説明

めっき付着量制御方法およびその装置

【課題】パスライン変動によるノズル間隔の変動があっても、パスライン変動に伴い発生する付着量変動を抑制することができる、めっき付着量制御方法およびその装置を提供することを課題とする。
【解決手段】溶融めっき金属浴中から引き上げた鋼板の両面に付着した溶融めっき金属に、鋼板に対向させて配した一対の噴射ノズルからガスを噴射させ、噴射させるガスの圧力と、前記鋼板および噴射ノズルの間隔であるノズル間隔とを操作してめっき付着量を制御する、めっき付着量制御方法であって、鋼板の一方の面側に配した噴射ノズルからのガス圧力の実測値から抽出した圧力変動成分に基づいて当該一方の面側に配した噴射ノズルのノズル間隔を補正すると共に、前記一対の噴射ノズル同士の間隔が変化しないように、鋼板の他方の面側に配した噴射ノズルのノズル間隔を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっき金属浴中に浸漬させた後、引き上げた鋼板に付着した溶融めっき金属に噴射ノズルから高圧ガスを噴射することによりその付着量を制御する、めっき付着量制御方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでの溶融めっきの付着量制御に関する技術としては、特許文献1ないし3に開示された技術がある。これらの技術は、溶融めっき金属浴中から引き上げた鋼板の表裏に付着している溶融めっき金属の夫々に噴射ノズルから高圧ガス(ワイピングガス)を噴射し、その高圧ガス圧Pおよび噴射ノズルと鋼板との間隔であるノズル間隔Dを操作してめっき付着量を制御する場合に、操業条件の変化時に高圧ガスP及び/またはノズル間隔Dの最適値をモデル式に基づいて算出して、これをプリセット、フィードフォワード制御し、安定時には付着量実績値を用いてモデルの学習とフィードバック制御を行うものである。
【0003】
また、特許文献4には、噴射ガス圧が変更終了値まで低下していく間に、圧力検出手段で測定した噴射ガスの圧力変化量に基づいてノズル間隔を算出し、その算出されたノズル間隔を噴射ノズルの操作量とする方法が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献5には、噴射ノズルと鋼板との間隔を実測して制御する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭52−60238号公報
【特許文献2】特開昭53−23830号公報
【特許文献3】特開平3−173756号公報
【特許文献4】特開平7−118822号公報
【特許文献5】特開平5−171396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1ないし3に開示された技術にあっては、鋼板の表裏で個別に噴射ガス圧設定値Psあるいはノズル間隔設定値Dsを設定しているが、噴射ノズルと鋼板との相対距離を直接制御するものではないため、鋼板のパスライン変動に追従することができないという問題がある。
【0006】
また、上記特許文献4に開示された技術にあっては、めっき付着量を目標値に収束させた状態でスプラッシュ等の防止のために考案されたものであり、噴射ガス圧を降圧していきながらノズル間隔を狭めていく技術であり、これも鋼板のパスライン変動に追従することができないという問題がある。
【0007】
さらに、上記特許文献5に開示された技術にあっては、噴射ノズルと鋼板との間隔を実測する距離計は、狭い場所に設置せざるを得ないため、メンテナンスが難しいという問題がある。
【0008】
本発明では、これら従来技術の問題点に鑑み、パスライン変動によるノズル間隔の変動があっても、パスライン変動に伴い発生する付着量変動を抑制することができる、めっき付着量制御方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、溶融めっき金属浴中から引き上げた鋼板の両面に付着した溶融めっき金属に、鋼板に対向させて配した一対の噴射ノズルからガスを噴射させ、噴射させるガスの圧力と、前記鋼板および噴射ノズルの間隔であるノズル間隔とを操作してめっき付着量を制御する、めっき付着量制御方法であって、鋼板の一方の面側に配した噴射ノズルからのガス圧力の実測値から抽出した圧力変動成分に基づいて当該一方の面側に配した噴射ノズルのノズル間隔を補正すると共に、前記一対の噴射ノズル同士の間隔が変化しないように、鋼板の他方の面側に配した噴射ノズルのノズル間隔を補正することを特徴とするめっき付着量制御方法である。