説明

めっき性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および連続溶融亜鉛めっき設備

【課題】Siを0.2質量%以上含有する鋼板に溶融亜鉛めっきしたときに不めっき、めっきムラなどの外観不良やめっき密着性不良の発生を防止する。
【解決手段】鋼中にSiを0.2質量%以上含有する鋼板を還元炉で加熱・焼鈍した後溶融亜鉛めっきする際に、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での炉内ガスの露点を−30℃超0℃以下の範囲内になるように制御する。露点が−30℃以下になったときは、還元炉への炉内ガスの供給を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から、かつ還元炉の炉内ガスの排出を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から行う。(2)露点が0℃超になったときは、(イ)還元炉の炉内ガスの排気を、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置から、還元炉に供給する炉内ガスの供給量の1/3以上の量を排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および連続溶融亜鉛めっき設備に関し、より詳しくは、鋼中のSi含有量によらずに、めっき性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板を低コストで製造できる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および連続溶融亜鉛めっき設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車,家電,建材等の分野において、構造物の軽量化等に寄与可能な高張力鋼板の需要が高まっている。この高張力鋼板では、鋼中にSiを添加すると穴広げ性の良好な高張力鋼板が製造できる可能性があり、またSiやAlを含有すると残留γが形成しやすく延性の良好な鋼板を製造できる可能性がある。
【0003】
一般的に、溶融亜鉛めっき用鋼板は、鋼板を焼鈍炉で焼鈍した後めっき装置で溶融亜鉛めっきを行い製造する。鋼板は、たとえば、予熱帯で約300℃に予熱され、還元帯で約800℃に加熱され、急冷帯で500℃まで急冷されるというような焼鈍工程を経てめっき浴に浸漬される。
【0004】
しかし、Si、Mn等は易酸化性元素であり、これらの元素を含む鋼板は、還元帯において、Si等の表面濃化が起こり、めっき性に悪影響を与え、不めっき、めっきムラなどの外観不良やめっき密着性不良を発生させることが知られている。鋼中のSi含有量が0.2質量%以上になるとこの問題が顕著になる。
【0005】
Si等の易酸化性元素を多量に含む鋼板の製造方法として、例えば特許文献1に記載されるようなプレめっき処理を施した後、加熱・還元および冷却処理を行って溶融亜鉛めっきする方法、特許文献2に記載されるような炉内雰囲気を制御すると同時に炉内にCOを導入し、Siを内部酸化させることでめっき性を改善する方法などが知られている。しかし特許文献1のような方法はプレめっきコストがかかるという問題があり、特許文献2のような方法は、COによる炉内汚染や、鋼板表面で脱炭などが起こり機械特性が変化する懸念があると考えられる。
【0006】
また同様に炉内の露点を高めてSi、Al等の易酸化性元素を内部酸化させることで低Si−高Al系TRIP鋼のめっき性、化成処理性を向上させる報告もある(非特許文献1参照)。この方法は、炉内汚染の問題が少なく、実施しやすい方法であるが、露点管理のために水分付加装置等の設備を追加する必要があるため、設備コスト、製造コストが上昇する問題があった。
【特許文献1】特開平2−38549号号公報
【特許文献2】特開2005−60743号公報
【非特許文献1】Mahieu、Galvatech01、p644(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、鋼中にSiを0.2質量%以上含有する鋼板に溶融亜鉛めっきしたときに不めっき、めっきムラなどの外観不良やめっき密着性不良の発生を防止し、めっき性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を低コストで製造できる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法および連続溶融亜鉛めっき設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
Siを多量に含む鋼板では、焼鈍炉の還元炉の雰囲気の露点を高くするとSiは内部酸化するため、還元炉雰囲気の酸素ポテンシャルの指標であるHO濃度とH濃度の比(以下、本明細書では、「HO/H比」と記載する。)は高めであることが好ましい。一方、Siを多量には含まない鋼板は、還元性を高めるため、HO/H比は低めであることが好ましい。
【0009】
