説明

はんだ材料の不純物除去方法

【課題】フロー式はんだ付け技術において、稼動に伴って増加するはんだ材料中の不純物を効率的に除去する。
【解決手段】不純物を含んだはんだ材料を処理槽に貯留し、貯留されたはんだ材料を加熱溶融させるとともに加熱溶融位置を処理槽の外周部から中心部へと移動させ、加熱溶融が終わった後再び固化する部分のはんだ材料中の、はんだ材料よるも低融点の不純物が、処理槽の中心部に集まって蓄積され、処理槽の中心部からはんだ材料を排出することで、不純物除去処理時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ材料の不純物除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フロー式はんだ付け装置を長時間稼動していると、はんだ槽内のはんだ材料に含まれる不純物が増え、はんだ付けの品質性能に悪影響を与えるという問題がある。
【0003】
加熱溶融状態のはんだ材料が、電子部品や基板と接触すると、例えば、電子部品のリードめっき部分から、Pb、Biなどの成分が溶出して、はんだ槽内のはんだ材料に不純物として含まれることがある。また、基板の銅箔からCuが溶出することもある。その他にも、電子部品あるいは基板を構成する材料に含まれる成分が溶出して、はんだ材料に含まれる不純物が増える傾向にある。
【0004】
鉛フリーはんだ材料において、前記不純物が増えると、はんだの均一性が失われ、はんだ付けの品質性能が低下する。具体的には、例えば、はんだ付け箇所で、はんだと基板銅箔の界面がはく離するリフトオフと呼ばれる現象が発生する原因になる。また、鉛フリーはんだ材料中のCu濃度が上昇すると、はんだ材料の融点が高くなり粘度が上昇して、ブリッジ不良や赤目不良が増加して、作業品質が低下する原因になる。Pbは、Sn−Pbはんだなどでは構成成分でもあるが、鉛フリー化を目指した鉛フリーはんだ材料の場合には、鉛フリー化を阻害することになる。
【0005】
そこで、鉛フリーはんだ材料を使用した従来のフロー式はんだ付け技術では、一定期間を稼動して不純物濃度が高くなった鉛フリーはんだ材料は、全て又は一部をはんだ槽から取り出して廃棄し、はんだ槽には新たな鉛フリーはんだ材料の供給することが行われている。しかし、大量のはんだ材料を廃棄処理する手間とコストがかかりすぎる欠点がある。
【0006】
そのため、鉛フリーはんだ材料中の不純物を除去する方法としては、加熱溶融状態の合金が凝固する際の凝固偏析作用を応用して不純物を除去する方法があった(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
図9は、従来の不純物除去方法を示すものである。図9において、処理槽16の外部から内部のはんだ材料50を加熱する。処理槽16は、垂直方向に延びる有底円筒状をなす。処理槽16の底部にはドレン口18が設けられている。処理槽16の外周には、円環帯状をなすヒータ62が、処理槽16上部から下部へと複数段にわたって周囲を囲むように取り付けられている。各段のヒータ62は、通電の開始および停止を順次切り替えられるようになっている。処理槽16の側壁を介してヒータ62で加熱溶融されるはんだ材料50の加熱溶融位置が、上方から下方へと順次移動する。はんだ材料50に含まれる不純物52は、処理槽16の底部へと蓄積される。不純物52の高濃度で含む部分のはんだ材料50は、ドレン口18から排出される構成をしていた。
【特許文献1】特開2003−136234号公報(第1−8頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の構成では、加熱溶融位置が一端から他端へ移動する、すなわち、不純物の移動距離が長いため、鉛フリーはんだ材料中の不純物を取り除く時間が長くなる。処理槽の大きさにより処理時間が異なるが、例えば15kgを処理する場合72時間かけて鉛フリーはんだ材料中の鉛の25%を除去していた。結果として、時間がかかるため、除去する効率が落ちるという課題を有していた。
【0009】