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る発明は、溶融めっき金属浴中から引き上げた鋼板の両面に付着した溶融めっき金属に、鋼板に対向させて配した一対の噴射ノズルからガスを噴射させ、噴射させるガスの圧力と、前記鋼板および噴射ノズルの間隔であるノズル間隔とを操作してめっき付着量を制御する、めっき付着量制御方法であって、前記一対の噴射ノズルそれぞれのガス圧力のそれぞれの実測値から抽出した圧力変動成分に基づいてそれぞれの噴射ノズルのノズル間隔の補正量を算出し、前記一対の噴射ノズル同士の間隔が変化しないという条件のもとで前記算出した補正量の調整を行い、それぞれのノズル間隔の補正量を決定することを特徴とするめっき付着量制御方法である。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る発明は、溶融めっき金属浴中から引き上げた鋼板の両面に付着した溶融めっき金属に、鋼板に対向させて配した一対の噴射ノズルからガスを噴射させ、噴射させるガスの圧力と、前記鋼板および噴射ノズルの間隔であるノズル間隔とを操作してめっき付着量を制御する、めっき付着量制御装置であって、鋼板の一方の面側に配した噴射ノズルからのガス圧力の実測値から抽出した圧力変動成分に基づいて当該一方の面側に配した噴射ノズルのノズル間隔を補正すると共に、前記一対の噴射ノズル同士の間隔が変化しないように、鋼板の他方の面側に配した噴射ノズルのノズル間隔を補正する制御装置を備えることを特徴とするめっき付着量制御装置である。
【0012】
さらに、本発明の請求項4に係る発明は、溶融めっき金属浴中から引き上げた鋼板の両面に付着した溶融めっき金属に、鋼板に対向させて配した一対の噴射ノズルからガスを噴射させ、噴射させるガスの圧力と、前記鋼板および噴射ノズルの間隔であるノズル間隔とを操作してめっき付着量を制御する、めっき付着量制御装置であって、前記一対の噴射ノズルそれぞれのガス圧力のそれぞれの実測値から抽出した圧力変動成分に基づいてそれぞれの噴射ノズルのノズル間隔の補正量を算出し、前記一対の噴射ノズル同士の間隔が変化しないという条件のもとで前記算出した補正量の調整を行い、それぞれのノズル間隔の補正量を決定する制御装置を備えることを特徴とするめっき付着量制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る1実施形態によれば、パスライン変動に伴う噴射ノズルと鋼板との間隔は表面と裏面の噴射ノズルの間隔に変化がなければ、一方で狭くなると他方では同じ間隔分広くなるという関係を用いて、表面あるいは裏面の一方の面側に配した噴射ノズルのガス圧力変動成分に基づいて当該一方の面側に配したノズルの間隔を補正すると共に、他方のノズル間隔を同時に補正することにより、パスライン変動に伴う表面および裏面の付着量変動を同時に抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る他の実施形態によれば、鋼板に対向させて配した一対の噴射ノズル各々のガス圧力の実測値から抽出した圧力変動成分から算出したそれぞれのノズル間隔補正量を、パスライン変動に伴う噴射ノズルと鋼板との間隔は表面と裏面の噴射ノズルの間隔に変化がなければ、一方で狭くなると他方では同じ間隔分広くなるという条件のもとで調整することで、パスライン変動に伴う表面および裏面の付着量変動を同時に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、パスライン変動によるノズル間隔の変動が、周期的な圧力変動を引き起こしていることに着目して想到したものである。
【0016】
図1は、本発明に係るめっき付着量制御装置の構成例を示す図である。図中、1は鋼板、2は前処理炉、3は溶融亜鉛めっき槽、4a又は4bは噴射ノズル、5a又は5bは圧力計、6a又は6bは圧力制御弁、7a又は7bは圧力計、8a又は8bは噴射ノズル位置制御装置、10はめっき付着量計、および20は制御装置をそれぞれ表す。
【0017】