このことから、広範なSi含有量の鋼板に溶融亜鉛めっきを施す連続溶融亜鉛めっき設備において、鋼中にSiを0.2質量%以上含有する溶融亜鉛めっき鋼板鋼板に対して良好なめっき性を確保するには、還元炉の炉内ガスのHO/H比を、鋼板のSi含有量を考慮して、適切に制御できることが必要である。発明者らは鋼板から放出されるHOを有効に利用することに着目し、炉内ガスの供給位置/排出位置を適正化することにより、鋼中にSiを0.2質量%以上含有する溶融亜鉛めっき鋼板を、良好なめっき性を確保しながら低コストで製造できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0010】
上記課題を解決する本発明の手段は、以下の通りである。
【0011】
[1]鋼中にSiを0.2質量%以上含有する鋼板を還元炉で加熱・焼鈍した後溶融亜鉛めっきする際に、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での炉内ガスの露点を−30℃超0℃以下の範囲内になるように制御する溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法にあって、(1)還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での露点の測定値が−30℃以下になったときは、還元炉への炉内ガスの供給を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から行い、かつ還元炉の炉内ガスの排出を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から行い、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での炉内ガスの露点を−30℃超0℃以下にし、
(2)還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での露点の測定値が0℃超になったときは、(イ)還元炉の炉内ガスの排気を、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置から、還元炉に供給する炉内ガスの供給量の1/3以上の量を排出し(全量排出する場合を含む)、又は、(ロ)還元炉への炉内ガスの供給を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置から行い、還元炉の炉内ガスの排出を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から行い、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での炉内ガスの露点を−30℃超0℃以下にする、
ことを特徴とするめっき性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0012】
[2]めっき装置および該めっき装置の上流に焼鈍炉を備えた連続溶融亜鉛めっき設備において、焼鈍炉の還元炉は、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内の炉内ガスの露点を測定する露点計を備え、炉内ガスの排出部を、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置および還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置に備え、また炉内ガスの供給部を、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置に備え、またはさらに還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置に備えることを特徴とする連続溶融亜鉛めっき設備。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋼中にSiを0.2質量%以上含有する溶融亜鉛めっき鋼板を良好なめっき性を確保しながら低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
めっき性を良好にするには、鋼板が無酸化であることが最もよく、次いで内部酸化がよい。外部酸化するとめっき性が劣る。Siを0.2質量%以上含む鋼板では、無酸化にすることは困難で、通常の炉雰囲気ではSiが外部酸化しやすく、めっき性が阻害される。そのため、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、鋼中にSiを0.2質量%以上含有するものを対象とした。
【0015】
連続溶融亜鉛めっき設備では、Siを多量に含む鋼板だけでなく、Siを多く含まない鋼板も製造される。鋼中にSiを0.2質量%以上含有する鋼板では、焼鈍炉の還元炉の雰囲気の露点を高くするとSiは内部酸化するため、還元炉雰囲気の酸素ポテンシャルの指標であるHO/H比は高めであることが好ましい。鋼中Si含有量が0.2質量%未満の鋼板は、通常の操業条件で内部酸化する条件であり、かつSiの絶対量が少ないことから、還元性を高めるため、HO/H比は低めであることが好ましい。
【0016】
このことから、広範なSi濃度の鋼板に対して溶融亜鉛めっきを施す連続溶融亜鉛めっき設備において、鋼中にSiを0.2質量%以上含有する溶融亜鉛めっき鋼板に対して良好なめっき性を確保するには、還元炉の炉内ガスのHO/H比を、鋼板のSi含有量を考慮して、適切に制御できることが必要である。本発明よれば、炉内ガスの供給位置/排出位置を適正化することにより、鋼板から放出されるHOを有効に利用し、広範なSi濃度の鋼板に溶融亜鉛めっきを施す連続溶融亜鉛めっき設備において、鋼中にSiを0.2質量%以上含有する溶融亜鉛めっき鋼板溶融亜鉛めっき鋼板を、良好なめっき性を確保しながら低コストで製造できるようになる。
