の優位性から連続パターンの要求が高まり、これらの要求に対して円周方向につなぎ目のない樹脂製凸版スリーブを製作する方法が提案されている。これらは例えば特開2003−025749号公報(特許文献2)に開示されているような、シート状の感光性材料を支持体スリーブに巻きつけたシート端部を軟化点以上に加熱して融着させ研削装置等でつなぎ目なく研削成形した後、その外周面に非赤外線遮蔽性に優れた赤外線感受性層を円周方向につなぎ目なく塗工し赤外線レーザーによって所望のパターンに赤外線感受性層を選択的に切除してその表面にネガ型マスクを形成し、このネガ型マスクを通して紫外線などの化学線を照射して光硬化させた感光性樹脂を現像処理して凸型レリーフを得たものや、特開2004−262076号公報(特許文献3)で開示されているような、液状あるいはホットメルトな感光性の熱可塑性エラストマーを支持体スリーブに塗工し紫外線などの化学線を照射して感光性樹脂を光硬化させ研削装置やカレンダ処理でつなぎ目なく成形し、さらに所望のパターンに制御された赤外線レーザーなどを照射しながら光硬化した感光性樹脂を彫刻して凸型レリーフを得たものである。
【0006】
これらの方法によって得られる樹脂製凸版スリーブは円周方向につなぎ目がなく高精度・高精細の凸型レリーフを持ち、壁紙・包装材料・液体容器・贈答箱などへのデザイン印刷、化粧板などの建築部材のエンボス加工、電子基盤プリント時のマスク形成などフレキソ凸版印刷の用途展開に大きな役割を担っている。しかしこれらの方法により作製されるつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブは、支持体スリーブに直接または接着剤などを介して樹脂製凸版となる感光性材料などをつなぎ目なく固定するために、その使用後に樹脂製凸版を支持体スリーブから除去することが困難であり、高価な支持体スリーブを再利用できないという問題を抱えていた。
【0007】
特開2000−267264号公報(特許文献4)に開示されているような、支持体スリーブ表面にフィルムなどの剥離可能な支持体シート巻きつけてつなぎ目を粘着テープなどで固定し、その支持体シート上に前記したような方法で樹脂製凸版を積層し使用後の支持体スリーブを保護・再生させる方法も提案されているが、幅広の支持体スリーブや剛性のない支持体スリーブに剥離可能な支持体シートを均一に巻きつけるのが難しく、円周方向にできる支持体シートのつなぎ目や粘着シートによる微少な高低差が高精細なパターン形成に影響を及ぼすといった問題があった。
【特許文献1】特開平8−305030号公報
【特許文献2】特開2003−025749号公報
【特許文献3】特開2004−262076号公報
【特許文献4】特開2000−267264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、支持体スリーブを用いて構成されるつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体において、パターン形成に影響を与えることなく使用後の樹脂製凸版を支持体スリーブから簡単に除去し新たな樹脂製凸版を同支持体スリーブ上に再生することができる、つなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、支持体スリーブ上に実質的につなぎ目のない合成樹脂からなる剥離層を設け、この剥離層を介して化学線露光製版が可能な樹脂層を積層することにより、パターン形成に影響を与えることなく使用後の樹脂製凸版を支持体スリーブから簡単に除去し、新たな樹脂製凸版を同支持体スリーブ上に再生することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.支持体スリーブ表面に実質的につなぎ目なく剥離可能に設けられた合成樹脂層が存在し、さらに化学線露光製版が可能な樹脂層が積層されてなることを特徴とする、つなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体。
2.合成樹脂が30℃から100℃の範囲にガラス転移点(Tg)を有することを特徴とする、1.に記載のつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体。
3.合成樹脂がスリーブ状の熱収縮型フィルムであることを特徴とする、1.または2.に記載のつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体。
