説明

ひずみゲージ及びその製造方法

【課題】高熱部分に容易に取り付けられるひずみゲージ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ひずみゲージ1aは、ゲージベース2の一表面に薄膜状のひずみ受感部3を備え、同一表面上に、ひずみ検知用延長リード部4を備える。ひずみ検知用延長リード4は、ひずみ受感部3の設置部の外部でひずみ検知用ゲージリードに接続可能な長さを有する。ひずみ受感部3と同一表面上に、温度検知手段21を備える。ゲージベース2は、ポリイミドフィルムからなる。ひずみゲージ1aは、ポリイミドよりも熱伝導率の大きなベース材料を備える。製造方法は、支持体11上にポリイミド樹脂溶液層12を形成し、その上に金属箔13を接着する。ポリイミド樹脂溶液層12を硬化させてポリイミドフィルム14を形成した後、金属箔13をエッチングしてひずみ受感部3とひずみ検知用延長リード部4とを形成し、ポリイミドフィルム14から支持体11を剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの燃焼室、エクゾースト・マニホルド、マフラー等の高熱を受ける機械部品等のひずみを検出するひずみゲージ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンの開発を行う場合、その寿命を測定したり、不具合箇所を発見したりするために、実機エンジンにより耐久テストが行われている。
【0003】
前記自動車用エンジンにおいて、シリンダーヘッドの燃焼室側は燃料の燃焼により高熱を受ける一方、該燃焼室と反対側には冷却水が流通されているので、僅か数mmの間で数百度の温度差を生じる。また、前記自動車用エンジンの燃焼室には、吸排気用の孔部や、燃料噴射手段等が設けられており、応力集中を起こしやすい部分が多い。そこで、前記燃焼室は、前記自動車用エンジンで最も不具合が起きやすい部分であり、この部分のひずみ性状を検出することは、該自動車用エンジンの開発の上で重要である。
【0004】
前記燃焼室内のひずみ性状を検出するために、ひずみ受感部と、該ひずみ受感部に接続されたゲージリードとを金属で被覆した構造を備える高温用ひずみゲージが知られている。前記ひずみゲージは、金属で被覆されているので800℃以上の高温に耐えることができ、前記燃焼室内、例えば鋳鉄製シリンダーヘッドの該燃焼室側に、金属部分をスポット溶接することにより取り付けて使用されている。
【0005】
ところが、近年、燃費向上を目的にエンジンの軽量化が図られるに伴い、鋳鉄製のシリンダーヘッドに代わって主流となっているアルミニウム合金製のシリンダーヘッドでは、前記高温用ひずみゲージをスポット溶接により取り付けることが難しい。そこで、前記高温用ひずみゲージに代わって、耐熱性のゲージベースの一方の表面に受感部を形成したひずみゲージを、該ゲージベースの該受感部と反対側の面で、接着剤を介してシリンダーヘッドに貼り付ける貼付型ひずみゲージが検討されている。このような貼付型ひずみゲージとして、従来、ポリイミドフィルムの一方の表面に前記受感部を形成したものが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
前記貼付型ひずみゲージは、受感部の近傍に接続されたゲージリードを介して、測定用リードに接続され、該測定用リードを測定器またはスイッチボックスまで延設することにより、該受感部の電気信号を測定器に伝達してひずみを測定するようになっている。前記測定用リードは、前記燃焼室内のように測定温度が300℃を超えるときには、金属被覆ケーブル(MIケーブル)またはガラス被覆ケーブルが用いられる。ところが、このような前記測定用リードは、外径が1.0〜2.0mmの範囲の太さであり、前記燃焼室内に配設すると、ピストンが当たる虞がある。そこで、前記シリンダヘッドの前記燃焼室側に溝部を穿設し、該溝部に前記測定用リードを配設して、耐熱性のセラミックス接着剤で埋設することが行われている。
【0007】