また、処理槽の他端へ移動した際、熱のバラツキにより、ドレン口から排出される量の再現性が低いという課題を有していた。通常、不純物を濃縮させた鉛フリーはんだ材料は、処理槽に投入した鉛フリーはんだ材料の15%程度を排出していたが、熱のバラツキにより、5%から25%程度の間で排出を行っており、再現性が低かった。
【0010】
また、前記従来の構成では、処理槽内での不純物の移動は、主として拡散作用によって行われている。その移動速度は主として加熱溶融部中の不純物の濃度勾配に依存しているが、処理槽の大きさに比べて原子レベルの拡散作用による移動速度は遅く、有効な不純物除去性能を得るためには、処理作業時間が長くなるという課題を有していた。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、鉛フリーはんだ中の不純物の処理時間を短縮させ、安定した不純物除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明のはんだ材料の不純物除去方法は、処理槽に貯留したはんだ材料を加熱溶融させるとともに、加熱溶融位置を処理槽の外周部から中心部へと移動させ、加熱溶融が終わった後再び固化する部分のはんだ材料中の、はんだ材料よるも低融点の不純物が、処理槽の中心部に集まって蓄積され、処理槽の中心部からはんだ材料を排出することを特徴としている。この構成によって、不純物の移動距離を短縮することができる。
【0013】
また、本発明のはんだ材料の不純物除去方法は、加熱溶融位置の移動と同時に、加熱溶融位置の進行方向側のはんだ材料を攪拌することを特徴としている。この構成によって、加熱溶融位置の進行方向側のはんだ材料に含まれる不純物の濃度を一様にすることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明のはんだ材料の不純物除去方法によれば、不純物除去の作業時間を短縮するとともに不純物の分離効率を高くすることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
(実施の形態1)
図1(a)は、本発明の実施の形態1である不純物除去装置の断面図であり、図1(b)(c)は、上面図である。図2は、本発明の実施の形態である不純物除去方法をステップごとに表したものである。図1、2において、図9と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0017】
図1(a)において、不純物処理装置10は、処理槽16を持ち、その処理槽16は水平方向に長い直方体形状をなしている。処理槽16の大きさは必要な処理量により異なるが、例えば本実験においては、300mm四方、深さ50mmの処理槽16を用い、処理量として15〜20kgのはんだ材料を処理する処理槽16を用いた。処理槽16の側壁および底には、複数本の棒状のヒータ60が一定間隔で配置されている。実験では、600Wの出力をもつヒータ60を一定間隔で10本配置したもので行った。図示を省略しているが、ヒータ60には電力が供給されるようになっているとともに、通電を制御する制御盤や制御コンピュータに接続されていて、複数本のヒータ60の加熱開始終了や加熱温度を任意に制御できるようになっている。
【0018】
図2において、ステップ1として、処理槽16内に貯留されたはんだ全体を一旦熱溶融させる。一般的な鉛フリーはんだの材料であるSn‐3.0Ag‐0.5Cuならば、融点217℃前後であるため、225〜230℃程度で溶融させる。このとき、はんだ中の不純物52は処理槽内でほぼ均一に分散している。
【0019】
ステップ2として、次に、ヒータ60の温度を外周部からヒータ設定温度を下げていくことにより、処理槽の外周部から凝固を開始させ、処理槽16中のはんだの凝固−溶融部の境界界面53を中心部に移動させる。このとき、Sn‐3.0Ag‐0.5Cuの組成からなる鉛フリーはんだ材料に、不純物であるPbが混入すると、Sn−Pb合金の共晶点が183℃であるため、低融点の不純物が生成される傾向にある。また、溶融した鉛フリーはんだ材料を緩やかに凝固させると、低融点の不純物は、凝固する部位から溶融部に押し出される特性がある。そのため、凝固―溶融部の境界界面53を滑らかに移動させるため、ヒータ60の設定温度は1℃刻みに下げ、また、はんだ材料に安定した熱の移動をさせるため、設定温度を変化させたあとの保持時間を60分とした。はんだ中の不純物52は、はんだ中の溶融部に蓄積される。