4.支持体スリーブ表面に実質的につなぎ目のない合成樹脂層を設ける工程、化学線露光製版が可能な樹脂層を積層する工程を含むことを特徴とする、つなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体の製造方法。
5.合成樹脂層を設けた後に、合成樹脂層を熱収縮させる工程を含むことを特徴とする、4.に記載のつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粘着シートによる微妙な高低差が解消され、高精細なパターン形成が可能になるだけでなく、パターン形成に供された樹脂製凸版スリーブ構成体から、高価な支持体スリーブを再生することができ、何度でも再利用して樹脂製凸版スリーブ構成体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、特にその好ましい実施態様を中心に、詳細に説明する。
本発明における支持体スリーブは、中空円筒状の基材であって、圧縮空気圧でスリーブ内径が膨張拡大でき当該圧縮空気圧が開放されると元の内径に戻るような特性を有していることが好ましい。
支持体スリーブには、ニッケルなどからなる薄い金属基材や少なくとも1つの繊維強化プラスチック基材を使用することができるが、繊維強化プラスチック基材からなるものが好ましい。その理由としてはプラスチック基材が金属基材に比べて軽量であり移送や交換作業などに優れていること、その内面に圧縮空気圧によって膨張拡大する少なくとも1つの繊維強化プラスチック基材層を持つため、その上層部の基材厚みを任意にかえて様々なリピートに対応させることができること、さらにはその内部層や外周面上に弾性層などパターン形成の補助機能を設けることで、パターン形成の一層の品質向上を図ることができることなどが挙げられる。
【0013】
しかしその一方で支持体スリーブとしてのコストは益々高くなる傾向にあり、少なくとも1つの繊維強化プラスチック基材からなる支持体スリーブは繰り返し利用できることが望まれている。少なくとも1つの繊維強化プラスチック基材からなる支持体スリーブの厚みは薄いものでは0.1mmから厚いものでは5mm以上のものが使用されるが、特に5mm以上のものに対しては、軽量化の面からその内部層にポリエチレンやポリウレタンなどの発泡体層を設けその表面層を硬質のポリウレタンやポリエチレン基材でコーティングした多層構造を有するため、支持体スリーブとしての製品コストが非常に高く、本発明の効果が有効である。
【0014】
支持体スリーブ上に剥離可能な状態で設けられる合成樹脂からなる剥離層は、剥離の観点から支持体スリーブ表面と化学的に結合しないものを用いることが好ましい。但し、製作時・パターン形成時に受ける摺り応力などによる機械的ストレス、現像溶剤やインキなどの有機溶剤などによる化学的ストレスに耐久するための支持体スリーブ表面との適度な粘着性または摩擦力、および物理的・化学的構造強度を有していることが好ましい。
【0015】
一般的に凸版印刷方式によるパターン形成は20℃前後の室温雰囲気から60℃程度の温度範囲で行われるため、その物理的特性はこれらの温度範囲では剛直である材料が望ましく、例えばポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなど30℃以上の範囲にガラス転移点(Tg)を有する熱可塑性樹脂、より好ましくはポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなど60℃以上の範囲にTgを有する熱可塑性樹脂が利用できる。また製作時・パターン形成時には炭化水素系または塩素系の現像液、アルコール、エステル、エーテルなどを含有したインキやフッ素オイルなどの有機溶剤が使用されるため、化学的特性としてはこれらに対して安定であるものが望ましく、それら特性を満足する材料としてポリエステルが最も好適に利用できる。
【0016】
一方、前記のように製作時・パターン形成時に受ける摺り応力などによる支持体とのズレ防止のため支持体スリーブ表面との粘着性または摩擦力を考える場合、支持体スリーブ表面基材によっても選択される合成樹脂材料は異なってくる。粘着性および摩擦力の目安としては、被覆する支持体スリーブ基材に対する摩擦係数がJIS K7125(プラスチックフィルム及びシートの摩擦係数試験方法)において、動摩擦係数で0.3以上、静摩擦係数で0.4以上が望ましく、より好ましくは動摩擦係数で0.4以上、静摩擦係数で0.5以上である。但し、支持体スリーブ表面または合成樹脂裏面に粘着層を設けることでこれら剥離層の特性を満たしても良い。