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0018】
連続溶融亜鉛めっき設備の焼鈍炉のタイプとして、鋼板を昇温加熱する加熱炉がDFF(直火型)又はNOF(無酸化型)で、加熱した鋼板を均熱する均熱炉がラジアントチューブ(RTF)タイプのもの、加熱炉から均熱炉までが全てラジアントチュウブ(RTF)であるオールラジアントチューブ型等の方式がある。DFF(直火型)、NOF(無酸化型)と異なり、オールラジアントチューブ方式の連続溶融亜鉛めっき設備は、焼鈍直前の加熱炉に酸化工程がなく地鉄そのものが酸化されないため、Si等の易酸化性元素を多量に含む鋼板では、Siの内部酸化物が形成されないため、めっき性確保の点で不利である。
【0019】
本発明の効果は、DFFとRTF、NOFとRTFが併設された焼鈍炉を備える連続溶融亜鉛めっき設備でも発現できるが、Si等の易酸化性元素を多量に含む鋼板のめっき性確保の点で不利であるオールラジアントチューブタイプの焼鈍炉の場合は、本発明の効果を特に顕著に発現できるので好ましい。
【0020】
なお、本明細書において、還元炉は、ラジアントチュウブを備える炉部分であり、DFFとRTFが併設された焼鈍炉、NOFとRTFが併設された焼鈍炉では、還元炉は均熱炉を指しており、オールラジアントチュウブタイプの焼鈍炉では、還元炉は加熱炉から均熱炉までを指している。
【0021】
図1は、焼鈍炉とめっき装置を備える連続溶融亜鉛めっき設備の一構成例を説明する図で、1は鋼板、2はオールラジアントチューブタイプの焼鈍炉、7はめっき装置である。焼鈍炉2は、予熱炉3、ラジアントチューブタイプの還元炉4、急冷帯5、徐冷帯6を備える。還元炉4の前段は加熱炉、後段は均熱炉である。
【0022】
図2は、図1に示した設備の還元炉4における炉内ガスの供給ルートと排出ルートの一実施形態を示す。図2において、11は還元炉、12は鋼板通板用の下ロール、13は鋼板通板用の上ロール、14は露点計、15は鋼板である。還元炉11の高さ方向鋼板通板領域は、上ロール13頂部から下ロール12下端までである。
【0023】
還元炉11には、炉内ガスの供給ルート、排出ルートが、各々2ルートずつ設けられている。16、17は炉内ガスの供給ルートで、16は下部供給ルート、17は上部供給ルートである。18、19は炉内ガスの排出ルートで、18は下部排出ルート、19は上部排出ルートである。
【0024】
下部供給ルート16、下部排出ルート18、上部排出ルート19は必須である。下部供給ルート16は、炉内ガスの供給部を還元炉11の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置に配置し、下部排出ルート18は、炉内ガスの排出部を還元炉11の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置に配置し、上部排出ルート19は、炉内ガスの排出部を還元炉11の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置に配置する。
【0025】
上部供給ルート17は必須でないが、設ける場合は、炉内ガスの供給部を還元炉11の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置に配置することが好ましい。このような上部供給ルート17を設けることで、還元炉上部の水蒸気を含むガスのパージを短時間で効果的に行うことができるようになる。
【0026】
下部供給ルート16、上部供給ルート17の還元炉への炉内ガス供給部、下部排出ルート18、上部排出ルート19の還元炉11の炉内ガスの排出部は、還元炉11のライン長手方向(紙面の左右方向)の複数箇所に分けて設けることが好ましい。
【0027】
下部供給ルート16の炉内ガスの供給部、下部排出ルート18の炉内ガスの排出部は、還元炉11の底部に設けてもよい。上部排出ルート19の炉内ガスの供給部、上部供給ルート17の炉内ガスの供給部は、還元炉11の頂部設けてもよい。
【0028】
還元炉内に供給する炉内ガスは、還元炉の還元性雰囲気ガスとして一般的に使用されるH−Nガスを使用できる。
【0029】
本発明では、還元炉11の炉内ガスの露点を測定し、露点の測定値、又は露点の測定値および通板する鋼板のSi含有量に応じて、還元炉11の炉内ガスの供給位置と排出位置とを選択する。参照する露点は、還元炉11の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内で測定した露点が好適である。水蒸気は炉内ガスの大部分を占める窒素より比重が軽いため、炉上部では、露点が高くなりやすく、また露点が変動しやすいため、還元炉11の露点の指標としての安定性を欠くのに対して、鋼板通板領域の下部1/3の領域内ではこのような問題がないためである。従って、本発明では、露点計14によって、還元炉11の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での露点を測定する。
【0030】