しかしながら、前記貼付型ひずみゲージは、前記セラミックス接着剤による埋設後、さらに該セラミックス接着剤の表面を、前記シリンダヘッドの表面と面一になるように研磨する必要があり、取り付けのための加工が煩雑であるという不都合がある。さらに、前記貼付型ひずみゲージを取り付ける際には、前記セラミックス接着剤と前記シリンダヘッドを構成するアルミニウム合金等の金属との線膨張係数の差が大であるために、該セラミックス接着剤が剥離したり、接着層に亀裂が生じるという不都合がある。
【特許文献1】特開平2−82103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる不都合を解消して、自動車用エンジンのシリンダーヘッドの燃焼室側等の高熱を受ける部分に、煩雑な加工を必要とすることなく容易に取り付けることができるひずみゲージ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明は、ゲージベースと、該ゲージベースの一方の表面に形成された薄膜状のひずみ受感部とを備えるひずみゲージにおいて、該ゲージベースの該ひずみ受感部と同一表面上に、該ひずみ受感部と一体的に連設されたひずみ検知用延長リード部を備え、該ひずみ検知用延長リードは該ひずみ受感部が設置される部分の外部でひずみ検知用ゲージリードに接続可能な長さを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のひずみゲージは、前記長さの前記検知用延長リード部を備えるので、前記ひずみ受感部が設置される部分の外部、例えば、自動車用エンジンの燃焼室の外部で、ひずみ検知用ゲージリードに接続することができる。そこで、本発明のひずみゲージは、前記ひずみ受感部の電気信号伝達のために金属被覆ケーブル(MIケーブル)またはガラス被覆ケーブル等の外径の大きな測定用リードを必要としない。
【0011】
また、本発明のひずみゲージは、前記ゲージベースの前記ひずみ受感部と同一表面上に、前記検知用延長リード部を備えている。従って、前記検知用延長リード部は、前記ひずみ受感部と同一の厚さであり、自動車用エンジンのシリンダーヘッドの燃焼室側等の該ひずみ受感部が設置される部分で、該燃焼室の作動の障害となることが無い。
【0012】
この結果、本発明のひずみゲージは、従来技術のように前記シリンダーヘッドに溝部を穿設し、該溝部に前記測定用リードを配設して、耐熱性のセラミックス接着剤で埋設するような煩雑な加工を必要とすることなく、単に接着剤を介して接着するだけで容易に測定部位に取り付けることができる。また、本発明のひずみゲージは、前記セラミックス接着剤を必要としないので、該セラミック接着剤の剥離や、接着剤層に亀裂が生じることも無い。
【0013】
また、本発明のひずみゲージは、前記ゲージベースの前記ひずみ受感部と同一表面上に、該ひずみ受感部が設置される部分の温度を検知する温度検知手段と、該温度検知手段と一体的に連設された温度検知用延長リード部とを備え、該温度検知用延長リードは該ひずみ受感部が設置される部分の外部で温度検知用ゲージリードに接続可能な長さを備えることが好ましい。
【0014】
本発明のひずみゲージは、前記ゲージベースの前記ひずみ受感部と同一表面上に、前記温度検知手段を備えることにより、加熱と冷却とが高速で繰り返される環境下でも、ひずみと温度とを同時に測定することができ、ひずみの値を高精度で測定することができる。
【0015】
前記温度検知手段は、前記ゲージベースの前記ひずみ受感部と同一表面上に、前記長さを備える前記温度検知用延長リード部が該温度検知手段と一体的に連設されている。従って、前記温度検知手段は、前記ひずみ受感部と同様に、該ひずみ受感部が設置される部分の外部、例えば、自動車用エンジンの燃焼室の外部で、温度検知用ゲージリードに接続することができる。
【0016】
本発明のひずみゲージにおいて、前記ゲージベースは耐熱性樹脂製フィルムとすることができ、該耐熱性樹脂フィルムとして、例えば、ポリイミドフィルムを挙げることができる。
【0017】
さらに、本発明のひずみゲージは、前記ゲージベースがポリイミドフィルムからなる場合、前記ゲージベースの前記ひずみ受感部と反対側の表面に、ポリイミドよりも熱伝導率の大きなベース材料が積層されていることが好ましい。本発明のひずみゲージは、前記ベース材料を備えることにより、前記ひずみ受感部が設置される部分で一方の側から加熱されて、他方の側から冷却される環境下において、高温側から低温側に熱を効率よく伝達することができる。従って、前記ベース材料を備える本発明のひずみゲージは、前記ひずみ受熱部が蓄熱によって破損しにくく、長時間に亘って測定を行うことができる。