【0020】
鉛フリーはんだ材料の組成がSn−3.0Ag−0.5Cuの場合、216〜217℃で凝固する。そのため、本実験では、鉛フリーはんだ材料の温度を225℃から、処理槽16の外側のヒータから1℃ずつ、60分おきに下げていき、処理槽16の外側から凝固させた。凝固させるスピードとして、凝固−溶融部の境界界面53をおよそ20時間かけて移動させた。
【0021】
ステップ3として、凝固−溶融部の境界界面が処理槽16の中心部へ移動したら、ドレン口18を開き、不純物を含むはんだを排出する。例えば、排出量を投入したはんだ材料の15%を狙い値とした場合、中心より直径120mm程度はんだ材料を溶融させた状態で排出する。
【0022】
ステップ4として、ドレン口18を閉じ、再び、鉛フリーはんだ材料を溶融させる。このとき、鉛フリーはんだ中のほとんどの不純物52は既に排出しているので、鉛フリーはんだ材料は清浄化されている。
【0023】
ステップ5として、ドレン口19から、清浄化された鉛フリーはんだ材料を排出させる。
【0024】
これらの効果を確認するには、不純物が蓄積された濃縮部の鉛フリーはんだ材料と浄化された鉛フリーはんだ材料の成分分析を実施する。このとき、分析方法として、ICP発光分光分析法で実施した。
【0025】
かかる構成、方法を用いると鉛フリーはんだ中の鉛等に代表される不純物を初期の約25%を除去することができる。
【0026】
なお、本実施の形態において、処理槽16は水平方向に長い直方体形状としたが、図1(c)のように同等の深さの円柱状としても良い。
【0027】
また、処理槽16中のはんだの凝固―溶融部の境界界面53を中心部から外周部に移動させても良い。その場合、不純物の排出は、処理槽16の外周部から実施することとなる。
【0028】
(実施の形態2)
図3(a)は、本発明の実施の形態2である不純物除去処理装置の断面図であり、図3(b)(c)は上面図である。図1、図2および図9と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0029】
処理槽16の大きさは必要な処理量により異なるが、例えば本実験においては、実施の形態1と同様に、300mm四方、深さ50mmの処理槽16を用い、処理量として15〜20kgのはんだ材料を処理する処理槽16を用いた。処理槽16の側壁および底には、複数本の棒状のヒータ60が一定間隔で配置されている。実験では、600Wの出力をもつヒータ60を一定間隔で10本配置したもので行った。
【0030】
図3において、不純物処理装置10は、処理槽16の中央部に、はんだを加熱することができるヒータ62を持ち、ヒータ62はプレート61に保持されている。図示を省略しているが、ヒータ60には電力が供給されるようになっているとともに、通電を制御する制御盤や制御コンピュータに接続されていて、複数本のヒータ60、および中心部のヒータ62の加熱開始終了や加熱温度を任意に制御できるようになっている。
【0031】
このヒータ62を、ステップ1〜5の間に制御することにより、安定して不純物を中央に集めて、かつ、排出量を一定に制御しやすくなる。
【0032】
例えば、中心部に不純物に移動させるステップ2においては、ヒータ62をはんだ材料の温度より高めに設定する。Sn−3.0Ag−0.5Cuはんだ材料の場合、融点より約20℃高い、240℃程度に設定してやり、中心部にはんだ材料の溶融した状態を保持してやる。実験では、ヒータ62の出力が200Wのものを用いて240℃に設定した。240℃に設定したまま、ステップ3に入ると、投入したはんだ材料の15%程度を排出することができる。また、この排出量の再現性としては、狙い値である15%の±5%以内に収まっている。
【0033】
なお、本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、処理槽16は水平方向に長い直方体形状でも、同等の深さの円柱状としても良い。