通板する鋼板のSi濃度と、還元炉11の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での露点の関係が、Si濃度が0.2質量%以上のときは−30℃超0℃以下の範囲内であると良好なめっき性が得られる。しかし、Si濃度と還元炉11の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での露点が前記範囲を外れるとめっき性が劣るようになる。
【0031】
本発明では、鋼中のSi濃度が0.2質量%以上の鋼板で、還元炉11の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での露点を露点計14で測定し、露点の測定値に応じて、還元炉11の炉内ガスの供給/排出を以下のように行う。
【0032】
(1)還元炉への炉内ガスの供給を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から行い、かつ還元炉の炉内ガスの排出を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から行い、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での炉内ガスの露点が−30℃超0℃以下になるようにする。
【0033】
露点が−30℃以下の条件下では、Si濃度が0.2質量%以上の鋼板は、還元炉で鋼板に十分な内部酸化層が生成しないため、Siが内部酸化されずに表面に濃化してめっき性が阻害される。したがって鋼板に十分な内部酸化層が生成させるために、露点を−30℃超に上昇させる必要がある。炉内ガスの排出位置、供給位置をいずれも高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置にすることで、鋼板から排出される水分は炉内に滞留するため、炉上部の露点が−30℃超に上昇し鋼板に内部酸化層が生成する。この内部酸化層が還元されるときに、Siの内部酸化層が形成され外部酸化が抑制されるため、めっき性が阻害されることがなくなる。露点が高くなりすぎるとめっき性が阻害されるようになるので、露点は0℃以下になるようにする(後記(2)参照)。
【0034】
(2)露点の測定値が0℃超になったとき、下記(イ)又は(ロ)を行い、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での炉内ガスの露点が−30℃超0℃以下になるようにする。
【0035】
(イ)還元炉の炉内ガスの排気を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置から還元炉への炉内ガス供給量の1/3以上を排出する(全量排出する場合を含む)。
【0036】
露点が0℃超であると、鋼板のSi濃度に関わらず鋼板表面に厚いFe酸化層が生成し、このFe酸化層が還元されずに鋼板表面に残存してめっき密着性不良などのめっき性阻害の問題が起こるおそれがある。このような条件下では露点を0℃以下に下げる必要がある。炉内ガスを還元炉の高さ方法鋼板通板領域の1/2より高位置から、炉内ガス供給量の1/3以上の量を排出すれば、炉上部への水蒸気滞留を防げるようになり、外部酸化を防止できる。露点が低くなりすぎるとめっき性が阻害されるようになるので、露点は−30℃超になるようにする。
【0037】
炉内ガスは還元炉の高さ方法鋼板通板領域の1/2より高位置から、炉内ガス供給量の全量を排出してもよい。全量排出しない場合、残余の炉内ガスの排出は、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から排出する。
【0038】
炉内ガスの供給位置については特に限定されない。還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置および還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置のいずれか一方から供給してもよいし、両方から供給してもよい。
【0039】
(ロ)還元炉への炉内ガスの供給を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置から行い、還元炉の炉内ガスの排出を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から行う。
【0040】
炉内ガスを高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置から供給し、高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から排出することで、炉上部に滞留している水蒸気をパージできるため露点を速やかに0℃以下に低下することができる。鋼中のSi濃度が0.2質量%以上の鋼板で、Siの表面濃化によるめっき性阻害の問題を防止できる。
【0041】
上記(1)、(2)において、炉内ガスの供給位置、炉内ガスの排出位置に関し、鋼板通板領域の1/2より高位置は、鋼板通板領域の3/4より高位置がより好ましく、鋼板通板領域の1/2より低位置は、鋼板通板領域の1/4より低位置がより好ましい。
【0042】
(3)上記(1)、(2)以外の場合、すなわち、露点の測定値が−30℃超0℃以下のときは、Siの表面濃化のおそれが低く、かつ鋼板表面の外部酸化によってめっき性が阻害される問題もない。従って、炉内ガスの供給位置と炉内ガスの排出位置を変更する必要がない。なお、露点の測定値が−30℃超0℃以下に保持されるなら、熱効率やガスコスト等を考慮して、ガスの供給位置とガスの排出位置を適宜位置に選択してもよい。