【0018】
また、本発明のひずみゲージは、前記温度検知手段を備える場合にも、前記ゲージベースの前記ひずみ受感部と反対側の表面に、ポリイミドよりも熱伝導率の大きなベース材料が積層されていることが好ましい。この場合には、前記ひずみ受感部と同様の作用により、前記温度検知手段が蓄熱によって破損しにくく、長時間に亘って測定を行うことができる。
【0019】
本発明のひずみゲージは、支持体上にポリイミド樹脂溶液を塗布してポリイミド樹脂溶液層を形成する工程と、該ポリイミド樹脂溶液層上に、ひずみ受感部と該ひずみ受感部に連設されるひずみ検知用延長リード部とを形成する金属箔を接着する工程と、該ポリイミド樹脂溶液層を硬化させてポリイミドフィルムを形成する工程と、該金属箔をエッチングして該ひずみ受感部と該ひずみ検知用延長リード部とを形成する工程と、該ポリイミドフィルムから該支持体を剥離する工程と、を備える製造方法により有利に製造することができる。
【0020】
また、前記ゲージベースの前記ひずみ受感部と同一表面上に、前記温度検知手段を備える本発明のひずみゲージは、前記製造方法において、さらに、前記ポリイミド樹脂溶液層上に、前記ひずみ受感部と前記ひずみ検知用延長リード部とを形成する第1の金属箔と、該ひずみ受感部が設置される部分の温度を検知する温度検知手段と温度検知用延長リード部とを形成する第2の金属箔とを接着する工程と、該ポリイミド樹脂溶液層を硬化させてポリイミドフィルムを形成する工程と、両金属箔をエッチングして該ひずみ受感部と該ひずみ検知用延長リード部とを形成すると共に、温度検知手段と温度検知用延長リード部とを形成する工程と、を備えることにより有利に製造することができる。
【0021】
前記製造方法において、前記支持体は、金属板でもよく、ポリイミドよりも熱伝導率の大きな材料、例えば、アルミナ等のセラミックス板であってもよい。前記支持体をポリイミドよりも熱伝導率の大きな材料とすることにより、前記ひずみ受感部と反対側の表面に、ポリイミドよりも熱伝導率の大きなベース材料を備えるひずみゲージを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の第1の態様のひずみゲージの構成を示す平面図、図2は図1のII−II線断面図、図3は本実施形態の第1の態様のひずみゲージの変形例の構成を示す平面図であり、図4は本実施形態の第1の態様のひずみゲージの製造方法を示す説明図である。
【0023】
図5は、本実施形態の第2の態様のひずみゲージの構成を示す平面図、図6は図5のVI−VI線断面図であり、図7及び図8は本実施形態の第2の態様のひずみゲージの製造方法を示す説明図である。
〔第1の態様〕
まず、本実施形態の第1の態様のひずみゲージ1aについて説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態の第1の態様のひずみゲージ1aは、ポリイミドフィルムからなるゲージベース2と、ゲージベース2の一方の表面に形成された薄膜状のひずみ受感部3と、ゲージベース2のひずみ受感部3と同一表面上に、ひずみ受感部3と一体的に連設されたひずみ検知用延長リード部4とを備え、ひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4は、ラミネートフィルム5によって被覆されている。ひずみゲージ1aにおいて、ひずみ受感部3は櫛歯形状部3a,3bが互いに入り組んだ構造を備えている。
【0024】
また、ひずみ検知用延長リード部4は、櫛歯形状部3a,3bのそれぞれに連設されたリード部4a,4bを備える2線構造となっており、リード部4a,4bはひずみ受感部3と反対側の端部で合流してゲージタブ6を形成している。そして、ひずみ検知用延長リード部4は、ひずみ受感部3が設置される部分の外部で、ゲージタブ6を介して図示しないひずみ検知用ゲージリードに接続することができる長さを備えている。尚、「ひずみ受感部3が設置される部分の外部」とは、例えば、ひずみ受感部3が、自動車用エンジンのシリンダーヘッドの燃焼室側に設置されるときには、該燃焼室の外部を意味する。