【0017】
支持体スリーブ表面または合成樹脂裏面に粘着層を設ける手法としては、例えば糊などの粘着剤を支持体スリーブ表面に塗布する方法、片面粘着テープを合成樹脂層として設ける方法、合成樹脂を有機溶剤や水などの溶媒に分散させた液状の熱可塑性接着剤を支持体スリーブ表面に塗布する方法などを挙げることができる。熱可塑性接着剤を用いると粘着層と同時につなぎ目のない合成樹脂層が形成できるためより好適である。熱可塑性接着剤としては、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル、ポリエチレンなどの合成樹脂を少なくとも1つ含有するものを利用することができる。環境負荷や取扱い性の面からポリ酢酸ビニル系接着剤のような水性のエマルジョン溶液がより好ましい。ポリ酢酸ビニルを合成樹脂材料として用いる場合には、前記した現像液や溶剤に対する耐性の観点から、特開2003−025749号公報に開示されているような、つなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体の中間層に30μmから250μmのプラスチックフィルムからなる剛性層を介して樹脂製凸版を積層する方法などによって、表面層から侵入する有機溶剤などに対するバリア層を設ける構成とすることが好ましい。
【0018】
支持体スリーブにこれら液状の接着剤によって合成樹脂からなる剥離層を設ける方法としては、いくつかの公知のコーティング技術が利用できる。特に円筒状スリーブのコーティング技術としてはロールコーターやスプレーコーター、リングコーターなどによるコーティング方式が知られており、これらのコーティング技術により液状の接着剤から円周方向にはつなぎ目のない合成樹脂層からなる剥離層を形成させることができる。
また、固体状の合成樹脂によって支持体スリーブに剥離層を設けることもできる。例えば厚みが30μmから150μm程度の薄い片面粘着テープを支持体スリ−ブの幅方向に一筋貼り付け、貼り付けたテープ幅に対して均等に同一幅のテープを重ねながら支持体スリーブの円周方向全体をテープで被覆する方法、円周方向につなぎ目のない中空のスリーブ状熱収縮型フィルムを支持体スリーブに通し、加熱によってスリーブ表面に収縮固定させる方法などを挙げることができる。前者によって実質的につなぎ目のない合成樹脂層を設けることができるが、後者の場合には合成樹脂をつなぎ目がない状態で支持体スリーブ表面に固定できるためより好適である。
【0019】
本発明において、実質的につなぎ目がないとは、合成樹脂の不連続部位が被加工体表面へのパターン形成に影響を及ぼさない程度につなぎ目がないことをいう。
スリーブ状熱収縮型フィルムとしては一般的に市販されているものを用いることができ、加熱した際に寸法が変化するものであれば何でも用いることができ、特に限定するものではない。好ましい材料の具体例としては、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロック共重合体を有する高分子化合物、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリスチレンなどのフィルム材が使用できる。本発明において選択される熱収縮型フィルムも前記した製作時・パターン形成時に受ける機械的、化学的ストレスに耐久するための適度な支持体表面との粘着力または摩擦力、および物理的・化学的構造強度を有しているものから選択され、有機溶剤への化学的耐性の面からポリエステルが好適である。
【0020】
合成樹脂によって形成させた剥離層の厚みに特に制限はないが、剥離作業時の容易性とパターン形成品質への影響を考慮して15μm以上300μm以下が好まく、特に好ましいのは15μm以上150μm以下である。またスリーブ状熱収縮型フィルムを用いて剥離層を形成させる場合には、熱収縮した際に樹脂製凸版用スリーブに対して適度な圧力で巻きつけられることが好ましい。適度な圧力とは例えば薄肉のスリーブにおいて、フレキソ印刷機シリンダ装着時にスリーブ内面に供給する圧縮空気圧に対してスリーブ内面の拡張を阻害しない程度を指し、支持体スリーブに対して100g/cm以上300g/cm以下の圧力で巻きつけられるように収縮率を調整することが好ましい。圧力の測定は、富士フィルム社製のプレスケールマットと極超低圧用プレスケール(LLLW)を組み合わせて支持体スリーブ表面に貼り付け、その上から熱収縮型フィルムを収縮させたときに変化するプレスケールの色によって目視でき、圧力画像解析システム(FPD−9210)用微圧解析ソフトウエアによって定量もできる。