【0043】
露点測定頻度は、雰囲気ガス供給量、露点変化のトレンドなどを考慮して適宜頻度に決定すればよい。
【0044】
なお、鋼中のSi濃度が0.2質量%未満の鋼板では、還元炉11の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での露点が0℃以下の範囲内にあると良好なめっき性が得られ、露点が0℃超になったときはめっき性が劣るようになる。露点が0℃超になったときに上記(2)の方法を行い、露点を0℃以下にすることで、良好なめっき性を確保できる。
【0045】
溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0046】
溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法については、還元炉におけるガスの供給と排出を上記のように行うこと以外は、特に限定されない。
【0047】
めっき用の鋼板は、熱延鋼板を酸洗して脱スケールしたものでもよいし、脱スケールした鋼板を冷間圧延したものでもよい。鋼板のSi濃度の上限は、2.5質量%である。Si濃度が2.5質量%超の鋼板は、本発明法では良好なめっき性を確保できなくなるためである。
【0048】
めっき用の鋼板を連続溶融亜鉛めっき設備に装入し、焼鈍炉で焼鈍した後めっき装置で溶融亜鉛めっきを施し、或いはさらに合金化処理を施して、溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
【0049】
焼鈍炉の還元炉への炉内ガスの供給と排出を上記で説明した方法で行い、鋼板を還元焼鈍する。焼鈍炉に供給する炉内ガスは、通常使用されるH−Nガスを使用できる。ガス供給量、水素濃度も常法でよい。焼鈍条件も特に限定されない。めっき鋼板の鋼種、材質等に応じて適宜の条件が採用される。
【0050】
焼鈍後冷却し、溶融めっき装置で溶融亜鉛めっきし、ガスワイピング装置で亜鉛付着量を所要の付着量に調整し、また必要があれば、引き続き合金化処理を施し、所要の溶融亜鉛めっき鋼板を得る。溶融亜鉛めっき条件、合金化処理条件も特に限定されない。常法でよい。亜鉛めっき量の限定されない。
【0051】
本発明法によれば、溶融亜鉛めっきままのめっき鋼板では、不めっき等がなく良好な外観が得られ、めっき密着性に優れる。溶融亜鉛めっき後合金化処理を施しためっき鋼板では、合金化むらのない良好な外観が得られ、耐パウダリング性も良好である。
【0052】
本発明によれば、炉内ガスとして従来から使用されている炉内ガスを使用でき、炉内ガスの供給と排出のための装置も安価であるので、外観が良好でめっき性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板を低コストで製造することができる。
【0053】
以上、オールラジアントチュウブ方式の還元炉を備える焼鈍炉について説明したが、焼鈍炉は、DFFとRTFが併設された焼鈍炉、NOFとRTFが併設された焼鈍炉であってもよい。この場合、RTFの炉内ガスの供給と排出を上記のように行えばよい。その他の製造条件は常法でよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を、実施例に基づいて具体的に説明する。
【0055】
本実施例に使用した連続式溶融亜鉛めっき設備の焼鈍炉は、オールラジアントチューブ方式の焼鈍炉である。該焼鈍炉の還元炉は、図2に示すようなガス供給ルートとガス排出ルート、露点計を備える。
【0056】
炉内ガスの供給ルートは、上部供給ルート17は、高さ方向鋼板通板領域の高さ3/4の位置にライン長手方向に5箇所(等間隔)、下部供給ルート16は高さ方向鋼板通板領域の高さ1/4の位置にライン長手方向に5箇所(等間隔)設けられている。還元炉は、上部供給ルート17を備えるので、露点が0℃超の場合に、より少ないガス量で炉上部の水蒸気のパージが可能である。
【0057】
炉内ガスの排出ルートは、下部排出ルート18は通板用下ロー12とほぼ同じ高さ位置にライン長手方向に3ヶ所(等間隔)、上部排出ルート19は、炉頂部にライン長手方向に3ヶ所(等間隔)設けられている。
【0058】
露点計14の露点検出部は、下部ロール12の軸心より1m上方で、還元炉のライン長手方向中央に設けられている。
【0059】
炉内へ大気が逆流するのを防ぐために、通常炉内は陽圧とする必要がある。本実施例では還元炉の炉圧を+0.2kPa程度になるように制御した。このときの還元炉内へのガス供給量は800Nm/hrであり、排出量もほぼ同量であった。供給ガスはH−Nガス(H濃度:10容量%、露点;−60℃)である。
【0060】
Si濃度の異なる低炭素冷延鋼板(厚さ;1.0mm)をライン速度90mpmで通板し、還元炉で温度850℃で150秒加熱して焼鈍後、冷却し溶融亜鉛めっき(めっき量;片面あたり50g/m)を施し、さらに合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。その際、炉内ガスの供給位置と排出位置の組み合わせを変更し、10分毎に露点を測定した。
【0061】
得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を観察し、めっき性不良に起因する不めっき、めっきムラなどの外観不良がない場合はめっき性が良好(記号○)、ある場合にはめっき性が不良(記号×)と判定した。