【0025】
次に、第1の態様のひずみゲージ1aの変形例について説明する。図3に示すひずみゲージ1bは、ひずみゲージ1aの変形例であり、ひずみ検知用延長リード部4が櫛歯形状部3a,3bのそれぞれに連設されたリード部4a,4bの間に第3のリード部4cを備える3線構造となっており、リード部4a,4b,4cはひずみ受感部3と反対側の端部で合流してゲージタブ6を形成している。ひずみゲージ1bは、ひずみ検知用延長リード部4が第3のリード部4cを備えることにより、例えば前記自動車用エンジンの燃焼熱等の測定部位の熱による熱出力の影響を理論上解消することができ、測定誤差を低減することができる。尚、ひずみゲージ1bは、ひずみ検知用延長リード部4以外は、ひずみゲージ1aと全く同一の構成を備えている。
【0026】
ひずみゲージ1a,1bは、ゲージベース2のひずみ受感部3と反対側の面に接着剤を塗布し、該接着剤層を介して、例えば自動車用エンジンのシリンダーヘッドの燃焼室側の測定部位に接着することにより取り付ける。前記接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤、フェノール系接着剤等を用いることができる。
【0027】
このとき、ひずみ検知用延長リード部4は、前記燃焼室の外部まで延設され、該燃焼室の外部で、ゲージタブ6に図示しないひずみ検知用ゲージリードが接続される。検知用ゲージリードは、さらに、公知のゲージ端子等を介して測定用リードに接続され、該測定用リードを測定器またはスイッチボックスまで延設することにより、ひずみ受感部3の電気信号を測定器に伝達することによりひずみを測定する。
【0028】
次に、図4を参照して、第1の態様のひずみゲージ1a,1bの製造方法について説明する。
【0029】
ひずみゲージ1a,1bを製造するときには、まず、図4(a)に示すように、支持体となる金属板11の上にポリイミド樹脂溶液を塗布し、ポリイミド樹脂溶液層12を形成する。金属板11を形成する金属としては、アルミニウム、ステンレス、銅ニッケル合金等を挙げることができる。また、前記ポリイミド樹脂溶液としては、ポリイミド樹脂をN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒に溶解したものを用いることができる。
【0030】
次に、図4(b)に示すように、ポリイミド樹脂溶液層12を例えば90〜120℃の範囲の温度に60分間維持して乾燥し、半乾燥状態となったポリイミド樹脂溶液層12上に、ひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4を形成するための金属箔13を接着する。金属箔13としては、Ni−Cr合金箔、Cu−Ni合金箔等を用いることができる。
【0031】
次に、ポリイミド樹脂溶液層12を硬化させ、図4(c)に示すように、ポリイミドフィルム14を形成する。ポリイミド樹脂溶液層12の硬化は、金属板11、ポリイミド樹脂溶液層12、金属箔13の積層体に、例えば0.07〜0.18MPaの圧力をかけた状態で、100℃の温度に60分間維持し、200℃の温度に60分間維持し、300℃の温度に5分間維持する処理を順次行い、さらに圧力を1.73MPaとして30分間維持した後、室温まで冷却することにより行うことができる。
【0032】
次に、図4(d)に示すように、金属箔13をエッチングして、ポリイミドフィルム14上にひずみゲージ1aまたはひずみゲージ1bのひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4を形成する。前記エッチングは、フォトリソ法等、それ自体公知の方法により行うことができる。
【0033】