【0021】
合成樹脂からなる剥離層上に樹脂製凸版を積層する方法としては、前記した特開2003−025749号公報に開示されているようなシート状の感光性材料を用いる方法や特開2004−262076号公報で開示されているような液状あるいはホットメルトな感光性の熱可塑性エラストマーを用いる方法などが利用できる。
本発明において、合成樹脂からなる剥離層上に積層する樹脂層は、化学線露光製版が可能な樹脂材料からなる。パターン形成時の圧縮特性を調整するために弾性発泡体などのパターン形成補助機能層と貼り合せて積層される場合があり、発泡体の弾性保持および、パターン形成品質の安定性の観点からシート状の感光性材料を用いることが望ましい。
【0022】
合成樹脂からなる剥離層上に積層するシート状の感光性材料としては、樹脂製凸版として公知の感光性樹脂版やゴム版を用いることができる。これら樹脂製凸版はパターン形成時の圧縮特性を調整するために弾性発泡体などのパターン形成補助機能層と貼り合せて積層することができる。貼り合わせられるパターン形成補助機能層としては、例えばポリウレタン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレンなど連続または単独の微細な気泡を有する弾性発泡体からなり、その密度が0.1g/cmから0.6g/cmショアA硬度が10から60程度のもの(特開平2−56554号公報や特開平3−192359号公報、特開平11−184072号公報に開示されているようなフレキソ印刷用の弾性発泡体シート)を用いることができる。
【0023】
弾性発泡体をパターン形成補助機能層として積層する場合には、所定の幅にカットされた長さ方向に連続する前記弾性発泡体シートを用いて、剥離層を設けた支持体スリーブ表面に接着剤を塗布し、塗布端からもう一方の端に向かってらせん状に隙間なく弾性発泡体シートを巻くことで、円周方向につなぎ目のない弾性発泡体のパターン形成補助機能層を得ることができる。この際、弾性発泡体シートの少なくとも一方にスキン層を設けスキン層面と剥離層とを接着させると界面でのより高い接着力を得ることができると同時に、剥離作業に際して発泡体層や剥離層の途中破断を防止することができ、より簡便な剥離作業を提供することができる。このように形成させたパターン形成補助機能層はその後、要求される圧縮特性などを加味して研削装置などによって所望の厚みに成形することができる。
【0024】
本発明において、シート状の感光性樹脂材料は、バインダーポリマー、少なくとも一種のエチレン性不飽和モノマー、光重合開始剤を主成分として構成されることが好ましく、感光性樹脂材料に要求される特性に応じて増感剤、熱重合禁止剤、可塑剤、着色剤などを添加できる。多くの場合、光重合開始剤が紫外線などの化学線に感応性を有しており、これら感光性樹脂材料に所望の像様マスクを通して紫外線などの化学線を露光することにより、露光部の光重合性層が不溶化し適当な現像液で凸型レリーフを現像することができる。
【0025】
剥離層を設けた支持体スリーブもしくはその表面にパターン形成補助機能層を積層したスリーブへのシート状の感光性樹脂材料の積層は、前記した特開2003−025749号公報に開示されているような方法によって行うことができる。例えば、まずスリーブの円周方向に感光性樹脂シートを巻きつけ幅方向に接合する感光性樹脂シート端部同士を熱融着させる。この際、感光性樹脂シートの端部同士に隙間ができたり重なったりしないように長さおよび裁断端面を正確かつ鋭利に切断して用いることが好ましい。またつなぎ目への異物の混入は、最終的にフレキソ凸版レリーフを形成した場合の形成不良の原因となるため、塵埃などの少ないより清浄な環境下で作業することが好ましい。さらには巻きつけた感光性樹脂シートの端部の接合界面、および剥離層を設けた支持体スリーブもしくはパターン形成補助機能層を積層したスリーブとの接合界面に介在するエアーに起因する接合不良防止のため、減圧装置などを用いて介在するエアーを除去し、接合し合う界面をより真空度の高い状態で巻きつけて加熱融着処理することが好ましい。
【0026】
感光性樹脂シートを巻きつけた剥離層を設けた支持体スリーブもしくはその表面にフレキソ凸版補助機能層を積層したスリーブは、界面の真空度を保った状態で赤外線ヒーターなどの熱源を用いたオーブンに入れ、直接または間接的に感光性樹脂をその軟化点以上に加温して感光性樹脂シートの端部同士を融着させることができる。加熱融着処理された感光性樹脂スリーブは、室温環境まで冷却された後に研削装置などによって所望の径に研削処理することができる。