【0034】
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3における不純物除去方法の図である。
【0035】
図4において、不純物処理装置10は、不純物処理槽16を持ち、不純物処理槽16は水平方向に比較的長い直方体形状をなしている。不純物処理槽16の側壁および底には、複数本の棒状加熱ヒータ62が一定間隔で配置されている。不純物処理槽16には、はんだ材料50を貯留する。図示を省略しているが、加熱ヒータ62には電力が供給されるようになっているとともに、通電を制御する制御盤や温度センサおよび制御コンピュータに接続されていて、加熱ヒータ62の加熱開始終了や加熱温度を任意に制御できるようになっている。
【0036】
不純物処理槽16の下部には、ドレン排出口18が配置されており、処理槽16内で不純物が濃縮されたはんだ材料や不純物を分離した後の高純度のはんだ材料を排出できるようになっている。図示を省略しているが、ドレン排出口は任意に開閉が可能な機能を有し、必要に応じて溶融はんだを排出できる。
【0037】
不純物処理槽16内では、貯留されたはんだ材料50全体を一旦加熱溶融状態にする。この時、はんだ材料50中の不純物52は、処理槽16内でほぼ均一に分布している。次に、加熱ヒータ62の温度を調節することによって処理槽16に温度勾配を持たせ、処理槽16の一端から凝固を開始させる。図4においては、紙面の左から凝固を開始し、加熱溶融部と凝固部51の境界界面53を矢印90の方向に進行させる。
【0038】
撹拌スクリュー42はスライダー43上に取り付けられている。図示を省略しているが、スライダー43は前後・左右方向に移動が可能で、任意に移動するための機能を持ち、撹拌スクリュー42を境界界面53の進行に合わせて紙面を左から右に移動するとともに、紙面と直交する方向にも移動する。撹拌スクリュー42は撹拌モータ44によって回転し、境界界面53近傍の加熱溶融部を撹拌する。
【0039】
図5および図6は、本発明の実施形態1における不純物除去の高効率化の原理を説明するものである。図5は、不純物処理槽において、はんだ材料全体が溶融した状態の処理槽の左端から凝固が開始して加熱溶融部と凝固部の界面が移動距離(x)80まで進行したときの、処理槽内の不純物濃度分布を示す。紙面において、はんだ材料は境界界面83の左側は凝固部(固体)、右側では溶融部(液体)となっている。縦軸に不純物濃度、横軸は処理槽の端部からの距離を表す。加熱溶融部と凝固部の境界界面83は、矢印90の方向に進行する。
【0040】
不純物除去処理開始前の初期不純物濃度(C0)81のはんだ材料を加熱溶融状態にし、処理槽16に温度勾配を持たせて端部から凝固を始めると、最初に現れる固体部分に含まれる不純物の濃度(CS0)82は、初期不純物濃度(C0)81に分配係数と呼ばれる一定の値kを乗じた値になる。分配係数kは、一般に1より小さい値であり、凝固開始部の固体中の不純物濃度(CS0)82は初期不純物濃度(C0)81よりも低くなる。たとえば、Snに不純物としてPbが混入した場合の分配係数kは、約0.07であり、最初に凝固する材料中にPb濃度は、初期Pb濃度に比べて10分の1以下になる。
【0041】
境界界面83では、結晶が溶融部側へ成長して境界界面83が移動するが、凝固した固体中で過剰になった不純物が溶融部側に押し出され、溶融部の不純物濃度(CL1)86は境界界面83に近いほど高くなる。境界界面で結晶化する凝固部の不純物濃度(CS1)84は、境界界面の溶融部の不純物濃度(CL1)86に依存する。すなわち、溶融部の不純物濃度(CL1)86に分配係数kを乗じた値になる。不純物の分離効率を高めるため、すなわち凝固部の不純物濃度(CS1)84を低くするためには、溶融部の境界界面近傍の不純物濃度(CL1)86を低くしなければならない。
【0042】