次に、図4(e)に示すように、金属板11を剥離する。ポリイミド樹脂は、吸湿性が高いので、大気中の湿分、前記エッチングのための水溶液の水分等を吸収しやすい。この場合、ポリイミド樹脂が吸収と乾燥との繰り返しにより変形すると、工程中で金属箔13または金属箔13から形成されたひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4に湾曲や折れが発生し、ひずみゲージ1aとしての機能に障害を起こす虞がある。そこで、本実施形態では、前記エッチングによりひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4が形成された後に、金属板11を剥離することにより、ひずみゲージ1aの機能障害を防止することができる。
【0034】
次に、ひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4が形成された金属箔13を、ひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4の外形に沿って、ポリイミドフィルム14と共に裁断する。そして、ひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4をラミネートフィルム5で被覆することにより、図1及び図2に示すひずみゲージ1aまたは図3に示すひずみゲージ1bを得ることができる。
【0035】
ところで、ひずみゲージ1a,1bは、自動車用エンジンのシリンダーヘッドの燃焼室側のように、高熱を受ける部分に設置されるために、高温側から低温側に熱を効率よく伝達できる構成を備えていることが望まれる。ここで、ひずみゲージ1a,1b内部の熱伝導の抵抗は、δ/λA(δ:ひずみゲージ1a,1bの厚さ(m)、λ:ひずみゲージ1a,1bの熱伝導率(W/(m・K))、A:ひずみゲージ1a,1bの伝熱面積(m))で表される。
【0036】
前記熱伝導の抵抗から、ひずみゲージ1a,1bにおいて、高い熱伝導効率を得るには、まずひずみゲージ1a,1bの厚さδを小さくすることが有効であることが理解される。そこで、ひずみゲージ1a,1bでは、例えば、ポリイミドフィルム14からなるゲージベース2の厚さを0.01mm以下、ひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4の厚さを0.003mm、ラミネートフィルム5の厚さを0.01mmとする。
【0037】
ポリイミドフィルム14からなるゲージベース2の厚さを0.01mm以下とするには、ポリイミド樹脂溶液層12を形成するポリイミド樹脂溶液の濃度と、ポリイミド樹脂溶液層12の厚さとを制御することが有効である。この場合、ポリイミド樹脂溶液の濃度は、例えば5〜10重量%の範囲とし、ポリイミド樹脂溶液層12の厚さは、0.1〜0.2mmの範囲とする。
【0038】
また、前記範囲の厚さのポリイミド樹脂溶液層12は、例えば、前記範囲の濃度のポリイミド樹脂溶液の塗布量をドクターブレード等により制御することにより形成することができる。あるいは、ピンホールの発生を防止するために、ドクターブレードに代えてスピンコーター等を用い、1回の塗布で形成されるポリイミド樹脂溶液層12の厚さを極力薄くすると共に、重ね塗りして前記範囲の厚さとするようにしてもよい。
【0039】
また、前記熱伝導の抵抗から、ひずみゲージ1a,1bにおいて、高い熱伝導効率を得るには、ひずみゲージ1a,1bの熱伝導率λを大きくすることが有効であることが理解される。
【0040】
ひずみゲージ1a,1bの熱伝導率λを大きくするには、例えば、ポリイミドフィルムにポリイミド樹脂よりも熱伝導度の高い充填材を含有させる。前記ポリイミド樹脂よりも熱伝導度の高い充填材としては、アルミナ、ジルコニア、マイカ、クレー等を用いることができる。
【0041】
また、ひずみゲージ1a,1bの熱伝導率λを大きくするには、ポリイミドフィルム14からなるゲージベース2のひずみ受感部3と反対側の表面に、ポリイミドよりも熱伝導率の大きなベース材料を積層するようにしてもよい。前記ポリイミドよりも熱伝導率の大きなベース材料としては、例えば、アルミナ板を用いることができる。
【0042】