【0027】
研削装置によって処理された感光性樹脂表面は、最終的なパターン形成画像にそのまま反映されるため、パターン形成の用途に応じて熱や溶剤などによって整面処理することが好ましく、必要に応じてその表面に赤外線感受性溶液を塗布することにより、赤外線感受性層を積層することができる。赤外線感受性層とは、少なくとも溶剤可溶または分散性バインダーポリマー、赤外線吸収性物質、非赤外線遮蔽物質を含有する溶液を感光層樹脂層表面に塗布することで得られ、赤外線による切除が可能で非赤外線を遮蔽する特性を有する。
【0028】
感光性樹脂層の表面に赤外線感受性溶液を塗布積層する方法としては、リングコーター、スプレーコーター、ロールコーターなどを用いることができる。赤外線感受性層の厚みは、赤外線レーザーによる切除の感度と非赤外線の遮蔽効果を考慮して決定するが、0.1g/mから20g/mが好ましく、より好ましくは1g/mから5g/mの範囲で設定する。
このようにして赤外線感受性層を積層したスリーブは、赤外線レーザー描画により赤外線感受性層を画像的に切除してネガ型マスクを形成し、このマスクを通して感光性樹脂層に化学線を照射し、その後適当な現像液を用いて未照射部の感光性樹脂と表層部に残ったマスクを洗い出すことで所望の凸型レリーフを現像することができる。
【0029】
この工程で使用される赤外線レーザーとしては、その波長が750nmから2000nmのものを用いることができる。このタイプの赤外線レーザーとしは、例えば750nmから880nmの半導体レーザーや、1060nmのNd−YAGレーザーが挙げられる。これらレーザーの発生ユニットは駆動系ユニットとともにコンピューターで制御することができ、感光性樹脂層上の非赤外線の遮蔽層を選択的に切除していくことにより、デジタル化された画像情報を赤外線感受性層にネガ型マスク様に付与することができる。
赤外線レーザーによるネガ型マスクの描画が完了した後、感光性樹脂層に化学線を照射して光硬化することができる。化学線光源としては、高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ、太陽光などを用いることができる。但し、これら化学線光源は何れも点または線光源であり、円筒状の感光性樹脂層面に照射する際には円周方向及び幅方向に均一な化学線強度分布を示すように照射することが好ましい。
【0030】
感光性樹脂層に化学線を照射して画像を形成させた後、残存する赤外線感受性層と感光性樹脂層の未硬化部を洗い出すことが好ましい。洗い出しで用いられる現像液としては、感光性樹脂層を溶解する性質のものであればいずれも使用できるが、例えばペプチルアセテート、3−メトキシブチルアセテートなどのエステル類、石油留分、トルエン、デカリンなどの炭化水素類、テトラクロルエチレンなどの塩素系溶剤などを用いることができる。またこれらの溶剤にプロパノール、ブタノール、ペンタノールなどのアルコール類を混合したものを用いることもできる。
赤外線感受性層および感光性樹脂層の未硬化部の洗い出しはノズルからの現像液噴射によって、または現像液とブラシによるブラッシングで行うことができる。得られた樹脂製凸版レリーフはリンス洗浄し、乾燥後に後露光を実施して仕上げを行い、つなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体が得られる。
【0031】
このようにして得られたつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体はパターン形成に供された後、合成樹脂層にナイフなどで切り込みを入れそのまま剥離するか、熱可塑性プラスチックであれば可塑化温度に昇温して軟化したプラスチック層を塑性変形させながら剥ぎ取ることで凸版機能層とともに簡単に支持体スリーブ表面から除去することができる。
【実施例】
【0032】
本発明の実施形態を実施例に基づいて具体的に説明する。
[実施例1]
内径146.539mm、外径159.938mm、面長1630mmの支持体スリーブ(ブルーライトスリーブ(商品名)/Rotec社)をスプレー塗装機(COATING STAND/AV flexologic社)に装着し、円周方向に60rpmの速度で回転させながら、酢酸ビニルエマルジョン溶液(CH3000L(商品名)/コニシボンド社)をスリーブ表面全体にウエット塗工量150g/mで均一にスプレー塗布し、その後、熱風乾燥機(VERTICL OVEN/AV flexologic社)内で60℃10分間乾燥させてつなぎ目がないスリーブ表面と剥離可能な合成樹脂層に被覆されたスリーブを得た。