不純物除去処理を進めるには処理槽の温度勾配を変化させ、凝固結晶を溶融部側へ成長させて加熱溶融部と凝固部の界面を移動させるが、境界界面の移動速度が不純物の液体中における拡散速度よりも早いと、濃化された不純物が凝固部に取り込まれてしまい、不純物の分離効率が低下する。そこで、不純物の分離効率を高めるためには、境界界面の移動速度を遅くし、凝固部の濃度分布が(CS2)85、溶融部の濃度分布(CL2)87となるようにすればよいが、不純物除去処理の作業時間が長くなるという課題が残る。
【0043】
図6は、境界界面83の近傍の溶融部を撹拌したときの不純物濃度分布を示す。撹拌によって境界界面83近傍の不純物が境界界面進行方向前方に分散し、溶融部の不純物濃度(CL3)88が、境界界面移動速度を遅くした時の濃度分布(CL2)87と同様に低くなる。よって、濃度分布(CL2)87に分散係数kを乗じて得られる凝固部の濃度分布(CS3)89も低下し、境界界面移動速度を遅くした時の濃度分布(CS2)85と同様の結果を得ることができる。すなわち、境界界面83近傍の溶融部の撹拌が不純物除去効率を高める効果があることがわかる。
【0044】
かかる構成で、はんだ材料の加熱溶融部と凝固部の境界界面近傍を撹拌することで、境界界面83近傍の高濃度の不純物を、拡散による移動に比べ、きわめて短時間で境界界面進行方向前方に移動させることができ、処理作業の時間短縮と不純物分離の効率を高めることができる。加熱溶融部の濃度分布を一様にするだけならば、溶融部全体を撹拌する方法もあるが、全体を撹拌すると処理槽16内の温度勾配を破壊してしまうので境界界面83の移動速度の制御が難しくなり、不純物の分離効率を高める手段としては適当でない。
【0045】
図4の実施の形態における不純物処理槽16の具体的な寸法は、長さ・奥行きが各々300mm程度、深さが50mm程度であり、はんだ材料50を15kg〜20kgの貯留する。加熱ヒータ62は長さ300mm、出力600wの棒状ヒータで10本を一定間隔で配置し、それぞれのヒータに通電を制御する制御盤や温度センサおよび制御コンピュータに接続されて独立して温度制御が可能である。
【0046】
不純物除去処理作業は、処理槽16に、はんだ材料50を貯留し、加熱ヒータ62に通電してはんだ材料全体を溶融状態にする。次に、加熱ヒータ62の温度を制御して、処理槽16の一端の温度を低くし、その一端から凝固を開始させる。さらに処理槽16の凝固開始端から他端に向かって温度勾配を制御することにより、加熱溶融部と凝固部の境界界面53を他端に向かって進行させる。境界界面53の移動速度は、0.1〜1.0mm/分になるように制御する。0.2mm/分の速度で移動させた場合、凝固開始から境界界面が処理槽の他端まで到達するのに必要な時間は約25時間になる。境界界面53の移動の過程で、境界界面53近傍の溶融部のPb濃度は、溶融部全体の平均濃度に比べて高くなっている。境界界面移動の最終段階でドレン口18を開き、不純物が濃縮された溶融はんだを排出する。
【0047】
撹拌スクリュー42は、境界界面53から0〜10mm程度の位置で、好ましくは境界界面から5mm以下の位置で溶融部を静かに撹拌できることが必要で、スクリューの直径は5〜10mm程度、回転速度は30〜150rpm程度である。スクリューは1個もしくは複数個を同軸上に配置し、はんだ材料の深さの各部分を撹拌する。 撹拌スクリュー42のスライダー43上における紙面と直行する方向の移動速度は、10〜100mm/分とし、紙面の左右方向の移動は、境界界面のとの距離を維持しながら、境界界面移動に同期させる。直径の大きいスクリューの使用や、回転速度を早くすることによる広い範囲の撹拌は、処理槽中の温度勾配を乱し、境界界面移動の制御を難しくするので適当ではない。
【0048】
不純物として0.3%のPbを含むSn−3%Ag−0.5%Cuはんだ材料を境界界面移動速度0.4mm/分で不純物除去処理し、凝固部がはんだ材料全体の85%程度に達した時点で、残りの溶融部15%程度を排出した場合、処理槽16内に残る凝固状態のはんだ中の不純物の平均濃度は、0.27%程度まで低下させることができた。また、同じ材料にて境界界面移動速度を前記条件の1/2の0.2mm/分で運転した場合、処理槽16内に残る凝固状態のはんだ中の不純物の平均濃度は、0.24%程度まで低下させることができた。すなわち、境界界面移動速度を遅くした方が、不純物分離効率が高いことがわかる。