ポリイミドよりも熱伝導率の大きなベース材料を備えるひずみゲージ1a,1bは、図4に示す製造方法において、金属板11に代えて、例えば前記アルミナ板を用いることにより製造することができる。この場合には、前記エッチング後にアルミナ板を剥離することなく、ひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4が形成された金属箔13を、ひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4の外形に沿って、ポリイミドフィルム14及び前記アルミナ板と共に裁断する。
〔第2の態様〕
次に、本実施形態の第2の態様のひずみゲージ1cについて説明する。図5及び図6に示すように、本実施形態の第2の態様のひずみゲージ1cは、ポリイミドフィルムからなるゲージベース2と、ゲージベース2の一方の表面に形成されたひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4と、温度検知手段21と、温度検知手段21と一体的に連設された温度検知用延長リード部22とを備え、ひずみ受感部3、ひずみ検知用延長リード部4、温度検知手段21、温度検知用延長リード部22は、ラミネートフィルム5によって被覆されている。
【0043】
ひずみゲージ1cにおいて、ひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4は、ひずみゲージ1aと同一構成を備えている。また、ひずみ検知用延長リード部4は、ひずみゲージ1bと同一構成を備えるものであってよい。
【0044】
温度検知手段21は、第1の態様のひずみゲージ1aのひずみ受感部3と同一の形状を備え、櫛歯形状部21a,21bが互いに入り組んだ構造を備えている。また、温度検知用延長リード部22は、ひずみゲージ1aのひずみ検知用延長リード部4と同一形状を備え、櫛歯形状部21a,21bのそれぞれに連設されたリード部22a,22bを備える2線構造となっており、リード部22a,22bは温度検知手段21と反対側の端部で合流してゲージタブ23を形成している。そして、温度検知用延長リード部22は、ひずみ受感部3が設置される部分の外部で、ゲージタブ23を介して図示しない温度検知用ゲージリードに接続することができる長さを備えている。
【0045】
尚、温度検知用延長リード部22は、ひずみゲージ1bのひずみ検知用延長リード部4と同一形状を備えるものであってもよく、この場合には、櫛歯形状部21a,21bのそれぞれに連設されたリード部22a,22bの間に第3のリード部(図示せず)を備える3線構造となっており、各リード部は温度検知手段21と反対側の端部で合流してゲージタブ23を形成している。ひずみゲージ1cは、ひずみ検知用延長リード部4及び温度検知用延長リード部22がそれぞれ前記第3のリード部を備えることにより、例えば前記自動車用エンジンの燃焼熱等の測定部位の熱による熱出力の影響を理論上解消することができ、ひずみと温度との両方の測定誤差を低減することができる。
【0046】
第2の態様のひずみゲージ1cは、第1の態様のひずみゲージ1a,1bと同一にして、ゲージベース2のひずみ受感部3と反対側の面に接着剤を塗布し、該接着剤層を介して、例えば自動車用エンジンのシリンダーヘッドの燃焼室側の測定部位に接着することにより取り付けることができる。
【0047】
このとき、ひずみ検知用延長リード部4は、前記燃焼室の外部まで延設され、該燃焼室の外部で、ゲージタブ6に図示しないひずみ検知用ゲージリードが接続される。検知用ゲージリードは、さらに、公知のゲージ端子等を介して測定用リードに接続され、該測定用リードを測定器またはスイッチボックスまで延設することにより、ひずみ受感部3の電気信号を測定器に伝達することによりひずみを測定する。
【0048】
同様に、温度検知用延長リード部22は、前記燃焼室の外部まで延設され、該燃焼室の外部で、ゲージタブ23に図示しない温度検知用ゲージリードが接続される。検知用ゲージリードは、さらに、公知のゲージ端子等を介して測定用リードに接続され、該測定用リードを測定器またはスイッチボックスまで延設することにより、温度検知手段21の電気信号を測定器に伝達することにより温度を測定する。
【0049】
次に、図7を参照して、第2の態様のひずみゲージ1cの製造方法について説明する。
【0050】