【0033】
このスリーブを室温まで冷却した後、包装装置(WARP/AV flexologic社)に装着し、30rpmの速度で回転させながらウレタン系接着剤(KU822S(商品名)/コニシボンド社)をスリーブ表面全体にウエット塗工量30g/mで均一にロール塗工した。この際、スリーブの両端部に幅24mmの片面粘着テープ(ダイアハローテープ(商品名)/三菱樹脂社)をスリーブ端面に沿って円周方向に一周巻きつけ接着剤マスクとし、塗布後にテープを剥がしスリーブ端部への接着材の侵入を防止した。
接着剤表面に幅80mm、厚み1.02mmの弾性発泡体材(R-bak PSA 片面スキン(商品名)/Rogers社)を、そのスキン面を接着剤側に配置して接着剤の塗布端からもう一方の塗布端にむかってスリーブをらせん状に包むように隙間なく巻き付け、室温下1時間放置して接着剤と固定した。その後、研削装置(SA6/2U×200/シュライフ・マシーネンヴェルク社)にスリーブを装着し、その外径が158.938mmになるまで弾性発泡体材表面を研削した。
【0034】
厚み2.10mm、サイズ1067mm×1524mmのフレキソ印刷用感光性樹脂シート(AFP CTH−10(商品名)/旭化成ケミカルズ社)のカバーフィルム側から370nmに主波長を有する紫外線ランプの露光装置(EXPOSURE/AVflexologic社)で40秒間紫外線を照射し、短い辺が513.457mmなるように版断裁機(CUTTING TABLE/AV flexologoc社)で両端部を均等に裁断した。
弾性発泡体材の研削が完了したスリーブを再度ラッピング装置に装着し、裁断した感光性樹脂シートのカバーフィルムを剥がし、剥がした面を弾性発泡体材側に配置して感光性樹脂シートの短い辺でスリーブ円周方向を包むように巻きつけて、長い辺の接合部を感光性樹脂シートがスリーブから脱落しないように片面粘着テープで数箇所仮止めした。
【0035】
巻きつけた感光性樹脂シートをスリーブ上の弾性発泡体材に完全に密着させるために、弾性発泡体材と感光性樹脂シートの界面に減圧装置を用いて−0.8バールの真空圧を与え、感光性樹脂シートの長い辺が真空密着するようにスリーブ端から感光性樹脂シートの長い辺の両端部をお互いに寄せ合わせるようにして順次仮接合した。さらにこの減圧状態で感光性樹脂シートの外周面にある支持体フィルムを剥がしとり、赤外線加熱炉(CURING OVEN/AV flexologic社)内で樹脂表面温度が110℃になるまで加熱し、仮接合したシート端面と弾性発泡体材表面に感光性樹脂シートを完全に融着させた。
【0036】
次いで、加熱炉から取り出したスリーブを室温まで冷却した後、再度研削装置に装着し、その外径が162.468mmになるまで感光性樹脂表面を研削した。その後表面処理装置(ARC−110H/旭化成ケミカルズ社)内でその表面に鏡面化処理を施し、スプレー塗装機(ARC−110B/旭化成ケミカルズ社)にて合成ゴムとカーボンブラックを主成分とする溶液(XBL−B53(商品名)/旭化成ケミカルズ社)をスプレー塗工しその表面に赤外線感受性層を得た。
このスリーブにYAGレーザーを光源とするレーザー照射装置(CDI/ESKO graphics社)で150線/インチの連続図柄の画像データを描画し、赤外線感受性層のネガ型画像マスクを形成させた。この画像マスクを通し、370nmに主波長を有する紫外線ランプの円筒露光装置(MAIN EXPOSURE/AVflexologic社)で照射面の紫外線強度10mW/cm(UV35)の下、8000mJの紫外線を照射した。
【0037】
その後、芳香族炭化水素系溶剤(SOLVIT(商品名)/エクソン化学社)を用いて洗浄装置(AFS−1316IP/旭化成ケミカルズ社)にてブラシによる洗い出しを行い、60℃1時間乾燥の乾燥の後、表面の粘着性を除去するために254nmの波長を有する殺菌線ランプによって20分間、370nmに主波長を有する紫外線ランプによって5分間の露光を行い、つなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体を得た。
【0038】
以上の操作によって得られた本発明の樹脂製凸版スリーブ構成体を用いて、フレキソ印刷機(ウィンドミラー スタック)で300m/分の速度でカートン紙に水性インキで繰り返し100万mの印刷を行った。その後、同スリーブを熱風加熱炉で60℃10分間加熱し、スリーブの樹脂表層から発泡体シートにかけてナイフで切り込みを入れ、切り込み面から樹脂製凸版層を支持体スリーブから引き剥がすように持ち上げた結果、剥離層とともに樹脂製凸版機能層が完全に除去でき、除去された支持体スリーブ表面は使用前のそれと変わらぬ表面状態を呈した。