【0049】
本発明の形態による撹拌の効果として、撹拌スクリューを動作させながら、前記はんだ材料を境界界面移動速度0.4mm/分で不純物除去処理し、凝固部がはんだ材料全体の85%程度に達した時点で、残りの溶融部15%程度を排出した場合、処理槽16内に残る凝固状態のはんだ中の不純物の平均濃度は、0.23%程度まで低下させることができた。すなわち、前記の撹拌がない場合の実験結果に比べ、不純物除去の作業時間を約1/2に短縮できるとともに、不純物の分離効率も高めることができた。
【0050】
図示は省略するが、本実施の形態における撹拌の方法として、撹拌スクリューに代えて超音波を利用してもよい。溶質と溶媒が不均一に混合した液体において、超音波振動エネルギーを液中に発生させると、分散・乳化などの効果により溶質の濃度分布が短時間で均一化されることが一般的に知られている。前後左右に移動可能なスライダー43上に撹拌スクリュー42に代えて超音波ホーンを取り付けると、境界界面83近傍の溶融部中の高濃度の不純物を超音波振動エネルギーで分散させ、スクリューによる撹拌と同様の効果を得ることができる。
【0051】
図7は本実施の形態において、不純物処理槽16の形状を直方体でなく、円筒形状としたものである。この形態の場合、図示は省略しているが、加熱ヒータ62は処理槽16の外周壁および底部に同心円状に配置する。はんだ材料50を処理槽16の外周部から凝固を開始させ、加熱溶融部と凝固部の境界界面53は、処理槽16の中心付近に向かって、同心円を描くように進行させる。撹拌スクリュー42を移動させるスライダー43は、処理槽の中心付近を回転の中心としてスライダー43が回転するとともに、境界界面53の移動に合わせて、撹拌スクリュー42がスライダー43上を処理槽16の中心方向に向けて移動する。境界界面移動の最終段階で、中央部の溶融部には高濃度の不純物が含まれ、ドレン排出口を開いて排出する。
【0052】
(実施の形態4)
図8は、本発明の実施の形態4における不純物除去方法の図である。
【0053】
図8において、不純物処理槽16は、超音波振動子45が発生させる超音波振動を超音波ホーン47および水冷ユニット46を介して印加される。水冷ユニット46は超音波ホーン47と超音波振動子45の間に設置し、冷却水を流すことで処理槽16から伝導および放射による熱で、超音波振動子45が破損することを防止する。図示を省略しているが、超音波振動子45には、周波数発生器で発生させた高周波信号が増幅器を介して入力され、はんだ材料50の撹拌に必要な超音波振動を送出することができる。
【0054】
かかる構成によれば、はんだ材料50には処理槽16を介して超音波振動エネルギーが印加される。超音波振動がない場合の不純物成分の移動は、前記の通り、濃度勾配および処理槽内の温度勾配による拡散作用によるが、超音波振動エネルギーによる分散作用が付加されることで、境界界面近傍の高濃度の不純物が拡散作用だけによる移動に比べて短時間で溶融部全体に分散し、不純物除去処理の作業時間短縮と不純物分離の効率を高めることができる。
【0055】
超音波振動子45は、周波数が20KHz程度、出力は1kw程度である。印加方法は連続または断続のいずれでも良いが、より好ましくは連続で印加する。本発明の形態による撹拌の効果として、0.3%のPbを含むSn−3%Ag−0.5%Cuはんだ材料を境界界面移動速度0.4mm/分で超音波振動を連続で印加しながら不純物除去処理し、凝固部がはんだ材料全体の85%程度に達した時点で、残りの溶融部15%程度を排出した場合、処理槽16内に残る凝固状態のはんだ中の不純物の平均濃度は、0.25%程度まで低下させることができた。すなわち、前記の超音波振動の印加がない場合の実験結果に比べ、不純物の分離効率を高めることができる。
【0056】
また、図示は省略するが、加熱溶融部と凝固部の境界界面近傍の溶融部撹拌と、処理槽への超音波振動の印加を併用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のはんだ材料の不純物除去方法は、はんだ中の不純物成分を除去することにより、フローはんだ付け装置が使用するはんだ材料のリサイクルの用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態1における不純物除去方法の図