ひずみゲージ1cを製造するときには、まず、図7(a)に示すように、支持体となる金属板11の上にポリイミド樹脂溶液を塗布し、ポリイミド樹脂溶液層12を形成する。金属板11を形成する金属、前記ポリイミド樹脂溶液は、ひずみゲージ1a,1bの製造方法と同一のものを用いることができる。
【0051】
次に、図7(b)に示すように、ポリイミド樹脂溶液層12を例えば90〜120℃の範囲の温度に60分間維持して乾燥し、半乾燥状態となったポリイミド樹脂溶液層12上に、ひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4を形成するための金属箔13と、温度検知手段21及び温度検知用延長リード部22を形成するための金属箔24とを接着する。前記接着は、金属箔13と金属箔24とが、ポリイミド樹脂溶液層12上の中央部で互いに接するようにして行う。金属箔13としては、Ni−Cr合金箔、Cu−Ni合金箔等を用いることができ、金属箔24としては、Cu箔、Ni箔、Pt箔等を用いることができる。
【0052】
次に、ポリイミド樹脂溶液層12を硬化させ、図7(c)に示すように、ポリイミドフィルム14を形成する。ポリイミド樹脂溶液層12の硬化は、ひずみゲージ1a,1bの製造方法と同一にして行うことができる。
【0053】
ポリイミドフィルム14を形成した後は、金属箔13をエッチングしてひずみ受感部3及びひずみ検知用延長リード部4を形成する際に、同時に金属箔24をエッチングして温度検知手段21及び温度検知用延長リード部22を形成することを除いて、ひずみゲージ1a,1bの製造方法と同一にしてひずみゲージ1cを製造することができる。
【0054】
前記製造方法において、金属箔13と金属箔24とを、ポリイミド樹脂溶液層12上の中央部で互いに接するように接着するには、次のようにすることができる。
【0055】
まず、図8(a)に示すように、半乾燥状態のポリイミド樹脂溶液層12上の中央部で互いに重なるようにして、金属箔13と金属箔24とを仮接着する。尚、図8(a)では金属箔13が上になるように示しているが、金属箔24が上になるようにしてもよい。そして、直線Lで示すように、金属箔13と金属箔24とを裁断し、裁断片13a,24aを形成する。このとき、ポリイミド樹脂溶液層12は半乾燥状態であり、金属板11上に支持された状態であるので、金属箔13と金属箔24と共に裁断されたとしても、後工程で硬化させることにより、ポリイミドフィルム14を形成することができる。
【0056】
次に、図8(b)に示すように、裁断片13a,24aのうち、まず、金属箔24の上に重ねられた状態の裁断片13aを除去する。
【0057】
次に、図8(c)に示すように、金属箔13のうち、裁断片24aの上に重ねられている部分を捲り上げ、金属箔13の下に重ねられていた裁断片24aを除去する。この後、捲り上げていた金属箔13を元通りポリイミド樹脂溶液層12に接着することにより、金属箔13と金属箔24とを、ポリイミド樹脂溶液層12上の中央部で互いに接するように接着することができる。
【0058】
また、ひずみゲージ1cは、図4に示す製造方法によりポリイミドフィルム14上に受感部3及びひずみ検知用延長リード部4を形成し、裁断して、ラミネートフィルム5で被覆する前の状態のもの(以下、ひずみゲージ部という)を得ると共に、同様にしてポリイミドフィルム14上に温度検知手段21及び温度検知用延長リード部22を形成し、裁断して、ラミネートフィルム5で被覆する前の状態のもの(以下、温度検知部という)を得て、前記ひずみゲージ部と温度検知部とを並べてラミネートフィルム5に接着することにより製造することもできる。また、ラミネートフィルム5に接着することに代えて、前記ひずみゲージ部の側方に、前記温度検知部を配置可能なポリイミドフィルム14を準備する一方、前記温度検知部の側方に、前記ひずみゲージ部を配置可能なポリイミドフィルム14を準備し、該ひずみゲージ部の側方のポリイミドフィルム14上に、該温度検知部を裏返しに接着するようにしてもよい。このようにするときには、前記ひずみゲージ部の側方のポリイミドフィルム14が前記温度検知部を被覆することになると共に、該温度検知部の側方のポリイミドフィルム14が該ひずみゲージ部を被覆することになり、好都合である。