【0062】
表1に鋼板のSi濃度、露点の測定値、雰囲気ガス供給位置、排出位置およびそのときのめっき性の評価結果を示す。また、図3に鋼板のSi濃度、露点の変化を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
露点が−30℃超0℃未満であるとめっき性が良好である。露点の測定値が−30℃未満または0℃超になったときに、ガスの供給と排気を本発明法で行わなかったときはめっき性が劣ったままであったが、ガスの供給と排気を本発明法で行ったときは良好なめっき性が得られるようになった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、めっき性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を低コストで製造する方法として利用することができる。本発明の装置は、前記溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】焼鈍炉とめっき装置を備える連続溶融亜鉛めっき設備の一構成例を説明する図である。
【図2】図1の連続溶融亜鉛めっき設備の還元炉の炉内ガスの供給ルートと排出ルートの一実施形態を示す図である。
【図3】実施例の鋼中Si濃度、露点の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 鋼板
2 焼鈍炉
3 予熱炉
4 還元炉(加熱炉/均熱炉)
5 急却帯
6 徐冷帯
7 めっき装置
11 還元炉
12 下ロール
13 上ロール
14 露点計
15 鋼板
16 炉内ガスの下部供給ルート
17 炉内ガスの上部供給ルート
18 炉内ガスの下部排出ロート
19 炉内ガスの上部排出ロート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼中にSiを0.2質量%以上含有する鋼板を還元炉で加熱・焼鈍した後溶融亜鉛めっきする際に、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での炉内ガスの露点を−30℃超0℃以下の範囲内になるように制御する溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法にあって、(1)還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での露点の測定値が−30℃以下になったときは、還元炉への炉内ガスの供給を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から行い、かつ還元炉の炉内ガスの排出を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から行い、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での炉内ガスの露点を−30℃超0℃以下にし、
(2)還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での露点の測定値が0℃超になったときは、(イ)還元炉の炉内ガスの排気を、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置から、還元炉に供給する炉内ガスの供給量の1/3以上の量を排出し(全量排出する場合を含む)、又は、(ロ)還元炉への炉内ガスの供給を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置から行い、還元炉の炉内ガスの排出を還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置から行い、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内での炉内ガスの露点を−30℃超0℃以下にする、
ことを特徴とするめっき性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
めっき装置および該めっき装置の上流に焼鈍炉を備えた連続溶融亜鉛めっき設備において、焼鈍炉の還元炉は、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の下部1/3の領域内の炉内ガスの露点を測定する露点計を備え、炉内ガスの排出部を、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置および還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置に備え、また炉内ガスの供給部を、還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より低位置に備え、またはさらに還元炉の高さ方向鋼板通板領域の1/2より高位置に備えることを特徴とする連続溶融亜鉛めっき設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−209397(P2009−209397A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51907(P2008−51907)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】