【図2】本発明の実施の形態1における不純物除去方法のステップ図
【図3】本発明の実施の形態2における不純物除去方法の図
【図4】本発明の実施の形態3における不純物除去方法の図
【図5】本発明の不純物除去の原理を説明する図
【図6】本発明の不純物除去の原理を説明する図
【図7】本発明の実施の形態3において処理槽の形状が異なる不純物除去方法の図
【図8】本発明の実施の形態4における不純物除去方法の図
【図9】従来の不純物除去方法の図
【符号の説明】
【0059】
10 不純物処理装置
16 処理槽
18 ドレン口
19 ドレン口
40 撹拌ユニット
42 撹拌スクリュー
43 スライダー
44 撹拌モータ
45 超音波振動子
46 水冷ユニット
47 超音波ホーン
50 はんだ材料
51 凝固したはんだ材料
52 不純物
53 はんだの凝固−溶融部の境界界面
60 ヒータ(熱源)
61 プレート
62 ヒータ
80 加熱溶融部と凝固部の境界界面の移動距離(x)
81 処理開始前のはんだ材料の不純物濃度(C0)
82 凝固開始部の固体中の不純物濃度(CS0)
83 加熱溶融部と凝固部の境界界面
84 凝固した固体中の不純物濃度分布(CS1)
85 界面の移動速度を遅くした時の固体中の不純物濃度分布(CS2)
86 溶融部の材料中の不純物濃度分布(CL1)
87 界面の移動速度を遅くした時の溶融部の不純物濃度分布(CL2)
88 境界界面近傍の液相側を撹拌した時の溶融部の不純物濃度分布(CL3)
89 境界界面近傍の液相側を撹拌した時の固体中の不純物濃度分布(CS3)
90 境界界面の移動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽に貯留したはんだ材料を加熱溶融させるとともに、加熱溶融位置を前記処理槽の外周部から中心部へと移動させ、
加熱溶融が終わった後再び固化する部分のはんだ材料中の、はんだ材料よりも低融点の不純物が、前記処理槽の中心部に集まって蓄積され、前記処理槽の中心部からはんだ材料を排出することを特徴とするはんだ材料の不純物除去方法。
【請求項2】
加熱溶融位置を処理槽の外周部から中心部へ移動させ、同時に処理槽の中心部を加熱することを特徴とする請求項1に記載のはんだ材料の不純物除去方法。
【請求項3】
加熱溶融位置を処理槽の外周部から中心部へと移動させ、
同時に前記移動する加熱溶融位置の進行方向側のはんだ材料を攪拌することを特徴とする請求項1に記載のはんだ材料の不純物除去方法。
【請求項4】
処理槽に貯留したはんだ材料を加熱溶融させるとともに加熱溶融位置を前記処理槽の一端側から他端側へと移動させ、
同時に前記移動する加熱溶融位置の進行方向側のはんだ材料を攪拌し、
加熱溶融が終わった後再び固化する部分のはんだ材料中の、はんだ材料よりも低融点の不純物が、前記処理槽の他端側に集まって蓄積され、前記処理槽の他端側からはんだ材料を排出することを特徴とするはんだ材料の不純物除去方法。
【請求項5】
はんだ材料の攪拌は、回転スクリューまたは超音波振動を使用することを特徴とする請求項3または4に記載のはんだ材料の不純物除去方法。
【請求項6】
処理槽に貯留したはんだ材料を加熱溶融させるとともに、加熱溶融位置を前記処理槽の中心部から外周部へと移動させ、
加熱溶融が終わった後再び固化する部分のはんだ材料中の、はんだ材料よりも低融点の不純物が、前記処理槽の外周部に集まって蓄積され、前記処理槽の外周部からはんだ材料を排出することを特徴とするはんだ材料の不純物除去方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−206951(P2006−206951A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19399(P2005−19399)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】