【0059】
尚、本実施形態の各態様では、前記ゲージベース2がポリイミドフィルムからなる場合について説明しているが、ゲージベース2は耐熱性樹脂製フィルムからなるものであればよく、ポリイミドフィルムに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施形態の第1の態様のひずみゲージの構成を示す平面図。
【図2】図1のII−II線断面図。
【図3】第1の態様のひずみゲージの変形例の構成を示す平面図。
【図4】第1の態様のひずみゲージの製造方法を示す説明図である。
【図5】第2の態様のひずみゲージの構成を示す平面図。
【図6】図5のVI−VI線断面図。
【図7】第2の態様のひずみゲージの製造方法を示す説明図。
【図8】第2の態様のひずみゲージの製造方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0061】
1a,1b,1c…ひずみゲージ、 2…ゲージベース、 3…ひずみ受感部、 4…ひずみ検知用延長リード部、 11…支持体、 12…ポリイミド樹脂溶液層、 13…(第1の)金属箔、 14…ポリイミドフィルム、 21…温度検知手段、 22…温度検知用延長リード部、24…第2の金属箔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲージベースと、該ゲージベースの一方の表面に形成された薄膜状のひずみ受感部とを備えるひずみゲージにおいて、
該ゲージベースの該ひずみ受感部と同一表面上に、該ひずみ受感部と一体的に連設されたひずみ検知用延長リード部を備え、該ひずみ検知用延長リードは該ひずみ受感部が設置される部分の外部でひずみ検知用ゲージリードに接続可能な長さを備えることを特徴とするひずみゲージ。
【請求項2】
前記ゲージベースの前記ひずみ受感部と同一表面上に、該ひずみ受感部が設置される部分の温度を検知する温度検知手段と、該温度検知手段と一体的に連設された温度検知用延長リード部とを備え、該温度検知用延長リードは該ひずみ受感部が設置される部分の外部で温度検知用ゲージリードに接続可能な長さを備えることを特徴とする請求項1記載のひずみゲージ。
【請求項3】
前記ゲージベースは、ポリイミドフィルムからなることを特徴とする請求項1または請求項2記載のひずみゲージ。
【請求項4】
前記ゲージベースは、前記ひずみ受感部と反対側の表面に、ポリイミドよりも熱伝導率の大きなベース材料が積層されていることを特徴とする請求項3記載のひずみゲージ。
【請求項5】
支持体上にポリイミド樹脂溶液を塗布してポリイミド樹脂溶液層を形成する工程と、
該ポリイミド樹脂溶液層上に、ひずみ受感部と該ひずみ受感部に連設されるひずみ検知用延長リード部とを形成する金属箔を接着する工程と、
該ポリイミド樹脂溶液層を硬化させてポリイミドフィルムを形成する工程と、
該金属箔をエッチングして該ひずみ受感部と該ひずみ検知用延長リード部とを形成する工程と、
該ポリイミドフィルムから該支持体を剥離する工程と、
を備えることを特徴とするひずみゲージの製造方法。
【請求項6】
前記ポリイミド樹脂溶液層上に、前記ひずみ受感部と前記ひずみ検知用延長リード部とを形成する第1の金属箔と、該ひずみ受感部が設置される部分の温度を検知する温度検知手段と温度検知用延長リード部とを形成する第2の金属箔とを接着する工程と、
該ポリイミド樹脂溶液層を硬化させてポリイミドフィルムを形成する工程と、
両金属箔をエッチングして該ひずみ受感部と該ひずみ検知用延長リード部とを形成すると共に、温度検知手段と温度検知用延長リード部とを形成する工程と、
を備えることを特徴とする請求項5記載のひずみゲージの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−192399(P2009−192399A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34208(P2008−34208)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000151520)株式会社東京測器研究所 (29)
【Fターム(参考)】