前処理炉2で処理された鋼板1は、溶融めっき槽3に導かれて溶融めっきを施される。そして、溶融めっきされた鋼板1は、上部へ引き上げられて噴射ノズル4a、4bによって窒素ガス、水蒸気、空気などのガスを吹き付けられて目標とするめっき付着量に制御される。その後、合金化炉(図示せず)に導かれ、合金化処理が施されて連続合金化溶融めっき鋼板が製造される。
【0018】
制御装置20は、目標付着量に一致させるように、圧力制御弁6a、6bを調整するか、又は、噴射ノズル位置制御装置8a、8bを介して、噴射ノズル4a、4bと鋼板1の間隔であるノズル間隔を調整するかのいずれか、あるいは双方を調整する。制御装置20では、めっき付着量制御モデル式を記憶しており、現操業条件と諸元の異なる鋼板との接続点がノズル4a、4bの通過時、または、目標めっき付着量の変更時、またはめっき鋼板1の通板速度を増減速する時などのタイミングで、前記モデル式を用いて操作量の指令値を演算して、演算された指令値を圧力制御弁6a、6bおよび/または噴射ノズル位置制御装置8a、8bに送る。このようにして製品としての目標めっき付着量から溶融亜鉛めっき付着量をフィードフォワード制御する。
【0019】
付着量制御された鋼板1は、合金化処理され、めっき付着量計10で実績付着量が測定される。そして、測定された実績付着量は制御装置20にフィードバックされ、制御装置20では、目標付着量との差が「0」となるように、必要に応じて上記のごとく、ガス圧力および/またはノズル間隔を調整するフィードバック制御を行う。または、実績付着量と推定付着量から誤差を修正する学習制御を実施する。
【0020】
図2は、噴射ノズルと鋼板との距離の変動を説明する図である。鋼板1と噴射ノズル4a、4bのノズル間隔が各々La0、Lb0である時(図2(a)参照)、噴射ノズル4a側に近づくように鋼板1の通るパスラインの変動ΔLが発生する(図2(b)参照)と、ノズル間隔は各々下記のように変化する。
【0021】
La=La0−ΔL (1)
Lb=Lb0+ΔL (2)
【0022】
図3は、周期的なパスライン変動に応じたガス圧力の変動を説明する図である。圧力計5a、5bにより検出されるガス圧力は、噴射ノズルと鋼板との距離(ノズル間隔)が狭くなる5aでは高く、ノズル間隔が広くなる5bでは低くなる。両端をロールで固定された鋼板のパスラインは、固有振動モードを有する周期的な変動をとり、これに応じてガス圧力も周期的に変動する。同じサイドのノズル間隔と圧力検出値の時間推移を見れば、図3(a)と図3(b)に示すように逆位相となる。
【0023】
本発明では、上記パスライン変動に伴うガス圧力の変動成分を、例えば、ハイパスフィルタを使用して抽出し、抽出されたガス圧力の変動が小さくなるように、ノズル間隔を補正するため、パスライン変動に伴うノズル間隔の変動が小さくなり、付着量変動を抑制することができる。
【0024】
上記フィードフォワード制御、フィードバック制御の実施区間において、ハイパスフィルタを用いてパスライン変動に伴うガス圧力変動xを抽出する。
【0025】
x=f(u) (3)
ここで、u:ガス圧力計測値
f:ハイパスフィルタ
例えば、f=T・S/(1+T・S)
T:時定数
S:ラプラス演算子
【0026】
そして、表面のガス圧力変動x1からノズル間隔補正値y1を算出し、その値を用いて裏面のノズル間隔を補正する。
【0027】
La_r=La1−y1 (4)
Lb_r=Lb1+y1 (5)
La_r、Lb_r:ノズル間隔設定値
La1、Lb1 :ノズル間隔設定値(フィードフォワード+フィードバック)
【0028】
また、本発明の他の実施形態として、ノズル間隔補正値の合理性のチェックを行いながら、ノズル間隔を補正する次のような方法もある。すなわち、例えば、表面および裏面のガス圧力変動x1、x2から各々ノズル間隔補正値y1、y2を算出し、その値の絶対値の小さい値(式(6))を用いてノズル間隔を補正する(式(8)および(9))。
【0029】
z=min(abs(y1)、abs(y2)) (6)
g= 1 if (y1 * y2 <= 0) & (y1>0) (7)
0 if ( y1 * y2 > 0 )
La_r=La1+z*g (8)
Lb_r=Lb1−z*g (9)
【0030】
ノズル間隔を広くする方向を‘+’とすると、図2に示したように、一方が‘+’の補正量の場合は、他方は‘−’の補正量とならなければならない。補正量が同符号の場合は、競合を解消するため、式(7)の値gを導入して補正量を‘0’としている例を示している。
【実施例】