【0039】
[実施例2]
内径86.060mm、外径101.906mm、面長412mmの支持体スリーブ(ブルーライトスリーブ(商品名)/Rotec社)に、厚み30μm、折幅210mmのスリーブ状の熱収縮型シュリンクフィルム(ハイスリーブ G101(商品名)/東興資材工業社)を支持体スリーブに被せ、余剰のフィルム両端部にフィルムがシュリンクした場合のエアーの通過口を残してセロハンテープを巻きつけて支持体スリーブをスリーブ状シュリンクフィルム内に封止した。次いで熱風乾燥機(VERTICL OVEN/AV flexologic社)内にこのスリーブを中空にして置き、60℃の熱風をフィルム全体に均一に3分間噴き付けてフィルム全体をシュリンクさせた。支持体スリーブの端部エッジに沿って余剰のフィルムをナイフで切り取り、スリーブ表面につなぎ目がないスリーブ表面と剥離可能な合成樹脂層に被覆されたスリーブを得た。
【0040】
以降、最終操作まで実施例1と同様の操作を行いつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体を得た。実施例1と同様にパターン形成に供した後、支持体スリーブの端部からシュリンクフィルムを幅方向に切断した結果、フィルム剥離層とともに樹脂製凸版機能層が完全に除去でき、除去された支持体スリーブ表面は使用前のそれと変わらぬ表面状態を呈した。
【0041】
[比較例]
支持体スリーブの表面に実施例にある酢酸ビニルエマルジョン溶液の塗布を行わないで、接着剤を直接支持体スリーブ表面に塗布し、以降実施例と同様の操作によって樹脂製凸版スリーブ構成体を得た。実施例同様の印刷履歴を与えた後に、スリーブ表面から樹脂製凸版層の除去を試みたが、支持体スリーブ表面と強固に接着しているために除去することができなかった。このため、研削装置で樹脂製凸版機能層の研削除去を試みたが、研削に非常に時間がかかるばかりか研削砥石によって支持体スリーブ表面にキズをつけてしまい支持体スリーブを元の状態に再生することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体は、高価な支持体スリーブの再利用や、凸版印刷の分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体の基本断面図を示す。
【符号の説明】
【0044】
01:樹脂製凸版層
02:樹脂製凸版補助機能層
03:合成樹脂層(剥離層)
04:支持体スリーブ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体スリーブ表面に実質的につなぎ目なく剥離可能に設けられた合成樹脂層が存在し、さらに化学線露光製版が可能な樹脂層が積層されてなることを特徴とする、つなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体。
【請求項2】
合成樹脂が30℃から100℃の範囲にガラス転移点(Tg)を有することを特徴とする、請求項1に記載のつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体。
【請求項3】
合成樹脂がスリーブ状の熱収縮型フィルムであることを特徴とする、請求項1または2に記載のつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体。
【請求項4】
支持体スリーブ表面に実質的につなぎ目のない合成樹脂層を設ける工程、化学線露光製版が可能な樹脂層を積層する工程を含むことを特徴とするつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体の製造方法。
【請求項5】
合成樹脂層を設けた後に、合成樹脂層を熱収縮させる工程を含むことを特徴とする、請求項4に記載のつなぎ目のない樹脂製凸版スリーブ構成体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−198844(P2006−198844A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11890(P2005−11890)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】