【0031】
図1に示しためっき付着量制御装置を用いた実施例を、図4に示す。この実施例は、厚さ0.8mm、幅1000mmで目標めっき付着量40g/mとする自動車用の連続合金化溶融めっき鋼板を対象に、本発明を適用したものである。
【0032】
ガス圧力変動に応じて噴射ノズル位置を補正することにより、圧力変動が減少し、めっき付着量変動が本発明を適用する前の±1.5g/mから±0.7g/mにと半減していることが分る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るめっき付着量制御装置の構成例を示す図である。
【図2】噴射ノズルと鋼板との距離の変動を説明する図である。
【図3】周期的なパスライン変動に応じたガス圧力の変動を説明する図である。
【図4】本発明の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 鋼板
2 前処理炉
3 溶融亜鉛めっき槽
4a、4b 噴射ノズル
5a、5b 圧力計
6a、6b 圧力制御弁
7a、7b 圧力計
8a、8b 噴射ノズル位置制御装置
10 めっき付着量計
20 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融めっき金属浴中から引き上げた鋼板の両面に付着した溶融めっき金属に、鋼板に対向させて配した一対の噴射ノズルからガスを噴射させ、噴射させるガスの圧力と、前記鋼板および噴射ノズルの間隔であるノズル間隔とを操作してめっき付着量を制御する、めっき付着量制御方法であって、
鋼板の一方の面側に配した噴射ノズルからのガス圧力の実測値から抽出した圧力変動成分に基づいて当該一方の面側に配した噴射ノズルのノズル間隔を補正すると共に、前記一対の噴射ノズル同士の間隔が変化しないように、鋼板の他方の面側に配した噴射ノズルのノズル間隔を補正することを特徴とするめっき付着量制御方法。
【請求項2】
溶融めっき金属浴中から引き上げた鋼板の両面に付着した溶融めっき金属に、鋼板に対向させて配した一対の噴射ノズルからガスを噴射させ、噴射させるガスの圧力と、前記鋼板および噴射ノズルの間隔であるノズル間隔とを操作してめっき付着量を制御する、めっき付着量制御方法であって、
前記一対の噴射ノズルそれぞれのガス圧力の実測値から抽出した圧力変動成分に基づいて、それぞれの噴射ノズルのノズル間隔の補正量を算出し、前記一対の噴射ノズル同士の間隔が変化しないという条件のもとで前記算出した補正量の調整を行い、それぞれのノズル間隔の補正量を決定することを特徴とするめっき付着量制御方法。
【請求項3】
溶融めっき金属浴中から引き上げた鋼板の両面に付着した溶融めっき金属に、鋼板に対向させて配した一対の噴射ノズルからガスを噴射させ、噴射させるガスの圧力と、前記鋼板および噴射ノズルの間隔であるノズル間隔とを操作してめっき付着量を制御する、めっき付着量制御装置であって、
鋼板の一方の面側に配した噴射ノズルからのガス圧力の実測値から抽出した圧力変動成分に基づいて当該一方の面側に配した噴射ノズルのノズル間隔を補正すると共に、前記一対の噴射ノズル同士の間隔が変化しないように、鋼板の他方の面側に配した噴射ノズルのノズル間隔を補正する制御装置を備えることを特徴とするめっき付着量制御装置。
【請求項4】
溶融めっき金属浴中から引き上げた鋼板の両面に付着した溶融めっき金属に、鋼板に対向させて配した一対の噴射ノズルからガスを噴射させ、噴射させるガスの圧力と、前記鋼板および噴射ノズルの間隔であるノズル間隔とを操作してめっき付着量を制御する、めっき付着量制御装置であって、
前記一対の噴射ノズルそれぞれのガス圧力の実測値から抽出した圧力変動成分に基づいてそれぞれの噴射ノズルのノズル間隔の補正量を算出し、前記一対の噴射ノズル同士の間隔が変化しないという条件のもとで前記算出した補正量の調整を行い、それぞれのノズル間隔の補正量を決定する制御装置を備えることを特徴とするめっき付着量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−126746(P2010−126746A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300269(P2008−300269)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】